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特表2024-515351付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)に対するバクテリオファージ療法
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  • 特表-付着性侵入性大腸菌(Escherichia  coli)に対するバクテリオファージ療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-09
(54)【発明の名称】付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)に対するバクテリオファージ療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20240402BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240402BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240402BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20240402BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240402BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P31/04
A61P1/04
C12N7/00 ZNA
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564591
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2022053744
(87)【国際公開番号】W WO2022224193
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】63/178,119
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/203,560
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517191312
【氏名又は名称】フェリング・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン・ワナーバーガー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・スラクヴェリッツェ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD79
4B018ME09
4B065AA98X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA22
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087BC59
4C087BC64
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA13
4C087MA17
4C087MA23
4C087MA28
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA56
4C087MA60
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZB35
(57)【要約】
付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)(AIEC)に感染して溶解させるバクテリオファージが本明細書に記載される。バクテリオファージは、例えば、AIECに感染したか、若しくはAIECによる感染のリスクのある対象の予防的若しくは治療的処置、又は対象の炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺炎、及び肺癌を含むAIECに関連する疾患及び症状の予防的若しくは治療的処置、並びに本明細書に記載される他の使用に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)株に溶菌感染を生じさせることが可能なバクテリオファージ株、及び薬学的に許容される担体を含む組成物であって、前記バクテリオファージ株は、ATCCにアクセッション番号PTA-121408として寄託された株ECML-123-2、又は前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対してそのゲノムにわたり少なくとも80%の平均ヌクレオチド同一性(gANI)を有するその変異株である組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、
アクセッション番号CNCM I-4695としてパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託された株P2又は前記バクテリオファージ株P2に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;
アクセッション番号CNCM I-4700としてパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託された株P8又は前記バクテリオファージ株P8に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;
アクセッション番号CNCM I-4675としてパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託された株CLB_P2又は前記バクテリオファージ株CLB_P2に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;
アクセッション番号PTA-8351としてATCCに寄託された株ECML-119又は前記バクテリオファージ株ECML-119に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;
アクセッション番号PTA-121407としてATCCに寄託された株ECML-363又は前記バクテリオファージ株ECML-363に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;及び
アクセッション番号PTA-121406としてATCCに寄託された株ECML-359又は前記バクテリオファージ株ECML-359に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異体
から選択される1つ以上のバクテリオファージ株を更に含む組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の組成物であって、存在する前記バクテリオファージ株が、
株ECML-123-2、又は前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;
株P2、又は前記バクテリオファージ株P2に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;
株P8、又は前記バクテリオファージ株P8に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;
株CLB_P2、又は前記バクテリオファージ株CLB_P2に対して少なくとも90%のgaNIを有するその変異株;
株ECML-119、又は前記バクテリオファージ株ECML-119に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;
株ECML-363、又は前記バクテリオファージ株ECML-363に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;及び
株ECML-359、又は前記バクテリオファージ株ECML-359に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異体
を含むか又はそれからなる組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の組成物であって、存在する前記バクテリオファージ株が、
株ECML-123-2、又は前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;
株P2、又は前記バクテリオファージ株P2に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;
株P8、又は前記バクテリオファージ株P8に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;
株CLB_P2、又は前記バクテリオファージ株CLB_P2に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;
株ECML-119、又は前記バクテリオファージ株ECML-119に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;
株ECML-363、又は前記バクテリオファージ株ECML-363に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;及び
株ECML-359、又は前記バクテリオファージ株ECML-359に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異体
を含むか又はそれからなる組成物。
【請求項5】
請求項2に記載の組成物であって、存在する前記バクテリオファージ株が、株ECML-123-2、P2、P8、CLB_P2、ECML-119、ECML-363、及びECML-359の各々のバクテリオファージを含むか又はそれからなる組成物。
【請求項6】
前記組成物が、プロバイオティクス細菌及びプロバイオティクス酵母のうちの1つ以上を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.ラムノサス(L.rhamnosus)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.ロイテリ(L.reuteri)、L.ブルガリクス(L.bulgaricus)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.ジョンソニイ(L.johnsonii)、L.パラカセイ(L.paracasei)、L.カゼイ(L.casei)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.ラクティス(L.lactis)、B.ビフィダム(B.bifidum)、B.ロンガム(B.longum)、B.ブレーベ(B.breve)、B.インファンティス(B.infantis)、B.ラクティス(B.lactis)、B.アドレセンティス(B.adolescentis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、バチルス・セルス(Bacillus cerus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、及びその任意の組み合わせのうちの1つ以上から選択されるプロバイオティクス細菌を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロマイセス・セレビシエ変種ブラウディ(Saccharomyces cerevisiae var.boulardii)、イサチェンキア・オクシデンタリス(Issatchenkia occidentalis)、ラチャンセア・サーモトレランス(Lachancea thermotolerans)、メチニコウィア・ジジフィコラ(Metschnikowia ziziphicola)、トルラスポラ・デルブリュッキイ(Torulaspora delbrueckii)、及びその任意の組み合わせのうちの1つ以上から選択されるプロバイオティクス酵母を含む、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、経口剤形で提供され、任意選択により腸溶性コーティングで提供され、任意選択により錠剤、ハードゲルカプセル剤、ソフトゲルカプセル剤、糖衣錠、散剤、粒剤、液剤、懸濁剤、分散剤、シロップ剤、及びマイクロゲル剤から選択される形態で提供される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
任意選択により胃酸中和剤及びプロトンポンプ阻害剤から選択される胃酸還元剤を更に含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、
直腸剤形、任意選択により座薬、浣腸、直腸フォーム、ローション、又はゲル;
膣剤形、任意選択により座薬、クリーム膣フォーム、ローション、又はゲル;
経肺剤形、任意選択により散剤、エアロゾル、ネブライザー、又は吸入器組成物;及び
注射剤形
から選択される剤形で提供される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、医薬組成物又は一般用医薬品組成物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、栄養補助食品、機能性食品組成物、栄養補給剤、又はプロバイオティクス組成物である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
それを必要とする対象におけるAIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、若しくはAIECのコロニー形成若しくは感染を予防若しくは処置する、又はそれを必要とする対象における炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺炎、及び肺癌のうちの1つ以上を処置する、又はヒト対象のマイクロバイオームを調節するための方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載のバクテリオファージ組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項15】
それを必要とする対象におけるAIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、若しくはAIECのコロニー形成若しくは感染を予防若しくは処置する、又はそれを必要とする対象における炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、COPD、気管支炎、肺炎、及び肺癌のうちの1つ以上を処置する、又はヒト対象のマイクロバイオームを調節するために使用される、請求項1~13のいずれか一項に記載のバクテリオファージ組成物。
【請求項16】
それを必要とする対象におけるAIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、若しくはAIECのコロニー形成若しくは感染を予防若しくは処置するための、又はそれを必要とする対象における炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、COPD、気管支炎、肺炎、及び肺癌のうちの1つ以上を処置するための、又はヒト対象のマイクロバイオームを調節するための医薬の調製における、請求項1~13のいずれか一項に記載のバクテリオファージ組成物の使用。
【請求項17】
前記対象が、AIECによるコロニー形成若しくは感染のリスクがあるか、又はAIECにコロニー形成されているか若しくは感染している、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項18】
前記AIECが、前記対象の小腸又は大腸のうちの1つ以上に存在する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項19】
前記AIECが、前記対象の結腸に存在する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項20】
前記AIECが、前記対象の尿路に存在する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項21】
前記AIECが、前記対象の肺に存在する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項22】
前記AIECが、LF82、07081、07082、07076及び06075から選択される1つ以上の株であり、任意選択により、前記AIECが株LF82であるか又は株LF82を含む、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項23】
前記方法又は使用が、前記対象の小腸、大腸、結腸、尿路、脳及び肺の1つ以上にAIECがコロニー形成するのを低減又は防止するのに効果的である、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項24】
前記対象が炎症性腸疾患(IBD)に罹患しており、任意選択により、前記対象がクローン病(CD)、若しくは潰瘍性大腸炎(UC)に罹患しているか、又は術後、任意選択によりCD患者の小腸の少なくとも一部を切除するための手術後の回腸病変の再発を患っている、請求項14~23のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項25】
前記バクテリオファージ組成物が経口投与される、請求項14~24のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項26】
任意選択により胃酸中和剤及びプロトンポンプ阻害剤から選択される胃酸還元剤を、前記対象に経口投与することを更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記バクテリオファージ組成物が、直腸、膣内、経肺、及び注射から選択される経路によって投与される、請求項14~24のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項28】
前記方法又は使用が、プロバイオティクスを前記対象に投与することを更に含み、任意選択により、前記プロバイオティクスが前記バクテリオファージと同一の組成物中で提供され、任意選択により、前記組成物が経口投与される、請求項14~27のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項29】
前記対象が、便微生物移植で追加的に処置される、請求項14~28のいずれか一項に記載の方法、使用される組成物、又は使用。
【請求項30】
アクセッション番号PTA-121408としてATCCに寄託された、株ECML-123-2の単離されたバクテリオファージ。
【請求項31】
請求項30に記載のバクテリオファージの単離された変異株であって、前記変異株が前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して少なくとも80%のgANIを有し、任意選択により、前記バクテリオファージ株ECML-123-2の後代である、単離された変異株。
【請求項32】
請求項31に記載の単離された変異株であって、前記変異株が、前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して≧90%のgANIを有する、単離された変異株。
【請求項33】
請求項31に記載の単離された変異株であって、前記変異株が前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して≧95%のgANIを有する、単離された変異株。
【請求項34】
請求項31に記載の単離された変異株であって、前記変異株が前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して≧98%又は≧99.9%のgANIを有する、単離された変異株。
【請求項35】
請求項30~34のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株の単離された後代株であって、この後代株が前記バクテリオファージ株ECML-123-2と実質的に同等のRFLP DNAプロファイルを有する、単離された後代株。
【請求項36】
請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株によって産生された溶菌酵素を含む組成物。
【請求項37】
請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株の誘導産物を含む組成物であって、前記誘導産物が、AIECに対する活性を有するか、又はAIECに対する活性を有する産物をコードし、任意選択により、前記誘導産物がDNA、cDNA、mRNA及び合成ポリヌクレオチド配列、DNA/RNAハイブリッド、並びに抗σ因子遺伝子及びその発現産物から選択される1つ以上である組成物。
【請求項38】
請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株又はその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られるAIEC溶菌液を含むワクチン。
【請求項39】
AIECの感染に対して対象をワクチン接種するために使用される、請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株又はその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られるAIEC溶菌液。
【請求項40】
AIECの感染に対して対象をワクチン接種するための医薬の調製におけるAIEC溶菌液の使用であって、前記AIEC溶菌液が、請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株又はその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られる使用。
【請求項41】
AIECの感染に対して対象をワクチン接種するための方法であって、請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ株でAIEC株を溶解させることによって得られた溶菌液を、前記対象に投与することを含む方法。
【請求項42】
試料中のAIEC細菌を検出するための方法であって、請求項30~35のいずれか一項に記載のバクテリオファージ又はその溶菌酵素で前記試料を処置し、これによって測定可能なAIEC細菌産物の放出を特異的に誘導し、前記放出されたAIEC細菌産物を測定することを含む方法。
【請求項43】
前記放出されたAIEC細菌産物が、アデノシン三リン酸(ATP)及びプロテインキナーゼ(AKT)のうちの1つ以上である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記試料が、対象から入手した便試料である、請求項42又は43に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月22日に出願された米国仮特許出願第63/178,119号明細書及び2021年7月27日に出願された米国仮特許出願第63/203,560号明細書に対する優先権を主張するものであり、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的手段により提出されている配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2022年4月13日に作成された前記ASCIIのコピーは、名称が052209-0516_SL.txtであり、サイズが211,073バイトである。
【0003】
接着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)(AIEC)を効果的に標的化する(例えば、感染して溶解させる)バクテリオファージ株及びそれらを含む組成物が本明細書に記載される。バクテリオファージは、例えば、AIECに感染したか、若しくはAIECによる感染のリスクのある対象の予防的若しくは治療的処置、又は炎症性腸疾患(IBD)を含むAIECに関連する疾患及び症状の予防的若しくは治療的処置、並びに本明細書に記載される他の使用に有用である。
【背景技術】
【0004】
バクテリオファージは、複製/溶解サイクルの一部として、細菌に感染し、それらを溶解するウイルスである。バクテリオファージ(又は、略して「ファージ」)は、その名称が「食べる」又は「バクテリアを食べるもの」という意味のギリシャ語「phago」に由来するものであり、20世紀の前半にフェリックス・デレーユによって発見された。ファージは標的化する細菌宿主に特異的であり、ヒト又は他の真核細胞に感染することはない。バクテリオファージは1919年以降、病原性細菌を標的化するために、ヒトにおいて治療的に使用されてきた。当初の熱意により、それらを細菌によって引き起こされる疾患の予防及び療法の両方として使用することにつながった。米国では、1940年代、Eli Lilly社によってブドウ球菌(staphylococci)、レンサ球菌(streptococci)、及び他の呼吸器病原菌を標的化した製剤を含む、ヒト用途の6つのファージ製品が商業的に生産されている。抗生物質の出現と共に、ファージの治療的使用は米国及び西欧では次第に好まれなくなり、わずかな研究しか行われなくなった。しかしながら、バクテリオファージ療法は東欧で引き続き利用されていた。
【0005】
炎症性腸疾患(IBD)は、主に結腸及び小腸に発症する炎症性疾患のカテゴリーである。IBDの病因は未だ研究中ではあるものの、IBDは遺伝的、環境的、及び微生物的な要因を有する自己免疫疾患であると考えられている。IBDの最も一般的な形態は潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)である。UCは結腸の慢性炎症性疾患であり、急性期の感染症に類似している。UCは結腸の粘膜の炎症を引き起こし、重症例では粘膜下層への拡大を伴う。通常、結腸だけではなく直腸も冒されるが、回腸に関与することは稀である。潰瘍の形成及びその拡大は、疾患の段階に伴って変化するが、多くの場合(例えば、S状結腸鏡検査及び結腸鏡検査によって)巨視的に測定することが可能である。CDは、限局性腸炎又は肉芽腫性大腸炎としても公知であり、口から肛門に至る胃腸管のあらゆる部分に発症する可能性のある腸の炎症性疾患であり、様々な症状を引き起こす。主に腹痛、下痢、嘔吐、及び体重減少のうちの1つ以上を引き起こすが、皮膚発疹、関節炎、目の炎症、疲労感、及び集中力欠如などの、胃腸管の外部での合併症を引き起こすこともある。CDは、小腸(small intestine)(小腸(small bowel))、特に回腸に最もよく見られるが、空腸、及び直腸を含む結腸の任意の部分に発症することもある。後者の場合、UCとCDを区別するのが困難な場合がある。一般に、CDの炎症は、粘膜よりも深い層まで進行し、上皮により低い程度で発症することにより、UCの炎症とは異なる。
【0006】
IBDの正確な原因は未だ不明ではあるが、環境因子と遺伝的素因との組み合わせが関与していると思われる。例えば、CDは、身体の免疫系が胃腸管を攻撃し、炎症を引き起こす自己免疫疾患であると考えられている。CD患者では、回腸上皮の頂端膜側に、癌胎児性抗原関連細胞接着分子6(CEACAM6)の異常発現が観察されている。加えて、CD回腸病変及びUC潰瘍では、病原性の接着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)(AIEC)がコロニー形成する場合がある。従って、AEICは、これらの疾患における病因の微生物因子であると理解されている。例えば、Astley,et.al.,Eur.J.Clin.Microbiol.Inf.Dis.(2021)40:181-92を参照されたい。
【0007】
UC及びCDの双方は、特に先進国では次第にありふれたものになってきている。一般的なIBDも、特にUC又はCDも、抗生物質(病原性大腸菌(E.coli)を標的化する抗生物質を含む)によって効果的に処置することは不可能である。従って、UC及びCDを含むIBDの効果的な処置が依然として求められている。
【0008】
AIECの感染は、結腸癌、尿路感染症、新生児髄膜炎、並びに呼吸器疾患及び症状を含む、他の疾患及び症状とも関連付けられている。例えば、Astley(前掲)(結腸癌及びUTI);Nash et.al.,BMC Genomics(2010)11:667(UTI及び新生児髄膜炎);Wypych et.al.,Nature Immunol.(2010)20;1279-90(肺感染症並びに喘息を含む呼吸器疾患及び症状);Raftery,et.al.,Frontiers in Immunol.(2020)11;Article 2144(慢性閉塞性肺疾患)を参照されたい。従って、AEICに関連する疾患及び症状を処置するのに使用される、AEICに対して効果的な処置が依然として求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)(AIEC)を標的化する(例えば、感染して溶解させる)バクテリオファージ株、及びAIECに感染して溶解させる1つ以上の異なるそのような株(例えば、バクテリオファージ株の「カクテル」)を含む組成物を提供する。組成物は、一般用医薬品(OTC)組成物又は医薬品組成物であり得る。バクテリオファージ及びそれらを含む組成物は、AIECの感染のリスクを低減し、AIECの感染を予防又は処置するため、並びにCD及びUCを含むIBD、結腸癌、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、並びに吸器疾患及び症状(喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺炎、及び肺癌を含む)を含むAEICに関連する疾患及び症状を処置するため、並びに本明細書に記載される他の方法及び使用のために有用である。
【0010】
従って、付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)株に溶菌感染を生じさせることが可能なバクテリオファージ株、及び薬学的に許容される担体を含む組成物が提供され、バクテリオファージ株は、ATCCにアクセッション番号PTA-121408として寄託された株ECML-123-2、又は前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対してそのゲノムにわたり少なくとも80%の平均ヌクレオチド同一性(gANI)を有するその変異株である。組成物は、パスツール研究所(Institut Pasteur)のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズム(French National Collection of Microorganisms)にアクセッション番号CNCM I-4695として寄託された株P2、又は前記バクテリオファージ株P2に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;パスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムにアクセッション番号CNCM I-4700として寄託された株P8、又は前記バクテリオファージ株P8に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;パスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムにアクセッション番号CNCM I-4675として寄託された株CLB_P2、又は前記バクテリオファージ株CLB_P2に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;ATCCにアクセッション番号PTA-8351として寄託された株ECML-119、又は前記バクテリオファージ株ECML-119に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;ATCCにアクセッション番号PTA-121407として寄託された株ECML-363、又は前記バクテリオファージ株ECML-363に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異株;及びATCCにアクセッション番号PTA-121406として寄託された株ECML-359、又は前記バクテリオファージ株ECML-359に対して少なくとも80%のgANIを有するその変異体から選択される1つ以上のバクテリオファージ株を更に含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、組成物中に存在するバクテリオファージ株は、株ECML-123-2、又は前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;株P2、又は前記バクテリオファージ株P2に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;株P8、又は前記バクテリオファージ株P8に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;株CLB_P2、又は前記バクテリオファージ株CLB_P2に対して少なくとも90%のgaNIを有するその変異株;株ECML-119、又は前記バクテリオファージ株ECML-119に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;株ECML-363、又は前記バクテリオファージ株ECML-363に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異株;及び株ECML-359、又は前記バクテリオファージ株ECML-359に対して少なくとも90%のgANIを有するその変異体を含むか又はこれらからなる。
【0012】
いくつかの実施形態では、組成物中に存在するバクテリオファージ株は、株ECML-123-2、又は前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;株P2、又は前記バクテリオファージ株P2に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;株P8、又は前記バクテリオファージ株P8に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;株CLB_P2、又は前記バクテリオファージ株CLB_P2に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;株ECML-119、又は前記バクテリオファージ株ECML-119に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;株ECML-363、又は前記バクテリオファージ株ECML-363に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異株;及び株ECML-359、又は前記バクテリオファージ株ECML-359に対して少なくとも95%のgANIを有するその変異体を含むか又はこれらからなる。
【0013】
いくつかの実施形態では、組成物中に存在するバクテリオファージ株は、株ECML-123-2、P2、P8、CLB_P2、ECML-119、ECML-363、及びECML-359の各々のバクテリオファージを含むか又はこれらからなる。
【0014】
任意の実施形態では、組成物は、プロバイオティクス細菌及びプロバイオティクス酵母のうちの1つ以上を任意選択により更に含む。プロバイオティクス細菌は、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.ラムノサス(L.rhamnosus)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.ロイテリ(L.reuteri)、L.ブルガリクス(L.bulgaricus)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.ジョンソニイ(L.johnsonii)、L.パラカセイ(L.paracasei)、L.カゼイ(L.casei)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.ラクティス(L.lactis)、B.ビフィダム(B.bifidum)、B.ロンガム(B.longum)、B.ブレーベ(B.breve)、B.インファンティス(B.infantis)、B.ラクティス(B.lactis)、B.アドレセンティス(B.adolescentis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、バチルス・セルス(Bacillus cerus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、及びその任意の組み合わせのうちの1つ以上から選択され得る。プロバイオティクス酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロマイセス・セレビシエ変種ブラウディ(Saccharomyces cerevisiae var.boulardii)、イサチェンキア・オクシデンタリス(Issatchenkia occidentalis)、ラチャンセア・サーモトレランス(Lachancea thermotolerans)、メチニコウィア・ジジフィコラ(Metschnikowia ziziphicola)、トルラスポラ・デルブリュッキイ(Torulaspora delbrueckii)、及びその任意の組み合わせのうちの1つ以上から選択され得る。
【0015】
前述の組成物の任意の実施形態は、経口剤形で提供されてもよく、任意選択により腸溶性コーティングで提供されてもよく、任意選択により錠剤、ハードゲルカプセル剤、ソフトゲルカプセル剤、糖衣錠、散剤、粒剤、液剤、懸濁剤、分散剤、シロップ剤、及びマイクロゲル剤から選択される形態で提供されてもよい。任意のこのような組成物は、任意選択により胃酸中和剤及びプロトンポンプ阻害剤から選択される胃酸還元剤を、任意選択により更に含み得る。
【0016】
或いは、前述の組成物の任意の実施形態は、直腸剤形、任意選択により坐剤、浣腸、直腸フォーム、ローション、又はゲル;膣剤形、任意選択により坐剤、クリーム膣フォーム、ローション、又はゲル;経肺剤形、任意選択により散剤、エアロゾル、ネブライザー、又は吸入器組成物;及び注射剤形から選択される剤形で提供され得る。
【0017】
前述の任意の実施形態は、医薬組成物又は一般用医薬品組成物であってよい。前述の任意の実施形態は、栄養補助食品、機能性食品組成物、栄養補給剤、又はプロバイオティクス組成物であってよい。
【0018】
また、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象におけるAIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、若しくはAIECのコロニー形成若しくは感染を予防若しくは処置する、又はそれを必要とする対象における炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺炎、及び肺癌のうちの1つ以上を処置する、又はヒト対象のマイクロバイオームを調節するための方法が提供される。
【0019】
また、それを必要とする対象におけるAIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、若しくはAIECのコロニー形成若しくは感染を予防若しくは処置する、又はそれを必要とする対象における炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、COPD、気管支炎、肺炎、及び肺癌のうちの1つ以上を処置する、又はヒト対象のマイクロバイオームを調節するために使用される、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物も提供される。
【0020】
また、それを必要とする対象におけるAIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、若しくはAIECのコロニー形成若しくは感染を予防若しくは処置するための、又はそれを必要とする対象における炎症性腸疾患(IBD)、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、喘息、COPD、気管支炎、肺炎、及び肺癌のうちの1つ以上を処置するための、又はヒト対象のマイクロバイオームを調節するための医薬の調製における、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物の使用も提供される。
【0021】
任意のそのような方法、使用される組成物、又は使用により、対象は、AIECによるコロニー形成若しくは感染のリスクがあり得るか、又はAIECにコロニー形成されているか若しくは感染している可能性がある。いくつかの実施形態では、対象の小腸又は大腸のうちの1つ以上にAIECが存在する。いくつかの実施形態では、AIECが対象の結腸に存在する。いくつかの実施形態では、AIECが対象の尿路に存在する。いくつかの実施形態では、AIECが対象の肺に存在する。いくつかの実施形態では、AIECは、LF82、07081、07082、07076及び06075から選択される1つ以上の株であり、任意選択により、AIECが株LF82であるか又は株LF82を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、方法、使用される組成物、又は使用は、対象の小腸、大腸、結腸、尿路、脳及び肺の1つ以上にAIECがコロニー形成するのを低減又は防止するのに効果的である。
【0023】
いくつかの実施形態では、対象は炎症性腸疾患(IBD)に罹患しており、任意選択により、対象はクローン病(CD)、若しくは潰瘍性大腸炎(UC)に罹患しており、又は術後、任意選択によりCD患者の小腸の少なくとも一部を切除するための手術後の回腸病変の再発を患っている。
【0024】
いくつかの実施形態では、バクテリオファージ組成物は経口投与される。このような実施形態は、任意選択により胃酸中和剤及びプロトンポンプ阻害剤から選択される胃酸還元剤を、対象に経口投与することを任意選択により更に含む。他の実施形態では、バクテリオファージ組成物は、直腸、膣内、肺、及び注射から選択される経路で投与される。
【0025】
任意の実施形態では、方法又は使用は、対象にプロバイオティクスを投与することを更に含み得る。任意選択により、プロバイオティクスは、例えば口腔用組成物中でバクテリオファージが投与される場合、バクテリオファージと同じ組成物で提供され得る。
【0026】
任意の実施形態では、対象は、便微生物移植により追加的に処置されてもよい。
【0027】
また、ATCCにアクセッション番号PTA-121408として寄託された株ECML-123-2の単離されたバクテリオファージ、及び前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して少なくとも80%のgANIを有するその単離された変異株が提供され、任意選択により、変異株は、前記バクテリオファージ株ECML-123-2の後代であり、並びに前記バクテリオファージ株ECML-123-2に対して≧90%、≧95%、≧98%又は≧99.9%のgANIを有するその単離された変異株である。また、このようなバクテリオファージ株のいずれかの単離された後代株も提供され、この後代株は、前記バクテリオファージ株ECML-123-2と実質的に同等のRFLP DNAプロファイルを有する。
【0028】
また、バクテリオファージ株ECML-123-2、又は前述の変異体若しくはその後代によって産生された溶菌酵素を含む組成物も提供される。
【0029】
また、バクテリオファージ株ECML-123-2の誘導産物、又は前述の変異体若しくはその後代を含む組成物も提供され、誘導産物が、AIECに対する活性を有するか、又はAIECに対する活性を有する産物をコードし、任意選択により、誘導産物がDNA、cDNA、mRNA及び合成ポリヌクレオチド配列、DNA/RNAハイブリッド、並びに抗σ因子遺伝子及びその発現産物から選択される1つ以上である。
【0030】
また、バクテリオファージ株ECML-123-2、又は前述の変異体若しくはその後代、又は任意のその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られるAIEC溶菌液を含むワクチンも提供される。また、AIECの感染に対して対象をワクチン接種するために使用される、バクテリオファージ株ECML-123-2、又は前述の変異体若しくはその後代、又は任意のその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られるAIEC溶菌液も提供される。また、AIECの感染に対して対象をワクチン接種するための医薬の調製におけるAIEC溶菌液の使用も提供され、AIEC溶菌液は、バクテリオファージ株ECML-123-2、又は前述の変異体若しくはその後代、又は任意のその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られる。また、バクテリオファージ株ECML-123-2、又は前述の変異体若しくはその後代、又は任意のその溶菌酵素でAIEC株を溶解させることによって得られる溶菌液を対象に投与することを含む、AIECの感染に対して対象をワクチン接種するための方法も提供される。
【0031】
また、バクテリオファージ株ECML-123-2、又は前述の変異体若しくはその後代、又は任意のその溶菌酵素で試料を処置し、これによって測定可能なAIEC細菌産物の放出を特異的に誘導し、放出されたAIEC細菌産物を測定することを含む、試料中のAIEC細菌を検出するための方法も提供される。いくつかの実施形態では、放出されたAIEC細菌産物は、アデノシン三リン酸(ATP)及びプロテインキナーゼ(AKT)のうちの1つ以上である。いくつかの実施形態では、試料は、対象から得られた便試料である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本明細書に記載されるバクテリオファージの参照DNA RFLPプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上記で述べたように、AIECを標的化する(例えば、感染して溶解させる)バクテリオファージ株、及びAIECに感染して溶解させる1つ以上の異なるそのような株を含む組成物が本明細書に記載される。組成物は、一般用医薬品(OTC)組成物又は医薬品組成物であり得る。バクテリオファージ及びそれらを含む組成物は、AIECの感染のリスクを低減し、AIECの感染を予防又は処置するため、並びにCD及びUCを含むIBD、結腸癌、尿路感染症(UTI)、新生児髄膜炎、並びに吸器疾患及び症状(喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺炎、及び肺癌を含む)を含むAEICに関連する疾患及び症状を処置するため、並びに本明細書に記載される他の方法及び使用のために有用である。理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載されるバクテリオファージ及び組成物を使用する療法は、AIECの感染を特異的に標的化することで防止又は低減させることから安全且つ有効なものであり、それによって特異的にAIECを標的化することにより健全なマイクロバイオームを維持し、広域スペクトルの抗生物質療法に関連する副作用を回避しながら、AIECの感染に対して有効であることが理解される。下記の実施例に例示されるように、本明細書に記載される7つのファージの各々は、多数の異なるAIEC株に対して個々に及び合わせて有効であると同時に、付着性侵入性大腸菌(E.coli)に特異的であり、健康なヒトのマイクロバイオームの一般的な細菌を溶解しない。従って、抗生物質の無分別な活性とは対照的に、本明細書に記載されたファージは、健康なヒトのマイクロバイオームに及ぼす影響があったとしても最小限にしながらAIECを標的化するために使用され得る。
【0034】
定義
本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、別途定義されない限り、本発明に関連する当業者に一般に理解されている意味を有する。本明細書に提供されるガイダンスに鑑みて、本発明の実施にあたり当業者に公知の任意の適切な材料及び/又は方法を利用することができるが、しかしながら、例証の目的のために、特定の材料及び方法を記載する。下記の説明及び実施例で言及される材料、試薬などは、別途注記されない限り、商業的供給源から入手可能である。
【0035】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、単数形のみを示すと明確に述べられていない限り、単数形及び複数形の両方を示す。
【0036】
本明細書で使用される場合、数値と共に使用されるときの「約」は、明記された数値だけでなく、その数値のプラス又はマイナス10%を意味する。例えば、「約10」は、「10」及び「9~11」の両方として理解されるべきである。
【0037】
本明細書で使用される場合、「A/B」の形態又は「A及び/又はB」の形態の語句は、(A)、(B)、又は(A及びB)を意味し、「A、B及びCのうちの少なくとも1つ」の形態の語句は、(A)、(B)、(C)、(A及びB)、(A及びC)、(B及びC)、又は(A、B及びC)を意味する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、記載される組成物、方法、又はキットが、少なくとも明記される要素を含み、且つ明記されない他の要素を含み得ることを意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「付着性侵入性大腸菌(Escherichia coli)(AIEC)株」とは、下記に記載するアッセイに従って試験した場合に、腸細胞株I-407の細胞培養物において0.1%以上の平均浸潤能力を有する大腸菌(E.coli)株を指す。Darfeuille-Michaud et al.Gastroenterology 127;412-421(2004)も参照されたい。換言すれば、AIEC株は、下記に記載される浸潤アッセイに従って試験した場合に、I-407の腸細胞培養物に、元々の接種物の0.1%(これを100%とみなす)と同等かそれ以上の浸潤指数で浸潤する能力を有する。
【0040】
AIEC株の非限定的な例としては、パスツール研究所のFrench National Collectionと共にオーベルニュ大学(Universite d’Auvergne)によってアクセッション番号CNCM I-4723として寄託された株LF82、LF82S(ストレプトマイシン耐性を有する株LF82の遺伝子改変された変異株)及びLF82SK(ストレプトマイシン及びカナマイシン耐性を有する株LF82の遺伝子改変された変異株)(どちらもGaltier et al.J Crohns Colitis.11(7);840-47(2017)で述べられている);株LF31、LF71、LF123、LF138、LF9、LF15、LF28、LF50、LF65、LF119、LF128、LF130、LF73、LF100、LF110、LF134、LF105、LF49-2、LB11、及びLF45-2(例えば、Darfeuille-Michaud et al.Gastroenterology 127:412-421(2004)を参照されたい)、並びに下記の実施例1で述べられるAIEC株である。
【0041】
AIECの「コロニー形成」という用語は、本明細書では、対象にAIECが存在することを指すものとして用いられるが、これが必ずしも対象の疾患の原因となるわけではない。
【0042】
AIECの「感染」という用語は、本明細書では、対象の疾患の原因となっている対象の組織のAIECの侵襲を指すものとして用いられる。本明細書で使用される場合、「予防する」とは、それを必要とする対象において、AIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するか、又はAIECのコロニー形成若しくは感染を防止するか、又はAIECのコロニー形成若しくは感染のレベルを低減することを意味する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「処置する」とは、それを必要とする対象において、AIECのコロニー形成又は感染のレベルを低減することを意味し、AIECのコロニー形成又は感染を検出不可能なレベルまで低減することを含む。このような処置により、IBD(CD又はUCなど)、結腸癌、UTI、新生児髄膜炎、又は呼吸器症状などの問題となっている疾患又は症状(もしあれば)に特徴的な1つ以上の症状の減少、疾患又は症状の進行速度の減少、疾患又は症状からの回復の促進、疾患又は症状の治癒、疾患又は症状の寛解の維持、及び疾患又は症状の再発の予防などの予防法をもたらし得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、治療的活性剤(例えば、ファージ)と関連して用いられる「有効量」及び「治療有効量」という語句は、例えば、AIECの感染のリスクを低減し、AIECの感染を防止又は低減するために、このような処置を必要とする対象に薬剤が投与される場合に特定の薬理学的効果をもたらす量を意味する。治療有効量は、このような量が当業者によって治療有効量であるとみなされる場合であっても、所与の患者がAIECに感染するのを防止又は低減するのに必ずしも有効であるとは限らないことが強調される。治療有効量は、特定の活性剤、投与経路及び剤形、対象の年齢及び体重、並びに/又はAIECの感染のタイプ及び重症度を含む対象の症状に基づいて変動し得る。
【0045】
「個体」、「対象」、及び「患者」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、男性及び女性のヒト対象を含むヒト対象を含むあらゆる個々の哺乳類対象を指す。対象は、IBD、結腸癌、UTI、新生児髄膜炎、及び呼吸器疾患又は症状などの、AIECに関連する疾患又は症状に罹患するか及び/又はそのように診断され得る。
【0046】
IBDの非限定的な例としては、CD、UC、及び他の慢性炎症性腸疾患(慢性IBD)、例えば顕微鏡的大腸炎、セリアック病及び血管炎が挙げられる。従って、IBDはCD又はUCであり得る。特定の実施形態では、IBDは、術後(CD患者の小腸の少なくとも一部を切除するための手術後など)の回腸病変の再発である。再発は、Rutgeertsスコアによって測定することができる。例えば、Chongthammakun,et al.Gastroenterol Rep(Oxf)5;271-76(2017)を参照されたい。
【0047】
いくつかの実施形態では、IBDは細菌感染によって引き起こされるものではないが、細菌感染がIBDに付随する可能性がある(ただし、必ずしも原因物質というわけではない)。いくつかの実施形態では、対象は、AIECに感染しているが、IBDには罹患していない。実際に、IBD患者の家族の中には、病気に罹患せずにAIECを保有していることがある。同様に、AIEC株は、IBDに罹患していても、IBDに罹患している対象に関連があったとしても、対象で発見されない可能性がある。
【0048】
本明細書で使用される場合、本明細書に記載されるバクテリオファージ株の「変異」株は、参照バクテリオファージ株に対して、そのゲノムにわたり少なくとも80%の平均ヌクレオチド同一性(「gANI」)を有する。gANIは、所与の一対のゲノムの間の類似度指数である。通常、学者であれば、gANI≧95%の生物を「同種」に属するものとして同定するであろう。Olm M.,“Are these microbes the’same’?” microBEnet(2;2017)(microbe.net/2017/02/15/are-these-microbes-the-same/にて利用可能)、及びJain et al.(Jain et al.Nature Comm.9(1):5114(2018)を参照されたい。参照株に対して少なくとも90%のgANIを有する変異株は、前記参照バクテリオファージ株と同一の表現型特性を有するものと推定され、またそのようにみなされる。「変異」株は、参照株から独立して得てもよく、参照株の後代であってよく、又は参照株の組換え派生株(例えば、出発物質として参照株若しくはそのゲノム配列の1つ以上若しくは全てを使用して組換え作製されたもの)であってよい。
【0049】
本明細書で使用される場合、バクテリオファージに関して用いられる「単離された」とは、バクテリオファージが自然発生する本来の環境、例えば、本来発見されたところから取り出されていることを意味する。「単離された」バクテリオファージは、それが自然に置かれた環境又は本来発見された環境から精製されていても、別々に培養されて(cultivated)いても、又は別々に培養されて(cultured)いてもよい。
【0050】
バクテリオファージ株及びカクテル
2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121408としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)に寄託された新規バクテリオファージ株ECML-123-2の単離されたバクテリオファージ、及びこの寄託株に対して少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のgANIを有するその変異株が本明細書に提供される。ECML-123-2の配列は、配列番号1に記載されている。下記の実施例に示すように、株ECML-123-2はAIECを効果的に標的化する(感染して溶解させる)。
【0051】
また、以下の(7つの)バクテリオファージ株(株ECML-123-2を含む)及びこの寄託株に対して少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のgANIを有するその変異体のうちの1つ以上の単離されたバクテリオファージを含み、2つ以上のその新規の組み合わせ(「カクテル」)を含む組成物も本明細書に提供される:
(i)バクテリオファージ株vB_EcoM_LF82_P2(以下、「P2」)(国際公開第2014/177622号パンフレット及び米国特許第11,040,078号明細書として承認された米国付与前公開第2016/0143965号明細書にすでに記載され、2012年11月15日にアクセッション番号CNCM I-4695としてパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託されている);
(ii)バクテリオファージ株vB_EcoM_LF82_P8(以下、「P8」)(国際公開第2014/177622号パンフレット及び米国特許第11,040,078号明細書として承認された米国付与前公開第2016/0143965号明細書にすでに記載され、2012年11月15日にアクセッション番号CNCM I-4700としてパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託されている);
(iii)バクテリオファージ株CLB_P2(国際公開第2014/177622号パンフレット及び米国特許第11,040,078号明細書として承認された米国付与前公開第2016/0143965号明細書にすでに記載され、2012年9月27日にアクセッション番号CNCM I-4675としてパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託されている);
(iv)バクテリオファージ株ECML-119(米国特許第7,625,556号明細書にすでに記載され、2007年4月19日にアクセッション番号PTA-8351としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されている);
(v)バクテリオファージ株ECML-359(Cieplak et al.,Gut Microbes 9(5);391-99(2018)にすでに記載され、2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121406としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されている);
(vi)バクテリオファージ株ECML-363(Cieplak et al.,Gut Microbes 9(5);391-99(2018)にすでに記載され、2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121407としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されている);並びに
(vii)バクテリオファージ株ECML-123-2(2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121408としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されている)。
【0052】
現在の生物分類学では、株P2は、wV8バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、株P8は、RB69バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、株CLB_P2は、JS98バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、株ECML-119は、EPS7バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のサイフォウイルス(Siphoviridae)科に属し、株ECML-123-2及びECML-363は、wV7バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、株ECML-359は、SP18バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属する。
【0053】
実施例に例示されているように、これらの株の各々は、1つ以上のAIECの株を特異的に標的化し(感染して溶解させ)、1つ以上のAIECの株による感染のリスクの低減、感染の予防、及び/又は感染の処置、並びにCD又はUCなどのIBDの処置を含む本明細書に記載される他の使用に有用である。特に、実施例に例示されているように、これらの株の各々は、以下のAIEC株の1つ以上を特異的に標的化する(感染して溶解させる):大腸菌(Escherichia coli)株LF82、07081、07082、07076及び06075。
【0054】
寄託株及びそれと少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のgANIを有するその変異株は、本明細書の記述において集合的に「本明細書に記載されるような」バクテリオファージ、ファージ、又は株と称される。
【0055】
上記で述べたように、本明細書で使用される場合、「変異体」(又は「変異株」)には、以下の実施例に例示されるような、寄託されたバクテリオファージを培養することによって得られた後代が含まれる。バクテリオファージ株又はそれらの後代を同定するために、制限断片長多型(RFLP)を使用することができる。後代株は、Tenover et al.,J.Clin.Microbiol.33(9);2233-39(1995)に定義されているように、元のバクテリオファージ株のDNA RFLPプロファイルと「実質的に同等な」DNA RFLPプロファイルを有し得る。Tenoverにおいて報告されているように、同じように増殖させた生物のゲノムを制限酵素で消化した後に電気泳動分析した場合、RFLPプロファイルに若干のばらつきが見られることがある。Tenoverでは、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を使用した、染色体DNA RFLPプロファイルを解釈するためのシステムが記載されている。特に、Tenoverでは、互いに「区別不能な」又は「近縁関係にある」生物を区別することを含む、様々なカテゴリーの遺伝学的及び疫学的関連性が説明されている。本明細書で使用される場合、バクテリオファージ株は、RLFPプロファイルがTenover(前掲)の基準で「区別不能」又は「近縁関係にある」場合に、参照バクテリオファージ株と「実質的に同等」となる。
【0056】
従って、「後代」株は、親の寄託されたバクテリオファージ株のDNA RFLPプロファイルと実質的に同等なDNA RFLPプロファイルを有し得る。後代は、親の寄託されたバクテリオファージに対して≧80%のgANIを有し得る。後代は、親の寄託されたバクテリオファージに対して≧90%のgANIを有し得る。後代は、親の寄託されたバクテリオファージに対して≧95%のgANIを有し得る。後代は、親の寄託されたバクテリオファージに対して≧98%のgANIを有し得る。後代は、親の寄託されたバクテリオファージに対して≧99%のgANIを有し得る。
【0057】
上記で述べたように、参照バクテリオファージ株に対して少なくとも90%のgANIを有する変異株は、参照バクテリオファージ株と同一の表現型特性を有するものと推定され、またそのようにみなされる。従って、本開示には、参照寄託株に対して少なくとも90%のgANIを有する寄託株の変異体、及び寄託株と同一の表現型特性を有する他の変異体を含む組成物が含まれる。
【0058】
本明細書に記載されるような所与の組成物に使用される、本明細書に記載される特定の単離されたバクテリオファージ株又は単離株の組み合わせは、AIECの標的株をベースとして選択することができる。例えば、組成物中の単離されたバクテリオファージ株を使用して特定の対象又は対象群を処置する前に、標的株に対する有効性を確認するため、本明細書に記載される単離されたバクテリオファージ株又は2つ以上の単離株の組み合わせをAIECの標的株に対してインビトロで試験することができる。好適なスクリーニング方法は当技術分野において公知であり、本明細書の実施例に例示されている。このような試験で使用するために、AIECの標的株は、特定の対象若しくは対象群から得られた臨床検体から、特定の対象若しくは対象群の環境から得ることができるか、又は他の供給源から同定して得ることができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物は、大腸菌(Escherichia coli)株LF82、07081、07082、07076及び06075から選択される1つ以上のAIEC株をまとめて特異的に標的化する(感染して溶解させる)1つ以上の単離されたバクテリオファージ株を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物は、AIEC株LF82を特異的に標的化する1つ以上の単離されたバクテリオファージ株を含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物は、単離されたバクテリオファージ株ECML-123-2又はECML-123-2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージ組成物は、単離されたバクテリオファージ株ECML-123-2を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージカクテルは、以下の株の各々の単離されたバクテリオファージを含む:(i)P2又はP2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(ii)P8又はP8に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(iii)CLB_P2又はCLB_P2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(iv)ECML-119又はECML-119に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(v)ECML-359又はECML-359に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(vi)ECML-363又はECML-363に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;及び(vii)ECML-123-2又はECML-123-2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体。
【0062】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージカクテルは、株P2、P8、CLB_P2、ECML-119、ECML-359、ECML-363及びECML-123-2の各々の単離されたバクテリオファージを含む。下記の実施例に例示されるように、これら7つのファージは、宿主/標的の範囲が広く、重複する部分があり、これらのバクテリオファージが標的化するAIEC細菌に暴露されているヒトの腸内、又は任意の他の臓器若しくは他の場所にバクテリオファージ非感受性変異体(BIM)が出現するリスクを低減することができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージカクテルは、以下の株の各々の単離されたバクテリオファージを含む:(i)ECML-123-2又はECML-123-2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;並びに(ii)本明細書に記載される他のバクテリオファージから選択される1つ以上、例えばP2、P8、CLB_P2、ECML-119、ECML-359、及びECML-363のうちの1つ以上、並びにこの寄託株に対して少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のgANIを有するその変異体。いくつかの実施形態では、カクテルは、(i)ECML-123-2、並びに(ii)P2、P8、CLB_P2、ECML-119、ECML-359、及びECML-363のうちの1つ以上を含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるようなバクテリオファージカクテルは、(i)P2、P8、CLB_P2から選択される1つ以上の株の単離されたバクテリオファージ、及びこの寄託株に対して少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のgANIを有するその変異株、並びに(ii)ECML-359、ECML-363から選択される1つ以上の株の単離されたバクテリオファージ、及びこの寄託株に対して少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のgANIを有するその変異株を含む。このようなカクテルは、任意選択により、株ECML-123-2又はECML-123-2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体のバクテリオファージを更に含み得る。いくつかの実施形態では、カクテルは、(i)P2、P8、及びCLB_P2から選択される1つ以上の株の単離されたバクテリオファージ、並びに(ii)ECML-359及びECML-363から選択される1つ以上の株の単離されたバクテリオファージを含む。このようなカクテルは、任意選択により、株ECML-123-2のバクテリオファージを更に含み得る。
【0065】
本明細書に記載されるバクテリオファージカクテルは、AIECのコロニー形成を予防するのに有効な、AIECの感染を予防するのに有効な、AIECのコロニー形成を処置するのに有効な、又はAIECの感染を処置するのに有効な1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株の量、例えば1用量当たり10~1011CFUの単離されたバクテリオファージ、例えば1用量当たり10~1010CFUの単離されたバクテリオファージを含み得る。バクテリオファージカクテルは、使用されるバクテリオファージの各々をほぼ同量で用いて調製してもよい。或いは、バクテリオファージカクテルは、全ての標的となるAIECに対して全体的に広範な溶解活性を維持しながら、選択された「問題の」AIEC株に対して増強した有効性をもたらすような、異なる量のバクテリオファージを用いて調製してもよい。
【0066】
他の活性成分
また、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株を含み、更に1つ以上のプロバイオティクスを含む組成物も提供される。本明細書で使用される場合、「プロバイオティクス」には、プロバイオティクス細菌及びプロバイオティクス酵母が含まれる。好適なプロバイオティクス細菌は、当技術分野において公知であり、ラクトバチルス(Lactobacillus)種(例えば、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.ラムノサス(L.rhamnosus)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.ロイテリ(L.reuteri)、L.ブルガリクス(L.bulgaricus)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.ジョンソニイ(L.johnsonii)、L.パラカセイ(L.paracasei)、L.カゼイ(L.casei)、L.サリバリウス(L.salivarius)、及びL.ラクティス(L.lactis))、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)種(例えば、B.ビフィダム(B.bifidum)、B.ロンガム(B.longum)、B.ブレーベ(B.breve)、B.インファンティス(B.infantis)、B.ラクティス(B.lactis)、及びB.アドレセンティス(B.adolescentis))、並びにストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、バチルス・セルス(Bacillus cerus)、及びバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)が挙げられる。好適なプロバイオティクス酵母は、当技術分野において公知であり、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロマイセス・セレビシエ変種ブラウディ(Saccharomyces cerevisiae var.boulardii)、イサチェンキア・オクシデンタリス(Issatchenkia occidentalis)、ラチャンセア・サーモトレランス(Lachancea thermotolerans)、メチニコウィア・ジジフィコラ(Metschnikowia ziziphicola)、及びトルラスポラ・デルブリュッキイ(Torulaspora delbrueckii)が挙げられる。
【0067】
従って、いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株と、1つ以上のプロバイオティクスとを含む。特定の実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株と、1つ以上のプロバイオティクス細菌の株とを含む。他の特定の実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株と、1つ以上のプロバイオティクス酵母の株とを含む。更に他の特定の実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株と、1つ以上のプロバイオティクス細菌の株と、1つ以上のプロバイオティクス酵母の株とを含む。理論に束縛されることを望むものではないが、本明細書に記載されるAIECバクテリオファージの健康に及ぼすプラスの影響は、プロバイオティクスと組み合わせるときに更に高めることができると考えられる。
【0068】
1つの具体的な例として、本明細書に記載されるような組成物は、(A)以下の株の各々の単離されたバクテリオファージ:(i)P2又はP2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(ii)P8又はP8に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(iii)CLB_P2又はCLB_P2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(iv)ECML-119又はECML-119に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(v)ECML-359又はECML-359に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;(vi)ECML-363又はECML-363に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体;及び(vii)ECML-123-2又はECML-123-2に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%のgANIを有するその変異体、並びに(B)1つ以上のプロバイオティクスを含み得る。別の例として、本明細書に記載されるようなプロバイオティクスカクテル組成物は、(A)単離株P2、P8、CLB_P2、ECML-119、ECML-359、ECML-363及びECML-123-2の各々、並びに(B)1つ以上のプロバイオティクスを含み得る。プロバイオティクスを含む任意の実施形態では、1つ以上のプロバイオティクスは、ラクトバチルス(Lactobacillus)種(例えば、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.ラムノサス(L.rhamnosus)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.ロイテリ(L.reuteri)、L.ブルガリクス(L.bulgaricus)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.ジョンソニイ(L.johnsonii)、L.パラカセイ(L.paracasei)、L.カゼイ(L.casei)、L.サリバリウス(L.salivarius)、及びL.ラクティス(L.lactis))、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)種(例えば、B.ビフィダム(B.bifidum)、B.ロンガム(B.longum)、B.ブレーベ(B.breve)、B.インファンティス(B.infantis)、B.ラクティス(B.lactis)、及びB.アドレセンティス(B.adolescentis))、並びにストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、バチルス・セルス(Bacillus cerus)、及びバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)から選択される1つ以上のプロバイオティクス細菌;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロマイセス・セレビシエ変種ブラウディ(Saccharomyces cerevisiae var.boulardii)、イサチェンキア・オクシデンタリス(Issatchenkia occidentalis)、ラチャンセア・サーモトレランス(Lachancea thermotolerans)、メチニコウィア・ジジフィコラ(Metschnikowia ziziphicola)、及びトルラスポラ・デルブリュッキイ(Torulaspora delbrueckii)から選択される1つ以上のプロバイオティクス酵母、又はその任意の組み合わせであり得る。
【0069】
任意の実施形態では、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株とプロバイオティクスとを含む組成物は、OTC組成物又は医薬組成物であってよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上の単離されたバクテリオファージ株とプロバイオティクスとを含む組成物は、下記でより詳細に述べられるように、経口投与用に製剤化される。
【0070】
本明細書に記載されるバクテリオファージカクテルに関して上記で記載したように、本明細書に記載される組成物は、AIECのコロニー形成を予防するのに有効な、AIECの感染を予防するのに有効な、AIECのコロニー形成を処置するのに有効な、又はAIECの感染を処置するのに有効な単離されたバクテリオファージ株の量、例えば1用量当たり10~1011CFUの単離されたバクテリオファージ株、例えば1用量当たり10~1010CFUの単離されたバクテリオファージ株を含み得る。
【0071】
また、本明細書に記載されるようなバクテリオファージの誘導産物、及び1つ以上のこのような誘導産物を含む組成物も本明細書に記載される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、本明細書に記載されるような1つ以上又は2つ以上のバクテリオファージ株を含み、更に1つ以上のこのような誘導産物を含む。
【0072】
本明細書で使用される場合、「誘導産物」又は「ファージ誘導産物」とは、核酸、部分的又は完全な遺伝子、溶菌酵素及び他の遺伝子発現産物、並びにバクテリオファージの他の構造成分、例えば改変又は未改変のバクテリオファージDNA、cDNA、mRNA及び合成ポリヌクレオチド配列、並びにDNA/RNAハイブリッドを含むポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチド、例えば、AIECに対して活性を有するか、又はAIECに対して活性を有する産物をコードする誘導産物を含む(がこれらに限定されない)、本明細書に記載されるバクテリオファージのサブユニット又は発現産物を構成する物質を指す。従って、本明細書に記載されるバクテリオファージの1つ以上の誘導産物は、本明細書に記載される組成物中に含まれていてもよく、本明細書に記載される方法に使用されてもよい。
【0073】
抗σ因子遺伝子及びその発現産物は、このような誘導産物の例である。本明細書に記載されるファージのうちの1つ以上は、宿主(標的)となるAIECの細菌転写活性を阻害する抗σ因子遺伝子をコードし得る。例えば、Hughes,et al.Ann.Rev Microbiol 52:231-86(1998)を参照されたい。抗σ因子遺伝子は、このようなファージに標的(AIEC)細菌細胞内で転写を阻害する増強された能力を付与し、それによってファージが標的細菌細胞を溶解する能力が増強される。従って、抗σ因子遺伝子及びその発現産物は、本明細書に記載される組成物中に含まれ得る誘導産物の例であり、組成物の効力及び/又は方法の有効性を高めるように、本明細書に記載される予防的及び治療的処置方法に使用される。
【0074】
溶菌酵素は、本明細書に記載されるファージ誘導産物の別の例である。本明細書に記載されるバクテリオファージは、宿主(標的)となるAIECの溶解に関与する1つ以上の溶菌酵素をコードする。ファージの溶菌酵素は、局所的にペプチドグリカンを分解することによって細菌感染を促進するビリオンの一部として、又は溶解複製サイクルの最後に大規模な細胞溶解を誘導する可溶性タンパク質として、バクテリオファージによって産生される。例えば、Briers,Viruses 11(2);113(2019)を参照されたい。溶菌酵素は、それらが標的化する細菌の迅速な溶解を引き起こし、結果として、標的化する細菌のレベルが大幅に減少するか又は除去される。本明細書に記載される組成物並びに予防的及び治療的処置方法の効力又は有効性を高めることに加えて、溶菌酵素は、特定の細菌を迅速に同定するための検出アッセイに使用することができる。例えば、Nelson,et al.,“Using bacteriophage lytic enzymes as a diagnostic tool for rapid identification of specific bacteria.”In American Society for Microbiology General Meeting,Salt Lake City,Utah(2002)を参照されたい。本明細書に記載される組成物及び方法に使用される溶菌酵素は、ファージ培養物から単離されてもよく、又は組換え技術によって調製されてもよい。従って、溶菌酵素は、本明細書に記載される組成物中に含まれてもよく、組成物の効力及び/若しくは処置方法の有効性を高めるため、又は特異的に標的となるAIEC細菌を検出するなどのため、本明細書に記載される予防的及び治療的処置方法、並びに検出方法に使用されてもよい。
【0075】
従って、いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、1つ以上又は2つ以上のバクテリオファージ株と、1つ以上のこのようなファージ誘導産物、例えば1つ以上の溶菌酵素とを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、組成物中に製剤化されるバクテリオファージの1つ以上によって産生された1つ以上の溶菌酵素を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、追加的又は代替的に、1つ以上の抗σ因子遺伝子又は組成物中に製剤化されたバクテリオファージの1つ以上のその発現産物を含む。任意の実施形態では、1つ以上又は2つ以上のバクテリオファージ株と、ファージ誘導産物、例えばファージ溶菌酵素とを含む組成物は、OTC組成物又は医薬組成物であり得る。任意のこのような組成物はまた、上記で述べたような1つ以上のプロバイオティクスを含み得る。
【0076】
他の組成物特性
上記で述べたように、本明細書に記載されるバクテリオファージ株のうちの1つ以上又は2つ以上を含む組成物が本明細書に提供される。上記で述べたように、組成物はOTC組成物又は医薬組成物であり得る。例えば、組成物は、医薬組成物、栄養補助食品、機能性食品組成物、栄養補給剤、又はプロバイオティクス組成物であり得る。
【0077】
本明細書に記載されるようなOTC組成物又は医薬組成物は、バクテリオファージ株(並びに、いくつかの実施形態では、プロバイオティクス及び/又はファージ誘導産物)と、1つ以上の薬学的に許容される担体と、任意選択により1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む。バクテリオファージに好適な担体及び賦形剤は、当技術分野において公知である。典型的には、薬学的に許容される担体は、薬学的に許容された、非毒性の担体、充填剤、又は希釈剤であり、標的患者(動物又はヒト)に意図された投与経路で投与される医薬組成物を製剤化するためのビヒクルとして使用するのに好適なものである。
【0078】
薬学的に許容される賦形剤は、助剤又は副成分とも称され、標的患者(動物又はヒト)に意図された投与経路で投与される医薬組成物に従来使用されているものを包含し、マトリックス形成剤、増粘剤、結合剤、滑沢剤、pH調整剤、保護剤、粘度増強剤、ウィッキング剤、非発泡性崩壊剤及び発泡性崩壊剤を含む崩壊剤、界面活性剤、酸化防止剤、湿潤剤、着色剤、香味剤、矯味剤、甘味剤、保存剤などであるが、これらに限定されない。薬学的に許容されることに加えて、助剤は、典型的に、バクテリオファージ及びプロバイオティクス(存在する場合)を含む組成物の他の成分と適合するように選択される。
【0079】
本明細書に記載されるOTC組成物及び医薬組成物は、任意の好適な投与経路(AIECがコロニー形成又は感染した部位に依存し得る)用に製剤化され得る。異なる投与経路用のファージ組成物が開示されている。例えば、Qadir et al.,Brazilian J.Pharm.Sci.(2018)54(1)を参照されたい。例えば、ファージは、経口、頬側、舌下、直腸、鼻腔、局所、耳、膣内、気管支、肺、若しくは非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、腹腔内、胸膜内、膀胱内及び髄腔内を含む)投与、又はインプラント、若しくは尿路リンス若しくはカテーテルを介した投与を含む投与経路用に製剤化することができる。組成物又は投与経路は、本明細書に記載される1つ以上のバクテリオファージの標的効果をもたらすように選択されてもよく、コロニー形成又は感染の部位に依存し得る。
【0080】
OTC組成物及び医薬組成物は、問題の剤形を製造するための任意の好適な方法によって調製されてもよく、このような方法は調剤の当技術分野においてよく知られている。このような方法は、典型的には、本明細書に記載されるような1つ以上のバクテリオファージ(並びに、任意選択により1つ以上のプロバイオティクス及び/又はファージ誘導産物)と、薬学的に許容される担体と、任意選択により1つ以上の薬学的に許容される助剤とを合わせる工程を含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、経口投与用に製剤化されて経口投与される。経口投与に好適なOTC組成物及び医薬組成物の剤形は、当技術分野において公知であり、錠剤(チュアブル錠を含む)、乾燥ファージ含有組成物を含有するハードゲルカプセル剤、液体ファージ含有組成物を含有するソフトゲルカプセル剤、及び糖衣錠などの個別剤形、並びに散剤、粒剤、液剤、懸濁剤、分散剤、シロップ剤、マイクロゲル剤などのバルク剤形が挙げられる。
【0082】
経口投与用に製剤化されたOTC組成物及び医薬組成物の剤形は、胃の酸性環境からファージを保護するように製剤化され得る。例えば、経口投与用に製剤化された組成物は、バクテリオファージ(並びに、任意選択によりプロバイオティクス及び/又は溶菌酵素などのファージ誘導産物)を保護し、胃の酸性環境を通過する際の生存率を維持するために、腸溶性コーティング若しくは遅延放出コーティング(コーティングされた錠剤若しくはカプセル剤、若しくはコーティングが施された粒剤の形態など)のようなコーティングが施され得るか、若しくはこのようなコーティングを含み得るか、又は(例えば、アルギン酸-キトサン微粒子内に)マイクロカプセル化され得る。好適なコーティング材料及びマイクロカプセル化材料は、当技術分野において公知である。追加的又は代替的に、経口投与用に製剤化された組成物は、胃酸中和剤(例えば、重炭酸ナトリウムなどの重炭酸塩)のような胃酸を還元する薬剤(例えば、胃酸還元剤)、又はプロトンポンプ阻害剤(例えば、オメプラゾール)と共に製剤化され得るか、又はこれらと共に投与され得る。
【0083】
追加的又は代替的に、このような組成物は、小腸(例えば、CDを処置するため)若しくは結腸(例えば、UCを処置するため)、又は尿路(例えば、UTIを処置するため)のような所望の放出部位において、生存可能なファージ(並びに、任意選択によりプロバイオティクス及び/又は溶菌酵素などのファージ誘導産物)の放出をもたらすために、遅延放出コーティングが施され得るか、又は遅延放出コーティングを含み得る。追加的又は代替的に、このような組成物は、長期間にわたってファージ(など)の放出をもたらすように、徐放性コーティングが施され得るか、又は徐放性コーティングを含み得る。このようなコーティングに好適なコーティング材料は、当技術分野において公知である。
【0084】
例えば、経口投与用に製剤化された本明細書に記載されるような組成物は、以下の成分の1つ以上を含み得る:脱イオン水、医薬品グレード水、又はミネラルウォーターなどの水;塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム;緩衝溶液(pH7.0~7.5のトリス-HClなど);スクロース(例えば、5%スクロース溶液)、トレハロース、マルトデキストリン、グリセロール、デキストラン、及びソルビトールなどの甘味剤、セルロース;タピオカ、デキストリン、ジェランガム、及びゼラチンなどの増粘剤;並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(アクリル酸)(「PAA」)、ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)、及びカゼインなどの他の賦形剤、並びにその任意の2つ以上の組み合わせ。
【0085】
代替的な実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、直腸投与用に製剤化される。直腸投与に好適なOTC組成物及び医薬組成物の剤形は、当技術分野において公知であり、直腸投与用の坐剤、直腸フォーム、ローション、ゲル又は浣腸を含み得る。
【0086】
代替的な実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、膣内投与用に製剤化される。膣内投与に好適なOTC組成物及び医薬組成物の剤形は、当技術分野において公知であり、膣内投与用の坐剤、クリーム、膣フォーム、ローション、ゲル、膣リンス、又はカテーテルを含み得る。
【0087】
代替的な実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、皮下、筋肉内、静脈内、皮内、腹腔内、胸膜内、膀胱内、及びくも膜下腔内注射を含む注入又は注射によるような非経口投与用に製剤化される。非経口投与に好適な組成物は、当技術分野において公知であり、注射又は注入用に製剤化された無菌水性組成物及び無菌非水性組成物を含み得る。このような組成物は、ユニットドーズ又はマルチドーズ容器、例えば、プレフィルドシリンジ、密封バイアル、密封アンプル、又は密封パウチ内で提供され得る。このような組成物は、すぐに使用できるものであってもよく、又は使用前に無菌液体担体、例えば水で再構成されるフリーズドライ(凍結乾燥)若しくは噴霧乾燥された組成物であってもよい。
【0088】
代替的な実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、局所投与用に製剤化される。局所投与に好適なOTC組成物及び医薬組成物の剤形は、当技術分野において公知であり、液剤、乳剤、クリーム、ローション、ゲル、及びスプレーが含まれる。例えば、本明細書に記載されるような組成物を、局所投与用のゲルとして製剤化してもよい。
【0089】
代替的な実施形態では、本明細書に記載されるような組成物は、経口吸入又は経鼻吸入によるような経肺投与又は気管支投与用に製剤化される。経肺投与に好適な組成物の剤形は、当技術分野において公知であり、散剤組成物及び微粒子製剤(例えば、粉剤又はミスト)が含まれ、これらは定量加圧エアロゾル、ネブライザー、吸入器などを介して生成され、投与され得る。
【0090】
処置
本明細書に記載されるバクテリオファージ及び組成物は、AIECのコロニー形成若しくは感染のリスクを低減するため、又はAIECのコロニー形成若しくは感染を防止するため、又はAIECのコロニー形成若しくは感染を処置するため、又は(AIECによるコロニー形成を予防若しくは低減することなどによって)対象のマイクロバイオームを調節するための予防的及び治療的処置方法に使用することができ、或いはAIECに関連する疾患若しくは症状(CD及びUCを含むIBD、結腸癌、UTI、新生児髄膜炎、呼吸器疾患及び症状(喘息、COPD、気管支炎、肺炎、及び肺癌を含む)などを処置するため、又は同様の効果のために使用することができる。
【0091】
標的となるAIECは、任意のAIECの株であってよく、典型的には、組成物中に存在するファージのうちの1つ以上によって標的化される(感染して溶解される)AIECの株である。いくつかの実施形態では、標的となるAIECは、LF82、07081、07082、07076及び06075から選択される1つ以上である。特定の実施形態では、標的となるAIECは、LF82であるか又はそれを含む。
【0092】
本明細書に記載されるバクテリオファージ及び組成物は、AIECの感染のリスクのある任意の対象又はAIECに感染した任意の対象、例えば、CD若しくはUCを含むIBD、結腸癌、UTI、新生児髄膜炎、又は呼吸器疾患若しくは症状、例えば、喘息、COPD、気管支炎、肺炎、及び肺癌を含むAIECに関連する疾患又は症状に罹患している対象を含む、それを必要とする任意の対象を処置するために予防的又は治療的に使用され得る。対象は、AIECによるコロニー形成のリスクがあるか、又はAIECにコロニー形成されている可能性がある。対象は、AIECによる感染のリスクがあるか、又はAIECに感染している可能性がある。感染した対象において、AIECは、小腸、大腸、回腸、結腸、尿路、脳、及び/又は肺の1つ以上を含むあらゆる組織に存在する可能性がある。
【0093】
対象は、UC又はCDを含むいずれかのIBD、例えば顕微鏡的大腸炎、セリアック病、及び血管炎に罹患している可能性がある。特定の実施形態では、対象は、小腸の少なくとも一部を切除する手術の後にCD患者に生じる可能性のあるような術後の回腸病変の再発を患っている。上記で述べたように、このような再発は、Rutgeertsスコアによって測定することができる。例えば、Chongthammakun,et al.Gastroenterol Rep(Oxf)5;271-76(2017)を参照されたい。
【0094】
追加的又は代替的に、対象は、結腸癌、UTI、新生児髄膜炎、並びに呼吸器疾患及び症状、例えば喘息及びCOPDなどのAIECに関連する別の疾患又は症状に罹患している可能性がある。
【0095】
本明細書に記載される予防的及び治療的処置方法のいずれかにより、本明細書に記載されるバクテリオファージ及び組成物を任意の有効な投与レジメンに従って投与することができ、この投与レジメンは、達成すべき予防的又は治療的効果(例えば、コロニー形成又は感染又は疾患の予防と処置)、使用される特定のバクテリオファージ、投与経路及び剤形、並びに患者の特徴、例えば、患者の年齢及び体重、患者の状態、並びにAIECの感染又は病状のタイプ及び重症度のうちの1つ以上に基づいて変化し得る。例証のみの目的のために、例示的な用量を下記に記載する。
【0096】
ヒト患者に対する典型的なバクテリオファージの用量は、10~1011、例えば10~1010を含む10~1012プラーク形成単位(PFU)のバクテリオファージを含有すると考えられ、1日当たり1回以上、例えば1日当たり1回、2回、3回、4回、又は5回投与され得る。用量は、単一の個々の剤形(例えば、1つの錠剤若しくはカプセル剤)又は複数の個々の剤形(例えば、2つ、3つ、4つ、若しくはそれ以上の錠剤若しくはカプセル剤)で提供してもよく、又は好適な容量のバルク剤形(例えば、1mLの液体組成物)で提供され得る。処置は、1日以上、例えば、1日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、又はそれ以上継続され得る。
【0097】
適切な投与レジメンの一例は、各々10~1010PFUのバクテリオファージを含有する1~3個のカプセル剤又は錠剤であり、1日1~3回で1~4週間経口投与される。適切な投与レジメンの別の例は、10~1010PFUのバクテリオファージを含有する1mLの液体組成物であり、1日1~3回で1~4週間経口投与される。実施例6に例示されているように、液体組成物は、摂取前に更なる液体組成物、例えば15~50mLの重炭酸塩溶液中で希釈してもよい。このような実施形態では、重炭酸塩溶液はまた、胃酸を中和するように機能し得る。
【0098】
上記で述べたように、本明細書に記載されるバクテリオファージ組成物及び方法は、胃酸を還元する薬剤と共に使用してもよい。例えば、処置を受けている対象は、プロトンポンプ阻害剤(例えば、オメプラゾール)で処置されてもよく、及び/又はバクテリオファージ組成物の用量を服用する直前に重炭酸塩(例えば、重炭酸ナトリウム)などの胃酸中和剤を摂取してもよい。
【0099】
IBDの処置に関するいくつかの実施形態では、本明細書に記載されるバクテリオファージ組成物及び方法は、便微生物移植(FMT)と共に使用される。FMTは治療的介入であり、患者の腸内マイクロバイオームを健康なドナーの結腸細菌で再コロニー化するために、便試料を健康なドナーから患者に移植するものである。FMTは、ドナーの便試料を移植するか、又はドナーの便試料から単離した微生物を移植することを含み得る。移植は、典型的には浣腸又は結腸鏡検査によって行われるが、上部胃腸管を介して行うことができる。FMTは現在、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症を処置するために主に使用されているが、CD及びUC患者を含むIBD患者の処置にも有用であり得る。
【0100】
AIECの検出方法
本明細書に記載されるバクテリオファージ(又はその溶菌酵素)はまた、対象から入手した生体試料中の標的細菌(例えば、AIEC)を検出するため、例えば、対象がAIECに感染しているかどうかを診断するため、及び/又は感染のレベルを評価するため、例えば本明細書に記載されるような処置の必要性若しくは有効性を評価するために、インビトロアッセイで使用することができる。理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載されるバクテリオファージ(又はそれらの溶菌酵素)は、特に、存在する可能性のある他の原核細胞又は真核細胞に影響を及ぼすことなく、標的とされる細菌(例えば、AIEC)を特異的に溶解し、それによって、標的となるAIECに特異的なアデノシン三リン酸(ATP)及び/又はプロテインキナーゼ(AKT)などの標的細菌の測定可能な産物の放出を特異的に誘導するものと考えられる。従って、標的細菌のATPの検出に基づいて検出アッセイを実施することができる。
【0101】
このようなアッセイの例示的な例は以下の通りである。分析すべき臨床材料の試料(例えば、便検体)を入手し、適切な緩衝液中に懸濁する。この懸濁液に1つ以上のバクテリオファージ(又はその溶菌酵素)を添加し、その結果、試料中に存在する任意の標的化された細菌細胞が溶解し、細菌細胞のATPが放出される。ATPを検出するために、ルシフェリンにルシフェラーゼ製剤を添加し、例えば照度計を使用して発光を測定する。照度計の測定値と溶解された標的となる細菌細胞の数とで検量線を作成することによって、定量的アッセイを展開することができる(一般に、細菌細胞当たりのATPの平均量は0.5~1.0fgである)。発光がない場合、分析した試料に標的となる細菌細胞が存在しないことを示している。
【0102】
ワクチン及びバクテリン
また、本明細書に記載されるバクテリオファージ(又はその溶菌酵素)を使用して調製されたワクチン及びバクテリンも提供される。例えば、本明細書に記載されるバクテリオファージ(寄託株の変異体を含む)又はその溶菌酵素を使用して、標的となる細菌(例えば、標的となるAIEC)の特定の株を溶解し、細菌の免疫学的エピトープを含む溶菌液を得ることができ、次に、これを使用して標的となるAIECに対するワクチン/バクテリンを調製することができる。最終的なワクチン/バクテリン製剤は、当技術分野において公知の方法によって調製することができる。バクテリンを得るために使用される場合、ファージを除去して最終的なワクチン/バクテリン製剤を得てもよい。或いは、ファージは、生存可能な活性状態で最終製剤中に保持されてもよい。このような実施形態では、ワクチン/バクテリン製剤中に存在するようなファージは、標的となる細菌(例えば、標的となるAIEC)に対して製剤の有効性の別の作用機序をもたらす活性を維持してもよく、例えば、これによってワクチン接種を受けた対象に存在する標的細菌(AIECを含む)が溶解され得る。例えば、最終的なワクチン/バクテリン製剤は、ファージが10~1012PFU/mlの範囲のレベルで存在するように調製され得る。例えば、最終的なワクチン/バクテリン製剤は、ファージが10~1010PFU/mlの範囲のレベルで存在するように調製され得る。
【0103】
特定の実施形態では、ワクチン/バクテリン製剤は、標的患者集団を感染から保護するのに最も関連する免疫学的エピトープを含むワクチン/バクテリン製剤を得るために、標的となる細菌が蔓延して問題となっている株に対して調製される。更に特定の実施形態では、バクテリオファージは、上記で説明したように、最終的なワクチン/バクテリン製剤中に未改変のままで保持される。
【0104】
バクテリオファージをベースとしたワクチン及びバクテリンはまた、バクテリオファージの関連遺伝子(例えば、溶解活性に関連する遺伝子)を発現する組換え構築物を使用するか、又は上記に概説されたようなプロトコルにおいてファージそれ自体の代用として使用することが可能な、単離された若しくは組換え産生された溶菌酵素を使用することによって調製されてもよい。この一般的な方法論の例は、Panthel et al.,Infect Immun.71(1):109-16(2003)に概説されている。
【0105】
これらの実施形態のいずれかに従って、AIECによる感染に罹患しているか、若しくはAIECによる感染のリスクがある対象、又はIBDを発症しているか、若しくはIBDに罹患するリスクがある対象などの、それを必要とする対象を免疫化するための、上記に記載されるようなバクテリンを含むワクチンの使用も提供される。好適なワクチン接種プロトコルは、本明細書に提供されるガイダンスに基づいて、当業者により発展させることができる。
【0106】
キット
また、本明細書に記載される様々な実施形態を実施するためのキットも提供される。
【0107】
本明細書に記載されるバクテリオファージを予防的又は治療的に使用するためのキットは、本明細書に記載されるような組成物を、本明細書に記載されるような組成物を予防的又は治療的に使用するための説明書と共に、任意選択により包装材料と共に含み得る。
【0108】
ワクチン/バクテリンを予防的又は治療的に使用するためのキットは、本明細書に記載されるようなワクチン/バクテリンを、本明細書に記載されるようなワクチン/バクテリンを予防的又は治療的に使用するための説明書と共に、任意選択により包装材料と共に含み得る。
【0109】
AIEC検出アッセイのためのキットは、本明細書に記載されるような1つ以上のバクテリオファージ(又は1つ以上のその溶菌酵素)を、本明細書に記載されるようなAIEC検出アッセイでバクテリオファージ(又は酵素)を使用するための説明書と共に、任意選択により包装材料と共に含み得る。
【実施例
【0110】
以下の実施例において本発明を更に説明するが、いかなる形であっても特許請求の範囲を限定することを意図しない。
【0111】
実施例1:AIEC株の単離
AIEC浸潤アッセイ
AIECは、Flow Laboratories Inc.(Mc Lean、VA)から市販されているヒト胎児空腸及び回腸に由来する、未分化の腸上皮細胞のモデルとして使用される腸細胞株、Intestine-407(I-407)細胞株から得られたIntestine-407細胞(I-407細胞)を使用する浸潤アッセイによって同定することができる。
【0112】
例えば、4,105細胞/ウェルの密度でI-407細胞を24ウェル組織培養プレート(Polylabo、Strasbourg、France)に播種し、20時間インキュベートする。細胞単層をPBS(pH7.2)で2回洗浄する。細菌の上皮細胞の湿潤は、ゲンタマイシン保護アッセイ(Falkow et al.Rev.Infect.Dis.9(Supp.5);S450-55(1987))を使用して測定する。上皮細胞当たり細菌10個の感染多重度で、抗生物質を含まない細胞培養培地1mL中に各単層を播種する。5%のCOにて37℃での3時間のインキュベーション期間の後、単層をPBSで3回洗浄する。100μg/mLのゲンタマイシン(Sigma、St.Louis、MO)を含む新鮮な細胞培養培地を1時間かけて添加し、細胞外細菌を死滅させてから、脱イオン水中1%のTriton X-100(Sigma)で単層を溶解する。このTriton X-100の濃度は、少なくとも30分間は細菌の生存率に影響を与えない濃度である。試料を希釈してミューラー・ヒントン寒天平板に蒔き、コロニー形成単位数を測定する。I-407細胞株で評価した大腸菌(E.coli)浸潤能の結果を、初回接種物に対する細胞内細菌の割合として表す。
【0113】
このようなプロトコルを使用して、米国付与前公開第2016/0143965号明細書(米国特許第11,040,078号明細書)に記載されているように、CD患者、その家族、及び対照となる対象の新鮮な便から、大腸菌(E.coli)株LF82を含む166株のAIEC株を単離した。これらのAIEC株を使用して、本明細書に記載されるファージの活性を、下記の実施例3で報告されているように評価した。
【0114】
実施例2:ファージの単離及び特性評価
国際公開第2014/177622号パンフレットに記載されているように、ファージP2及びP8を下水から単離した。
【0115】
ファージP2は、2012年11月15日にアクセッション番号CNCM I-4695としてブダペスト条約の条項に基づきパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託されたものであった。ファージP8は、2012年11月15日にアクセッション番号CNCM I-4700としてブダペスト条約の条項に基づきパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託されたものであった。
【0116】
ファージCLB_P2は、Maura et al. Environmental Microbiology 14(8):1844-54(2012)に記載されているように単離した。ファージCLB_P2は、JS98バクテリオファージファミリーに属しており、2012年9月27日にアクセッション番号CNCM I-4675としてブダペスト条約の条項に基づきパスツール研究所のフレンチ・ナショナル・コレクション・オブ・マイクロオーガニズムに寄託されたものであった。
【0117】
ファージECML-119、ECML-123-2、ECML-359、及びECML-363を、当技術分野において一般的に公知のプラークアッセイ方法により、汽水(ECML-119及びECML-123-2)又は汚水(ECML-359及びECML-363)から単離した。ECML-119の単離については、米国特許第7,625,556号明細書に記載されている。同様の方法で他の株を単離した。一般には、標的細菌に溶解特異性を有するバクテリオファージが存在することを示すプラークを細菌叢中に形成させるため、バクテリオファージ製剤を標的細菌(例えば、AIEC)の細菌叢と接触させてインキュベートする。バクテリオファージDNAの安定的な制限断片長プロファイル(RFLP)によって測定するように、プラークを採取し、単一のバクテリオファージ種(モノファージ)が得られるまで連続濃縮プロセスにより希釈して細菌叢に再播種する。
【0118】
ファージECML-119は、2007年4月19日にアクセッション番号PTA-8351としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたものであった。
【0119】
ファージECML-123-2は、2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121408としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたものであった。その配列は、配列番号1に記載されている。
【0120】
ファージECML-359は、SP18バクテリオファージファミリーに属しており、2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121406としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたものであった。
【0121】
ファージECML-363は、wV7バクテリオファージファミリーに属しており、2014年7月25日にアクセッション番号PTA 121407としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたものであった。
【0122】
バクテリオファージの電子顕微鏡検査
精製したファージ粒子を透過型電子顕微鏡で検査することにより、ファージの形態を調査した。高力価(約10PFU/mL)のファージ含有無細胞溶菌液(pH=7)を、フォルムバール炭素膜(200メッシュの銅グリッド)の表面に塗布した。試料を1%のリンタングステン酸でネガティブ染色し、次いで100kVで作動する株式会社日立製作所のH-7000透過型電子顕微鏡下で調査した。ファージは、それらの形態的特徴に基づいて、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV、1955)のガイドラインに従って分類した。現在の分類学では、バクテリオファージP2は、wV8バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、バクテリオファージP8は、RB69バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、バクテリオファージCLB_P2は、JS98バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、バクテリオファージECML-119は、EPS7バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のサイフォウイルス(Siphoviridae)科に属し、バクテリオファージECML-123-2及びECML-363は、wV7バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属し、バクテリオファージECML-359は、SP18バクテリオファージファミリー内のカウドウイルス(Caudovirales)目のマイオウイルス(Myoviridae)科に属する。
【0123】
各ファージは、溶菌性であり、尾部を有する二本鎖DNAファージであることが特定された。ファージの配列決定から、任意の望ましくない毒素又は抗生物質耐性をコードする遺伝子の存在は示されなかった。特に、毒素及び他の望ましくない遺伝子(例えば、40 CFR 725.421に列挙されている遺伝子)のデータベースと対照してファージ配列を分析すると、本明細書に記載される7つのファージは、それらの「望ましくない」遺伝子をいずれも含んでいないことが確認された。
【0124】
制限断片長多型(RFLP)プロファイル
本明細書に記載されるバクテリオファージの参照DNA RFLPプロファイルを図1に示す。Qiagen Plasmid Miniprep又はMidiprepキット(Valencia、CA)を使用して、製造業者の指示に従ってバクテリオファージからDNAを単離した。260nmの吸光度を測定することによってDNAを定量化した。約0.5~1.0μgのDNAを、図中に示されるような適切な制限酵素で消化し、臭化エチジウムで染色した後に、1%アガロースゲル上でRFLPプロファイルを決定した。
【0125】
実施例3:ファージ活性-インビトロスクリーニング
本明細書に記載されるバクテリオファージを、インビトロスポットテストアッセイにおいてAIECに対する活性についてスクリーニングした。
【0126】
2種類の濃度のモノファージのバクテリオファージ溶液(約2×10PFU/mL及び約1×10PFU/mL)を、1株のAIEC細菌で被覆したペトリ皿の表面に塗布することによって、スポットテストアッセイを実施した。30℃で一晩インキュベートした後、プラークの溶解領域を調査すると、試験したAIECがバクテリオファージに感受性であったことを示した。表2は、米国付与前公開第2016/0143965号明細書(米国特許第11,040,078号明細書)で同定された166株のAIEC株のうちの38株に対して、本明細書に記載される寄託された7つのファージを試験した結果を示す(実施例1を参照されたい)。下記の表において、(++)という結果は、両方の濃度でAIECがバクテリオファージに感受性であったことを示し、(+)という結果は、高い方の濃度でのみAIECがバクテリオファージに感受性であったことを示し、(-)という結果は、AIECがバクテリオファージに抵抗性であったことを示している。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
以下の表は、本明細書に記載される7つのファージの各々に標的化された(感染して溶解された)AIEC株の数を示す。
【0130】
【表3】
【0131】
それとは別に、欧州及び米国のコレクションから入手した210株のAIEC株における7つのファージの各々の溶解範囲を、2×10PFU/mL及び1×10PFU/mLの2種類の濃度で評価した。以下の表にまとめたように、210株の単離株のうち149株(71%)が、7つのモノファージの少なくとも1つに対して2×10PFU/mLで感受性であったが、95%はスポットテストアッセイでより一般的に使用される濃度である、より高いファージ濃度(1×10PFU/mL)で感受性であった。
【0132】
【表4】
【0133】
本明細書で報告される実験では、最初に、各構成成分のバクテリオファージを、2×10-4~1×10-1の範囲の感染多重度(MOI)で、対応する大腸菌(E.coli)宿主株内で37℃で別々に増殖させることによって、7つのファージカクテルを調製した。増殖させた後、各ファージを0.2ミクロンのフィルターを通して濾過することにより採取し、濃縮/0.9%の生理食塩水中で緩衝液交換した。次いで、7つのファージをほぼ等しい濃度で混ぜ合わせてファージカクテルを生成し、これを使用するまで2~8℃で保存した。
【0134】
加えて、ファージの特異性を評価するために、健康なヒトのマイクロバイオームに通常関連する以下の最も一般的な12種の属を用いた43株の非大腸菌(E.coli)単離株のパネル:バクテロイデス(Bacteroides)(11)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)(7)、クロストリジウム(Clostridium)(1)、エンテロコッカス(Enterococcus)(9)、フソバクテリウム(Fusobacterium)(1)、ラクトバチルス(Lactobacillus)(1)、パラバクテロイデス(Parabacteroides)(1)、プレボテラ(Prevotella)(2)、シュードモナス(Pseudomonas)(1)、ルミノコッカス(Ruminococcus)(5)、ストレプトコッカス(Streptococcus)(2)、及びストレプトマイセス(Streptomyces)(2)に対し、(ほぼ同量の各ファージによって調製された)7つのファージカクテルの活性を評価した。これらの非大腸菌(E.coli)株は、多様な健康な個体を比較した研究に基づく種の「コアマイクロバイオーム」を代表するものである。注目すべきことに、CD患者に一般的に処方されるシプロフロキサシンによって、試験した非大腸菌(E.coli)株の58%が標的化された。各単離株を2×10PFU/mL又は1×10PFU/mLの7つのファージカクテルに対してスクリーニングし、また、最も一般的に処方される抗生物質のうちの7つに対してスクリーニングした。パネルにおける43株の非大腸菌(E.coli)株はどれも、7つのファージカクテルによっていずれの濃度でも溶解されたが、抗生物質では、試験された単離株の16~84%を無差別に溶解した。
【0135】
まとめると、この結果は、本明細書に記載される7つのファージが、多数の異なるAIEC株に対して個々に及び合わせて有効であると同時に、大腸菌(E.coli)に特異的であり、健康なヒトのマイクロバイオームの一般的な細菌を溶解しないことを示している。従って、抗生物質の無分別な活性とは対照的に、本明細書に記載されたファージは、健康なヒトのマイクロバイオームに及ぼす影響があったとしても最小限にしながらAIECを標的化するために使用することができる。
【0136】
実施例4A:安全性-インビボ試験
本明細書に記載されるような7つのファージカクテル(ほぼ同量のファージECML-123-2、ECML-119、ECML-359、ECML-363、CLB_P2、P2、及びP8のカクテル)が、健康なBALB/cYJマウスの正常な微生物叢に及ぼす影響を評価した。特に、バクテリオファージ(2×10CFU/用量、1日2回)又はプラセボ(各群n-10)によって処置された、(i)処置前、(ii)15日間の処置期間の終了時、及び(iii)28日間の休薬期間後の健康なマウスの便にメタゲノム解析を行った。細菌群集の構造プロファイルを混乱させ、結果の解釈を複雑にする可能性のある任意の抗菌圧又は硫酸デキストラン酸(DSS)に晒すことなく、実験を実施した。
【0137】
この結果により、日常的な変動を除いては、ファージで処置されたマウスの腸内細菌叢の動的構成はプラセボ群のものと有意差がないことが示され、ファージの標的特異性が明確となった。注目すべきことに、健康な未処置マウスにバクテリオファージを投与しても、プラセボ群と比較して、処置群に任意の臨床的変化(即ち、体重減少又は下痢)が生じなかった。これらの結果は、これらの溶菌性ファージの安全性を確実にするものであり、バクテリオファージを長期投与しても、健康な個体の全体的な便微生物叢の構造に影響を与えないことを示している。
【0138】
実施例4B:ファージ活性-インビボ試験
本明細書に記載されるようなバクテリオファージカクテル(ほぼ同量のファージECML-123-2、ECML-119、ECML-359、ECML-363、CLB_P2、P2、及びP8のカクテル)のAIECを標的化する能力を、以下のようなインビボ動物モデルで評価した。
【0139】
AIEC株LF82を、それぞれストレプトマイシン及びカナマイシンに対する耐性を付与する2つの抗生物質耐性遺伝子を保有するように改変した。この細菌株をLF82SKと命名し、その湿潤特性が株LF82と類似していることを確認した。
【0140】
28匹のBALB/cYJマウスを以下のような3つの群に分けた:
第1群:LF82SKコロニーマウス(10匹のマウス)
第2群:LF82SKコロニーマウス+ファージカクテル(単回投与)(12匹のマウス)
第3群:LF82SKコロニーマウス+ファージカクテル(15日間で1日2回)(6匹のマウス)
【0141】
0日目の3日前から3日目までに、全てのマウスの飲料水に硫酸ストレプトマイシン(5g/L)を導入した。0日目、腸内でLF82SKをコロニー形成させるため、マウスにLF82SKをPBS中で強制経口により投与した。デキストラン硫酸(DSS)2%及びストレプトマイシン(0.5mg/mL)を0日目に飲料水に導入し、それぞれ10日間及び22日間飼育した。
【0142】
8日目、(1)0.9%の生理食塩水を強制経口により第1群の各マウスに1回投与し、(2)ファージカクテル(2×10PFU/mLの各ファージ)を0.9%の生理食塩水中で強制経口により第2群の各マウスに1回投与し、(3)ファージカクテル(2.86×10PFU/mLの各ファージ)を0.9%生理食塩水中で強制経口により第3群の各マウスに投与した。第3群のみ、この投与を1日2回(b.i.d.)15日間(22日目まで)継続した。体重及び疾患活動性指数(DAI)を毎日観察した。24日目に、第1群、第2群、及び第3群のマウスを屠殺して回腸、結腸、及び末梢臓器の細菌数を評価し、結腸の重量及び長さを測定し、組織学的評価を行った。結腸を外科的に取り出し、長さ及び重量の測定を行った。4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン内に包埋し、4μmの薄片に切断し、メイ・グリュンワルド・ギムザ染色した試料の組織学的評価を、大腸炎の重症度について格付けした。下記に結果を報告するが、報告値は、マウス群毎に得られた平均値±標準偏差を表す。
【0143】
便及び臓器中のLF82SKの検出
LF82SKのコロニー形成及びファージの存在の両方を、便試料によって観察した。以下の表に示すように、処置前の細菌量は3つの群の間で類似しており、便の約9 log CFU/gに達していた。ファージによる処置の間、便中のLF82SKの存在量は2つの処置群で減少し、第1群と比較して第2群(P=0.014)及び第3群(P=0.005)でそれぞれ1.46 log CFU/g及び1.76 log CFU/gの有意な減少を示した。24日目、LF82SKの自然排泄量は全ての群で同等であり、有意差はなかった。
【0144】
【表5】
【0145】
ファージを定量化すると、第1群(4.76±1.04 log PFU/g)と比較して、8日目の第3群では便中により高い放出が確認された(6.51±1.37 log PFU/g)。しかしながら、定期的な採取によるファージの存在量の評価には一貫性がなく、検出限界のために群間で区別することができなかった。この結果から、いかなるマウスの困難な臨床症状も末梢臓器への転移もなく、含有されたファージが腸を通過することが示され、このことは、本明細書に記載されたバクテリオファージ及びカクテルの安全な使用を更に裏付けるものであった。
【0146】
LF82SKの負荷量を、剖検時(24日目)にマウスの消化管の異なる部分で定量化し、回腸末端又は結腸中央の管腔試料及び粘膜試料の両方を調査すると、以下の表で報告されるように、処置(ファージ又はプラセボ)に関わらず、便中のLF82SKの数又は管腔及び付着細菌叢における差異は、この時点ではどのセグメントでも認められなかった。
【0147】
【表6】
【0148】
24日目に、(1)第1群の生存マウス5匹のうち2匹の腎臓、腸間膜リンパ節(MLN)、脾臓、及び心臓にLF82SK(AIEC株)が検出され、(2)第2群の生存マウス5匹のうち1匹のMLNのみにLF82SKが検出され、(3)第3群の生存マウス6匹のいずれかのMLN、血液、脾臓、肝臓、腎臓、又は心臓にはLF82SKが検出されなかった。
【0149】
マウスの生存率及び体重増加
24日目、第1群では5/10匹のマウスが死亡し、第2群では7/12匹のマウスが死亡し、第3群では0/6匹のマウスが死亡した。従って、第1群及び第2群は死亡率に明確な区別はなかったが、第3群のファージによる処置では、対照の第1群と比較して明確な効果があったことが示された(第1群における死亡率が50%であるのに対し、第3群における死亡率はゼロ)。
【0150】
12日目、第1群及び第2群のマウスの体重が減少し始めた。15日目、第1群及び第2群の体重減少が最大に達した。21日目に、第1群のマウスが初期体重まで回復した。第3群のマウスは、0日目から24日目まで体重を維持したか又は増加した。24日目に、第1群のマウスは初期体重の約97%(予想外というわけではないが、生存動物が回復したことを示している)、第2群のマウスは初期体重の約108%であり、第3群のマウスは初期体重の約115%であった。
【0151】
結腸炎症
7日目に、第1群のマウスのDAIが増加し始め、16日目に最大4.25(±0.94)まで増加した。12日目に、第2群のマウスのDAIが増加し始め、15日目に最大の3.45(+/-1.97)まで増加した。第3群のマウスのDAIは、0.7+/-0.5を決して超えることはなかった。第3群のマウスのDAIは、14日目から17日目の間に便の硬さがわずかに軟らかくなったことに主に起因するものであったが、第1群及び第2群のマウスは、体重減少、下痢、及び若干の出血を示した。
【0152】
第2群及び第3群のマウスは、DAIで測定した場合、第1群のマウスと比較して結腸炎症が減少したことを示した。DAIは、ファージ投与のレベルが増加するにつれて減少した。
【0153】
24日目、第1群、第2群、及び第3群のマウスの結腸の重量/サイズの比は、それぞれ41.4±3.7、31.8±2.8、及び19.2±1.1であった。第2群及び第3群のマウスは、結腸のサイズ及び重量で測定した場合、第1群のマウスと比較して結腸炎症が減少したことを示した。結腸の重量:サイズの比は、ファージ投与のレベルが増加するにつれて減少した。
【0154】
24日目、第1群、第2群、及び第3群のマウスの炎症の組織学的スコアは、それぞれ8.2±2.2、6.4±1.8、及び2.7±0.3であった。第2群及び第3群のマウスは、組織構造で測定した場合、第1群のマウスと比較して結腸炎症が減少したことを示した。炎症の組織学的スコアは、ファージ投与のレベルが増加するにつれて減少した。
【0155】
この実施例は、インビボにおけるAIECの感染に対して、本明細書に記載されるようなファージカクテルが有効であることを立証するものである。
【0156】
実施例5:ファージ製剤の生成
本明細書に記載されるAIECバクテリオファージは、本明細書に例示されるように同定して増殖させることができる。
【0157】
同定のために、標的細菌(例えば、AIEC)の栄養ブロス培養物と推定上のバクテリオファージ製剤とを混合し、次いで、例えば栄養ブロス中に溶解させた寒天に添加し、その混合物を寒天で固化した栄養ブロスを含むペトリ皿に注ぎ入れ、37℃で一晩インキュベートする。一晩インキュベートする間に、AIECが寒天中で増殖し、バクテリオファージに感染した一部のAIEC細胞によってコンフルエントな菌叢が形成される。ファージが複製され、最初に感染細胞を溶解し、続いてその付近の細菌に感染して溶解する。寒天はファージがプレート全体に広がるのを物理的に制限し、その結果、増殖したAIECのコンフルエントな菌叢内でバクテリオファージがAIECを崩壊させている、プラークと呼ばれる小さな視覚的に透明な領域が、プレート上に生じる。異なる形態の1つのプラークは、細菌叢のその領域のAIEC内で複製された1つのファージを示す。従って、そのプラーク内の物質をピペットにより取り出し(「プラークピック」と称する)、この物質をそのファージの更なる増殖サイクルのために接種物として使用することにより、純粋なバクテリオファージ製剤を得ることができる。この手法の後に、安定的なDNA RFLPプロファイルによって測定することができるように、プラークを採取し、単一のバクテリオファージ種(モノファージ)が得られるまで連続濃縮プロセスにより希釈して細菌叢に再播種する。
【0158】
増殖のために、バクテリオファージが増殖可能な標的細菌(例えば、AIEC)又は他の近縁関係にある細菌種の株を、適切な増殖培地(例えば、BHIブロス)を使用して回分培養で培養し、所定の感染多重度(MOI)のバクテリオファージを接種する。インキュベートして細菌を溶解した後に、バクテリオファージを採取して精製及び/又は濃縮すると、本明細書に記載される用途に好適なファージの後代が得られる。
【0159】
好適な精製及び濃縮手順としては、濾過、遠心分離(連続流遠心分離を含む)、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、並びに他の公知のバクテリオファージ精製及び濃縮技術のうちの1つ以上が挙げられる。例えば、Adams MH.Bacteriophages.443-519(Interscience Publishers,Ltd,London)(1959)を参照されたい。ファージ製剤の純度は、電子顕微鏡、SDS-PAGE、DNA制限消化、及び分析用超遠心のうちの1つ以上によって評価することができる。
【0160】
製剤のバクテリオファージ濃度は、ファージ滴定プロトコルを使用して調整することができる。例えば、製剤のバクテリオファージ濃度を測定する。より濃縮されたファージ製剤が所望される場合は、濾過、遠心分離、又は他の手段のうちの1つ以上によって濃度を上昇させる。より濃度の低いファージ製剤が所望される場合は、水又は他の薬学的に許容される希釈剤(薬学的に許容される緩衝液など)で希釈することにより濃度を低下させる。典型的な医薬品組成物又はOTC組成物は、10~1012PFU/mLのファージ力価、例えば10~1011PFU/mLのファージ力価を含む。
【0161】
バクテリオファージ製剤は、2~8℃で保存してもよい。或いは、ファージ製剤は、保存のために凍結乾燥若しくは噴霧乾燥することができるか、又は、タンパク質、脂質、及び多糖類のうちの1つ以上を用いるような当技術分野において公知の手法によってカプセル化して安定化させることができる。再構成時に、ファージ滴定プロトコル、宿主細菌アッセイ、又は他の広く知られているバクテリオファージアッセイ技術を使用してファージ力価を確認することができる。例えば、Adams(前掲)を参照されたい。
【0162】
実施例6:第I/IIa相臨床試験
本明細書に記載されるようなバクテリオファージカクテル(ファージECML-123-2、ECML-119、ECML-359、ECML-363、CLB_P2、P2、及びP8のカクテル)の安全性及び忍容性、並びに非活動性CDを有する対象の便のAIECレベルに及ぼす影響を評価するために、第I/IIa相二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験が進行中である。
【0163】
適格となる対象は、≧18歳の男性又は女性であり、Harvey-Bradshaw指数(HBI)が<4であり、便にAEICが検出された、臨床的及び客観的な寛解期の非活動性のクローン病を有する対象である。UC、結腸直腸腫瘍、消化管出血、活動性の悪性腫瘍、又は直近で悪性疾患を有する対象は除外される。
【0164】
対象をファージによる処置か、又はプラセボに無作為化した。ファージカクテルを15日間で1日2回、少なくとも食事の1時間前に経口投与する。カクテルの各用量には、1mLの0.9%塩化ナトリウム溶液中に約1×1010PFUのファージが含有される。(プラセボは1mLの0.9%塩化ナトリウム溶液である)。投与直前に、摂取のためこの用量を30mLの重炭酸水と混合する。
【0165】
治療を開始する1週間前に、対象は、胃酸を還元するため、対象の毎日の最初の食事の30分前に1日20mgの用量のプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール)の服用を開始する。プロトンポンプ阻害剤による処置は、治療期間全体を通して継続する。加えて、各用量を摂取する数分前に、対象は胃酸を中和するために120mLの重炭酸水を摂取する。
【0166】
研究の主要評価項目は、治療下で発現した有害事象及び重篤な有害事象の発生率及び重篤度である。副次的評価項目には、全てのAIEC及びファージに感受性のあるAIECを含む、便中に存在するAIECのレベルが含まれる。
図1
【配列表】
2024515351000001.app
【国際調査報告】