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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】リチウム電池電極用の組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/22 20060101AFI20240329BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240329BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240329BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240329BHJP
   C08F 8/14 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08F214/22
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08F8/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563952
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2022059622
(87)【国際公開番号】W WO2022223347
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21169090.4
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ル グルチ, アン-シャルロット
(72)【発明者】
【氏名】オリアーニ, アンドレーア ヴィットーリオ
(72)【発明者】
【氏名】フィオーレ, ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンカルディ, ロベルト
【テーマコード(参考)】
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AC23R
4J100AC24P
4J100AC26R
4J100AC27R
4J100AC31R
4J100AJ02Q
4J100AL08R
4J100BA03R
4J100CA05
4J100DA09
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100FA28
4J100FA29
4J100FA30
4J100FA35
4J100FA37
4J100HA11
4J100HA61
4J100HB34
4J100HC33
4J100HC36
4J100HE06
4J100JA43
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA24
5H050EA28
5H050GA03
5H050GA15
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA15
(57)【要約】
本発明は、親水性モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデンコポリマーに、及びLiイオン電池の電極用のバインダーとしてのそれらの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー[ポリマー(F)]であって:
- (i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位;
- (ii)少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)に由来する繰り返し単位;
- (iii)少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位(ここで、モノマー(CA)は、モノマー(HA)とは異なる)
を含むフルオロポリマー[ポリマー(F)]であって、
前記ポリマー(F)におけるモノマー(HA)とモノマー(CA)との総量が、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して、少なくとも0.01モル%、より好ましくは少なくとも0.02モル%、より好ましくは少なくとも0.02モル%及び多くても5.0モル%、好ましくは多くても1.5モル%であり;
モノマー(HA)の少なくとも40%の割合及びモノマー(CA)の少なくとも40%の割合が、前記ポリマー(F)にランダムに分布しており;
前記ポリマー(F)が、式(I):
-(R-RO-R (I)
(式中、ROは、少なくとも1つの酸素原子を含有する二価基であり、Rは、C~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基であり、Rは、水素又はC~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基であり、xは、1及びゼロから選択される整数である)
の末端基を含み、
前記末端基が、少なくとも1/10000VDF単位、好ましくは1.5/10000VDF単位超、より好ましくは2/10000VDF単位超の量で存在する、
ポリマー(F)。
【請求項2】
前記ヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)は、式(I):
【化1】
(式中:
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子、ハロゲン原子、及びC~C炭化水素基から独立して選択され、ROHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含み、場合により鎖中に1つ以上の酸素原子、カルボニル基又はカルボキシ基を含むC~C10炭化水素鎖部分である)
の化合物である、請求項1に記載のポリマー(F)。
【請求項3】
モノマー(HA)は、式(Ia):
【化2】
(式中:
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子及びC~C炭化水素基から独立して選択され、R’OHは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びそれらの混合物からなる群から好ましくは選択される、少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)
の化合物である、請求項1又は2に記載のポリマー(F)。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)は、式(II):
【化3】
(式中:
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子及びC~C炭化水素基から独立して選択され、Rは、少なくとも1つのカルボキシル基を含み、ヒドロキシル基を含まないC~C10炭化水素部分である)
の化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー(F)。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)は、式(IIa):
【化4】
(式中、
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子及びC~C炭化水素基から独立して選択され、R’は、水素原子又は少なくとも1つのカルボキシル基を含み、ヒドロキシル基を含まないC~C炭化水素部分である)
の化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー(F)。
【請求項6】
ポリマー(F)における繰り返し単位(ii)と繰り返し単位(iii)との間のモル比は、好ましくは20:1~1:20、好ましくは10:1~1:10、より好ましくは1:5~5:1の範囲に含まれ;更にいっそう好ましくは、前記モル比は1:1である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー(F)。
【請求項7】
前記二価基ROは、エーテル(-O-)、エステル(-O-CO-)、ケトン(-CO-)、エポキシド、及びパーカーボネート(-O-CO-O-)基からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー(F)。
【請求項8】
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレンなどのC~Cフルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン;
(b)フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどの、C~C含水素モノフルオロオレフィン;
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン
からなる群から好ましくは選択される、VDFとは異なる1種以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー(F)。
【請求項9】
ポリマー(F)の調製のためのプロセスであって、前記プロセスが、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと、モノマー(HA)及びモノマー(CA)と、任意選択的にコモノマー(CF)とを、ラジカル開始剤の存在下に水性媒体中で重合させることを含み、前記プロセスが、
- モノマー(HA)とモノマー(CA)とを含む水溶液を連続的に供給することと;
- 前記反応器中の圧力をフッ化ビニリデンの臨界圧力超に維持することと
を含むプロセス。
【請求項10】
前記ラジカル開始剤は、有機過酸化物、好ましくはジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、及びペルオキシジカーボネートからなる群から選択される有機過酸化物である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
連鎖移動剤は、前記重合に添加される、請求項8又は9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
電極形成用組成物[組成物(C)]であって、
a)少なくとも1種の電極活物質(AM)と;
b)バインダー(B)が、請求項1~8のいずれか一項に記載の少なくとも1種のポリマー(F)を含む、少なくとも1種のバインダー(B)と;
c)少なくとも1種の溶媒(S)と;
d)任意選択的に、少なくとも1種の導電剤と
を含む、電極形成用組成物[組成物(C)]。
【請求項13】
電極[電極(E)]の製造のためのプロセスにおける請求項12に記載の電極形成用組成物(C)の使用であって、前記プロセスが、
(A)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供すること;
(B)請求項9に記載の電極形成用組成物[組成物(C)]を提供すること;
(C)工程(B)において提供された前記組成物(C)を、工程(A)において提供された前記金属基材の少なくとも1つの表面上へ塗布し、それによって少なくとも1つの表面上へ前記組成物(C)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供すること;
(D)工程(C)において提供された前記組立体を乾燥させること;
(E)工程(D)において得られた前記乾燥した組立体を圧縮工程にかけて本発明の前記電極(E)を得ること
を含む、使用。
【請求項14】
請求項13に記載のプロセスによって得られる電極[電極(E)]。
【請求項15】
請求項14に記載の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月19日出願の欧州特許出願21169090.4号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、親水性モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデンコポリマーに、及びLiイオン電池の電極用のバインダーとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーは、二次電池などの電気化学デバイスでの使用のための電極の製造用のバインダーとして好適であることが当技術分野において公知である。
【0004】
特に、国際公開第2008/129041号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)は、(メタ)アクリルモノマーに由来する0.05%~10モル%の繰り返し単位を含む線状の半結晶性フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー、及びリチウムイオン電池用の電極におけるバインダーとしてのそれらの使用を開示している。
【0005】
一般に、フルオロポリマー分子量の増加は、これらの材料から製造された物品の性能を、特に機械的特性の観点から及び電流コレクタへの電極の接着性の観点から向上させることが知られている。
【0006】
しかしながら、フルオロポリマー分子量の増加は、電極スラリーとも呼ばれる、それを含む電極形成用調合物の粘度を増加させ、電極の製造におけるハンドリング及びコーティングプロセスをはるかにより困難にする。
【0007】
電池の、とりわけリチウム電池の技術分野において、それを製造するためにスラリー粘度の増加によるなどの、悪影響を電極の製造プロセスに同時に及ぼさない非常に良好な接着性で特徴付けられる電極バインダーを提供するという課題が感じられる。
【0008】
この発明は、低いせん断速度で低い粘度を有する電極形成用調合物で対処することによる電極製造プロセスでの容易さを、電流コレクタに非常に高い接着性を有する電極の供給と組み合わせることによるこの課題の解決策を提供する。
【発明の概要】
【0009】
ある種のヒドロキシル基含有ビニルモノマー及びカルボキシ基含有ビニルモノマーをランダムに含み、且つある種の鎖末端素を有する、ある種のフッ化ビニリデン骨格が、金属基材への非常に良好な接着性に恵まれており、低いせん断速度で低い粘度を有する電極形成用組成物の調製に使用できることが見いだされた。
【0010】
従って、本発明の目的は、
- (i)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位;
- (ii)少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)に由来する繰り返し単位;
- (iii)少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)に由来する繰り返し単位(ここで、モノマー(CA)はモノマー(HA)とは異なる)
を含むフルオロポリマー[ポリマー(F)]であって、
前記ポリマー(F)におけるモノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量が、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して、少なくとも0.01モル%、より好ましくは少なくとも0.02モル%、より好ましくは少なくとも0.02モル%及び多くても5.0モル%、好ましくは多くても1.5モル%のものであり;
モノマー(HA)の少なくとも40%の割合及びモノマー(CA)の少なくとも40%の割合が、前記ポリマー(F)にランダムに分布しており;
前記ポリマー(F)が、式(I):
-(R-RO-R (I)
(式中、ROは、少なくとも1つの酸素原子を含有する二価基であり、Rは、C~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基であり、Rは、水素又はC~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基であり、xは、1及びゼロから選択される整数である)
の末端基を含み、
前記末端基が、少なくとも1/10000VDF単位、好ましくは1.5/10000VDF単位超、より好ましくは2/10000VDF単位超の量で存在する、
ポリマー(F)が本発明の目的である。
【0011】
本発明の第2の目的は、
a)少なくとも1種の電極活物質(AM)と;
b)少なくとも1種のバインダー(B)(ここで、バインダー(B)は、上で定義されたような少なくとも1種のポリマー(F)を含む)と;
c)少なくとも1種の溶媒(S)と
を含む電極形成用組成物(C)に関する。
【0012】
別の態様において、本発明は、電極[電極(E)]の製造のためのプロセスにおける電極形成用組成物(C)の使用であって、前記プロセスが、
(A)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供すること;
(B)上で定義されたような電極形成用組成物[組成物(C)]を提供すること;
(C)工程(B)において提供された組成物(C)を、工程(A)において提供された金属基材の少なくとも1つの表面上へ塗布し、それによって少なくとも1つの表面上へ前記組成物(C)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供すること;
(D)工程(C)において提供された組立体を乾燥させること;
(E)工程(D)において得られた乾燥した組立体を圧縮工程にかけて本発明の電極(E)を得ること
を含む、使用に関する。
【0013】
更な目的において、本発明は、本発明のプロセスによって得られる電極[電極(E)]に関する。
【0014】
更になお一層の目的において、本発明は、本発明の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
用語「フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位」(一般的に二フッ化ビニリデン、1,1-ジフルオロエチレン、VDFとしても示される)とは、式CF=CHの繰り返し単位を意味することを意図する。
【0016】
好適なヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA)は、式(I):
【化1】
(式中:
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子、ハロゲン原子、及びC~C炭化水素基から独立して選択され、ROHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含み、場合により鎖内に1つ以上の酸素原子、カルボニル基又はカルボキシ基を含むC~C10炭化水素鎖部分である)
の化合物である。
【0017】
好ましい実施形態において、モノマー(HA)は、式(Ia):
【化2】
(式中:
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子及びC~C炭化水素基から独立して選択され、R’OHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)
の化合物である。
【0018】
式(Ia)のモノマー(HA)の非限定的な例には、とりわけ:
- ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物
が含まれる。
【0019】
好ましくは、少なくとも1種のモノマー(HA)は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)又は2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)である。
【0020】
好適なカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA)は、式(II):
【化3】
(式中:
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子及びC~C炭化水素基から独立して選択され、Rは、少なくとも1つのカルボキシル基を含み、ヒドロキシル基を含まないC~C10炭化水素部分である)
の化合物である。
【0021】
好ましい実施形態において、モノマー(CA)は、式(IIa):
【化4】
(式中、
互いに等しいか若しくは異なる、R、R及びRは、水素原子、及びC~C炭化水素基から独立して選択され、R’は、水素、又は少なくとも1つのカルボキシル基を含み、ヒドロキシル基を含まないC~C炭化水素部分である)
の化合物である。
【0022】
R’は、鎖中に1つ以上の酸素原子、カルボニル基又はエステル基を更に含有し得る。
【0023】
式(IIa)のモノマー(CA)の非限定的な例には、とりわけ:
- アクリル酸(AA)及び
- (メタ)アクリル酸、
- 2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、
- (メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、
- (メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、
及びそれらの混合物
が含まれる。
【0024】
好ましくは、少なくとも1種のモノマー(CA)は、アクリル酸(AA)である。
【0025】
ポリマー(F)における繰り返し単位(ii)と繰り返し単位(iii)の間のモル比は、好ましくは20:1~1:20、好ましくは10:1~1:10、より好ましくは1:5~5:1の範囲に含まれる。
【0026】
ポリマー(F)において、モノマー(HA)の少なくとも40%の割合及びモノマー(CA)の少なくとも40%の割合は、前記ポリマー(F)にランダムに分布していることが不可欠である。
【0027】
表現「ランダムに分布したモノマー(HA)の割合」は、次式:
【数1】
に従って、(HA)モノマー配列の平均数(%)(前記配列は、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位の間に含まれている)と、(HA)モノマー繰り返し単位の総平均数(%)との間のパーセント比を意味することを意図する。
【0028】
(HA)繰り返し単位のそれぞれが、孤立している、すなわち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれている場合、(HA)配列の平均数は、(HA)繰り返し単位の平均総数に等しく、従ってランダムに分布した単位(HA)の割合は100%であり:この値は、(HA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に対応する。
【0029】
従って、上記のように、(HA)単位の総数に対して孤立した(HA)単位の数が大きければ大きいほど、ランダムに分布した単位(HA)の割合の百分率値はより高くなるであろう。
【0030】
表現「ランダムに分布したモノマー(CA)の割合」は、次式:
【数2】
に従って、(CA)モノマー配列の平均数(%)(前記配列は、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位の間に含まれている)と、(CA)モノマー繰り返し単位の総平均数(%)の間のパーセント比を意味することを意図する。
【0031】
(CA)繰り返し単位のそれぞれが、孤立している、すなわち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間に含まれている場合、(CA)配列の平均数は、(CA)繰り返し単位の平均総数に等しく、従ってランダムに分布した単位(HA)の割合は100%であり:この値は、(CA)繰り返し単位の完全にランダムな分布に対応する。従って、上記のように、(CA)単位の総数に対して孤立した(CA)単位の数が大きければ大きいほど、ランダムに分布した単位(CA)の割合の百分率値は高くなるであろう。
【0032】
ポリマー(F)における(HA)モノマー繰り返し単位及び(CA)モノマー繰り返し単位の総平均数の決定は、任意の好適な方法によって行うことができ、NMRが好ましい。
【0033】
ランダムに分布した単位(HA)及び(CA)の割合は、好ましくは少なくとも50%の、より好ましくは少なくとも60%の、最も好ましくは少なくとも70%のものである。
【0034】
ポリマー(F)は、好ましくは少なくとも0.01%、より好ましくは少なくとも0.02モル%の前記モノマー(HA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0035】
ポリマー(F)は、好ましくは多くとも5.0%、より好ましくは多くとも3.0モル%、更にいっそう好ましくは多くとも2.0モル%のモノマー(HA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0036】
ポリマー(F)は、好ましくは少なくとも0.01%、より好ましくは少なくとも0.02モル%の前記モノマー(CA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0037】
ポリマー(F)は、好ましくは多くとも5.0%、より好ましくは多くとも3.0モル%、更にいっそう好ましくは多くとも2.0モル%のモノマー(CA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0038】
少なくとも70モル%のVDFに由来する繰り返し単位を含むポリマー(F)を使用して、優れた結果が得られている。
【0039】
ポリマー(F)は、エラストマー又は半結晶性ポリマーであることができ、好ましくは半結晶性ポリマーである。
【0040】
本明細書で用いるところでは、用語「半結晶性」は、DSC分析でガラス転移温度Tgに加えて、少なくとも1つの結晶融点を有するフルオロポリマーを意味する。本発明の目的のためには、半結晶性フルオロポリマーは、ASTM D3418-08に従って測定されるように、10~90J/gの、好ましくは30~80J/gの、より好ましくは35~75J/gの融解熱を有するフルオロポリマーを意味することを本明細書では意図する。
【0041】
本発明の目的のために、用語「エラストマー」は、真のエラストマー、又は真のエラストマーを得るための基礎構成成分として役立つポリマー樹脂を示すことを意図する。
【0042】
真のエラストマーは、ASTM、Special Technical Bulletin、第184規格により、室温で、それらの固有長さの2倍に伸長することができ、それらを5分間張力下に保持した後解放すると、同時にそれらの初期長さの10%以内に戻る材料として定義されている。
【0043】
好ましくは、25℃でジメチルホルムアミド中で測定される、ポリマー(F)の固有粘度は、0.05l/g~0.70l/g、より好ましくは0.20l/g~0.50l/gである。
【0044】
本発明のポリマー(F)は、通常、130~200℃の範囲に含まれる溶融温度(Tm)を有する。
【0045】
本発明のポリマー(F)は、長い分岐鎖が実質的に減少しているために不溶性画分をもたらす、分岐が非常に少量の、準線状構造を有する。
【0046】
本発明のポリマー(F)は、実際に好ましくは、NMPなどの、PVDF用の標準的な極性の非プロトン性溶媒中で不溶性成分の低い割合を有する。より好ましくは、前記標準的な極性の非プロトン性溶媒中のポリマー(F)の溶液は、実質的に不溶性残渣なしで、数週間均一で安定したままである。
【0047】
不溶性成分の少量のおかげで、ポリマー(F)のGPC及びNMR分析は、影響を受けず、信頼性及び再現性の問題は全くない。
【0048】
溶融温度は、示差走査熱量測定(本明細書では以下、DSCとも言われる)によって得られたDSC曲線から決定され得る。DSC曲線が複数の溶融ピーク(吸熱ピーク)を示す場合、溶融温度(Tm)は、最大のピーク面積を有するピークに基づいて決定される。
【0049】
ポリマー(F)は、VDFとは異なる1種以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を更に含み得る。
【0050】
用語「フッ素化コモノマー(CF)」とは、少なくとも1つのフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することを本明細書では意図する。
【0051】
好適なフッ素化コモノマー(CF)の非限定的な例には、とりわけ、以下:
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレンなどのC~Cフルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン;
(b)フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどの、C~C含水素モノフルオロオレフィン;
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-、及び/又はブロモ-、及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン
が含まれる。
【0052】
フッ素化コモノマー(CF)は、好ましくはHFPである。
【0053】
1つの好ましい実施形態において、ポリマー(F)は、半結晶性であり、0.1~15.0モル%、好ましくは0.3~5.0モル%、より好ましくは0.5~3.0モル%の前記フッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を含む。
【0054】
上で定義されたものとは異なる鎖末端、欠陥又は他の不純物タイプの部分が、ポリマー(F)中に、これらがその特性を損うことなしに含まれ得ることは理解される。
【0055】
ポリマー(F)は、より好ましくは、
- 少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.01モル%~1.5モル%、好ましくは.0.05モル%~1.0モル%の少なくとも1つのヒドロキシル基含有ビニルモノマー(HA);
- 0.01モル%~1.5モル%、好ましくは0.05モル%~1.0モル%の少なくとも1つのカルボキシル基含有ビニルモノマー(CA);
- 任意選択的に、0.5~3.0モル%の少なくとも1種のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位
に由来する繰り返し単位を含む。
【0056】
本発明のポリマー(F)は、式(I):
-(R-RO-R (I)
(式中:
- ROは、少なくとも1つの酸素原子を含有する二価基であり、
- Rは、C~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基であり、
- Rは、水素又はC~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基であり、
- xは、1及びゼロから選択される整数である)
の末端基を含み、
前記末端基は、少なくとも1/10000VDF単位、好ましくは2/10000VDF単位超の量で存在する。
【0057】
二価基ROの非限定的な例には、とりわけ:
エーテル(-O-)、
エステル(-O-CO-)、
ケトン(-CO-)、
エポキシド、及び
パーカーボネート(-O-CO-O-)基
が含まれる。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、ROは、少なくとも2個の酸素原子を含有する二価基である。より好ましくは、ROは、パーカーボネート基である。
【0059】
好ましくは、R及びRは、両方ともC~Cの直鎖若しくは分岐の炭化水素基、より好ましくはCの直鎖若しくは分岐の炭化水素基である。
【0060】
好ましくは、xは、ゼロである。
【0061】
本発明のポリマー(F)は、例えば、国際公開第2008129041号パンフレットに記載されている手順に従って、有機媒体中の懸濁液においてか、又は、典型的には当技術分野において記載されている(例えば、米国特許第4,016,345号明細書、米国特許第4,725,644号明細書及び米国特許第6,479,591号明細書を参照されたい)ように実施される、水性エマルジョンにおいてかのどちらかでの、VDFモノマー、少なくとも1種のモノマー(HA)、少なくとも1種のモノマー(CA)及び任意選択的に少なくとも1種のコモノマー(CF)の重合によって得られ得る。
【0062】
ポリマー(F)を調製するための好ましい手順は、ラジカル開始剤の存在下に水性媒体中で、フッ化ビニリデン(VDF)モノマー、モノマー(HA)及びモノマー(CA)、並びに任意選択的にコモノマー(CF)を重合させることを含み、前記プロセスは、
- モノマー(HA)とモノマー(CA)とを含む水溶液を連続的に供給することと、
- 前記反応器中の圧力をフッ化ビニリデンの臨界圧力超に維持することと
を含む。
【0063】
フッ素化モノマーの重合用に知られている好適な開始剤は、ジアルキルペルオキシド、ジアシル-ペルオキシド、ペルオキシエステル、及びペルオキシジカーボネートからなる群から選択されるものなどの、有機過酸化物である。
【0064】
例示的なジアルキルペルオキシドは、ジ-t-ブチルペルオキシドであり、ペルオキシエステルの中にt-ブチル ペルオキシピバレート及びt-アミルペルオキシピバレートがあり、ペルオキシジカーボネートの中に、ジ(エチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(sec-ブチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート及びジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネートがある。
【0065】
好ましくは、本発明のポリマー(F)を調製するために使用される開始剤は、有機過酸化物であり、より好ましくはジ(エチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジ(イソ-プロピル)ペルオキシジカーボネート及びジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネートから選択される。
【0066】
重合のために必要とされる開始剤の量は、その活性及び重合のために用いられる温度に関係する。使用される開始剤の総量は、一般に、使用される総モノマー重量に基づいて100~30000重量ppmである。
【0067】
開始剤は、選ばれる開始剤に応じて、純粋な形態で、溶液で、懸濁液で、又はエマルジョンで添加され得る。
【0068】
連鎖移動剤、CTAを重合に添加することができる。この重合のための好適なCTAは、当技術分野において公知であり、典型的には、エタン及びプロパンのような短い炭化水素鎖、酢酸エチル又はマレイン酸ジエチルのようなエステル、ジエチルカーボネート等である。有機過酸化物が開始剤として使用される場合、それは、フリーラジカル重合の進行中に有効なCTAとしても働くことができよう。しかしながら、追加のCTAは、反応の開始時に1度に全て添加され得る、又はそれは、分割して、若しくは反応の進行の全体にわたって連続的に添加され得る。CTAの量及びその添加の様式は、所望の特性に依存する。
【0069】
好ましい調製プロセスにおいて、圧力は、フッ化ビニリデンの臨界圧力超に維持される。一般に、圧力は、50バール超の、好ましくは75バール超の、更にいっそう好ましくは100バール超の値に維持される。
【0070】
モノマー(HA)とモノマー(CA)とを含む水溶液の連続供給は、大抵は重合ランの全期間の間中実施されることが不可欠である。
【0071】
従って、ポリマー(F)のVDFモノマーポリマー骨格内のモノマー(HA)及びモノマー(CA)の両方のほぼ統計的な分布を得ることが可能である。
【0072】
表現「連続供給」又は「連続的供給」は、重合が終わるまで、モノマー(HA)とモノマー(CA)との水溶液のゆっくりした、小さい、徐々に増加する添加が行われることを意味する。
【0073】
モノマー(HA)とモノマー(CA)との水溶液は、反応中に供給されるモノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量(すなわち、初期装入プラス連続供給)の少なくとも50重量%の量について重合中に連続的に供給される。好ましくは、モノマー(HA)及びモノマー(CA)の総量の少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%が、重合中に連続的に供給される。この要件が必須ではない場合でさえ、VDFモノマーの徐々に増加する添加は、重合中に達成することができる。一般に、本発明のプロセスは、少なくとも35℃の、好ましくは少なくとも40℃の、より好ましくは少なくとも45℃の温度で実施される。
【0074】
重合が懸濁液で実施される場合、ポリマー(F)は、典型的には粉末の形態でもたらされる。
【0075】
ポリマー(F)を得るための重合がエマルジョンで実施される場合、ポリマー(F)は、典型的には水性分散液(D)の形態でもたらされ、それは、乳化重合によって直接得られたままで、又は濃縮工程後に使用され得る。
【0076】
乳化重合によって得られたポリマー(F)は、分散液の濃縮及び/又は凝固によって水性分散液(D)から単離し、その後の乾燥によって粉末形態で得ることができる。
【0077】
粉末の形態のポリマー(F)は、ペレットの形態のポリマー(F)を得るために任意選択的に更に押し出され得る。
【0078】
上で詳述したようなポリマー(F)は、Liイオン電池の電極用のバインダーとして使用され得る。
【0079】
本発明の第2の目的は、
a)少なくとも1種の電極活物質(AM)と;
b)少なくとも1種のバインダー(B)(ここで、バインダー(B)は、上で定義されたような少なくとも1種のポリマー(F)を含む)と;
c)少なくとも1種の溶媒(S)と;
d)任意選択的に、少なくとも1種の導電剤と
を含む電極形成用組成物(C)に関する。
【0080】
本発明の目的のためには、用語「電気活物質(AM)」は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にアルカリ又はアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れる又は挿入する及びそれから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。化合物(AM)は、好ましくは、リチウムイオンを組み入れる又は挿入する及び放出することができる。
【0081】
組成物(C)における化合物(AM)の性質は、前記組成物が正極[電極(Ep)]又は負極[電極(En)]の製造に使用されるかどうかに依存する。
【0082】
リチウムイオン二次電池用の正極(Ep)を形成する場合には、化合物(AM)は、式LiMQ(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属又はAlなどの金属並びにそれらの混合物から選択される少なくとも1種の金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである)の複合金属カルコゲナイドを含み得る。これらの中で、式LiMO(式中、Mは上で定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例には、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNiCoAl(a+b+c=1)及びスピネル構造のLiMnが含まれ得る。代わりのものとして、更にリチウムイオン二次電池用の正極(Ep)を形成する場合には、化合物(AM)は、式M(JO1-f(式中、Mは、リチウムであり、それは、M金属の20%未満を表す別のアルカリ金属で部分的に置換され得、Mは、Fe、Mn、Ni又はそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルでの遷移金属であり、それは、+1と+5の間の酸化レベルでの、及び0を含む、M金属の35%未満を表す1種以上の追加の金属で部分的に置換され得、JOは、JがP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである任意のオキシアニオンであり、Eは、フッ化物、水酸化物又は塩化物アニオンであり、fは、JOオキシアニオンのモル分率であり、一般に0.75~1の間に含まれる)のリチウム化された又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活物質を含み得る。
【0083】
上で定義されたようなM(JO1-f電気活物質は、好ましくはホスフェート系であり、規則正しい又は変性されたかんらん石構造を有し得る。
【0084】
より好ましくは、正極(Ep)を形成する場合の化合物(AM)は、式Li3-xM’M’’2-y(JO(式中、0≦x≦3,0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ若しくは異なる金属であり、その少なくとも1つは、遷移金属であり、JOは、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換され得るPOであり、ここで、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである)を有する。更にいっそう好ましくは、化合物(AM)は、式Li(FeMn1-x)PO(式中、0≦x≦1であり、xは、好ましくは1である)(すなわち、式LiFePOのリチウム鉄ホスフェート)のホスフェート系電極活物質である。
【0085】
リチウムイオン二次電池用の複合負極(En)を形成する場合には、化合物(AM)は、好ましくは、炭素系材料及び/又はケイ素系材料を含み得る。
【0086】
いくつかの実施形態において、炭素系材料は、例えば、天然若しくは人工黒鉛などの、黒鉛、グラフェン、又はカーボンブラックであり得る。
【0087】
これらの材料は、単独で又はそれらの2つ以上の混合物として使用され得る。
【0088】
炭素系材料は、好ましくは、黒鉛である。
【0089】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。より具体的には、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0090】
化合物(AM)中に存在する場合、少なくとも1種のケイ素系化合物は、化合物(AM)の総重量に対して1~30重量%、好ましくは5~20重量%の範囲の量で化合物(AM)に含まれる。
【0091】
溶媒(S)は、好ましくは有機極性溶媒であり得、その例には:N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、及びトリメチルホスフェートが含まれ得る。これらの溶媒は、単独で又は2つ以上の化学種の混合物で使用され得る。
【0092】
任意選択の導電剤が、得られる電極(AM)の導電率を改善するために添加され得る。
【0093】
それらの例には:カーボンブラック、黒鉛微粉末 カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、若しくは繊維などの、炭素質材料、又はニッケル若しくはアルミニウムなどの金属の微粉末若しくは繊維が含まれ得る。任意選択の導電剤は、好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、ブランド名、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)で入手可能である。
【0094】
存在する場合、導電剤は、上記の炭素系材料とは異なる。
【0095】
本発明の好ましい実施形態において、正極(Ep)の調製で使用するための電極形成用組成物(C)が提供され、前記組成物は、
a)少なくとも1種の電極活物質(AM)と;
b)少なくとも1種のバインダー(B)(ここで、バインダー(B)は、上で定義されたような少なくとも1種のポリマー(F)を含む)と;
c)少なくとも1種の溶媒(S)と;
d)好ましくはカーボンブラック又は黒鉛微粉末 カーボンナノチューブから選択される、少なくとも1種の導電剤と
を含む。
【0096】
上述のとおり、本発明のポリマー(F)は、準線状構造、及びNMPなどの標準的な極性の非プロトン性溶媒に溶解させられた場合に非常に少量の不溶性画分を有する。
【0097】
不溶性成分の少量のおかげで、ポリマー(F)は、有機溶媒中の溶液を提供し、その溶液は、一般に「ゲル」と言われる、不溶性残渣の存在による悪影響を受けず、これ故に、電極形成用組成物の配合での使用により適合している。
【0098】
別の目的において、本発明は、電極[電極(E)]の製造のための電極形成用組成物(C)の使用に関連し、前記プロセスは、
(A)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供すること;
(B)上で定義されたような電極形成用組成物[組成物(C)]を提供すること;
(C)工程(B)において提供された組成物(C)を、工程(A)において提供された金属基材の少なくとも1つの表面上へ塗布し、それによって少なくとも1つの表面上へ前記組成物(C)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供すること;
(D)工程(C)において提供された組立体を乾燥させること;
(E)工程(iv)において得られた乾燥した組立体を圧縮工程にかけて本発明の電極(E)を得ること
を含む。
【0099】
更なる目的において、本発明は、本発明のプロセスによって得られる電極[電極(E)]に関する。
【0100】
本出願人は、意外にも、本発明の電極(E)が電流コレクタへのバインダーの傑出した接着性を示すことを見いだした。
【0101】
本発明の電極(E)は、従って、電気化学デバイスでの、特に二次電池での使用に特に好適である。
【0102】
本発明の目的のためには、用語「二次電池」は、再充電可能な電池を意味することを意図する。
【0103】
本発明の二次電池は、好ましくは、アルカリ金属二次電池又はアルカリ土類金属二次電池である。
【0104】
本発明の二次電池は、より好ましくは、リチウムイオン二次電池である。
【0105】
更になお一層の目的において、本発明は、本発明の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【0106】
好ましくは二次電池である、本発明による電気化学デバイスは、
- 正極及び負極
を含み、
ここで、正極及び負極のうちの少なくとも1つは、本発明の電極(E)である。
【0107】
本発明の1つの好ましい実施形態において、
- 正極及び負極
を含み、
ここで、負極は、本発明による電極(E)である二次電池である電気化学デバイスが提供される。
【0108】
本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって調製することができる。
【0109】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0110】
本発明は、これから、以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0111】
ポリマー(F)の固有粘度の決定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用いてポリマー(F)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での、滴下時間に基づいて以下の方程式:
【数3】
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηは、相対粘度、すなわち、試料溶液の滴下時間と溶媒の滴下時間との間の比であり、ηspは、比粘度、すなわち、η-1であり、Γは、ポリマー(F)については3に相当する、実験因子である)
を用いて測定した。
【0112】
DSC分析
DSC分析は、ASTM D 3418規格に従って実施し、融点(Tf2)は、10℃/分の加熱速度で決定した。
【0113】
極性末端基の決定
重合プロセスにおいて使用された開始剤ジエチルペルオキシジカーボネートから生じる極性末端基の量は、ポリマー(F)骨格VDFモノマー単位のCH部分の全強度に対して(以下の式においてボールド体の)CH基のH原子の強度を測定する、H-NMRによって決定した。
【化5】
【0114】
末端基の含有量は、次式:
[EG]=(IEG/IVDF)×10000
(式中:
- [EG]は、10000VDF単位当たりのモルとして表される全体的な末端基の含有量であり、
- IEGは、末端基[EG]の積分の、1つの水素に正規化された、強度であり;
- IVDFは、正常及び逆VDF繰り返し単位の積分の、1つの水素に正規化された、強度である)
を適用することによって計算した。
【0115】
約20mgのポリマーを0.7mlのヘキサデュウテロアセトンに溶解させた。H-NMRスペクトルは、4.24ppmに前述のCHを、一方、それぞれ3.2及び2.5ppmを中心とする幅広いピークとして共鳴するVDF正常及び逆繰り返し単位からのCHシグナルを示した。
【0116】
実施例1:ポリマーF-1の調製
650rpmの速度で回転する羽根車を備えた4Lの反応器に:2,014gの脱塩水並びに全VDFモノマーの1kg当たり0.4gのPEO(Alkorox製のAlkox(登録商標)-E45)及び全VDFモノマーの1kg当たり0.5gのヒドロキシプロピルメチルセルロース(Dow製のMethocel(登録商標)-K100)及び59.91gのリン酸三ナトリウムの溶液を順次導入した。反応器内に存在する酸素を、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0117】
次いで、30gの脱塩水、11.28gの過酸化水素(Brenntag製)及び3.53gのクロロギ酸エチル(Framochem製)を反応器に導入した。
【0118】
15分後に、0.28gのアクリル酸(AA)及び0.07gのヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を、880rpmの撹拌速度で反応器に導入した。すぐ後に、1.166gのVDFを混合物に添加した。次いで、120バールの反応器の圧力に対応する、45℃の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。
【0119】
溶液の1リットル当たり9.40gのAA及び溶液の1リットル当たり4.70gのHEAを含む水溶液を供給することによって、全体重合ランの間ずっと圧力を常に120バールに等しく保った。365分後に、大気圧に達するまで懸濁液を脱ガスすることによって重合を停止させた。合計721gのAA及びHEA溶液を反応器に装入した。
【0120】
次いで、ポリマーを濾過により集め、撹拌タンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後に、ポリマーを65℃において12時間オーブン中で乾燥させた。919gの乾燥粉末を回収した。
【0121】
25℃においてDMF中で0.28l/gの固有粘度及び165.5℃のT2fを有する、VDF-AA(0.45モル%)-HEA(0.15モル%)を含むポリマーを得た。
【0122】
このポリマーは、3.0/10000VDF単位の末端基CHCH-OCOO-を含有した。
【0123】
加えて、4.5/10000VDF単位の-CFH及び2.5/10000VDF単位の-CFCH末端基の存在が決定された。
【0124】
実施例2:ポリマーF-2の調製
650rpmの速度で回転する羽根車を備えた4Lの反応器に:1,983gの脱塩水並びに全VDFモノマーの1kg当たり0.4gのPEO(Alkorox製のAlkox(登録商標)-E45)及び全VDFモノマーの1kg当たり0.5gのヒドロキシプロピルメチルセルロース(Dow製のMethocel(登録商標)-K100)及び87.89gのリン酸三ナトリウムを順次導入した。反応器内に存在する酸素を、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0125】
次いで、100gの脱塩水、15.66gの過酸化水素(Brenntag製)及び5gのクロロギ酸エチル(Framochem製)を反応器に導入した。
【0126】
15分後に、0.39gのアクリル酸(AA)及び0.047gのヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)を、880rpmの撹拌速度で反応器に導入した。すぐ後に、1.165gのVDFをこの混合物に添加した。次いで、120バールの反応器の圧力に対応する、40℃の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。
【0127】
溶液の1リットル当たり13.75gのAA及び溶液の1リットル当たり1.66gのHPAを含む水溶液を供給することによって、全体重合ランの間ずっと圧力を常に120バールに等しく保った。429分後に、大気圧に達するまで懸濁液を脱ガスすることによって重合を停止させた。合計681gのAA及びHPA溶液を反応器に装入した。
【0128】
次いで、ポリマーを濾過により集め、撹拌タンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後に、ポリマーを65℃において12時間オーブン中で乾燥させた。872gの乾燥粉末を回収した。
【0129】
25℃においてDMF中で0.249l/gの固有粘度及び164.3℃のT2fを有する、ポリマーVDF-AA(0.7モル%)-HPA(0.05モル%)を得た。
【0130】
このポリマーは、2.8/10000VDF単位の末端基CHCH-OCOO-を含有した。
【0131】
加えて、4.8/10000VDF単位の-CFH及び2.1/10000VDF単位の-CFCH末端基の存在が決定された。
【0132】
実施例3:ポリマーF-3の調製
650rpmの速度で回転する羽根車を備えた4Lの反応器に:1,932gの脱塩水並びに全VDFモノマーの1kg当たり0.4gのPEO(Alkorox製のAlkox(登録商標)-E45)及び全VDFモノマーの1kg当たり0.5gのヒドロキシプロピルメチルセルロース(Dow製のMethocel(登録商標)-K100)及び124.08gのリン酸三ナトリウムの溶液を順次導入した。反応器内に存在する酸素を、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0133】
次いで、100gの脱塩水、22.11gの過酸化水素(Brenntag製)及び7.06gのクロロギ酸エチル(Framochem製)を反応器に導入した。
【0134】
15分後に、0.39gのアクリル酸(AA)及び0.046gのヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)を、880rpmの撹拌速度で反応器に導入した。すぐ後に、1.165gのVDFを混合物に添加した。次いで、120バールの反応器の圧力に対応する、40℃の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。
【0135】
溶液の1リットル当たり13.38gのAA及び溶液の1リットル当たり1.61gのHPAを含む水溶液を供給することによって、全体重合ランの間ずっと圧力を常に120バールに等しく保った。369分後に、大気圧に達するまで懸濁液を脱ガスすることによって重合を停止させた。合計700gのAA及びHPA溶液を反応器に装入した。
【0136】
次いで、ポリマーを濾過により集め、撹拌タンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後に、ポリマーを65℃において12時間オーブン中で乾燥させた。864gの乾燥粉末を回収した。
【0137】
25℃においてDMF中で0.207l/gの固有粘度及び165.2℃のT2fを有する、ポリマーVDF-AA(0.7モル%)-HPA(0.05モル%)を得た。
【0138】
このポリマーは、3.6/10000VDF単位の末端基CHCH-OCOO-を含有した。
【0139】
加えて、5.0/10000VDF単位の-CFH及び2.3/10000単位の-CFCH末端基の存在が決定された。
【0140】
実施例4 比較:ポリマーAの調製
650rpmの速度で回転する羽根車を備えた4Lの反応器に:1.928gの脱塩水並びに全VDFモノマーの1kg当たり0.4gのPEO(Alkorox製のAlkox(登録商標)-E45)及び全VDFモノマーの1kg当たり0.5gのヒドロキシプロピルメチルセルロース(Dow製のMethocel(登録商標)-K100)を順次導入した。反応器内に存在する酸素を、11℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0141】
次いで、0.39gのアクリル酸(AA)及びイソドデカン中の開始剤t-アミルパーピバレート(United Initiators製)の溶液(75%)の6.77gを反応器に導入した。すぐ後に、1,164gのVDFをこの混合物に添加した。次いで、120バールの反応器の圧力に対応する、50℃の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。
【0142】
溶液の1リットル当たり11.91gのAA及び溶液の1リットル当たり1.49gのヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)を含む水溶液を供給することによって、全体重合ランの間ずっと圧力を常に120バールに等しく保った。480分後に、大気圧に達するまで懸濁液を脱ガスすることによって重合を停止させた。合計787gのAA及びHPA溶液を反応器に装入した。
【0143】
次いで、ポリマーを濾過により集め、撹拌タンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後に、ポリマーを65℃において12時間オーブン中で乾燥させた。896gの乾燥粉末を回収した。
【0144】
ポリマーVDF-AA(0.7モル%)-HPA(0.05モル%)、25℃においてDMF中で0.231l/gの固有粘度及び165.2℃のT2fを有するポリマーを得た。
【0145】
このポリマーは、2.2/10000VDF単位の-C(CH、6.4/10000VDF単位の-CFH及び2.7/10000VDF単位の-CFCH末端基を含有した。
【0146】
末端基CHCH-OCOO-は存在しなかった。
【0147】
NMC活物質を使った電極の一般的な調製
96.5重量%のNMC、1.5重量%のポリマー、2重量%の導電性添加剤の最終組成を有する正極を以下のように調製した。
【0148】
34.7gのNMP中の6重量%のポリマーの溶液、133.8gのNMC、2.8gのSC-65及び8.8gのNMPを遠心ミキサーにおいて10分間予備混合することによって第1の分散液を調製した。
【0149】
次いで、混合物を、高速ディスクインペラを用いて2000rpmで50分間混合した。その後、追加の7.2gのNMPを分散液に添加し、それを、バタフライ型インペラを使って1000rpmで20分間更に混合した。得られた組成物を、ドクターブレードを使って厚さ15μmのAl箔上にキャストし、コーティングされた層を90℃の温度において約50分間真空オーブン中で乾燥させることによって正極を得た。乾燥コーティング層の厚さは、約110μmであった。
【0150】
スラリー粘度の測定
スラリー粘度は、25℃でのペルチェ(peltier)温度制御付きの同心円筒セットアップ(計量カップ:C-CC27/QC-LTD Bob:CC27/P6)を用いるAntonPaar Rheolab QCで測定した。定常状態粘度は、0.1~200 l/sのせん断速度から測定した。
【0151】
接着力の測定
アルミ箔と電極との間の接着剥離力:
Al箔への乾燥コーティング層の接着性を評価するために、20℃において300mm/分の速度で規格ASTM D903に記載されているセットアップに従って180°剥離試験を行った。
【0152】
実施例5:接着力及びスラリー粘度
実施例1~4のポリマーをバインダーとして使用し、電極組成物を上に示された手順に従って製造した。スラリー粘度及び接着力の値を表1に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
結果は、本発明のポリマーが、低いスラリー粘度及び良好な接着性のおかげで、より機能的であり、且つ電極の製造プロセスにおいて取り扱うのがより容易であることを示す。
【国際調査報告】