(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】抗c-MET抗体及び抗体薬物複合体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240401BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240401BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240401BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240401BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240401BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K19/00 ZNA
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K47/68
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561850
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2022059059
(87)【国際公開番号】W WO2022214517
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516205959
【氏名又は名称】ビョンディス・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Byondis B.V.
【住所又は居所原語表記】Microweg 22, NL-6545 CM Nijmegen, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブロメンレア、マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・レー、ミランダ・マリア・コルネリア
(72)【発明者】
【氏名】フロータウス、パトリック・ヘルハルト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC201
4C084ZC752
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB36
4C085BB41
4H045AA11
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、間葉上皮転換因子(c-Met)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片に関する。本発明は、また、これらの抗c-Met抗体又は抗原結合断片を含む抗体薬物複合体(ADC)、抗体、抗原結合断片又はADCを含む医薬組成物、及びがんの治療におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉上皮転換因子(c-Met)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
重鎖(HC)相補性決定領域(CDR)1のアミノ酸配列が配列番号26で示す配列を含み;
HC CDR2のアミノ酸配列が配列番号27で示す配列を含み;かつ、
HC CDR3のアミノ酸配列が配列番号28で示す配列を含む、
HC可変領域の相補性決定領域HC CDR1~3を有し、
軽鎖(LC)相補性決定領域(CDR)1のアミノ酸配列が配列番号29で示す配列を含み;
LC CDR2のアミノ酸配列が配列番号30で示す配列を含み;かつ、
LC CDR3のアミノ酸配列が配列番号31で示す配列を含む、
LC可変領域の相補性決定領域LC CDR1~3を有する、
抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
ヒト化抗体又は抗原結合断片である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記HC可変領域のアミノ酸配列は配列番号16で示され、前記LC可変領域のアミノ酸配列は配列番号20で示される、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
インタクトなIgG1抗体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
Fab断片である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗原結合断片。
【請求項6】
リンカー、好ましくは切断可能なリンカーを介して細胞傷害性薬物と結合した請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片を含む抗体薬物複合体。
【請求項7】
前記細胞傷害性薬物がデュオカルマイシン誘導体である、請求項6に記載の抗体薬物複合体。
【請求項8】
式(III)
【化1】
(式中、AbはIgG1抗体であり;前記AbのHC可変領域は配列番号16のアミノ酸配列で示され、前記AbのLC可変領域は配列番号20のアミノ酸配列で示され;細胞傷害性薬物は、リンカーを介して、KabatナンバリングでHCの41位における組み換えられたシステインと部位特異的に結合する。)
で表される、請求項6又は7に記載の抗体薬物複合体。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片又は請求項6~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体と、1以上の薬学的に許容される添加物を含み、好ましくは凍結乾燥粉末の形態である、医薬組成物。.
【請求項10】
医薬品として使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、請求項6~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又は請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
c-Met陽性ヒト固形腫瘍又はMETによる造血器腫瘍の治療に使用するための、請求項10に記載の抗体又は抗原結合断片、抗体薬物複合体又は医薬組成物。
【請求項12】
前記c-Met陽性ヒト固形腫瘍は、乳がん;脳腫瘍;頭頸部のがん;甲状腺がん;唾液腺がん;軟部肉腫;眼のがん;食道がん;胃がん;小腸がん;結腸直腸がん;尿路上皮細胞がん;卵巣がん;子宮がん;子宮内膜がん;子宮頸がん;肺がん(特に、非小細胞肺がん及び小細胞肺がん);黒色腫;肝がん;膵臓がん;非黒色腫皮膚がん;前立腺がん;胚細胞がん;及び原発不明がんからなる群から選択される、請求項11に記載の抗体又は抗原結合断片、抗体薬物複合体又は医薬組成物。
【請求項13】
前記METによる造血器腫瘍は、リンパ系の悪性腫瘍、好ましくは成熟T及びNK腫瘍である、請求項11に記載の抗体又は抗原結合断片、抗体薬物複合体又は医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片、請求項6~8のいずれか一項に記載の抗体薬物複合体又は請求項9に記載の医薬組成物と、c-Met陽性ヒト固形腫瘍の治療に使用するためのc-Met抗原以外のがんに関連する標的に対する治療用抗体、化学療法剤及び/又は抗体薬物複合体の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉上皮転換因子(c-Met)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片に関する。また、本発明は、これらの抗c-Met抗体又は抗原結合断片を含む抗体薬物複合体(ADC)、前記抗体、抗原結合断片又はADCを含む医薬組成物、及びがんの治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞増殖因子受容体又は間葉上皮転換因子(HGFR、c-Met)は、METがん遺伝子がコードし、さまざまな上皮細胞の表面で発現する受容体型チロシンキナーゼである。c-Metのリガンドは肝細胞増殖因子(HGF)であり、散乱因子(SF)としても知られており、その血管形成特性及び分裂促進特性が知られている高分子量のポリペプチドである。
【0003】
成熟ヒトc-Metの細胞外領域は、1) N末端の500残基のフォールディングによって形成され、αサブユニットの全体とβサブユニットの一部を含むセマフォリン(SEMA)ドメイン;2) 4つのジスルフィド結合を含む約50残基のPSIドメイン(プレキシン、セマフォリン及びインテグリンで見られる);及び、3) PSIドメインを膜貫通ヘリックスに連結する4つの免疫グロブリン-プレキシン転写(IPT)ドメイン、という3つのドメインで構成される。細胞内では、c-Metは、特徴的な膜近傍配列とカルボキシ末端の配列に隣接したチロシンキナーゼ触媒ドメインを含む。c-Metタンパク質の折り畳まれた構造の内部で、SEMAドメインは、7枚の羽根のβプロペラを形成する。
【0004】
c-Metは、さまざまな正常組織で発現する(Human Protein Atlas, www.proteinatlas.orgと我々の調査結果)。これは、胃腸組織(胃、胆嚢、十二指腸、小腸、結腸、直腸)、女性生殖組織(子宮内膜、子宮頸部、膣、胎盤)、泌尿生殖組織(膀胱、尿管、腎臓)で最も顕著に観察され、甲状腺、皮膚、肺、肝臓、乳房及び食道等でも、ある程度観察される。さらに、顕著なc-Met発現が、眼瞼(涙腺、マイボーム腺、皮脂腺、毛根鞘)のみならず、眼(角膜及び水晶体の上皮、輪部、並びに結膜)にも存在する。
【0005】
c-MetとHGFの結合は、受容体の二量体化、ヘテロマー化又は多量体化、細胞内領域における複数のチロシン残基のリン酸化、並びに増殖、運動性、遊走及び浸潤に関与するものを含む広範囲の異なる細胞シグナル伝達経路の活性化をもたらす。c-Metは、正常な生理学的条件では、組織の恒常性の制御において重要であるが、(エクソン14の)変異、遺伝子増幅又はタンパク質の過剰発現による悪性腫瘍の発生と進行にも関与していることは明らかである。c-Metに関連する機構も、(化学)療法、例えば、表皮成長因子受容体(EGFR)、形質転換成長因子-β(TGFβ)及びヒト表皮成長因子受容体3(HER3)などの細胞増殖の他の調節因子を標的とした治療法に対する耐性に関与しているようである。
【0006】
ヒトc-Metシグナル伝達経路は、ヒトのがんにおいて最も頻繁に調節不全が生じる経路の1つである。それは多くの種類の固形腫瘍に関与しており、高いc-Metの発現は一般に予後の不良と関連している。このため、c-Met、HGF/SFシグナル伝達経路は、がん治療の標的となっている。
【0007】
低分子から抗体に及ぶ多種多様なc-Met阻害剤が臨床開発中であるが、陽性応答は、例えばMET増幅又はエクソン14変異を有する腫瘍のようなc-Metシグナル伝達に依存する腫瘍を有する患者においてのみが見られ、場合によっては治療が患者の状態を悪化させるものもあり、臨床転帰は失望させるようなものであった。
【0008】
認可された低分子c-Met阻害剤には、チロシンキナーゼ阻害剤類(TKI)である、クリゾチニブ(ザーコリ(登録商標), Pfizer)及びカボザンチニブ(コメトリック(登録商標), Ipsen Pharma;カボメティクス(登録商標), Ipsen Pharma)が含まれ、前者は未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陽性又はROS1チロシンキナーゼ陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に使用され、後者はとりわけc-Met及びVEGFR2を標的とし、甲状腺髄様がん及び腎細胞がん(RCC)の治療に使用される。
【0009】
がんの治療では、c-Metに対するいかなるアゴニスティックな効果も回避すべきである。そのため、好適な治療用抗体は、c-Metの二量体化と活性化(アゴニスティックな効果)を回避し、内在化及び分解が誘導されるように、c-Metと相互作用する。再生医療で使用するアゴニスト抗体は、計画的に調製することも可能である(例.国際公開第2018/001909号)が、これらの抗体は、しばしば、c-Metシグナル伝達に対してアンタゴニスティックな(すなわち、阻害)効果を有するがんの処置で使用する適切な治療用抗体を探索した時の望ましくない副産物である。
【0010】
したがって、がんの治療に使用する抗c-Met抗体の設計では、好ましい結合特性、c-Metシグナル伝達の阻害、許容される薬物動態学的及び薬力学的特性の間の微妙なバランスを必要とする。
【0011】
アンタゴニスティックな効果を有するがアゴニスティックな効果を有さない抗体の探索は、複雑な作業である。いくつかの抗体は、例えば、マウスモノクローナル抗体のヒト化の結果として、アンタゴニストからアゴニストに反転する場合もある。
【0012】
がんの治療に使用するc-Metを標的とするいくつかの抗体が開発されており、臨床試験が開始された。そのようなc-Met特異的抗体には、従来の抗c-Met抗体、並びにc-Met及びEGFRなどの他のシグナル伝達タンパク質の両者を標的とする二重特異性抗体が含まれる。
【0013】
臨床開発に進んだc-Metに対するアンタゴニスティックな抗体は、例えば、オナルツズマブ(Genentech、国際公開第2006/015371号)、ARGX-111(Argenx、国際公開第2012/059561号)、エミベツズマブ(LY2875358;Eli Lilly、国際公開第2010/059654号)、SAIT-301(Samsung、米国特許出願公開第2014-0154251号)、テリソツズマブ(抗体ABT-700;Abbott/Abbvie、Wang et al., BMC Cancer 2016, 16, 105-118;国際公開第2017/201204号)、及びSym015(c-Met ECD中の重複しないエピトープに結合する2つの抗c-Metモノクローナル抗体の混合物;Symphogen、国際公開第2016/042412号)である。
【0014】
オナルツズマブは、最初に開発された抗c-Met抗体であり、c-Metアゴニスト抗体5D5に由来するヒト化された一価のアンタゴニスト抗c-Met抗体であった(Spigel et al., J. Clin. Oncol. 2013, 31, 4105-4114;Xiang et al., Clin. Cancer Res. 2013, 19, 5068-5078)。有望な実験結果にもかかわらず、オナルツズマブの開発は、後期臨床試験における臨床的に意味のある有効性の欠如のために終了した(Spigel et al., J. Clin. Oncol. 2014, 32, abstract 8000; NCT01456325)。ヒト化IgG4であるエミベツズマブ(LY2875358)は、ステージIVのEGFR変異NSCLCの患者における第2相臨床試験(NCT01900652)の対象であった。この試験では、治療集団における無増悪生存期間(PFS)中央値の有意差は観察されなかった(エミベツズマブ+エルロチニブで9.3月であったのに対し、エルロチニブ単独では9.5月)(Scagliotti et al., J. Thorac. Oncol. 2020, 15, 80-90)。ヒトIgG1であるARGX-111(NCT02055066)、ヒト化IgG1であるABT-700(テリソツズマブ;NCT01472016)及びヒト化IgG1モノクローナル抗体の混合物であるSym015(NCT02648724)は、臨床のフェーズ1で評価中である。現時点では、治療用に承認された抗c-Met抗体は存在しない。
【0015】
ADCは、c-Metシグナル伝達経路とは関係のない細胞も死滅できるという点で、興味深い代替手段である。c-Metを標的とするTKI又はモノクローナル抗体の有効性は、c-Metによる腫瘍/MET増幅腫瘍に大きく依存するが、c-Metに対する抗体を含むADCの有効性は、細胞外でのc-Metの発現と内在化、及びADC中の抗体と結合した細胞毒性剤に対する感受性に大きく依存する。
【0016】
したがって、がんの治療に使用するADCに適していると考えられる抗c-Met抗体は、高い親和性でc-Metに結合し、許容される薬物動態特性及び薬力学特性を備えていなければならないが、アゴニスティックな効果を有していてはならない。加えて、それらはc-Metの内在化を誘導する必要がある。
【0017】
これまでに説明したように、アンタゴニスティックな効果を有するがアゴニスティックな効果を有さない抗体の探索は、既に複雑な作業であったが、ADCに適した抗体の場合、二量体化ではなく内在化を引き起こすc-Metの細胞外ドメイン(ECD)のエピトープが完全に特定されていないことから、その傾向は顕著である。
【0018】
したがって、ADCでは、有効性は、抗体の結合特性(c-Metに対するアンタゴニスティックな効果についての親和性及び特異性)に依存するだけでなく、ADCが内在化され、次いで、細胞でプロセシングされる程度にも依存する。細胞では、ADCは、細胞傷害効果を発揮する生物学的に活性な薬物を放出する。したがって、腫瘍細胞の細胞傷害性薬物に対する感受性も重要である。
【0019】
c-Metに特異的な抗体に基づくADCには、テリソツズマブベドチン(ABBV-399;Abbvie、国際公開第2017/201204号)、TR1801-ADC(Tanabe Research, Gymnopoulos et al., Mol. Oncol. 2020, 14, 54-68)、SHR-A1403(Jiangsu HengRui Medicine Co., Yang et al., Acta, Pharmacologica Sinica 2019, 40, 971-979)及びhucMET-27-ADC(Immunogen Inc.、国際公開第2018/129029号)が含まれる。
【0020】
テリソツズマブベドチンは、切断可能なリンカーを介してモノメチルアウリスタチンE(MMAE)と結合したc-Met抗体テリソツズマブ(ABT-700)に基づく。TR1801-ADCは、ヒト化抗体hD12とピロロベンゾジアゼピン(PBD)毒素-リンカーであるテシリンとの部位特異的結合体である。SHR-A1403は、細胞傷害性微小管阻害剤に結合したc-Metに対するヒト化IgG2モノクローナル抗体で構成される。免疫原ADCは、hucMET-27とインドリノベンゾジアゼピンDNAアルキル化剤であるDGN549又はDM4との結合体である。
【0021】
前臨床段階におけるいくつかのADCは有望な結果を示しており、その中のいくつかは臨床試験(NCT02099058、NCT03539536、NCT03859752、NCT03856541)に進んでいるが、延命効果はまだ確定していない。
【0022】
この分野での開発が20年以上行われているという事実にもかかわらず、c-Metに特異的な抗体によるがんの治療のための市販品はまだ存在しない。複数の臨床候補の開発が中止されており、このことは、c-Metに対するアゴニスティックな効果よりもアンタゴニスティックな効果において十分な特異性を有し、かつ許容される治療可能時間域/治療濃度域(therapeutic window)を有する抗体を見いだすことが決して容易ではないことを示している。
【0023】
しかし、がん進行における重要な役割を考慮すると、c-Metは依然として魅力的な標的であり、所望の選択性、特異性及び有効性、並びに許容される治療可能時間域/治療濃度域を有する治療用抗体及びADCの必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0024】
この発明は、c-Metに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片及びこれらの抗c-Met抗体又は抗原結合断片を含む抗体薬物複合体(ADC)に関する。
【0025】
第1の側面では、この発明は、重鎖(HC)相補性決定領域(CDR)1のアミノ酸配列が配列番号26で示す配列を含み;
HC CDR2のアミノ酸配列が配列番号27で示す配列を含み;かつ、
HC CDR3のアミノ酸配列が配列番号28で示す配列を含む、
重鎖可変領域の相補性決定領域HC CDR1~3を有し、
軽鎖(LC)相補性決定領域(CDR)1のアミノ酸配列が配列番号29で示す配列を含み;
LC CDR2のアミノ酸配列が配列番号30で示す配列を含み;かつ、
LC CDR3のアミノ酸配列が配列番号31で示す配列を含む、
軽鎖可変領域の相補性決定領域LC CDR1~3を有する、
c-Metに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0026】
第2の側面では、この発明は、リンカーを介して細胞傷害性薬物と結合した抗c-Met抗体又は抗原結合断片を含むADCに関する。
【0027】
好ましい態様では、ADCは、式(III)
【0028】
【0029】
(式中、
AbのHC可変領域は配列番号16のアミノ酸配列で示され、AbのLC可変領域は配列番号20のアミノ酸配列で示され;
AbはIgG1抗体であり;
細胞傷害性薬物は、前記リンカーを介して、(Kabatナンバリングで)HCの41位における組み換えられたシステインと部位特異的に結合する。)
で表される。
【0030】
この発明の他の側面は、抗体、抗原結合断片又はADCを含む医薬組成物と、特に単剤療法又は併用療法でがんを治療する医薬品としてのそれらの使用を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】c-Met陽性MKN45細胞におけるAlexa Fluor 488(AF488)標識mAb3bの内在化の定量。(A) IncuCyte(登録商標)S3機器で細胞質に取り込まれた蛍光シグナルの増加を24時間モニタリングすることで求めた内在化。(B) フローサイトメトリーで測定した内在化の割合。
【
図2】c-Met陽性MKN45細胞に対するADC3b及び対応する結合していない抗体mAb3bの細胞結合。
【
図3】c-Metの発現がさまざまなレベルのヒト腫瘍細胞株におけるADC3bのin vitro細胞毒性。
【
図4】c-Met陽性MKN45細胞と1:1で共培養し、1μg/mLのADC3b又は結合していない対照ADCで処理したc-Met陰性Jurkat NucLight Red細胞におけるバイスタンダー細胞毒性。
【
図5】雌ces1c KOマウスのc-Met陽性MKN-45腫瘍モデルにおけるキメラADC(ADC1、ADC2、ADC3)及び溶媒のみのin vivo有効性。
【
図6】雌ces1c KOマウスのc-Met陽性MKN-45腫瘍モデルにおけるヒト化ADC及び溶媒のみのin vivo有効性。
【
図7】雌ces1c KOマウスのc-Met陽性MKN-45腫瘍モデルにおけるヒト化ADC(ADC3a、ADC3b、ADC3c)及び溶媒のみのin vivo有効性。
【
図8】METが増幅されていない頭頸部がんPDXモデルHNXF1905(A)及び肺がんPDXモデルLXFL1176(B)におけるADC3bの有効性。矢印は、マウスのランダム化と投与の時点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
抗体及びその抗原結合断片
本発明により、c-Metに対して、いかなるアゴニスティックな効果も示さず、アンタゴニスティックな効果又はニュートラルな効果を示す抗体又は抗体結合断片が提供される。ニュートラルな効果とは、抗体はc-Metに結合するものの、その結合がc-Metシグナル伝達を刺激しないことを意味する。
【0033】
この発明は、c-Metに特異的に結合し、ヒト及びカニクイザル(cyno)の両者のc-Metに対して優れた親和性及び良好な有効性を示し、許容される治療可能時間域/治療濃度域(therapeutic window)を提供する、その特定の相補性決定領域(CDR)によって特定される抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0034】
本発明の抗体又は抗原結合断片は、相補性決定領域(CDR)である重鎖(HC)CDR1~3を含むHC可変領域を含み、HC CDR1のアミノ酸配列が配列番号26で示す配列を含み、HC CDR2のアミノ酸配列が配列番号27で示す配列を含み、かつ、HC CDR3のアミノ酸配列が配列番号28で示す配列を含む。
【0035】
本発明の抗体又は抗原結合断片は、相補性決定領域である軽鎖(LC)CDR1~3を含むLC可変領域を更に含み、LC CDR1のアミノ酸配列が配列番号29で示す配列を含み、LC CDR2のアミノ酸配列が配列番号30で示す配列を含み、かつ、LC CDR3のアミノ酸配列が配列番号31で示す配列を含む。
【0036】
この明細書全体で、用語「抗体」は、2本の重鎖及び2本の軽鎖を含むモノクローナル抗体(mAb)を指す。抗体は、IgA、IgE、IgG又はIgM抗体といったアイソタイプであってもよい。好ましくは、抗体はIgG抗体、より好ましくはIgG1又はIgG2抗体である。抗体は、キメラ、ヒト化又はヒト抗体であってもよい。好ましくは、本発明の抗体はヒト化されている。更により好ましくは、抗体は、ヒト化又はヒトIgG抗体、より好ましくはヒト化又はヒトIgG1抗体、最も好ましくはヒト化IgG1抗体である。抗体は、κ又はλ軽鎖、好ましくはκ軽鎖を有していてもよく、すなわちヒト化又はヒトIgG1-κ抗体である。
【0037】
抗体又はその抗原結合断片は、適用可能な場合、(1) 操作された定常領域、すなわち、例えば、半減期を増加させ、リンカー-薬物の結合部位を提供し、及び/又はエフェクター機能を増加若しくは減少させるために、1以上の変異が導入されてもよい定常領域;又は (2) 操作された可変領域、すなわち、リンカー-薬物の結合部位を提供するために、1以上の変異が導入されてもよい可変領域、を含んでいてもよい。抗体又はその抗原結合断片は、組換えによって、合成によって、又は公知の他の適切な方法によって製造してもよい。
【0038】
この明細書全体で、用語「抗原結合断片」は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv又は還元IgG(rIgG)断片、一本鎖(sc)抗体、単一ドメイン(sd)抗体、ダイアボディ又はミニボディを含む。
【0039】
非ヒト(例.げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体に由来する配列が最小な抗体(例.非ヒト-ヒトキメラ抗体)である。非ヒト抗体をヒト化するさまざまな方法が当技術分野において公知である。例えば、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の可変領域(VR)中の抗原が結合する結合相補性決定領域(CDR)は、ヒト以外、通常マウス、ラット又はウサギの抗体に由来する。これらの非ヒトCDRは、結合親和性及び特異性といった抗体の機能的特性が少なくとも部分的には保持されるように、HC及びLCの可変領域のヒトのフレームワーク領域(FR、すなわち、FR1、FR2、FR3及びFR4)と組み合わせることができる。ヒトFR中のアミノ酸を、対応する非ヒト種のアミノ酸と交換して、免疫原性は低く保ちながら結合親和性を改善するなど、抗体の性能を更に改良してもよい。このようにしてヒト化された可変領域は、通常、ヒトの定常領域と組み合わされる。非ヒト抗体のヒト化の代表的な方法は、Winterと共同研究者の方法(Jones et al., Nature 1986, 321, 522-525;Riechmann et al., Nature 1988, 332, 323-327;Verhoeyen et al., Science 1988, 239, 1534-1536)である。あるいは、非ヒト抗体は、そのアミノ酸配列を改変して、ヒトにおいて天然に産生される抗体との類似性を高めることによって、ヒト化できる。例えば、非ヒト種のFRのアミノ酸は、抗体の結合親和性を保ちながら免疫原性を減少させるために、対応するヒトのアミノ酸と交換される。詳細については、Jones et al., Nature 1986, 321, 522-525;Riechmann et al., Nature 1988, 332, 323-327及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 1992, 2, 593-596を参照。以下の総説とそこで引用されている文献も参照:Vaswani and Hamilton, Ann. Allergy, Asthma and Immunol. 1998, 1, 105-115;Harris, Biochem. Soc. Transactions 1995, 23, 1035-1038及びHurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 1994, 5, 428-433。
【0040】
CDRは、Kabat(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, NIH publication no. 91-3242, pp. 662, 680, 689 (1991))、Chothia(Chothia et al., Nature 1989, 342, 877-883)又はIMGT(Lefranc, The Immunologist 1999, 7, 132-136)の方法で決定できる。これらの方法は、IMGTの方法で決定した配列番号1~20示す配列に下線を付したCDRによって、及び、配列番号26~31に示すKabatの方法で決定したCDR配列によって示されるように、長さがわずかに異なるCDRをもたらす。
【0041】
ある態様では、この発明は、HC CDR 1~3及びLC CDR 1~3を含むヒト化抗体又はその抗原結合断片に関し、
HC CDR1のアミノ酸配列が配列番号26で示す配列を含み;
HC CDR2のアミノ酸配列が配列番号27で示す配列を含み;かつ、
HC CDR3のアミノ酸配列が配列番号28で示す配列を含み、
LC CDR1のアミノ酸配列が配列番号29で示す配列を含み;
LC CDR2のアミノ酸配列が配列番号30で示す配列を含み;かつ、
LC CDR3のアミノ酸配列が配列番号31で示す配列を含む。
【0042】
好ましい態様では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、配列番号16で示されるHC可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号20で示されるLC可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0043】
ある態様では、本発明の抗体は、インタクトなIgG抗体、より好ましくはIgG1抗体である。
【0044】
他の態様では、本発明の抗体断片は、Fab、Fab’又はF(ab’)2断片、より好ましくはFab断片である。
【0045】
本発明の抗体は、その高い特異性とヒト及びカニクイザル両者のc-Metに対する優れた親和性、そして、in vitro又はin vivoのいずれにおいてもアゴニスティックな効果を発揮しない点のため、治療用途に特に適している。
【0046】
抗体薬物複合体
この発明は、抗体薬物複合体(ADC)を更に提供し、本発明の抗体又は抗原結合断片は、リンカーを介して、低分子細胞傷害性薬物などの細胞傷害性薬物に結合している。リンカーと細胞傷害性薬物が結合している部分は、リンカー-薬物(部分)である。
【0047】
リンカーの構造は、リンカーが低分子の細胞傷害性薬物とたやすく化学的に結合できるもので、得られたリンカー-薬物に、例えば本発明の抗体又は抗原結合断片のような別の物質を容易に結合させて抗体薬物複合体を形成できるような構造である。リンカーの選択は、血中では複合体の安定性に影響を及ぼし、低分子薬物の放出では、その放出形態に影響を及ぼす。適切なリンカーは、例えば、Ducry et al., Bioconjugate Chem. 2010, 21, 5-13、King and Wagner, Bioconjugate Chem. 2014, 25, 825-839、Gordon et al., Bioconjugate Chem. 2015, 26, 2198-2215、Tsuchikama and An(DOI: 10.1007/s13238-016-0323-0)、Polakis(DOI: 10.1124/pr.114.009373)、Bargh et al.(DOI: 10.1039/c8cs00676h)、国際公開第2011/133039号、同第2015/177360号及び同第2018/069375号に記載されている。リンカーは、切断可能又は切断不可能であってもよい。切断可能なリンカーは、例えば、リソソームプロテアーゼに、又は酸性pH若しくは高い還元電位に曝露された場合に切断される部分を含む。適切な切断可能リンカーは当該技術分野において公知であり、例えば、ジ、トリ又はテトラペプチド、すなわち、2、3又は4個のアミノ酸残基からなるペプチドを含む。さらに、切断可能なリンカーは、ω-アミノ-アミノカルボニル環化スペーサー(Saari et al., J. Med. Chem., 1990, 33, 97-101参照)のような自壊部分、又は-NH-CH2-O-部分を含んでいてもよい。リンカーの切断により、ADC中の薬物が送達された周囲で利用できるようになる。切断不可能なリンカーも、例えば、複合体中のポリペプチドがリソソーム内で分解された場合、ADCから薬物(の誘導体)を効果的に放出できる。切断不可能なリンカーには、例えば、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル(シクロヘキサン)-1-カルボキシレート及びマレイミドカプロン酸並びにそれらのアナログが含まれる。
【0048】
この発明では、切断可能なリンカー又は切断不可能なリンカーのいずれかを使用してもよい。好ましくは、リンカーは、システイン残基のチオール基と反応できる化学基、通常、マレイミド又はハロアセチル基を有する。より好ましくは、リンカーは切断可能なリンカーである。
【0049】
本発明の抗体又は抗原結合断片と結合した細胞傷害性薬物は、がんの治療に適している。適切な細胞傷害性薬物の例には、デュオカルマイシン、カリケアマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)二量体、メイタンシノイド(例.DM1又はDM4)、アウリスタチン(例.MMAE又はMMAF)誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、細胞傷害性薬物はデュオカルマイシン誘導体である。
【0050】
デュオカルマイシン類は、ストレプトマイセス種の培養液から初めて単離されたもので、デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA及びCC-1065を含む抗腫瘍抗生物質の一種である。これらの非常に強力な薬物は、副溝においてアデニンのN3位を選択的にアルキル化するという、アポトーシスで終了する一連の事象を開始する能力から、その生物学的活性を引き出しているとされている。
【0051】
国際公開第2011/133039号は、デュオカルマイシン誘導体CC-1065を含む一連のリンカー-薬物を開示する。この発明で使用できるデュオカルマイシン誘導体は、182~197ページに開示されている。これらのリンカー-薬物の多くの化学合成は、国際公開第2011/133039号の実施例1~12に記載されている。
【0052】
好ましい態様では、この発明は、リンカー-薬物が、本発明の抗体又は抗原結合断片のシステイン残基を介して結合するADCに関する。
【0053】
ある態様では、この発明は、式(I)
【化2】
(式中、
Abは本発明の抗体又は抗原結合断片であり;
nは0~3の整数であり;
mは1~6の平均DARを表し;
R
1は、
【化3】
からなる群から選択され;
yは1~16の整数であり;
R
2は、
【化4】
からなる群から選択される。)
で表されるADCに関する。
【0054】
この明細書に示す構造式では、nは0~3の整数を表し、mは1~6の平均薬物抗体比(DAR)を表す。DAR及び薬物負荷分布は、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)又は逆相高速液体クロマトグラフィ(RP-HPLC)により決定できることは、当該技術分野において周知である。HICは、平均DARの決定に特に適している。
【0055】
特別な態様では、この発明は前記式(I)で表されるADCに関し、式中、nは0又は1であり、mは1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、最も好ましくは1.5~2の平均DARを表し、R
1は、
【化5】
からなる群から選択され;
yは1~16、好ましくは1~4の整数であり;R
2は、
【化6】
である。
【0056】
特定の態様では、この発明は前記式(I)で表されるADCに関し、式中、nは0又は1であり、mは1.5~2の平均DARを表し、R
1は
【化7】
であり;
yは1~4であり;
R
2は
【化8】
である。
【0057】
好ましい態様では、ADCは、式(II)
【化9】
で表される化合物であり、式中、Abは本発明の抗体又は抗原結合断片で、1~4は、化合物の平均DARを示す。
【0058】
とりわけ好ましい態様では、ADCは、式(III)
【化10】
で表される化合物であり、Abは本発明の抗体又は抗原結合断片で、1.5~2は、化合物の平均DARを示す。
【0059】
本発明のADCは、野生型であっても、部位特異的であってもよく、以下に例示するような当該技術分野における公知の方法で製造できる。
【0060】
野生型のADCは、例えば、抗体のリジンε-アミノ基を介して、リンカー-薬物と抗体又はその抗原結合断片を結合させることによって製造してもよく、好ましくは、活性化エステルなどのアミン反応性基を含むリンカー-薬物を使用し、活性化エステルを抗体又はその抗原結合断片と接触させることで、ADCが得られる。あるいは、野生型のADCは、当該技術分野において公知の方法及び条件(例えば、Doronina et al., Bioconjugate Chem. 2006, 17, 114-124を参照)により、鎖間ジスルフィド結合の還元によって生成したシステインの側鎖の遊離チオールを利用してリンカー-薬物を結合させることによって製造できる。この製造方法は、溶媒に曝露された鎖間ジスルフィドの部分的な還元と、得られたチオールの、マイケル受容体含有リンカー-薬物(例.マレイミド含有リンカー-薬物、α-ハロ酢酸アミド又はエステル)のよる修飾を含む。このシステイン結合戦略では、還元されたジスルフィドにつき、最大で2つのリンカー-薬物が得られる。ほとんどのヒトIgG分子は、溶媒に曝露されたジスルフィド結合を4つ有し、したがって、1抗体あたり0~8個のリンカー-薬物が可能である。1抗体あたりのリンカー-薬物の正確な数は、ジスルフィドの還元の程度とその後の結合反応で使用するリンカー-薬物のモル当量数によって決まる。4つ全てのジスルフィド結合の完全な還元により、1抗体あたり8つのリンカー-薬物を有する均一な構築物が得られ、部分的な還元では、通常、1抗体あたり0、2、4、6又は8つのリンカー-薬物を有する不均一な混合物を生じる。
【0061】
部位特異的なADCは、好ましくは、抗体又はその抗原結合断片の適切な位置にある組み換えられたシステイン残基の側鎖を介して、リンカー-薬物と抗体又はその抗原結合断片を結合させることによって製造される。組み換えられたシステインは、通常、システイン又はグルタチオンのような他のチオールでキャップされて、ジスルフィドを形成する。これらのキャップされた残基は、リンカー-薬物と結合させる前に、キャップを外す必要がある。組換えられた残基とリンカー-薬物の結合は、(1) 天然の鎖間ジスルフィドと変異体のジスルフィドの両者を還元し、次いで、CuSO4若しくはデヒドロアスコルビン酸などの穏やかな酸化剤を使用して天然の鎖間システインを再酸化し、その後、キャップされていない組み換えられたシステインとリンカー-薬物を標準的な方法で結合させることにより、又は、(2) 高い割合で鎖間ジスルフィド結合よりも変異体ジスルフィドを還元する穏やかな還元剤を使用し、その後、キャップされていない組み換えられたシステインとリンカー-薬物を標準的な方法で結合させることにより、達成される。最適な条件下では、(mAb又は断片のHC又はLC中に1つのシステインが組み込まれた場合)1つの抗体又はその抗原結合断片あたり2つのリンカー-薬物が結合する(すなわち、薬物対抗体比DARは2である)。リンカー-薬物を部位特異的に結合させる適切な方法は、例えば、国際公開第2015/177360号(還元及び再酸化の方法を記載)、国際公開第2017/137628号(穏やかな還元剤を使用する方法を記載)、及び国際公開第2018/215427号(還元された鎖間システインとキャップされていない組み換えられたシステインを結合する方法を記載)に記載されている。
【0062】
この発明では、用語「組み換えられたシステイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖中のシステイン以外のアミノ酸がシステインに置換されたものを意味する。当業者に知られているように、置換は、例えば、部位特異的変異によって、アミノ酸レベル又はDNAレベルで行うことができる。
【0063】
ある態様では、この発明は、リンカー-薬物が、本発明の抗体又は抗原結合断片と、重鎖又は軽鎖の可変領域又は定常領域に導入された組み換えられたシステイン残基を介して部位特異的に結合したADCに関する。
【0064】
好ましい態様では、この発明は、リンカー-薬物が、本発明の抗体又は抗原結合断片と、前記抗体又は抗原結合断片のHC可変領域の40、41及び89位(Kabatナンバリング)、並びにLC可変領域の40及び41位(Kabatナンバリング)から選択される1以上の位置における組み換えられたシステインを介して、部位特異的に結合したADCに関する。好ましくは、前記組み換えられたシステインは、HCの41位又はLCの40若しくは41位にあり、より好ましくはHCの41位にある。
【0065】
特定の態様では、AbのHC可変領域は配列番号16のアミノ酸配列で示され、AbのLC可変領域は配列番号20のアミノ酸配列で示される。好ましくは、ADCは、式(III)で表されるADCである。より好ましくは、細胞傷害性薬物は、リンカーを介して、AbのHCの41位(Kabatナンバリング)の組み換えられたシステインと部位特異的に結合する。更により好ましくは、AbはIgG1抗体である。最も好ましくは、Abはκ軽鎖を有するIgG1抗体である。
【0066】
配列番号16で示されるHC可変領域及び配列番号20で示されるLC可変領域を含み、vc-seco-DUBA薬物が、HC41位の組み換えられたシステインを介して部位特異的に結合しているADCの毒性プロファイルは、多くのさまざまな正常組織がc-Metを発現していることを考慮すると、カニクイザルにおいて著しく好ましかった。c-Metの広範な発現にもかかわらず、このADCの忍容性は驚くほど高い。ADCの重篤な毒性が発現しない最大投与量(HNSTD)は、3週間に1回の15mg/kgと推定される。
【0067】
医薬組成物
本発明は、さらに、これまでに説明した抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片又は抗c-Met ADCと1以上の薬学的に許容される添加物を含む医薬組成物に関する。mAb、断片及び(モノクローナル)ADCといった治療用タンパク質の一般的な医薬製剤は、静脈注入前に(水への)溶解(すなわち再構成)を必要とする凍結乾燥ケーキ(凍結乾燥粉末)、又は使用前に解凍を必要とする凍結(水)溶液の形態をとる。
【0068】
概して、医薬組成物は、凍結乾燥ケーキの形態で提供される。この発明の(凍結乾燥前の)医薬組成物に配合するのに適切な薬学的に許容される添加物には、緩衝溶液(例.水中のクエン酸塩、ヒスチジン又はコハク酸塩含有塩)、凍結乾燥保護剤(例.スクロース、トレハロース)、浸透圧調節剤(例.塩化ナトリウム)、界面活性剤(例.ポリソルベート)、及び増量剤(例.マンニトール、グリシン)が含まれる。凍結乾燥タンパク質製剤に使用する添加物は、凍結乾燥中及び保存中にタンパク質の変性を防止する能力によって選択される。一例として、無菌又は滅菌注射用水(BWFI又はSWFI)で再構成する、カドサイラ(登録商標)(Roche)の滅菌凍結乾燥粉末単回製剤は、20mg/mLのトラスツズマブエムタンシン、0.02%w/vのポリソルベート20、10mMのコハク酸ナトリウム及び6%w/vのスクロースを含有し、pHは5.0である。
【0069】
医薬用途
別の側面では、この発明は、抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片、ADC又は、特にがんを治療する医薬品として使用するためのこれまでに説明した医薬組成物を提供する。
【0070】
この発明では、がんは、好ましくはc-Metを発現する腫瘍である。このような腫瘍は、c-Met陽性固形腫瘍又はMETによる造血器腫瘍であってもよい。これまでに説明した、この発明で治療できる固形腫瘍又は造血器腫瘍の例には、乳がん;脳腫瘍(例.多形神経膠芽腫(GBM)又は髄芽腫);頭頸部のがん;甲状腺がん;唾液腺がん(例.耳下腺がん);副腎がん(例.神経芽細胞腫、傍神経節腫又は褐色細胞腫);骨のがん(例.骨肉腫);軟部肉腫(STS);眼のがん(例.ブドウ膜黒色腫);食道がん;胃がん(GC);小腸がん;結腸直腸がん(CRC);尿路上皮細胞がん(例.膀胱がん、陰茎がん、尿管がん又は腎がん);卵巣がん;子宮がん(例.子宮内膜がん);膣がん、外陰がん及び子宮頸がん;肺がん(特に、非小細胞肺がん(NSCLC)及び小細胞肺がん(SCLC));黒色腫;中皮腫(特に悪性の胸膜中皮腫及び腹部中皮腫);肝がん(例.肝細胞がん(HCC));膵臓がん;皮膚がん(例.基底細胞腫、扁平上皮がん又は隆起性皮膚線維肉腫);精巣がん;前立腺がん;胚細胞がん;原発不明がん(CUP);及びリンパ系の悪性腫瘍(例.成熟T及びNK腫瘍)又は骨髄性の悪性腫瘍(多発性骨髄腫)が含まれる可能性があるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
ある態様では、この発明は、抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、ADC、又は、c-Met陽性ヒト固形腫瘍若しくはMETによる造血器腫瘍の治療に使用するためのこれまでに説明した医薬組成物に関する。
【0072】
好ましい態様では、この発明は、抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片、ADC、又はこれまでに説明した医薬組成物、特に、乳がん;脳腫瘍;頭頸部のがん;甲状腺がん;唾液腺がん;軟部肉腫(STS);眼のがん;食道がん;胃がん(GC);小腸がん;結腸直腸がん(CRC);尿路上皮細胞がん(UCC);卵巣がん;子宮がん;子宮内膜がん;子宮頸がん;肺がん(特に、非小細胞肺がん(NSCLC)及び小細胞肺がん(SCLC));黒色腫;肝がん;膵臓がん;非黒色腫皮膚がん;前立腺がん;胚細胞がん;及び原発不明がん(CUP)からなる群から選択されるc-Met陽性ヒト固形腫の治療に使用するための、デュオカルマイシン誘導体リンカー-薬物を含むADCに関する。
【0073】
より好ましい態様では、この発明は、抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片、ADC、又はこれまでに説明した医薬組成物、特に、乳がん;多形神経膠芽腫(GBM);髄芽腫;頭頸部のがん;甲状腺乳頭がん;唾液腺がん;軟部肉腫(STS);ブドウ膜黒色腫;食道がん;胃がん(GC);小腸がん;結腸直腸がん(CRC);尿路上皮細胞がん(UCC);膀胱がん;尿路がん;陰茎がん;乳頭状腎細胞がん(PRCC);淡明細胞型腎細胞がん(CCRCC);非明細胞型腎細胞がん;腎芽腫;卵巣がん;子宮がん;子宮内膜がん;子宮頸がん;非小細胞肺がん(NSCLC);小細胞肺がん(SCLC);黒色腫;肝細胞がん(HCC);膵臓がん;非黒色腫皮膚がん;前立腺がん;胚細胞がん;原発不明がん(CUP)からなる群から選択されるc-Met陽性ヒト固形腫の治療に使用するための、デュオカルマイシン誘導体リンカー-薬物を含むADCに関する。
【0074】
更に好ましい態様では、この発明は、抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片,ADC、又はこれまでに説明した医薬組成物、特に、METによる造血器腫瘍の治療に使用するための、デュオカルマイシン誘導体リンカー-薬物を含むADCに関し、METによる造血器腫瘍は、リンパ系又は骨髄性の悪性腫瘍、より好ましくは成熟T及びNK腫瘍又は多発性骨髄腫である。
【0075】
これまでに説明した抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物は、この明細書で説明した医薬品の製造に使用するためのものであってもよい。これまでに説明した抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物は、好ましくは、抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物が、治療有効量で、対象に、特に治療を必要とする対象に投与される治療方法のためのものである。したがって、選択的に、又は他の態様と組み合わせて、ある態様では、この発明は、がんの治療用の医薬品を製造するための、これまでに説明した抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物の使用に関する。この発明で治療されるがんの限定するものではない例は、これまでの説明を参照されたい。
【0076】
選択的に、又は他の態様と組み合わせて、ある態様では、この発明は、がんの治療方法に関し、当該方法は、その治療を必要とする対象に、治療有効量のこれまでに説明した抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物を投与することを含む。この発明で治療されるがんの限定するものではない例は、これまでの説明を参照されたい。
【0077】
これまでに説明した抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物は、対象に投与するためのものである。これまでに説明した抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、ADC又は医薬組成物は、必要とする対象に有効量の組成物を投与することによって、これまでに説明した治療方法で使用できる。この明細書では、用語「対象」は、哺乳動物として分類される全ての動物を指し、霊長類及びヒトが含まれるが、これらに限定されるものではない。対象は、好ましくはヒトである。「治療有効量」という表現は、所望の応答をもたらすのに、又は症状若しくは徴候を改善するのに十分な量を意味する。特定の対象に対する治療有効量は、症状、対象の全身の状態、投与の方法、経路及び用量、並びに副作用の重症度などの要因に応じて変化させてもよい。
【0078】
この発明は、また、逐次又は同時に投与する、これまでに説明した抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、抗c-Met ADC又は医薬組成物と、1以上の他の治療剤の組合せの使用に関する。
【0079】
適切な化学療法剤には、ナイトロジェンマスタード類、ヒドロキシウレア、ニトロソウレア類、テトラジン類(例.テモゾロミド)及びアジリジン類(例.マイトマイシン)といったアルキル化剤;PARP阻害剤、ATR及びATM阻害剤、CHK1及びCHK2阻害剤、DNA-PK阻害剤、WEE1阻害剤といったDNA損傷応答を妨げる薬物;葉酸拮抗薬(例.ペメトレキセド)、フルオロピリミジン類(例.ゲムシタビン)、デオキシヌクレオシド類似体、チオプリン類といった代謝拮抗薬;ビンカアルカロイド及びタキサン類といった抗微小管薬;トポイソメラーゼI及びII阻害剤;アントラサイクリン類及びブレオマイシン類といった細胞傷害性抗生物質;デシタビンやアザシチジンなどのDNAメチル化阻害剤;ヒストンデアセチラーゼ阻害剤;オールトランスレチノイン酸;並びに三酸化ヒ素が含まれる。適切な放射線治療薬には、メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)(131I)、リン酸ナトリウム(32P)、塩化ラジウム(223Ra)、塩化ストロンチウム(89Sr)及びエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)サマリウム(153Sm)などの放射性同位体が含まれる。ホルモン療法薬として使用される適切な薬剤には、アロマターゼ阻害剤及びGnRH類似体などのホルモン合成阻害剤;選択的エストロゲン受容体モジュレーター(例.タモキシフェン及びフルベストラント)などのホルモン受容体アンタゴニスト、及び、ビカルタミド、エンザルタミド、フルタミドといった抗アンドロゲン薬;アビラテロンなどのCYP17A1阻害剤;並びにソマトスタチン類似体が含まれる。
【0080】
標的治療薬は、腫瘍形成と増殖に関与する特定のタンパク質を阻害する治療薬で、低分子薬;治療用抗体などのタンパク質;ペプチド及びペプチド誘導体;又は、ADCなどのタンパク質と低分子のハイブリッドの場合もある。標的低分子薬の例には、エベロリムス、テムシロリムス、ラパマイシンなどのmTor阻害剤;イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブなどのキナーゼ阻害剤;ソラフェニブやレゴラフェニブなどのVEGF阻害剤;ゲフィチニブ、ラパチニブ、エルロチニブなどのEGFR/HER2阻害剤;及び、パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブなどのCDK4/6阻害剤が含まれる。ペプチド又はペプチド誘導体を標的とする治療薬の例には、ボルテゾミブ及びカルフィルゾミブなどのプロテアソーム阻害剤が含まれる。
【0081】
適切な抗炎症剤には、D-ペニシラミン、アザチオプリン及び6-メルカプトプリン、シクロスポリン、抗TNF生物製剤(例.インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ又はセルトリズマブペゴル)、レフルノミド、アバタセプト、トシリズマブ、アナキンラ、ウステキヌマブ、リツキシマブ、ダラツムマブ、オファツムマブ、オビヌツズマブ、セクキヌマブ、アプレミラスト、アシトレチン、及びJAK阻害剤(例.トファシチニブ、バリシチニブ又はウパダシチニブ)が含まれる。
【0082】
免疫療法剤には、サイトカイン(IL2及びIFNα);免疫調節イミド薬(例.サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド又はイミキモド);治療用がんワクチン(例.タリモジンラヘルパレプベク);及び細胞ベースの免疫療法剤(例.樹状細胞ワクチン、養子T細胞又はキメラ抗原受容体改変T細胞)といった免疫応答を誘導、増強又は抑制する薬剤と、細胞膜に結合するリガンドに結合した場合に、そのFc領域を介して、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)又は補体依存性細胞傷害(CDC)を誘発できる治療用抗体が含まれる。
【0083】
ある態様では、この発明は、逐次又は同時に投与する、これまでに説明した抗c-Met抗体又はその抗原結合断片、抗c-Met ADC又は医薬組成物と、これまでに説明したヒト固形腫瘍又は造血器腫瘍の治療のためのc-Met抗原以外のがんに関連する標的に対する治療用抗体、化学療法剤及び/又はADCの組合せの使用に関する。
【0084】
この発明の抗c-Met抗体若しくはその抗原結合断片又はADCの治療有効量は、約0.01~約15mg/kg体重、具体的には約0.1~約10mg/kg体重、より具体的には約0.3~約10mg/kg体重である。この後者の範囲は、抗体又はADCの20~800mgの一定の用量にほぼ対応する。本発明の化合物は、毎週、隔週、3週間ごと、毎月又は6週間ごとに投与できる。適切な治療方法は、疾患の重篤度、患者の年齢、投与する化合物、及び治療する医師が考慮する他の要因に依存する。
【0085】
本発明では、治療は、好ましくは、がんを予防すること、回復させること、治癒すること、寛解させること、及び/又は遅延させることである。これは、がんの少なくとも1つの症状の程度が軽減されたこと、及び/又は、がんに関連するパラメータが少なくとも改善されたことを意味してもよい。
【0086】
一般的な定義
この明細書と特許請求の範囲において、動詞「含む(comprise)」及びその活用形は、その単語に続く項目が含まれることを意味する非限定的な意味で使用される、言及していない項目が除かれるわけではない。加えて、不定冠詞「1つ(a、an)」による要素への言及は、当該要素が1つであることを文脈が明確に要求しない限り、複数の要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「1つ(a、an)」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0087】
単語「約」又は「およそ」は、数値と共に使用する場合(例.約10)、好ましくは、その数値の±1%であってもよいことを意味する。
【0088】
この明細書で引用する全ての特許及び文献は、その全体が参照としてこの明細書に組み込まれる。
【0089】
以下の実施例は、例示することのみを目的として提供しており、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0090】
ADCを特徴付けるための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
HICによる分析のために、5~10μLの試料(1mg/mL)を、TSKgel Butyl-NPRカラム(直径4.6mm×長さ3.5cm、Tosoh Bioscience、カタログ番号14947)に注入した。溶出方法は、緩衝液A(25mMリン酸ナトリウム、1.5M硫酸アンモニウム、pH6.95)100%から、緩衝液B(25mMリン酸ナトリウム、pH6.95、20%イソプロパノール)100%への直線勾配を用いて、0.4mL/分で20分間かけた。PDA検出器及びEmpowerソフトウェアを備えたWaters Acquity H-Class UPLCシステムを使用した。214nmで吸光度を測定し、ADCの保持時間を求めた。
【0091】
ADCを特徴付けるためのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SECによる分析のために、5μLの試料(1mg/mL)を、TSKgel SWXL Guardカラム(7μm、直径6.0mm×長さ4.0cm、Tosoh Bioscience、カタログ番号08543)を連結したTSKgel G3000SWXLカラム(5μm、直径7.8mm×長さ30cm、Tosoh Bioscience、カタログ番号08541)に注入した。溶出方法は、50mMのリン酸ナトリウム、300mMのNaCl、pH7.5を用いて、0.6mL/分で30分間かけた。カラムの温度を25℃に維持した。PDA検出器及びEmpowerソフトウェアを備えたWaters Acquity H-Class UPLCシステムを使用した。214nmで吸光度を測定し、HMWを定量した。
【0092】
免疫化プロトコルと選択
マウスを組換えヒトHGFR/c-Met ECD-Fc融合タンパク質で繰り返し免疫した。B細胞を脾臓から回収して、57個のハイブリドーマを調製するために使用した。これらのハイブリドーマは、B細胞とマウス骨髄腫細胞(受託番号CVCL_J288)を使用し、HAT培地(ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン培地)での選択工程を行う、ポリエチレングリコール(PEG)媒介細胞融合によって調製した。c-Met-Fcを固定化したLuminexビーズアッセイにより、不死化した抗体分泌ハイブリドーマ培養物の上清を、IgG産生、抗体アイソタイプ及びHGFR/c-Metへの特異的な結合について分析した。
【0093】
機能的なマウス抗体のスクリーニング
抗体の存在下又は非存在下において、肝細胞増殖因子(HGF)によるHepG2細胞の刺激を分析することにより、抗体の機能を決定した。イムノブロット分析では、HGF誘導c-Met及びプロテインキナーゼB(PKB)リン酸化に拮抗し、HepG2フローサイトメトリーで陽性の抗体を特定できた。ニュートラルな特性又はアンタゴニスティックな特性に基づいて、最初の57個のハイブリドーマのうち11個のみを選択し、配列決定した。陽性対照として、アゴニストのハイブリドーマを1種選択し、配列決定した。アミノ酸配列のいくつかを、より生殖系列に似た配列に変異させて、まれで、潜在的に不安定で、低発現の抗体鎖配列を回避した。コドン最適化の前に、VLドメインの隣接領域における1以上のアミノ酸残基を、国際ImMunoGeneTics(IMGT)データベース(Scaviner et al., Exp. Clin. Immunogenetics 1999, 16.4, 234-240)の既知の生殖系列配列のアミノ酸残基で置換した。生殖系列化とも呼ばれる生殖系列配列へのこの復帰変異の工程を、それぞれフレームワーク1又はJセグメント、マウスIGKV-FR1又はIGKJの一部であるVLドメイン配列のいくつかで行った。11個の重鎖可変ドメイン(VH)及び13個の軽鎖可変ドメイン(VL)を得た。
【0094】
アミノ酸配列に基づいて、対応するDNAコード配列を、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化し、合成し、ヒトのIgG1サブクラスの定常部分をコードするDNA配列(HC 配列番号22、LC 配列番号23)に融合した。Expi293F細胞で発現させたプラスミドをコードする抗体配列を使用する導入遺伝子の発現により、14個のキメラ抗体のバッチを調製した。プロテインAアフィニティー精製により、抗体を細胞上清から精製した。
【0095】
細胞表面で発現した全長のヒト及びカニクイザル(cyno)c-Metに対する、キメラ抗体の親和性を試験した。このために、抗体結合実験で使用する前に、全長のヒト及びカニクイザルc-Met受容体をコードするプラスミドベクターをExpiCHO-S細胞に一過性でトランスフェクトし、製造業者の指示に従って培養した。標準的なプラスミド骨格として、ヒトCMVプロモーターを有する全長のヒト又はカニクイザルc-Met抗原コード配列(それぞれ、アクセッション番号P08581(配列番号24)及びA0A2K5UM05(配列番号25))を含む、市販の哺乳動物発現ベクターpcDNA3.4(ThermoFisher Scientific)を使用した。
【0096】
ヒト化
CDR移植により、ヒト化抗体を調製した。2種のアンタゴニスティックなクローン及び3種のニュートラルなクローンのCDRを、IMGT(Lefranc and Marie-Paule. Immunologist 1999, 7.4, 132-136)及びKabatのナンバリングシステムからのCDR定義を使用して特定した。マウスVHドメインを使用し、BLAST検索アルゴリズムによってヒトIgG配列のオンライン公開データベースを検索し、候補となるヒト可変ドメインを特定した。各可変ドメインについて、フレームワークの相同性、主要フレームワーク残基の存在、標準ループ構造及び免疫原性といった基準で、5つの候補を選択した。抗体のVLドメインに対して、同じ手順を繰り返した。全てのヒト化VHバリアントを全てのヒト化VLバリアントと組み合わせて、各抗体について25種のヒト化バリアント、すなわち、合計125個を得た。
【0097】
重鎖41C(HC-41C)変異を有するヒト化バリアントを以下の方法で合成し、ヒト又はカニクイザルc-Metを発現するExpiCHO-S細胞を使用して、それらのヒト及びカニクイザルc-Metに対する親和性を測定した。
【0098】
抗体及びc-Met抗原の導入遺伝子の発現
a) cDNA構築物及び発現ベクターの調製
重鎖可変ドメイン(VH)のマウスアミノ酸配列を、N末端でHAVT20リーダー配列(配列番号21)に、C末端でヒトIgG1重鎖定常領域(配列番号22)に、それぞれ連結した。得られたキメラアミノ酸配列をcDNA配列に逆翻訳し、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化した。
【0099】
同様に、軽鎖(LC)構築物のキメラcDNA配列は、適切な分泌シグナルの配列(HAVT20リーダー配列も)、マウスアミノ酸配列の軽鎖可変領域(VL)、及びヒトIgGκ軽鎖定常領域(配列番号23)を連結し、得られたアミノ酸配列をヒト細胞での発現のためにコドン最適化したcDNA配列に逆翻訳することで得た。
【0100】
HC-41C変異を有するヒト化バリアントのLC及びHCをコードするcDNA配列を、同様の方法で得た。HC及びLC配列を、N末端でHAVT20リーダー配列(配列番号21)に、C末端でヒトIgG1重鎖定常領域(配列番号22)又はヒトIgGκ軽鎖定常領域(配列番号23)に連結した。
【0101】
b) ベクター構築とクローニング戦略
抗体鎖とc-Met抗原の発現のために、CMV:BGHpA発現カセットを含む市販(ThermoFisher Scientific)の哺乳動物発現ベクターpcDNA3.4を使用した。HC、LC又は抗原のcDNAを、制限部位AscI及びNheIで、pcDNA3.4ベクターに連結した。HC、LC又はc-Met発現カセットのいずれかを含む最終的なベクター(それぞれ、CMV:HC:BGHpA及びCMV:LC-BGHpA)を、大腸菌NEB 5-α細胞の形質転換に使用した。トランスフェクション用の最終発現ベクターの大規模調製は、Maxiprepキット又はMegaprepキット(Qiagen)を使用した。
【0102】
c) 哺乳動物細胞における抗体の一過性の発現
市販のExpi293F細胞(ThermoFisher Scientific)を、ExpiFectamineトランスフェクション剤を使用し、以下のような製造業者の指示に従って、発現ベクターでトランスフェクトした:75×107個の細胞を300mLのFortiCHO培地に播種し、300μgの発現ベクターを800μLのExpiFectamineトランスフェクション剤と合わせ、細胞に添加した。トランスフェクションの1日後、1.5mLのエンハンサー1及び15mLのエンハンサー2を培養物に添加した。トランスフェクションの6日後、細胞培養上清を、4,000gで15分間の遠心分離によって収集し、清澄化した収集物をPESボトルフィルター/MF75フィルター(Nalgene)でろ過した。
【0103】
d) 哺乳動物細胞におけるc-Metの一過性の発現
市販のExpiCHO-S細胞(ThermoFisher Scientific)を、ExpiFectamineCHOトランスフェクション剤を使用し、以下のような製造業者の指示に従って、発現ベクターをトランスフェクトした:1.2×109個の細胞を200mLのExpiCHO発現培地に播種し、200μgの発現ベクターを640μLのExpiFectamineCHOトランスフェクション剤と合わせ、細胞に添加した。トランスフェクションの1日後、細胞培養物を用量依存的な細胞結合分析に使用した。
【0104】
細胞結合実験
キメラ抗体
14種の野生型キメラ抗c-Met抗体と14種のHC-41Cキメラ抗c-Met抗体の細胞結合を、ヒトc-Met陽性腫瘍細胞株MKN45、NCI-H596及びPC3、アカゲザルc-Met陽性腫瘍細胞株4MBr-5、並びにヒトc-Met陰性腫瘍細胞株MDA-MB-175-VIIで実験した。アッセイ時に約90%コンフルエントの細胞を使用し、5~10分間、トリプシン-バーセン(登録商標)(EDTA)(Lonza)で剥離し、洗浄し、氷冷FACS緩衝液(PBS 1×、0.1%v/wBSA、0.02%v/vアジ化ナトリウム(NaN3))で濃度を1×106細胞/mLに調整した。表面抗原の変化と内在化を防止するために、氷冷試薬/溶液を4℃で使用して、96ウェル丸底マイクロタイタープレート中で染色した。96ウェルプレートにウェルあたり100,000細胞(100μL/ウェル)加え、300× gで3分間遠心分離した。HGFとのプレインキュベーション(パラクリン細胞株のみ)の場合、細胞をFACS緩衝液中の50ng/mLの組換えヒトHGFに再懸濁(50μL/ウェル)し、4℃で30分間インキュベートした後、150μLのFACS緩衝液で2回洗浄した。上清を捨て、細胞を50μLの各抗体で30分間染色した。氷冷FACS緩衝液で連続希釈した。細胞を300× gで3分間の遠心分離によって2回洗浄し、6000倍希釈した二次F(ab’)2ヤギ抗ヒトIgG(Fc断片特異的)抗体APCコンジュゲート(Jackson ImmunoResearch)50μLに再懸濁した。氷上で30分間インキュベートした後、細胞を再度2回洗浄し、FACS分析のために150μLの氷冷FACS緩衝液に再懸濁した。データを分析するために、蛍光強度中央値(MFI)を得た。
【0105】
全てのキメラ抗体は、試験を行った細胞株においてヒトc-Metと良好に結合した。5種のキメラ抗体のみが、4MBr-5細胞株においてアカゲザルc-Metと良好に結合した。予想したとおり、野生型キメラ抗体とそのHC-41C対応物との間に、結合特性に差はなかった。いずれの抗体も、c-Met陰性細胞株とは結合せず、全ての抗体がc-Met受容体を特異的に認識することが示された。ヒトのc-Met及びアカゲザルのc-Met、両者に対する高い親和性に基づいて、3種の野生型キメラ抗体とその対応するHC-41Cキメラ抗体を、更なる開発のために選択した(表1を参照)。パラクリン細胞株では、HGFは6種の選択されたキメラ抗体のEC50値を変化させ、これは、HGFがこれらの抗体の結合と競合することを示した。この効果は、2種の非選択的キメラ抗体とそのHC-41C対応物ではみられなかった。
【0106】
【0107】
【0108】
ハイブリドーマHyb1及びHyb2は最初に試験(in vitro)され、アンタゴニストとして分類された(表2)が、対応するキメラ抗体wt/41C-chi-mAb1及びwt/41C-chi-mAb2は、in vitroで(NCI-H596細胞における増殖刺激実験において)部分アゴニストであると評価された。この観点から、3種のwt/41CキメラmAbを全てヒト化し、更に実験したが、wt/41C-chi-mAb3が、がんの適応症を処置するADCとして更に開発するのに最も好ましいキメラ抗c-Met抗体である。
【0109】
ヒト化抗体
合計75種のヒト化抗c-Met抗体(選択した3種のキメラ抗体由来)の細胞結合を、ヒトc-Met陽性腫瘍細胞株MKN45、NCI-H596及びPC-3、アカゲザルc-Met陽性腫瘍細胞株4MBr-5、並びにヒトc-Met陰性腫瘍細胞株MDA-MB-175-VIIで実験した。アッセイ時に約90%コンフルエントの細胞を使用し、5~10分間、トリプシン-バーセン(登録商標)(EDTA)(Lonza)で剥離し、洗浄し、氷冷FACS緩衝液(PBS 1×、0.1%v/wBSA、0.02%v/vアジ化ナトリウム(NaN3))で濃度を1×106細胞/mLに調整した。表面抗原の変化と内在化を防止するために、氷冷試薬/溶液を4℃で使用して、96ウェル丸底マイクロタイタープレート中で染色した。96ウェルプレートにウェルあたり100,000細胞(100μL/ウェル)加え、300× gで3分間遠心分離した。HGFとのプレインキュベーションの場合、細胞をFACS緩衝液中の50ng/mLの組換えヒトHGFに再懸濁(50μL/ウェル)し、4℃で30分間インキュベートした後、150μLのFACS緩衝液で2回洗浄した。上清を捨て、細胞を50μLの各抗体で30分間染色した。氷冷FACS緩衝液で連続希釈を行った。細胞を300× gで3分間の遠心分離によって2回洗浄し、6000倍希釈した二次F(ab’)2ヤギ抗ヒトIgG(Fc断片特異的)抗体APCコンジュゲート(Jackson ImmunoResearch)50μLに再懸濁した。氷上で30分間インキュベートした後、細胞を再度2回洗浄し、FACS分析のために150μLの氷冷FACS緩衝液に再懸濁した。データを分析するために、蛍光強度中央値(MFI)を得た。
【0110】
いずれのヒト化抗体も、c-Met陰性細胞株を結合しなかった。wt/41C-chi-mAb2及びwt/41C-chi-mAb3に由来する全てのヒト化抗体は、試験を行った細胞株でヒトc-Met及びアカゲザルc-Metの両者に対して良好に結合したのに対して、wt/41C-chi-mAb1に由来する25種のヒト化抗体のうち良好に結合したのは5種のみであった。wt/41C-chi-mAb2に由来するヒト化抗体の良好な結合特性にもかかわらず、HICでは、25種のヒト化抗体のうち20種の疎水性が劇的に増加した。抗体を含む生物学的化合物では、疎水性が高いほど(動物モデルでは)血液中から迅速に除去されるので、この疎水性の増加は望ましくない結果である。wt/41C-chi-mAb1に由来する25種のヒト化抗体のうちの14種でも、同様の結果が得られた。wt/41C-chi-mAb3のヒト化は、結合特性又は疎水性に影響を与えないようであった。
【0111】
更に開発するために選択した9種のHC-41Cヒト化抗体(表3)の細胞結合のEC50値を、表4に示す。表4におけるパラクリン細胞株が示す結果から、HGFはヒト化抗体のEC50値を変化させ、これは、HGFがこれらの抗体の結合と競合することを示した。
【0112】
ヒトc-Met抗原発現MKN45細胞、NCI-H596細胞及びPC-3細胞、並びにアカゲザルc-Met抗原発現4MBr-5細胞で測定した(キメラ抗体wt/41C-chi-mAb1に由来する)ヒト化mAb1aの細胞結合(EC50)は、それぞれ、0.16μg/mL(95% CI:0.12~0.21μg/mL)、0.04μg/mL(95% CI:0.006~0.225μg/mL)、0.08μg/mL(95% CI:0.02~0.25μg/mL)及び0.07μg/mL(95% CI:0.05~0.09μg/mL)であった。HGF結合は、パラクリン細胞株の細胞結合を1.1~2.5倍変化させた。
【0113】
ヒトc-Met抗原発現MKN45細胞、NCI-H596細胞及びPC-3細胞、並びにアカゲザルc-Met抗原発現4MBr-5細胞で測定した(キメラ抗体wt/41C-chi-mAb2に由来する)ヒト化mAb2a、mAb2b及びmAb2cの細胞結合(EC50)は、それぞれ0.09~0.14μg/mL、0.02~0.04μg/mL、0.03~0.05μg/mL、及び0.06~0.09μg/mLであった。HGF結合は、パラクリン細胞株の細胞結合を1.2~4.0倍変化させた。
【0114】
ヒトc-Met抗原発現MKN45細胞、NCI-H596細胞及びPC-3細胞、並びにアカゲザルc-Met抗原発現4MBr-5細胞で測定した(キメラ抗体wt/41C-chi-mAb3に由来する)ヒト化mAb3a、mAb3b、mAb3c、mAb3d及びmAb3eの細胞結合(EC50)は、それぞれ、0.05~0.07μg/mL、0.02~0.03μg/mL、0.03~0.03μg/mL、及び0.02~0.04μg/mLであった。HGF結合は、パラクリン細胞株の細胞結合を0.8~7.5倍変化させた。
【0115】
【0116】
【0117】
結合していない抗体mAb3bと、ヒト及びカニクイザルc-Met細胞外ドメイン(ECD)の結合親和性の実測値(KD-obs)を表5に示す。この低いKD-obs(0.01nM)は、ヒト又はカニクイザルc-Met ECDのいずれかと抗体との間の親和性が高いことを示す。
【0118】
結合分析を、表面プラズモン共鳴装置(Biacore(登録商標)T200 system、GE Life Sciences)により37℃で行った。フローセル1及び2にビオチン補足試薬を2μL/分で300秒間注入することで、ビオチン化ヒトc-Met又はカニクイザルc-Metを、ビオチン化分子の捕捉に適したCAPchip(Sensor Chip CAP、GE Life Sciences)の表面に捕捉した。ランニング緩衝液(150mM NaCl、3mM EDTA及び0.005%v/vポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Surfactant P20)を含む、25℃の10mM HEPES緩衝液(pH7.4))で希釈したビオチン化c-Met抗原を、さまざまな接触時間で注入して、5μL/分のさまざまな捕捉レベルを取得した。c-Metバリアントの希釈と接触時間は、約20RUの捕捉レベルを目標として推定した。1分間のベースラインの後、解離時間を900秒とし、mAb3b試料を、30μL/mLで5段階の漸増濃度(0.037nM、0.11nM、0.33nM、1nM及び3nM)で、60秒間、注入した。相互作用のRmaxは、5~10RUであった。再生は、6Mグアニジン-塩酸、0.25M NaOH溶液で行った(流量30μL/分で120秒)。得られたセンサーグラムに対し、ブランク参照フローチャネル及びランニング緩衝液注入のシグナルを差し引くダブルブランクサブトラクションを行った。センサーグラムは、Biacore(登録商標)T200評価ソフトウェア(v3.1)で作成した。センサーグラムを1:1ラングミュア結合モデルにフィッテングさせ、次いで、適合の良好性(χ2)、適合の独自性(U値)について、目視検査及び生物学的関連性によって評価した。
【0119】
【0120】
内在化実験
mAb3bの内在化を、ヒトc-Met陽性腫瘍細胞株MKN45、NCI-H441及びPC-3で調査した。細胞(96ウェルの丸底マイクロタイタープレートの各ウェルに100,000細胞)を、10μg/mLのmAb3b又は適切な結合していない対照抗体50μLと共に4℃で30分間インキュベートした。10%熱不活性化(HI)ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)及び80U/mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Lonza)を添加したRPMI(Lonza)からなる氷冷完全増殖培地(CGM)で洗浄した後、細胞を、Alexa Fluor 488(AF488)標識Fab断片ヤギ抗ヒトIgG(1:600希釈)(Jackson Immunoresearch)50μLと共に4℃で30分間インキュベートした。氷冷CGMで洗浄した後、細胞を、予め温めたCGM 150μLに再懸濁し、各時点(0h、0.5h、1h、3h、24h)で1つずつ、ポリプロピレンチューブに移し、37℃の水浴に入れて内在化を開始させた。指定の時間のインキュベーション後、細胞を、0.1%v/w BSA(Sigma)及び0.02%アジ化ナトリウム溶液(Sigma)を添加した1× PBS(Lonza)からなる氷冷FACS緩衝液で1回洗浄し、内在化を停止させた。50μLの抗Alexa Fluor 488ウサギIgG抗体(氷冷FACS緩衝液中で1:30希釈)(Molecular Probes, Life Technologies)を用い4℃で10分間クエンチした後、残存する表面の発現を可視化した。測定前に、氷冷FACS緩衝液100μLを更に添加した。同一のクエンチしていないチューブについて、各時点での全蛍光を求めた。フローサイトメトリー(BD FACSVerse, Franklin Lakes, NJ)で蛍光強度を求め、蛍光強度中央値(MFI)として示した。以下の式を用いて内在化の割合を計算することで、内在化を定量した。
内在化率(%)=1-(N1-Q1)/N1-(N1*Q0/N0)*100%
N1=各時点におけるクエンチしていないMFI
Q1=各時点におけるクエンチしたMFI
Q0=時点0におけるクエンチしたMFI
N0=時点0におけるクエンチしていないMFI
【0121】
この方法の限界は、細胞表面に結合したAF488標識mAbのクエンチが不完全なことである。これは、結合したAF488色素では、AF488色素の最大消光が多くても90%以下であることを記載した供給業者の説明と一致する。
【0122】
図1BでMKN45細胞が示すように、各細胞株のmAb3bで効率的な内在化が示され、24時間で内在化が最大となった。
【0123】
MKN45細胞で、mAb3bの内在化のリアルタイムモニタリングを行った。完全増殖培地中の細胞(18,750細胞/ウェル)を96ウェルプレートに播種した(50μL/ウェル)。37℃、5%CO
2で一晩インキュベートした後、ヒトFabFluor-pH赤色蛍光色素(Sartorius)を有する3μg/mLの標識前のmAb3bを細胞に添加した(全体積100μL/ウェル)。内在化のリアルタイム生細胞分析は、48時間の間、30分ごとにIncuCyte(登録商標)S3機器でプレートを撮像し、1ウェルあたり2枚の画像について、10倍対物レンズで位相と赤色蛍光をスキャンすることで評価した。IncuCyte(登録商標)S3ソフトウェアのCell-by-Cell adherentモジュールを使用して、赤色蛍光面積及び総細胞面積をマスクして計数し、その(FabFluor赤色面積/MKN45面積)を時間に対してプロットした(
図1A)。FabFluorの強度は、リソソームへのpH依存性経路の間に増加し、pH4.7で最も高い蛍光を示す。
【0124】
部位特異的結合及び野生型結合のプロトコル
部分的に還元した内因性のジスルフィドを介した結合の一般的な結合プロトコル(野生型(wt)結合)
抗体の溶液(4.2mMヒスチジン、50mMトレハロース、pH6中の5~10mg/mL)をEDTA(25mMの水溶液)で希釈(4%v/v)した。TRIS(1Mの水溶液、pH8)を使用してpHを約7.4に調整し、次いで、TCEP(10mMの水溶液、抗体及び所望のDARに応じ1~3当量)を加え、得られた混合物を室温で1~3時間インキュベートした。ジメチルアセトアミド(DMA)を加え、続いてリンカー-薬物の溶液(10mMのDMA溶液)を加えた。最終的なDMAの濃度は5~10%であった。得られた混合物を、遮光下、室温で1~16時間インキュベートした。過剰のリンカー-薬物を除去するために、活性炭を加え、混合物を室温で1時間インキュベートした。0.2μmのPESフィルターを使用して活性炭を除去し、得られたADCを、Vivaspin遠心濃縮器(分子量カットオフ30kDa、PES)を使用して、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6中で製剤化した。最後に、0.22μmのPESフィルターを用いてADC溶液を滅菌ろ過した。
【0125】
一般的な部位特異的結合プロトコル
部位特異的結合体を、プロトコルA又はプロトコルBの手順により合成した。
1) プロトコルA
システイン組換え抗体の溶液(4.2mMヒスチジン、50mMトレハロース、pH6中の5~10mg/mL)をEDTA(25mMの水溶液)で希釈(4%v/v)した。TRIS(1Mの水溶液、pH8)を使用してpHを約7.4に調整し、次いで、TCEP(10mMの水溶液、20当量)を加え、得られた混合物を室温で1~3時間インキュベートした。過剰なTCEPを、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6を使用して、PD-10脱塩カラム又は遠心濃縮器(Vivaspinフィルター、分子量カットオフ30kDa、PES)で除去した。
【0126】
得られた抗体溶液のpHを、TRIS(1Mの水溶液、pH8)を用いて約7.4に上昇させ、次いで、デヒドロアスコルビン酸(10mMの水溶液、20当量)を加え、得られた混合物を室温で1~2時間インキュベートした。室温又は37℃で、DMA、続いてリンカー-薬物の溶液(10mMのDMA溶液)を加えた。最終的なDMAの濃度は5~10%であった。得られた混合物を、遮光下、室温又は37℃で1~16時間インキュベートした。過剰のリンカー-薬物を除去するために、活性炭を加え、混合物を室温で1時間インキュベートした。0.2μmのPESフィルターを使用して活性炭を除去し、得られたADCを、Vivaspin遠心濃縮器(分子量カットオフ30kDa、PES)を使用して、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6中で製剤化した。最後に、0.22μmのPESフィルターを用いてADC溶液を滅菌ろ過した。
【0127】
2) プロトコルB
システイン組換え抗体の溶液(500μL、15mMヒスチジン、50mMスクロース、0.01%ポリソルベート-20、pH6中に40mg/mL)を100mMヒスチジン(pH5、1300μL)で希釈した。2-(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸(diPPBS)(426μL、10mMの水溶液、32当量)を加え、得られた混合物を室温で16~24時間インキュベートした。過剰のdiPPBSを、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6を使用して、遠心濃縮器(Vivaspinフィルター、分子量カットオフ30kDa、PES)で除去した。
【0128】
得られた抗体溶液のpHを、TRIS(1Mの水溶液、pH8)を用いて約7.4に上昇させた。室温又は37℃で、DMA、続いてリンカー-薬物の溶液(10mMのDMA溶液)を加えた。最終的なDMAの濃度は5~10%であった。得られた混合物を、遮光下、室温又は37℃で1~16時間インキュベートした。過剰のリンカー-薬物を除去するために、活性炭を加え、混合物を室温で1時間インキュベートした。0.2μmのPESフィルターを使用して活性炭を除去し、得られたADCを、Vivaspin遠心濃縮器(分子量カットオフ30kDa、PES)を使用して、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6中で製剤化した。最後に、0.22μmのPESフィルターを用いてADC溶液を滅菌ろ過した。
【0129】
mAb3bの部位特異的結合プロトコル
mAb3bの溶液(100mMヒスチジン、pH5中の10~12mg/mL)に、diPPBS(10mMの水溶液、16~32当量)を加え、得られた混合物を室温で一晩インキュベートした。過剰のdiPPBSを、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6を使用して、Vivaspin遠心分離濃縮器(カットオフ分子量30kDa、PES)で除去した。DMAを加え、リンカー-薬物の溶液(10mMのDMA溶液)を加えた。最終的なDMAの濃度は10%であった。得られた混合物を、遮光下、室温で一晩インキュベートした。過剰のリンカー-薬物を除去するために活性炭を加え、混合物を室温で1時間インキュベートした。0.2μmのPESフィルターを使用して活性炭を除去し、得られたADCを、Vivaspin遠心分離濃縮器(カットオフ分子量30kDa、PES)を使用して、4.2mMのヒスチジン、50mMのトレハロース、pH6中で製剤化した。最後に、0.22μmのPESフィルターを用いてADC溶液を滅菌ろ過した。
【0130】
ADCのin vitro細胞毒性
図2において抗体mAb3b及び抗体薬物複合体ADC3bが示すように、c-Met発現MKN45細胞に対する結合親和性は、結合していない抗体及びADCで同等であった(2回の二重で行った実験の平均±標準誤差)。したがって、ADCの抗原結合特性は、結合しているデュオカルマイシン誘導体リンカー-薬物の影響を受けなかった。
【0131】
キメラ及びヒト化抗c-Met ADC(表6)のin vitro細胞毒性を、c-Metの発現がさまざまなレベルのヒト腫瘍細胞株で決定した。完全増殖培地中の細胞を、以下の細胞密度で、96ウェルプレートに播種(90又は80μL/ウェル)し、37℃、5%CO2でインキュベートした:ウェルあたり2500個のMKN-45細胞、1000個のPC-3細胞、2500個のNCI-H596細胞及び5000個のMDA-MB-175-VII細胞。一晩インキュベートした後、10μLのADC、又は10μLのADCと10μLのHGF(500ng/mL)を加えた。培地を使用してADCの段階希釈物を調製した。6日後に、CellTiter-Glo(登録商標)(CTG)発光アッセイキット(Promega Corporation, Madison, WI)を使用して、製造業者の指示に従い、細胞生存率を評価した。ADCそれぞれの濃度における発光の実測値を、未処理細胞(増殖培地のみ)の平均値で割り、100をかけることで、生存率を計算した。
【0132】
結果を表7に示す。予想されたように、結合していない対照ADC(リツキシマブ-vc-seco-DUBA)は、高濃度においてのみc-Met発現腫瘍細胞の増殖に影響を及ぼした。全ての抗c-Met ADCは、c-Met陰性ヒト腫瘍細胞株であるMDA-MB-175-VIIに対して不活性(IC50>10nM)であった。
【0133】
さまざまな細胞株で、HC-41Cヒト化抗c-Met ADCの効果に有意な差はなかった。HGF(50ng/mL)は、PC-3細胞に対する細胞毒性に影響を及ぼさなかった。HGFで刺激されたNCI-H596細胞における有効性は、HGFで刺激されていないNCI-H596細胞と同じレベルであった。50ng/mLのHGFで刺激されたNCI-H596細胞では、HGFを含まない細胞と比較して、増殖が誘導された。HGFは細胞毒性を誘導しなかった。
【0134】
【0135】
【0136】
別の実験で、ADC3bのin vitro細胞傷害性を、c-Metの発現がさまざまなレベルのヒト腫瘍細胞株で決定した。完全増殖培地中の細胞を、以下の細胞密度で、384ウェルプレートに播種(45μL/ウェル)し、37℃、5%CO2でインキュベートした:ウェルあたり650個のMKN-45細胞、600個のEBC-1細胞、250個のPC-3細胞、400個のKP-4細胞、2000個のNCI-H441細胞、2500個のHep-G2細胞、4000個のA2780細胞、1500個のHCC-1954細胞及び600個のJurkat NucLight Red細胞。一晩インキュベーションした後、5μLのADC3bを加えた。培地を使用してADCの段階希釈物を調製した。6日後に、蛍光ベースのPrestoBlue(登録商標)Cell Viability Reagent(Invitrogen, ThermoFisher Scientific, USA)及び蛍光ベースのCyQUANT(登録商標)Cell Proliferation Assay(Invitrogen, ThermoFisher Scientific, USA)を使用して、製造業者の指示に従い、細胞生存率を評価した。各ADCの濃度における発光の実測値を、未処理細胞(増殖培地のみ)の平均値で割り、100をかけることで、生存率を計算した。
【0137】
いずれの方法においても、ADC3bは、c-Met発現が高い、中程度及び低いヒト腫瘍細胞株において細胞傷害性を誘導することが示された(
図3は、CyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイの結果を示す)。細胞生存率を、
図3に、2回の三重で行った実験の平均±標準誤差として表す。結合していない対照では、細胞毒性は観察されなかった。c-Met陰性A2780細胞(細胞あたり約35個のcMet抗原結合部位)又はJurkat NucLight Red細胞(c-Met抗原結合部位なし)のADC3bでは、細胞毒性は観察されなかった。
【0138】
ADCのバイスタンダー細胞毒性
バイスタンダー細胞毒性を、c-Met陽性MKN45細胞と1:1で共培養したc-Met陰性Jurkat NucLight Red細胞で決定した。各細胞型(比1:1)の5000細胞/ウェルを、それぞれの培地に入れ、事前にポリ-L-オルニチン(0.1mg/mL、Sigma)で被覆した96ウェルプレートに加えた。37℃、5%CO2で一晩インキュベートした後、1μg/mLのADC3b又は結合していない対照ADC(リツキシマブ-vc-seco-DUBA)10μLを加えた。共培養したc-Met陰性Jurkat NucLight Red細胞の増殖の生細胞分析は、6日間、6時間ごとにIncuCyte(登録商標)S3機器でプレートを撮像し、1ウェルあたり4枚の画像について、10倍対物レンズで位相と蛍光をスキャンすることで評価した。
【0139】
ADC3bは、c-Metを発現しない隣接細胞でバイスタンダー殺傷効果を誘導できる(
図4)。
【0140】
雌ces1c KOマウスの胃MKN-45腫瘍皮下異種移植モデルにおけるin vivoキメラ抗体薬物複合体(ADC)の評価
キメラ抗c-Met ADCのin vivoでの有効性を、B6.Ces1ctm1.1 Loc.Foxn1nuマウスのMKN-45(胃腺癌)細胞株異種移植モデルで評価した。このマウスはCes1c遺伝子のエクソン5を欠き、酵素の機能が消失している。この細胞株ではMET遺伝子が増幅され;免疫組織化学染色により、細胞表面におけるc-Metの高発現が確認された。
【0141】
30G針付きシリンジを使用して、1:1のPBS:マトリゲル、200μL中の5×106個のMKN-45腫瘍細胞を、全てのマウスの左脇腹の皮下に注射することで、腫瘍を誘導した。動物の体重を週に3回測定した。原発腫瘍をキャリパーで測定し、腫瘍体積を式W2×L/2(L=腫瘍の長さ、W=腫瘍の垂直幅、L>W)で計算した。原発腫瘍が約100mm3に達した後、動物を、腫瘍体積に従い処置群全体で無作為化し、同日又は翌日に、10mg/kgのADC1(DAR1.5)、ADC2(DAR1.7)又はADC3(DAR1.1)を単回注射した。移植の当日又は翌日にマウスに投与した。
【0142】
図5に示すように、試験を行った3種全てのキメラADCの抗腫瘍活性は有意であった。
【0143】
雌ces1c KOマウスの胃MKN-45腫瘍皮下異種移植モデルにおけるin vivoヒト化抗体薬物複合体(ADC)の評価
ヒト化抗c-Met ADCのin vivoでの有効性を、B6.Ces1ctm1.1 Loc.Foxn1nuマウスのMKN-45(胃腺癌)細胞株異種移植モデルで、これまでに説明したプロトコルにより評価した。
【0144】
原発腫瘍が約100mm3に達した後、動物を、腫瘍体積に従い処置群全体で無作為化し、無作為化当日又は翌日に、ADC1に由来するADC1a、ADC2に由来するADC2a,ADC2b及びADC2c、並びに、ADC3に由来するADC3a,ADC3b,ADC3c,ADC3d及びADC3eを単回注射した。
【0145】
図6に示すように、ADC3で使用されたキメラmAbに由来するヒト化抗体を有するADCの抗腫瘍活性が、最も高かった。
【0146】
患者由来乳がん異種移植モデルMAXF574におけるヒト化抗体薬物複合体(ADC)の抗腫瘍有効性の評価
3種のヒト化抗c-Met ADC(ADC3a、ADC3b、ADC3c)のin vivoでの有効性を、B6-Ces1ctm1.1 Loc.CB17 Prkdcscidマウス系統における患者由来浸潤性乳管がんMAXF574の異種移植モデルで評価した。このマウスは、Ces1c遺伝子のエクソン5を欠き、酵素の機能が消失している。この腫瘍ではMET遺伝子は増幅されず;免疫組織化学的染色により、細胞表面におけるc-Metの中程度から高度の発現が確認された。
【0147】
腫瘍断片を、ヌードマウスで連続継代した異種移植片から得た。ドナーマウスから取り出した後、腫瘍を断片化(エッジ長3~4mm)し、10%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むPBSに入れた。レシピエント動物をイソフルランの吸入により麻酔し、側腹部の片側の皮下に腫瘍片を移植した。腫瘍の増殖を週に2回モニターした。腫瘍体積を、デジタルキャリパーによる二次元測定で求めた。腫瘍体積は、式(l×w
2)×0.5(l=腫瘍の長さ、w=腫瘍の幅(mm))で計算した。移植した腫瘍の体積が目標とする80~250mm
3に近づいたとき、群の腫瘍体積の中央値及び平均値が同等になるように、マウスを処置群全体で無作為化した。同日又は翌日に、3mg/kgのADC3a、ADC3b又はADC3cを、マウスに単回注射した。溶媒のみ及び結合していない対照ADCを含めた。
図7に示されるように、結合していない対照ADCは、ある程度の抗腫瘍活性を示し、これはバイスタンダー活性を示している。3種の抗c-Met ADCは、付加的な標的媒介抗腫瘍活性を示した。検討した3種のADCの中で、ADC3bの抗腫瘍活性が最も高かった。
【0148】
患者由来のがん(LXFL1176(肺)及びHNXF1905(頭頸部))異種移植モデルにおけるADC3bの用量応答実験
用量応答実験を、2種の患者由来異種移植モデル:1) リンパ節転移に由来する大細胞がんのLXFL1176、及び 2) 眼窩上領域に由来する原発性扁平上皮がんのHNXF1905、で行った。これまでに説明したプロトコルにより、腫瘍の外植片をB6-Ces1ctm1.1 Loc.CB17 Prkdcscidマウスに移植した。MET遺伝子は、いずれの腫瘍内でも増幅されていない;免疫組織化学染色により、LXFL1176モデルでは細胞表面におけるc-Metの高発現が確認され、HNXF1905モデルでは中等度の発現が確認された。
【0149】
無作為化の当日又は翌日に、マウスに、0.3、1、3又は10mg/kgのADC3bを単回注射した。溶媒のみ及び結合していないアイソタイプ対照ADCを含めた。結合していない対照ADCは、抗腫瘍活性をほとんど又は全く示さず、このことは、これらのモデルでは、バイスタンダー活性がほとんどないことを示している。いずれのモデルでも、用量依存的な抗腫瘍活性が実証された。頭頸部がんPDXモデルHNXF1905におけるADC3bの有効性を
図8Aに示し、肺がんPDXモデルLXFL1176における有効性を
図8Bに示す。
【0150】
カニクイザルにおけるin vivo毒性実験
ADC3bのin vivo毒性を、オス及びメスのカニクイザルで評価した。サル(1群につき雄5匹+雌5匹)にADC3bを投与(5、15又は25mg/kgを3週間に1回、静脈内注入)した。
【0151】
カニクイザルでの4サイクルの重要な毒性及びPK試験におけるADC3bの毒性プロファイルは、多くのさまざまな正常組織がc-Metを発現していることを考慮すると、著しく軽度であった。カニクイザル及びヒトc-MetへのADC3bの結合は、(これまでに示したように)同等である。これらの正常な組織ではc-Metリン酸化が観察されないので、これらの組織ではc-Metは活性化されないことに留意すべきである。c-Metは広範に発現しているにもかかわらず、ADC3bの忍容性は驚くべきものである。ADC3bの重篤な毒性が発現しない最大投与量(HNSTD)は、3週間に1回の15mg/kgと推定される。ADCの毒性効果の多くが標的を発現する(正常な)組織において観察される(Masson Hinrichs and Dixit, AAPS J. 2015, 17, 1055-1064)ことを考慮すると、c-Metを標的とするADCであるADC3bの忍容性が非常に優れていることは驚くべきことである。
【0152】
in vivo PKPD実験
腫瘍を有するCES1c KO SCIDマウスにおいて、抗c-Met ADCであるADC3bの薬物動態/薬力学実験を行った。このマウスは、Ces1c遺伝子のエクソン5を欠き、酵素の機能が消失している。更なる薬物動態データは、カニクイザルにおけるADC3bの毒性実験から得た。
【0153】
マウスにADC3bを投与(0.3、1、3又は10mg/kg、静脈内(i.v.)ボーラス注射)し、投与の1、48、168、336、504時間後に血漿を採取した。サルにADC3bを投与(5、15又は25mg/kg、静脈内注入)し、1、6、24、48、96、192、360、504時間で血漿を採取した。LC-MS/MSに基づくアッセイにより総抗体を定量し、リガンド結合アッセイにより結合した抗体を定量した。結合した抗体のアッセイは、少なくとも1つのリンカー-薬物を有するADCを捕捉する。表8、9(マウス)及び10(サル)に示す結果は、ADCが非常に安定であり、半減期が長く、ゆっくりと除去されることを示す。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【配列表】
【国際調査報告】