(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-09
(54)【発明の名称】立体構造スイッチングナノ構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240402BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240402BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240402BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240402BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20240402BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240402BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240402BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240402BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240402BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240402BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240402BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240402BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240402BHJP
A61K 31/7115 20060101ALI20240402BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20240402BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20240402BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240402BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240402BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20240402BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240402BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N15/10 Z
C12Q1/68
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/18
A61P31/12
A61P7/02
A61P3/00
A61P31/00
A61P3/10
A61K47/69
A61K9/51
A61K31/7088
A61K38/02
A61K39/395 D
A61K39/395 Y
A61K39/395 W
A61K31/7115
A61K31/712
A61K31/7125
A61K47/68
C12N15/11 Z
C12N15/115 Z
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564438
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022060737
(87)【国際公開番号】W WO2022223802
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517068553
【氏名又は名称】テクニッシェ ウニベルシタット ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】エンゲレン、ワウター
(72)【発明者】
【氏名】シグル、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ディーツ、ヘンドリック
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR42
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4B063QS40
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4C086ZB32
4C086ZB33
4C086ZC21
4C086ZC35
4C086ZC55
(57)【要約】
本発明は、条件付きでスイッチング可能なナノ構造体、およびそれを含むシステムに関する。特に、本発明は、少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける方法に関する。本発明はさらに、抗体または抗原結合断片などの、カップリング分子が、さもなければ好ましくない条件でナノ構造体のサブユニット相互作用を安定化させ得るという知見に基づいている。さらに、本発明はまた、この発明のナノ構造体を含むシステム並びにこの発明のナノ構造体またはシステムを利用する方法に関する。最後に、薬剤としての使用のための、または診断方法における使用のための、少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体を含む物質および/または組成物もまた、提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのカップリング部位を含むナノ構造体であって、前記少なくとも2つのカップリング部位が少なくとも1つのカップリング分子に結合し得、前記少なくとも2つのカップリング部位がカップリング部位セットであるように構成されており、任意に、1つのカップリング部位セットが1つのカップリング分子に結合するように構成されている、ナノ構造体。
【請求項2】
ナノ構造体が少なくとも1つの第1の実体および少なくとも1つの第2の実体を含み、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体のそれぞれが、少なくとも1つのカップリング部位セットの少なくとも1つのカップリング部位を含み、好ましくは、該少なくとも1つの第1の実体の該少なくとも1つのカップリング部位および該少なくとも1つの第2の実体の該少なくとも1つのカップリング部位が、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体の対称的な位置上に位置しており、任意に、該少なくとも1つのカップリング分子が、該少なくとも1つのカップリング分子が該少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときに、該ナノ構造体の該少なくとも1つの第1の実体を該ナノ構造体の該少なくとも1つの第2の実体にカップリングさせるように構成されている、請求項1に記載のナノ構造体。
【請求項3】
ナノ構造体が、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、または任意の数の該少なくとも1つの第1の実体、および少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、または任意の数の該少なくとも1つの第2の実体などの、複数の該少なくとも1つの第1の実体および複数の該少なくとも1つの第2の実体を含み、任意に、該ナノ構造体が、複数のカップリング部位セット、好ましくは少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、または任意の数のカップリング部位セットを含み、好ましくは、各カップリング部位セットが2つのカップリング部位からなる、請求項1または2に記載のナノ構造体。
【請求項4】
ナノ構造体が、少なくとも1つの第1の配置(A)、および少なくとも1つの第2の配置(B)、任意に、少なくとも1つの第3の配置(C)、少なくとも1つの第4の配置(D)、または任意の他の数の配置をとるように構成されている、先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体。
【請求項5】
ナノ構造体が、少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときは少なくとも1つの第1の配置(A)をとるように構成されており、および/またはナノ構造体が、少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合していないときは少なくとも1つの第2の配置(B)をとるように構成されており、任意に、ナノ構造体が、少なくとも1つの競合分子がほとんどまたは全く存在しないときは少なくとも1つの第1の配置(A)をとるように構成されており、および/またはナノ構造体が、少なくとも1つの競合分子がより多量に存在するときは少なくとも1つの第2の配置(B)をとるように構成されている、請求項4に記載のナノ構造体。
【請求項6】
ナノ構造体が、第1の溶液中では少なくとも1つの第1の配置(A)をとるように構成されており、該第1の溶液は好ましくは、第2の溶液と比較してより高い濃度のマグネシウムイオンを含み、および/またはナノ構造体が、該第2の溶液中では少なくとも1つの第2の配置(B)をとるように構成されており、該第2の溶液は好ましくは、該第1の溶液と比較してより低い濃度のマグネシウムイオンを含み、任意に、該第1の溶液のマグネシウムイオン濃度は20mMより高い、および/または該第2の溶液のマグネシウムイオン濃度は20mMより低い、請求項4または5に記載のナノ構造体。
【請求項7】
ナノ構造体が、DNA、RNA、DNAアプタマー、RNAアプタマー、またはペプチド核酸(PNA)などの、核酸、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチド模倣体、および抗体、抗体様分子、抗原結合誘導体、またはそれらの抗原結合断片などの、抗原結合構築物からなる群から選択される少なくとも1つの分子を含む、先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体。
【請求項8】
ナノ構造体が、DNA折り紙構造体によって少なくとも部分的に形成され、
該DNA折り紙構造体が、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドを含み;
該DNA折り紙構造体がさらに、複数の一本鎖オリゴヌクレオチドステープルストランドを含み;
各ステープルストランドが、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドに対して少なくとも部分的に相補的であり;並びに
該ステープルストランドのそれぞれが、該少なくとも1つのスキャフォールディングストランドの少なくとも1つに結合するように構成されており、ここで、該少なくとも1つのスキャフォールディングストランドは、所望のナノ構造体が形成されるように折り畳まれているおよび/または配置されている、先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体。
【請求項9】
少なくとも1つのカップリング部位が、分子であり、好ましくは、該少なくとも1つのカップリング部位、および/または少なくとも1つのカップリング分子が、抗原、抗原断片、抗原模倣体、抗体、抗体様分子、抗体模倣体、抗原結合誘導体、若しくは抗原結合断片などの、抗原結合構築物、DNA鎖、ビオチン分子、ストレプトアビジン分子、マレイミド-チオール化学分子、クリック化学分子、SNAP-タグタンパク質、およびCLIP-タグ分子からなる群から選択される分子であり、好ましくは、該カップリング分子が、抗体、抗体様分子、抗体模倣体、抗原結合誘導体、またはそれらの抗原結合断片などの、抗原結合構築物であり、該カップリング部位が、抗原、抗原断片、および/または抗原模倣体である、先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体。
【請求項10】
カップリング分子が、IgG抗体、IgG抗体断片、IgG抗体模倣体、IgM抗体、IgM抗体断片、IgM抗体模倣体、IgD抗体、IgD抗体断片、IgD抗体模倣体、IgA抗体、IgA抗体断片、IgA抗体模倣体、IgE抗体、IgE抗体断片、またはIgE抗体模倣体であり、好ましくは、前記抗体、抗体断片、または抗体模倣体が、2つの同一の抗原結合部位を含み、より好ましくは、前記抗原結合部位が、カップリング部位セットの前記少なくとも2つのカップリング部位に結合する、先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体。
【請求項11】
ナノ構造体が最大長を含み、該最大長が、1000nmより小さく、好ましくは、100nmなどの、500nmより小さい、先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体。
【請求項12】
先行する請求項のいずれかに記載のナノ構造体を含むシステムであって、該システムは、
(i)少なくとも2つのカップリング部位を含む少なくとも1つのナノ構造体であって、前記少なくとも2つのカップリング部位が少なくとも1つのカップリング分子に結合し得、前記少なくとも2つのカップリング部位がカップリング部位セットであるように構成されている、少なくとも1つのナノ構造体、および
(ii)少なくとも1つのカップリング分子
を含む、システム。
【請求項13】
システムが、
少なくとも1つの第1の実体および少なくとも1つの第2の実体を含む少なくとも1つのナノ構造体であって、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体のそれぞれが、少なくとも1つのカップリング部位セットの少なくとも1つのカップリング部位を含み、好ましくは、該少なくとも1つの第1の実体上の該少なくとも1つのカップリング部位および該少なくとも1つの第2の実体上の該少なくとも1つのカップリング部位が、該実体の対称的な位置上に位置している、ナノ構造体、および
少なくとも1つのカップリング分子、好ましくは複数のカップリング分子
を含み、
該少なくとも1つのカップリング分子が、該少なくとも1つのカップリング分子が該少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときに該ナノ構造体の該少なくとも1つの第1の実体を該ナノ構造体の該少なくとも1つの第2の実体にカップリングさせるように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける方法であって、該方法が:
(i)請求項1から11のいずれか一項に記載のナノ構造体を提供すること;
(ii)少なくとも1つのカップリング分子を提供することであって、
(ii)において提供する少なくとも1つのカップリング分子が(i)において提供する該ナノ構造体の少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときは、該ナノ構造体が少なくとも1つの第1の配置(A)をとっている、提供すること、および
(iii)該少なくとも1つの分子を同定すること
を含み、
ここで、前記少なくとも1つの分子は好ましくは、競合分子であり、
該ナノ構造体は、該少なくとも1つの分子を同定する際に、少なくとも1つの第2の配置(B)をとっており、
それにより、少なくとも1つの分子の該同定を、該ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付けることを可能にし、
任意に、該ナノ構造体は、該少なくとも1つの第1の配置(A)にある分子または第2のナノ構造体を包囲し、好ましくは、該分子は、治療用分子および/またはカーゴ分子から選択され、
さらに任意に、該分子または第2のナノ構造体、好ましくは治療用分子および/またはカーゴ分子から選択される該分子は、該ナノ構造体が該少なくとも1つの第2の配置(B)をとっているときに、該ナノ構造体の立体構造の再配置の際に放出されるおよび/または活性化される、方法。
【請求項15】
薬剤としての使用のための、および/または診断方法における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体、または請求項12若しくは13に記載のシステムを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、条件付きでスイッチング可能なナノ構造体、およびそれを含むシステムに関する。特に、本発明は、少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける方法に関する。本発明はさらに、抗体または抗原結合断片などの、カップリング分子が、さもなければ好ましくない条件でナノ構造体のサブユニット相互作用を安定化させ得るという知見に基づいている。さらに、本発明はまた、この発明のナノ構造体を含むシステム並びにこの発明のナノ構造体またはシステムを利用する方法に関する。最後に、薬剤としての使用のための、または診断方法における使用のための、少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体を含む物質および/または組成物もまた、提供される。
【背景技術】
【0002】
説明
分子認識は、生体系の基本的な特徴であり、例えば適応免疫系によるT細胞の認識または細胞膜を横断する分子シグナルの伝達について必要とされる。現代医学における重要な進歩は、特定の細胞表面受容体を標的とする治療用抗体などの、同様の分子認識特性を実証する治療薬の開発である。DNAナノテクノロジーの分野における最近の進歩は、それを、天然に存在する分子において観察されるものと同様の分子認識特性を示す「インテリジェントな」ナノスケールデバイスの開発のための見込みのある候補とした。そのようなインテリジェントなナノ構造体を開発するために、分子認識をシグナル伝達機構に連結させて、典型的にはしかしもっぱらではなく薬物担体からのカーゴの放出または治療剤の活性化をもたらす、立体構造の再配置を与えなければならない。
【0003】
近年、ナノ構造体を製造する新たな方法が開発されている。これらは、米国特許第7,842,793B3号に開示される、核酸ナノ構造体を製造する方法を含む。該開示は、所定の構造を有するように設計することができる核酸ナノ構造体に基づいてナノスケールのデバイス、システム、および酵素工場を生成する方法である、「DNA折り紙」と呼ばれる技術に関する。DNA折り紙は、ナノメートルスケールでの三次元構造体の産生のためにDNA分子を使用する。化学修飾または一本鎖DNAオーバーハングを折り紙構造体上に置いて、核酸ナノ構造体の所望の構造を設計し構築して、DNA折り紙構造体を他の分子に連結させることができる。DNA折り紙構造体は従って、細胞のシグナル伝達機構を調節するために使用することができる。
【0004】
最近、DNA折り紙技術が、種々のナノスケールデバイスの製造のために使用されている。一例として、国際公開第2012/061719A2号は、特定の細胞集団への生物学的活性実体の標的送達において有用なDNA折り紙デバイスを開示する。このデバイスは、生物学的活性実体の標的送達を可能にし得る一方、それは、2つの異なる結合標的に結合し得る、特定の相互作用分子に、特にアプタマーに頼る。
【0005】
米国特許第9,863,930B2号は、異なる分析物を検出するために使用することができるさまざまな分子バーコード化双安定スイッチを開示する。特に、分子バーコード化双安定スイッチは、DNA折り紙を使用して製造し得る。
【0006】
しかしながら、分子シグナルによって誘導されるナノ粒子の再配置を制御するモジュールの統合は、ほとんど満たされていない課題のままである。今日まで、何らかの分子再配置を示す、数少ない開発されたDNA折り紙ナノ粒子のほとんどは、構造スイッチングアプタマーに頼る。典型的には、これらのアプタマーは、構造を、準安定な閉じた配置に固定する。抗原のアプタマーへの結合は、平衡の、開いた状態への移行の誘導を閉じる。構造スイッチングアプタマーの使用の固有の制限は、開いた状態の安定性と閉じた状態の安定性との間のこの複雑なバランスであり、これは、種々の構造およびアプタマーのタイプについて広範囲にわたる調整を必要とする。さらに、限られた数のアプタマーのみが、さらにより少ない数の抗原について知られており、それらは典型的には、中程度の親和性で結合するかまたは適切な機能のために外来性の金属イオンを必要とする。最後に、アプタマーは、大きな構造的不均一性を示し、これが、モジュール設計を本質的に困難にする。
【0007】
上記を考慮して、当技術分野においては、分子認識をシグナル伝達機序に連結させることを可能にするナノ構造体を開発するための、継続するニーズがある。また、多数の分子を認識し、認識時にそれらの立体構造(conformation)を確実に変化させ得るナノ構造体の開発についての緊急のニーズもある。さらに、高い親和性で標的分子に結合するナノ構造体もまた、緊急に必要とされている。従来技術の欠点および不利な点を克服するかまたは少なくとも軽減することが、本発明の目的である。すなわち、新規な立体構造スイッチングナノ構造体を提供することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0008】
発明の簡単な説明
一般に、および簡単な説明として、本発明の主な態様は、以下のように記載することができる:
【0009】
第1の態様においては、本発明は、少なくとも2つのカップリング部位を含むナノ構造体に関する。
【0010】
第2の態様においては、本発明は、ナノ構造体を含むシステムに関する。
【0011】
第3の態様においては、本発明は、少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の(conformational)再配置(reconfiguration)に関連付ける方法に関する。
【0012】
第4の態様においては、本発明は、薬剤としての使用のための、または診断方法における使用のための、少なくとも1つのまたは複数のナノ構造体を含む物質に関する。
【0013】
第5の態様においては、本発明は、薬剤としての使用のための、または診断方法における使用のための、少なくとも1つのまたは複数のナノ構造体を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面および配列の簡単な説明
図は、示す:
【
図1】
図1は、二十面体DNA折り紙シェルの、IgGが媒介する安定化および抗原が誘発する解体を示す。DNA折り紙サブユニット(「実体」、三角形状で示す)上に戦略的に取り付けた抗原が、二価抗体(「カップリング分子」)が異なるDNA折り紙サブユニット(「実体」、三角形状で示す)間の分子橋として作用して、抗原断片に結合したときに、さもなければ好ましくない条件でのサブユニット相互作用を安定化させることを可能にする。形状相補的な突起およびくぼみが、多層DNA折り紙サブユニットの20個の同一コピーからの二十面体シェルの自己集合を支配する。二十面体シェルの自己集合に、形状相補的な特徴間の平滑末端スタッキング接点を安定化させるためにMg2+イオンの添加を必要とする。抗体特異的抗原は、DNA折り紙サブユニット(「三角形」)モノマー表面上の対称的な位置に設置する。シェル集合は、各三角形-三角形界面の反対側での抗原の配置をもたらす。抗原特異的抗体(「カップリング分子」)は、シェルに取り付けた抗原に二価で結合し、三角形-三角形相互作用を安定化させる。引き続き二十面体シェルをさもなければ不安定化するMg2+イオン濃度に希釈することによって、該シェルは、準安定な「バネ荷重(spring-loaded)」状態のままである。制御された解体が、安定化抗体をシェルから移動させる補助抗原(「競合抗原」)の添加によって誘発され、それによってDNA折り紙構造体の立体構造の再配置を誘導する。凡例:Mg
2+=マグネシウムイオン;1三角形=1DNA折り紙サブユニット(「実体」);「カップリング部位」=抗原断片(好ましくはステープルストランドを介してDNA折り紙サブユニット上に取り付ける);抗体=「カップリング分子」。
【
図2】
図2は、Mg2+依存的なIgGが媒介するシェル安定化の構造的特徴付けおよび評価を示す。(a)上:25mMのMgCl
2で三角形-三角形界面を架橋する抗ジゴキシゲニン抗体を有する、自立氷中の二十面体シェルの例示的なCryo-EM顕微鏡写真。下:異なる配向からの二次元クラス平均。(b)各三角形-三角形界面を架橋する2つの抗ジゴキシゲニン抗体を有する、集合した二十面体シェルのCryo-EM再構築。(c)(左)手動で配置したIgG抗体を有する円柱モデル(PDB:1IGT)および(右)Cryo-EM再構築で描いた、2つの抗ジゴキシゲニン抗体によって架橋された三角形-三角形界面でのズームイン。注目すべきことに、両Fab断片に加えて、抗体のFc領域の部分が、再構築されている。(d)減少したMg2+濃度での抗体が媒介する安定化の概略図。(e)8、12、16および20mM MgCl
2を補充した0.5×TBE緩衝液中の0.75%アガロースゲルのレーザースキャン蛍光画像。集合したシェルを、25mM MgCl
2での抗ジゴキシゲニン抗体の有り無しでインキュベートし、引き続きそれぞれのMgCl
2濃度に希釈し、対応するゲル上で電気泳動した。凡例:モノマー=単一の三角形モノマー、ダイマー=2つの三角形サブユニットによって形成されるダイマー、シェル=完全に集合した二十面体シェル。(f)抗ジゴキシゲニン抗体無し(左)または有り(右)でインキュベートし、12mM MgCl
2に希釈したシェルのネガティブ染色TEM画像。(g)抗ジゴキシゲニン抗体無しおよび有りでインキュベートし、引き続きさまざまな最終MgCl
2濃度に希釈したシェルの正規化FRET比。三角形サブユニットの各辺は、対称的な位置でCy3およびCy5フルオロフォアで官能基化されており、これが、シェルが集合したときのみエネルギー移動をもたらす。22から14mMの間のMgCl
2濃度でのFRET比における初期減少は、増加する静電反発力のためのシェルの膨潤によって引き起こされる。
【
図3】
図3は、抗原が誘発する二十面体シェルの解体を示す。(a)シェルを安定化させる抗ジゴキシゲニン抗体との結合について競合する可溶性ジゴキシゲニンリガンドの添加により、抗体がバネ荷重シェルから移動し、これが、その結果、不安定化させるMg2+イオン濃度でのシェルの解体を誘発する。12mM MgCl
2を補充した0.5×TBE緩衝液中の0.75%アガロースゲルのレーザースキャン蛍光画像。抗ジゴキシゲニン抗体を備える集合したシェルを、増加する濃度のジゴキシゲニンとインキュベートした。抗ジゴキシゲニンで安定化したシェルは、増加する濃度の可溶性ジゴキシゲニン抗原で解体する。25μM可溶性ジゴキシゲニンの非存在下(左)および存在下(右)における抗ジゴキシゲニンで安定化されたシェルのネガティブ染色TEM画像。(b)抗ジニトロフェノールで安定化されたシェルを用いることおよび可溶性2,4-ジニトロフェノールリガンドの添加を除いて(a)におけると同様。(c)増加する濃度の可溶性ジゴキシゲニンリガンドでの、抗ジゴキシゲニンによって安定化したシェルの正規化FRET比。(d)増加する濃度の可溶性2,4-ジニトロフェノールでの、抗ジニトロフェノールによって安定化したシェルの正規化FRET比。破線は、実験データに対するHill式の非線形最小二乗最適化を表す。(e)左:ANDゲート論理によってゲーティングされるシェル解体が、三角形-三角形界面上にジゴキシゲニンおよび2,4-ジニトロフェノールの両リガンド並びにそれぞれの抗体を設置することによって実現する。ANDゲートシェルの解体はその結果、可溶性ジゴキシゲニンおよび2,4-ジニトロフェノールの両方の存在を必要とする。右:12mM MgCl
2を補充した0.5×TBE緩衝液中の0.75%アガロースゲルのレーザースキャン蛍光画像。抗ジゴキシゲニン抗体および抗ジニトロフェノール抗体を備える集合したANDゲートシェルを、増加する濃度の上:ジゴキシゲニン、中央:2,4-ジニトロフェノール並びに下:ジゴキシゲニンおよび2,4-ジニトロフェノールとインキュベートした。上:25μMジゴキシゲニン、中央:5mM 2,4-ジニトロフェノール並びに下:25μMジゴキシゲニンおよび5mM 2,4-ジニトロフェノールとインキュベートした、抗ジゴキシゲニンおよび抗ジニトロフェノールを備えるシェルのネガティブ染色TEM画像。(f)抗ジゴキシゲニンおよび抗ジニトロフェノールの組合せによって安定化し、可溶性ジゴキシゲニン(25μM)および2,4-ジニトロフェノール(5mM)の組合せとインキュベートした、ANDゲートシェルの正規化FRET比。
【
図4】
図4は、抗原が誘発するウイルスペイロードの放出を示す。(a)B型肝炎ウイルス(HBV)コアカプシドを有する三角形のサブセットの官能基化を示すスキーム(左から右へ)、ここでは、HBV粒子の結合が三角形のシェルの内向き表面で特異的抗体によって媒介され;内腔におけるHBVコアカプシドを有する完全なシェルの集合;抗Dig IgG抗体によるステープリングおよびイオン強度の低下によるバネ荷重;抗原が誘発するシェルの破裂および可溶性ジゴキシゲニン抗原を添加することによるウイルスペイロードの放出。図示しないのは、シェルの内部に位置するHBV結合抗体をシェルから脱離させて、HBV粒子を該シェル中で自由に浮遊させる中間工程である。(b、c、d)それぞれ、ウイルスペイロードの存在下において40mM MgCl
2で集合させたシェル、バネ荷重条件下(12mM MgCl
2)でウイルスペイロードを充填した、抗Digでステープリングしたシェル、ウイルスペイロードの放出につながる、可溶性ジゴキシゲニン抗原を添加することにより解体させたシェルのネガティブ染色TEM画像。(b、c)におけるスケールバーは、50nmであり、(d)におけるのは、100nmである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
以下において、本発明の要素を、説明する。これらの要素は、具体的な実施形態と共に列挙するが、しかしながら、それらは、さらなる実施形態を作り出すために任意の方法でおよび任意の数で組み合わせ得ることが理解されるべきである。さまざまに記載する例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載する実施形態のみに限定すると解釈されるべきでない。この記載は、明示的に記載する実施形態の2つ以上を組み合わせるまたは明示的に記載する実施形態の1つ以上を任意の数の開示するおよび/若しくは好ましい要素と組み合わせる実施形態を裏付けるおよび包含すると理解されるべきである。さらに、文脈が別途示さない限り、この出願における全ての記載する要素の任意の順列および組合せが、本出願の記載によって開示されると考えられるべきである。
【0016】
第1の態様においては、本発明は、少なくとも2つのカップリング部位を含むナノ構造体であって、前記少なくとも2つのカップリング部位が少なくとも1つのカップリング分子に(すなわち、1つのカップリング分子にまたは複数のカップリング分子に)結合し得、前記少なくとも2つのカップリング部位がカップリング部位セットであるように構成されている、ナノ構造体に関する。
【0017】
好ましい実施形態においては、カップリング部位セットは、1つのカップリング分子に結合するように構成されている。一般に、少なくとも2つのカップリング部位を含むナノ構造体は、該ナノ構造体がこれらの2つのカップリング部位のみを含み、1つのカップリング部位セットが1つのカップリング分子のみに結合するように構成されていることを意味すると解釈されるべきでないことが理解されるべきである。その代わり、ナノ構造体はまた、2つを超えるカップリング部位を有し得、1つのカップリング部位セットは、1つを超えるカップリング分子に結合するように構成し得る。
【0018】
別の好ましい実施形態においては、ナノ構造体は、少なくとも1つの第1の実体および少なくとも1つの第2の実体を含み、ここで、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体のそれぞれは、少なくとも1つのカップリング部位セットの少なくとも1つのカップリング部位を含み、好ましくは、該少なくとも1つの第1の実体の該少なくとも1つのカップリング部位および該少なくとも1つの第2の実体の該少なくとも1つのカップリング部位は、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体の対称的な位置上に位置する。
【0019】
好ましい実施形態においては、カップリング部位セットは、同一のカップリング部位、すなわち同じカップリング分子にカップリングするように構成されたカップリング部位のみを含み得る。他の実施形態においては、カップリング部位セットは、異なる相互作用によってカップリング分子にカップリングするように構成された、少なくとも2つの別個のカップリング部位を含み得る。カップリング部位セットは、2つのカップリング部位によって形成し得る。しかしながら、他の実施形態においては、カップリング部位セットはまた、複数のカップリング部位によって形成し得る。
【0020】
この発明は一般に、ナノ構造体に関する。本発明の例においては、ナノ構造体は、米国特許第7,842,793B2号に例示的に開示される、DNA折り紙構造体、すなわち、DNA折り紙デバイスであり得る。しかしながら、本技術はそれに限定されないことが理解されるべきであり、並びに、これは単に例示的であることおよびまた他のナノ構造体を本発明を行使するために利用し得ることが理解されるべきである。しかしながら、本明細書において使用する用語「ナノ構造体」は好ましくは、複数のDNA折り紙サブユニット(実体)で構成されている、DNA折り紙構造体を指すものとする。いくつかの実施形態においては、この発明に係るナノ構造体の内部は、中空であり得、並びに治療用分子および/またはカーゴ分子などの、分子を含み得る。
【0021】
用語「実体」は、ナノ構造体および/またはDNA折り紙サブユニットを指すものとする。
【0022】
用語「カップリング部位」は、カップリング分子が結合する、ナノ構造体のサブユニット(「実体」)上の部位を指すものとする。好ましくは、カップリング部位は、抗原、抗原断片、または抗原模倣体である。あるいは、カップリング部位は、ビオチン分子、ストレプトアビジン分子、または特定の異なる分子に特異的に結合する任意の他の分子である。
【0023】
本明細書において使用する「カップリング部位セット」は、少なくとも2つの、好ましくは2つのカップリング部位からなるカップリング部位セットを指すものとする。好ましくは、カップリング分子は、(例えば、抗体の、異なるDNA折り紙サブユニット上の2つの抗原結合構築物への結合によって)1つのカップリング部位セットに結合するときに、ナノ構造体の1つのサブユニット(例えば、「第1の実体」)を第2のサブユニット(例えば、「第2の実体」)にカップリングさせるように構成されている。
【0024】
本発明に係る用語「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または任意の他の数を含むものとする。例えば、用語「少なくとも1つの」第1の実体は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、または任意の他の数の第1の実体を含むものとする。同様に、用語「少なくとも1つの」第2の実体は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、または任意の他の数の第2の実体を含むものとする。
【0025】
さらに別の実施形態においては、少なくとも1つのカップリング分子は、少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときに、ナノ構造体の少なくとも1つの第1の実体をナノ構造体の少なくとも1つの第2の実体にカップリングさせるように構成されている。
【0026】
用語「カップリング分子」は、カップリング部位に結合する分子を指すものとする。好ましくは、カップリング分子は、抗体などの、抗原結合構築物である。あるいは、カップリング部位は、ストレプトアビジン分子または異なる分子に特異的に結合する任意の他の分子である。この発明の主なアッセイにおいては、カップリング分子を、該アッセイに人為的に添加する。カップリング分子は、カップリング部位に可逆的に結合し得る、すなわち、カップリング分子は、繰り返しカップリング部位に可逆的に結合し、分離し得る。従って、カップリング分子は、カップリング部位に繰り返しカップリングしデカップリングし得る。
【0027】
また好ましいのは、ナノ構造体が、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、または任意の数の少なくとも1つの第1の実体、および少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、または任意の数の少なくとも1つの第2の実体などの、複数の少なくとも1つの第1の実体および複数の少なくとも1つの第2の実体を含むことである。
【0028】
さらなる実施形態は、この発明のナノ構造体であって、該ナノ構造体が、複数のカップリング部位セット、好ましくは少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、または任意の数のカップリング部位セットを含み、好ましくは、各カップリング部位セットが2つのカップリング部位からなる、ナノ構造体に関する。
【0029】
さらに別の実施形態は、この発明のナノ構造体であって、複数のカップリング部位セットの第1のカップリング部位セットに結合するカップリング分子が、複数のカップリング部位セットの第2のカップリング部位セットに結合するカップリング分子と同じカップリング分子であるか、または複数のカップリング部位セットの該第1のカップリング部位セットに結合するカップリング分子が、複数のカップリング部位セットの該第2のカップリング部位セットに結合するカップリング分子とは異なるカップリング分子である、ナノ構造体に関する。
【0030】
ナノ構造体は、少なくとも1つの第1の配置(configuration)(A)、および少なくとも1つの第2の配置(B)を含む異なる配置をとるように構成し得る。いくつかの実施形態においては、これらの配置はまた、「開いた」配置および「閉じた」配置と呼び得る。ナノ構造体がとる配置に依存して、ナノ構造体は、該ナノ構造体の異なる部分のアクセス性を変化させ得る。例えば、ナノ構造体の内部は、第1の配置(A)におけるよりも第2の配置(B)においてよりアクセスしやすくあり得る。
【0031】
好ましい実施形態においては、ナノ構造体は、少なくとも1つの第1の配置(A)、および少なくとも1つの第2の配置(B)、任意に少なくとも1つの第3の配置(C)、少なくとも1つの第4の配置(D)、または任意の他の数の配置をとるように構成されている。すなわち、この発明の実施形態のいずれのナノ構造体も、異なる配置(例えば配置(A)、(B)、(C)、(D)等)をとり得る。
【0032】
カップリング部位がカップリング分子に連結しているかどうかに依存して、ナノ構造体が異なる配置をとる可能性が変化し得る。一例として、カップリング部位の全て(または一部)がカップリング分子によってカップリングされているとき、ナノ構造体は、カップリング部位のどれもカップリング分子によってカップリングされていない場合より、例えば、第1の配置(A)をとりそうであり得る。すなわち、カップリング部位のカップリング状態に依存して、ナノ構造体の内部のアクセス性が、変化し得る。従って、カップリング部位のカップリング状態は、ナノ構造体を「開き」および/または「閉じ」得る。これはまた、ナノ構造体の内部の中に存在し得るカーゴ分子および/または治療用分子などの、分子の放出を含み得ることが理解されるであろう。
【0033】
ナノ構造体は、少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのそれぞれのカップリング部位セットに結合しているとき、第2の配置(B)より高い確率で第1の配置(A)をとるように構成し得る。特に好ましい実施形態は従って、この発明のナノ構造体であって、該ナノ構造体が、少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときは少なくとも1つの第1の配置(A)をとるように構成されており、および/または該ナノ構造体が、少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合していないときは少なくとも1つの第2の配置(B)をとるように構成されている、ナノ構造体に関する。
【0034】
しかしながら、どのカップリング分子もそれぞれのカップリング部位セットに結合していないときもまた、ナノ構造体は、第1の配置(A)および第2の配置(B)の両方をとり得る。より具体的には、第1の配置(A)と第2の配置(B)との間に平衡があり得る。この平衡においては、第1の配置(A)が「好まし」くあり得る、すなわち、ナノ構造体は、第2の配置(B)より高い可能性でこの第1の配置(A)をとり得る、またはその逆である。さらに、ナノ構造体は、第1の配置(A)と第2の配置(B)との間で少なくとも1つのまたは複数の平衡状態をとるように構成し得る。例えば、ナノ構造体は、第1の配置(A)と第2の配置(B)との間で第1のおよび第2の平衡状態をとるように構成し得、ここで、該ナノ構造体が第2の配置(B)をとる確率は、第2の平衡状態において第1の平衡状態におけるのとは異なり(例えば、より高い)得る。
【0035】
上記は単に一例であり、第1のおよび第2の平衡状態は、異なる確率で第1の配置(A)および第2の配置(B)をとり得ることが理解されるであろう。一般に、第2の配置(B)は、第1の平衡状態におけるよりも第2の平衡状態においてより高い確率でとり得る。
【0036】
別の実施形態においては、ナノ構造体は、少なくとも1つの競合分子がほとんどまたは全く存在しないときは少なくとも1つの第1の配置(A)をとるように構成されており、および/または、ナノ構造体は、少なくとも1つの競合分子がより多量に存在するときは少なくとも1つの第2の配置(B)をとるように構成されている。
【0037】
すなわち、ナノ構造体が、少なくとも1つの競合分子がほとんどまたは全く存在しない環境中にあるときは、そのようなナノ構造体は、配置(A)をより有しそうである。逆に、ナノ構造体が、少なくとも1つの競合分子がより多量に存在する環境中にあるときは、そのようなナノ構造体は、配置(B)をより有しそうである。一般に、ナノ構造体は、各カップリング部位、またはカップリング部位セットのサブセットが、そのそれぞれのカップリング分子にカップリングしているときは、第1の配置(A)をとり得る。少なくとも1つの、または多数の競合分子はしかしながら、少なくとも1つのカップリング分子の放出を誘導しおよび/または誘発し得る。それゆえ、ナノ構造体が、少なくとも1つの競合分子が多量に存在する環境中にあるときは、少なくとも1つのカップリング分子が該ナノ構造体からより放出されそうである。そのような事象においては、ナノ構造体は、例えば配置(A)から配置(B)に再配置され得る。
【0038】
本明細書において使用する用語「競合分子」は、好ましくは抗原、抗原断片、または抗原模倣体である分子を指す。あるいは、競合分子は、ビオチン分子、ストレプトアビジン分子、または特定の異なる分子に特異的に結合する任意の他の分子であり得る。競合分子は、少なくとも1つのカップリング分子に結合することについてカップリング部位と競合している。競合分子は、例えば、体液サンプルなどの、サンプル、細胞、生物等において存在し得る。競合分子を検出することが、この発明の一つの目的である。
【0039】
一般に、ナノ構造体はまた、カップリング部位がそれらのそれぞれのカップリング分子にカップリングしていない、部分的にカップリングしている、または全てカップリングしているとき、配置(A)(例えば、閉じた配置)および/または配置(B)(例えば、開いた配置)をとり得ることが理解されるであろう。
【0040】
さらに別の好ましい実施形態は、この発明のナノ構造体であって、該ナノ構造体が、第1の溶液中では少なくとも1つの第1の配置(A)をとるように構成されており、該第1の溶液は好ましくは、第2の溶液と比較してより高い濃度のマグネシウムイオンを含み、および/または該ナノ構造体が、該第2の溶液中では少なくとも1つの第2の配置(B)をとるように構成されており、該第2の溶液は好ましくは、該第1の溶液と比較してより低い濃度のマグネシウムイオンを含む、ナノ構造体に関する。
【0041】
しかしながら、第1の溶液および第2の溶液の条件は、実験的なおよび/または生物学的な設定に依存して、変動し得ることが理解されるものとする。当業者は、第1の溶液および第2の溶液の理想的な条件を決定する方法を分かっている。例えば、一つの実施形態においては、第1の溶液のマグネシウムイオン濃度は、20mMより高くおよび/または第2の溶液のマグネシウムイオン濃度は、20mMより低い。
【0042】
いくつかの実施形態においては、ナノ構造体は、第1の部分および第2の部分を含み得、ここで、該第1の部分は、該第2の部分に関して可動であり得る。さらに、第1の部分および第2の部分はそれぞれ、少なくとも1つのカップリング分子に結合し得るカップリング部位セットの少なくとも2つのカップリング部位の1つを含み得、または第1の部分および第2の部分はそれぞれ、少なくとも1つのカップリング分子に結合し得る少なくとも2つのカップリング部位を含み得る。いくつかの好ましい実施形態においては、「部分」は、実体であり得る。
【0043】
さらに、カップリング部位セットのサブセットは、第1の部分によって含まれる少なくとも1つのカップリング部位および第2の部分によって含まれる少なくとも1つのカップリング部位を含み得る。すなわち、各部分は、少なくとも1つのカップリング部位を含み得る。第1の部分および第2の部分は、例えばヒンジまたは回転軸によって、互いに可動に付着させ得る。
【0044】
一般に、例えば第1の部分および第2の部分を含むナノ構造体は、該ナノ構造体が1つの第1の部分および1つの第2の部分のみを含むことを意味すると解釈されるべきでないことが理解されるべきである。その代わり、ナノ構造体はまた、1つより多い第1の部分および1つより多い第2の部分を有し得る。換言すると(明示的に記載していない限りまたは当業者に明らかでない限り)、冠詞(例えば、「a」、「an」)の用法は、複数形を排除すると理解されるべきでない。例えば、2つの第1の部分および/または2つの第2の部分を含むナノ構造もまた、「第1の部分および第2の部分を含むナノ構造体」によって包含されると解釈されるべきである。いくつかの実施形態においては、ナノ構造体は、少なくとも1つの追加部分、すなわち第3の、第4の、第5の、第6の、第7の、第8の、または任意の他の数の追加部分を含み得る。
【0045】
特に好ましいのは、ナノ構造体が、DNA、RNA、DNAアプタマー、RNAアプタマー、またはペプチド核酸(PNA)などの、核酸、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチド模倣体、および抗体、抗体様分子、抗原結合誘導体、またはそれらの抗原結合断片などの、抗原結合構築物からなる群から選択される少なくとも1つの分子を含むことである。
【0046】
さらなる好ましい実施形態においては、ナノ構造体は、少なくとも1つの核酸を含み、ここで、前記核酸は、少なくとも1つの修飾、例えば、2’-O-アルキル修飾、例えば2’-O-メトキシ-エチル(MOE)若しくは2’-O-メチル(OMe)修飾、エチレン架橋核酸(ENA)、2’-フルオロN3-P5’-ホスホルアミダイトなどの、2’-フルオロ(2’-F)核酸、1’,5’-アンヒドロヘキシトール核酸(HNA)、またはロックド核酸(LNA)などの、修飾されたヌクレオシド間連結、修飾された核酸塩基、または修飾された糖部分から選択される化学修飾を含み得る。
【0047】
さらに別の実施形態は、ナノ構造体がDNA折り紙構造体によって少なくとも部分的に形成される、この発明のナノ構造体に関する。DNA折り紙構造体は、少なくとも1つのスキャフォールディングストランド、すなわち好ましくは、既知の配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドスキャフォールドDNA、および任意に少なくとも1つのステープルストランドを含み得る。本明細書において使用する用語「DNA折り紙構造体」は、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドおよび複数の一本鎖オリゴヌクレオチドステープルストランドを含むナノ構造体を指すものとする。DNA折り紙構造体は、自己集合によって形成し得、対応するスキャフォールディングストランドおよびステープルストランドを設計するための利用可能なソフトウェアが、DNA折り紙製造技術において支援し得る。
【0048】
本明細書において使用する用語「スキャフォールディングストランド」は、DNA折り紙構造体の主要部分および/若しくはDNA折り紙サブユニット(「実体」)を構成する並びに/または横断するストランドを指すものとする。
【0049】
この発明において使用する用語「ステープルストランド」は、スキャフォールディングストランドに少なくとも部分的に相補的である、一本鎖オリゴヌクレオチド分子を指すものとする。一般に、ステープルストランドは、例えば、カップリング部位を、DNA折り紙構造体および/またはDNA折り紙サブユニット(「実体」)中に導入するために使用することができる。
【0050】
DNA折り紙構造体は、複数の一本鎖オリゴヌクレオチドステープルストランドを含み得、ここで、各ステープルストランドは、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドに少なくとも部分的に相補的であり得る。さらに、ステープルストランドのそれぞれは、2つの別個の場所において少なくとも1つのスキャフォールディングストランドに結合するように構成し得、ここで、該少なくとも1つのスキャフォールディングストランドは、所望のナノ構造体を形成し得るように折り畳み得るおよび/または配置し得る。
【0051】
好ましい実施形態は、この発明のナノ構造体であって、ここで、該ナノ構造体は、DNA折り紙構造体によって少なくとも部分的に形成され、
ここで、該DNA折り紙構造体は、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドを含み;
該DNA折り紙構造体はさらに、複数の一本鎖オリゴヌクレオチドステープルストランドを含み;
各ステープルストランドは、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドに少なくとも部分的に相補的であり;および
ステープルストランドのそれぞれは、少なくとも1つのスキャフォールディング相補的の少なくとも1つに結合するように構成されており、ここで、該少なくとも1つのスキャフォールディングストランドは、所望のナノ構造体が形成されるように折り畳まれているおよび/または配置されている、ナノ構造体に関する。
【0052】
さらなる実施形態においては、少なくとも1つのカップリング部位が、少なくとも1つのステープルストランドにおいて存在する。
【0053】
さらに、ナノ構造体がDNA折り紙構造体によって少なくとも部分的に形成され、該DNA折り紙構造体が少なくとも1つのスキャフォールディングストランドおよび複数のステープルストランドを含む実施形態においては、分子は、リンカー分子によって少なくとも1つのスキャフォールディングストランドまたはステープルストランドの1つに結合し得、ここで、該リンカー分子は、少なくとも1つのスキャフォールディングストランドの部分またはステープルストランドの部分に相補的である、DNA鎖部分に接続し得る。
【0054】
ナノ構造体が少なくとも1つの第1の実体および少なくとも1つの第2の実体を含むそれらの実施形態においては、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体は、同一の形状、または区別可能な形状を含み得る。さらに、該形状は、例えば、三角形状、円形状、直方体、すなわち長方形状、または任意の他の形状であり得る。同様に、ナノ構造体が第1の部分および第2の部分を含む実施形態においては、該第1の部分および該第2の部分は、同一の形状、または区別可能な形状を含み得る。該形状は、例えば、三角形状、円形状、直方体、すなわち長方形状、または任意の他の形状であり得る。
【0055】
いくつかの実施形態においては、少なくとも1つのカップリング部位は、分子であり得る。好ましい実施形態は、少なくとも1つのカップリング部位が分子である、この発明のナノ構造体に関する。特に好ましい実施形態においては、少なくとも1つのカップリング部位、および/または少なくとも1つのカップリング分子は、抗原、抗原断片、抗原模倣体、抗体、抗体様分子、抗体模倣体、抗原結合誘導体、または抗原結合断片などの抗原結合構築物、DNA鎖、ビオチン分子、ストレプトアビジン分子、マレイミド-チオール化学分子、クリック化学分子、SNAP-タグタンパク質、およびCLIP-タグ分子等からなる群から選択される分子である。
【0056】
特に好ましい実施形態においては、カップリング部位は、抗原、抗原断片、および/または抗原模倣体である。
【0057】
さらなる実施形態においては、カップリング分子は、抗体、抗体様分子、抗体模倣体、抗原結合誘導体、またはそれらの抗原結合断片などの、抗原結合構築物である。
【0058】
従って、一つの好ましい実施形態においては、カップリング部位とカップリング分子との間の相互作用は、抗体-抗原相互作用の特異的結合によって特徴付けられる。当業者は、同様の特異的相互作用を同定することができ、これらもまた、この発明の範囲内であるものとする。一例として、ストレプトアビジン分子のビオチン分子への特異的結合もまた使用し得、例えばカップリング部位はストレプトアビジン分子であり得、カップリング分子はビオチン分子であり得、またはその逆であり得る。しかしながら、多種多様な相互作用を、そのようなナノ構造体において利用し得、これは、特異的かつ限られた相互作用に頼る現行技術と比較して有利であり得る。すなわち、利用可能な広範囲の相互作用のため、従来技術において開示されるナノ構造体と比較してより汎用的かつ柔軟な条件付きでスイッチング可能ナノ構造体が提供される。
【0059】
また、好ましいのは、カップリング分子がIgG抗体、IgG抗体断片、IgG抗体模倣体、IgM抗体、IgM抗体断片、IgM抗体模倣体、IgD抗体、IgD抗体断片、IgD抗体模倣体、IgA抗体、IgA抗体断片、IgA抗体模倣体、IgE抗体、IgE抗体断片、またはIgE抗体模倣体であり、好ましくはここで、前記抗体、抗体断片、または抗体模倣体は、2つの同一の抗原結合部位を含み、より好ましくはここで、前記抗原結合部位は、カップリング部位セットの前記少なくとも2つのカップリング部位に結合することである。
【0060】
さらに別の特に好ましい実施形態は、1つのIgG抗体、1つのIgG抗体断片、1つのIgG抗体模倣体、1つのIgM抗体、1つのIgM抗体断片、1つのIgM抗体模倣体、1つのIgD抗体、1つのIgD抗体断片、1つのIgD抗体模倣体、1つのIgA抗体、1つのIgA抗体断片、1つのIgA抗体模倣体、1つのIgE抗体、1つのIgE抗体断片、または1つのIgE抗体模倣体が、1つのカップリング部位セットに結合している、上記ナノ構造体に関する。
【0061】
この発明のナノ構造体は、任意の長さであり得る。好ましい実施形態においては、ナノ構造体は、最大長を有し、特に好ましい実施形態においては、該最大長は、1000nmより小さい、好ましくは約100nm、またはそれ以下などの、500nmより小さい。
【0062】
この発明のさらなる態様は、この発明に係るナノ構造体を含むシステムであって、該システムは、
(i)少なくとも2つのカップリング部位を含む少なくとも1つのナノ構造体であって、前記少なくとも2つのカップリング部位は、少なくとも1つのカップリング分子に結合し得、前記少なくとも2つのカップリング部位は、カップリング部位セットであるように構成されている、少なくとも1つのナノ構造体、および
(ii)少なくとも1つのカップリング分子
を含む、システムに関する。
【0063】
用語「システム」は、少なくとも1つのDNA折り紙構造体(「ナノ構造体」)および少なくとも1つのカップリング分子を含む構造を指すものとする。いくつかの実施形態においては、システムはしかしながら、複数のカップリング分子を含み得る。
【0064】
好ましい実施形態においては、システムは、
(i)少なくとも1つの第1の実体および少なくとも1つの第2の実体を含む少なくとも1つのナノ構造体であって、該少なくとも1つの第1の実体および該少なくとも1つの第2の実体のそれぞれが、少なくとも1つのカップリング部位セットの少なくとも1つのカップリング部位を含み、好ましくは、該少なくとも1つの第1の実体上の該少なくとも1つのカップリング部位および該少なくとも1つの第2の実体上の該少なくとも1つのカップリング部位が、該実体の対称的な位置上に位置している、ナノ構造体、並びに
(ii)少なくとも1つのカップリング分子、好ましくは複数のカップリング分子
を含み、
ここで、該少なくとも1つのカップリング分子は、該少なくとも1つのカップリング分子が該少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときに該ナノ構造体の該少なくとも1つの第1の実体を該ナノ構造体の該少なくとも1つの第2の実体にカップリングさせるように構成されている。
【0065】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明のさらに別の態様は、本発明のナノ構造体の異なる配置間で条件付きでスイッチングし、それにより、少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付けることを可能にする方法に関する。後者は、特定の実施形態においては、本発明のナノ構造体内のキャビティおよび/または穴の中に含まれ得る、治療用分子および/またはカーゴ分子の放出を可能にし得る。従って、該方法は、特定の分子の同定の際に、ナノ構造体が分子を特異的に放出することを可能にする。
【0066】
換言すると、本発明は、ナノ構造体に含まれるカップリング部位セットの少なくともサブセットのカップリングに依存して異なる配置をとり得、治療用分子および/またはカーゴ分子のアクセス性が該ナノ構造体がとる配置に依存して変化し得る、条件付きでスイッチング可能なナノ構造体に関する。例えば、治療用分子および/またはカーゴ分子は、一方の配置においては他方より著しくアクセスしやすくあり得、いくつかの場合においては、それは、2つの配置の一方においてのみアクセス可能であり得さえする。これは、カップリング部位セットのカップリング部位の少なくともサブセットのカップリングを条件として、治療用分子および/またはカーゴ分子へのアクセスを可能にすることを可能にし得る。これは、それが、それぞれの競合分子の少なくともサブセットの存否に基づいて、治療用分子および/またはカーゴ分子などの、分子の放出を制御し得るので、有利であり得る。
【0067】
用語「分子の同定」は、例えば、抗原、腫瘍細胞などの、疾患細胞等の同定に関するものとする。前記同定は、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで起こり得る。好ましい実施形態においては、同定は、哺乳類などの生物、好ましくはヒトにおいてインビボで起こる。別の実施形態においては、同定は、例えば哺乳類などの、生物、好ましくはヒトから得られたサンプルにおいてインビトロで起こる。ナノ構造体は好ましくは、競合分子などの特定の分子を同定する際に異なる配置をとっており、それにより、該競合分子などの該分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける。この発明の範囲内にさらに含まれるのは、ナノ構造体の立体構造の再配置を誘導することについての、競合分子などの、特定の分子の特定の閾値より高いまたはそれに相当する、競合分子などの、特定の分子の量を同定する必要性である。
【0068】
用語「立体構造の再配置」は、ある配置から別の配置、例えば配置(A)から配置(B)への再配置を指す。ナノ構造体は好ましくは、少なくとも1つの競合分子が少なくとも1つのカップリング分子と競合しており、該少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合していないとき、配置(B)をとっている。立体構造の再配置の際、ナノ構造体の中空内部内に含まれている、治療用分子および/またはカーゴ分子などの、分子を、放出しおよび/または活性化することができる。
【0069】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明の好ましい態様は、少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける方法であって、該方法が:
(i)この発明に係るナノ構造体を提供すること;
(ii)少なくとも1つのカップリング分子を提供することであって、
該ナノ構造体が、(ii)において提供される少なくとも1つのカップリング分子が(i)において提供されるナノ構造体の少なくとも1つのカップリング部位セットに結合しているときは少なくとも1つの第1の配置(A)をとっている、提供すること;および
(iii)該少なくとも1つの分子を同定することであって、
前記少なくとも1つの分子が好ましくは、競合分子である、同定すること
を含み、
該ナノ構造体が、該少なくとも1つの分子を同定する際に、少なくとも1つの第2の配置(B)をとっており、
それにより、少なくとも1つの分子の該同定を、該ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付けることを可能にする、方法に関する。
【0070】
方法工程がこの明細書におよびまた添付の特許請求の範囲に列挙されているときはいつでも、該工程がこの文書において列挙されている順序は偶発的であり得ることに留意すべきである。すなわち、別途指定しない限りまたは当業者にとって明らかでない限り、工程が列挙される順序はまた、異なり得る。例えば、本文書が、例えば、方法が工程(A)および(B)を含むと記載するとき、これは必ずしも、工程(A)が工程(B)に先行することを意味しないが、工程(A)を工程(B)と(少なくとも部分的に)同時に実施することまたは工程(B)が工程(A)に先行することもまた、可能である。さらに、ある工程(X)が他の工程(Z)に先行すると言われるとき、これは、工程(X)と(Z)との間に何ら工程がないことを暗示しない。すなわち、工程(Z)に先行する工程(X)は、工程(X)を工程(Z)の直前に実施する状況だけでなく、工程(X)を1つ以上の工程、例えば(Y1)、(Y2)、(Y3)の前に実施し、その後工程(Z)を実施する状況も包含し得る。同様の配慮が、「後」または「前」のような用語を使用するときに適用される。
【0071】
少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける方法の好ましい実施形態においては、該ナノ構造体は、少なくとも1つの第1の配置(A)の、分子または第2のナノ構造体を包含し、好ましくはここで、該分子は、治療用分子および/またはカーゴ分子から選択される。
【0072】
ナノ構造体の異なる実体は、該ナノ構造体が、例えば、第1の配置(A)にあるときに、チャンバおよび/またはキャビティを形成するように構成させ得る。さらに、治療用分子および/またはカーゴ分子を、例えばロッドによって、直接的若しくは間接的な会合によって、または立体的な手段によって、ナノ構造体の異なる実体の内面に付着させ得る。治療用分子および/またはカーゴ分子は、ナノ構造体が第2の配置(B)にあるときに、チャンバおよび/またはキャビティを離れるように構成させ得る。該方法は、カップリング部位を同一のカップリング分子にカップリングさせることを含み得る。あるいは、該方法は、カップリング部位を別個のカップリング分子にカップリングさせることを含み得る。
【0073】
また好ましいのは、ナノ構造体が少なくとも1つの第2の配置(B)をとっているときに、分子または第2のナノ構造体、好ましくは治療用分子および/またはカーゴ分子から選択される分子が、該ナノ構造体の立体構造の再配置時に放出されおよび/または活性化されることである。
【0074】
従って、ナノ構造体上でのカップリング分子のカップリング部位への結合に依存して、簡単に言うと、該ナノ構造体は、異なる状態間でスイッチし得る。これが、多くの種々の適用を可能にする。具体的には、そのようなナノ構造体を使用して、治療用分子および/またはカーゴ分子を運搬することができる。これは例えば、特定の細胞型および/または分子の同定の際の治療用分子および/またはカーゴ分子の制御された放出のために使用し得る。それゆえ、治療用分子および/またはカーゴ分子は、ナノ構造体の一つの配置においてはアクセス可能であるが、異なる配置においてはそうではなくあり得、配置が、特定の細胞型および/または分子の存否に依存して異なり得る。これは、治療用分子および/またはカーゴ分子へのアクセス性が特定の細胞型および/または分子の存否を条件とすべきである適用について特に有益であり得、これは好ましくは、この発明のナノ構造体の立体構造の再配置によって達成される。
【0075】
ナノ構造体の異なる実体はそれぞれ、該ナノ構造体が、例えば、第1の配置(A)にあるときに、チャンバおよび/または穴を形成するように構成された、キャビティを含み得る。さらに、治療用分子および/またはカーゴ分子は、例えばロッドによって、直接的若しくは間接的な会合によって、または立体的な手段によって、ナノ構造体の異なる実体の内面に付着させ得、ここで、該治療用分子および/またはカーゴ分子は、該ナノ構造体が第2の配置(B)にあるときに、キャビティを離れるように構成させ得る。当業者は、ロッドが、実体と少なくとも1つの治療用分子および/またはカーゴ分子との間の任意のタイプの柔軟な連結であり得ることを認識するであろう。
【0076】
好ましい実施形態においては、該方法は、インビボ法、エクスビボ法、インビトロ法、またはインサイチュ法である。
【0077】
さらなる実施形態は、少なくとも1つの分子の同定を、ナノ構造体の立体構造の再配置に関連付ける方法であって、該ナノ構造体が、少なくとも1つの分子が少なくとも1つのカップリング分子と競合しており、該少なくとも1つのカップリング分子が少なくとも1つのカップリング部位セットに結合していないときは、少なくとも1つの第2の配置(B)をとっており、好ましくは、溶液のマグネシウムイオン濃度が20mMより低い、方法に関する。
【0078】
さらなる態様においては、本発明は、本発明に係る複数のナノ構造体を含む、または上記で定義したシステムを含む物質に関する。
【0079】
本発明の別の態様は、この発明に係る少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体を含む、または上記で定義したシステムを含む組成物に関する。
【0080】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明のさらなる態様は、薬剤としての使用のための、少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体、または上記で定義したシステムを含む物質に関する。
【0081】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明のさらに別の態様は、薬剤としての使用のための、この発明に係る少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体、または上記で定義したシステムを含む組成物に関する。
【0082】
薬剤としての使用のための物質および/または組成物は、この発明のナノ構造体が、標的薬物送達などの、疾患の標的治療を可能にし得るので、有利であり得る。例えば、本発明の実施形態に係るナノ構造体(複数可)は、該ナノ構造体内に含まれる治療用分子および/またはカーゴ分子、例えば薬物などの、剤の放出のために使用し得る。好ましくは、そのような放出は、定義された位置および/若しくは時間での、並びに/または定義された条件下での標的放出または制御放出である。
【0083】
さらに、この発明に係る少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体を含む、または上記で定義したシステムを含む物質は、癌などの、増殖性疾患の予防および/若しくは治療における、免疫障害の予防および/若しくは治療における、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染などの、ウイルス性疾患の予防および/若しくは治療における、血液凝固障害の予防および/若しくは治療における、代謝障害の予防および/若しくは治療における、感染性障害の予防および/若しくは治療における、並びに/または糖尿病の予防および/若しくは治療における使用のためであり得る。
【0084】
この発明のさらに好ましい態様においては、この発明に係る少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体を含む、または上記で定義したシステムを含む組成物は、癌などの、増殖性疾患の予防および/若しくは治療における、免疫障害の予防および/若しくは治療における、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染などの、ウイルス性疾患の予防および/若しくは治療における、血液凝固障害の予防および/若しくは治療における、代謝障害の予防および/若しくは治療における、感染性障害の予防および/若しくは治療における、並びに/または糖尿病の予防および/若しくは治療における使用のためであり得る。
【0085】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明のさらなる態様は、診断方法における使用のための、少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体、または上記で定義したシステムを含む物質に関する。
【0086】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明のさらに別の態様は、診断方法における使用のための、この発明に係る少なくとも1つの若しくは複数のナノ構造体、または上記で定義したシステムを含む組成物に関する。
【0087】
本発明の他の好ましい実施形態および/または態様のいずれかと組み合わせることができる、この発明の別の態様は、上記で定義した、ナノ構造体をコードする配列、スキャフォールディングストランドおよび/若しくはステープルストランドの配列を含む、並びに/または該ナノ構造体の配列を含むベクター、特に発現ベクターに関する。
【0088】
「ベクター」は、宿主細胞中で核酸を送達するまたは維持することができる任意の剤であり得、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミド)、ネイキッド核酸、ウイルスベクター、ウイルス、1つ以上のポリペプチドまたは他の分子と複合体化した核酸、並びに固相粒子上に固定化された核酸を含むが、これらに限定されない。ベクターは、下記で詳細に説明する。ベクターは、宿主細胞中で外来遺伝子および/またはタンパク質を送達するまたは維持するための剤として有用であり得る。ベクターは、細胞を形質導入、トランスフェクト、または形質転換し、それによって、該細胞に、該細胞に本来のもの以外の核酸および/若しくはタンパク質をまたは該細胞に本来のものではない方法で複製させまたは発現させることができ得る。標的細胞は、細胞培養条件下でまたは他のインビボの実施形態において維持される細胞であり得、生体の一部であり得る。ベクターは、ウイルス粒子、リポソーム、タンパク質コーティングなどの、核酸の細胞中への進入を達成することにおいて支援する物質を含み得る。核酸を細胞中に移動させる任意の方法を使用し得;別途示さない限り、用語ベクターは、核酸を細胞中に送達する任意の特定の方法を暗示せず、または任意の特定の細胞型が形質導入の対象であることを暗示しない。本発明は、例えば、この発明のナノ構造体をコードする核酸を含む、本発明の任意の核酸の送達または維持のための任意の特定のベクターに限定されない。
【0089】
用語「発現ベクター」は、RNAを転写するように設計された任意の二本鎖DNAまたは二本鎖RNA、例えば、対象となる下流の遺伝子またはコード領域(例えば、タンパク質をコードするcDNA若しくはゲノムDNA断片、または対象となる任意のRNA)に動作可能に連結された少なくとも1つのプロモーターを含有するコンストラクトを意味する。発現コンストラクトのレシピエント細胞中へのトランスフェクションまたは形質転換は、該細胞が、発現コンストラクトによってコードされるRNAまたはタンパク質を発現することを可能にする。発現コンストラクトは、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、若しくはヘルペスウイルスに由来する、遺伝子操作されたプラスミド、ウイルス、若しくは人工染色体、または下記の「発現ベクター」の下に記載するさらなる実施形態であり得る。発現コンストラクトは、生細胞中で複製することができ、または、それは、合成的に作製することができる。この出願の目的のために、用語「発現コンストラクト」、「発現ベクター」、「ベクター」、および「プラスミド」は、一般的で例示的な意味で本発明の適用を実証するために互換的に使用され、本発明を特定のタイプの発現コンストラクトに限定することを意図しない。さらに、用語 発現コンストラクトまたはベクターは、アッセイ用に利用する細胞がすでにそのようなDNA配列を内因的に含む場合も含むことを意図する。発現ベクターは好ましくは、核酸に動作可能に連結されたプロモーター配列を含む。
【0090】
用語「コードする(encoding)」またはより単に「コードする(coding)」は、1つ以上のアミノ酸をコードするヌクレオチド配列の能力を指す。該用語は、開始または終止コドンを必要としない。アミノ酸配列は、ポリヌクレオチド配列およびその相補体によって提供される6つの異なるリーディングフレームの任意の1つにおいてコードし得る。アミノ酸配列は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、またはDNA若しくはRNAに類似する人工合成ポリマーによってコードし得る。
【0091】
別の態様においては、上記で定義したナノ構造体および/またはベクターを含む組換え細胞もまた提供される。ときどき「宿主細胞」とも呼ばれる、「組換え細胞」は、核酸での形質転換を受けやすい任意の細胞である。好ましくは、本発明の組換え細胞または宿主細胞は、植物細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、またはヒト細胞などの哺乳類細胞である。好ましい組換え細胞は、この発明のナノ構造体の組換え発現に適した細胞から選択する。
【0092】
この発明の別の態様は、上記で定義したナノ構造体、システム、組成物、物質、ベクター、および/または宿主細胞を、薬学的に許容される担体および/または賦形剤と一緒に含む医薬組成物に関する。
【0093】
本発明の医薬組成物は、その意図する投与の経路に適合するように製剤化するものとする。特に好ましい実施形態においては、この発明の医薬および/または化合物の投与の経路の例は、静脈内、膣内、経口、鼻内、髄腔内、動脈内、皮内、皮下、経皮(局所)、脳室内、実質内、腫瘍内、経粘膜、直腸、気管支、非経口投与、並びに医薬および/または化合物の投与についての任意の他の臨床的/医学的に許容される方法を含む。
【0094】
この発明の他の態様または特定の実施形態のいずれかと組み合わせることができる、この発明のさらに別の態様は、癌などの、増殖性疾患、免疫障害、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染などの、ウイルス性疾患、血液凝固障害、代謝障害、感染性障害、および/または糖尿病を予防するおよび/または治療する方法であって、該方法が、治療的に有効な量の、この発明に係るナノ構造体、システム、化合物、物質、および/または医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0095】
「治療的に有効な量」であるために必要とされる量を計算するために、当業者および/または医師は、細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータを使用して、ヒトにおける使用についての投与量の範囲を策定することができる。そのような化合物および/または医薬組成物の投与量は好ましくは、ほとんどまたは何らの毒性も有しないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使う剤形および利用する投与の経路に依存してこの範囲内で変動し得る。使用する任意の化合物について、治療的に有効な用量は、まず細胞培養アッセイから見積もることができる。用量は、細胞培養において決定したIC50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために動物モデルにおいて策定し得る。そのような情報を使用して、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。医薬組成物は、投与用説明書と一緒に、容器、パック、またはディスペンサー中に含めることができる。
【0096】
この発明はさらに、癌などの、増殖性疾患、免疫障害、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染などの、ウイルス性疾患、血液凝固障害、代謝障害、感染性疾患、および/または糖尿病を予防および/または治療するための薬剤の製造における使用のための、この発明に係るナノ構造体、システム、化合物、物質、および/または医薬組成物に関する。
【0097】
本明細書において使用する用語「[本]発明の」、「本発明に従って」、「本発明に係る」等は、本明細書において記載するおよび/または特許請求する本発明の全ての態様および実施形態を指すことを意図する。
【0098】
本明細書において使用する用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「からなる」の両方を包含するとして解釈し、両方の意味が、本発明に従って具体的に意図され、それゆえ、個別に開示する実施形態である。本明細書において使用する「および/または」は、他方の有無にかかわらず、2つの指定した特徴または構成要素のそれぞれの具体的な開示としてとるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、ちょうどそれぞれが本明細書において個別に記載されているかのように、(i)A、(ii)B並びに(iii)AおよびBのそれぞれの具体的な開示としてとるべきである。本発明の文脈において、用語「約」および「およそ」は、当業者が対象となる特徴の技術的効果を依然として確保すると理解するであろう精度の区間を示す。該用語は典型的には、示す数値からの±20%、±15%、±10%、および例えば±5%の偏りを示す。当業者によって認識されるであろうように、所与の技術的効果についての数値についての具体的なそのような偏りは、該技術的効果の性質に依存するであろう。例えば、自然のまたは生物学的な技術的効果は一般に、人工的なまたは工学的な技術的効果についてのものより大きいそのような偏りを有し得る。当業者によって理解されるであろうように、所与の技術的効果についての数値についての具体的なそのような偏りは、該技術的効果の性質に依存するであろう。例えば、自然のまたは生物学的な技術的効果は一般に、人工的なまたは工学的な技術的効果についてのものより大きいそのような偏りを有し得る。不定冠詞または定冠詞、例えば「a」、「an」または「the」を、単数名詞に言及するときに使用する場合、これは、他の何かを特に述べていない限り、その名詞の複数を含む。
【0099】
全ての数値は、本明細書においては、明示的に示しているか否かにかかわらず、用語「約」によって修飾されていると見なす。用語「約」は一般に、当業者が列挙する値と等価である(すなわち、同じ機能または結果を有する)と考えるであろう数の範囲を指す。多くの場合において、用語「約」は、最も近い有効数字に丸められる数を含み得る。本発明の特に好ましい実施形態においては、用語「約」は、それぞれの数値の最大20%の数値の偏りを指し得るが、しかしながら、より好ましいのは、15%、10%、5%であり、さらにより好ましいのは、4%、3%、2%であり、最も好ましいのは、1%である。しかしながら、「約」、「実質的に」または「およそ」などの相対的な用語をこの明細書において使用するときはいつでも、そのような用語はまた、正確な用語も含むと解釈されるべきである。すなわち、例えば、「実質的に1つ」はまた、「(正確に)1つ」も含むと解釈されるべきである。
【0100】
特定の問題に対する本発明の教示の適用、および本発明の変形またはそれに対する追加的な特徴(さらなる態様および実施形態などの)の包含は、本明細書において含有される教示に照らして当業者の能力の範囲内であろうことが理解されるべきである。文脈が別途指示しない限り、上に記載した特徴の説明および定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されず、記載する全ての態様および実施形態に等しく適用される。
【0101】
本明細書において引用する全ての参照文献、特許、および刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0102】
次に、本発明の特定の態様および実施形態を、実施例として、本明細書において記載する説明、図および表を参照して例示する。本発明の方法、使用および他の態様のそのような実施例は、代表的であるのみであり、本発明の範囲をそのような代表的な実施例のみに限定するととるべきでない。
【0103】
実施例は、示す:
【0104】
実施例1:二十面体DNA折り紙シェルの、IgGが媒介する安定化および抗原が誘発する解体、並びに抗原が誘発する剤の放出
この発明は、抗原が誘発する論理によってゲーティングされるDNA折り紙ナノ粒子の再配置についての一般的戦略に基づいている。この発明の技術の設計原理は、本質的にモジュール式であり、2つ以上の立体構造状態を採用し得る任意の動的DNA折り紙システムに適用することができる。
【0105】
図1は、本明細書において使用する表記を例示するために、本技術のいくつかの実施形態において使用する構成要素を示す。より具体的には、
図1は、閉じた配置(A)および開いた配置(B)とも呼び得る、異なる配置(A)および(B)をとり得るナノ構造体を示す。
図1に描く三次元ナノ構造体は、DNA折り紙を使用して、すなわち、スキャフォールディングストランドおよびステープルストランドを組み合わせて、必要とされる部分およびデバイス全体を形成することによって実現し得る。そのような設計は、例えば、caDNAnoなどのソフトウェアを使用して実施し得る。すなわち、複数の実体を含むナノ構造体はいくつかの実施形態においては、1つのスキャフォールディングストランドから作製し得るが、一方で、他の実施形態においては、ナノ構造体の実体は、複数のスキャフォールディングストランドを利用して構築し得る。
【0106】
ナノ構造体は好ましくは、カップリング部位セットの各カップリング部位、または少なくともカップリング部位のサブセットが、そのそれぞれのカップリング分子によってカップリングされているときは、第1の配置(A)をとり、カップリング部位が、そのそれぞれのカップリング分子によって何らカップリングされていないか、またはカップリング部位のより少ない量のサブセットしかカップリングされていないときは、第2の配置(B)をとるように構成されている。
【0107】
図1に描く実施形態においては、カップリング部位は、同じ配置のものである、すなわち、それらは、同じ設計のカップリング分子にカップリングするように構成されており、ナノ構造体は、二価の性質のもの、すなわち、1つのタイプのカップリング部位を有するナノ構造体である。しかしながら、すでに上述したように、これは、必要ではない。本発明のいくつかの実施形態においては、カップリング部位は、別個のカップリング分子に結合し得る。後者は、複数の異なるカップリング部位を有する構造体である、多価ナノ構造体を指す。
【0108】
図1に描く提案する機構は、2つの設計原則に基づいている。第一に、本発明者らは、2つの同一の抗原結合部位を二価的に示す、IgG抗体の高度に保存された構造体を使用した。この二価の特徴を利用して、抗体は、DNA折り紙ナノ粒子を、DNA折り紙サブユニット上に戦略的に配置した抗原(断片)によって支配される、所定の配置に固定するための分子橋として使用する。第二に、「バネ荷重」ナノ粒子の、抗原が誘発する活性化または再配置は、該ナノ粒子から「抗体橋」を移動させる可溶性抗原の存在によって開始される。
【0109】
図1の例においては、配置(A)は、閉じた配置(「かご」様構造などの、例えばこの特定の実施形態においては、20個の同一のDNA折り紙サブユニット(三角形)から集合したカプシド様構造体が、二十面体のDNA折り紙シェルを形成している)である。配置(B)は、DNA折り紙サブユニット(三角形)が抗体橋を介してカップリングしていない、開いた配置である。従って、単一の三角形が、配置(B)のネガディブ染色TEM画像においては見える。
【0110】
概念実証として、
図1は、抗体が媒介するバネ荷重および引き続く抗原が誘発する、20個の同一の多層DNA折り紙三角形から自己集合したT=1カプシド様構造体(二十面体DNA折り紙シェル)の解体を示す(
図1)。抗体結合を支配するために、「カップリング部位」(抗原断片、例えばジゴキシゲニンリガンド)を、化学修飾されたステープルオリゴヌクレオチドを介して各三角形の辺上の対称的な位置に導入する。シェルにとって好ましい緩衝液条件([Mg2+]>20mM)での三角形界面上の形状相補的な突起およびくぼみの活性化によって支配される、二十面体シェル(T=1カプシド)の自己集合後、抗ジゴキシゲニン抗体を添加して、個々の三角形サブユニットを架橋する。引き続くスタッキング接点を不活性化するためのMg2+濃度の減少が、カプシド集合体のバネ荷重をもたらす。最後に、補助抗原(「競合抗原」、例えば可溶性ジゴキシゲニン抗原)の添加が、抗体を、DNA折り紙が取り付けられた抗原から取り除く競合反応によってカプシドの解体を誘発する(
図1)。抗原が誘発する二十面体シェルの解体は、特定の抗原閾値(EC
50 約1μM)で起こり、これは、サブユニット界面当たりの取り付けられた抗体の数に依存している。この概念はさらに、抗体の特定の組合せを設置すること、洗練された分子論理演算を作り出すことまたは用量反応曲線を調整することによって探求することができる。
【0111】
図1の実施形態は、概念実証として複数の構成要素から自己集合した粒子に基づいているが、一方で、同じ概念を、分子診断、論理によってゲーティングされる療法または薬物送達ビヒクルを含むがこれらに限定されない適用で、箱様構造体またはスイッチなどの単分子物体を作動させるために適用することができる。最後に、例えば、IgG抗体の高度に保存された二価の性質および事実上任意の分子標的に対する抗体を生成することの容易さを考えると、この発明は、多種多様な抗原、低分子、ペプチドおよびタンパク質を同定することについて用いることができるであろう。
【0112】
DNAナノ構造体を抗原抗体認識要素とインターフェースさせる現在のモジュールとは対照的に、
図1に描くナノ構造体の全ての認識要素は、複数の構成要素の拡散的相互作用に頼るのではなく、ナノ構造体それ自体上に統合される。これは、本発明者らの概念を希釈効果に対して非感受性とし、これは、見込みのある将来の生物医学的適用にとって極めて重要な要件である。重要なことに、本発明者らの設計原理は、その自己集合が形状相補的スタッキング接点によって媒介される多成分システムに限定されない。温度またはストランドの変位に依存する相補的な突出末端、pH依存性の三重鎖またはi-モチーフのような他の戦略が、この発明のナノ構造体の自己集合、および引き続く抗体強化界面による構造体のバネ荷重を導くために、想い描き得るが、これらもまた、この発明の範囲内であるものとする。
【0113】
図1の機構の具体例およびナノ構造体からの剤/実体の放出のためのその例示的な使用を、抗原が誘発するウイルス性ペイロードの放出を示す
図4に示す。(a)B型肝炎ウイルスコアカプシドを有する三角形のサブセットの官能基化を示すスキーム(左から右へ)、ここでは、HBV粒子の結合が三角形のシェルの内向き表面で特異的抗体によって媒介され;内腔におけるHBVコアカプシドを有する完全なシェルの集合;抗Dig IgG抗体によるステープリングおよびイオン強度の低下によるバネ荷重;抗原が誘発するシェルの破裂および可溶性ジゴキシゲニン抗原を添加することによるウイルスペイロードの放出。図示しないのは、シェルの内部に位置するHBV結合抗体をシェルから脱離させて、HBV粒子を該シェル中で自由に浮遊させる中間工程である。(b、c、d)それぞれ、ウイルスペイロードの存在下において40mM MgCl
2で集合させたシェル、バネ荷重条件下(12mM MgCl
2)でウイルスペイロードを充填した、抗Digでステープリングしたシェル、ウイルスペイロードの放出につながる、可溶性ジゴキシゲニン抗原を添加することにより解体させたシェルのネガティブ染色TEM画像。(b、c)におけるスケールバーは、50nmであり、(d)におけるのは、100nmである。
【0114】
実施例2:抗原が誘発する二十面体シェルの解体の構造的特徴付け
Mg2+依存性のIgGが媒介するシェルの安定化を構造的に特徴付け、評価するために、本発明者らは、Cryo-EMおよびレーザー走査型蛍光顕微鏡観察を実施した。25mMのMgCl
2で三角形-三角形界面を架橋する抗ジゴキシゲニン抗体を有する、自立氷中の二十面体シェルの例示的なCryo-EM顕微鏡写真を、
図2(a)、上に示す。各三角形-三角形界面を架橋する2つの抗ジゴキシゲニン抗体を有する、集合した二十面体シェルのCryo-EM再構築を、
図2(a)、下に示す。
【0115】
次いで、本発明者らは、レーザー走査型顕微鏡観察を実施した。
図2e)は、8、12、16および20mM MgCl
2を補充した0.5×TBE緩衝液中の0.75%アガロースゲルのレーザースキャン蛍光画像を示す。集合したシェルを、25mM MgCl
2での抗ジゴキシゲニン抗体の有り無しでインキュベートし、引き続きそれぞれのMgCl
2濃度に希釈し、対応するゲル上で電気泳動した。本発明者らはさらに、TEMを使用して、配置(A)および配置(B)を特徴付けた。抗ジゴキシゲニン抗体無し(左)または有り(右)でインキュベートし、12mM MgCl
2に希釈したシェルのネガティブ染色TEM画像を、
図2(f)に示し、抗ジゴキシゲニン抗体無しおよび有りでインキュベートし、引き続きさまざまな最終MgCl
2濃度に希釈したシェルの正規化FRET比を、
図2(e)に示す。三角形サブユニットの各辺は、対称的な位置でCy3およびCy5フルオロフォアで官能基化されており、これが、シェルが集合したときのみエネルギー移動をもたらす。22から14mMの間のMgCl
2濃度でのFRET比における初期減少は、増加する静電反発力のためのシェルの膨潤によって引き起こされる。抗原が誘発する二十面体シェルの解体をさらに特徴付けるために、本発明者らは、レーザー走査顕微鏡を使用して、抗原が誘発する二十面体シェルの解体を実証した。
図3(a)は、シェルを安定化させる抗ジゴキシゲニン抗体との結合について競合する可溶性ジゴキシゲニンリガンドの添加により、抗体がバネ荷重シェルから移動し、これが、その結果、不安定化させるMg2+イオン濃度でのシェルの解体を誘発することを示す。抗ジゴキシゲニン抗体を備える集合したシェルを、増加する濃度のジゴキシゲニンとインキュベートして、
図3(a)に示すように、抗ジゴキシゲニンで安定化したシェル(25μM可溶性ジゴキシゲニン)が、増加する濃度の可溶性ジゴキシゲニン抗原で解体することを実証した。
図3(b)は、増加する濃度の可溶性2,4-ジニトロフェノールリガンドでの抗ジニトロフェノールで安定化されたシェルの解体を示す。
【0116】
図3(f)は、左部分において、ANDゲート論理によってゲーティングされるシェル解体が、三角形-三角形界面上にジゴキシゲニンおよび2,4-ジニトロフェノールの両リガンド並びにそれぞれの抗体を設置することによって実現することを示す。ANDゲートシェルの解体はその結果、可溶性ジゴキシゲニンおよび2,4-ジニトロフェノールの両方の存在を必要とする。
図3(f)は、右部分において、12mM MgCl
2を補充した0.5×TBE緩衝液中の0.75%アガロースゲルのレーザースキャン蛍光画像を示す。抗ジゴキシゲニン抗体および抗ジニトロフェノール抗体を備える集合したANDゲートシェルを、増加する濃度の上:ジゴキシゲニン、中央:2,4-ジニトロフェノール並びに下:ジゴキシゲニンおよび2,4-ジニトロフェノールとインキュベートした。上:25μMジゴキシゲニン、中央:5mM 2,4-ジニトロフェノール並びに下:25μMジゴキシゲニンおよび5mM 2,4-ジニトロフェノールとインキュベートした、抗ジゴキシゲニンおよび抗ジニトロフェノールを備えるシェルのネガティブ染色TEM画像。
【0117】
上記において、好ましい実施形態を、添付の図面を参照して説明してきたが、当業者は、この実施形態は例示目的のみのために提供されており、決して特許請求の範囲によって定義される、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきでないことを理解するであろう。
【国際調査報告】