(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】新規の電気化学発光共反応物およびこれを含む電気化学発光システム
(51)【国際特許分類】
C07D 213/74 20060101AFI20240403BHJP
G01N 21/76 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C07D213/74
G01N21/76
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552216
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 KR2022002654
(87)【国際公開番号】W WO2022182128
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026210
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0016178
(32)【優先日】2022-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523324878
【氏名又は名称】エリップス・ダイアグノスティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ELIPS DIAGNOSTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】シン,イクス
【テーマコード(参考)】
4C055
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA01
4C055CA01
4C055DA52
(57)【要約】
本発明は、新規の電気化学発光共反応物およびこれを含む電気化学発光システムに関し、下記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)共反応物(co-reactant)を特定の発光化学種(多環芳香族炭化水素化合物、金属錯体化合物、量子ドット、またはナノ粒子など)を電気化学発光標識として使用して電気化学発光を測定するとき、非常に優れた検出信号を有し、電圧印加条件の改善が可能で、免疫分析法およびそれに基づく診断機器、および化学分析法とそれに基づく一般診断機器に広く適用することができる。
[化学式1]
上記化学式1中、前記R
1またはR
2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子;C
1~C
6直鎖または分岐鎖または環状アルキル基;C
1~C
6アルコキシ基;およびC
1~C
6ハロアルキル基からなる群から選ばれたいずれか1つを示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光用共反応物(co-reactant):
[化学式1]
上記化学式1中、前記R
1またはR
2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子;C
1~C
6直鎖または分岐鎖または環状アルキル基;C
1~C
6アルコキシ基;およびC
1~C
6ハロアルキル基からなる群から選ばれたいずれか1つを示す。
【請求項2】
前記R
1またはR
2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、C
1~C
4直鎖または分岐鎖状アルキル基;またはC
1~C
4ハロアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学発光用共反応物。
【請求項3】
前記化学式1は、4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine、4-DMAP)であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学発光用共反応物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の共反応物と電気化学発光標識を含む電解質溶液で満たされた電気化学セル(electrochemical cell);および前記電気化学セルと連結された光検出器(photodector);を含む電気化学発光システム。
【請求項5】
前記電気化学セルは、炭素(carbon)、白金(platinum,Pt)、金(gold,Au)、銀(silver,Ag)、ニッケル(nickel,Ni)、ステンレス(stainless)、パラジウム(palladium)、スズ(tin)、インジウム(indium)、およびケイ素(silicon)元素からなる群から選ばれた1種以上の作用電極を含むことを特徴とする請求項4に記載の電気化学発光システム。
【請求項6】
前記電解質溶液は、リン酸塩緩衝溶液(phosphate buffer saline,PBS)、アセトニトリル(acetonitrile,ACN)、ジクロロメタン(dichloromethane)、エタノール(ethanol)、メタノール(methanol)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide,DMSO)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide,DMF)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)およびプロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学発光システム。
【請求項7】
前記電解質溶液のpHが5~12であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学発光システム。
【請求項8】
前記電気化学発光標識は、遷移金属錯体化合物、発光性有機半導体、量子ドット材料、ペロブスカイトナノ粒子、金属ナノ粒子および炭素ナノ粒子からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学発光システム。
【請求項9】
(a)請求項4に記載の電気化学発光システム内の電気化学セルに試料を含む電解質溶液を入れ、反応させる段階;および
(b)前記段階(a)の反応試料を電気化学発光ベースの検出器で入力電圧による電気化学発光強度(ECL intensity)を測定し、光学信号を検出する段階;
を含む電気化学発光システムの検出方法。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の共反応物;および電気化学発光標識;を含む電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキット。
【請求項11】
前記キットは、リン酸塩緩衝溶液(phosphate buffer saline,PBS)、アセトニトリル(acetonitrile,ACN)、ジクロロメタン(dichloromethane)、エタノール(ethanol);メタノール(methanol)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide,DMSO)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide,DMF)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)およびプロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)からなる群から選ばれた1種以上の電解質溶液を含むことを特徴とする請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記電解質溶液は、pHが5~12であることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記キットは、0mM超20mM以下濃度の4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine)を含むことを特徴とする請求項10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の電気化学発光共反応物およびこれを含む電気化学発光システムに関し、下記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)共反応物(co-reactant)を特定の発光化学種(多環芳香族炭化水素化合物、金属錯体化合物、量子ドット、またはナノ粒子など)を電気化学発光標識として使用して電気化学発光を測定するとき、非常に優れた検出信号を有し、電圧印加条件の改善が可能で、免疫分析法およびそれに基づく診断機器、および化学分析法とそれに基づく一般診断機器に広く適用することができる。
【0002】
【0003】
上記化学式1中、前記R1またはR2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子;C1~C6直鎖または分岐鎖または環状アルキル基;C1~C6アルコキシ基;およびC1~C6ハロアルキル基からなる群から選ばれたいずれか1つを示す。
【背景技術】
【0004】
化学的、生化学および生物学的物質を検出し、定量化する、迅速な、高度に具体的な、敏感かつ正確な方法のために研究が続いて進行している。一般的な生物学的試料内には、特定の分析物の量が非常に少ないため、感度のような分析性能の改善を重要に思う。
【0005】
分析感度を改善するための1つの接近方式は、高感度の光検出に使用できる方法(例:photomultiplier tubes)を利用することである。これと関連して、発光指標分子(luminescent indicator molecules)の使用は、非常に重要な要素と見なされる。例えば、関心分析物(または関心分析物の結合因子)と関連した発光標識を使用して前記分析物(または結合パートナー)の存在を定量的に検出することができる。
【0006】
分析物(analyte)の量は、次に説明するように、分析物が発光の調節を誘導する反応に参加するとき、定量的に決定することができる。詳細には、i)分析物は、他の種と反応して二番目の種の発光特性を調節することができ、ii)分析物自らの発光特性を調節する化学修飾を受けることになり、iii)分析物は、他の種の反応を誘導する触媒(例:酵素)であってもよく、iv)分析物は、種を生成する反応に参加し、その後、発光調節を誘導する後続反応に参加することができる。
【0007】
発光指標分子(luminescent indicator molecules)を検出する方法には、光発光(photoluminescence)、化学発光(chemiluminescence)、および電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)がある。
【0008】
様々な光検出システムのうち、電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)システムは、体積が大きく、高価の光源を要しないので、低価の小型診断システムの構築が可能であり、他の干渉物の背景信号により信号干渉を最小化することができる。
【0009】
より詳細には、電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)は、約1960年に発見された電気的な光発生現象であり、このような現象は、i)電圧印加を通じて特定の発光物質の酸化反応を誘導し、ii)その後、生成された中間反応物質が二次的な化学反応を通じて励起状態の最終産物に変化した後、iii)該励起状態が基底状態に転換されて光を発生させる現象である。このようなECLは、ハイ-エンド(high-end)級の医療免疫診断機器に検出法として使用されている。
【0010】
活用の形態として、電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)に基づく免疫診断機器は、Roche社のElecsys方法を利用するCOBAS(登録商標)診断機器とMesoscale Discovery ECL Systemsシリーズが唯一であり、全世界ハイエンド(high-end)級の免疫診断機器の市場を独占している状況である。これらの方法は、発光体であるルテニウム化合物[Ru(bpy)3
2+]と共反応物であるトリプロピルアミン(tripropylamine,TPA)を使用してECLを発生させるが、問題は、共反応物であるトリプロピルアミンが疎水性(hydrophobic)を呈していて、白金および金電極の条件で発光効率が良くない短所を持っている。さらには、去る60年間の電気化学発光歴史上、まだトリプロピルアミンより優れた発光効率を示す共反応物が不在の状態である。
【0011】
詳細には、トリプロピルアミン(Tripropylamine,TPrA)は、有機性媒体だけでなく、水性媒体および生理的pH7.4でも効率的な電気化学発光(ECL)を許容するので、共反応物として一般的に使用されている。しかしながら、TPrAは、揮発毒性を有していて、高い電気化学発光(ECL)信号を得るために、高濃度(一般的に最大100mM)で使用しなければならないという短所がある。また、TPrAは、電気化学的酸化速度が遅いため、電気化学発光(ECL)効率を制限し、塩基性を呈するので、溶液を製造するためには、高濃度の緩衝溶液(buffer solution)が必要であるという煩雑さがある。また、同一検出信号間のばらつきが比較的大きく、空気中の二酸化炭素と化学反応をする短所を有している。
【0012】
また、ルテニウムピリジン[Ru(bpy)3
2+]およびトリプロピルアミン(TPrA)の電気化学発光(ECL)効率は、電極材料(electrode materials)に依存する。電気化学発光が発生する電位領域で白金(Pt)電極および金(Au)電極は、正極酸化物層で覆われ、これは、トリプロピルアミンの直接酸化を抑制することが明らかにされ、電気化学発光強度がさらに低く算出される。一方、研磨されたガラス状炭素(GC)電極は、トリプロピルアミンの電気化学的酸化速度が相対的に速く、これによって、電極の表面で酸化するトリプロピルアミン量が多くなり、発光強度が格別に高い。
【0013】
このような背景下で、本発明者らは、電気化学発光(ECL)システムの発光強度と検出再現性を向上させることができる新しい共反応物(new electrochemiluminescent co-reactant)を開発しようとした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、血糖、コレステロールセンサー、分子診断、あるいは免疫分析法を介した抗体検出などに広く適用可能な電気化学発光(electrochemiluminescence,ECL)と関連して、共反応物として主に使用されてきている従来のトリプロピルアミンの代わりに、反応が速く、電極物質に影響を少し受け、発光効率に優れた新規の共反応物を開発していたところ、化学式1で表されるピリジン誘導体の場合、ルテニウムピリジンを標識とする電気化学発光システムにおいて発光強度に優れていることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0015】
したがって、本発明の目的は、化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(ECL)共反応物(co-reactant)を提供することにある。
【0016】
また、本発明の他の目的は、前記共反応物;および電気化学発光標識を励起(excitation)させる電気化学発光システムを提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、前記電気化学発光システムを用いた検出方法を提供することである。
【0018】
また、本発明のさらに他の目的は、前記共反応物を含む電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(ECL)共反応物(co-reactant)を提供する。
【0020】
【0021】
上記化学式1中、前記R1またはR2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子;C1~C6直鎖または分岐鎖または環状アルキル基;C1~C6アルコキシ基;およびC1~C6ハロアルキル基からなる群から選ばれたいずれか1つを示す。
【0022】
また、本発明は、前記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(ECL)共反応物および電気化学発光標識を含む電解質溶液で満たされた電気化学セル(electrochemical cell);および前記電気化学セルと連結された光検出器(photodector);を含む電気化学発光システムを提供する。
【0023】
また、本発明は、(a)前記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(ECL)共反応物と電気化学発光標識を含む電気化学発光システムに試料を入れ、反応させる段階;および(b)前記段階(a)の反応試料を電気化学発光ベースの検出器で入力電位(または電圧)による電気化学発光強度(ECL intensity)を測定し、光学信号を検出する段階を含む電気化学発光システムの検出方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、前記共反応物;および電気化学発光標識;を含む電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によるピリジン誘導体は、電気化学発光信号で迅速かつ正確に検出可能にして、従来の共反応物であるトリプロピルアミン(tripropylamine,TPrA)を代替することができる。
【0026】
詳細には、固体化合物として取り扱い性に優れ、発光のための電位(または電圧)条件の改善が可能であり、低濃度の使用で発光効率を改善することができ、免疫分析法などの様々な生体分析において広い応用潜在性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の一具現例として、ポテンショスタット(potentiostat)および光電子増倍管(photomultiplier tube)を含む電気化学発光システムの模式図を示す図である。
【
図2】
図2は、1XPBS(pH7.4)内で5mM共反応物および1μM[Ru(bpy)
3]
2+ルテニウムピリジンを含む電気化学発光システムにおいて循環電圧電流曲線(cyclic voltammogram,CV)を測定した結果である(Scan rate:0.1V/s、WE:GC、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図3】
図3は、1XPBS(pH7.4)内で5mM共反応物および1μM[Ru(bpy)
3]
2+ルテニウムピリジンを含む電気化学発光システムにおいてECL強度を測定した結果である(Scan rate:0.1V/s、WE:GC、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図4】
図4は、1XPBS(pH7.4)で5mM共反応物および1μM[Ru(bpy)
3]
2+を含む電気化学発光システムにおいて循環電圧電流曲線(cyclic voltammogram,CV)を測定した結果である(Scan rate:0.1V/s、WE:Pt、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図5】
図5は、1XPBS(pH7.4)で5mM共反応物および1μM[Ru(bpy)
3]
2+を含む電気化学発光システムにおいてECL強度を測定した結果である(Scan rate:0.1V/s、WE:Pt、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図6】
図6は、1XPBSで4-DMAPおよびTPrA(1~100mM)の濃度による1μM[Ru(bpy)
3]
2+ルテニウムピリジンのECL強度の依存性を示すプロットである(pH7.4)。電位は、0Vから1.6Vまで段階的に増加させた(WE:Pt、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図7】
図7は、1XPBSで4-DMAPおよびTPrAの濃度(1~100mM)による10μM[Ru(bpy)
3]
2+ルテニウムピリジンのECL強度の依存性を示すプロットである(pH7.4)。電位は、0Vから1.6Vまで段階的に増加させた。(WE:Pt、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図8】
図8は、[Ru(bpy)
3]
2+ルテニウムピリジン(1μMおよび10μM)を使用して様々なpH条件でECL強度を測定した結果である(WE:Pt、CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図9】
図9は、アセトニトリル(acetonitrile,ACN)溶液で4-DMAPおよびTPrAを共反応物として使用し、かつ作用電極としてガラス状炭素(A)、白金(B)および金(C)を使用した場合の電気化学発光強度を比較して示したグラフである(CE:Pt、RE:Ag/AgCl)。
【
図10】
図10は、アセトニトリル(acetonitrile,ACN)溶液で4-DMAPを共反応物として使用した状況であるとき、作用電極としてガラス状炭素を使用した場合の線形掃引電位曲線および電気化学発光強度を示すグラフである(CE:Pt、RE:Ag/Ag
+(3MのAgNO
3)、scan rate:0.1V/s)。
【
図11】
図11は、7mMの4-DMAPと7mMトリプロピルアミンを共反応物としてそれぞれ使用したとき、Ru(bpy)
3
2+発光体の濃度変化によって発生する電気化学発光信号の差を較正曲線(calibration curve)形態で得た結果である。
【
図12】
図12は、4-DMAPまたはトリプロピルアミンをそれぞれ共反応物として使用して、ワクチンを接種した10人の唾液サンプルに存在する「重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-2)中和抗体(anti-SARS-CoV-2)」に対する電気化学発光免疫診断を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
電気化学発光は、電極で生成された化合物が励起状態で光を形成するための高エネルギーで電子移動反応しながら現れる発光過程である。電気化学発光に使用される発光標識試薬は、遷移金属錯体化合物、発光性有機半導体、量子ドット材料、ペロブスカイトナノ粒子、金属ナノ粒子または炭素ナノ粒子がある。このような有機および無機発光標識を使用して現在まで生体分析に幅広く応用されている。
【0029】
電気化学発光の基本原理である酸化反応は、反応過程で発光基質および組成物が電極の表面で電子(electrons)を失うことである。電子供与体(electron donor)は、励起状態(excited state)に発光基質を還元する強い還元剤(reducing agent)になるために水素イオン(H+)を失い、その後、前記発光基質は、基底状態(ground state)に戻るために光子(photons)を放出する。この過程は、電極の表面で繰り返し行われ、また、光子は、一般的に基質の濃度を一定に維持するために継続して放出される。
【0030】
一例として、ルテニウムピリジン(ruthenium pyridine)およびトリプロピルアミン(tripropylamine)の電気化学発光システムがある。電気化学発光反応は、電極(electrode)の表面で電気化学(electrochemistry)により誘引される特異的化学発光反応である。抗原-抗体(antigen-antibody)複合体およびルテニウムピリジンの接合体(conjugate)は、トリプロピルアミンの存在下に電気化学により励起(excited)され、酸化還元反応(redox reaction)が光子(photons)を放出するために発生し、これは、光電子増倍管(photomultiplier tube)により感知され得る。この過程は、多くの光子を生産するために繰り返し行われ、これは、光学信号(optical signal)を増幅する。一般的に、電気化学発光分析に使用される標識(labels)は、標識された抗体または抗原を生産するための、異なる化学構造を有する抗体または抗原分子に結合することができる。
【0031】
現在使用可能な電気化学発光法は、主に共反応物(co-reactant)としてトリプロピルアミン(tripropylamine,TPrA)を使用する。TPrAの短所は、液状で、取り扱いが難しく、反応が遅く、高い濃度を必要とし、電極物質により大きく影響を受け、発光効率が制限され、毒性および不安定性の限界がある。
【0032】
本発明者らは、固体化合物4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine、4-DMAP)を電気化学発光の共反応物として使用するとき、発光反応に非常に迅速に関与し、発光効率に優れていることを確認した。
【0033】
したがって、本発明は、下記化学式1で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む電気化学発光(ECL)共反応物(co-reactant)を提供する。
【0034】
【0035】
上記化学式1中、前記R1またはR2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子;C1~C6直鎖または分岐鎖または環状アルキル基;C1~C6アルコキシ基;およびC1~C6ハロアルキル基からなる群から選ばれたいずれか1つを示す。
【0036】
上記化学式1中、前記R1またはR2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、水素原子;ハロゲン原子;C1~C4直鎖または分岐鎖または環状アルキル基;C1~C4アルコキシ基;およびC1~C4ハロアルキル基からなる群から選ばれたいずれか1つを示す。
【0037】
好ましくは、前記R1またはR2は、それぞれ、同じでも異なっていてもよく、C1~C4直鎖または分岐鎖状アルキル基;またはC1~C4ハロアルキル基であってもよい。
【0038】
より好ましくは、前記化学式1は、4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine)であってもよい。
【0039】
また、本発明は、前記共反応物および電気化学発光標識を含む電解質溶液で満たされた電気化学セル(electrochemical cell);および前記電気化学セルと連結された光検出器(photodetector)を含む電気化学発光システムを提供する。
【0040】
前記共反応物は、上記に記述した化学式1の構造を有する化合物である。
【0041】
前記電気化学発光標識は、遷移金属錯体化合物、発光性有機半導体、量子ドット材料、ペロブスカイトナノ粒子、金属ナノ粒子および炭素ナノ粒子からなる群から選ばれた1種以上であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0042】
詳細には、前記遷移金属化合物は、ルテニウム(ruthenium,Ru)、イリジウム(iridium,Ir)、レニウム(rhenium,Re)、白金(platinum,Pt)、オスミウム(osmium,Os)、銅(copper,Cu)、および鉄(iron,Fe)からなる群から選ばれた1種以上を使用することができる。
【0043】
詳細には、前記イオン性遷移金属錯体化合物は、トリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ビス(ヘキサフルオロホスフェート)[tris(2,2’-bipyridine)ruthenium(II)bis(hexafluorophosphate)、Ru(bpy)3(PF6)2]、トリス(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ビス(ヘキサフルオロホスフェート)[tris(4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)ruthenium(II)bis(hexafluorophosphate)、Ru(dp-phen)3(PF6)2]、ビス(2-フェニルピリジン)(2,2’-ジピリジン)イリジウム(III)(ヘキサフルオロホスフェート)[bis(2-phenylpyridine)(2,2’-dipyridine)iridium(III)(hexafluorophosphate)、Ir(ppy)2(bpy)PF6]、ビス(2-フェニルピリジン)(4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジル)イリジウム(III)(ヘキサフルオロホスフェート)[bis(2-phenylpyridine)(4,4’-di-tert-butyl-2,2’-dipyridyl)iridium(III)(hexafluorophosphate)、Ir(dtbbpy)(ppy)2PF6]、4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジル-ビス[2-(2’,4’-ジフルオロフェニル)ピリジン]イリジウム(III)(ヘキサフルオロホスフェート{4’-di-tert-butyl-2,2’-dipyridyl-bis[2-(2’,4’-difluorophenyl)pyridine]iridium(III)(hexafluorophosphate)、Ir(ppy-F2)2(dtbbpy)PF6}、イリジウムビス(5-(トリフルオロメチルフェニル)-2-(4-トリフルオロメチル)フェニル)ピリジン)ピコリネート{Iridium bis[5-(trifluoromethyl)-2-(4-(trifluoromethyl)phenyl)pyridine]picolinate,Ir(ppy-(CF3)2)2(pico)}、イリジウム(III){Tris[2-(p-tolyl)pyridine]iridium(III)、Ir(mppy)3}、1,10-[フェナントロリン]レニウム(I)(ヘキサフルオロホスフェート)[1,10-[phenanthroline]rhenium(I)(hexafluorophosphate)、Re(phen)PF6]、白金(II)コプロポルフィリン[platinum(II)coproporphyrin,PtCP]およびトリス(2,2’-ビピリジン)オスミウム(II)(ヘキサフルオロホスフェート)[tris(2,2’-bipyridine)osmium(II)(hexafluorophosphate)、Os(bpy)3(PF6)2]からなる群から選ばれた1種以上を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0044】
詳細には、前記発光性有機半導体は、発光性単分子または高分子などの発光が可能な共役系有機半導体を含んでもよい。詳細には、ルミノール(luminol)とルブレン(rubrene)およびその誘導体、アントラセン(anthracene)と誘導体、ピレン(pyrene)とその誘導体、ジシクロオキシフェニル置換されたポリ(1,4-フェニレンビニレン)[decycloxyphenyl substituted poly(1,4-phenylene vinylene)、super yellow]、ポリ(2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン)[poly(2-methoxy-5-(2-ethylhexyloxy)-1,4-phenylenevinylene)、MEH-PPV]、ポリ(2-メトキシ-5-(3’,7’-ジメチルオクチルオキシ)-1,4-フェニレンビニル)[poly(2-methoxy-5-(3’,7’-dimethyloctyloxy)-1,4-phenylenevinylene)、MEMO-PPV]、およびポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)[poly(9,9-dioctylfluorene-alt-benzothiadiazole)、F8BT]からなる群から選ばれた1種以上を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0045】
前記量子ドット材料は、13-15族または12-15族元素の無機化合物を含んでもよい。詳細には、前記無機化合物を含む量子ドット材料は、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、リン化インジウム(InP)、硫化鉛(PbS)およびセレン化鉛(PbSe)からなる群から選ばれた1種以上を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0046】
前記ペロブスカイトナノ粒子は、ハライド系ペロブスカイトを含んでもよい。詳細には、前記ハライド系ペロブスカイトは、ABX3、A2BX6またはA3B2X9の化学式で表されるものであってもよい。この際、前記Aは、有機カチオンまたは無機カチオンであってもよく、前記Bは、金属カチオンであってもよく、前記Xは、ハライドアニオンであってもよい。
【0047】
前記金属ナノ粒子は、不連続エネルギーレベルを示す1nm以下の寸法を有する金属原子クラスターを含んでもよい。詳細には、金(Au)ナノ粒子、銀(Ag)、銅(Cu)、または銀(Ag)-金(Au)二元金属ナノ粒子を含んでもよい。
【0048】
前記炭素粒子は、グラフェン量子ドット(GQD)またはカーボン量子ドット(CQD)を含んでもよいが、これらに制限されるものではない。
【0049】
また、前記電解質溶液は、塩(salt)および水、有機溶媒を含む液体電解質;高分子に塩(salt)が溶解した固体電解質;高分子、塩(salt)および水、有機溶媒を含むゲル状電解質;またはブロック共重合体(block copolymer)およびイオン性液体(ionic liquid)を含むイオンゲル(ion gel)電解質;を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。前記塩(salt)は、有・無機イオン化合物塩であり、リン酸塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などの群から選ばれたいずれか1つまたは2つ以上の混合物を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0050】
詳細には、本発明の電気化学発光システムにおいて使用する電解質溶液は、リン酸塩緩衝溶液(phosphate buffer saline,PBS)、トリス緩衝溶液(Tris buffer solution)、アセトニトリル(acetonitrile,ACN)、ジクロロメタン(dichloromethane)、エタノール(ethanol)、メタノール(methanol)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide,DMSO)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide,DMF)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)およびプロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)からなる群から選ばれた1種以上の水あるいは有機溶媒を含む溶液であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0051】
前記電解質溶液のpHが5~12であってもよく、好ましくは、7.4~10である。
【0052】
図1は、本発明による電気化学発光の測定を行うための電気化学発光システムを示す一具現例であり、電解質溶液を含む電気化学セル(electrochemical cell)、ポテンシオスタット(potentiostat)および光電子増倍管(PMT)を含む。この際、光電子増倍管(PMT)は、ポテンシオスタットと連結され、同時に駆動する。したがって、電気化学発光の測定のために、ポテンシオスタットを利用して電気化学セル(electrochemical cell)における反応を誘導することによって、電気化学発光反応を引き起こすことができる。電気化学発光の測定のために、ポテンシオスタットと電気化学発光測定ソフトウェアを実行して、電気化学発光の発光強度などを測定することができる。
【0053】
前記電気化学セルを構成する電極は、作用電極、基準電極、対電極を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0054】
前記作用電極は、炭素(carbon)、白金(platinum,Pt)、金(gold,Au)、銀(silver,Ag)、ニッケル(nickel,Ni)、ステンレス(stainless)、パラジウム(palladium)、スズ(tin)、インジウム(indium)、およびケイ素(silicon)元素からなる群から選ばれた1種以上の電極であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0055】
前記対電極は、炭素(carbon)、白金(platinum,Pt)、金(gold,Au)、銀(silver,Ag)、ニッケル(nickel,Ni)、ステンレス(stainless)、パラジウム(palladium)、スズ(tin)、インジウム(indium)、およびケイ素(silicon)元素からなる群から選ばれた1種以上の電極であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0056】
前記基準電極は、銀(silver,Ag)ベースの銀擬似基準電極(Ag pseudo-reference)、Ag/AgCl電極、Ag/AgNO3電極、水銀(mercury,Hg)カロメル電極、Hg/HgO電極、およびHg2SO4電極からなる群から選ばれた1種以上であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0057】
また、本発明は、(a)前記電気化学発光システム内電気化学セルに試料を含む電解質溶液を入れ、反応させる段階;および(b)前記段階(a)の反応試料を電気化学発光ベースの検出器で入力電圧による電気化学発光強度(ECL intensity)を測定し、光学信号を検出する段階を含む電気化学発光システムの検出方法を提供する。
【0058】
前記段階(a)は、共反応物および電気化学発光標識であるルテニウムピリジン(ruthenium pyridine)を含む電解質溶液に試料を入れ、反応させる段階であり、前記試料は、血清、尿、または組織液であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0059】
前記段階(b)は、前記段階(a)の反応試料を電気化学発光ベースの光検出器で入力電位(あるいは電圧)による電気化学発光強度(ECL intensity)を測定する段階である。このような発光を測定するための装備である光検出器には、様々な種類がある。一例として、前記光検出器は、ケイ素、ゲルマニウム、ゲルマニウム-リン化物、インジウム-ガリウム-ヒ化物、鉛-硫化物ベースのフォトダイオード(photodiode);光電子増倍管(photomultiplier tube,PMT);電荷結合素子(charge coupled device,CCD);電子増倍電荷結合素子(electron-multiplying charge coupled device,EMCCD);および科学的相補型金属酸化膜半導体(scientific complementary metal-oxide-semiconductor,sCMOS)からなる群から選ばれた1種以上であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0060】
また、本発明では、電気化学方法を用いて電気化学発光免疫分析検出方法を提供することができる。したがって、本発明は、前記共反応物;および電気化学発光標識を含む電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキットを提供する。
【0061】
詳細には、本発明の電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキットは、電解質溶液を含んでもよく、前記電解質溶液は、リン酸塩緩衝溶液(phosphate buffer saline,PBS)、トリス緩衝溶液(Tris buffer solution)、アセトニトリル(acetonitrile,ACN)、ジクロロメタン(dichloromethane)、エタノール(ethanol)、メタノール(methanol)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide,DMSO)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide,DMF)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)およびプロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)からなる群から選ばれた1種以上の水あるいは有機溶媒を含む溶液であってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0062】
前記電解質溶液のpHが5~12であってもよく、好ましくは、7.4~10である。
【0063】
また、前記キットは、0mM超20mM以下、0mM超15mM以下、0mM超10mM以下または0mM超7mM以下濃度の4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine)を含んでもよい。
【0064】
本発明の一具現例として、抗原または抗体を標識するために、ルテニウム化合物を含んだ電気化学発光標識が使用され、また、免疫反応およびECL反応による電気化学発光免疫分析を行うことができる。電極の表面で電気化学により誘引される特異的化学発光反応のために、抗体(Ab)は、電気化学発光試薬であるルテニウムピリジンにより標識され、担体(carrier)は、サンプルで相当する抗原または抗体を有し、免疫反応の特定方式により複合体を形成する抗原または抗体でコートされる。標識が接合された複合体は、分離技術により自由標識(free labels)から分離される。抗原(Ag)または抗体(Ab)は、電極からルテニウムピリジンの発光強度によって定量的または定性的に測定することができる。共反応物であるピリジン誘導体は、電気化学セルに流入し、電圧は、ECL反応を始めるために印加されてもよい。
【0065】
本発明による電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキットは、診断機器に適用するとき、抗原および抗体の量を非常に節約することができる。本発明によるピリジン誘導体とルテニウムピリジン間の電気化学反応によるECL発光強度は、トリプロピルアミンを使用することと比較して、20倍以上優れているところ、非常に小さい量の抗原および抗体を使用しても検出することができ、したがって、抗体の量を効率的に低減することができる。また、キットまたは分析機器の価格は相対的に安くなる。
【0066】
また、本発明による電気化学発光免疫分析または分子診断のためのキットは、トリプロピルアミンを使用することと比較して、分析物(analyte)に対するさらに優れた検出信号と優れた検出感度を獲得することができる。
【0067】
前述したように、本発明による化学式1で表されるピリジン誘導体は、電気化学発光標識であるルテニウムピリジンと共反応し、発光強度を顕著に上昇させることによって、免疫分析法など体外診断機器に広く適用することができる。
【0068】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、ただ本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、下記実施例により本発明の内容が限定されるわけではない。
【0069】
<実験例>共通実験および測定方法
実施例のECL検出装置で電気化学発光の測定を始める前に、セルを洗浄液(エタノールおよび水およびN2ガスで乾燥)で洗浄した。作用電極の表面も、アルミナ(0.05μm)スラリーで研磨し、脱イオン水(DI)とエタノールの混合物(1:1v/v)で5分内に超音波処理し、洗浄し、N2ガスで乾燥した。
【0070】
洗浄後、電気化学セルは、電解質溶液で満たされ、光電子増倍管(PMT)に付着された。次に、作用電極と基準電極との間に電源を供給して電圧を印加し、これを通じて、セルの液体試料に制御信号によりあらかじめ定められた電流が充電され、作用電極で反応が始まった。作用電極で生成されたECL光は、光電子増倍管(PMT)を通過し、作用電極に対するECL反応からECL光は、電気化学セル(electrochemical cell)の上と隣接して位置する光電子増倍管(PMT)のような光学検出器で感知された。また、本体は、マクシ形式の図で図示しない暗室環境で完全に取り囲まれており、これを通じて、光電子増倍管(PMT)は、外部干渉なしで、セルで生成されたECL光を受けることができる。
【0071】
図1は、本発明による電気化学発光の測定を行うための電気化学発光システムを示す一具現例であり、電気化学発光の測定のためにポテンシオスタットを利用して電気化学セル(electrochemical cell)における反応を誘導し、ポテンシオスタットと電気化学発光測定ソフトウェアを実行し、電気化学発光の発光強度などを測定することができる。
【0072】
詳細には、本発明者らは、実験を通じて新しく発見された共反応物である4-DMAPの性能と影響力ある媒介変数を調査し、従来の共反応物であるTPrAおよびDBAEと性能を比較した。ECL発光の測定は、7mLの電解質をセルに供給し、電極に電位を加えて行われ、ECL光の強度は、光電子増倍管(PMT)を使用して記録された。
【0073】
また、電位制御を介したECL検出方法は、0.1V/secの速度で0Vから1.6Vまで掃引して行われた。上記の電圧値は、作用電極(ガラス状炭素電極、白金電極または金電極)と基準電極(Ag/AgClまたはAg/Ag+)との間に割り当てられた。以下では、すべての重要な媒介変数を列挙した。
【実施例1】
【0074】
様々な電気化学発光共反応物の電気化学的挙動の確認
電気化学発光標識であるRu(bpy)
3
2+、電気化学発光共反応物であるトリプロピルアミン(tripropylamine,TPrA)、ジブチルエタノールアミン(dimethyl ethanolamine,DBAE)、4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine、4-DMAP)と溶媒であるリン酸塩緩衝溶液(PBS)、アセトニトリル(ACN)をそれぞれ準備した。これらを混合してそれぞれのサンプルを製造し、これらのサンプルに対して循環電圧電流曲線(cyclic voltammogram,CV)およびECLを測定し、記録した。この際、ポテンシオスタット(potentiostat)を使用して実験を行った。電圧スキャンは、0.1V/sの速度で0.0Vから始まった。この際、作用電極(Working electrode)としてガラス状炭素電極、白金電極および銀電極を使用し、基準電極(Reference electrode)としてAg/AgClまたはAg/AgNO
3を使用した。上限電圧は、1.6Vであり、低い電圧限界は、0Vであり、最終電圧は、0Vであった。様々な電気化学発光共反応物の電気化学的挙動を測定し、
図2~
図5に示した。
【0075】
図2および
図3は、PBS内で0Vから1.6Vの間の周期的電位スキャニング中にガラス状炭素材質を作用電極として使用したRu(bpy)
3
2+/TPrAおよびRu(bpy)
3
2+/4-DMAPの電気化学発光システムに対して循環電圧電流曲線(cyclic voltammogram,CV)およびECL強度を測定し、それぞれ示した結果である。
図2および
図3の結果、Ru(bpy)
3
2+/4-DMAPのECL強度は、Ru(bpy)
3
2+/TPrAより高いことを確認することができた。
【0076】
なお、
図4および
図5は、PBS内で0Vから1.6Vの間の周期的電位スキャニング中に白金材質を作用電極として使用したRu(bpy)
3
2+/TPrAおよびRu(bpy)
3
2+/4-DMAPの電気化学発光システムに対して循環電圧電流曲線(cyclic voltammogram,CV)およびECL強度を測定し、それぞれ示した結果である。
【0077】
図4および
図5の結果、Ru(bpy)
3
2+/4-DMAPの陽極電流は、Ru(bpy)
3
2+/TPrAの陽極電流より高いことを確認することができた。また、Ru(bpy)
3
2+/4-DMAPのECL強度は、Ru(bpy)
3
2+/TPrAのECL強度より非常に高かった。
【0078】
このような結果を通じて、白金電極がリン酸塩緩衝食塩水(PBS)内で4-DMAP酸化に最も有利な作用電極であることを確認でき、その次にガラス状炭素電極が引き続くことを確認することができた。
【実施例2】
【0079】
電気化学発光共反応物の濃度によるECL特性
PBS内サンプルをRu(bpy)
3
2+の濃度を一定に維持しつつ、電気化学発光共反応物である4-DMAPの濃度を異ならせて、サンプル溶液を準備した。電圧スキャンは、実施例1に記述されたものと同じ手続きを使用して行い、電気化学発光強度は、電気化学発光共反応物の各濃度に対して3回読み取って測定した。測定結果を
図6に示した。
【0080】
図6は、白金電極を作用電極として使用して、4-DMAP濃度によるECL強度を測定した結果である。ECL強度は、0超~5mM以下の濃度範囲で4-DMAPを使用するときに顕著に増加することを確認することができた。しかしながら、4-DMAP濃度が5mMより高いと、ECL強度が減少したところ、最適な濃度が5mM以下であることを確認することができた。なお、TPrAの場合、TPrA濃度が増加すると、ECL強度が続いて増加することを確認することができた。
【0081】
このような結果を通じて、電気化学共反応物質として4-DMAPを使用する場合、0mM超5mM以下の濃度範囲で使用することが、最も優れた発光強度を有することを確認することができた。
【実施例3】
【0082】
様々なRu(bpy)
3
2+の濃度による電気化学発光共反応物のECL特性
様々な濃度を有するRu(bpy)
3
2+を含むPBSのサンプルを準備した。電圧スキャンは、実施例1に記述したのと同じ手続きを使用して行った。Ru(bpy)
3
2+の各濃度による電気化学発光強度を測定し、その結果を
図7に示した。
図7の結果、作用電極として白金(Pt)電極を使用し、10μMのRu(bpy)
3
2+および7mMの4-DMAPの濃度で使用してECLを測定するとき、強度の最も高い値を示し、4-DMAP濃度が7mMを超えると、減少することを確認することができた。
【0083】
総合して見れば、10μMのRu(bpy)3
2+を含むPBS溶液で共反応物である4-DMAPの使用濃度は、7mM内外が最も適切であることが分かった。
【実施例4】
【0084】
pHによる電気化学発光共反応物のECL特性
様々なpH値で電気化学発光共反応物のECL特性を確認しようとした。pHが5から12に変化したことを除いて、一定の濃度のRu(bpy)
3
2+を含むPBSサンプルに対して電気化学発光共反応物による電気化学発光を測定した。電圧スキャンは、実施例1に記述したのと同じ手続きを使用して行った。異なるpH値に対して電気化学発光強度を3回測定し、その結果を
図8に示した。
【0085】
図8は、互いに異なるpH値で4-DMAP性能を調査した結果であり、1μMのRu(bpy)
3
2+と5mMの4-DMAPの使用時にpH7.4~10の範囲が4-DMAP性能のための最も最適なpH範囲であることを確認することができた。同様に、10μMのRu(bpy)
3
2+および7mMの4-DMAPを使用するとき、pH値が7.4未満、10以上である場合、ECL強度が劣ることを観察することができた。したがって、最適なpHが7.4~10であることを確認することができた。
【実施例5】
【0086】
様々な溶媒下で電気化学発光共反応物のECL特性
PBS溶液の代わりにアセトニトリル(ACN)溶液を使用して試料サンプルを準備した。
【0087】
図9は、PBSの代わりにアセトニトリル(ACN)溶液を使用して電気化学発光強度を測定した結果である。ガラス状炭素電極(
図9A)、白金電極(
図9B)および金電極(
図9C)をそれぞれ作用電極として使用した場合、比較的低い濃度である3mM、5mM、7mMにおけるRu(bpy)
3
2+/4-DMAPのECL強度が、Ru(bpy)
3
2+/TPrAより高いことを確認することができた。
【実施例6】
【0088】
様々な発光物質による電気化学発光共反応物のECL特性
電気化学発光標識としてイリジウムベースの遷移金属錯体化合物イリジウムビス(5-(トリフルオロメチルフェニル)-2-(4-トリフルオロメチル)フェニル)ピリジン)ピコリネート{Iridium bis[5-(trifluoromethyl)-2-(4-(trifluoromethyl)phenyl)pyridine]picolinate,(Ir(ppy-(CF3)2)2(pico)}、ビス(2-フェニルピリジン)(4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジル)イリジウム(III)(ヘキサフルオロホスフェート)[bis(2-phenylpyridine)(4,4’-di-tert-butyl-2,2’-dipyridyl)iridium(III)(hexafluorophosphate)、Ir(dtbbpy)(ppy)2PF6]、トリス[2-(p-トリル)ピリジン]イリジウム(III){Tris[2-(p-tolyl)pyridine]iridium(III)、Ir(mppy)3}と4-ジメチルアミノピリジン(4-Dimethylaminopyridine、4-DMAP)と支持電解質であるテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(tetrabutylammonium hexafluorophosphate,TBAPF6)をアセトニトリルに混合し、それぞれのサンプルを製造した。これらのサンプルは、酸素および水分により発光特性が非常に敏感に影響を受けるので、測定は、窒素環境のグローブボックス下で進行された。
【0089】
これらのサンプルに対して線形掃引電位曲線(linear sweep voltammogram,LSV)およびECLを測定し、記録した。掃引速度は、0.1V/sの速度で0.0Vから始まり、2.0V内の電圧範囲で掃引した。この際、作用電極としては、ガラス状炭素電極を使用し、基準電極としてAg/Ag
+(3MのAgNO
3)、補助電極としてPtを使用し、その結果を
図10に示した。
【0090】
図10は、アセトニトリル(ACN)溶液で4-DMAPを共反応物およびイリジウム系遷移金属錯体化合物を使用し、作用電極としてガラス状炭素を使用した場合の線形掃引電位曲線および電気化学発光強度を示した結果である。
図10の結果、イリジウム系遷移金属錯体化合物を電気化学発光標識として使用した場合にも、ECL強度が高く現れ、陽極電流も高いことを確認した。
【0091】
このような結果を通じて、電気化学発光標識は、様々な種類の遷移金属錯体化合物を利用できることが分かる。
【実施例7】
【0092】
電気化学発光共反応物を用いたRu(bpy)3
2+の濃度によるECL検出曲線の比較
7mM濃度の共反応物を含むPBS溶液をそれぞれ準備し、Ru(bpy)3
2+の濃度を変化させたときに発生する電気化学発光信号を観察した。電圧スキャンは、実施例1に記述したのと同じ手続きを使用して行った。電気化学発光強度は、それぞれの条件で3回読み取って測定した。
【0093】
図11は、4-DMAPとトリプロピルアミンを共反応物として使用するそれぞれの溶液でRu(bpy)
3
2+の濃度によって発生する電気化学発光強度である。トリプロピルアミン共反応物の場合(右側、黒色グラフ)、0-10nMの濃度範囲のRu(bpy)
3
2+に対して電気化学発光検出信号を得ることができ、Ru(bpy)
3
2+の検出限界(Limit of Detection,LOD)は、0.63nM(630pM)であった。一方、4-DMAPの場合、0-0.1nM濃度のRu(bpy)
3
2+に対して高い電気化学発光信号を示し、検出限界は、0.0415nM(41.5pM)であり、トリプロピルアミンと比べて15倍以上優れた検出感度を示す。
【0094】
このような結果を通じて、トリプロピルアミンと比べてさらに低い濃度の発光体に対して電気化学発光信号を提供することができ、これを通じて、免疫診断または分子診断に使用された場合、さらに優れた検出感度を提供できることが分かる。
【実施例8】
【0095】
電気化学発光共反応物を用いたRu(bpy)3
2+の濃度によるECL検出曲線の比較
4-DMAPとトリプロピルアミンを共反応物としてそれぞれ使用してヒトの唾液に存在する「重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-2)中和抗体(anti-SARS-CoV-2)」に対する電気化学発光免疫診断を行った。ワクチンを接種した10人の唾液標本を収集し、全3段階の電気化学免疫分析を実施した。段階1)遠心分離したヒト唾液(human saliva)の30μL上澄み液を、あらかじめ準備したSARS-CoV-2抗原付き磁気ビーズ(magnetic bead、直径2μm)試薬(捕捉試薬)と混ぜる。この段階でヒト唾液に存在する中和抗体は、磁気ビーズにあらかじめ固定された抗原とサンドイッチ免疫接合体を形成する。ii)この混合液を30分間培養(incubation、37℃)した後、磁気ビーズのみを採取して、PBSで2回洗浄する。その後、これらをRu(bpy)3
2+標識が付着した5μg/mLのhuman IgG抗体試薬30uL(ECL信号発生試薬)と混合する。iii)次に、上記ii)の混合液から磁気ビーズのみを収集し、金印刷電極の上に捕集する。電極表面の磁気ビーズに7mMのDMAPあるいは7mMのトリプロピルアミン緩衝溶液(PBS)を滴下し、それぞれに電圧を印加して、電気化学発光信号を測定する。
【0096】
図12は、ワクチンを接種した10人の唾液サンプルを用いたanti-SARS-CoV-2中和抗体に対する電気化学免疫診断のおいて、4-DMAPを共反応物として使用した場合と、トリプロピルアミンを共反応物として使用した場合に測定される電気化学発光信号の強度を示す。その結果、同じ10個の唾液試料に対して4-DMAPを共反応物として使用した場合が、トリプロピルアミンと比べて15倍以上優れた検出信号を示すことことが分かった。
【0097】
これを通じて、電気化学発光免疫診断あるいは分子診断において4-DMAPを共反応物として使用した場合、さらに優れた検出感度が得られることが分かる。
【0098】
したがって、本発明による化学式1で表されるピリジン誘導体とルテニウムピリジン間の発光強度は、トリプロピルアミンを使用することによって得られるものの最小20倍以上で発光感度に優れていることを確認することができた。したがって、従来の共反応物であるトリプロピルアミンを代替することができ、発光のための電圧調節が可能で、発光効率を改善できるところ、免疫分析法などの様々な生体分析において広い応用潜在性を提供することができる。
【0099】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は、単に好適な具現例であり、これに本発明の範囲が制限されるものではない点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物により定義されるといえる。
【国際調査報告】