(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】個人の眼の屈折を推定する方法、システム及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/103 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A61B3/103
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563035
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022059966
(87)【国際公開番号】W WO2022219095
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ブーティノン
(72)【発明者】
【氏名】マリウス・プルー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ピノー
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AA21
4C316AA27
4C316FB21
(57)【要約】
本発明は、個人の眼の屈折を推定する方法に関し、方法は以下のステップを含む:a)眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を提供するステップ;b)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を設定するステップ(110);c)N個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を提供するステップ(120);d)N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像とN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間の差の推定子を特定するステップ(130);d)最適化アルゴリズムを使用して最適化を実行して(140)、1組のパラメータの値を調整し、ステップc)及びd)を繰り返すことにより上記推定子を最適化するステップ;眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の眼の屈折を推定する方法であって、
a)前記眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を提供すするステップであって、Nは1以上の整数である、提供するステップと、
b)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を初期化するステップと、
c)前記1組のパラメータの前記値に従って、シミュレーションモデルを使用してN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を提供するステップと、
d)前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と前記N個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間の差の推定子を特定するステップと、
e)最適化アルゴリズムを使用して最適化を実行し、前記1組のパラメータの値を調整し、ステップc)及びd)を繰り返すことによって前記推定子を最適化するステップと、
f)前記1組のパラメータの前記調整された値から、前記眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ステップa)は:
g)アパーチャ及び複数のM個の光源を有する画像捕捉デバイスを含むシステムを前記眼の前方に配置するステップであって、Mは2以上の整数であり、前記複数のM個の光源は、前記画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも2つの方向に沿った所定の位置で、前記画像捕捉デバイスの前記アパーチャの周囲に偏心して配置され、前記M個の光源の各光源は、光パルスで前記眼を照明するように適合及び構成される、配置するステップ、
h)前記複数のM個の光源の各光源を使用して前記眼を照明するステップ、及び
i)前記画像捕捉デバイスを使用して前記眼の前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を記録するステップであって、NはM以下であり、前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像の各画像は、前記複数のM個の光源の少なくとも1つの光源の前記光パルスにより照明された前記眼を表す、記録するステップ、
を含み、
前記ステップc)は:
j)前記1組のパラメータの前記値に従って、前記シミュレーションモデルを使用して前記N個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を生成するステップ、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップb)は、前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像から3つ1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を選択することであって、前記3つ1組の取得された偏心フォトレフラクション画像は、前記画像捕捉デバイスの前記光軸を横断する3つの方向に沿って配置された3つの光源を使用して記録される、選択することと、3つの取得された前記偏心フォトレフラクション画像の各々を処理して、暗い三日月のサイズ及び傾斜角を特定することと、そこから、前記3つの方向の3つの屈折力値を推測することとを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MはNに等しく、前記ステップh)は、前記複数のM個の光源の各光源を順次使用して前記眼を照明することを含み、前記ステップi)は、前記眼が前記複数のM個の光源のうちの1つの光源の前記光パルスにより照明されているとき、前記N個1組の偏心フォトレフラクション画像の各画像を取得することを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
NはMよりも小さく、前記ステップh)は、前記複数のM個の光源のうちの2つの光源を同時に使用して前記眼を照明するステップを含み、前記ステップi)は、2つの光源の前記光パルスにより前記眼が照明されているとき、前記N個1組の偏心フォトレフラクション画像のうちの1つの画像を取得するステップを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記シミュレーションモデルは、光強度分布の幾何-光学モデル又はレイトレーシングモデルに基づく、請求項1または3に記載の方法。
【請求項7】
前記シミュレーションモデルは、各光源の電力等のハードウェアパラメータ、角膜反射等の眼科パラメータ、及び/又は前記眼に対する前記画像捕捉デバイスの位置等の動作パラメータに更に基づく、請求項1または3に記載の方法。
【請求項8】
前記推定子は、前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と前記N個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間のピクセル毎の差に基づき、又は前記推定子は、前処理されたN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と前処理されたN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との比較に基づく、請求項1または3に記載の方法。
【請求項9】
前記最適化アルゴリズム又は最小化アルゴリズムは、シンプレックス若しくはネルダー-ミード等の勾配計算なしの方法又はレーベンバーグ-マルカート等の勾配計算ありの方法に基づく、請求項1または3に記載の方法。
【請求項10】
前記画像捕捉デバイスと前記眼との間の距離及び/又は前記眼に対する前記画像捕捉デバイスの向きを特定することを更に含む請求項1または3に記載の方法。
【請求項11】
前記1組のパラメータは、円柱度数、軸、瞳孔間距離、高次収差、半瞳孔間距離、注視方向、赤色反射量、及びスタイルズ-クロフォードパラメータの中の前記眼の少なくとも1つの他のパラメータを更に含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項12】
個人の眼の屈折を推定するシステムであって、前記システムは、モバイルデバイス又はリモートコンピュータと通信するように適合され、前記システムは、
- 画像捕捉デバイス及び複数のM個の光源であって、Mは2以上の整数であり、前記複数のM個の光源は、前記画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも2つの方向に沿った所定の位置で、前記画像捕捉デバイスの周囲に偏心して配置される、画像捕捉デバイス及び複数のM個の光源を備え、
- 前記システムは、前記複数のM個の光源の各光源を使用して、光パルスで前記眼を照明するように適合及び構成され、
- 前記画像捕捉デバイスは、前記眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を記録するように構成され、NはM以下の整数であり、前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像の各画像は、前記複数のM個の光源の少なくとも1つの光源の前記光パルスにより照明された前記眼を表し、
- 前記システムは、メモリ及びプロセッサを含む計算モジュールを備え、前記プロセッサは、前記メモリに記憶されたプログラム命令を実行して、
k)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を初期化することと、
l)前記1組のパラメータの値に基づいてシミュレーションモデルを使用してN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を生成することと、
m)前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と前記N個1組のシミュレートされた偏心レフラクション画像との間の差の推定子を計算することと、
n)最小化アルゴリズムを使用して、前記1組のパラメータの値を調整し、ステップl)及びm)を繰り返すことにより前記推定子を最小化することと、
o)前記1組のパラメータの前記調整された値から、前記眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測することと、
を行うように構成される、システム。
【請求項13】
前記画像捕捉デバイス及び前記複数のM個の光源は、前記モバイルデバイスに着脱可能に取り付けられた付属品に搭載される、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記計算モジュールは、前記モバイルデバイス又は前記リモートコンピュータに含まれる、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項15】
プロセッサがアクセス可能で、前記プロセッサによって実行される場合に、前記プロセッサに少なくとも以下のステップ:
p)N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を提供するステップであって、前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像の各画像は、画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも2つの方向に沿った所定の位置で画像捕捉デバイスの周囲に偏心して配置された複数のM個の光源の少なくとも1つの光源の光パルスによって照明された眼を表し、Mは2以上の整数であり、NはM以下の整数である、提供するステップ、
q)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を初期化するステップ、
r)前記1組のパラメータの前記値に基づいて、シミュレーションモデルを使用して前記N個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を生成するステップ、
s)前記N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と前記N個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間の差の推定子を特定するステップ、
t)前記1組のパラメータの値を調整し、ステップr)及びs)を繰り返すことによって、最適化アルゴリズムを使用して前記推定子を最適化するステップ、及び
u)前記1組のパラメータの前記調整された値から、前記眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測するステップ、
を実行させる1つ又は複数の記憶された命令シーケンスを含むコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人の眼の屈折を評価するための方法及びシステムに関する。
【0002】
より厳密には、本発明は個人の眼の屈折を推定する方法及びシステムに関する。本発明は、個人の眼の屈折を推定するコンピュータプログラムにも関する。方法、システム、及び/又はコンピュータプログラムは、個人に適合された眼科レンズの処方の決定又は推定された屈折に従った眼科レンズの製造に使用することができる。本発明は、別のデバイスを用いて実行される更なる自覚屈折検査の開始点として使用することができる屈折測定値も提供する。
【背景技術】
【0003】
多くの文書が個人の眼の屈折を測定するデバイス及び方法を記載する。自覚屈折検査法は、様々な視力表を見ている個人と種々の屈折矯正を有する1組のレンズの使用との相互作用に基づく。自覚屈折検査法は、考慮される眼の光学特性の測定値に基づく。特に、自覚屈折を測定する幾つかの方法及びデバイスは、偏心フォトレフラクション又は光網膜検影法(photoretinoscopy)に基づく。
【0004】
偏心フォトレフラクションは、偏心光源を使用してユーザの眼を照明し、カメラを用いて瞳孔の画像を観測することによって自覚屈折検査を実行するのに使用される。大半の場合、反射光は、検出された画像において瞳孔上に、暗い三日月(dark crescent)と呼ばれる相補的な明るくない形状と共に明るい形状を形成する。明るい三日月及び暗い三日月のサイズ、形状、及び向きの解析により、偏心光源の位置に応じて眼の屈折を推定することができる。例えば、公開物である(非特許文献1)又は(非特許文献2)は、明るい部分の解析的表現を開示している。3つの子午線に沿った光勾配の測定値から球面度数値、円柱度数値、及び軸値を推定する割と簡単な方法が(非特許文献3)に記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は眼の高次収差を考慮に入れていない。更に、これらの公開物は主に理論であるが、屈折測定値を迅速に取得できるようにする方法及びシステムを開示していない。また、ユーザの屈折異常に応じて、三日月の検出が難しいことがある。
【0006】
先進国では、専門の検眼士は一般に自動屈折計を使用する。しかしながら、これらのシステムは高価であり、且つ扱いにくい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】W.Wesemann,A.M.Norcia,D.Allen“Theory of eccentric photo refraction(photoretinoscopy):astigmatic eyes”,J.Opt.Soc.Am.A,Vol.8,No.12,1991,pages 2038-2047
【非特許文献2】R.Kusel,U.Oechsner,W.Wesemann,S.Russlies,E.M.Irmer,and B.Rassow,“Light-intensity distribution in eccentric photorefraction crescents,”J.Opt.Soc.Am.A15,1500-1511(1998)
【非特許文献3】Gekeler F,Schaeffel F,Howland HC,Wattam-Bell J,“Measurement of astigmatism by automated infrared photoretinoscopy”,Optometry and Vision Science:Official Publication of the American Academy of Optometry,1997,Jul;74(7):472-482.DOI:10.1097/00006324-199707000-00013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
迅速で小型、使用が容易であり、且つ低コストであるフォトレフラクション推定を提供するシステム及び方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の一目的は、個人の眼の屈折を推定するための方法を提供することであり、この方法は、以下のステップを含む:
a)眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を提供するステップであって、Nは1以上の整数である、提供するステップ、
b)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を初期化するステップ、
c)1組のパラメータの値に従って、シミュレーションモデルを使用してN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を提供するステップ、
d)N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像とN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間の差の推定子を特定するステップ、
e)最適化アルゴリズムを使用して最適化を実行し、1組のパラメータの値を調整し、ステップc)及びd)を繰り返すことによって上記推定子を最適化するステップ、並びに
f)1組のパラメータの調整された値から、眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測するステップ。
【0010】
特定の有利な実施形態によれば、ステップa)は以下のステップg)~i)を含み、各ステップc)は以下のステップj)を含む:
g)アパーチャ及び複数のM個の光源を有する画像捕捉デバイスを含むデバイスを眼の前方に配置するステップであって、Mは2以上の整数であり、複数のM個の光源は、画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも2つの方向に沿った所定の位置で、画像捕捉デバイスのアパーチャの周囲に偏心して配置され、M個の光源の各光源は、光パルスで眼を照明するように適合及び構成される、配置するステップ、
h)複数のM個の光源の各光源を使用して眼を照明するステップ、
i)画像捕捉デバイスを使用して眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を記録するステップであって、NはM以下であり、N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像の各画像は、複数のM個の光源の少なくとも1つの光源の光パルスにより照明された眼を表す、記録するステップ、
j)1組のパラメータの値に従って、シミュレーションモデルを使用してN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を生成するステップ。
【0011】
この方法の特定の有利な態様によれば、ステップb)は、N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像から3つ1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を選択することであって、3つ1組の取得された偏心フォトレフラクション画像は、画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも3つの方向に沿って配置された3つの光源を使用して記録される、選択することと、3つの取得された偏心フォトレフラクション画像の各々を処理して、暗い三日月のサイズ及び傾斜角を特定することと、そこから、3つの方向の3つの屈折力値を推測することを含む。
【0012】
一実施形態によれば、MはNに等しく、ステップh)は、複数のM個の光源の各光源を順次使用して眼を照明することを含み、ステップi)は、眼が複数のM個の光源のうちの1つの光源の光パルスにより照明されているとき、N個1組の偏心フォトレフラクション画像の各画像を取得することを含む。
【0013】
別の実施形態によれば、NはMよりも小さく、ステップh)は、複数のM個の光源のうちの2つの光源を同時に使用して眼を照明するステップを含み、ステップi)は、2つの光源の光パルスにより眼が照明されているとき、N個1組の偏心フォトレフラクション画像のうちの1つの画像を取得するステップを含む。
【0014】
有利なことに、上記シミュレーションモデルは、光強度分布の幾何-光学モデル又はレイトレーシングモデルに基づく。
【0015】
特定の態様によれば、シミュレーションモデルは、各光源の電力等のハードウェアパラメータ、角膜反射等の眼科パラメータ、及び/又は眼に対する画像捕捉デバイスの位置等の動作パラメータに更に依存する。
【0016】
別の特定の態様によれば、推定子は、N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像とN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間のピクセル毎の差に基づき、又は推定子は、前処理されたN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と前処理されたN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との比較に基づく。
【0017】
有利なことに、最適化アルゴリズム又は最小化アルゴリズムは、シンプレックス若しくはネルダー-ミード等の勾配計算なしの方法又はレーベンバーグ-マルカート等の勾配計算ありの方法に基づく。
【0018】
一実施形態によれば、本方法は、画像捕捉デバイスと眼との間の距離及び/又は眼に対する画像捕捉デバイスの向きを特定することを更に含む。
【0019】
特定の有利な態様によれば、1組のパラメータは、円柱度数、軸、瞳孔間距離、高次収差、半瞳孔間距離、注視方向、赤色反射量、及びスタイルズ-クロフォードパラメータの中の眼の少なくとも1つの他のパラメータを更に含む。
【0020】
特定の態様によれば、本方法は、画像捕捉デバイスと眼との間の第1の距離及び第2の距離において実行される。
【0021】
好ましくは、複数のM個の光源は3、6、9、又は12個の光源を含む。
【0022】
有利なことには、複数のM個の光源は発光ダイオードを含む。
【0023】
本発明の更なる目的は、モバイルデバイス又はリモートコンピュータと通信するように適合された、個人の眼の屈折を推定するシステムを提供することである。
【0024】
上記目的は、画像捕捉デバイス及び複数のM個の光源であって、Mは2以上の整数であり、複数のM個の光源は、画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも2つの方向に沿った所定の位置で、画像捕捉デバイスのアパーチャの周囲に偏心して配置される、画像捕捉デバイス及び複数のM個の光源を備えるシステムを提供することにより、本発明により達成され、本システムは、複数のM個の光源の各光源を使用して、光パルスで眼を照明するように適合及び構成され、画像捕捉デバイスは、眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を記録するように構成され、NはM以下の整数であり、N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像の各画像は、複数のM個の光源の少なくとも1つの光源の光パルスにより照明された眼を表し、本システムは、メモリ及びプロセッサを含むように構成された計算モジュールを備え、プロセッサは、メモリに記憶されたプログラム命令を実行し、
k)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を初期化することと、
l)1組のパラメータの値に基づいてシミュレーションモデルを使用してN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を生成することと、
m)N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像とN個1組のシミュレートされた偏心レフラクション画像との間の差の推定子を計算することと、
n)最小化アルゴリズムを使用して、1組のパラメータの値を調整し、ステップl)及びm)を繰り返すことにより上記推定子を最小化することと、
o)1組のパラメータの調整された値から、眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測することと、
を行うように構成される。
【0025】
有利なことには、画像捕捉デバイス及び複数のM個の光源は、モバイルデバイスに着脱可能に取り付けられた付属品に搭載される。
【0026】
一実施形態によれば、計算モジュールは付属品に含まれる。
【0027】
別の実施形態によれば、計算モジュールは、モバイルデバイス又はリモートコンピュータに含まれる。
【0028】
本発明の更なる目的は、プロセッサがアクセス可能であり、プロセッサによって実行される場合にプロセッサに少なくとも以下のステップを実行させる、記憶された1つ又は複数の命令シーケンスを含むコンピュータプログラム製品を提供することである:
p)N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を提供するステップであって、N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像の各画像は、画像捕捉デバイスの光軸を横断する少なくとも2つの方向に知った所定の位置で画像捕捉デバイスの周囲に偏心して配置された複数のM個の光源の少なくとも1つの光源の光パルスによって照明された眼を表し、Mは2以上の整数であり、NはM以下の整数である、提供するステップ、
q)少なくとも球面度数を含む1組のパラメータの値を初期化するステップ、
r)1組のパラメータの値に基づいて、シミュレーションモデルを使用してN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を生成するステップ、
s)N個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像とN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像との間の差の推定子を特定するステップ、
t)最適化アルゴリズムを使用して最適化を実行し、1組のパラメータの値を調整し、ステップr)及びs)を繰り返すことによって上記推定子を最適化するステップ、及び
u)1組のパラメータの調整された値から、眼の少なくとも1つの屈折パラメータの推定を推測するステップ。
【0029】
例の詳細な説明
添付図面を参照する以下の説明により、本発明を構成するもの、及びそれを達成し得る方法が明らかになるであろう。本発明は、図面に示される実施形態に限定されるものではない。したがって、請求項で言及された特徴に参照符号が続く場合、それらの符号は、請求項の理解度を高める目的でのみ含まれ、請求項の範囲を限定するものではないと理解されたい。本明細書で提供される記載及びその利点をより詳細に理解するために、ここで、添付の図面及び詳細な説明に関連して以下の簡単な説明を参照し、同様の参照番号は、同様の部品を表す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A-1B】それぞれ第1及び第2の実施形態による、個人の眼の屈折を推定するシステムの斜視図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態による、個人の眼の屈折を推定する、カメラ及び複数の光源を備えたフォトレフラクションモジュールの正面図である。
【
図3】対象の少なくとも片眼の1組の変身フォトレフラクション画像を取得する例示的な一構成を示す。
【
図4】本発明によるシステム及び方法を使用して個人の眼の9個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を示す。
【
図5】本発明による個人の眼の屈折を推定する方法のフローチャートを概略的に表す。
【
図6】3つの別個の子午線上のカメラから同じ距離に配置された3つの光源の配置を概略的に表す。
【
図7】1つの子午線に沿った1つの光源を使用して取得された暗い三日月を有する、取得された偏心フォトレフラクション画像の例を示す。
【
図8】3つの別個の子午線に沿った3つの光源を使用した偏心フォトレフラクション画像に基づいて球面度数、円柱度数、及び軸の初期値を特定する方法を概略的に表す。
【
図9】2つの別個の子午線に沿った2つの光源を同時に使用して取得された偏心フォトレフラクション画像の一例を概略的に表す。
【
図10】パラメータの初期値及び9個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像との比較の初期推定子値に基づく方法の初期ステップにおける初期のN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像を示す。
【
図11】
図10と同じ9個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と比較された別のN個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像並びにこのシミュレーションから生じた推定子及びパラメータの対応する値を用いた1回の繰り返し後の中間結果を示す。
【
図12】同じ9個1組のフォトレフラクション画像と比較された最終の9個1組のシミュレートされた偏心フォトレフラクション画像並びに2組の画像間の最小化から生じた推定子及びパラメータの最終値を用いた16回の繰り返し後の最終結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の説明及び図面において、図は必ずしも正しい縮尺によるとはかぎらず、特定の特徴は、明瞭さと簡潔さのため、又は参考とすることを目的として、一般化された、又は概略的な形態で示されているかもしれない。加えて、様々な実施形態の作成及び使用が以下で詳細に論じられるが、本明細書に記載されるように、多様な状況で具体化され得る多くの発明の概念が提供されることを理解されたい。本明細書で論じられる実施形態は、単に代表的なものに過ぎず、本発明の範囲を限定しない。当業者には、プロセスに関連して定義される全ての技術的特徴が個別に又は組み合わせて装置に置き換えることができ、逆に装置に関連する全ての技術的機能が個別に又は組み合わせてプロセスに置き換えることができることも明らかであろう。
【0032】
デバイス及び方法
図1A及び
図1Bは、対象1の眼2の屈折を推定するシステム50を表す。システム50は、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータ、又はラップトップコンピュータ等のモバイルデバイス20にリンクされたフォトレフラクションモジュール10又はアドオンを備える。有利なことに、フォトレフラクションモジュール10はモバイルデバイス20に機械的に固定される。
【0033】
フォトレフラクションモジュール10は、
図1Aに示されるようにプラグとソケットとの直接接続を使用して又は
図1Bに示されるようにワイヤ接続11を使用してモバイルデバイス20に接続される。フォトレフラクションモジュール10は、有線接続又は無線接続のいずれかを使用してモバイルデバイス20と通信するように構成される。
【0034】
図1A、
図1B、及び
図2に示されるフォトレフラクションモジュール10は、カメラ30及び複数のM個の光源を備え、Mは2以上の整数である。換言すれば、最小構成は、2つの別個の子午線X
A及びX
Bに沿って配置された少なくとも2つの光源16-A及び16-Bを含む。
【0035】
例えば、
図2では、フォトレフラクションモジュール10は9つの光源16-A1、16-A2、16-A3、16-B1、16-B2、16-B3、16-C1、16-C2、及び16-C3を備える。3つの光源16-A1、16-A2、16-A3は、カメラ30の高次を横断する同じ方向、即ち子午線X
Aに沿って配置される。同様に、3つの光源16-B1、16-B2、16-B3、3つの光源16-C1、16-C2、16-C3はそれぞれ、別の方向、即ち子午線X
B、子午線X
Cに沿ってそれぞれ配置され、子午線X
B及びX
Cは両方ともカメラ30の光軸を横断する。3つの子午線X
A、X
B、及びX
Cは、カメラ30の光軸に直交する同じ平面における3つの別個の方向に対応する。例えば、3つの子午線X
A、X
B、及びX
Cは、互いから120度の角度隔てられる。
【0036】
一選択肢として、フォトレフラクションモジュール10は別の光源18(
図1A参照)を更に備える。代替的には、フォトレフラクションモジュール10は、
図1Bに示されるように、別の偏心度で配置され、3つの他の子午線に置かれた別の組の3つの光源18A、18B、18Cを更に備える。別の代替によれば、フォトレフラクションモジュール10は、別の同じ子午線上に配置され、カメラから異なる偏心で置かれた別の組の3つの光源18A、18B、18Cを更に備える。
【0037】
一例では、1組iの光源16-Ai、16-Bi、16-Ciは第1の波長の光を放射し、少なくとも別の光源18の組、それぞれ18A、18B、18Cは、第1の波長と異なる第2の波長の光を放射する。一般に、第1の波長は近赤外線又は赤外線範囲、例えば約850nmであり、したがって、光源が照明されたとき、ユーザの瞳孔は変わらないままである。
【0038】
カメラ30に対する各光源16、18のそれぞれの位置は予め決定され、一定である。各組iの光源16-Ai、16-Bi、16-Ciは、カメラ30の光軸から同じ距離又は偏心eiに配置される。偏心の範囲は一般に0~20mmである。有利なことには、偏心の範囲は一般に0.5mm~20mmである。
【0039】
有利なことには、光源は発光ダイオード即ちLEDからなる。例えば、フォトレフラクションモジュール10は、3つの異なる子午線に沿った3つの異なる偏心に配置された9個のLEDを含む。カメラ30は、連続して光る各光源16-Ai、16-Bi、16-Ci、i=1、2、3で、個人の眼2の偏心フォトレフラクション画像を捕捉するように適合及び構成される。この構成は、測定値毎に1組N=9個の偏心フォトレフラクション画像を取得できるようにする。
【0040】
別の例では、フォトレフラクションモジュール10は、3つの子午線に4つの異なる偏心で配置された12個の光源を備える。
【0041】
図3は、本発明によるシステム50を使用して個人の眼2の屈折を推定する構成を示す。検眼士4又は検眼技師はシステム50を保持し、個人の顔の高さになり、光源16、18の平面が垂直であるようにカメラ30の光軸の位置及び方向を配置する。フォトレフラクションモジュール10は、個人の眼2から距離DistZにある。一般に、距離DistZは約1メートルであり、30cm~2mであることができる。一例では、2つの距離測定値を考慮する:1m及び0.5m。したがって、1mでの測定の場合、正確な結果は返されず、測定は50cmの距離で実行される。有利なことには、システム50は、オートフォーカスデバイス等の距離DistZを測定する手段を備える。代替的には、対象1がシステム50を保持し、カメラを直接又は鏡面上の反射により見て、自己屈折測定のために自分の写真を撮影する。システム50は、位置許容差が非常に大きく、非侵襲的である。
【0042】
システム50は、メモリ及びプロセッサを含む計算モジュールも備え、プロセッサは、メモリに記憶されたプログラム命令を実行して、本発明による、個人の眼の屈折を推定する方法を実施するように構成される。計算モジュールは、フォトレフラクションモジュール10又はモバイルデバイス20の内部に配置される。代替的には、計算モジュールは、フォトレフラクションモジュール10と通信するリモートコンピュータ内部に配置される。計算モジュールは、使用される光源のデータ、個人の眼2に対するフォトレフラクションモジュール10の位置、及び眼2の眼科屈折データに基づいて1組のシミュレートされた画像を生成する。
【0043】
予備ステップにおいて、システム50を使用して、
図4に示されるように、N個1組の偏心フォトレフラクション画像を取得する。例えば、システムは、
図2に関連して詳述したように、M=9個の光源を使用する。一実施形態では、システム50は、順次光る各偏心フラッシュで1つの画像を捕捉するように構成される。例えば、光源16-A1がフラッシュを放射し、その間、他の全ての光源はオフであり、システム50は眼2の瞳孔の第1の偏心フォトレフラクション画像T1を捕捉する。次に、光源16-A2がフラッシュを放射し、その間、他の全ての光源はオフであり、システム50は瞳孔の第2の偏心フォトレフラクション画像T2を捕捉する。このフラッシュ及び取得を繰り返して、システム50は眼2の瞳孔のN=9個の偏心フォトレフラクション画像T1、T2、・・・、T9を取得し、各画像は、決定された位置の1つの光源に対応する。次いで、システムはメモリに、眼2の瞳孔の9個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像T1~T9を記憶する。LEDが12個の場合、12個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像T1~T12を捕捉するのに掛かる時間は0.5秒未満である。この短い取得時間により、眼2の一定の瞳孔直径を維持することができ、異なる取得間で眼の順応が変化するリスクを下げる。光源の数を増やすことで、屈折測定の範囲を広げることができる。有利なことには、システム50は、対象の両眼の画像を同時に取得するように構成することができ、したがって、各眼で別個のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像を捕捉する。記憶された各画像には、対象の眼2及びカメラ30に対して決定された位置にある光源が関連付けられる。
【0044】
システム50は使用が容易である。1組の画像の取得は、
図3に示されるように、写真撮影と同じように簡単である。
【0045】
次いで、
図5に示されるように、方法は、N個1組のシミュレートされた画像を眼のN個1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と比較し、1組のシミュレートされた画像が1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と一致するようにパラメータの組合せを調整することに基づく。より正確には、方法は、眼2の球面度数値、円柱度数値、軸値等のパラメータを初期化する初期化ステップ100;パラメータ(少なくとも球面度数、円柱度数、及び軸を含み、任意選択的に高次収差即ちHOA、ハードウェア関連パラメータ及び測定距離等の測定パラメータを含む、追求されている眼に関連するパラメータ)の値を設定するステップ110;ステップ110において設定されたパラメータの値に基づいて1組のシミュレートされた画像を生成するステップ120;1組のシミュレートされた画像を1組の標的画像、即ち追求されている眼の1組の取得された偏心フォトレフラクション画像と比較するステップ130;並びに1組のシミュレートされた画像と1組の標的画像との間の差の推定子を最適化又は最小化するステップ140を含む。ステップ110、120、130、及び140は、最小が見つけられるまで繰り返される。
【0046】
図5に示される方法は、任意の最適化アルゴリズム又は最小化アルゴリズムのように、開始点又は初期化ステップ100を必要とする。
【0047】
最適化アルゴリズムを用いる場合、アルゴリズムのメリット関数を最適化しようとする。一般に、このアルゴリズムのメリット関数は最小化される。
【0048】
最小化アルゴリズムを用いる場合、1組のシミュレートされた画像と1組の標的画像との間の差の推定子を最小化しようとする。
【0049】
初期化ステップ100は、対象の前の処方からのデータに依拠し得、追求されている眼の球面度数値、塩中度数値、及び軸値を初期化できるようにする。
【0050】
代替的には、初期化ステップ100は、
図6に関連して説明される、子午線等の従来の既知の方法に基づく。異なる処理ステップを以下に列記する。眼の収差は、
図6のこの図に従って表すことができるこのシリンダの球面度数(S)、円柱度数(C)、及び軸(A)の成分により、一次において対処することができる。ドット16-A、16-B、16-Cは、各子午線X
A、X
B、及びX
C上の最高偏心をそれぞれ有赤外線LEDに対応する。S、C、及びAを特定するために少なくとも3つの子午線が必要とされる。したがって、各子午線で、瞳孔径及び立ち上がり又は立ち下がり前線(raising or falling front)、即ち、高グレーレベルと低グレーレベルとの間の急激な遷移について対応する画像T
jを調べ、したがって、フォトレフラクション測定において典型的な暗い三日月を並進させる。
【0051】
図7は、例えば子午線X
Aに沿って配置された1つの光源を使用して取得された偏心フォトレフラクション画像を示す。直線は子午線X
Aを表す。円42は、眼の瞳孔のシミュレーションを表し、瞳孔径D
Pを特定できるようにする。画像処理により、暗い三日月41及び明るい三日月51を識別することができる。曲線43は純粋な球面度数Sに基づく理論上の三日月を表す。曲線44は、球面度数値S及び円柱度数値Cの組合せに基づく理論上の三日月を表す。曲線43及び44と子午線との交点により、暗い三日月41のサイズD
CRを特定することができる。代替的には、明るい三日月51のサイズを使用することもできる。考慮される子午線に沿った屈折力は以下の式[1]から導出される:
【数1】
式中、P
meridianはこの子午線に沿った屈折力を表し、DistZは、測定が行われた距離、即ち対象1とカメラ30との間の距離をメートル単位で表し、eはmm単位の偏心を表し、D
CRは暗い三日月の長さを表す。
【0052】
したがって、3つの子午線X
A、X
B、及びX
Cの各々で屈折力がそれぞれ測定される。これにより、
図8に示されるように、3つの異なる角度θから少なくとも3つの屈折力を特定することができる。この例では、子午線X
Aは30度の角度にあり、子午線X
Bは150度の角度にあり、子午線X
Cは270度の角度にある。球面度数(S)、円柱度数(C)、及び軸(A)データは、以下の式[2]から導出される:
P(θ)=S+C・sin
2(θ-A)
【0053】
式[1]は理論上、屈折誤差が純粋な球面度数である眼に制限される。それにも関わらず、この方法は、シミュレータのパラメータに初期値を提供することにより、続く最小化アルゴリズムに利用可能な開始点を与える。
【0054】
1組のシミュレートされた画像を生成するステップ120は、カメラにより提供される画像と同様の画像を生成することを目的とする。このステップは、前のステップ110から導出されたパラメータの初期値を用いて開始する。
【0055】
ステップ120を行うために、プロセッサはシミュレーションモデルを使用する。例えば、シミュレーションモデルは、光強度分布の幾何-光学モデルに基づく。例えば、公開物R.Kusel,U.Oechsner,W.Wesemann,S.Russlies,E.M.Irmer,及びB.Rassow,“Light-intensity distribution in eccentric photorefraction crescents”,J.Opt.Soc.Am.A15,1500-1511(1998)及びA.Roorda,M.C.W.Campbell,及びW.R.Bobier,“Geometrical theory to predict eccentric photorefraction intensity profiles in the human eye”,J.Opt.Soc.Am.A12,1647-1656(1995)は、そのような幾何-光学モデルを記載している。代替的には、シミュレーションモデルはレイトレーシングモデルに基づき、例えば、Y-L.Chen,B.Tan,及びJ.W.L.Lewis,“Simulation of eccentric photorefraction images”,Optics Express 11,1628-1642(2003)に詳述されるように、Zemax光学設計ソフトウェアに基づく。それにも関わらず、シミュレーションモデルは、多くのモデルの中の別のモデルに基づいて実施することも可能であり、幾何-光学モデル又はレイトレーシングモデルのみに基づいて実施されるわけではない。
【0056】
シミュレーションモデルは様々なタイプのパラメータを考慮に入れる。より正確には、パラメータは以下のカテゴリに属する:1-追求されている眼に関連する眼科パラメータ、2-ハードウェア関連パラメータ、及び3-測定プロトコルにリンクされるパラメータ。
【0057】
より正確には、追求されている眼に関連する眼科パラメータは以下のパラメータの少なくとも1つを含む:
- 瞳孔半径(R)、
- 球面度数(S)、これは低次収差(LOA)である、
- 円柱度数(C)、これはLOAである、
- 円柱軸(A)、これはLOAである、
- ゼルニケ計数A6wからA14wで表される高次収差(HOA)、
- 瞳孔半偏差、
- 注視方向、
- 「赤色反射量」(RR)、網膜上の複数の拡散反射に起因した明るいオフセットを表す、
- スタイルズ-クロフォード効果(SC)、及び/又は
- 眼のプルキンエ反射。
【0058】
ハードウェア関連パラメータは以下のパラメータの少なくとも1つを含み得る:
- 光源、例えばLEDの位置及び見掛けのサイズ、
- LED波長、
- 全ての光源でG及びR行列で表される、光源、例えばLEDの光パワー、
- 異なる光源の相対輝度、
- カメラセンサ利得及び任意選択的にカメラノイズ、
- カメラの露出パラメータ、
- カメラの光学系のアパーチャの位置及びサイズ、その中でもカメラの入射瞳の位置及びサイズ(dxCam、dyCam)、
- カメラの光学系の焦点距離、
- ピクセルサイズ、ダイナミクス、
- カメラの光学系の点拡散関数。
【0059】
測定プロトコルにリンクされるパラメータは以下のパラメータの少なくとも1つを含み得る:
- 測定距離、
- 画像における眼の中心位置。
【0060】
M個1組の光源の位置は、シミュレーションステップ120及び最小化又は最適化ステップ140にとって極めて重要なパラメータである。しかしながら、M個1組の光源の位置は固定され、ステップ140において最適化されない。
【0061】
使用されるシミュレーションモデルによれば、これらの全てのパラメータの組合せにより、光源毎(ここではLED毎)に1つの画像を生成することができる。
図10に示される例では、シミュレーションモデルは、シミュレーショのこの初期ステップにおいて9つの画像0S1から0S9を生成する。
【0062】
図10は、左側に表示されているパラメータの初期値を用いて得られた1組のシミュレートされた画像0S1、0S2、・・・、0S9を示す。
図10は、1組の標的画像T1、T2、・・・、T9も同様に示す。標的画像T1、T2、・・・、T9は、
図4に関連して詳述したように捕捉されメモリに記憶された、取得された偏心フォトレフラクション画像に対応する。より正確には、標的画像は取得された偏心フォトレフラクション画像の瞳孔内部の中央部に対応し、瞳孔周囲のエリアは黒色背景に設定される。
図10は繰り返しn°0に対応し、即ち、パラメータはHOAで公称値0であり、全てのLEDで同一の光パワー(G及びR行列)である。球面度数値、円柱度数値、及び軸値は、例えば子午線法を使用して記入される。瞳孔半径R値も、画像処理法により、画像に存在する勾配に関して最良の円を測定し、瞳孔縁部を表すことにより記入される。
【0063】
計算モジュールは、繰り返しn°0におけるシミュレートされた画像0S1、0S2、・・・、0S9の各々と対応する標的画像T1、T2、・・・、T9の各々との間の差を計算する。
図10は、生成された差分画像0D1、0D2、・・・、0D9も各差分画像に対応する数値差と共に示す。差分画像はここでは、瞳孔の画像内部のエリアのピクセル毎の強度差に基づいて計算されている。2組の画像間の差の、Eで示される推定子が、以下の式に基づいて計算される:
【数2】
【0064】
図10の例では、9個1組のシミュレートされた画像0S1、0S2、・・・、0S9と9個1組の標的画像T1、T2、・・・、T9との間の差の推定子は、各差分画像で計算される9つの数値差の和として計算される。
図10の例では、繰り返しn°0における全体推定子E0の値は210.810と推定される(任意の単位即ちa.u.で)。
【0065】
代替的には、取得された画像及びシミュレートされた画像は、例えばフーリエフィルタ又は他のフィルタにより前処理され、それから互いと比較される。
【0066】
次に、繰り返しn°1において、最小化アルゴリズムがバックプロパゲーションループを開始する。実際に、推定子の値を最小化するために、モデルの入力パラメータを調整する必要がある。そのために、少数の例を挙げれば、シンプレックス法又はネルダー-ミード等の勾配計算なしの方法;レーベンバーグ-マルカート等の勾配計算ありの方法の中から様々な最小化法が利用可能である。以下の例では、レーベンバーグ-マルカート法を使用する。最小化法はスタンドアロンアルゴリズムであり、ブラックボックスとして使用することができる。
【0067】
各入力パラメータについて、計算モジュールは勾配、即ちその点における局所微分を計算する。次いで、各パラメータの勾配により、各パラメータの変位ベクトルを計算することができる。したがって、ステップ140において、最小化アルゴリズムは、眼科パラメータ、ハードウェアパラメータ、及び/又は想定プロトコルにリンクされるパラメータ等のシミュレーションモデルにより使用される1組の入力パラメータの値を調整する。
図11は、同じ組の標的画像T1からT9での繰り返しステップn°1の結果を示す。入力パラメータの調整された値は、
図11の左側に表示されている。
図11は、繰り返しn°1で調整されたパラメータの値を用いて得られた1組のシミュレートされた画像1S1、1S2、・・・、1S9を示す。計算モジュールは、繰り返しn°1におけるシミュレートされた画像1S1、1S2、・・・、1S9の各々と対応する標的画像T1、T2、・・・、T9の各々との間の差を計算する。
図11は、各差分画像に対応する数値と共に、生成された差分画像1D1、1D2、・・・、1D9も示す。
図11の例では、繰り返しn°1における全体推定子E1の値は70.655(a.u.)と推定される。したがって、最初の繰り返しからの、1組のシミュレートされた画像と1組の標的画像との間の差の全体推定子の急速な低下が観測される。
【0068】
推定子Eがもはや収束しなくなるまでこの手順を数回繰り返すことにより、計算ユニットは極小に達する。
【0069】
最小化アルゴリズムは、停止条件に達するまで繰り返される。各最小化アルゴリズムは異なる停止基準を使用することができる。例えば、停止条件は、推定子が所定値よりも小さくなるときであり得る。別の停止条件は、S、C、A値間の残差に基づき、例えば、2つの連続した繰り返し間の差が0.01ジオプタ未満である場合、最小化は停止する。別の停止条件は最大繰り返し回数20回であり得る。
【0070】
図10及び
図11と同じ例を続けると、最小化アルゴリズムは、停止される繰り返しN°16まで繰り返される。
図12は、同じ1組の標的画像T1からT9での繰り返しステップn°16の結果を示す。入力パラメータの調整された値が、
図12の左側に表示されている。
図12は、繰り返しn°16において調整されたパラメータの値を用いて得られた1組のシミュレートされた画像16S1、16S2、・・・、16S9を示す。計算モジュールは、繰り返しn°16におけるシミュレートされた画像16S1、16S2、・・・、16S9の各々と対応する標的画像T1、T2、・・・、T9の各々との間の差を計算する。
図12は、各差分画像に対応する数値と共に、生成された差分画像16D1、16D2、・・・、16D9も示す。
図12の例では、繰り返しn°16における全体推定子E16の値は4.176(a.u.)と推定される。したがって、最初の繰り返しからの、1組のシミュレートされた画像と1組の標的画像との間の差の全体推定子の急速な低下が観測される。方法により、球面度数、円柱度数、及び軸等の低次収差及び高次収差のゼルニケ係数について標的値に近い眼科パラメータの正確な推定が可能である。
【0071】
これらの結果を得るための計算時間は約数秒である。本明細書に記載の方法は、球面度数、円柱度数、及び軸の正確な結果を取得できるようにするとともに、更に、嵩張る機器を必要とせずに高次収差を推定できるようにする。
【0072】
詳細に詳述した例は1つの光源がオンになった状態であり、他の全ての光源がオフである間に各画像を取得することに基づく。代替的には、考慮される眼の瞳孔の各偏心フォトレフラクション画像を取得するために、2つの光源を同時に使用し得る。例えば、
図9は、同時に光る2個のLEDを用いて捕捉された画像を示す。2個のLEDは2つの異なる子午線に沿って配置されて、2つの三日月が重なるのを避ける。子午線X
Aに沿って配置された第1のLEDにより生成された第1の明るい三日月51及び子午線X
Bに沿って配置された第2のLEDにより生成された第2の明るい三日月52を観測する。第1の明るい三日月51、第2の明るい三日月51はそれぞれ、画像において高グレーレベルと低グレーレベルとの間の急激な遷移曲線41、42によってそれぞれ区切られる。したがって、単一の偏心フォトレフラクション画像捕捉から2つの暗い三日月のサイズを特定することが可能である。
【0073】
より一般には、2個のLEDが同時に光っている状態でN個1組の画像が撮影されて、瞳孔に2つの三日月を生成する。好ましくは、2個の光源は2つの異なる子午線上に配置される。例えば、第1の画像Im1は2個のLEDn11、n12を使用して捕捉され、第2の画像Im2は2個の他のLEDn21、n22を使用して捕捉され、第3の画像Im3は2個の他のLEDn31、n32を使用して捕捉される。
【0074】
シミュレーションステップは、所与の組のパラメータ(Sph、Cyl、軸・・・)に同じ構成Im1(LEDn11、n12)、Im2(LEDn21、n22)、Im3(LEDn31、n32)を用いてN個1組の対応する画像を生成することによって適合される。
【0075】
最小化ステップ中、最適化と同じ原理、1つ又は複数のImjの比較が適用される。
【0076】
別の実施形態によれば、同じ子午線からの2個異常のLEDが同時に照明する。この場合、捕捉された画像を処理して、三日月の精密な形状を特定する代わりに、この子午線に沿った光分布における光の勾配を特定する。
【0077】
上記方法はコンピュータプログラムで実施される。上述したように、アドオンフォトレフラクションモジュール10を備えたスマートフォンにロードされるスマートフォンアプリケーションとして実施することもできる。
【0078】
1組の偏心フォトレフラクション画像を捕捉するフォトレフラクションモジュール10とシミュレーション及び最小化のための対応するアプリケーションとの組合せは、自覚屈折検査に進む前に良好な開始点を素早く提供する低コストツールを望む、スマートフォンを所有する世界中の任意の顧客に向けて容易に適合される。
【0079】
本開示の発明は、地方の人々及び/又は新興市場の人々が装備できるようにする。本開示の発明は、教師、保健の教員、NGOのボランティア等の非専門家の検眼士が、屈折異常を検出するために、学校、政府プログラムで世界規模で大量スクリーニングを実現できるようにする。
【0080】
本明細書に開示のシステム及び方法は、眼解析用、例えば自覚屈折測定用の技術ブロックとして別の医療機器内に組み込むこともできる。
【0081】
代表的なプロセス及び物品が本明細書で詳細に記載されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって説明及び定義されているものの範囲から逸脱することなく、様々な置換形態及び修正形態がなされ得ることを認識するであろう。
【符号の説明】
【0082】
2 眼
4 検眼士
10 フォトレフラクションモジュール
11 ワイヤ接続
16-A 光源
16-B 光源
16-C 光源
18-A 光源
18-B 光源
18-C 光源
20 モバイルデバイス
30 カメラ
50 システム
【国際調査報告】