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特表2024-515272再生可能なカーボンブラック原料に基づくカーボンブラック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】再生可能なカーボンブラック原料に基づくカーボンブラック
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20240401BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20240401BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240401BHJP
   C09D 11/00 20140101ALN20240401BHJP
   C09D 201/00 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
C09C1/48
C09D11/324
C09D7/61
C09D11/00
C09D201/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562656
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2022058457
(87)【国際公開番号】W WO2022218710
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】EP21168081
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521399892
【氏名又は名称】オリオン エンジニアード カーボンズ アイピー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ポシュト パトリック
(72)【発明者】
【氏名】シンケル アルント ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェプリッヒ トーマス
(72)【発明者】
【氏名】タウバー ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイトマン ギード
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037BB01
4J037BB14
4J037BB15
4J037BB36
4J037BB37
4J037DD13
4J037EE25
4J037FF28
4J038HA026
4J038NA27
4J039AD00
4J039AE00
4J039BA04
(57)【要約】
本発明は、カーボンブラックおよびそのカーボンブラックの製造方法並びにそのカーボンブラックの使用に関する。本発明はさらに、そのカーボンブラックを含む組成物およびその組成物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能カーボンブラック原料を含むカーボンブラック原料から得られるカーボンブラックであって、ASTM D2414-19に従って測定して吸油量(OAN)が80mL/100g以下であるカーボンブラック。
【請求項2】
再生可能カーボンブラック原料が、植物ベースの原料、好ましくは非食用植物ベースの原料または廃棄植物ベースの原料を含み、および/または、カーボンブラック原料が、固体成分および/または液体成分、好ましくは液体成分を含む、請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
再生可能カーボンブラック原料が、木材、草、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、天然ゴムおよび/または再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材、黒液、トール油、ゴム種子油、タバコ種子油、ヒマシ油、ポンガミア油、クランベ油、ニーム油、杏仁油、米ぬか油、カシューナッツ殻油、シペルス・エスクレンタス油、調理油、バイオディーゼル植物からの蒸留残渣、またはそれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせ、好ましくはトール油、より好ましくはトール油ピッチを含む、請求項1または2に記載のカーボンブラック。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンブラックであって、次の特性の少なくとも1つ、好ましくは2以上または全てを有するカーボンブラック:
(a) ASTM D2414-19に従って測定された70mL/100g以下、好ましくは60mL/100g以下、特に好ましくは50mL/100g以下、より好ましくは45mL/100g以下、さらにより好ましくは40mL/100g以下、最も好ましくは37mL/100g以下の吸油量(OAN)、
(b) ASTM D6556-19aに従って測定された15~400m/g、好ましくは30~350m/g、さらに好ましくは40~300m/g、さらに好ましくは50~250m/g、さらに好ましくは60~200m/g、最も好ましくは65~180m/gの範囲のBET表面積、
(c) ASTM D6556-19aに従って測定された15~300m/g、好ましくは30~250m/g、より好ましくは50~200m/g、さらにより好ましくは60~180m/g、最も好ましくは65~150m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)、
(d) FDA法第63号(22 FDA PAH)に従って測定された10ppm未満、好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満、より好ましくは0.5ppm未満、さらにより好ましくは0.4ppm未満、最も好ましくは0.2ppm未満の多環芳香族炭化水素の含有量、
(e) 0.01%~0.20%、好ましくは0.02%~0.10%の範囲のトルエン可溶性成分の含有量、および
(f) ASTM D1619-20による0%~2.5%、好ましくは0%~2.0%、より好ましくは0~1.5%の範囲の硫黄含有量。
【請求項5】
反応器中でのカーボンブラック原料の熱酸化による熱分解または開裂を通して、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンブラックを製造する方法であって、O含有ガス流および可燃性材料を含む燃料流を反応器に供給すること、可燃性材料を燃焼ステップで燃焼させて燃焼ガス流を提供すること、反応ステップでカーボンブラック原料を燃焼ガス流と接触させてカーボンブラックを生成すること、および、カーボンブラック生成反応を停止ステップで停止させることを含む方法:
ここで、O含有ガス流および可燃性材料を含む燃料流は、0.5~1.0の範囲のkファクターに相当する量で上記燃焼ステップに提供され、kファクターは、燃焼ステップで提供された全Oに対する、全ての可燃性材料の燃焼ステップでの化学量論的燃焼に理論的に必要なOの比率である。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、kファクターが、0.6~1.0、好ましくは0.7~1.0、より好ましくは0.75~1.0、さらにより好ましくは0.8~1.0の範囲であり、アセチレン量が乾燥排ガス流の総量に基づいて0.8モル%未満に達したときに、カーボンブラック生成が停止される、方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法であって、反応が、反応器軸に沿って燃焼ゾーン、反応ゾーンおよび停止ゾーンを有するファーネスブラック反応器中で行われ、燃焼ゾーン内に燃焼ガス流を生成すること、燃焼ゾーンからの燃焼ガスを反応ゾーンを通して停止ゾーンに通過させること、カーボンブラック原料を反応ゾーン内の燃焼ガス中に注入してカーボンブラックを生成すること、ならびに、急冷によって温度を低下させることによっておよび/または急冷ボイラを使用することによって、停止ゾーン中でカーボンブラック生成を停止させることを含む、方法。
【請求項8】
補強用充填剤または添加剤、UV安定剤、導電性カーボンブラックまたは顔料としての請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンブラックの使用。
【請求項9】
ゴム、プラスチック、インク、例えば印刷インク、インクジェットインクまたは他のインク、トナー、ラッカー、コーティング、紙またはブラックマトリクス用途における、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンブラックの使用。
【請求項10】
少なくとも1種のゴム材料と、請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のカーボンブラックとを含む、ゴム組成物。
【請求項11】
少なくとも1種のプラスチック材料と、請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のカーボンブラックとを含むプラスチック組成物。
【請求項12】
液体キャリア材料と、請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のカーボンブラックとを含むインク組成物。
【請求項13】
印刷およびコーティング用途、好ましくは印刷媒体および包装、より好ましくは食品包装のための、請求項12に記載のインク組成物の使用。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のカーボンブラックを含むコーティング組成物。
【請求項15】
玩具および食品または皮膚と接触して使用することを意図した物品のための、請求項14に記載のコーティング組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックおよびそのカーボンブラックの製造方法並びにそのカーボンブラックの使用に関する。本発明はさらに、そのカーボンブラックを含む組成物およびその組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、その独特の特性のために、多くの用途、例えば、充填剤または顔料として使用される。しかしながら、カーボンブラックは、従来、石炭や原油などの化石原料を用いて製造されている。化石原料は限られており、速い速度で枯渇している。さらに、化石原料は、その抽出および輸送において高い環境影響があるため、主に環境に悪影響を及ぼす。例えば、油流出が過去に起こり、水域の汚染や、沖合に住む動物を含む水生動物の死亡につながっている。さらに、化石原料の燃焼、ひいては二酸化炭素の生成は、地球温暖化の主要な原因要素の1つであることが知られている。
【0003】
化石原料の使用に由来する不利益を回避することが望ましい。再生可能材料は、カーボンブラックの製造のための原料としてより環境に優しい。植物ベースの再生可能な原料などの再生可能原料の燃焼は、植物のライフサイクル中に植物によって吸収された二酸化炭素と同程度の量の二酸化炭素だけを大気中に放出するから、植物ベースの再生可能原料は、二酸化炭素ニュートラルである。再生可能原料の使用は、限られた化石資源の保全に寄与し、循環経済の実現のための機会を生み出す。
【0004】
加えて、様々な用途に応じて、再生可能原料から製造されるカーボンブラック材料は、既知のカーボンブラックに匹敵する特定の特性を示すことが望ましい。特定の用途、例えば、特に印刷またはコーティング用途に関して、低い吸油量(OAN)が望ましい。さらに、食品および飲料水用途など、食品または皮膚と接触することが意図される物品や玩具におけるカーボンブラックの使用に関して、多環芳香族炭化水素(PAH)は低濃度であり、かつトルエンおよび硫黄の抽出可能含量は低レベルであることが望ましい。
【0005】
欧州委員会規則第10/2011号、欧州委員会規則第1272/2013、スイス条例817.023.21、1995年11月7日のフランスAVIS会議、またはドイツインク条例によれば、食品包装におけるカーボンブラックの使用には、多環芳香族炭化水素(PAH)は低濃度であり、かつトルエンおよびシクロヘキサンの抽出可能含量は低レベルである必要がある。特にPAHは有害な化合物と考えられている(Sudip K.Samanta、Om V.SinghおよびRakesh K.Jain、「多環芳香族炭化水素:環境汚染およびバイオレメディエーション」、Trends in Biotechnology、Vol.20、No.6、2002、pp.243-248)。
【0006】
包装廃棄物が増加する問題を考慮すると、例えば、食品包装などの包装用途およびコーティング用途に使用されるカーボンブラックは、肥料化および生分解によるリサイクル可能な包装のためのDIN EN 13432に準拠することも望ましい。
【0007】
したがって、本発明の目的は、環境に優しく、既知の確立されたカーボンブラックに匹敵する特性を有するカーボンブラックを提供することである。さらに、本発明の目的は、低い吸油量(OAN)を有するカーボンブラックを提供することであり、これは、印刷またはコーティング用途における用途に特に適している。さらに、本発明の目的は、多環芳香族炭化水素(PAH)が低濃度でありかつトルエンおよび硫黄の抽出可能な含量が低レベルであるカーボンブラックを提供することであり、これは、玩具や、食品または皮膚と接触することを意図した物品におけるカーボンブラック材料の使用に必要なものである。
【発明の概要】
【0008】
驚くべきことに、独立請求項1に開示されるようなカーボンブラックによって目的を解決できることが示された。本発明のガスブラックの特定のまたは好ましい変形は、従属請求項に記載される。
【0009】
以下の項は、本発明のいくつかの態様を要約する。
【0010】
本発明の第1の態様は、再生可能カーボンブラック原料を含むカーボンブラック原料から得られるカーボンブラックであって、ASTM D2414-19に従って測定して吸油量(OAN)が80mL/100g以下であるカーボンブラックに関する。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様によるカーボンブラックであって、再生可能カーボン原料が、植物ベース原料、好ましくは非食用植物ベース原料または廃棄植物ベース原料を含む、カーボンブラックに関する。
【0012】
本発明の第3の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、再生可能カーボンブラック原料が、固体成分および/または液体成分、好ましくは液体成分を含む、カーボンブラックに関する。
【0013】
本発明の第4の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、再生可能カーボンブラック原料が、木材、草、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、天然ゴムおよび/または再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材、黒液、トール油、ゴム種子油、タバコ種子油、ヒマシ油、ポンガミア油、クランベ油、ニーム油、杏仁油、米ぬか油、カシューナッツ殻油、シペルス・エスクレンタス油、調理油、バイオディーゼル植物からの蒸留残渣、またはそれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせを含む、カーボンブラックに関する。
【0014】
本発明の第5の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、再生可能カーボンブラック原料が、トール油、好ましくはトール油ピッチを含む、カーボンブラックに関する。
【0015】
本発明の第6の態様は、第4の態様によるカーボンブラックであって、上記調理油が、米ぬか油、菜種油、アマニ油、パーム油、ココナッツ油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、綿種子油、パイン種子油、オリーブ油、コーン油、グレープ種子油、サフラワー油、アサイーパーム油、ジャンブー油、ゴマ油、チア種子油、大麻油、エゴマ油、ピーナッツ油、スティリンジア油、カシューナッツ油、ブラジルナッツ油、マカダミアナッツ油、クルミ油、アーモンド油、ヘーゼルナッツ油、ビーチナッツ油、キャンドルナッツ油、チェスナッツ油、またはこれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせを含み、上記調理油が好ましくは使用済み調理油である、カーボンブラックに関する。
【0016】
本発明の第7の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラック原料が、カーボンブラック原料の総重量に基づいて、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは25重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上、最も好ましくは99重量%以上の量で再生可能カーボンブラック原料を含む、カーボンブラックに関する。
【0017】
本発明の第8の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラック原料が再生可能カーボンブラック原料からなる、カーボンブラックに関する。
【0018】
本発明の第9の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D6866-20のB法(AMS)に従って測定して、5%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上のpMC(現代炭素含有率)を有するカーボンブラックに関する。
【0019】
本発明の第10の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D6866-20のB法(AMS)に従って測定して100%のpMC(現代炭素含有率)を有するカーボンブラックに関する。
【0020】
本発明の第11の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D2414-19に従って測定して、70mL/100g以下、好ましくは60mL/100g以下、さらに好ましくは50mL/100g以下、より好ましくは45mL/100g以下、さらにより好ましくは40mL/100g以下、最も好ましくは37mL/100g以下の吸油量(OAN)を有するカーボンブラックに関する。
【0021】
本発明の第12の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D2414-19に従って測定して、19~80mL/100g、好ましくは19~70mL/100g、さらに好ましくは23~60mL/100g、より好ましくは23~50mL/100g、さらにより好ましくは25~40mL/100g、最も好ましくは25~37mL/100gの範囲の吸油量(OAN)を有するカーボンブラックに関する。
【0022】
本発明の第13の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D6556-19aに従って測定して、15~400m/g、好ましくは30~350m/g、さらに好ましくは40~300m/g、さらに好ましくは50~250m/g、さらにより好ましくは60~200m/g、最も好ましくは65~180m/gの範囲のBET表面積を有するカーボンブラックに関する。
【0023】
本発明の第14の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D6556-19aに従って測定して、15~300m/g、好ましくは30~250m/g、より好ましくは50~200m/g、さらにより好ましくは60~180m/g、最も好ましくは65~150m/gの範囲の統計的厚さ表面積(STSA)を有するカーボンブラックに関する。
【0024】
本発明の第15の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D3265-19bに従って測定して、20~200%、好ましくは60~150%、より好ましくは80~120%、さらにより好ましくは90~110%の範囲の色強度(tint strength)を有するカーボンブラックに関する。
【0025】
本発明の第16の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ASTM D1618-18に従って測定して、50~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは95~100%の範囲の425nmにおける透過率値を有するカーボンブラックに関する。
【0026】
本発明の第17の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラック中の多環芳香族炭化水素の含有量が、FDA法第63号(22 FDA PAH)に従って測定して、10ppm未満、好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満、より好ましくは0.5ppm未満、さらにより好ましくは0.4ppm未満、最も好ましくは0.2ppm未満である、カーボンブラックに関する。
【0027】
本発明の第18の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラック中の多環芳香族炭化水素の含有量が、FDA法第63号(22 FDA PAH)に従って測定して、0.001~10ppm、好ましくは0.001~5ppm、特に好ましくは0.001~1pm、より好ましくは0.001~0.5ppm、さらにより好ましくは0.001~0.4ppm、最も好ましくは0.001~0.2ppmの範囲である、カーボンブラックに関する。
【0028】
本発明の第19の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラック中のトルエン可溶性成分の含有量が、0.01%~0.20%、好ましくは0.02%~0.10%の範囲である、カーボンブラックに関する。
【0029】
本発明の第20の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラック中の硫黄含有量が、ASTM D1619-20に従って測定して、0~2.5%、好ましくは0~2.0%、より好ましくは0~1.5%の範囲である、カーボンブラックに関する。
【0030】
本発明の第21の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、プラズマブラック、ガスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラックまたはファーネスブラックであるカーボンブラックに関する。
【0031】
本発明の第22の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、ファーネスブラックであるカーボンブラックに関する。
【0032】
本発明の第23の態様は、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックであって、カーボンブラックが酸化および/または官能化されている、カーボンブラックに関する。
【0033】
本発明の第24の態様は、反応器中でのカーボンブラック原料の熱酸化による熱分解または開裂を通して、前述の態様のいずれか1つによるカーボンブラックを製造する方法に関するものであり、この方法は、O含有ガス流および可燃性材料を含む燃料流を反応器に供給すること、可燃性材料を燃焼ステップで燃焼させて燃焼ガス流を提供すること、反応ステップでカーボンブラック原料を燃焼ガス流と接触させてカーボンブラックを生成すること、および、カーボンブラック生成反応を停止ステップで停止させることを含み、ここで、O含有ガス流および可燃性材料を含む燃料流は、0.5~1.0の範囲のkファクターに相当する量で上記燃焼ステップに提供され、kファクターは、燃焼ステップで提供された全Oに対する、全ての可燃性材料の燃焼ステップでの化学量論的燃焼に理論的に必要なOの比率である。
【0034】
本発明の第25の態様は、第24の態様による方法であって、kファクターが、0.6~1.0、好ましくは0.7~1.0、より好ましくは0.75~1.0、さらにより好ましくは0.8~1.0の範囲である、方法に関する。
【0035】
本発明の第26の態様は、第24または第25の態様による方法であって、再生可能カーボンブラック原料が、第2~第8の態様のいずれか1つに記載された通りのものである、方法に関する。
【0036】
本発明の第27の態様は、第24~第26の態様のいずれか1つによる方法であって、アセチレン量が、全乾燥排ガス流に基づいて0.8モル%未満、好ましくは0.6モル%未満、より好ましくは0.5モル%未満、さらにより好ましくは0.2モル%未満に達したときに、カーボンブラック生成を停止する、方法に関する。
【0037】
本発明の第28の態様は、第24~第27の態様のいずれか1つによる方法であって、反応が、反応器軸に沿って燃焼ゾーン、反応ゾーンおよび停止ゾーンを有するファーネスブラック反応器中で行われ、燃焼ゾーン内に燃焼ガス流を生成すること、燃焼ゾーンからの燃焼ガスを反応ゾーンを通して停止ゾーンに通過させること、カーボンブラック原料を反応ゾーン内の燃焼ガス中に注入してカーボンブラックを生成すること、ならびに、急冷によって温度を低下させることによっておよび/または急冷ボイラを使用することによって、停止ゾーン中でカーボンブラック生成を停止させることを含む、方法に関する。
【0038】
本発明の第29の態様は、第1~第23の態様のいずれか1つによるカーボンブラックの使用であって、補強用充填剤または添加剤、UV安定剤、導電性カーボンブラックまたは顔料としての使用に関する。
【0039】
本発明の第30の態様は、第1~第23の態様のいずれか1つによるカーボンブラックの使用であって、ゴム、プラスチック、インク、例えば印刷インク、インクジェットインクまたは他のインク、トナー、ラッカー、コーティング、紙またはブラックマトリクス用途における使用に関する。
【0040】
本発明の第31の態様は、少なくとも1種のゴム材料と、第1~第23の態様のいずれか1つによる少なくとも1種のカーボンブラックとを含むゴム組成物に関する。
【0041】
本発明の第32の態様は、第31の態様によるゴム組成物であって、少なくとも1種のゴム材料が、天然ゴム、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム(ESBR)、溶液-スチレン-ブタジエンゴム(SSBR)などのスチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、アクリレートゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エチレン-アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロカーボンゴム、またはそれらの混合物もしくは組み合わせを含む、ゴム組成物に関する。
【0042】
第33の態様は、第31または第32の態様によるゴム組成物であって、カーボンブラックが下記特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する、ゴム組成物に関する:(a) ASTM D6556-19aに従って測定して15~200m/gの範囲のSTSA;(b) ASTM 1618-18に従って測定して80~100%の範囲の425nmでの透過率値。
【0043】
本発明の第34の態様は、少なくとも1種のプラスチック材料と、第1~第23の態様のいずれか1つによる少なくとも1種のカーボンブラックとを含むプラスチック組成物に関する。
【0044】
本発明の第35の態様は、第34の態様によるプラスチック組成物であって、少なくとも1種のプラスチック材料が、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、熱可塑性エラストマー、好ましくは低密度および高密度ポリエチレンおよびポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、メラミンホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリフェニレンオキシド、ポリシロキサン、ポリアクリロアミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、アクリロニトリルスチレンアクリレートまたはアクリロニトリルブタジエンスチレンポリマー、ならびにそれらのいずれかの混合物またはコポリマーを含む、プラスチック組成物に関する。
【0045】
第36の態様は、第34または第35の態様によるプラスチック組成物であって、カーボンブラックが下記特性の少なくとも1つ、好ましくは2つ以上または全てを有する、プラスチック組成物に関する:(a) ASTM D2414-19に従って測定された、45~80mL/100g、好ましくは50~70mL/100gの範囲のOAN;(b) ASTM D6556-19aに従って測定された、15~200m/gの範囲のSTSA;(c) ASTM D1618-18に従って測定された、20~160%、好ましくは20~150%の範囲の色強度;(d) 0.1%未満のトルエン可溶性成分の含有量。
【0046】
本発明の第37の態様は、液体キャリア材料と、第1~第23の態様のいずれか1つによる少なくとも1種のカーボンブラックとを含むインク組成物に関する。
【0047】
第38の態様は、第37の態様によるインク組成物であって、カーボンブラックが下記特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する、インク組成物に関する:(a) ASTM D2414-19に従って測定された、19~50mL/100g、好ましくは23~45mL/100g、より好ましくは25~40mL/100gの範囲のOAN;(b) ASTM D6556-19aに従って測定された、60~150m/gの範囲のSTSA。
【0048】
本発明の第39の態様は、印刷およびコーティング用途、好ましくは印刷媒体および包装、より好ましくは食品包装のための、第37または第38の態様によるインク組成物の使用に関する。
【0049】
本発明の第40の態様は、第1~第23の態様のいずれかによる少なくとも1種のカーボンブラックを含むブラックマトリクス組成物に関する。
【0050】
第41の態様は、第40の態様によるブラックマトリクス組成物であって、カーボンブラックが下記特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する、ブラックマトリクス組成物に関する:(a) ASTM D2414-19に従って測定された37mL/100g未満のOAN;(b) ASTM D6556-19aに従って測定された60~150m/gの範囲のSTSA。
【0051】
本発明の第42の態様は、カーボンブラックが酸化および/または官能化されている、第40または第41の態様によるブラックマトリクス組成物に関する。
【0052】
本発明の第43の態様は、第1~第23の態様のいずれか1つによる少なくとも1種のカーボンブラックを含むコーティング組成物に関する。
【0053】
第44の態様は、第43の態様によるコーティング組成物であって、カーボンブラックが下記特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する、コーティング組成物に関する:(a) ASTM D2414-19に従って測定された19~50mL/100g、好ましくは23~45mL/100g、より好ましくは25~40mL/100gの範囲のOAN;(b) ASTM D6556-19aに従って測定された60~150m/gの範囲のSTSA。
【0054】
本発明の第45の態様は、玩具および食品または皮膚と接触して使用することを意図した物品のための、第43または第44の態様によるコーティング組成物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明は、再生可能カーボンブラック原料を含むカーボンブラック原料から得られたカーボンブラックであって、80mL/100g以下の吸油量(OAN)を有するカーボンブラックに関する。吸油量は、ASTM D2414-19に従って測定される。
【0056】
本明細書で使用するとき、用語「カーボンブラック」は、カーボン原料の熱酸化による熱分解または開裂によって生成されるカーボンであって、その総重量に基づいて、実質的に例えば80重量%超、90重量%超、95重量%超のカーボンで構成される材料に関する。ファーネスプロセス、ガスブラックプロセス、アセチレンブラックプロセス、サーマルブラックプロセスまたはランプブラックプロセスなど、カーボンブラックを製造するための種々の工業的方法が知られる。カーボンブラックの製造はそれ自体、当該技術分野において周知であり、例えばJ.-B.ドネット他、「カーボンブラック:サイエンス・アンド・テクノロジー」、第2版に概説されており、以下でさらに説明する。
【0057】
本発明によれば、再生可能カーボンブラック原料は、植物ベースの原料、好ましくは非食用植物ベースの原料および/または廃棄植物ベースの原料を含むことができる。本明細書で使用される場合、用語「非食用」は、ヒトの消費に適した材料を指す。用語「廃棄」は、例えば使用後に、不適切としてまたは意図された目的のためにもはや有用ではないとして、廃棄されまたは処分される材料を指す。食用油、すなわち調理油に関しては、使用済みの調理油が廃棄物と考えられる。
【0058】
再生可能カーボンブラック原料は、固体成分および/または液体成分を含んでもよい。好ましくは、再生可能カーボンブラック原料は液体成分を含むことができる。
【0059】
再生可能カーボンブラック原料は、好ましくは植物ベースの油、より好ましくは非食用植物ベースの油および/または廃棄植物ベースの油を含み得る。
【0060】
本発明による再生可能カーボンブラック原料は、木材、草、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、天然ゴムおよび/または再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材、黒液、トール油、ゴム種子油、タバコ種子油、ヒマシ油、ポンガミア油、クランベ油、ニーム油、杏仁油、米ぬか油、カシューナッツ殻油、シペルス・エスクレンタス油、調理油、バイオディーゼル植物からの蒸留残渣、またはそれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせを含んでもよい。
【0061】
本明細書で使用するとき、用語「木材」は、樹木および他の木本植物の茎および根に見られる多孔性および繊維状構造組織を指す。木材の適切な例としては、松、トウヒ、カラマツ、ジュニパー、トネリコ、シデ、カバノキ、ハンノキ、ブナ、オーク、ピン、トチノキ、クワ、またはそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。草の適切な例としては、トウモロコシ、コムギ、イネ、オオムギまたはキビなどの穀物草;自然草地の竹や草、ならびに芝地や牧草地で栽培されている種が挙げられるが、これらに限定されない。リグニンの適切な例としては、クラフト法によって除去されたリグニンおよびリグノスルホネートが挙げられるが、これらに限定されない。天然ゴムおよび/または再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材は、タイヤ、ケーブルシース、チューブ、コンベヤベルト、靴底、ホースまたはそれらの混合物であってもよい。天然ゴムは、ゴムの樹(ヘルビア・ブラジリエンシス(Helvea brasiliensis))、グアユール(guayule)、およびダンデライオン(dandelion)に由来し得る。合成ゴムとしては、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム(ESBR)、溶液-スチレン-ブタジエンゴム(SSBR)などのスチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、アクリレートゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エチレン-アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロカーボンゴム、またはそれらの混合物もしくは組み合わせが挙げられる。ポリブタジエンなどの合成ゴムは、植物バイオマスの醗酵によって得られるアルコールから製造することができる。発酵によって得られるアルコールの適切な調製、およびそのようなアルコールからのポリブタジエンの調製は、欧州特許出願公開第2868697号明細書A1に記載されている。
【0062】
本明細書で使用するとき、用語「調理油」は、フライ、ベーキング、および他の種類の調理などの食品調理に使用される食用油を指す。本発明によれば、調理油は、米ぬか油、菜種油、アマニ油、パーム油、ココナッツ油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、綿種子油、パイン種子油、オリーブ油、コーン油、グレープ種子油、サフラワー油、アサイーパーム油、ジャンブー油、ゴマ油、チア種子油、大麻油、エゴマ油、ピーナッツ油、スティリンジア油、カシューナッツ油、ブラジルナッツ油、マカダミアナッツ油、クルミ油、アーモンド油、ヘーゼルナッツ油、ビーチナッツ油、キャンドルナッツ油、チェスナッツ油、またはこれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせを含み得る。本発明の調理油は、使用済み調理油でもよい。本明細書で使用するとき、用語「使用済み調理油」は、調理またはフライなどの食品調理に使用された、レストランなどの商業的または工業的な食品加工作業に由来する油を指す。
【0063】
固体成分は、これらに限定されないが、木材、草、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、天然ゴムおよび/または再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材、またはそれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせから選択され得る。
【0064】
液体成分は、黒液、トール油、ゴム種子油、タバコ種子油、ヒマシ油、ポンガミア油、クランベ油、ニーム油、杏仁油、米ぬか油、カシューナッツ殻油、シペルス・エスクレンタス油、調理油、バイオディーゼル植物からの蒸留残渣、または上記のいずれかの混合物もしくは組合せから選択され得るが、これらに限定されない。いくつかの油は、室温、例えば、25℃の温度で固体であり得るが、高温、例えば25℃を超える温度、例えば25~100℃の範囲の温度で液体であり得る。本明細書で使用するとき、用語「黒液」は、セルロースパルプを製造する硫酸塩およびソーダ方法に由来するクラフト方法からの副生成物を指す。
【0065】
非食用植物ベースの原料は、これらに限定されないが、木材、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、黒液、トール油、ゴム種子油、タバコ種子油、ヒマシ油、ポンガミア油、クランベ油、ニーム油、杏仁油、米ぬか油、カシューナッツ殻油、シペルス・エスクレンタス油、バイオディーゼル植物からの蒸留残渣、天然ゴムおよび/もしくは再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材、またはそれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせを含み得る。
【0066】
廃棄植物ベースの原料は、これらに限定されないが、天然ゴムおよび/または再生可能原料から得られた合成ゴムを含む廃材、使用済み調理油、またはそれらのいずれかの混合物もしくは組み合わせを含み得る。
【0067】
本発明によれば、カーボンブラック原料は、トール油を含むことができる。用語「トール油」および「未精製トール油」は特に明記しない限り、本明細書全体を通して互換的に使用され得る。トール油は、木材の化学パルプ化に由来する。典型的には、トール油は、樹脂酸、脂肪酸、ステロール、アルコールおよびさらなるアルキル炭化水素誘導体を含む混合物である。トール油は、天然未精製品または精製品であってもよい。精製トール油は、トール油脂肪酸、トール油脂肪ロジン、蒸留トール油およびトール油ピッチを含み得る。トール油を蒸留して、10重量%を超える樹脂酸含有量を含有するトール油樹脂酸を得ることができる。トール油はまた、トール油脂肪酸に精製されてもよく、ここで、樹脂酸含量は、典型的には10重量%未満である。トール油の適切な例としては、SYLFAT(登録商標)製品 SYLVATAL(登録商標)製品、SYLVABLEND(登録商標)製品およびSYLVAROS(登録商標)製品(全てクレイトン社(米国)から入手可能)、ならびに未精製トール油およびTall Oil 1などのトール油製品(UCYエナジー(ドイツ)から入手可能)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明によれば、カーボンブラック原料は、特にトール油ピッチを含むことができる。トール油ピッチは、トール油の蒸留による精製から不揮発性残渣として得られ、トール油精製のフォアラン(fore-runs)と混合され得る。精製プロセスにおけるトール油ピッチの収率は、例えばトール油の品質および組成に応じて、約15~50重量%の範囲であり得る。トール油ピッチは、典型的には中性物質、樹脂酸および脂肪酸を含む遊離酸、脂肪酸エステル、結合および遊離ステロール、ならびにポリマー化合物を含む。さらに、トール油ピッチには、金属、金属カチオン、ならびに金属レジネートおよび脂肪酸塩を含む無機有機化合物を見出すことができる。金属カチオンは、典型的には木材および肥料に由来する。トール油ピッチの好適な実例としてはこれらに限定されないが、SYLVABLEND(登録商標)製品、例えば、SYLVABLEND FA7002、SYLVABLEND PF40、SYLVABLEND PF60およびSYLVABLEND SF75(全てクレイトン社(米国)から入手可能)、並びにTall Oil1、UCY-TOF40およびUCY-TOF60(全てUCYエナジー(ドイツ)から入手可能)が挙げられる。
【0069】
本発明によれば、カーボンブラック原料は、再生可能カーボンブラック原料と従来のカーボンブラック原料との混合物であり得る。従来のカーボンブラック原料は、脂肪族または芳香族、飽和または不飽和炭化水素またはそれらの混合物、コールタール蒸留物、石油留分の接触分解中に生成される残留油、ナフタまたはガス油の分解を介してオレフィン生成中に生成される残留油、天然ガス、またはそれらの混合物もしくは組合せであってもよい。
【0070】
本発明のカーボンブラック原料は、カーボンブラック原料の総重量に基づいて、10重量%以上の量で再生可能カーボンブラック原料を含み得る。例えば、本発明によるカーボンブラック原料は、カーボンブラック原料の総重量に基づいて、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、または95重量%以上の量で再生可能カーボンブラック原料を含むことができる。カーボンブラック原料は、カーボンブラック原料の総重量に基づいて、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは25重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上、最も好ましくは99重量%以上の量で再生可能カーボンブラック原料を含むことができる。カーボンブラック原料は、再生可能カーボンブラック原料からなることができる。
【0071】
本発明のカーボンブラック原料は、カーボンブラック原料の総重量に基づいて、5重量%以上、例えば10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、または95重量%以上の量でトール油ピッチを含むことができる。カーボンブラック原料は、カーボンブラック原料の総重量に基づいて、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは25重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上、最も好ましくは95重量%以上の量でトール油ピッチを含むことができる。カーボンブラック原料は、トール油ピッチからなることができる。
【0072】
本発明の再生可能カーボンブラック原料は、再生可能カーボンブラック原料の総重量に基づいて、5重量%以上、例えば10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、または95重量%以上の量でトール油ピッチを含むことができる。再生可能カーボンブラック原料は、再生可能カーボンブラック原料の総重量に基づいて、10重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは25重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上、最も好ましくは95重量%以上の量でトール油ピッチを含むことができる。再生可能カーボンブラック原料は、トール油ピッチからなることができる。
【0073】
本発明のカーボンブラックは、ASTM D6866-20のB法(AMS)に従って測定して、1%以上、例えば2%以上、5%以上、7%以上、10%以上、12%以上、15%以上、17%以上、20%以上、22%以上、25%以上、27%以上、30%以上、32%以上、35%以上、37%以上、40%以上、42%以上、45%以上、47%以上、50%以上、52%以上、55%以上、57%以上、60%以上、62%以上、65%以上、67%以上、70%以上、72%以上、75%以上、77%以上、80%以上、82%以上、85%以上、87%以上、90%以上、92%以上、95%以上、97%以上、または99%以上のpMC(現代炭素含有率)を有することができる。それぞれの試料について、14C/13Cの比率を計算し、シュウ酸II標準(NIST-4990C)で行った測定値と比較する。測定値(pMC)は、同位体比質量分析計(IRMS)を用いて測定したd13Cによって補正する。本発明のカーボンブラックは、ASTM D6866-20のB法(AMS)に従って測定して、好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上のpMC(現代炭素含有率)を有することができる。本発明のカーボンブラックは、ASTM D6866-20のB法(AMS)に従って測定して100%のpMC(現代炭素含有率)を有することができる。
【0074】
本発明によれば、カーボンブラックは、プラズマブラック、ガスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラックまたはファーネスブラック、好ましくはファーネスブラックであることができる。
【0075】
本発明によれば、カーボンブラックは、ASTM D2414-19に従って測定して、80mL/100g以下の吸油量(OAN)を有する。例えば、カーボンブラックは、ASTM D2414-19に従って測定して、70mL/100g以下、例えば60mL/100g以下、50mL/100g以下、45mL/100g以下、40mL/100g以下、または37mL/100g以下のOANを有することができる。カーボンブラックは、ASTM D2414-19に従って測定して、19mL/100g以上、例えば23mL/100g以上、または25mL/100g以上のOANを有することができる。本発明によるカーボンブラックは、列挙された下限値および上限値のいずれかの間の範囲のOANを有することができる。本発明によるカーボンブラックは、ASTM D2414-19に従って測定して、19~80mL/100g、好ましくは19~70mL/100g、特に好ましくは23~60mL/100g、より好ましくは23~50mL/100g、さらにより好ましくは25~40mL/100g、最も好ましくは25~37mL/100gの範囲のOANを有することができる。
【0076】
本発明によるカーボンブラックは、以下により具体的に記載されるBET表面積、統計的厚さ表面積(STSA)、色強度、425nmにおける透過率値、多環式芳香族炭化水素の含有量、トルエン可溶性成分の含有量および/または硫黄含有量によってさらに特徴付けることができる。本発明のカーボンブラックは、BET表面積、統計的厚さ表面積(STSA)、色強度、425nmにおける透過率値、多環芳香族炭化水素の含有量、トルエン可溶性成分の含有量および硫黄含有量に関する下記特性の少なくとも1つ、好ましくは2つ以上または全てを有することができる。
【0077】
本発明のカーボンブラックは、15m/g以上、例えば20m/g以上、25m/g以上、30m/g以上、40m/g以上、50m/g以上、60m/g以上、または65m/g以上のBET表面積を有することができる。本発明のカーボンブラックは、400m/g以下、例えば350m/g以下、300m/g以下、250m/g以下、200m/g以下、または180m/g以下のBET表面積を有することができる。本発明によるカーボンブラックは、列挙された下限値および上限値のいずれかの間の範囲のBET表面積を有することができる。本発明のカーボンブラックのBET表面積は例えば、15~400m/g、好ましくは30~350m/g、特に好ましくは40~300m/g、より好ましくは50~250m/g、さらにより好ましくは60~200m/g、最も好ましくは65~180m/gであり得る。BET表面積は、ASTM D6556-19aに従って測定することができる。
【0078】
本発明によるカーボンブラックは、15m/g以上、例えば20m/g以上、25m/g以上、30m/g以上、40m/g以上、50m/g以上、60m/g以上、または65m/g以上の統計的厚さ表面積(STSA)を有することができる。本発明によるカーボンブラックは、300m/g以下、例えば250m/g以下、220m/g以下、200m/g以下、180m/g以下、または150m/g以下のSTSAを有することができる。本発明によるカーボンブラックは、列挙された下限値および上限値のいずれかの間の範囲のSTSAを有することができる。本発明のカーボンブラックは、15~300m/g、好ましくは30~250m/g、より好ましくは50~200m/g、さらにより好ましくは60~180m/g、最も好ましくは65~150m/gの範囲のSTSAを有することができる。統計的厚さ表面積(STSA)は、ASTM D6556-19aに従って測定することができる。
【0079】
本発明によるカーボンブラックは、20%以上、例えば30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上の色強度を有することができる。本発明によるカーボンブラックは、200%以下、例えば180%以下、150%以下、120%以下、または110%以下の色強度を有することができる。本発明によるカーボンブラックは、列挙された下限値および上限値のいずれかの間の範囲の色強度を有することができる。本発明のカーボンブラックは、20~200%、好ましくは60~150%、より好ましくは80~120%、さらにより好ましくは90~110%の範囲の色強度を有することができる。色強度は、ASTM D3265-19bに従って測定することができる。
【0080】
本発明によるカーボンブラックは、50%以上、例えば70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の425nmにおける透過率値を有することができる。本発明のカーボンブラックは、100%以下の425nmにおける透過率値を有することができる。本発明によるカーボンブラックは、列挙された下限値および上限値のいずれかの間の範囲において、425nmにおける透過率値を有することができる。本発明のカーボンブラックは、50~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%、さらにより好ましくは90~100%、最も好ましくは95~100%の範囲の425nmにおける透過率値を有することができる。425nmにおける透過率値は、ASTM D1618-18に従って測定することができる。
【0081】
本発明によるカーボンブラック中の多環芳香族炭化水素の含有量は、10ppm未満、好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満、より好ましくは0.5ppm未満、さらにより好ましくは0.4ppm未満、最も好ましくは0.2ppm未満であり得る。本発明のカーボンブラック中の多環芳香族炭化水素の含有量は、0.001~10ppm、好ましくは0.001~5ppm、特に好ましくは0.001~1pm、より好ましくは0.001~0.5ppm、さらにより好ましくは0.001~0.4ppm、最も好ましくは0.001~0.2ppmの範囲であり得る。多環芳香族炭化水素の含有量は、FDA法第63号(22 FDA PAH)に従って測定することができる。22PAH法の多環芳香族炭化水素の含有量は、ナフタレン、アセナフタレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、ベンゾ(ghi)フルオランテン、シクロペンタ(cd)ピレン、クリセン、ベンゾ(e)ピレン、ペリレン、ベンゾ(ghi)ペリレン、アンタントレン、コロネン、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(k)フルオランテン、ジベンゾ(ah)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン、インデノ(1,2,3-cd)ピレン、ベンゾ(b)フルオランテン、およびベンゾ(j)フルオランテンを含む化合物の合計から計算され、ここで、ベンゾ(b)フルオランテンおよびベンゾ(j)フルオランテンは1つとしてカウントされる。FDA法第63号(22 FDA PAH)は、Soxleth装置によりカーボンブラックを抽出し、ガスクロマトグラフィーによる検出を行い、前述の22PAHを考慮して算出することを含む(「カーボンブラックのPAH含量の測定」、キャボット社、整理番号95F-01631、1994年7月8日、アメリカ食品医薬品局(FDA)制定、連邦規則、Title21、Vol.3、Part170-199;ポリマー用着色剤、高純度ファーネスブラック、372-376ページ;CITE21CFR178.3297)。
【0082】
本発明によるカーボンブラック中のトルエン可溶性成分の含有量は、0.20%以下、例えば0.15%以下、または0.10%以下であり得る。本発明によるカーボンブラック中のトルエン可溶性成分の含有量は、0.01%以上、例えば0.02%以上であり得る。本発明によるカーボンブラック中のトルエン可溶性成分の含有量は、列挙された下限値および上限値のいずれかの間の範囲内であることができる。本発明のカーボンブラック中のトルエン可溶性成分の含有量は、0.01%~0.20%、好ましくは0.02%~0.10%の範囲であり得る。トルエン可溶性成分の含有量は、ASTM D4527-04に記載の手順に従って測定することができる。ただし、ASTM D4527-04に記載された条件から外れて、抽出時間は8時間およびサイクル時間は6~7分を適用する。さらに、試料を大気圧(1.013×10Pa)の下、70℃で12時間乾燥する。
【0083】
本発明によるカーボンブラック中の硫黄含有量は、2.5%以下、例えば2.0%以下、または1.5%以下であり得る。本発明のカーボンブラック中の硫黄含有量は、0%~2.5%、好ましくは0%~2.0%、より好ましくは0%~1.5%の範囲であり得る。硫黄含有量は、ASTM D1619-20に従って測定することができる。
【0084】
本発明によれば、カーボンブラックを酸化することができる。本明細書において、「酸化」という語は、カーボンブラックが、酸化処理を受けており、これにより酸素含有官能基を含むことを意味する。したがって、酸化カーボンブラックは、非酸化カーボンブラックとは異なり、一般に、顕著な酸素含有量を有し、かつ、限定されないが、例示としてキノン、カルボキシ、フェノール、ラクトール、ラクトン、無水物およびケトンの基が挙げられる酸素含有官能基を有する。例えば、酸化カーボンブラックは、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて、0.5重量%以上、例えば1重量%以上、または2重量%以上の酸素含量を有することができる。典型的には、酸素含有量は、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて20重量%を超えない。例えば、酸化カーボンブラックは、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて、0.5重量%~20重量%、1重量%~15重量%、2重量%~10重量%、または2重量%~5重量%の酸素を含有することができる。
【0085】
酸化カーボンブラックは例えば、米国特許第6120594号明細書および米国特許第6471933号明細書に開示されているような、当技術分野で公知の様々な方法によって製造することができる。適切な方法は、過酸化水素のような過酸化物、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムのような過硫酸塩、次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩、オゾンもしくは酸素ガス、過マンガン酸塩、四酸化オスミウム、酸化クロム、硝酸アンモニウムセリウムのような遷移金属含有酸化剤、または硝酸もしくは過塩素酸のような酸化酸、ならびにそれらの混合物または組合せの酸化剤を用いたカーボンブラック材料の酸化を含む。
【0086】
本発明によれば、カーボンブラックをさらに官能化することができる。カーボンブラックは、官能化剤を使用する処理によって官能化することができる。官能化カーボンブラックは例えば、国際公開第2021/001156号A1に記載されているように、酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはその塩で処理することによって得ることができる。したがって、この処理により、硫黄含有アミンが、硫黄含有部分および/またはアミン基などの処理剤由来の官能基を酸化カーボンブラックに付与し、酸化カーボンブラックの化学的変化がもたらされる。
【0087】
本発明はまた、反応器中でのカーボンブラック原料の熱酸化による熱分解または開裂を介した、本発明によるカーボンブラックの製造方法に関する。本発明の方法は、O含有ガス流および可燃性材料を含む燃料流を反応器に供給することを含む。可燃性材料は、燃焼ステップにおいて燃焼に供されて燃焼ガス流を提供し、ここで、O含有ガス流および可燃性材料を含む燃料流は、0.5~1.0のkファクターに対応する量で燃焼ステップに供される。カーボンブラック原料は、反応ステップにおいて燃焼ガス流と接触して、カーボンブラックが生成し、カーボンブラック生成反応は、停止ステップにおいて停止する。本発明によれば、kファクターは、燃焼ステップに提供された全Oに対する、全ての可燃性材料の燃焼ステップにおける化学量論的燃焼に理論的に必要なOの比率である。したがって、1のkファクターは、化学量論的燃焼を意味する。O超過の場合、kファクターは1未満である。
【0088】
本発明によれば、カーボンブラック原料は、再生可能カーボンブラック原料を含む。適切な再生可能カーボンブラック原料および再生可能カーボンブラック原料の適切な範囲は、上記の通りである。
【0089】
本発明による燃料流は、可燃性である任意の材料とすることができる。好ましくは、燃料流は、液体および/または気体の炭化水素、水素、一酸化炭素またはそれらの混合物を含む。燃料流は、少なくとも50重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%の炭化水素を含むことができる。燃料流の適切な例としては、天然ガス、石炭ガス、石油ガス、重油などの石油系液体燃料、あるいはクレオソート油、燃料油、洗浄油、アントラセン油、粗コールタールなどのコイル由来の液体燃料が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、燃料流は天然ガスを含む。あるいは、燃料流はプラズマガスを含むことができる。燃料流は、燃焼ガス流を提供するために、燃焼ステップにおいて燃焼に供される。
【0090】
含有ガス流として、酸素ガスを含む任意のガス流を使用することができる。O含有ガス流の適切な例としては、空気、酸素還元空気、および酸素富化空気が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
燃焼は、1,000~2,700℃、好ましくは1,200~2,200℃、より好ましくは1,300~2,000℃の範囲の温度で行うことができる。
【0092】
本発明によれば、kファクターはさらに、0.6~1.0、好ましくは0.7~1.0、より好ましくは0.75~1.0、さらにより好ましくは0.8~1.0の範囲であり得る。当業者は、kファクターが、可燃性材料の含有量および種類、ならびに原料流中のO含有量、ならびにそれらのそれぞれの流量から容易に計算され得ることを理解するであろう。再生可能カーボンブラック原料は、典型的には特に従来のカーボンブラック原料と比較して、低いカーボンブラック収率を提供する。驚くべきことに、カーボンブラック収率の改善は、従来の化石系原料と比較して、再生可能原料でより顕著であることが見出された。加えて、本明細書に記載の範囲におけるkファクターは、得られるカーボンブラックのOANを低下させることに寄与し得る。
【0093】
本発明の方法において、燃焼ステップで生成された燃焼ガスは、反応ステップにおいて、本発明のカーボンブラック原料と接触される。反応ステップにおいて、カーボンブラック原料の熱分解または開裂が起こり、カーボンブラックならびに排ガスが生成される。
【0094】
カーボンブラックの生成は、1,000~2,000℃、好ましくは1,100~1,900℃、より好ましくは1,200~1,800℃の範囲の温度で行うことができる。
【0095】
本発明によれば、カーボンブラック生成は、停止ステップで停止される。カーボンブラック生成の停止は、当業者に公知の任意の手段、例えば、直接または間接の熱交換による冷却、例えば、急冷ボイラの使用による冷却および/または急冷によって達成することができる。典型的には、急冷は、水などの適切な急冷液体を注入することによって達成される。好ましくは、カーボンブラック生成は水急冷によって停止する。
【0096】
本発明による方法において、カーボンブラック形成中にアセチレン量が、乾燥排ガス流の総量に基づいて、0.8モル%未満、好ましくは0.6モル%未満、より好ましくは0.5モル%未満、さらにより好ましくは0.2モル%未満に到達したときに、カーボンブラック生成は停止することができる。アセチレン量は、ガスクロマトグラフィーによって測定することができる。排ガス中の低アセチレン量でカーボンブラック生成を停止させることは、結果として生じるカーボンブラックの低PAH濃度および低含有量のトルエン可溶性成分に寄与し得る。
【0097】
本発明によれば、本方法は、ファーネスブラック反応器内で実施することができ、燃焼ゾーン内に燃焼ガス流を生成すること、燃焼ゾーンからの燃焼ガスを反応ゾーンを通って停止ゾーンに通過させること、反応ゾーン内の燃焼ガス中にカーボンブラック原料を注入してカーボンブラックを生成すること、ならびに、急冷によって温度を低下させることによっておよび/または急冷ボイラを使用することによって、停止ゾーン内のカーボンブラック生成を停止させることを含む。本発明のファーネスブラック反応器は、反応器軸に沿って、燃焼ゾーン、反応ゾーンおよび停止ゾーンを有することができる。適切なファーネスブラック反応器は例えば、欧州特許出願公開第2479223号明細書A1または欧州特許出願公開第1233042号明細書A2に記載されている。
【0098】
本発明はまた、補強用充填剤または添加剤、UV安定剤、導電性カーボンブラックまたは顔料としての本発明によるカーボンブラックの使用に関する。
【0099】
さらに、本発明は、ゴム、プラスチック、インク、例えば印刷インク、インクジェットインクまたは他のインク、トナー、ラッカー、コーティング、紙またはブラックマトリクス用途における本発明によるカーボンブラックの使用に関する。本発明によるブラックマトリクス用途は、ディスプレイデバイスを含むことができる。
【0100】
本発明のカーボンブラックは、好ましくは、食品や皮膚と接触する材料、玩具、包装用印刷インク、トナー用途またはインクジェットインクのために使用することができる。
【0101】
本発明はさらに、ゴム組成物に関する。ゴム組成物は、少なくとも1種のゴム材料と、少なくとも1種の本発明のカーボンブラックとを含む。
【0102】
用語「ゴム材料」および「ゴム」は特に明記しない限り、本明細書全体を通して互換的に使用され得る。本発明に従って使用することができるゴムとしては、オレフィン系不飽和を含有するもの、すなわちジエン系ゴム材料、ならびに非ジエン系ゴム材料が挙げられる。用語「ジエン系ゴム材料」は、天然ゴムおよび合成ゴムの両方、またはそれらの混合物を含むことが意図される。本発明によれば、ゴム材料は、天然ゴムおよび/または合成ゴム、例えば、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム(ESBR)、溶液-スチレン-ブタジエンゴム(SSBR)などのスチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、アクリレートゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エチレン-アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロカーボンゴム、またはそれらの混合物もしくは組み合わせを含んでもよい。
【0103】
天然ゴムは、その未加工形態で、およびゴム加工の技術分野で従来から知られている様々な加工形態で使用することができる。天然ゴムは、例えば、ゴムの樹(ヘルビア・ブラジリエンシス)、グアユール、およびダンデライオンから得ることができる。
【0104】
本発明によれば、合成ゴムは、再生可能な材料から得ることもできる。例えば、ポリブタジエンは、植物バイオマスの醗酵によって得られるアルコールから製造することができる。発酵によって得られるアルコールの適切な調製、およびそのようなアルコールからのポリブタジエンの調製は、欧州特許出願公開第2868697号明細書A1に記載されている。
【0105】
ゴム組成物は、本発明のカーボンブラックを、3~200phr、例えば5~190phr、または10~150phrの量で含むことができる。単位phrは、ゴム100重量部当たりの重量部を意味する。
【0106】
ゴム組成物は本発明のカーボンブラックを含み、好ましくはカーボンブラックは、次の特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する;ASTM D6556-19aに従って測定された15~200m/gの範囲のSTSA、およびASTM 1618-18に従って測定された80~100%の範囲の425nmにおける透過率値。
【0107】
ゴム組成物は、酸化カーボンブラックおよび官能化カーボンブラックを含む従来のカーボンブラックをさらに含むことができる。従来のカーボンブラックは、典型的には石油、石炭、または他の化石燃料由来の原料から製造される。
【0108】
本発明はさらに、プラスチック組成物に関する。プラスチック組成物は、少なくとも1種のプラスチック材料と、少なくとも1種の本発明のカーボンブラックとを含む。
【0109】
少なくとも1種のプラスチック材料は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、熱可塑性エラストマー、好ましくは低密度および高密度ポリエチレンおよびポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリフェニレンオキシド、ポリシロキサン、ポリアクリロアミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、アクリロニトリルスチレンアクリレートまたはアクリロニトリルブタジエンスチレンポリマー、およびそれらのいずれかの混合物またはコポリマーを含んでもよい。
【0110】
プラスチック組成物は本発明のカーボンブラックを含み、好ましくはカーボンブラックは、次の特性の少なくとも1つ、好ましくは2以上または全てを有する;ASTM D2414-19に従って測定された45~80、より好ましくは50~70の範囲のOAN、ASTM D6556-19aに従って測定された15~200の範囲のSTSA、ASTM D1618-18に従って測定された20~160、より好ましくは20~150の範囲の色強度、およびASTM D4527-04における手順に従った0.1%未満、例えば0.01%~0.10%のトルエン可溶性成分の含有量。ASTM D4527-04に記載された条件から外れて、抽出時間は8時間およびサイクル時間は6~7分を適用する。さらに、試料を大気圧(1.013×10Pa)の下、70℃で12時間乾燥する。トルエン可溶性成分のこのような低含有量は、食品接触用途に特に適している。
【0111】
本発明によるプラスチック組成物は、プラスチック組成物の総重量に基づいて、40~99.9重量%、好ましくは60~99重量%、より好ましくは80~98重量%の少なくとも1種のプラスチック材料を含むことができる。プラスチック組成物は、プラスチック組成物の総重量に基づいて、0.1~60重量%、好ましくは1.0~20重量%、より好ましくは1.5~3重量%の本発明のカーボンブラックを含むことができる。
【0112】
プラスチック組成物は、酸化カーボンブラックおよび官能化カーボンブラックを含む従来のカーボンブラックをさらに含むことができる。
【0113】
本発明はさらに、インク組成物に関する。インク組成物は、液体キャリア材料と、本発明の少なくとも1種のカーボンブラックとを含む。
【0114】
本発明によれば、液体キャリア材料は、水および/または有機溶媒を含むことができる。有機溶媒は、アルコール、ケトン、エステル、脂肪族もしくは芳香族炭化水素またはそれらの混合物を含むことができる。
【0115】
インク組成物は本発明のカーボンブラックを含み、好ましくはカーボンブラックは、次の特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する;ASTM D2414-19に従って測定された19~50mL/100g、より好ましくは23~45mL/100g、さらにより好ましくは25~40mL/100gの範囲のOAN、およびASTM D6556-19aに従って測定された60~150m/gの範囲のSTSA。
【0116】
本発明によるインク組成物は、インク組成物の総重量に基づいて、5~95重量%、好ましくは30~80重量%の液体キャリア材料を含むことができる。本発明によるインク組成物は、インク組成物の総重量に基づいて、0.1~20重量%、好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは1~5重量%の本発明のカーボンブラックを含むことができる。液体包装用印刷インクは、好ましくはインク組成物の総重量に基づいて、5~15重量%、好ましくは8~12重量%の本発明のカーボンブラックを含む。インク組成物の総重量に基づいて、インクジェットインクは、好ましくは0.5~7重量%、好ましくは1~5重量%の本発明のカーボンブラックを含み、オフセットインクは、最大20重量%、好ましくは0.1~20重量%の本発明のカーボンブラックを含むことができる。
【0117】
本発明によれば、インク組成物は、バインダーをさらに含むことができる。バインダーは一般に、主に、顔料、例えばカーボンブラックの基材への接着を増加させるように機能し、また、多くの場合、分散の媒体およびキャリアとしても機能する。バインダーの適切な例としては、ニトロセルロース、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、アクリレート系分散体、ラテックス分散体、およびアラビアゴムなどの樹木樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
インク組成物は、酸化カーボンブラックおよび官能化カーボンブラックを含む従来のカーボンブラックをさらに含むことができる。
【0119】
本発明はさらに、印刷およびコーティング用途、好ましくは印刷媒体および包装、より好ましくは食品包装のための本発明のインク組成物の使用に関する。
【0120】
本発明はさらに、少なくとも1種の本発明のカーボンブラックを含むブラックマトリクス組成物に関する。ブラックマトリクス組成物は本発明のカーボンブラックを含み、好ましくはカーボンブラックは、次の特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する;ASTM D2414-19に従って測定された37mL/100g未満のOAN、およびASTM D6556-19aに従って測定された60~150m/gのSTSA。好ましくは、ブラックマトリクス組成物は、上述のように酸化および/または官能化された本発明のカーボンブラックを含む。
【0121】
ブラックマトリクス組成物は、酸化カーボンブラックおよび官能化カーボンブラックを含む従来のカーボンブラックをさらに含むことができる。
【0122】
さらに、本発明は、少なくとも1種の本発明のカーボンブラックを含むコーティング組成物に関する。本発明によれば、コーティング組成物は、塗料または仕上げ剤であり得る。本発明のコーティング組成物は、溶媒および樹脂を含むことができる。溶媒は、水および/または有機溶媒を含むことができる。有機溶媒は、アルコール、ケトン、エステル、脂肪族もしくは芳香族炭化水素またはそれらの混合物を含むことができる。適切な公知のコーティング材料および添加剤は、米国特許第5051464号明細書に開示されている。本発明のカーボンブラックは、予備分散剤として、または固体として、標準的な技術を用いてコーティング組成物に組み込むことができる。コーティング組成物は本発明のカーボンブラックを含み、好ましくはカーボンブラックは、次の特性の少なくとも1つ、好ましくは全てを有する;ASTM D2414-19に従って測定された19~50mL/100g、より好ましくは23~45mL/100g、さらにより好ましくは25~40mL/100gの範囲であるOAN、およびASTM D6556-19aに従って測定された60~150m/gの範囲のSTSA。
【0123】
コーティング組成物は、酸化カーボンブラックおよび官能化カーボンブラックを含む従来のカーボンブラックをさらに含むことができる。
【0124】
本発明はさらに、玩具および食品または皮膚と接触して使用することを意図した物品のための本発明のコーティング組成物の使用に関する。
【0125】
特に明記しない限り、パーセンテージは重量%であるとみなすべきである。
【実施例
【0126】
本発明を下記の実施例によりさらに説明する。本明細書中で言及される全ての部および割合は、別段の指示がない限り、重量に基づく。
【0127】
カーボンブラック製造(実施例1)
ファーネスカーボンブラック反応器を使用して、本発明によるカーボンブラックを製造した。カーボンブラック原料として、トール油ピッチ系燃料であるUCYエナジー(ドイツ)からのTall Oil1を用いた。
【0128】
カーボンブラック反応器は、カーボンブラック原料の熱分解のための燃焼ガスが約2,000℃の温度で大気酸素を導入する天然ガスの燃焼によって生成される燃焼室を有していた。kファクターは0.85に調整された。トール油ピッチはカーボンブラックを生成するために、反応チャンバ内の燃焼チャンバの後のチョーク内に注入された。停止ゾーンにおいて、カーボンブラック生成は、空気急冷と組み合わせて水急冷を使用することによって停止された。アセチレン量が乾燥排ガス流の総量に基づいて0.014モル%に達したときに、停止ステップを実施した。アセチレン量は、インフィコンホールディング社(スイス)から入手可能なINFICON3000MicroGCを使用するガスクロマトグラフィーによって測定した。定量分析のためのGCの較正のために、DIN51898-1を使用した。
【0129】
表1は、本発明によるカーボンブラックを製造するための反応器パラメータを列挙する。
【表1】
【0130】
kファクターの影響
再生可能カーボンブラック原料の使用については、従来のカーボンブラック原料の使用と比較して増加した収率改善がkファクターに依存して見出される。収率は、式1に従って定義される。
【数1】
【0131】
0.6のkファクターおよび0.9のkファクターで得られた収率を、トール油ピッチ(UCYエナジー社(ドイツ)からのTall Oil1)の使用および従来の化石系カーボンブラック原料、すなわちコールタール蒸留物(レインカーボンドイツ社(カストロプ・ラウゼル)からのR43)の使用について測定し、0.6のkファクターで得られた収率に正規化した(表3)。
【0132】
表3:正規化収率
【表2】
【0133】
再生可能カーボンブラック原料を使用する収率は、従来の化石系カーボンブラック原料を使用する収率と比較して低い。しかしながら、kファクターが0.6から0.9に増加すると、再生可能カーボンブラック原料(トール油ピッチ)が使用される場合、収率は驚くべきことに3.5倍増加し、一方、従来の原料(コールタール蒸留物)が使用される場合、収率は1.2倍増加するだけである。
【0134】
カーボンブラック材料
以下のカーボンブラック材料は、従来の原料を用いて得られるカーボンブラックである。
PRINTEX(登録商標)35:約62m/gのSTSAおよび約42mL/100gのOANを有するファーネスブラック。オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている。
PRINTEX(登録商標)25:約49m/gのSTSAおよび約45mL/100gのOANを有するファーネスブラック。オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている。
【0135】
カーボンブラックの特性は、下記規格(表3)に従って測定され、表4に列挙される。
【0136】
表3:カーボンブラックの特性を測定するための規格
【表3】
【0137】
ただし、ASTM D4527-04に記載された条件から外れて、抽出時間は8時間およびサイクル時間は6~7分を適用する。さらに、試料を大気圧(1.013×10Pa)の下、70℃で12時間乾燥する。
【0138】
表4:カーボンブラックの特性
【表4】
【0139】
実施例1は、インク組成物およびコーティング組成物において特に望ましい非常に低いOANを示す。さらに、再生可能カーボンブラック原料を使用して得られたカーボンブラックについて、多環芳香族炭化水素(PAH)は低濃度であり、かつトルエンおよび硫黄の抽出可能含量は低レベルであった(実施例1)。これは、食品および飲料水用途などの食品または皮膚と接触するように意図された物品ならびに玩具におけるカーボンブラックの使用に有益である。
【0140】
再生可能カーボンブラック原料としてのトール油ピッチの使用は、COバランスを改善することができる。
【国際調査報告】