(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-09
(54)【発明の名称】L-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株及びそれを用いたL-リシンの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240402BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240402BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20240402BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N1/21
C12P13/08 A
C12P1/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566851
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 KR2021006499
(87)【国際公開番号】W WO2022231054
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】10-2021-0055536
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0066151
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ソン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ハン ジン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソク ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジュン ヒョン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE25
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA24X
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、L-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株及びそれを用いたL-リシンの生産方法に関し、前記変異株は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を増加または強化させることにより親株に比べてL-リシンの生産収率を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性が強化されてL-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株。
【請求項2】
前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性強化は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーターに位置特異的変異を誘発するものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項3】
前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、配列番号1の塩基配列で表されるものである、請求項2に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項4】
前記変異株は、配列番号2~4で表される塩基配列のいずれか一つを含むものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項5】
a)請求項1に記載の変異株を培地で培養する段階;及び
b)前記変異株または変異株が培養された培地からL-リシンを回収する段階を含むL-リシンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株及びそれを用いたL-リシンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-リシンは、ヒトや動物の体内で合成されない必須アミノ酸であり、外部から供給されなければならず、一般に、細菌や酵母のような微生物を用いた発酵により生産される。L-リシンの生産は、自然状態で得られた野生型菌株やそのL-リシン生産能が向上するように改変された変異株を用いることができる。最近、L-リシンの生産効率を改善させるために、L-アミノ酸及びその他の有用物質の生産に多く利用される大腸菌、コリネバクテリウムなどの微生物を対象に遺伝子組換え技術を適用して優れたL-リシン生産能を有する多様な組換え菌株または変異株及びそれを用いたL-リシン生産方法が開発されている。
【0003】
特許文献1及び2によると、L-リシンの生産に関連した酵素を含むタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列またはアミノ酸配列を変更してその遺伝子の発現を増加させたり、不要な遺伝子を除去することによりL-リシン生産能を向上させることができる。また、特許文献3には、L-リシンの生産に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させるために、遺伝子の既存のプロモーターを強い活性を有するプロモーターに変更する方法を開示している。
【0004】
このように、L-リシン生産能を増加させる多様な方法が開発されているが、L-リシンの生産に直接、間接的に関連した酵素、転写因子、輸送タンパク質などのタンパク質の種類が数十種余りに達するため、このようなタンパク質の活性変化によるL-リシン生産能増加の有無に関し依然として多くの研究が必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0838038号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-2139806号公報
【特許文献3】韓国公開特許第10-2020-0026881号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Manual of Methods for General Bacteriology. American Society for Bacteriology. Washington D.C.,USA、1981
【非特許文献2】Kim et al.,Journal of Microbiological Methods 84 (2011) 128-130
【非特許文献3】Tauch et al.,FEMS Microbiology letters 123 (1994) 343-347
【非特許文献4】Schafer et al.,Gene 145 (1994) 69-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、L-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記変異株を用いたL-リシンの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株を用いてL-リシン生産能が向上した新たな変異株を開発するために研究した結果、L-リシン生合成経路でリシン前駆体であるアスパラギン酸の供給に関与するアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspB遺伝子のプロモーター内の特定位置の塩基配列を置換した場合、L-リシン生産量が増加することを確認することにより本発明を完成した。
【0009】
本発明の一様相は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性が強化されてL-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を提供する。
本発明で用いられた「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferaseまたはaspartate transaminase)」は、L-リシン生合成経路でオキサロアセテートのアスパラギン酸変換反応を触媒する酵素を意味する。
【0010】
本発明の一具体例によると、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌株に由来したものであってもよい。具体的には、前記コリネバクテリウム属菌株は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スラナレアエ(Corynebacterium suranareeae)、コリネバクテリウム・ルブリカンティス(Corynebacterium lubricantis)、コリネバクテリウム・ドサネンス(Corynebacterium doosanense)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・ウテレキ(Corynebacterium uterequi)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・パカエンセ(Corynebacterium pacaense)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ヒュミレデュセンス(Corynebacterium humireducens)、コリネバクテリウム・マリヌム(Corynebacterium marinum)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・スフェニスコルム(Corynebacterium spheniscorum)、コリネバクテリウム・フレイブルゲンス(Corynebacterium freiburgense)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・カニス(Corynebacterium canis)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・レナーレ(Corynebacterium renale)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・カスピウム(Corynebacterium caspium)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、コリネバクテリウム・シュードペラーギ(Corynebacaterium pseudopelargi)またはコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよく、これに限定されるものではない。
【0011】
本発明で用いられた「活性が強化」とは、目的とする酵素、転写因子、輸送タンパク質などのタンパク質をコードする遺伝子の発現が新たに導入されたり増大して野生型菌株または変形前の菌株に比べて発現量が増加することを意味する。このような活性の強化は、遺伝子をコードするヌクレオチドの置換、挿入、欠失またはこれらの組み合わせを通じてタンパク質自体の活性が本来微生物が有するタンパク質の活性に比べて増加した場合と、これをコードする遺伝子の発現増加または翻訳増加などにより細胞内で全体的な酵素活性の程度が野生型菌株または変形前の菌株に比べて高い場合、これらの組み合わせも含む。
【0012】
本発明の一具体例によると、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性強化は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーターに位置特異的変異を誘発するものであってもよい。
【0013】
本発明の一具体例によると、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーターは、配列番号1の塩基配列で表されるものであってもよい。
本発明で用いられた「プロモーター」とは、目的とする遺伝子のmRNA転写を開始するRNA重合酵素(polymerase)に対する結合部位を含み、遺伝子の転写を調節するDNAの特定部位を意味し、一般に、転写開始点を基準として上流(upstream)に位置する。原核生物におけるプロモーターは、RNA重合酵素が結合する転写開始点周辺の部位と定義され、一般に、転写開始点から上流に-10領域と-35領域の塩基対が離れている二つの短い塩基配列で構成される。本発明におけるプロモーター変異は、野生型プロモーターに比べて高い活性を有するように改良することであり、転写開始点の上流に位置したプロモーター領域内で変異を誘発することにより、下流(downstream)に位置した遺伝子の発現を増加させることができる。
【0014】
本発明の一具体例によると、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性強化は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列内の転写開始点から上流に-100~-10領域のうちの一つ以上の塩基が置換されたものであってもよい。
【0015】
より具体的には、本発明におけるプロモーター変異は、-100~-10領域のうちの1個以上の塩基、好ましくは、-95~-15領域、-95~-55領域、-55~-40領域、または-30~-15領域において1個、2個、3個、4個、または5個の塩基が連続的にまたは非連続的に置換されたものであってもよい。
【0016】
本発明の一実施例によると、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspB遺伝子のプロモーター配列において-22領域の塩基配列をCからGに置換してaspB遺伝子の新たなプロモーター配列を有するコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を得た。このようなコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、配列番号2の塩基配列で表されるaspB遺伝子の変異されたプロモーターを含むものであってもよい。
【0017】
また、本発明の一実施例によると、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspB遺伝子のプロモーター配列において-45領域の塩基配列をTからAに置換してaspB遺伝子の新たなプロモーター配列を有するコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を得た。このようなコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、配列番号3の塩基配列で表されるaspB遺伝子の変異されたプロモーターを含むものであってもよい。
【0018】
本発明の一実施例によると、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspB遺伝子のプロモーター配列において-88領域の塩基配列をTからAに置換してaspB遺伝子の新たなプロモーター配列を有するコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を得た。このようなコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、配列番号4の塩基配列で表されるaspB遺伝子の変異されたプロモーターを含むものであってもよい。
【0019】
本発明で用いられた「生産能が向上した」とは、親株に比べてL-リシンの生産性が増加したことを意味する。前記親株は、変異の対象となる野生型または変異株を意味し、直接変異の対象になったり組換えされたベクターなどで形質変換される対象を含む。本発明において、親株は、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム菌株または野生型から変異された菌株であってもよい。
【0020】
本発明の一具体例によると、前記親株は、リシン生産に関与する遺伝子(例えば、lysC、zwf及びhom遺伝子)の配列に変異が誘発された変異株であり、韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms)に2021年4月2日付で受託番号KCCM12969Pとして寄託されたコリネバクテリウム・グルタミカム菌株(以下「コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株」という)であってもよい。
【0021】
このような本発明のL-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の変異されたプロモーター配列を含むものであってもよい。
【0022】
本発明の一具体例によると、前記変異株は、配列番号2~4で表される塩基配列のいずれか一つをアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター配列として含むものであってもよい。
【0023】
本発明の一実施例によると、前記変異株は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspB遺伝子のプロモーター変異を含むことにより、親株に比べて増加したL-リシン生産能を示し、特に親株に比べてL-リシン生産量が3%以上、具体的には3~40%、さらに具体的には5~30%増加し、菌株培養液1リットル当たり65~90gのL-リシンを生産することができ、好ましくは70~80gのL-リシンを生産することができる。
【0024】
本発明の一具体例によるコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、親株にアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列が一部置換された変異体を含む組換えベクターを通じて具現される。
【0025】
本発明で用いられた「一部」とは、塩基配列またはポリヌクレオチド配列の全部ではないことを意味し、1~300個、好ましくは、1~100個、より好ましくは、1~50個であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明で用いられた「変異体」とは、L-リシンの生合成に関与するアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター配列内の-100~-10領域のうちの一つ以上の塩基が置換されたプロモーター変異体を意味する。
【0027】
本発明の一具体例によると、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター配列内の-22領域の塩基配列がGに置換された変異体は配列番号2の塩基配列を、-45領域の塩基配列がAに置換された変異体は配列番号3の塩基配列を、-88領域の塩基配列がAに置換された変異体は配列番号4の塩基配列を有するものであってもよい。
【0028】
本発明で用いられた「ベクター」とは、適当な宿主細胞で目的タンパク質を発現できる発現ベクターであり、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された(operably linked)必須の調節要素を含む遺伝子製造物を意味する。ここで、「作動可能に連結された」とは、発現が必要な遺伝子とその調節配列が互いに機能的に結合して遺伝子発現を可能にする方式で連結されたことを意味し、「調節要素」は、転写を行うためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含む。このようなベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明で用いられた「組換えベクター」は、適した宿主細胞内に形質変換された後、宿主細胞のゲノムと無関係に複製可能であるか、またはゲノムそれ自体に組み込まれる。この時、前記「適した宿主細胞」は、ベクターが複製可能なものとして複製が開始される特定の塩基配列である複製起点を含むことができる。
【0030】
前記形質変換は、宿主細胞により適したベクター導入技術が選択されて目的とする遺伝子を宿主細胞内で発現させることができる。例えば、ベクターの導入は、電気穿孔法(electroporation)、熱衝撃(heat-shock)、リン酸カルシウム(CaPO4)の沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)の沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法、またはこれらの組み合わせにより行われ得る。形質変換された遺伝子は、宿主細胞内で発現できるものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入または染色体外に位置しているものでも制限なく含まれ得る。
【0031】
前記宿主細胞は、生体内または試験管内で本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドで形質感染、形質転換、または感染した細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、組換え宿主細胞、組換え細胞または組換え微生物である。
【0032】
また、本発明による組換えベクターは、選択マーカー(selection marker)を含むことができるが、前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された形質転換体(宿主細胞)を選別するためのものであり、前記選択マーカーが処理された培地で選択マーカーを発現する細胞だけが生存できるため、形質転換された細胞の選別が可能である。前記選択マーカーは、代表的な例としてカナマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコールなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明の形質変換用組換えベクター内に挿入された遺伝子は、相同性組換えの交差によりコリネバクテリウム属微生物のような宿主細胞内に置換される。
本発明の一具体例によると、前記宿主細胞は、コリネバクテリウム属菌株であってもよく、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)菌株であってもよい。
【0034】
また、本発明の他の一様相は、a)前記コリネバクテリウム・グルタミカム変異株を培地で培養する段階;及びb)前記変異株または変異株が培養された培地からL-リシンを回収する段階を含むL-リシンの生産方法を提供する。
【0035】
前記培養は、当業界において知られている適切な培地と培養条件により行われ、通常の技術者であれば、培地及び培養条件を容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培地は液体培地であってもよいが、これに限定されるものではない。培養方法は、例えば、回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、流加式培養(fed-batch culture)またはこれらの組み合わせ培養を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明の一具体例によると、前記培地は、適切な方式で特定菌株の要件を満たさなければならず、通常の技術者により適切に変形され得る。コリネバクテリウム属菌株に対する培養培地は、公知となった文献(Manual of Methods for General Bacteriology. American Society for Bacteriology. Washington D.C.,USA、1981)を参照することができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本発明の一具体例によると、培地に多様な炭素源、窒素源及び微量元素成分を含むことができる。使用できる炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、澱粉、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ひまし油、ココナッツ油などのようなオイル及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これら物質は、個別にまたは混合物として使用でき、これに限定されるものではない。使用可能な窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及び尿素または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが含まれ得る。窒素源も、個別にまたは混合物として使用でき、これに限定されるものではない。使用可能なリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは対応するナトリウムを含有する塩が含まれ、これに限定されるものではない。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができ、これに限定されるものではない。その他に、アミノ酸及びビタミンのような必須成長物質が含まれ得る。また、培養培地に適切な前駆体が使用できる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式により回分式でまたは連続式で添加されるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明の一具体例によると、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸及び硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を使用して気泡生成を抑制することができる。さらに、培養液の好気状態を維持するために、培養液内に酸素または酸素含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は、通常、20℃~45℃、例えば25℃~40℃であってもよい。培養期間は、有用物質が目的の生産量が得られるまで継続でき、例えば、10~160時間であってもよい。
【0039】
本発明の一具体例によると、前記培養された変異株及び変異株が培養された培地からL-リシンを回収する段階は、培養方法により当該分野において知られた適切な方法を利用して培地から生産されたL-リシンを収集または回収することができる。例えば、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性及びサイズ排除)などの方法を利用できるが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明の一具体例によると、リシンを回収する段階は、培養培地を低速遠心分離し、バイオマスを除去して得られた上澄液を、イオン交換クロマトグラフィーを通じて分離することができる。
【0041】
本発明の一具体例によると、前記L-リシンを回収する段階は、L-リシンを精製する工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によるコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を増加または強化させることにより親株に比べてL-リシンの生産収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の一実施例によりプロモーター部位の22番目の配列をCからGに置換するための組換えベクターpCGI(DS7-2)の構造を示したものである。
【
図2】本発明の一実施例によりプロモーター部位の45番目の配列をTからAに置換するための組換えベクターpCGI(DS7-1)の構造を示したものである。
【
図3】本発明の一実施例によりプロモーター部位の88番目の配列をTからAに置換するための組換えベクターpCGI(DS7)の構造を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は、本発明の理解を助けるために例示的に提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明により制限されるものではない。
【0045】
実施例1.コリネバクテリウム・グルタミカム変異株の製造
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性が強化されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を製造するために、コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株を用いてランダムに突然変異を誘発した。
【0046】
1-1.突然変異の誘発
コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株をCM液体培地(グルコース5g、NaCl 2.5g、酵母抽出物5.0g、ウレア(urea) 1.0g、ポリペプトン10.0g及びビーフ(beef)抽出物5.0gを含有、pH 6.8)50ml入りのフラスコに接種し、突然変異誘発物質であるN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(N-methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine,NTG)を最終濃度300μg/mlで添加した後、30℃で200rpmで20時間振盪培養した後、追加の変異を誘導するために20分間UVに露出した。培養を終了した後、培養液を12,000rpmで10分間遠心分離して上層液を除去し、食塩水(saline)で1回洗浄し、リン酸緩衝液(phosphate buffer)で3回さらに洗浄した。これをリン酸緩衝液5mlに懸濁した後、CM固体培地(CM液体培地に寒天15g/l及びリシン8%をさらに含む)に塗抹し、30℃で30時間培養してコロニー(colony)100個を分離した。
【0047】
1-2.L-リシン生産能が向上した変異株の選別
分離したコロニー100個を下記表1の生産液体培地10ml入りのフラスコにそれぞれ5%ずつ接種し、30℃で200rpmで30時間振盪培養した。各培養液をOD 610nmで吸光度を測定し、L-リシン生産量を比較して突然変異が誘発されていないコリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株に比べてL-リシンを75.0g/l以上生産するコロニー10個を選別し、これらの塩基配列の分析を行ってaspB遺伝子のプロモーター変異位置を確認した。これら突然変異が誘発されたコリネバクテリウム・グルタミカムDS1変異株の塩基配列確認の結果、-22位置C>g、-45位置T>A、-88位置T>Aの三類型の変異を確認した。
【0048】
【0049】
その後、三類型のaspB遺伝子プロモーター変異によるL-リシン生産性の増加を検証するための実験を行った。
実施例2.コリネバクテリウム・グルタミカム変異株の製造
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性が強化されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を製造するために、コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株及びE.coli DH5a(HIT Competent cellsTM、Cat No. RH618)を用いた。
【0050】
前記コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株は、蒸溜水1Lにグルコース5g、NaCl 2.5g、酵母抽出物5.0g、ウレア(urea)1.0g、ポリペプトン10.0g及びビーフ(beef)抽出物5.0gの組成のCM液体培地または固体培地(必要に応じて寒天15g/Lを添加)(pH6.8)で30℃の温度で培養した。
【0051】
前記E.coli DH5aは、蒸溜水1Lにトリプトン10.0g、NaCl 10.0g及び酵母抽出物5.0gの組成のLB培地上で37℃の温度で培養した。
抗生剤であるカナマイシン(kanamycin)及びストレプトマイシン(streptomycine)は、シグマ(Sigma)社の製品を使用し、DNAシーケンシング分析は、マクロジェン(株)に依頼して分析した。
【0052】
2-1.組換えベクターの製作
菌株にリシン前駆体であるアスパラギン酸の供給を強化してリシン生産性を増加させるために、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性を強化することにした。本実施例で用いた方法は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspB遺伝子の発現を増加するために、aspB遺伝子のプロモーターに特異的な変異を誘発した。aspB遺伝子のプロモーター-22位置の塩基配列をGに置換し、前記実施例1で得られた各変異株のゲノム上でaspB遺伝子周辺の1256bp断片をPCRで増幅し、組換えベクターであるpCGI(文献[Kim et al.,Journal of Microbiological Methods 84 (2011) 128-130]を参照)にクローニングした。前記プラスミドをpCGI(DS7-2)と命名した(
図1を参照)。前記プラスミドを製作するために遺伝子断片を増幅するのに下記表2のプライマーを用いた。
【0053】
【0054】
以上のプライマーを用いて以下の条件下でPCRを行った。Thermocycler(TP600,TAKARA BIO Inc.、日本)を用いてそれぞれのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dATP,dCTP,dGTP,dTTP)100μMが添加された反応液にオリゴヌクレオチド1pM、実施例1で選別された突然変異コリネバクテリウム・グルタミカムDS1変異株(プロモーター-22位置に変異発生)の染色体DNA10ngを鋳型(template)として、pfu-X DNAポリメラーゼ混合物(Solgent)1ユニットの存在下で25~30周期(cycle)を行った。PCR遂行条件は、(i)変性(denaturation)段階:94℃で30秒、(ii)アニーリング(annealing)段階:58℃で30秒、及び(iii)伸長(extension)段階:72℃で1~2分(1kb当たり2分の重合時間付与)の条件で行った。
【0055】
このように製造された遺伝子断片をself-assembly cloningを使用し、pCGIベクターにクローニングした。前記ベクターを大腸菌(E.coli)DH5aに形質変換させ、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天プレート上に塗抹し、37℃で24時間培養した。最終形成されるコロニーを分離して挿入物(insert)が正確にベクターに存在するかを確認した後、このベクターを分離してコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の組換えに用いた。
【0056】
2-2.変異株の製造
前記pCGI(DS7-2)ベクターを用いて変異菌株であるDS7-2菌株を製造した。前記ベクターの最終濃度が1μg/μl以上になるように準備してコリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株に電気穿孔法(文献[Tauch et al.,FEMS Microbiology letters 123 (1994) 343-347]を参照)を用いて1次組換えを誘導した。この時、電気穿孔した菌株をカナマイシン20μg/μlが含まれるCM固体培地に塗抹してコロニーを分離した後、ゲノム上の誘導した位置に適切に挿入されたかPCR及び塩基配列分析を通じて確認した。このように分離した菌株をさらに2次組換えを誘導するためにCM液体培地に接種し、一夜以上培養して同様の40mg/Lストレプトマイシンを含有した寒天培地に塗抹してコロニーを分離した。最終分離したコロニー中でカナマイシンに対する耐性の有無を確認した後、抗生剤耐性がない菌株中、aspB遺伝子のプロモーターに変異が導入されたかどうかを塩基配列分析を通じて確認した(文献[Schafer et al.,Gene 145(1994)69-73]を参照)。最終的に、変異aspBプロモーターが導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(DS7-2)が得られた。
【0057】
実施例3.コリネバクテリウム・グルタミカム変異株の製造
aspB遺伝子のプロモーター-45位置の塩基配列をTからAに置換し、DNA鋳型として実施例1で選別された突然変異コリネバクテリウム・グルタミカムDS1変異株(プロモーター-45位置に変異発生)を用いた以外は、実施例2と同様の方法でコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を製造した。
【0058】
ここで、プラスミドを製作するために、遺伝子断片を増幅するのに前記表2のプライマーを用い、製作されたプラスミドpCGI(DS7-1)ベクター(
図2を参照)を用いて変異菌株であるDS7-1菌株を製造した。最終的に、変異aspB遺伝子が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(DS7-1)を得た。
【0059】
実施例4.コリネバクテリウム・グルタミカム変異株の製造
aspB遺伝子のプロモーター-88位置の塩基配列をTからAに置換し、DNA鋳型として実施例1で選別された突然変異コリネバクテリウム・グルタミカムDS1変異株(プロモーター-88位置に変異発生)を用いた以外は、実施例2と同様の方法でコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を製造した。
【0060】
ここで、プラスミドを製作するために、遺伝子断片を増幅するのに前記表2のプライマーを用い、製作されたプラスミドpCGI(DS7)ベクター(
図3を参照)を用いて変異菌株であるDS7菌株を製造した。最終的に、変異aspB遺伝子が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(DS7)を得た。
【0061】
実験例1.変異株のL-リシン生産性の比較
親株コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株と実施例2~4で製造されたリシン生産変異株であるDS7-2、DS7-1及びDS7菌株のL-リシン生産性を比較した。
【0062】
前記表1のような組成を有するリシン培地10mlを含有した100mlフラスコにそれぞれの菌株をそれぞれ接種し、30℃で28時間、180rpmの条件で振盪培養した。培養終了後、リシン分析は、HPLC(Shimazu、日本)でL-リシンの生産量を測定し、その結果を表3に示した。
【0063】
【0064】
前記の表3に示した通り、コリネバクテリウム・グルタミカム変異株DS7-2、DS7-1及びDS7菌株は、リシン生合成経路の強化のために、aspB遺伝子のプロモーター配列の特定位置(-22、-45、または-88領域)が最適な塩基配列で置換されることにより、親株のコリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株に比べてL-リシンの生産性がそれぞれ約3.7%、7.7%、16.9%増加し、特に、DS7菌株は、他の変異株に比べて生産性が最も高いことが確認された。このような結果を通じて、aspB遺伝子の発現の強化がリシン前駆体の供給を強化することにより、菌株のL-リシン生産能を向上させるということが分かった。
【0065】
これまで本発明に関連し、その好ましい実施例を中心に調べた。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形された形態で具現されうることが理解できるだろう。従って、開示された実施例は、限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されるべきである。本発明の範囲は前述した説明ではなく特許請求の範囲に開示されており、それと同等の範囲内にあるあらゆる差異点は、本発明に含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列の-88領域の塩基配列がTからAに置換されている、プロモーター。
【請求項2】
配列番号1のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列の-88領域の塩基配列がTからAに置換されている、L-リシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株。
【請求項3】
前記
変異株は、配列番号
4で表される塩基配列
を含む、請求項2に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項4】
a)請求項
2に記載の変異株を培地で培養する段階;及び
b)前記変異株または変異株が培養された培地からL-リシンを回収する段階を含むL-リシンの生産方法。
【国際調査報告】