(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】交流電場を用いて神経変性障害を処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20240401BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240401BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240401BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240401BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20240401BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240401BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/473 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/63 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/135 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/277 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20240401BHJP
A61K 31/13 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A61N1/32
A61K45/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P21/02
A61P25/16
A61K39/395 N
A61K31/407
A61K31/4439
A61K31/473
A61K31/55
A61K31/496
A61K31/63
A61K31/428
A61K31/4045
A61K31/135
A61K31/277
A61K31/439
A61K31/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561815
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 IB2022053329
(87)【国際公開番号】W WO2022215051
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タリ・ボロシン-セラ
(72)【発明者】
【氏名】リラチ・アヴィグドル
(72)【発明者】
【氏名】エイアル・ドル-オン
(72)【発明者】
【氏名】モシェ・ギラディ
(72)【発明者】
【氏名】ヒラ・フィッシュマン
【テーマコード(参考)】
4C053
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ13
4C053JJ21
4C053JJ32
4C084AA17
4C084NA05
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4C086BC84
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4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA23
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA29
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4C206HA13
4C206KA09
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4C206MA17
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4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA23
4C206ZC75
(57)【要約】
対象の脳に交流電場を印加することによって対象における神経変性障害を処置する方法であって、必要に応じて、神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症)の処置のための薬物を対象に投与することも含む、方法が提供される。一部の例では、脳が腫瘍を含まないヒト対象の脳に交流電場を印加することによって、神経変性障害を処置することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における神経変性障害を処置する方法であって、対象の脳に交流電場を印加するステップを含む、方法。
【請求項2】
神経変性障害を処置するための治療薬を対象に投与するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
神経変性障害は、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症、又はパーキンソン病である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
治療薬が、GSK3β阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤、又は抗アミロイドモノクローナル抗体のうちの1つ又は複数を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
治療薬が、GSK3β阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
GSK3β阻害剤が、コリンエステラーゼ阻害剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
治療薬が、9-ING-41、HY-130795、TWS119、チデグルシブ、SAR502250、AR-A014418、TDZD8、ケンパウロン、クロモイブナトリウム、SB415286、IM-12、CP21R7、GNF4877、1-アザケンパウロン、又はインジルビン-3'-モノオキシムである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項8】
治療薬が、タクリン、ガランタミン、リキリチゲニン、メマンチン、リバスチグミン、又はドネペジルである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項9】
治療薬が、抗アミロイドモノクローナル抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
抗アミロイドモノクローナル抗体が、アデュカヌマブである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
治療薬が、シプロフロキサシン、セレコキシブ、タウロウルソデオキシコール酸、及びフェニル酪酸ナトリウムのうちの1つ又は複数である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項12】
治療薬が、レボドパ及びカルビドパの1つ又は複数である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項13】
治療薬が、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項14】
治療薬が、ドーパミン作動薬である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項15】
ドーパミン作動薬が、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、及びアポモルフィンのうちの1つ又は複数である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
治療薬が、MAO-B阻害剤である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項17】
MAO-B阻害剤が、セレギリン、ラサギリン、及びサフィナミドのうちの1つ又は複数である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
治療薬が、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ阻害剤である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項19】
カテコールO-メチルトランスフェラーゼ阻害剤が、エンタカポン、オピカポン、及びトルカポンのうちの1つ又は複数である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
治療薬が、抗コリン作用薬である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項21】
抗コリン作用薬が、ベンズトロピン及びトリヘキシフェニジルのうちの1つ又は複数である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
治療薬が、アマンタジンである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項23】
治療薬が、リルゾール及びエダラボンのうちの1つ又は複数である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項24】
印加ステップの少なくとも一部が、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
印加ステップが、少なくとも24時間の持続時間を有する、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
印加ステップが、少なくとも72時間の持続時間を有する、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
印加ステップが、少なくとも30日の持続時間を有する、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
交流電場の周波数が、50kHz~1MHzである、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
交流電場の強度が、0.1V/cm~20V/cm(RMS)である、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
強度が、1.0V/cm~2.5V/cmである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
脳が腫瘍を含まない、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
神経変性障害を有する対象を診断するステップを更に含む、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
対象が、交流電場を印加する前に腫瘍を有すると診断されていない、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年4月8日に出願された米国仮特許出願第63/172,275号の利益を主張し、その出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
交流電場(腫瘍処置電場(TTFields)としても知られる)は、低強度、中間周波数(例えば、50~500kHz)の交流電場を、身体の標的領域中の細胞に印加することによって細胞分裂を妨害するために使用される。
【0003】
in vivoの状況では、交流電場療法を、着用可能かつ運搬可能なデバイス(Optune(登録商標))を使用して送達することができる。送達システムは、電場生成器、4つの接着パッチ(非侵襲性の、絶縁されたトランスデューサーアレイ)、再充電可能なバッテリー及び運搬ケースを含む。トランスデューサーアレイは、皮膚に施用され、デバイス及びバッテリーに接続される。療法は、四六時中、できるだけ多くの時間にわたって着用されるように設計される。前臨床設定では、TTFieldsを、例えば、Inovitro(商標)TTFieldsラボベンチシステムを使用して、in vitroで印加することができる。Inovitro(商標)は、TTFields生成器及びプレートあたり8個のセラミック皿を含有するベースプレートを含む。細胞は、それぞれの皿の内部に置いたカバースリップ上に塗布される。TTFieldsは、それぞれの皿の中で高い誘電率のセラミックによって絶縁された2つの直交する対のトランスデューサーアレイを使用して印加される。in vivoとin vitroとの両方の状況において、TTFieldsの方向は、1秒毎に90°切り替えられ、かくして、細胞分裂の異なる方向軸をカバーする。
【0004】
神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び認知症)は、毎年、何百万人もの人々が罹患している。これらの状態は一般に、細胞(例えば、脳細胞)及び神経系の接続に対する進行性の損傷に関する。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、認知症及び記憶障害と関連し、世界で2500万人が罹患している。現在、有効な予防的又は治癒的処置は存在しない。アミロイドβ-タンパク質(Aβ)は、ADの原因と関連し、患者の脳におけるプラークの形成と関連する。Aβタンパク質は、その記憶障害及びその後の神経変性と関連するオリゴマーアセンブリを形成し得る。Walsh等、Alzheimer's disease and the amyloidβprotein、Prog Mol Biol Transl Sci.、2012;107:101~24頁。
【0006】
パーキンソン病(PD)は、運動に対する制御の喪失と関連し、2番目に最も一般的な進行性神経変性障害である。PDは、中脳の黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの病態生理学的喪失又は変性及びニューロンのレヴィー小体の発達の結果生じる。Beitz、Parkinson's disease: a review、Front Biosci(Schol Ed)2014年1月1日;6:65~74頁。PDのための有効な療法は、まだ利用可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Walsh等、Alzheimer's disease and the amyloidβprotein、Prog Mol Biol Transl Sci.、2012;107:101~24頁
【非特許文献2】Beitz、Parkinson's disease: a review、Front Biosci(Schol Ed)2014年1月1日;6:65~74頁
【非特許文献3】Cai等、Roles of glycogen synthase kinase 3 in Alzheimer's disease、Curr Alzheimer Res. 2012年9月;9(7):864~79頁
【非特許文献4】Hooper等、The GSK3 hypothesis of Alzheimer's disease、J Neurochem. 2008年3月; 104(6): 1433~1439頁
【非特許文献5】Sen等、Sulfhydration of AKT triggers Tau-phosphorylation by activating glycogen synthase kinase 3β in Alzheimer's disease、PNAS 2020年2月25日、117(8)4418~4427頁
【非特許文献6】Furlong等、The Parkinson's disease gene PINK1 activates Akt via PINK1kinase-dependent regulation of the phospholipid PI(3,4,5)P3、Journal of Cell Science(2019)132頁
【非特許文献7】Credle等、GSK-3β dysregulation contributes to parkinson's-like pathophysiology with associated region-specific phosphorylation and accumulation of tau and α-synuclein、Cell Death Differ. 2015年4月; 22(5): 838~851頁
【非特許文献8】Llorens-Martin等、GSK-3β, a pivotal kinase in Alzheimer's disease、Front Mol Neurosci. 2014; 7:46頁
【非特許文献9】Soutar等、Evidence that glycogen synthase kinase-3 isoforms have distinct substrate preference in the brain、J Neurochem. 2010年11月;115(4):974~83頁
【非特許文献10】Phiel等、GSK-3alpha regulates production of Alzheimer's disease amyloid-beta peptides、Nature. 2003年5月22日;423(6938):435~9頁
【非特許文献11】Uemura等、GSK3beta activity modifies the localization and function of presenilin 1、J Biol Chem. 2007年5月25日;282(21):15823~32頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ(GSK3β)は、グリコーゲンシンターゼをリン酸化し、不活化することが知られるプロリン指向性セリン-トレオニンキナーゼである。GSK3βは、アルツハイマー病においてAβの産生及び蓄積に関与している。Cai等、Roles of glycogen synthase kinase 3 in Alzheimer's disease、Curr Alzheimer Res. 2012年9月;9(7):864~79頁; Hooper等、The GSK3 hypothesis of Alzheimer's disease、J Neurochem. 2008年3月; 104(6): 1433~1439頁; Sen等、Sulfhydration of AKT triggers Tau-phosphorylation by activating glycogen synthase kinase 3β in Alzheimer's disease、PNAS 2020年2月25日、117(8)4418~4427頁。GSK3βは、アルツハイマー病等の神経変性疾患において活性化されることが示されている。更に、GSK3βの阻害は、Aβ病理を低減させる。
【0010】
GSK3βは、パーキンソン病においても障害を受けているAkt経路によって調節される。Furlong等、The Parkinson's disease gene PINK1 activates Akt via PINK1kinase-dependent regulation of the phospholipid PI(3,4,5)P3、Journal of Cell Science(2019)132頁; Credle等、GSK-3β dysregulation contributes to parkinson's-like pathophysiology with associated region-specific phosphorylation and accumulation of tau and α-synuclein、Cell Death Differ. 2015年4月; 22(5): 838~851頁。
【0011】
総合すれば、リン酸化によるGSK3βの阻害を使用して、AD及びPD等の神経変性障害を処置する、その症状を低減する、又はその発達を阻害することができると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、GSK3β阻害剤を対象に投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象における神経変性障害を処置することを含む、第1の方法が提供される。ある態様では、神経変性障害は、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、認知症、又はパーキンソン病であってもよい。
【0013】
別の態様では、治療薬を投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象における神経変性障害を処置することを含む方法が提供される。ある態様では、治療薬は、対象に対する抗アミロイドモノクローナル抗体及び対象の脳に交流電場を印加することであってもよい。別の態様では、治療薬は、GSK3β阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤、又は抗アミロイドモノクローナル抗体であってもよい。別の態様では、GSK3β阻害剤は、コリンエステラーゼ阻害剤である。別の態様では、治療薬は、ドーパミン作動薬、モノアミンオキシダーゼB(MAO-B)阻害剤、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ阻害剤、又は抗コリン作用薬であってもよい。
【0014】
別の態様では、抗アミロイドモノクローナル抗体を対象に投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象における神経変性障害を処置することを含む、第2の方法が提供される。ある態様では、抗アミロイドモノクローナル抗体は、アデュカヌマブであってもよい。
【0015】
更なる態様では、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンを対象に投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象におけるパーキンソン病を処置することを含む、第3の方法が提供される。
【0016】
別の態様では、上記方法は、治療薬9-ING-41、HY-130795、TWS119、チデグルシブ、SAR502250、AR-A014418、TDZD8、ケンパウロン、クロモイブナトリウム、SB415286、IM-12、CP21R7、GNF4877、1-アザケンパウロン、又はインジルビン-3'-モノオキシム、タクリン、ガランタミン、リキリチゲニン、メマンチン、リバスチグミン、ドネペジル、シプロフロキサシン、セレコキシブ、タウロウルソデオキシコール酸、フェニル酪酸ナトリウム、レボドパ、カルビドパ、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、アポモルフィン、セレギリン、ラサギリン、サフィナミド、エンタカポン、オピカポン、トルカポン、ベンズトロピン、トリヘキシフェニジル、アマンタジン、リルゾール、又はエダラボン、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、又はアデュカヌマブの1つ又は複数を投与することを含む。ある態様では、治療薬を、シプロフロキサシン及びセレコキシブ、又はタウロウルソデオキシコール酸及びフェニル酪酸ナトリウム等の組合せで投与することができる。
【0017】
更なる態様は、ヒト対象の脳であって、脳が腫瘍を含まず、対象が、交流電場を印加する前に腫瘍を有すると診断されていない、ヒト対象の脳に交流電場を印加することによって、ヒト対象における神経変性障害を処置する、又は神経変性障害を有する対象を診断することを更に含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、交流電場(TTFields)で72時間処置された細胞と比較した、対照細胞溶解物中での総GSK3β、Ser9上でリン酸化されたGSK3β(pGSK3βSer9)、及びGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピングタンパク質)の例示的なウェスタンブロット分析を提供する。
【
図2】
図2は、
図1で分析された各細胞系における、総GSK3β及びGAPDHと比較した、pGSK3β(Ser9)の正規化された相対レベルの定量化を提供する。
【
図3】
図3は、様々な周波数のTTFieldsによる処置後のアミロイドベータ凝集の無細胞アッセイを描写する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
限定されるものではないが、特許及び特許出願を含む、本明細書で引用される全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書に記載されるように、AD、PD、又は認知症等の神経変性状態のための処置の前又は間に、交流電場を、対象の身体の脳又は脳の領域に印加して、例えば、セリン9上でのリン酸化によってGSK3βの活性を阻害することができる。理論によって束縛されるものではないが、神経変性疾患のための標準治療処置と組み合わせた、交流電場で脳を処置する組合せが、神経変性疾患の処置又は予防を相乗的に増強することができると考えられる。
【0021】
本明細書に記載されるように、TTFieldsは、GSK3βの活性を低減させる。GSK3β活性化は、アルツハイマー病等の神経変性疾患において上方調節されることが示されている。GSK3βの阻害は、マウスにおいて神経学的状態を改善することが示されている。Llorens-Martin等、GSK-3β, a pivotal kinase in Alzheimer's disease、Front Mol Neurosci. 2014; 7:46頁。GSK3βは、パーキンソン病にも関与している。Credle等、GSK-3β dysregulation contributes to parkinson's-like pathophysiology with associated region-specific phosphorylation and accumulation of tau and α-synuclein、Cell Death Differ. 2015年4月; 22(5): 838~851頁。
【0022】
例えば、本明細書に記載されるように、GSK3βは、アルツハイマー病においてAβタンパク質の産生及び蓄積に関与している。更に、GSK3βは、パーキンソン病にも関与しているAkt経路によって調節される。
【0023】
AD患者においては、活性GSK3βと共に、多量のリン酸化されたAktは、リン酸化されたAktがGSK3βを不活化することができなかったことを意味する。Sen等、Sulfhydration of AKT triggers Tau-phosphorylation by activating glycogen synthase kinase 3β in Alzheimer's disease、PNAS 2020年2月25日、117(8)4418~4427頁。細胞内硫化水素(H2S)の誘導のため、総Akt及びリン酸化されたAktは、C77でスルフヒドリル化された。細胞内H2Sレベルの増加は、ADの病理学的特徴である、炎症性サイトカインIL-1βの誘導の結果生じた。スルフヒドリル化されたAktは、GSK3βと相互作用せず、したがって、GSK3βをリン酸化しない。
【0024】
タウの過剰発現は、軸索輸送を妨害し、GSK-3β阻害剤によって逆転される現象である小胞凝集を引き起こす。Soutar等、Evidence that glycogen synthase kinase-3 isoforms have distinct substrate preference in the brain、J Neurochem. 2010年11月;115(4):974~83頁。これと一致して、GSK-3β阻害は、ADマウスモデルにおいてAβ産生を減少させることが示された。Phiel等、GSK-3alpha regulates production of Alzheimer's disease amyloid-beta peptides、Nature. 2003年5月22日;423(6938):435~9頁。
【0025】
in vitro試験は、GSK-3βが、毒性Aβの生成にとって必要とされるPS1機能に影響することを示唆する。Uemura等、GSK3beta activity modifies the localization and function of presenilin 1、J Biol Chem. 2007年5月25日;282(21):15823~32頁。
【0026】
脳又は脳の領域への交流電場の印加を使用して、GSK3β阻害剤及び神経変性障害の処置のための他の薬物による対象の処置と共に、GSK3βの活性化を阻害することができる。
【0027】
本明細書で考察される交流電場は、腫瘍処置電場(TTFields)と類似しており、Novocure社のOptune(登録商標)デバイスと類似するハードウェアを使用して、Optuneが使用するのと同じ200kHzの周波数、又は異なる周波数(例えば、50kHz~1MHz)で印加することができる。対象の身体に交流電場を印加するために使用されるトランスデューサーアレイのサイズ及び形状は、交流電場を印加する解剖学的位置に応じて変化するであろう。本明細書及び図面で使用される用語「TTFields」は、用語「交流電場」と同義である。
【0028】
一態様では、対象の脳に交流電場を印加することによって対象における神経変性障害を処置することを含む、第1の方法が提供される。
【0029】
一部の例では、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。
【0030】
一部の例では、印加ステップの少なくとも一部は、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される。一部の例では、印加ステップは、少なくとも24時間、48時間、72時間、7日間、14日間、30日間又はそれより長い持続時間を有する。印加ステップは、連続的であるか、又は休止(例えば、1、2、3、6、12、若しくは24時間での休止)して非連続的であってもよい。
【0031】
一部の例では、交流電場の周波数は、50~1MHz、75~500kHz、80kHz~300kHz、100kHz~200kHz、又は150kHzである。
【0032】
ある態様では、対象の脳に交流電場を印加すること、及び治療薬を更に投与することによって、対象における神経変性障害を処置することを含む、第2の方法が提供される。例えば、治療薬は、GSK3β阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤及び抗アミロイドモノクローナル抗体のうちの1つ又は複数を含んでもよい。別の例では、GSK3β阻害剤は、コリンエステラーゼ阻害剤である。
【0033】
例えば、治療薬は、タクリン、ガランタミン、リキリチゲニン、メマンチン、リバスチグミン、及びドネペジルのうちの1つ又は複数であってもよい。一部の例では、GSK3β阻害剤又はコリンエステラーゼ阻害剤は、タクリン、ガランタミン、リキリチゲニン、メマンチン、リバスチグミン、及びドネペジルのうちの1つ又は複数である。
【0034】
一部の例では、GSK3β阻害剤は、9-ING-41、HY-130795、TWS119、チデグルシブ、SAR502250、AR-A014418、TDZD8、ケンパウロン、クロモイブナトリウム、SB415286、IM-12、CP21R7、GNF4877、1-アザケンパウロン、及びインジルビン-3'-モノオキシムからなる群から選択される少なくとも1つの成分からなる、又はそれから本質的になる。
【0035】
一部の例では、印加ステップの少なくとも一部は、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される。一部の例では、印加ステップは、少なくとも24時間、48時間、72時間、7日間、14日間、30日間又はそれより長い持続時間を有する。印加ステップは、連続的であるか、又は休止(例えば、1、2、3、6、12、若しくは24時間での休止)して非連続的であってもよい。
【0036】
一部の例では、交流電場の周波数は、50~1MHz、75~500kHz、80kHz~300kHz、100kHz~200kHz、又は150kHzである。
【0037】
一部の例では、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。
【0038】
別の態様では、抗アミロイドモノクローナル抗体を対象に投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象における神経変性障害を処置することを含む、第3の方法が提供される。
【0039】
一部の例では、抗アミロイドモノクローナル抗体は、アデュカヌマブである。
【0040】
一部の例では、印加ステップの少なくとも一部は、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される。一部の例では、印加ステップは、少なくとも24時間、48時間、72時間、7日間、14日間、30日間又はそれより長い持続時間を有する。印加ステップは、連続的であるか、又は休止(例えば、1、2、3、6、12、若しくは24時間での休止)して非連続的であってもよい。
【0041】
一部の例では、交流電場の周波数は、50~1MHz、75~500kHz、80kHz~300kHz、100kHz~200kHz、又は150kHzである。
【0042】
一部の例では、神経変性障害は、認知症、ALS、アルツハイマー病又はパーキンソン病である。
【0043】
更なる態様では、対象にレボドパ(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)及びカルビドパ(N-アミノ-α-メチル-3-ヒドロキシ-L-チロシンモノハイドレート)のうちの1つ又は複数を投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象における神経変性障害(例えば、パーキンソン病)を処置することを含む、第4の方法が提供される。
【0044】
一部の例では、印加ステップの少なくとも一部は、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される。一部の例では、印加ステップは、少なくとも24時間、48時間、72時間、7日間、14日間、30日間又はそれより長い持続時間を有する。印加ステップは、連続的であるか、又は休止(例えば、1、2、3、6、12、若しくは24時間での休止)して非連続的であってもよい。
【0045】
一部の例では、交流電場の周波数は、50~1MHz、75~500kHz、80kHz~300kHz、100kHz~200kHz、又は150kHzである。
【0046】
更なる態様では、対象に治療薬を投与すること、及び対象の脳に交流電場を印加することによって、対象における神経変性障害(例えば、ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症)を処置することを含む、第5の方法が提供される。
【0047】
一部の例では、治療薬は、シプロフロキサシン、セレコキシブ、タウロウルソデオキシコール酸、及びフェニル酪酸ナトリウムのうちの1つ又は複数である。例えば、治療薬は、シプロフロキサシンとセレコキシブとの組合せを含んでもよい。例えば、治療薬は、タウロウルソデオキシコール酸とフェニル酪酸ナトリウムとの組合せを含んでもよい。
【0048】
一部の例では、治療薬は、ドーパミン作動薬である。好適なドーパミン作動薬としては、限定されるものではないが、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、及びアポモルフィンのうちの1つ又は複数が挙げられる。
【0049】
一部の例では、治療薬は、モノアミンオキシダーゼB型(MAO-B)阻害剤である。好適なMAO-B阻害剤としては、限定されるものではないが、セレギリン、ラサギリン、及びサフィナミドが挙げられる。
【0050】
一部の例では、治療薬は、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ阻害剤である。好適なカテコールO-メチルトランスフェラーゼ阻害剤としては、限定されるものではないが、エンタカポン、オピカポン、及びトルカポンのうちの1つ又は複数が挙げられる。
【0051】
一部の例では、治療薬は、抗コリン作用薬である。好適な抗コリン作用薬としては、限定されるものではないが、ベンズトロピン及びトリヘキシフェニジルのうちの1つ又は複数が挙げられる。
【0052】
一部の例では、治療薬は、アマンタジンである。他の実施形態では、治療薬は、リルゾール及びエダラボンのうちの1つ又は複数である。
【0053】
一部の例では、神経変性障害は、認知症、ALS、アルツハイマー病又はパーキンソン病である。
【0054】
一部の例では、印加ステップの少なくとも一部は、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される。一部の例では、印加ステップは、少なくとも24時間、48時間、72時間、7日間、14日間、30日間又はそれより長い持続時間を有する。印加ステップは、連続的であるか、又は休止(例えば、1、2、3、6、12、若しくは24時間での休止)して非連続的であってもよい。
【0055】
一部の例では、交流電場の周波数は、50~1MHz、75~500kHz、80kHz~300kHz、100kHz~200kHz、又は150kHzである。
【0056】
一部の例では、治療薬(例えば、GSK3β阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤、抗アミロイドモノクローナル抗体、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン等)は、治療有効量で対象に提供される。本明細書で使用される用語「治療有効量」とは、示される疾患又は状態を改善する、防止する、処置する、又は治癒させるその意図された目的を達成するのに十分な、薬物の量又は薬物の用量を指す。当業者であれば、薬物の治療有効量を、例えば、薬物若しくは製品のラベルから、又は薬物の治療有効用量、薬物動態、若しくは他の特性を決定するように設計された実験若しくは臨床試験の結果から決定することができる。
【0057】
例えば、当業者であれば、米国食品医薬品局(FDA)によって認可された薬物ラベルを閲覧することによって、薬物の治療有効用量を決定することができる。当業者であれば、本明細書で参照される任意の認可薬又は処置についてFDA又は他の規制当局によって認可された製品ラベルを閲覧することができる。本明細書で使用される用語「処置すること」は、対象に薬物又は処置を処方すること、投与すること、又は投与するよう他者に指示することを指す。
【0058】
一部の態様では、電場の印加は、休止によって中断することができる。例えば、それぞれ12時間の持続時間を有する6回のセッションは、セッションの間に2時間の休止を含む。別の態様では、電場を印加するステップは、少なくとも3時間の持続時間を有する。一部の例では、交流電場を、175V/m(RMS)の強度、150kHzで、24、48、72時間又はそれより長くにわたって印加することができる。
【0059】
一部の態様では、交流電場の強度は、0.1V/cm~20V/cm(RMS)又は1.0V/cm~2.5V/cm(RMS)である。
【0060】
更に別の態様では、交流電場の周波数は、50~1MHz、100~500kHz、125~175kHz、又は150kHzである。別の態様では、薬物は、治療有効濃度で組織、位置、又は細胞に送達され、交流電場は、組織、位置、又は細胞の少なくとも一部において少なくとも1V/cmの電界強度を有する。
【0061】
更に別の態様では、印加ステップの少なくとも一部は、投与ステップの少なくとも一部と同時に実施される。
【0062】
更なる態様は、脳が腫瘍を含まないヒト対象の脳に交流電場を印加することを含む、ヒト対象における神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、ALS)を処置する方法を提供する。
【0063】
一部の例では、印加ステップは、少なくとも24時間、48時間、72時間、7日間、14日間、又は30日間の持続時間を有する。本明細書に記載されるように、交流電場は、GSK3βを不活化するか、又はその活性を低減させ、これを使用して、神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、ALS)を処置することができる。神経変性障害は、ゆっくりと進行する疾患であってもよく、したがって、一部の例では、交流電場を、より長い持続時間(例えば、少なくとも30日又はそれより長い)にわたって印加することができる。
【0064】
一部の例では、交流電場の周波数は、50kHz~1MHz、例えば、50~500kHzである。
【0065】
図1は、72時間の持続時間にわたる交流電場による処置後の、GSK3β及びリン酸化されたGSK3β(抗pGSK3βSer9)のレベルを示す例示的なウェスタンイムノブロットである。分析を、以下の細胞系:A2780(卵巣癌)、A549(肺上皮癌)、Hela(頸部上皮腺癌)及びMSTO(転移性肺がん)において実施した。
図1に示されるように、72時間にわたる交流電場(+)の印加は、交流電場(-)の印加を受けなかった対照細胞と比較して、pGSK3βSer9のレベルを増加させたが、これは、GSK3βの不活化又はその活性の低減を示す。
【0066】
図2は、ウェスタンブロットのバンド強度の定量化のグラフ表示(
図1)及び対照試料中でのハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に対するその相対値を提供する。交流電場による処置は、A2780(卵巣癌)、A549(肺上皮癌)、Hela(上皮頸部腺癌)及びMSTO(肺転移癌)細胞系においてGAPDH対照と比較してリン酸化されたGSK3βのレベルを増加させたが、これは、交流電場がGSK3βを不活化するか、又はその活性を低減させることを示している。Fiji ImageJソフトウェアを適用して、ウェスタンブロットのバンド強度を測定した。一態様では、セリン9のリン酸化の増加は、GSK3β活性の阻害を示す。上で考察されたように、GSK3βの不活化又はその活性の低減を、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び認知症等の神経変性障害のための処置として使用することができる。
【0067】
図3は、24、48、及び72時間にわたる様々な周波数(100、200、300、400、500kHz)のTTFieldsによる処置後のアミロイドベータ凝集の無細胞アッセイを描写する。上記周波数のTTFieldsで処置されたアミロイドベータ試料のチオフラビンT(ThT)強度を、TTFieldsに曝露されず、37℃(陽性対照)又は4℃(陰性対照)でインキュベートされた試料のThT強度と比較した。PBSのみは、陰性対照(バックグラウンド)として働いた。
図1に示されるように、72時間にわたるTTFieldsによる処置は、陽性対照と比較して、アミロイドベータの凝集シグナルを減少させた(この結果は、2つの独立実験の平均である。統計分析
*P<0.05;
**P<0.01、
****P<0.0001;二元配置分散分析、Sidak検定)。
【0068】
HFIP処理されたヒトアミロイドベータ(Sigma-Aldrich社、AG968)をDMSO(180μl)中に溶解し、PBS中で更に希釈して、10μMの最終濃度にすることによって、アミロイドベータペプチドを調製した。試料を、様々な周波数(100、200、300、400、500kHz)で、72時間の総持続時間にわたってTTFields(1.62V/cm、37℃)で処置した。4℃でのアミロイドベータペプチドのインキュベーションは、アミロイドベータフィブリル化の陰性対照として働き、37℃ではアミロイドベータフィブリル化の陽性対照として働いた。
【0069】
チオフラビンT(ThT)は、アミロイドへの結合時に蛍光の増強を示す陽イオン性ベンゾチアゾール染料である。ThT(Sigma-Aldrich社、T3516)を試料に添加し、各時点(24、48、72h)で450nmの励起フィルター及び482nmの放出フィルターを有する黒色の96ウェルプレートの頂部を介してSYNERGY/H1プレートリーダー(BioTek社)を使用して、室温(約24℃)で測定した。
【0070】
細胞系及び培養物
全ての細胞系を、ATCCから取得した(A2780(ヒト卵巣がん細胞系)、Hela(頸部癌)、MSTO及びA549(ヒト肺がん))。細胞を、10%ウシ胎仔血清及び抗生物質を添加した、Dulbecco改変Eagle培地(Biological Industries社)、RPMI(GIBCO社)、F12K(ATCC)培地中で培養した。
【0071】
TTFieldsの印加
TTFieldsを、以前に記載されたように、Inovitro(商標)システム(Novocure Ltd社)を使用して細胞培養物に印加した。細胞を、500μL中の5000~20,000細胞の密度でカバースリップ上に播種し、所定の例示的な最適周波数(例えば、A2780(200kHz)、MSTO(150kHz)、Hela(200kHz)、及びA549(150kHz))、同じ名目強度(例えば、1.75V/cm RMS)で処置した。以前に記載されたように、2方向からTTFieldsを印加し、1s毎に90°ずつ変化させた。培養培地(1皿あたり2ml)を、播種の24時間後に添加し、Parafilm(P7793、Sigma Aldrich社)中で被覆して培地の蒸発を回避した。
【0072】
細胞溶解物及びイムノブロッティング
プロテアーゼカクテル(Complete Mini、Roche社)及びホスファターゼ阻害剤(Halt #78420、Thermo Scientific社)を添加した、RIPA溶解緩衝液(R0278、Sigma Aldrich社)を使用して、細胞抽出物を調製した。タンパク質濃度を決定した後(BCAタンパク質アッセイキット、ab102536、Abcam社)、30μgのタンパク質を、還元条件下(Bolt Sample還元剤、#2060435及びSample緩衝液#2045289、Novex社)で、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Bolt 12% Bis-Tris塩基ゲルNW00080BOX、Thermo-Fischer社)によって分解した。電気泳動後、タンパク質をポリビニリデンジフルオリド膜(Bio-Rad社)に移し、適切な一次抗体(GAPDH(SC-32233、Santa Cruz社)、GSK3β(Cell Signaling社、9832S)及びpGSK3βSer9(Cell Signaling社、5558S))、次いで、西洋わさびペルオキシダーゼコンジュゲート化二次抗体(ヤギ抗ウサギ7074、Cell Signaling社及びヤギ抗マウス7076、Cell Signaling社)及び化学発光基質(WBLUF0100、Sigma-Aldrich社)を用いて精査した。バンドの定量化を、Image Jソフトウェアによって行った。
【0073】
本明細書に記載されるin vitro実験を、Novocure Inovitro(商標)システムを使用して実行した。これらの実験では、交流電場の方向を、2つの垂直方向の間で1秒間隔で切り替えた。しかし、代替的な実施形態では、交流電場の方向を、より速い速度で(例えば、1~1000msの間隔で)又はより遅い速度で(例えば、1~100秒の間隔で)切り替えることができる。
【0074】
本明細書に記載されるin vitro実験では、交流電場の方向を、交互のシーケンスで2D空間中に互いに90°離れて配置される2対の電極にAC電圧を印加することによって、2つの垂直方向の間で切り替えた。しかし、代替的な実施形態では、交流電場の方向を、電極対を再配置することによって、垂直ではない2つの方向の間で、又は3つ以上の方向(追加の電極対が提供される前提)の間で切り替えることができる。例えば、交流電場の方向を、それぞれ、それ自身の電極対の配置によって決定される3つの方向の間で切り替えることができる。必要に応じて、得られる電場が3D空間中で互いに90°離れて配置されるように、これらの3対の電極を配置することができる。他の代替的な実施形態では、電極は対で配置する必要はない。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,565,205号に記載された電極配置を参照されたい。他の代替的な実施形態では、電場の方向は一定のままである。
【0075】
本明細書に記載されるInovitro(商標)システムを使用するin vitro実験では、Inovitro(商標)システムは皿の側壁の外表面に配置された導電性電極を使用し、側壁のセラミック材料は誘電体として作用するため、電場を培養物中で容量結合させた。しかし、代替的な実施形態では、電場を、容量結合なしに細胞に直接印加することができる(例えば、導電性電極が側壁の外表面ではなく側壁の内表面に配置されるようにInovitro(商標)システム構成を改変することによって)。
【0076】
生きている対象の身体の標的領域に交流電場を印加することによって(例えば、Novocure Optune(登録商標)システムを使用する)、in vivoの状況で本明細書に記載の方法を適用することもできる。例えば、これらの電極の選択されたサブセット間のAC電圧の印加が対象の身体の標的領域中に交流電場をかけるように、対象の皮膚の上又は下に電極を配置することによって、これを達成することができる。
【0077】
例えば、関連する細胞が対象の脳に位置する状況では、1対の電極を、対象の頭部の前後に配置し、第2の電極対を対象の頭部の右側及び左側に配置することができる。一部の実施形態では、電極は、対象の身体に容量結合される(例えば、導電性プレートを含み、導電性プレートと対象の身体との間に配置された誘電体層も有する電極を使用することによって)。しかし、代替的な実施形態では、誘電体層を省略してもよく、その場合、導電性プレートは対象の身体と直接接触するであろう。別の実施形態では、電極を、患者の皮膚の下に皮下的に挿入することができる。AC電圧生成器は、第1の時間(例えば、1秒)にわたって右電極と左電極との間に選択された周波数(例えば、200kHz)のAC電圧を印加し、力線の多くの有意な成分が対象の身体の横軸に対して平行となる交流電場を誘導する。
【0078】
次いで、AC電圧生成器は、第2の時間(例えば、1秒)にわたって前電極と後電極との間に同じ周波数(又は異なる周波数)のAC電圧を印加し、力線の多くの有意な成分が対象の身体の矢状軸に対して平行となる交流電場を誘導する。次いで、この2ステップのシーケンスを、処置の持続時間にわたって繰り返す。必要に応じて、熱センサーを電極に含有させてもよく、AC電圧生成器を、電極での感知された温度が高くなりすぎる場合に電極に印加されるAC電圧の振幅を減少させるように構成することができる。一部の実施形態では、1つ又は複数の追加の電極対を追加し、シーケンス中に含ませることができる。代替的な実施形態では、単一の電極対のみを使用し、その場合、力線の方向は切り替わらない。このin vivoの実施形態に関するパラメーターのいずれか(例えば、周波数、電場強度、持続時間、方向切り替え速度、及び電極の配置)を、in vitroの実施形態に関連して上記のように変化させてもよいことに留意すべきである。しかし、電場が常に対象にとって安全なままであることを確保するためには、in vivoの状況で注意を払わなければならない。
【0079】
本明細書に記載の実験では、交流電場を、中断されない時間間隔(例えば、72時間)にわたって印加したことに留意すべきである。しかし、代替的な実施形態では、交流電場の印加は、好ましくは短い休止によって中断されてもよい。例えば、6つの4時間のブロックにわたって、これらのブロックのそれぞれの間に1又は2時間の休止を含ませて交流電場を印加することによって、24時間の時間間隔を満たすことができる。
【0080】
本発明をある特定の実施形態を参照しながら開示してきたが、添付の特許請求の範囲に定義される、本発明の領域及び範囲から逸脱することなく、記載された実施形態に対するいくつかの改変、変更、及び変化が可能である。したがって、本発明は記載された実施形態に限定されないが、それは以下に列挙される特許請求の範囲の言語によって定義される完全な範囲、及びその等価物を有することが意図される。
【国際調査報告】