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特表2024-515363鋼ストリップ又はシート、及びそれらを製造する方法
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  • 特表-鋼ストリップ又はシート、及びそれらを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-09
(54)【発明の名称】鋼ストリップ又はシート、及びそれらを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240402BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240402BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/58
C21D9/46 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564622
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2022060599
(87)【国際公開番号】W WO2022223719
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21169708.1
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ヨブ、アントニウス、ファン、デル、フーフェン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリク、バルト、ファン、フェルトハイゼン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB01
4K037EB02
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC04
4K037FD04
4K037FE03
4K037FE05
4K037FG00
4K037FH01
4K037FM02
4K037GA05
4K037HA01
4K037JA06
4K037JA07
(57)【要約】
本発明は、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシート、並びにそれらの鋼ストリップ又はシートを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学組成:
C:0.0022~0.0042重量%;
Al_sol:0.027~0.066重量%;
Nb:0.004~0.028重量%;
B:0.0004~0.0017重量%;
Ti:0.004~0.014重量%;
N:0.0004~0.0033重量%;
S:0.022重量%以下;
Cr:0.045重量%以下;
V:0.005重量%以下;
Cu:0.045重量%以下;
Ni:0.045重量%以下;
Mo:0.011重量%以下;
Mn、P及びSi:1.445重量%≦Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%)≦1.925重量%;
Si:少なくとも0.148重量%及び/又は最大で0.248重量%;
Ca:0~0.0100重量%;
Fe及び不可避的不純物:残部
を有する、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートであって、
降伏強度(Rp)//RDが、270~330MPaであり、
引張強度(Rm)//RDが、360~460であり、
全ひずみ(A80)//RDが、少なくとも28%であり、
n0値が、少なくとも0.13であり、
r0値が、少なくとも1.10であり、
焼付硬化指数(BH2)が、少なくとも30MPaであり、
Rp、Rm、A80、n0及びr0が、VDA239-100:2016に準拠して決定され、
BH2が、EN10325:2002に準拠して決定され、
//RDが、圧延方向に対して平行である長手方向で、引張試験片に対して測定された特性であることを意味する、前記鋼ストリップ又はシート。
【請求項2】
粗さ値(Ra)が0.80~1.50μmであり、SEP1941及びSEP1942に記載された5%変形後のうねりWsa(1-5)が、最大で0.37μmである、請求項1に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項3】
Pの量が、少なくとも0.054重量%及び/又は最大で0.099重量%である、請求項1又は2に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項4】
Mnの量が、少なくとも0.610重量%及び/又は最大で0.880重量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項5】
Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%)が、最大で1.825重量%及び/又は少なくとも1.525重量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項6】
亜鉛めっき層が金属コーティング層、例えば、亜鉛コーティング層又は亜鉛合金コーティング層である、あるいは、亜鉛めっき層が金属コーティング層、例えば、少なくとも99重量%のAlを含む工業用純アルミニウム層又はアルミニウム合金層である、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項7】
亜鉛合金コーティング層が、0.3~4.0重量%のMgと、0.3~6.0重量%のAlと、場合により最大で0.2重量%の1種又は2種以上の追加元素とを含み、残部が、不可避的不純物及び亜鉛である、請求項6に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項8】
前記鋼ストリップ又はシートの厚みが、0.50~1.20mmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼ストリップ又はシート。
【請求項9】
化学組成(重量%)を有する、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートを製造する方法であって、
前記方法が、以下の工程:
溶融鋼を作製し、以下の化学組成:
C:0.0022~0.0042重量%;
Al_sol:0.027~0.066重量%;
Nb:0.004~0.028重量%;
B:0.0004~0.0017重量%;
Ti:0.004~0.014重量%;
N:0.0004~0.0033重量%;
S:0.022重量%以下;
Cr:0.045重量%以下;
V:0.005重量%以下;
Cu:0.045重量%以下;
Ni:0.045重量%以下;
Mo:0.011重量%以下;
Mn、P及びSi:1.445重量%≦Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%)≦1.925重量%;
Si:少なくとも0.148重量%及び/又は最大で0.248重量%;
Ca:0~0.0100重量%;
Fe及び不可避的不純物:残部
を有するスラブ又はストリップを連続鋳造する工程;
スラブを少なくとも1050℃の温度に加熱又は再加熱し、スラブを熱間圧延して最大で5.0mmの厚みを有する熱間圧延ストリップを作製し、熱間圧延ストリップを、少なくとも40℃/秒の冷却速度で、650℃以上の巻き取り温度にまで冷却する工程、ここで、熱間圧延の仕上げ圧延温度はAr3より高い;
熱間圧延ストリップを、酸洗処理によって後処理する工程;
後処理された熱間圧延ストリップを、65~90%の冷間圧延圧下率で冷間圧延する工程;
冷間圧延ストリップを連続アニーリングして、冷間圧延ストリップのミクロ組織を再結晶したミクロ組織へと変態させ、次いで、亜鉛めっきステップにおいて、アニーリングされたストリップに金属コーティングを形成させる工程;
亜鉛めっき鋼ストリップを、少なくとも0.2%の調質圧延圧下率で調質圧延する工程;
場合により、調質圧延ストリップを後処理する工程
を含み、
以下の特性すべてを//RDで測定した場合に、
降伏強度(Rp)が、270~330MPaであり、
引張強度(Rm)が、360~460であり、
全ひずみ(A80)が、少なくとも28%であり、
n0値が、少なくとも0.13であり、
r0値が、少なくとも1.10であり、
焼付硬化指数(BH2)が、少なくとも30MPaである、前記方法。
【請求項10】
亜鉛めっきステップが、溶融亜鉛めっきステップである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
P、Mn及びSiのうちの1、2又はすべてを、以下の量:
P:少なくとも0.054重量%及び/又は最大で0.099重量%;
Mn:少なくとも0.610重量%及び/又は最大で0.880重量%;
Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%):最大で1.825重量%及び/又は少なくとも1.525重量%
で含む、請求項9又は10に記載の方法により製造された鋼ストリップ又はシート。
【請求項12】
以下のプロセス条件:
スラブを、少なくとも1100℃又は少なくとも1150℃の温度に加熱又は再加熱する;
仕上げ圧延温度は900~945℃である;
巻き取り温度は710℃以上及び/又は750℃以下である;
冷間圧延圧下率は、少なくとも75%及び/又は最大で83%である;
溶融亜鉛めっき鋼ストリップを、0.2~2.5%、より好ましくは1.25~2.10%で調質圧延する
のうちの1、2以上又はすべてを満たす、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ストリップの中央部分の巻き取り温度が、710℃以上及び/又は750℃以下であり、
ストリップの前端部及び後端部が、より高い温度で巻き取られる、好ましくは、ストリップの前端部及び後端部が、ストリップの中央部分の巻き取り温度よりも、少なくとも10℃及び最大で50℃高い温度で巻き取られる、より好ましくは、ストリップの前端部及び後端部が、ストリップの中央部分の巻き取り温度よりも、少なくとも20℃及び/又は最大で40℃高い温度で巻き取られる、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
亜鉛めっき層が金属コーティング層、例えば、亜鉛コーティング層又は亜鉛合金コーティング層である、あるいは、亜鉛めっき層が金属コーティング層、例えば、少なくとも99重量%のAlを含む工業用純アルミニウム層又はアルミニウム合金層である、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
亜鉛合金コーティング層が、0.3~4.0重量%のMgと、0.3~6.0重量%のAlと、場合により最大で0.2重量%の1種又は2種以上の追加元素とを含み、残部が、不可避的不純物及び亜鉛である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
自動車用途の部品、例えば、車体部品、特に車体の外装部品を製造するための、請求項9~15のいずれか一項に記載の方法によって製造された鋼ストリップ又はシートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシート、並びにそれらの鋼ストリップ又はシートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの用途、特に輸送用途において、鋼重量の軽量化に対する要求はますます高まっており、鉄鋼業界は、鋼の機械的特性を向上させるための解決策を提供する必要に迫られている。
【0003】
鉄鋼業界が自由に使用可能である様々な強化手段として、特に制限されるものではないが、例えば、アニーリング後の調質圧延圧下率の増加、化学組成の変更、加工条件、例えば、ストリップ若しくはシートに対して課される冷間圧延圧下率、又は冷間圧延鋼ストリップ若しくはシートのアニーリング条件の変更が挙げられる。
【0004】
様々な手段は、相互に影響し、いくつかの特性を向上させつつ、別の特性に悪影響を及ぼし得る。例えば、調質圧延圧下率が増加すると、降伏強度は向上するが、均一伸びの値は低下する。
【0005】
したがって、いかなる改良も、特定の用途に最も重要な特性を向上させると同時に、重要性が低い特性を可能な限り犠牲にしないように、慎重にバランスを取る必要がある。
【0006】
関連する特性を低下させることなく強度を高めるための可能な方法は、化学的性質(the chemistry)を変化させることである。文献(例えば、S. Hoile in “Materials Science and Technology October 2000 Vol. 16, 1079)によると、一般に焼付硬化性の鋼種に使用される超低炭素鋼の強度は、合金の化学組成に依存することが知られている。化学的性質の改変は、機械的特性間だけでなく処理パラメータ間についても、慎重にバランスを取る必要がある。
【0007】
特開平06-322441号公報には、0.003~0.010%のCを有する組成を有する鋼に基づく、成形性及び焼付硬化性を有する高強度冷間圧延鋼プレートを製造する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、少なくとも270MPa//RDの降伏強度を示す、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートを提供することである。
【0009】
本発明の目的はまた、少なくとも360MPa//RDの引張強度を示す、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートを提供することである。
【0010】
本発明の目的はまた、ゲージ長80mmにおける少なくとも28%//RDの伸びを示す、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートを提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、少なくとも30MPa//RDの焼付硬化ポテンシャル(bake-hardening potential)(BH2)を有する、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっき又は電気亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的の1又は2以上は、以下の化学組成(重量%):
C:0.0022~0.0042;
Al_sol:0.027~0.066;
Nb:0.004~0.028;
B:0.0004~0.0017;
Ti:0.004~0.014;
N:0.0004~0.0033;
S:0.022以下;
Cr:0.045以下;
V:0.005以下;
Cu:0.045以下;
Ni:0.045以下;
Mo:0.011以下;
Ca:0~0.0100;
Mn、P及びSi:1.445≦Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%)≦1.925
Si:少なくとも0.148重量%及び/又は最大で0.248重量%;
Fe及び不可避的不純物:残部
を有する、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートであって、
降伏強度(Rp)//RDが、270~330MPaであり、
引張強度(Rm)//RDが、360~460であり、
全ひずみ(A80)//RDが、少なくとも28%であり、
n0値が、少なくとも0.13であり、
r0値が、少なくとも1.10であり、
焼付硬化指数(bake-hardening index)(BH2)が、少なくとも30MPaである、前記鋼ストリップ又はシートによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、概略的な製造プロセスを示す図である。
図2図2は、Σ(Mn+Si+10×P)(重量%)に対するRpの値(MPa)を示す図である。
図3図3は、U型のランアウトテーブル冷却を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
すべての化学組成は、特に断りのない限り、重量%で表示される。鋼は、好ましくは、塩基性酸素製鋼(BOS)プロセスで製造された溶融鋼を元に製造され、好ましくは真空脱ガス技術も使用される。BOSプロセスは、不純物の度合いが低い鋼を製造することができるため、その他の一般的に使用される製鋼プロセスである電気アーク炉(EAF)プロセスよりも好ましい。EAFプロセスはスクラップ溶融鋼を元にしているのに対し、BOSプロセスは未使用の銑鉄から出発し、ごく少量の厳選されたスクラップのみが、冷却材として、銑鉄から溶融鋼への精錬工程において添加され、連続鋳造プロセスにおいて厚スラブ(t:150~350mm)若しくは薄スラブ(t:50~150mm)に、又は、ストリップ鋳造プロセスにおいてストリップ(t<20mm)に鋳造される。鋳造されたスラブ又はストリップは、熱間圧延プロセスの材料であり、熱間圧延プロセスで得られた熱間圧延ストリップは、次に続く本発明の冷間圧延プロセスの材料である。
【0015】
本発明者らは、Mn、Si及びPについて、以下の基準:1.445重量%≦(Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%))≦1.925重量%を満たすことが重要であることを見出した。高いMnレベルは、Cレベルの制御不良につながり、それにより、焼付硬化反応性を含む機械的特性の大きなばらつきにつながる。高いSiレベルは、望まない酸化物の生成につながり、ひいては、コーティング接着性の問題につながる。高いPレベルは、膨張による鋳造の問題を生じる可能性があり、圧延シリンダーの高い圧延荷重及び激しい摩耗にもつながり得る。高いPはまた、溶接の問題につながり得る。それらの値が低すぎると、強度要求が満たされなくなる。好ましくは、(Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%))は最大で1.825重量%及び/又は少なくとも1.525重量%である。
【0016】
発明者らは、元素Mn、Si及びP間の慎重なバランスに、慎重にバランスが保たれたプロセスを組み合わせて使用することで、270MPa//RDの最小降伏強度、360MPa//RDの最小引張強度、少なくとも28%//RDの最小伸びA80、少なくとも30MPa//RDの最低焼付硬化反応性 BH2(EN10325:2002に準拠)を有するチタン安定化極低炭素鋼を製造することが可能であることを見出した。冷間圧延における比較的高い圧延荷重にもかかわらず、圧延コイルの幅を2000mmにまですることが可能である。
【0017】
特許請求の範囲に記載のRp、Rm、A80、n0、r0は、VDA239-100:2016に準拠して決定され、BH2は、EN10325:2002に準拠して決定される。表記//RDは、圧延方向に対して平行である長手方向で、引張試験片に対して測定された特性であることを意味する。n及びrの後ろの0は、同様の事柄(0は圧延方向に対して0°の角度であること)を示す。誤解を避けるために記載すると、A80は全ひずみであり、80mmのゲージ長において測定されることに留意されたい。BH2は、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっきされた材料を170℃で20分の塗装焼付サイクルで加熱した後のRpの増加量を、EN10325:2006に準拠して測定することにより、決定された。引張試験は、EN10002-1:2001に準拠して実施された。
【0018】
一実施形態において、A80//RDは、少なくとも30%であり、好ましくは、少なくとも32%である。一実施形態において、n0は、少なくとも0.15であり、好ましくは、少なくとも0.16である。一実施形態において、r0値は、少なくとも1.20であり、好ましくは、少なくとも1.30である。r0及びn0の両パラメータが高い値を示す場合に、良好な成形性が示される。
【0019】
一実施形態において、BH2//RDは、少なくとも40MPaであり、好ましくは、少なくとも45MPaである。好ましくは、Rp//RDは、少なくとも280MPaであり、より好ましくは、少なくとも290MPaである。
【0020】
本発明の鋼において、チタン(Ti)は主に、すべてのNがTiNとして析出することを確実にするために添加される。遊離のNは、機械的特性に悪影響を及ぼす。あらゆる過剰なTiは、TiC又はTiとして析出し得る。
【0021】
本発明の鋼において、ニオブ(Nb)は、大部分のCがNbCとして析出するように添加される。しかしながら、固溶体中の少量のCは、要求されるBH反応性(BH response)を得るために不可欠である。
【0022】
本発明の鋼において、アルミニウム(Al)は、脱酸剤として使用される。しかしながら、すべてのNがTiNとして析出し切らない場合には、Alはまた、合金元素として、深絞り成形性を改善するために、窒化アルミニウムの生成を促進するために添加される。その結果、Alは鋼において、酸化アルミニウム(脱酸からの残余物)、金属Al及びAlNとして存在し得る。Al及びAlNはともに、酸に溶解可能であり、それゆえ、Al_solとして総称される。したがって、鋼の総アルミニウム含有量は、Al_tot=Al_ox+Al_solとして示される。
【0023】
本発明の一実施形態において、P含有量は、少なくとも0.054重量%であり、好ましくは、少なくとも0.065重量%である。P含有量は、好ましくは、最大で0.099重量%であり、より好ましくは、最大で0.085重量%である。したがって、好ましい範囲は、0.065~0.085重量%である。
【0024】
一実施形態において、Mn含有量は、少なくとも0.610重量%であり、好ましくは、少なくとも0.660重量%である。Mn含有量は、好ましくは、0.880重量%以下であり、より好ましくは、0.800重量%以下である。
【0025】
本発明の鋼において、Si含有量は、少なくとも0.148重量%である。一実施形態において、Si含有量は、少なくとも0.165重量%である。本発明の鋼において、Si含有量は、最大で0.248重量%である。一実施形態において、Si含有量は、最大で0.225重量%である。
【0026】
本発明の一実施形態において、S含有量は、少なくとも0.010重量%であり、より好ましくは、最大で0.005重量%である。
【0027】
好ましい実施形態において、5%変形後の最大うねりWsa(1-5)(SEP1941及びSEP1942に準拠)は、0.37μmである。この値は、再現可能かつロバストな方法によって得られる。Wsa(1-5)の値は、かなりの程度まで、冷間圧延ミルの最後の冷間圧延スタンドにおけるワークロール(work roll)の粗さに依存する。
【0028】
一実施形態において、鋼ストリップ又はシートの粗さ値(Ra)は、0.80~1.50μmであり、5%変形後のうねり値(Wsa(1-5))は最大で0.37μmである。
【0029】
好ましくは、5%変形後のうねり値Wsa(1-5)は、最大で0.35μmであり、より好ましくは、最大で0.34μmであり、かつ/あるいは、Raは最大で1.45μmである。
【0030】
本発明のさらなる実施形態において、本発明の鋼ストリップ又はシートには、冷間圧延及びアニーリングの後に、金属コーティング層、例えば、少量のAlを含み得る亜鉛層が設けられ、ここで、Alは、約45%のAl、約35%のFe及び約20~35%のZn(FeAl5-xZn)から構成される、非常に薄い三元合金層の形成を可能にし、基材への亜鉛層の適切な接着性を確保する。この理由により、0.10~1.0重量%のAlが亜鉛浴に添加され得る。金属コーティング層は、0.3~4.0重量%のMgと、0.3~6.0重量%のAlと、場合により最大で0.2重量%の1種又は2種以上の追加元素と、不可避的不純物とを含み、残部は亜鉛である。好ましくは、亜鉛合金コーティング層における合金元素は、1.0~2.0重量%のマグネシウムと、1.0~3.0重量%のアルミニウムと、場合により最大で0.2重量%の1種又は2種以上の追加元素と、不可避的不純物とを含み、残部は亜鉛である。より一層好ましい一実施形態において、亜鉛合金コーティング層は、最大で1.0~2.0重量%のMgと、1.5~2.5重量%のAlと、場合により最大で0.2重量%の1種又は2種以上の追加元素と、不可避的不純物とを含み、残部は亜鉛である。
【0031】
本発明はまた、本発明の鋼ストリップ又はシートを提供する方法によっても具現化され、ここで、ストリップは、本発明に従って、連続的にアニーリングされ、次いで、電気亜鉛めっきされる。
【0032】
別の態様において、鋼ストリップ又はシートには、金属コーティング層、例えば、(工業的に純粋な)アルミニウム層又はアルミニウム合金層が設けられる。工業用純アルミニウムは、少なくとも99重量%のAlを含む(AA 1XXXシリーズ)。アルミニウム合金層に関する溶融めっきのための典型的な金属浴は、ケイ素で合金化されたアルミニウムを含み、例えば、8~11重量%のケイ素と、最大で4重量%の鉄と、場合により最大で0.2重量%の1種又は2種以上の追加元素(例えば、カルシウム)と、不可避的不純物とを含み、残部がアルミニウムである、合金化されたアルミニウムを含む。ケイ素は、接着性及び成形性を低下させる厚い鉄-金属間化合物層の形成を防止するために存在する。鉄は、好ましくは1~4重量%、より好ましくは、少なくとも2重量%の量で存在する。
【0033】
冷間圧延ストリップ又はシートの厚みは、特に限定されないが、冷間圧延ストリップ又はシートの厚みが0.50~1.20mmであることが、より好ましい。
【0034】
一実施形態において、本発明の冷間圧延鋼ストリップ及びシートにおけるフェライト粒の粒サイズは、9~13ASTMであり、好ましくは9.5~12ASTMであり、より好ましくは少なくとも10ASTMである。
【0035】
好ましくは、Cr、V、Cu、Ni及び/又はMoのうちの1、2以上又はすべてが、本発明の鋼における不可避的不純物としてのみ存在し、より好ましくは、Cr、V、Cu、Ni及び/又はMoのうちの1、2以上又はすべてが、完全に存在しない。
【0036】
第二の態様によれば、本発明はまた、化学組成(重量%)を有する、冷間圧延され、アニーリングされ、かつ、溶融亜鉛めっきされた焼付硬化性鋼ストリップ又はシートを製造する方法であって、
前記方法が、以下の工程:
溶融鋼を作製し、以下の化学組成:
C:0.0022~0.0042重量%;
Al_sol:0.027~0.066重量%;
Nb:0.004~0.028重量%;
B:0.0004~0.0017重量%;
Ti:0.004~0.014重量%;
N:0.0004~0.0033重量%;
S:0.022重量%以下;
Cr:0.045重量%以下;
V:0.005重量%以下;
Cu:0.045重量%以下;
Ni:0.045重量%以下;
Mo:0.011重量%以下;
Mn、P及びSi:1.445重量%≦Mn(重量%)+10×P(重量%)+Si(重量%)≦1.925重量%;
Si:少なくとも0.148重量%及び/又は最大で0.248重量%;
Ca:0~0.0100重量%;
Fe及び不可避不純物:残部
を有するスラブ又はストリップを連続鋳造する工程;
スラブを少なくとも1050℃の温度に加熱又は再加熱し、スラブを熱間圧延して最大で5.0mmの厚みを有する熱間圧延ストリップを作製し、熱間圧延ストリップを、少なくとも40℃/秒の冷却速度で、650℃以上の巻き取り温度にまで冷却する工程、ここで、熱間圧延の仕上げ圧延温度はAr3より高い;
熱間圧延ストリップを、酸洗処理によって後処理する工程;
後処理された熱間圧延ストリップを、65~90%の冷間圧延圧下率で冷間圧延する工程;
冷間圧延ストリップを連続アニーリングして、冷間圧延ストリップのミクロ組織を再結晶したミクロ組織へと変態させ、次いで、溶融亜鉛めっきステップにおいて、アニーリングされたストリップに金属コーティングを形成させる工程;
溶融亜鉛めっき鋼ストリップを、少なくとも0.2%の調質圧延圧下率で調質圧延する工程;
場合により、調質圧延ストリップを後処理する(例えば、巻き取る、シートに切断する、成形する(forming))工程
を含み、
以下の特性すべてを//RDで測定した場合に、
降伏強度(Rp)が、270~330MPaであり、
引張強度(Rm)が、360~460であり、
全ひずみ(A80)が、少なくとも28%であり、
n0値が、少なくとも0.13であり、
r0値が、少なくとも1.10であり、
焼付硬化指数(BH2)が、少なくとも30MPaである方法において具現化される。
【0037】
一態様において、本発明の方法のプロセス条件は、以下のプロセス条件:
スラブを、少なくとも1100℃又は少なくとも1150℃の温度に加熱又は再加熱する;
仕上げ圧延温度は900~945℃である;
ストリップの中央部分の巻き取り温度は710℃以上及び/又は750℃以下である;
冷間圧延圧下率は、少なくとも68%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%及び/又は最大で90%である;
溶融亜鉛めっき鋼ストリップを、0.2~2.5%、好ましくは1.25~2.10%で調質圧延する
から選択される。
【0038】
これらのプロセス条件は、互いに独立して選択され得、その結果、本発明のプロセスは、これらのプロセス条件のうちの1、2以上又はすべてを具現化することに留意されたい。
【0039】
さらに、巻き取り後における前端部及び後端部の速い冷却速度を補正するために、前端部及び後端部の巻き取り温度は、ストリップの中央の巻き取り温度よりも高くなり得ることにも留意されたい。この補正は、特定の冶金反応、例えば、AlN又はNbCの析出を促進するために重要である。その場合には、前端部及び後端部がより高温で巻き取られる、いわゆるU型の冷却を使用可能である(図3参照)。後端部/前端部の影響のための補正が必要な冷却における前端部/終端部と中央部分との温度差は、当業者によって容易に決定され得るが、一般的な指標として、前端部及び後端部の巻き取り温度は、ストリップの中央に比べて、約30℃高くてもよい。前端部及び後端部は、中央部分と比較して比較的短いことに留意すべきである。中央部分と比較したときの前端部及び後端部の最適な長さ、前端部/後端部と中央との移行部の長さ、並びにストリップの全長にわたる温度差は、コイルの各点の冷却を計算する熱モデルによって容易に決定され得、例えばAlNの析出のための冶金学的モデルと組み合わせることで、最適な温度経路が得られる(Metallurgy for Hoogovens’ new CA line for tin plate, Th.M. Hoogendoorn, A.J. van den Hoogen, 1991 TMS Fall Meeting, Cincinnati(OH), October 22-24, 1991)。
【実施例
【0040】
本発明を、以下の非限定的な実施例によって、さらに説明する。
【0041】
【表1】
【0042】
合金A~Jは、本発明によるものである。合金O~Tは、本発明の特許請求の範囲の範囲外であり、化学的性質及びプロセスの影響を実証するために示される。
【0043】
すべての鋼を、塩基性酸素製鋼製造プラントで製造し、厚スラブ(~225mm)として連続鋳造した。鋼はまた、薄スラブ鋳造及び直接熱間圧延によっても製造され得、この場合には、鋳造スラブの厚みは、通常50~100mmであることに留意すべきである。このことは、最終的な発明製品の特性には影響しない。非限定の製造概略図を図1に示す。
【0044】
鋼スラブを、スラブ再加熱炉(SRF)で少なくとも1050℃の温度に再加熱し、次いで、2.8mm、3.1mm及び3.5mmの厚みに熱間圧延した。仕上げ熱間圧延温度(FRT)はAc3より高く、したがって、熱間圧延をオーステナイト状態で実施した。約910~930℃の目標FRTを使用した。ランアウトテーブル(ROT)上で熱間圧延ストリップを冷却した後、730℃の目標巻き取り温度(CT)で、ストリップを巻き取った。次いで、熱間圧延コイル(HRC)を、酸洗処理し、0.70mmの厚みに冷間圧延したことで、冷間圧延圧下率は75%、77%及び80%(HRCの厚みに応ずる)となった。次いで、冷間圧延コイル(CRC)を、連続アニーリングして十分に再結晶化し、1.4~2.0%で調質圧延した。アニーリングと調質圧延との間に、コイルを溶融亜鉛めっき処理に供し、ストリップに金属コーティング層を設け、冷間圧延された金属コーティングコイル(CRCC)を製造した。
【0045】
冷間圧延された金属コーティングコイルのミクロ組織は、粒サイズが10~10.5ASTMである十分に再結晶化されたミクロ組織を示す。その機械的特性を、表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
結果の分析により、強度は、Mn、Si及びPのレベルに確かに依存することが示された。特許請求の範囲に記載された範囲外の組成を有するコイルは、要求される最低強度である270MPaを保証しない。
【0048】
冷間圧延圧下の機能としての引張特性をさらに解析したところ、Rp02、Rm、Ag、A80及びn値は、冷間圧延圧下率に依存せず、r値のみが冷間圧延圧下率により影響を受けることが明らかになった。表2の結果は、降伏強度(Rp)、引張強度(Rm)、伸び(A80)及びr値は、調質ミルの設定による影響を受けず又はほとんど受けず、一方で、一様伸び(Ag)及びn値(ひずみ硬化指数)は、高い調質ミル圧下率において、多少低下した。高い調質ミル圧下率は、材料のさらなる加工硬化をもたらし、結果として、低い初期Ag及びn値につながる。調質ミル圧下率を1.5%から2.0%に増加させることによる降伏強度の増加は、わずか約3MPaである。
【0049】
冷間圧延された金属コーティングコイルは、標準的なヤスリ仕上げ(FF:Full Finish)として製造された。冷延ミル(#5)の最後のスタンドにおける圧延シリンダーの粗さは、約5.8μm EDTであった。粗さ及びうねりは、コイルの中央(全長に対して)において、SEP1942(2017年5月草稿)に記述されるように成形した後、SEP1941(2012年5月)に準拠して測定された。結果を、関連のあるプロセス設定とともに、表3にまとめた。
【0050】
【表3】
【0051】
図面の簡単な説明
本発明は、下記に示される非限定的な図によって、さらに説明される。
図1:概略的な製造プロセス。
図2:Σ(Mn+Si+10×P)(重量%)に対するRpの値(MPa)。
図3:U型のランアウトテーブル冷却。
【0052】
図1において、本発明の鋼の製造プロセスが概略的に示される。プロセスは、鋳造に始まり、冷間圧延された亜鉛めっきコイル(CRGC)で終了する。中間工程は、概略的に示されている。
【0053】
図2は、機械的特性の一つ(Rp、単位:MPa)を、Σ(Mn+Si+10×P)(単位:重量%)に応じた関係性で示し、本発明による鋼及びプロセスがもたらす改善を示している。鉛直の破線は1.445重量%及び1.925重量%の値を示し、水平の破線はRp=270MPaを示している。
【0054】
図3は、U型冷却の概略図、並びにストリップの前端部分、中央部分及び後端部分を明記している。前端部分は最初に熱間圧延されるため、コイルの「目(eye)」における内側のラップ(wrap)になり、後端部分は最後に熱間圧延されるため、コイルの外側のラップになる。中央部分の長さは、ストリップの厚み、ストリップの幅及びコイルの重量に依存する。
図1
図2
図3
【国際調査報告】