IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 四川大学華西医院の特許一覧

特表2024-515319免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用
<>
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図1
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図2
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図3
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図4
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図5
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図6
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図7
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図8
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図9
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図10
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図11
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図12
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図13
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図14
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図15
  • 特表-免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20240401BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 15/27 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240401BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240401BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240401BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240401BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240401BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240401BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240401BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240401BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240401BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240401BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20240401BHJP
   C07K 14/725 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
C12N15/62 Z
C12N15/27
C12N15/13
C12N15/12
C12N7/01
C12N5/10
C12N5/0783
A61K39/00 H
A61K39/395 N
A61K38/19
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566450
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 CN2022090106
(87)【国際公開番号】W WO2022228538
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110481979.9
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512330318
【氏名又は名称】四川大学華西医院
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 寒朔
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲チー▼▲チー▼
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA53
4C084CA56
4C084DA01
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB022
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZC751
4C085AA02
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA12
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、生物工学の分野に属し、詳しくは、CAR発現ベクター及びその応用に関するものである。CAR発現ベクターは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする核酸の全長又は断片を含む。本発明により構築されたCAR-GM-T細胞は、GM-CSFを高発現することができ、CAR-GM-T細胞自体の殺傷活性を直接増強することができるだけでなく、CAR-GM-T細胞の固形腫瘍の内部への浸潤を促進することもできるとともに、このようなCAR-GM-T細胞に従来のCAR-T細胞よりも強い免疫調節機能を持たせ、内因性抗腫瘍免疫反応を系統的に活性化させ、それによって、より優れた抗固形腫瘍治療効果が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と、免疫調節因子をコードする核酸とを含むCAR発現ベクターであって、前記免疫調節因子をコードする前記核酸は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする核酸の全長又は断片である、ことを特徴とするCAR発現ベクター。
【請求項2】
前記キメラ抗原受容体をコードする前記核酸と、前記GM-CSFをコードする前記核酸とは、自己切断ペプチドP2Aをコードする配列を介して連結されている、ことを特徴とする請求項1に記載のCAR発現ベクター。
【請求項3】
前記キメラ抗原受容体をコードする前記核酸は、さらに、腫瘍特異抗原又は腫瘍関連抗原である抗原性標的を標的とする細胞外ドメインと、前記CAR構造を固定する膜貫通ドメインと、直列の共刺激分子を含むとともにCD3ζ鎖、4-1BB及びGM-CSFを含む細胞内シグナル伝達ドメインと、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のCAR発現ベクター。
【請求項4】
前記抗原性標的は、Her2、B7-H3、Claudin18.2、CD70、MUC16、FSHR、FR及びMesoからなる群より選択される標的を含む、ことを特徴とする請求項3に記載のCAR発現ベクター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCAR発現ベクターを含むレンチウイルスであって、pWPXLd、psPAX2及び/又はpMD2.Gを含む、ことを特徴とするレンチウイルス。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCAR発現ベクターを発現する、ことを特徴とするCAR-T細胞。
【請求項7】
請求項6に記載のCAR-T細胞の、固形腫瘍を治療するための薬物の調製への応用。
【請求項8】
前記CAR-T細胞は、GM-CSF、IFN-γ及びIL-2の分泌を増強することができる、ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【請求項9】
前記CAR-T細胞の殺傷活性は、前記GM-CSFの発現によって直接増強される、ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【請求項10】
前記CAR-T細胞の浸潤能力は増強され、より多くの前記CAR-T細胞は前記固形腫瘍の内部へ浸潤して、腫瘍細胞を特異的に殺傷する効力を発揮することができる、ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【請求項11】
前記固形腫瘍の内部への浸潤後、前記CAR-T細胞は、免疫調節機能を発揮して腫瘍微小環境を調節することができる、ことを特徴とする請求項10に記載の応用。
【請求項12】
前記CAR-T細胞は、樹状細胞を活性化して前記固形腫瘍の内部へ動員することによって、内因性T細胞の抗原特異的腫瘍免疫反応を誘発することができる、ことを特徴とする請求項11に記載の応用。
【請求項13】
前記CAR-T細胞は、腫瘍細胞のリンパ節転移を抑制することができる、ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[1].本出願は、2021年4月30日に出願された中国特許出願公開第2021104819799号である、「免疫調節因子を発現するCARベクター及びその応用」という名称の特許出願の優先権を主張する。この優先権発明特許出願の全てが、参照することにより組み込まれる。
【0002】
[2].本発明は、生物工学の分野に属し、詳しくは、CAR発現ベクター及びその応用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
[3].キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は、急性Bリンパ芽球性白血病等の血液腫瘍の治療では良好な臨床効果を示しているが、固形腫瘍に対する治療効果はよくない。CAR構造は、腫瘍抗原を認識するための細胞外ドメイン、CAR構造を固定するための膜貫通ドメイン、及びT細胞を活性化してシグナルを伝達するための細胞内シグナル伝達ドメインという3つの部分を含む。CAR-T細胞による腫瘍細胞の殺傷は、以下のことに依存する。細胞外一本鎖可変ドメインが、対応する腫瘍関連抗原に特異的に結合し、その後、細胞内シグナル伝達ドメインを通じて下流のシグナル伝達を開始させ、CAR-T細胞の活性化及び増殖を引き起こし、そして、IFN-γ等のサイトカインを放出することで細胞毒性を発揮する。しかしながら、固形腫瘍を対象とした場合、現在、従来のCAR-T細胞による治療効果はよくない。
【0004】
[4].第一世代CAR構造の細胞内ドメインは、CD3ξに由来する3つのITAM配列又はFcRγに由来する2つのITAM配列のみを有し、それは、T細胞活性化の第1シグナルを提供することしかできず、IL-2を分泌する能力に限界があり、増殖能力も弱く、臨床試験で満足のいく結果は得られていない。第二世代CAR構造は、細胞内シグナル配列の後に直列の共刺激分子シグナル伝達ドメインがあり、第一世代CAR構造と比較して増殖能力と殺傷能力が増強される。第三世代CAR構造の細胞内シグナル伝達ドメインは、より多くの共刺激分子シグナル伝達ドメインを含むが、研究によると、その殺傷活性は有意に増強せず、副作用もより多い。第四世代CAR構造は、第二世代CAR構造に基づいて新しい機能要素を導入してCAR-T細胞の抗腫瘍活性を増強したものであり、例えば、サイトカインIL-12、IL-15又はIL-18を分泌するCAR-T細胞は、その増殖能力と生存能力が増強され、それによって抗腫瘍活性も増強される。
【0005】
[5].現在、CAR-T細胞の固形腫瘍に対する治療効果がよくない理由は以下の点があると考えられている。固形腫瘍の内部の複雑な環境と異常な血管構造と関係がある。通常、腫瘍血管の漏出や発育不全は、細胞傷害性T細胞がその中に入らないことを招くことが多い。一方、CAR-T細胞は腫瘍組織への浸潤に関与する走化因子の発現が不足し、固形腫瘍の外部の腫瘍関連線維芽細胞(CAF)と血管からなる緻密な物理的バリアがあるため、CAR-T細胞の移動と腫瘍組織内部への浸潤能力が低下する。また、腫瘍微小環境(TME)は、腫瘍細胞の免疫監視からの逃避を助け、生体の抗腫瘍反応を抑制し、CAR-T細胞の浸潤・増殖・生存を抑制可能であり、CAR-T細胞が固形腫瘍に対して効果がない主な原因の一つでもある。従って、腫瘍組織へ効果的に浸潤し、腫瘍免疫抑制微小環境を逆転させることができるCAR-T細胞を設計・構築することで、従来の免疫治療の奏効率が低いという問題を克服し、より効果的な抗腫瘍作用をもたらすことができる。
【0006】
[6].要約すると、本発明は、改良された第二世代CAR-T細胞に基づいて、GM-CSFを高発現する新規CAR-T細胞(CAR-GM-T細胞)を構築し、従来の技術の欠点や不足を緩和することができる。
【発明の概要】
【0007】
[7].上記に鑑み、本発明の目的は、CAR発現ベクター及びその応用を提供することにある。
【0008】
[8].上記の目的を達成するために、本発明の技術的解決策は、以下の通りである。
【0009】
[9].キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と、免疫調節因子をコードする核酸とを含むCAR発現ベクターであって、前記免疫調節因子をコードする前記核酸は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする核酸の全長又は断片である、ことを特徴とするCAR発現ベクター。
【0010】
[10].さらに、前記キメラ抗原受容体をコードする前記核酸と、前記GM-CSFをコードする前記核酸とは、自己切断ペプチドP2Aをコードする配列を介して連結されている。
【0011】
[11].さらに、前記キメラ抗原受容体をコードする前記核酸は、さらに、腫瘍特異抗原又は腫瘍関連抗原である抗原性標的を標的とする細胞外ドメインと、前記CAR構造を固定する膜貫通ドメインと、直列の共刺激分子を含むとともにCD3ζ鎖、4-1BB及びGM-CSFを含む細胞内シグナル伝達ドメインと、を含む。
【0012】
[12].さらに、前記抗原性標的は、Her2、B7-H3、Claudin18.2、CD70、MUC16、FSHR、FR及びMesoからなる群より選択される標的を含む。上記の標的のうち、実証されたように、標的となるHer2は主にHer2陽性の乳がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、及び肉腫の治療に使用される。標的となるMesoは膵臓がん、卵巣がん、及び肺がんの治療に使用される。標的となるB7-H3及びCD70は黒色腫の治療に使用される。そして、標的となるMUC16、FSHR、及びFRはいずれも卵巣がんの治療に使用される。標的となるClaudin18.2は胃がん、食道胃接合部がん、及び膵臓がんの治療に使用される。
【0013】
[13].上記CAR発現ベクターを含むレンチウイルスであって、pWPXLd、psPAX2及び/又はpMD2.Gを含む、ことを特徴とするレンチウイルス。
【0014】
[14].上記CAR発現ベクターを発現する、ことを特徴とするCAR-T細胞。
【0015】
[15].上記CAR-T細胞の、固形腫瘍を治療するための薬物の調製への応用。
【0016】
[16].好ましくは、前記固形腫瘍は、主に乳がん、卵巣がん、及び肺がんを含むが、これらに限定されるものではない。
【0017】
[17].さらに、前記CAR-T細胞は、GM-CSF、IFN-γ及びIL-2の分泌を増強することができる。
【0018】
[18].さらに、前記CAR-T細胞の殺傷活性は、前記GM-CSFの発現によって直接増強される。
【0019】
[19].さらに、前記CAR-T細胞の浸潤能力は増強され、より多くの前記CAR-T細胞は前記固形腫瘍の内部へ浸潤して、腫瘍細胞を特異的に殺傷する効力を発揮することができる。
【0020】
[20].さらに、前記固形腫瘍の内部への浸潤後、前記CAR-T細胞は、免疫調節機能を発揮して腫瘍微小環境を調節することができる。
【0021】
[21].さらに、前記CAR-T細胞は、樹状細胞を活性化して前記固形腫瘍の内部へ動員することによって、内因性T細胞の抗原特異的腫瘍免疫反応を誘発することができる。
【0022】
[22].さらに、前記CAR-T細胞は、腫瘍細胞のリンパ節転移を抑制することができる。
【0023】
[23].本発明で言う「走化」とは、本発明により調製されるCAR-T細胞、即ちCAR-GM-T細胞が、DC細胞の腫瘍細胞への方向性のある運動を促すことを指す。
【0024】
[24].DC細胞は、生体内のプロフェッショナル抗原提示細胞であり、MHC II及び共刺激分子を発現し、腫瘍抗原の取り込み・捕捉・処理を行い、その後、リンパ節内へ移動して生体の内因性T細胞の抗腫瘍免疫反応を活性化することができる。
【発明の効果】
【0025】
[25].有益な効果
【0026】
[26].CAR-T細胞の固形腫瘍に対する治療効果をさらに増強するために、本発明は、第二世代CAR-T細胞に基づいて、GM-CSFを高発現するCAR-T細胞(CAR-GM-T細胞)を構築した。GM-CSFは、重要な免疫調節剤であり、GM-CSFは、樹状細胞(DC)を活性化して動員することでT細胞免疫反応を誘発することができ、同時に、顆粒球、マクロファージ、NK細胞等の他の免疫細胞を活性化することもでき、腫瘍免疫応答の調節において重要な役割を果たす。実験によると、本発明により構築されたCAR-GM-T細胞は、GM-CSFを高発現することができ、CAR-GM-T細胞自体の殺傷活性と増殖能力を直接増強することができるだけでなく、このようなCAR-GM-T細胞に従来のCAR-T細胞よりも強い免疫調節機能を持たせることもできる。特に、本発明により調製されたCAR-GM-T細胞は、以下の点で優れた効果を有する。
【0027】
[27].1)CAR-GM-T細胞の卵巣がん細胞に対する殺傷能力は、従来のCAR-T細胞よりも有意に高い。
【0028】
[28].2)CAR-GM-T細胞の卵巣がん細胞に対する殺傷能力は、Meso-CAR-T細胞よりも有意に高い。
【0029】
[29].3)CAR-GM-T細胞は、黒色腫の成長を有意に抑制し、実験動物の生存期間を有意に延長することができる。
【0030】
[30].4)CAR-GM-T細胞が腫瘍細胞に接触する前後に分泌する免疫調節因子GM-CSF、IFN-γ、及びIL-2は、従来のCAR-T細胞よりも有意に高い。
【0031】
[31].5)CAR-GM-T細胞は、従来のCAR-T細胞よりも強い固形腫瘍組織への浸潤能力を有し、固形腫瘍の内部への浸潤後、より強い抗腫瘍効果を発揮する。
【0032】
[32].6)CAR-GM-T細胞は、腫瘍細胞のリンパ節転移を抑制する。
【0033】
[33].要約すると、本発明は、腫瘍微小環境を再構築して逆転させ、T細胞活性を直接又は補助的に増強し、固形腫瘍の治療に新しい戦略を提供することができる。
【0034】
[34].本発明の実施形態又は従来の技術における技術的解決策をより明確に説明するために、以下、実施形態又は従来の技術の説明で使用される添付の図面を簡単に紹介する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】[35].図1は、CAR-hGM発現ベクターの構築を示す図である。
図2】[36].図2は、CAR-GM-T細胞から分泌されたGM-CSFが従来のCAR-T細胞よりも有意に高かったことを示す図である。
図3】[37].図3は、CAR-GM-T細胞の殺傷活性を示す図である。
図4】[38].図4は、Meso-CAR-GM-T細胞のSK-OV3-Mesoに対する殺傷効率がMeso-CAR-T細胞よりも有意に高く、且、殺傷効率がエフェクター:標的比の増加とともに増強したことを示す図である。
図5】[39].図5は、CAR-GM-T細胞が腫瘍細胞を殺傷した時に分泌されたGM-CSFが従来のCAR-T細胞よりも有意に高かったことを示す図である。
図6】[40].図6は、エフェクター:標的比が5:1の時にCAR-GM-T細胞から分泌されたIFN-γが従来のCAR-T細胞の4.5倍であり、異なるエフェクター:標的比でCAR-GM-T細胞が腫瘍細胞に接触した時に分泌されたIFN-γがいずれも従来のCAR-T細胞よりも有意に高かったことを示す図である。
図7】[41].図7は、異なるエフェクター:標的比でCAR-GM-T細胞が腫瘍細胞を殺傷した時に分泌されたIL-2もいずれも有意に増強したことを示す図である。
図8】[42].図8は、CAR-GM-T細胞のマウス腹腔内腫瘍に対する治療効果を示す図である。
図9】[43].図9は、従来のCAR-T細胞がB16F10-Her2皮下移植黒色腫の成長を有意に抑制する作用がなく、マウスの生存期間を延長することもできなかったが、CAR-GM-T細胞治療を受けることでマウスの皮下移植黒色腫の成長を有意に抑制することができたことを示す図である。
図10】[44].図10は、CAR-GM-T細胞治療を受けることでマウスの生存期間を有意に延長したことを示す図である。
図11】[45].図11は、マウスが治療を受けた24日目に、マウスの腫瘍とリンパ節を分離して単細胞懸濁液として調製した後、フローサイトメトリーによって検出された、マウスの腫瘍とリンパ節内のCAR-T細胞の割合を示す図である。
図12】[46].図12は、さらに検出されたCAR-GM-T細胞のヒト腫瘍組織への浸潤能力を示す図であり、NSGマウスの腹腔内腫瘍の治療後28日目に、腹腔内の残存腫瘍を採取して免疫蛍光染色を行うことで検出されたCD3T細胞の浸潤能力を示す図である。
図13】[47].図13は、従来のCAR-T細胞治療群ではCD45.2免疫細胞がわずか5%を占め、CAR-GM-T細胞治療群ではマウスの腫瘍の内部への免疫細胞の浸潤能力が従来のCAR-T細胞治療群よりも有意に良好であったことを示す図である。
図14】[48].図14は、CAR-GM-T細胞治療群ではマウスの腫瘍におけるCD3Tリンパ球がCD45.2細胞の11%を占めたが、従来のCAR-T細胞治療群ではCD3Tリンパ球がわずか5%を占めたことから、GM-CSFの高発現が、CAR-T細胞治療後のマウスの腫瘍における内因性CD3T細胞の割合を有意に増加したことを示す図である。
図15】[49].図15は、CAR-GM-T細胞治療群では腫瘍におけるCD11cMHCIIhiDC細胞の占める割合が、従来のCAR-T細胞治療群よりも有意に高かったことを示す図である。
図16】[50].図16は、流入領域リンパ節のHE染色結果を示す図であり、CAR-GM-T細胞が腫瘍細胞のリンパ節転移を抑制することができたことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[51].本発明の実施形態の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下、本発明の実施形態における技術的解決策を添付図面と共に明確かつ完全に説明する。なお、記載した実施形態は、本発明の実施形態の一部であり、その全てではないことは明らかである。本発明における実施形態に基づき、当業者が創意工夫をすることなく得られる他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲に含まれる。
【0037】
[52].注意すべきことは、ここにおいて、「含む」、「包含する」、又はそれらの任意の他の変形語という用語は、非排他的な包含をカバーすることを意図しているということである。したがって、一連の要素を含むプロセス、方法、物品、又は装置は、それらの要素だけでなく、明示的に列挙されていない他の要素、又はそのようなプロセス、方法、物品、又は装置に固有の要素も含む。さらなる限定がない場合は、「一つの……を含む」という語句によって限定される要素は、その要素を含むプロセス、方法、物品、又は装置における追加の同一要素の存在を排除しない。
【0038】
[53].例えば、本明細書で使用される「約」という用語は、典型的には記載された値の+/-5%、より典型的には該当値の+/-4%、より典型的には該当値の+/-3%、より典型的には該当値の+/-2%、さらに典型的には該当値の+/-1%、さらに典型的には該当値の+/-0.5%として表示される。
【0039】
[54].本明細書では、特定の実施形態をある範囲内の形式で開示することができる。この「ある範囲内」の説明は、ただ便宜や簡潔さを図るためのものであり、開示された範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、すべての可能な部分範囲を具体的に開示したと見なされるべきである。例えば、1から6の範囲の説明は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6、など、及びこの範囲内の1、2、3、4、5、及び6などの個々の番号を具体的に開示したと見なされるべきである。上記のルールは、範囲の幅に関係なく適用される。
【実施例1】
【0040】
[55].実施例1
【0041】
[56].1.細胞培養
【0042】
[57].ルシフェラーゼ(Luciferase)を発現するヒト卵巣がん細胞株(SK-OV3-Luc)、及びHer2タンパク質を過剰発現するマウス黒色腫細胞株(B16F10-Her2)を、四川大学生物治療国家重点実験室により保存し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地を用いて、37℃、5%CO、及び通常酸素条件下で培養した。
【0043】
[58].2.CAR-GM-T細胞の調製
【0044】
[59].2.1CAR-hGM発現ベクターの構築と検証
【0045】
[60].Her2-CARとhGM-CSFを自己切断ペプチドP2Aで連結し、hGM-CSFを高発現するHer2-CAR-hGM発現ベクター(pWPXLd-Her2-CAR-hGM-CSF)を構築した(図1)。pWPXLd-Her2-CAR-EGFPベクターを鋳型としてHer2-CAR-P2A断片を増幅し、pWPXLd-hGM-CSFベクターを鋳型としてhGM-CSF断片を増幅した。制限酵素BamHIとEcoRIを用いてベクターpWPXLdを切断して線形化した。相同組換え法を用いて断片Her2-CARとhGM-CSFを線形化ベクターpWPXLdに連結した。
【0046】
[61].2.2レンチウイルスのパッケージング
【0047】
[62].レンチウイルスの3つのプラスミドシステムを用いてレンチウイルスのパッケージングを行った。プラスミドトランスフェクション法としてリン酸カルシウム-DNA共沈法を用いた。ヘルパープラスミドとしてpsPAX2とpMD2.Gを用いた。パッケージング細胞として293T細胞を用いた。トランスフェクション48時間後と72時間後にウイルス上清を採取し、0.22μmのディスポーザブルシリンジフィルター(PES膜)を用いてウイルス上清をろ過し、ろ過したウイルス液を超高速遠心分離機を用いて濃縮した後、分注して-80℃の冷蔵庫で凍結保存した。
【0048】
[63].2.3ヒトT細胞の活性化と感染
【0049】
[64].1)Ficollを用いて末梢血単核リンパ球を分離した。
【0050】
[65].2)末梢血単核リンパ球数に基づいて、適量のHuman T-Expander CD3/CD28 Dynabeads磁気ビーズを取り出し、5mLのDPBSを用いて磁気ビーズを1回洗浄し、T細胞完全培地を用いて再懸濁した。末梢血単核リンパ球懸濁液を洗浄した磁気ビーズと均一混合し、T75培養フラスコに入れ、37℃、5%COで培養した。
【0051】
[66].3)ウイルス力価に基づいてウイルスの使用量を計算し、RetroNectinを用いて感染効率を増強し、感染72時間後にフローサイトメトリーを用いて各群のCAR-T細胞(従来のCAR-T細胞を含む)の発現能力を検出した。
【0052】
[67].2.4マウスT細胞の活性化と感染
【0053】
[68].1)マウスリンパ節からリンパ節細胞を分離した。
【0054】
[69].2)末梢血単核リンパ球数に基づいて、適量のHuman T-Expander CD3/CD28 Dynabeads磁気ビーズを取り出し、5mLのDPBSを用いて磁気ビーズを1回洗浄し、T細胞完全培地を用いて再懸濁した。末梢血単核リンパ球懸濁液を洗浄した磁気ビーズと均一混合し、T75培養フラスコに入れ、37℃、5%COで培養した。
【0055】
[70].3)ウイルス力価に基づいてウイルスの使用量を計算し、polybreneを用いて感染効率を増強し、感染72時間後にフローサイトメトリーを用いて各群のCAR-T細胞(従来のCAR-T細胞を含む)の発現能力を検出した。
【0056】
[71].2.5CAR-GM-T細胞を培養した。
【0057】
[72].3.サイトカインの検出
【0058】
[73].IL-2、IFNγ、及びGM-CSFを含むサイトカインの分泌能力は、いずれもELISA法によって測定された。試料は、CAR-T細胞培養物の上清、又はCAR-T細胞が腫瘍細胞を殺傷した後の培養物の上清に由来した。
【0059】
[74].4.殺傷活性の検出
【0060】
[75].インビトロ殺傷活性は、乳酸脱水素酵素(LDH)細胞毒性測定キットを用いて測定された。具体的な手順は以下の通りである。
【0061】
[76].1)成長状態が良好な腫瘍細胞を採取し、トリプシン消化して計数し、X-VIVO培地を用いて腫瘍細胞を最終濃度5×10個/mLに再懸濁した。
【0062】
[77].2)成長状態が良好なCAR-T細胞を採取し、軽く吹き散らして計数し、1000rpmで3分間遠心分離し、上清を捨て、X-VIVO培地を用いてCAR-T細胞を最終濃度10個/mLに再懸濁した。
【0063】
[78].3)異なるエフェクター:標的比1:1、2.5:1、5:1、10:1を設定した。腫瘍細胞は、いずれも1ウェルあたり10個で計算した。エフェクター:標的比ごとに次の6群:MOCK T(エフェクター細胞自然放出群)、MOCK T + Tumor(試験群)、CAR-T細胞、CAR-T細胞 + Tumor、CAR-GM-CSF-T、及びCAR-GM-CSF-T + Tumorを設置し、各群に3つのウェルを設置した。同時に、空白培地群、腫瘍細胞自然放出群、及び腫瘍細胞最大放出群を設置し、1ウェルあたりの最終体積は200μLとした。
【0064】
[79].4)殺傷24時間後、顕微鏡で各群の細胞の殺傷能力を観察した。
【0065】
[80].5)96ウェル細胞培養プレートを取り出し、腫瘍細胞最大放出群に対して1ウェルあたり20μL Lysis Solution(10X)を加え、37℃で45分間インキュベートした。
【0066】
[81].6)インキュベーション終了後、96ウェル細胞培養プレートを横型遠心分離機で、室温、250gで4分間遠心分離した。
【0067】
[82].7)各ウェルからそれぞれ50μLの上清を採取して新しい96ウェルプレートに入れ、その後のLDH放出検出に使用した。
【0068】
[83].8)各ウェルに50μLのLDH検出反応液を加え、室温で光を避けて30分間インキュベートした。
【0069】
[84].9)インキュベーション終了後、各ウェルに50μLの停止液を加えた。
【0070】
[85].10)反応終了後、1時間以内にマイクロプレートリーダーを用いて490nmの吸光度を読み取った。
【0071】
【数1】
【0072】
[87].5.卵巣がん腹腔内異種移植モデルの治療
【0073】
[88].5.1動物の飼育
【0074】
[89].1)この部分の動物実験に用いた動物として、BIOCYTOGENが独自に開発したB-NDG(登録商標)マウス(NOD-Prkdcscid Il2rgtm1/Bcgen)を用いた。このマウスは、NOD-scidを遺伝的背景とし、IL2rg遺伝子がノックアウトされ、T、B、NK細胞が欠損し、ヒト由来細胞や組織移植に適していた。
【0075】
[90].2)体重18~20gの5~6週齢の雌性B-NDGマウスを購入し、購入後、四川大学生物治療国家重点実験室のSPFグレード動物施設で飼育した。
【0076】
[91].3)B-NDGマウスの飼育期間中、室温は25℃に維持され、実験期間中、食事と水は自由に摂取させた。
【0077】
[92].5.2卵巣がん腹腔内異種移植モデルの構築
【0078】
[93].1)成長状態が良好なSK-OV3-Luc細胞を採取し、トリプシン消化して計数した後、1200rpmで3分間遠心分離し、PBSで2回洗浄し、無血清DMEM培地を用いて細胞を最終濃度10個/mLに再懸濁した。
【0079】
[94].2)マウスを捕獲し、1匹のマウスにつき200μLの細胞懸濁液を腹腔内に注射してSK-OV3-Luc細胞を接種した。
【0080】
[95].3)マウスの体重を定期的にモニターした。
【0081】
[96].5.3卵巣がん腹腔内異種移植モデルの治療
【0082】
[97].1)接種後6日目に、各マウスに対してインビボイメージングを行った。イメージングの蛍光値に基づいてマウスを6匹ずつの3群:PBS群、Her2-CAR群、及びHer2-CAR-GM-CSF群に分けた。
【0083】
[98].2)接種後7日目に、成長状態が良好でCAR陽性率が50%を超えたHer2-CAR-T細胞とHer2-CAR-GM-CSF-T細胞を収集し、X-VIVO培地を用いて最終濃度10個/mLに再懸濁した。
【0084】
[99].3)上記CAR-T細胞懸濁液をそれぞれ100μL吸引し、腹腔内に注射して各マウスを治療した。
【0085】
[100].5.4卵巣がん腹腔内異種移植モデルに対する治療効果の検出
【0086】
[101].1)マウスの治療後、インビボイメージング検出を週1回行った。
【0087】
[102].2)マウスの精神状態、活動レベル、毛の光沢、及び食欲を定期的にモニターし、副作用の有無を観察した。マウスの体重を検出した。
【0088】
[103].3)モニタリング終了後、マウスを麻酔して頸椎脱臼で殺した。腹腔内の残存腫瘍を採取して免疫蛍光染色を行い、CAR-T細胞の浸潤能力を検出した。
【0089】
[104].6.皮下黒色腫異種移植モデルの治療
【0090】
[105].6.1動物の飼育
【0091】
[106].(1)この部分の動物実験に用いたC57BL/6 CD45.1は、本実験室による品種保存に由来し、C57BL/6 CD45.2は四川大学実験動物センターから購入された。
【0092】
[107].(2)体重18~20gの5~6週齢の雌性C57BL/6 CD45.2マウスを購入し、購入後、四川大学のSPFグレード動物施設で飼育した。
【0093】
[108].(3)マウスの飼育期間中、室温は25℃に維持され、実験期間中、食事と水は自由に摂取させた。
【0094】
[109].6.2Her2タンパク質を過剰発現する皮下黒色腫異種移植モデルの構築
【0095】
[110].(1)モデルの構築にはC57BL/6 CD45.2マウスを使用した。マウスの購入後、1週間の環境適応で皮下黒色腫異種移植モデルの構築に使用できた。
【0096】
[111].(2)成長状態が良好なB16F10-Her2細胞を採取し、トリプシン消化して計数した後、1200rpmで3分間遠心分離し、PBSで2回洗浄し、無血清DMEM培地を用いて細胞を最終濃度5×10個/mLに再懸濁した。
【0097】
[112].(3)上記腫瘍細胞懸濁液を100μL採取し、筋肉層を突き破らないように注意しながら、マウスの右側胸部に皮下注射した。
【0098】
[113].6.3皮下黒色腫異種移植モデルの治療
【0099】
[114].(1)シクロホスファミド(CPA)200mgを生理食塩水5mLに溶解し、0.22μmのディスポーザブルシリンジフィルターでろ過した後、分注して-20℃の冷蔵庫で予備として凍結保存した。
【0100】
[115].(2)接種後10日目に、各担腫瘍マウスにシクロホスファミドを200mg/kgの使用量で注射し、腹腔内投与した。
【0101】
[116].(3)接種後12日目に、移植腫瘍体積を測定し、腫瘍体積に基づいてマウスを15匹ずつの3群:PBS群、Her2-CAR群、及びHer2-CAR-GM-CSF群に分けた。
【0102】
[117].(4)接種後13日目に、成長状態が良好な、C57BL/6 CD45.1マウスリンパ球から調製されたHer2-CAR-T細胞とHer2-CAR-GM-CSF-T細胞を収集し、1640培地を用いて最終濃度3×10個/mLに再懸濁した。
【0103】
[118].(5)上記CAR-T細胞懸濁液をそれぞれ100μL吸引し、尾静脈に注射して各マウスを治療した。
【0104】
[119].皮下黒色腫異種移植モデルに対する治療効果の検出
【0105】
[120].(1)マウスに3日に1回腫瘍体積モニタリングを行い、ノギスを用いて腫瘍の縦径と横径の大きさを測定して記録し、皮下移植黒色腫の最長径と最短径を測定し、腫瘍体積=0.52×長さ×幅×幅という式に従って腫瘍体積を計算し、腫瘍成長曲線をプロットした。
【0106】
[121].(2)マウスの精神状態、活動レベル、毛の光沢、及び食欲を定期的にモニターし、副作用の有無を観察した。マウスの体重を検出した。生存期間曲線をプロットした。
【0107】
[122].(3)治療21日後、一部のマウスを麻酔して頸椎脱臼で殺した。マウスの脾臓、腫瘍流入領域リンパ節、リンパ節、及び腫瘍を分離し、それぞれHE染色及びフローサイトメトリーを行った。
【実施例2】
【0108】
[123].実施例2
【0109】
[124].実験結果
【0110】
[125].1.CAR-GM-T細胞のGM-CSF分泌能力の増強
【0111】
[126].従来のCAR-T細胞はMOCK T細胞が活性化前に分泌したGM-CSFと有意差はなかったが、予想通り、CAR-GM-T細胞から分泌されたGM-CSFは従来のCAR-T細胞よりも有意に高かった(P<0.001)(図2)。
【0112】
[127].2.CAR-GM-T細胞の殺傷活性の増強
【0113】
[128].Her2-CAR-GM-T細胞は、Her2タンパク質を天然に発現するSK-OV3細胞に対する殺傷効率がHer2-CAR-T細胞よりも有意に高く、且、殺傷効率がエフェクター:標的比の増加とともに増強した。Her2-CAR-GM-T細胞は、エフェクター:標的比が1:1の時に、SK-OV3に対する殺傷効率が30%に達することができ、Her2-CAR-T細胞群よりも有意に高かった(P<0.001)。Her2-CAR-T細胞群は、エフェクター:標的比が2.5:1の時に、殺傷効率が30%にしか達することができなかった。Her2-CAR-GM-T細胞は、エフェクター:標的比が5:1の時に、殺傷効率が80%に近く、Her2-CAR-T細胞の殺傷効率よりも有意に60%高かった(図3)。
【0114】
[129].Mesoを標的としたCAR-GM-T(Meso-CAR-GM-T)細胞の標的陽性腫瘍細胞に対する殺傷効率を検出した。
【0115】
[130].Meso CAR-T細胞は、ペンシルバニア大学とノバルティス社によって開発されたMesoを標的としたCAR-T細胞療法である。また、Meso CAR-T細胞は、ノバルティス社が固形腫瘍向けに発売した最初のCAR-T細胞製品でもあり、適応症は、卵巣がん、肺がん、及び膵臓がんを含む。
【0116】
[131].その結果、Meso-CAR-GM-T細胞は、SK-OV3-Mesoに対する殺傷効率がMeso-CAR-T細胞よりも有意に高く、且、殺傷効率がエフェクター:標的比の増加とともに増強したことが示された(図4)。以上の結果から、CAR-GM-CSFの高発現が、標的Mesoに対して有効であるだけでなく、異なる標的を持つCAR-T細胞のインビトロ殺傷効率を増強できたことが示された。
【0117】
[132].3.CAR-GM-T細胞が腫瘍細胞を殺傷する時の、GM-CSF、IFN-γ、及びIL-2の分泌能力の増強
【0118】
[133].CAR-T細胞が腫瘍細胞を殺傷する時の上清中のサイトカインの分泌を検出した。CAR-GM-T細胞が腫瘍細胞に接触して活性化された時、GM-CSFの分泌能力が上昇し、従来のCAR-T細胞よりもGM-CSFの分泌能力が強かった(P<0.01)(図5)。エフェクター:標的比が5:1の時にCAR-GM-T細胞から分泌されたIFN-γがCAR-T細胞の4.5倍であり、異なるエフェクター:標的比でCAR-GM-T細胞が腫瘍細胞に接触した時に分泌されたIFN-γがいずれもCAR-T細胞よりも有意に高かった(P<0.001)(図6)。加えて、異なるエフェクター:標的比でCAR-GM-T細胞が腫瘍細胞を殺傷した時に分泌されたIL-2もいずれも有意に増強した(図7)。
【0119】
[134].4.CAR-GM-T細胞の卵巣がんに対する治療効果の増強
【0120】
[135].従来のCAR-T細胞は、マウスの腫瘍成長を抑制することができた。治療後14日目に、1匹のマウスの腫瘍が退縮したが、21日目に、そのマウスの腫瘍が再発した。一方、CAR-GM-T細胞治療を受けた14日目に、2匹のマウスの腫瘍が完全に退縮したとともに、1匹のマウスの腫瘍が基本的に退縮したが、21日目になっても、退縮した2匹のマウスの腫瘍が再発せず、残りの3匹のマウスの腫瘍量が非常に小さく、従来のCAR-T細胞で治療したマウスの腫瘍よりも有意に小さかった(図8)。以上の結果から、CAR-GM-T細胞が従来のCAR-T細胞よりも有意な生体内抗腫瘍効果を有したことが示された。
【0121】
[136].5.免疫系が健全なマウスにおけるHer2高発現の皮下移植黒色腫に対するCAR-GM-T細胞の効果の増強
【0122】
[137].CAR-T細胞がB16F10-Her2皮下移植黒色腫の成長を有意に抑制する作用がなく、マウスの生存期間を延長することもできなかったが、CAR-GM-T細胞治療を受けることでマウスの皮下移植黒色腫の成長を有意に抑制することができた(P<0.05)(図9)。マウスの生存期間を有意に延長した(図10)。
【0123】
[138].6.CAR-GM-T細胞の固形腫瘍の内部への浸潤能力の増強
【0124】
[139].マウスが治療を受けた24日目に、マウスの腫瘍とリンパ節を分離して単細胞懸濁液として調製した後、フローサイトメトリーによってマウスの腫瘍とリンパ節内のCAR-T細胞の割合を検出した。その結果、従来のCAR-T細胞治療群では腫瘍におけるCART細胞がCD3T細胞の1.2%を占めたが、CAR-GM-T細胞治療群では腫瘍におけるCART細胞がCD3T細胞の2.4%を占め、従来のCAR-T細胞治療群の2倍であり、その差が統計学的に有意であったことが示された(P<0.01)。腫瘍流入領域リンパ節におけるCART細胞の割合を分析しても同様の結果が得られた。従来のCAR-T細胞治療群では腫瘍流入領域リンパ節におけるCART細胞がわずかCD3T細胞の0.04%を占めたが、CAR-GM-T細胞治療群ではマウスの腫瘍流入領域リンパ節におけるCART細胞がCD3T細胞の0.4%を占め、従来のCAR-T細胞治療群の10倍であり、従来のCAR-T細胞治療群よりも有意に高かった(P<0.01)(図11)。
【0125】
[140].CAR-GM-T細胞のヒト腫瘍組織への浸潤能力をさらに検出するために、NSGマウスの腹腔内腫瘍の治療後28日目に、腹腔内の残存腫瘍を採取して免疫蛍光染色を行うことでCD3T細胞の浸潤能力を検出した。その結果、CAR-T細胞治療を受けたマウスの腫瘍におけるヒト由来CD3T細胞が腫瘍の辺縁部にのみ凝集し、腫瘍におけるT細胞が少なかったことが示された。また、CAR-GM-T細胞治療を受けたマウスの腫瘍におけるヒト由来CD3T細胞が腫瘍の内部へ浸潤することができ、腫瘍の内部組織におけるCD3T細胞が有意に増加したことから、GM-CSFの高発現がCAR-T細胞の殺傷活性を増強するほか、CAR-T細胞の腫瘍の内部への浸潤能力を増強できたことも示された(図12)。以上の結果から、GM-CSFの高発現がCAR-T細胞の浸潤能力を増強し、CAR-GM-T細胞がより効果的に腫瘍とリンパ節に内に入ってその機能を発揮できたことが示された。
【0126】
[141].7.CAR-GM-T細胞による内因性T細胞の活性化
【0127】
[142].マウスの腫瘍細胞の中でCD45.2内因性免疫細胞を分析し、内因性免疫細胞の浸潤能力を分析した。その結果、CAR-GM-T細胞治療群ではマウスの腫瘍におけるCD45.2免疫細胞が8%を占めたが、CAR-T細胞治療群ではCD45.2免疫細胞がわずか5%であったことから、CAR-GM-T細胞治療群ではマウスの腫瘍の内部への免疫細胞の浸潤能力がCAR-T細胞治療群よりも有意に良好であったことが示された(P<0.05)(図13)。
【0128】
[143].CD45.2内因性免疫細胞の中でCD3Tリンパ球を分析した。その結果、CAR-GM-T細胞治療群ではマウスの腫瘍におけるCD3Tリンパ球がCD45.2細胞の11%を占めたが、CAR-T細胞治療群ではCD3Tリンパ球がわずか5%を占めたことから、GM-CSFの高発現が、CAR-T細胞治療を受けたマウスの腫瘍における内因性CD3T細胞の割合を有意に増加したことが示された(P<0.01)(図14)。
【0129】
[144].8.CAR-GM-T細胞によるDC細胞の腫瘍への走化
【0130】
[145].CD45.2細胞の中でCD11bCD11c細胞を分析した。次に、この部分の細胞の中からCD11cMHCIIhiDC細胞を分析した。その結果、CAR-GM-T細胞治療群では腫瘍におけるCD11cMHCIIhiDC細胞の占める割合が、従来のCAR-T細胞治療群よりも有意に高かった(P<0.01)(図15)ことから、CAR-GM-T細胞治療群では腫瘍における成熟DC細胞がより多かったことが示された。
【0131】
[146].9.CAR-GM-T細胞による腫瘍細胞のリンパ節転移の抑制
【0132】
[147].B16F10はマウス黒色腫高転移細胞株である。本発明のチームは、CAR-T細胞とCAR-GM-T細胞を用いてB16F10-Her2皮下移植黒色腫モデルを治療した。流入領域リンパ節のHE染色結果から、PBS治療群では大量のメラニン斑が認められ、CAR-T細胞治療群では少量のメラニン斑が認められ、CAR-GM-T細胞治療群では大量のリンパ球が認められたがメラニン斑がなかったことが示された。以上の結果から、治療を受けなかったマウスでは大量の腫瘍細胞がリンパ節に転移し、CAR-T細胞治療が腫瘍細胞の転移の一部を抑制でき、GM-CSFの高発現がCAR-T細胞による腫瘍細胞のリンパ節転移の抑制能力を増強できたことが示された(図16)。
【0133】
[148].以上、本発明の実施形態を添付図面と共に説明したが、本発明は、単に模式的なものであって限定するものではなく、本発明の目的及び請求項によって保護される範囲から逸脱することなく、当業者が本発明に触発されて作り得る多くの形態があり、それらは全て本発明の保護範囲に入るものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】