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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ケイ素系組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240403BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240403BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240403BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240403BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240403BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20240403BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240403BHJP
   C09D 169/00 20060101ALI20240403BHJP
   C09D 171/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C09D183/04
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M50/449
H01M4/139
C09D183/07
C09D175/04
C09D169/00
C09D171/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555229
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 US2022019426
(87)【国際公開番号】W WO2022192316
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/158,437
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508229301
【氏名又は名称】モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Momentive Performance Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】ビンドゥマドハヴァン,カーティック
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ディアオ
(72)【発明者】
【氏名】コンワル,デバンガ,ブーサン
(72)【発明者】
【氏名】プカン,モンジット
(72)【発明者】
【氏名】ムグ,ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】ヘッバール,ラグハヴェンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ミシャル,プラヴェーン
(72)【発明者】
【氏名】シヴァスブラマニアン,カーシク
【テーマコード(参考)】
4J038
5H021
5H050
【Fターム(参考)】
4J038DE001
4J038DF001
4J038DG001
4J038DL031
4J038DL101
4J038GA15
4J038MA14
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
5H021BB12
5H021CC04
5H021EE01
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE05
5H021EE06
5H021EE15
5H021EE20
5H021HH06
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA04
5H050CA05
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA02
5H050FA18
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA19
(57)【要約】
本技術は、電気化学セルの部品の一部として使用するのに適したケイ素系の表面改質剤を含む表面改質組成物を提供する。この組成物は、セパレーター用のコーティング、電極活物質用のコーティング、および/または、例えば電気化学セルのアノードを形成するための電極用スラリーの一部として用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質組成物であって:式1:
(R)(W)(R)a'' ………式1
によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含み、式中a、a''またはbはゼロまたはゼロより大きな整数であるが、但し(a+a''+b)は常に0より大きく、
Rは直鎖または分岐鎖であり式(1a)によって表され:
(CH(CHO)(CHOH)(X) ………式(1a)
Xは独立して式(1b)によって表される基であり:
【化36】

式中R、R1'、およびR1''はそれぞれ独立して水素またはC~C20アルキルラジカル、C~C20アルコキシラジカル、C~C20芳香族ラジカル、ヒドロキシルラジカル、水素ラジカル、C~C20未置換または置換炭化水素、C~C20フッ素化炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンアルキレン、1価の環状または非環状メタクリレート、置換または未置換カルボキシレートラジカルまたはエポキシラジカル、C~C10カーボネートまたはカーボネートエステルであり、
c、d、e、およびgはそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但しc+d+e+g>0であり、
Wは式(1c)によって表される基であり、
(Y)(Z) ………式(1c)
式中hおよびiはそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但しh+i>0であり、
式(1c)中のYは式(1d)によって表される基であり:
(Mx''(D(D((Tm'(Qn'(My'' ………式(1d)
式中j、k、l、m'、n'、x''、およびy''はそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但し(j+k+m'+n'+x''+y'')>0であり、
式中Mは式(1e)によって表される基であり:
SiI1/2 ………式(1e)
は式(1f)によって表される基であり:
SiI2/2 ………式(1f)
は式(1g)によって表される基であり:
SiI2/2 ………式(1g)
は式(1h)によって表される基であり:
SiI3/2 ………式(1h)
は式(1i)によって表される基であり:
SiI4/2 ………式(1i)
は式(1j)によって表される基であり:
101112SiI1/2 ………式(1j)
~R12はそれぞれ独立してR、R、R1'、またはR1''であり、
IはOまたはCH基であるが但し分子中に偶数個のO1/2および偶数個の(CH1/2を含み、
式(1c)中のZは独立してウレタン、尿素、無水物、アミド、イミド、水素ラジカル、または1価の環状または非環状の脂肪族または芳香族の置換または未置換炭化水素、または1~20の炭素原子を有するフッ素化炭化水素であり;
ここで表面改質剤は、電気化学基材の表面と接触した場合に基材表面を改質する、表面改質組成物。
【請求項2】
組成物は2成分形であり、1成分目において式1のWは次式によって表され:
(Y(Z ………式(1k);および
2成分目において式1のWは次式によって表され:
(Y(Z ………式(1l)
式中Y
(Mx''(D(D(My'' (1k')
によって表され、式中MはRSiI1/2
はRSiI2/2
はRSiI2/2;および
はR101112SiI1/2
ここでRおよびR12はそれぞれ独立してアルケンラジカルから選択され;R~RおよびR10~R11はそれぞれ独立してC~C20アルキルラジカル;C~C20置換または未置換炭化水素から選択され;そして
式中Y
(Mx''(D(D(My'' (1l')
によって表され、式中MはRSiI1/2
はRSiI2/2
はRSiI2/2;および
はR101112SiI1/2
ここでR、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12はそれぞれ独立してC~C20アルキルラジカル、置換アルキルラジカル、または水素から選択され;
~RおよびR11~R12基の少なくとも1つは水素であり;そして
およびZは独立してZから選択される、請求項1の表面改質組成物。
【請求項3】
およびR12は末端位置にあり、またそれぞれ独立してフッ素原子を含有するC~C20アルケンラジカルである、請求項2の組成物。
【請求項4】
式中Yは:
【化37】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である、請求項2の組成物。
【請求項5】
式中Yは:
【化38】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である、請求項2の組成物。
【請求項6】
式中RおよびR12は末端位置にあり、またそれぞれC~C20カーボネートである、請求項2の組成物。
【請求項7】
表面改質剤は:
【化39】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である、請求項1の組成物。
【請求項8】
式1のWは:
(Mx'' 式(1d')
によって表され、式中x''>0であり、そして
式中Mは式(1e)によって表される基であり:
SiI1/2 ………式(1e)
式中R~R基の1つまたはより多くはポリアルキレンオキシド官能基であり;
ここでIはOであるが但し分子中に偶数個のO1/2を含む、請求項1の組成物。
【請求項9】
、M、D、D、またはTのRからR12の1つまたはより多くはポリアルキレンオキシド基である、請求項1の組成物。
【請求項10】
表面改質剤は式:
【化40】

によって表され、式中m、nは1から500の範囲内の整数である、請求項1の組成物。
【請求項11】
式(1c)のZはウレタンであり、そしてY、iおよびhは請求項1に規定された意味を有する、請求項1の組成物。
【請求項12】
式(1c)のYは:
(T ………式(1d'')
によって表されるシロキサンであり、式中Mは1または1を超える整数であり、そしてTは式(1h)によって表される基であり:
SiI3/2 式(1h)
式中RはR、R、R1'、またはR1''であり、ここでR、R、R1'またはR1''は請求項1に規定された意味を有する基であり、そして
ここでIはOであるが但し分子中に偶数個のO1/2を含む、請求項1の組成物。
【請求項13】
はC~C20アルコキシラジカル、C~C20アルキルラジカル、またはこれらの組み合わせである、請求項12の組成物。
【請求項14】
はエーテル基-O-(CHb'CHでありここでb'は0~10である、請求項12の組成物。
【請求項15】
表面改質剤ははしご型構造、またはかご型構造である、請求項12の組成物。
【請求項16】
表面改質剤が:
次式によって表されるはしご型構造:
【化41】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化42】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化43】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化44】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化45】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化46】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化47】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化48】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化49】

式中nは1から500の範囲にある整数;および/または
次式によって表されるかご型構造:
【化50】

式中nは1から500の範囲にある整数、を有している、請求項12の組成物。
【請求項17】
表面改質剤は約0.1重量%から約10重量%の量で存在する、請求項1から16のいずれかの組成物。
【請求項18】
式1において、a''が0のときaは1;またはa''が1のときaは0、但しbは0であり、表面改質剤は:
【化51】

によって表され、式中R、R1'、R1''、およびR1'''はそれぞれ独立して水素またはC~C20アルキルラジカル、C~C20アルコキシラジカル、C~C20芳香族ラジカル、ヒドロキシルラジカル、水素ラジカル、C~C20未置換または置換炭化水素、C~C20フッ素化炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンアルキレン、1価の環状または非環状メタクリレート、置換または未置換カルボキシレートラジカルまたはエポキシラジカル、C~C10カーボネートまたはカーボネートエステルである、請求項1の組成物。
【請求項19】
電気化学基材は電極、セパレーター、結合剤、電極活物質、またはこれらの組み合わせである、請求項1から18のいずれかの組成物。
【請求項20】
表面改質剤はフィルムを形成することによって基材の表面を改質する、請求項1から18のいずれかの組成物。
【請求項21】
表面改質剤はコーティングを形成することによって基材の表面を改質する、請求項1から18のいずれかの組成物。。
【請求項22】
表面改質剤は粒子を基材に結合することによって基材の表面を改質する。請求項1から18のいずれかの組成物。
【請求項23】
電気化学基材は非水系2次電池に配置される、請求項1から19のいずれかの組成物。
【請求項24】
請求項1から28のいずれかによる表面改質剤を含むコーティングされた電気化学基材。
【請求項25】
基材は200℃の温度で3分間加熱された場合に約10%未満の収縮を示す、請求項24のコーティングされた電気化学基材。
【請求項26】
基材は25℃の温度において未コーティングのポリプロピレン基材に対して100%を超える電解質の取り込みを示す、請求項24または25のコーティングされた電気化学基材。
【請求項27】
請求項1から18のいずれかによる表面改質剤を含む電極粒子凝集体。
【請求項28】
500サイクル後に100mA/gの電流密度において少なくとも38%の比容量維持率を有する、請求項27の電極粒子凝集体。
【請求項29】
表面改質組成物を調製するためのプロセスであって:
請求項1から18のいずれかによる1つまたはより多くの表面改質剤を溶媒と接触させてスラリーを調製することを含む、プロセス。
【請求項30】
表面改質された電気化学基材を調製するためのプロセスであって:
請求項1から18のいずれかによる組成物を電気化学基材に接触させることを含む、プロセス。
【請求項31】
請求項30のプロセスによって調製される表面改質された電気化学基材。
【請求項32】
請求項32の表面改質された電気化学基材を含む電気化学セル。
【請求項33】
表面改質された電気化学基材は、電極および/または電気化学セパレーターである、請求項32の電気化学セル。
【請求項34】
請求項1から18のいずれかの表面改質組成物の電気化学セルにおける結合剤としての使用。
【請求項35】
請求項1から18のいずれかの表面改質組成物の電気化学基材のためのコーティングとしての使用。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は2021年3月9日に出願された米国仮出願第63/158,437に対する優先権および利益を主張しており、この米国出願の開示はその全体が、この参照によって本願に取り入れられる。
【0002】
本技術は表面改質組成物に関する。特に本技術は、ケイ素系の表面改質剤を含む表面改質組成物、および例えば電池のようなエネルギー生成および貯蔵デバイスにおける部品または部品の一部としての、かかる組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
高性能な充電式デバイスに対する需要の高まりは、エネルギー生成および貯蔵デバイスに用いられる堅牢な材料および部品の開発に対する関心の増大をもたらしている。エネルギーデバイスの出力性能は、デバイスの個々の部品によって影響を受ける。例えば、充電式電池の電極のライフサイクルや効率は、活物質、結合剤、および集電体によって影響を受ける。この点について、結合剤はデバイスのライフサイクルを維持するのに重要な役割を果たし、またデバイスの容量やインピーダンスに影響を及ぼす。カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレングリコール(PEG)のような結合剤および接着剤は、電極の製造のために充電式デバイスにおいて結合剤として使用されてきた周知の材料である。これらの接着剤/結合剤の幾つかは本来的に親水性または疎水性である。充電式デバイスの電気化学セルにおいては、結合剤や接着剤は活物質のスラリーに使用されて、集電体の表面上における活物質の付着の維持を助ける。電気化学的プロセスの間に、電極活物質はアルカリ金属イオンのインターカレーションおよびデインターカレーションを行って、活物質の構造的な容積変化を生じさせる。結合剤は望ましくは、電極の構造的安定性を保持するのに役立ち、また活物質の電気化学的作用の間に機械的応力を吸収する。かくして、長い主鎖構造を備え、可撓性を維持することのできるポリマー材料が、結合剤として有用である。しかしながら、従来の多くの結合剤は、例えば、電解質材料、活物質、電圧、および作動温度における変化、およびスラリーの調製や処理その他のための非毒性溶媒との相溶性といった、2次電池に今もこれからも必要とされる技術的な要求に応えることができない。
【0004】
粒子および結合剤の間での接着強度を増大させるために、粒子または結合剤の表面改質がしばしば必要とされる。表面改質剤はまた、結合剤とセパレーター膜の間の相互作用および相溶性を向上させるためにも用いられている。電極活物質のような粒子、およびセパレーターのコーティングに用いられるセラミック粒子のような粒子は、全体的な処方中における相溶性を向上させるために、表面改質を必要とすることがしばしばある。例えば電極活物質は、電極活物質および結合剤の間での接着強度を増大させるために、シランのような表面改質剤を必要としてよい。表面改質剤としてシランカップリング剤を使用する別の例はセラミック粒子用であり、セラミック粒子とポリオレフィンのセパレーター膜との間での相互作用および相溶性を向上させる。
【0005】
電池に用いられる結合剤材料だけではなく、セパレーターもまた、電池の性能および安全性の保持において極めて重要な役割を果たしている。セパレーターは電気化学セル内で2つの電極の間に置かれる多孔質ポリマー膜であり、短絡を防止する一方で、系内におけるイオンの流れを可能にする。電池用の従来の幾つかのセパレーター材料には、セルロース紙、セロファン、不織布、発泡体、イオン交換膜、およびポリマー材料から作成された微小孔フラットシート膜が含まれる。ポリオレフィンは、多くの市販の2次電池において使用されている最も一般的なセパレーター材料である。ポリオレフィン類材料の中で、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)が最も普通に使用されているセパレーターである。しかしながらポリオレフィンのセパレーターは、高温における寸法安定性の維持、機械的強度、および加工性について課題を有している。極端な温度における加熱は電池の安全な作動にとって有害であり、またポリオレフィン材料のような従来のセパレーターは、比較的低い融点を有している。したがって、高温環境における安全な電池の作動を確保するためには、耐熱性のセパレーター材料が望ましい。例えば、PEのセパレーターは典型的には135℃前後で溶融し、またPPのセパレーターは160℃前後で溶融する。過剰な負荷や製造の不具合によって引き起こされうる電池の異常な加熱は、セパレーター膜の物理的な変形をもたらし、それはアノードとカソードの間での短絡を生じさせうる。セパレーターが溶融し短絡をもたらす温度はしばしば、メルトダウン温度と呼ばれている。電池がさらに高い温度に曝された場合には、猛烈な発熱や爆発が生ずる場合がある。加えて、リチウムイオン電池においては、リチウムデンドライトの成長がセパレーターを断裂させ、短絡をもたらすことが示されている。したがって、良好な耐熱性と機械的一体性をもたらすセパレーターが、電池の安全性に寄与するより重要な要因になってきている。
【0006】
電池のセパレーターの別の重要な側面は、電極との界面である。界面における抵抗はイオンの移動度に影響し、これは次いで、電池のサイクル効率、出力、および容量特性に影響する。
【0007】
それゆえ、上記の課題に対処する組成物に対するニーズが存在している。
【発明の概要】
【0008】
提供されるのは、例えば電池のような電気化学セルに用いることのできる表面改質剤を含む、表面改質組成物である。
【0009】
1つの実施形態において提供されるのは、式1:
(R)(W)(R)a'' ………式1
によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物であり、式中a、a''またはbはゼロまたはゼロより大きな整数であるが、但し(a+a''+b)は常に0より大きく、
Rは直鎖または分岐鎖であり式(1a)によって表され:
(CH(CHO)(CHOH)(X) ………式(1a)
Xは独立して式(1b)によって表される基であり:
【化1】

式中R、R1'、およびR1''はそれぞれ独立して水素またはC~C20アルキルラジカル、C~C20アルコキシラジカル、C~C20芳香族ラジカル、ヒドロキシルラジカル、水素ラジカル、C~C20未置換または置換炭化水素、C~C20フッ素化炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンアルキレン、1価の環状または非環状メタクリレート、置換または未置換カルボキシレートラジカルまたはエポキシラジカル、C~C10カーボネートまたはカーボネートエステルであり、
c、d、e、およびgはそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但しc+d+e+g>0であり、
Wは式(1c)によって表される基であり、
(Y)(Z) ………式(1c)
式中hおよびiはそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但しh+i>0であり、
式(1c)中のYは式(1d)によって表される基であり:
(Mx''(D(D((Tm'(Qn'(My'' ………式(1d)
式中j、k、l、m'、n'、x''、およびy''はそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但し(j+k+m'+n'+x''+y'')>0であり、
式中Mは式(1e)によって表される基であり:
SiI1/2 ………式(1e)
は式(1f)によって表される基であり:
SiI2/2 ………式(1f)
は式(1g)によって表される基であり:
SiI2/2 ………式(1g)
は式(1h)によって表される基であり:
SiI3/2 ………式(1h)
は式(1i)によって表される基であり:
SiI4/2 ………式(1i)
は式(1j)によって表される基であり:
101112SiI1/2 ………式(1j)
~R12はそれぞれ独立してR、R、R1'、またはR1''であり、
IはOまたはCH基であるが但し分子中に偶数個のO1/2および偶数個の(CH1/2を含み、
式(1c)中のZは独立してウレタン、尿素、無水物、アミド、イミド、水素ラジカル、または1価の環状または非環状の脂肪族または芳香族の置換または未置換炭化水素、または1~20の炭素原子を有するフッ素化炭化水素であり;
ここで表面改質剤は、電気化学基材の表面と接触した場合に基材表面を改質する。
【0010】
1つの実施形態において、組成物は2成分形であり、1成分目において式1のWは次式によって表され:
(Y(Z ………式(1k);そして
2成分目において式1のWは次式によって表され:
(Y(Z ………式(1l)
式中Y
(Mx''(D(D(My'' (1k')
によって表され、式中MはRSiI1/2
はRSiI2/2
はRSiI2/2;および
はR101112SiI1/2
式中RおよびR12はそれぞれ独立してアルケンラジカルから選択され;R~RおよびR10~R11はそれぞれ独立してC~C20アルキルラジカル;C~C20置換または未置換炭化水素から選択され;および
式中Y
(Mx''(D(D(My'' (1l')
によって表され、ここでMはRSiI1/2
はRSiI2/2
はRSiI2/2;および
はR101112SiI1/2
式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12はそれぞれ独立してC~C20アルキルラジカル、置換アルキルラジカル、または水素から選択され;
~RおよびR11~R12基の少なくとも1つは水素であり;そして
およびZは独立してZから選択される。
【0011】
1つの実施形態において、RおよびR12は末端位置にあり、またそれぞれ独立してフッ素原子を含有するC~C20アルケンラジカルである。
【0012】
1つの実施形態において、Yは:
【化2】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である。
【0013】
1つの実施形態において、Yは:
【化3】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である。
【0014】
1つの実施形態において、RおよびR12は末端位置にあり、またそれぞれC~C20のカーボネートである。
【0015】
1つの実施形態において、表面改質剤は:
【化4】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である。
【0016】
1つの実施形態において、式1のWは:
(Mx'' 式(1d')
によって表され、式中x''>0、そして
式中Mは式(1e)によって表される基であり:
SiI1/2 ………式(1e)
式中R~R基の1つまたはより多くはポリアルキレンオキシド官能基であり;
式中IはOであるが但し分子は偶数個のO1/2を含む。
【0017】
1つの実施形態において、M1、、D、D、またはTのRからR12の1つまたはより多くはポリアルキレンオキシド基である。
【0018】
1つの実施形態において、表面改質剤は式:
【化5】

によって表され、式中m、nは1から500の範囲にある整数である。
【0019】
1つの実施形態において、式(1c)のZはウレタンであり、式中Y、iおよびhは請求項1で与えられた意味を有する。
【0020】
1つの実施形態において、式(1c)のYは次式:
(T ………式(1d'')
によって表されるシロキサンであり、式中mは1または1より大きな整数であり、そしてTは式(1h)によって表される基であり:
SiI3/2 式(1h)
式中RはR、R、R1'、またはR1''であり、ここでR、R、R1'またはR1''は請求項1で与えられた意味を有する基であり、そして
式中IはOであり、但し分子は偶数個のO1/2を含む。
【0021】
1つの実施形態において、RはC~C20アルコキシラジカル、C~C20アルキルラジカル、またはこれらの組み合わせである。
【0022】
1つの実施形態において、Rはエーテル基-O-(CHb'CHであり、ここでb'は0~10である。
【0023】
1つの実施形態において、表面改質剤ははしご型構造、またはかご型構造を有する。
【0024】
1つの実施形態において、表面改質剤は、次式によって表されるはしご型構造:
【化6】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化7】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化8】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化9】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化10】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化11】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化12】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化13】

式中nは1から500の範囲にある整数;
次式によって表されるはしご型構造:
【化14】

式中nは1から500の範囲にある整数;および/または
次式によって表されるかご型構造:
【化15】

式中nは1から500の範囲にある整数、を有する。
【0025】
上記の実施形態のいずれかによる1つの実施形態において、表面改質剤は約0.1重量%から約10重量%の量で存在する。
【0026】
1つの実施形態において、a''が0のときaは1;またはa''が1のときaは0、但しbは0であり、表面改質剤は:
【化16】

によって表され、式中R、R1'、R1''、およびR1'''はそれぞれ独立して水素またはC~C20アルキルラジカル、C~C20アルコキシラジカル、C~C20芳香族ラジカル、ヒドロキシルラジカル、水素ラジカル、C~C20未置換または置換炭化水素、C~C20フッ素化炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンアルキレン、1価の環状または非環状メタクリレート、置換または未置換カルボキシレートラジカルまたはエポキシラジカル、C~C10カーボネートまたはカーボネートエステルである。
【0027】
上記の実施形態のいずれかによる1つの実施形態において、電気化学基材は電極、セパレーター、結合剤、電極活物質、またはこれらの組み合わせである。
【0028】
上記の実施形態のいずれかによる1つの実施形態において、表面改質剤はフィルム(膜)を形成することによって基材の表面を改質する。
【0029】
上記の実施形態のいずれかによる1つの実施形態において、表面改質剤はコーティング(塗装膜)を形成することによって基材の表面を改質する。
【0030】
上記の実施形態のいずれかによる1つの実施形態において、表面改質剤は粒子を基材に結合することによって基材の表面を改質する。
【0031】
上記の実施形態のいずれかによる1つの実施形態において、電気化学基材は非水系2次電池に配置される。
【0032】
上記の実施形態のいずれかによる表面改質剤を含むコーティングされた電気化学基材。
【0033】
1つの実施形態において、基材は200℃の温度で3分間加熱された場合に約10%未満の収縮を示す。
【0034】
1つの実施形態において、基材は25℃の温度において未コーティングのポリプロピレン基材に対して100%を超える電解質の取り込みを示す。
【0035】
上記の実施形態のいずれかによる表面改質剤を含む電極粒子凝集体。
【0036】
1つの実施形態において、電極粒子凝集体は500サイクル後に100mA/gの電流密度において少なくとも38%の比容量維持率を有する。
【0037】
1つの実施態様において提供されるのは、表面改質組成物を調製するためのプロセスであり、このプロセスは:上記の実施形態のいずれかによる1つまたはより多くの表面改質剤を溶媒と接触させてスラリーを調製することを含んでいる。
【0038】
1つの実施態様において提供されるのは、表面改質された電気化学基材を調製するためのプロセスであり、このプロセスは上記の実施形態のいずれかによる組成物を電気化学基材と接触させることを含んでいる。
【0039】
1つの実施態様において提供されるのは、上記プロセスによって調製される表面改質された電気化学基材である。
【0040】
1つの実施態様において提供されるのは、表面改質された電気化学基材を含む電気化学セルである。
【0041】
1つの実施形態において、表面改質された電気化学基材は、電極および/または電気化学セパレーターである。
【0042】
別の実施態様において提供されるのは、上記の実施形態のいずれかによる表面改質組成物の電気化学セルのための電極における結合剤としての使用である。
【0043】
別の実施態様において提供されるのは、上記の実施形態のいずれかによる表面改質組成物の電気化学基材のためのコーティングとしての使用である。
【0044】
1つの実施態様において提供されるのは、表面改質組成物を調製するためのプロセスであり、このプロセスは:1つまたはより多くの表面改質剤を溶媒と接触させてスラリーを調製することを含んでおり、そこにおいて1つまたはより多くの表面改質剤は上記および明細書を通して記載された式1によって表される。
【0045】
別の実施態様において提供されるのは、表面改質された電気化学基材を調製するためのプロセスであり、上記の実施形態のいずれかによる表面改質組成物を電気化学基材と接触させることを含んでいる。
【0046】
さらに別の実施態様において提供されるのは、上記のプロセスによって調製される表面改質された電気化学基材である。
【0047】
さらに別の実施態様において提供されるのは、表面改質された電気化学基材を含む電気化学セルである。
【0048】
1つの実施態様において提供されるのは、式1によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物を含む1つまたはより多くの部品を有する電気化学セルである。
【0049】
1つの実施形態において、電気化学セルはセパレーターを含み、そこにおいてセパレーターは表面に配置されるコーティングを有するポリマー基材を含み、ここでコーティングは式1によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物である。
【0050】
1つの実施形態において、電気化学セルは結合剤を含む電極材料を含み、ここで結合剤は式1によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物を含んでいる。
【0051】
別の実施形態において提供されるのは、表面改質された電気化学基材を調製するためのプロセスであり、このプロセスは式1によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物を電気化学基材に塗布することを含んでいる。
【0052】
さらに別の実施形態において提供されるのは、式1によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物を電気化学基材に塗布する上記のプロセスによって調製される表面改質された電気化学基材である。
【0053】
さらに別の実施形態において提供されるのは、表面改質された電気化学基材を含む電気化学セルであり、ここで表面は、式1によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含む表面改質組成物を電気化学基材に塗布することによって改質されている。
【0054】
なおさらに別の実施形態において提供されるのは、(i)アノード、(ii)カソード、(iii)セパレーター、および(iv)電解質を含む電気化学セルであり、ここでアノード、カソード、および/またはセパレーターが表面改質組成物を含んでいる。
【0055】
これらのおよび他の実施形態および実施態様は、以下の詳細な説明を参照することによってさらに理解される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1Aはシロキサン配合物でコーティングされたセパレーターのサイクル安定性を示すグラフである。
【0057】
図1Bは未コーティングのセパレーターとシロキサン配合物でコーティングされたセパレーターのサイクル安定性を示すグラフである。
【0058】
図2はシロキサン結合剤の存在下におけるグラファイト電極のサイクリックボルタモグラムである。
【0059】
図3はPVDFを結合剤として用い、またシロキサンを結合剤として用いた電気化学セルのサイクル安定性を示すグラフである。
【0060】
図4はシリル化ポリウレタン(SPUR)を結合剤として含み炭化ケイ素含有アノードを使用するコインセルのサイクリックボルタモグラムである。
【0061】
図5はシリル化ポリウレタン(SPUR)を結合剤として用いグラファイト、一酸化ケイ素およびカーボンブラックを含むアノードを使用するコインセルのサイクリックボルタモグラムである。
【0062】
図6はグラファイト、一酸化ケイ素、カーボンブラック、SBR、およびCMCを結合剤として含むアノード配合物のサイクリックボルタモグラムである。
【0063】
図7はグラファイト、一酸化ケイ素、カーボンブラック、SBR、およびトリシロキサンポリエーテル(Silwet408)を結合剤として含むアノード配合物のサイクリックボルタモグラムである。
【0064】
図8は基準電極およびトリシロキサンポリエーテル(Silwet408)改質電極の選択されたサイクルの定電流充電放電データである。
【0065】
図9Aは表面改質剤で処理しない電極粒子のSEM画像である(凝集体の形成なし)。図9Bは本発明の表面改質剤を含む変位された粒子凝集体のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下の明細書および特許請求の範囲においては、幾つもの用語が用いられるが、それらは以下の意味を有するものとして定義される。
【0067】
単数形「ある」、「1つの」、および「その」は、文脈が明らかに他を示していない限りは複数形を含む。「任意選択」または「任意選択的」は、続いて記述される事象または状況が生じても生じなくてもよいこと、またその記述は事象が生ずる場合およびそれが生じない場合を含んでいることを意味している。
【0068】
本願の明細書および特許請求の範囲を通じて使用される近似的な用語は、それが関連する基本的な機能の変更をもたらすことなく変動することが許容される任意の量的な表現を修飾するために適用されてよい。したがって、「約」のような用語または他の用語によって修飾された値は、記載された特定の値に限定されるものではない。幾つかの場合には、近似的な用語は、値を測定するための機器の精度に対応してよい。
【0069】
本願で使用するところでは、用語「芳香族」および「芳香族ラジカル」は互換的に使用され、少なくとも1の価数を有し少なくとも1つの芳香族基を含む原子配列を指している。少なくとも1の価数を有し少なくとも1つの芳香族基を含む原子配列は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素および酸素のようなヘテロ原子を含んでいてよく、または炭素および水素だけから構成されていてよい。本願で使用するところでは、用語「芳香族」は限定するものではないが、フェニル、ピリジル、フラニル、チエニル、ナフチル、フェニレン、およびビフェニルラジカルを含んでいる。上記のように、芳香族ラジカルは少なくとも1つの芳香族基を含んでいる。芳香族基は例外なく4n+2の「非局在化」電子を有する環状構造であり、ここで「n」は1に等しいかより大きな整数であり、フェニル基(n=1)、チエニル基(n=1)、フラニル基(n=1)、ナフチル基(n=2)、アズレニル基(n=2)、アントラセネイル基(n=3)およびその他によって例示される。芳香族ラジカルはまた、非芳香族成分を含んでいてよい。例えば、ベンジル基はフェニル環(芳香族基)およびメチレン基(非芳香族成分)を含む芳香族ラジカルである。同様に、テトラヒドロナフチルラジカルは、非芳香族成分-(CH-に融合した芳香族基(C)を含む芳香族ラジカルである。便宜上、用語「芳香族ラジカル」または「芳香族」は本願において、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロ芳香族基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステル、アミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基およびその他のような広い範囲の官能基を包含するように規定されている。例えば、4-メチルフェニルラジカルはメチル基を含むC芳香族ラジカルであり、このメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2-ニトロフェニル基はニトロ基を含むC芳香族ラジカルであり、このニトロ基は官能基である。芳香族ラジカルは4-トリフルオロメチルフェニル、ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(4-フェン-1-イルオキシ)(即ち、-OPhC(CFPhO-)、4-クロロメチルフェン-1-イル、3-トリフルオロビニル-2-チエニル、3-トリクロロメチルフェン-1-イル(即ち、3-CClPh-)、4-(3-ブロモプロプ-1-イル)フェン-1-イル(即ち、4-BrCHCHCHPh-)、およびその他のようなハロゲン化芳香族ラジカルを含んでいる。芳香族ラジカルのさらなる例には、4-アリルオキシフェン-1-オキシ、4-アミノフェン-1-イル(即ち、4-HNPh-)、3-アミノカルボニルフェン-1-イル(即ち、NHCOPh-)、4-ベンゾイルフェン-1-イル、ジシアノメチリデンビス(4-フェン-1-イルオキシ)(即ち、-OPhC(CN)PhO-)、3-メチルフェン-1-イル、メチレンビス(4-フェン-1-イルオキシ)(即ち、-OPhCHPhO-)、2-エチルフェン-1-イル、フェニルエテニル、3-ホルミル-2-チエニル、2-ヘキシル-5-フラニル、ヘキサメチレン-1,6-ビス(4-フェン-1-イルオキシ)(即ち、-OPh(CHPhO-)、4-ヒドロキシメチルフェン-1-イル(即ち、4-HOCHPh-)、4-メルカプトメチルフェン-1-イル(即ち、4-HSCHPh-)、4-メチルチオフェン-1-イル(即ち、4-CHSPh-)、3-メトキシフェン-1-イル、2-メトキシカルボニルフェン-1-イルオキシ(例えば、メチルサリチル)、2-ニトロメチルフェン-1-イル(即ち、2-NOCHPh)、3-トリメチルシリルフェン-1-イル、4-t-ブチルジメチルシリルフェン-1-イル、4-ビニルフェン-1-イル、ビニリデンビス(フェニル)、及びその他が含まれる。用語「C~C10芳香族ラジカル」は、少なくとも3つであるが10を超えない炭素原子を含有する芳香族ラジカルを含んでいる。芳香族ラジカル1-イミダゾルイル(C-)は、C芳香族ラジカルを表している。ベンジルラジカル(C-)はC芳香族ラジカルを表している。1つまたはより多くの実施形態において、芳香族基はC~C30芳香族基、C10~C30芳香族基、C15~C30芳香族基、C20~C30芳香族基を含んでいてよい。幾つかの特定の実施形態において、芳香族基はC~C10芳香族基、C~C10芳香族基、またはC~C10芳香族基を含んでいてよい。
【0070】
本願で使用するところでは、用語「脂環式基」および「脂環式ラジカル」は互換的に使用されてよく、少なくとも1の価数を有するラジカルを指していて、そこにおけるラジカルは、環状ではあるが芳香族ではない原子配列を含んでいる。本願で規定するところでは「脂環式ラジカル」は芳香族基を含まない。「脂環式ラジカル」は1つまたはより多くの非環状成分を含んでいてよい。例えば、シクロヘキシルメチル基(C11CH-)は、シクロへキシル環(環状であるが芳香族ではない原子配列)およびメチレン基(非環状成分)を含む脂環式ラジカルである。脂環式ラジカルは、窒素、硫黄、セレン、ケイ素および酸素のようなヘテロ原子を含んでいてよく、または炭素および水素だけから構成されていてよい。便宜上、用語「脂環式ラジカル」は本願では、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステル、アミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基およびその他のような広い範囲の官能基を包含するように規定されている。例えば、4-メチルシクロペント-1-イルラジカルはメチル基を含むC脂環式ラジカルであり、このメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2-ニトロシクロブト-1-イルラジカルはニトロ基を含むC脂環式ラジカルであり、このニトロ基は官能基である。脂環式ラジカルは1つまたはより多くのハロゲン原子を含んでいてよく、これは同一でも異なっていてもよい。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素が含まれる。1つまたはより多くのハロゲン原子を含む脂環式ラジカルには、2-トリフルオロメチルシクロヘキサ-1-イル、4-ブロモジフルオロメチルシクロオクト-1-イル、2-クロロジフルオロメチルシクロヘキサ-1-イル、ヘキサフルオロイソプロピリデン-2,2-ビス(シクロヘキサ-4-イル)(即ち、-C10C(CF10-)、2-クロロメチルシクロヘキサ-1-イル、3-ジフルオロメチレンシクロヘキサ-1-イル、4-トリクロロメチルシクロヘキサ-1-イルオキシ、4-ブロモジクロロメチルシクロヘキサ-1-イルチオ、2-ブロモエチルシクロペント-1-イル、2-ブロモプロピルシクロヘキサ-1-イルオキシ(即ち、CHCHBrCH10O-)、およびその他が含まれる。脂環式ラジカルのさらなる例には、4-アリルオキシシクロヘキサ-1-イル、4-アミノシクロヘキサ-1-イル(即ち、H10-)、4-アミノカルボニルシクロペント-1-イル(即ち、NHCOC-)、4-アセチルオキシシクロヘキサ-1-イル、2,2-ジシアノイソプロピリデンビス(シクロヘキサ-4-イルオキシ)(即ち、-OC10C(CN)10O-)、3-メチルシクロヘキサ-1-イル、メチレンビス(シクロヘキサ-4-イルオキシ)(即ち、-OC10CH10O-)、1-エチルシクロブト-1-イル、シクロプロピルエテニル、3-ホルミル-2-テトラヒドロフラニル、2-ヘキシル-5-テトラヒドロフラニル、ヘキサメチレン-1,6-ビス(シクロヘキサ-4-イルオキシ)(即ち、-OC10(CH10O-)、4-ヒドロキシメチルシクロヘキサ-1-イル(即ち、4-HOCH10-)、4-メルカプトメチルシクロヘキサ-1-イル(即ち、4-HSCH10-)、4-メチルチオシクロヘキサ-1-イル(即ち、4-CHSC10-)、4-メトキシシクロヘキサ-1-イル、2-メトキシカルボニルシクロヘキサ-1-イルオキシ(2-CHOCOC10O-)、4-ニトロメチルシクロヘキサ-1-イル(即ち、NOCH10-)、3-トリメチルシリルシクロヘキサ-1-イル、2-t-ブチルジメチルシリルシクロペント-1-イル、4-トリメトキシシリルエチルシクロヘキサ-1-イル(即ち、(CHO)SiCHCH10-)、4-ビニルシクロヘキセン-1-イル、ビニリデンビス(シクロへキシル)、およびその他が含まれる。用語「C~C10脂環式ラジカル」には、少なくとも3つであるが10を超えない炭素原子を含有する脂環式ラジカルが含まれる。脂環式ラジカル2-テトラヒドロフラニル(CO-)はC脂環式ラジカルを表している。シクロへキシルメチルラジカル(C11CH-)はC脂環式ラジカルを表している。幾つかの実施形態において、脂環式基はC3~C20環状基、C~C15環状基、C~C10環状基、またはC~C10環状基を含んでいてよい。
【0071】
本願で使用するところでは、用語「脂肪族基」および「脂肪族ラジカル」は互換的に使用され、少なくとも1の価数を有し、環状ではなく直鎖または分岐鎖の原子配列からなる有機ラジカルを指している。脂肪族ラジカルは、少なくとも1つの炭素原子を含んで定義される。脂肪族ラジカルを含む原子配列は、窒素、硫黄、ケイ素、セレンおよび酸素のようなヘテロ原子を含んでいてよく、または炭素および水素だけから構成されていてよい。便宜上、用語「脂肪族ラジカル」は本願において、「環状ではなく直鎖または分岐鎖の原子配列」の一部として、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えばエステル、アミドなどのカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基およびその他の広い範囲の官能基を包含するように規定される。例えば、4-メチルペント-1-イルラジカルはメチル基を含むC脂肪族ラジカルであり、このメチル基はアルキル基である官能基である。同様に、4-ニトロブト-1-イル基はニトロ基を含むC脂肪族ラジカルであり、このニトロ基は官能基である。脂肪族ラジカルは1つまたはより多くのハロゲン原子を含むハロアルキル基であってよく、このハロゲン原子同一でも異なっていてもよい。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素が含まれる。1つまたはより多くのハロゲン原子を含む脂肪族ラジカルには、トリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2-ブロモトリメチレン(即ち、-CHCHBrCH-)、およびその他のアルキルハライドが含まれる。脂肪族ラジカルのさらなる例には、アリル、アミノカルボニル(即ち、-CONH)、カルボニル、2,2-ジシアノイソプロピリデン(即ち、-CHC(CN)CH-)、メチル(即ち、-CH)、メチレン(即ち、-CH-)、エチル、エチレン、ホルミル(即ち、-CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(即ち、-CHOH)、メルカプトメチル(即ち、-CHSH)、メチルチオ(即ち、-SCH)、メチルチオメチル(即ち、-CHSCH)、メトキシ、メトキシカルボニル(即ち、CHOCO-)、ニトロメチル(即ち、-CHNO)、チオカルボニル、トリメチルシリル(即ち、(CHSi-)、t-ブチルジメチルシリル、3-トリメトキシシリルプロピル(即ち、(CHO)SiCHCHCH-)、ビニル、ビニリデン、およびその他が含まれる。さらなる例として、C~C10脂肪族ラジカルは、少なくとも1つであるが10を超えない炭素原子を含んでいる。メチル基(即ち、CH-)はC脂肪族ラジカルの例である。デシル基(即ち、CH(CH-)は、C10脂肪族ラジカルの例である。1つまたはより多くの実施形態において、脂肪族基または脂肪族ラジカルは、限定するものではないが、1~20の炭素原子、2~15の炭素原子、3~10の炭素原子、または4~8の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖の炭化水素を含んでいてよい。
【0072】
用語「寸法安定性」は、本願で使用するところでは、電気化学膜/セパレーターの属性であり、端部における収縮がなく、または収縮が低減され、そして反りがないことを包含している。収縮および/または反りが少ないほど、電気化学膜/セパレーターの寸法安定性は大きい。
【0073】
本技術は、表面改質組成物および種々の用途におけるその使用を提供する。表面改質組成物は1つまたはより多くの表面改質剤を含む。表面改質組成物は、電気化学セルまたはデバイス中の部品の表面を改質および/または形成する。幾つかの実施形態において、表面改質組成物は2次電池のような電気化学セルの電気化学基材の表面を改質する。1つまたはより多くの実施形態において、表面改質組成物は、電気化学膜セパレーター用のコーティング、活性粒子用のコーティング(電極用スラリー、例えばアノード用スラリーとして使用する)、および結合剤の材料を含み、また電気化学膜セパレーター用のコーティング、活性粒子用のコーティング、および結合剤の材料(電極用スラリー、例えばアノード用スラリーとして使用する)として提供されることができる。用語「電気化学膜セパレーター」および「セパレーター」は、以下では互換的に使用される。
【0074】
表面改質組成物は、1つまたはより多くの表面改質剤を含んでいる。1つの実施形態において、表面改質組成物は樹脂またはフィルムを形成することができる。この組成物から形成されたフィルムは、例えば電池のようなエネルギー生成および貯蔵デバイスのさまざまな部品に使用することができる。1つの実施形態において、本組成物は電池のセパレーター上のコーティングとして用いることのできるフィルムを形成するのに適している。別の実施形態においては、この組成物は電池において結合剤として使用することのできる、電極活物質上のフィルムを形成するために使用することができる。幾つかの他の実施形態において、この組成物はまた、基材の表面に付着された場合に表面を改質するために使用することができ、カップリング剤として、例えばシランカップリング剤として作用する。この組成物から形成されるフィルムの応用または意図された用途に応じて、組成物は以下でさらに記載するように他の成分を含んでよい。
【0075】
1つの実施形態において、表面改質組成物は式1:
(R)(W)(R)a'' ………式1
によって表される1つまたはより多くの表面改質剤を含み、式中a、a''またはbはゼロまたはゼロより大きな整数であるが、但し(a+a''+b)は常に0より大きく、
Rは直鎖または分岐鎖であり式(1a)によって表され:
(CH(CHO)(CHOH)(X) ………式(1a)
Xは独立して式(1b)によって表される基であり
【化17】

、R1'、およびR1''は独立して水素またはC~C20アルキルラジカル、C~C20アルコキシラジカル、C~C20芳香族ラジカル、ヒドロキシルラジカル、水素ラジカル、C~C20未置換または置換炭化水素、C~C20フッ素化炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンアルキレン、1価の環状または非環状メタクリレート、置換または未置換カルボキシレートラジカルまたはエポキシラジカル、C~C10カーボネートまたはカーボネートエステルであり、
c、d、e、およびgはそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但しc+d+e+g>0であり、
Wは式(1c)によって表される基であり、
(Y)(Z) ………式(1c)
式中hおよびiはそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但しh+i>0であり、
式(1c)中のYは式(1d)によって表される基であり:
(Mx''(D(D((Tm'(Qn'(My'' ………式(1d)
式中j、k、l、m'、n'、x''、およびy''はそれぞれ独立してゼロまたはゼロより大きな整数であるが但し(j+k+m'+n'+x''+y'')>0であり、
式中Mは式(1e)によって表される基であり:
SiI1/2 ………式(1e)
は式(1f)によって表される基であり:
SiI2/2 ………式(1f)
は式(1g)によって表される基であり:
SiI2/2 ………式(1g)
は式(1h)によって表される基であり:
SiI3/2 ………式(1h)
は式(1i)によって表される基であり:
SiI4/2 ………式(1i)
は式(1j)によって表される基であり:
101112SiI1/2 ………式(1j)
~R12は独立してR、R、R1'、またはR1''であり、
IはOまたはCH基であるが分子中に偶数個のO1/2および偶数個の(CH1/2を含むという制限を受け、
式(1c)中のZは独立してウレタン、尿素、無水物、アミド、イミド、水素ラジカル、または1価の環状または非環状の脂肪族または芳香族の置換または未置換炭化水素、または1~20の炭素原子を有するフッ素化炭化水素であり;
ここで表面改質剤は、電気化学基材の表面と接触した場合に基材表面を改質する。
【0076】
1つまたはより多くの実施形態において、表面改質組成物は2成分を含み、1成分目において式1のWは次式によって表され:
(Y(Z ………式(1k);そして
2成分目において式1のWは次式によって表され:
(Y(Z ………式(1l)
式中Y
(Mx''(D(D(My'' (1k')
式中MはRSiI1/2
はRSiI2/2
はRSiI2/2;および
はR101112SiI1/2
式中RおよびR12はそれぞれ独立してアルケンラジカルから選択され;R~RおよびR10~R11はそれぞれ独立してC~C20アルキルラジカル;C~C20置換または未置換炭化水素から選択され;および
式中Y
(Mx''(D(D(My'' (1l')
によって表され、ここでMはRSiI1/2
はRSiI2/2
はRSiI2/2;および
はR101112SiI1/2
式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12はそれぞれ独立してC~C20アルキルラジカル、置換アルキルラジカル、または水素から選択され;R~RおよびR11~R12基の少なくとも1つは水素であり;そしてZおよびZは独立してZから選択される。これらの実施形態の幾つかにおいて、組成物のRおよびR12は末端位置にある。幾つかの実施形態において、組成物のRおよびR12は末端位置にあり、そしてそれぞれ独立してC~C20フッ素原子を含有するアルケンラジカルである。
【0077】
1つの実施形態において、Yは式(1m)を有し、式中nは1から1000の範囲の整数である:
【化18】
【0078】
1つの実施形態において、Yは式(1n)を有し、式中nは1から1000の範囲の整数である:
【化19】
【0079】
さらに別の実施形態において、表面改質剤はカーボネート基(-O-C(O)-O-)を含んでいてよい。カーボネート官能基は、ポリカーボネート官能基を与える繰り返し構造の基であることができる。表面改質剤は式1に従い、そこにおいて表面改質剤はカーボネート官能基を含むことができる。1つの実施形態において、表面改質剤はポリジメチルシロキサンであって末端に脂肪族または芳香族のポリカーボネートブロックを有する。幾つかの実施形態において、RおよびR12は式(1k)を有し、末端位置にあってC~C20カーボネートである。1つの実施形態において、表面改質剤は:
【化20】

によって表され、式中nは1から1000の範囲にある整数である。
【0080】
幾つかの実施形態において、表面改質剤はポリアルキレンオキシド基を含むシロキサン系の化合物である。こうした表面改質剤は式1(c)に包含される構造を有していてよく、式中Yは式(1d)に基づくシロキサン構造を有し、式中M、M、D、D、またはTのRからR12の1つまたはより多くはポリアルキレンオキシド基である。幾つかの実施形態において、表面改質剤はポリアルキレンオキシド官能基を含むシロキサン系の化合物であり、ここで式1のWは:
(Mx'' 式(1d')
によって表され、式中x''>0、そして式中Mは式(1e)によって表される基であり:
SiI1/2 ………式(1e)
式中R~R基の1つまたはより多くのはポリアルキレンオキシド官能基であり;そしてIはOであるが但し分子中に偶数個のO1/2を含む。1つの実施形態において、表面改質剤は:
【化21】

によって表され、式中mおよびnは独立して1から500の範囲にある整数である。
【0081】
別の実施形態において、表面改質剤はシリル化ポリウレタンである。1つまたはより多くの実施形態において、式1の表面改質剤はシリル化ポリウレタン(SPUR)であり、そこにおいて式1(c)のZはウレタンであり、そしてY、i、およびhは式1について上述した意味を有する。1つの実施形態において、式1の表面改質剤はシリル化ポリウレタン(SPUR)であってよく、そこにおいて式1(c)のZはウレタンであり、そしてYはシロキサンポリマー鎖を表し、hおよびiは両方とも独立して1または1を超える。これらの実施形態において、表面改質組成物は水分硬化性組成物である。水分硬化性組成物は、(i)イソシアネート末端ポリウレタン(PUR)プレポリマーを適切なシラン、例えばアルコキシその他のようにケイ素原子上の加水分解官能性、および第2にメルカプタン、1級アミンまたは2級アミン、好ましくは後者、その他のような活性水素含有官能性の両方を有するシランと反応させること、または(ii)ヒドロキシル末端PUR(ポリウレタン)プレポリマーを適切なイソシアネート末端シラン、例えば1つから3つのアルコキシ基を有するものと反応させることなどの、種々の方法によって得られてよい。これらの反応の詳細、およびそこで用いられるイソシアネート末端およびヒドロキシル末端PURプレポリマーを調製するための方法の詳細は特に:米国特許第4,985,491号;第5,919,888号;第6,207,794号;第6,303,731号;第6,359,101号;および第6,515,164号、並びに公開された米国特許公開第2004/0122253号および米国特許公開第2005/0020706号(イソシアネート末端PURプレポリマー);米国特許第3,786,081号および第4,481,367号(ヒドロキシル末端PURプレポリマー);米国特許第3,627,722号;第3,632,557号;第3,971,751号;第5,623,044号;第5,852,137号;第6,197,912号;および第6,310,170号(イソシアネート末端PURプレポリマーと反応性シラン、例えばアミノアルコキシシランとの反応によって得られた水分硬化性SPUR(シラン変性/末端ポリウレタン));および、米国特許第4,345,053号;第4,625,012号;第6,833,423号;および公開された米国特許公開第2002/0198352号(ヒドロキシル末端PURプレポリマーとイソシアネートシランとの反応によって得られた水分硬化性SPUR)において見出すことができる。これらの米国特許文献の全内容は、参照することによって本願に取り入れられる。水分硬化性SPUR材料の他の例には、米国特許第7,569,653に記載のものが含まれ、この開示は全体が、参照することによって本願に取り入れられる。
【0082】
幾つかの実施形態において、表面改質剤ははしご状構造またはかご状構造を有する高度に架橋したポリマーであり、所望の官能基を含んでいる。以下においては用語「はしご状」はまた、「はしご型構造」として用いられ、また用語「かご状」は以下において、「かご型構造」としても用いられる。1つの実施形態において、はしご状またはかご状のシリコーン構造はエポキシ官能基を含み、エポキシ官能性シリコーンポリマーがもたらされる。1つの実施形態において、エポキシ官能基はグリシジルエーテル官能基である。エポキシ官能性シリコーンポリマーは、所望に応じて他の官能基を含んでいてよい。1つの実施形態において、エポキシ官能基を含有するはしご状またはかご状のシリコーンポリマーはさらに、R、R、R1'、またはR1''から選択される任意の他の官能基を含んでいてよい。実施形態において、はしご状またはかご状のシリコーンポリマーは、エーテル基(例えば、-O-(CHb'CHここでb'は0~10)、C~C10アルキルラジカル、またはこれらの組み合わせを含む。
【0083】
1つの実施形態において、Yは:
(T ………式(1d'')
によって表されるシロキサンであり、式中Mは1または1を超える整数であり、そしてTは式(1h)によって表される基であり:
SiI3/2 式(1h)
式中RはR、R、R1'、またはR1''であり、ここでR、R、R1'またはR1''は請求項1に規定された意味を有する基であり、そして
ここでIはOであるが但し分子中に偶数個のO1/2を含んでいる。
【0084】
1つの実施形態において、RはC~C20アルコキシラジカル、C~C20アルキルラジカル、またはこれらの組み合わせである。幾つかの実施形態において、Rはエーテル基-O-(CHb'CHであり、ここでb'は0~10である。
【0085】
実施形態において、表面改質剤は式(1d'')を有し、はしご型構造またはかご型構造を有する。
【0086】
幾つかの実施形態において、表面改質剤は式(1-o-iから1-o-ix)によって表されるはしご型構造を有し、式中nは1から500の範囲にある整数である:
【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【化30】
【0087】
1つの実施形態において、表面改質剤はかご型構造を有し式(1-o-x)によって表されるシルセスキオキサンであり、式中nは1から500の範囲にある整数である:
【化31】
【0088】
1つの実施形態において、表面改質組成物は表面改質剤を含み、ここで表面改質剤はシランである。こうした実施形態においては、式1の組成物において、a''が0のときaは1;またはa''が1のときaは0、但しbは0であり、表面改質剤は式(1b'):
【化32】

によって表され、式中R、R1'、R1''、およびR1'''はそれぞれ独立して水素またはC~C20アルキルラジカル、C~C20アルコキシラジカル、C~C20芳香族ラジカル、ヒドロキシルラジカル、水素ラジカル、C~C20未置換または置換炭化水素、C~C20フッ素化炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンアルキレン、1価の環状または非環状メタクリレート、置換または未置換カルボキシレートラジカルまたはエポキシラジカル、C~C10カーボネートまたはカーボネートエステルである。
【0089】
電気化学セル
【0090】
本発明の実施態様において、表面改質組成物は電気化学セルにおいて用いることができる。電気化学セルは、限定するものではないが、アノード、カソード、セパレーター、結合剤、および電解質を含んでいる。
【0091】
上記したように、表面改質剤は、電気化学基材の表面と接触している場合に、基材表面を改質する。こうした実施形態において、電気化学基材は電極、セパレーター、結合剤、電極活物質、またはこれらの組み合わせである。
【0092】
1つまたはより多くの実施形態において、表面改質剤はフィルムを形成することによって基材の表面を改質する。幾つかの実施形態において、表面改質剤はコーティングを形成することによって基材の表面を改質する。1つの実施形態において、表面改質組成物はセパレーター上にコーティングを形成するために使用される。幾つかの他の実施形態において、表面改質剤は基材の粒子を結合することによって基材の表面を改質する。こうした実施形態において、表面改質組成物はアノードまたはカソードの活物質のための結合剤として用いられる。さらに別の実施形態において、表面改質組成物は電気化学セルに用いられる活性粒子のための表面改質剤として用いられる。
【0093】
電気化学セルの種類は特に限定されず、技術的に知られた種類の電池であってよい。具体的には、本発明の電気化学セルは、リチウム金属2次電池、リチウムイオン2次電池、リチウムポリマー2次電池、またはリチウムイオンポリマー2次電池といった、リチウム2次電池であっよい。幾つかの実施形態において、電気化学基材は非水系2次電池内に配置される。
【0094】
本願では表面改質組成物を調製するためのプロセスもまた提供される。このプロセスは、1つまたはより多くの表面改質剤を溶媒と接触させてスラリーを調製することを含み、そこにおいて1つまたはより多くの表面改質剤は式1によって表される。
【0095】
表面改質された電気化学基材を調製するためのプロセスもまた提供され、そこにおいてプロセスは、表面改質組成物を電気化学基材に接触させることを含んでいる。
【0096】
本発明の電気化学セルを製造するための方法は特に限定されず、技術分野において一般に使用されている任意の方法を使用してよい。電気化学セルを製造する方法の非限定的な例は以下の通りである:ポリマー系のセパレーターを電池の正極と負極の間に配置し、次いで電解質溶液を充填するようにして電池を充填する。1つの実施形態において、セパレーターは表面改質剤を含む表面改質組成物から形成されたフィルムでコーティングされている。1つの実施形態において、正極または負極は表面改質剤を含む結合剤材料を含む組成物から形成される。
【0097】
本発明の電気化学セルを構成する電極は、本発明の技術分野において一般に使用されている方法によって電極活物質が電極集電体に結合される形態において製造することができる。本発明の1つの実施形態において使用される電極活物質について、カソード活物質は特に限定されるものではなく、本発明の技術分野で一般に使用されているカソード活物質が使用されてよい。正極活物質の非限定的な例には、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物、またはこれらの組み合わせのリチウム複合酸化物が含まれる。
【0098】
本発明の1つの実施形態において使用される電極活物質の負極活物質は特に限定されず、本発明の技術分野で一般に使用されている負極活物質であってよい。負極活物質の非限定的な例には、リチウム金属またはリチウム合金、カーボン、石油コークス、活性炭、グラファイト(グラファイト)その他のカーボンおよびその他のような、リチウム吸着材料が含まれる。本発明の1つの実施形態において使用される電極集電体は特に限定されず、本発明の技術分野で一般的に使用されている電極集電体を使用してよい。
【0099】
本発明の正極集電体材料の非限定的な例は、アルミニウム、ニッケル、またはこれらの組み合わせから作成された箔であってよい。電極集電体の負極集電体材料の非限定的な例は、銅、金、ニッケル、銅合金、またはこれらの組み合わせによって製造された箔であってよい。
【0100】
本発明において使用される電解質溶液は特に限定されず、本発明の技術分野において使用される任意の適切な電気化学セル電解質溶液であってよい。この電解質溶液は、Aのような構造を有する塩が有機溶媒中に溶解または解離している溶液であってよい。Aの非限定的な例には、Li、Na、またはK、またはこれらの組み合わせのようなアルカリ金属カチオンからなるカチオンが含まれる。Bアニオンの非限定的な例には、PF 、BF 、Cl、Br、I、ClO 、AsF 、CHCO 、CFSO 、N(CFSO またはC(CFSO 、或いはこれらの組み合わせからなるアニオンが含まれる。有機溶媒の非限定的な例には、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジプロピル(DPC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、炭酸エチルメチル(EMC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、その他が含まれる。これらは単独で、またはこれらの2つまたはより多くの組み合わせで使用してよい。
【0101】
セパレーターコーティング
【0102】
表面改質剤(単数または複数)を含む表面改質組成物は、セパレーター材料の一部として用いることができる。1つの実施形態において、表面改質剤(単数または複数)を含む表面改質組成物は、ポリマーフィルムまたは基材セパレーター上にコーティングまたはフィルムを形成するために使用される。1つの実施形態において、表面改質剤(単数または複数)を含む表面改質組成物は基材上に塗布され、硬化されてフィルムを形成する。
【0103】
セパレーターは、電気化学セル内のセパレーターとして適切な任意の材料から形成することができる。1つの実施形態において、セパレーターフィルム/基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、エチレン-αオレフィンコポリマーといったポリオレフィン;ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルアクリレートといったアクリル系ポリマーおよびコポリマー;ポリビニルメチルエーテルといったポリビニルエーテル;ポリアクリロニトリル;ポリビニルケトン;ポリスチレンといったポリビニル芳香族化合物;ポリ酢酸ビニルといったポリビニルエステル;エチレン-メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS樹脂、およびエチレン-酢酸ビニルコポリマーといったビニルモノマー同士やオレフィンとのコポリマー;ブタジエン-スチレンコポリマー、ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリルコポリマー、ポリクロロプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、イソブチレン-イソプレンコポリマー、およびポリウレタンゴムを含む天然ゴムまたは合成ゴム;ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;およびポリエーテルから形成される。支持基材について特に適切な材料は、ポリプロピレンまたはポリエチレンのようなポリオレフィンである。
【0104】
1つの実施形態において、セパレーターの基材は、本願に記載した表面改質剤を含む表面改質組成物から形成されたフィルムでコーティングされている。1つの非限定的な実施形態において、表面改質組成物は式1の表面改質剤を含んでいる。1つの実施形態において、表面改質剤は、例えば式(1x)および(1x-i)の材料のような、ビニルフルオロシロキサン樹脂およびシリルヒドリドを含んでいる:
【化33】

式中nは1~1000の整数であることができ;
【化34】

式中nは1~1000の整数であることができる。
【0105】
別の実施形態において、フィルムを形成するための表面改質組成物は、シルセスキオキサンのはしご型ポリマーまたはかご型ポリマーを含む。こうした材料の例には、限定するものではないが、本願でこれまでに説明した式(1-o-iから1-o-x)のポリマーが含まれる。
【0106】
1つの実施形態において、セパレーター上にフィルムを形成するための表面改質組成物は、ポリアルキレンオキシド官能基で変性されたシロキサン系化合物から選択された表面改質剤を含んでいる。こうした材料の例には、限定するものではないが、本願でこれまでに説明した式(1-o-iから1-o-x)の材料が含まれる。
【0107】
理解されるように、セパレーターをコーティングするための組成物は、2つまたはより多くの異なるシリコーン含有ポリマーの組み合わせを含むことができる。
【0108】
セパレーターをコーティングするための表面改質組成物は、任意選択的にフィラーを含んでいる。セパレーターをコーティングするための表面改質組成物は1つまたはより多くのフィラーを含んでよく、そこにおいてフィラーは、限定するものではないが、アルミナ、シリコン、マグネシア、セリア、ハフニア、酸化ランタン、酸化ネオジム、サマリア、酸化プラセオジム、トリア、ウラニア、イットリア、酸化亜鉛、ジルコニア、サイアロン、ホウケイ酸ガラス、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、シリカ、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、ホウ化ジルコニウム、二ホウ化チタン、十二ホウ化アルミニウム、重晶石、硫酸バリウム、アスベスト、重晶石、珪藻土、長石、石膏、ホルマイト、カオリン、マイカ、霞石閃長岩、パーライト、葉状石、スメクタイト、タルク、バーミキュライト、ゼオライト、方解石、炭酸カルシウム、珪灰石、メタケイ酸カルシウム、粘土、ケイ酸アルミニウム、タルク、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、アルミナ水和物、酸化アルミニウム水和物、シリカ、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ガラス繊維、ガラスフレーク、クレイ、剥離粘土、または他の高アスペクト比の繊維、ロッド、またはフレーク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、マグネシア、チタニア、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ワラストナイト、アルミナ、窒化アルミニウム、グラファイト、グラフェン、金属被覆グラファイト、金属被覆グラフェン、アルミニウム粉末、銅粉末、青銅粉末、真鍮粉末、炭素繊維またはウィスカー、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウム、銀、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、窒化ホウ素ナノシート、酸化亜鉛ナノチューブ、黒リン、銀コートアルミニウム、銀コートガラス、銀メッキアルミニウム、ニッケルメッキ銀、ニッケルアルミメッキ、構造の異なるカーボンブラック、モネルメッシュおよびワイヤー、並びにこれらの2つまたはより多くの組み合わせを含んでいる。
【0109】
1つの実施形態において、フィラーはメチルシルセスキオキサン樹脂微粒子から選ばれるポリマー粒子から選択可能である。こうした材料の非限定的な例には、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社から入手可能な商品名TOSPEARL登録商標の下に販売されている材料が含まれる。適切なフィラーの幾つかの例には、限定するものではないが、TOSPEARL登録商標150KA、TOSPEARL登録商標1110A、TOSPEARL登録商標120A、TOSPEARL登録商標145A、TOSPEARL登録商標2000B、TOSPEARL登録商標3000Aが含まれる。
【0110】
1つの実施形態において、フィラーは配合物に関して約70重量%まで添加することができる。フィラーはコーティングの乾燥重量に基づいて、約0.1重量%から約5重量%、約0.1重量%から約10重量%、または約0.1重量%から約20重量%の量で含まれることができる。
【0111】
セパレーターをコーティングするための表面改質組成物は、任意選択的に溶媒を含むことができる。溶媒は特定の目的または意図する用途に対して所望に応じて選択することができる。溶媒は、メタノール、エタノール、n-ブタノール、t-ブタノール、n-オクタノール、n-デカノール、1-メトキシ-2-プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ヘキサン、デカン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アニリン、フェニレンジアミン、フェニレンジアミン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリジノン(NMP)、およびプロピレンカーボネートのような、極性溶媒および/または非極性溶媒であってよい。
【0112】
セパレーターをコーティングするための表面改質組成物は、配合物を適切なポリマー基材(例えば、ポリカーボネート基材)上に塗布した後に、UV硬化してよい。
【0113】
表面改質組成物は、任意の適切な照射源を使用して硬化してよい。実施形態において、照射源として使用されるのは、好ましくは180から600nm、より好ましくは190から500nmの範囲にある波長をもたらす紫外線源である。光照射強度(単位体積当たりの照射線量×曝露時間)は、選択したプロセス、選択した組成、組成物の温度の関数として、十分な処理時間が与えられるように選択される。本発明の照射工程においては、商業的に入手可能な照射源を使用してよい。適切な照射源の例には、ダイマックス社から入手可能な照射源が含まれる。照射源は、約120から約200mW/cmにおいて約200から約1,000mJ/cmの出力を有していてよい。他の入手可能な光源には、UVフュージョン社から入手可能な光源が含まれる。平均曝露時間(照射ユニット(単数または複数)を通過するのに必要な時間)は、例えば少なくとも1秒、好ましくは2から50秒である。例えば、本願に開示された組成物は紫外(UV)または可視スペクトルにおいて化学線によって硬化されてよく、これらは両方とも電磁放射線または電子ビーム(EB)放射線を包含することができる。
【0114】
セパレーターをコーティングするための表面改質組成物は、触媒を含んでいてよい。適切な触媒には、限定するものではないが、ジブチルスズジラウレートおよびジブチルスズアセテートのようなジアルキルスズジカルボキシレート、3級アミン、オクチル酸スズや酢酸スズのようなカルボン酸のスズ塩、およびその他が含まれる。他の有用な触媒には、限定するものではないが、キングインダストリーズ社により供給されているKAT XC6212、K-KAT XC-A209およびK-KAT 348のようなジルコニウム含有およびビスマス含有錯体、デュポン社から入手可能なTYZER登録商標タイプおよびケンリッチペトロケミカルズ社から入手可能なKRタイプのようなアルミニウムキレート、およびその他の有機金属触媒、例えばZn、Co、Ni、Fe、およびその他のような金属を含有する有機金属触媒が含まれる。
【0115】
幾つかの実施形態において、組成物は約0.0001重量%から約0.1重量%の触媒を含有する。幾つかの他の実施形態において、組成物は約0.0005重量%から約0.001重量%の触媒を含有する。幾つかの他の実施形態において、組成物は約0.001重量%から約0.1重量%の触媒を含有する。幾つかの他の実施形態において、組成物は約0.005重量%から約0.1重量%の触媒を含有する。幾つかの他の実施形態において、組成物は約0.005重量%から約1重量%の触媒を含有する。
【0116】
1つの実施形態において、本発明の表面改質組成物でコーティングされた電気化学基材は、200℃で3分間加熱された場合に、10%またはそれ未満、7.5%またはそれ未満、5%またはそれ未満、2.5%またはそれ未満、1%またはそれ未満、さらには0.5%またはそれ未満の収縮率を有する。
【0117】
1つの実施形態において、本発明の表面改質組成物でコーティングされた電気化学基材は、コーティングされていない基材と比較して、25℃において100%またはより大きな電解質の取り込みを示す。
【0118】
結合剤
【0119】
1つの実施形態において、表面改質組成物は、アノード活物質組成物中で結合剤(バインダー)材料として用いることができる。アノード活物質組成物はスラリーとして提供されることができ、本願ではアノードスラリーと呼ばれてよい。アノードスラリーは、活物質、導電剤、結合剤材料、および溶媒を含むことができる。表面改質組成物は、スラリーと混合される。
【0120】
適切な活物質の例には、限定するものではないが、グラファイト、黒鉛結晶、シリコン、または炭化ケイ素が含まれる。適切なグラファイト材料には、人工グラファイト、天然グラファイト、繊維グラファイトその他が含まれる。アノードスラリー中の活性アノード材料の量は、約50重量%から約90重量%、約60重量%から約85重量%、または約70重量%から約80重量%であることができる。
【0121】
1つの実施形態において、導電剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、またはグラファイトから選択される。この活性剤は、約1重量%から約20重量%、約5重量%から約15重量%、または約7重量%から約10重量%の量で存在することができる。
【0122】
結合剤は、本発明による表面改質剤を含有する表面改質組成物を含むことができる。表面改質組成物は単独で、または他の材料と共に使用されて、結合剤を形成することができる。
【0123】
1つの実施形態において、結合剤はポリアルキレンオキシドで変性されたシリコーンポリマーを含んでいる。1つの実施形態において、結合剤はポリアルキレンオキシドで変性されたシリコーンポリマーおよびアクリレートエマルジョンポリマーを含有する組成物を含んでいる。アクリレートエマルジョンポリマーは、スチレンアクリレートエマルジョンポリマーであることができる。「スチレンアクリレートエマルジョンポリマー」とは、エチレン性不飽和(メタ)アクリレートまたはスチレンの両者から誘導されたポリマー単位を少なくとも50重量%含んでいるエマルジョンポリマーであり、そこにおいてポリマーは、これらの種類のポリマー単位のそれぞれを少なくとも5%含んでいる。適切なスチレンアクリレートエマルジョンポリマーの例には、限定するものではないが、商品名RhoplexTMの下に販売されているものが含まれる。ポリアルキレンオキシドで変性されたシリコーンポリマーおよびアクリルエマルジョンの混合物を含む結合剤組成物において、ポリアルキレンオキシドは約1重量%から約70重量%、約0.5重量%から約50重量%、または約0.1重量%から約70重量%の量で存在し、そしてエマルジョンポリマーは約0.1重量%から約50重量%、約0.5重量%から約70重量%、または約0.1重量%から約70重量%の量で存在する。
【0124】
1つの実施形態において、結合剤として用いられる表面改質組成物は、式1dのポリアルキレン変性されたシリコーンポリマーから選択され、ここでMまたはDまたはTまたはQのR、R、R、R、R、R、R、R18、R19、およびR20の1つまたはより多くはポリアルキレンオキシド基から選択される。1つの実施形態において、RまたはRの一方はポリアルキレンオキシド官能基である。
【0125】
1つの実施形態において、結合剤は構造:
【化35】

を有し、式中nおよびmは1から500の間であることができる。
【0126】
さらに別の実施形態において、結合剤はシリル化ポリウレタン材料から選択される。
【0127】
結合剤材料は、10重量%までの量で存在することができる。1つの実施形態において、結合剤は約0.1重量%から約10重量%、約1重量%から約8重量%、約2重量%から約6重量%、または約4重量%から約5重量%の量で存在する。
【0128】
アノードスラリーはまた、溶媒を含んでいてよい。溶媒は、特定の目的または意図する用途に対して所望に応じて選択することができる。1つの実施形態において、溶媒は水である。1つの実施形態において、溶媒は、限定するものではないが、N-メチル-2ピロリドン(NMP)、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、およびジメチルホルムアミド(DMF)のような有機溶媒である。
【0129】
アノードスラリーはまた、限定するものではないが、増粘剤、分散剤その他を含む、組成物にとって適切な他の材料を含んでいてよい。
【0130】
結合剤は、電極(即ち、アノードまたはカソード)に付着するよう十分に接着性でなければならない。必要であれば、結合剤組成物はさらに、接着を容易にするために1つまたはより多くの接着剤を含むことができる。適切な接着材料には、限定するものではないが、ポリ(酢酸ビニル)系の接着剤(PVAc)、ポリエステルまたはポリオール系のポリウレタン、スチレン-ブタジエンコポリマーおよびターポリマー、エチレン-プロピレンおよびエチレン-プロピレン-ジエン合成ゴム、ポリオレフィン、ポリ(フッ化ビニリデン)、およびポリアミドといったポリマーおよびコポリマーが含まれる。こうした結合剤の混合物もまた有用である。例示的な結合剤は、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、およびポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)のようなポリ(酢酸ビニル)系材料である。
【0131】
電極活物質
【0132】
1つの実施形態において、表面改質剤を含む表面改質組成物は、電極活物質(例えば、アノード活物質またはカソード活物質)をコーティングするために用いることができる。実施形態において、活物質をコーティングするための表面改質組成物は、本願に記載した式(1b')のシランを含んでいる。コーティングされるアノード活物質は特に限定されず、意図する目的または用途について所望に応じて選択することができる。カソード電極材料の例には、限定するものではないが、MnO、NiO、NiOOH、Cu(OH)、酸化コバルト、PbO、AgO、AgO、AgCu、CuAgO、CuMnO、およびこれらの2つまたはより多くの適切な組み合わせを含むことができる。1つの実施形態において、アノード活物質は、Si、Sn、Li、Zn、Mg、Cd、Ce、Ni、Feおよびこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの元素または化合物を含んでいてよい。別の実施形態において、アノード活物質は、限定するものではないが、グラファイト、球状天然グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、およびカーボン繊維(例えば、メソフェーズカーボン繊維)を含む。
【0133】
1つの実施形態において、粒子状であってよい電極活物質を本発明の表面改質組成物で改質すると、粒子凝集体がもたらされる。こうした粒子凝集体は、改質していない粒子と比較して、電極の容量維持率の向上を示すことが見出されている。1つの実施形態において、電極活物質を表面改質剤で改質することにより形成された粒子凝集体は、500サイクル後に100mA/gの電流密度において、38%またはより大きい、40%またはより大きい、45%またはより大きい、50%またはより大きい、さらには80%またはより大きく、99%よりは小さな比容量維持率を示す。
【0134】
本記載では、ベストモードを含めて発明を開示し、またデバイスまたはシステムを作成および使用し、関連する方法を実施することを含めて、技術分野のすべての当業者に発明の実施を可能にするために実施例を用いる。本発明の特許可能な範囲は特許請求の範囲によって規定され、また当業者に想起される他の実施例を含んでいてよい。そうした他の実施例は、それらが特許請求の範囲の文言と相違しない構成要素を有する場合、またはそれらが特許請求の範囲の文言と実質的でない相違を有する均等な構成要素を含む場合には、特許請求の範囲内に包含されることが意図されている。
【0135】
実施例
【0136】
実施例1:フルオロシリコーン表面改質組成物の調製
【0137】
典型的な手順においては、ビニルフルオロシリコーン(第1部)およびヒドリド(第2部)が、特定の比率(3:1、1:1、1:3)で混合され、そして特定量のPt/PDMS触媒(20ppm)が添加されて十分に混合された。この混合物は次いでドクターブレードを用いて、ポリプロピレンセパレーター上に拡延された。コーティングされたセパレーターは次いで、UV光の下に180秒間曝露された。UVに対する曝露は触媒を活性化してビニルとヒドリドを硬化させて、セパレーター表面上に非粘着性の表面をもたらした。コーティングされたセパレーターは次いで、分析のために使用されることができる。
【0138】
実施例2:ポリカーボネート-b-ポリジメチルシロキサン-b-ポリカーボネート(PC-b-PDMS-b-PC)表面改質組成物の調製
【0139】
滴下漏斗と凝縮器を備えた2口丸底フラスコに、窒素雰囲気下でヒドロキシル末端PDMSを入れた。トルエンを添加して110℃に加熱し、そしてオクタン酸スズ(反応物質の0.01重量%)を添加した。次いで、1,3-ジオキサン-2-オンを滴下漏斗から滴下して添加し、反応物を110℃で24時間にわたって撹拌した。反応混合物を冷却し、氷冷したメタノールを滴下して添加し、固体ポリマーを得た(収率90%)。固体ポリマーは次いでトルエン中に溶解し、ポリプロピレンセパレーターの表面全体に滴下した。コーティングしたセパレーターは次いで70℃に保持した熱風オーブン中で乾燥し、溶媒を蒸発させた。コーティングしたセパレーターは次いで、分析に使用した。
【0140】
実施例3:シリル化ポリウレタン(SPUR)系表面改質組成物の調製
【0141】
工程1:SPUR配合物は、ポリオール、IPDI、イソシアネートシランおよび水分捕捉剤を含む。この配合物は入手状態のままであり、追加的に、付加促進剤(A235)、水分捕捉剤(A171)および疎水化剤(A1237)を添加した。すべての成分は十分に混合し、最後にDBTDL(ジブチルスズジラウレート)を添加して十分に混合した。SPUR-80重量%、137A-(アルコキシオリゴマー)-10重量%(疎水化);A235-2重量%(付加促進剤)、A171-1重量%(水分捕捉剤)、触媒-0.1重量%。
【0142】
工程2:SPUR混合物は次いで電極活物質に添加し、乳鉢と乳棒を用いて手作業で粉砕した。この活物質/SPUR混合物に対してスラリーを得るためにNMPを計算した量で添加し、このスラリーで集電体をコーティングした。活物質-90重量%、導電性ブラック-6重量%、結合剤(SPUR配合物)-4重量%。
【0143】
実施例4:POSS(はしご型/かご型)系表面改質組成物の調製
【0144】
典型的な手順においては、ポリシルセスキオキサン分子は、溶媒(THF/水)および炭酸カリウムのような塩基の存在下に40℃で16時間にわたってシランモノマーを反応させることによって合成された。シランモノマーは、A174、A187、フェニルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシランのような分子を含んでいる。次いでポリマー混合物は有機溶媒に抽出し、水で洗浄して残留塩基を除去する。ポリマー混合物中の揮発性物質はロータリーエバポレーターで除去し、高真空で処理してさらに精製する。得られた生成物は、固形分含量が90%を超える粘稠な液体である。上記の樹脂を備えた配合物は、樹脂、溶媒およびUV開始剤、並びにフィラーを用いて調製され、そしてUV光の下に硬化される。使用されたUV開始剤はトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。フィラーはTiO、ZnO、SiO、ジルコニアその他を含むことができる。
【0145】
表面改質した電気化学セパレーターの評価
【0146】
電気化学デバイス用のセパレーターを評価するために、ポリオレフィンおよびセラミックでコーティングしたポリオレフィンを基準として使用し、本発明のシリコーン含有ポリマーでコーティングした場合の性能の特性変化を調べた。典型的な実験例では、セパレーターコーティング配合物は、全配合物に対して樹脂を0~50重量%とフィラーを0~20重量%、および溶媒を含んでいる。組成物はまた、0.01~1重量%の触媒を含んでいる。コーティング組成物は2つまたはより多くの樹脂のブレンドであり、それぞれの樹脂は0~40重量%である。
【0147】
コーティングされる組成物は周囲雰囲気下で調製され、流延コーティングまたはドクターブレードを用いた拡延によって、セパレーター膜の表面上にコーティングされる。続いてコーティングされたセパレーターは数分間風乾され、紫外線光または加熱オーブン中で所定時間にわたって硬化される。コーティングされたセパレーターは次いで様々な寸法に切断され、ASTM標準によって種々の電気化学特性および物理化学特性が試験される。試料の引張試験はASTM D882およびASTM D412を用いて行い、セパレーターの穿刺強度はASTM D3763を使用して決定した。コーティングされたセパレーターの電気化学試験は2032型のコインセルの調製を含み、これについてコインセルのサイクリックボルタンメトリー、サイクル安定性、およびインピーダンス解析を行った。加えて、機械特性、熱特性、収縮性、濡れ性、溶媒取り込み能その他といった性質を、コーティングしたセパレーターについて測定した。
【0148】
実施例5:5%のはしご型ポリシルセスキオキサンで変性したポリプロピレンの調製
【0149】
プロピルおよびエポキシペンダント基を有するはしご状ポリシルセスキオキサン(RHEP)5重量%を1-メトキシプロパノールに分散した。1重量%のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(RHEPの重量に対して)を分散液に添加し、十分に混合した。流延コーティングを使用して、8cm×10cmの大きさのPPシートをこの分散液でコーティングした。典型的な手順においては、樹脂と触媒はセパレーター膜上に流延される適切な溶媒中に溶解した。得られたコーティングされたPPシートは熱風オーブン中で60℃において3分間にわたって乾燥し、続いて380nmで180秒間(それぞれの側について90秒間)にわたりUV硬化を行った。試験のために調製されたコーティングおよび結合剤の種々の配合物を以下の表1に示している。これらの配合物において、Tospearlは0~20重量%の間で変化させることができる。配合物中のRHEおよびRHEPの範囲は、0~100重量%の間で変化させることができる。配合物中のグリシジルPOSSの範囲は、0~100重量%の間で変化させることができる。コポリマー中のPCおよびPDMSの範囲は、PC:PDMSが5:95からPC:PDMSが95:5の間で変化させてよい。このコポリマーはさらに、他の成分を含む配合物中で0~100重量%の間で変化させることができる。配合物中のフルオロビニルシロキサンの範囲は、0~90重量%の間で変化させてよい。
【0150】
材料:実施例において用いられた材料および指定品には、ポリプロピレン(PP)およびアルミナ(Al)でコーティングしたポリプロピレンのセパレーターフィルムの試料が含まれており、これらは中国のセパラテックス社から購入した。フルオロビニルシロキサン(FS)、エポキシ含有はしご状ポリシルセスキオキサン(RHE);エポキシおよびプロピル含有はしご状ポリシルセスキオキサン(RHEP);グリシジル基含有ポリオルガノシルセスキオキサン(GP、かご状構造);ポリカーボネート-ポリジメチルシロキサンブロックコポリマー(PC-PDMS)は研究室で開発し;TOSPEARL登録商標粒子(T120;T145:T3000;T4000)はモメンティブ社から内部的に入手した。合成グラファイト(<20μm)、PVDFはインドのシグマアルドリッチ社から購入した。SuperP導電性カーボンは、インドのアルファエイサー社から購入した。
【表1】
【0151】
種々のコーティング組成物結合剤の特性を表2に示す。
【表2】
【0152】
POSSのはしご型およびかご型分子並びに配合物、およびビニルフルオロシロキサンをコインセルシステムにおけるセパレーターのコーティングとして試験して、電気化学的性質を決定した。表2において、未コーティングのポリプロピレン(PP)電池セパレーターを試料1として特定し、アルミナでコーティングしたポリプロピレンを試料2として特定した。試料1および試料2は比較試料であり、これに対して試料番号3から22は本発明の組成物でコーティングしたポリプロピレンセパレーター基材である。
【0153】
表2から理解されるように、PPは200℃で3分間にわたって処理した場合にその寸法が28%収縮することが示されたが、これに対してアルミナでコーティングされたポリプロピレンはその寸法が100%収縮することが示された。ポリプロピレンセパレーター基材を本発明の組成物でコーティングすると(試料番号3~22)、収縮特性における顕著な改善があることが着目され、最大で10%の収縮が観察された。セパレーターの端部における反り挙動もまた着目された。上記のポリプロピレンセパレーター基材は本発明の組成物でコーティングされた場合に、セパレーターが作業中の熱処理に際して反りを生じなかったことが観察された。このことは、PP表面と本発明のコーティング組成物の間において高い界面相互作用があることを示唆している。このことはまた、本発明の表面改質剤でコーティング/改質された電気化学膜が、従来の未コーティングのPPセパレーター膜と比較して、電気化学膜セパレーターの寸法安定性を一貫して改善することを示している。このことは、アルミナでコーティングされたセパレーター基材(試料番号2)または未コーティングのポリプロピレン基材と比較して、本発明の組成物でコーティングされた場合にはセパレーターにおける寸法安定性が維持可能であることを示している。
【0154】
加えて、PPおよびAlコーティングされたPPセパレーターのLiPF/EC/EMC(1M)電解質取り込み能と比較して、本発明の組成物でコーティングされたセパレーター(試料番号3から22)は、改善された電解質取り込みを示した。未コーティングのPPを基準とすると、本発明のコーティングされた電気化学膜セパレーターが著しく改善された電解質取り込み(>100%)を有することが、表2から明らかに示される。リチウムイオンの取り込みが大きければ、より大きな電荷移動が可能となり、これは次いで、比容量の維持を助けることになる。
【0155】
表面改質された電極粒子の評価
【0156】
シリコーン含有ポリマー材料を結合剤として評価することには、結合剤材料を電極活物質および導電剤と物理的に混合することが含まれる。典型的な実験では、1~10重量%の結合剤が電極活物質(50~80重量%)および導電剤(5~10重量%)と混ぜられて、均一な固相が得られるまで十分に混合された。その後計算された量の溶媒が添加されてスラリーが生成され、このスラリーが次いで集電体上にコーティングされる。この電極は、特定の温度で乾燥した後にコイン形状に切断される。リチウムイオンコインセルが組み立てられ、種々の電流密度においてサイクル安定性および比容量について試験された。加えて、表面改質剤または結合剤材料のそれぞれについて、モルホロジー、空気中熱安定性、粘度その他の各々を決定した。図9Aは表面改質剤で処理していない電極粒子を示しており、凝集体は形成されていない。図9Bは、本発明の表面改質剤を含む粒子凝集体を示している。
【0157】
水性シロキサンおよびSPURをコインセルシステムにおける結合剤として試験して、電気化学特性を決定した。
【0158】
表面改質されたセパレーターおよび電極粒子の電気化学的評価
【0159】
方法:
【0160】
半電池の製造:
活物質としてグラファイト、カーボンブラック、およびPVDF(70:20:10)を使用し、またN-メチルピロリドンを添加することによってスラリーを調製して、半電池を製造した。このスラリーは銅箔上にコーティングし、真空下に6時間にわたり60℃で乾燥した。電解質添加剤を基準となる電解質LiPF/EC/EMCに対して1重量%添加した。リチウムを対電極として使用した。
【0161】
コインセルの構造:
セルは2つの電極の間に配置されるセパレーターを種々用いることによって構成し、それらのセルの性能を評価した。新規な結合剤の電気化学的性能については、成分の量は同じに維持したまま、PVDFを代替的な結合剤と置き換えることによって活物質スラリーを調製した。
サイクル安定性および比容量の測定:
【0162】
測定方法:
バイオロジック社のテスターを用いて10サイクルにわたり0.2mV/sの掃引速度でサイクリックボルタモグラムを記録した。サイクル安定性およびレート能力はネウェア社の電池デスターBTS4000を用いて電流レートを異ならせて試験し、その場合に電流密度は銅の集電体上に装荷された質量に関して計算した。サイクル安定性は50サイクルにわたって評価し、レート能力は50サイクルにわたり5つの異なる電流密度において評価した。
【0163】
表面改質された電気化学セパレーター:
【0164】
実施例6:セパレーターコーティングとしてのPC-PDMSコポリマー
【0165】
PP電池セパレーター上のセパレーターコーティングとしてPC-PDMSコポリマーを使用した。アノード配合物はグラファイトおよびカーボンブラックからなると共にPVDFが結合剤として使用されており、またリチウム金属箔が対電極として使用された。コインセルは100mA/gの電流密度で50サイクルにわたって分析し、対応する電気化学データを図1Aに示している。このサイクル安定性の分析では、50サイクルの終わりの時点で維持された比容量は、最初のサイクルの比容量に対して80%を超えることが示されている。このことはさらに、PC-PDMSコポリマーが多数サイクルにわたってセパレーター全体についてのリチウムイオンの容易な搬送を可能にし、それによって長いサイクルの間、比容量維持をサポートすることを示唆している。加えて、物理化学特性について、PC-PDMSはまたセルの電気化学的機能をもサポートする。
【0166】
実施例7:シロキサン樹脂(Tospearl登録商標)でコーティングしたセパレーターの未コーティングのセパレーターと比較してのサイクル安定性
【0167】
サイクル安定性を未コーティングのPPセパレーター(塗布されたコーティングなし)およびT145/RHEP/GPでコーティングされたPPセパレーターについて100mA/gの電流密度で測定し、また25℃の温度において50サイクルにわたりセルの分析を行った。未コーティングのPPセパレーターおよびT145/RHEP/GPでコーティングされたPPセパレーターの100mA/gの電流密度におけるサイクル安定性のデータを図1Bに示す。この図から、未コーティングのPPセパレーターを含むセルおよびT145/RHEP/GPでコーティングされたPPセパレーターを含むセルのいずれの場合においても、50サイクルの終わりの時点における比容量は同様のままであることが理解される。またこの実験から、T145/RHEP/GPでコーティングされたPPは未コーティングのセパレーターと比較して、長いサイクルの間にわたり同様の電気化学的安定性を示すことも理解される。加えて、T145/RHEP/GPでコーティングされたPPセパレーターはまた、表2(組成物13)に示すように、未コーティングのPPセパレーターと比較して、反りがなく、収縮がなく、電解質の取り込みが増大するといった、改良された物理化学特性をも示す。これらの改良された特性はすべて、本発明の組成物の存在に基づくものでありえ、本発明の組成物は電気化学セルのサイクルの間における拡張安全性にとって本質的な耐熱性および細孔特性を全般的にもたらす。
【0168】
表面改質された電極粒子:
【0169】
実施例8:結合剤としてのシロキサンおよびスチレンアクリレート(SST2)の水性エマルジョン
【0170】
結合剤:
コインセルの結合剤を試験するために、2032型コインセルの半電池を構成した。このプロセスでは、銅箔をカソード用の集電体として使用し、裸のリチウム箔をアノードとして使用した。銅箔はグラファイト、導電性カーボンブラックおよびSST2を含むスラリーを結合剤としてコーティングした。未コーティングのポリプロピレンをコインセルのセパレーターとして使用し、コーティングされた銅電極とリチウム対電極の間に配置した。
【0171】
電極の機械的一体性:
シロキサンとスチレンアクリレートの水性エマルジョンである結合剤SST2を使用して、0.2mV/sのランプ速度でサイクリックボルタモグラムすなわちCVを行った。このデータを図2に提示する。このサイクリックボルタモグラムは、0.1~3.0Vの間の電位ウインドウ内における電極の電気化学的作用を示している。CV曲線は、充電および放電の間のグラファイトに対応する典型的な電気化学的酸化還元ピークの存在を伴う、電極の一貫した作動可能性を示している。SST2結合剤を用いたグラファイト電極が示す最初の放電曲線は1.2Vあたりから始まるトラフ形状を示し、それはより低い電圧までつながっていて、グラファイトの層間の内側へとリチウムイオンがインターカレーションしたことが示される。逆に酸化の間には、0.7Vあたりに盛り上がりがあり、それはグラファイト構造からリチウムイオンが出たことを示している。この挙動は何サイクルにもわたって繰り返されることが理解される。このことは、充放電サイクルの間に電気化学的環境の下で、SST2の存在がアノード活物質に対して構造的安定性および機械的一体性をもたらしうることを示唆している。
【0172】
サイクル安定性:
同様のプロトタイプを一定の電流レートにおいて、またPVDFを結合剤とした場合と比較してサイクル安定性に関して分析した。このデータを図3に示している。サイクル安定性分析は25℃で100mA/gの電流密度において、50サイクルにわたって行った。50サイクルの終わりの時点において、SST2を結合剤とするコインセルの場合には、最初のサイクルの比容量の値に対する比容量の維持率は80%であることが示された。しかしながら、PVDFを結合剤とした場合には、電極は最初の比容量値に対して22%程度の比容量を維持できた。SST2を結合剤として用いることにより比容量の維持率が高いことは、それが潜在的に、電極の機械的一体性を維持可能であることを示唆している。このことは、アクリル部分およびシロキサン部分の存在に基づくものであってよく、強い静電相互作用および機械的可撓性がもたらされ、セルのサイクルの間に電極の安定性が維持される。
【0173】
実施例9:結合剤としてのシラン改質ポリウレタン(SPUR)
【0174】
(I)炭化ケイ素アノードの使用:
シリル化ポリウレタンまたはSPURを電極の結合剤として使用した。この実施例においては、炭化ケイ素(SiC)をアノード活物質として、カーボンブラックと共に使用した。電極はSiC(70重量%)、カーボンブラック(20重量%)およびSPUR(10重量%)を含み、ここでSPURは結合剤として用いられた。CVが記録され、記録されたスペクトルが図4に示されている。このデータは、結合剤としてのSPURの存在下での最初の放電サイクルにおけるトラフから示されるように、最初のサイクル中にSEI層が形成されたことを示している。その後は一貫した安定な酸化還元サイクルが観察され、SPURが結合剤として容積吸収マトリックスを発現しうることが示唆される。このことはまた、SPURの主鎖に存在するポリマーのソフトセグメントの存在に起因するものであってよく、それは電極活物質における容積膨張を緩和することができる。
【0175】
(II)グラファイト、SiOおよびカーボンブラックアノードの使用:
別の実施例においては、SPUR(6重量%)がグラファイト(77重量%)、SiO(13重量%)およびカーボンブラック(4重量%)を含むアノード用の結合剤として使用された。このアノードは、室温において6時間にわたり湿気に曝露することによって硬化された。コインセルの分析は、結合剤としてのSPURの存在下における電気化学的性能は繰り返してのサイクルにわたって一貫性があることを示しており、それが図5に示されている。CVデータ(図5)は、電極活物質内へのリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションに起因する、典型的な電気化学的応答を示している。SiOの存在下において、SPURはサイクルの継続に伴って一貫した電気化学的応答を示した。このことは、アノード活物質(SiOのような)の表面とSPURとの間に適切な相溶性があることを示しており、それによりサイクルの間における電極の機械的な一体性の保持が導かれる。
【0176】
実施例10:結合剤としてのシロキサンポリエーテル
【0177】
別の実施例において、トリシロキサンポリエーテル(Silwet408)が結合剤配合物のための水性添加剤として使用された。この実施例においては、電気化学的アノード配合物は、グラファイト、一酸化ケイ素、カーボンブラックをアノード活物質として含み、またSBRおよびトリシロキサンポリエーテル(Silwet408またはS408のような)を結合剤添加剤として含む。
【0178】
比較例として、結合剤SBRおよびCMCを2:1の比率で含む対照配合物を調製した。試験用の配合物は、SBRおよびトリシロキサンポリエーテル(Silwet408)添加剤を2:1の比率で用いて調製した。
【0179】
対照例:
充電および放電を含む10の連続サイクルにわたって対照配合物および試験配合物の両者についてCVデータを記録し、図6に示した。SBR/CMC結合物含有セルについての最初の放電サイクルは1.2Vあたりにピークを示し、その後は0.7Vを超えたところでピークが継続的に低下した。1.2Vあたりのピークはグラファイト面間へのリチウムイオンの挿入に起因して形成されたものであってよく、また0.7Vを超えたところのピークの低下は、グラファイトの基底面とエッジに対するリチウムイオンの連続的な挿入に起因して生ずるものであってよい。対応する酸化のピークは、酸化プロセスにおけるリチウムイオンの取り出しを示唆している。
【0180】
試験例:
SBRおよびSilwet408を含有するコインセルについて行った後続のサイクルにおいて、上記の対照例において示されたのと類似する傾向が記録され、電極の安定性が示された。Silwet408を共結合剤として含有するコインセルは対照例と同様の結果を示した。このデータを図7に示す。加えて、共結合剤をCMCからSilwet408に変更した場合、付加的なピークは記録されず、Silwet408が電気化学的プロセスに対する何らかの干渉を生成しなかったことが示された。この研究は、CMCまたはSilwet408が共結合剤としてSBRと共に存在する場合の、電極の安定性を明らかにしている。連続するサイクルについてCV挙動が変化しないことは、Silwet408が共結合剤として添加された場合にCMCと同様の性能をもたらしうることを示している。
【0181】
セルのサイクル安定性は100mA/gの定電流において500サイクルにわたって分析され、定電流充放電の観察記録が図8に示されている。
【0182】
実施例11:アノード材料としてのグラファイト/SiO
【0183】
対照実験例:
電極は、グラファイト、一酸化ケイ素(SiO)、およびカーボンブラックから重量%で77/13/6の比率で構成された。対照試料の電極では、SBR-CMC(2:1)の混合物が結合剤として使用された。一定の100mA/gの電流密度における定電流充電-放電挙動は、最初のサイクルでは687mAh/gの比容量がもたらされ、そしてこの比容量が500サイクル後に68mAh/gまで低下したことを示し、500サイクル後には最初のサイクルに対して僅かに10%の比容量しか維持されなかったことが示唆された。10サイクル目では比容量は199mAh/gまで低下し、このことは10サイクル目において比容量が70%低下したことを示していた。しかしながら10サイクル目以降では、単位当たりの充放電効率は1に近かった。多数サイクルを超えての比容量の減少は、繰り返しての膨潤による電極の機械的一体性の喪失や、活物質組成物における一酸化ケイ素の存在に起因するものでありうる。これは、サイクルの間においてグラファイト/SiOのアノードが受ける容量の拡張が、SBR-CMCの結合剤配合物によって緩和されないことを示唆している。
【0184】
試験的実験例:
試験的実験例においては、トリシロキサンポリエーテル(Silwet408として商業的に入手可能)を、結合剤としてのCMCに代えて、上記の対照試験例において記載したのと同じアノード材料の組み合わせに対して添加した。
【0185】
グラファイト、一酸化ケイ素(SiO)、およびカーボンブラックを含む電極を、SBR/Silwet408と組み合わせて用いた。初期比容量は100mA/gの電流密度において836mAh/gであることが示され、これは対照試料(上記)の電極と比較してより高かった。加えて、500サイクル後における維持容量は38%であることが示され、これは対照試料の電極と比較して顕著に高い。さらに、10サイクル目以降のサイクルあたりの効率は1に近かった。同じアノード材料の組み合わせにおいて結合剤としてCMCに代えてトリシロキサンポリエーテル(Silwet408)を塗布すると、電極の安定性が増大される結果になる。
【0186】
本発明は、リチウムイオン2次電池用の電気化学セルにおける電気化学セパレーターの構造的属性を著しく変化させる表面改質組成物を提供する。この表面改質剤は、セパレーター基材を収縮に対して抵抗性(10%またはそれ未満の範囲)とし、また端部における反りに対して抵抗性とすることによってその寸法安定性を首尾よく増大させるだけでなく、セパレーター基材の電解質取り込みを顕著に増大させる。かくして、電気化学セルの性能および安全属性は大きく改善される。さらに、本発明の表面改質剤は電極粒子を改質し、結果として粒子凝集体をもたらす。こうした粒子凝集体は、電極の容量維持の向上を示す。換言すれば、本発明の表面改質剤は、リチウムイオン電池用の電気化学セルの性能および安全属性に対し、これまで知られていなかった大きな影響を有している。
【0187】
以上においては本技術の実施形態を記載しており、本明細書を読了および理解すれば、修正および変更が他者に想起されてよいことは明らかである。以下の特許請求の範囲は、請求項またはその均等物の範囲内に入るすべての修正および変更を包含することを意図している。

図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
【国際調査報告】