IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヴェルサメブ アーゲーの特許一覧

<>
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図1
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図2A
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図2B
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図3
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図4
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図5
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図6
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図7
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図8
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図9
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図10
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図11
  • 特表-下部尿路症状の治療方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】下部尿路症状の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/30 20060101AFI20240329BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/16 20060101ALI20240329BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240329BHJP
   C07K 14/65 20060101ALN20240329BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
A61K38/30
A61K48/00
A61P13/02
A61K38/17
A61P13/10
C12N15/16 ZNA
C12N15/62 Z
C07K14/65
C07K19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563954
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022060005
(87)【国際公開番号】W WO2022223428
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21169118.3
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521265726
【氏名又は名称】ヴェルサメブ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ザイデベェルド, クラース ピーテル
(72)【発明者】
【氏名】セルヴァラージ, ジャスティン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ヒルマン-ヴュルナー, ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー, フリードリヒ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA44
4C084DB58
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA81
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA38
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA及びその治療用組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部尿路症状(LUTS)を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項2】
mRNAが、成長因子をコードする核酸配列を含む、請求項1に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項3】
mRNAが、インスリン様成長因子1(IGF1)をコードする核酸配列を含む、請求項1に記載のmRNA若しくはその治療用組成物又は使用。
【請求項4】
シグナルペプチドをコードする核酸配列、任意に、IGF1のプロペプチドをコードする核酸配列、及び成熟IGF1をコードする核酸配列を含む、請求項1に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項5】
シグナルペプチドをコードする核酸配列が、脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードする、請求項4に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項6】
mRNAが、脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードする核酸配列、ヒトIGF1のプロペプチドをコードする核酸配列、成熟ヒトIGF1をコードする核酸配列を含み、ヒトIGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない、請求項1に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項7】
mRNAが、配列番号8に示される核酸配列を含む、請求項1に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項8】
下部尿路症状(LUTS)が、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁、切迫性尿失禁、低活動膀胱、溢流性失禁及び骨盤臓器脱からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項9】
下部尿路症状(LUTS)が、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁及び切迫性尿失禁からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項10】
下部尿路症状(LUTS)が、腹圧性尿失禁(SUI)である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項11】
mRNAが、対象の尿道括約筋に投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項12】
mRNAが、筋肉内注射によって対象の尿道括約筋に投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのmRNA又は治療用組成物。
【請求項13】
げっ歯類における投与されたmRNAの治療効果が、mRNAの投与後9日以上持続する、請求項11又は12に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項14】
尿道括約筋におけるmRNAの濃度が、げっ歯類における投与後3日で、投与時の尿道括約筋におけるmRNAの濃度よりも10倍低く、mRNAの治療効果が9日以上持続する、請求項11又は12に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【請求項15】
治療効果が、膀胱漏出時圧を測定することによって評価され、mRNAの投与後4日及び9日に測定された膀胱漏出時圧と、mRNAが投与されたときに測定された膀胱漏出時圧との比が少なくとも1.1であることが、治療効果を示す、請求項13又は14に記載の使用のためのmRNA又はその治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部尿路症状(LUTS)を治療する方法において使用するためのmRNA及びその治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
下部尿路症状(LUTS、MeSHツリー番号:C23.888.942.343、MeSH固有ID:D059411)には、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫、不完全排尿及び尿失禁が含まれる。それらは、しばしば、腹圧性尿失禁(SUI)、切迫性尿失禁、混合性尿失禁、低活動膀胱、溢流性失禁及び骨盤臓器脱などの疾患に関連する。LUTSの治療選択肢は、生活様式の変化(例えば、減量、禁煙)、失禁パッド又はライナーの使用、及び理学療法(骨盤底運動、インサート又は骨盤底強化及び神経刺激製品の使用)などの保存的手法(これらはコンプライアンスが不良で有効性が限られている)、又は外科手術(尿道中間メッシュ及び非合成スリング手技又は膀胱頸部サスペンションスリング手技)及びコンチネンスを回復するための増量剤のイネクション(inection)などの(aush as)侵襲的手技(アウトカムが様々で、手技が失敗した場合に不可逆的な結果をもたらす)に限定されている(広範な説明については、Takahashiら、Clinical Guideline for Female Lower Urinary Tract Symptoms.Low Urin Tract Symptoms、2016 Jan;8(1):5-29を参照されたい)。したがって、LUTSを治療するために今日利用可能な有効かつ安全な薬学的療法がないため、尿道、尿道括約筋、及び膀胱の機能を回復させる療法に対する高いアンメット・メディカル・ニーズが存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA及びその治療用組成物、並びに下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を含むキットを提供する。本発明者らは、驚くべきことに、IGF1をコードするmRNAで処置した動物において、投与されたmRNAの下部尿路症状に関する治療効果が、mRNAの投与後9日以上持続し、尿路組織を変性から保護したことを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】同一であるCpd.1A及びCpd.1BのDNA及びRNA配列を示す。(A)は、BDNFプレドメイン(シグナル伝達ペプチド)並びにIGF1プロドメイン及びコードドメインを含むヒトコドン最適化IGF1のDNA配列(配列番号7)を示す。プレドメイン(シグナル伝達ペプチド)の配列を斜体で示し、プロドメインの配列に下線を付し、IGF1コードドメインを太字で示し、終止コドンを太字で示す。(B)は、BDNFプレ及びIGF1プロ及びコードドメインのRNA配列(配列番号8)を示し、ウリジンはN1-メチルプソイドウリジンである。プレドメイン及びプロドメインは、分泌時に切断される。
図2A図2A)は、太字でマークされたCpd.1Aインサートを有するベクターpMA-TのDNA配列(配列番号9)を示す。
図2B図2B)は、太字でマークされたCpd.1Bインサートを有するベクターpMKのDNA配列(配列番号10)を示す。
図3】i.m.損傷後のTA筋におけるCpd.1Aの薬物動態を示す。Cpd.1Aを1、3及び10μgの単一用量でTA筋に注射し、異なる時点でCpd.1A mRNAについて分析した筋肉試料。データは、注射後最大72時間にわたる筋肉内のCpd.1Aの関連する曝露を伴うTA筋におけるほぼ線形の組織分布を示す。データは、データ点あたり8回の反復の平均±SEMを表す。
図4】i.m.注射後のTA筋におけるCpd.1Aの半減期計算のために導出された単一指数関数曲線を示す。Cpd.1Aを3及び10μgの単一用量でTA筋に注射し、Cpd.1Aの低下の経時変化を分析した。17~21時間の半減期(両方の用量について)は、単一指数関数的な経時変化に続き、注射後最大72時間にわたるCpd.1Aの関連する曝露を確認する。データは、データ点あたり8回の反復の平均±SEMを表す。
図5】i.m.注射後のTA筋におけるCpd.1A mRNA(A:3μg用量、B:10μg用量)対IGF1タンパク質発現を示す。Cpd.1A mRNA及びIGF1タンパク質レベルを異なる時点後に評価した。データは、数時間の遅れの後、組織が、注射後最大72時間にわたって機能的に関連する濃度のIGF1タンパク質を産生し始めることを確認している。データは、データ点あたり8回の反復の平均±SEMを表す。
図6】i.m.注射後の尿道におけるCpd.1Bの薬物動態を示す。Cpd.1Bを30μgの単一用量として尿道組織に注射し、注射の24及び72時間後に分析した曝露。データは、最大72時間にわたるCpd.1B mRNAの有意な曝露を示す。データは、データ点あたり3回の反復の平均±SEMを表す。
図7】膣壁拡張後の膀胱の漏出時圧を示す。ラットを0日目に麻酔し、バルーンカテーテルによって誘導した膣壁拡張(VD)。VDの4時間後、単一用量としての尿道筋肉内へのCpd.1B又はビヒクル。ポジティブコントロールとして、デュロキセチンを実験全体にわたって毎日経口投与した。VD後4、9及び14日目に、尿失禁を定義する漏出時圧(LPP)についてラットを調べた。ビヒクル処置ラットは、4日目にLPPの減少を示し、9及び14日目までにVDなしで正常レベルへの完全な回復を示した(偽ビヒクル)。Cpd.1B処置ラットは、経時的にLPPの増加を示し、これは14日目までに正常レベルに戻った。デュロキセチンは、LPPの初期増加を示し、これはその後、14日目に正常レベルまで低下した。データは、IGF1媒介性の筋機能的にもたらされる経時的な持続的改善の再生機構を示唆しており、14日目の正常な機能レベルへの復帰は、IGF1媒介性の組織肥大がないことを示している。対照的に、デュロキセチンは、有効性の異なる経時変化を示し、初期応答は経時的に低下し、IGF1 mRNAは機構的にデュロキセチンと区別された。データは、時点及び群あたり10匹の動物の平均±SEMを表す。
図8】0~14日目のLPPの全経時変化にわたる膣壁拡張後の膀胱漏出時圧の曲線下面積(AUC)を示す。データは、Cpd.1B及びデュロキセチンの有益な有効性を裏付けている。データは、図7で分析された経時変化データの平均AUCを表す。
図9】膣壁拡張(VD)後4及び9日目の膀胱漏出時圧を示す。VDは4日目(A)にLPPを減少させるが、0日目のCpd.1B単回注射又はデュロキセチンによる毎日の処置の両方は、LPPを増加させた。9日目(B)に、VDビヒクル群ではLPPが正常レベルまで回復したが、Cpd.1B及びデュロキセチンは依然としてLPPの増加を示した。データは、群及び時点あたり10匹の動物の平均±SEMを表す。スチューデントのt検定によって評価した場合、VDビヒクルに対して*、p<0.05、**、p<0.01。
図10】マッソントリクローム染色後の尿道中央部の断面からの外輪走筋層(OCML)の組織学結果を示す。OMCLは、尿道を取り囲む骨格筋細胞の薄層からなる。正常条件下では、OMCL骨格筋細胞は、結合組織なしでよく組織化されている。VDは、OCML層のより高度の歪みに向かってOCMLスコアを増加させる傾向を示し、これはCpd.1Bによって逆転される効果である。対照的に、デュロキセチン処置は、OCMLの組織崩壊を悪化させる傾向がある。データは、OCMLにおける骨格筋の保存及び再生に対するCpd.1Bの有益な治療効果を示唆しているが、デュロキセチンにはそのような治療効果はないことを示唆している。データは、データ点あたり4回の反復の平均±SEMを表す。
図11】マッソントリクローム染色後の尿道中央部の断面からの内縦走筋層(ILML)の組織学結果を示す。ILMLは、尿道の内縁にある平滑筋細胞の層からなる。正常条件下では、OMCL骨格筋細胞は、結合組織のない線維束によく組織化されている。VDは、組織の歪み及び線維束の破壊の増加に向かってILMLスコアを増加させ、これはCpd.1Bによって逆転される効果である。対照的に、デュロキセチン処置はILMLスコアを悪化させ、平滑筋線維束のさらなる組織崩壊を示している。データは、平滑筋の保存及び再生に対するCpd.1Bの有益な治療効果を示唆しているが、デュロキセチンにはそのような治療効果はないことを示唆している。データは、データ点あたり4回の反復の平均±SEMを表す。
図12】マッソントリクローム染色後の尿道中央部の断面からの筋内膜組織の組織学結果を示す。染色により、(主にOCML及びILMLにおける)筋線維間のコラーゲン線維を含む結合組織の量を示すことができる。この筋内膜組織(又は筋内膜)は、正常条件下では高密度であり、VD後、びまん性に肥厚して骨格筋(OCML)及び平滑筋(ILML)層OCMLを中断し、最も極端な疾患段階では筋肉を結合組織によって局所的に置換する。より多量の結合組織及び筋肉の置換に向かう筋内膜スコアのVD増加、これはCpd.1Bによって逆転される効果である。対照的に、デュロキセチン処置は筋内膜スコアを悪化させ、したがって筋層の組織崩壊及び結合組織の浸潤を防止しない。データは、データ点あたり4回の反復の平均±SEMを表す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本明細書で使用される「RNA」という用語は、アミノ酸配列をコードするRNAを含む。通常、本明細書で使用されるRNAは、コードRNA、すなわちアミノ酸配列をコードするRNAである。そのようなRNA分子はmRNA(メッセンジャーRNA)とも呼ばれ、一本鎖RNA分子である。したがって、本明細書で使用される「RNA」という用語は、好ましくはmRNAを指す。RNAは、当業者に公知の合成化学的及び酵素的方法論によって、若しくは組換え技術の使用によって作製されてもよいか、又は天然源から単離されてもよいか、又はそれらの組み合わせによるものであってもよい。RNAは、任意に、非天然の及び天然に存在するヌクレオシド修飾、例えば本明細書でメチルプソイドウリジンとも呼ばれるN-メチルプソイドウリジンを含んでもよい。
【0006】
本明細書で使用される「mRNA」(すなわちメッセンジャーRNA)という用語は、ヌクレオシドとして主にアデノシン、シチジン、ウリジン及びグアノシンを有するヌクレオシドホスフェートビルディングブロックで構築され、タンパク質をコードするコード化領域を含むポリマーを指す。本発明の文脈において、mRNAは、細胞に入る場合、タンパク質若しくはその断片の発現に好適であるか、又はタンパク質若しくはその断片に翻訳可能な任意のポリリボヌクレオチド分子を意味すると理解されるべきである。タンパク質及びシグナルペプチドをコードする核酸配列を含む本発明のmRNAは、細胞に入る場合、前記タンパク質又はその断片の発現及び分泌を誘導するのに好適であるポリリボヌクレオチド分子を意味すると理解されるべきである。本発明のmRNAは、人工核酸分子、すなわち人工mRNAである。人工核酸分子、例えば人工mRNAは、典型的には、組換えmRNAのように天然には存在しない核酸分子であると理解されてもよい。組換えmRNAが本発明の好ましいmRNAである。mRNAは、特に下部尿路症状の治癒の文脈において、細胞内又は細胞の近傍でのその機能が通常必要とされるか又は有益であるタンパク質又はその断片をコードするリボヌクレオチド配列を含む。mRNAは、完全なタンパク質又はその機能的バリアントの配列を含んでもよい。したがって、完全なタンパク質のmRNAの核酸配列は、通常、シグナルペプチドをコードする核酸配列及びタンパク質をコードする核酸配列を含む。本発明のmRNAは、タンパク質をコードする核酸配列及びシグナルペプチドを含む。タンパク質をコードする核酸配列は、任意に、タンパク質のプロドメインを含んでもよく、このプロドメインは、通常、タンパク質のN末端に位置する。タンパク質及びシグナルペプチドは、通常、本発明のmRNAの核酸配列によって、5’から3’にかけて以下の順序でコードされる:i)シグナルペプチド及びii)タンパク質、すなわち、シグナルペプチドのコード化領域の最後のヌクレオシドの後に、タンパク質のコード化領域の最初のヌクレオシドが続くか、又はプロドメインを含むタンパク質の場合、タンパク質のプロタンパク質形態のコード化領域の最初のヌクレオシドが続く。リボヌクレオチド配列は、因子、誘導因子、制御因子、刺激因子若しくは酵素、又はその機能的断片として作用するタンパク質をコードすることができ、このタンパク質は通常、障害、特に下部尿路症状を治療するためにその機能が必要なタンパク質である。ここで、機能的バリアントは、細胞内でその機能が必要とされるタンパク質の機能を細胞内で担うことができる断片を意味すると理解される。さらに、mRNAは、さらなる機能的領域及び/又は3’若しくは5’非コード化領域も有してもよい。3’及び/又は5’非コード化領域は、タンパク質コード配列又は例えば5’末端のキャップ及び/若しくは3’末端のポリAテールのようなRNAの安定化に寄与する人工配列に天然に隣接する領域であり得る。当業者は、常套的な実験によって各場合においてこれに好適な配列を決定することができる。mRNA又はmRNAを転写するために使用されるDNAは、コドン最適化されてもよい。好ましくは、本発明のmRNAを転写するために本発明で使用されるDNA及び本発明のmRNAは、コドン最適化される。一般に、コドン最適化とは、目的の宿主細胞における発現のために、ネイティブアミノ酸配列を維持しながら、ネイティブ配列の少なくとも1つのコドン(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、20個、25個、50個、又はそれを超えるコドン)を、その宿主細胞の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンで置換することによって、核酸配列を改変する方法を指す。コドン使用頻度表は、例えば「コドン使用頻度データベース」で容易に入手可能であり、これらの表はいくつかの方法で適合させることができる。特定の宿主細胞における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピュータアルゴリズムも利用可能であり、例えばGene Forge(登録商標)(Aptagen、ペンシルベニア州)及びGeneOptimizer(登録商標)(ThermoFischer、マサチューセッツ州)が好ましい。
【0007】
本明細書で使用される「裸のRNA」という用語は、任意の種類の他の化合物、特にタンパク質、ペプチド、ポリマー、例えばカチオン性ポリマー、脂質、リポソーム、ウイルスベクターなどに複合体化していないRNAを指す。したがって、「裸のRNA」とは、RNAが、例えば、溶液中に分子的に分散している遊離した非複合体化形態で液体組成物中に存在することを意味する。例えば、「裸のRNA」が、例えばDreamFect(商標)Gold又は(分岐)PEIなどの脂質及び/又はポリマー担体システム(例えば、脂質ナノ粒子及びミセル)/トランスフェクション試薬と複合体化されることは想定されない。したがって、mRNAを含む組成物は、本発明の治療用組成物と同様に、例えばDreamFect(商標)Gold又は(分岐)PEIなどの脂質及び/又はポリマー担体システムトランスフェクション試薬を含有しない。
【0008】
「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、及び「ヌクレオチド酸配列」という用語は、本明細書では互換的に使用され、本明細書では同一の意味を有し、好ましくはDNA又はRNAを指す。「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、及び「ヌクレオチド酸配列」という用語は、好ましくは「ポリヌクレオチド配列」という用語と同義に使用される。好ましくは、核酸配列は、糖/ホスフェート骨格のホスホジエステル結合によって互いに共有結合しているヌクレオチドモノマーを含むか又はそれからなるポリマーである。「核酸配列」という用語はまた、修飾核酸配列、例えば塩基修飾、糖修飾又は骨格修飾などのDNA又はRNAを包含する。
【0009】
本明細書で使用される「開いた読み枠」という用語は、ペプチド又はタンパク質に翻訳される可能性があるいくつかのヌクレオチドトリプレットの配列を指す。開いた読み枠(ORF)は、好ましくは、その5’末端に開始コドン、すなわち通常はアミノ酸メチオニンをコードする3つの後続ヌクレオチドの組み合わせ(ATG)と、通常は3ヌクレオチドの倍数である長さを示す後続領域とを含む。ORFは、終止コドン(例えば、TAA、TAG、TGA)によって終結することが好ましい。典型的には、これは開いた読み枠の唯一の終止コドンである。したがって、本発明の文脈における開いた読み枠は、好ましくは、開始コドン(例えば、ATG)で始まり、好ましくは終止コドン(例えば、TAA、TGA、又はTAG)で終結する、3で割られる可能性があるいくつかのヌクレオチドからなる核酸配列である。開いた読み枠は、単離されてもよく、又はより長い核酸配列、例えばベクター若しくはmRNAに組み込まれてもよい。開いた読み枠はまた、「(タンパク質)コード化領域」又は、好ましくは「コード配列」と呼ばれる場合がある。
【0010】
本明細書でシグナル伝達ペプチド、プレドメイン、シグナル配列、標的化シグナル、局在化シグナル、局在化配列、輸送ペプチド、リーダー配列又はリーダーペプチドとも呼ばれる「シグナルペプチド」という用語は、分泌経路に向かう新しく合成されたタンパク質のN末端に存在する短いペプチド(通常16~40アミノ酸長)である。本発明のシグナルペプチドは、好ましくは10~50、より好ましくは11~45、さらにより好ましくは12~45、最も好ましくは13~45、特に14~45、より特に15~45、さらにより特に16~40アミノ酸長である。本発明によるシグナルペプチドは、目的のタンパク質のN末端又は目的のタンパク質のプロタンパク質形態のN末端に位置する。本発明によるシグナルペプチドは、通常、真核生物起源のもの、例えば真核生物タンパク質のシグナルペプチド、好ましくは哺乳動物起源のもの、例えば哺乳動物タンパク質のシグナルペプチド、より好ましくはヒト起源のもの、例えば哺乳動物タンパク質のシグナルペプチドである。いくつかの実施形態では、改変される異種シグナルペプチド及び/又は相同シグナルペプチドは、真核生物タンパク質の天然に存在するシグナルペプチド、好ましくは哺乳動物タンパク質の天然に存在するシグナルペプチド、より好ましくはヒトタンパク質の天然に存在するシグナルペプチドである。
【0011】
本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、典型的には1つ以上のペプチド又はポリペプチドを含む分子を指す。ペプチド又はポリペプチドは、典型的には、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の鎖である。ペプチドは、通常、2~50個のアミノ酸残基を含む。ポリペプチドは、通常、50個を超えるアミノ酸残基を含む。タンパク質は、典型的には、タンパク質がその生物学的機能を発揮するために必要とされる場合がある三次元形態に折り畳まれる。本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、タンパク質及び融合タンパク質の断片を含む。好ましくは、タンパク質は、哺乳動物のものであり、より好ましくはヒト起源のものであり、すなわちヒトタンパク質である。好ましくは、タンパク質は、通常は細胞から分泌されるタンパク質、すなわち天然に細胞から分泌されるタンパク質である。本明細書で言及されるタンパク質は、好ましくは成長因子である。成長因子は、細胞の成長、増殖、治癒、及び細胞分化を刺激することができる分泌タンパク質であり、それらの表面上の受容体を介して標的細胞シグナル伝達のモジュレーターとして局所的又は全身的のいずれかで作用し、しばしば栄養反応及び生存又は細胞ホメオスタシスシグナル伝達に関与する。本明細書で言及される成長因子は、UniProtデータベースに見出すことができる。
【0012】
本明細書において同一の意味を有する「断片」又は「配列の断片」という用語は、例えばDNA若しくはRNAのような核酸分子又はタンパク質の全長配列のより短い部分である。したがって、断片は、典型的には、全長配列内の対応するストレッチと同一の配列を含むか又はそれからなる。本発明の文脈における配列の好ましい断片は、断片が由来する分子中の実体の連続ストレッチに対応するヌクレオチド又はアミノ酸などの実体の連続ストレッチを含むか又はそれからなり、これは、断片が由来する全(すなわち全長)分子の少なくとも5%、通常は少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも80%を表す。
【0013】
本明細書で使用される「前記タンパク質に対して異種のシグナルペプチド」という用語は、タンパク質の天然に存在するシグナルペプチドとは異なる天然に存在するシグナルペプチドを指し、すなわち、シグナルペプチドはタンパク質の同じ遺伝子に由来しない。通常、所与のタンパク質に対して異種のシグナルペプチドは、所与のタンパク質に関連しない、すなわち所与のタンパク質のシグナルペプチドとは異なるアミノ酸配列を有する、例えば所与のタンパク質のシグナルペプチドと50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超、さらにより好ましくは80%超、最も好ましくは90%超、特に95%超異なるアミノ酸配列を有する別のタンパク質からのシグナルペプチドである。好ましくは、所与のタンパク質に対して異種のシグナルペプチドは、所与のタンパク質の天然に存在する(相同な)シグナルペプチドのアミノ酸配列と95%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは80%未満、さらにより好ましくは70%未満、最も好ましくは60%未満、特に50%未満の配列同一性を有する。異種配列は同じ生物体から誘導可能である場合があるが、それらは同じ核酸分子、例えば同じmRNAには天然に(naturally)(天然に(in nature))存在しない。タンパク質に対して異種のシグナルペプチド及びシグナルペプチドが異種であるタンパク質は、同じ又は異なる起源のものであり得、通常は同じ起源のもの、好ましくは真核生物起源のもの、より好ましくは同じ真核生物生物体の真核生物起源のもの、さらにより好ましくは哺乳動物起源のもの、特に同じ哺乳動物生物体の哺乳動物起源のもの、より特にヒト起源のものである。実施例1では、ヒトBDNFシグナルペプチド及びヒトIGF1、すなわち、シグナルペプチド及びタンパク質が同じ起源、すなわちヒト起源のものであるタンパク質に対して異種のシグナルペプチドをコードする核酸配列を含むmRNAが開示される。
【0014】
本明細書で使用される「前記タンパク質に相同なシグナルペプチド」という用語は、タンパク質の天然に存在するシグナルペプチドを指す。タンパク質に相同なシグナルペプチドは、天然に存在するためにタンパク質の遺伝子によってコードされるシグナルペプチドである。タンパク質に相同なシグナルペプチドは、通常、真核生物起源のもの、例えば真核生物タンパク質の天然に存在するシグナルペプチド、好ましくは哺乳動物起源のもの、例えば哺乳動物タンパク質の天然に存在するシグナルペプチド、より好ましくはヒト起源のもの、例えばヒトタンパク質の天然に存在するシグナルペプチドである。
【0015】
本明細書で使用される「天然にシグナルペプチドの機能を有しない天然に存在するアミノ酸配列」という用語は、天然に存在し、天然に存在する任意のシグナルペプチドのアミノ酸配列と同一ではないアミノ酸配列を指す。本発明で言及される天然にシグナルペプチドの機能を有しない天然に存在するアミノ酸配列は、好ましくは10~50、より好ましくは11~45、さらにより好ましくは12~45、最も好ましくは13~45、特に14~45、より特に15~45、さらにより特に16~40アミノ酸長である。好ましくは、本発明の天然にシグナルペプチドの機能を有しない天然に存在するアミノ酸配列は、真核生物起源のものであり、真核生物起源のいかなるシグナルペプチドとも同一ではなく、より好ましくは哺乳動物起源のものであり、哺乳動物起源のいかなるシグナルペプチドとも同一ではなく、より好ましくはヒト起源のものであり、天然に存在するヒト起源のいかなるシグナルペプチドとも同一ではない。天然にシグナルペプチドの機能を有しない天然に存在するアミノ酸配列は、通常、タンパク質のコード配列のアミノ酸配列である。本発明による天然にシグナルペプチドの機能を有しない天然に存在するアミノ酸配列は、通常、真核生物起源、好ましくは哺乳動物起源、より好ましくはヒト起源のものである。
【0016】
本明細書で使用される「天然に存在する」、「天然の」及び「天然に」という用語は、同等の意味を有する。
【0017】
本明細書で使用される「シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9」という用語は、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端の最初の9個のアミノ酸を指す。
【0018】
本明細書で使用される「少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって改変されたアミノ酸配列」という用語は、アミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を含むアミノ酸配列を指す。本明細書で使用される「前記タンパク質に対して異種のシグナルペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって改変される」という用語は、その天然に存在するアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を含む、タンパク質に対して異種の天然に存在するシグナルペプチドのアミノ酸配列を指す。本明細書で使用される「前記タンパク質に相同なシグナルペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって改変される」という用語は、その天然に存在するアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を含む、タンパク質に相同な天然の存在するシグナルペプチドを指す。「天然に存在するアミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって改変される」という用語は、その天然に存在するアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を含む天然に存在するアミノ酸配列を指す。本明細書において「アミノ酸置換」又は「置換」とは、親タンパク質配列の特定の位置のアミノ酸を別のアミノ酸で置換することを意味する。例えば、置換R34Kは、34位のアルギニンがリジンで置換されているポリペプチドを指す。前述の例では、34Kは34位のリジンによる置換を示す。本明細書の目的のために、複数の置換は、典型的には、スラッシュによって分けられる。例えば、R34K/L78Vは、置換R34K及びL38Vを含む二重バリアントを指す。本明細書で使用される「アミノ酸挿入」又は「挿入」とは、親タンパク質配列の特定の位置におけるアミノ酸の付加を意味する。例えば、インサート-34は、34位における挿入を示す。本明細書で使用される「アミノ酸欠失」又は「欠失」とは、親タンパク質配列の特定の位置におけるアミノ酸の除去を意味する。例えば、R34-は、34位におけるアルギニンの欠失を示す。
【0019】
本明細書で使用される「インスリン様成長因子1」、「インスリン様成長因子1(IGF1)」又は「IGF1」という用語は、通常、シグナル伝達ペプチドを含まないIGF1タンパク質の天然配列を指し、プロペプチド及び/又はEペプチドを含んでもよく、好ましくは、シグナル伝達ペプチドを含まず、Eペプチドを含まないIGF1タンパク質の天然配列を指す。本明細書で使用される「ヒトインスリン様成長因子1(IGF1)」という用語は、ヒトIGF1(UniprotデータベースではUniProtKB-P05019、GenbankデータベースではNM_000618.4、NM_001111285.2及びNM_001111283.2と呼ばれるプロIGF1の天然配列、又はその断片を指す。ヒトインスリン様成長因子1をコードする天然のDNA配列は、コドン最適化されてもよい。ヒトIGF1の天然配列は、21個のアミノ酸(ヌクレオチド1~63)を有するヒトシグナル伝達ペプチド、27個のアミノ酸(ヌクレオチド64~144)を有するヒトプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)、70個のアミノ酸(ヌクレオチド145~354)を有する成熟ヒトIGF1、及びいわゆるEペプチド(又はEドメイン)であるヒトIGF1のC末端ドメインを含むか又はそれらからなる。ヒトIGF1のC末端ドメイン(いわゆるEペプチド又はEドメイン)は、選択的スプライシング事象によって生成されるEa、Eb又はEcドメインを含む。Eaドメインは35個のアミノ酸(105個のヌクレオチド)を含むか又はこれからなり、Ebドメインは77個のアミノ酸(231個のヌクレオチド)を含むか又はこれからなり、Ecドメインは40個のアミノ酸(120個のヌクレオチド)を含むか又はこれからなる(例えば、Wallis M(2009)New insulin-like growth factor(IGF)-precursor sequences from mammalian genomes:the molecular evolution of IGFs and associated peptides in primates.Growth Horm IGF Res 19(1):12-23.doi:10.1016/j.ghir.2008.05.001を参照されたい)。本明細書で使用される「ヒトインスリン様成長因子1(IGF)」という用語は、通常、シグナル伝達ペプチドを含まないヒトIGF1タンパク質の天然配列を指し、プロペプチド及び/又はEペプチドを含んでもよく、好ましくは、シグナル伝達ペプチドを含まず、Eペプチドを含まないヒトIGF1タンパク質の天然配列を指す。本明細書で使用される「ヒトインスリン様成長因子1(IGF)」という用語は、通常、成熟ヒトIGF1を含む。「成熟タンパク質」という用語は、タンパク質を発現及び分泌する細胞において小胞体で合成され、ゴルジ装置を介して分泌されるタンパク質を指す。「成熟IGF1」という用語は、IGF1を発現及び分泌する細胞において小胞体で合成され、ゴルジ装置を介して分泌されるタンパク質を指す。「成熟ヒトIGFI」という用語は、ヒトIGF1を発現及び分泌するヒト細胞において小胞体で合成され、ゴルジ装置を介して分泌されるタンパク質を指し、通常、配列番号2に示されるヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸を含む。
【0020】
本明細書で使用される「mRNAは、IGF1のプロペプチドをコードする核酸配列、及び成熟IGF1をコードする核酸配列を含み、IGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない」という用語は、通常、27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列、及び70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド配列を含み、ヒトIGF1のEペプチド(Eドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列を含まない、すなわち、Ea、Eb又はEcドメインをコードするヌクレオチド配列を含まないmRNAを指す。27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列、及び70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド配列は、コドン最適化されてもよい。
【0021】
本明細書で使用される「ベクター」又は「発現ベクター」という用語は、細胞内の核酸の取込み、増殖、発現又は伝達のための天然に存在する又は合成的に生成されたコンストラクト、例えばプラスミド、ミニサークル、ファージミド、コスミド、人工染色体/ミニ染色体、バクテリオファージ、ウイルス、例えばバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、バクテリオファージを指す。ベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれ得るか、又は宿主細胞内で自律複製コンストラクトとして残り得る。ベクターを構築するために使用される方法は、当業者に周知であり、様々な刊行物に記載されている。特に、プロモーター、エンハンサー、終結及びポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製開始点、及びスプライシングシグナルなどの機能的及び制御的成分の説明を含む、好適なベクターを構築するための特定の技術は、当業者に公知である。真核生物発現ベクターは、典型的には、真核細胞のトランスフェクション前に除去される可能性がある細菌における選択のための複製開始点及び抗生物質耐性遺伝子などの細菌におけるベクターの増殖を促進する原核生物配列も含むであろう。ポリヌクレオチドを動作可能に連結することができるクローニング部位を含む様々な真核生物発現ベクターは当技術分野で周知であり、いくつかは、Agilent Technologies、サンタクララ、カリフォルニア州;Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州;Promega、マディソン、ウィスコンシン州又はInvivogen、サンディエゴ、カリフォルニア州などの会社から市販されている。
【0022】
本明細書で使用される「遺伝子治療ベクター」という用語は、核酸配列、例えば遺伝子をコードする核酸配列を細胞に送達するために使用されている任意のベクターを指す。遺伝子治療ベクター及び遺伝子送達方法は、当技術分野で周知である。これらの方法の非限定的な例としては、細胞への送達後にエピソームゲノム又は組み込まれたゲノムのいずれかを有するDNA及びRNAウイルスを含むウイルスベクター送達システム、DNAプラスミド、裸の核酸、及び送達ビヒクルと複合体化した核酸を含む非ウイルスベクター送達システム、トランスポゾンシステム(宿主ゲノムへの送達及び組込みのため;Moriarityら(2013)Nucleic Acids Res 41(8)、e92、Aronovichら(2011)Hum.Mol.Genet.20(R1)、R14-R20)、レトロウイルス媒介DNA移入(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、レトロウイルス、例えばラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、及び乳房腫瘍ウイルス;例えば、Kayら(1993)Science 262、117-119、Anderson(1992)Science 256、808-813を参照されたい)、並びにアデノウイルス、ヘルペスウイルス、パルボウイルス及びアデノ随伴ウイルスを含むDNAウイルス媒介DNA移入(例えば、Aliら(1994)Gene Therapy 1、367-384)が挙げられる。ウイルスベクターには、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、及び単純ヘルペスウイルスベクターも含まれるが、これらに限定されない。宿主ゲノムへの組込みが可能なベクターには、レトロウイルス又はレンチウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書で使用される「転写単位」、「発現単位」又は「発現カセット」という用語は、転写される1つ以上の遺伝子を含むベクター、コンストラクト又はポリヌクレオチド配列内の領域を指し、セグメント内に含まれる遺伝子は互いに動作可能に連結されている。それらは単一のプロモーターから転写され、転写は少なくとも1つのポリアデニル化シグナルによって終結する。結果として、異なる遺伝子は少なくとも転写的に連結されている。2つ以上のタンパク質又は産物が、各転写単位(マルチシストロニック転写単位)から転写及び発現され得る。各転写単位は、単位内に含まれる選択された配列のいずれかの転写及び翻訳に必要な制御エレメントを含むことになり、各転写単位は、同じ又は異なる制御エレメントを含んでもよい。例えば、各転写単位は、同じターミネーターを含んでもよい。IRESエレメント又はイントロンは、転写単位内の遺伝子の機能的連結のために使用されてもよい。ベクター又はポリヌクレオチド配列は、2つ以上の転写単位を含んでもよい。
【0024】
本明細書で使用される「平滑筋関連疾患」という用語は、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁、切迫性尿失禁、低活動膀胱、及び溢流性失禁などの疾患又は状態を指す。
【0025】
本明細書で使用される「LUTS」と略される「下部尿路症状」という用語は、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫、不完全排尿及び尿失禁を指し、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁、切迫性尿失禁、低活動膀胱、溢流性失禁及び骨盤臓器脱などの疾患又は状態を含む。
【0026】
腹圧性失禁又は努力性失禁(effort incontinence)、及び本明細書で同義的に使用されるその略語「SUI」としても知られる「腹圧性尿失禁」という用語は、咳、笑い、くしゃみ、運動又は腹腔内圧を増加させ、したがって膀胱への圧力を増加させる他の動作に関連する尿の損失を指す。これは、外部(横紋筋)及び内部(平滑筋)の尿道括約筋による膀胱出口の閉鎖が不十分であることに起因する。何らかの原因でこの支持が不十分であると、腹圧上昇時に尿道が適切に閉鎖できず、尿が不本意に通過してしまう。腹圧性尿失禁は、本発明の方法で治療される最も好ましい下部尿路症状である。
【0027】
本明細書で同義的に使用される「混合性失禁」としても知られる「混合性尿失禁」という用語は、腹圧性失禁と切迫性失禁との組み合わせを指し、両方の症状を共有する。切迫性失禁が膀胱筋肉の不随意運動によって引き起こされる場合。これらは、膀胱の神経、神経系、又は筋肉自体の損傷が原因で生じる場合がある。混合性尿失禁は、本発明の方法で治療される2番目に好ましい下部尿路症状である。
【0028】
本明細書で使用される「切迫性尿失禁」という用語は、尿道の括約筋を超える異常な膀胱収縮による尿の損失を指す。これらは、中枢神経系障害(例えば、アルツハイマー病、多発性硬化症、及びパーキンソン病など)、間質性膀胱炎、尿路感染、又は骨盤照射の結果として生じる場合がある。切迫性尿失禁は、本発明の方法で治療される3番目に好ましい下部尿路症状である。
【0029】
膀胱低活動及び排尿筋(平滑筋)低活動、並びに本明細書で同義的に使用される略語UABとしても知られる「低活動膀胱」という用語は、流れを開始するための排尿躊躇、乏しい若しくは断続的な流れ、又は不完全な膀胱排出の感覚などの、膀胱排出困難を指す。低活動膀胱は、本発明の方法で治療される4番目に好ましい下部尿路症状である。
【0030】
本明細書で使用される「溢流性失禁」という用語は、しばしば尿意切迫がない状態で、過剰に満たされた膀胱からの尿の不随意放出を特徴とする尿失禁の形態を指す。この状態は、膀胱出口が閉塞している人において、又は膀胱から尿を排出する排尿筋(destrusor muscle)(平滑筋)が弱く、膀胱を正常に空にすることができない場合に生じる。溢流性失禁は、本発明の方法で治療される5番目に(fith most)好ましい下部尿路症状である。
【0031】
本明細書で使用される「骨盤臓器脱」「POP」と略される)という用語は、骨盤臓器がその正常な位置から下降することを特徴とする下部尿路症状を指す。女性では、この状態は通常、婦人科がん治療、出産又は重労働後に骨盤底が崩壊するときに生じる。POPは、骨盤底筋(横紋筋)の筋肉、筋膜、腱及び結合組織が弱まるときに生じる。POPは、本発明の方法で治療される6番目に好ましい下部尿路症状である。
【0032】
第1の態様では、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供する。本発明はまた、下部尿路症状を治療するためのmRNA又はその治療用組成物の使用を提供する。本発明はまた、対象における下部尿路症状を治療するための医薬を製造するためのmRNA又はその治療用組成物の使用を提供する。本発明はまた、対象における下部尿路症状を治療する方法であって、mRNA又はその治療用組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。本発明はまた、平滑筋関連疾患を治療する方法において使用するための本明細書に記載のmRNA又はその治療用組成物を提供する。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供し、下部尿路症状は、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁、切迫性尿失禁、低活動膀胱、溢流性失禁及び骨盤臓器脱からなる群から選択される。より好ましい実施形態では、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供し、下部尿路症状は、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁、切迫性尿失禁、低活動膀胱及び溢流性失禁からなる群から選択される。
【0034】
さらにより好ましい実施形態では、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供し、下部尿路症状は、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁、切迫性尿失禁及び低活動膀胱からなる群から選択される。
【0035】
特定の好ましい実施形態では、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供し、下部尿路症状は、腹圧性尿失禁(SUI)、混合性尿失禁及び切迫性尿失禁からなる群から選択される。
【0036】
より特定の好ましい実施形態では、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供し、下部尿路症状は、腹圧性尿失禁(SUI)及び混合性尿失禁からなる群から選択される。
【0037】
さらにより特定の好ましい実施形態では、本発明は、腹圧性尿失禁(SUI)を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供する。
【0038】
一実施形態では、mRNAは、成長因子をコードする核酸配列を含む。
【0039】
一実施形態では、mRNAは、インスリン様成長因子1(IGF1)をコードする核酸配列を含む。
【0040】
一実施形態では、mRNAは、タンパク質をコードする核酸配列を含み、タンパク質は、成長因子及びシグナルペプチドをコードする核酸配列である。したがって、一実施形態では、mRNAは、シグナルペプチドをコードする核酸配列及び成長因子をコードする核酸配列を含む。本発明の好ましい実施形態では、脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドが、タンパク質の天然シグナルペプチドに置き換わる。
【0041】
一実施形態では、mRNAは、シグナルペプチドをコードする核酸配列及びインスリン様成長因子1(IGF1)をコードする核酸配列を含む。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、成長因子は、EGF、FGF1、GDNF、IGF1、IGF2、NTF3、TGFB1からなる群から選択され、より好ましくはIGF1及びIGF2からなる群から選択される。最も特に、タンパク質は、IGF1、好ましくはヒトIGF1である。
【0043】
いくつかの実施形態では、mRNAは、成長因子をコードする核酸配列及びシグナルペプチドをコードする核酸配列を含むmRNAであり、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9は、2を超える平均疎水性スコアを有する。
【0044】
いくつかの実施形態では、mRNAは、成長因子をコードする核酸配列及びシグナルペプチドをコードする核酸配列を含むmRNAであり、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9は、2を超える平均疎水性スコアを有し、シグナルペプチドは、
i)前記タンパク質に対して異種のシグナルペプチドであって、前記タンパク質に対して異種のシグナルペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって任意に改変される、前記タンパク質に対して異種のシグナルペプチド、
ii)前記タンパク質に相同なシグナルペプチドであって、前記タンパク質に相同なシグナルペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって改変される、前記タンパク質に相同なシグナルペプチド、並びに
iii)天然にシグナルペプチドの機能を有しない天然に存在するアミノ酸配列であって、天然に存在するアミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失及び/又は置換によって任意に改変される、天然に存在するアミノ酸配列
からなる群から選択される。
【0045】
好ましくは、欠失されたアミノ酸は、-0.8未満、好ましくは1.9未満の疎水性スコアを有するアミノ酸である。好ましくは、置換アミノ酸は、置換されたアミノ酸の疎水性スコアよりも高い疎水性スコアを有するアミノ酸であり、より好ましくは置換アミノ酸は2.8以上の疎水性スコアを有する、又はより好ましくは3.8以上の疎水性スコアを有するアミノ酸である。好ましくは、挿入されたアミノ酸は、2.8以上の疎水性スコアを有する、又はより好ましくは3.8以上の疎水性スコアを有するアミノ酸である。
【0046】
通常、所与のアミノ酸配列中の1~15個、好ましくは1~11個のアミノ酸、より好ましくは1~10個のアミノ酸、さらにより好ましくは1~9個のアミノ酸、特に1~8個のアミノ酸、より特に1~7個のアミノ酸、さらにより特に1~6個のアミノ酸、特に好ましくは1~5個のアミノ酸、より特に好ましくは1~4個のアミノ酸、又はさらにより特に好ましくは1~2個のアミノ酸が、挿入、欠失、及び/又は置換される。通常、所与のアミノ酸配列中の1~15個、好ましくは1~11個のアミノ酸、より好ましくは1~10個のアミノ酸、さらにより好ましくは1~9個のアミノ酸、特に1~8個のアミノ酸、より特に1~7個のアミノ酸、さらにより特に1~6個のアミノ酸、特に好ましくは1~5個のアミノ酸、より特に好ましくは1~4個のアミノ酸、又はさらにより特に好ましくは1~2個のアミノ酸が、通常、標的モチーフ又はシグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~11内、好ましくはアミノ酸1~10内、より好ましくはアミノ酸1~9内、さらにより好ましくはアミノ酸1~8内、特にアミノ酸1~7内、より特にアミノ酸1~6内、さらにより特にアミノ酸1~5内、特に好ましくはアミノ酸1~4内、より特に好ましくはアミノ酸1~3内、又はさらにより特に好ましくはアミノ酸1~2内に挿入、欠失、及び/又は置換される。好ましくは、アミノ酸配列は、任意に、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、及び/又は置換によって改変される。
【0047】
「疎水性スコア(hydrophobic score)」又は「疎水性スコア(hydrophobicity score)」という用語は、本明細書では「ハイドロパシースコア」という用語と同義的に使用され、Kyte-Doolittleスケール(Kyte J.、Doolittle R.F.;J.Mol.Biol.157:105-132(1982))に従って計算されたアミノ酸の疎水性の程度を指す。Kyte-Doolittleスケールによるアミノ酸疎水性スコアは、以下の通りである。
【0048】
アミノ酸配列の「平均疎水性スコア」、例えばシグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9の平均疎水性スコアは、アミノ酸配列のアミノ酸のそれぞれのKyte-Doolittleスケールによる疎水性スコア、例えばN末端のアミノ酸1~9の9個のアミノ酸のそれぞれの疎水性スコアをアミノ酸の数で割ったもの、例えば9で割ったものを加算することによって計算される。
【0049】
本発明の一実施形態では、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9は、2.05以上、好ましくは2.1以上、より好ましくは2.15以上、さらにより好ましくは2.2以上、特に2.25以上、より特に2.3以上、さらにより特に2.35以上の平均疎水性スコアを有する。さらなる実施形態では、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9は、2.05~4.5、好ましくは2.1~4.5、より好ましくは2.15~4.5、さらにより好ましくは2.2~4.5、特に2.25~4.5、より特に2.3~4.5、さらにより特に2.35~4.5の平均疎水性スコアを有する。さらなる実施形態では、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9は、2.05~4.0、好ましくは2.1~4.0、より好ましくは2.15~4.0、さらにより好ましくは2.2~4.0、特に2.25~4.0、より特に2.3~4.0、さらにより特に2.35~4.0の平均疎水性スコアを有する。
【0050】
本発明の一実施形態では、シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9は、6.1以下の平均極性、好ましくは6.1未満の平均極性、より好ましくは4未満の平均極性、さらにより好ましくは2未満の平均極性、特に6.1~0の平均極性、より特に4~0の平均極性、さらにより特に2~0.の平均極性、最も特に1~0.2の平均極性を有する。好ましくは、改変シグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端の最初の9個のアミノ酸の平均疎水性スコアは、改変されていないシグナルペプチドと比較して1.0単位以上増加している。
【0051】
極性は、Zimmerman極性指数(Zimmerman J.M.、Eliezer N.、Simha R.;J.Theor.Biol.21:170-201(1968))に従って計算される。アミノ酸配列の「平均極性」、例えばシグナルペプチドのアミノ酸配列のN末端のアミノ酸1~9の平均極性は、アミノ酸配列のアミノ酸のそれぞれのZimmerman極性指数に従って計算された極性値、例えばN末端のアミノ酸1~9の9個のアミノ酸のそれぞれの平均極性をアミノ酸の数で割ったもの、例えば9で割ったものを加算することによって計算される。Zimmerman極性指数によるアミノ酸の極性は、以下の通りである。
【0052】
本発明のシグナルペプチドのアミノ酸配列の上記平均疎水性スコア又は平均極性は、Gasteiger E.ら(Gasteiger E.、Hoogland C.、Gattiker A.、Duvaud S.、Wilkins M.R.、Appel R.D.、Bairoch A.;Protein Identification and Analysis Tools on the ExPASy Server;(In)John M.Walker(編):The Proteomics Protocols Handbook、Humana Press(2005).第571~607頁)で言及されている公的に入手可能なオンラインデータベースProtScale(http://www.expasy.org/tools/protscale.html)を使用して、Kyte&Doolittleスケールの疎水性(「Hphob./Kyte&Doolittle」)又はZimmermanスケールの極性(「極性/Zimmerman」)を選択し、シグナルペプチドの特定のウィンドウサイズ(例えば、9アミノ酸のウィンドウサイズ)に対応する設定で、ウィンドウエッジ相対重量値を100%に設定し、スケール正規化なしで計算することができる。それぞれの数値データは、結果ページの「数値形式(詳細)」のリンクを開くことによって取得できる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、シグナルペプチドは、脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチド、より好ましくはヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチド、さらにより好ましくは配列番号3に示されるシグナルペプチド、特に配列番号4に示される核酸配列によってコードされるヒトBDNFのシグナルペプチドである
【0054】
したがって、本発明は、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのmRNA又はその治療用組成物を提供し、mRNAは、成長因子をコードする核酸配列及び脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0055】
本発明の一実施形態では、mRNAは、裸のmRNAである。好ましい実施形態では、mRNAは、特に翻訳を改善するために、抗逆CAPアナログ、例えばm7G(5’)G、m7GpppGキャップ、内部リボソーム進入部位(IRES)及び/又は3’末端のポリAテールを含む。mRNAは、当業者に公知の翻訳を促進するさらなる領域を有し得る。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、mRNAは、修飾ヌクレオチドと非修飾ヌクレオチドとの組み合わせを含む。より好ましい実施形態では、そのような修飾mRNAにおいて、ウリジンヌクレオチドの1~100%、好ましくは10~100%、より好ましくは50~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは100%が修飾されている。アデノシン含有ヌクレオチド、グアノシン含有ヌクレオチド、及びシチジン含有ヌクレオチドは、非修飾であり得るか又は部分的に修飾され得、それらは好ましくは非修飾形態で存在する。好ましくは、mRNA中の修飾ウリジンヌクレオチドの含有量は、5~25%の範囲にある。本発明の特に好ましい実施形態では、修飾ウリジンヌクレオチドは、N-メチルプソイドウリジンである。本発明のより特に好ましい実施形態では、mRNAは、修飾ヌクレオチドと非修飾ヌクレオチドとの組み合わせを含み、そのような修飾mRNAにおいて、ウリジンヌクレオチドの1~100%、好ましくは10~100%、より好ましくは50~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは100%がN-メチルプソイドウリジンである。
【0057】
本発明のより好ましい実施形態では、mRNAは、コドン最適化され、修飾ヌクレオチドと非修飾ヌクレオチドとの組み合わせを含むmRNAである。より好ましい実施形態では、そのような修飾mRNAにおいて、ウリジンヌクレオチドの1~100%、好ましくは10~100%、より好ましくは50~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは100%が修飾されている。アデノシン含有ヌクレオチド、グアノシン含有ヌクレオチド、及びシチジン含有ヌクレオチドは、非修飾であり得るか又は部分的に修飾され得、それらは好ましくは非修飾形態で存在する。好ましくは、mRNA中の修飾ウリジンヌクレオチドの含有量は、5~25%の範囲にある。本発明の特に好ましい実施形態では、修飾ウリジンヌクレオチドは、N-メチルプソイドウリジンである。本発明のより特に好ましい実施形態では、RNAは、修飾ヌクレオチドと非修飾ヌクレオチドとの組み合わせを含むmRNAであり、そのような修飾mRNAにおいて、ウリジンヌクレオチドの1~100%、好ましくは10~100%、より好ましくは50~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは100%がN-メチルプソイドウリジンである。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、mRNAは、タンパク質としてヒトインスリン様成長因子1(IGF1)をコードする核酸配列を含み、より好ましくは、mRNAは、タンパク質としてヒトインスリン様成長因子1(IGF1)をコードする核酸配列を含む裸のmRNAである。本発明のこの好ましい実施形態では、mRNAは、成熟ヒトIGF-1をコードする核酸配列を含む。
【0059】
本発明のより好ましい実施形態では、mRNAは、IGF1のプロペプチド、好ましくはヒトIGF1のプロペプチドをコードする核酸配列、及びIGF1の成熟タンパク質、好ましくはヒトIGF1の成熟タンパク質をコードする核酸配列を含み、IGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まず、好ましくはヒトIGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない。
【0060】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、mRNAは、IGF1のプロペプチド、好ましくはヒトIGF1のプロペプチドをコードする核酸配列、IGF1の成熟タンパク質、好ましくはヒトIGF1の成熟タンパク質をコードする核酸配列を含む。好ましくは、mRNAは、IGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まず、より好ましくはヒトIGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない。本発明のさらにより好ましい実施形態では、mRNAは、IGF1のプロペプチド、好ましくはヒトIGF1のプロペプチドをコードする核酸配列、IGF1の成熟タンパク質、好ましくはヒトIGF1の成熟タンパク質をコードする核酸配列、及び脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードする核酸配列を含む。好ましくは、mRNAは、IGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まず、より好ましくはヒトIGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない。
【0061】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、mRNAは、IGF1、好ましくは27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド酸配列、及び成熟IGF1、好ましくは70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド配列を含み、好ましくはIGF1のEペプチドをコードするヌクレオチド配列を含まず、好ましくはヒトIGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない。
【0062】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、mRNAは、IGF1、好ましくは27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド酸配列、成熟IGF1、好ましくは70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド配列、及び脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードする核酸配列を含む。好ましくは、mRNAは、IGF1のEペプチドをコードするヌクレオチド配列を含まず、より好ましくはヒトIGF1のEペプチドをコードする核酸配列を含まない。
【0063】
本発明の特定の好ましい実施形態では、mRNAは、27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードする核酸配列、及び70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド酸配列を含み、好ましくはヒトIGF1のEペプチド(Eドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列を含まず、27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列、70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド配列、及びEペプチドをコードするヌクレオチド配列は、UniprotデータベースにおいてUniProtKB-P05019と呼ばれ、GenbankデータベースにおいてそれぞれNM_000618.4、NM_001111285.2及びNM_001111283.2と呼ばれる。
【0064】
本発明のさらにより特定の好ましい実施形態では、mRNAは、配列番号1に示される27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードする核酸配列及び配列番号2に示される70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド酸配列を含み、好ましくはヒトIGF1のEペプチド(Eドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列を含まない。
【0065】
本発明のさらにより特定の好ましい実施形態では、mRNAは、配列番号1に示される27個のアミノ酸を有するヒトIGF1のプロペプチド(プロドメインとも呼ばれる)をコードする核酸配列、配列番号2に示される70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1をコードするヌクレオチド酸配列、及び脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードする核酸配列、好ましくは配列番号4に示される脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチドをコードするヌクレオチド酸配列を含む。好ましくは、mRNAは、ヒトIGF1のEペプチド(Eドメインとも呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列を含まない。
【0066】
本発明の特定の好ましい実施形態では、mRNAは、配列番号8に示される核酸配列を含む。
【0067】
本発明のさらに特定の好ましい実施形態では、mRNAは、配列番号7に示されるDNA配列から転写された核酸配列を含む。好ましくは、核酸配列は、in vitroで配列番号7に示されるDNA配列から転写される。
【0068】
本発明のより特定の好ましい実施形態では、mRNAは、配列番号8に示される核酸配列を含み、ウリジンヌクレオチドの好ましくは1~100%、より好ましくは50~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは100%がN-メチルプソイドウリジンである。
【0069】
本発明のさらにより特定の好ましい実施形態では、mRNAは、配列番号7に示されるDNA配列から転写された核酸配列を含み、ウリジンヌクレオチドの好ましくは1~100%、より好ましくは50~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは100%がN-メチルプソイドウリジンである。この実施形態では、ヌクレオチド配列は、好ましくは、in vitroで配列番号7に示されるDNA配列から転写され、一方、ウリジンヌクレオチドとして、N-メチルプソイドウリジン-5’-三リン酸(N-メチルプソイドUTP)のみ、すなわち100%N-メチルプソイドUTPが、配列番号7に示されるDNA配列からの転写のために使用される。
【0070】
本発明のより好ましい実施形態では、mRNAは、5’から3’にかけて以下の順序でコードする核酸配列を含む:
i)脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチド、
ii)任意に、成長因子のプロドメイン、及び
iii)成熟成長因子タンパク質。
【0071】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、mRNAは、5’から3’にかけて以下の順序でコードする核酸配列を含む:
i)脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチド、
ii)任意に、IGF1のプロドメイン、及び
iii)成熟ヒトIGF1。
【0072】
本発明の特定の好ましい実施形態では、mRNAは、5’から3’にかけて以下の順序でコードする核酸配列を含む:
i)脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナルペプチド、
ii)任意に、ヒトIGF1のプロドメイン、及び
iii)成熟ヒトIGF1。
【0073】
さらなる態様では、本発明は、上記のmRNAの核酸配列又は上記のmRNAが転写されたDNAの核酸配列を含む転写単位、発現ベクター又は遺伝子治療ベクターを提供する。
【0074】
通常、本発明のmRNAは治療用組成物として提供され、これは好ましくは液体組成物である。液体組成物は、mRNAが液体中の溶液中に存在する任意の組成物である。本発明の一実施形態では、mRNAは、水、又は緩衝若しくは非緩衝水溶液に溶解される。溶液は、好ましくは水溶液である。したがって、液体は、水、好ましくは滅菌水、より好ましくは「注射用水」(WFI)又は任意の他の緩衝若しくは非緩衝水溶液であってもよい。本発明の一実施形態では、液体組成物は、非緩衝溶液、好ましくは塩溶液、より好ましくは薬学的に許容される塩の塩溶液、さらにより好ましくはNaCl溶液、すなわち食塩水である。好ましくは、塩溶液は等張であり、さらにより好ましくは生理的pH値を示す。本発明の好ましい実施形態では、mRNAが含有される溶液は緩衝溶液である。好ましくは、そのような溶液は、血液に対して等張である。原則として、生理的範囲、特にpH3.0~10.5、より好ましくはpH4.0~9.0の範囲で効果的に緩衝する任意のバッファーを使用することができる。好ましいバッファーは、アセテート、ホスフェート、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、炭酸塩、ラクテート及びシトレートバッファー又はリンゲル液、好ましくはシトレートバッファーである。したがって、本発明のより好ましい実施形態では、mRNAが含有される溶液はシトレートバッファーである。
【0075】
治療用組成物中のmRNAの濃度は特に重要ではなく、必要に応じて調整することができる。好ましくは、濃度は、0.001~20.0μg/μlの範囲、より好ましくは0.01~10.0μg/μlの範囲、さらにより好ましくは0.1~5μg/lの範囲、特に0.4~2.0μg/μlの範囲、より特に0.6~1.5μg/μlの範囲、さらにより特に0.80~1.20μg/μlの範囲にある。特に好ましいのは、0.01μg~0.1g、好ましくは0.1μg~0.01g、より好ましくは0.5μg~1mg、さらにより好ましくは0.5μg~10μgの範囲である。
【0076】
mRNA及び/又は治療用組成物は、当業者に公知の手段によって、好ましくは注射によって、より好ましくは尿道筋肉内注射によって、典型的には針付きシリンジを使用することによって、細胞及び組織、例えば尿道括約筋に適用することができる。原則として、針、ガイダンス装置及び市販の膀胱鏡と組み合わせた任意の市販のシリンジをこの目的のために使用することができる。。針の直径は、針ゲージ(G;スタブの針ゲージ(Stub’s Needle Gauge)による)によって示される。典型的には、7G(最大)~33G(最小)の医療用途の針を使用することができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、mRNA及び/又は治療用組成物は、直接DNA移入(Wolffら(1990)Science 247、1465-1468)を介して細胞に送達され得る。mRNA及び/又は治療用組成物は、細胞膜の穏やかな機械的破壊後に細胞に送達されて、細胞を一時的に透過性にすることができる。膜のそのような穏やかな機械的破壊は、細胞を小さな開口部に穏やかに押し込むことによって達成することができる(ShareiらPLOS ONE(2015)10(4)、e0118803)。別の実施形態では、mRNA及び/又は治療用組成物は、リポソーム媒介DNA移入(例えば、Gao&Huang(1991)Biochem.Ciophys.Res.Comm.179、280-285、Crystal(1995)Nature Med.1、15-17、Caplenら(1995)Nature Med.3、39-46)を介して細胞に送達され得る。「リポソーム」という用語は、封入された脂質二重層又は凝集体の生成によって形成された様々な単層及び多層脂質ビヒクルを包含し得る。mRNAは、リポソームの水性内部にカプセル化され得るか、リポソームの脂質二重層内に散在し得るか、リポソーム及びオリゴヌクレオチドの両方に関連する連結分子を介してリポソームに結合され得るか、リポソームに捕捉され得るか、又はリポソームと複合体化され得る。
【0078】
本発明の一実施形態では、RNA又はその治療用組成物は、RNAが裸のRNAとして含有される治療用、すなわち液体組成物の形態で、(好ましくは注射によって)尿道括約筋に直接投与される。投与方法並びに組成物及びそれに含有されるRNAの特性に関しては、本明細書の他の箇所に記載されているものと同じことが当てはまる。好ましい実施形態では、本発明の液体組成物及びmRNAはそれぞれ、尿道括約筋に直接投与されるべきである。この文脈において、最も好ましい投与方法は、注射、すなわち筋肉内注射である。
【0079】
原則として、可能な限り早期に、すなわち下部尿路症状の可能な最も早期の段階で、mRNA及び治療用組成物をそれぞれ投与することが本発明の文脈において想定される。例えば、この段階は、(1つ又は複数の)最初の症状が観察されたときである(例えば、尿の損失)。しかしながら、診断後の任意の可能な時点が可能であり、価値があり、したがって、本発明に従って想定される。一実施形態では、mRNA及び治療用組成物はそれぞれ、尿道括約筋再生の炎症期及び早期増殖期の間又はさらにはそれらの前にそれぞれ投与されるべきである。好ましい実施形態では、治療用組成物は、前記下部尿路症状に続く炎症期の前に投与されるべきである。
【0080】
本発明によるmRNA及び治療用組成物のそれぞれの投与は、例えば、治療される損傷の経過に応じて、少なくとも1回、好ましくは数回(例えば3~5回)繰り返してもよい。反復投与は、1、2、3、4、5、6、7、8、又は9日後、好ましくは2、3、4、5、6、7日後、より好ましくは3、4又は5日後であってもよい。反復投与は、数週間ごと(例えば、1、2、3、又は4週間ごと)から数日ごと(例えば、1、2、3、4、5又は6日ごと)まで、好ましくは2又は3日ごとであってもよい。
【0081】
本発明のmRNA又は治療用組成物は、好適な用量で患者に投与することができる。投与レジメンは、例えば臨床的因子に基づいて主治医によって決定され得る。医学分野で周知のように、任意の1例の患者の投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間及び投与経路、全身の健康状態、並びに同時に投与される他の薬物を含む多くの因子に依存する。対応する試料を、例えば、尿道括約筋(例えば、好適なプローブによって)から採取してもよく、活性化合物(裸のRNA)を検出してもよく、それらの対応する濃度を、例えばPCRによって前記試料中で決定してもよい。
【0082】
活性物質(例えば、mRNA)の典型的な用量は、例えば、1ng~数グラムの範囲、好ましくは0.1μg~1gの範囲、好ましくは1μg~0.1gの範囲、より好ましくは3μg~1mgの範囲、さらにより好ましくは5μg~0.5mgの範囲、最も好ましくは10μg~100μgの範囲であり得る。特に好ましいのは、0.01μg~0.1g、好ましくは0.1μg~0.01g、より好ましくは0.5μg~1mg、さらにより好ましくは0.5μg~50μgの範囲である。これは特にヒト患者に当てはまる。mRNA療法に適用される場合、発現のためのmRNAの投与量は、この範囲に対応するべきである。しかしながら、この例示的な範囲を下回る用量又は上回る用量も、原則として、特に前述の因子を考慮して想定される。一般に、治療用組成物の規則的な投与としてのレジメンは、1日あたり体重1キログラムあたり0.1μg~10mg単位の範囲、好ましくは1μg~1mg単位の範囲、より好ましくは10μg~0.1mg単位の範囲であるべきである。ここでも、これは特にヒト患者に当てはまる。進行は、定期的な評価によって監視することができる。投与量は様々でもよいが、本発明の液体組成物の構成成分としてのmRNAの注射による投与のための好ましい投与量は、1回の注射あたり約10~1015コピーのmRNA分子である。ここでも、これは特にヒト患者に当てはまる。
【0083】
特に、本発明の治療用組成物は、患者、好ましくはヒト患者/ヒトに投与されることが想定される。しかしながら、本明細書に記載の下部尿路症状は、例えば、ペット(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット及びマウス)、ウシ(例えば、雌ウシ、ブタ、ヒツジ)、ウマ(例えば、競走馬)又はポニー、ラクダ(例えば、レース用ラクダ)又は鳥(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、オウム)のような非ヒト動物対象/患者においても治療(又は予防)される可能性がある。
【0084】
特に、mRNAを含む治療用組成物は、LUTSの治癒プロセスにおいて治療的に活性である。
【0085】
一実施形態では、げっ歯類における投与されたmRNAの治療効果は、mRNAの投与後9日以上持続する。ヒトにおける生理的プロセスは、例えば、科学文献Zuideveldら、Pharmaceutical Research、第24巻、第11号、2007、2031-2039及びAdolph、Science、第109巻、1949、579-585から分かるように、げっ歯類よりも例えば50~300の範囲の係数だけはるかに遅いことが知られている。理論に拘束されるものではないが、9日以上のげっ歯類における本発明のmRNAの長期にわたる治療効果は、本発明のmRNAが投与されたヒトでは少なくとも3~6ヶ月間持続すると想定される。したがって、さらなる実施形態では、ヒトにおける投与されたmRNAの治療効果は、mRNAの投与後少なくとも3ヶ月間持続する。
【0086】
一実施形態では、尿道括約筋におけるmRNAの濃度は、げっ歯類における投与後3日で、投与時の尿道括約筋におけるmRNAの濃度よりも10倍低く、mRNAの治療効果は9日以上持続する。
【0087】
一実施形態では、治療効果は、膀胱漏出時圧を測定することによって評価され、mRNAの投与後9日に測定された膀胱漏出時圧と、mRNAが投与されたときに測定された膀胱漏出時圧との比が少なくとも1.1であることが、治療効果を示す。
【0088】
本発明の治療用組成物のいずれも、取扱説明書又は取扱リーフレットと共に提供されてもよい。取扱説明書/リーフレットは、本発明に従って本明細書に記載の疾患又は障害(下部尿路症状)をどのように治療(又は予防)するかの当業者/主治医のためのガイダンスを含んでもよい。特に、取扱説明書/リーフレットは、本明細書に記載の送達/投与様式及び送達/投与レジメンに関するガイダンスをそれぞれ含んでもよい(例えば、送達/投与経路、投与レジメン、送達/投与時間、送達/投与頻度)。特に、取扱説明書/リーフレットは、mRNAがそれぞれ注射されるべきである、及び/又は尿道括約筋への注射のために調製されるという指示を含んでもよい。取扱説明書/リーフレットは、下部尿路症状に続く炎症期中の投与のためにmRNAがそれぞれ調製されるという指示をさらに含んでもよい。原則として、送達/投与様式及び送達/投与レジメンに関して本明細書の他の箇所でそれぞれ述べられていることは、取扱説明書/リーフレットにおいてそれぞれの指示として含まれてもよい。
【0089】
さらなる態様では、本発明は、上記のmRNA及び/又は転写単位、発現ベクター又は遺伝子治療ベクター又は治療用組成物、並びに指示、任意にベクターマップ、任意に宿主細胞、任意に宿主細胞の培養のための培養培地、及び/又は任意にトランスフェクトされた宿主細胞を選択し培養するための選択培地を含む、下部尿路症状を治療する方法において使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、内容物のキットで(又はその形態で)提供されてもよい。キットは、本発明の治療用組成物の成分の1つ以上を、例えば1つ以上の別個の容器にさらに含んでもよい。例えば、キットは、mRNA(例えば、乾燥形態で)、可溶化剤及び(緩衝又は非緩衝)水溶液を、例えばそれぞれ1つ、2つ又は3つ(又はそれ以上)の別個の容器に含んでもよい。キットはまた、取扱説明書又は取扱リーフレットを含んでもよい。
【実施例
【0090】
これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、本明細書で提供される特許請求の範囲を限定するものではない。
【0091】
方法及び材料
実施例1:コンストラクトの設計、配列、及び合成
IGF1(UniProt番号P05019)は、小胞体内で合成され、ゴルジ装置を介して分泌されて、オートクリン及びパラクリン様式で細胞外成長因子として作用するポリペプチドである。トランスフェクトされた細胞からのmRNA誘導性IGF1の適切な発現及び分泌を確実にするために、内因性IGF1プレドメイン(シグナルペプチド;配列番号5及び6)をmRNAコンストラクト中のBDNF(UniProt番号P23560;配列番号3及び4)シグナルペプチド(BDNF-プロIGF1)によって交換した。この配列は、18個のアミノ酸を有するヒトBDNFのプレドメイン(シグナル伝達ペプチド)をコードする配列(ヌクレオチド1~54;配列番号4)及び27個のアミノ酸を有するヒトIGF1プロドメインをコードする配列(ヌクレオチド55~135;配列番号1)からなっていた。さらに、コンストラクトは、70個のアミノ酸を有する成熟ヒトIGF1の完全コード配列をコードする配列(ヌクレオチド136~348;配列番号2)を含んでいた。C末端Eドメインをコンストラクトに付加しなかった。図1は、BDNFプレドメイン(シグナル伝達ペプチド)並びにIGF1プロドメイン及びコードドメインによってコードされるIGF1のDNA及びRNA配列を示す。それぞれの配列は、2つの異なるベクターバックボーンpMA-T(アンピシリン耐性;配列番号9)及びpMK(カナマイシン耐性;配列番号10)で合成された遺伝子であり、それぞれCpd.1A及びCpd.1Bと定義された。Cpd.1Aコンストラクトは、目的の遺伝子のRNAポリメラーゼ結合及びin vitro転写(IVT)の成功のために、IGF1配列の上流にT7プロモーター配列(5’TAATACGACTCACTATA3’;配列番号11)及びコザック配列をさらに含む。同様に、Cpd.1Bコンストラクトは、目的の遺伝子のIVTのために、IGF1配列の上流にT7プロモーター配列及びコザック配列を含む。Cpd.1Aとは対照的に、Cpd.1Bコンストラクトは、真核生物RNAを模倣し、mRNAに安定性を提供するために、ベクター中に120bp長のポリAテールを含む。XhoI及びBspQI制限酵素認識部位を、プラスミドの線状化のためにポリAテールの直後に組み込んだ。要約すると、Cpd.1B合成mRNAコンストラクトは、120bpポリAテールと共に、Eペプチド情報のない、ヒトBDNFプレドメイン(シグナル伝達ペプチド)、プロIGF1ドメイン及びコード(成熟)IGF1DNAのインサートを含んでいた。Cpd.1A及びCpd.1B(ポリAテール及び制限酵素認識部位を含む)のBDNFプレドメイン(シグナル伝達ペプチド)、プロIGF1ドメイン及びコード(成熟)IGF1DNA配列の開いた読み枠を、GeneOptimizerアルゴリズムを使用してコドン最適化し、GeneArt、ドイツ(www.thermofisher.com)からのそれぞれのベクターバックボーンにおいて遺伝子合成した。Cpd.1A及びCpd.1Bのベクター全体のDNA配列を図2に示す。
【0092】
Cpd.1A及びCpd.1B mRNAのin vitro転写(IVT)
pMA-TベクターからのCpd.1A mRNAの生成のため、転写鋳型を、mRNAフォワードプライマー5’GCTGCAAGGCGATTAAGTTG3’及びmRNAリバースプライマー5’U(2’OMe)U(2’OMe)U(2’OMe)T(117)CAGCTATGACCATGTTAATGCAG3’(配列番号12及び13)を使用してPCRによって生成した。リバースプライマーは、成熟mRNAにポリAテールを含ませるために120bpのポリTを含んでいた。Cpd.1B mRNAの産生の場合、(120bp長のポリAテールもコードした)Cpd.1Bを含むpMKベクターを、ポリAテールの下流でXhoI酵素により線状化した。PCRアンプリコン及び線状化プラスミドの両方を、MEGAscript T7キット中のT7RNAポリメラーゼによって37℃で2時間実施したIVTの鋳型として使用した(www.thermofisher.com)。すべてのmRNAを、5’末端に抗逆CAPアナログ(ARCA;[m 7,3’-OG(5’)ppp(5’)G])を用いて共転写的に産生し、100%N1-メチルプソイドUTP(www.jenabioscience.com)で化学修飾した。in vitro転写mRNAを、MEGAclearキット(www.thermofisher.com)を使用して精製し、Nanophotometer-N60(Implen)を使用して定量した。IVT RNAの完全性を、Agilent 2100 Bioanalyzer(www.agilent.com)においてRNA 6000 Nanoキットを使用して断片分析した。
【0093】
ラットTA筋又は尿道組織への適用後のCpd.1Aの薬物動態
ラット前脛骨(TA)筋におけるCpd.1A曝露の評価のため、雄又は雌ラットのTA筋への異なる用量(1回の注射あたり1、3又は10μg)の各15μlのCpd.1Aの2回の注射を成体ラットで実施した。6、24、48及び72時間後、TA筋を採取し、RNA及びタンパク質含有量を分析するために2つの部分に分け、Cpd.1A RNA含有量をqPCRによって分析し、ヒト特異的IGF1 ELISA(カタログ番号E20、Mediagnost、ロイトリンゲン、ドイツ)によってIGF1タンパク質レベルを分析した。NorgenのAnimal Tissue RNA Purification Kit(カタログ番号25700)を使用して、瞬間凍結TA筋組織(約10mg)から全RNAを抽出した。絶対定量化による筋組織からのCpd.1A及びCpd.1B RNAを定量するために、TaqManアッセイを開発し、検証した。フォワードプライマー(5’CGGTCTGAGGAGCCCTTCTAG3’;配列番号14)及びリバースプライマー(5’CGACAGAGGCTTCTACTTCAACAAG3’;配列番号15)の両方を、クエンチャーを有する標識プローブ(5’FAM-CTGCTGCCGTAGCCTG-MGB-Q500 3’;配列番号16)と共に、Cpd.1A及びCpd.1B RNAに特異的に結合し、順序付けられるように設計した(www.microsynth.com)。標準曲線を生成するために、10コピー~1×10コピーの範囲のCpd.1A mRNA希釈物を調製し、標的試料を含むRoche Light Cycler 480においてqScript(商標)XLT One-Step-RT-qPCR ToughMix(www.qunatabio.com)を使用してqPCRで試験した。観察されたC値を既知のコピー数に対してプロットした。TA筋におけるCpd.1A RNAコピー数を、標準曲線から未知の値を計算することによって評価した。qPCRデータから、半減期を、単一指数関数的減衰関数を使用して計算した。ラット尿道におけるCpd.1B曝露の評価のため、ハミルトンシリンジ(10μl容量をゆっくり注射)を使用して、Cpd.1B(30μg)を、イソフルラン麻酔下、雌ラットにおいて30μgで、およそ5及び7時の位置の2つの異なる位置の尿道に注射した。24及び72時間後、組織を採取し、Cpd.1B mRNAから標準曲線鋳型を生成した上記のように、Cpd.1B含有量をqPCRによって分析した。
【0094】
腹圧性尿失禁のためのラット膣壁拡張モデル
尿道は、膀胱から尿を排出するための導管である。これは、管腔を裏打ちする上皮、突出した血管叢を有する粘膜固有層、平滑筋、及び横紋筋の外層(外尿道括約筋と呼ばれる)から構成される。尿道は膀胱と協調して機能し、コンチネンスを維持するために膀胱充満中は閉じたままであり、排尿中は弛緩して尿の流れを可能にする。これらのプロセスは、副交感神経、交感神経及び体性神経支配によって制御される。副交感神経は、膀胱排尿中に一酸化窒素を放出して尿道を弛緩させ、一方、交感神経は、膀胱充満中にノルアドレナリンを放出して尿道を収縮させる。横紋筋は、膀胱充満中のコンチネンスを確実にする筋肉を収縮させる体性神経支配を受ける。
【0095】
雌ラットにおける腹圧性尿失禁(SUI)のモデルを使用して、Cpd.1Bは、筋肉の成長及び再生を促進することによって、膣壁拡張(VD)モデルにおけるSUIに対して有効であり得るかどうかの仮説を検証した。それにより、漏出時圧及び組織学的測定に対するCpd.1B(0日目に1回尿道に局所注射された)の効果を、参照薬物(デュロキセチン)による連続経口処置と比較した。
【0096】
膣壁拡張(VD)を、イソフルラン麻酔下で雌Sprague-Dawley雌ラットに4時間適用した。VDの終了1時間後、腹部を外科的に開いて尿道にアクセスし、ラットに、およそ5及び7時の位置でハミルトンシリンジを介してビヒクル又はCpd.1B(それぞれ10μg)を2回注射した。偽処置動物(膨張なしのカテーテル)を、コントロールとしてビヒクルで処置した。デュロキセチンを、VDの日に開始して動物に20mg/kgで1日1回経口投与した。
【0097】
膣壁拡張後のラットにおける漏出時圧(LPP)の評価
LPPの評価のため、鎮静のためにVD後4、9及び14日目にイソフルランでラットを麻酔し、ウレタン麻酔(1.2g/kg、i.v.)のために頸静脈を通してカニューレ挿入した。次いで、ラットを37℃の加熱パッド上で仰臥位にした。膀胱を手動で空にし、3.0ml/時で膀胱カテーテルを通して室温食塩水で満たした。0.4~0.5mlで膀胱を充満させた後、腹部を手動でゆっくりと押し下げて、尿道口からの液漏れが観察されるまで腹圧を上昇させた。LPPを2分間隔で各動物(群あたり10匹の動物)で6回試験し、平均LPP値を統計分析に使用した。
【0098】
VD後の尿道の完全性の組織学的評価
各群の2匹の動物から、9及び14日目に尿道-膣組織を採取し(尿道中央部及び前膣の断面)、組織を4%ホルムアルデヒドを含有する中性緩衝ホルマリンに4時間浸漬し、次いで、パラフィンに包埋した。5μmの切片を、ヘマルン-エオシン(Hemalun-Eosin)(HE)、マッソントリクローム(MT)及びピクロシリウスレッドの標準的な手技で染色した。形態及び組織の完全性に基づいて、組織学スコアを尿道中央部切片の外輪走筋層(OCML)、内縦走筋層(ILML)及び筋内膜組織に割り当て、9及び14日目にサンプリングした。以下の組織学的スコアを異なる層に適用し、群ごとに平均した:
-外輪走筋層(OCML、骨格筋):
o 0=円周方向に規則的
o 1=円周方向に局所的に薄い
o 2=中断
o 3=ほとんど存在しない
-内縦走筋層(ILML、平滑筋):
o 0=中サイズから大サイズの線維束
o 1=小さな線維束)
-筋内膜組織:
o 0=薄い、高密度
o 1=疎性結合組織による肥厚
o 2=結合組織による筋肉の局所置換
o 3=結合組織による筋肉の置換
【0099】
結果
mRNAのin vitro転写
異なるin vivo研究のために、Cpd.1A及びCpd.1B mRNAを0.5~10mgスケールで産生した。品質管理尺度としての断片分析によって確認されたRNAの完全性。
【0100】
ラットTA筋への適用後のCpd.1Aの薬物動態
ラット前脛骨(TA)筋におけるCpd.1A曝露を、異なる用量(1回の注射あたり1、3又は10μg)の各15μlのCpd.1Aの2回の同時注射の6、24、48及び72時間後に評価した。最高レベルは6時間で観察され、72時間にわたってCpd.1A曝露が連続的に低下した(図3)。それにより、3つの異なる用量間でほぼ線形の増加が観察された。データは、最大72時間にわたるi.m.適用後のTA筋組織におけるCpd.1Aの関連する曝露を示唆している。3及び10μg用量について得られたデータから、半減期を単一指数関数的減衰関数を用いて計算し、3及び10μg用量についてそれぞれ21及び17時間の半減期を推定した(図4)。データは、i.m.適用後最大72時間にわたる関連するCpd.1A曝露と一致する。
【0101】
Cpd.1A曝露とIGF1タンパク質発現との間の関係を分析するために、図3のデータを、ヒト特異的IGF1 ELISAによってTA筋標本において測定されたIGF1タンパク質の量と比較した。3及び10μg用量のデータは、Cpd.1A注射後数時間の遅れの後、適切なIGF1タンパク質産生が、最大72時間にわたって筋組織中の治療的に関連する濃度で観察されたことを示した(図5)。データは、Cpd.1のi.m.適用後最大72時間にわたるIGF1タンパク質の生理的に関連する発現を示唆している。
【0102】
ラット尿道組織への適用後のCpd.1Bの薬物動態
イソフルラン麻酔下でのCpd.1B(30μg)の尿道内注射後、適切なCpd.1B曝露を注射の24時間後に測定し、曝露は72時間後にさらに低下した(図6)。データは、最大72時間にわたる尿道内注射後のCpd.1Bの関連する曝露を示唆している。
【0103】
腹圧性尿失禁のためのラット膣壁拡張モデル
腹圧性尿失禁(SUI)の膣壁拡張(VD)動物モデルにおける尿失禁の評価のため、膀胱の漏出時圧(LPP)をVD後の4、9及び14日目に評価した。VDなしの偽ビヒクル処置動物をコントロールとして使用して、ベースラインLPP(図7の灰色領域)を評価した。VDは、4日以内にLPPの低下を誘導し、9及び14日後に健常レベルへの回復を誘導した(図7)。対照的に、VD手技後の0日目における10μgでの単一のCpd.1B処置は、4日目にLPPの有意な増加(*、p<0.05、スチューデントのt検定)をもたらし、これは9日目までさらに増加した。14日目に、健常LPPレベルへの完全な回復が観察された。対照的に、20mg/kgのデュロキセチンの毎日の経口処置は、4日目にLPPの初期増加(**、p<0.01、スチューデントのt検定)をもたらし、これは、9日目にわたって14日目にコントロールレベルまで連続的に低下したことから(図7)、IGF1と比較してデュロキセチンの異なる機構が示唆される。
【0104】
すべての群についての曲線下面積(AUC)の評価は、VDビヒクル群についてAUCの減少を示したが、Cpd.1B処置群及びデュロキセチン処置群の両方は、14日間にわたってAUCの明らかな増加を示した(図8)。
【0105】
4及び9日目に得られたLPPデータの統計分析(図9A及び図9B)は、VDビヒクル処置群と比較して、Cpd.1B及びデュロキセチンの両方について4日目にLPPの有意な増加を示した(*、p<0.05、**、p<0.01、スチューデントのt検定)。VDビヒクル群における完全な回復のために、Cpd.1Bは9日目に有意性に達しなかった。
【0106】
データは、Cpd.1B及びデュロキセチンの両方が膀胱機能を改善したことを示唆するが、異なる生物学的機構を示唆している。デュロキセチンは、その利益を主に急性的に、及び神経調節性の症候性の短期的利益を介して発揮するが、IGF11データは、尿道の筋組織に対する継続的な再生長期効果を示唆した。
【0107】
膣壁拡張(VD)後の尿道組織の組織学的評価
主な尿道リモデリングは粘膜筋板(mucosa muscularis)内で観察され、尿道の3つの異なる層、外輪走骨格筋層(outer circular skeletal muscle layer)(OCML)、内縦走平滑筋層(inner longitudinal smooth muscle layer)(ILML)、及び筋細胞損傷時にサイズが増加する筋内膜組織で観察された半定量的変化をもたらした。組織学的スコアの評価により、さらに中断された層の組織化から生じたVD後のOCMLスコアのわずかな増加によって証明されるように、OCML破壊の増加について傾向が観察されたことがOCMLについて明らかにされた(図10)。Cpd.1B処置はこの傾向を妨げたが、デュロキセチン処置はOCML病理学をさらに悪化させた(図10)。平滑筋細胞からなるILMLについては、同様の傾向が観察され、VDはスコアのわずかな増加をもたらし、より小さな線維束、したがってILML破壊に直面し、Cpd.1Bはこの破壊を防止するが、デュロキセチンはILMLスコアをさらに増加させ、表現型を悪化させた(図11)。最後に、VDは、9及び14日後に筋内膜組織における結合組織による骨格筋組織及び平滑筋組織の置換の増加をもたらし、Cpd.1B処置はこの障害を完全に防止した(図12)。対照的に、デュロキセチンはこの病理学をさらに悪化させた。
【0108】
まとめると、組織学的評価は、IGF1及びデュロキセチンが媒介するVD後のLPPの機能的改善の異なる機構を明確に示している。IGF1は明らかに、骨格筋及び平滑筋の保存、それによって組織の組織化及び結合組織生成の防止をもたらしたが、デュロキセチンは、異なる機構を介してその症候的効果を発揮した。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2024515184000001.app
【国際調査報告】