(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】クローン病関連T細胞受容体に関する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20240403BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20240403BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240403BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/606 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/4402 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240403BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240403BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240403BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240403BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240403BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240403BHJP
G16B 30/00 20190101ALI20240403BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/04
A61K45/00
A61K31/573
A61K31/606
A61K31/4402
A61K31/52
A61K31/519
A61K45/06
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P1/04
A61P37/06
A61P31/04
G16B30/00
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554874
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 US2022019938
(87)【国際公開番号】W WO2022192662
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514278577
【氏名又は名称】アダプティブ バイオテクノロジーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ロビンス、 ハーラン エス.
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー、 トーマス エム.
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ02
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4B063QS14
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4C084AA17
4C084AA19
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4C086AA01
4C086BC17
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4C086CB09
4C086DA11
4C086DA17
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB08
4C086ZB11
(57)【要約】
T細胞受容体β鎖相補決定領域3(TCRβ CDR3)配列を評価するための方法が提供される。特定の実施形態において、評価することの前に、対象は、炎症性腸疾患(IBD)を有すると特定されている、または有することが疑われる。一部の実施形態によれば、評価することの時に、対象は、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を有する。また、本開示に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖(TCRβ)を発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む方法が提供される。TCRβ CDR3配列を評価するためのコンピュータ可読媒体およびシステムも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体β鎖相補決定領域3(TCRβ CDR3)配列を評価するためのコンピュータ実施方法であって、
配列番号1~1996に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価することを含む、コンピュータ実施方法。
【請求項2】
配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、前記対象から取得した前記試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価することを含む、請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項3】
前記評価することの前に、前記対象が、炎症性腸疾患(IBD)を有すると特定されている、または有することが疑われる、請求項1または請求項2に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項4】
前記対象が、前記評価することの時に、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項5】
前記一つ以上の非特異的症状が、下痢、疲労、腹痛、腹部疝痛、直腸出血、意図しない体重減少、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項6】
前記対象から取得した前記試料から決定された前記TCRβ CDR3配列が、10,000個以上のTCRβ CDR3配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項7】
前記対象から取得した前記試料から決定された前記TCRβ CDR3配列が、前記対象から取得した前記試料中に存在するゲノムDNAの増幅およびハイスループットシーケンシングを実施することによって決定された、請求項1~6のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項8】
前記対象から取得した前記試料が、末梢血試料である、請求項1~7のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項9】
前記対象から取得した前記試料が、腸組織試料である、請求項1~7のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項10】
配列番号1~1996に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖(TCRβ)を発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む方法。
【請求項11】
配列番号1~1281に記載されるTCRβ CDR3配列を含むTCRβを発現するT細胞を含むと特定された対象に、前記クローン病療法を実施することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記クローン病療法が、治療上有効な量の抗炎症薬を前記対象に投与することを含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記クローン病療法が、治療上有効な量のコルチコステロイドを前記対象に投与することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記コルチコステロイドが、プレドニゾン、ブデソニド、またはそれらの組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記クローン病療法が、治療上有効な量の5-アミノサリチル酸塩を前記対象に投与することを含む、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記5-アミノサリチル酸塩が、スルファサラジン、メサラミン、またはそれらの組み合わせである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記クローン病療法が、治療上有効な量の免疫抑制剤を前記対象に投与することを含む、請求項10~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫抑制剤が、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサート、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記クローン病療法が、治療上有効な量のモノクローナル抗体を前記対象に投与することを含む、請求項10~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記モノクローナル抗体が、ナタリズマブ、ベドリズマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ウステキヌマブ、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記クローン病療法が、治療上有効な量の抗生物質を前記対象に投与することを含む、請求項10~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象に前記クローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと前記対象が特定されたことに基づいて、前記対象が、潰瘍性大腸炎ではなく、クローン病を有すると特定することをさらに含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項23】
前記対象に前記クローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと前記対象が特定されたことに基づいて、前記対象が、過敏性腸症候群ではなく、クローン病を有すると特定することをさらに含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項24】
前記対象に前記クローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと前記対象が特定されたことに基づいて、前記対象が、セリアック病ではなく、クローン病を有すると特定することをさらに含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項25】
前記クローン病療法が、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、および/またはセリアック病ではなく、クローン病に適した療法である、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象に前記クローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと前記対象が特定されたことに基づいて、前記対象が、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病を有すると特定することをさらに含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項27】
前記クローン病療法が、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病に適した療法である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記対象に前記クローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと前記対象が特定されたことに基づいて、前記対象が、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病を有すると特定することをさらに含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項29】
前記クローン病療法が、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病に適した療法である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項31】
配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される5個以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、請求項30に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項32】
配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される10個以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、請求項30に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項33】
配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される100個以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、請求項30に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項34】
TCRβ CDR3配列を評価するためのシステムであって、
一つ以上のプロセッサと、
その上に格納された命令を含む一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記命令が、前記一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、前記一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価させる、一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体と、を含むシステム。
【請求項35】
前記対象から取得した前記試料から決定された前記TCRβ CDR3配列が、10,000個以上のTCRβ CDR3配列を含む、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記命令が、前記一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、前記一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される5個以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、前記決定されたTCRβ配列を評価させる、請求項34または請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記命令が、前記一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、前記一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される10個以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、前記決定されたTCRβ配列を評価させる、請求項34または請求項35に記載のシステム。
【請求項38】
前記命令が、前記一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、前記一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される100個以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、前記決定されたTCRβ配列を評価させる、請求項34または請求項35に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月12日に出願された米国仮特許出願第63/160,213号の利益を主張するものであり、その出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
序論
抗原特異的細胞性免疫反応は、T細胞およびB細胞の多様な集団によって媒介され、各々が、特定の抗原(T細胞の場合、宿主細胞の表面上の特定の主要組織適合複合体(MHC)分子に結合した抗原ペプチド)を認識する能力を有する免疫細胞受容体(それぞれ、TCRおよびBCR)を有する。抗原との遭遇は、T細胞およびB細胞のクローン増殖、活性化、および成熟をもたらし、それぞれ、細胞傷害性(CD8+CTL)およびヘルパー(CD4+)T細胞、または抗体およびメモリーB細胞のエフェクター集団をもたらす。抗原特異的エフェクター細胞の存在は、その抗原に特異的な免疫反応の診断に役立つ。
【0003】
活性化T細胞は、クローン増殖によって増殖し、メモリーT細胞コンパートメント内に、同祖的な再構成されたTCR遺伝子を有する細胞(クローン)のクローン集団として長年にわたって存在する(Arstila T P, et al. A direct estimate of the human alpha/beta T cell receptor diversity, Science 286: 958-961)。
【0004】
TCR多様性の大部分は、TCRアルファ/ベータヘテロダイマーのベータ鎖に存在する。非常に大きな多様性は、非隣接のTCRβ可変(V)、多様性(D)、および連結(J)領域遺伝子セグメントを組み合わせることによって生成され、これは抗原特異性を決定するためのTCRβ遺伝子座の一次領域であるCDR3領域を集合的にコードする。Vβ-DβおよびDβ-Jβ接合部での再構成中のヌクレオチドの欠失およびテンプレート非依存性の挿入は、コードされうる受容体の潜在的な多様性をさらに増加させる(Cabaniols JP, et al. Most alpha/beta T cell receptor diversity is due to terminal deoxynucleotidyl transferase, J Exp Med 194: 1385-1390, 2001)。典型的には、所与の時点で、健康な免疫システムを有する成人は、その1012個の循環T細胞上に約1000万個の固有のTCRβ鎖を発現する(Robins HS, et al. (2009)Comprehensive assessment of T-cell receptor beta-chain diversity in alpha/beta T cells,Blood 114:4099-4107)。
【0005】
それ故に、ヒトT細胞レパートリーは、その受容体をコードする遺伝子の再構成を介して疾患関連抗原への曝露を動的にコードするから、診断予測を行うための優れた根拠を提供する。ヒト対象からの末梢血試料中のTCRβ受容体を用いて、疾患への曝露の状態を予測できることが実証されている。すなわち、トレーニングコホートにおけるこうした受容体の存在および存在量に基づく(Emerson et al., Immunosequencing identifies signatures of cytomegalovirus exposure history and HLA-mediated effects on the T cell repertoire, Nature Genetics April 2017; doi:10.1038/ng.3822)。
【0006】
炎症性腸疾患(IBD)は、免疫介在性の慢性の再発性炎症状態である。IBDは、通常は腸内共生菌などの環境因子のために、遺伝的に感受性の高い人における顕著な免疫反応に起因すると考えられる。IBDはどの年齢でも診断されうるが、診断の大半は20歳から30歳の間でなされ、IBD診断の2番目のピークは60代または70代の間に起こる。IBDの早期発症、IBDに関連する重篤な症状、疾患の不安定な自然経過、入院回数、および治癒の欠如により、IBDの診断は患者の生活の質に著しい影響を与える。
【0007】
IBDは、消化管の慢性炎症を伴う障害を記述するために使用される総称である。IBDの種類には、クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)が含まれる。クローン病は、消化管の内層の炎症を特徴とし、多くの場合、消化管のより深い層が関与する。潰瘍性大腸炎は、大腸(結腸)および直腸の表面内層に沿った炎症およびただれ(潰瘍)を伴う。
【0008】
クローン病および潰瘍性大腸炎は両方とも、下痢、疲労、腹痛および腹部疝痛、直腸出血(便中の血液)、ならびに意図しない体重減少を特徴とする。IBDが主に結腸に関与する場合、クローン病と潰瘍性大腸炎の区別は特に困難である。不正確な診断は、IBD患者の30%で発生すると推定される。症例の大半では、診断の不確実性は、臨床的特徴および組織学的特徴の重複から生じ、クローン病が潰瘍性大腸炎のように見える。クローン病と潰瘍性大腸炎の区別は、臨床的、放射線学的、内視鏡的、および病理組織学的解釈の、しばしば不正確な編集に依存する。
【0009】
IBD患者の推定15%は、一つ以上の臨床、放射線、血清、および病理検査後に識別不能であり、「分類不能大腸炎」(IC)と標される。潰瘍性大腸炎の初期診断(病理学者の内視鏡生検および結腸切除術標本の初回指定に基づく)により嚢手術を受ける結腸IBD症例の別の15%は、臨床的および病理組織学的変化が回腸嚢におけるクローン病の発症を示す場合、術後の経過観察に基づいて、その潰瘍性大腸炎の診断をクローン病に変更する。これらの患者の半数は、嚢切除または変向を必要とすることになる。
【0010】
クローン病と潰瘍性大腸炎を区別することは、適切な療法を知らせるために重要である。例えば、肛門温存大腸切除術(RPC)は、クローン病患者には禁忌であるべきであるのに対し、回腸嚢肛門吻合(IPAA)は、潰瘍性大腸炎患者、および潰瘍性大腸炎を発症する可能性が予測される分類不能大腸炎患者に対する標準的な許容可能な治療である。
【0011】
クローン病と潰瘍性大腸炎を正確に区別できるバイオマーカーの特定には、大きな関心が集まっている。クローン病と潰瘍性大腸炎を区別するための潜在的関連性を有するバイオマーカーの特定についての研究は、ほとんど成果を挙げていない。血清中のこうしたバイオマーカーには、胎盤成長因子-1(PLGF-1)、IL-7、TQRb1、およびIL-12P40が含まれる。粘膜から得られた生検では、それらには、Rho GD1a、デスモグレイン、プレクストリン、VDAC(電位依存性陰イオンチャネル)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-コエンザイムAレダクターゼ(HMG-CoA)、およびC10orf76が含まれる。便中のバイオマーカーには、カルプロテクチン、PMNエラスターゼ、ラクトフェリン、およびS100A12が含まれる。これらのバイオマーカーの特定は、当該分野における進歩を表すが、これらが、クローン病の診断および/またはクローン病と潰瘍性大腸炎との線引きをするための根拠を正確に形成することは示されていない。
【0012】
現在の診断の欠陥、および不正確な診断による潜在的な病的状態(例えば、不必要なおよび/または不適切な外科的介入)は、クローン病またはそのサブタイプに対する感度および特異性が改善された、クローン病のより正確な診断および/またはクローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別診断を可能にする、新しい診断アプローチに対する必要性を強調している。
【発明の概要】
【0013】
概要
T細胞受容体β鎖相補決定領域3(TCRβ CDR3)配列を評価するための方法が提供される。特定の実施形態において、評価することの前に、対象は、炎症性腸疾患(IBD)を有すると特定されている、または有することが疑われる。一部の実施形態によれば、評価することの時に、対象は、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を有する。また、本開示に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖(TCRβ)を発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む方法が提供される。TCRβ CDR3配列を評価するためのコンピュータ可読媒体およびシステムも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】対照(健康な成人)からクローン病患者を区別するクローン病関連TCRβ配列の特定を示すデータである。
【
図2】強力なシグナルが、クローン病患者のみについて観察され、試験された他の健康/疾患群では観察されなかった、ホールドアウトデータセットのモデル性能を示すデータである。
【
図3】クローン病関連TCRβ配列がクラスター化し、クローン病患者では収束的な組み換えを示すが、対照では示さないことを示す概略図およびデータである。
【
図4】クローン病関連TCRβ配列における血液試料と組織試料の間の重なりを示すデータである。
【
図5】クローン病の高い感度、無関係な状態に対する高い特異性、ならびにより複雑な疾患(狭窄/瘻孔形成)におけるシグナルの有意差、および結腸位置に対して回腸/回腸結腸位置におけるシグナルの有意差を含む、クローン病の大規模データセットでトレーニングされた分類モデルの性能を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本方法は記載される特定の実施形態に限定されず、なぜならこうしたものは当然変化しうることが、本開示の方法をより詳細に説明する前に理解されるべきである。また、本方法の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記述することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0016】
値の範囲が提供される場合、文脈で別途明確に示されない限り、下限の単位の10分の1までの、その範囲の上限と下限の間の各介在値、およびその記載した範囲内のあらゆる他の記載した値または介在値が、本方法内に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立してより小さな範囲に含まれてもよく、また、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限度を条件として、方法内に包含される。記載された範囲が、限度の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限度のいずれかまたは両方を除いた範囲も、本方法に含まれる。
【0017】
特定の範囲は、本明細書では、「約」という用語が先行する数値で提示される。「約」という用語は、本明細書では、それが先行する正確な数字、ならびに当該用語が先行する数字に近いか、またはおよそその数字である数字に対して、文字通りの支持を提供するために使用される。数字が、具体的に記載された数字に近いか、またはほぼ具体的に記載された数字であるかどうかを判定する際に、記載されていない近いまたはおよその数字は、それが提示された文脈において、具体的に記載された数字の実質的な同等物を提供する数字でありうる。
【0018】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本方法が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似するまたは同等な任意の方法も、方法の実践または試験で使用されうるが、代表的な例示的方法をこれから記載する。
【0019】
本明細書で引用される全ての刊行物および特許は、それぞれの個々の刊行物または特許が、参照によって組み込まれることが具体的かつ個別に示されたかのように、参照によって本明細書に組み込まれ、かつ、それに関連して刊行物が引用される材料および/または方法を、開示および説明するために、参照によって本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日以前のその開示に関するものであり、提供された出版日が、独立して確認される必要がありうる実際の出版日とは異なる場合があるために、本方法が、こうした出版に先行する資格がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0020】
なお、本明細書で使用される場合、および添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈で別途明確に示されない限り、複数の参照を含む。なお、さらに、任意の随意要素を除外するために、特許請求の範囲を起草しうる。そのため、本ステートメントは、特許請求の範囲の要素の記載、または「ネガティブな」限定の使用に関連して、「単独で(solely)」、「のみ(only)」などの排他的用語の使用に対する先行詞としての役割を果たすことを意図している。
【0021】
当然のことながら、明確にするために、別個の実施形態の文脈で説明される、本方法の特定の特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよい。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈で説明される、本方法の様々な特徴はまた、別々にまたは任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。実施形態の全ての組み合わせは、本開示によって具体的に包含され、かつこうした組み合わせが動作可能なプロセスおよび/または組成物を包含する限りにおいて、ありとあらゆる組み合わせが個別にかつ明示的にまさに開示されたかのように、本明細書に開示される。加えて、こうした変数を記載する実施形態に列記される全てのサブコンビネーションも、本方法によって具体的に包含され、かつありとあらゆるこうしたサブコンビネーションが、個別にかつ明示的に本明細書にまさに開示されたかのように、本明細書に開示される。
【0022】
本開示を読んだ当業者には明らかであるように、本明細書に記載および図示される個々の実施形態の各々は、本方法の範囲または趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離されうる、またはそれらと組み合わせうる、個別の構成要素および特徴を有する。任意の記載された方法は、記載された事象の順序で、または論理的に可能な任意の他の順序で実行することができる。
【0023】
TCRβ CDR3配列を評価するための方法
【0024】
本開示は、T細胞受容体β鎖相補決定領域3(TCRβ CDR3)配列を評価するための方法を提供する。特定の実施形態において、本方法は、本明細書の配列番号1~1996、例えば、本明細書の配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価することを含む。発明者らは、こうしたTCRβ CDR3配列を含むTCRは、クローン病を有しない人よりもクローン病を有する人において統計的に多いことにより、クローン病と関連していると決定した。それ故に、本開示の方法は、例えば、対象がクローン病を有するか、または有しないかを予測することにおける、使用を見出す。評価することの前に、対象は、炎症性腸疾患(IBD)を有すると特定されている場合があり、または有することが疑われる。特定の実施形態において、IBDを有すると特定された、またはIBDを有することが疑われる対象について、本方法は、クローン病を有するとして対象を診断することにおける使用を見出す。こうした診断は、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を呈する対象が、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、および/またはセリアック病を含むがこれらに限定されない、クローン病の症状と重複する症状によって特徴付けられる別の状態ではなく、クローン病を有すると診断される、鑑別診断であってもよい。 代替的または追加的に、こうした診断は、対象が、瘻孔形成もしくは構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成もしくは構造化を伴うクローン病を有する、または結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病を有すると診断される、鑑別診断であってもよい。本開示の方法に関する詳細をこれから説明する。
【0025】
一部の実施形態によれば、本開示の方法は、コンピュータ実施である。「コンピュータ実施」とは、方法の少なくとも一つの工程が、一つ以上のプロセッサおよび一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体を使用して実施されることを意味する。例えば、特定の実施形態において、TCRβ CDR3配列を評価するためのコンピュータ実施方法が提供され、方法は、一つ以上のプロセッサと、その上に格納された命令を含む一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体とを使用して実施され、命令は一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、本明細書の配列番号1~1996、例えば、本明細書の配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価させる。本開示のコンピュータ実施方法は、コンピュータ実施ではない一つ以上の工程、例えば、対象から試料(例えば、血液試料、腸組織試料など)を取得すること、免疫レパートリー核酸配列決定のための試料を調製すること、評価に基づいてクローン病と診断された対象にクローン病療法を実施すること、および/または類似のものなどをさらに含んでもよい。
【0026】
一部の実施形態によれば、対象は、評価することの時に、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を有する。こうした非特異的症状の例には、下痢、疲労、腹痛、腹部疝痛、直腸出血、意図しない体重減少、およびそれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。上述のように、本開示の方法は、例えば、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を呈する対象が、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、および/またはセリアック病を含むがこれらに限定されない、クローン病の症状と重複する症状によって特徴付けられる別の状態ではなく、クローン病を有すると診断される、評価に基づいた鑑別診断の提供における使用を見出す。
【0027】
一部の実施形態によれば、本開示の方法は、瘻孔形成(例えば、罹患した腸ループ間の異常な通路)または構造化(腸閉塞または便の直径の変化をもたらしうる腸の狭窄化)を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病を有するとして、対象の鑑別診断を提供することにおける使用を見出す。例えば、Gasche et al., Inflamm. Bowel Dis., 6:8-15 (2000)を参照のこと。特定の実施形態において、本開示の方法は、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病を有するとして、対象の鑑別診断を提供することにおける使用を見出す。回腸/回腸結腸クローン病および結腸クローン病に関する詳細は、例えば、AtreyaおよびSiegmund(2021)Nat Rev Gastroenterol Hepatol 18, 544-558で入手しうる。
【0028】
上記に要約されるように、本開示の方法は、本明細書に記載された配列番号1~1996、例えば本明細書に記載された配列番号1~1281に記載された一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価することを含む。上述のように、特定の実施形態において、評価工程は、一つ以上のプロセッサと、その上に格納された命令を含む一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体とを使用して実施されるように、コンピュータ実施であってもよく、命令は一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、決定されたTCRβ CDR3配列を評価させる。例えば、命令は、一つ以上のプロセッサに、コンピュータ可読媒体上に格納された決定されたTCRβ CDR3配列(例えば、各々の決定されたTCRβ CDR3配列または各固有の決定されたTCRβ CDR3配列)の各々を、同じまたは異なるコンピュータ可読媒体上に格納された、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含むデータベースと比較させてもよい。一部の実施形態によれば、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列の数は、1,000~2,000,000である。例えば、特定の実施形態において、決定されたTCRβ CDR3配列の数は、2,000,000以下(例えば、1,500,000以下、1,250,000以下、1,000,000以下、750,000以下、または500,000以下)であるが、1,000以上、5,000以上、10,000以上、15,000以上、20,000以上、25,000以上、30,000以上、35,000以上、40,000以上、45,000以上、50,000以上、55,000以上、60,000以上、65,000以上、70,000以上、75,000以上、80,000以上、85,000以上、90,000以上、95,000以上、または100,000以上である。決定されたTCRβ CDR3配列が比較される、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の数は、変化しうる。例えば、決定されたTCRβ CDR3配列は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、15個以上、20個以上、25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、45個以上、50個以上、75個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上、300個以上、350個以上、400個以上、450個以上、500個以上、550個以上、600個以上、650個以上、700個以上、750個以上、800個以上、850個以上、900個以上、950個以上、1000個以上、1010個以上、1020個以上、1030個以上、または各々と比較されてもよい。決定されたTCRβ CDR3配列が、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の全てよりも少ない数と比較される場合、決定されたTCRβ CDR3配列は、配列番号1~1996、例えば、配列番号1~1281に記載されるTCRβ CDR3配列の(例えば、上記に記載されるような)任意の所望の数、およびの任意の所望の組み合わせと比較されてもよい。
【0029】
本開示の方法は、評価工程の結果に基づく一つ以上の追加の工程を含んでもよい。例えば、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列のいずれも、対象(例えば、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を呈する対象を含むが、これに限定されない、IBを有すると特定された、またはIBDを有することが疑われる対象)から取得された試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在しないことが、評価工程から決定された場合、方法は、例えば、クローン病を有しないとして対象を特定することをさらに含んでもよい。また例として、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の一つ以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、または10個以上)が、対象(例えば、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を呈する対象を含むが、これに限定されない、IBを有すると特定された、またはIBDを有することが疑われる対象)から取得された試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在することが、評価工程から決定された場合、方法は、例えば、対象がクローン病を有すると予測すること、クローン病を有するとして対象を診断すること、クローン病療法を投与されるべきものとして対象を特定すること、および/または対象にクローン病療法を実施すること、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるクローン病療法のいずれか一つ以上を対象に実施することをさらに含んでもよい。
【0030】
特定の実施形態において、方法は、評価工程の結果をモデルに供するなど、評価工程の結果をさらなる分析に供することをさらに含む。例えば、方法は、クローン病を有する、もしくはクローン病を有しないとして対象を分類するために、および/またはクローン病を有し、かつ非クローン病IBD(例えば、潰瘍性大腸炎)を有しないとして対象を分類するために、評価工程の結果をモデルに供することをさらに含んでもよい。当業者であれば、本明細書に記載される配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の利益を用いると、様々な有用なモデルが、評価の結果に適用されうることを理解するであろう。一つの非限定的な例において、方法は、評価工程の結果を、試料から決定されたクローン病関連TCRβ CDR3配列の数、および試料から決定された固有のTCRβ CDR3配列の総数を表す特徴を用いて、二特徴ロジスティック回帰に供することをさらに含んでもよい。以下の実験セクションで示されるように、こうしたモデルは、クローン病患者に対して高い特異性および感度を示す。
【0031】
特定の実施形態において、方法が、(例えば、上記のような)分類目的のために、評価工程の結果をモデルに供することをさらに含む場合、モデルは、試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在する固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数を考慮に入れてもよい(例えば、固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数がより多いほど、モデルは、クローン病を有するとして対象を分類する可能性がより高い)。一部の実施形態によれば、固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数は、対象を分類するためにモデルによって利用される特徴ではない。特定の実施形態において、一つ以上の特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度は、対象を分類するためにモデルによって使用される特徴(複数可)である。例えば、一つ以上の特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度は、一つ以上の他の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度と比較して、対象を分類する際に比較的より大きな重みを与えられうる。
【0032】
一部の実施形態によれば、分類モデルが、特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列を、他の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列とは異なるように重み付けする場合、モデルは、収束的な組み換えを使用して、その配列を、異なるように重み付けしてもよい。異なるT細胞は、収束的な組み換えを示す場合があり、その場合、固有のDNA配列が、第一のT細胞、第二のT細胞、第三のT細胞などに対する組み換えにおいて形成されたのであるが、各々が、同じタンパク質(CDR3 + V遺伝子 + J遺伝子)をもたらし、これは、クローン病の可能性が高いという診断に役立つ。この収束的な組み換えは、特定のクローン病関連TCRβ CDR3配列に対して、他のものよりも可能性が高い場合があり、モデルは、免疫反応の説明可能な生態を反映するシグナルのこれらの側面を考慮に入れてもよい。それ故に、一部の実施形態において、配列は、収束的な組み換えに基づいて、差別的な重みを与えられてもよい。
【0033】
特定の実施形態において、評価工程の前に、方法は、対象から取得した試料からTCRβ CDR3配列を決定するための一つ以上の工程をさらに含んでもよい。例えば、決定には、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるようなハイスループットシーケンシング(HTS)による、対象から取得した生体試料中のT細胞レパートリーの免疫シーケンシングおよび評価を含みうる。決定は、コンピュータを使用して部分的に実施されてもよい。例えば、未加工のシーケンシングデータの解析は、コンピュータによって実施されてもよい。生体試料からのDNAまたはRNAの抽出、増幅、およびシーケンシングは、手動で、機械を使用して、またはそれらの組み合わせで行われてもよい。特定の実施形態において、方法は、対象から生体試料を取得する最初の工程をさらに含んでもよい。
【0034】
生体試料(例えば、末梢血、腸組織、および/または同種のもの)は、様々な対象から取得されてもよい。こうした対象は、「哺乳動物」または「哺乳類」であってもよく、ここでこれらの用語は、肉食目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジーおよびサルなどの非ヒト霊長目)を含む、哺乳綱内の生物を記述するために広く使用される。一部の実施形態において、対象はヒト対象である。
【0035】
関心のある生体試料には、全血試料、 末梢血単核細胞を含む全血の一部分(例えば、血漿)、血清、末梢血単核細胞(PBMC)試料、腸組織試料、尿、バフィーコート、滑液、骨髄、脳脊髄液、唾液、リンパ液、精液、膣分泌物、尿道分泌物、滲出液、経皮滲出液、咽頭滲出液、鼻分泌物、たん、汗、気管支肺胞洗浄、気管吸引、関節からの液体、または硝子体液を含むが、これらに限定されない、T細胞を含むものが含まれる。T細胞はまた、例えば、固体組織試料に由来しうる生体試料から取得されてもよい。T細胞は、ヘルパーT細胞(エフェクターT細胞またはTh細胞)、細胞傷害性T細胞(CTL)、メモリーT細胞、および調節性T細胞であってもよい。 一部の実施形態において、末梢血単核細胞(PBMC)は、当業者に知られている技術、例えば、Ficoll-Hypaque(登録商標)密度勾配分離によって単離される。
【0036】
ゲノムDNAまたはRNAなどの核酸は、当業者に知られている方法によってリンパ球から抽出されてもよい。例としては、QIAamp(登録商標)DNA血液ミニキットまたはQiagen DNeasy血液抽出キット(両方ともQiagen、米国、メリーランド州、ゲイザースバーグから市販されている)を使用してゲノムDNAを抽出することが挙げられる。一部の実施形態において、100,000~200,000個の細胞が、多様性の分析のために使用されてもよい(すなわち、二倍体T細胞からの約0.6~1.2μgのDNA)。PBMCを供給源として使用して、T細胞の数を総細胞の約30%と推定することができる。代替的に、総核酸は、ゲノムDNAおよびmRNAの両方を含む細胞から単離することができる。他の実施形態において、cDNAは、mRNAから転写され、次いで増幅のためのテンプレートとして使用される。RNA分子は、基本的にサプライヤーの指示に従って、例えば、イルミナシーケンシング用SMARTer(商標) Ultra Low RNAキット(Clontech、カリフォルニア州、マウンテンビュー)などの既知の逆転写キットを使用してcDNAに転写することができる。
【0037】
免疫レパートリーシーケンシング(マルチプレックスPCRおよびハイスループットシーケンシング)
一部の実施形態によれば、TCRβ CDR3配列は、免疫細胞受容体シーケンシング(例えば、免疫レパートリーシーケンシング)によって、対象から取得した試料から決定される。
【0038】
「T細胞受容体」または「TCR」とは、通常、不変のCD3鎖分子との複合体の一部として発現される、高度に可変のα鎖およびβ鎖からなる、ジスルフィド結合膜結合ヘテロ二量体タンパク質を意味する。これら二つの鎖を発現するT細胞は、α:β(またはαβ)T細胞と呼ばれるが、少数のT細胞は、可変のγ鎖およびσ鎖によって形成される、代わりの受容体を発現し、γσ T細胞と呼ばれる。TCRの発生は、多数の潜在的セグメントから最終配列を組み立てる、遺伝子組み換えのリンパ球特異的プロセスを通して起こる。体細胞T細胞におけるTCR遺伝子セグメントのこの遺伝子組み換えは、胸腺の発達の初期段階中に起こる。TCRα遺伝子座は、可変(V)遺伝子セグメントおよび結合(J)遺伝子セグメント(VαおよびJα)を含むのに対し、TCRβ遺伝子座は、VβおよびJβセグメントに加えてD遺伝子セグメントを含む。それ故に、α鎖はVJ組み換えから生成され、β鎖はVDJ組み換えに関与している。これは、TCRγ鎖がVJ組み換えに関与し、TCRδ遺伝子がVDJ組み換えから生成される、γδTCRの発生について類似している。TCRα鎖遺伝子座は、46個の可変セグメント、8個の結合セグメント、および定常領域からなる。TCRβ鎖遺伝子座は、48個の可変セグメント、それに続く二個の多様性セグメント、12個の結合セグメント、および二個の定常領域からなる。DセグメントおよびJセグメントは、比較的短い50kb領域内に位置し、一方で可変遺伝子は、1.5メガ塩基(TCRα)または0.67メガ塩基(TCRβ)の大きな領域にわたって広がる。
【0039】
TCRβ CDR3配列決定は、リンパ球DNAを含有する試料に存在しうる、実質的に全ての可能性のあるTCR遺伝子再構成の配列の定量的検出を伴いうる。
【0040】
生体試料から取得された再構成TCR領域を含む増幅核酸分子を、ハイスループットシーケンシングを使用して配列決定する。一実施形態において、マルチプレックスPCRシステムを使用して、2010年6月4日に出願された米国特許出願公開第2010/0330571号、2011年8月24日に出願された米国特許出願公開第2012/0058902号、2013年10月1日に出願された国際出願PCT/US2013/062925号(これらは各々が参照によりその全体が組み込まれる)に記載されるように、再構成されたTCR遺伝子座をゲノムDNAから増幅する。
【0041】
そのために、マルチプレックスPCRは、TCR遺伝子座の、Vセグメントに特異的にハイブリダイズするフォワードプライマーのセット、およびJセグメントに特異的にハイブリダイズするリバースプライマーのセットを使用して行われ、ここで、プライマーを使用したマルチプレックスPCR反応は、所与のT細胞集団内の全ての可能なVJ(およびVDJ)組み合わせの増幅を可能にする。
【0042】
例示的なVセグメントプライマーおよびJセグメントプライマーは、US2012/0058902、US2010/033057、WO2010/151416、WO2011/106738、US2015/0299785、WO2012/027503、US2013/0288237、米国特許第9,181,590号、米国特許第9,181,591号、US2013/0253842、WO2013/188831(これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0043】
マルチプレックスPCRシステムを使用して、再構成された免疫細胞受容体遺伝子座を増幅することができる。特定の実施形態において、CDR3領域は、TCRB CDR3領域遺伝子座から増幅される。複数のVセグメントおよびJセグメントプライマーを使用して、実質的に全ての(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%超)再構成免疫細胞受容体CDR3コード化領域を増幅して、増幅された再構成DNA分子の多重性を生成する。特定の実施形態において、プライマーは、増幅された各再構成DNA分子の長さが600ヌクレオチド未満であり、それによって非再構成免疫細胞受容体遺伝子座からの増幅生成物を除外するように、設計されている。
【0044】
一部の実施形態において、プライマーの二つのプールは、単一の高度に多重化されたPCR反応で使用される。プライマーの「フォワード」プールは、複数のVセグメントオリゴヌクレオチドプライマーを含むことができ、リバースプールは、複数のJセグメントオリゴヌクレオチドプライマーを含むことができる。一部の実施形態において、それぞれのTCRまたはIg遺伝子座中の各V領域セグメントおよび各J領域セグメントに対して、特異的である(例えば、それの固有の配列領域に対して相補的なヌクレオチド配列を有する)プライマーがある。他の実施形態において、プライマーは、一つ以上のVセグメントまたはJセグメントにハイブリダイズすることができ、それによって、マルチプレックスPCRに必要なプライマーの数を減少させることができる。特定の実施形態において、Jセグメントプライマーは、結合(「J」)セグメントに保存された配列にアニールする。
【0045】
各プライマーは、ヒトゲノムデータベース中の既知のJ領域コード化遺伝子セグメント間の配列差異に基づいて、各Jセグメントを明白に特定するのに、およびまたリシーケンシングのためにJセグメント特異的プライマーがアニールできる配列部分を含むのに、十分な長さの配列部分を含む、それぞれの増幅DNAセグメントが取得されるように、設計することができる。Vセグメント特異的プライマーおよびJセグメント特異的プライマーのこの設計により、対象内の免疫細胞受容体遺伝子レパートリーに存在する体細胞再構成の大部分を直接観察することが可能となる。
【0046】
マルチプレックスPCRシステムは、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、または25個、および特定の実施形態において、少なくとも26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、または39個、および他の実施形態において、少なくとも40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、51個、52個、53個、54個、55個、56個、57個、58個、59個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、またはそれより多くのフォワードプライマーを使用することができ、各フォワードプライマーは、V領域セグメントに対応する配列に特異的にハイブリダイズする(すなわち、相補的である)。マルチプレックスPCRシステムはまた、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、もしくは7個、および特定の実施形態において、少なくとも8個、9個、10個、11個、12個、もしくは13個のリバースプライマー、または少なくとも14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、もしくは25個以上のリバースプライマーを使用し、各リバースプライマーは、J領域セグメントに対応する配列に特異的にハイブリダイズするか、または相補的である。VセグメントプライマーおよびJセグメントプライマーの様々な組み合わせを使用して、対象内の免疫細胞受容体遺伝子レパートリー中のTCR配列の全多様性を増幅することができる。
【0047】
TCR配列を増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド配列を含む、マルチプレックスPCRシステムに関する詳細は、Robins et al., 2009 Blood 114, 4099; Robins et al., 2010 Sci. Translat. Med. 2:47ra64; Robins et al., 2011 J. Immunol. Meth. doi:10.1016/j.jim.2011.09. 001; Sherwood et al. 2011 Sci. Translat. Med. 3:90ra61;US2012/0058902、US2010/033057、WO/2010/151416、WO/2011/106738、US 2015/0299785、WO2012/027503、US2013/0288237、米国特許第9,181,590号、米国特許第9,181,591号、US2013/0253842、WO2013/188831に記載されており、これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0048】
ヌクレオチド塩基の相補性によって、標的核酸配列に特異的にハイブリダイズまたはアニールする能力があるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、中程度から高度に厳しい条件下で、それを行うことができる。一実施形態において、標的核酸配列の特異的PCR増幅に適した中程度から高度に厳しい条件は、各サイクルが、変性工程(例えば、 約95℃超で約10~30秒)、アニーリング工程(例えば、 約60~68℃で約10~30秒)、および伸長工程(例えば、 約60~72℃で約10~60秒)を含む、 25~80PCRサイクルとすることができ、随意に、特定の実施形態によれば、アニーリング工程および伸長工程が組み合わされて2工程PCRを提供する。当業者によって認識されるであろうように、マグネシウム濃度の変更、随意にDMSOの添加、および/またはブロックされたプライマー、修飾ヌクレオチド、ペプチド-核酸などの使用など、他のPCR試薬をPCR反応において追加または変更して、プライマーアニーリングおよび増幅の特異性を増加させることができる。
【0049】
プライマーは一本鎖DNAであってもよい。プライマーの適切な長さは、プライマーの使用目的に依存するが、典型的には、6~50ヌクレオチド、または特定の実施形態において、15~35ヌクレオチドの長さに及ぶ。短いプライマー分子は、一般に、テンプレートと十分に安定したハイブリッド複合体を形成するために、より低温を必要とする。プライマーは、テンプレート核酸の正確な配列を反映する必要はないが、テンプレートとハイブリダイズするのに十分に相補的である必要がある。所与の標的配列の増幅に適したプライマーの設計は、当該技術分野で周知であり、本明細書に引用される文献に記載されている。
【0050】
VセグメントプライマーおよびJセグメントプライマーを使用して、マルチプレックスPCR反応から複数のアンプリコンを生成する。特定の実施形態において、アンプリコンのサイズは、10、20、30、40、50、75、100、200、300、400、500、600、700、800またはそれ以上からのヌクレオチド長に及ぶ。特定の実施形態において、アンプリコンは、20~600、50~600、20~400、または50~400ヌクレオチド長のサイズを有する。
【0051】
非限定的な理論によれば、これらの実施形態は、Tリンパ球がそのTCRコード化遺伝子を再構成したら、その子孫細胞は、同じ免疫細胞受容体コード化遺伝子再構成を有し、したがって、本明細書に開示されるV特異的オリゴヌクレオチドプライマーおよびJ特異的オリゴヌクレオチドプライマーの特異的な対での組み合わせによって増幅されうる、再構成された(例えば、CDR3コード化)V遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントのその中における存在によって一意に特定されうるクローン集団(クローン)をもたらすという、(上述もされた)当該技術分野における現在の理解を利用する。
【0052】
VセグメントプライマーおよびJセグメントプライマーは好ましくは各々、標的VセグメントまたはJセグメントに対して相補的ではないプライマーの5’末端に第二の配列を含むであろう。第二の配列は、(i)ユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列、および(ii)第一のユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列に結合され、それに対して5’に位置付けられたシーケンシングプラットフォーム特異的オリゴヌクレオチド配列から選択される、配列を有する、オリゴヌクレオチドを含むことができる。ユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列の例は、pGEXフォワードおよびpGEXリバースアダプター配列でありうる。
【0053】
上述のVセグメントおよびJセグメントプライマーを使用した、結果として生じるアンプリコンは、増幅されたVセグメントおよびJセグメント、ならびにユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列を含む。ユニバーサルアダプター配列は、テーリングプライマー中に見られるオリゴヌクレオチド配列に対して相補的でありうる。テーリングプライマーは、第二のPCR反応で使用して、アンプリコンの第二のセットを生成することができる。一部の実施形態において、テーリングプライマーは、一般式(I)を有することができ、
【0054】
5'-P--S--B--U-3' (I)、
【0055】
式中、Pは、シーケンシングプラットフォーム特異的オリゴヌクレオチドを含み、Sは、シーケンシングプラットフォームタグ含有オリゴヌクレオチド配列を含み、Bは、オリゴヌクレオチドバーコード配列を含み、オリゴヌクレオチドバーコード配列は、試料源を特定するために使用することができ、Uは、ユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列に対して相補的であるか、またはユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列と同じである、配列を含む。
【0056】
ユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列、バーコード、およびテーリングプライマーに関する追加の記載は、WO2013/188831に見出され、これは参照によりその全体が組み込まれる。
【0057】
シーケンシングは、利用可能な様々なハイスループット核酸シーケンシングマシンおよびシステムのいずれかを使用して実施されてもよい。例示的なシーケンシングシステムには、Illumina iSeq 100、Miniseq、MiSeqシリーズ、NextSeqシリーズ(例えば、NextSeq 500シリーズ、NextSeq 1000、NextSeq 2000)、およびNovaSeqシーケンシングシステム(Illumina, Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)、Pacific Biosciences Sequel(例えば、Sequel II)シーケンシングシステム(Pacific Biosciences、カリフォルニア州メンロパーク)、Oxford Nanopore Technologies MinION(商標) 、GridIONx5(商標)、PromethION(商標)、またはSmidgION(商標)ナノポアベースシーケンシングシステム(Oxford Nanopore Technologies、英国オックスフォード)、ならびに類似の能力を有する他のシステムが含まれる。
【0058】
特定の実施形態において、シーケンシングは、増幅されたDNA分子内の定義された領域にハイブリダイズするシーケンシングプラットフォーム特異的オリゴヌクレオチドのセットを使用して達成される。シーケンシングプラットフォーム特異的オリゴヌクレオチドは、Vコード化遺伝子セグメントおよびJコード化遺伝子セグメントが、生成された配列によって一意に特定されうるように、アンプリコンを配列するように設計される。例えば、US2012/0058902、US2010/033057、WO2011/106738、US2015/0299785、またはWO2012/027503を参照のこと(これらは各々、参照によりその全体が組み込まれる)。
【0059】
一部の実施形態において、各リードの一次配列中のエラーを除去し、データを圧縮するために、未加工の配列データは前処理される。最近傍アルゴリズムを使用して、密接に関連する配列をマージすることによってデータを固有の配列に折り畳み、PCRエラーおよびシーケンシングエラーの両方を除去することができる。例えば、US2012/0058902、US2010/033057、WO2011/106738、US2015/0299785、またはWO2012/027503を参照のこと(これらは各々、参照によりその全体が組み込まれる)。
【0060】
ハイスループットシーケンシング(HTS)によって増幅された再構成TCRβ CDR3コード化領域DNA分子の多重性を配列決定することを使用して、20~400ヌクレオチド長の少なくとも10,000個のTCRクロノタイプ配列を含むTCRクロノタイププロファイルを生成することができる。
【0061】
増幅バイアス制御
特定のプライマーセットが他よりも増幅効率が高い場合があることを考えると、マルチプレックスPCRアッセイは、試料から生成されるアンプリコンの総数にバイアスを生じさせうる。増幅プライマーの亜集団のこうしたバイアスのかかった利用の問題を克服するために、オリゴヌクレオチドプライマーセットのメンバーの増幅効率を標準化するためのテンプレート組成物を提供する方法を使用することができ、プライマーセットは、リンパ球からのDNAを含む生体試料中の複数のTCRをコードする再構成DNAを増幅することができる。
【0062】
そのために、テンプレート組成物を使用して、プライマーセットの様々な増幅効率を標準化する。テンプレート組成物は、一般式(II)の複数の多様なテンプレートオリゴヌクレオチドを含むことができる。
【0063】
5'-U1-B1-V-B2-R-J-B3-U2-3' (II)
【0064】
構成要素テンプレートオリゴヌクレオチドは、個々のテンプレートオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列に関して多様である。個々のテンプレートオリゴヌクレオチドは、多数の可能なTCR可変(V)および結合(J)領域ポリヌクレオチド間の著しい配列変動性の関数として、互いにかなりヌクレオチド配列が異なりうる。個々のテンプレートオリゴヌクレオチド種の配列も、多様な複数のテンプレート内の特定のテンプレートに含まれるU1、U2、B(B1、B2およびB3)およびRオリゴヌクレオチドの配列差異の関数として互いに異なりうる。
【0065】
Vは、適応免疫受容体可変(V)領域コード化遺伝子配列、またはその補体の、少なくとも20個、30個、60個、90個、120個、150個、180個、または210個、かつ1000個、900個、800個、700個、600個または500個以下の隣接ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり、複数のテンプレートオリゴヌクレオチド配列の各々において、Vは固有のオリゴヌクレオチド配列を含む。
【0066】
Jは、適応免疫受容体結合(J)領域コード化遺伝子配列、またはその補体の、少なくとも15~30個、31~60個、61~90個、91~120個、または120~150個、かつ600個、500個、400個、300個または200個以下の隣接ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり、複数のテンプレートオリゴヌクレオチド配列の各々において、Jは固有のオリゴヌクレオチド配列を含む。
【0067】
U1およびU2は、各々、何もないか、または(i)ユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列、および(ii)ユニバーサルアダプターオリゴヌクレオチド配列に結合され、それに対して5’に位置付けられたシーケンシングプラットフォーム特異的オリゴヌクレオチド配列から選択される配列を独立して有するオリゴヌクレオチドを各々含むことができる。
【0068】
B1、B2およびB3は各々、何もないか、または3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、200個、300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個または1000個(その間の全ての整数値を含む)の隣接ヌクレオチドの第一および第二のオリゴヌクレオチドバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドBを各々含むことができ、ここで、複数のテンプレートオリゴヌクレオチド配列の各々において、Bは、(i)第一のバーコード配列が、テンプレートオリゴヌクレオチドの固有のVオリゴヌクレオチド配列を一意に特定し、(ii)第二のバーコード配列が、テンプレートオリゴヌクレオチドの固有のJオリゴヌクレオチド配列を一意に特定する、固有のオリゴヌクレオチド配列を含む。
【0069】
Rは、何もないか、またはV、J、U1、U2、B1、B2、およびB3に存在しないオリゴヌクレオチド配列を含む制限酵素認識部位を含むことができる。
【0070】
方法は、対象のリンパ球からのDNAを含む生体試料中の一つまたは複数のTCRをコードする、生産的に再構成されたDNAを増幅する能力を有するオリゴヌクレオチド増幅プライマーのセットのメンバー間の不均一な核酸増幅能力を決定するために、テンプレート組成物とともに使用される。方法は、(a)マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(PCR)においてオリゴヌクレオチドプライマーセットの増幅効率を標準化するために、テンプレート組成物のDNAを増幅する工程を含むことができ、それは、(i)上述のテンプレート組成物(II)であって、複数のテンプレートオリゴヌクレオチド中の各テンプレートオリゴヌクレオチドが、実質的に等モル量で存在する、テンプレート組成物(II)と、(ii)対象のリンパ球からのDNAを含む生体試料中の一つまたは複数のTCRをコードする、生産的に再構成されたDNAを増幅する能力を有するオリゴヌクレオチド増幅プライマーセットとを含む。
【0071】
プライマーセットは、(1) 各々が独立して、TCR V領域ポリペプチドをコードする少なくとも一つのポリヌクレオチドに、またはその補体に特異的にハイブリダイズする能力を有する、実質的に等モル量の、複数のVセグメントオリゴヌクレオチドプライマーであって、各Vセグメントプライマーが、少なくとも一つの機能的TCR V領域コード化遺伝子セグメントに相補的な少なくとも15個の隣接ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含み、複数のVセグメントプライマーが、テンプレート組成物中に存在する実質的に全ての機能的TCR V領域コード化遺伝子セグメントに特異的にハイブリダイズする、複数のVセグメントオリゴヌクレオチドプライマーと、(2) 各々が独立して、TCR J領域ポリペプチドをコードする少なくとも一つのポリヌクレオチドに、またはその補体に特異的にハイブリダイズする能力を有する、実質的に等モル量の、複数のJセグメントオリゴヌクレオチドプライマーであって、各Jセグメントプライマーが、少なくとも一つの機能的TCR J領域コード化遺伝子セグメントに相補的な少なくとも15個の隣接ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含み、複数のJセグメントプライマーが、テンプレート組成物中に存在する実質的に全ての機能的TCR J領域コード化遺伝子セグメントに特異的にハイブリダイズする、複数のJセグメントオリゴヌクレオチドプライマーと、を含むことができる。
【0072】
VセグメントおよびJセグメントのオリゴヌクレオチドプライマーは、テンプレート組成物中の実質的に全てのテンプレートオリゴヌクレオチドの上記マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において増幅を促進し、多数の増幅されたテンプレートDNA分子を生成する能力を有し、上記多数の増幅されたテンプレートDNA分子は、テンプレート組成物中のテンプレートオリゴヌクレオチドの多様性を定量化するのに十分であり、多数の増幅されたテンプレートDNA分子中の各々の増幅されたテンプレートDNA分子は、1000未満、900未満、800未満、700未満、600未満、500未満、400未満、300未満、200未満、100未満、90未満、80未満または70未満のヌクレオチド長である。
【0073】
不均一な核酸増幅能力を決定するための方法は、(b)上記多数の増幅されたテンプレートDNA分子の各々の全てまたは十分な部分を配列決定して、上記多数の増幅されたテンプレートDNA分子中の各固有のテンプレートDNA分子に対して、(i)テンプレート特異的オリゴヌクレオチドDNA配列、および(ii)テンプレートオリゴヌクレオチドの相対的発生頻度を決定する工程と、(c)上記テンプレート組成物からの各固有のテンプレートDNA配列について相対的発生頻度を比較する工程であって、一つ以上のテンプレートDNA配列についての不均一な発生頻度が、オリゴヌクレオチド増幅プライマーのセットのメンバー間の不均一な核酸増幅能力を示す、工程と、をさらに含んでもよい。
【0074】
前述のバイアス制御方法に関するさらなる詳細は、US2013/0253842、米国特許第9,150,905号、US2015/0203897、およびWO2013/169957に提供されており、これらは参照によりその全体が組み込まれる。
【0075】
PCRテンプレート存在量の推定
マルチプレックスPCRおよびシーケンシングアプローチにおける入力テンプレート当たりの平均リードカバレッジを推定するために、V.ベータおよびJ.ベータ遺伝子セグメントの各組み合わせを含む(上述のような)合成TCRテンプレートのセットを使用することができる。これらの合成分子は、上記の一般式(II)およびUS2013/0253842、米国特許第9,150,905号、US2015/0203897、およびWO2013/169957に記載されるものであってもよく、これらは参照によりその全体が組み込まれる。
【0076】
これらの合成分子は、合成テンプレートの一部のみが観察されるように、非常に低濃度で各PCR反応に含められうる。合成テンプレートプールの既知の濃度を使用して、観察された固有の合成分子の数と、反応に添加された合成分子の総数との間の関係をシミュレートすることができる(これは、使用された低濃度で1対1に非常に近い)。合成分子は、各PCR反応について、PCRテンプレートの分子当たりに取得されたシーケンシングリードの平均数、および各固有のTCR再構成またはIg再構成をそれぞれ有する入力材料中のT細胞またはB細胞の数の推定の、計算を可能にする。
【0077】
表1-クローン病関連TCRβ CDR3アミノ酸配列
【表1】
【0078】
表2-追加のクローン病関連TCRβ CDR3アミノ酸配列
【表2】
【0079】
本明細書の表1および表2において、アミノ酸配列は、TCRのTCRβ CDR3セグメントを表し、一方、V##-##またはJ##-##は、抗原曝露に応答して形成されるTCR再構成の一部として使用されうるヒトゲノムの特定の部分に対する標準的な二階層コード化システム[ファミリー]-[遺伝子]を指す。最初の2桁は、ファミリーのメンバーを反映し、2番目の2桁は、存在する場合、そのファミリー内からの特定の遺伝子を反映する。したがって、例として、TCRBV06は、可変(V)鎖配列の特定のファミリーに対する配列の一致を示し、TCRBV06-05は、可変鎖配列のファミリー内からの特定の遺伝子に対するより正確な識別を示す。
【0080】
これらのV-遺伝子配列およびJ-遺伝子配列の同一性は、www.imgt.org/download/V-QUEST/IMGT_V-QUEST_reference_directory/ Homo_sapiens/TR/TRBV.fastaを含む、国際ImMunoGeneTics情報システム(http://www.imgt.org)に見出すことができる。
【0081】
治療方法
また、本開示によって、治療方法が提供される。一部の実施形態によれば、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖(TCRβ)を発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む方法が提供される。特定の実施形態において、方法は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含む二つ以上の(例えば、二つ以上の固有の)TCRβを発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む。一部の実施形態によれば、方法は、本明細書の他の箇所に記載されるようなモデル/分類器を使用してクローン病を有すると特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む。こうしたモデルには、試料から決定されたクローン病関連TCRβ CDR3配列の数、および試料から決定された固有のTCRβ CDR3配列の総数を表す特徴を用いて、二特徴ロジスティック回帰を用いるものが含まれるが、これらに限定されない。以下の実験セクションで示されるように、こうしたモデルは、クローン病患者に対して高い特異性および感度を示す。特定の実施形態において、モデルは、試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在する固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数を考慮に入れてもよい(例えば、固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数がより多いほど、モデルは、クローン病を有するとして対象を分類する可能性がより高い)。一部の実施形態によれば、固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数は、対象を分類するためにモデルによって利用される特徴ではない。特定の実施形態において、一つ以上の特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度は、対象を分類するためにモデルによって使用される特徴(複数可)である。例えば、一つ以上の特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度は、一つ以上の他の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度と比較して、対象を分類する際に比較的より大きな重みを与えられうる。一部の実施形態によれば、分類モデルが、特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列を、他の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列とは異なるように重み付けする場合、本明細書の他の箇所に記載のように、モデルは、収束的な組み換えを使用して、その配列を、異なるように重み付けしてもよい。
【0082】
任意の適切なクローン病療法が、上述のように特定された対象に実施されうる。クローン病療法は既知であり、患者の年齢、病期、および/または同種のものに応じて変化しうる。特定の実施形態において、クローン病療法は、治療上有効な量の抗炎症薬を対象に投与することを含む。クローン病の治療において使用を見出す抗炎症薬の非限定的な例としては、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、ブデソニド、またはそれらの組み合わせ)および5-アミノサリチル酸塩、例えば、スルファサラジン、メサラミン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。一部の実施形態によれば、クローン病療法は、治療上有効な量の免疫抑制剤を対象に投与することを含む。クローン病の治療において使用を見出す免疫抑制剤には、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサート、またはそれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、クローン病療法は、治療上有効な量のモノクローナル抗体を対象に投与することを含む。クローン病の治療において使用を見出すモノクローナル抗体の非限定的な例としては、ナタリズマブ、ベドリズマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ウステキヌマブ、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。一部の実施形態によれば、クローン病療法は、治療上有効な量の抗生物質(例えば、シプロフロキサシン、メトロニダゾール、またはそれらの組み合わせ)を対象に投与することを含む。特定の実施形態において、クローン病療法は手術を含む。一部の実施形態によれば、手術は、潰瘍性大腸炎ではなく、クローン病に適している。特定の実施形態において、手術は、過敏性腸症候群ではなく、クローン病に適している。一部の実施形態によれば、手術は、セリアック病ではなく、クローン病に適している。特定の実施形態において、手術は、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病に適している。一部の実施形態によれば、手術は、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病に適している。
【0083】
特定の実施形態において、対象にクローン病療法を実施する前に、方法は、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、潰瘍性大腸炎ではなく、クローン病を有すると特定することを含む。一部の実施形態によれば、クローン病療法(例えば、薬および/または手術)は、潰瘍性大腸炎ではなく、クローン病に適した治療である。
【0084】
一部の実施形態によれば、対象にクローン病療法を実施する前に、方法は、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、過敏性腸症候群ではなく、クローン病を有すると特定することを含む。特定の実施形態において、クローン病療法(例えば、薬および/または手術)は、過敏性腸症候群ではなく、クローン病に適した療法である。
【0085】
特定の実施形態において、対象にクローン病療法を実施する前に、方法は、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、セリアック病ではなく、クローン病を有すると特定することを含む。一部の実施形態によれば、クローン病療法(例えば、薬および/または手術)は、セリアック病ではなく、クローン病に適した治療である。
【0086】
一部の実施形態によれば、対象にクローン病療法を実施する前に、方法は、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病を有すると特定することを含む。特定の実施形態において、クローン病療法(例えば、薬および/または手術)は、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病に適した療法である。
【0087】
特定の実施形態において、対象にクローン病療法を実施する前に、方法は、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病を有すると特定することを含む。一部の実施形態によれば、クローン病療法(例えば、薬および/または手術)は、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病に適した治療である。
【0088】
クローン病の治療のための様々な療法(クローン病またはそのサブタイプの特定の治療を含み、 潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、またはセリアック病は含まず、例えば、瘻孔形成もしくは構造化を伴うクローン病であるが、瘻孔形成もしくは構造化を伴わないクローン病ではない、または回腸/回腸結腸クローン病であるが、結腸クローン病ではない、特定のクローン病サブタイプの特定の治療を含む)が既知であり、例えば、Gade et al. (2020) Cureus 12(5):e8351; Cushing & Higgins (2021) JAMA 325(1):69-80; Shi & Ng (2018) J Gastroenterol. 53(9): 989-998; およびSulz et al. (2020) Digestion 101 Suppl 1:43-57 (DOI: 10.1159/000506364)に記載されており、これらの開示は、全ての目的に対してその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
一部の実施形態によれば、本方法は、個体のクローン病の治療に有効である。「治療する」または「治療」とは、クローン病に関連する症状(例えば、下痢、疲労、腹痛、腹部疝痛、直腸出血、意図しない体重減少、またはそれらの任意の組み合わせ)の少なくとも改善を意味し、ここで、改善は、治療されるクローン病に関連するパラメータ(例えば、症状)の大きさの少なくとも低減を指すために広義に使用される。そのため、治療は、個体がもはやクローン病、または少なくともクローン病を特徴付ける症状に悩まされないように、クローン病、または少なくともクローン病に関連する症状が、完全に阻害された(例えば、起きないようにした、または止まった、例えば、終わった)状況も含む。
【0090】
投薬は、治療される疾患状態の重症度および応答性に依存しうる。最適な投薬スケジュールは、個体の体内の薬物蓄積の測定から計算することができる。投与医師は、最適な投薬量、投薬方法および繰り返し周期を決定することができる。最適な投薬量は、個々の治療薬の相対的な効力に応じて変化する場合があり、一般に、インビトロおよびインビボの動物モデルなどにおいて効果的であることが見出されたEC50に基づいて推定することができる。一般に、投薬量は、体重1kg当たり約0.01μg~約100gであり、1回以上毎日、毎週、毎月、または毎年与えられてもよい。特定の態様において、投薬量は、上述の要因に応じて、約1μg/kg~100mg/kgまたはそれ以上である。 治療担当医は、体液または組織中の治療薬の測定された滞留時間および濃度に基づいて、投与の繰り返し周期を推定することができる。治療の成功に続いて、疾患状態の再発を防止するため、対象に維持療法を受けさせることが望ましい場合があり、その場合、治療薬は、体重1kg当たり約0.01μg~約100gの範囲の維持用量で、1日1回以上から、数か月に1回、6か月に1回、1年に1回、または任意の他の適切な頻度で投与される。
【0091】
本開示の治療方法は、単一のタイプの治療薬を対象に投与することを含んでもよく、または二つ以上のタイプの治療薬を別々に、もしくは異なる治療薬のカクテルの投与によって、対象に投与することを含んでもよい。例えば、特定の実施形態において、本明細書の他の箇所に記載されるクローン病の治療に使用を見出す二つ以上の治療薬(例えば、抗炎症薬、免疫抑制剤、モノクローナル抗体、および/または抗生物質)は、例えば、こうした治療薬の二つ以上、三つ以上、四つ以上、または五つ以上が対象に投与されてもよい。
【0092】
一つ以上の治療薬は、インビボおよびエクスビボの方法、ならびに全身的および局所的投与経路を含む、薬物送達に適した任意の利用可能な方法および経路を使用して、対象に投与されうる。従来的および薬学的に許容可能な投与経路には、経口および非経口の投与経路を含む。関心のある非経口投与経路としては、注射(例えば、静脈内、動脈内、局所、皮下、または筋肉内注射)、鼻腔内、気管内、皮内、局所適用、眼、鼻腔、および他の非経口投与経路が挙げられるが、これらに限定されない。投与経路は、必要に応じて、組み合わせられてもよく、または治療薬および/もしくは所望される効果に応じて調整されてもよい。治療薬は、単一用量で、または複数回用量で投与されてもよい。一部の実施形態において、治療薬は、静脈内投与される。一部の実施形態において、治療薬は、例えば、全身送達のための(例えば、静脈内注入)、または局所部位への、注射によって投与される。
【0093】
「治療上有効な量」または「有効量」は、疾患を治療するために哺乳動物または他の対象に投与されるとき、疾患に対するこうした治療をもたらすのに十分である治療薬の量を指す。「治療上有効な量」は、治療薬、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重などに応じて変化するであろう。
【0094】
一部の実施形態において、クローン病療法は養子細胞療法である。養子細胞療法の非限定的な例には、対象のT細胞によって発現されるTCR中に存在すると特定された、クローン病関連TCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体を発現する、組み換え細胞(例えば、T細胞などの組み換え免疫細胞)の有効量を対象に投与することを伴うものが含まれる。CAR療法と同様に、TCR療法は、患者の体内に投与されて戻される前に、エクスビボで患者のTリンパ球を改変する。CAR-T細胞療法によって特定される標的抗原は、全て細胞表面タンパク質であり、一方でTCR-T細胞療法は、MHC分子によって提示される細胞内抗原フラグメントを認識することができるため、TCR-T細胞療法は、より広範な標的を有する。TCR療法のアプローチは既知であり、例えば、Zhang et al. (2019) Technol Cancer Res Treat. 18:1533033819831068; Govers et al. (2010) Trends in Molecular Medicine 16(2):77-87; Zhao et al. (2019) Front. Immunol. 10:2250に記載されている。
【0095】
配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードする核酸も提供される。例えば、特定の実施形態において、核酸発現制御配列に動作可能に結合された、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードする核酸配列を含む発現ベクターが提供される。「ベクター」は核酸配列を標的細胞に導入する能力を有する(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、粒子担体、およびリポソーム)。典型的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、「遺伝子導入ベクター」は、関心のある核酸の発現を指示する能力を有し、核酸配列を標的細胞に導入することができる任意の核酸構築物を意味する。したがって、この用語は、クローニングビヒクルおよび発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターを含む。
【0096】
配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含む所望のT細胞受容体β鎖を発現するために、T細胞受容体β鎖をコードするヌクレオチド配列を、例えば、当該技術分野で知られている組み換えDNA技術を使用して、適切なベクター内に挿入することができる。例示的なウイルスベクターには、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、SV40)が含まれるが、これらに限定されない。発現ベクターの例示的な例には、哺乳類細胞における発現のためのpClneoベクター(Promega)、レンチウイルス媒介遺伝子導入および哺乳類細胞における発現のための、pLenti4/V 5-DEST(商標)、pLenti6/V 5-DEST(商標)、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、MSGV、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)、およびpLenti6.2/V5-GW/lacZ(Invitrogen)が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、T細胞受容体β鎖をコードする核酸配列は、哺乳類細胞におけるT細胞受容体β鎖の発現のための任意のこうした発現ベクターの中に連結されてもよい。
【0097】
発現ベクター中に存在する発現制御配列、制御要素、または調節配列は、宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実施する、ベクターの非翻訳領域である、複製の起源、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(Shine Dalgarno配列またはKozak配列)、イントロン、ポリアデニル化配列、5’および3’非翻訳領域、ならびに/または同種のものである。こうした要素は、その強度および特異性において異なりうる。利用されるベクターシステムおよび宿主に応じて、ユビキタスプロモーターおよび誘導性プロモーターを含む、任意の数の適切な転写および翻訳要素が使用されてもよい。
【0098】
発現ベクターの構成要素は、それらが意図された様式で機能することを可能にする関係にあるように、動作可能に結合される。一部の実施形態において、この用語は、核酸発現制御配列(プロモーターおよび/またはエンハンサーなど)と第二のポリヌクレオチド配列、例えば、T細胞受容体β鎖をコードする核酸との間の機能的結合を指し、この場合、発現制御配列は、T細胞受容体β鎖をコードする核酸の転写を指示する。
【0099】
一部の実施形態において、発現ベクターは、エピソーマルベクター、または染色体外に維持されるベクターである。本明細書で使用される場合、「エピソーマル」という用語は、宿主細胞の染色体DNAへの組み込みなしに、かつ分割宿主細胞からの段階的喪失なしに、複製することが可能なベクターを指し、上記ベクターが染色体外またはエピソーム的に複製することも意味する。こうしたベクターは、アルファ、ベータ、またはガンマヘルペスウイルス、アデノウイルス、SV40、ウシパピローマウイルス、酵母などからの、DNA複製の起源または「複製起点(ori)」の配列コードを持つように操作されてもよい。宿主細胞は、複製を活性化するウイルス複製トランスアクチベータータンパク質を含んでもよい。アルファヘルペスウイルスは、比較的短い増殖周期、変化する宿主範囲を有し、感染細胞を効率的に破壊し、主に感覚神経節に潜伏感染を確立する。アルファヘルペスウイルスの例示的な例には、HSV1、HSV2、およびVZVが含まれる。ベータヘルペスウイルスは、長い増殖周期および限定された宿主範囲を有する。感染細胞はしばしば肥大する。ベータヘルペスウイルスの非限定的な例には、CMV、HHV-6、およびHHV-7が含まれる。ガンマヘルペスウイルスは、Tリンパ球またはBリンパ球のいずれかに対して特異的であり、しばしばリンパ組織において潜伏性が示される。ガンマヘルペスウイルスの例示的な例には、EBVおよびHHV-8が含まれる。
【0100】
また、配列番号1~1996、例えば配列番号1~1281に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードする核酸を含む、本開示の発現ベクターのいずれかを含む組み換え細胞が提供される。特定の態様において、細胞表面上に、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖を含むTCRを発現する細胞が提供される。
【0101】
一部の実施形態において、本開示の細胞は真核細胞である。関心のある真核細胞には、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞などが含まれるが、これらに限定されない。関心のある哺乳類細胞には、例えば、マウス細胞、非ヒト霊長類細胞、ヒト細胞などが含まれる。
【0102】
「組み換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、および微生物またはより高度な真核細胞株を示す他のこうした用語は、組み換えベクターまたは他の転移DNAのレシピエントとして使用されうるか、または使用されている細胞を指し、トランスフェクトされた細胞の子孫を含む。宿主細胞は、本開示の発現ベクターを含む、単細胞または多細胞実体(例えば、組織、器官、またはオルガノイド)として培養されてもよい。
【0103】
一態様において、本明細書に提供される細胞は、免疫細胞を含む。本開示の発現ベクターのいずれかを含みうる組み換え免疫細胞の非限定的な例には、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞、マスト細胞、好塩基球、および好酸球が含まれる。一部の実施形態において、免疫細胞はT細胞である。T細胞の例には、ナイーブT細胞(TN)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、メモリーT細胞(TMEM)、Tメモリー幹細胞(TSCM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、組織常在型メモリーT細胞(TRM)、エフェクターT細胞(TEFF)、調節性T細胞(TREG)、ヘルパーT細胞(TH、TH1、TH2、TH17) CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、ウイルス特異的T細胞、アルファベータT細胞(Tαβ)、およびガンマデルタT細胞(Tγδ)が含まれる。別の態様において、本明細書に提供される細胞は、幹細胞、例えば、胚性幹細胞または成体幹細胞を含む。
【0104】
また、本開示の細胞を作製する方法が提供される。一部の実施形態において、こうした方法は、核酸または本開示の発現ベクター(例えば、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードする核酸を含む発現ベクター)で、細胞にトランスフェクトまたは形質導入することを含む。「トランスフェクション」または「形質導入」という用語は、細胞への外来性DNAの導入を指すために使用される。外来性DNAが細胞膜内部に導入された場合、細胞は「トランスフェクト」されたのである。多くのトランスフェクション技術が当該技術分野で一般的に知られている。例えば、Sambrookら、(2001) Molecular Cloning, a Laboratory manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratories、ニューヨーク、Davisら、(1995) Basic Methods in Molecular Biology、第2版、McGraw- Hill、およびChuら、(1981) Gene 13:197を参照のこと。こうした技術を使用して、一つ以上の外来性DNA部分を適切な宿主細胞に導入することができる。この用語は、遺伝物質の安定的取り込みと一過性取り込みの両方を指す。
【0105】
一部の実施形態において、本開示の細胞は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードするウイルスベクターで、細胞にトランスフェクトすることによって生成される。一部の実施形態において、こうした方法は、T細胞集団(例えば、TCR T細胞療法が実施される個体から得られた、T細胞)を活性化することと、T細胞集団を刺激して増殖させることと、配列番号1~1996(例えば配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードするウイルスベクターでT細胞に形質導入することと、を含む。一部の実施形態において、T細胞は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードするレトロウイルスベクター(例えば、ガンマレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター)で形質導入される。一部の実施形態において、T細胞は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードするレンチウイルスベクターで形質導入される。
【0106】
本開示の細胞は、自己由来/自家(「自己」)または非自己由来(「非自己」、例えば、同種異系、同系または異種)であってもよい。本明細書で使用される場合、「自己由来」とは、同じ個体からの細胞を指す。本明細書で使用される場合、「同種異系」とは、比較する細胞と遺伝的に異なる、同じ種の細胞を指す。本明細書で使用される場合、「同系」とは、比較する細胞と遺伝的に同一である、異なる個体の細胞を指す。一部の実施形態において、細胞は、哺乳動物から取得されたT細胞である。一部の実施形態において、哺乳動物は、霊長類である。一部の実施形態において、霊長類は、ヒトである。
【0107】
T細胞は、末梢血、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含むがこれらに限定されない、多数の供給源から取得されうる。特定の実施形態において、T細胞は、沈降(例えば、FICOLL(商標)分離)などの任意の数の既知の技術を使用して、個体から採取された血液単位から取得することができる。
【0108】
一部の実施形態において、単離または精製されたT細胞集団が使用される。一部の実施形態において、TCTLおよびTHリンパ球は、PBMCから精製される。一部の実施形態において、TCTLおよびTHリンパ球は、活性化、増殖、および/または遺伝子改変の前または後に、ナイーブ(TN)、メモリー(TMEM)、およびエフェクター(TEFF)T細胞亜集団に選別される。こうした選別に適したアプローチは既知であり、例えば、磁気活性化細胞選別(MACS)を含み、その場合、TNはCD45RA+CD62L+CD95‐であり、TSCMはCD45RA+CD62L+CD95+であり、TCMはCD45RO+CD62L+CD95+であり、TEMはCD45RO+CD62L‐CD95+である。こうした選別のためのアプローチの例は、Wang et al. (2016) Blood 127(24):2980-90に記載されている。
【0109】
次のマーカー:CD3、CD4、CD8、CD28、CD45RA、CD45RO、CD62、CD127、およびHLA-DRのうちの一つ以上を発現するT細胞の特定の亜集団は、ポジティブ選択技術またはネガティブ選択技術によってさらに単離されうる。一部の実施形態において、CD62L、CCR7、CD28、CD27、CD122、CD127、CD197、またはCD38もしくはCD62L、CD127、CD197、およびCD38からなる群から選択されるマーカーのうちの一つ以上を発現するT細胞の特定の亜集団は、ポジティブまたはネガティブ選択技術によってさらに単離される。一部の実施形態において、製造されたT細胞組成物は、次のマーカー:CD57、CD244、CD 160、PD-1、CTLA4、TIΜ3、およびLAG3のうちの一つ以上を発現しない。一部の実施形態において、製造されたT細胞組成物は、次のマーカー:CD57、CD244、CD 160、PD-1、CTLA4、TIΜ3、およびLAG3のうちの一つ以上を実質的に発現しない。
【0110】
T細胞組成物の治療上有効な用量を達成するために、T細胞は、1ラウンド以上の刺激、活性化および/または増殖に供されてもよい。T細胞は、例えば、米国特許第6,352,694号、第6,534,055号、第6,905,680号、第6,692,964号、第5,858,358号、第6,887,466号、第6,905,681号、第7,144,575号、第7,067,318号、第7,172,869号、第7,232,566号、第7,175,843号、第5,883,223号、第6,905,874号、第6,797,514号、および第6,867,041号(これらの各々は、全ての目的のために、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)に記載される方法を一般的に使用して、活性化および増殖することができる。一部の実施形態において、T細胞は、約1~21日間、例えば、約5~21日間、活性化および増殖される。一部の実施形態において、ポリペプチドをコードする核酸(例えば、発現ベクター)がT細胞に導入される前に、T細胞は、約1日~約4日、約1日~約3日、約1日~約2日、約2日~約3日、約2日~約4日、約3日~約4日、または約1日、約2日、約3日、もしくは約4日間にわたって活性化および増殖される。
【0111】
一部の実施形態において、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖をコードする核酸(例えば、発現ベクター)がT細胞に導入される前に、T細胞は、約6時間、約12時間、約18時間、または約24時間にわたって活性化および増殖される。一部の実施形態において、T細胞は、T細胞受容体β鎖をコードする核酸(例えば、発現ベクター)がT細胞に導入されると同時に、活性化される。
【0112】
一部の実施形態において、T細胞培養に適切な条件には、適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI培地1640またはX-vivo 15(Lonza))、ならびに増殖および生存能力に必要な一つ以上の因子を含み、因子には、血清(例えば、ウシ胎児またはヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、IL-21、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFβ、およびTNF-αまたは当業者に既知の、細胞の成長に適した任意の他の添加物が含まれるが、これらに限定されない。細胞培養培地のさらなる例示的な例には、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミンを添加し、血清を含まないか、または適切な量の血清(もしくは血漿)もしくは定義された一式のホルモン、および/もしくはT細胞の成長および増殖に十分な量のサイトカイン(複数可)を補充した、RPMI 1640、Click、AEVI-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 15、およびX-Vivo 20、Optimizerが含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
一部の実施形態において、T細胞受容体β鎖をコードする核酸(例えば、発現ベクター)は、マイクロインジェクション、トランスフェクション、リポフェクション、ヒートショック、エレクトロポレーション、形質導入、遺伝子銃、マイクロインジェクション、DEAEデキストラン介在性移入などによって細胞(例えば、T細胞)に導入される。一部の実施形態において、T細胞受容体β鎖をコードする核酸(例えば、発現ベクター)は、AAV形質導入によって細胞(例えば、T細胞)に導入される。AAVベクターは、AAV2からのITR、およびAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAV 10のうちのいずれか一つからの血清型を含みうる。一部の実施形態において、AAVベクターは、AAV2からのITR、およびAAV6からの血清型を含む。一部の実施形態において、T細胞受容体β鎖をコードする核酸(例えば、発現ベクター)は、レンチウイルス形質導入によって細胞(例えば、T細胞)に導入される。レンチウイルスベクター骨格は、HIV-1、HIV-2、ビスナ・マエディウイルス(VMV)ウイルス、ヤギ関節炎・脳脊髄炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、またはサル免疫不全ウイルス(SIV)に由来しうる。レンチウイルスベクターは、統合能力を有するか、またはインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(TDLV)であってもよい。一実施形態において、HIVベースのベクター骨格(すなわち、HIVシス作用性配列要素)を含むIDLVベクターが用いられる。
【0114】
コンピュータ可読媒体およびシステム
コンピュータ可読媒体およびシステムも本開示によって提供される。
【0115】
特定の態様において、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納した一つ以上のコンピュータ可読媒体が提供される。 一つ以上のコンピュータ可読媒体上に格納された配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の数は、変化しうる。例えば、一つ以上のコンピュータ可読媒体は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列のうちの1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、15個以上、20個以上、25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、45個以上、50個以上、75個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上、300個以上、350個以上、400個以上、450個以上、500個以上、550個以上、600個以上、650個以上、700個以上、750個以上、800個以上、850個以上、900個以上、950個以上、1000個以上、1100個以上、1200個以上、または各々をその上に格納していてもよい。配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の全てよりも少ないものが、一つ以上のコンピュータ可読媒体上に格納される場合、一つ以上のコンピュータ可読媒体は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の任意の所望の(例えば、上記に記載されるような)数および組み合わせを、その上に格納していてもよい。一部の実施形態において、一つ以上のコンピュータ可読媒体は、配列番号1~1996(例えば、 配列番号:1~1281)に記載されたTCRβ CDR3配列のうちの、1996個以下、1281個以下、1000個以下、950個以下、900個以下、850個以下、800個以下、750個以下、700個以下、650個以下、600個以下、550個以下、500個以下、450個以下、400個以下、350個以下、300個以下、250個以下、200個以下、190個以下、180個以下、170個以下、160個以下、150個以下、140個以下、130個以下、120個以下、110個以下、100個以下、90個以下、80個以下、70個以下、60個以下、50個以下、40個以下、30個以下、20個以下、または10個以下を、任意の所望の組み合わせで、その上に格納していてもよい。
【0116】
TCRβ CDR3配列を評価するためのシステムも提供される。一部の実施形態によれば、TCRβ CDR3配列を評価するためのシステムが提供され、こうしたシステムは、一つ以上のプロセッサおよび一つ以上のコンピュータ可読媒体を含む。一つ以上のコンピュータ可読媒体は、その上に格納された命令を含み、命令は一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996、例えば、配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象(例えば、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を呈する対象を含むが、これに限定されない、IBを有すると特定された、またはIBDを有することが疑われる対象)から取得された試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価させる。一部の実施形態によれば、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列の数は、1,000~2,000,000である。例えば、特定の実施形態において、決定されたTCRβ CDR3配列の数は、2,000,000以下(例えば、1,500,000以下、1,250,000以下、1,000,000以下、750,000以下、または500,000以下)であるが、1,000以上、5,000以上、10,000以上、15,000以上、20,000以上、25,000以上、30,000以上、35,000以上、40,000以上、45,000以上、50,000以上、55,000以上、60,000以上、65,000以上、70,000以上、75,000以上、80,000以上、85,000以上、90,000以上、95,000以上、または100,000以上である。決定されたTCRβ CDR3配列が比較される、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の数は、変化しうる。例えば、決定されたTCRβ CDR3配列は、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列のうちの1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、15個以上、20個以上、25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、45個以上、50個以上、75個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上、300個以上、350個以上、400個以上、450個以上、500個以上、550個以上、600個以上、650個以上、700個以上、750個以上、800個以上、850個以上、900個以上、950個以上、1000個以上、1010個以上、1020個以上、1030個以上、または各々と比較されてもよい。決定されたTCRβ CDR3配列が、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の全てよりも少ないものと比較される場合、決定されたTCRβ CDR3配列は、配列番号1~1996、例えば、配列番号1~1281に記載されるTCRβ CDR3配列の任意の所望の(例えば、上記に記載されるような)数および組み合わせと比較されてもよい。
【0117】
一つ以上のコンピュータ可読媒体は、その上に格納された命令をさらに含んでもよく、命令は一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、評価工程の結果に基づく一つ以上の追加の工程を実施させる。例えば、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列のいずれも、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在しないと評価工程から決定された場合、命令はさらに、一つ以上のプロセッサに、例えば、クローン病を有していないとして対象を特定させ、クローン病療法を投与されるべきではないものとして対象を特定させ、および/または同種のことをさせてもよい。また、例として、配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の一つ以上(例えば、二個以上、三個以上、四個以上、五個以上、または10個以上)が、対象(例えば、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を呈する対象を含むが、これに限定されない、IBを有すると特定された、またはIBDを有することが疑われる対象)から取得された試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在することが、評価工程から決定された場合、命令はさらに、一つ以上のプロセッサに、例えば、対象がクローン病を有すると予測させ、クローン病を有するとして対象を診断させ、クローン病療法を投与されるべきものとして対象を特定させ、および/または同種のことをさせてもよい。
【0118】
特定の実施形態において、一つ以上のコンピュータ可読媒体は、その上に格納された命令をさらに含んでもよく、命令は一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、評価工程の結果をモデルに供させるなど、評価工程の結果をさらなる分析に供させる。例えば、命令は、クローン病を有する、もしくはクローン病を有しないとして対象を分類するために、および/またはクローン病を有し、かつ非クローン病IBD(例えば、潰瘍性大腸炎)を有しないとして対象を分類するために、一つ以上のプロセッサに、評価工程の結果をモデルに供させてもよい。当業者であれば、本明細書に記載される配列番号1~1996(例えば、配列番号1~1281)に記載されるTCRβ CDR3配列の利益を用いると、様々な有用なモデルが、評価の結果に適用されうることを理解するであろう。一つの非限定的な例において、命令は、一つ以上のプロセッサに、評価工程の結果を、試料から決定されたクローン病関連TCRβ CDR3配列の数、および試料から決定された固有のTCRβ CDR3配列の総数を表す特徴を用いて、二特徴ロジスティック回帰に供させてもよい。以下の実験セクションで示されるように、こうしたモデルは、クローン病に対して高い特異性および感度を示す。
【0119】
特定の実施形態において、一つ以上のコンピュータ可読媒体が、その上に格納された命令をさらに含み、命令が一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、(例えば、上記のような)分類の目的のために、評価工程の結果をモデルに供させる場合、モデルは、試料から決定されたTCRβ CDR3配列中に存在する固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数を考慮に入れてもよい(例えば、固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数がより多いほど、モデルは、クローン病を有するとして対象を分類する可能性がより高い)。一部の実施形態によれば、固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の数は、対象を分類するためにモデルによって利用される特徴ではない。特定の実施形態において、一つ以上の特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度は、対象を分類するためにモデルによって使用される特徴(複数可)である。例えば、一つ以上の特定の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度は、一つ以上の他の固有のクローン病関連TCRβ CDR3配列の存在および/または頻度と比較して、対象を分類する際に比較的より大きな重みを与えられうる。
【0120】
本開示の実施形態を実施するために、様々なプロセッサベースのシステムを用いてもよい。こうしたシステムは、システムの構成要素がバスを使用して互いに電気通信している、システムアーキテクチャを含んでもよい。システムアーキテクチャは、システムバスに様々に連結された、処理ユニット(CPUまたはプロセッサ)ならびにキャッシュを含みうる。バスは、システムメモリ(例えば、読み出し専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM))を含む様々なシステム構成要素をプロセッサに連結する。
【0121】
システムアーキテクチャは、プロセッサと直接接続された、プロセッサに近接した、またはプロセッサの一部として統合された高速メモリのキャッシュを含みうる。システムアーキテクチャは、プロセッサによる迅速なアクセスのために、メモリおよび/または記憶装置からキャッシュにデータをコピーすることができる。このようにして、キャッシュは、データを待っている間、プロセッサの遅延を回避する性能向上を提供することができる。これらおよび他のモジュールは、様々な動作を実施するためにプロセッサを制御するか、または制御するように構成されうる。他のシステムメモリも使用のために利用可能でありうる。メモリは、異なる性能特性を有する複数の異なるタイプのメモリを含むことができる。プロセッサは、任意の汎用プロセッサ、ならびにプロセッサを制御するように構成された、記憶装置に格納された第一のモジュール、第二のモジュールおよび第三のモジュールなどのハードウェアモジュールまたはソフトウェアモジュール、ならびにソフトウェア命令が実際のプロセッサ設計に組み込まれている専用プロセッサを含みうる。プロセッサは、本質的に、複数のコアまたはプロセッサ、バス、メモリコントローラ、キャッシュなどを含む、完全に自己完結したコンピューティングシステムであってもよい。マルチコアプロセッサは、対称または非対称であってもよい。
【0122】
コンピューティングシステムアーキテクチャとのユーザ相互作用を可能にするために、入力装置は、例えばスピーチ用のマイクロフォン、ジェスチャまたはグラフィカル入力用のタッチ感応式スクリーン、キーボード、マウス、モーション入力、スピーチなどの任意の数の入力機構を表しうる。出力装置も、多数の出力機構のうちの一つ以上でありうる。一部の実例において、マルチモーダルシステムは、ユーザーが、コンピューティングシステムアーキテクチャと通信するための複数のタイプの入力を提供することを可能にすることができる。通信インターフェースは、一般に、ユーザー入力およびシステム出力を制御および管理することができる。いずれの特定のハードウェア配置での作動についても制限はないため、ここでの基本的な機能は、開発される際には改善されたハードウェアまたはファームウェア配置と簡単に置き換えられうる。
【0123】
記憶装置は、典型的には不揮発性メモリであり、磁気カセット、フラッシュメモリカード、ソリッドステートメモリデバイス、デジタル多用途ディスク、カートリッジ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、およびそれらのハイブリッドなど、コンピュータによってアクセス可能なデータを記憶できる、ハードディスクまたは他のタイプのコンピュータ可読媒体でありうる。
【0124】
記憶装置は、プロセッサを制御するためのソフトウェアモジュールを含むことができる。他のハードウェアまたはソフトウェアモジュールが企図されている。記憶装置はシステムバスに接続することができる。一態様において、特定の機能を実施するハードウェアモジュールは、開示された技術の様々な機能を実施するために、例えばプロセッサ、バス、出力装置などの、必要なハードウェア構成要素に関連して、コンピュータ可読媒体に格納されたソフトウェアコンポーネントを含みうる。
【0125】
本開示の範囲内の実施形態はまた、有形および/または非一時的コンピュータ可読記憶媒体、またはその上に格納されたコンピュータ実行可能命令もしくはデータ構造を担持するもしくは有するための装置を含んでもよい。こうした有形のコンピュータ可読記憶装置は、上述のような任意の専用プロセッサの機能設計を含む、汎用コンピュータまたは専用コンピュータによってアクセスできる任意の利用可能な装置とすることができる。限定ではなく例として、こうした有形のコンピュータ可読装置は、RAM、ROM、EEPROM、CD-ROMもしくは他の光ディスク記憶装置、磁気ディスク記憶装置もしくは他の磁気記憶装置、またはコンピュータ実行可能命令、データ構造、もしくはプロセッサチップ設計の形態で所望のプログラムコードを担持もしくは保存するために使用できる任意の他の装置を含みうる。情報または命令がネットワークまたは別の通信接続(有線、無線、またはそれらの組み合わせのいずれか)を介してコンピュータに提供されるとき、コンピュータは、接続をコンピュータ可読媒体として適切に見る。したがって、こうした任意の接続は、コンピュータ可読媒体と適切に呼ばれる。上記の組み合わせも、コンピュータ可読記憶装置の範囲内に含まれるべきである。
【0126】
コンピュータ実行可能命令には、例えば、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、または専用処理装置に、特定の機能または機能群を実行させる命令およびデータを含む。コンピュータ実行可能命令は、スタンドアロンまたはネットワーク環境でコンピュータによって実行されるプログラムモジュールも含む。一般に、プログラムモジュールは、ルーチン、プログラム、コンポーネント、データ構造、オブジェクト、およびタスクを実施するかまたは抽象データ型を実装する専用プロセッサなどの設計に固有の機能を含む。コンピュータ実行可能命令、関連するデータ構造、およびプログラムモジュールは、本明細書に開示される方法の工程を実行するためのプログラムコード手段の例を表す。こうした実行可能な命令または関連するデータ構造の、特定の配列は、こうした工程で記述される機能を実装するための対応する作用の例を表す。
【0127】
本開示の他の実施形態は、パーソナルコンピュータ、手持ち式デバイス、マルチプロセッサシステム、マイクロプロセッサベースまたはプログラム可能な家電製品、ネットワークPC、ミニコンピュータ、メインフレームコンピュータなどを含む、多くのタイプのコンピュータシステム構成を有するネットワークコンピューティング環境で実践されうる。実施形態はまた、通信ネットワークを通して(有線リンク、無線リンク、またはそれらの組み合わせのいずれかによって)結合されたローカルおよびリモート処理装置によってタスクが実施される、分散コンピューティング環境で実践されてもよい。分散コンピューティング環境において、プログラムモジュールは、ローカルメモリ記憶装置およびリモートメモリ記憶装置の両方に位置しうる。
【0128】
添付の特許請求の範囲にもかかわらず、本開示は、以下の実施形態によっても定義される。
【0129】
1. T細胞受容体β鎖相補決定領域3(TCRβ CDR3)配列を評価するためのコンピュータ実施方法であって、
配列番号1~1996に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価することを含む、コンピュータ実施方法。
【0130】
2. 配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価することを含む、実施形態1に記載のコンピュータ実施方法。
【0131】
3. 評価することの前に、対象が、炎症性腸疾患(IBD)を有すると特定されている、または有することが疑われる、実施形態1または実施形態2に記載のコンピュータ実施方法。
【0132】
4. 対象が、評価することの時に、クローン病と一致する一つ以上の非特異的症状を有する、実施形態1~3のいずれか一つに記載のコンピュータ実施方法。
【0133】
5. 一つ以上の非特異的症状が、下痢、疲労、腹痛、腹部疝痛、直腸出血、意図しない体重減少、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、実施形態4に記載のコンピュータ実施方法。
【0134】
6. 対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列が、10,000個以上のTCRβ CDR3配列を含む、実施形態1~5のいずれか一つに記載のコンピュータ実施方法。
【0135】
7. 対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列が、対象から取得した試料中に存在するゲノムDNAの増幅およびハイスループットシーケンシングを実施することによって決定された、実施形態1~6のいずれか一つに記載のコンピュータ実施方法。
【0136】
8. 対象から取得した試料が、末梢血試料である、実施形態1~7のいずれか一つに記載のコンピュータ実施方法。
【0137】
9. 対象から取得した試料が、腸組織試料である、実施形態1~7のいずれか一つに記載のコンピュータ実施方法。
【0138】
10. 配列番号1~1996に記載されるTCRβ CDR3配列を含むT細胞受容体β鎖(TCRβ)を発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む方法。
【0139】
11. 配列番号1~1281に記載されるTCRβ CDR3配列を含むTCRβを発現するT細胞を含むと特定された対象に、クローン病療法を実施することを含む、実施形態10に記載の方法。
【0140】
12. クローン病療法が、治療上有効な量の抗炎症薬を対象に投与することを含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0141】
13. クローン病療法が、治療上有効な量のコルチコステロイドを対象に投与することを含む、実施形態12に記載の方法。
【0142】
14. コルチコステロイドが、プレドニゾン、ブデソニド、またはそれらの組み合わせである、実施形態13に記載の方法。
【0143】
15. クローン病療法が、治療上有効な量の5-アミノサリチル酸塩を対象に投与することを含む、実施形態10~14のいずれか一つに記載の方法。
【0144】
16. 5-アミノサリチル酸塩が、スルファサラジン、メサラミン、またはそれらの組み合わせである、実施形態15に記載の方法。
【0145】
17. クローン病療法が、治療上有効な量の免疫抑制剤を対象に投与することを含む、実施形態10~16のいずれか一つに記載の方法。
【0146】
18. 免疫抑制剤が、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサート、またはそれらの任意の組み合わせである、実施形態17に記載の方法。
【0147】
19. クローン病療法が、治療上有効な量のモノクローナル抗体を対象に投与することを含む、実施形態10~18のいずれか一つに記載の方法。
【0148】
20. モノクローナル抗体が、ナタリズマブ、ベドリズマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ウステキヌマブ、またはそれらの任意の組み合わせである、実施形態19に記載の方法。
【0149】
21. クローン病療法が、治療上有効な量の抗生物質を対象に投与することを含む、実施形態10~20のいずれか一つに記載の方法。
【0150】
22. 対象にクローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、潰瘍性大腸炎ではなく、クローン病を有すると特定することをさらに含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0151】
23. 対象にクローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、過敏性腸症候群ではなく、クローン病を有すると特定することをさらに含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0152】
24. 対象にクローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、セリアック病ではなく、クローン病を有すると特定することをさらに含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0153】
25. クローン病療法が、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、および/またはセリアック病ではなく、クローン病に適した療法である、実施形態22~24のいずれか一つに記載の方法。
【0154】
26. 対象にクローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病を有すると特定することをさらに含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0155】
27. クローン病療法が、瘻孔形成または構造化を伴わないクローン病ではなく、瘻孔形成または構造化を伴うクローン病に適した療法である、実施形態26に記載の方法。
【0156】
28. 対象にクローン病療法を実施する前に、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列を含む一つ以上のTCRβを発現するT細胞を含むと対象が特定されたことに基づいて、対象が、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病を有すると特定することをさらに含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0157】
29. クローン病療法が、結腸クローン病ではなく、回腸/回腸結腸クローン病に適した療法である、実施形態28に記載の方法。
【0158】
30. 配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、非一時的コンピュータ可読媒体。
【0159】
31. 配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される5個以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、実施形態30に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0160】
32. 配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される10個以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、実施形態30に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0161】
33. 配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される100個以上のTCRβ CDR3配列をその上に格納している、実施形態30に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0162】
34. TCRβ CDR3配列を評価するためのシステムであって、
一つ以上のプロセッサと、
その上に格納された命令を含む一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体であって、命令が、一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される一つ以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列を評価させる、一つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体と、を含むシステム。
【0163】
35. 対象から取得した試料から決定されたTCRβ CDR3配列が、10,000個以上のTCRβ CDR3配列を含む、実施形態34に記載のシステム。
【0164】
36. 命令が、一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される5個以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、決定されたTCRβ配列を評価させる、実施形態34または実施形態35に記載のシステム。
【0165】
37. 命令が、一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される10個以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、決定されたTCRβ配列を評価させる、実施形態34または実施形態35に記載のシステム。
【0166】
38. 命令が、一つ以上のプロセッサによって実行されるとき、一つ以上のプロセッサに、配列番号1~1996または配列番号1~1281に記載される100個以上のTCRβ CDR3配列の存在または不在について、決定されたTCRβ配列を評価させる、実施形態34または実施形態35に記載のシステム。
【0167】
以下の実施例は、例証として提供されるものであり、限定として提供されるものではない。
【実施例】
【0168】
実験
実施例1-TCRレパートリーデータからのクローン病の予測
本明細書では、時に「クローン病の増強配列」、「増強配列」などと呼ばれる、クローン病関連TCRβ配列の特定が本実施例に記載される。
【0169】
T細胞受容体レパートリーを、全血試料、末梢血単核細胞(PBMC)、または血液のバフィーコート調製物の免疫シーケンシングによって生成した。簡潔に述べると、標準的な抽出キットを使用して、血液または細胞試料からゲノムDNAを抽出した。次いで、18μg程度のゲノムDNAをマルチプレックスPCR反応に投入して、TCRβ鎖のCDR3領域を増幅し、続いてハイスループットシーケンシング(上述のimmunoSEQアッセイ)を行った。
【0170】
TCRレパートリーデータからクローン病を予測する初期診断モデルを、サン・ルイ病院(パリ)からのコホートからのクローン病関連手術を受ける患者からの血液試料で実行した。トレーニング中の症例には、外科的介入前のクローン病患者362人が含まれた。トレーニング中の対照には、他のデータセット(医薬品開発業務受託機関および他の研究を介して採取された健康な血液ドナー)からの、1000人超の健康な成人が含まれた。モデルはまず、片側のフィッシャーの正確検定を使用して、対照と比較してクローン病の症例試料で上昇している固有のTCR配列を特定する。固有の配列は、そのV遺伝子、J遺伝子、およびTCRβ CDR3アミノ酸配列によって特定される。次いで、従属変数EおよびNを用いて二特徴ロジスティック回帰を実施した。ここで、Eは、増強配列をコードする固有のTCRβDNA配列の数であり、Nは、その対象における固有のTCRβDNA配列の総数である。
図1に概略的に図示するように、対照からクローン病患者を区別する何百ものクローン病関連TCRβ配列を特定し、ロジスティック回帰で使用した(モデルのAUC=0.945、99.5%の特異性において71.6%の感度)。
【0171】
次いで、モデル性能を、トレーニングで使用されていないホールドアウトデータセットで試験した。
図2に示すように、高いモデルスコア(強いシグナル)は、クローン病患者についてのみ観察され、試験された他の健康/疾患群では観察されなかった。
【0172】
図3に示すように、クローン病関連TCRβ配列は、クラスII MHCに関連するクラスターと、クローン患者における高い収束的な組み換えとを呈するが、対照では呈しないということが明らかになった。
【0173】
これらのTCR配列の追加の生物学的検証として、サン・ルイ病院のクローン病患者からの組織試料も、immunoSEQアッセイを使用して配列決定した。これらの組織由来レパートリーから、血液中で特定されたクローン病関連TCRβ配列はまた、同じ患者からの血液試料と比較して、腸組織試料中において存在し濃縮されていることが明らかになった。
図4に示すように、同様の数のクローン病関連TCRβ配列が、血液および腸組織で観察された。組織試料中の総配列は小さいため、組織における配列の著しくより大きな割合が、増強配列である。照合標本の血液および腸組織中のシグナルは、強く相関していることが分かった。
【0174】
次いで、多数の追加の臨床試料を採取し、ImmunoSEQアッセイを使用して免疫シーケンシングして、改善されたモデルを構築した。これらの試料には、サン・ルイ病院から、ならびにキール大学(ドイツ)が実施した複数の研究から、および炎症性腸疾患協会からの追加試料が含まれた。合計で3,890人のクローン病の対象が集められ、これらの対象試料の80%を、クローン病の新しい分類器を開発するためにトレーニングに使用した(20%はホールドアウトに残された)。成人(炎症性腸疾患なし)の他の研究からの4,000を超える陰性対照もトレーニングに使用した。クローン病と有意に関連する1,281個の固有のTCRβ CDR3配列が特定された(本明細書の表1)。このリストは、初期モデルで特定された配列からの高度な重複を示したが、数百個の追加のTCRβ配列を追加した。他のモデルは、他のクローン病関連配列を特定した、回腸疾患対結腸疾患についての異なる選択コホートおよび位置ベースのモデルを含む、クローン病でトレーニングされた(本明細書の表2を参照のこと)。
【0175】
このより大きなモデルからのホールドアウトデータを、以前の説明と同様に性能について試験した。
図5に示すように、ホールドアウトデータで観察される感度は、三つの主要なクローン病コホートにわたって高く、腸の潜在的問題にもつながる状態である過敏性腸症候群およびセリアック病を含む他の疾患に対して高い特異性を有する(
図5、右上)。このモデルは、瘻孔形成または狭窄を伴うより複雑な疾患を有する個人において有意により高いシグナルを示し(
図5、左下)、また結腸疾患よりも回腸/回腸結腸疾患において上昇する(
図5、右下)。異なるTCRβ配列は、回腸対結腸のシグナルに寄与すると考えられる。
【0176】
それ故に、前述は、本開示の原理を単に例示するに過ぎない。当然のことながら、当業者であれば、本明細書に明示的に説明または示されていないが、本発明の原理を具現化し、その趣旨および範囲内に含まれる様々な配置を考案することができるであろう。さらに、本明細書に記載される全ての実施例および条件付き文言は、本発明の原理、および当技術を推進するために発明者によって寄稿された概念を理解することにおいて、読者を助けることを主に意図しており、こうした具体的に記載された実施例および条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態ならびにそれらの特定の実施例を記載する本明細書の全ての記述は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することが意図される。加えて、こうした等価物は、現在知られている等価物および将来開発される等価物の両方、すなわち、構造に関係なく、同じ機能を実施する任意の開発される要素を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され、説明される例示的な実施形態に限定されることを意図していない。
【配列表】
【国際調査報告】