(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】歯科医療の改善
(51)【国際特許分類】
A61C 1/08 20060101AFI20240329BHJP
A61C 1/07 20060101ALI20240329BHJP
A61C 3/03 20060101ALI20240329BHJP
A61C 17/20 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61C1/08 F
A61C1/07 A
A61C3/03
A61C17/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565846
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2022060881
(87)【国際公開番号】W WO2022229090
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513200313
【氏名又は名称】キングス・カレッジ・ロンドン
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】フェンロン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】マッカーシー,クレア
(72)【発明者】
【氏名】アーケル,ハサン エリンク
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA01
4C052AA10
(57)【要約】
本発明は、歯科で使用するデバイスを冷却するための冷却剤に関し、前記冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む。本発明はまた、前記冷却剤を利用した歯科用デバイスの冷却方法、歯科用デバイスの冷却方法に使用する前記冷却剤、および前記冷却剤を含む装置およびキットに関する。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科で使用するデバイスを冷却するための冷却剤であって、水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む冷却剤。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却剤であって、少なくとも20cP、好ましくは少なくとも30cPの粘度を有する、冷却剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷却剤であって、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%の前記ニュートン流体を含む、冷却剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の冷却剤であって、前記ニュートン流体はグリセリンである、冷却剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の冷却剤であって、水をさらに含む、冷却剤。
【請求項6】
請求項5に記載の冷却剤であって、少なくとも10重量%の水、好ましくは少なくとも20重量%の水を含む、冷却剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の冷却剤であって、増粘剤、好ましくは、ガム(例えば、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム)、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)およびそれらの混合物から選択される増粘剤を含む、冷却剤。
【請求項8】
請求項7に記載の冷却剤であって、アルギン酸塩、好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムおよびそれらの混合物から選択されるアルギン酸塩を含む、冷却剤。
【請求項9】
請求項7または8に記載の冷却剤であって、前記増粘剤を0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%含有する、冷却剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の冷却剤であって、前記デバイスが高速ハンドピースまたは超音波スケーラーハンドピースを含む、冷却剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の冷却剤であって、グリセリン、アルギン酸塩、および水を含む、冷却剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の冷却剤であって、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、水、および任意選択で好ましくはリン酸三ナトリウムである添加剤からなる、冷却剤。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の冷却剤であって、
20重量%~90重量%のグリセリン;
0.1重量%~5重量%の増粘剤、好ましくはアルギン酸塩およびポリアクリル酸から選択される増粘剤;
5重量%~70重量%の水;および
任意で添加剤、好ましくはリン酸三ナトリウムを含む、
冷却剤。
【請求項14】
請求項13に記載の冷却剤であって、
35重量%~60重量%のグリセリン; 0.1重量%~1重量%の増粘剤、好ましくはアルギン酸塩およびポリアクリル酸から選択される増粘剤;
35重量%~60重量%の水;および
任意で添加剤、好ましくはリン酸三ナトリウムを含む、
冷却剤。
【請求項15】
歯科で使用するためのデバイスを冷却する方法であって、冷却剤を前記デバイスの作動端に送達することを含み、前記冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記冷却剤が、請求項2~14のいずれか一項に記載されたものである、方法。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の方法であって、手術または治療により人体または動物の身体を治療するための方法ではない、方法。
【請求項18】
請求項15から17のいずれか一項に記載の方法であって、前記デバイスが高速ハンドピースを含む、方法。
【請求項19】
請求項15から17のいずれか一項に記載の方法であって、前記デバイスが超音波スケーラーハンドピースを含む、方法。
【請求項20】
請求項15~19のいずれか一項に記載の方法であって、歯科処置におけるエアロゾル化を低減することを目的とする、方法。
【請求項21】
請求項15から20のいずれか一項に記載の方法であって、冷却されている間に前記デバイスを用いて歯科処置を行うことをさらに含む、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記歯科処置が歯科ドリリングである、方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記歯科処置が超音波スケーリングである、方法。
【請求項24】
歯科で使用するデバイスを冷却する方法での使用のための冷却剤であって、前記方法は、前記デバイスの作動端に前記冷却剤を送達することを含み、前記冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む冷却剤。
【請求項25】
請求項24に記載の使用のための冷却剤であって、前記冷却剤は請求項2~14のいずれか一項に記載されたものである、冷却剤。
【請求項26】
請求項24または25に記載の使用のための冷却剤であって、前記デバイスが高速ハンドピースを含む、冷却剤。
【請求項27】
請求項24または25に記載の使用のための冷却剤であって、前記デバイスが超音波スケーラーハンドピースを含む、冷却剤。
【請求項28】
請求項24~27のいずれか一項に記載の使用のための冷却剤であって、歯科処置におけるエアロゾル化を低減することを目的とする、冷却剤。
【請求項29】
請求項24~28のいずれか一項に記載の使用のための冷却剤であって、前記方法が、冷却されている間に前記デバイスを用いて歯科処置を行うことをさらに含む冷却剤。
【請求項30】
請求項29に記載の使用のための冷却剤であって、前記歯科処置が歯科ドリリングである、冷却剤。
【請求項31】
請求項29に記載の使用のための冷却剤であって、前記歯科処置が超音波スケーリングである、冷却剤。
【請求項32】
歯科での使用のための装置であって、請求項1~14のいずれか一項に記載の冷却剤を含む冷却剤リザーバと、デバイスを冷却するために前記デバイスの作動端に冷却剤を送達するために冷却剤リザーバに接続された前記デバイスとを含む装置。
【請求項33】
請求項32に記載の装置であって、前記デバイスが超音波スケーラーハンドピースまたは高速ハンドピースを含む、装置。
【請求項34】
請求項1~14のいずれか一項に記載の冷却剤と、歯科で使用するためのデバイスとを含む、歯科で使用するためのキット。
【請求項35】
請求項34に記載のキットであって、前記デバイスが超音波スケーラーハンドピースまたは高速ハンドピースを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療の改善に関し、より詳細には、歯科処置中のエアロゾル発生を防止または低減するのに役立つ方法、組成物およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゾル発生処置(AGP)中に血液中および唾液中に存在する微生物に繰り返し曝露されると、歯科専門家は感染症および職業上の後天性呼吸器疾患を発症するリスクにさらされる(King et al 1997, Bennett 2000, Szymanska 2007, Reddy et al 2015)。5μm未満の空中飛沫のエアロゾル化によるSARS-CoV-2の伝播は、潜在的なリスクとして特定されており(Peng et al、2020)、これは一般的な医療および歯科処置から生じる(Public Health England、2020)。歯科医師、歯科衛生士、歯科セラピストは、歯科看護師とともに、エアロゾルおよび非エアロゾル発生処置中に口腔に物理的に近く、術者の目から口腔までの空間の平均距離がわずか35~40cmと短いため(Pirvu et al, 2014)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最も高いリスクのカテゴリーに属する。
【0003】
歯科治療中には、歯科用器具、唾液および呼吸器源、並びに手術部位といった、空気感染源となる可能性のあるものが数多くある。ほとんどの歯科処置では、器具が使用される部位から浮遊粒子を発生させる回転デバイスまたは超音波デバイスの使用が必要である。噴霧された粒子はエアロゾルと呼ばれる細かい霧や雲を生成し、歯科職員や患者に深刻なリスクをもたらす(Meng、2020)。直径が10μm未満の微粒子が最も懸念され、その大きさ、空気中での長時間の浮遊、鼻孔、口、目および皮膚への接触、呼吸器系への侵入による重大なリスクをもたらす(Harrel & Molinari、2004)。
【0004】
一般的に使用されるエアロゾル生成デバイスは、歯の切断および虫歯の除去のために毎分~400,000回転で動作する高速ハンドピースと、歯周病の治療において使用される口腔内のバイオフィルムおよび歯石の破壊並びに除去に使用される超音波スケーラー(周波数範囲27~40KHz)である。これらのデバイスは冷却剤として水を利用しており、水は空気と混合されると、様々なサイズと速度の粒子と液滴の細かい霧に噴霧される。これらのデバイスは、感染した可能性のある体液および破片を生成されたエアロゾル内に取り込む可能性がある。超音波手順が最も多くのエアロゾルを生成し、僅差で高速エアタービンが続く(Veena et al 2015、Bennett et al 2000)。このため、規制当局は現在、10μm未満のエアロゾル微粒子を生成するデバイスの使用を制限および回避し、Sars-Cov2パンデミック中のリスクおよびエアロゾル生成に応じて分類している。
【0005】
最近の研究により、汚染されたエアロゾルおよび飛沫は、両方の手順の結果として、発生源に最も近いところ(2m以内)で最も高いが、同様に、発生源からかなりの距離を(4メートル離れても低レベルで検出される)、臨床領域の範囲内を越えて(Allison et al 2020)、治療が施されるところのすぐ近くの領域から離れた物の表面を含む領域までも移動することが確認された。
【0006】
飛沫(「スパッタ」とも呼ばれる)は、直径50μm以上の非常に大きな粒子で、発生源から軌道を描いて出発し、物の表面に当たるか地面に落ちると止まる。弾道は発射された弾丸の弾道に似ている。飛沫は、空気、汚染水、体液の混合物で、直径50μmから数ミリメートルの粒子として見られる。これらの大きくて重い飛散粒子は、直径が10μm未満の小さな粒子ほどは空気中に浮遊したままでいないため、問題は少なくなる。
【0007】
新型コロナウイルス感染症の歯科感染リスクの結果、多くの歯科治療へのアクセスが制限され、エアロゾル発生処置は必要不可欠とみなされる場合にのみ実施され、その結果、通常の状況であれば避けられたであろう、予約の延期、治療の遅れ、歯原性感染症の進行、痛み、抜歯が発生している。さらに、適切な治療の代わりに抗生物質を処方する現在の一般的な慣行は、患者にとっての短期的な利益が限られており、抗菌薬耐性に長期的な影響を与える可能性がある。通常の歯科サービスを再開する取り組みがなされているにも関わらず、PPEのコストと入手容易性、休閑期間と除染期間が制限要因となっており、プライマリケアの実践に不釣り合いな影響を与えている(Izzetti et al, 2020)。
【0008】
したがって、特に回転式および超音波器具を使用した安全な歯科診療を可能にする解決策が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、歯科で使用するデバイスを冷却する方法を提供し、前記方法は冷却剤を前記デバイスの作動端に送達するステップを含み、前記冷却剤は、水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む。
【0010】
本発明はまた、歯科で使用するためのデバイスを冷却する方法を提供し、前記方法は冷却剤を前記デバイスの作動端に送達することを含み、前記冷却剤はグリセリンを含む。
【0011】
本発明はまた、歯科で使用するデバイスを冷却する方法に使用するための冷却剤を提供し、前記方法は前記デバイスの作動端に前記冷却剤を送達することを含み、前記冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む。
【0012】
本発明はまた、歯科で使用するデバイスを冷却する方法で使用するための冷却剤を提供し、前記方法は前記デバイスの作動端に前記冷却剤を送達することを含み、前記冷却剤はグリセリンを含む。
【0013】
本発明はまた、歯科で使用するためのデバイスを冷却するための冷却剤を提供し、前記冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む。
【0014】
本発明はまた、歯科で使用するためのデバイスを冷却するための冷却剤を提供し、前記冷却剤はグリセリンを含む。
【0015】
本発明はまた、歯科で使用するための装置を提供し、前記装置は、上述した冷却剤を含む冷却剤リザーバと、デバイスを冷却するためにデバイスの作動端に冷却剤を送達するために冷却剤リザーバに接続された前記デバイスとを備える。
【0016】
本発明はまた、歯科で使用するためのキットを提供し、前記キットは、上述した冷却剤と、歯科で使用するためのデバイスとを含む。
【0017】
本発明はまた、歯科で使用するハンドピースに代替液体冷却剤を接続するためのカップリングを提供し、前記カップリングは、
歯科用ベースユニットからリソース接続を受け取るための入口インターフェイスであって、前記リソース接続は第1の液体冷却剤接続を含む、入口インターフェイスと;
前記リソース接続の少なくとも一部を前記ハンドピースに伝達するために前記入口インターフェイスと連通する出口インターフェイスと;を備え、
前記カップリングは、代替液体冷却剤接続を受け取るための補助入口を備え、前記補助入口は、第1液体冷却剤接続に代えて、出口インターフェイスを介して前記代替液体冷却剤接続をハンドピースに伝達するために、前記出口インターフェイスと連通可能である。
【0018】
本発明はまた、歯科で使用するための装置を提供し、前記装置は、第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと、前記第1の液体冷却剤とは異なる代替液体冷却剤を含む代替冷却剤リザーバと、ハンドピースとを備え、前記ハンドピースは、上述したように、カップリングを介して前記第1の冷却剤リザーバと前記代替冷却剤リザーバに接続される。
【0019】
本発明はまた、歯科で使用するための装置を提供し、前記装置は、第1の粘度を有する第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと、
前記第1の粘度とは異なる第2の粘度を有する第2の液体冷却剤を含む第2の冷却剤リザーバと、
各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースと、を備える。
【0020】
本発明はまた、歯科で使用するための装置を提供し、前記装置は、
水を含有する第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと;グリセリンを含む第2の液体冷却剤を含む第2冷却剤リザーバであって、前記第1の液体冷却剤は前記第2の液体冷却剤とは異なる第2冷却剤リザーバと;各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースと、を備える。
【0021】
本発明はまた、歯科で使用するための振動スケーラー用のチップを提供し、前記チップは、冷却剤を受け取るための近位入口と、
スケーリングを補助するために振動する遠位作動部分と、
前記入口を介して受け取った冷却剤を、前記作動部分を冷却するために送達する出口と、を備え、
前記作動部分は前記チップの凹面および凸面を画定し、前記出口は前記チップの凸面上に位置する。
【0022】
本発明はまた、上述したようにチップに接続されたスケーラーハンドピースを備える、歯科で使用するための振動スケーラーを提供する。
【0023】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、「備える(comprise)」および「含む(contain)」という語、およびその語の変形、例えば「備えている(comprising)」および「備える(comprises)」は、「含むがそれに限定されない」ことを意味し、他の構成要素、数、またはステップを排除するものではない。さらに、文脈で別段の要求がない限り、単数形は複数を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈で別段の要求がない限り、本明細書は単数形だけでなく複数形も考慮するものとして理解されるべきである。
【0024】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかと関連して説明したとおりであり得る。先行する段落、特許請求の範囲および/または後述の説明および図面、並びに特にそれらの特徴点において提示される種々の態様、実施形態、例示および代替案は、本出願の範囲内において、単独で、または任意の組み合わせで、採用され得ることが、明示的に意図される。よって、全ての実施形態および/また実施形態の特徴は、これらの特徴が相容れないものでない限り、いかなる方法および/または組み合わせにおいても、組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
次に、添付の図面を参照して、本発明の1つまたは複数の実施形態を単なる例として説明する。
【
図1A】
図1は、歯科ユニットの一連の概略図である。
図1Aは、標準的な従来技術の歯科用ユニットを示す。
【
図1B】
図1Bは、内蔵型超音波スケーラーおよび1つの改良カップリングを備えた、最初の本発明の改良歯科ユニットを示す(挿入図によりさらなる詳細を示す)。
【
図1C】
図1Cは、一体化された超音波スケーラーおよび2つの改良カップリングを備える第2の発明の改良歯科用ユニットを示す。
【
図2A】
図2は、改良カップリングの一連の概略図である。
図2Aは、第1の改良カップリングを示す。
【
図2B】
図2Bは、制御ユニットを有する第2の改良カップリングを示す。
【
図3】
図3は、超音波スケーラー用の改良チップの一連の概略図である。
図3Aは改良チップを示す。
図3Bおよび
図3Cは、使用中の改良チップを示す。
【
図4A】
図4は、後述の実施例で使用される実験装置の一連の図である。
図4Aは実験装置の図である。
【
図5】
図5は、後述の実施例で使用される超音波スケーラーチップの写真である。左側のチップは2Uチップ、中央のチップは1Pチップ、右側のチップは改良チップである。
【
図6】
図6は、後述の実施例1で説明するように、水冷却剤(
図6A)および改良冷却剤(
図6B)と非接触位置にある1p超音波スケーラーチップの実験結果を示す2枚の静止画像である。
【
図7】
図7は、後述の実施例1で説明するように、模擬歯表面に近接した、1p超音波スケーラーチップおよび改良チップの実験結果の記録における一連の静止画である。
図7Aは、冷却剤として水を使用した1pチップの結果を示す。
図7Bは、改良冷却剤を使用した1pチップの結果を示す。
図7Cは、改良冷却剤を使用した改良チップの結果を示す。
【
図8】
図8は、後述の実施例1で説明するように、水である冷却剤(
図8A)および改良冷却剤(
図8B)を用いて模擬歯面に接触する1p超音波スケーラーチップの実験結果を示す2枚の静止画像である。
【
図9】
図9は、後述の実施例1で説明するように、非接触位置における高速ハンドピースの実験結果の記録から取られた一連の静止画である。
図9Aは、冷却剤として水を使用した場合の結果を示す。
図9Bは、改良冷却剤を使用した場合の結果を示す。
図9Cは、改良冷却剤と上下逆さまのハンドピースを用いた結果を示す。
【
図10】
図10は、後述の実施例1で説明される、水(
図10A)および改良冷却剤(
図10B)を用いた、模擬歯の表面に近接した高速ハンドピースの実験結果の記録から取られた2枚の静止画である。
【
図11】
図11は、後述の実施例2で説明する超音波スケーラーの実験結果の一連の緑色レーザー光散乱画像である。
図11Aは、冷却剤として水を使用した1pチップの結果を示す。
図11Bは、改良冷却剤を用いた1pチップの結果を示す。
図11Cは、改良冷却剤と改良チップを使用した結果を示す。
【
図12】
図12は、後述の実施例2で説明する高速ハンドピースの実験結果の2つの緑色レーザー光散乱画像である。
図12Aは冷却剤として水を用いた場合の結果を示す。
図12Bは改良冷却剤を用いた場合の結果を示す。
【
図13A】
図13は、後述の実施例3で説明する熱試験の結果を示す2つのグラフである。
図13Aは1pチップと水とを用いる超音波スケーラーの結果を示す。
【
図13B】
図13Bは1pチップと改良冷却剤を用いる超音波スケーラーの結果を示す。
【
図14】
図14は、後述の実施例5で説明する超音波スケーラー音響試験の結果を示す2つのスペクトルである。上のスペクトルは水であり、下のスペクトルは改良冷却剤である。
【
図15】
図15は、以下の実施例8で使用される試験チャンバーの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、歯科医療を改善する方法、組成物およびデバイスを提供する。本発明の様々な態様による利点として、歯科処置中のエアロゾル発生の防止または低減が可能になるとともに、性能の他の改善がもたらされる。
【0027】
回転デバイスおよび超音波デバイスは、ほとんどの歯科処置で日常的に使用されている。施術者/臨床医はハンドピースで歯科用デバイスを保持する。動作または作業/切断/スケーリングエンドピースが取り付けられる。回転または振動するチップまたはバー(bur)は、施術中に冷却を保つために定期的に霧化された水のシャワーを浴びる。本明細書に記載の方法、組成物およびデバイスは、流体シールド/バリア内にデバイスの作動端をカプセル化するように作用し、単独で使用することができる。この流体シールドはデバイスの作動端(チップ/バー)を囲み、歯科処置中に発生する可能性のあるエアロゾル粒子や破片を捕捉するので、デバイス使用時のバイオエアロゾルの伝播および吸入のリスクを軽減する。これを達成するために、本明細書に記載の方法、組成物およびデバイスは、単独でまたは任意の組み合わせで使用することができる。
【0028】
本明細書で使用するとき、スパッタという用語は、直径50μmから数ミリメートルの液滴を指す。「スパッタ」という用語は、「飛沫」という用語と同じ意味で使用される。
【0029】
本明細書で使用するとき、エアロゾルという用語は、直径50μm未満の液滴を指す。微細エアロゾルとは、直径10μm未満の液滴である。非常に細かいエアロゾルは、直径5μm未満の液滴である。
【0030】
本発明は、歯科で使用するデバイスを冷却する方法を提供し、この方法はデバイスの作動端に冷却剤を送達することを含み、冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む。
【0031】
驚くべきことに、歯科用デバイスを冷却するために水よりも粘性の高いニュートン流体を含む冷却剤を使用すると、水の使用と比較してエアロゾル化を有利に抑制し、そして完全になくし得ることが見出された。粘度が高いということは、冷却剤がデバイスの作動端の周囲に流体シールドを形成する傾向があり、潜在的なエアロゾル粒子および破片を捕捉することを意味する。改良冷却剤の使用によって得られるその他の潜在的な利点には、デバイスの性能の向上(たとえば、超音波スケーラーと併用した場合のキャビテーションの増加による)、騒音の低減、および冷却剤に対する患者の感度の低下が含まれる。より粘性の高い流体が含まれると冷却剤からの蒸発が低下する可能性があるため、水と比較して必要な冷却剤も少なくなる可能性がある。
【0032】
本明細書で使用する場合、歯科という用語は、歯、歯肉および口腔に対して行われる処置を指す。歯科には、歯、歯肉および口腔の病気、症状および障害の診断、予防並びに治療が含まれ、また、美容処置、つまり、主に歯、歯肉および口腔の外観を改善するために行われる処置も含まれる。
【0033】
歯科で使用するためのデバイスは、ハンドピースを備えることが好ましく、場合により、ハンドピースに接続されたエンドピースをさらに備えることができる。本明細書で使用されるハンドピースという用語は、様々な歯科処置を行うために使用される手持ち式器具を指す。ハンドピースは、エンドピースにリソース(エネルギー、冷却剤、空気など)を提供できる。本明細書で使用する場合、エンドピースという用語は、特定の歯科処置を行うためにハンドピースに接続する要素を指す。
【0034】
本明細書で使用する場合、作動端という用語は、デバイスの機能を実行するデバイスの部分(一般に自由端)を指す。ハンドピースの作動端は、使用時にエンドピースに接続されるハンドピースの端であってもよい。エンドピースの作動端は、使用中に、治療される歯科(例えば、歯)の表面に近接して、または接触して保持されるエンドピースの遠位部分(一般に自由端)であると考えることができる。ハンドピースがエンドピースに接続されている場合、デバイスの作動端は一般にエンドピースの作動端であると見なされる。
【0035】
歯科用ハンドピースの種類としては、回転エネルギーをエンドピースに与える回転ハンドピース、および振動エネルギーをエンドピースに与えるスケーラーハンドピースが挙げられるが、これらに限定されない。回転ハンドピースには、低速ハンドピース(最大約140,000rpmで回転するハンドピース)および高速ハンドピース(約180,000~450,000rpmで回転するハンドピース)が含まれる。高速ハンドピース(HSS)の回転運動は、電気駆動または空気駆動で行われる。高速ハンドピースで通常使用されるエンドピースには、歯科用バーが含まれる。スケーラーハンドピースには、音波スケーラーハンドピース(約3,000~9,000Hzの周波数で動作する)および超音波スケーラーハンドピース(約20~50kHzの周波数で動作する)が含まれる。超音波スケーラー(USS)ハンドピースは、磁歪式または圧電式である。超音波スケーラーハンドピースで通常使用されるエンドピースには、スケーラーチップが含まれる。
【0036】
高速ハンドピースは、ドリリング処置用の歯科用バーと組み合わせて使用できる。超音波ハンドピースは、超音波スケーリング処置用のスケーラーチップと組み合わせて使用できる。本発明の方法は、高速ハンドピース(例えば歯科用バーと組み合わせたもの)および超音波スケーラーハンドピース(例えばスケーラーチップと組み合わせたもの)の冷却に特に有効である。
【0037】
本明細書で使用される場合、粘度は、特に断りのない限り、動粘度を指す。粘度は、粘度計を使用して、例えばDIN 53019-1規格に準拠した回転粘度計を使用して測定することができる。粘度は、好ましくは室温、例えば20℃で測定することができる。粘度は、好ましくは10RPMの回転速度で測定することができる。これらの条件下での水の粘度は1.0005cPである。粘度はセンチポアズ(cP)で測定できる。1センチポアズは1ミリパスカル秒(mPa・s)に相当する。
【0038】
本発明の方法は、水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む冷却剤を利用する。ニュートン流体の粘度は、好ましくは少なくとも20cP、少なくとも25cP、少なくとも50cP、少なくとも100cP、少なくとも250cP、少なくとも500cP、少なくとも750cPまたは少なくとも1000cPであり得る。ニュートン流体の粘度は、好ましくは3000cP未満、2500cP未満、2000cP未満、1500cP未満、または1000cP未満であり得る。ニュートン流体の粘度は、好ましくは20cP~3000cP、25cP~2500cP、50cP~2000cP、100cP~1500cPまたは250cP~1000cP、例えば500cP~2000cPまたは750cP~1500cPであり得る。
【0039】
本発明の方法における冷却剤は、水よりも高い粘度を有することが好ましい。冷却剤の粘度は、好ましくは少なくとも5cP、少なくとも10cP、少なくとも20cP、少なくとも30cP、少なくとも50cP、少なくとも100cP、少なくとも150cP、少なくとも200cP、少なくとも250cP、または少なくとも300cPであり得る。冷却剤の粘度は、好ましくは3000cP未満、2000cP未満、1750cP未満、1500cP未満、1250cP未満、1000cP未満、750cP未満、500cP未満、400cP未満、350cP未満、300cP未満、250cP未満、200cP未満、150cP未満、100cP未満、または75cP未満であり得る。冷却剤の粘度は、5cP~2000cP、10cP~1750cP、20cP~1500cP、30cP~1250cP、50cP~1000cP、100cP~750cP、150cP~500cP、200cP~400cP、または250cP~350cP、例えば25cP~3000cPであり得る。
【0040】
より高い粘度の冷却剤は、エアロゾルおよび/またはスパッタの防止をより効果的に提供することができるが、使用するには歯科用デバイスおよび関連装置(例えば、ポンプ)改良が必要となる場合がある。粘度が非常に高い場合、冷却剤はその機能を十分に発揮できない可能性がある。一方、低粘度の冷却剤は、変更を必要とせずに既存の歯科用デバイスと適合できるという利点があるが、効果的なエアロゾルおよび/またはスパッタの抑制を提供できない可能性がある。粘度が高くなると、超音波スケーラーと併用した場合のキャビテーションの増加およびノイズの抑制など、追加の利点も得られる場合がある。したがって、冷却剤の最適粘度は、望ましい結果に応じて変化する可能性がある。
【0041】
冷却剤の最適な粘度は、歯科用デバイス、処置、または状態によっても異なる場合がある。例えば、高速ハンドピースで使用する場合には、超音波スケーラーハンドピースよりも高い最小粘度が必要となる可能性があることが発見されている。理論に束縛されるわけではないが、これは、高速ハンドピースにおけるバーが回転するのに対して、超音波スケーラーのチップが振動するためであると考えられる。この回転によって生じる角速度/遠心力により、冷却剤が回転バーから加速して遠ざかり得るので、エアロゾルの生成を抑制するには、振動する超音波スケーラーチップよりも粘性の高い液体が必要になる可能性がある。さらに、高速ハンドピースは毎分約400,000回転(~7,000rps)で動作し、毎分50mlの冷却剤流量を必要とする。比較すると、超音波スケーラーのチップは毎秒約800~1000回の振動で動き、14~30ml/分の冷却剤流量を必要とする。したがって、高速ハンドピースは超音波スケーラーよりも多くのエアロゾルを生成する可能性があり、エアロゾルをなくすにはより粘度の高い冷却剤が必要になり得る。
【0042】
超音波スケーラーで使用する場合、冷却剤の粘度は少なくとも20cP、少なくとも25cP、少なくとも30cP、少なくとも50cP、または少なくとも100cPであり得る。超音波スケーラーで使用する場合、冷却剤の粘度は500cP未満、400cP未満、350cP未満、300cP未満、250cP未満、200cP未満、150cP未満、100cP未満または75cP未満であり得る。超音波スケーラーで使用する場合、冷却剤の粘度は、20cP~500cP、25cP~400cP、30cP~350cP、50cP~300cP、または100cP~250cP、例えば、100cP~250cPであってよい。20cP~150P、25cP~100cP、または30cP~75cPであり得る。
【0043】
高速ハンドピースで使用する場合、冷却剤の粘度は少なくとも50cP、少なくとも100cP、少なくとも150cP、少なくとも200cP、または少なくとも250cPであり得る。高速ハンドピースで使用する場合、冷却剤の粘度は2000cP未満、1750cP未満、1500cP未満、1250cP未満、1000cP未満、750cP未満、500cP未満、または400cP未満それ以下であり得る。高速ハンドピースで使用する場合、冷却剤の粘度は、50cP~2000cP、100cP~1750cP、150cP~1500cP、200cP~1250cP、または250cP~1000cPであってもよく、例えば、50cP~750cP、100cP~500cP、または150cP~400cPであり得る。
【0044】
本発明の方法は、ニュートン流体を含む冷却剤を利用する。本明細書で使用する場合、ニュートンという用語は、せん断速度に依存しない粘度を有する流体を指す。したがって、ニュートン流体は、様々なせん断速度で粘度を測定することによって識別できる。粘度がせん断速度に依存しない場合、流体はニュートン流体であると考えられる。
【0045】
冷却剤にニュートン流体を使用すると、特に非ニュートン流体および液体冷却剤と比較して、いくつかの利点が得られる。非ニュートン流体および冷却剤は、ワイセンベルグ効果として知られる現象を示し、回転するロッドと接触した擬塑性流体が上方に引き寄せられる。高速ハンドピースの場合、回転バーにより非ニュートン溶液がタービンチャンバーおよび排出ラインなどのハンドピースの可動機械部品に吸い込まれ、それらの動作が妨げられ、可動部品が詰まる。ニュートン流体はこの効果を示さないため、特に高速ハンドピースの場合、デバイス内への冷却剤の逆流を防止または制御するのに役立つので、本発明の冷却剤における使用に有益である。
【0046】
水よりも高い粘度を有し、冷却剤に含めるのに特に適切なニュートン流体はグリセリンである。使用され得る他のニュートン流体としては、アボカド油、キャノーラ油、グレープシード油、マカダミアナッツ油、オリーブ油、ピーナッツ油、菜種油、米ぬか油、ベニバナ油、ゴマ大豆油、ヒマワリ油、およびクルミ油などの植物油を含む食用油が挙げられるが、これらに限定されない。このようなオイルは、その粘度が適切であるため、エアロゾルの発生を抑制するために好ましく使用できる可能性がある。
【0047】
したがって、本発明は、好ましくは、歯科で使用するデバイスを冷却する方法を提供することができ、この方法は、グリセリンを含む冷却剤をデバイスの作動端に送達することを含む。
【0048】
グリセリン(プロパン-1,2,3-トリオール、グリセリンまたはグリセロールとしても知られる)は、水よりも高い粘度を有する非ニュートン流体に関連して上述したような利点をすべて提供する。グリセリンは水に混和する無毒な化合物である。驚くべきことに、グリセリンは、特に冷却剤に比較的高濃度で使用した場合、性能上の利点、騒音の低減、患者の快適さ上の利点(感度の低下)など、さらに有利な効果をもたらすことが判明した。理論に束縛されるものではないが、感度の低下は、水と比較してグリセリンおよびグリセリン溶液の熱伝導率、電気伝導率、および誘電率がはるかに低いことの結果である可能性がある。これらの溶液は潤滑剤として作用することにより、器具の機械効率を高め得る。
【0049】
本発明の方法では、冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体(好ましくはグリセリン)を含む。場合によっては、冷却剤はニュートン流体(例えばグリセリン)からなることが好ましいことがある。他の場合には、冷却剤は、好ましくは、他の要素をさらに含むことができる。
【0050】
冷却剤は、好ましくは、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、または少なくとも90重量%のニュートン流体(例えばグリセリン)を含み得る。冷却剤は、好ましくは、100重量%未満、98重量%未満、95重量%未満、90重量%未満、80重量%未満、70重量%未満、または60重量%未満のニュートン流体(例えばグリセリン)を含み得る。冷却剤は、好ましくは、10重量%~100重量%、20重量%~98重量%、30重量%~95重量%、40重量%~90重量%、40重量%~80重量%、または50重量%~70重量%のニュートン流体(例えばグリセリン)、例えば30重量%~80重量%、または40重量%~90重量%のニュートン流体(例えば、グリセリン)を含み得る。
【0051】
より多量のニュートン流体(例えば、グリセリン)を有することは、有利なことに、より高い粘度の冷却剤をもたらし得る。
【0052】
冷却剤は、水より粘度の高いニュートン流体(例えばグリセリン)以外の要素を含むことが好ましい。好ましくは、冷却剤はさらに水(例えば蒸留水)を含む。冷却剤がニュートン流体(例えばグリセリン)とともに水を含むことにより、既存の歯科用機器での使用に必要な流動性レベルを維持しながら、冷却剤の粘度を望ましいレベルに、例えば許容できるエアロゾル抑制を実現できるように、調整することが有利に可能になる。
【0053】
好ましくは、冷却剤は、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、または少なくとも50重量%の水を含み得る。冷却剤は、好ましくは、80重量%未満、70重量%未満、60重量%未満、50重量%未満、40重量%未満、30重量%未満、または20重量%未満の水を含み得る。冷却剤は、好ましくは、10重量%~80重量%、20重量%~70重量%、30重量%~60重量%、40重量%~50重量%の水、例えば10重量%~60重量%の水を含み得る。
【0054】
冷却剤は、増粘剤をさらに含んでもよい。増粘剤は、好ましくは、ガム(例えば、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム)、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA、カルボマーとしても知られる)、およびそれらの混合物、から選択され得る。ポリアクリル酸はホモポリマーの形態であってもよく、またはペンタエリスリトールのアリルエーテル、スクロースのアリルエーテル、またはプロピレンのアリルエーテルなどのアリルエーテルで架橋されていてもよい。好ましい増粘剤としては、アルギン酸、アルギン酸塩、ポリアクリル酸、およびそれらの混合物が挙げられる。アルギン酸塩が特に好ましい。アルギン酸塩は、有利なことに無毒であり、水への溶解度が高く、水を使用して高速超音波歯科用デバイスの内部機構から容易に洗い流すことができる。好ましいアルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。アルギン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0055】
冷却剤が増粘剤を含む場合、冷却剤は、好ましくは、少なくとも0.01重量%、少なくとも0.05重量%、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%、または少なくとも0.3重量%の増粘剤、例えば、少なくとも0.4重量%、または約0.5重量%の増粘剤を含み得る。冷却剤は、好ましくは、10重量%未満、5重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.8重量%未満、または0.6重量%未満の増粘剤を含み得る。冷却剤は、好ましくは、0.01重量%~10重量%、0.05重量%~5重量%、0.1重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.3重量%~1重量%、または0.4重量%~0.8重量%の増粘剤、例えば0.1重量%~1重量%の増粘剤を含み得る。
【0056】
上述したように、ワイセンベルグ効果によって、歯科用デバイス、特に高速ハンドピースの冷却剤として擬似塑性流体を使用するのは実用的でない。このため、増粘剤の単純な水溶液は、本発明の方法における冷却剤としての使用には不適当である。しかし、驚くべきことに、このような溶液中の水分の少なくとも一部をグリセリンなどの粘性ニュートン流体で置き換えると、擬塑性流体の利点が得られ、同時に欠点が解消されることが判明した。下記の例で実証されているように、このような冷却流体(例えばグリセリン/水/アルギン酸ナトリウム混合物)は、高速ハンドピースと使用した場合に、霧化されたスプレーとしてではなく、微細で一貫性のある連続した途切れることのない一連の高速ストリームとしてスピニングバー上に噴射される。この予期せぬ驚くべき挙動は、グリセリン/冷却水およびアルギン酸ナトリウム水溶液である冷却流体のいずれの挙動にも似ていない。主にニュートン性を持つ流体(例えばグリセリン)/水の溶液に増粘剤を添加すると、ワイセンベルグ効果または堆積物を詰まらせるメカニズムを引き起こすことなく、優れたエアロゾル抑制が実現された。
【0057】
したがって、増粘剤を含めることは、高速ハンドピースでの使用に特に好ましい。超音波スケーラーで使用する場合、冷却剤は増粘剤を含まないことが好ましく、ニュートン流体(例えばグリセリン)と水からなることが好ましい。ただし、場合によっては、超音波スケーラーで使用する冷却剤に増粘剤を含めることが、他の利点、キャビテーション効果を高めるために好ましい場合もありえる。例えばより出力の小さいポンプを備えたデバイスを使用するときなど、超音波スケーラーを使用するときは、場合によっては、冷却剤の擬似塑性挙動も望ましい場合がある。
【0058】
冷却剤は、さらなる添加剤を含んでもよい。好ましい添加剤の例はリン酸三ナトリウム(Na3PO4)であり、これは、効果的な浄水施設へのアクセスが制限されている場合に添加され得る。リン酸三ナトリウムは、冷却溶液に含まれることで、硬水中のカルシウムイオンを捕捉し、歯科用デバイスの配管を詰まらせる可能性のある不溶性カルシウム塩(アルギン酸カルシウムなど)の形成を防ぐ。
【0059】
本発明の方法は、好ましくは、手術による人体または動物の身体の処置方法ではない。本発明の方法は、好ましくは、人体または動物の体を治療により処置するための方法ではない。本発明の方法は、人体または動物の体に対して実施される診断方法ではないことが好ましい。本発明の方法は、好ましくは、手術または治療による人体または動物の体の処置方法ではない。本発明の方法は、好ましくは、人体または動物の体を手術または治療によって処置するための方法でも、人体または動物の体に対して行われる診断方法でもない。
【0060】
本発明の方法は、歯科処置におけるエアロゾル化を低減する目的でのために好ましく用いられ得る。この方法は、好ましくは、冷却剤として水を使用する場合と比較して、エアロゾル化を少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%低減し得る。エアロゾル化の減少は、本発明の方法を使用して模擬歯科処置(例えば、以下の実施例に示すような)を実行し、冷却剤として水を使用する対照処置とエアロゾル化のレベルを比較することによって測定することができる。エアロゾル化は、高速、高解像度のイメージングおよび画像/ピクセル分析を使用して定量化できる。
【0061】
この方法は、デバイスが冷却されている間にそのデバイスを用いて歯科処置を実行することをさらに含んでもよい。
【0062】
好ましい歯科処置としては、歯科ドリリング、スケーリング(例えば、超音波スケーリング)、ボンディング、歯列矯正処置、クラウンの準備、ポストおよびコアの準備、ブリッジの準備、ブリッジのフィッティング、インプラントのフィッティング、クラウンのフィッティング、キャップのフィッティング、抜歯、義歯の装着、詰め物、歯肉の手術、根管治療、歯科用シーラントの塗布、歯のホワイトニング、ベニヤのフィッティング、歯のファイリング、歯根表面のデブライドメント、専門的な機械的歯垢除去(PMPR)、歯肉縁上および歯肉縁下の歯石除去、オーバーハングの除去、並びにダイレクトコンポジットレジンフェイシングおよびベニヤの配置および再モデリングが挙げられるが、これらに限定されない。歯科ドリリングおよび歯科スケーリング(例えば、超音波スケーリング)が特に好ましい。
【0063】
したがって、本発明の方法は、歯科ドリリングに使用するデバイスを冷却する方法であることが好ましい。あるいは、本発明の方法は、好ましくは歯科スケーリング、より好ましくは超音波スケーリングに使用するためのデバイスを冷却する方法であってもよい。
【0064】
歯科ドリリングは外科処置である。歯科スケーリング(例えば超音波スケーリング)は外科処置ではない。
【0065】
歯科処置は、好ましくは、非外科的および/または非治療的歯科処置であってもよい。歯科処置は、好ましくは、美容処置、例えば歯列矯正処置、ベニヤのフィッティング、キャップのフィッティング、並びにダイレクトコンポジットレジンフェイシングおよびベニヤの配置および再モデリングであってもよい。
【0066】
本発明はまた、歯科で使用するためのデバイスを冷却する方法で使用するための冷却剤を提供し、この方法は、冷却剤をデバイスの作動端に送達することを含み、冷却剤は、水よりも高い粘度を有するニュートン流体(例えば、グリセリン)を含む。
【0067】
この方法で使用される冷却材、方法、デバイス、および歯科の範疇は、本発明の方法に関して上述または定義したとおりであることが好ましい。
【0068】
本発明はまた、歯科で使用するためのデバイスを冷却するための冷却剤を提供し、この冷却剤は水よりも高い粘度を有するニュートン流体を含む。
【0069】
水よりも粘度が高いニュートン流体は、好ましくはグリセリンであり得る。したがって、本発明は、好ましくは、歯科で使用するためのデバイスを冷却するためのグリセリンを含む冷却剤を提供する。
【0070】
本発明の冷却剤は、好ましくは、本発明の方法に関して上述または定義したとおりであり得る。冷却剤組成物の利点および効果は、本発明の方法に関して上述したとおりである。
【0071】
本発明の冷却剤は、歯科用デバイスの冷却方法に使用するのに適している。有毒成分(例えばアルキレングリコール)を含む冷却剤組成物は、そのような使用には適していない。
【0072】
本発明の特に好ましい冷却剤は、グリセリン、水、並びにガム(例えば、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム)、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA、カルボマーとしても知られる)およびそれらの混合物から選択される増粘剤を含む(またはこれらからなる)。特に好ましい増粘剤は、本発明の方法に関して上述したようにポリアクリル酸およびアルギン酸塩(例えばアルギン酸ナトリウム)である。アルギン酸ナトリウムが特に好ましい。特に好ましい冷却剤は、場合により、本発明の方法に関して先に定義した添加剤をさらに含んでもよい。
【0073】
本発明の特に好ましい冷却剤組成物は、以下のものを含むか、またはそれらからなる:
20重量%~90重量%のグリセリン;
0.1重量%~5重量%の増粘剤(例えば、ポリアクリル酸またはアルギン酸塩、好ましくはアルギン酸ナトリウム);
5重量%~70重量%の水;および
任意選択で、上述した添加剤。
【0074】
本発明の他の特に好ましい冷却剤組成物は、以下のものを含むか、またはそれらからなる:
30重量%~80重量%のグリセリン;
0.1重量%~3重量%の増粘剤(例えば、ポリアクリル酸またはアルギン酸塩、好ましくはアルギン酸ナトリウム);
10重量%~65重量%の水;および
任意選択で、上述した添加剤。
【0075】
本発明のさらに好ましい冷却剤は、以下のものを含むか、またはそれらからなる:
35重量%~60重量%のグリセリン;
0.1重量%~1重量%の増粘剤(例えば、ポリアクリル酸またはアルギン酸塩、好ましくはアルギン酸ナトリウム);
35重量%~60重量%の水;そして
任意選択で、上述した添加剤。
【0076】
これらの特に好ましい冷却剤は、有利なことに、優れたエアロゾル化抑制を提供し、高速ハンドピースと組み合わせて使用した場合に、驚くべきことにワイセンベルグ効果の欠点に悩まされない一方で、いくつかの有益な非ニュートン特性を示すことが判明した。既存の歯科用デバイスとの良好な互換性も実現された。
【0077】
本発明はさらに、歯科で使用するデバイスを冷却する方法における、先に定義した冷却剤の使用を提供し、この方法は、冷却剤をデバイスの作動端に送達することを含み、ハンドピースを冷却しつつハンドピースを用いて歯科処置を実行することをさらに含む。歯科処置は、好ましくは上述したとおりであり得る。歯科処置は、好ましくは、治療的および/または外科的歯科処置であり得る。歯科用デバイスは、好ましくは、本発明の方法に関して上述したとおりであり得る。作動端は、好ましくは、本発明の方法に関して先に定義したとおりであり得る。
【0078】
本発明はまた、歯科で使用するための装置を提供し、この装置は、上述の冷却剤を含む冷却剤リザーバと、デバイスを冷却するようにデバイスの作動端に冷却剤を送達するために冷却剤リザーバに接続されたデバイスとを備える。
【0079】
本発明の装置において、デバイス、冷却剤、および作動端は、好ましくは、本発明の方法または冷却剤に関して先に定義したとおりであり得る。このデバイスは、特に好ましくは高速ハンドピースまたは超音波スケーラーハンドピースである。本発明の装置は、デバイスを駆動するための電源をさらに備えることができる。デバイスは、当技術分野で知られている任意の手段、例えばチューブによって、冷却剤リザーバに接続することができる。この装置は、リザーバからデバイスの作動端への冷却剤の送達を制御するための制御ユニットをさらに備えることができる。
【0080】
本発明はまた、歯科で使用するためのキットを提供し、このキットは、冷却剤および歯科で使用するためのデバイスを含む。冷却剤、デバイスおよび歯科治療の性質はそれぞれ、好ましくは上述した通りである。最も好ましくは、デバイスは、超音波スケーラーハンドピースまたは高速ハンドピースを備える。
【0081】
上述のように、本発明の冷却剤は、高速ハンドピースまたは超音波スケーラーハンドピースとともに使用される場合に特に効果的である。特に高速ハンドピースは、一般に歯科用ベースユニットに取り付けて歯科手術に使用され、歯科用ベースユニットに取り付けられた様々なハンドピースに電力、空冷剤、液体冷却剤などのリソースを提供する。歯科用ベースユニットは、高速ハンドピースだけでなく、ほとんどの歯科処置に使用される低速ハンドピース水スプレーおよびスリーインワンシリンジなどの他の器具にも液体冷却剤(通常は水)を提供する、液体冷却剤リザーバを備える。改質された冷却剤は、これらの他の機器での使用に必ずしも適しているまたは望ましいわけではない。標準的な歯科用ベースユニットが
図1Aに示されており、単一の貯水器に接続されたいくつかのハンドピースが示されている。ハンドピースは、スリーインワンシリンジ、超音波スケーラーハンドピース、高速ハンドピースとして示されているが、これらは異なる場合がある。歯科用ベースユニットは、簡略化のために水リザーバのみを示して示されているが、一般に、上述したようにハンドピースに他のリソースも提供する。高速ハンドピースは、歯科用椅子からの水および加圧空気への接続に利用できる数少ない接続規格の1つを使用する歯科用ベースユニットに取り付けられる。超音波スケーラーデバイスは、スケーラーハンドピースのみに冷却剤を供給し、他のデバイスには供給しないスケーラーハンドピースに直接取り付けられた液体冷却剤リザーバを備えたスタンドアロンユニットとして存在するか(
図1Bを参照)、高速ハンドピースと同じように歯科用ユニットに取り付けられてもよい(
図1Aに示す)。歯科用ベースユニットは歯科用椅子と統合されることが多く、合わせて歯科手術における最大かつ交換頻度の低い投資の1つとなり、設置を含む総コストは最大50,000ポンドになる。歯科用デバイス自体も高価で、高速ハンドピース(電気モーター)は1台あたり4,000ポンド以上かかり、多額の投資となる。したがって、本発明の冷却剤は最小限の改造で既存の装置に使用できることが望ましい。
【0082】
したがって、本発明は、歯科で使用するハンドピースに代替液体冷却剤を接続するためのカップリングも提供し、このカップリングは、歯科用ベースユニットからリソース接続を受け取るための入口インターフェイスであって、リソース接続は第1の液体冷却剤接続を含み、歯科用ベースユニットからリソース接続を受け取るための入口インターフェイスであって、リソース接続は第1の液体冷却剤接続を含む、入口インターフェイスと;リソース接続の少なくとも一部をハンドピースに伝えるための入口インターフェイスと連通する出口インターフェイスと;を備え、カップリングは、代替液体冷却剤接続を受け取るための補助入口を備え、補助入口は、第1液体冷却剤接続に代えて、出口インターフェイスを介して代替液体冷却剤接続をハンドピースに伝達するために、出口インターフェイスと連通可能である。
【0083】
本発明のカップリングは、歯科ベースユニットの他のデバイスの機能に影響することなく、また機器(例えば、ハンドピースおよび/または歯科用ベースユニット)のさらなる改良なしに、市場に既存しているハンドピースおよび歯科ベースユニットを介して、代替冷却剤(例えば上述した本発明の冷却剤)の使用を有利に可能にする。カップリングは、例えばハンドピースと歯科ベースユニットにハンドピースを接続するチューブとの間など、ハンドピースと歯科ベースユニットとの間に挿入される別個のデバイスであってもよい。あるいは、カップリングは、ハンドピース、チューブまたは歯科用ベースユニットの一体となった部分であってもよい。
【0084】
補助入口は、代替液体冷却剤リザーバから代替液体冷却剤接続を受け取るためのものであってもよい。補助入口は、カップリングの入口境界面に位置しないことが好ましい。補助入口は、カップリングの出口境界面に位置しないことが好ましい。第1の液体冷却剤接続は、好ましくは水冷却剤接続であってもよい。代替液体冷却剤は、本発明の方法または冷却剤に関して上述した冷却剤であってもよい。
【0085】
本発明のカップリングは、本体と制御ユニットとを備えることが好ましい。制御ユニットは、好ましくは、リソース接続を介してハンドピースへの1つまたは複数のリソースの送達を制御することを目的とすることができる。1つまたは複数のリソース接続は、制御ユニットを介して本体の入口インターフェイスから出口インターフェイスに移動することが好ましい。他のリソース接続(例えば、1つまたは複数のリソース接続)は、制御ユニットを通過せずに、本体を直接通過することが好ましい。制御ユニットは、好ましくは、リソース接続を介したハンドピースへの1つ以上のリソースの送達を制御するための1つ以上のバルブおよび/またはアクチュエータ(例えば、1つ以上のサーボバルブ)を備えることができる。1つまたは複数のバルブおよび/またはアクチュエータは、制御ユニット内の1つまたは複数のリソース接続上に配置されることが好ましい。カップリングが本体および制御ユニットを備える場合、本体は入口インターフェイスおよび出口インターフェイスを備えることが好ましく、制御ユニットは代替液体冷却剤接続を受け取るための補助入口を備えることが好ましい。
【0086】
本発明のカップリングは、ハンドピースへの資源(例えば、冷却用空気(チップエア)、液体冷却剤、タービンエア)のタイミング、流量および/または送達機構の制御を有利に可能にすることができる。これにより、たとえば、冷却用空気と液体冷却剤の混合を促進し、高速ハンドピースでの代替液体冷却剤の効果を最大化できる。
【0087】
カップリングは、第1の液体冷却剤接続ではなく代替液体冷却剤接続がハンドピースに伝達されるように、第1の液体冷却剤接続を代替液体冷却剤接続に置き換えるように構成され得る。この場合、カップリングは、第1の液体冷却剤接続のための終端を備えることができる。カップリングが制御ユニットを備える場合、第1の液体冷却剤接続の終端は、カップリングの本体内または制御ユニット内に配置されてもよい。第1の液体冷却剤接続は、当業者が利用可能な任意の適切な手段によって終了することができ、例えば、第1の液体冷却剤接続は、覆われるか、あるいは封止されることができる。したがって、終端は、好ましくは第1の液体冷却剤接続の端部、例えば、入口インターフェイスから遠位の第1の液体冷却剤接続の端部および/またはカップリング内(例えばカップリングの本体または制御ユニット内)の第1の液体冷却剤接続の端部にキャップまたはシールを備えてもよい。
【0088】
あるいは、カップリングは、第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続との間の切り替えを可能にすることで、いずれかの冷却剤接続をハンドピースに伝達することができるように構成されていてもよい。この場合、カップリングは、第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続との間を切り替える手段を備えることができる。第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続との間を切り替える手段は、好ましくは弁(例えば、切り替え弁)であり得る。第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続との間を切り替える手段は、好ましくは第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続とが交差する位置に配置され得る。カップリングが制御ユニットを備える場合、第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続との間を切り替えるための手段は、好ましくは制御ユニット内に配置され得る(すなわち、制御ユニットは、好ましくは、第1の液体冷却剤接続と代替液体冷却剤接続とを切り替えるための手段を備え得る)。
【0089】
リソース接続の特性は、カップリングと共に使用されるハンドピースの特性によって異なるが、タービンエア接続(例:空気駆動高速ハンドピースの場合)、冷却用空気接続(「チップエア」、例えば高速ハンドピース)および/または電気/動力接続を備えてもよい。リソース接続は、排気をハンドピース(例えば、高速ハンドピース)から室内に排気するための歯科用ベースユニットに伝達する排気接続をさらに備えていてもよい。入口インターフェイスと出口インターフェイスとは、例えば、歯科用ベースユニットからハンドピースへの送達のためのチューブ(例えば、冷却用空気および液体冷却剤のため)および/またはケーブル(例えば電気/動力)を含んでもよいリソース接続を介して連通している。
【0090】
高速ハンドピースでの使用に特に適する非限定的かつ例示的なカップリングが、
図2Aおよび2Bに示されている。超音波スケーラーハンドピースでの使用に適した例示的なカップリングは、高速ハンドピースでの使用に例示されたカップリングと同様であってもよいが、一般に冷却用空気(チップエア)または排気接続またはチャネルを含まない。
【0091】
図2Aは、代替液体冷却剤(「HS改良冷却剤」)を高速ハンドピースに接続するためのカップリングを示す。カップリングは、歯科用ベースユニットからタービン空気、冷却用空気および冷却水の接続を受け取るための入口インターフェイス(右側)、並びにリソース接続の一部(この場合は、タービンエア接続)をハンドピースに伝達する出口インターフェイスを備える。
図2Aのカップリングは、代替液体冷却剤のみがハンドピース上に送達されるように、冷却水接続を代替液体冷却剤接続に置き換えるように構成されている。したがって、カップリングはカップリング内の冷却水接続用の終端を備える。
図2Aでは、冷却用空気接続もカップリング内で終わるように示されているが、冷却用空気接続はハンドピースに伝達されることが好ましい。カップリングは、代替液体冷却剤接続(「HS改良冷却剤」)を受け入れるための補助入口も備え、補助入口は、出口インターフェイスと(たとえば、チューブを介して)連通しており、冷却水接続の代わりに代替液体冷却剤接続を高速ハンドピースに伝達する。
【0092】
図2Bは、代替液体冷却剤(「改良冷却剤」)をハンドピースに接続するための代替カップリングを示す。カップリングは、本体および制御ユニット(「マイクロコントローラー ユニット」)を備える。カップリングの本体は、歯科用ベースユニット(「椅子ユニット」)からリソース接続を受け取るための入口インターフェイス(右側)を備える。リソース接続は、タービンエア接続、冷却用空気(チップエア)接続、電力/動力接続、および冷却水接続を含む。リソース接続はまた、排気をハンドピースから歯科用ベースユニットに伝達するための排気接続を含む。カップリングは、リソース接続をハンドピースに伝達するための出口インターフェイス(左側)も有する。カップリングの制御ユニットは、代替液体冷却剤リザーバ(「改良冷却剤供給タンク」)から代替液体冷却剤接続(「改良冷却剤」)を受け取るための補助入口を備え、補助入口は、冷却水接続の代わりに、ハンドピースに出口インターフェイスを介して代替液体冷却剤接続を伝達するために出口インターフェイスと連通可能である。
【0093】
図2Bのカップリングでは、タービンエア接続、冷却用空気(チップエア)接続、電力/動力接続、および冷却水接続が、入口インターフェイスから制御ユニットを通って出口インターフェイスへと通過する。排気接続は、カップリングの本体を直接経由して(つまり、制御ユニットを介さずに)入口インターフェイスから出口インターフェイスへと通過する。サーボバルブは、ハンドピースへのリソースの送達を制御するために、制御ユニット内のタービンエア、冷却用空気、および電力/動力リソース接続上に配置される。冷却水および代替液体冷却剤の接続は、コントロールユニット内で交差する。交差点には切替弁が設置されている。これにより、冷却水接続と改良冷却剤の接続とを切り替えることができるため、どちらの冷却剤も出口インターフェイスを介してハンドピースに送達されるようになる。
【0094】
本発明はさらに、歯科で使用するための装置を提供し、この装置は、第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと、第1の液体冷却剤とは異なる代替液体冷却剤を含む代替冷却剤リザーバと、ハンドピースとを備え、ハンドピースは、先行する請求項のいずれかに記載のカップリングを介して、第1の冷却剤リザーバおよび代替冷却剤リザーバに接続される。ハンドピースは、超音波スケーラーハンドピースまたは高速ハンドピースであることが好ましい。第1の液体冷却剤は水であることが好ましい。第2の液体冷却剤は、本発明の方法または冷却剤に関連して上述した冷却剤であることが好ましい。
【0095】
本発明はまた、歯科で使用するための装置を提供し、この装置は、
第1の粘度を有する第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと、
第1の粘度とは異なる第2の粘度を有する第2の液体冷却剤を含む第2の冷却剤リザーバと、
各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースと、を備える。
【0096】
従来の歯科用ユニット(例を
図1Aに示す)は、複数の異なるハンドピースに接続された単一の液体冷却剤リザーバを含む。そのため、各ハンドピースに特有の要求に関係なく、各ハンドピースに同じ冷却剤(通常は水)を使用する必要がある。本発明の装置は、歯科ユニットの異なるハンドピースで異なる冷却剤を使用することを可能にする。したがって、各冷却剤の粘度および組成は、接続されている特定のハンドピースの要求に合わせて調整できる。例えば、1つ以上のハンドピース(例えば、スリーインワンシリンジ)を冷却するために水を使用することができる一方、より粘性の高い冷却剤を別のハンドピース(例えば、高速ハンドピースおよび/または超音波スケーラーハンドピース)を冷却するために使用することがより有利である場合がある。高速ハンドピースまたは超音波スケーラーで(水よりも)粘性の高い冷却剤を使用する利点は上述したとおりである。
【0097】
粘度は、本発明の方法に関連して上述したように定義および測定することができる。
【0098】
少なくとも1つのハンドピースは、ハンドピースを冷却するため、またはハンドピースに取り付けられたエンドピースを冷却するために、ハンドピースの作動端に冷却剤を送達するために各冷却剤リザーバに接続され得る。
【0099】
第2の粘度は第1の粘度よりも大きいことが好ましい。第2の液体冷却剤は、好ましくは、本発明の方法または本発明の冷却剤に関連して先に定義および記載された冷却剤であってもよい。第2の液体冷却剤は、好ましくはグリセリンを含むことができ、場合により増粘剤をさらに含むことができる。増粘剤は、好ましくは、本発明の方法または冷却剤に関連して先に定義および記載したとおりであり得る。第1の液体冷却剤は、水を含む(例えば、水からなる)ことが好ましい。
【0100】
したがって、本発明は、好ましくは、歯科で使用するための装置を提供することができ、この装置は、
水を含む第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと、
グリセリンを含む第2の液体冷却剤を含む第2の冷却剤リザーバであって、第1の液体冷却剤は第2の液体冷却剤とは異なる第2の冷却剤リザーバと、
各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースと、を備える。
【0101】
各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースは、同じであっても異なっていてもよい。各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースは、好ましくは、第1の冷却剤リザーバに接続された第1のハンドピースと、第2の冷却剤リザーバに接続された第2のハンドピースとを備えることができる。好ましくは、第1の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースは、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースとは異なる。各ハンドピースは、本発明の方法に関して先に定義および説明したとおりであり得る。好ましくは、第1の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースは、3イン1シリンジハンドピース、高速ハンドピース、低速ハンドピース、超音波ハンドピース、またはそれらの組み合わせ、より好ましくは3イン1ハンドピースおよび/または低速ハンドピースを備える(例えばこれらのハンドピースである)。第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースは、高速ハンドピースおよび/または超音波スケーラーハンドピースを備えることが好ましい。より好ましくは、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースは、高速ハンドピースを備える(例えば、高速ハンドピースである)。
【0102】
第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースが高速ハンドピースを含む(例えば、高速ハンドピースである)場合、第2の冷却剤は、高速ハンドピースでの使用に特に適していることが好ましい。このような冷却剤の好ましい特性は、本発明の方法または冷却剤に関して上述したとおりである。
【0103】
本発明の装置は、先に説明および定義したような(例えば第1の)カップリングをさらに備えることができる。第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば第2のハンドピース)は、好ましくは(例えば第1の)カップリングを介して第2の冷却剤リザーバに接続され得る。カップリングは、好ましくは、第1の冷却剤リザーバ、第2の冷却剤リザーバ、および少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)に接続され得る。好ましくは、カップリングの入口インターフェイスは、第1の冷却剤リザーバに接続され得る。好ましくは、カップリングの出口インターフェイスは、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)に接続され得る。好ましくは、カップリングの補助入口は第2の冷却剤リザーバに接続され得る。したがって、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)は、好ましくは、先に説明および定義したカップリングを介して第2の冷却剤リザーバに接続され得る。カップリングを備える装置の例示的で非限定的な概略図を
図1Bに示す。
【0104】
本発明の装置は、好ましくは、第1の粘度とは異なる第3の粘度を有する第3の液体冷却剤を含む第3の冷却剤リザーバと、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)とをさらに備えることができる。第3の粘度は第2の粘度と同じであっても異なっていてもよいが、好ましくは第2の粘度とは異なる。第3の粘度は、好ましくは第1の粘度よりも大きい。第3の粘度は、第2の粘度よりも低いことが好ましい。第3の液体冷却剤は、好ましくは、本発明の方法または冷却剤に関連して先に定義および記載された冷却剤であり得る。第3の液体冷却剤は、好ましくはグリセリンを含むことができる。
【0105】
したがって、本発明は、好ましくは、歯科で使用するための装置を提供することができ、この装置は、
水を含む第1の液体冷却剤を含む第1の冷却剤リザーバと;
グリセリンを含む第2の液体冷却剤を含む第2の冷却剤リザーバと;
グリセリンを含む第3の液体冷却剤を含む第3の冷却剤リザーバであって、第1の液体冷却剤は第2および第3の液体冷却剤とは異なり、好ましくは第2の液体冷却剤は第3の液体冷却剤とは異なる第3の冷却剤リザーバと;
各冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースと、を備える。
【0106】
好ましくは、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、第1の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第1のハンドピース)とは異なる。好ましくは、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)とは異なる。好ましくは、第1、第2および第3のハンドピースはすべて互いに異なる。第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、本発明の方法に関連して先に定義および説明したとおりであり得る。第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、好ましくは超音波スケーラーハンドピースを備え得る。第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピースが超音波スケーラーハンドピースを含む(例えば、超音波スケーラーハンドピースである)場合、第3の冷却剤は、超音波スケーラーハンドピースでの使用に特に適していることが好ましい。このような冷却剤の好ましい特性は、本発明の方法または冷却剤に関して上述したとおりである。
【0107】
本発明の装置は、第2のカップリングをさらに備えることができる。第2のカップリングは、好ましくは、本発明のカップリングに関連して先に説明および定義した通りである。第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、好ましくは、第2のカップリングを介して第3の冷却剤リザーバに接続され得る。第2のカップリングは、好ましくは、第1の冷却剤リザーバ、第3の冷却剤リザーバ、および少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)に接続され得る。好ましくは、第2のカップリングの入口インターフェイスは、第1の冷却剤リザーバに接続され得る。好ましくは、カップリングの出口インターフェイスは、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)に接続され得る。好ましくは、カップリングの補助入口は、第3の冷却剤リザーバに接続され得る。したがって、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、好ましくは、先に説明および定義した第2のカップリングを介して第3の冷却剤リザーバに接続され得る。第1および第2のカップリングを備える装置の例示的で非限定的な概略図が
図1Cに示されている。
【0108】
第1の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第1のハンドピース)は、第2の冷却剤リザーバには接続されないことが好ましく、第3の冷却剤リザーバが存在する場合には、同様に第3の冷却剤リザーバにも接続されないことが好ましい。第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)は、任意選択で、好ましくは上述したとおりカップリング(例えば、第1のカップリング)を介して、第1の冷却剤リザーバにも接続され得る。あるいは、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)は、第1の冷却剤リザーバに接続されなくてもよい。第3の冷却剤リザーバが存在する場合、第2の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第2のハンドピース)は、好ましくは、第3の冷却剤リザーバに接続されない。存在する場合、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、任意選択で、好ましくは上述したとおりカップリング(例えば、第2のカップリング)を介して、第1の冷却剤リザーバにも接続され得る。あるいは、第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、第1の冷却剤リザーバに接続されなくてもよい。第3の冷却剤リザーバに接続された少なくとも1つのハンドピース(例えば、第3のハンドピース)は、存在する場合、第2の冷却剤リザーバには接続されないことが好ましい。
【0109】
本発明の装置は、ハンドピース用の1つまたは複数のリソースの供給源をさらに備えることができる。例えば、装置は、タービンエア源、冷却用空気(チップエア)源、および電力または動力源のうちの1つまたは複数をさらに備えることができる。各供給源は、好ましくは、1つ以上のハンドピースに接続され得る。
【0110】
デバイスの物理的変更は、冷却剤の流れのパターンおよびデバイスの作動端への冷却剤の送達方向を変更し、それがエアロゾルの生成を低減するシールド内に封入されてエアロゾル生成を低減することにより、エアロゾル化の低減にも寄与する可能性がある。特に、歯科用スケーラー用の改良チップが開発された。
【0111】
したがって、本発明は、歯科で使用するための振動スケーラー用のチップも提供し、このチップは、冷却剤を受け取るための近位入口と、スケーリングを補助するために振動される遠位作動部分と、そして作動部分を冷却するために入口を介して受け取った冷却剤を送達する出口と、を備え、作動部分はチップの凹面および凸面を画定し、出口はチップの凸面上に位置する。
【0112】
一般に、標準的なスケーラーチップは、チップの凹面上(たとえば、表面上、チップのJ字ベンドの下部)に出口を有する。驚くべきことに、出口をチップの凸面(例えば、チップの上面/背面)に配置すると、流体の流れをチップの背部に集中させ、エアロゾルの浮遊粒子を捕捉して封じ込める(トラップする)のに有利であることがわかった。理論に束縛されるものではないが、このように冷却剤出口の位置を変更することにより、流体がチップの背面から出て、より一貫した挙動で、チップの作動端の周囲に流体シールドを形成しつつ、背部に沿ってチップの作動端まで流れることが可能になると考えられている。改良チップは、エアロゾルの抑制を補助する以外にも、冷却剤が接触するチップの表面積を増やして冷却を改善したり、効果的なスケーリングを補助する泡のキャビテーションの形成を促進するために望ましい領域に十分な冷却剤を確保したりするなどの追加の利点ももたらす。本発明のチップは、上述した本発明の冷却剤と組み合わせて使用すると特に効果的である。
【0113】
好ましくは、出口は、使用中にそこから送達される冷却剤がチップの凸面上に流動液体シールドを形成できるように配置される。有利なことに、この流体シールドは、スケーリング処理中に生成される可能性のあるエアロゾル粒子および破片を捕捉し、したがって、スケーラー使用時のバイオエアロゾルの伝達および吸入のリスクを軽減する。
【0114】
流動液体シールドは、チップの凸面上および凹面上の両方に形成されることが好ましく、チップの作動部分を完全に取り囲むことが好ましい。したがって、出口は、使用中にそこから送達される冷却剤がチップの作動部分を包む流動液体シールドを形成できるように配置されることが好ましい。
【0115】
出口は、好ましくは、作動部分の近位、かつ入口の遠位に配置され得る。これは、制御された挙動でチップの作動部分への冷却剤の送達を有利に補助し、それによってエアロゾル抑制のために作動部分の周りに液体シールドを形成するのを助ける。使用中、出口は入口を介してハンドピースから冷却剤を受け取る。したがって、入口と出口は、例えばチャネルまたはチューブによって流体連通している。
【0116】
本発明の好ましいチップでは、チップは、出口から送達される冷却剤をチップの凸面上で遠位方向に導くための構造を備えていてもよい。冷却剤を流すための構造は、任意の適切な形態をとることができる。出口は、例えばチップの凸面上で、出口から送達される冷却剤を遠位方向に導くために、傾斜が付されているかまたは面取りされていることが好ましい。代替的または追加的に、チップの作動部分は、例えばチップの凸面上で、出口から送達される冷却剤を遠位方向、例えば垂直方向に導くための溝を備えてもよい。この構造(例えば、傾斜が付された/面取りされた出口、および/または溝)は、制御された挙動で冷却剤をチップの作動部分(例えば作動端)に送達して流体シールドを形成するのに有利に役立つ。
【0117】
本発明のチップは、チップをスケーラーハンドピースに接続するための近位接続部分をさらに備えることが好ましく、作動部分は接続部分から遠位方向に延びる。このようなチップでは、接続部分は、好ましくは作動部分よりも大きな断面を有する本体セグメントと、本体セグメントを作動部分に接続する肩セグメントとを備えることができる。したがって、作動部分は肩セグメントから遠位方向に延びてもよい。出口は、接続部分の肩セグメント上に配置されることが好ましい。肩セグメントは、好ましくは、出口の傾斜が付されたまたは面取りされた形状を画定することができる。出口は、接続部分の本体セグメント内に配置されるチャネルによって入口に流体的に接続され得る。
【0118】
近位接続部分を含む本発明のチップにおいて、接続部分は、好ましくは、接続部分の近位端から接続部分の遠位端まで延びる長手方向軸を含み得る。好ましくは、作動部分の少なくとも一部は、接続部分の長手方向軸から分岐して、デバイスの凹面および凸面を画定する。好ましくは、接続部分は長手方向軸に沿って細長い。好ましくは、接続部分の少なくとも1つのセグメントは、長手方向軸に関して対称である好ましくは、接続部分は、実質的に円筒形のセグメントを備える。
【0119】
近位接続部分を含む本発明のチップでは、入口は、好ましくは接続部分上に、好ましくは接続部分の近位面上に配置され得る。好ましくは、接続部分は、チップをスケーラーハンドピースに位置決めして接続するためのインターフェイスを備え、インターフェイスは入口を備える。好ましくは、インターフェイスは、ハンドピースからの振動を受けるように接続部分をハンドピースに固定する固定具をさらに備える。固定具は、ねじ込みにより接続部分をハンドピースに固定するためのねじ部を備えることが好ましい。
【0120】
接続部分は、好ましくはチップの作動部分と一体であり得る。
【0121】
本発明の好ましいチップでは、作動部分は弓形セグメントを含む。作動部分(例えば、作動部分の弓形セグメント)は、好ましくは、変化する曲率半径を有し得る。好ましくは、作動部分は、実質的に直線状(例えば直線状)のセグメントと弓形セグメントとを備える。作動部分の弓形セグメントは、比較的近位に(例えば、接続部分の近位に)配置され得る。作動部分の直線状セグメントは、比較的遠位に(例えば、接続部分から遠位に)配置され得る。直線セグメントは、弓形セグメントから遠位方向に延びてもよい。したがって、作動部分は、好ましくは、比較的近位の弓形セグメントと、この弓形セグメントから延びるより遠位の直線状セグメントとを備えてもよい。作動部分の弓形セグメントは、接続部分の肩セグメントから遠位方向に延びてもよく、作動部分の直線セグメントは、作動部分の弓形セグメントから遠位方向に延びてもよい。
【0122】
チップの作動部分は、弾性材料を含むことが好ましい。適切な弾性材料としては、鋼、好ましくはステンレス鋼(例えば、医療グレードのステンレス鋼)、チタン、青銅、銅、金、テフロン(登録商標)、炭素繊維、ポリエーテルエーテルケトン、プラスチック、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。チップの作動部分は、好ましくは、例えばステンレス鋼などの金属を含むことができる。チップの作動部分は、好ましくは超音波周波数(例えば、20~50kHz、好ましくは25~40kHz)で振動可能であり、好ましくは作動部分の自由端が5から50ミクロンの範囲の変位振幅内で移動する。好ましくは、作動部分は、超音波範囲(例えば、20~50kHz、好ましくは25~40kHz)内の共振周波数を有する。好ましくは、チップは超音波スケーラーチップ(例えば、圧電超音波スケーラーチップ)である。エアロゾル化は超音波範囲で動作するスケーラーに特有の問題であるため、本発明のチップは、有利には、超音波スケーラーでの使用に特に適している。また、キャビテーションの改善など、特に超音波スケーリングに関連する追加の利点も得られる。
【0123】
本発明のいくつかの好ましいチップでは、チップは、好ましくはチップの凹面上に位置するさらなる出口を備える。さらなる出口は、好ましくは、チップの作動部分の近位にあり得る。さらなる出口は、接続部分の本体セグメント内に配置されるチャネルによって入口に流体的に接続され得る。
【0124】
更なる出口を備える本発明のチップでは、出口は、使用中にそこから送達される冷却剤がチップの作動部分を包む流動液体シールドを形成できるように配置されることが好ましい。チップは、好ましくは、さらなる出口から送達される冷却剤をチップの凹面上で遠位方向に導くための1つ以上の構造を備え得る。さらなる出口は、さらなる出口から送達される冷却剤をチップの凹面上で遠位方向に導くために、傾斜が付されているかまたは面取りされていてもよい。作動部分は、さらなる出口から送達される冷却剤をチップの凹面上で遠位方向に導くための凹面上の溝を備えてもよい。チップの作動部分の周りの液体シールドの形成を補助するだけでなく、追加の出口を備えたチップのさらなる利点は、一般にすでにチップの凹面上に出口を備えている既存のスケーラーチップから容易に製造できることである。
【0125】
ただし、例えば、デバイスの凹面上にあるさらなる出口のように、他の場合には、さらなる出口を持たない方が好ましい場合もある。この理由としては、デバイスの凹面上の出口がエアロゾルおよび/またはスパッタの望ましくない増加につながり得ることが挙げられる。したがって、本発明の他の好ましいチップでは、チップはデバイスの凹面上にさらなる出口を備えない。好ましくは、チップはさらなる出口を備えない。
【0126】
本発明のチップは、スケーラーハンドピースと組み合わせて使用するように設計されている。したがって、本発明はまた、上述したとおりチップに接続されたスケーラーハンドピースを備える、歯科で使用するための振動スケーラーを提供する。好ましくは、スケーラーハンドピースは超音波スケーラーハンドピースである。振動スケーラーは、スケーラーハンドピースに接続された冷却剤リザーバをさらに備えることができる。冷却剤リザーバは、本発明の方法または冷却剤に関連して上述した冷却剤を含むことが好ましい。
【0127】
本発明のチップの非限定的な例を
図3Aに示す。
図3Bおよび3Cは、使用中のチップの概略図であり、使用中にチップの作動部分の周囲に形成された液体シールドを示している。
【0128】
図3A~
図3Cを参照すると、歯科用スケーラー用のチップ(300)が示されている。チップ(300)は、近位接続部分(302)と、接続部分(302)と一体化され、接続部分(302)から遠位方向に延びる作動部分(304)とを備える。接続部分(302)は、(
図3Cに示すように)使用時にチップをスケーラーハンドピースに接続するインターフェース(306)を備え、また、使用時にハンドピースから冷却剤を受け取るための入口を備える。接続部分(302)はさらに、細長く長手方向軸に関して対称である実質的に円筒形の本体セグメント(308)と、傾斜が付されたまたは面取りされた出口(312)が位置する肩セグメント(310)とを備える。出口(312)は入口に流体的に接続されている。スケーラーチップの作動部分(304)は、接続部分(302)の肩セグメント(310)から遠位方向に延びる弓形セグメントと、弓形セグメントから遠位方向に延びる実質的に直線状のセグメントとを備える。弓形セグメントは、チップ(300)の凹面および凸面を画定し、出口(312)は凸面上に位置する。作動部分(304)の凸面は、冷却剤を出口(312)から遠位方向に導くための溝(314)を備える。出口(312)の位置および形状は、溝(314)とともに、
図3Bおよび3Cに示すように、使用中にチップ(300)の作動部分(304)の周囲に流動流体シールド(320)を形成する。
【0129】
図3A~
図3Cのチップは、接続部分(302)の肩セグメント(310)上で、チップの凹面上に位置するさらなる出口(316)を有する。さらなる出口(316)も入口に流体的に接続されており、入口から受け取った冷却剤をチップ(300)の凹面上で遠位方向に導き、チップの作動部分(304)の周りに流動液体シールド(320)を形成するのに役立つ。このようなさらなる出口を設けることは任意である。
【0130】
チップ(300)は弾性材料でできており、歯(322)および/または歯肉(324)の表面にスケーリング作用を及ぼすために使用中にスケーラーハンドピース(326)から振動を受けて(
図3Bおよび3C)、チップ(300)の作動部分(304)の自由端(318)を振動運動で変位させる(
図3Aおよび
図3Bの破線で示す)ことができる。
【0131】
実施例
実験条件
これらの実験は、12平方メートルの規模の模擬運用環境で実施され、1時間あたり5回未満の空気交換に相当する集中換気が行われた。周囲温度は一定のままで、23℃で記録された。統合された歯科ユニットの空気圧が測定され、すべての試験を通じて2.3~2.4barの範囲で一定とした。
【0132】
特注のリグ(
図4Aおよび4Bを参照)は、複数のXZYおよび回転ステージを使用して構築され、マイクロ位置決めスライドレールとラボ用リフトにより、現実的な臨床環境を再現するための再現可能な条件における超音波スケーラーと高速エアタービンハンドピースの両方の試験が容易になった。レーザーサーマルカメラ(FlirTG-165)をリグに取り付けられ、すべての試験手順中の周囲温度を測定した。透明な平らなガラスのタンクを、顕微鏡のスライドを使用してカスタマイズした。フロントライトと明視野モードを使用して高輝度LED照明を実現した。
【0133】
デバイスおよび材料
圧電超音波歯科用スケーラー(27~32kHz):W&H製TigonPlusおよび歯周スケーラーチップ(2U、1P、および
図5に示す改良チップ、左側のチップが2Uチップ、中央のチップが1Pチップ、右側のチップは改良チップである)。これらの実験の目的のために、EMS PSチップを改良し、凸面上に追加の出口を作成することによって改良チップを作成した。しかしながら、改良チップは、例えば鍛造、成形(例えば射出成形)、または3D印刷などの任意の適切な方法によって作製することができる。この超音波卓上デバイスは一体型冷却剤タンクとヒーターを備えており、周波数範囲は27~32kHzで、互換性のある医療グレードのステンレス鋼のテーパーチップと組み合わせて操作される。標準化および再現性を補助するために、冷却剤流量を50%(レベル5 Tigon Plusデバイス)、出力選択30に設定した。これらの設定は、すべての調査を通じて一定のままでした。超音波チップは、再現性を確保し、高解像度のイメージングを容易にするために、鉛直面に平行に配置され、マイクロ制御の調整が可能な回転ステージに固定された。
【0134】
高速タービンハンドピース(~400,000 RPM):W&H製のSynea TG-98Lに、新しい使い捨てタングステンカーバイドとダイヤモンドのバーを追加した。高速エアタービンハンドピースは水平面と平行に配置され、マイクロメートル調整可能な回転ステージの所定の位置に固定された。
【0135】
模擬歯の表面と接触する場合、表面から1mmの近距離、および非接触位置(空中)での結果を実証する模擬的動きの範囲内でさまざまな濃度の改良冷却剤をハンドピースに流した。
【0136】
グリセリン:この作業では、チェスターフィールドS41 9RN フォックスウッドインダストリアルパーク ユニット4にあるSpecial Ingredients(から入手した、最高品質のUSP製薬食品グレードの純度99.9%な植物性グリセリンが使用された。
【0137】
アルギン酸ナトリウム:Sigma Aldrichから入手した医薬品グレードのアルギン酸ナトリウムを使用した。
【0138】
水:特に指定しない限り、冷却剤組成物に使用した水は蒸留水であった。
【0139】
改良冷却剤:これらの試験では、特に指定がない限り、高速ハンドピースの試験で使用した改良冷却剤は、50重量%のグリセリン、49.5重量%の水、および0.5重量%のアルギン酸ナトリウムを含有し、超音波スケーラーの試験で使用した改良冷却剤は80重量%のグリセリンと20重量%の水を含んでいた。
【0140】
実施例1:高速イメージング
高解像度および高速イメージングを使用して、デバイスが模擬歯の表面に接触または近接した場合の冷却剤の挙動を観察した。冷却剤スプレーは通常の手順条件下で生成され、最大38,500fpsの容量を持つ高速イメージング(Chronos 1.4、Kron Technologies Inc、カナダ)を使用して観察および記録された。静止画像は、最大5倍の倍率が得られるように、Sony A6300カメラと以下のレンズおよび対物レンズを使用して撮影された。35mm単焦点レンズ(ズームなし/35mm)、50mm単焦点レンズ、105mm単焦点マクロレンズ(シグマ105mm 2.8マクロレンズ)、1.4倍レンズ(ニコンニッコールED7 1.4倍レンズ)、5倍レンズ、5倍顕微鏡ミツトヨプランアポクロマート対物レンズ。画像は、流体の流れ、霧化、および液滴の排出を理解するために定性的に評価された。
【0141】
超音波スケーラーを使用した結果を
図6~8に示す。
図6は、水(
図6A)および改良冷却剤(
図6B)を用い、非接触位置にある1pチップの結果を示す。
図7は、水(
図7A)および改良冷却剤(
図7Bおよび7C)を用い、模擬歯表面に近接した1pチップ(
図7Aおよび7B)と改良チップ(
図7C)の結果を示す。
図8は、水(
図8A)および改良冷却剤(
図8B)を用い、模擬歯表面と接触した1pチップの結果を示す。
【0142】
高速ハンドピースを使用した結果を
図9および
図10に示す。
図9は、水(
図9A)および改良冷却剤(
図9Bおよび9C)を用い、非接触位置にあるバーの結果を示す。
図9Cは、高速ハンドピースを上下逆さまに示す。
図10は、水(
図10A)および改良冷却剤(
図10B)を用い、模擬歯表面に近接したバーの結果を示す。
【0143】
超音波評価では、改良冷却剤と改良チップを使用することにより、エアロゾル生成が大幅に減少することが結果によって実証された。改良冷却剤はチップの作動端の周囲に流動液体シールドを形成し、このシールドがチップと冷却剤との接触を促進し、破片およびエアロゾルを内部に封入する。改良チップと組み合わせて使用すると、この効果はさらに高まる。チップの表面(チップのJ字ベンドの下部)にある既存の冷却剤出口からは、小さな残留飛散が発生したことが観察された。これは、チップの設計を変更する(フェース出口を密閉する)ことで完全に解消できると考えられる。
【0144】
高速ハンドピースの場合、結果は、エアロゾルのほぼ完全な除去が達成され、飛沫は、冷却剤がハンドピースのヘッドのポートを出た後、歯の表面に接触する前にのみ観察されることを示す。これは、冷却剤ポートを出て、口腔組織、唾液、または歯に接触する前までの間は、汚染されていないエアロゾルとして分類される。
【0145】
改良冷却剤は、冷却剤が手術部位に接着し、粘膜付着性様の挙動を示してその隣接領域内に留まるため、改質冷却剤が歯に接触した後、エアロゾルは検出されなかった。観察されるのは、>50μmであり、かつ冷却剤が歯の表面に接触する前に発生する飛沫のみである。超音波デバイスおよび高速デバイスの両方で、汚染されたエアロゾルは観察されなかった。
【0146】
試験では、改良冷却剤を使用すると、飛沫として知られる大きな粒子が生成されることが観察された。これらの大きな粒子は重いため、すぐに地面に落ちる。全ての試験で、水は霧化してはるかに広い表面積に広がり、落ちるまでに時間がかかった。改良冷却剤は、一般に発生源からはるかに遠くまで飛散する小さな粒子を生成する水と比較して、明らかな霧化もなく、より大きな飛沫および飛び散りを生成した。
【0147】
実施例2:グリーンラインレーザー光散乱試験
冷却剤によって生成された粒子およびその軌道を可視化および画像化するために、改良冷却剤を使用するデバイスおよび水を使用するデバイスの両方について、レーザー光散乱試験が実行された(Quarton社製グリーンラインレーザー波長510~530nm)。これらの試験は、両方のデバイスを非接触モードで使用して実行された。
【0148】
超音波スケーラーを使用した結果を
図11に示す。
図11Aに、水を冷却剤として使用した1pチップの結果を示す。
図11Bに、1pチップに改良冷却剤を用いた結果を示す。
図11Cは、改良チップに改良冷却剤を用いた結果を示す。
【0149】
高速ハンドピースを使用した結果を
図12に示す。
図12Aは冷却剤として水を使用した結果を示す。
図12Bは、改良冷却剤による結果を示す。
【0150】
これらの結果は、実施例1の高速イメージングで得られた結果をさらに裏付けるものである。
【0151】
実施例3:温度試験
高速ハンドピース:熱電対センサー(ピコセンサー タイプK)は、均質なサイズと形状の5つの歯標本の歯髄室内に固定され、熱変化をライブで記録するために、6ポートデータロガー(ピコUSB TC-08熱電対データロガー)および互換性のあるコンピューターソフトウェアに接続された(PicoLog6ソフトウェア)。歯の標本はタイポドントベースに取り付けられ、実験で用いた昇降プラットフォーム上の所定の位置に固定された。標本は、体温をシミュレートするために、温度を~37℃に維持したウォーターバス内に配置された。各センサーは咬合面から標準化された3mmの位置に固定され、切断試験は頬側方向から歯髄室に向けて行われた。各切断は、標準化のために、1回の、中断のない、マイクロ制御された動きで構成されていた。作製した各切断は、頬側咬合方向に深さ2mmであった。2番目のセンサーを水槽内に置き、切断手順全体を通して温度を記録した。
【0152】
超音波スケーラー:このデバイスのデータを記録するために3つのセンサーが使用された。高速ハンドピース試験について前述したように、熱電対センサー(ピコセンサー タイプK)を5つの歯標本の歯髄室内に固定した。2番目のセンサーを水槽内に置いて処置中のタイポドントの温度を記録し、3番目のセンサーを超音波ハンドピースの終端に配置した。超音波処置として、1分間の継続時間の中断のないスケーリング動作を行った。歯(エナメル質表面)は静止したままで、チップは通常の技術に従って一定の動きかつ1ストロークあたり1~2mmの距離で使用され、チップは現実的な状態を再現するように歯の表面の長軸に平行とした。
【0153】
冷却剤温度をゼロに設定した、1pチップを用いる超音波スケーラーで水を用いた場合(
図13A)および改良冷却剤を用いた場合(
図13B)の結果を
図13に示す。このことから、改良冷却剤溶液を使用した場合には、温度上昇が起こらなかったことがわかる。同様の結果が、冷却剤設定ゼロ(室温:23℃)および3(30℃)での2uおよび改良チップを使用した試験、並びに高速ハンドピースを使用した試験でも観察された。
【0154】
実施例4:流量試験
水と比較した改良冷却剤の1分あたりの流量を測定するために、インビトロで試験を実施した。
【0155】
超音波スケーラー:周波数27~32kHzの超音波デバイス(W&H Tigon Plus)を中断することなく60秒間作動させた。出力(30)と冷却剤流量(レベル5)の設定をすべての試験で標準化した。各クーラントを3つの異なるチップ(W&H 2U チップ、1Pチップ、および改良チップ)を使用して試験した。蒸留水をデバイスタンクに追加し、流量を測定して、これを対照とみなした。様々なチップを使用した冷却水のデータが1分間記録された。試験溶液は改良冷却剤であり、すべての変数は一定のままで、3つのチップすべてについて1分あたりの流量が記録された。各試験を5回繰り返した。メーカーが推奨するピエゾ超音波デバイスの最小冷却流量は14ml/分である。
【0156】
高速ハンドピース:高速ハンドピースの推奨流量は、1分あたり50mlの冷却剤である。高速デバイス(W&H Synea TG-98L)には4つの冷却ポートがあり、~400,000RPMで動作する。この試験では2.4barの空気圧が記録された。この試験では、冷却剤の流量を調整するためにWatson Marlow(モデル5055)蠕動ポンプが使用された。この評価の目的のため、2つの冷却剤、水および改良冷却剤(M55-50重量%グリセリン:49.5重量%蒸留水:0.5重量%アルギン酸ナトリウム)の流量をそれぞれ5回繰り返して記録した。
【0157】
流量試験の結果は下記のとおりである。
【0158】
【0159】
【0160】
これらの結果は、超音波デバイスおよび高速デバイスの両方について、すべての実験を通じて1分あたりの流量が最小要件を上回っていることを示す。
【0161】
実施例5:音試験
転換された臨床手術において、超音波スケーラーのインビトロでの騒音試験を実施した。試験は、周波数範囲27~32kHの卓上歯科用超音波スケーリングデバイス(W&H Tigon Plus)を使用して実施された。この試験の目的のために、新しい未使用の1Pチップ(W&H)および2つの液体冷却剤が選択された。ずれの試験においても、Tigon Plus デバイスで次の設定;出力設定30、冷却剤流量5、および熱設定ゼロを選択した。歯の標本を準備し、タイポドントプレート上に取り付け、昇降プラットフォームに固定した。超音波デバイスは、ハンドピースを水平面に対して45°の角度にして操作された。デバイスのチップを歯の表面と平行に配置し、チップの末端2mmが接触するようにした。作動騒音は、歯肉縁上のバイオフィルム除去技術を30秒間中断することなく使用し、チップを一定の動きに保ちながら、1~2mmの水平方向の動きでデバイスを作動させることによってシミュレートされた。音響測定デバイス/マイクZoom H1を、超音波スケーラーのチップの真上の20cmの距離に配置し、固定した。データの記録と分析にはAdobe Audition 2020を使用した。水(上のスペクトル)および改良冷却剤(下のスペクトル)について得られた例示的な周波数表示を
図14に示す。
【0162】
超音波デバイスで実行された音響試験の結果は、デシベルおよび高音のノイズが減少していることを示す。これは、臨床医の安全性だけでなく、患者の快適性および治療の受容性の観点からも重要な発見である。
【0163】
実施例6:粘度の測定
Brookfields DVE-HB 粘度計とUL(超低)アダプターを使用して粘度試験を実行した。全ての溶液および毎分回転数(RPM)についての温度データを記録した。我々の粘度試験に基づいて、デバイスの正常な機能および動作を可能にしながらエアロゾルを低減するための、各デバイスについての粘度の範囲を作成した。粘度測定は、DIN 53019-1規格に従って実行した。
【0164】
粘度試験の結果を以下の表3に示す。「M55」は、50重量%のグリセリン:49.5重量%の蒸留水:0.5重量%のアルギン酸ナトリウムを含む冷却剤組成物である。「M55+」は、58.33重量%グリセリン:41.25重量%蒸留水:0.416重量%アルギン酸ナトリウムを含む冷却剤組成物である。
【0165】
【0166】
実施例7:冷却剤の組成
上記の方法を使用して、様々な冷却剤組成物を試験した。下記表4は、各組成について行われた主な観察結果を示す。キャビテーションは、キャビテーション気泡の存在を確認するために拡大された高速イメージングを使用して観察された。
【0167】
【0168】
実施例8:粒子の測定
実験のセットアップを
図15に示す。この実験の目的のため、様々な濃度のグリセロール水溶液である液体冷却剤を評価した。試験冷却剤は、50重量%、60重量%、70重量%、75重量%、および80重量%の水性グリセロールが含まれた。従来の冷却剤としては蒸留水が使用されており、これが対照である。溶液は、20℃で15分間撹拌(Heidolph MR3001K、ドイツ)しながら蒸留水にグリセロールを加えることによって調製された。液体は、スタンドアロンの圧電超音波スケーラーデバイス27~32kHz(Tigon plus、WH、オーストリア)のリザーバに追加され、ハンドピースはチップが鉛直面に垂直になるように高さ0.3mの位置に固定され、障害物のない安定した状態で、ユニバーサルチップ(1U)を用い、通常の使用および規定時間での処置のための製造元の指示に基づいて、単一の動力および冷却剤流量設定で操作された。各手順をそれぞれの水(対照)およびグリセロール水溶液濃度について6回繰り返した。
【0169】
粒子測定は、機器の使用全体を通じて液滴粒子サイズおよび複数の位置の時間分解測定を提供しながら、再現可能な周囲条件を確保するように設計された特注の環境チャンバーで行われた。チャンバーは、4つの粒子状物質センサーSensirion SPS30 (Sensirion、スイス)で構成され、10μm~0.3μmの粒子数範囲および10μm~1μmの粒子質量範囲で、校正された6チャネル粒子計数器Lasair 5100(EMS Particle Solutions, UK)を用いて実行されるさらなる検証をともなう発生源から0.3mに配置された。すべてのセンサーは4つの粒子濃度(μ/cm3)および5つの粒子数を毎秒記録し、データロガー(MQTT、Influx DB)に出力した。10秒の移動平均が各データポイントに適用された。
【0170】
この試験は、厳密に制御された環境で、最小のものを含むすべてのエアロゾル粒子を検出するように設計されている。
【0171】
結果を表5A(粒子質量)および表5B(粒子数)に示す。記載されたすべての値は6回の実行の平均である。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
結果は、超音波スケーリングによって生成されるエアロゾルの大部分がミクロン範囲より小さいことを示す;危険なレベルのウイルスおよび病原体を運ぶにはまだ十分な大きさだが、科学文献では言及/対処されていない。
【0176】
これらの結果は、水を冷却剤として使用する超音波デバイスが、発生源から0.3mでのベースライン記録と比較して粒子数の大幅な増加をもたらすことを示す。冷却剤を75%グリセロール水溶液に置き換えると、水(対照)と比較して粒子が統計的に有意に減少した(p<0.0001)。80%グリセロール水溶液では75%と比較して、さらなる削減が達成された(p=0.0016)。これは、5μm未満の非常に細かいエアロゾル粒子に関連するものを含む、エアロゾル化の低減における改良冷却剤の有効性を示す。
【0177】
改良冷却剤は、試験条件でエアロゾルの98%以上の削減を達成した。私たちの経験では、他の研究で一般的に使用されているより単純な検査方法、または緩和因子を使用した臨床現場では、結果はさらに100%に近づく。
【0178】
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