IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッドの特許一覧

特表2024-515326摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット
<>
  • 特表-摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット 図1
  • 特表-摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット 図2
  • 特表-摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット 図3
  • 特表-摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット 図4
  • 特表-摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット 図5
  • 特表-摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-08
(54)【発明の名称】摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリおよび流体案内アセンブリを備えたクラッチユニット
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/74 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F16D13/74 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566545
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2021067169
(87)【国際公開番号】W WO2022268310
(87)【国際公開日】2022-12-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クアト トーマーザー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ラフィン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス メッスナー
(72)【発明者】
【氏名】ハンスペーター プッツァー
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BE13
3J056BE23
3J056CA07
3J056GA12
(57)【要約】
本発明は、摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリであって、支持部(5)と、肩部(7)と、軸部(6)とを備えた内側ディスク支持体(3)であって、支持部(5)は、結合構造(8)を有し、これによって、内側ディスク(29)が、相対回動不能であるものの軸線方向に移動可能に収容されている、内側ディスク支持体(3)と、内側ディスク支持体(3)に不動に結合された流体案内要素(4)であって、流入した流体を内部に捕集することができる環状の捕集部(12)と、全周にわたって分配された複数の舌片部(13)とを有し、舌片部(13)は、軸線方向に延在していて、それぞれ半径方向の貫通開口(14)を有している、流体案内要素(4)とを備えており、内側ディスク支持体(3)は、半径方向外側に複数の長手方向溝(11)を有し、長手方向溝(11)は、肩部(7)から軸線方向で支持部(5)内に延在していて、流体案内要素(4)の舌片部(13)によって覆われている、流体案内アセンブリに関する。本発明は、さらに、このような流体案内アセンブリを備えたクラッチユニットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリであって、
長手方向軸線(A3)と、支持部(5)と、肩部(7)と、軸部(6)とを備えた内側ディスク支持体(3)であって、前記支持部(5)は、半径方向外側に、全周にわたって分配された突出部(9)と切欠き(10)とを備えた結合構造(8)を有し、これによって、適合する対応構造を備えた内側ディスク(29)が、相対回動不能であるものの軸線方向に移動可能に取り付けられている、内側ディスク支持体(3)と、
前記内側ディスク支持体(3)に軸線方向で不動に結合された流体案内要素(4)であって、流入した流体を内部に捕集することができる環状の捕集部(12)と、全周にわたって分配された複数の舌片部(13)とを有し、前記舌片部(13)は、軸線方向に延在していて、それぞれ半径方向の貫通開口(14)を有している、流体案内要素(4)と
を備えている、流体案内アセンブリにおいて、
前記内側ディスク支持体(3)は、半径方向外側に全周にわたって複数の長手方向溝(11)を有し、前記長手方向溝(11)は、前記肩部(7)から軸線方向で前記支持部(5)内に延在しており、前記流体案内要素(4)の前記舌片部(13)は、前記内側ディスク支持体(3)の前記長手方向溝(11)を覆っており、これによって、前記舌片部(13)と前記長手方向溝(11)との間にそれぞれ流体用の通路(21)が形成されている
ことを特徴とする、流体案内アセンブリ。
【請求項2】
前記流体案内要素(4)は、前記内側ディスク支持体(3)の前記肩部(7)の外周面(19)に嵌め込まれた結合部(18)を有し、前記流体案内要素(4)は、軸線方向のプレス結合によって前記内側ディスク支持体(3)に結合されていることを特徴とする、請求項1記載の流体案内アセンブリ。
【請求項3】
前記流体案内要素(4)の前記舌片部(13)は、半径方向外側に向けられた窪み(20)を有していることを特徴とする、請求項1または2記載の流体案内アセンブリ。
【請求項4】
前記流体案内要素(4)の前記環状の捕集部(12)は、前記肩部(7)を越えて軸線方向に延在していて、その軸線方向の端部に半径方向の引込み部(16)を有し、軸線方向で前記結合部(18)に向かって円錐形に拡大していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項5】
前記舌片部(13)の前記半径方向の貫通開口(14)の全数のうちの少なくとも一部は、軸線方向で互いにずらされて配置されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項6】
前記流体案内要素(4)は、特に全周にわたって均一に分配された少なくとも3つの舌片部(13)を有していることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項7】
前記舌片部(13)は、それぞれ半径方向で見て、前記長手方向溝(11)それぞれの内のりの面を少なくとも90%だけ覆っていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項8】
前記長手方向溝(11)はそれぞれ、周方向で前記結合構造(8)の2つの切欠き(10)の間に配置されており、前記舌片部(13)の最大幅は、特に、前記結合構造(8)の、周方向で互いに隣り合った3つの切欠き(10)の間の周方向間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項9】
前記内側ディスク支持体(3)の前記長手方向溝(11)の底部が、前記内側ディスク(29)用の前記結合構造(8)の最深領域よりも小さな半径(R11)に位置していることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項10】
前記長手方向溝(11)は、前記肩部(7)に、半径方向内側に向けられた凹部(22)を有し、かつ/または前記肩部(7)とは反対側の端部で軸線方向において閉鎖されていることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項11】
前記内側ディスク支持体(3)は鍛造部材として製造されており、前記長手方向溝(11)および前記結合構造(8)は、鍛造によって成形されていることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項12】
前記内側ディスク支持体(3)は、中央の長手方向孔(23)と、全周にわたって分配されていて、前記長手方向溝(11)に通じる複数の半径方向の貫通開口(24)とを有していることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ。
【請求項13】
前記中央の長手方向孔(23)は、内側の旋削加工部(25)を有し、前記半径方向の貫通開口(24)は、前記内側の旋削加工部(25)と外側の前記長手方向溝(11)との軸線方向における重なり領域に形成されていることを特徴とする、請求項12記載の流体案内アセンブリ。
【請求項14】
自動車のパワートレーン用のクラッチユニットであって、
外側ディスクと内側ディスクとから成るディスクセット(32)が内部に配置されている外側ディスク支持体(30)を備えた湿式の摩擦多板クラッチ(27)と、前記ディスクセット(32)が軸線方向で支持されている支持プレート(33)と、前記ディスクセット(32)に軸線方向で荷重を加えるための軸線方向に可動の押圧プレート(34)と、前記押圧プレートの軸線方向の運動によって前記摩擦多板クラッチ(27)を操作するための操作装置(28)とを備えている、
クラッチユニットにおいて、
請求項1から13までのいずれか1項記載の流体案内アセンブリ(2)が設けられており、
内側ディスク支持体(3)は、前記外側ディスク支持体(30)に対して回転軸線(A3)を中心にして回転可能に支持されており、前記ディスクセット(32)の内側ディスク(29)は、前記内側ディスク支持体(3)の前記結合構造(8)に相対回動不能であるものの軸線方向に可動に結合されており、これによって、前記内側ディスク支持体(3)の回転運動時に、オイルが、前記捕集部(12)から前記流体案内要素(4)の内壁に沿って前記舌片部(13)に流れて、前記ディスクセット(32)を潤滑する
ことを特徴とする、クラッチユニット。
【請求項15】
前記内側ディスク支持体(3)は、ハウジング(44)内に回転可能に支持されており、前記ハウジング(44)は、軸線方向で前記流体案内要素(4)の環状室(17)内に延在しているスリーブ付設部(58)を有し、これによって、流体ラビリンスが形成されていることを特徴とする、請求項14記載のクラッチユニット。
【請求項16】
自動車のパワートレーン用の伝動装置アセンブリであって、
導入されたトルクを2つの出力部分(51,52)に分割するように構成されているディファレンシャル伝動装置(43)を備えている、
伝動装置アセンブリにおいて、
請求項14または15記載のクラッチユニット(26)が設けられており、
前記内側ディスク支持体(3)の前記軸部(6)が、前記2つの出力部分(51,52)のうちの1つの出力部分に相対回動不能に結合されている
ことを特徴とする、伝動装置アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチユニット用の流体案内アセンブリならびにこのような流体案内アセンブリと湿式の摩擦多板クラッチとを備えたクラッチユニットに関する。摩擦多板クラッチは、パワートレーンにおいて駆動軸および/または駆動歯車のような2つの駆動構成要素の間で摩擦接続式にトルクを伝達するために使用される。摩擦多板クラッチは、任意の回転数差においてトルクを加えながらパワートレーンの切換を可能にする。湿式の摩擦多板クラッチは、複数の摩擦ディスクを備えていて、これらの摩擦ディスクは、取り囲む流体、例えばオイルによって冷却もしくは潤滑される。
【0002】
独国特許発明第102015220446号明細書に基づいて、自動車用の湿式のクラッチユニットが公知である。このクラッチユニットは、駆動要素に割り当てられた第1の摩擦ディスクと、被駆動要素に割り当てられた第2の摩擦ディスクとを備えた摩擦クラッチを備えており、第1の摩擦ディスクと第2の摩擦ディスクとは摩擦ディスクセットを形成している。第1の摩擦ディスクは第1の切欠きを有しており、第2の摩擦ディスクは第2の切欠きを有している。第1の切欠きと第2の切欠きとは、半径方向および軸線方向で互いに重なっているので、これによって、摩擦ディスクセット切欠きが形成される。流体分配器が、流体室と流体案内溝とを有する駆動要素に不動に配置されている。流体室は、軸線方向で摩擦ディスクセット切欠き内に延在しており、これによって、摩擦ディスクセットに流体を供給することができる。流体案内溝は、軸線方向で軸受に延在しており、これによって、軸受に流体を供給することができる。
【0003】
独国特許発明第102011086376号明細書に基づいて、伝動装置モジュールにおいてスリップ運転で作動する多板ブレーキ用のオイル供給装置が公知である。オイル供給装置はオイル通路を備えており、このオイル通路のオイル通流路は弁によって制御され、スリップ運転段階で規定のポイントにおいて付加的なオイル量を提供する。そのために、内側ディスク支持体には、一定の直径で回転する捕集溝が設けられている。捕集溝に噴射されたオイルは、内側ディスク支持体に設けられた長孔を通って遊星歯車セット内に達し、さらに、多板ブレーキに達する。
【0004】
欧州特許出願公開第3354920号明細書に基づいて、自動車のパワートレーン用のクラッチアセンブリが公知であり、この公知のクラッチアセンブリは、湿式の摩擦多板クラッチと、ディスクセットが軸線方向で支持されている支持プレートと、多板ブレーキに荷重を加えるための軸線方向に可動の押圧プレートと、摩擦多板クラッチ用の操作装置と、クラッチを通流するオイル体積流を制御するための通流制御装置とを備えている。クラッチの内側ディスク支持体は、ディスクセットとの軸線方向における重なり領域に複数の孔を有しており、これらの孔を通って潤滑剤がディスクセットに流れることができる。通流制御装置は、操作装置によって調整可能な調整部材を有しており、この調整部材は、開口の開口領域を覆うための複数の絞り区分を備えている。これによって、要求に応じてオイル供給を制御することができる。
【0005】
米国特許第8388486号明細書に基づいて、必要に応じて接続・遮断可能な後方の駆動軸を備えたパワートレーンが公知である。このために、後方のディファレンシャルアセンブリには、制御可能なクラッチがディファレンシャルと側軸との間に設けられている。
【0006】
通常、互いに相対的に回転する構成部材を十分に潤滑し、摩擦に基づき発生する熱を導出するためには、摩擦多板クラッチへの十分なオイル供給が重要である。低い回転数での高いトルクは、十分に大きな冷却出力でしか提供することができない。
【0007】
本発明の根底にある課題は、確実な流体供給を可能にすると共に簡単に製造可能である流体案内アセンブリを提案することである。課題は、さらに、このような流体案内アセンブリを備えた、特にクラッチのスリップ運転中に十分に良好な冷却出力を提供するクラッチユニットを提案することにある。
【0008】
本発明によれば、この課題を解決するために、摩擦多板クラッチ用の流体案内アセンブリであって、長手方向軸線と、支持部と、肩部と、軸部とを備えた内側ディスク支持体であって、支持部は、半径方向外側に、全周にわたって分配された突出部と切欠きとを備えた結合構造を有しており、これによって、適合する対応構造を備えた内側ディスクが、相対回動不能であるものの軸線方向に移動可能に取り付けられている、内側ディスク支持体と、内側ディスク支持体に軸線方向で不動に結合された流体案内要素であって、流入した流体を内部に捕集することができる環状の捕集部と、全周にわたって分配された複数の舌片部とを有しており、舌片部は、軸線方向に延在していて、それぞれ半径方向の貫通開口を有している、流体案内要素とを備えており、内側ディスク支持体は、半径方向外側に全周にわたって複数の長手方向溝を有しており、長手方向溝は、肩部から軸線方向で支持部内に延在しており、流体案内要素の舌片部は、外側で内側ディスク支持体の長手方向溝内に収容されているかもしくは内側ディスク支持体の長手方向溝を覆っており、これによって、長手方向溝と、対応する舌片部との間にそれぞれ、流体が通流することができる流体通路が形成されている、流体案内アセンブリが提案される。
【0009】
流体案内アセンブリは、流体を捕集部から流体案内要素の舌片に沿って内側ディスク支持体の長手方向溝内でディスクセットに迅速に流すことができるという利点を提供する。全周にわたって分配された舌片によって、流体は全周にわたって分配される。したがって、流体案内要素は流体分配要素と呼ぶこともできる。内側ディスク支持体に設けられた長手方向溝によって、流体の均一で迅速な流れを促進する段なしのジオメトリが与えられている。全体として、これによって、極めて効率のよいパッシブな冷却が提供されるので、流体案内アセンブリは、特にクラッチユニットにおいて低い回転数で高いトルクを伝達するために良好に適している。
【0010】
流体は、摩擦によって発生する熱を導出しかつ互いに摩擦接触する構成部材を潤滑するために働く。したがって、流体は、冷却剤もしくは潤滑剤と呼ぶこともできる。通常、オイルが流体として使用される。捕集部の自由端部と軸部との間の環状間隙内に達する周囲に吹き飛ぶ流体は、環状の捕集部に集まり、そこから軸線方向で支持部の方向に流れることができる。オイル案内金属薄板の前側部分は、好ましくは、内側ディスク支持体に不動に取り付けられた円形に閉鎖されたオイル捕集ジオメトリを有している。これによって、回転する内側ディスク支持体から半径方向外側に向かって変向させられた流体が捕集され、捕集部の内壁に沿って舌片部に流れる。
【0011】
1つの実施形態によれば、環状の捕集部はその軸線方向の端部に、半径方向で内側に向けられた引込み部を有していてもよい。この引込み部は、環状部から、内側ディスク支持体が回転可能に内部に支持されているハウジング内室に流体が逆流することを阻止する。代替的にまたは補足的に、流体案内要素は、軸線方向の端部を起点として軸線方向で舌片部に向かって円錐形に拡大していてもよい。両方の手段は、改善された流れ特性もしくはより大きな流体体積流ひいては効果的な冷却に寄与する。
【0012】
流体分配要素の環状の捕集部は、好ましくは全周にわたって閉鎖されていて、肩部を越えて軸線方向に延在している。環状の捕集部は、肩要素の側面を、特に支持部の軸線方向長さの少なくとも0.1倍または0.2倍の長さだけ上回っていてもよい。このような構成によって、捕集部は、比較的大きな環状室を形成し、この環状室内に、周囲に吹き飛ぶオイルが集まり、オイルはそこからさらにディスク部に流れることができる。
【0013】
環状の捕集部に続いて流体分配要素は、特に円筒形の結合部を有していてもよく、この結合部は、支持体要素の肩部の外周面に被せ嵌められている。流体結合要素は、1つの可能な実施形態によれば、力接続的な結合、例えばプレス結合によって支持体要素に結合されていてもよい。代替的にまたは補足的に、流体案内要素は、形状接続的な結合要素、例えば係止結合によって支持体要素に結合されていてもよい。相応の係止要素は、円筒形の結合部にかつ/または舌片部の端部に設けられていてもよい。
【0014】
舌片部の形状は、原則的に任意であり、好ましくは内側ディスク支持体の長手方向溝の構成に合わせられている。例えば、舌片部は、軸線方向、つまり、長手方向軸線に対して平行に延在する縦長の要素として構成されていてもよく、したがって、舌片部はウェブ要素と呼ぶこともできる。1つの可能な構成によれば、流体分配要素の舌片部は、半径方向外側に向けられた窪みを有していてもよい。窪みは、縦長の成形部もしくは湾曲部として構成されていてもよい。窪みによって、半径方向における面積慣性モーメントが高められ、これによって、剛性が改善され、高回転数時における撓みが阻止される。好ましくは、窪みもしくは湾曲部は、結合構造の半径方向高さよりも少ない高さを有している。舌片部と、支持体要素に結合されたディスクとの間には、半径方向間隙が設けられていてもよい。
【0015】
好ましくは、舌片部の半径方向の貫通開口の全数のうちの少なくとも一部は、軸線方向で互いにずらされて位置決めされている。こうして、オイルは、異なる軸線方向領域でもしくは異なる横方向平面でディスクセットに流れることができ、これによって、全体として、長さにわたってオイルの均一な分配および良好な冷却作用が得られる。特に好ましくは、貫通開口は、全ての開口が一緒になってディスク用の結合構造の長さの少なくとも半分、好ましくは2/3を覆うように、舌片部に配置されている。全周にわたって分配された舌片の数は、必要に応じて選択することができ、例えば、流体分配要素は、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の舌片部を有していてもよく、これらの舌片部は、特に全周にわたって均一に分配されていてもよい。全周にわたって分配された舌片部の数および配置形態は、好ましくは内側ディスク支持体に設けられた長手方向溝の数および配置形態に対応している。
【0016】
舌片部は、内側ディスク支持体の長手方向溝を半径方向外側で覆っており、これによって、それぞれの長手方向溝と、対応する舌片部との間には、実質的に閉鎖された通路が形成されており、この通路を通って流体が開口に流れる。舌片部の、半径方向外側に向けられていて、長手方向に延びる湾曲部の構成では、これによって、オイルが内部で開口に流れるトラフ形状が形成される。それぞれの開口への所望のオイル流のために、好ましくは、舌片部は長手方向溝をほぼ完全に覆っている。そのために、舌片部は、それぞれ半径方向で見て、対応する長手方向溝の内のりの面を、例えば少なくとも90%だけ覆っていてもよい。
【0017】
オイル案内要素は、1つの構成によれば、金属薄板変形部材として金属材料から製造されていてもよい。代替的に、オイル案内要素はプラスチックからも製造することができ、このような構成は、例えばクランプ機能または係止機能のような構造技術的な利点を提供することができる。
【0018】
内側ディスク支持体は、鍛造部材としてかつ/または機械的な加工によって製造することができる。長手方向溝および結合構造は、変形加工または切削加工によって製造することができる。
【0019】
長手方向溝は、周方向で、好ましくは結合構造の2つの切欠きの間に配置されている。舌片部の最大幅は、例えば、結合構造の、周方向で互いに隣り合った3つまたは2つの切欠きの間の周方向間隔よりも小さくてもよい。内側ディスク支持体の長手方向溝の底部は、好ましくは、内側ディスク用の結合構造の最深領域よりも小さな半径に位置している。言い換えれば、ディスク支持体の外周面に関して、ディスク用の歯列要素は半径方向外側に向かって延在していてもよく、これに対して、溝は半径方向内側に向かって成形されている。長手方向溝の深さは、例えば、結合構造の半径方向高さの0.5倍~1.5倍であってもよい。長手方向溝は、好ましくは、ディスク用の結合構造の軸線方向延在長さの少なくとも75%にわたって延在している。溝は、肩部における端部に、半径方向内側に向けられた凹部を有していてもよく、これによって、流体は捕集部から溝内に良好に流入することができる。長手方向溝は、反対側の端部では、特に軸線方向において閉鎖されていてもよい。
【0020】
内側ディスク支持体は、中央の長手方向孔と、全周にわたって分配されていて、長手方向溝に通じる複数の半径方向の貫通開口とを有していてもよい。こうして、ディスク支持体の中央の内側開口からディスクへの付加的なオイル供給を行うことができる。運転状態に応じて、開口によって、流体通路における流体停滞も回避することができる。流体は、長手方向溝から半径方向の開口を通って中央の長手方向孔に流出することができ、再び流体回路内に達し、場合によっては、軸受またはシールのような別の構成部材を潤滑することができる。中央の長手方向孔は、内側の旋削加工部を有していてもよく、支持部における半径方向の貫通開口は、内側の旋削加工部と外側の長手方向溝との軸線方向における重なり領域に形成されている。
【0021】
解決手段は、さらに、自動車のパワートレーン用のクラッチユニットであって、外側ディスクと内側ディスクとから成るディスクセットが内部に配置されている外側ディスク支持体を備えた湿式の摩擦多板クラッチと、ディスクセットが軸線方向で支持されている支持プレートと、ディスクセットに軸線方向で荷重を加えるための軸線方向に可動の押圧プレートと、押圧プレートの軸線方向の運動によって摩擦多板クラッチを操作するための操作装置とを備えており、上述した実施形態のうちの1つ以上の実施形態による流体案内アセンブリが設けられており、内側ディスク支持体は、外側ディスク支持体に対して回転軸線を中心にして回転可能に支持されており、ディスクセットの内側ディスクは、内側ディスク支持体の結合構造に相対回動不能であるものの軸線方向に可動に結合されており、これによって、内側ディスク支持体の回転運動時に、流体が、捕集部から流体案内要素の内壁に沿って舌片部に流れて、ディスクセットを潤滑する、クラッチユニットにある。
【0022】
クラッチユニットは、必要に応じてパワートレーンの接続・遮断を可能にする。アセンブリは、パワートレーンにおいて、駆動されるアクスルを備えた車両、全輪駆動式の車両、ハイブリッド車両および/または電気自動車用に構成されていてもよい。クラッチユニットは、パワートレーンにおいて駆動源とホイールとの間の動力伝達経路における任意の箇所に配置されていてもよく、例えば増速機の前方、増速機内または増速機の後方かつ/または直交伝動装置の前方、直交伝動装置内または直交伝動装置の後方かつ/またはトランスファ(PTU)の前方、トランスファ内またはトランスファの後方かつ/または長手方向駆動軸の内部またはディファレンシャル伝動装置の前方、ディファレンシャル伝動装置内またはディファレンシャル伝動装置の後方かつ/または側軸に配置されていてもよい。
【0023】
本発明に係るクラッチユニットは、このクラッチユニットが効果的なオイル供給システムに基づいて低い回転数で高いトルクを提供することができるという利点を有している。流体分配アセンブリは、制御可能なクラッチの全ポテンシャルを呼び出すために好適に作用する。流体要素の捕集部に収容されたオイルは、長手方向溝に案内され、長手方向溝で舌片部における孔を通って遠心力に基づいてさらに外側に向かってディスクセットに流れることができる。オイルは、外側ディスク支持体における相応の孔を通ってオイル溜めに戻ることができる。流れるオイルは、軸受またはシールのような別の可動の機械的な構成部材も冷却かつ潤滑することができる。
【0024】
クラッチを操作するために、好ましくは制御可能な操作装置が設けられており、この操作装置は、押圧プレートをディスクセットの方向、つまり、閉鎖方向に運動させることができるかまたはディスクセットから離反する方向、つまり、開放方向に運動させることができる。操作装置は、押圧力を発生させるために、原則的に任意の構成を有していてもよい。例えば電気モータ式または液圧式のアクチュエータを使用することができる。電気モータ式のアクチュエータは、回転駆動装置と、回転運動を軸線方向の運動に変換するボールカムアセンブリとを備えることができる。
【0025】
解決手段は、さらに、自動車のパワートレーン用の伝動装置アセンブリであって、導入されたトルクを2つの出力部分に分割するように構成されているディファレンシャル伝動装置と、上述したようなクラッチユニットとを備えており、内側ディスク支持体の軸部が、2つの出力部分のうちの1つの出力部分に相対回動不能に結合されている、伝動装置アセンブリにある。このような伝動装置アセンブリは、必要な場合に、長手方向駆動軸から導入されたトルクを対応するアクスルに伝達することができるかまたは駆動アクスルを遮断することができ、摩擦クラッチの全ての中間位置も可能となる。
【0026】
以下に、好適な実施形態を図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る流体案内アセンブリを分解して示す斜視図である。
図2図1に示した流体案内アセンブリをディスクセットと共に示す縦断面図である。
図3図2に示した流体案内アセンブリを、オイル流の記入と共に示す詳細図である。
図4図1に示した流体案内アセンブリをディスクセットと共に示す横断面図もしくは軸線方向図である。
図5図1に示した流体案内アセンブリを備えた本発明に係るクラッチユニットを示す斜視図である。
図6図5に示したクラッチユニットを備えた伝動装置アセンブリを示す縦断面図である。
【0028】
以下に一緒に説明する図1図3には、特に自動車のパワートレーン用の摩擦多板クラッチ用の本発明に係る流体案内アセンブリ2が示してある。
【0029】
流体案内アセンブリ2は、長手方向軸線A3を備えた内側ディスク支持体3と流体案内要素4とを有しており、内側ディスク支持体3と流体案内要素4とは互いに不動に結合されている。内側ディスク支持体3は、内側ディスク用の支持部5と、駆動部分に相対回動不能に結合するための軸部6と、支持部5と軸部6との間に配置された肩部7とを備えている。支持部5は、半径方向外側に、全周にわたって分配された突出部9と切欠き10とを備えた結合構造8を有しており、結合構造8には、適合する対応構造を備えた内側ディスクを相対回動不能であるものの軸線方向に移動可能に結合することができる。さらに、内側ディスク支持体3は、半径方向外側の周面に、全周にわたって複数の長手方向溝11を有しており、これらの長手方向溝11は、肩部7を起点として軸線方向で支持部5内に延在している。内側ディスク支持体3は、例えば鍛造によって変形加工部材として製造することができ、代替的にまたは補足的に、旋削加工、穿孔加工またはフライス加工のような切削による金属加工による製造も可能である。流体案内要素4は、例えば金属材料製の金属薄板変形加工部材としてまたはプラスチックから製造することができる。
【0030】
流体案内要素4は、流入した流体を内部に捕集することができる環状の捕集部12と、全周にわたって分配された複数の舌片部13とを有しており、これらの舌片部13は、軸線方向に延在していて、それぞれ半径方向の貫通開口14を有している。舌片部には全体的に符号13が付され、個々の舌片は、13,13’,13’’,13’’’によっても示されている。同じことは、開口14に対しても言える。特に図2において分かるように、舌片部13は、外側で内側ディスク支持体3の長手方向溝11内に収容されているかもしくは内側ディスク支持体3の長手方向溝11を半径方向外側で覆っている。内側ディスク支持体3と流体案内要素4とは好適に協働し、冷却オイルが容易に捕集部12から流体案内要素4の内壁15に沿って支持体要素の長手方向溝11内に流れることができるようになっているかもしくは舌片部13に沿ってかつ流体案内要素4の開口14を通ってディスクセットに流れることができるようになっている。流れ経過は、図3において矢印Pで示してある。内側ディスク支持体3における長手方向溝11によって段なしのジオメトリが与えられているので、冷却オイルはディスクセットに良好に流れることができる。以下では、更なる好適な詳細について記載する。
【0031】
環状の捕集部12はその軸線方向の端部に半径方向の引込み部16を有しており、この引込み部16は、環状室17内に存在するオイル用の支持部を形成しており、これによって、オイルの逆流を阻止する。特に図2において認識できるように、捕集部12の壁は、半径方向の引込み部16を起点として舌片部13の方向に円錐形に拡大している。環状の捕集部12は、側方で肩部7を越えて軸部6の方向に軸線方向で突出している。捕集部12の長さは、例えば舌片部13の長さの少なくとも0.1倍または0.2倍であってもよい。
【0032】
突出している捕集部12と舌片部13との間に、流体案内要素4は、特に円筒形の結合部18を有していてもよく、この結合部18は、肩部7の外周面19にプレス結合によって装着されている。当然ながら、流体案内要素3と内側ディスク支持体3とを結合するための別の結合手段、例えば形状接続的かつ/または材料接続的な結合部が設けられていてもよい。
【0033】
環状の基体から軸線方向で離反するように延在している舌片部13はそれぞれ、基体の縁半径を起点として半径方向外側に向かって湾曲した窪み20を有しており、これは湾曲部と呼ぶこともできる。窪みもしくは湾曲部は、より大きな勾配を有しているので、舌片はより高い回転数でも屈曲しない。湾曲部の高さは、好ましくは、舌片が常にクラッチディスクに対して接触しないように構成されている。ディスクに通じる半径方向の貫通開口14は、湾曲部20に配置されている。
【0034】
特に図1および図2において認識できるように、半径方向の貫通開口14は軸線方向で互いにずらされて舌片部13に配置されている。こうして、オイルは異なる軸線方向領域でもしくは異なる横方向平面でディスクセットに流れることができる。同図に示した4つの舌片部13,13’,13’’,13’’’では、開口14は軸線方向で環状部に隣り合っていて、開口14’は、これに対して軸線方向で少しずらされていて、別の開口14’’は、舌片のほぼ中央領域にあり、さらに別の開口は、舌片端部に隣り合っている。
【0035】
舌片部13は、内側ディスク支持体3の長手方向溝11のためにカバーを形成しているので、長手方向溝11と舌片部13との間には、実質的に閉鎖された通路21が形成されており、この通路21を通って流体は開口14に流れる。半径方向外側に向けられていて、長手方向に延びる湾曲部20によって、トラフ形状が形成され、このトラフ形状に沿ってオイルは流れ、次いで、遠心力に基づいて、それぞれの開口14から流出する。それぞれの開口への所望のオイル流のために、舌片部13は長手方向溝11をほぼ完全に、例えば少なくとも90%だけ覆っている。
【0036】
全周にわたって分配された長手方向溝11によって、全周にわたって分配された複数の結合セグメントが形成されており、これらの結合セグメントは、一緒になって内側ディスク支持体3の結合構造8を形成している。それぞれの結合セグメントは、複数の歯と、その間に位置している歯の谷とを備えた長手方向歯列として形成されている。長手方向溝11は、周方向で結合構造8の切欠き10に隣り合って配置されている。言い換えれば、内側ディスク支持体3の長手方向溝11の底部は、切欠き10の最深領域(R10)よりも小さな半径R11に位置している。長手方向溝の深さは、例えば、結合構造8の半径方向高さの0.5倍~1.5倍であってもよい。長手方向溝11は、軸線方向で閉鎖された端部を有しており、長手方向溝11は、結合構造8の軸線方向長さの少なくとも75%にわたって延在していてもよい。長手方向溝11もしくは舌片部13の幅は、例えば、周方向で互いに隣り合った3つまたは2つの切欠き10の間の周方向間隔よりも小さくてもよい。肩側の端部において、長手方向溝11は、肩部7に、半径方向内側に向けられた凹部22を有していてもよく、これによって、流体は捕集部12から溝11内に特に良好に流入することができる。
【0037】
内側ディスク支持体3は、中央の長手方向開口23と、全周にわたって分配されていて、長手方向溝11に通じる複数の半径方向の貫通開口24とを有していてもよい。こうして、余剰のオイルが半径方向内側に向かって流出することができ、これによって、流体通路内でのオイル停滞を阻止することができるかまたは運転状態に応じて、ディスク支持体の中央の内側開口23からディスクに付加的なオイル供給を行うこともできる。中央の長手方向開口23は、内側の旋削加工部25を有していてもよく、支持部5における半径方向の貫通開口24は、内側の旋削加工部25と外側の長手方向溝11との軸線方向における重なり領域に形成されている。こうして、半径方向の開口24を、特に別個の穿孔プロセスなしに簡単に製造することができる。
【0038】
図5には、本発明に係る流体案内アセンブリ2を備えた本発明に係るクラッチユニット26が斜視図で示してあり、更なる詳細については、クラッチの縦断面図を示す図6から分かる。
【0039】
クラッチユニット26は、湿式の摩擦多板クラッチ27と、摩擦多板クラッチから伝達可能なトルクを制御するための操作装置28とを備えている。
【0040】
摩擦多板クラッチ27は、内側ディスク29が相対回動不能であるものの軸線方向に可動に結合されている内側ディスク支持体3と、外側ディスク31が軸線方向に可動であるものの相対回動不能に結合されている外側ディスク支持体30とを備えている。外側ディスク31と内側ディスク29とは、軸線方向で交互に配置されていて、一緒にディスクセット32を形成している。ディスクセット32は、第1の軸線方向で外側ディスク支持体30の支持部33に軸線方向で支持されている。ディスクセット32に荷重を加えるために、押圧プレート34が設けられており、この押圧プレート34は、制御可能な操作装置28によって軸線方向に可動である。外側ディスク支持体30は、第1の軸受59を介してハウジング44内でかつ第2の軸受60を介して内側ディスク支持体3のジャーナル区分に回転軸線A3を中心にして回転可能に支持されている。
【0041】
操作装置28は、これによって、摩擦多板クラッチ27から伝達すべきトルクを必要に応じて可変に調整することができるように構成されているもしくは制御可能である。また、摩擦多板クラッチ27によって、内側ディスク支持体3と外側ディスク支持体30との間でトルクが伝達されない開放位置と、ディスク支持体が一緒に回転軸線を中心にして回転しかつ全トルクが伝達される閉鎖位置とのほかに、あらゆる任意の中間位置も実現することができる。伝達すべきトルクは、例えば電子制御ユニット(ECU)において、継続的に感知された自動車の走行状態値に基づいて求めることができる。電子制御ユニットは、相応の制御信号を操作装置28に伝達することができ、次いで、操作装置28は、押圧プレート34に相応に荷重を加え、これによって、所望のトルクが摩擦多板クラッチ27によって伝達される。
【0042】
操作装置28と摩擦多板クラッチ27との間には、スラスト軸受35が設けられており、このスラスト軸受35は、操作装置28から押圧プレート34への軸線方向の力伝達を可能にすると同時に、回転を遮断する。操作装置28は、ボールカム機構と駆動ユニットとを備えている。ボールカム機構は、位置固定の構成部材に軸線方向で支持されている支持リング36と、支持リング36とは反対側に位置していて、回転軸線A3を中心にして回転駆動可能な調整リング37とを有している。支持リング36と調整リング37との互いに向かい合っている端面には、それぞれ全周にわたって分配されていて、全周にわたって可変の深さを有しているボール溝38,39が配置されており、これらのボール溝38,39内には、それぞれ1つのボールが収容されている。ボールカムユニットを操作するために、電気モータ(図示せず)が、調整リング37を支持リング36に対して歯車伝動装置38を介して回転させることができる駆動装置として働く。歯車伝動装置38は、電気モータによって回転駆動可能な駆動歯車40を備えており、この駆動歯車40は、出力歯車41に駆動結合されている。出力歯車41は、調整リング37に結合されていて、特に調整リング37と一体に構成されている。
【0043】
電気モータを用いた駆動歯車40の回転運動時に、出力歯車41ひいては調整リング37は、支持リング36に対して相対的に回転させられる。モータ軸の回転方向に応じて、調整リング37は、第1の回転方向またはそれとは逆の第2の回転方向に回転することができる。両方のリング36,37が互いに軸線方向で接近している出発位置を起点として、調整リング37が支持リング36に対して相対的に第1の回転方向で回転すると、ボール溝内に保持されたボールは少ない深さの領域内に転動し、これによって、調整リングが軸線方向でクラッチ27の方向に移動する。調整リング37はスラスト軸受35を介して、ディスクセットに荷重を加える押圧プレート34に軸線方向で支持されている。このようにして、クラッチ27は閉鎖される。完全に閉鎖された状態で、ディスクセットには最大の荷重が加えられているので、全トルクが内側ディスク支持体3と外側ディスク支持体30との間で伝達される。電気モータひいては調整リング37が、逆向きの第2の回転方向に回転させられると、ボール溝内に保持されたボールは、再びより大きな溝深さの領域に転動し、調整リングは、ばね手段(図示せず)によって軸線方向で支持リングの方向に荷重を受けるかもしくは運動させられるようになっている。こうして、クラッチ28を再び開放することができる。
【0044】
クラッチユニット26は、低い回転数および高いトルクでもディスクセットを極めて良好に冷却する。このようなクラッチユニットは、原則的に自動車のパワートレーンにおける任意の箇所に使用することができる。本発明に係るクラッチユニット26の使用例は、以下に記載する図6に示した伝動装置アセンブリ42にある。
【0045】
伝動装置アセンブリ42は、位置固定のハウジング44を備えたディファレンシャル伝動装置43を備えており、ハウジング44内には、ディファレンシャルケース45が、2つの軸受46,47によって回転軸線A45を中心にして回転可能に支持されている。ディファレンシャルケース45へのトルクの導入のために、環状歯車48が設けられており、この環状歯車48は、ディファレンシャルケースに、例えば溶接結合またはねじ結合によって不動に結合されている。ディファレンシャルケース45内には、複数の差動歯車49が、ジャーナル50にジャーナル軸線を中心にして回転可能に支持されている。両方の差動歯車49は、ディファレンシャルケース45と一緒に回転し、回転軸線A45に対して同軸に配置されている第1の被駆動歯車51および第2の被駆動歯車52にそれぞれ歯列係合している。側軸歯車と呼ぶこともできる両方の被駆動歯車51,52はそれぞれ、長手方向歯列53(スプライン)を有しており、これらの長手方向歯列53内には、駆動軸の相応の対応歯列がトルク伝達のために係合することができる。両方の被駆動歯車51,52は、介装された滑りディスクを介してディファレンシャルケース45に軸線方向で支持されていてもよい。
【0046】
ハウジング44は、特に複数部分から構成されていて、内部にディファレンシャル伝動装置43が収容されている伝動装置側のハウジング部54と、内部にクラッチユニット26が収容されているクラッチ側のハウジング部55とを備えている。両方のハウジング部は、フランジを介して互いに結合されているが、このような構成に制限される必要はない。両方のハウジング部54,55の間には中間プレート56が設けられており、この中間プレート56内には、ディファレンシャルケース45用の軸受46が収容されている。クラッチユニット26の内側ディスク支持体3は、駆動歯車51に結合されており、この駆動歯車51は、クラッチに隣り合って位置していて、中間プレート56における貫通開口57を貫いて延在している。操作装置28は、軸線方向で中間プレート56とクラッチユニット26との間に配置されており、支持リング36は、中間プレートに軸線方向で支持されている。中間プレート56は、流体案内要素4の領域にスリーブ状の付設部もしくはカラーを有しており、この付設部もしくはカラーは、捕集部12に対して軸線方向で重なりながら、流体案内要素の環状室17内に延在している。こうして、オイルラビリンスが形成されるので、周囲に吹き飛ぶオイルは、スリーブ付設部によって環状室17内に良好に導入され、そこから通路21内に達することができる。
【0047】
伝動装置アセンブリ42は、クラッチユニット26の効果的なオイル供給システムに基づいて、低い回転数で高いトルクを提供することができ、両方の側軸に伝達することができる。流体分配アセンブリ2は、制御可能なクラッチの全ポテンシャルを呼び出すための好適な作用を有している。クラッチを通って流れるオイルは、クラッチユニット26もしくは伝動装置の軸受またはシールのような別の可動の機械的な構成部材も冷却および潤滑することができる。
【符号の説明】
【0048】
2 流体案内アセンブリ
3 内側ディスク支持体
4 流体案内要素
5 支持部
6 軸部
7 肩部
8 結合構造
9 突出部
10 切欠き
11 長手方向溝
12 捕集部
13 舌片部
14 貫通開口
15 内壁
16 引込み部
17 環状室
18 結合部
19 外周面
20 窪み
21 通路
22 凹部
23 長手方向開口
24 半径方向の開口
25 旋削加工部
26 クラッチユニット
27 摩擦多板クラッチ
28 操作装置
29 内側ディスク
30 外側ディスク支持体
31 外側ディスク
32 ディスクセット
33 支持プレート
34 押圧プレート
35 スラスト軸受
36 支持リング
37 調整リング
38 ボール溝
39 ボール溝
40 駆動歯車
41 出力歯車
42 伝動装置アセンブリ
43 ディファレンシャル伝動装置
44 ハウジング
45 ディファレンシャルケース
46 軸受
47 軸受
48 環状歯車
49 差動歯車
50 ジャーナル
51 被駆動歯車
52 被駆動歯車
53 長手方向歯列
54 ハウジング部
55 ハウジング部
56 中間プレート
57 貫通開口
58 付設部
59 軸受
60 軸受
A 軸線
R 半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】