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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】癌治療用アデノウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20240401BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20240401BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20240401BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240401BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12N15/31
A61K35/761
A61K35/768
A61P35/00
A61P35/02
C12N7/01 ZNA
C12N15/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562882
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 SE2022050389
(87)【国際公開番号】W WO2022225441
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2150511-0
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522408647
【氏名又は名称】エリセラ セラピューティクス アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ディ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、ヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質(NAP)をコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列ならびに対象において免疫応答を誘導可能な免疫調節因子をコードする核酸配列を含むアデノウイルスに関する。このアデノウイルスは、腫瘍増殖の遅延および生存の延長に関して臨床効果を増強する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質(NAP)をコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列;
および
対象において免疫応答を誘導可能な免疫調節因子をコードする核酸配列、
を含むアデノウイルスであって、
ここで該NAPの免疫学的に同等な断片がNAPの少なくとも20アミノ酸残基の少なくとも1種類のポリペプチドドメインを含む断片である、
アデノウイルス。
【請求項2】
請求項1のアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、該対象において樹状細胞(DC)成熟、T細胞活性化および/またはNK細胞活性化を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項3】
請求項2のアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、該対象においてDC成熟、T細胞活性化およびNK細胞活性化を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項4】
請求項2または3のアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、樹状細胞による分化80(CD80)、CD40、CD86およびC-Cケモカイン受容体7型(CCR7)のクラスターの発現を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載されるアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、CD4+ T細胞活性化および/またはCD8+ T細胞活性化を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項6】
請求項5のアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、CD4+ T細胞および/またはCD8+ T細胞による分化69(CD69)およびCD107aのクラスターの発現を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか1項に記載されるアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、CD56+ NK細胞の活性化を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項8】
請求項7のアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が、CD56+ NK細胞による分化69(CD69)およびCD107aのクラスターの発現を誘導可能な、アデノウイルス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、ここで該免疫調節因子が腫瘍壊死因子スーパーファミリー(TNFSF)メンバーである、アデノウイルス。
【請求項10】
請求項9のアデノウイルスであって、ここで該TNFSFメンバーが、TNFSF1、TNFSF2、TNFSF4、TNFSF5、TNFSF7、TNFSF9、TNFSF14、TNFSF18およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、アデノウイルス。
【請求項11】
請求項10のアデノウイルスであって、ここで該TNFSFメンバーが、TNFSF5、TNFSF9、TNFSF14、TNFSF18およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、アデノウイルス。
【請求項12】
請求項11のアデノウイルスであって、ここで該TNFSFメンバーが、TNFSF9、TNFSF18およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、アデノウイルス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、ここで該NAPの免疫学的に同等な断片が、NAPの少なくとも30アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも40アミノ酸残基の少なくとも1種類のポリペプチドドメインを含む断片である、アデノウイルス。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、ここで該NAPの免疫学的に同等な断片が、配列番号:11~14から成る群から選択される、アデノウイルス。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、NAPおよび/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列と該免疫調節因子をコードする核酸配列との間に位置する自己開裂ペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、アデノウイルス。
【請求項16】
請求項15のアデノウイルスであって、ここで該自己開裂ペプチドが、配列番号:16~23から成る群から選択される、アデノウイルス。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、ここで該アデノウイルスが腫瘍溶解性アデノウイルスである、アデノウイルス。
【請求項18】
請求項17のアデノウイルスであって、ここで該腫瘍溶解性アデノウイルスが、野生型E1A蛋白質と比較して、より低いRb蛋白質結合能を有する変異E1A蛋白質をコードする変異アデノウイルス初期領域1A(E1A)遺伝子を含む、アデノウイルス。
【請求項19】
請求項18のアデノウイルスであって、ここで該変異E1A遺伝子が、野生型E1A遺伝子のヌクレオチド919~943に相当する24bpの欠失を含む、アデノウイルス。
【請求項20】
請求項18または19のアデノウイルスであって、ここで該変異E1A蛋白質が、野生型E1A蛋白質の121~128のアミノ酸を欠如する、アデノウイルス。
【請求項21】
請求項1~20のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、ここで
19kDaのアデノウイルスE1B蛋白質および55kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードする核酸配列の一方が、NAPをコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列で置換され;
および
19kDaのアデノウイルスE1B蛋白質および55kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードする核酸配列の他方が、該免疫調節因子をコードする核酸配列で置換されている、アデノウイルス。
【請求項22】
請求項1~21のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、ここで該アデノウイルスがヒトアデノウイルス5型である、アデノウイルス。
【請求項23】
請求項1~22のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、治療薬剤として用いられるアデノウイルス。
【請求項24】
請求項1~22のいずれかに記載されるアデノウイルスであって、癌治療に用いられるアデノウイルス。
【請求項25】
請求項24の用途のアデノウイルスであって、ここで該癌が、癌腫(膵癌、乳癌、肺癌、肝臓癌、または腎臓癌など);肉腫(骨肉腫または脂肪肉腫など);リンパ腫(非ホジキンリンパ腫またはホジキンリンパ腫など);白血病(急性白血病または慢性白血病など);精上皮腫;胚細胞腫;未分化胚細胞腫;および芽細胞腫(膠芽細胞腫または神経芽細胞腫など)から成る群から選択される、アデノウイルス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、アデノウイルス、特に癌治療に有用な組換えアデノウイルスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の癌治療は主に、化学療法、放射線療法および/または外科手術に基づくものである。初期段階の癌では治癒率が上昇するが、多くの進行癌は治療不能である;その理由は、外科的根治が不可能である、または放射線療法または化学療法では、正常細胞に対する毒性のために、実施の際に線量または用量が限定されるためである。
【0003】
従来の癌治療の代替として、あるいは補完するものとして、腫瘍溶解性ウイルスを利用するウイルス療法が提案されている。ウイルス療法では、腫瘍細胞で選択的に複製および増殖することができる腫瘍溶解性ウイルスが用いられる。これにより、これらの腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞に選択的に感染してそれを溶解させる;放出子孫ウイルス粒子は隣接する腫瘍細胞に再感染し、さらに一部は血流に入って転移腫瘍細胞に感染する。
【0004】
腫瘍溶解性ウイルスを用いるウイルス療法は、2種類の主要な要件を満たす必要がある:すなわち、選択性および効力である。正常細胞における複製に必要なウイルス機能であって、腫瘍細胞での複製には不要なウイルス機能を除去すること、腫瘍選択的プロモーターを用いることにより、複製を開始するウイルス遺伝子を制御すること、および宿主細胞の感染に関与するウイルスカプシド蛋白質を修飾することなど、腫瘍細胞に対する選択性を獲得する方略として異なる複数の提案がある。
【0005】
しかし、腫瘍溶解性ウイルスによって開始する抗腫瘍免疫応答は、一般的に臨床症状に良好な治療効果をもたらすには不充分である、すなわち、効力が低すぎると考えられる。このような状況であるため、腫瘍溶解性ウイルスの効力増強を目的として、腫瘍溶解性ウイルスのゲノムに治療遺伝子を挿入することが示唆されているのである。当該技術分野において、上記のような治療遺伝子として様々なものが提案されているが、その例としては、例えば、バイスタンダー効果を有するプロドラッグの活性化、腫瘍に対する免疫系の活性化、アポトーシスの誘導、および血管形成阻害などに関するものが挙げられる。
【0006】
Ramachandranら、「神経内分泌腫瘍に対して治療効果を有するヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質を分泌する感染増強性腫瘍溶解性アデノウイルス(An infection-enhanced oncolytic adenovirus secreting H. pylori neutrophil-activating protein with therapeutic effects on neuroendocrine tumors)」、Molecular Therapy (2013) 21(11): 2008-2018、およびRamachandranら、「ベクターにコードされるヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質は、Th1分極化を伴う樹状細胞の成熟および遊走改善を促進する(Vector-encoded Helicobacter pylori neutrophil-activating protein promotes maturation of dendritic cells with Th1 polarization and improved migration)」、The Journal of Immunology (2014) 193(5):2287-2296;これら2つの文献は、分泌性好中球活性化蛋白質(NAP)を有する複製選択的感染増強性アデノウイルスについて開示している。NAPアデノウイルスは、マウスにおいて樹状細胞 (DC)の成熟および遊走を促進し、生存中央値を改善した。Zhangら、「HCCにおいて、可溶性融合蛋白質PD-1/CD137Lを発現する組み換えアデノウイルスはCD8+ T細胞のサプレッションを阻害する(Recombinant adenovirus expressing a soluble fusion protein PD-1/CD137L subverts the suppression of CD8+ T cells in HCC)」、Molecular Therapy (2019) 27(11):1906-1918は、組換えアデノウイルスが腫瘍再移植に対する腫瘍特異的全身性保護を誘導したことを開示している。
【0007】
腫瘍溶解性ウイルスの効力を改善する必要性が依然として存在するのである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一般的な目標は、癌治療において治療効果を有するアデノウイルスを提供することである。
【0009】
この目的およびその他の目的は、本明細書に開示の実施態様によって達成される。
【0010】
本発明は独立形式請求項において規定される。本発明のさらなる実施態様は従属形式請求項において規定される。
【0011】
本発明の一局面は、ヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質(NAP)をコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列を含むアデノウイルスに関するものである。NAPの免疫学的に同等な断片は、NAPの少なくとも20アミノ酸残基の少なくとも1種類のポリペプチドドメインを含む断片である。該アデノウイルスはまた、対象において免疫応答を誘導可能な免疫調節因子をコードする核酸配列を含む。
【0012】
本発明のさらなる局面は、治療薬剤として癌治療に用いる上記のアデノウイルスに関するものである。
【0013】
実施態様の組換えアデノウイルスは、腫瘍増殖を有意に阻害すること、および腫瘍移植後の対象の生存を大幅に延長することに関して治療効果が増強されている。この治療効果増強は、NAPおよび/またはその免疫学的に同等な断片ならびに免疫調節因子を共発現するアデノウイルスを工学的に作成することによって達成される。NAPと免疫調節因子の組み合わせによって、該アデノウイルスが癌細胞の免疫原性細胞死を誘導することを可能にし、さらに癌に罹患した対象に投与した場合、樹状細胞の誘導性成熟ならびにT細胞およびNK細胞の活性化を可能にした。
【0014】
実施態様ならびにさらなるその目的および利点については、添付図面と併せて以下の説明を参照することによって最良の理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例に用いたアデノウイルス構築物を模式的に示すものであり、その遺伝子配置および遺伝子部位を示している。
図2】異なる感染多重度(MOI)で各種の組換えアデノウイルスに感染させた後のPanc01細胞およびMiaPaCa-2細胞の相対細胞生存率を示している。細胞生存率は、感染から4日後(感染後=d.p.i)に測定し、非感染対照細胞に対する割合(%)で示す。
図3】Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞における組換えウイルスの複製を示す。異なるウイルスを用いてMOI=50で細胞に形質導入した。形質導入後0、1、2、および3日目に、ウイルスゲノムDNAを単離し、リアルタイムPCRを用いて定量した。数値は、標準曲線に基づいて算出されたウイルスゲノムコピー数を示している。データは、三重試料の平均±標準偏差(SD)で表したものである。
図4】Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞への形質導入から2日後における導入遺伝子TNFSF9またはTNFSF18の発現レベルを示す。発現レベルは平均蛍光強度(MFI)として報告された。
図5】ウイルス形質導入から2日後のカルレティキュリン(CRT)の細胞表面への露出およびATPの放出を示す。CRTはフローサイトメトリーで測定しMFIで表した;ATPはATP測定キット(Invitrogen)を用いて測定しアーティフィシャル(artificial)単位(a.u.)で示された。
図6】未成熟DCをウイルス-形質導入細胞と共に18時間共培養した後に、フローサイトメトリーで分析しMFIで表したヒト樹状細胞(DC)成熟マーカー(CD80、CD86、CD40およびCCR7)の発現レベルを示す。
図7A】異なるウイルスで腫瘍内処置してから3日後に、フローサイトメトリーで分析しMFIで表した腫瘍浸潤性CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、およびCD56+ NK細胞の成熟マーカー(CD69およびCD107a)の発現レベルを示す。
図7B】異なるウイルス処置マウスから回収した脾細胞、およびPanc02細胞で再刺激した脾細胞のIFN-γ放出を示す。
図8】異なるアデノウイルスで処置した後の皮下Panc02腫瘍増殖およびマウス生存を示す。
図9】免疫不全マウスにおける皮下Panc01腫瘍(ヒト異種移植片)増殖および処置後のマウス生存を示す。
図10】マウスにおける皮下NSX2腫瘍増殖および処置後のマウス生存を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は一般に、アデノウイルス、特に癌治療に有用な組換えアデノウイルスに関するものである。
【0017】
実施態様の組換えアデノウイルスは、腫瘍増殖を有意に阻害すること、および腫瘍移植後の対象の生存を大幅に延長することに関して治療効果が増強されている。この治療効果増強は、アデノウイルスを対象に投与した場合に該対象において免疫応答を誘導可能な免疫調節因子をコードする核酸配列と組み合わせて、ヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質(NAP)をコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列を含むアデノウイルスを工学的に作成することによって達成される。したがって、アデノウイルスは、NAPおよび/またはその免疫学的に同等な断片、ならびに免疫調節因子をコードする核酸配列を含む組換え体または工学的改変ウイルスである。
【0018】
NAPをコードする核酸配列を含むアデノウイルスは、「背景技術」の節において言及しているように公知である。しかし、本明細書中に提示されるような実験データ(図8)は、NAPをコードする核酸配列を含むアデノウイルスであって、免疫調節因子をコードする核酸配列は含まないアデノウイルスは、僅かに腫瘍増殖を阻害し得るが、腫瘍移植後の対象における有意な生存延長をもたらさないことを示している。
【0019】
しかし、NAPまたはその免疫学的に同等な断片を、別の免疫調節因子と組み合わせることによって、該アデノウイルスの治療効果を有意に改善した(図8)。ウイルスでNAPおよび他の異種遺伝子を共発現することによって、対象に投与した場合に該異種遺伝子の遺伝子産物に対する抗体応答が増強し、それによってそのような抗体応答が遺伝子産物の機能を妨害または阻害することが示されている(Iankovら、「麻疹ウイルスが発現するヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質は、不良免疫原の免疫原性を有意に増強する(Measles virus expressed Helicobacter pylori neutrophil-activating protein significantly enhances the immunogenicity of poor immunogens)」、Vaccine (2013) 31(42): 4795-4801)ので、上記は非常に意外であった。したがって、アデノウイルスにおいて免疫調節因子と共にNAPおよび/またはその免疫学的に活性な断片を共発現させることにより、それを対象に投与した場合には、該対象において該免疫調節因子に対する抗体応答を引き起こすことが予想されるであろう。次いで、該免疫調節因子に対して起こる抗体応答は、該対象において該免疫調節因子の作用を阻害しブロックすると予想される;すなわち、該免疫調節因子によって誘導されるような免疫応答誘導を、該対象において少なくとも有意に妨害または阻害することが予想される。
【0020】
しかし、本明細書中に提示されるような実験データは、アデノウイルスにおけるNAPおよび免疫調節因子の共発現が、該免疫調節因子の免疫応答誘導性機能に負の影響を与えることがなかったことを示している。治療効果の増強に加え、非常に明確に、NAPおよび/またはその免疫学的に活性な断片ならびに免疫調節因子の共発現は、癌細胞の免疫原性細胞死(ICD)を誘導した。
【0021】
ICDは免疫原性アポトーシスともよばれ、免疫応答の制御性活性化によって引き起こされる細胞死の一形態である。この細胞死はアポトーシス性の形態を特徴とし、膜完全性が維持される。癌細胞の免疫原性細胞死は、樹状細胞(DC)の活性化およびその結果として起こる特異的T細胞応答の活性化によって、効果的な抗腫瘍免疫応答を誘起する。したがって、本発明のアデノウイルスによるICDの誘導は、該アデノウイルスが抗腫瘍療法に非常に効果的であることを意味している。
【0022】
さらに、NAP、および/またはその免疫学的に活性な断片、ならびに免疫調節因子を共発現する本発明のアデノウイルスは、DC成熟およびCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞を含むT細胞の活性化、ならびにCD56+ NK細胞を含むナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を誘導した。さらに、処置した対象の内在性脾細胞もまた腫瘍細胞に反応し、有意な量のインターフェロンγ(IFN-γ)を放出したことからも分かるように、本発明のアデノウイルスによる治療は免疫記憶の生成を引き起こした。
【0023】
本発明のアデノウイルスにおけるNAPおよび/またはその免疫学的に活性な断片ならびに免疫調節因子の共発現は、形質導入癌細胞における該免疫調節因子の発現に負の影響を与えなかった。さらに、該アデノウイルスは、癌細胞中で効率的に複製し癌細胞を特異的に殺滅することが可能であった。
【0024】
他で特段に定義されるのでない限り、本明細書で用いられるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味を有するものである。以下の参考文献は、本発明で用いる用語の多くについて一般的定義を提供するものである:Singletonら、「微生物学分子生物学辞典(Dictionary of microbiology and molecular biology)」第3版、改訂版、2007、ISBN: 9780470035450; Walker、「ケンブリッジ科学技術辞典(The Cambridge dictionary of science and technology)」、1990、ISBN: 9780521394413; Riegerら、「遺伝学の用語:古典的および分子論的用語(Glossary of Genetics: Classical and Molecular)」第5版、1991、ISBN: 9783540520542; Hale、「ハーパーコリンズ生物学辞典(HarperCollins dictionary of biology)」、1991、ISBN: 9780064610155; Lewin、「遺伝子XII(Gene XII)」、2017、ISBN: 978-1-2841-0449-3; Knipeら、フィールズ・ウイルス学(Fields Virology)」第6版、2013、ISBN: 978-1-4511-0563-6。明瞭のために、本明細書では以下の定義を用いる。
【0025】
用語「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」は、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、ホスホジエステル結合を介して連結される関連する天然構造のバリアントおよび/またはその合成非天然類似体、関連する天然構造のバリアントおよび/またはその合成非天然類似体などの、ヌクレオチドで構成されるポリマーを指す。そのような核酸配列またはヌクレオチド配列の例としては、デオキシリボ核酸(DNA)配列およびリボ核酸(RNA)配列が挙げられる。特定の一実施態様においては、核酸配列またはヌクレオチド配列はDNA配列である。
【0026】
本発明の一局面は、ヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質(NAP)をコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列を含むアデノウイルスに関する。該アデノウイルスはまた、対象において免疫応答を誘導可能な免疫調節因子をコードする核酸配列を含む。
【0027】
それによって該アデノウイルスは、免疫調節因子に加え、NAPおよび/またはその免疫学的に同等な断片を共発現することが可能である。したがって、該免疫調節因子は、NAPまたはNAPの免疫学的に活性な断片とは異なるものである。
【0028】
該アデノウイルスを対象に投与した場合に、該免疫調節因子は、該対象において免疫応答を誘導することができる。一実施態様においては、該免疫調節因子はDC成熟を誘導することができる。分化80(CD80)(B7-1ともよばれる)、CD40、CD86(B7-2ともよばれる)、およびC-Cケモカイン受容体型7(CCR7)のクラスターを含む成熟マーカーおよび活性化マーカーの表面発現亢進によって示唆されるように、共培養した本発明のアデノウイルスを形質導入した癌細胞は、DCを成熟させ活性化することが可能であった。
【0029】
別の一実施態様においては、該免疫調節因子は、T細胞活性化、特にCD4+ T細胞活性化、CD8+ T細胞活性化、またはCD4+ T細胞活性化とCD8+ T細胞活性化の両方を誘導可能である。癌細胞を移植し本発明のアデノウイルスで処置した対象においては、腫瘍浸潤性であるCD4+およびCD8+のT細胞の活性化が増強した。表面マーカーCD69およびCD107a(リソソーム関連膜蛋白質1(lysosomal-associated membrane protein 1;LAMP-1)またはリソソーム関連膜蛋白質1(lysosome-associated membrane protein 1)ともよばれる)の上方制御によって示されるように、該アデノウイルス処置によって、CD4+およびCD8+のT細胞の活性化が起こったのである。
【0030】
さらなる一実施態様においては、該免疫調節因子は、NK細胞活性化、特にCD56+ NK細胞活性化を誘導することができる。癌細胞を移植し本発明のアデノウイルスで処置した対象においては、腫瘍浸潤性NK細胞の活性化が増強された。表面マーカーCD69およびCD107aの上方制御によって示されるように、該アデノウイルス処置によって、これらのNK細胞の活性化が起こる。
【0031】
好ましい実施態様においては、該免疫調節因子はDC成熟およびT細胞活性化を誘導することができる;対象において、DC成熟およびNK細胞活性化を誘導することができる、あるいはT細胞活性化およびNK細胞活性化を誘導することができる。現在好ましい一実施態様においては、該免疫調節因子は対象においてDC成熟、T細胞活性化およびNK細胞活性化を誘導することができる。
【0032】
一実施態様においては、該免疫調節因子は、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリー(TNFSF)のメンバーである。
【0033】
TNFSFは、TNF相同性ドメインを含み三量体を形成するII型膜貫通蛋白質の蛋白質スーパーファミリーである。TNFSFのメンバーは、細胞外蛋白質分解性切断によって細胞膜から放出され、サイトカインとして機能し得る。これらの蛋白質は、専ら免疫細胞によって発現され、免疫応答および炎症のみならず、増殖、分化、アポトーシスおよび胚発生をも含む様々な細胞機能を制御する。
【0034】
一実施態様においては、TNFSFメンバーは、TNFSF1、TNFSF2、TNFSF4、TNFSF5、TNFSF7、TNFSF9、TNFSF14、TNFSF18、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0035】
TNFSF1は、リンホトキシン-アルファ(LT-α)またはTNF-ベータ(TNF-β)ともよばれ、腫瘍細胞に対する抗増殖活性を示し、腫瘍細胞において細胞破壊を引き起こす。TNFSF1は、炎症の誘導および抗ウイルス性応答、2次的なリンパ系臓器の発生、および細胞の生存、増殖、分化およびアポトーシスの制御に関与する。
【0036】
TNFSF2は、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF-α、カヘキシン(cachexin)またはカケクチンともよばれ、免疫細胞の制御、発熱の誘導、悪液質、炎症およびアポトーシスにおいて役割を担っている。TNFSF2はまた腫瘍形成を阻害する。
【0037】
TNFSF4はまた、OX40リガンド、CD252、Gp34またはCD134Lともよばれ、T細胞共刺激によってT細胞免疫応答の活性化を誘導する。
【0038】
TNFSF5はまた、CD40リガンド(CD40L)ともよばれ、抗原提示細胞(APC)を活性化することによって適応免疫応答を制御する。
【0039】
TNFSF7はまた、CD27リガンド(CD27L)またはCD70ともよばれ、B細胞活性化およびT細胞恒常性を制御する。
【0040】
TNFSF9はまた、CD137リガンドまたは4-1BBリガンド(4-1BBL)ともよばれ、APC上に存在し、活性化T細胞上に発現するCD137(4-1BBともよばれる)に結合する。
【0041】
TNFSF14はまた、LIGHT、CD258またはHVEMLともよばれ、B細胞活性化およびT細胞恒常性を制御する。
【0042】
TNFS18はまた、グルココルチコイド誘導性腫瘍壊死因子受容体関連蛋白質(GITR)リガンド(GITRL)、活性化誘導性TNFRメンバーリガンド(AITRL)またはTL-6ともよばれ、受容体TNF受容体スーパーファミリー18(TNFRSF18)(GITRまたはAITRともよばれる)のリガンドとなるサイトカインである。TNFS18は、T細胞生存を調節し、T細胞と内皮細胞との間の相互作用に重要であると考えられる。
【0043】
一実施態様においては、該免疫調節因子は膜結合性免疫調節因子である。そのような場合には、本発明のアデノウイルスに感染した癌細胞に発現する免疫調節因子は、好ましくは感染癌細胞の細胞膜に結合する。膜結合した免疫調節因子は、対象において、癌細胞のウイルス感染部位、すなわち、癌細胞または腫瘍の部位に局所免疫応答を誘導することができる。そのような膜結合した免疫調節因子は一般的に可溶性免疫調節因子よりも好ましい;その理由は、可溶性免疫調節因子は癌細胞の当該部位から移動して離れ、それによって対象の所望部位における免疫応答誘導に対する有効性が低下するためである。
【0044】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、1種類のTNFSFメンバー、好ましくは上記の群から選択されるTNFSFメンバーをコードするヌクレオチド配列を含む。そのような場合に、該アデノウイルスは単一TNFSF蛋白質を発現する。別の一実施態様においては、該アデノウイルスは、複数、すなわち、少なくとも2種類の異なるTNFSFメンバーをコードする単一のヌクレオチド配列、または異なる各TNFSFメンバーをコードする複数のヌクレオチド配列を含む。
【0045】
好ましい一実施態様においては、該TNFSFメンバーは、TNFSF5、TNFSF9、TNFSF14、TNFSF18、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0046】
より好ましい一実施態様においては、該TNFSFメンバーは、TNFSF9、TNFSF18、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0047】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、TNFSF9をコードする核酸配列を含む。別の一実施態様においては、該アデノウイルスは、TNFSF18をコードする核酸配列を含む。さらなる一実施態様においては、該アデノウイルスは、TNFSF9をコードする核酸配列およびTNFSF18をコードする核酸配列、またはTNFSF9およびTNFSF18をコードする核酸配列を含む。
【0048】
ヘリコバクターピロリ好中球活性化蛋白質、あるいは略してNAPまたはHP-NAPは、ヘリコバクターピロリ菌感染において毒性因子として作用する十二量体蛋白質である。12個の単量体サブユニットから成り、各サブユニットは4つのαヘリックスで構成される。NAPの表面は高度に正に荷電し、ヒト白血球(WBC;白血球(leukocyte)とも表記される)と相互作用し活性化することができる。
【0049】
NAPは、ヘリコバクターピロリ菌感染において炎症組織への好中球遊走に重要な役割を果たす。NAPは、β2インテグリンの表面発現を上方制御することによって、内皮に結合する好中球および単球の強力な結合ならびに好中球および単球の溢出を促進する。またNAPは、反応性酸素種(ROS)およびミエロペルオキシダーゼを産生することに関して好中球を活性化し得る。NAPは、TNF-αおよびインターロイキン8(IL-8)(ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド8(CXCL8)ともよばれる)などの他の炎症性サイトカインの分泌をも活性化し、それによって血管細胞接着分子(V-CAM)、細胞間接着分子(I-CAM)などの接着分子の発現ならびに内皮細胞によるIL-8の分泌を誘導する。さらに、NAPは、好中球によるIL-8、マクロファージ炎症性蛋白質1アルファ(MIP-1α)およびMIP-1β(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド4(CCL4)ともよばれる)などの複数のサイトカインおよびケモカインの発現分泌をも誘導し得る。これらのサイトカインおよびケモカインはさらに、走化性によって好中球を炎症部位へ誘引する。
【0050】
NAPは、toll様受容体2(TLR-2)作用薬であり、好中球および単球に対して走化性であり、またインビトロおよびインビボの両方でDCを成熟させ得る。NAPは、Th1分極化サイトカインであるIL-12およびIL-23の分泌を刺激することもできる。NAPは、HLA-抗原D関連(HLA-DR)、CD80およびCD86の発現を上方制御することによって、単球を刺激してDCに分化成熟させる。NAPは、細胞傷害性T細胞の補助およびNK細胞活性化に極めて重要な免疫制御機能をも有している。NAPは、T細胞による高レベルIFN-γ分泌および低レベルIL-4分泌を誘導することができ、これもまたTh1分極化応答を示唆している。これは、ヘリコバクターピロリ菌に感染したヒトが強いTh1分極応答を示すとの報告に整合する。
【0051】
一実施態様においては、NAPは、好ましくは以下の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む、またはその配列から成る:
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEEFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEAIKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKYLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:3)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEEFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEAIKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKHLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:4)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEEFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEALKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKYLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:5)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEEFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEALKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKHLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:6)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEGFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEAIKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKYLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:7)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEGFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEALKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKYLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:8)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEGFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEAIKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKHLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:9)
MKTFEILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKATEEIYEGFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEALKLTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKHLEKEFKELSNTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:10)
【0052】
NAPの免疫学的に同等な断片は、NAPの少なくとも20アミノ酸残基(連続する少なくとも20アミノ酸残基など)、好ましくは少なくとも30アミノ酸残基(連続する少なくとも30アミノ酸残基など)、およびより好ましくは少なくとも40アミノ酸残基(連続する少なくとも40アミノ酸残基など)の少なくとも1種類のポリペプチドドメインを含む断片である。
【0053】
NAPの免疫学的に同等な断片の非限定的具体例としては、以下が挙げられる:
配列番号:3-10のアミノ酸番号:5-40に対応する、
EILKHLQADAIVLFMKVHNFHWNVKGTDFFNVHKAT (配列番号:11)
配列番号:3-10のアミノ酸番号110-144に対応する、
NTAEKEGDKVTVTYADDQLAKLQKSIWMLQAHLA (配列番号:12)
配列番号:5-6のアミノ酸番号39-74に対応する、
ATEEIYEEFADMFDDLAERIVQLGHHPLVTLSEALK (配列番号:13)
配列番号:5、10のアミノ酸番号75-110に対応する、
LTRVKEETKTSFHSKDIFKEILEDYKHLEKEFKELS (配列番号:14)
【0054】
NAPの免疫学的に同等な断片に関するさらなる情報がEP1767214B1に記載されており、その第32段落「ヘリコバクターピロリが誘導する胃浸潤物に由来するHP-NAP特異的T細胞によって認識されるHP-NAPの優性T細胞エピトープの定義」に開示されているHP-NAPの免疫学的に同等な断片についての説明は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0055】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、単一NAPをコードする核酸配列、複数の異なるNAPをコードする核酸配列、NAPの単一の免疫学的活性断片をコードする核酸配列、NAPの複数の異なる免疫学的活性断片をコードする核酸配列、または少なくとも1つのNAPをコードする少なくとも1種類の核酸配列およびNAPの少なくとも1種類の免疫学的に活性な断片をコードする少なくとも1種類の核酸配列を含む。
【0056】
一実施態様において、該アデノウイルスは、NAPをコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に活性な断片と該免疫調節因子をコードする核酸配列との間に配置される自己開裂ペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。
【0057】
本明細書中の「自己開裂ペプチド」は、細胞において蛋白質の翻訳中にリボソームスキッピングを誘発することができるペプチドである。見かけの開裂は、自己開裂ペプチドのC末端に位置するプロリン(P)とグリシン(G)との間のペプチド結合におけるリボソームスキッピングによって起こるが、その結果、自己開裂ペプチドの上流に位置するペプチドまたは蛋白質は、そのC末端に余分なアミノ酸を含み、自己開裂ペプチドの下流に位置するペプチドまたは蛋白質は、そのN末端に余分のプロリンを含むようになる。
【0058】
一実施態様においては、該自己開裂ペプチドは自己開裂性2Aペプチドであり、これは2Aペプチドともよばれる。そのような自己開裂性2Aペプチドは、DxExNPGP(配列番号:15)のコア配列モチーフを含む。一実施態様においては、自己開裂性2Aペプチドは、ゾーシーアシグナ(Thosea asigna)ウイルス2Aペプチド(T2A)、ブタテッショウウイルス-1の2Aペプチド(P2A)、ウマ鼻炎Aウイルス2Aペプチド(E2A)および口蹄疫ウイルス2A(F2A)から成る群から選択される。一実施態様においては、T2Aはアミノ酸配列:
EGRGSLLTCGDVEENPGP(配列番号:16)またはGSGEGRGSLLTCGDVEENPGP(配列番号:17)から成る。一実施態様においては、P2Aはアミノ酸配列:
ATNFSLLKQAGDVEENPGP(配列番号:18)またはGSGATNFSLLKQAGDVEENPGP(配列番号:19)から成る。一実施態様においては、E2Aはアミノ酸配列:
QCTNYALLKLAGDVESNPGP(配列番号:20)またはGSGQCTNYALLKLAGDVESNPGP(配列番号:21)から成る。一実施態様においては、F2Aはアミノ酸配列:
VKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号:22)またはGSGVKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号:23)から成る。
【0059】
NAPおよび/またはその免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列と該免疫調節因子をコードする核酸配列との間に自己開裂ペプチドをコードする核酸配列を含むことによって、NAPおよび/またはその免疫学的に同等な断片ならびに該免疫調節因子は、互いに独立に、およびアデノウイルスゲノムの他の蛋白質とは独立に、その正確な翻訳および折りたたみが促進されるのである。
【0060】
一実施態様においては、該アデノウイルスは腫瘍溶解性アデノウイルスである。腫瘍溶解性アデノウイルスは、癌細胞で選択的に複製可能なアデノウイルスである。そのような腫瘍溶解性アデノウイルスは、癌細胞で選択的に複製され、すなわち、腫瘍親和性を有しており、好ましくは癌細胞を溶解可能である;すなわち、腫瘍溶解可能である。
【0061】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、腫瘍溶解性となるように工学的に改変される、すなわち、癌細胞で選択的に複製するように改変される。好ましい一実施態様においては、該腫瘍溶解性アデノウイルスは、野生型E1A蛋白質と比較してより低いRb結合能を有する変異E1A蛋白質をコードする変異アデノウイルス初期領域1A(E1A)遺伝子を含む。
【0062】
アデノウイルスのE1A蛋白質は、感染した宿主細胞の細胞内Rb蛋白質に結合する。E1A蛋白質の細胞内Rb蛋白質への結合によって、E2Fが放出されるが、これによって、E2(ウイルス複製に関与する蛋白質をコードする)、E3(宿主の抗ウイルス性免疫応答を阻害する蛋白質をコードする)、およびE4(ウイルスリボ核酸(RNA)輸送に関与する蛋白質をコードする)などの他のウイルス遺伝子および細胞周期を活性化する細胞遺伝子の転写が活性化する。
【0063】
E1A蛋白質が細胞内Rb蛋白質に結合することを阻害する、または完全に妨害するなど、結合を弱めることによって、アデノウイルスを癌細胞選択的または腫瘍細胞選択的なウイルスにする。したがって、変異E1A蛋白質をコードする変異E1A遺伝子を含むアデノウイルスは、癌細胞中での複製が可能であり、癌細胞を溶解させることができるが、健康または正常な細胞、すなわち非癌細胞では複製および溶解は起こらない。
【0064】
一実施態様においては、該変異E1A遺伝子は、野生型E1A遺伝子のヌクレオチド919~943に対応する24塩基対(bp)の欠失を含む。この24bpの欠失は、ヌクレオチドcttacctgccaggaggctggcttt(配列番号:24)に対応する。これらの24ヌクレオチドは、E1A蛋白質のアミノ酸121~128をコードする。したがって、該変異E1A蛋白質は野生型E1A蛋白質のLTCHEACF(配列番号:25)に対応するアミノ酸121~128を欠如する。
【0065】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、19kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードする核酸配列および55kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードする核酸配列を欠如する。
【0066】
一実施態様においては、19kDaのアデノウイルスE1B蛋白質および55kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードする核酸配列の一方が、NAPをコードする核酸配列および/またはNAPの免疫学的に同等な断片をコードする核酸配列で置換され、19kDaのアデノウイルスE1B蛋白質および55kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードする核酸配列の他方が、該免疫調節因子をコードする核酸配列で置換される。
【0067】
したがって、好ましい一実施態様においては、19-kDaのE1B蛋白質および55-kDaのアデノウイルスE1B蛋白質をコードするアデノウイルスの核酸配列は、NAPおよび/またはその免疫学的に同等な断片、および該免疫調節因子をコードする核酸配列で置換される。
【0068】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、図1に示すような、該免疫調節因子をコードする核酸配列、それに後続する自己開裂ペプチドをコードする核酸配列、およびそれらに後続するNAPおよび/またはその免疫学的に活性な断片をコードする核酸配列を含む。別の一実施態様においては、該アデノウイルスは、NAPおよび/またはその免疫学的に活性な断片をコードする核酸配列、それに後続する自己開裂ペプチドをコードする核酸配列およびそれらに後続する該免疫調節因子をコードする核酸配列を含む。
【0069】
一実施態様においては、該アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス5型、好ましくは腫瘍溶解性ヒトアデノウイルス5型である。
【0070】
ヒトアデノウイルス5型(Ad5)はC群に属し、36キロベースの直鎖状デオキシリボ核酸(DNA)をパッケージする蛋白質二十面体カプシドによって形成されるウイルスである。成人ではAd5感染は通常無症候性であり、他方、小児では普通感冒および結膜炎を引き起こす。一般的に、Ad5は上皮細胞に感染するが、この上皮細胞は、自然感染の経過では気管支上皮の細胞である。カプシド12頂点のアンテナとして伸長するウイルス蛋白質である繊維が、細胞間接着に関与する細胞蛋白質であるコックサッキー=アデノウイルス受容体(CAR)と相互作用することにより、Ad5は細胞に侵入する。ウイルスDNAが細胞核に到達すると、ウイルスの初期遺伝子(E1~E4)は、規則正しく順番に転写を開始する。発現する第1のウイルス遺伝子は、初期領域1A(E1A)の遺伝子である。E1Aは細胞内蛋白質Rbに結合して、E2Fを放出するが、E2Fは、E2(ウイルス複製に関与する蛋白質をコードする)、E3(宿主の抗ウイルス性免疫応答を阻害する蛋白質をコードする)、およびE4(ウイルスリボ核酸(RNA)輸送に関与する蛋白質をコードする)などの他のウイルス遺伝子ならびに細胞周期を活性化する細胞遺伝子の転写を活性化する。さらに、E1Bはp53に結合して、細胞周期を活性化し、感染細胞のアポトーシスを妨害する。初期遺伝子の発現によってウイルスDNAが複製し、DNA複製が起こると、その主要後期プロモーターが活性化して、カプシド形成構造蛋白質をコードする全てのRNAを差次的スプライシングで生成するメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を指令する。
【0071】
本発明の他の一局面は、治療薬剤として用いる実施態様にしたがうアデノウイルスに関する。
【0072】
本発明のさらなる一局面は、癌治療に用いる実施態様にしたがうアデノウイルスに関する。
【0073】
本発明の関連する一局面では、癌治療の治療薬剤の製造のための本実施態様にしたがうアデノウイルスの用途を定義する。
【0074】
本発明はさらに癌治療の方法に関する。該方法は、有効量の本実施態様にしたがうアデノウイルスを、癌に罹患した対象に投与することを含む。
【0075】
本明細書中の「治療する」または「治療」は、当該技術分野においては充分理解されていることであり、臨床的結果を含む有益な、あるいは所望の結果を得るためのアプローチを意味している。有益な、あるいは所望の臨床結果は、例えば、1種類以上の症状または病態の緩和または改善、癌疾患の程度の軽減、癌疾患の安定化状態、すなわち、悪化の予防、癌疾患の広がりの予防、疾患進行の遅延または緩徐化、癌の病状の改善または緩和、癌疾患再発の低減、および寛解を含み得る。「治療する」または「治療」はまた、治療を全く受けない場合の予想生存と比較して生存を延長させ得る。本明細書中の「癌治療」は、対象において癌を阻害することおよび予防的処置をも含む。
【0076】
本明細書中の「予防する」または「予防」は、当該技術分野においては充分理解されていることであり、癌疾患の発症を先に延ばす、または遅延させることを含む、癌疾患または病態の発症リスクを低下させる、または取り除くアプローチを意味する。例えば、癌疾患を発症する素因(遺伝的または遺伝性の素因によるものなど)のある患者は、癌予防、癌疾患リスクの低下、癌疾患発症の遅延および/または緩徐化において、本実施態様のアデノウイルスの投与することの恩恵を受け得る。
【0077】
癌または癌疾患は、好ましくは癌腫(膵癌、乳癌、肺癌、肝臓癌、または腎臓癌など);肉腫(骨肉腫または脂肪肉腫など);リンパ腫(非ホジキンリンパ腫またはホジキンリンパ腫など);白血病(急性白血病または慢性白血病など);精上皮腫;胚細胞腫;未分化胚細胞腫;および芽細胞腫(膠芽細胞腫または神経芽細胞腫など)から成る群から選択される。特定の一実施態様においては、該癌は膵癌などの癌腫である。
【0078】
該患者は好ましくはヒト患者である。しかし、該実施態様はまた獣医学的応用も可能である;すなわち、例えば、霊長類、サル、類人猿、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、マウス、ラットおよびモルモットを含む非ヒト哺乳動物などの非ヒト患者への応用も可能である。
【0079】
該アデノウイルスは、例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内または腫瘍内投与を含む各種の経路で、該患者に投与するのであってもよい。
【0080】
該アデノウイルスは、典型的には、該アデノウイルスを含む医薬組成物の形態で投与される。該医薬組成物は、1種類以上の薬学的に許容可能な担体、ビヒクルおよび/または添加剤をさらに含んでいてもよい。そのような薬学的に許容可能な担体、ビヒクルおよび添加剤の非限定的な例としては、注射溶液(食塩水または緩衝液性注射溶液など)が挙げられる。
【0081】
好ましい該医薬組成物は有効量のアデノウイルスを含む。本明細書中の「有効量」は、所望の結果を達成するのに必要な用量および期間において有効な量を指す。例えば、腫瘍増殖の阻害に関しては、有効量は、細胞を投与せずに得られる応答と比較して、例えば、寛解を誘導する、腫瘍負荷を軽減する、および/または腫瘍の広がりまたは増殖を予防する量である。有効量は、患者の病状、年齢、性別、体重などの因子によって異なり得る。
【0082】
実施例
実施例1:アデノウイルスの構築
材料と方法
アデノウイルスプラスミドおよびウイルス
組換えアデノウイルスゲノムの工学的改変にはpAdEasyシステムを用いた。野生型アデノウイルスゲノムに対応する配列を含むDNA構築物を合成したが、そのE1Aコード配列は変異型で、24bpの欠失を有する(E1a-Δ24)(Fueyo、Jら、「Rb経路を標的とする変異体腫瘍溶解性アデノウイルスは、インビボで抗神経膠腫効果を発揮する(A mutant oncolytic adenovirus targeting the Rb pathway produces anti-glioma effect in vivo)」、Oncogene (2000) 19(1): 2-12);また、天然のp19Kおよびp55Kのコード配列は、TNFSF9(SF9)またはTNFSF18(SF18)のコード配列、ゾーシーアシグナ(Thosea asigna)ウイルス2A(T2A)の自己開裂2Aペプチド、およびヘリコバクターピロリ菌の好中球活性化蛋白質(NAP)で置換した。ヒトおよびマウスのTNFSF9またはTNFSF18の両方を構築し、実験条件に合わせて用いた(すなわち、ヒト細胞株にはヒト遺伝子を用い、他方、マウスモデルではマウス遺伝子を用いた)。これらの構築物を空のpShuttleにクローン化してpSh(O9B)およびpSh(O18B)を作成した。pShuttleプラスミドをさらにpAdEasyf35で組み換え、pAd(O9B)およびpAd(O18B)を作成した;これらを、腫瘍溶解性ウイルスAd(O9B)およびAd(O18B)の作成に用いた。同様の方法で、非複製アデノウイルスAd(Luc)を作成し陰性対照として用いた。さらに、2種類の対照ウイルスを同様の方法で作成した;そのうちのAd(O)は、24bpの欠失を有する変異E1Aを含むが導入遺伝子発現を欠くものであり、他方、Ad(OB)は、24bpの欠失を有する変異E1Aを含み、導入遺伝子発現としてNAPのみを有するものであった。
【0083】
細胞株および培養条件
ヒト胚性網膜芽細胞腫911細胞(Crucell、ライデン、オランダ)は、加湿恒温器(5%CO、37℃)で培養した。この細胞株は、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、1mMピルビン酸ナトリウムおよび100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(PEST)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)Glutamaxで維持した。用いた材料はいずれも、Thermo Fisher Scientificから購入した。
【0084】
ウイルス産生および増幅
ポリエチレンイミン(PEI、Polysciences社)の添加により、90%コンフルエントの911細胞を12μgのPacI消化pAd5(E1AD24-A-B)DNAで形質導入した後に、組換えアデノウイルスが産生された。5日以内にほぼ半分の細胞が丸い核を呈し剥離が起こったので、細胞変性効果(CPE)は明らかであった。この形質導入細胞を6日目に回収して、凍結/解凍サイクルを反復することにより細胞溶解し細胞質ウイルス粒子を放出させた。911細胞の順次形質導入サイクルにより、アデノウイルス力価は増加した。4℃で25,000回/分(rpm)のCsCl勾配超遠心分離を2時間行ってウイルスを精製し、保存液(10mM Tris-HCl(pH8.0)、2mM MgClおよび4%w/vスクロース)で透析した。精製したウイルスを分注して-80℃で保存した。
【0085】
結果
全てのウイルスDNAを構築しウイルスを高力価で生産することができる。ウイルス構築物、それらの名称およびゲノム配置を図1に示す。導入遺伝子(Luc、SF9、SF18、NAP)および変異(E1a-Δ24)が示されており、ゲノム中の各修飾位置は野生型ゲノム配置に準拠して示されている。
【0086】
実施例2:NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現する腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞を特異的に殺滅し効率的に複製した
細胞株および培養条件
ヒト膵癌細胞株Panc01(ATCC、米国から購入した)、およびMiaPaCa-2(ATCC、米国から購入した)を加湿恒温器(5%CO、37℃)で培養した。これらの細胞株は、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、1mMピルビン酸ナトリウムおよび100 U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(PEST)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)Glutamaxで維持した。用いた材料はいずれも、Thermo Fisher Scientificから購入した。
【0087】
MTS殺滅アッセイ
Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞(1x10細胞)に、異なるウイルスにより感染多重度(MOI)0.1~1000で形質導入し(対応する数/容積200μLの培地で細胞とウイルスを混合)、96穴プレートに播種した;5日後にアラマーブルー(Alamar Blue)化合物で細胞生存率を測定した。細胞生存率は、非処理対照細胞と比較した生細胞の割合(%)として算定した。結果を独立した3回の実験の平均値で表す。
【0088】
対照ウイルスAd(Luc)は細胞殺滅を全く示さなかったが、工学的に改変したAd(O9B)およびAd(O18B)は両方とも、Ad(O)およびAd(OB)と比較して同程度の細胞殺滅能を示した;このことは、付加的導入遺伝子、すなわちTNFSF9またはTNFSF18の挿入が、ウイルス殺滅能に負の影響を与えないことを示している(図2)。
【0089】
複製アッセイ
異なるウイルスをMOI=50で用いて、Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞(1x10細胞)に形質導入し、細胞を96穴プレートに播種した。High Pure Viral Nucleic Acidキット(Roche)を用い、異なる時点で細胞からウイルスDNAを抽出し、アデノウイルス特異的プライマー(順方向プライマー:CATCAGGTTGATTCACATCGG(配列番号:1)、逆方向プライマー:GAAGCGCTGTATGTTGTTCTG(配列番号:2))を用いて定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を実施した。
【0090】
対照ウイルスAd(Luc)はいずれの細胞株でも複製することはなかったが、組換えウイルスAd(O9B)およびAd(O18B)は、両方の細胞株において複製した(図3)。Panc01細胞株では、ウイルスAd(O)およびAd(OB)と比較して、いずれかの導入遺伝子(TNFSF9またはTNFSF18)の挿入によりウイルス複製の増加が実際に認められた。MiaPaCa-2細胞株では、全ての腫瘍溶解性ウイルスに関して複製は同程度であった。
【0091】
実施例3:NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現しても、導入遺伝子発現に対しては負の影響を与えなかった
導入遺伝子発現
各種のウイルスをMOI=50で用いて、Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞(1x10細胞)に形質導入し、細胞を6穴プレートに播種した。TNFSF9またはTNFSF18の導入遺伝子発現は、形質導入から2日後にフローサイトメトリーで判定した。
【0092】
予想通り、対照ウイルスで形質導入した細胞はいずれも導入遺伝子TNFSF9を発現せず、またTNFSF18も発現しなかった。しかし、Ad(O9B)ウイルスで形質導入した細胞では、TNFSF9を高レベルで発現し、Ad(O18B)ウイルスで形質導入した細胞では、TNFSF18を高レベルで発現した(図4)。これらのデータは、NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18のいずれかを共発現させても、TNFSF9またはTNFSF18の発現には負の影響を与えないことを示している。
【0093】
実施例4:NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現することによって、免疫原性細胞死の誘導が起こる
異なるウイルスをMOI=50で用いて、Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞(5x10細胞)に形質導入し、細胞を48穴プレートに播種した。上記の実施例で導入遺伝子の確認が成されたので、これ以降は、NAPと共に導入遺伝子TNFSF9またはTFNSF18を共発現する腫瘍溶解性ウイルス、すなわち、Ad(O9B)およびAd(O18B)のみを試験した。形質導入から48時間後に、フローサイトメトリーにて細胞表面カルレティキュリン(CRT)レベルを観察し、またATP測定キット(Invitrogen)を用いて上清中のアデノシン三リン酸(ATP)放出を測定することにより、免疫原性細胞死(ICD)を調べた。
【0094】
非腫瘍溶解性対照ウイルスAd(Luc)は、未処理細胞と比較してICDに関する何らの徴候も誘発しなかった;CRTレベルの増加もATP放出の増加も起こらなかった。他方、腫瘍溶解性ウイルスで形質導入した全細胞が、高レベルCRTを示し、またATPを高レベルで放出した(図5);このことは、形質導入細胞でICDが起こったことを示している。
【0095】
実施例5:NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現することによって、樹状細胞成熟が誘導された
異なるウイルスをMOI=50で用いて、Panc01細胞およびMiaPaCa-2細胞(5x10)に形質導入し、細胞を48穴プレートに播種した。形質導入から48時間後に、異なるドナーに由来する未成熟樹状細胞(DC)を共培養に添加し、18時間後にDC活性化マーカー(分化80(CD80)、CD40、CD86、C-Cケモカイン受容体7型(CCR7)のクラスター)の表面発現レベルを測定することにより、DC成熟を調べた。結果を独立した3回の実験の平均値で表す。
【0096】
図6に示される、成熟/活性化マーカー(CD80、CD40、CD86、CCR7)の表面発現亢進から分かるように、組換え腫瘍溶解性ウイルスAd(O9B)またはAd(O18B)による細胞形質導入は、共培養においてDCを成熟および活性化させることが可能であった。NAPと共に導入遺伝子TNFSF9またはTNFSF18を共発現させることにより、DCの成熟および活性化を誘導することが可能であった。
【0097】
実施例6:NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現する腫瘍溶解性ウイルスは、T細胞およびNK細胞の活性化を誘導し、細胞傷害性機能を発揮した
Panc02細胞(100μlのダルベッコのリン酸緩衝性生理食塩水(DPBS)中1x10細胞)を、6~8週齢のメスC57Bl/6マウス(Taconic、Silkeborg、デンマーク)の右後ろ脇腹に皮下(s.c.)移植した。これらのマウスにおいて、腫瘍接種から12日後に腫瘍が触知可能(サイズ約50mm)な場合に、PBS(50μl)または各種のウイルス(50μlのPBS中1×1011ウイルス粒子(VP))を用いて腫瘍内(i.t.)処置した。腫瘍浸潤性CD8およびCD4 T細胞の両方、およびNK細胞の活性化を処置から3後日に調べた。さらに、ウイルス処置後に脾細胞を単離して、Panc02に混合し、上清へのIFN-γ放出を調べた。
【0098】
対照ウイルス処置では、T細胞もNK細胞も活性化しなかった。他方、表面マーカーCD69およびCD107aの上方制御(図7A)から分かるように、Ad(O9B)処置およびAd(O18B)処置はいずれもT細胞およびNK細胞を活性化した。さらに、腫瘍細胞に反応してかなりの量のIFN-γを放出した内在性脾細胞によって示されるように、Ad(O9B)処置およびAd(O18B)処置はまたメモリーを生成させた(図7B)。
【0099】
実施例7:NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現する腫瘍溶解性ウイルスによって、治療効果の増強が起こった
Panc02細胞(100μlのDPBS中1x10細胞)を、6~8週齢のメスC57Bl/6マウス(Taconic、Silkeborg、デンマーク)の右後ろ脇腹に皮下(s.c.)移植した。これらのマウスにおいて、腫瘍接種から7、10、および12日後に腫瘍が触知可能(サイズ約50mm)な場合に、PBS(50μl)または各種のウイルス(50μlのPBS中1×1011VP)を用いて腫瘍内(i.t.)処置した。
【0100】
別の一組の実験では、Panc01細胞(DPBSとマトリゲルの1:1混合物100μl中に、5x10細胞)を、6~8週齢のメス無胸腺ヌードマウス(JANVIER Labs、フランス)の右後ろ脇腹に皮下(s.c.)移植した。これらのマウスにおいて、腫瘍接種から7、10、および12日後に腫瘍が触知可能(サイズ約50mm)な場合に、PBS(50μl)または各種のウイルス(50μlのPBS中1×1011VP)を用いて腫瘍内(i.t.)処置した。
【0101】
腫瘍容積が試験のエンドポイント容積(EPV、1000mm)を超えるまで、これらの動物の腫瘍増殖について個別的にモニターを行った。腫瘍のサイズは、楕円体容積の公式:
腫瘍容積 = (長さ x 幅 x π)/6
を用いて算出した。
【0102】
各マウスについて終点(TTE)に至るまでの時間を:
TTE = [log(EPV) - b]/m
として計算した;ここで定数bは、時間の線形回帰によって得られた直線の切片であり、mは傾きである。EPVを超過した最初の測定腫瘍容積から成るlog変換腫瘍増殖データセット、およびEPVに到達直前に3回連続測定した腫瘍容積。生存曲線はカプラン=マイヤー法を用いてTTE値に基づいて作成し、ログランク(マンテル=コックス)検定を用いて比較を行った。
【0103】
Panc02モデルおよびPanc01異種移植片モデルの両方において、腫瘍溶解性ウイルスAd(O)およびAd(OB)は、腫瘍増殖を僅かに阻害し、マウスの生存を僅かに延長することが可能であった(図8および9)。他方、Ad(O9B)およびAd(O18B)は、(Panc02モデルにおいてのみ)腫瘍増殖を大幅に遅延させ、マウスの生存を延長した(図8および9)。Panc02モデルのデータは、NAPと共にTNFSF9またはTNFSF18を共発現することによって、宿主免疫応答を有意に活性化し、治療的抗腫瘍効果を達成したことを示している。Panc01モデルのデータは、NAPとTNFSF9の共発現は強力な抗腫瘍効果をもたらし、特にこのヒト異種移植片モデルではアデノウイルス複製が許容性であることを示している。
【0104】
実施例8:NAPと共に免疫原GD2ミモトープを共発現する腫瘍溶解性ウイルスは、治療効果を増強しなかった
NXS2細胞(100μlのDPBS中に、1x10細胞)を、6~8週齢のメスA/Jマウス(Envigo、オランダ)の右後ろ脇腹に皮下(s.c.)移植した。これらのマウスにおいて、腫瘍接種から7日後に腫瘍が触知可能(サイズ約50mm)な場合に、PBS(50μl)または各種の工学的に作成した腫瘍溶解性セムリキ森林熱ウイルス(50μlのPBS中1×1011VP)を用いて腫瘍内(i.t.)処置した。
【0105】
動物のモニターリング、腫瘍サイズ測定、および生存曲線の作成は、実施例7に記載する方法で実施した。
【0106】
腫瘍溶解性ウイルスはいずれも、腫瘍増殖を有意に阻害しマウスの生存を延長した(図10)。他方、A774-NAPGD2におけるNAPと免疫原GD2ミモトープの共発現は、単一因子(GD2またはNAP)を発現する腫瘍溶解性ウイルスと比較して、腫瘍増殖阻害もこれらマウスの生存延長も引き起こさなかった(図10)。これらのデータは、免疫調節因子とNAPとを共発現することによって得られる相乗効果が、免疫原と共にNAPを共発現する場合には起こらないことを示唆している。
【0107】
上記の実施態様は、本発明の少数の具体例であることを理解されたい。本発明の範囲を逸脱することなく、実施態様に様々な変更、組み合わせおよび変形を加え得ることは、当業者であれば理解するであろう。特に、異なる実施態様において、技術的に可能な他の構成を用いて異なる部分の解決策を組み合わせることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024515290000001.app
【国際調査報告】