(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-09
(54)【発明の名称】メタンまたはブタン酸化活性を有する新規タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 9/06 20060101AFI20240402BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20240402BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240402BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240402BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240402BHJP
C12P 7/16 20060101ALI20240402BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C12N9/06 Z ZNA
C12N9/04 Z
C07K19/00
C07K14/47
C12N1/21
C12P7/16
C12P7/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566432
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 KR2022005481
(87)【国際公開番号】W WO2022231184
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】10-2021-0056794
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジー ワン
(72)【発明者】
【氏名】ユー, イェオン フワー
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ヨー ビン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AC02
4B064AC04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD04
4B064DA16
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA05
4B065CA24
4B065CA28
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、メタン酸化活性を有するアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはブタン酸化活性を有するブタン酸化酵素活性ドメインが融合したフェリチン単量体が自己集合したタンパク質に関し、メタンまたはブタンを酸化してメタノールまたはブタノールを製造する活性を有するタンパク質、それを発現する微生物、それを活用したメタノールまたはブタノール製造用組成物、メタノールまたはブタノールの製造方法に関する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン酸化活性を有するアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはブタン酸化活性を有するブタン酸化酵素活性ドメインが融合したフェリチン単量体が自己集合している、タンパク質。
【請求項2】
前記アンモニア酸化酵素活性ドメインは、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)の中から選択される、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記amoB1は配列番号1のアミノ酸配列からなり、amoB2は配列番号2のアミノ酸配列からなる、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
amoB1およびamoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項5】
amoB1が融合したフェリチン単量体およびamoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項6】
前記ブタン酸化酵素活性ドメインは、bmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)の中から選択される、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項7】
前記bmoB1は配列番号3のアミノ酸配列からなり、bmoB2は配列番号4のアミノ酸配列からなる、請求項6に記載のタンパク質。
【請求項8】
bmoB1およびbmoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、請求項6に記載のタンパク質。
【請求項9】
bmoB1が融合したフェリチン単量体およびbmoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、請求項6に記載のタンパク質。
【請求項10】
前記フェリチン単量体は、ヒトフェリチン重鎖単量体である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項11】
前記各ドメインは、フェリチン単量体のα-ヘリックスの内部、隣接するα-ヘリックスの間、N末端、C末端、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端とAヘリックスの間、およびEヘリックスとC末端の間からなる群より選択されるいずれか1つに融合したものである、請求項10に記載のタンパク質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のタンパク質を発現する微生物。
【請求項13】
前記微生物は、フェリチン単量体をコードする遺伝子と、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)の中から選択されるアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはbmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)の中から選択されるブタン酸化酵素活性ドメインをコードする遺伝子とを含むベクターが導入されたものである、請求項12に記載の微生物。
【請求項14】
前記微生物は大腸菌である、請求項12に記載の微生物。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載のタンパク質を含み、前記タンパク質は、アンモニア酸化酵素活性ドメインが融合したものである、メタノール製造用組成物。
【請求項16】
還元剤をさらに含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記還元剤はデュロキノールである、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
請求項15に記載の組成物をメタンガスと反応させるステップを含む、メタノールの製造方法。
【請求項19】
請求項1~11のいずれか一項に記載のタンパク質を含み、前記タンパク質は、ブタン酸化酵素活性ドメインが融合したものである、ブタノール製造用組成物。
【請求項20】
前記組成物は還元剤をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記還元剤はデュロキノールである、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
請求項19に記載の組成物をブタンガスと反応させるステップを含む、ブタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンまたはブタン酸化活性を有する新規タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン酸化細菌(methanotrophs)由来のメタン酸化酵素(Methane monooxygenase,MMO)は、常温常圧の穏やかな条件下でメタンガスを含む様々な炭化水素(C1-C8)の酸化反応を触媒して高付加価値の産物を生産できる非常に有用なバイオ触媒であり、これを活用するバイオプロセスの開発に世界的な関心が集中されている。
【0003】
また、類似系列の酵素として、ニトロソモナス・ユーロピア(Nitrosomonas europaea)由来のアンモニア酸化酵素(Ammonia monoxygenase,AMO)、ノカルディオイデス属(Nocardioides sp.)CF8株(strain CF8)由来のブタン酸化酵素(Butane monooxygenase, BMO)などが、メタン酸化酵素と類似した機序で広い範囲の炭化水素(AMO:C1-C10鎖状/ハロゲン化炭化水素、単/多環状芳香族炭化水素、BMO:C2-C10鎖状/ハロゲン化炭化水素、一部の芳香族炭化水素)に対して酸化反応を触媒できる有用なバイオ触媒であるが、現在までに3D構造、活性ドメインの究明、反応メカニズム、基質特異性などの基礎研究が非常に不十分である。
【0004】
現在、メタンおよびブタンガスの化学プロセスによるメタノールおよびブタノールの生産は工程が複雑で副産物(二酸化炭素、シンガス(syngas)など)による環境汚染の誘発、低反応転化率、高温、高圧の反応条件に起因する高エネルギー消費など、技術面、環境面、経済面で多くの問題を抱えている。特に、メタンガスは、高価な輸送、貯蔵コストに起因する経済性の低下、および流出時の深刻な温室効果の誘発などの問題により、地元のガス田に容易に連携できる小規模バイオプラントを用いたメタノールの生産が技術面、経済面で非常に有利である。
【0005】
バイオプロセスの開発努力により、メタノール以外の他の高付加産物を生産するためのメタン酸化細菌および様々な炭化水素物質分解細菌(hydrocarbon degrading bacteria)の代謝工学的な菌株の改良が試みられているが、遺伝工学的ツールの活用の限界、菌株の難培養性による問題などがあり、メタン酸化酵素などを大量生産するために産業用菌株を用いて異種発現することは、水溶性タンパク質の発現が難しく、酵素複合体の精密な相互作用が求められるなどの高い技術的難易度のため産業的活用の成功事例がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたメタンまたはブタン酸化能を有するタンパク質を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、前記タンパク質を発現する微生物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、前記タンパク質または微生物を含むメタノールまたはブタノール製造用組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、前記タンパク質または微生物を用いたメタノールまたはブタノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.メタン酸化活性を有するアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはブタン酸化活性を有するブタン酸化酵素活性ドメインが融合したフェリチン単量体が自己集合している、タンパク質。
【0011】
2.前記項目1において、前記アンモニア酸化酵素活性ドメインは、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)の中から選択される、タンパク質。
【0012】
3.前記項目2において、前記amoB1は、配列番号1のアミノ酸配列からなり、amoB2は、配列番号2のアミノ酸配列からなる、タンパク質。
【0013】
4.前記項目2において、amoB1およびamoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、タンパク質。
【0014】
5.前記項目2において、amoB1が融合したフェリチン単量体およびamoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、タンパク質。
【0015】
6.前記項目1において、前記ブタン酸化酵素活性ドメインは、bmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)の中から選択される、タンパク質。
【0016】
7.前記項目6において、前記bmoB1は、配列番号3のアミノ酸配列からなり、bmoB2は、配列番号4のアミノ酸配列からなる、タンパク質。
【0017】
8.前記項目6において、bmoB1およびbmoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、タンパク質。
【0018】
9.前記項目6において、bmoB1が融合したフェリチン単量体およびbmoB2が融合したフェリチン単量体が自己集合している、タンパク質。
【0019】
10.前記項目1において、前記フェリチン単量体は、ヒトフェリチン重鎖単量体である、タンパク質。
【0020】
11.前記項目10において、前記各ドメインは、フェリチン単量体のα-ヘリックスの内部、隣接するα-ヘリックスの間、N末端、C末端、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端とAヘリックスの間、およびEヘリックスとC末端の間からなる群より選択されるいずれか1つに融合したものである、タンパク質。
【0021】
12.前記項目1~11のいずれかに記載のタンパク質を発現する微生物。
【0022】
13.前記項目12において、前記微生物は、フェリチン単量体をコードする遺伝子と、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)の中から選択されるメタン酸化酵素活性ドメイン、またはbmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)の中から選択されるブタン酸化酵素活性ドメインをコードする遺伝子とを含むベクターが導入されたものである、微生物。
【0023】
14.前記項目12において、前記微生物は大腸菌である、微生物。
【0024】
15.前記項目1~11のいずれかに記載のタンパク質を含み、前記タンパク質は、アンモニア酸化酵素活性ドメインが融合したものである、メタノール製造用組成物。
【0025】
16.前記項目15において、還元剤をさらに含む、組成物。
【0026】
17.前記項目15において、前記還元剤は、デュロキノール(duroquinol)である、組成物。
【0027】
18.前記項目15に記載の組成物をメタンガスと反応させるステップを含む、メタノールの製造方法。
【0028】
19.前記項目1~11のいずれかに記載のタンパク質を含み、前記タンパク質は、ブタン酸化酵素活性ドメインが融合したものである、ブタノール製造用組成物。
【0029】
20.前記項目19において、前記組成物は、還元剤をさらに含む、組成物。
【0030】
21.前記項目19において、前記還元剤は、デュロキノール(duroquinol)である、組成物。
【0031】
22.前記項目19に記載の組成物をブタンガスと反応させるステップを含む、ブタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明のタンパク質は、メタンまたはブタン酸化活性を有する。
【0033】
本発明のタンパク質は、メタンまたはブタン酸化活性を有するドメインを多数含み、その活性が高い。
【0034】
本発明の組成物および方法は、メタノールまたはブタノールを高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、実施例で使用する各ベクターの概略図である。
【
図2】
図2は、実施例で製造されたcAMO、AMO-、BMO-mimicsを含む組換えタンパク質の発現率および細胞質溶解度の分析結果である。
【
図3】
図3は、実施例で製造されたcAMO、AMO-、BMO-mimicsを含む組換えタンパク質が自己集合体を形成することを確認したものである。
【
図4】
図4a~cは、cAMO組換えタンパク質のX線吸収端近傍構造(X-ray absorption near-edge structure、XANES)、広域X線吸収微細構造(Extended X-ray absorption fine structure、EXAFS)及び電子常磁性共鳴(Electron paramagnetic resonance、EPR)スペクトルの分析結果である。
【
図5】
図5は、実施例で製造されたcAMO、AMO-、BMO-mimicsを含む組換えタンパク質のメタンおよびブタンガス酸化活性を確認したものである。
【
図6】
図6は、実施例で製造されたcAMOの
13C-メタンガス酸化活性を確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
本発明は、メタン酸化活性を有するアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはブタン酸化活性を有するブタン酸化酵素活性ドメインが融合したフェリチン単量体が自己集合したタンパク質に関するものである。
【0038】
アンモニア酸化酵素活性ドメインは、メタンを酸化させる活性を有するものであれば制限なく用いることができ、例えば、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)などを用いることができる。具体的には、amoB1としては配列番号1のアミノ酸を含むものを、amoB2としては配列番号2のアミノ酸配列を含むものを用いることができる。
【0039】
ブタン酸化酵素活性ドメインは、ブタン酸化活性を有するものであれば制限なく用いることができ、例えば、bmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)などを用いることができる。具体的には、bmoB1としては配列番号3のアミノ酸を含むものを、bmoB2としては配列番号4のアミノ酸配列を含むものを用いることができる。
【0040】
本発明のタンパク質において、各ドメインは、1つのフェリチン単量体内に全て融合したものであっても、各フェリチン単量体にそれぞれ融合したものであっても、これらが混合されたものであってもよい。
【0041】
つまり、本発明のタンパク質において、2つのアンモニア酸化酵素活性ドメインまたはブタン酸化酵素活性ドメインが1つのフェリチン単量体内に融合したものであってもよく、フェリチン単量体ごとに1つのドメインが融合したものであってもよい。
【0042】
本発明のタンパク質は、FAD(flavin adenine dinucleotide)結合ドメインを含む電子伝達ドメインがさらに融合したものであってもよい。
【0043】
メタンは、下記数学式1の反応によって酸化してメタノールを形成できるが、本発明のタンパク質は、メタン酸化活性ドメインと、FAD(flavin adenine dinucleotide)結合ドメインを含む電子伝達ドメインとが融合したフェリチン単量体が自己集合したものであり、還元剤であるNADHを用いてメタン酸化反応を行うことができ、特に、インビボ(in vivo)で反応時に体内のNADHを活用することができる。このため、別の還元剤の使用が不要である。
【0044】
[数学式1]
CH4+O2+NAD(P)H+H+→ CH3OH+NAD(P)++H2O
【0045】
電子伝達ドメインは、FAD(flavin adenine dinucleotide)結合ドメインを含む。
【0046】
FAD結合ドメインは、sMMO(soluble MMO(Methane monooxygenase))由来のものであってもよく、具体的には、その構成要素の1つであるMMORのFAD結合ドメインであってもよい。
【0047】
電子伝達ドメインは、FAD結合ドメインを含むものであり、これはFAD結合ドメインのみからなっていてもよく、MMORにおいてFAD結合ドメイン以外に追加の部分をさらに含んでもよく、FAD結合ドメイン以外に2Fe-2Sドメインの少なくとも一部をさらに含んでもよく、FAD結合ドメインおよび2Fe-2Sドメインを含んでもよい。例えば、電子伝達ドメインとしては、配列番号5のアミノ酸配列を含むものを用いることができる。
【0048】
本発明のタンパク質において、フェリチン単量体としては様々な生物に由来するフェリチンを用いることができ、脊椎動物の場合は重鎖または軽鎖単量体を用いることができる。例えば、ヒトフェリチン重鎖を用いることができる。
【0049】
フェリチン単量体において、自己集合したタンパク質でその機能を果たすことができれば、各ドメインの結合位置は限定されず、例えば、α-ヘリックスの内部、隣接するα-ヘリックスの間、N末端、C末端、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端とAヘリックスの間、およびEヘリックスとC末端の間からなる群より選択されるいずれか1つに融合されてもよく、タンパク質から外部に表出されてその機能を容易に発揮するという点から、好ましくはC末端に融合されてもよい。
【0050】
本発明のタンパク質において、フェリチン単量体と各ドメインとの間には、リンカーをさらに含むことができる。
【0051】
リンカーとしては、当分野で公知のものを制限なく用いることができ、例えば、S1(G3SG3TG3SG3)、S2(GKLGGG)などを用いることができる。
【0052】
本発明のタンパク質は、例えば、フェリチン単量体をコードする遺伝子と、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)の中から選択されるアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはbmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)の中から選択されるブタン酸化酵素活性ドメインをコードする遺伝子とを含むベクターを生物体に形質転換させ、その生物体から得られるものであるが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明のタンパク質は、微生物内でのsoluble formへの発現率が高く、生合成時の製造収率が高い。
【0054】
また、本発明は、前記タンパク質を発現する微生物に関するものである。
【0055】
本発明の微生物は、フェリチン単量体をコードする遺伝子と、amoB1(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 1)およびamoB2(Ammonia monooxygenase beta subunit_domain 2)の中から選択されるアンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはbmoB1(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 1)およびbmoB2(Particulate Butane monooxygenase subunit B_domain 2)の中から選択されるブタン酸化酵素活性ドメインをコードする遺伝子とを含むベクターが導入され、前記タンパク質を発現するものであってもよい。
【0056】
本発明のタンパク質において、各ドメインは、1つのフェリチン単量体内に全て融合されたものであっても、各フェリチン単量体にそれぞれ融合されたものであっても、これらが混合されたものであってもよい。このため、前記アンモニア酸化酵素活性ドメイン、またはブタン酸化酵素活性ドメインをコードする遺伝子は、1つのベクターに含まれてもよく、2つのベクターにそれぞれ含まれてもよい。
【0057】
ベクターとしては、当分野で公知の発現ベクターを用いることができ、例えば、BLUESCRIPTベクター(Stratagene)、T7発現ベクター(Invitrogen)、pETベクター(Novagen)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
ベクターは、タンパク質の発現のためのプロモーター、分離/精製のためのタグ、形質転換マーカーなど、当分野で公知の追加の構成要素をさらに含むことができる。
【0059】
微生物としては、前記ベクターを導入して前記タンパク質を発現できるものであれば、その種類を限定せず、例えば大腸菌を用いることができる。
【0060】
本発明の微生物は前記タンパク質を発現するので、メタンの酸化によるメタノールの製造に用いることができる。本発明の微生物を用いる場合には、メタノールを生成するための別の還元剤の添加が不要である。
【0061】
また、本発明は、前述のタンパク質または前述の微生物を含むメタノール製造用組成物またはブタノール製造用組成物に関するものである。
【0062】
前述のメタン酸化活性を有するアンモニア酸化酵素活性ドメインが融合したフェリチン単量体が自己集合したタンパク質はメタン酸化活性を有し、ブタン酸化酵素活性ドメインが融合したフェリチン単量体が自己集合したタンパク質はブタン酸化活性を有し、前述の微生物は前記タンパク質を発現する。このため、本発明の組成物はこれを含むことでメタンまたはブタンを酸化して、メタノールまたはブタノールを製造することができる。
【0063】
メタノールまたはブタノールの製造は、前記組成物にメタンガスまたはブタンガスを処理することによって行うことができる。
【0064】
本発明の組成物は、メタンまたはブタンの酸化に使用される還元剤をさらに含むことができる。還元剤は、例えばデュロキノール(duroquinol)であってもよい。
【0065】
また、本発明は、前述の組成物をメタンガスまたはブタンガスと反応させるステップを含むメタノールまたはブタノールの製造方法に関するものである。
【0066】
本発明による組成物をメタンガスまたはブタンガスと反応させてメタンまたはブタンを酸化することによってメタノールまたはブタノールを製造することができ、これは前述の組成物にメタンガスまたはブタンガスを注入して酵素反応を進めることによって行うことができる。
【0067】
メタノールまたはブタノールの製造条件は特に限定されず、例えば、前述のタンパク質または微生物が適正活性を示す温度、pHなどで行うことができる。
【0068】
実施例
1.タンパク質生合成のための発現ベクターの製造
下記表1に示すベクター模式図に従い、PCRによってchimeric AMO(AMO(amoB1)+sMMO(MMORF))、AMO-mimics(AMO-m1~AMO-m2)、BMO-mimics(BMO-m1~BMO-m2)を製造した。製造したすべてのプラスミド発現ベクターは、アガロースゲルで精製した後、完全なDNAシークエンシングによって配列を確認した。
【0069】
このようにして製造されたPCR産物を順次にpT7-7、pET28a発現用ベクターに挿入し、それぞれのタンパク質を発現できる発現ベクターを構成した。
【0070】
各タンパク質の発現用ベクターは、pT7-cAMO-B1、pET28a-cAMO-B2、pET28a-AMO-m1-B1、pT7-AMO-m1-B2、pT7-AMO-m2、pT7-BMO-m1、pET28a-BMO-m2-B1、pT7-BMO-m2-B2で行った(
図1)。
【0071】
【0072】
使用する各タンパク質(ドメイン)の配列は、下記表2に示す通りである。
【0073】
【0074】
2.組換えタンパク質の生合成および精製
大腸菌株BL21(DE3)[F-ompThsdSB(rB-mB-)]、pGroBL21(DE3)[F-ompThsdSB(rB-mB-)]を前記で製造された発現ベクターでそれぞれ形質転換した。AMO-mimicsとBMO-m1を除くcAMO、BMO-m2は、大腸菌株BL21に2つの発現ベクターを同時に形質転換し、アンピシリンとカナマイシンに抵抗性のある形質転換体を選択した。形質転換された大腸菌を50mLのLB(Luria-Bertani)培地(100mg L-1アンピシリンと100mg L-1カナマイシン、0.4mM CuSO4を含有)を含有するフラスコ(250mL Erlenmeyer flasks、37℃、150rpm)で培養した。
【0075】
AMO-m1は、pGro7/BL21に2つの発現ベクターを同時に形質転換し、アンピシリンとカナマイシン、クロラムフェニコールに抵抗性のある形質転換体を選択した。形質転換された大腸菌を50mLのLB(Luria-Bertani)培地(100mg L-1アンピシリンと100mg L-1カナマイシン、20mg L-1クロラムフェニコール、0.5g L-1アラビノースと0.4mM CuSO4を含有)を含有するフラスコ(250mL Erlenmeyer flasks、37℃、150rpm)で培養した。
【0076】
AMO-m2、BMO-m1は、BL21に発現ベクターを形質転換し、アンピシリンに抵抗性のある形質転換体を選択した。形質転換された大腸菌を50mLのLB(Luria-Bertani)培地(100mg L-1アンピシリン、0.4mM CuSO4を含有)を含有するフラスコ(250mL Erlenmeyer flasks、37℃、150rpm)で培養した。
【0077】
培地濁度(O.D.600)が約0.6に達したとき、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranosid)(1mM)を添加して遺伝子の発現を誘導した。20℃で14時間培養後、培養した大腸菌を5,000rpmで5分間遠心分離して菌体沈殿物を回収した後、5mLの破砕溶液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0)に懸濁し、超音波破砕機(Branson Ultrasonics Corp.、Danbury、CT、USA)を用いて破砕した。破砕後、13,000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液と不溶性凝集体を分離した。
【0078】
分離した上澄み液をまず組換えタンパク質に融合発現されたヒスチジンとニッケルとの結合を用いたNi2+-NTAアフィニティー(affinity)クロマトグラフィーを行った後、組換えタンパク質を濃縮し、バッファー交換を行うことにより、精製された組換えタンパク質を得た。各ステップの詳細は以下の通りである。
【0079】
1)Ni2+-NTAアフィニティー・クロマトグラフィー
組換えタンパク質を精製するために、前述の方法と同様にして培養した大腸菌を回収し、その細胞ペレットを5mLの破砕溶液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0)に再浮遊し、超音波破砕機を用いて細胞を破砕した。破砕した細胞液を13,000rpmで10分間遠心分離してその上澄み液のみを分離した後、各組換えタンパク質をNi2+-NTAカラム(Quiagen、Hilden、Germany)を用いてそれぞれ分離した(洗浄バッファー:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、50mMイミダゾール、pH8.0/溶出バッファー:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、250mMイミダゾール、pH8.0)。
【0080】
2)濃縮とバッファ交換
Ni2+-NTAアフィニティー・クロマトグラフィーを経て溶出した2mLの組換えタンパク質を超遠心ろ過器(ultracentrifugal filter、Amicon Ultra 100K、Millipore、Billerica、MA)に入れ、カラムの上に1mlの溶液が残るまで5,000rpmで遠心分離を行った。その後、トリス(Tris)バッファー(20mM Tris-HCl、250mM NaCl、pH8.0)でバッファー交換を行った。
【0081】
3.製造されたcAMO、AMO-、BMO-mimicsを含む組換えタンパク質の発現率および細胞質溶解度の分析
前記プロセスを経た後、精製された組換えタンパク質の発現率および細胞質溶解度をSDS-PAGEにより分析した。組換えタンパク質の破砕された細胞液を遠心分離して得られた上澄み液(soluble fraction, sol)と不溶性凝集体(insoluble fraction, insol)、精製された組換えタンパク質に対して、12%トリス-グリシン・プレキャストゲル(Tris-glycine precast gel、Invitrogen、California、U.S.A.)を用いてSDS-PAGEを行った。そして、ゲルをクマシーブルー染色溶液で染色し、染色されたタンパク質バンドに対して、デンシトメーター(densitometer、GS-800 Calibrated Densitometer、Bio-Rad、California、U.S.A.)により各組換えタンパク質の発現率および細胞質溶解度を分析した(
図2)。
【0082】
4.製造されたcAMO、AMO-、BMO-mimicsを含む組換えタンパク質の構造の分析
前記プロセスを経た後、精製された組換えタンパク質の構造を分析するために透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影を行った。タンパク質の染色画像を得るために、自然乾燥サンプルを含む電子顕微鏡グリッドを、2%(w/v)水性ウラニルアセテート溶液と共に1時間室温でインキュベートした。タンパク質画像を200kVで作動するTecnai 20(FEI、Hillsboro、Oreon、U.S.A.)電子顕微鏡を用いて観察したところ、球状のナノ粒子が形成されていることを確認した。さらに、DLS(dynamic light scattering)分析により、cAMOは27.9±4.7nm、AMO-m1は29.8±1.3nm、AMO-m2は26.5±1.1nm、BMO-m1は17.6±4.9nm、BMO-m2は15.2±4.0nmの大きさを有する球状のナノ粒子を形成することを確認した(
図3)。
【0083】
製造されたcAMO組換えタンパク質の構造を分析するために、X線吸収分光法(X-ray absorption spectroscopy、XAS)および電子常磁性共鳴(Electron paramagnetic resonance、EPR)スペクトル分析を行った。タンパク質のX線吸収端近傍構造(X-ray absorption near-edge structure、XANES)、広域X線吸収微細構造(Extended X-ray absorption fine structure、EXAFS)およびEPR分析のために、トリス(Tris)バッファーで溶媒交換されたサンプルを-80℃で3時間事前冷凍し、事前冷凍したサンプルは凍結乾燥機(FDU-2100、DRC-1000、EYELA)を用いて-110℃で凍結乾燥した。XAS分析は、Aichi Synchrontron Radiation Center(Aichi)のXAFSビームライン(BL11S2)により測定した。cAMO EXAFSの分析結果、活性部位に存在する銅イオンと周辺リガンドの距離情報を確認し、メタン酸化反応が進行したサンプルの場合は、反応が進行していないサンプルと比較して、リガンドの距離が異なっており、一つのピーク(~2.2Å)が追加に観察されることを確認した。XANES分析により、1、2価の銅イオン(Cu(I)、Cu(II))が混在していることを確認した。さらに、EPR分析により、2価の銅イオンがvalence-scrambled stateで存在することを確認した(
図4a-c)。
【0084】
5.製造されたcAMO、AMO-、BMO-mimicsを含む組換えタンパク質のメタンおよびブタンガス酸化活性の証明
精製された組換えタンパク質のメタンおよびブタンガス酸化活性を検証するために、20mLのsepta-sealed vial(catalogue no. 5182-0837、Agilent)に還元剤のNADH(0.2mM)またはデュロキノール(0.35mM)を含む1mLの組換えタンパク質溶液を注入した。組換えタンパク質によるメタンおよびブタン酸化反応のために、19mLのヘッドスペース(headspace)の空気を注射器によって除去し、15mLのメタンまたはブタンガスと4mLの空気を注入した。その後、すぐにバイアルを30℃のインキュベーターで最大24時間まで酵素反応を行った。そして、酵素反応により発生する酸化生成物であるメタノールまたはブタノールの量をガスクロマトグラフィー(7890B GC、Agilent)により測定し、累積生産量を計算した(
図5)。
【0085】
cAMOの
13C-メタンガス酸化活性を検証するために、前述のメタン酸化反応と同様の方法で酵素反応を行う一方、メタンガスを
13C-メタンガスで置換して行った。核磁気共鳴(Nuclear magnetic resonance、NMR)分析のために、反応が終わった5つのバイアルを80℃で15分間加熱した後、ヘッドスペース(headspace)の気体19mlを、十分に冷却したエタノール600μlに注射器を用いて直接注入した。その後、60μlのエタノール-d
6を加えて、NMRチューブ(NORS55007、Sigma Aldrich)に移し、cAMO酵素反応によって生成された(発生する酸化生成物である)
13C-メタノールをNMR分析によって確認した(
図6)。
【配列表】
【国際調査報告】