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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】粗タンパク質溶液を清澄化する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20240401BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C07K1/14
C07K1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564017
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2022059593
(87)【国際公開番号】W WO2022223344
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2105559.5
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】サイティバ・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】グスタフ・ロドリーゴ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA50
4H045CA40
4H045DA76
4H045GA01
4H045GA10
4H045GA15
4H045GA21
(57)【要約】
粗タンパク質溶液を清澄化する方法であって、ある量の粗タンパク質溶液を提供すること(100)、第1の溶液を形成する、Na2HPO4及びCaCl2を水中で混合すること(101)、第1の溶液をある量の粗タンパク質溶液に添加それによって第2の溶液を形成すること(102)、を含む方法。NaClは第1の溶液、粗タンパク質溶液に、及び/又は第2の溶液に添加される。第2の溶液を混合する(103)。このように形成されたフロキュレーションした物質を第2の溶液から分離し、清澄化されたタンパク質溶液を得る(104)。清澄化されたタンパク質溶液は、その後、クロマトグラフィーによって精製されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗タンパク質溶液を清澄化する方法であって、
-ある量の粗タンパク質溶液を提供する工程(100)、
-Na2HPO4及びCaCl2を水中で混合し、第1の溶液を形成する工程(101)
-第1の溶液をある量の粗タンパク質溶液に添加し、それによって第2の溶液を形成する工程(102)、
NaClが第1の溶液、粗タンパク質溶液、及び/又は第2の溶液に添加され、
-第2の溶液を混合する工程(103)、
-このように形成されたフロキュレーションした物質を第2の溶液から分離し、清澄化されたタンパク質溶液を得る工程(104)、
を含む方法。
【請求項2】
第2の溶液中のNaClの濃度が0.2~1.0mol/Lであり、PO4 2-の濃度が0.01~0.1mol/Lであり、Ca2+の濃度が0.01~0.1mol/Lであり、NaClのPO4 2-に対するモル比は2:1~100:1であり、Ca2+のPO4 2-に対するモル比は1:10~10:1であり、前記濃度及び前記比はすべて、粗タンパク質溶液へのNaCl、Na2HPO4及びCaCl2の添加に基づいて計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の溶液が少なくとも10分間混合される(103)、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
クロマトグラフィーによるタンパク質の精製方法であって、
-タンパク質に対して結合親和性を有するリガンドを備えたクロマトグラフィー支持体を提供する工程(200)、
-請求項1又は2に記載の方法に従って得られた清澄化されたタンパク質溶液を提供する工程(201)、
-清澄化されたタンパク質溶液をクロマトグラフィー支持体に添加し、リガンドがタンパク質を捕捉できるようにする工程(203)、
-クロマトグラフィー支持体を洗浄する工程(204)、
-クロマトグラフィー支持体からタンパク質を溶出する工程(205)、
-このように形成されたタンパク質を含む溶出液を回収する工程(206)、
を含む方法。
【請求項5】
クロマトグラフィー支持体が、繊維状基材のような対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
繊維状基材が繊維状の不織ポリマーマトリックスである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
清澄化されたタンパク質溶液が、クロマトグラフィー支持体に添加される(203)前に、遠心分離及び/又は濾過される(202)、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粗タンパク質溶液を清澄化する方法、及び清澄化された粗タンパク質溶液からクロマトグラフィーによってタンパク質を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的のタンパク質を生産するために使用される細胞培養物から採取を介して得られた粗タンパク質溶液から、例えば抗体やモノクローナル抗体(mAb)のようなタンパク質を精製するには、通常、先行する遠心分離工程の有無にかかわらず、様々な濾過工程を組み合わせた使用を必要とする。
【0003】
例えばCytiva社のHiTrap Fibro PrismAユニットのような電気紡糸(electrospun)セルロース繊維をベースとする繊維状基材のような対流ベースのクロマトグラフィー(convection-based chromatography)支持体は、高流速と高結合容量の組合せを可能にし、それゆえ、例えばmAb精製における使用に対し関心がもたれている。mAb溶液が十分に清澄化されていない場合、すなわち繊維状基材に添加された場合に、例えば脂質/リポタンパク質及び/又はDNAのような不純物が存在することによって、圧力が著しく上昇するため、繊維状基材は限られたサイクル数しか使用できない場合がある。
【0004】
したがって、タンパク質の精製に使用する支持体の寿命を延ばすような、清澄化方法が必要とされている。
【0005】
粗モノクローナル抗体溶液を清澄化する方法の1つが、IP.com番号IPC0M000178290Dに記載されている。この開示では、塩化カルシウムとリン酸ナトリウムを水中で混合してヒドロキシアパタイト結晶スラリーを形成し、これを抗体溶液と混合する。混合物を撹拌し、続いて遠心分離を行い、フロキュレーションした/沈殿した細胞及びサブミクロン粒子を溶液から除去し、清澄化された抗体溶液を残す。
【0006】
繊維状基材のような対流ベースのクロマトグラフィー支持体を使用するクロマトグラフィー用途では、この用途のために特別に開発されたタンパク質溶液の清澄化法が有用であろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IP.com番号 IPC0M000178290D
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、粗タンパク質溶液を清澄化する方法、及びクロマトグラフィーを用いて清澄化されたタンパク質溶液からタンパク質を精製する方法を提供することであり、クロマトグラフィー支持体は、繊維状基材のような対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスであってもよい。
【0009】
本発明は、添付の独立請求項によって定義される。非限定的な実施形態は、従属請求項、添付図面及び以下の説明から現れる。
【0010】
第1の態様によれば、粗タンパク質溶液を清澄化する方法が提供される。本方法は、ある量の粗タンパク質溶液を提供すること、第1の溶液を形成する、Na2HPO4及びCaCl2を水中で混合すること、及び第1の溶液をある量の粗タンパク質溶液に添加し、それによって第2の溶液を形成することを含む。NaClは第1の溶液、粗タンパク質溶液、及び/又は第2の溶液に添加される。その後、第2の溶液を混合し、このように形成されたフロキュレーションした物質を第2の溶液から分離し、清澄化タンパク質溶液を得る。
【0011】
粗タンパク質溶液は、抗体、モノクローナル抗体、インスリン又は任意の種類の目的のタンパク質等のタンパク質を含んでいてもよい。粗タンパク質溶液は、目的のタンパク質を産生するために使用される細胞培養物(哺乳動物、酵母、植物、細菌又は昆虫細胞株等)から採取して得ることができる。粗タンパク質溶液は、目的のタンパク質とは別に、細胞、細胞部分、宿主細胞タンパク質、DNA、並びに脂質及びリポタンパク質等のサブミクロン粒子のような1つ又は複数の不純物を含んでいてもよい。或いはタンパク質溶液は、細胞を含まないこともある。
【0012】
第1の溶液では、Na2HPO4及びCaCl2はヒドロキシアパタイト結晶を形成する。第1の溶液に添加されたNaClは、形成された結晶にタンパク質が結合するのを妨げると考えられている。当業者は、NaClがヒドロキシアパタイトからのタンパク質の天然の溶出剤であることを知っている。
【0013】
第2の溶液の混合後、タンパク質溶液中に存在する不純物成分、例えば細胞、細胞部分、脂質及びリポタンパク質等のサブミクロン粒子が、形成された結晶と共にフロキュレーションした物質を形成する。
【0014】
第2の溶液からのフロキュレーションした物質の分離は、遠心分離によって得ることができ、タンパク質は形成された上清中に存在する。
【0015】
清澄化されたタンパク質溶液は、溶液中の脂質、リポタンパク質及び/又はDNAの量が減少しているため、粒子含量が低い。更に、この方法は高いタンパク質収率をもたらす可能性がある。
【0016】
その後、清澄化されたタンパク質溶液は、例えばCytiva社のHiTrap Fibroユニットを用いて精製されうる。ファイバー/メンブレンユニットは、同じ方法で清澄化されないタンパク質溶液がそのようなファイバー/メンブレンユニットを用いて精製される場合と比較して、著しい圧力上昇を伴うことなく、繰り返しサイクル数使用されうる。
【0017】
第2の溶液中のNaClの濃度は0.2~1.0mol/Lであってもよく、PO4 2-の濃度は0.01~0.1mol/Lであってもよく、Ca2+の濃度は0.01~0.1mol/Lであってもよく、NaClのPO4 2-に対するモル比は2:1~100:1であってもよく、Ca2+のPO4 2-に対するモル比は1:10~10:1であってもよい。前記濃度及び前記比はすべて、粗タンパク質溶液へのNaCl、Na2HPO4及びCaCl2の添加に基づいて計算される。
【0018】
上記のNaCl、Na2HPO4及びCaCl2の濃度及び比は、元の粗タンパク質溶液中にこれらのイオンが存在する可能性を考慮していない。
【0019】
ある量の粗タンパク質溶液は、第2の溶液の量の50~95%を占め、それにより第2の溶液中でタンパク質溶液の希釈が行われる。
【0020】
粗タンパク質溶液に添加する様々な塩の最適な濃度と比は、特定の粗タンパク質溶液、すなわち、溶液中の細胞(もしあれば)及び細胞成分の量と、得られるタンパク質溶液の清澄化要件に依存する場合がある。
【0021】
ある具体例では、第2の溶液は20mM CaCl2、50mM Na2HPO4及び600mM NaClを含んでいた。
【0022】
第2の溶液は、少なくとも10分間混合されうる。
【0023】
溶液は、例えばボルテックスを使用して混合されうる。混合時間は、少なくとも10分、少なくとも30分、少なくとも60分又は少なくとも90分であってもよい。混合はまた、回転撹拌の混合を含んでもよい。
【0024】
フロキュレーションは多かれ少なかれ瞬時に起こるが、回転撹拌で混合する等、第2の溶液での反応時間を長くすることで、フロキュレーションの程度やヒドロキシアパタイトへの分子の吸着の程度を高めることができる。
【0025】
第2の態様によれば、クロマトグラフィーによるタンパク質の精製方法が提供される。本方法は、タンパク質に対して結合親和性を有するリガンドを備えたクロマトグラフィー支持体を提供すること、上記の方法に従って得られた清澄化されたタンパク質溶液を提供すること、及び清澄化されたタンパク質溶液をクロマトグラフィー支持体に添加し、リガンドがタンパク質を捕捉できるようにすることを含む。その後、クロマトグラフィー支持体を洗浄し、クロマトグラフィー支持体からタンパク質を溶出し、このように形成されたタンパク質を含む溶出液を回収する。
【0026】
リガンドの選択は精製するタンパク質によって異なる。例えば、プロテインA、プロテインG、プロテインL、目的のタンパク質に結合する特異的抗体等である。
【0027】
上記の方法で清澄化したタンパク質溶液を添加することによって、クロマトグラフィー支持体は、大きな目詰まりの問題や著しい圧力上昇を伴うことなく、複数回、セットアップや条件によっては100回以上再利用されうる。
【0028】
クロマトグラフィー支持体は、拡散ベースのマトリックスであってもよい。クロマトグラフィー支持体の有効孔径は0.01~2.0μmであってもよい。拡散ベースのマトリックスの例としては、アガロースベースのクロマトグラフィー支持体がある。
【0029】
クロマトグラフィー支持体は、対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスを含む可能性がある。前記対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスは、繊維状基材であってもよい。前記繊維状基材は、電気紡糸ポリマー繊維又はセルロース繊維、場合により不織繊維をベースとしてもよい。このように、繊維状基材は、繊維状の不織ポリマーマトリックスであってもよい。前記繊維状基材に含まれる繊維は、10~1000nm、例えば200~800nm、200~400nm又は300~400nmの断面直径を有する。このような繊維状基材は、Cytiva社のHiTrap Fibroユニットに見出すことができる。
【0030】
清澄化されたタンパク質溶液は、クロマトグラフィー支持体に添加される前に、遠心分離及び/又は濾過されうる。
【0031】
清澄化されたタンパク質溶液は、タンパク質溶液に残存する固形粒子を除去するために、遠心分離及び/又は濾過されうる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1a】粗モノクローナル抗体溶液の精製に使用した場合、モノクローナル抗体溶液の前処理を行わない場合と、前フロキュレーション処理を行った場合のそれぞれについて、特定のクロマトグラフィー支持体が目詰まりや著しい圧力上昇を起こすことなく再利用できるサイクル数を示したグラフの図である。
図1b】粗モノクローナル抗体溶液の精製に使用した場合、モノクローナル抗体溶液の前処理を行わない場合と、前フロキュレーション処理を行った場合のそれぞれについて、特定のクロマトグラフィー支持体が目詰まりや著しい圧力上昇を起こすことなく再利用できるサイクル数を示したグラフの図である。
図2】NaCl、CaCl2、及びNa2HPO4の濃度が、収率、並びに300nmでの吸光度(A300)の減少及び400nmでの吸光度(A400)の減少として測定される不透明度に及ぼす正/負の影響をモデル化した3つのグラフを、清澄化されたモノクローナル抗体において示す図である。
図3a】清澄化されたmAb溶液中の3種類の添加塩の濃度を変えて400nm(A400)で測定した粗、非清澄化、mAb溶液と比較した、清澄化された粗mAb溶液の収率及び吸光度の減少のモデル応答の曲線を示す図である。
図3b】清澄化されたmAb溶液中の3種類の添加塩の濃度を変えて400nm(A400)で測定した粗、非清澄化、mAb溶液と比較した、清澄化された粗mAb溶液の収率及び吸光度の減少のモデル応答の曲線を示す図である。
図4】粗タンパク質溶液を清澄化する方法、及び得られた清澄化されたタンパク質溶液からクロマトグラフィーによってタンパク質を精製する方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
目的のタンパク質を生産するために使用される細胞培養から採取された粗タンパク質溶液から、抗体やモノクローナル抗体(mAb)のようなタンパク質を精製するには、通常、先行する遠心分離工程の有無にかかわらず、様々な濾過工程を組み合わせて使用する必要がある。粗タンパク質溶液は、目的のタンパク質とは別に、細胞、細胞部分、宿主細胞タンパク質、DNA、並びに脂質及びリポタンパク質等のサブミクロン粒子のような1つ又は複数の不純物を含んでいてもよい。或いはタンパク質溶液は、細胞を含まないこともある。
【0034】
以下に、図4に示すタンパク質溶液の清澄化方法について記載する。このような清澄化されたタンパク質溶液をクロマトグラフィーによって精製する場合、クロマトグラフィー支持体の目詰まりや圧力上昇の問題を低減することができる。これにより、タンパク質の精製に使用される繊維状基材のような対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスの寿命を延ばすことができる。清澄化されたタンパク質溶液は、溶液中の脂質、リポタンパク質、細胞、細胞部分及び/又はDNAの量が減少しているため、粗タンパク質溶液と比較して不透明度が低下している。更に、この方法は高いタンパク質収率をもたらす可能性がある。
【0035】
このような清澄化されたタンパク質溶液は、例えば、繊維状基材を含むCytiva社のHiTrap Fibroユニットを用いて精製されうる(図4)。このようなクロマトグラフィー支持体は、電気紡糸セルロース繊維をベースとすることができ、高流速と高結合容量の組合せを可能にし、それゆえ、タンパク質精製に使用するのに興味深い。これらのユニットは、粒子が繊維間の孔を塞ぎ、背圧の上昇につながる可能性があるため、粒子に対して敏感である。mAbタンパク質溶液中に存在する粒子(たとえサブミクロン粒子であっても)は、0.2μmのフィルターで濾過した後でも、一般的に不透明度を導く。したがって、不透明度は「粒子状物質の含有量」の尺度とみなすことができる。タンパク質溶液を繊維状基材に添加した際に不透明すぎる場合、圧力が著しく上昇するため、繊維状基材は限られたサイクル数しか使用できない場合がある。
【0036】
以下に記載する清澄化方法は、この問題に対する解決策を提供する。清澄化されたタンパク質溶液をクロマトグラフィー支持体に添加することにより、支持体は、目詰まりの問題や著しい圧力上昇を伴うことなく、複数回、セットアップや条件によっては100回以上再利用されうる。
【0037】
本方法の一実施形態では、NaCl、Na2HPO4及びCaCl2を水中で混合101し、第1の溶液を形成する。Na2HPO4及びCaCl2は溶液中でヒドロキシアパタイト結晶を形成する。第1の溶液を、提供100されたある量の粗タンパク質溶液に添加102され、混合103された第2の溶液を形成する。第2の溶液を少なくとも10分間混合後、タンパク質溶液中に存在する不純物成分、例えば細胞、細胞破片、脂質及びリポタンパク質等のサブミクロン粒子が、形成された結晶と共にフロキュレーションした物質を形成する。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの一般的な溶出剤であるNaClの存在は、タンパク質が形成された結晶に結合するのを防ぎ、したがって、清澄化工程での収率を増加させる。NaClを第1の溶液に添加する代わりに、又は加えて、NaClを粗タンパク質溶液に直接、及び/又は第2の溶液に直接添加してもよい。次にこのように形成されたフロキュレーションした物質を第2の溶液から分離104し、清澄化されたタンパク質溶液を得る。
【0038】
第2の溶液中のNaClの濃度は0.2~1.0mol/Lであってもよく、PO4 2-の濃度は0.01~0.1mol/Lであってもよく、Ca2+の濃度は0.01~0.1mol/Lであってもよく、NaClのPO4 2-に対するモル比は2:1~100:1であってもよく、Ca2+のPO4 2-に対するモル比は1:10~10:1であってもよい。前記濃度及び前記比はすべて、粗タンパク質溶液へのNaCl、Na2HPO4及びCaCl2の添加に基づいて計算される。粗タンパク質溶液中に既に存在する塩又は成分、例えば培養液中又は元の供給物中に存在する塩又は成分は、本明細書中の濃度計算には含めない。したがって、記載された濃度及び比は、本明細書に開示された方法に従って添加された成分のみに基づいている。
【0039】
粗モノクローナル抗体供給物の量は、第2の溶液の量の50~95%を占めることがあり、それにより第2の溶液中でタンパク質の希釈が行われる。
【0040】
粗タンパク質溶液に添加する様々な塩の最適な濃度と比は、特定の粗タンパク質溶液、すなわち溶液中の細胞及び細胞成分の量、清澄化されたタンパク質溶液の収率及び不透明度の要件、並びにタンパク質自体の性質に依存する場合がある。
【0041】
NaCl、Na2HPO4及びCaCl2は、撹拌中又はボルテックス中に、すべての塩成分を同量の水で希釈することにより、水中で混合101されうる。或いは、1つ又は複数の塩成分を、他の塩成分と混合する前に、まずある量の水で希釈してもよい。
【0042】
フロキュレーションは多かれ少なかれ瞬時に起こるが、第2溶液の混合103中又は混合後に回転撹拌で混合する等、反応時間を長くすることでフロキュレーションの程度を高めることができる。
【0043】
塩成分を粗タンパク質溶液と混合した後、形成された結晶と共に細胞、細胞部分並びに/又は脂質及びリポタンパク質のようなサブミクロン粒子のような不純物はフロキュレーションした物質を形成し、これらは遠心分離及び/又は深層濾過工程により溶液から分離104されうる。これにより、形成された上清中に清澄化されたタンパク質溶液が得られ、タンパク質を含む上清は粗タンパク質溶液よりも不透明度が低い。
【0044】
得られた201清澄化されたタンパク質溶液を、タンパク質と結合親和性を有するリガンド、例えば、プロテインA、プロテインL、プロテインG、その他の抗体結合親和性リガンドを備えた提供された200クロマトグラフィー支持体に添加する203ことができる。その後、支持体を洗浄204し、クロマトグラフィー支持体中のリガンドに捕捉されたタンパク質を溶出205し、タンパク質を含む溶出液を回収206する。このような清澄化されたタンパク質溶液を使用することによるタンパク質の精製は、クロマトグラフィー支持体上の圧力上昇の問題を低減し、それにより、清澄化されていないタンパク質溶液と比較して、支持体、この支持体は、例えば、繊維状基材のような対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスであり得る、の寿命を延ばす。或いは、清澄化されたタンパク質溶液は、クロマトグラフィー支持体に添加203する前に、遠心分離及び濾過202されうる。
【0045】
以下では、この方法の具体例を記載する。また、低い粒子含量と高いタンパク質収率を得るために、塩成分の濃度を最適化する方法についても論ずる。
【0046】
実験
実験1-粗タンパク質溶液の清澄化
フロキュレーション
図2及び図3a図3bのモデルプロットに示されているように、粗タンパク質溶液(細胞を含まない)を、ここでは粗モノクローナル抗体、mAb溶液で例示しているが、粗mAb溶液にNaCl、CaCl2、Na2HPO4を添加して清澄化する場合、mAb溶液の高収率と高純度(高い吸光度低下、不透明度/粒子低下)は一致しない。収率と純度はトレードオフの関係にある。図2には3つのグラフと、NaCl、CaCl2、及びNa2HPO4の濃度が収率に及ぼす正/負の影響、並びにmAb溶液を清澄化するために得られたモデルにおいて、300nm(A300)及び400nm(A400)での粗mAb溶液と比較した吸光度の低下として測定される不透明度に及ぼす正/負の影響が示されている。図3a及び図3bには、粗mAb溶液の清澄化モデルにおいて、3種類の添加塩の濃度を変えて400nm(A400)で測定した粗mAb溶液と比較した清澄化されたmAb溶液の収率及び吸光度の減少の応答の曲線が示されている。上清のmAb収率は、MabSelect SuReカラム(HiTrap 1mL)を使用し、溶出ピークを積分し(データは示さず)、参照(フロキュレーションしていない)ピークと百分率値で比較することで評価した。
【0047】
これらのモデルを検証するために、粗mAb溶液でフロキュレーション実験を行った。フロキュレーション実験は、高い収率(必ずしも最適ではない)が得られると思われる設定で行った。
【0048】
検証実験では、モノクローナル抗体採取物からの粗mAb溶液760mlを、高収率にするための設定に従って、以下のようにフロキュレーションした。20mL CaCl2(1000mM)、100mL Na2HPO4(500mM)、120mL NaCl(1000mM)の量を混合し、室温で十分にボルテックスした。次いで粗mAb溶液(760mL)を添加した。次いで、形成された溶液中の塩成分の濃度は、上記の添加のみに基づいて計算されると、20mMカルシウム、50mMのリン酸塩及び600mMのNaClであった。
【0049】
溶液をインキュベートし、室温(RT)でゆっくり撹拌しながら少なくとも60分間反応させた。その後、溶液をRTで10分間遠心分離(3200×g)した。上清を回収し、次いでAKTA explorer 100システムを使用し、流速50mL/分で、Sterivex 0.2μmフィルター(MerckMillipore社)で濾過した。低い圧力上昇(0.6bar~1.2bar)が観察されたが、1つのSterivexを使用して約900mLの溶液を濾過することができた。
【0050】
対照試料として、粗mAb溶液を緩衝液(20mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH7.5)と混合し、対照試料の希釈度がフロキュレーションした試料の希釈度と同じになるようにした。
【0051】
吸光度の減少係数及び収率を計算し、評価した。具体的な実験の結果、収率は86.0%、A400の減少は1.643であった。
【0052】
クロマトグラフィー
上記のように処理したmAb溶液と、未処理の(しかし等しく希釈した)粗参照mAb溶液を、Cytiva社のAKTAピュアクロマトグラフィーシステムを用いて、繊維状の不織ポリマーマトリックスであるHiTrap Fibroユニットのクロマトグラフィー支持体に適用した。
【0053】
使用したストック溶液は、2M NaCl、0.25M NaH2PO4xH2O、0.25M Na2HPO4x2H2O、0.25M NaOAcx3H2O及び0.25M HOAcであった。0.25M HOACを除くすべてのストック溶液は、吸水装置とNalgene 1000mL Rapid-Flow Filterユニット0.1μm aPES膜90mm径で濾過した。
【0054】
様々なクロマトグラフィー工程で使用したクロマトグラフィー緩衝液及び溶液は以下の通りであった。平衡化/洗浄1緩衝液:20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、約pH7(pH試験紙使用)、伝導度約43mS/cm。洗浄2緩衝液:50mM Na-OAc、約pH5.5、伝導度約3mS/cm。
溶出緩衝液:100mM酢酸ナトリウム、目標pH3.5。pH試験紙を使用してpH3.5を測定、伝導度約0.5mS/cm。CIP(定置洗浄)溶液:Titrisolアンプルから0.5M NaOH。Titrisol 1Mアンプル、約116mL+1884g(=mL)H2O=2L、0.5M NaOH。伝導度約100mS/cm。
【0055】
HiTrap FibroユニットはPrismAユニットで、クロマトグラフィー媒体中にプロテインAをリガンドとして固定化した。メンブレン体積(MV)は0.4mLであった。容量は測定せず、代わりに0.8×31=24.8=25mg/mLのロード、0.4×25=10mgのmAbに相当する31mg/mLの推定QB10%(10%ブレイクスルー時の容量)を試料量の推定に使用した。
【0056】
mAb溶液試料は上記のように調製し、0.02%のNaアジドも含まれていた。推定mAb濃度は1.45mg/mLであった。Naアジドの添加は清澄化には寄与しないが、微生物の増殖を防ぐ保存剤として作用する。
【0057】
Naアジドで希釈した参照mAb溶液を240mLの20mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH7.5と混合した。この希釈は清澄化された試料の希釈に対応した。希釈後、mAbの推定濃度は0.76×2.26=1.7mg/mLであった。AKTA explorer 100システム、流速50mL/分、最大圧力3bar、を用いて、混合液を0.2μmのSterivexシリンダーフィルター(MerckMillipore社)で濾過した。圧力上昇が観察され、約1000mLの参照溶液を濾過するのに4つのSterivexユニットが必要であった。
【0058】
AKTA pure 150システムのHiTrap Fibroユニットを使用した。AKTA pure 150システムに緩衝液を流した。方法とユニットについて、試料注入口に水を入れたブランクランで試験した。推定ロード量は約25mg/mLで、10mgのmAbに相当した(上記参照)。推定される試料のmAb濃度は、スカウトランにおいて1.7mg/mL、10/1.7=5.9=6mLの試料量であった。
【0059】
参照試料、すなわち前処理していないmAb溶液では、圧力が高いため、サイクル試験は26サイクルで中止された。一方、上記のように前処理したmAb溶液では、大きな圧力上昇なしに100サイクルが実施された。このことは、清澄化法であるフロキュレーションという技術が、問題のあるmAb供給液、すなわち細胞や細胞部分を含むタンパク質溶液に有用であることを明確に示している。mAb収率は同等で、参照mAb溶液(26サイクル)では85%、フロキュレーションした溶液(100サイクル)では89%であった。平均溶出液量は約2mLで、Fibro HiTrapユニットの正常範囲である5MVに相当した。参照mAb溶液は、フロキュレーションしたmAb溶液の希釈に合わせて緩衝液で希釈した。それにもかかわらず、宿主細胞タンパク質(HCP)濃度は、参照の希釈したmAb溶液(269239ng/mL)と比較して、フロキュレーションしたmAb溶液(182035ng/mL)では明らかに低かった。これは、この場合のフロキュレーションしたHCPにおける約32%減少(182035/269239=0.68)に相当する。このことから、フロキュレーション沈殿物の少なくとも一部はHCPで構成されていることが示された。興味深いことに、溶出液中のHCPレベルの減少は、ppmとして測定すると更に大きく、約62%(324/861=0.38)であった。プロテインA(固定化リガンド)の漏出は、フロキュレーションしたmAb溶液の0.3ppmに比べ、参照mAb溶液では1.8ppmと高かった。参照mAb溶液を用いたスカウティングは26サイクルで停止したのに対し、フロキュレーションしたmAb溶液では100サイクルであったため、これは初期サイクルにおける高いリガンド漏出を反映している可能性がある。いかなる理論にも拘束されないが、これは、HCPレベルが低いことによる影響かもしれないが、我々の知る限り、このような現象は以前には見られなかった。結論として、フロキュレーションはクロマトグラフィー用の粗タンパク質溶液の調製に有用な技術であることは間違いなく、例えば、繊維状基材、例えばCytiva社のHiTrap Fibroユニットに見られるような繊維状の不織ポリマーマトリックスのような対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスを使用する場合、ユニットを詰まらせることなく、より多くのサイクルを可能にする。更に、フロキュレーションは溶出液中のHCPの量を減らし、おそらくプロテインAの漏出も減らすようである。
【0060】
上記の清澄化/フロキュレーションは、mAb試料の不透明性を除去するための深層濾過を強力に補完するものである。本研究では、クロマトグラフィー工程後に高い収率と純度が得られた。
【0061】
実験2-細胞を含む粗タンパク質溶液の清澄化
フロキュレーション
500mM Na2HPO4 180ml、5000mM NaCl 180ml、2000mM CaCl2 45mlの混合物を調製し、細胞を含む粗mAb細胞培養物1095mlに添加した。希釈前のmAb細胞培養物のmAb力価は3.80mg/mlであり、混合物中の初期mAb量は4161mg mAbであった。(フロキュレーション成分の最終濃度:60mmol CaCl2、60mmol Na2HPO4、600mmol NaCl、上記添加量のみから算出)。
【0062】
ヒドロキシアパタイトを添加した細胞培養物を2時間撹拌した後、遠心分離してヒドロキシアパタイトと細胞を除去した。上清を回収し、0.2μm ULTA HCフィルター(Cytiva(登録商標))で濾過した。
【0063】
採取/フロキュレーション工程におけるmAb収率は94%であると決定した。0.2μm濾過前後の上清の濁度は、それぞれ21.5及び2.6FNU(ホルマジン比濁分析単位(Formazin Nephelometric Unit))であった。
【0064】
クロマトグラフィー
フロキュレーションしたmAb細胞培養物上清を、HiTrap Fibro PrismAユニット(マトリックス容量0.4mL)にロードする直前に0.2μmフィルターで濾過した。濾過後の濁度は2.01FNUであった。
【0065】
それぞれのFibro PrismAサイクルにおける試料ロードは、10%ブレイクスルー時の動的結合容量(QB10%)の80%であった。QB10%の値は30mg/mLであったため、試料ロードは24mg/mLであった。開始試料のmAb濃度は2.67mg/mlであったため、ロード量は3.6mLであった。
【0066】
溶出緩衝液以外のすべての緩衝液が同じポンプで適用された。
【0067】
クロマトグラフィー法では、以下のパラメータと工程を使用した。
- 流速:CIP(8ml/分)を除き16ml/分
- 平衡化:2mlの平衡化緩衝液(A1:50mM NaPO4+150mM NaCl、pH7.4)
- 試料:3.6mlのmAb試料(S1)
- 洗浄1:6mlの洗浄1緩衝液(A2:20mM NaPO4+500mM NaCl、pH7.0)
- 洗浄2:6mlの洗浄2緩衝液(A3:50mM NaOAc、pH5.5)
- 溶出:7mlの溶出緩衝液(B1:100mM NaOAc、pH3.5)
- CIP:10mlの0.5M NaOH(A4:16ml/分で2ml、8ml/分で8ml)、4mlの平衡化緩衝液A1、8ml/分
- 再平衡化:4mlの平衡化緩衝液(A1:50mM NaPO4+150mM NaCl、pH7.4)、16ml/分
【0068】
200サイクルの溶出物は共通のバルクに回収した。Fibro PrismA工程でのmAb収率は94.5%であった。溶出液の濁度は1FNU未満であった。Fibro PrismAに適用された開始材料中のHCPは270323ppmであったが、Fibro PrismA工程後には253ppmに減少した。PrismAのリガンド漏出は1ppm未満であった。
【0069】
この実験から、ファイバー/メンブレンユニットは、わずか25%の圧力上昇で、200サイクルの繰り返し使用が可能であることが示された。細胞を含む粗MAb溶液のフロキュレーション工程によって濁度が劇的に減少し、200サイクルのランが可能になった。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4
【国際調査報告】