(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】インスリン製剤及び早産児におけるインスリン製剤の使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20240401BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240401BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240401BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240401BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240401BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240401BHJP
A61P 5/50 20060101ALI20240401BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20240401BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/40
A61K47/69
A61P29/00
A61P31/00
A61P43/00 111
A61K9/19
A61P5/50
A23L33/17
A23C9/152
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561809
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 IL2022050371
(87)【国際公開番号】W WO2022219625
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521516639
【氏名又は名称】エルガン ファーマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ELGAN PHARMA LTD
【住所又は居所原語表記】New Generation Technologies NGT3, 13 Wadi El-Haj Street, Nazareth, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルシャンスキー ミカル
(72)【発明者】
【氏名】オストロフスキー エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ゼルディス スタヴ
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC05
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(57)【要約】
インスリン製剤ならびにインスリン製剤の調製方法及び使用方法。インスリン調製物は、インスリン、オリゴ糖、及び塩化ナトリウムを1:A:B(それぞれw:w:w)の比で含み、A及びBの範囲はそれぞれ1000~5000及び10~50である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳児用乳汁栄養食(infant feed)に使用するためのインスリンを調製する方法であって、
(a)インスリンを塩酸に可溶化させて可溶化インスリンを得ること、及び
(b)前記可溶化インスリンを水で希釈してpHを6.9~8.0に調整すること、
を含む、方法。
【請求項2】
(c)シクロデキストリンを溶液(b)に添加してそれによりシクロデキストリンの空隙内に前記インスリンを包接すること、及び
(d)pHを6.9~8.0に調整すること、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(b)または(d)の結果物を、塩化ナトリウム溶液及びマルトデキストリン溶液とpH6.7~7.5で混和し、次いで前記pHを6.7~7.6に調整することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記混和の結果物を濾過し、濾液を凍結乾燥してpH6.0~7.6の無晶性粉末を得ることを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
インスリンを含む乳児用乳汁栄養食を製造する方法であって、請求項4に記載の前記無晶性粉末を前記乳児用乳汁栄養食中で再構成することを含む、方法。
【請求項6】
インスリン、オリゴ糖、及び塩化ナトリウムを1:A:B(それぞれw:w:w)の比で含むインスリン製剤であって、A及びBの範囲が、それぞれ1000~100,000及び10~50である、インスリン製剤。
【請求項7】
シクロデキストリンを更に含む、請求項6に記載のインスリン製剤。
【請求項8】
前記シクロデキストリンの割合が、前記インスリンに対して10~1000である、請求項7に記載のインスリン製剤。
【請求項9】
脱イオン水または0.9%塩化ナトリウム溶液中に濃度0.03g/mlで再構成されるとき、pHが6.0~7.6となる、請求項6に記載のインスリン製剤。
【請求項10】
1グラムの前記インスリン製剤に、2~40IUが含まれる、請求項6または8に記載のインスリン製剤。
【請求項11】
A21デスアミドインスリンの含有量が5%未満である、請求項6または8に記載のインスリン製剤。
【請求項12】
総関連物質の含有量が5%未満である、請求項6または8に記載のインスリン製剤。
【請求項13】
最終投与単位(finished dosage unit)中のインスリン含有量の相対標準偏差が5%以下である、請求項6または8に記載のインスリン製剤。
【請求項14】
請求項6に記載のインスリン製剤を含む、乳児用乳汁栄養食。
【請求項15】
早産児における壊死性腸炎/大腸炎/全腸炎を予防する方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項16】
早産児における壊死性腸炎/大腸炎/全腸炎の有病率及び重症度を低減させる方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項17】
早産児における遅発型敗血症の有病率を低減させる方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項18】
早産児における胃腸管の炎症を低減させる方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項19】
早産児における有害事象、生命を脅かす事象、及び致死性合併症の有病率及び重症度を低減させる方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項20】
早産児における胃腸管の透過性を低減させる方法であって、
前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与すること、及び
ラクトース/ラクツロース比を測定すること、
を含む、方法。
【請求項21】
早産児における腸内微生物叢の迅速な成熟を増大させる方法であって、
前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与すること、ならびに
Proteobacteria門の低減ならびにFirmicutes門及びClostridiaceae科の増加を測定すること、
を含む、方法。
【請求項22】
前記乳児用乳汁栄養食が、0.1~4IU/mlのインスリンを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
早産児における遅発型敗血症を予防する方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項24】
前記乳児用乳汁栄養食が、0.1~4IU/mlのインスリンを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
早産児が一次医療から退院するまでの時間を短縮する方法であって、前記早産児に請求項14に記載の乳児用乳汁栄養食を投与することを含む、方法。
【請求項26】
前記短縮が、未治療の早産児と比較して少なくとも5%である、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年4月11日に出願された米国仮特許出願第63/173,442号明細書の優先権を主張するものであり、この仮特許出願の内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、乳児用乳汁栄養食(infant feed)に使用するために製剤化されたインスリン製剤に関する。本発明の実施形態は、インスリン及びインスリンを含む乳児用乳汁栄養食を調製する方法、ならびに遅発型敗血症または壊死性腸炎/大腸炎/全腸炎などの早産児障害を予防するまたはその重症度を低減させる際のインスリン含有乳児用乳汁栄養食の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
妊娠第37週より前に出産した場合、出産は未熟出産または早産とみなされる。子宮内での最後の数週間は、健全な体重増加及び種々の生命維持に必要な器官の十分な発達にとって極めて重要である。
【0004】
人乳は、乳児に対する健康上の利益が立証されていることから、早産児を含む全ての乳児に対する最適な乳汁栄養として認識されている。
【0005】
人乳には相当数のホルモン及び成長因子が含まれており、これらのホルモンの一部(例えば、インスリン、インスリン様成長因子1、IGF-1、上皮成長因子)が経口投与後に小腸に影響を及ぼすことが研究から示されている。
【0006】
早産児用調合乳にインスリンを添加することによって発育が良好になり、腸管の成熟が促進されることも、研究から示されている[Shulman, R. J., 2002;Archives of Disease in Childhood-Fetal and Neonatal Edition, 86(2), F131-F133]。
【0007】
インスリン含有乳児用乳汁栄養製剤についてはこれまでに報告されているものの、乳児が未熟児として出生した場合、消化系が十分に発達していない可能性があり、その結果、これらの早産児の多くが栄養失調に直接的または間接的に関連する摂食困難及び摂食障害を経験する。
【0008】
生後72時間以降に発病する敗血症と定義される遅発型敗血症(LOS)は、新生児集中治療室における主な死因である。早産児のLOS発生率は、生後120日間は20~38%の間で変動し、死亡率の範囲は13~19%である。
【0009】
壊死性腸炎(NEC)は、主に未熟児の腸を冒す疾患である。細菌が腸壁に侵入することにより、局所感染及び炎症が引き起こされ、最終的には腸壁が破壊されるおそれがある。早産児の約7%が壊死性腸炎を発症し、罹患児のうち約25%が死亡する。
【0010】
本発明を実践に移す際に、本発明者らは、乳児用乳汁栄養食(調合乳または母乳)に可溶化可能なインスリン製剤を製剤化し、かかる製剤を使用してLOS及びNECを予防するまたはその重症度を低減させることができることを初めて示した。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一態様によれば、乳児用乳汁栄養食に使用するためのインスリンを調製する方法であって、インスリンを塩酸に可溶化させて可溶化インスリンを得ること、及び可溶化インスリンを水で希釈してpHを6.9~8.0に調整すること、を含む方法が提供される。
【0012】
本発明の実施形態によれば、本方法は、シクロデキストリンを溶液(b)に添加してそれによりシクロデキストリンの空隙内にインスリンを包接すること、及びpHを6.9~8.0に調整すること、を更に含む。
【0013】
本発明の実施形態によれば、本方法は、(b)または(d)の結果物を塩化ナトリウム溶液及びマルトデキストリン溶液と混和して、pHを6.7~7.6に調整することを更に含む。
【0014】
本発明の実施形態によれば、組成物は、水中油型ナノ液滴エマルションと組み合わされており、このナノ液滴にはドコサヘキサエン酸(DHA)及びコエンザイムQ10が含まれている。
【0015】
本発明の実施形態によれば、本方法は、混和の結果物を濾過し、濾液を凍結乾燥してpH6.0~7.6の無晶性粉末を得ることを更に含む。
【0016】
本発明の別の態様によれば、インスリンを含む乳児用乳汁栄養食を製造する方法であって、本明細書に記載の無晶性粉末を乳児用乳汁栄養食中で再構成することを含む方法が提供される。
【0017】
本発明の別の態様によれば、インスリン、オリゴ糖、及び塩化ナトリウムを1:A:B(それぞれw:w:w)の比で含むインスリン製剤が提供され、ここで、A及びBの範囲は、それぞれ1000~100,000及び10~50である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、本インスリン製剤は、脱イオン水または0.9%塩化ナトリウム溶液中に濃度0.03g/mlで再構成されるとき、pHは6.0~7.6となる。
【0019】
本発明の実施形態によれば、本インスリン製剤は、シクロデキストリンを更に含む。
【0020】
本発明の実施形態によれば、シクロデキストリンの割合は、インスリンに対して10~1000である。
【0021】
本発明の実施形態によれば、1グラムの本インスリン製剤に、2~40IUが含まれる。
【0022】
本発明の別の態様によれば、本インスリン製剤を含む乳児用乳汁栄養食が提供される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、早産児における壊死性腸炎/大腸炎/全腸炎を予防する方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0024】
本発明の別の態様によれば、早産児における壊死性腸炎/大腸炎/全腸炎の有病率及び重症度を低減させる方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0025】
本発明の別の態様によれば、早産児における遅発型敗血症の有病率を低減させる方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0026】
本発明の別の態様によれば、早産児における胃腸管の炎症を低減させる方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0027】
本発明の別の態様によれば、早産児における有害事象、生命を脅かす事象、及び致死性合併症の有病率及び重症度を低減させる方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0028】
本発明の別の態様によれば、早産児における胃腸管(GI管)の透過性を低減させる方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与すること、及びラクトース/ラクツロース比を測定すること、を含む方法が提供される。
【0029】
本発明の別の態様によれば、早産児における腸内微生物叢の迅速な成熟を増大させる方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与すること、ならびにProteobacteria門の低減ならびにFirmicutes門及びClostridiaceae科の増加を測定すること、を含む方法が提供される。
【0030】
本発明の実施形態によれば、乳児用乳汁栄養食には、0.01~4IU/mlが含まれる。
【0031】
本発明の別の態様によれば、早産児における遅発型敗血症を予防する方法であって、早産児に乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0032】
本発明の別の態様によれば、早産児の一次医療からの退院時間を短縮する方法であって、早産児に本明細書に開示される乳児用乳汁栄養食を投与することを含む方法が提供される。
【0033】
別途定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法及び材料を本発明の実践または試験に使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書が優先される。加えて、材料、方法、及び実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図したものではない。
【0034】
本発明は、本明細書において、添付図面を参照して単なる例として説明される。これより、具体的に図面を詳細に参照するが、示される特質は、単に、例としてのものであり、かつ本発明の好ましい実施形態を例示的に考察する目的のものであり、本発明の原理及び概念的側面の最も有用で容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示されていることを強調する。この点に関して、本発明の基本的な理解に必要とされる以上に詳細に本発明の構造の詳細を示す試みは行われておらず、当業者には、本発明のいくつかの形態がどのようにして実際に具体化され得るかが、説明を図面と併せて読むことにより明らかになる。
【0035】
図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の製剤I~IVの典型的なクロマトグラムである。
【
図2】本発明の製剤V~VIの典型的なクロマトグラムである。
【
図3】本発明の製剤IV~V中のDHA及びコエンザイムQ10の典型的なクロマトグラムである。
【
図4】群ごとの静脈栄養(PN)離脱の確率(カプラン・マイヤー生存曲線)を図示する。
【
図5】群ごとの1日あたりの平均PN摂取を図示しており、プラセボと比較した治療群、特に0.3IU/kg/日での経腸インスリン製剤の明らかな利益を示している(総摂取中のPN低減率として示される)。
【
図6】群ごとの総栄養中の経腸栄養のパーセンテージを図示する。
【
図8】本発明の製剤I~IVの無晶性構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図9】本発明の製剤I~IVの熱重量分析(TGA)及び示差走査熱量測定(DSC)を示すグラフである。
【
図10】本発明の製剤I~IVの熱重量分析(TGA)及び示差走査熱量測定(DSC)を示すグラフである。
【
図11】本発明の製剤I~IVの固体NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、乳児用乳汁栄養食に使用することができるインスリン製剤に関するものである。具体的には、本発明は、遅発型敗血症または壊死性腸炎/大腸炎/全腸炎などの早産児障害を予防するまたはその重症度を低減させるために使用することができる。
【0038】
本発明の原理及び作用は、図面及び付随する説明を参照することにより、より良く理解され得るであろう。
【0039】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されるまたは実施例によって例証される詳細にその適用が限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であるか、または種々の方法で実践もしくは実行することができる。また、本明細書で用いられる術語及び専門用語は、説明を目的としたものであり、限定するものとみなされるべきではないことを理解されたい。
【0040】
インスリン含有乳児用乳汁栄養食は、当該技術分野で公知であり、早産児の吸収不良の治療に提案されている。
【0041】
本発明者らは、母乳または調合乳などの乳児用乳汁栄養食での使用を目的とした種々のインスリン製剤の実験中に、インスリンが乳児用乳汁栄養食に可溶化されると重合及び凝集する傾向を示し、このため、得られる乳汁栄養調合乳中のインスリンの利用可能性が低減することを認識した。乳児用乳汁栄養食を激しく混合することでこの問題をある程度解決することができるが、本発明者らは、これを最適解には及ばないとみなし、乳児用乳汁栄養食におけるインスリンの溶解度の改善に着手した。
【0042】
したがって、本発明の一態様によれば、乳児用乳汁栄養食(例えば、母乳または調合乳)に容易に溶解可能であり、かつ長期間にわたり凝集することなく乳汁栄養食中で安定性(構造的及び機能的な)を示すインスリン製剤が提供される。
【0043】
本発明の調製物は、インスリン(例えば、ヒト組換え体)、炭水化物(例えば、マルトデキストリンなどのオリゴ糖)、及び塩化ナトリウムを1:A:B(それぞれw:w:w)の比で含み、ここで、A及びBの範囲は、それぞれ1000~100,000及び10~50である。1グラムの本インスリン製剤に、2~40IUが含まれ得る。本インスリン製剤には更に、シクロデキストリンがインスリンに対して10~1000の比で含まれ得る。炭水化物、例えば、単糖類(例えば、グルコース)、二糖類(例えば、ラクトース、マルトース)、オリゴ糖類(デキストリン(例えば、マルトデキストリン)、シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(HPbCD))、及び多糖類などは、安定剤、充填剤、及び凍結防止剤として使用される。緩衝剤(例えば、リン酸ナトリウム塩またはリン酸カリウム塩)も、組成物に添加され得る。
【0044】
製剤は、ドコサヘキサエン酸(DHA)とコエンザイムQ10とを含むナノ液滴を有する水中油型ナノエマルションと組み合わせることができる。
【0045】
製剤は、粉末形態であってもよく、脱イオン水または0.9%塩化ナトリウム溶液中に濃度0.03g/mlで再構成されるとき、pHが6.0~7.6となる。
【0046】
本発明者らは、pH6.9~8.0でインスリンを前処理し、pH6.7~7.6で炭水化物と混和し、凍結乾燥することにより、ヒト母乳に溶解しやすい無晶性インスリン粉末(
図8)が得られ、これにより先行技術のインスリン製剤に関する前述の制約が克服されることを見出した。
【0047】
本発明のインスリン製剤は、主に充填剤(例えば、マルトデキストリン)で構成される無晶性構造中にインスリンが組み込まれた無晶性粉末である。調製物の含水量は6.5%以下であり得、脱イオン水中に濃度0.1g/mlで再構成される場合の容積モル浸透圧濃度は約110~120mosm/kgであり、脱イオン水または0.9%塩化ナトリウム溶液中に濃度0.03g/mlで再構成される場合、pHは6.0~7.6である。熱重量分析(TGA)及び示差走査熱量測定(DSC)によって得られる典型的なサーモグラム曲線を
図9~10に示す。本発明の製剤の固体NMRスペクトルを
図11に示す。
【0048】
本明細書に言及されているように、本発明のインスリン製剤は、粉末(または液体)として、例えば人乳などの乳児用乳汁栄養食に添加され得る。人乳は、新鮮な均質化された母親の母乳またはドナー母乳である。
【0049】
粉末形態の場合、本発明のインスリン製剤は、乳児用乳汁栄養食中に最終インスリン濃度0.1~8IU/mlで再構成され得る。
【0050】
本発明の製剤は、粉末として包装され、長期間(数日/数ヶ月)にわたり保管され得る。
【0051】
包装は、例えば、乾燥形態の本発明の製剤が充填されたガラスバイアルまたはアルミニウム小袋であり得る。包装物には、0.1~1.0グラムの粉末形態の製剤を含めることができ、グラムあたり0.2~40IUのインスリンが含まれる。包装単位のヘッドスペースは、空気または不活性ガス(例えば、窒素)であり得る。
【0052】
包装により、水蒸気透過率(MVTR)が約0.1g/m2/24時間未満、かつ酸素透過率(OTR)が約0.1cm3/m2/24時間未満の湿気バリア及び/または酸素バリアが付与され得る。
【0053】
本明細書に開示されるように包装された場合、本発明の製剤は、非常に安定しており、約2℃~約8℃で最大24ヶ月間保管された場合に、インスリン活性が約1~10%を超えて減少せずに長期間保管され得る。更に、包装された製剤の含水量は、約2℃~約8℃で24ヶ月間保管された場合、典型的には約4.5~6.5重量%以下である。
【0054】
本インスリン製剤は、脱イオン水または0.9%塩化ナトリウム溶液中で再構成することができ、得られた溶液を乳児用乳汁栄養食(母親自身の乳汁、ドナー母乳、調合乳など)に添加して、粉末製剤用の上記インスリンの濃度を得ることができる。
【0055】
本明細書で説明され、実施例の項で実証されるように、本発明のインスリン製剤及び本発明のインスリン製剤を含有する乳汁栄養食は、早産児の静脈栄養からの離脱を促進し、かつ全体的な有害事象ならびに壊死性大腸炎(NEC)及び遅発型敗血症(LOS)を含む特定の対象症状を実質的に低減させるために使用され得る。
【0056】
したがって、本発明の別の態様によれば、必要とする対象(例えば、早産児)においてLOSを予防するまたはそのリスク及び重症度を低減させる方法が提供される。本方法は、本発明の薬剤と混合した治療有効量の乳児用乳汁栄養食を、必要とする対象に投与することによって行われる。かかる投与は、経口または栄養管を介したものであり得る。
【0057】
したがって、本発明の更に別の態様によれば、必要とする対象(例えば、早産児)においてNECを予防するまたはそのリスク及び重症度を低減させる方法が提供される。本方法は、本発明の薬剤と混合した治療有効量の乳児用乳汁栄養食を、必要とする対象に投与することによって行われる。かかる投与は、経口または栄養管を介したものであり得る。
【0058】
「治療有効量」という用語は、有効成分、または有効成分を含む乳汁栄養食の用量であって、有効成分を必要とする治療効果がもたらされる用量を意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という語句は、ヒト乳児を指す。ヒト乳児は、任意の年齢(例えば、正期産児もしくは早産児)またはいずれかの性別であり得る。必要とする対象は、在胎齢24~37週で出生した早産児、または低出生体重満期産児、または子宮内胎児発育遅延(IUGR)児、または在胎不当過小児であり得る。
【0060】
本発明者らによって確立された典型的な投与レジメンは、例えば、1日1~12回の経口投与に分けて、乳児用乳汁栄養食1~3mlに混合された粉末0.1~1gを使用した連続経腸投与またはボーラス摂取により投与され得る。
【0061】
以下の実施例の項に記載されているように、本発明のレジメンにより、0.3IU/kg/日の用量群においてプラセボと比較してNEC症例が減少した。壊死性腸炎(Bell分類2期または3期)は、低用量群で乳児7名(6%)に、高用量群で乳児4名(5%)に、及びプラセボ群で乳児10名(10%)に発生した。最も虚弱な集団(在胎齢26~28週の層)を観察した場合、その差異は更により顕著であり、治療群では被験者の4.3%がNECを有していたのに対し、プラセボ群では19.6%であった。感染症(敗血症及び他の感染症を含む)を経験した乳児のパーセンテージには、群間で有意義な差異があった。試験集団全体を観察した場合、総発生率は、0.06IU/kg/日の用量群で30%、0.3IU/kg/日の用量群で34.7%、及びプラセボ群で42.9%であった。
【0062】
本発明のレジメンを使用した別の試験で実施された糖吸収試験(SAT)による腸管透過性及びラクターゼ活性の同時評価では、治療群において腸管透過性が低下し(胃腸(GI)の迅速な成熟を示し)、かつラクターゼ活性が高くなる傾向が示された。
【0063】
本試験の有効性は、実施例4に示される結果によって実証されるように、(自宅または二次施設への)退院までの時間によっても実証される。その中に示されているように、早産児が一次医療から退院するまでの時間は、未治療の早産児(対照)と比較して少なくとも5%短縮される。これは予想より少なくとも5日早い退院と言い換えられる。
【0064】
腸管微生物叢の初期の相違に関して、プラセボと比較して2用量の経腸インスリン投与の有効性を評価することを目的とした、別の試験が実施された。この試験では、治療群とプラセボ群との間でGI微生物叢に有意差があることが示された。治療終了時、高インスリン用量の微生物多様性がプラセボ群よりも低いことが示された(p=0.0192)。インスリンは、Firmicutes門を増加させ、Proteobacteria門を減少させる。経腸インスリン投与により、Proteobacteria門が低減し、Firmicutes門及びClostridiaceae科が増加した。これらの結果は、本発明の製剤及びレジメンが腸内微生物叢の迅速な成熟を促進することを示している。この試験で得られたProteobacteria門の減少及びFirmicutes門の増加は、NECのリスクが低い乳児でこれまでに認められた変化である。
【0065】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は±10%を指す。
【0066】
本発明の更なる目的、利点、及び新規特徴は、以下の実施例を考察することで当業者には明らかとなるであろうが、以下の実施例は限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0067】
これより以下の実施例を参照するが、これらの実施例は、上記の説明とともに本発明を非限定的な形で例示するものである。
【0068】
実施例1
インスリン及び乳児用乳汁栄養製剤
インスリン製剤を調製し、早産児の治療における有効性を(乳児用乳汁栄養食中で)試験した。
【0069】
製剤I
有効成分はインスリン、可溶化剤は塩化ナトリウム、ならびに充填剤及び安定剤はオリゴ糖(例えば、マルトデキストリン)。最終製品は、ガラスバイアルに充填した凍結乾燥粉末である。再構成した溶液の力価は、希釈剤の容量によって調節する。
【0070】
【0071】
材料及び方法
24.5IU/mlのrh-インスリン溶液を次のように調製した。インスリン13mgを0.1Nの塩酸1mlに可溶化させ、水で15mlまで希釈し、0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを7.6に調整した。
【0072】
製剤の混和:
40グラムのマルトデキストリンを水100mlに溶解し、得られた溶液のpHを7.2に調整した。6%の塩化ナトリウム溶液2ml及びインスリン溶液4mlを製剤混合物に添加し、pHを7.0に調整した。
【0073】
得られたバルクを0.22μmのPESメンブレンに通して濾過し、ガラスバイアルに充填して(充填容量1.7ml)、凍結乾燥した。
【0074】
凍結乾燥粉末を含む各バイアルには、1.25IUのrh-インスリン、510mgのマルトデキストリン、及び1.5mgの塩化ナトリウムが含まれていた。
【0075】
製剤II
有効成分はインスリン、包接剤はシクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン)、可溶化剤は塩化ナトリウム、ならびに充填剤及び安定剤はオリゴ糖(例えば、マルトデキストリン)。最終製品は、ガラスバイアルに充填した凍結乾燥粉末である。再構成した溶液の力価は、希釈剤の容量によって調節する。
【0076】
【0077】
材料及び方法
rh-インスリン溶液62IU/mlを次のように調製した。インスリン85.6mgを0.1Nの塩酸5mlに可溶化させ、水30mlで希釈し、0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを7.2に調整した。
【0078】
製剤の混和:
マルトデキストリン200グラムを水600gに溶解し、得られた溶液のpHを7.3に調整した。水60mlに予め溶解させた塩化ナトリウム2g及びインスリン溶液を製剤混合物に添加し、pHを7.0に調整し、バルク容量が1Lになるまで追加分の水を添加した。
【0079】
得られたバルクを0.22μmのPESメンブレンに通して濾過し、ガラスバイアルに充填して(充填容量0.5ml)、凍結乾燥した。
【0080】
凍結乾燥粉末を含む各バイアルには、rh-インスリン1.2IU、マルトデキストリン100mg、及び塩化ナトリウム1.0mgが含まれていた。
【0081】
製剤III
rh-インスリン溶液243IU/mlを次のように調製した。インスリン84.4mgを0.1Nの塩酸1mlに可溶化させ、水で10mlまで希釈し、0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを8.1に調整した。
【0082】
製剤の混和:
マルトデキストリン30グラムを水60mlに溶解し、得られた溶液のpHを7.1に調整した。7.5%塩化ナトリウム溶液2.7ml及びインスリン溶液1mlを製剤混合物に添加し、pHを7.3に調整し、バルク容量が100gになるまで追加分の水を添加した。
【0083】
得られたバルクを0.22μmのPESメンブレンに通して濾過し、ガラスバイアルに充填して(充填容量0.5ml)、凍結乾燥した。
【0084】
凍結乾燥粉末を含む各バイアルには、1.4IUのrh-インスリン、172mgのマルトデキストリン、及び1.2mgの塩化ナトリウムが含まれていた。
【0085】
製剤IV
本実施例では、液体バルク9kg(凍結乾燥粉末0.9kg)を商業規模で製造した製剤について説明する。有効成分としてインスリン、可溶化剤として塩化ナトリウム、ならびに充填剤及び安定剤としてオリゴ糖(例えば、マルトデキストリン)。最終製品は、ガラスバイアルに充填した凍結乾燥粉末である。再構成した溶液の力価は、希釈剤の容量によって調節する。
【0086】
【0087】
材料及び方法
33IU/mlのrh-インスリン溶液を次のように調製した。インスリン0.39gを0.1Nの塩酸20gに可溶化させ、注射用水300gで希釈し、次いで0.1Nの水酸化ナトリウム20gで中和した。0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを7.2に調整した。
【0088】
製剤の混和:
マルトデキストリン856グラム及び塩化ナトリウム8.6グラムを水6854グラムに溶解させ、得られた溶液のpHを7.2に調整した。インスリン溶液を混和混合物に添加し、得られた製剤の重量を最大9.0kgに調整して、pHを7.0に調整した。
【0089】
得られたバルクを0.22μmのPESメンブレンに通して濾過し、ガラスバイアルに充填して(充填容量1g)、凍結乾燥した。
【0090】
凍結乾燥粉末を含む各バイアルには、1IUのrh-インスリン、99mgのマルトデキストリン、及び1mgの塩化ナトリウムが含まれていた。
【0091】
得られた乾燥粉末の分析特性は、インスリン(インスリン+A21デスアミドインスリン)の含有量が1.13IU/バイアル、A21デスアミドインスリンの含有量が0.5%(面積パーセントによる)、他の総関連物質の含有量が0.1%(面積パーセントによる)、バイアルあたりのインスリン含有量の相対標準偏差(均一性)が0.9%、含水量が0.8%、pHが6.7、粉末を水で再構成する時間が5分未満である。
【0092】
製剤V
溶媒置換法を使用してDHA及びコエンザイムQ10のエマルションを形成し、rh-インスリン及び凍結防止剤(例えば、デキストリン、シクロデキストリン)を添加し、濾過して凍結乾燥することにより、本製剤を製造した。
【0093】
【0094】
材料及び方法
40IU/mlのrh-インスリン溶液を次のように調製した。インスリン27.5mgを0.1Nの塩酸2mlに可溶化させ、水18mlで希釈し、0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを7.2に調整した。
【0095】
水中油型ナノエマルション(平均液滴サイズ120nm)を次のように調製した。コエンザイムQ10 690mg、DHAエチルエステル1533mg、チロキサポール300mg、及びLipoid E80 300mgをエタノール56mlに溶解した。21G針を介して混合物を0.1%のPVA水溶液300mlに滴加し、室温にて350RPMで連続的に混合した。得られたエマルションを更に10分間混合し、0.1%PVA溶液で希釈し、Hydrosart MWCO30,000メンブレンを使用したタンジェンシャルフロー濾過により有機溶媒を除去した。
【0096】
得られたエマルション160mlにマルトデキストリン10グラムを溶解し、次いでインスリン溶液と混合した。最終バルクの容量を300mlにし、pHを6.9に調整した。エマルションを0.22umのPESメンブレンに通して濾過し、ガラスバイアルに充填して(充填容量1ml/バイアル)、凍結乾燥した。各バイアルには、rh-インスリン1.2IU、DHA2.5mg、及びコエンザイムQ10 1.1mgが含まれている。再構成した粉末中の液滴粒子の平均サイズは295nmである。
【0097】
製剤VI
製剤工程は製剤Vの工程と同一である。
【0098】
【0099】
材料及び方法
40IU/mlのrh-インスリン溶液を次のように調製した。インスリン27.2mgを0.1Nの塩酸2mlに可溶化させ、水18mlで希釈し、0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを7.2に調整した。
【0100】
水中油型ナノエマルション(平均液滴サイズ120nm)を、製剤IVについて記載したとおりに調製した。
【0101】
得られたエマルション160mlにヒドロキシプロピルベータシクロデキストリン10グラムを溶解し、次いでインスリン溶液と混合した。最終バルクの容量を327mlにし、pHを6.9に調整した。エマルションを0.22μmのPESメンブレンに通して濾過し、ガラスバイアルに充填して(充填容量1ml/バイアル)、凍結乾燥した。各バイアルには、1.2IUのrh-インスリン、2.5mgのDHA、及び1.1mgのコエンザイムQ10が含まれている。再構成した粉末中の液滴粒子の平均サイズは143nmである。
【0102】
実施例2
製剤I~IVの試験
rh-インスリンの含有量を、Hypersil Gold-C18カラム(3×50mm、3μm)で、0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)で酸性化させた水相及び有機相(アセトニトリル)で構成される移動相による勾配溶出を用いて、逆相高速液体クロマトグラフィー法により決定した。流量は0.3ml/分、205nmでのUV検出。製剤I~IVの典型的なクロマトグラムを
図1に示す。
【0103】
製剤V~VIの試験
rh-インスリン、DHA、及びコエンザイムQ10の含有量を、Hypersil Gold-C18カラム(3×50mm、3μm)で、0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)で酸性化させた水相及び有機相(アセトニトリル:メタノール:2-プロパノールの75:15:10混合物)で構成される移動相による勾配溶出を用いて、逆相高速液体クロマトグラフィー法により決定した。流量は0.6ml/分、インスリンは205nm、DHA及びコエンザイムQ10は214nmでのUV検出。製剤V~VIの典型的なクロマトグラムを
図2に示す。製剤V~VI中のDHA及びコエンザイムQ10の決定に関する典型的なクロマトグラムを
図3に示す。
【0104】
実施例3
乳児用乳汁栄養食の溶解度
ヒト母乳のpH範囲における本発明の製剤の溶解度を評価するために、試験を設計した。マルトデキストリン、塩化ナトリウム、及びインスリン(1IU)を含有する3つの乾燥試料を以下のように調製した。
【0105】
試料1は、マルトデキストリン、塩化ナトリウム、及びインスリンの溶液を固体マルトデキストリン粒子上に噴霧し、続いて35℃で乾燥することにより調製した、結晶性熱乾燥粉末である。乾燥粉末をマルトデキストリンと1:3で混合し、最終pHは6.3であった。
【0106】
試料2は、実施例1、製剤I~IIIに記載したとおりにpH7.0で調製し、無晶性粉末として提示する、本発明の製剤の1つの変形である。
【0107】
試料3は、乾燥成分(マルトデキストリン、塩化ナトリウム、及びインスリン)の物理的混合物であり、前処理を一切行わずに乾燥ブレンドしたものである。
【0108】
一定量の各製剤(インスリン1IUに相当)を、0.1Mのリン酸緩衝液1.8ml中にてpH6.3、6.7、及び7.2で再構成し、目視検査した。
【0109】
結果から、試料2(本発明の製剤)が母乳の広いpH範囲(6.3~7.2)で溶解しやすく、参照緩衝液と同程度の透明溶液が得られることが示された。試料1(熱乾燥製剤)及び試料3(乾燥成分の物理的ブレンド、前処理なし)は、試験したpH範囲で部分的に可溶であり、混濁溶液が得られた。
【0110】
試験試料の溶解プロファイルを、次の媒体:0.01NのHCl、二重脱イオン水(double deionized water)、及び0.1Mのリン酸緩衝液(pH6.3及び7.4)中で、HPLCを使用して評価した。
【0111】
各試料について、水中及びリン酸緩衝液中の溶解率を、0.01NのHCl中で決定したインスリンの量と比較して算出した。得られた溶解結果(以下の表6)は、本発明の組成物が乳児用調合乳のpH範囲において溶解性が高いことを示している。
【0112】
【0113】
加えて、試料1及び試料2を牛乳(pH6.89、脂肪含有量3%)中で再構成した。結果は緩衝液による再生試験(buffer recovery test)の観察結果と一致した。試料1は、乳汁中で部分的にしか再構成されないため、目に見える凝塊が生じ、この凝塊は、再構成された薬剤の通り道である経鼻胃管に付着するまたはそれを遮断するおそれがある。試料2は乳汁中で完全に再構成され、均質混合物が得られた。
【0114】
実施例4
早産児試験-有効性
早産児における経腸rh-インスリン製剤の有効性及び安全性を評価するために、試験を設計した。スクリーニング手順後、妊娠26週~最大32週に出生し、出生時体重が少なくとも500gである適格乳児を、3つの治療群のうちの1つに1:1:1の比で無作為に割り当てた。
【0115】
少なくとも6時間の生後齢から出生後120時間までの時点で、治療を開始した。自身の母親の乳汁(OMM)のみを授乳された乳児の治療期間は、出生から最初の72時間以内に開始された。
【0116】
治療期間を、投与初日(1日目)から最大28日間、または28日よりも短い場合は一次病院からの退院までと定義した。
【0117】
試験した製剤を0.3IU/Kg/日で最大28日間投与した。投与前に、主にヒト母乳、ドナー母乳、生理食塩水、または半生理食塩水中で粉末を再構成した。
【0118】
結果
乳児は一次病院から自宅または二次施設のいずれかに退院した。退院までの時間を解析する際、1)募集した一次病院(primary recruiting hospital)からの退院の解析(二次病院に転院した被験者と自宅に退院した被験者との別個の比較)、及び2)(一次病院または二次病院のいずれかから)自宅への退院という2つの解析が提示される。
【0119】
一次病院から退院するまでの時間
乳児は、主に地域に応じて、一次病院から自宅または二次病院のいずれかに退院した。ITT解析では、各乳児の解析目標は1つであり、それによって各アーム及び層を比較した。両方の治療アームで、プラセボと比較して退院までの時間が著しく短く、健康状態の安定までの時間がより早いことが実証された。
【0120】
退院(自宅または二次病院へのいずれか)までの日数の中央値は、プラセボ[中央値=49.5日]と比較して、0.3IU/Kgを含むインスリン製剤群で最低であり[中央値=42.0日、P=0.055]、0.0406IU/Kgを含むインスリン製剤群がそれに続いた[中央値=43.0日、p=0.04*]。
【0121】
二次施設への退院までの時間
一部の病院では、乳児が安定し、直ちに生命を脅かす状態から脱した後、乳児を二次施設に退院させる。乳児は二次施設に退院し、数週間後に自宅に退院する。本治験では、中央値及びプラセボとの差異が示すように、0.3IU/Kgを含むインスリン製剤群の被験者は、プラセボ群の患者よりも早く二次施設に退院した(以下の表7)。
【0122】
【0123】
自宅への退院までの時間
実施した別の種類の解析では、一次病院から直接退院したかまたは二次施設/ユニットの後に退院したかにかかわらず、全ての乳児の自宅への退院までの時間を評価した。この解析では、退院までの時間の短縮に関して同様の傾向が示されたが、主要解析である「一次病院からの退院」と比較してはるかに大きな変動性が示された。
【0124】
0.06IU/Kgを含むインスリン製剤による治療により、プラセボと比較して、自宅への退院までの日数が有意に少なくなった[中央値=48.0日対プラセボの中央値=60.0日、P=0.025*]。0.3IU/Kgを含むインスリン製剤による治療により、自宅への退院までの日数の中央値は55.0日となった[プラセボに対してp=0.27]。
【0125】
両方の治療アームを合わせて解析した場合、治療群の退院は、プラセボ[中央値=60日]と比較して早かった[中央値=52日、p=0.046*]。
【0126】
PN離脱までの時間
静脈栄養(PN)離脱までの時間について、0.3IU/kg/日の濃度でインスリン補充乳汁栄養食を与えた群において、プラセボと比較して統計学的有意差が認められた(6日対8日、p=0.0096**)。
【0127】
在胎齢群別にPN離脱までの時間を評価すると、在胎齢がより高い集団(29~32週)では、PN離脱までの時間も0.3IU/kg/日群中でより短かった(4日対6日)。結果を以下の表8~10に要約し、
図4にグラフで示す。
図4は群ごとのPN離脱の確率を示している(カプラン・マイヤー生存曲線)。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
本試験の別の重要な評価項目は、乳児の総摂取中のPNのパーセンテージ、及びPN摂取のパーセンテージの経時的な漸減である。
【0132】
図5は、群ごとの1日あたりの平均PN摂取を示しており、総摂取中のPN低減率において、プラセボと比較した治療群、特に経腸rh-インスリン製剤0.3IU/kg/日の明らかな利点を示している。
【0133】
図6は群ごとの総栄養中の経腸栄養のパーセンテージを示しており、一方、
図7は群ごとの経過を示している。
【0134】
実施例5
早産児試験-NEC及びLOS
壊死性大腸炎(NEC)及び遅発型敗血症(LOS)などの有害事象についても、試験集団を観察した。
【0135】
壊死性大腸炎(NEC)
群間で、NECを経験する乳児のパーセンテージに有意義な差異があった。試験集団全体を観察した場合、総発生率は0.06IU/kg/日の用量群で6.3%、0.3IU/kg/日の用量群で4.3%、及びプラセボ群で10.2%であり、0.3IU/kg/日の用量群のNEC症例はプラセボと比較して60%の減少に至った。
【0136】
在胎齢がより低い、NECがより蔓延している試験集団(GAが26~28週)を観察した場合、差異は更により明らかとなり、0.06IU/kg/日の用量群では12.2%、0.3IU/kg/日の用量群では4.3%、及びプラセボ群では19.6%であり、0.3IU/kg/日の用量群のNEC症例はプラセボと比較して80%近くの減少に至った。
【0137】
ノンパラメトリックなクラスカル・ウォリス法を使用してNECの発生率と重症度の両方を比較する統計解析を実施したところ、26~28 GA群で有意義な統計学的差異が示された(p=0.077)。本試験の結果を以下の表11及び12に示す。
【0138】
【0139】
【0140】
感染症、NEC、及び死亡のうちの1つの発生に関する不良アウトカムの複合を算出し、群間で比較し、以下の表13に示す。
【0141】
【0142】
治療群では、これらの対象有害事象のうちの1つを経験する被験者のパーセンテージが著しく低いことが判明した。割合は、経腸Rhインスリン製剤0.06IU/kg/日の用量群で34.5%、経腸Rhインスリン製剤0.3IU/kg/日の用量群で35.8%、及びプラセボ群で50%であった。割合のペアワイズ比較を実施したところ、経腸Rhインスリン製剤0.06IU/kg/日とプラセボとの間の差異はp=0.034、経腸Rhインスリン製剤0.3IU/kg/日とプラセボとの間の差異はp=0.065であった(以下の表14を参照されたい)。
【0143】
【0144】
遅発型敗血症(LOS)
感染症(敗血症及び他の感染症を含む)を経験した乳児のパーセンテージには、群間で有意義な差異があった。試験集団全体を観察した場合、総発生率は、0.06IU/kg/日の用量群で30%、0.3IU/kg/日の用量群で34.7%、及びプラセボ群で42.9%であった。
【0145】
具体的には、臨床的にまたは培養により立証された敗血症の割合を測定したところ、治療群はプラセボと比較して割合が低かった。発生率は、0.06IU/kg/日の用量群で12%、0.3IU/kg/日の用量群で11%、及びプラセボ群で15%であった(遅発型敗血症の発生率がほぼ30%低減)。
【0146】
明確にするために別個の実施形態の文脈で説明される本発明の特定の特徴は、単一の実施形態で組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で説明される本発明の種々の特徴はまた、別個にまたは任意の好適な副次的組み合わせで提供され得る。
【0147】
本発明をその具体的な実施形態とともに説明してきたが、多くの代替例、修正例、及び変形例が当業者には明らかであることは明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広範な範囲内に入る全てのかかる代替例、修正例、及び変形例が包含されることを意図する。
【0148】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、あたかも各個別の刊行物、特許、または特許出願が、参照される際に、参照により本明細書に組み込まれると具体的かつ個別に述べられているかのようにその全体が参照により本明細書に援用されることが、出願人(ら)の意図するところである。加えて、本出願におけるあらゆる参照文献の引用または特定は、かかる参照文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものとして解釈されてはならない。セクション見出しが使用されている限りにおいて、それらは必ずしも限定するものとして解釈されるべきではない。加えて、本出願のあらゆる優先権書類(複数可)は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【国際調査報告】