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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】血圧の判定
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A61B5/022 400A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565534
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 EP2022060944
(87)【国際公開番号】W WO2022229123
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】21171027.2
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】フランク クリストフ フロリアン
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA11
4C017AB01
4C017AC01
4C017AD01
4C017BB12
4C017BC11
4C017BD05
4C017BD08
4C017FF05
4C017FF08
(57)【要約】
一態様によれば、対象者の血圧を決定する、コンピュータで実施される方法が提供される。この方法は、対象者の包絡線データセットを受信するステップ(101)を有する。包絡線データセットには、身体部分に加えられる制限の様々な度合いごとの、対象者の身体部分の血流の測定値が含まれる。この方法は、次に、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアについて、包絡線データセットの測定値を取得する、それぞれの尤度を決定するために、確率密度関数、PDFのセットを使用するステップ(103)を有する。この方法は、最後に、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧が、包絡線データセットについて最高尤度をもたらす、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアであると決定するステップ(105)を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の血圧を決定するための、コンピュータで実施される方法であって、前記方法が、
身体部分に加えられる様々な程度の制限それぞれに対する前記対象者の前記身体部分の血流の測定値を含む前記対象者の包絡線データセットを受信するステップと、
収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアのための前記包絡線データセットの前記測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定するために、確率密度関数のセットを使用するステップと、
前記包絡線データセットに対する最高尤度をもたらす収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアであるとして、前記対象者に対する収縮期血圧及び拡張期血圧を決定するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
前記確率密度関数のセットを使用するステップが、前記収縮期血圧値と前記拡張期血圧値との起こり得るすべてのペアのための前記包絡線データセットの前記測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定するステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記確率密度関数のセットを使用するステップ、並びに前記収縮期血圧及び拡張期血圧を決定するステップが、前記包絡線データセットのための前記最高尤度を決定するために、反復最適化アルゴリズムを使用するステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記確率密度関数のセットを使用するステップが、
前記包絡線データセットの血流の1つ又は複数の最高測定値に基づいて、血流スケーリング係数を決定するステップと、
前記確率密度関数のセットの血流値と、前記包絡線データセットの血流の前記測定値とを揃えるために、血流スケーリング係数を使用するステップ
を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記血流スケーリング係数を決定するステップが、前記包絡線データセットの血流の複数の前記最高測定値を中央値で代表する関数に基づいて、前記血流スケーリング係数を決定するステップを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記確率密度関数のセットを収縮期血圧及び拡張期血圧に関する事前分布から生成するステップをさらに有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記事前分布が、
収縮期血圧及び拡張期血圧の生理学的に起こり得る値に関する情報、
生理学的に起こり得る、収縮期血圧値と拡張期血圧値との差異に関する情報、
前記対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧の1つ若しくは複数の以前の値、
前記対象者の1つ若しくは複数の特性、
血流の測定に使用されるセンサの1つ若しくは複数の特性、並びに
前記身体部分に制限を加えるために使用されるデバイスの1つ若しくは複数の特性
のうちの1つ又は複数を含むか、又は1つ又は複数に基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータ可読コード具現化されるコンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータ可読コードが、好適なコンピュータ又は処理ユニットによる実行時に、前記コンピュータ又は前記処理ユニットに、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行させる、コンピュータ可読媒体。
【請求項9】
対象者の血圧を決定する装置であって、前記装置が処理ユニットを備え、前記処理ユニットが、
身体部分に加えられる様々な程度の制限それぞれに対する前記対象者の前記身体部分の血流の測定値を含む前記対象者の包絡線データセットを受信し、
収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアのための前記包絡線データセットの前記測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定するために、確率密度関数のセットを使用し、
前記包絡線データセットに対する最高尤度をもたらす収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアであるとして、前記対象者に対する収縮期血圧及び拡張期血圧を決定する、装置。
【請求項10】
前記処理ユニットが、前記確率密度関数のセットを使用し、前記収縮期血圧値と前記拡張期血圧値との起こり得るすべてのペアのための前記包絡線データセットの前記測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記処理ユニットが、前記包絡線データセットの前記最高尤度を決定するために、反復最適化アルゴリズムを使用することにより、前記確率密度関数のセットを使用し、収縮期血圧及び拡張期血圧を決定する、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記処理ユニットが、
前記包絡線データセットの血流の1つ又は複数の最高測定値に基づいて、血流スケーリング係数を決定することと、
前記確率密度関数のセットの血流値と前記包絡線データセットの血流の前記測定値とを揃えるために、前記血流スケーリング係数を使用することと
により、前記確率密度関数のセットを使用する、請求項9から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記処理ユニットが、前記包絡線データセットの血流の複数の前記最高測定値を中央値で代表する関数に基づいて、前記血流スケーリング係数を決定する、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記処理ユニットがさらに、
前記確率密度関数のセットを収縮期血圧及び拡張期血圧に関する事前分布から生成する、請求項9から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記事前分布が、
収縮期血圧及び拡張期血圧の、生理学的に起こり得る値に関する情報、
生理学的に起こり得る、収縮期血圧値と拡張期血圧値との差異に関する情報、
前記対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧の1つ若しくは複数の以前の値、
前記対象者の1つ若しくは複数の特性、
血流の測定に使用されるセンサの1つ若しくは複数の特性、並びに
前記身体部分に制限を加えるために使用されるデバイスの1つ若しくは複数の特性のうちの1つ又は複数を含むか、又は1つ又は複数に基づく、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、対象者の血圧を判定することに関し、詳細には、血流の測定値から血圧を判定するための、コンピュータで実施される方法、コンピュータプログラム製品、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲的に血圧を測定する一般的な方法には、外圧を加えることにより、四肢(例えば腕又は脚)の動脈の血流を一時的に制限すること、次いで、四肢にかかる圧力の量が変化したときの、血流の測定値を求めることが含まれる。収縮期血圧のピーク時であっても、外圧が動脈を完全に閉塞するほど十分に大きい場合、四肢の、制限される部位より遠位の部分には、血流が存在しなくなる。心周期の一部で、外圧が動脈を閉塞するほど十分に大きい場合、四肢を通る血流は、拍動性が高く、さらに層流ではなく乱流になる。外圧が低すぎて、動脈をどの箇所でも閉塞できない場合、血流は、層状で、適度に拍動性を有するであろう。血流の制限は、一般的に、患者の手足のうちの1本の周囲に、膨張可能なカフを付け、次いでカフを膨張及び収縮させ、所望の度合いの血流制限を達成することによって実現する。
【0003】
制限の度合いを変化させながら血流を判定するには、少なくとも3つの方法がある。最も一般的な方法は、オシロメトリック法であり、オシロメトリック法は、血流による動脈のボリュームの変化によって引き起こされる、カフ内の圧力の僅かな変動を検出及び測定することによって機能する。この方法は、安価で、カフ内にどんなセンサも電気接続も必要としないので、頻繁に使用される。圧力センサは、カフを膨張させるために使用されるポンプと共に、血圧モニタ内に配置され得る。この方法の欠点は、カフの小さな外乱でさえ、血流によって生じる振動と同じ規模の圧力変化を内部に引き起こすことになるので、患者の動きによって生じるアーチファクトの影響を受けやすいことである。
【0004】
別の一般的に使用される方法は、光電式容積脈波記録法(PPG)であり、PPGは、光源及び光受容器を使用して、手足の遠位部分の血流によって引き起こされる光吸収度の微小な変化を測定する。この方法は、モーションアーチファクトが存在する場合には、より耐性があるが、光源及び光センサの追加接続を必要とする。
【0005】
第3の一般的に使用される方法は、マイクを使用し、血管内の乱流によって生じる音、いわゆるコロトコフ音を検出するものである。これらの音は、制限の度合いが、そのときの動脈部分を閉塞するのにちょうど十分な大きさであるときの指標を非常に適切に示すが、周囲の騒音の影響も受けやすい。この方法は、コロトコフ音を拾うための聴診器、カフ、圧力センサ/ゲージを使用して、手動で非侵襲的な血圧測定を実行する場合に、広く行われている。
【0006】
血流を判定する他の方法には、ドップラ超音波を使用して、動脈内の流速を測定することが含まれる。
【0007】
患者の血圧を判定するために、様々な程度の制限それぞれで(すなわち、膨張式カフを使用する場合、様々なカフ圧値で)、血流の拍動性の程度を測定する必要がある。この測定は、制限の程度と対応する血流の測定値との、値のペアを含む測定値セットを提供する。測定値セットは、オシロメトリック測定値の場合、静的カフ圧とカフ圧振動振幅とのペア(静的カフ圧、カフ圧振動振幅)となるであろう。値のペアの測定値セットは、本明細書では「包絡線データセット」又は「測定された包絡線」と呼ばれる。オシロメトリック測定値を含む包絡線データセットの場合、包絡線データセットは、振動テーブルと呼ばれ得る。
【0008】
従来の技法では、包絡線の範囲が十分であれば(すなわち、制限の程度の範囲に対して血流の測定値が得られると)、包絡線データセットから、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を推定することができる。
【0009】
測定された包絡線データから血圧値を計算するのに現在使用されている方法は、例えば、米国特許第4,984,577号、「オシロメトリック非侵襲的血圧測定方法及び自動オシロメトリック血圧測定装置」(Oscillometric non-invasive method for measuring blood pressure and apparatus for automated oscillometric blood pressure measuring)で説明されているように、補間を使用して包絡線内の基準点を検出し、基準点の場所から血圧を導出することによって実行する。別の方法は、例えば米国特許第5,704,362号、「曲線当てはめを使用したオシロメトリック血圧判定方法」(Method for oscillometric blood pressure determination employing curve fitting)で説明されているように、モデル関数を包絡線の点のセットに当てはめ、曲線当てはめ演算によって得られたパラメータから血圧値を導出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の方法の1つの欠点は、従来の方法が、測定された包絡線のいくつかの点、特に血流の最大の値に大きく依存し、他の点に含まれる情報を無視しがちなことである。具体的には、血圧の計算は、通常、測定された包絡線の最大の振幅及び位置に大きく依存する。その結果、単一の誤った測定値(特に、誤った最大振幅)が、場合によっては、計算される血圧値に大きな変化をもたらす可能性がある。これは、モーションアーチファクト又は同様の要因によって引き起こされる、誤った包絡線の点が生じる場合に、この方法は、ロバストがないものとなりがちであることを意味する。
【0011】
別の欠点は、いくつかの現在の方法には、事前情報を血圧計算に組み込むやり方がないことである。事前情報には、特定の血圧範囲が、他の血圧範囲よりも可能性が高い(例えば、拡張期血圧は、70...90mmHgの範囲内にある可能性が、この範囲外にある可能性よりも高い)、特定の脈圧値が、他の脈圧値より可能性が高い、又は患者の血圧が、以前の測定値と大幅に異なるのではなく、以前の測定値に近い可能性がより高いという知識が含まれ得る。
【0012】
したがって、包絡線データセットの特定の測定点にも単一の測定点にもあまり依存することなく、包絡線データセットから収縮期血圧及び拡張期血圧を判定するための、改良された技法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示された技法の態様及び実施形態を、下記に示す。
【0014】
いくつかの実施形態は、血圧の計算に、1つ又は複数のタイプの事前情報を含めるやり方も提供することに留意されたい。こうした実施形態では、ベイズ統計からの最大事後推定(maximum a posteriori estimation)手法を使用することにより、事前情報を考慮することができる。
【0015】
第1の特定の態様によれば、対象者の血圧を判定する、コンピュータで実施される方法が提供される。この方法は、身体部分に加えられる様々な程度の制限それぞれに対する対象者の身体部分の血流の測定値を含む対象者の包絡線データセットを受信するステップと、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアのための包絡線データセットの測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定するために、確率密度関数(PDF)のセットを使用するステップと、包絡線データセットに対する最高尤度をもたらす収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアであるとして、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧を決定するステップとを有する。第1の態様は、これにより、包絡線データセットの特定の測定点にも単一の測定点にもあまり依存することなく、収縮期血圧及び拡張期血圧の測定値を決定するための技法を提供する。その結果、この技法は、包絡線データセットの外れ測定値及び他の誤差から生じる、誤差の影響をあまり受けなくなる。
【0016】
いくつかの実施形態では、PDFのセットを使用するステップは、包絡線データセットの測定値ごとに、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアのための包絡線データセットの測定値を取得するためのそれぞれの確率を決定するステップと、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアについて、決定されたそれぞれの、確率を結合することにより、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアのための包絡線データセットの測定値を取得する決定されたそれぞれの確率を組み合わせることにより、包絡線データセットの測定値を取得するための尤度を決定するステップとを有する。この実施形態は、生じる包絡線データセットの各測定値の結合確率に従って、収縮期血圧及び拡張期血圧が決定されることを提供する。
【0017】
こうした実施形態では、それぞれの確率を組み合わせることには、それぞれの確率を掛け合わせること、又はそれぞれの確率の対数を合計することが含まれる。対数を合計することが含まれる実施形態は、最高の合計を持つものとして収縮期血圧値及び拡張期血圧値を識別する場合に、利点を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、PDFのセットを使用するステップは、収縮期血圧値と拡張期血圧値との起こり得るすべてのペアのための包絡線データセットの測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定するステップを有する。この実施形態は、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を決定するのに、最適化アルゴリズムが不要であり、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのすべての起こり得るペアを、網羅的に検索することにより、例えば、最高確率の突出度(prominence)を決定することで、決定された収縮期血圧値及び拡張期血圧値の決定の質を定量化することが可能となり得るという、利点を有する。
【0019】
代替実施形態では、PDFのセットを使用するステップ、並びに収縮期血圧及び拡張期血圧を決定するステップが、包絡線データセットの最高尤度を決定するために、反復最適化アルゴリズムを使用するステップを有する。こうした実施形態は、収縮期血圧と拡張期血圧との起こり得るすべての組合せにわたる完全な検索を用いるよりも、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を、迅速且つ/又は効率的に決定できるという利点を有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、PDFのセットを使用するステップは、包絡線データセットの血流の、1つ又は複数の最高測定値に基づいて、血流スケーリング係数を決定するステップ、並びにPDFのセットの血流値と、包絡線データセットの血流の測定値とを揃えるために、血流スケーリング係数を使用するステップを有する。こうした実施形態では、PDFのセットを包絡線データセットに対して正規化すること、又は包絡線データセットをPDFのセットに対して正規化することが可能となる。こうした実施形態では、血流スケーリング係数を決定するステップは、包絡線データセットの血流の、複数の最高測定値を中央値で代表する関数に基づいて、血流スケーリング係数を決定するステップを有する。血流の複数の測定値を使用して、血流スケーリング係数を決定すると、スケーリングが、外れ測定値及び他の誤差の影響をあまり受けなくなる。
【0021】
いくつかの実施形態では、この方法は、PDFのセットを生成するステップをさらに有する。こうした実施形態では、PDFのセットを生成するステップは、PDFのセットを、収縮期血圧及び拡張期血圧に関する、事前分布から生成するステップを有する。こうした実施形態では、事前分布は、収縮期血圧及び拡張期血圧の、生理学的に起こり得る値に関する情報、生理学的に起こり得る、収縮期血圧値と拡張期血圧値との差異に関する情報、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧の、1つ若しくは複数の以前の値、対象者の1つ若しくは複数の特性、血流の測定に使用されるセンサの、1つ若しくは複数の特性、並びに身体部分に制限を加えるために使用されるデバイスの、1つ若しくは複数の特性のうちの、1つ又は複数を含むか、又は1つ又は複数に基づく。このようにして、PDFは、測定された包絡線データセットによって強力に裏づけられない限り、対象者の、収縮期血圧及び拡張期血圧が対象者又は集団の通常の生理学的範囲外にあると見なされる尤度が、比較的低くなるように構築され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、PDFのセットは、PDFスケーリング係数でスケーリングされたPDFを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、複数の様々な圧力段階まで膨張及び/若しくは収縮されるか、又は連続的に膨張若しくは収縮されるカフを使用して、様々な程度の制限が身体部分に加えられる。こうした実施形態では、包絡線データセットは、測定値ペアのセットであり、測定値ペアは、身体部分の血流の測定値と、血流の測定が行われるときのカフ内のそれぞれの圧力とを含む。こうした実施形態では、血流の測定値は、カフ内の圧力振動の振幅、又はカフの下の、流体又はゲルで満たされたパッド内の圧力振動の測定値である。別法として、こうした実施形態では、血流の測定値は、身体部分の、カフより遠位に配置されたPPGセンサからの、光電式容積脈波記録法、PPG信号から取得される。別法として、こうした実施形態では、血流の測定値は、身体部分の、カフより遠位に配置された音センサ又は超音波センサからの、音信号から取得される。
【0024】
第2の態様によれば、コンピュータ可読コードがその中で具現化されるコンピュータ可読媒体を備える、コンピュータプログラム製品が提供され、コンピュータ可読コードは、好適なコンピュータ又は処理ユニットによる実行時に、コンピュータ又は処理ユニットに、第1の態様、又は第1の態様の任意の実施形態による方法を実行させるよう構成される。第3の特定の態様によれば、対象者の血圧を決定するよう構成された装置が提供される。この装置は、身体部分に加えられる様々な程度の制限それぞれに対する対象者の身体部分の血流の測定値を含む対象者の包絡線データセットを受信し、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアのための包絡線データセットの測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定するために、確率密度関数(PDF)のセットを使用し、包絡線データセットに対する最高尤度をもたらす収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアであるとして、対象者に対する収縮期血圧及び拡張期血圧を決定するよう構成された、処理ユニットを備える。これにより、第3の態様は、包絡線データセットの、特定の測定点にも単一の測定点にもあまり依存することなく、収縮期血圧及び拡張期血圧の測定値を決定するための装置を提供する。その結果、この装置は、包絡線データセットの外れ測定値及び他の誤差から生じる、誤差の影響をあまり受けなくなる。
【0025】
いくつかの実施形態では、処理ユニットは、包絡線データセットの測定値ごとに、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアについて、包絡線データセットの測定値を取得する、それぞれの確率を決定すること、並びに収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアについて、決定されたそれぞれの、包絡線データセットの測定値を取得する確率を結合することで、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアごとに、包絡線データセットの測定値を取得するための尤度を決定することにより、PDFのセットを使用するよう構成される。この実施形態は、収縮期血圧及び拡張期血圧が、生じる包絡線データセットの各測定値の結合確率に従って決定されることを可能にする。
【0026】
こうした実施形態では、処理ユニットは、それぞれの確率を掛け合わせることにより、又はそれぞれの確率の対数を合計することにより、それぞれの確率を結合するよう構成され得る。対数を合計することを含む実施形態は、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を、合計が最高となるものであると識別する場合に、利点を有する。いくつかの実施形態では、処理ユニットは、収縮期血圧値と拡張期血圧値との起こり得るすべてのペアについて、包絡線データセットの測定値を取得するためのそれぞれの尤度を決定することにより、PDFのセットを使用するよう構成される。この実施形態は、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を決定するのに、最適化アルゴリズムが不要であり、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのすべての起こり得るペアを、網羅的に検索することにより、例えば、最高確率の突出度を決定することで、収縮期血圧値及び拡張期血圧値の決定の質の定量化することが可能となり得るという、利点を有する。
【0027】
代替実施形態では、処理ユニットは、包絡線データセットの最高尤度を決定するために、反復最適化アルゴリズムを使用することにより、PDFのセットを使用し、収縮期血圧及び拡張期血圧を決定するよう構成される。こうした実施形態は、収縮期血圧と拡張期血圧との起こり得るすべての組合せにわたる完全な検索を用いるよりも、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を、迅速且つ/又は効率的に決定できるという利点を有する。
【0028】
いくつかの実施形態では、処理ユニットは、包絡線データセットの血流の、1つ又は複数の最高測定値に基づいて、血流スケーリング係数を決定すること、並びにPDFのセットの血流値と、包絡線データセットの血流の測定値とを揃えるために、血流スケーリング係数を使用することにより、PDFのセットを使用するよう構成される。こうした実施形態では、PDFのセットを包絡線データセットに対して正規化すること、又は包絡線データセットをPDFのセットに対して正規化することが可能となる。こうした実施形態では、処理ユニットは、包絡線データセットの血流の、複数の最高測定値を中央値で代表する関数に基づいて、血流スケーリング係数を決定するよう構成され得る。血流の複数の測定値を使用して、血流スケーリング係数を決定すると、スケーリングが、外れ測定値及び他の誤差の影響をあまり受けなくなる。
【0029】
いくつかの実施形態では、処理ユニットはさらに、PDFのセットを生成するよう構成される。こうした実施形態では、処理ユニットは、PDFのセットを、収縮期血圧及び拡張期血圧に関する、事前分布から生成することにより、PDFのセットを生成するよう構成され得る。こうした実施形態では、事前分布は、収縮期血圧及び拡張期血圧の、生理学的に起こり得る値に関する情報、生理学的に起こり得る、収縮期血圧値と拡張期血圧値との差異に関する情報、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧の、1つ若しくは複数の以前の値、対象者の1つ若しくは複数の特性、血流の測定に使用されるセンサの、1つ若しくは複数の特性、並びに身体部分に制限を加えるために使用されるデバイスの、1つ若しくは複数の特性のうちの1つ又は複数を含むか、或いは1つ又は複数に基づく。このようにして、PDFは、測定された包絡線データセットによって強力に裏づけられない限り、対象者の、収縮期血圧及び拡張期血圧が対象者又は集団の通常の生理学的範囲外にあると見なされる尤度が、比較的低くなるように構築され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、PDFのセットは、PDFスケーリング係数でスケーリングされたPDFを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、複数の様々な圧力段階まで膨張及び/又は収縮されるか、又は連続的に膨張又は収縮されるカフを使用して、様々な程度の制限が身体部分に加えられる。こうした実施形態では、包絡線データセットは、測定値ペアのセットであり、測定値ペアは、身体部分の血流の測定値と、血流の測定が行われるときのカフ内のそれぞれの圧力とを含む。こうした実施形態では、血流の測定値は、カフ内の圧力振動の振幅、又はカフの下の、流体又はゲルで満たされたパッド内の圧力振動の測定値である。別法として、こうした実施形態では、血流の測定値は、身体部分の、カフより遠位に配置された、PPGセンサからの光電式容積脈波記録法、PPG信号から取得される。別法として、こうした実施形態では、血流の測定値は、身体部分の、カフより遠位に配置された、音センサ又は超音波センサからの、音信号から取得される。
【0032】
いくつかの実施形態では、処理ユニットは、カフ内の圧力を測定する圧力センサから、包絡線データセットを受信するよう構成される。こうした実施形態では、装置が圧力センサをさらに備えてもよく、又は圧力センサは装置から分離されていてもよい。代替実施形態では、処理ユニットは、カフ内の圧力を測定する圧力センサから、身体部分に加えられる制限の度合いの測定値を受信し、PPGセンサ、音センサ、又は超音波センサなどの血流センサから、身体部分の血流の測定値を受信するよう構成される。こうした実施形態では、装置が圧力センサ及び/若しくは血流センサをさらに備えてもよく、又は圧力センサ及び/若しくは血流センサは装置から分離されていてもよい。
【0033】
これらの態様及び他の態様は、これ以降で説明される実施形態から明らかになり、また実施形態を参照しながら説明される。
【0034】
次に、例示的な実施形態を、以下の図面を参照して、ただ単に例として説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】例示的な包絡線データセットを示すグラフである。
図2】本明細書で説明されている技法を実施するために使用され得る、装置の構成図である。
図3】様々な実施形態による、血圧を決定する方法を示す流れ図である。
図4】ある範囲のカフ圧値にわたる正規化された振動振幅の、固定された収縮期血圧及び固定された拡張期血圧での、確率密度関数(PDF)のセットを示す図である。
図5】収縮期血圧と拡張期血圧との様々な組合せについての、包絡線データセットを取得する尤度を示す、マップの図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上記で言及されたように、開示される技法により、従来の技法よりも、包絡線データセットの特定の測定点にも単一の測定点にもあまり依存することなく、収縮期血圧及び拡張期血圧を包絡線データセットから決定することができる。
【0037】
包絡線データセットには、身体部分に加えられる制限の様々な度合いごとの、身体部分の血流の測定値が含まれる。血流は、例えば、対象者の上腕に圧力を加えるためにカフが使用される場合、カフの下流、すなわちカフより遠位の腕の一部(例えば、下腕又は手首)で測定される。包絡線データセットは、したがって、一連の「測定値ペア」又は「測定点」で構成され、各ペアには、血流の測定値、及びその血流測定値を取得したときに加えられた、圧力の測定値(例えば、血流を制限している、カフ内の静的圧力)が含まれる。包絡線データセットは、オシロメトリック測定の場合、静的カフ圧とカフ圧振動振幅とのペア(静的カフ圧、カフ圧振動振幅)を含むものとなる。測定値ペアのセットは、本明細書では「包絡線データセット」又は「測定された包絡線」と呼ばれる。血流測定の形態は、血流の測定に使用されるセンサのタイプによって異なり得る。センサは、具体的には、拍動性の血流を測定するべきである。血流の測定値は、例えば、ボリュームの変化を測定又は検出するセンサ(光電式容積脈波記録法(PPG)を含む容積変動記録法、オシロメトリック法、又は膨張可能なカフと身体部分との間に配置された、液体若しくはゲルで満たされたパッドを使用する、圧力検知など)によって、或いは流速を測定するセンサ(ドップラ超音波、又はある範囲までは、コロトコフ音の音響検出など)によって、取得され得る。
【0038】
図1のグラフは、70mmHgから160mmHgの範囲の一連のカフ圧について、mmHg単位の振動振幅の、カフ圧(同じくmmHg単位)に対する測定値を含む、例示的な包絡線データセットの一部を示している。基準血圧測定技法を使用して測定したところ、対象者の収縮期血圧は132mmHg、拡張期血圧は74mmHgであった。包絡線データセットには、図1に示されている範囲外のカフ圧での、血流の測定値も含めることができることが理解されよう。
【0039】
収縮期血圧及び拡張期血圧を決定/推定するための技法では、包絡線データセットの測定値ペアは、変数「収縮期血圧」及び「拡張期血圧」に依存する、確率分布のサンプルであると見なされる。この技法では、包絡線データセットの利用可能な測定値ペアと、任意選択で、収縮期血圧及び拡張期血圧の分布に関する、任意の事前情報とを使用して、測定された包絡線データセットを観測する尤度を最大化する、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を検出する。
【0040】
この方法では、より詳細には、包絡線データセットの測定値ペアに対応する、個々の観測値xのセットがxとして与えられると、標本分布f、及び任意選択で事前分布g(θ)から、観測値xの結合確率を最大化するθの値を検出することによって、母集団パラメータθ(収縮期血圧と拡張期血圧との組合せに対応する)のベクトルの推定値
【数1】
を検出する。
【数2】
【0041】
結合確率は、個々の確率の積として計算することができる。しかし、特定の実施形態では、包絡線データセットの測定値が統計的に独立していないことを考慮することができ、その場合、結合確率の計算は、単に個々の確率を乗算するよりも複雑になる可能性がある。この場合、確率を乗算するのではなく、個々の確率の対数の合計を最大化することによって、最大値を検出することもでき、これにより、数値的に振舞いが適切でない、長い一連の乗算が回避される。
【数3】
【0042】
fは、経験的に言えば、カフ圧が拡張期~収縮期の範囲外にある場合、血流は、拍動性がないか又は拍動性が弱い可能性がより高く、拡張期~収縮期の範囲内では、拍動性の強い流れである可能性がより高いという関係を表しているべきである。いくつかの好ましい実施形態では、fは、ロジスティック関数又は釣鐘曲線のような滑らかな関数の合成として構築でき、これにより、最大値を検出するための標準最適化アルゴリズムの使用が容易になる。いくつかの実施形態では、fの構築では、最小及び最大振動振幅の範囲など、包絡線データセット自体から得られるいくつかの情報も考慮される。
【0043】
fが構築されると、いくつかの可能な方法のうちの1つを使用して、有効な収縮期と拡張期とのペアのセットでの、fの全体的な最大値を検出することができる。起こり得る収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアのセットは、サイズが限られているので、すべての起こり得るペアについて尤度値を計算し、最大値を検出することによって、中程度の計算能力でも全セットを網羅的に検索できる、いくつかの実施形態が実現される。内点法又は勾配探索などの、標準的な最適化アルゴリズムを使用することも可能である。最後に、fの選択に応じて、解析的解法を使用できる可能性がある。
【0044】
したがって、提示されている技法は、収縮期血圧及び拡張期血圧を計算する際の、包絡線データセットの個々の測定点への依存をできるだけ少なくしている。この技法は、さらに、血流測定値がないか、又は僅かである(例えば、振動振幅がないか、又は僅かである)包絡線データセットの測定値ペアを含む、利用可能な情報のうちのより多く又はすべてを、効率的に使用する。こうした測定点に含まれる情報は、通常、「最大振幅アルゴリズム」タイプの手法では無視されるが、開示されている技法では、かかる測定点が情報に寄与し、尤度関数の最大値がより顕著になるであろう。例えば、カフ圧Xで振幅がゼロに近い、包絡線データセットの測定値ペアは、Xを含まない血圧範囲の可能性をより高め、Xを含む血圧範囲の可能性をより低くする。
【0045】
図2は、本明細書で説明されている技法に従って対象者の血圧を決定するための、様々な実施形態によるシステム2の構成図である。システム2は、非侵襲的血圧(NIBP)監視システム2、すなわち対象者の血圧を非侵襲的に測定するシステムを形成する。血圧は、上記で言及されたように、身体部分に加えられる様々な程度の制限それぞれに対する対象者の身体部分の血流の測定値が含まれる包絡線データセットから決定される。図2に示されている実施形態では、身体部分に制限を加えるために、カフ4が使用される。しかし、他のタイプのデバイスを使用して身体部分に制限を加え、身体部分の血流を変化させることができることが理解されよう。例えば、電気的、機械的、空気圧又は液圧式に作動させて締め付け、加える圧力を変化させる、止血帯を使用することができる。
【0046】
図2のシステム2は、カフ4と、カフ4に(例えば接続チューブ7を介して)接続されたポンプ6と、カフ4内の圧力を測定するためのカフ圧センサ8とを備える。カフ圧センサ8は、時間の経過に伴うカフ4内の圧力を表すか、又は圧力に関連する、カフ圧信号を出力する。カフ圧信号は、包絡線データセットの、身体部分に加えられる様々な程度の制限の測定値を提供する。カフ4は、関心のある対象者の身体部分の周囲、例えば腕又は脚など、手足の周囲に配置されるべきものであり、ポンプ6は、カフ4を選択的に膨張させるように制御可能である。ポンプ6は、カフ4を選択的に収縮させることもでき、且つ/又はカフ4を収縮させることができるように、弁(図示せず)が設けられる。カフ圧センサ8は、少なくともカフ4が、カフ4の内側に位置する動脈に所定の刺激を与えているときに(これは、カフ4の膨張中、カフ4の収縮中、又はカフ4内の圧力が特定のレベルに保持されている間であり得る)、カフ4内の圧力を測定する。
【0047】
カフ4、ポンプ6、及びカフ圧センサ8は、測定デバイス10を形成していると見なすことができる。図1に示されているシステム2は、測定デバイス10に加えて、測定デバイス10から供給される包絡線データセットから対象者の血圧を決定するために、本明細書で説明されている技法に従って動作する、装置12も備える。装置12は、したがって、カフ圧センサ8からカフ圧信号を受信するよう構成される。いくつかの実施形態では、装置12は、ポンプ6の動作を制御し、それにより、適切なタイミングでカフ4の膨張/収縮を開始するよう構成される。装置12は、図2では測定デバイス10とは別々に示されているが、いくつかの実施態様では、測定デバイス10は装置12の一部であり得、その逆もあり得ることが理解されよう。
【0048】
装置12は、サーバ、デスクトップコンピュータ、ラップトップ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、スマートウォッチなどのコンピュータ処理デバイス、又は対象者/患者の様々な生理学的特性を監視する(任意選択で、表示する)ために使用される、患者監視デバイス(例えば、臨床環境において、患者のベッドサイドに位置する監視デバイス)など、臨床環境で通常見られる他のタイプのデバイスの形態であるか、又はデバイスの一部である。
【0049】
システム2は、対象者の身体部分の血流(又は拍動性の血流)を測定するための、血流センサを備える。いくつかの実施形態では、包絡線データセットを形成する身体部分の血流の測定値は、血流によるカフ4内の圧力振動の振幅の測定値である。こうした実施形態では、血流の測定値は、カフ圧信号から得られるため、カフ圧センサ8が、血流センサとして使用される。このタイプの血流測定は、オシロメトリック測定又はオシロメトリック法とも呼ばれる。
【0050】
代替実施形態では、包絡線データセットを形成する身体部分の血流の測定値は、PPG信号を供給するPPGセンサ14の形態の、血流センサを使用して取得される。このタイプの血流測定は、光電式容積脈波測定とも呼ばれる。したがって、こうした実施形態では、システム2は、カフ圧センサ8及び1つ又は複数のPPGセンサ14を備える。1つ又は複数のPPGセンサ14は、測定デバイス10の一部であり得る。PPGセンサ14は、対象者の身体の、カフ4より遠位に配置されるべきであり、身体のその部分を通過する血流に関係するPPG信号を出力する。PPGセンサ14は、当業者には知られているように、1つ又は複数の光センサ、及び典型的には、1つ又は複数の光源を備える。PPGセンサ14から出力されるPPG信号は、光センサからの生の測定信号であり、PPG信号は、例えば、経時的な光強度を表すアナログ信号又はデジタル信号であり得る。
【0051】
他の代替実施形態では、包絡線データセットを形成する身体部分の血流の測定値は、膨張可能なカフ4と本体部分との間に配置された、流体又はゲルで満たされたパッド内の圧力又は圧力振動を測定する、圧力センサの形態の血流センサを使用して取得される。このタイプのセンサは、身体部分とカフ4との間に液圧連結をもたらし、身体部分と空気で満たされたカフ4との間の空気圧連結よりも、質の高い信号を供給する。パッド内の圧力/圧力振動を測定するために使用される圧力センサは、動脈内の圧力を侵襲的に測定するために通常使用されるタイプのものである可能性がある。「シェルカフ」としても知られる、かかる血流センサの例は、Josef Briegel医学士等による「心臓以外の手術中に動脈の血圧を測定するための、高忠実度上腕カフの臨床評価」(Clinical Evaluation of a High-fidelity Upper Arm Cuff to Measure Arterial Blood Pressure during Noncardiac Surgery)、麻酔学2020年11月号、第133巻、997~1006頁で説明されている。圧力センサは、測定デバイス10の一部であり得る。圧力センサは、カフ4、並びに身体部分の、パッド及びカフ4の下を通過する血流によって加えられる圧力による、パッド内の圧力に関係する圧力信号を出力することができる。圧力センサから出力される圧力信号は、圧力センサからの生の測定信号であり、圧力信号は、例えば、経時的なパッド内の圧力/圧力振動を表す、アナログ信号又はデジタル信号であり得る。
【0052】
他の代替実施形態では、包絡線データセットを形成する身体部分の血流の測定値は、(動脈内の乱流によって生じるコロトコフ音を含む、血流の音を測定するための)1つ若しくは複数のマイク16、又は(ドップラシフトから、血流速度を測定するための)1つ若しくは複数の超音波センサ18の形態の、血流センサを使用して取得される。このタイプの血流測定は、聴診測定とも呼ばれる。したがって、こうした実施形態では、システム2は、カフ圧センサ8及び1つ又は複数の、マイク16又は超音波センサ18を備える。1つ若しくは複数のマイク16又は1つ若しくは複数の超音波センサ18は、測定デバイス10の一部であり得る。センサ16、18は、対象者の身体の、カフ4より遠位に配置されるべきであり、身体のその部分を通過する血流に関係する音信号を出力する。マイク16又は超音波センサ18から出力される音信号は、センサ16、18からの生の測定信号であり、音信号は、例えば、経時的な音/超音波を表すアナログ信号又はデジタル信号であり得る。
【0053】
当業者は、他のタイプの(非侵襲的)センサを使用して身体部分の血流の測定値を取得でき、開示されている技法が、上記で説明されたセンサに限定されるものではないことを理解されよう。
【0054】
装置12は、装置12の動作を制御し、本明細書で説明されている方法を実施又は実行するよう構成され得る、処理ユニット22を備える。処理ユニット22は、本明細書で説明されている様々な機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアによって、多くのやり方で実現され得る。処理ユニット22は、必要な機能を実行するために、且つ/又は必要な機能を成し遂げるよう、処理ユニット22の構成要素を制御するために、ソフトウェア又はコンピュータプログラムコードを使用してプログラムされた、1つ又は複数の、マイクロプロセッサ又はデジタル信号プロセッサ(DSP)を備える。処理ユニット22は、いくつかの機能を実行するための専用ハードウェア(例えば、増幅器、前置増幅器、アナログ/デジタル変換器(ADC)及び/又はデジタル/アナログ変換器(DAC))と、他の機能を実行するためのプロセッサ(例えば、1つ又は複数の、プログラムされたマイクロプロセッサ、コントローラ、DSP、及び関連する回路)との組合せとして実現される。本開示の様々な実施形態で使用される構成要素の例には、従来のマイクロプロセッサ、DSP、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ニューラルネットワークを実現するためのハードウェア、及び/又はいわゆる人工知能(AI)ハードウェアアクセラレータ(すなわち、メインプロセッサと併用できる、AI用途向けに特別に設計されたプロセッサ又は他のハードウェア)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
処理ユニット22は、装置12の動作を制御する際に、且つ/又は本明細書で説明されている方法を実施又は実行する際に、処理ユニット22によって使用されるデータ、情報、及び/又は信号を記憶できる、メモリユニット24に接続されている。いくつかの実施態様では、メモリユニット24は、処理ユニット22が、本明細書で説明されている方法を含む、1つ又は複数の機能を実行するように、処理ユニット22によって実施され得るコンピュータ可読コードを記憶する。特定の実施形態では、プログラムコードは、スマートウォッチ、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、又はコンピュータに向けた、アプリケーションの形態であり得る。メモリユニット24は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、読取り専用メモリ(ROM)、プログラマブルROM(PROM)、消去可能なPROM(EPROM)、及び電気的に消去可能なPROM(EEPROM)などの、揮発性及び不揮発性コンピュータメモリを含む、キャッシュ又はシステムメモリなど、任意のタイプの非一時的な機械可読媒体を備えることができ、またメモリユニット24は、メモリチップ、光ディスク(コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、若しくはブルーレイディスクなど)、ハードディスク、テープ記憶手段、又はメモリスティック、固体ドライブ(SSD)、メモリカードなどを含む、固体デバイスの形態で実現される可能性がある。
【0056】
いくつかの実施形態では、装置12は、装置12のユーザが、情報、データ、及び/又はコマンドを装置12に入力できるようにし、且つ/又は装置12が、装置12のユーザへ情報又はデータを出力できるようにする、1つ又は複数の構成要素を備えるユーザインタフェース26を具備する。ユーザインタフェース26から出力できる情報には、本明細書で説明されている技法に従って包絡線データセットから決定される、収縮期血圧及び拡張期血圧が含まれ得る。ユーザインタフェース26は、キーボード、キーパッド、1つも若しくは複数の、ボタン、スイッチ若しくはダイヤル、マウス、トラックパッド、タッチスクリーン、スタイラス、カメラ、マイクなどを含むがこれらに限定されるものではない、任意の好適な入力構成要素を備えることができ、且つ/又はユーザインタフェース26は、表示画面、1つ若しくは複数の、ライト若しくは光要素、1つ若しくは複数のラウドスピーカ、振動要素などを含むがこれらに限定されるものではない、任意の好適な出力構成要素を備えることができる。
【0057】
装置12の実際の実施態様は、図2に示されている構成要素に、追加の構成要素を備えていることが理解されよう。装置12は、例えば、電池などの電源、又は装置12を主電源に接続できるようにするための構成要素も備える。装置12は、測定デバイス10(又は別個のカフ圧センサ8)、センサ14、16、18、サーバ、データベース、及びユーザデバイスのうちのいずれか1つ又は複数を備える、他のデバイスへのデータ接続及び/又は他のデバイスとのデータ交換を可能にするための、インタフェース回路も備える。
【0058】
図3の流れ図は、本明細書で説明されている技法の実施形態による、血圧を決定する方法を示している。この方法の様々なステップは、装置12、具体的には処理ユニット22によって実行され得る。その点で、そのコードが処理ユニット22によって実行されるときに、処理ユニット22、ひいては装置12に、下記で説明される方法を実行させる、コンピュータプログラムコードが提供され得る。図3の方法は、概ね、プロセッサ、処理ユニット、又はコンピュータによって実現され得る。図3の方法のステップのうちの1つ又は複数は、さらに下記で言及されるように、カフ4(又は他の血流制限デバイス)、ポンプ6、カフ圧センサ8(又は他の「制限度合い」センサ及び/若しくは血流センサ)、並びに(存在する場合には)PPGセンサ14、マイク16、及び超音波センサ18のうちのいずれかを使用するか、又はその使用を必要とし得る。
【0059】
図3の方法のステップ101では、対象者の包絡線データセットが受信される。包絡線データセットには、上記で言及されたように、身体部分に加えられる制限の様々な度合いごとの、対象者の身体部分の血流の測定値が含まれる。包絡線データセットは、ステップ101において、例えば血流測定値が取得されると、関連するセンサ8、14、16、18から直接受信され、この場合、包絡線データセットは、受信された測定値で形成される。ステップ101は、別法として、メモリ、例えばメモリユニット24から、以前に取得された包絡線データセットを取り出すステップを有する。
【0060】
ステップ103では、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアについて、包絡線データセットの測定値を取得する、それぞれの尤度を決定するために、確率密度関数(PDF)のセットを使用する。上記で言及されたように、PDFを使用して、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアについて生じる、特定の包絡線データセットの尤度を定量化する。セット内のPDFは、血流の測定値(例えば振動振幅)、制限の度合い(例えばカフ圧)、収縮期血圧、及び拡張期血圧の、1つ又は複数の変数の関数である。一実施形態では、セット内のPDFは、血流の測定値(例えば振動振幅)、制限の度合い(例えばカフ圧)、収縮期血圧、拡張期血圧、及び最大振動振幅の、5つの変数の関数である。一実施形態では、セット内のPDFは、血流の測定値(例えば振動振幅)、制限の度合い(例えばカフ圧)、収縮期血圧、拡張期血圧、最大振動振幅、及び事前情報を表すパラメータの、6つの変数の関数である。血流の測定値は、測定によって取得される重要な未知の変数なので、特定の制限の度合いでの特定の血流の測定値が、様々な収縮期血圧及び拡張期血圧に対応する尤度が、PDFを使用して定量化される。したがって、PDFのセットにおける個々のPDFは、制限の度合いの特定の値、並びに収縮期血圧値と拡張期血圧値との、特定のペアに関するものであると見なすことができる。
【0061】
式(1)及び(2)の用語を使用すると、PDFのセットにより、包絡線データセットを形成する測定値ペアxのセット、並びにパラメータベクトルθ(収縮期血圧と拡張期血圧との組合せに対応する)の組合せを観測する可能性が、どの程度であるかが定量化される。PDFのセットは、PDFの一連のサブセットで形成されていると見なすことができ、PDFの各サブセットは、収縮期血圧値と拡張期血圧値との特定のペア(例えば、収縮期血圧120mmHg及び拡張期血圧80mmHg)に対応し、サブセット内の各PDFは、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのそのペアについての、特定のカフ圧値(例えば100mmHg)に対するPDFである。
【0062】
収縮期血圧の固定値が120mmHg、拡張期血圧の固定値が80mmHgの場合の、例示的なPDFのサブセットf(x|θ)が、図4に示されている。このPDFのサブセットは、カフ圧値ごとの、それぞれのPDFで構成される。この例示的なPDFのサブセットに基づくと、80mmHgから120mmHgのカフ圧の区間のはるか外側で、低い(又はゼロの)振動振幅を測定する可能性は非常に高く、高い振動振幅を測定する可能性は極めて低い。80mmHgから120mmHgの区間内のカフ圧については、その逆が当てはまる。正規化については下記でさらに論じられ、いくつかの実施形態では、振動振幅の正規化は、複数の最高規模の振動振幅を使用して、例えば、複数の最高Nの規模の振動振幅の中央値を使用して、実行される。正規化は、したがって、観測された最大の振動振幅だけに基づいているわけではないため、観測された最大振動振幅は、1を超える値に正規化されることになる。これは、PDFのセットが、1より大きい正規化された振幅も対象とすることにより考慮される。「良好な質」の測定では、通常、最大値に近い別の包絡線の点が存在するであろう。したがって、中央値を使用して正規化する場合でも、最大振動振幅は1に近くなるであろう。ただし、アーチファクトを含む測定では、最大値が外れ値となり、正規化後の値が1より大幅に大きくなる可能性がある。この大きな値は、収縮期/拡張期圧力のどんな組合せについても、等しく可能性が低いため、尤度の最大値の位置にほとんど影響を与えないであろう。
【0063】
このように、ステップ103では、PDFのセットを使用して、受信した包絡線データセットについての、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアの尤度を決定する。言い換えると、ステップ103は、受信した包絡線データセットが与えられると、対象者が、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアを有する、尤度を提供する。ステップ103で決定されるそれぞれの尤度は、所与の収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアについて生じる、包絡線データセットのすべての測定値ペアの尤度を表すので、本明細書では「結合尤度」とも呼ばれる。
【0064】
ステップ103の特定の実施形態は、それぞれの尤度を決定するための、2ステップのプロセスを有する。第1のステップでは、包絡線データセットの測定値ペアごとに、収縮期血圧値と拡張期血圧値との様々なペアについての、包絡線データセットの測定値ペアを取得する、それぞれの確率が決定される。すなわち、測定値ペアごとに、収縮期血圧と拡張期血圧との第1の値のペアについての第1の確率が決定される、収縮期血圧と拡張期血圧との第2の値のペアについての第2の確率が決定される、などである。第2のステップでは、第1のステップで評価された収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアごとに、第1のステップで決定された収縮期血圧値と拡張期血圧値とのそのペアについての確率を結合することにより、包絡線データセットを取得する尤度が決定される。第2のステップでは、確率を掛け合わせること、又はそれぞれの確率の対数を合計することによって、確率を結合することができる。それぞれの確率の対数を合計することは、これにより、確率を乗算するときに生じる可能性がある、場合によっては数値的に振舞いが不適切な一連の乗算が回避されるので、推奨され得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、ステップ103は、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのすべての起こり得るペアについての、包絡線データセットのそれぞれの尤度を決定するステップを有することができる。すなわち、ステップ103で、収縮期血圧と拡張期血圧とのすべての起こり得る組合せが評価される。収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアのセットのサイズが比較的小さいので、この網羅的な検索が可能である。
【0066】
代替実施形態では、ステップ103は、それぞれの尤度を決定するために、反復最適化アルゴリズムを適用するステップを有することができる。こうした実施形態は、典型的には、ステップ103及び105(下記で説明される)が並行して、さもなければ同時に実行される場合に、使用することができる。こうした実施形態では、網羅的な検索を実行し、収縮期血圧と拡張期血圧とのすべての起こり得るペアについて、尤度を決定する必要がない。
【0067】
図4のPDFの例示的なサブセットに戻ると、この分布の下で確率の高い測定値ペアは、測定される包絡点のセットを生成する、120/80mmHgの血圧の尤度を高めるが、確率の低い測定値ペア(例えば、カフ圧100mmHgでの小さい振動振幅、又はカフ圧150mmHgでの大きい振幅)は、包絡線データセットの測定値ペアを生成する、120/80mmHgの血圧の尤度を低くすることになる。
【0068】
ステップ103でそれぞれの尤度が決定されると、ステップ105で、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧が、包絡線データセットについて最高尤度をもたらす、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペアであると決定される。
【0069】
起こり得る収縮期血圧と拡張期血圧とのペアの、網羅的な検索が実行されるステップ103の実施形態では、ステップ105は、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧を、受信した包絡線データセットについて最高尤度をもたらした、収縮期血圧と拡張期血圧とのペアであると決定するステップを有することができる。それぞれの尤度を決定するために、反復最適化アルゴリズムが使用されるステップ103の実施形態では、アルゴリズムは、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのペア全体にわたって反復適用され、包絡線データセットの尤度の最高値を検出することができる。当業者は、ステップ103/105を実施するために使用できる、様々な相異なる反復最適化アルゴリズムを知っているであろうが、本明細書では詳細は提示しない。それでも、逐次2次計画法、内点法、又は有効制約法などの技法を、ステップ103/105で使用することができる。尤度関数を構築するやり方によっては、複数の極大値が存在する。この場合、局所的最適化アルゴリズムを1回だけ実行すると、大域的な最高値ではなく、極大値のうちの1つに達する場合がある。大域的最適化アルゴリズムも、使用することができる。
【0070】
網羅的な検索、又は実質的に網羅的な検索(例えば、収縮期血圧値と拡張期血圧値とのすべての妥当な組合せにわたって)が実行される実施形態では、この方法は、最大尤度の突出度又は有意性を決定するステップを、さらに有することができる。突出度又は有意性は、最大値の周囲の所定のサイズの近傍を調べることにより、決定することができる。このアルゴリズムでは、近傍における平均尤度又は最小尤度を計算し、最大値とこの値との比を計算することができる。比が大きい場合、最大値は突出していると見なされる。比が小さい場合、最大値は、あまり区別可能ではない/突出していない/有意ではない。最大値の突出度又は有意性により、収縮期血圧値及び拡張期血圧値の決定の質の定量化が実現され得る。いくつかの実施形態では、受信した包絡線データセットでは、十分に突出した又は有意な最大値が得られない場合、収縮期血圧値及び拡張期血圧値は、場合によっては信頼性がないか、又は十分に正確ではないものとして、無視することができる。突出度の正確な定義は、尤度関数の構築に使用される関数によって異なり得る。数値は、シミュレーション(例えば、既知の適切な包絡線と適切でない包絡線との両方を表す、入力として生成された合成の包絡線を使用して)によるばかりでなく、経験的にも(例えば、適切であるか又は適切でないかがわかっている、実際の包絡線を使用して)決定することができる。この場合、機械学習を含む統計的方法を使用して、収縮期血圧値/拡張期血圧値を無視/保持するための、最適な閾値を決定することができる。
【0071】
図5は、収縮期血圧と拡張期血圧との様々な組合せについての、図1に示された包絡線データセットを取得する尤度を示す、マップの図である。図5に示されている尤度は、図1に示された包絡線データセットの対数尤度である。したがって、図5は、ステップ103において、図1の包絡線データセットについての、収縮期血圧と拡張期血圧とのすべての起こり得るペアを網羅的に検索した、出力を表している。図5から、この包絡線データセットについての最高尤度は、収縮期血圧132mmHg及び拡張期血圧74mmHgで生じ、決定された尤度は、これらの値のごく僅かな違いで、大幅に(0までも)低下することが確認できる(尤度は、例えば、収縮期血圧の範囲110~140mmHgの外側ではほぼ0であり、拡張期血圧の範囲60~80mmHgの外側ではほぼ0である)。
【0072】
図3には示されていないが、ステップ105で決定された収縮期血圧値及び/又は拡張期血圧値は、例えば、視覚的及び/若しくは聴覚的に、対象者、又は医師若しくは他の医療提供者など、この方法/装置12の別のユーザに出力でき、且つ/或いは電子的に、例えば、収縮期血圧値及び/又は拡張期血圧値を、対象者用患者記録に記憶する、デバイス又は装置に送信される信号の形で、出力することができる。PDFのセット内の各PDFは、ロジスティック関数及び/又はガウス釣鐘曲線などの滑らかな関数で形成され得る。平滑化関数を使用すると、最大尤度を検出するための反復最適化アルゴリズムの使用が、容易となり得る。好ましい実施形態では、PDFのセットは、収縮期血圧と拡張期血圧との特定の組合せが、これらに関連する確率がゼロになるように構築され得る。例えば、拡張期血圧が収縮期血圧よりも高い、収縮期血圧と拡張期血圧とのすべてのペアは、確率がゼロであるべきである(収縮期血圧及び拡張期血圧の定義から)。
【0073】
図4のPDFの例示的なサブセットは、カフ圧をパラメータとし、予想される振動振幅を、ガウス釣鐘曲線として近似することによって生成された。カフ圧の軸を辿ると、振動振幅軸上の最大値の位置が、この釣鐘曲線を表している。確率密度関数のセットを規定するには、釣鐘曲線の平均値が最大である釣鐘曲線のファミリが使用され、ファミリ内の各釣鐘曲線は、収縮期血圧値と拡張期血圧値との特定のペアに対応する。個々の曲線はそれぞれ、曲線の下の面積が1になるようにスケーリングされる(というのは、実際のガウス釣鐘曲線が、実数全体にわたって規定されているが、圧力及び振動振幅は、負となり得ないからである)。これは大まかな近似であるが、この形であっても、120/80の血圧から得られる包絡線データセットには、好適な検出器である。
【0074】
包絡線の形状をガウス釣鐘曲線として近似する代わりに、拡張期/収縮期の区間の外側が0、拡張期/収縮期の区間の内側が1である関数の、極端な(平滑でない)場合を含む、他の釣鐘型関数を使用することもできる。これでもなお、所与の血圧の検出器が得られるであろう。
【0075】
確率密度関数のサブセットを形成するのに、拡張期/収縮期区間では、釣鐘型分布を使用できるが、この区間の外側では、スケーリングされた釣鐘型分布、又は指数分布のような片側分布を使用することができる。
【0076】
特定の実施態様において、セット内のPDFを形成するのに使用される関数は、計算の複雑さとモデリングの精度との間の妥協点として、選択され得ることが理解されよう。「十分適切に」機能する、単純な基底関数のセットは、追加で最小限の恩恵しかもたらさない、計算的に複雑なモデルよりも好ましい。
【0077】
いくつかの実施形態では、ステップ103は、包絡線データセット又は包絡線データセットに基づいたPDFのセットを、スケーリングするステップを有する。このスケーリングは、「血流スケーリング係数」と呼ばれる、スケーリング係数を使用して実行される。PDFのセットの血流値と、包絡線データセットの血流の測定値とを揃えるために、血流スケーリング係数を使用することができる。すなわち、血流スケーリング係数を使用して、各PDFの血流値を、包絡線データセットに対して正規化するか、又は包絡線データセットの血流の測定値を正規化することができる。別法として、血流スケーリング係数を使用して、PDFのセットの血流値と、包絡線データセットの血流の測定値との両方に、血流スケーリング係数を分配することにより、PDFのセットの血流値と包絡線データセットの血流の測定値とを、揃えることができる。例えば、血流スケーリング係数は、(i)PDFのセットの血流値、及び(ii)包絡線データセットの血流の測定値のうちの一方に、血流スケーリング係数の平方根を乗算し、(i)PDFのセットの血流値、及び(ii)包絡線データセットの血流の測定値のうちの他方を、血流スケーリング係数の平方根で除算することにより、分配することができる。血流スケーリング係数は、包絡線データセットの血流の、1つ又は複数の最大測定値に基づき得る。包絡線データセットの血流の最大測定値の大きさは、典型的には、対象者の身体的特徴、カフのサイズ、カフのタイプ、カフが身体部分にどの程度しっかりと取り付けられているかなど、対象者間で異なる可能性があり、また同じ対象者の測定値間で異なる可能性がある、いくつかの要因に依存する。したがって、血流の最大測定値の大きさを使用して、PDFの血流スケーリング係数を導出することにより、PDFを、血流スケーリング係数に適合させることができる。いくつかの実施形態では、血流スケーリング係数は、最大規模の、包絡線データセットの血流の測定値に基づいて決定される。例えば、最大振幅である血流の測定値を1にスケーリングでき、他のすべての振幅を、それに応じてスケーリングすることができる。ただし、最大規模の血流測定値がアーチファクトであれば、かなりの誤差につながる可能性があるため、血流のスケーリング係数は、スケーリングが、外れ測定値及び他の誤差の影響をあまり受けなくなるように、複数の最大規模の血流の測定値から決定されることが好ましい。血流スケーリング係数は、複数の最大規模の測定値の関数から決定することができ、関数は、平均値、最頻値、又は中央値などの代表値であり得る(平均値及び最頻値よりも、中央値が好ましい選択肢である)。血流スケーリング係数を決定するために使用する測定値の数は、2から10の間、例えば3、5、又は7であり得る。血流スケーリング係数は、中央値を取得し、3つの最大規模の測定値を使用する場合、アーチファクトである最大値のうちの1つに対して耐性があり、血流スケーリング係数は、中央値を取得し、5つの最大規模の測定値を使用する場合、アーチファクトである最大値のうちの2つに対し耐性がある、などである。複数の最大規模の血流測定値から血流スケーリング係数を決定することは、血圧測定技法が、包絡線データセットの単一の測定点に、あまり依存しないようになることにも寄与している。
【0078】
いくつかの実施形態では、この方法は、PDFのセットを生成するステップをさらに有することができる。PDFのセットは、図4に関して上記で概説されたように生成することができる。上記で言及されたように、いくつかの実施形態では、PDFを生成するときに、収縮期血圧及び拡張期血圧の分布に関する事前情報を、使用又は考慮することができる。事前情報は、1つ又は複数の事前分布、g(θ)の形態である。事前情報は、静的情報、すなわち、変化しない情報、又はすぐには変化しない情報に基づく。静的情報には、例えば、対象者の特性(例えば、年齢、身長、体重、病状、投薬など)、血流の測定に使用されるセンサの特性(例えば、そのセンサを使った測定値に存在するオフセット及び/又はノイズの指標)、身体部分に制限を加えるために使用されるデバイス(例えば、カフ)の特性、収縮期血圧及び拡張期血圧の生理学的に起こり得る値に関する情報、並びに生理学的に起こり得る、収縮期血圧値と拡張期血圧値との差異に関する情報が含まれ得る。(上記で言及された)最後の2つの例では、収縮期血圧と拡張期血圧との、特定の組合せの生じる確率はゼロであり、収縮期血圧と拡張期血圧との、他の組合せの生じる確率はほぼゼロであるか、さもなければ低い。例えば、拡張期血圧は、収縮期血圧よりも高くはなり得ないため、拡張期血圧が収縮期血圧よりも高いどんなペアの確率も、ゼロになるはずである。両極値での、収縮期血圧及び拡張期血圧の特定の値、例えば、既知の生理学的範囲外にある、非常に低い値及び非常に高い値も、確率がゼロ又はほぼゼロであり得る。同じく、脈圧の特定の値(収縮期血圧と拡張期血圧との差)も、可能性がより低く、生じる確率はゼロに近いか、さもなければ低いはずである。同様に、収縮期血圧及び拡張期血圧の特定の値、例えば一般的な生理学的範囲内の値は、可能性がより高く、PDFにおいて、この可能性をより高める、確率を有することができる。同じく、脈圧の特定の値も、可能性がより高く、それに応じてPDFが構築されるはずである。PDFでこの事前情報が考慮されていると、測定された包絡線データセットによって強力に裏づけられない限り、対象者の、収縮期血圧及び拡張期血圧が通常の生理学的範囲外にあると見なされる尤度は、比較的低い。
【0079】
いくつかの実施形態では、事前情報はさらに、又は別法として、動的情報、すなわち、変化する情報、又はすぐに変化する情報を含む。動的情報には、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧の、1つ又は複数の以前の値が含まれ得る。この動的情報を使用して、包絡線データセットを使用して検出される収縮期血圧及び拡張期血圧の新しい値が、対象者の収縮期血圧及び拡張期血圧の以前の値に近くなる可能性がより高くなるように、PDFを生成することができる。対象者の以前の値がPDFに与える正確な影響は、血圧の変化が比較的ゆっくりであるので、以前の値がどれだけ新しいものかによって異なり得る。そのため、以前の値がより最近のものであれば、以前の値がより古い場合よりも、収縮期血圧及び拡張期血圧が現在の値を示す可能性が一層高くなる。
【0080】
PDFの厳密な数学的定義では、範囲全体にわたる積分値が、1である必要があるが、上記の方法は、範囲全体にわたる積分値が1より大きく(又は1より小さく)なるような、何らかのPDFスケーリング係数でスケーリングされたPDFを使用して、実施できることが理解されよう。またステップ103で、それに応じたPDFのセットを使用することを、理解されたい。すなわち、ステップ103は、PDFのセットを使用するステップ、すなわち確率軸がスケーリング係数によってスケーリングされた、PDFのセットを使用するステップを有する。例えば、図4を参照すると、PDFのセットによってもたらされる最高確率密度が3になるように、確率密度軸をスケーリングすることができる。PDFスケーリング係数は、例えば2、3など、任意の値であってもよく、又はステップ103及び105を実施するアルゴリズムの性能を向上させるように、選択されてもよい。
【0081】
したがって、従来の技法よりも、包絡線データセットの特定の測定点にも単一の測定点にもあまり依存することなく、収縮期血圧及び拡張期血圧を包絡線データセットから決定するための技法が提供される。
【0082】
開示されている実施形態に対する変形形態は、当分野の技術者が、本明細書に説明されている原理及び技法を実践する際に、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、理解し、生み出すことができる。特許請求の範囲で、「有する」という単語は、他の要素も、他のステップも排除するものではなく、また単数形の要素は、複数を除外するものではない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に列挙された、いくつかの項目の機能を果たす。特定の手段が、互いに相異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが、利点をもたらすようには使用できないことを示すものではない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一体に、又は他のハードウェアの一部として供給される、光記憶媒体又は固体媒体などの好適な媒体に記憶又は分散されてもよく、インターネット又は他の有線若しくは無線の電気通信システムなどを介して、他の形態で分散されてもよい。特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、範囲を限定するものと解釈すべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】