(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】質量分析によるインスリン様増殖因子Iバリアントの同定及び定量
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240403BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240403BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20240403BHJP
C07K 14/65 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68
C07K1/16
C07K14/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023556942
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 US2022020906
(87)【国際公開番号】W WO2022198020
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517308264
【氏名又は名称】クエスト ダイアグノスティックス インヴェストメンツ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】モトリキン,イエフゲン
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】マクファール,マイケル,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ゼングル
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041DA14
2G041DA18
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA11
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA08
2G041GA09
2G041HA01
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB07
2G045DA36
2G045FA33
2G045FB06
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045AA50
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA38
4H045FA74
(57)【要約】
試料中のインスリン様増殖因子I(IGF-I)バリアントを検出するための方法が提供される。本明細書に提供される方法は、検出されたイオンを使用して、試料中のIGF1バリアントの存在を決定することを更に対象とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のインスリン様増殖因子-I(IGF-I)バリアントを検出するための方法であって、
a.前記試料中のIGF-Iをイオン化して、質量分析によって検出可能な1つ以上のイオンを生成することと、
b.質量分析によって、1093.5±0.5、1089.8±0.5、1095±0.5、1097.09±0.5、1098.09±0.5からなる群から選択される質量電荷比を有するイオンを含む前記イオンのうちの1つ以上を検出することと、
c.前記検出されたイオンを使用して、前記試料中のIGF1バリアントの存在を決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
m/z1093.5±0.5の検出が、WT
4又はP66T
1の存在を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
m/z1089.8±0.5の検出が、P66A
4、R55K
6、又はR36Q
6の存在を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
m/z1095.8±0.5の検出が、A67S
4又はT29I
8の存在を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
m/z1097.09±0.5の検出が、S34N
2、A70P
3、A38V
1、M59R
4、又はA67S
13の存在を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
m/z1098.09±0.5の検出が、S34N
9、A70P
10、A38V
8、M59R
11、V17/44M
4、R50W
6、T4M
6、又はA67/70T
6の存在を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
イオン化前に高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によってタンパク質を精製することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が、血漿又は血清を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2021年3月19日に出願された米国仮出願第63/163,502号に対する優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、質量分析を使用したインスリン様増殖因子1バリアントの同定及び定量に関する。
【背景技術】
【0003】
IGF-Iは、インスリンと同様の分子構造を有するホルモンである。これは、肝臓によって産生されるペプチドであり、一本鎖に70個のアミノ酸を含有し、3つの分子内ジスルフィド架橋を有する。IGF-Iは、約7,649Daの分子量を有し、血清中でタンパク質と高度に結合している。産生は、成長ホルモンによって刺激され、栄養不足、成長ホルモン非感受性、成長ホルモン受容体の欠如、又は下流シグナル伝達経路の不全によって遅延する可能性がある。IGF-Iは、小児の成長に重要な役割を果たし、成人になっても同化効果を及ぼし続ける。
【0004】
高分解能LC-MSベースのアプローチは、ほとんどの患者からの検体中のペプチドの定量に有効であるが、多型に起因するアミノ酸置換は、本質的に多型バリアントを「隠す」質量の変化をもたらす可能性がある。より多くのアミノ酸残基を有するより大きなポリペプチドをモニタリングする場合、多型を有する可能性が高くなる。
【0005】
タンパク質の定量は、野生型(WT)タンパク質の特定の質量電荷比(mass-to-charge ratio)(m/z)でのピーク強度に基づいているため、IGF-1の定量は、WTのみを含み、多型を含まない。例えば、IGF-1バリアントの存在は、ヘテロ接合性個体の場合、WT濃度が循環IGF-1の半分のみを表すことを示し得るか、又は野生型IGF-1が不在の場合、個体がバリアントについてホモ接合性若しくは2つの異なるバリアントについてヘテロ接合性であることによって説明され得る。いくつかのバリアントは、病原性であることが報告されているが、他のほとんどは、臨床的意義が不明である。この情報は、患者のIGF-1検査結果を解釈する場合、臨床医にとって重要である。更に、特定の表現型を有する患者にどのようなバリアントが存在するかを知ることは、遺伝子型-表現型の関係及びその臨床的意義の理解を広げるのに役立つ。
【0006】
IGF-1バリアントを同定するための効果的な方法が必要である。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に提供される方法は、4m/z比を使用することによって15のIGF-1バリアントの同時モニタリングを可能にする同位体ピークインデックス(ISI)を含む。また、本明細書において、以前に未解決のバリアントの区別を可能にする相対保持時間(RRT)パラメータが提供される。また本明細書では、タンデム質量分析法(MS/MS)を利用して、最も一般的なバリアントの対:同重体のA67T及びA70Tを区別する方法が提供される。
【0008】
本明細書に記載の方法は、強化された自動化、ヒューマンエラーを引き起こしやすい詳細な手動計算の回避、及びより多くをモニタリングし、新しいIGF-1バリアントを発見する能力を含む。このアプローチでは、ExACデータベースから6つのバリアント:P66A、A67S、S34N、A38V、A67T、及びA70Tが同定され、2つは以前に報告されたV44M及びA67Vバリアントであり、6つは報告されていないバリアント:Y31H、S33P、R50Q、R56K、T41I、及びA62Tであった。本明細書で提供される方法は、患者のIGF-1状態のプロファイルを含み、IGF-1バリアントにおける遺伝子型-表現型の関係を探索するために使用され得る。
【0009】
本明細書に記載の方法は、WTの定量を損なうことなく、4質量/電荷(m/z)比を使用して、群中の15のIGF-1バリアントを同時にモニタリングするためのものである。各群内のほとんどのバリアントは、その同位体分布及び相対保持時間によって区別されるが、MS/MSによる再分析により、A67TとA70Tとが区別される。LC-MSデータの計算及び解釈は、商用機器ソフトウェアを使用して自動化され、オペレータがほとんど介入する必要がない。したがって、結果の解釈におけるヒューマンエラーからワークフローを保護する。
【0010】
いくつかの実施形態では、方法は、目的のバリアントの各々について、以下の質量/電荷(m/z)比を検出することを含む。
【表1】
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、試料中のインスリン様増殖因子I(IGF-I)バリアントを検出するための方法であり、本方法は、試料中のIGF-Iをイオン化して、質量分析によって検出可能な1つ以上のイオンを生成することと、質量分析によって、1093.5±0.5、1089.8±0.5、1095±0.5、1097.09±0.5、1098.09±0.5からなる群から選択される質量電荷比を有するイオンを含むイオンのうちの1つ以上を検出することと、検出されたイオンを使用して、試料中のIGF1バリアントの存在を決定することと、を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、m/z1093.5±0.5の検出は、WT4又はP66T1の存在を決定する。
【0013】
いくつかの実施形態では、m/z1089.8±0.5の検出は、P66A4、R55K6、又はR36Q6の存在を決定する。
【0014】
いくつかの実施形態では、m/z1095.8±0.5の検出は、A67S4又はT29I8の存在を決定する。
【0015】
いくつかの実施形態では、m/z1097.09±0.5の検出は、S34N2、A70P3、A38V1、M59R4、又はA67S13の存在を決定する。
【0016】
いくつかの実施形態では、m/z1098.09±0.5の検出は、S34N9、A70P10、A38V8、M59R11、V17/44M4、R50W6、T4M6、又はA67/70T6の存在を決定する。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、イオン化の前に、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によってタンパク質を精製することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、試料は、血漿又は血清を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、試料は、イオン化の前に高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製されてもよい。関連する実施形態では、IGF-1及びそのバリアントは、オンライン抽出を装えた多重高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Aria TLX-4)を使用して抽出及び分解される。
【0020】
いくつかの実施形態では、試料は、イオン化の前に固相抽出(SPE)によって精製されてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、質量分析は、Q Exactive Focus Hybrid四重極オービトラップ機器を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、高分解能/高精度質量分析は、約10,000以上、例えば、約15,000以上、例えば、約20,000以上、例えば、約25,000以上の分解能(FWHM)で行われる。いくつかの実施形態では、高分解能/高精度質量分析は、約50ppm以下、例えば、約20ppm以下、例えば、約10ppm以下、例えば、約5ppm以下、例えば、約3ppm以下の精度で行われる。いくつかの実施形態では、高分解能/高精度質量分析は、約10,000以上の分解能(FWHM)及び約50ppm以下の精度で行われる。いくつかの実施形態では、分解能は、約15,000超であり、精度は、約20ppm以下である。いくつかの実施形態では、分解能は、約20,000以上であり、精度は、約10ppm以下である。好ましくは、分解能は、約25,000以上であり、精度は、約5ppm以下、例えば、約3ppm以下である。
【0023】
いくつかの実施形態では、高分解能/高精度質量分析は、オービトラップ質量分析計、飛行時間(TOF)質量分析計、又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(フーリエ変換型質量分析計としても知られている)を用いて行われ得る。いくつかの実施形態では、試料は、生体試料、好ましくは血漿又は血清を含んでもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、質量分析によって検出される1つ以上のIGF-Iイオンの量を試料中のIGF-Iタンパク質の量に関連させることは、ヒト又は非ヒトIGF-Iタンパク質(例えば、インタクトな組換えマウス組換えマウスIGF-I)などの内部標準との比較を含む。内部標準は、任意選択的に、同位体標識されてもよい。
【0025】
上に列挙された実施形態の特徴は、限定されないが、本発明の方法における使用のために組み合わせることができる。
【0026】
特定の好ましい実施形態では、質量分析は、正イオンモードで行われる。代替的に、質量分析は、負イオンモードで行われる。本明細書に記載の方法において使用される好ましいイオン化技術は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)である。エレクトロスプレーイオン化は、例えば、加熱イオン化源を用いて行われてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、正イオンモードでの加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)を含む。
【0027】
好ましい実施形態では、1つ以上の別個に検出可能な内部標準が試料中に提供され、その量はまた、試料中で決定される。これらの実施形態では、目的の分析物と1つ以上の内部標準物との両方の全て又は一部をイオン化して、質量分析計で検出可能な複数のイオンを生成し、各々から生成された1つ以上のイオンを質量分析によって検出する。内部標準は、インタクトな非ヒトIGF-I(例えば、同位体標識又は非標識のインタクトな組換えマウスIGF-I)、同位体標識されたインタクトなヒトIGF-Iタンパク質からなる群から選択され得る。
【0028】
他の実施形態では、試料中のインタクトなIGF-Iタンパク質の量は、1つ以上の外部参照標準と比較することによって決定することができる。例示的な外部参照標準には、ブランク血漿又は同位体標識された若しくは標識されていないインタクトなヒト若しくは非ヒトIGF-I(例えば、同位体標識された若しくは標識されていないインタクトな組換えマウスIGF-I)を添加した血清が含まれる。
【0029】
いくつかの実施形態では、分析物の2つ以上の分子同位体形態からの質量分析ピークを含む同位体シグネチャを使用して、研究対象の分析物の同一性を確認することができる。他の実施形態では、1つ以上の同位体形態からの質量分析ピークを使用して、目的の分析物を定量することができる。いくつかの関連する実施形態では、1つの同位体形態からの単一の質量分析ピークを使用して、目的の分析物を定量することができる。他の関連する実施形態では、複数の同位体ピークを使用して、分析物を定量することができる。複数のピークは、任意の適切な数学的処理にかけることができる。いくつかの数学的処理が当該技術分野で既知であり、複数のピーク下の面積を合計すること、又は複数のピークからの応答を平均化することが含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で使用される場合、特に明記されない限り、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、複数の参照を含む。したがって、例えば、「タンパク質」への言及は、複数のタンパク質分子を含む。
【0031】
本明細書で使用される場合、「IGF-Iタンパク質」という用語は、完全長IGF-Iポリペプチド又はその断片、並びに完全長IGF-Iバリアントポリペプチド又はその断片を指す。IGF-Iバリアントとしては、例えば、長いR3 IGF-Iが挙げられ、これは、完全なヒトIGF-I配列を含むIGF-Iの83アミノ酸の類似体であり、3位にGlu(E)に対するArg(R)の置換(したがって、R3)及びN末端に13アミノ酸の伸長ペプチドを含む。IGF-Iのこの類似体は、IGF-Iペプチドの生物活性を増加させる目的で生成されている。このアナログの質量は、約9111.4ダルトンであり、したがって、約1014.1±1、1140.7±1、1303.5±1、及び1520.6±1のm/z比を有する多電荷の長いR3 IGF-Iイオンが観察され得る。他のIGF-Iバリアントポリペプチドは、例えば、化学修飾された完全長IGF-Iポリペプチド又はその断片を含み、当業者によって容易に認識される。例示的な化学修飾としては、1つ以上のジスルフィド架橋の還元又は1つ以上のシスチンのアルキル化が含まれ得る。これらの例示的な化学修飾は、対応する非修飾IGF-Iポリペプチドの質量と比較して、IGF-Iバリアントポリペプチドの質量の増加をもたらす。1つ以上のジスルフィド架橋の減少は、分子の質量の比較的わずかな変化をもたらし、得られる質量電荷比は、本明細書に記載の質量電荷比の範囲内にある。非修飾のIGF-Iポリペプチドからの質量偏差をもたらす他の化学修飾も、IGF-Iタンパク質の意味内に包含される。当業者は、化学修飾によるIGF-Iタンパク質への原子の付加が、質量分析中に質量電荷比の観察される増加をもたらすことを理解する。したがって、化学修飾から生じるIGF-Iタンパク質のバリアントは、IGF-Iタンパク質の意味内に含まれ、本発明の方法に従って検出可能である。
【0032】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドを説明する「インタクト」という用語は、完全長(すなわち、非断片化)ポリペプチドを指す。インタクトなIGF-Iは、例えば、70個のアミノ酸残基を含むポリペプチドであり、インタクトな長いR3 IGF-Iは、完全なヒトIGF-I配列を含むIGF-Iの83アミノ酸の類似体であり、3位にGLu(E)に対するArg(R)の置換(したがって、R3)及びN末端に13アミノ酸の伸長ペプチドを有する。IGF-Iのインタクトでない形態(すなわち、断片)もまた、本明細書に記載の方法によって検出することができる。例えば、約1,000ダルトン以上、例えば、約1500ダルトン以上、例えば、約2000ダルトン以上、例えば、約2500ダルトン以上、例えば、約3000ダルトン以上、例えば、約4000ダルトン以上、例えば、約5000ダルトン以上、例えば、約6000ダルトン以上、例えば、約7000ダルトン以上の分子量を有するIGF-Iタンパク質の断片は、本明細書に記載の方法によって検出することができる。
【0033】
「精製」又は「精製すること」という用語は、目的の分析物の検出を妨げ得る試料中の他の成分と比較して、目的の1つ以上の分析物の量を濃縮する手順を指す。必須ではないが、「精製」は、全ての干渉成分、又は目的の分析物以外の全ての材料を完全に除去することができる。様々な手段による試料の精製は、1つ以上の干渉物質、例えば、質量分析による選択された親又は子イオンの検出を干渉し得るか又は干渉し得ない1つ以上の物質の相対的な低減を可能にすることができる。この用語が使用される相対的な低減は、精製される材料中に目的の分析物とともに存在する任意の物質が精製によって完全に除去されることを必要としない。
【0034】
「試料」という用語は、目的の分析物を含み得る任意の試料を指す。本明細書で使用される場合、「体液」という用語は、個体の体から単離され得る任意の流体を意味する。例えば、「体液」は、血液、血漿、血清、胆汁、唾液、尿、涙、汗などを含み得る。好ましい実施形態では、試料は、体液試料、好ましくは血漿又は血清を含む。
【0035】
「固相抽出」又は「SPE」という用語は、溶液が通過する固体又はその周りの固体(すなわち、固相)の溶液(すなわち、移動相)に溶解又は懸濁した成分の親和性の結果として、化学混合物が成分へと分離されるプロセスを指す。いくつかの例では、移動相が固相を通過する又は固相の周りを通過するとき、移動相の望ましくない成分は、固相によって保持され得、移動相中の分析物の精製がもたらされる。他の例では、分析物は、固相によって保持され得、移動相の望ましくない成分が固相を通過するか、又は固相の周りを通過することを可能にする。これらの例では、次いで、第2の移動相を使用して、更なる処理又は分析のために、保持された分析物を固相から溶出させる。SPEは、単一モード機構又は混合モード機構を介して動作することができる。本明細書で使用される場合、SPEは、例えば、乱流液体クロマトグラフィー(TFLC)カラムなどの抽出カラム又はカートリッジで行うことができる。混合モード機構は、同じカラムでイオン交換及び疎水性保持を利用する。例えば、混合モードSPEカラムの固相は、強陰イオン交換及び疎水性保持を示し得るか、又は強陽イオン交換及び疎水性保持を示し得る。
【0036】
「クロマトグラフィー」という用語は、液体又はガスによって運ばれる化学混合物が、それらが静止した固相を通って流れるときに、化学物質の差異的な分布の結果として成分に分離されるプロセスを指す。
【0037】
「液体クロマトグラフィー」又は「LC」という用語は、流体が微細に分割された物質のカラムを通って、又は毛細血管通路を通って均一に滲出するときの、流体溶液の1つ以上の成分の選択的遅延のプロセスを意味する。遅延は、1つ以上の固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間の混合物の成分の分布から生じ、この流体は、固定相に対して移動する。「液体クロマトグラフィー」を用いる分離技術の例としては、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、及び乱流液体クロマトグラフィー(TFLC)(高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)又は高スループット液体クロマトグラフィーとしても知られている)が挙げられる。いくつかの実施形態では、SPEカラムは、LCカラムと組み合わせて使用することができる。例えば、試料をTFLC抽出カラムで精製し、続いて、HPLC分析用カラムで更に精製してもよい。
【0038】
「高性能液体クロマトグラフィー」又は「HPLC」(「高圧液体クロマトグラフィー」としても知られている)という用語は、固定相、典型的には高密度充填カラムを介して加圧下で移動相を強制することによって分離の程度が増加する液体クロマトグラフィーを指す。
【0039】
「乱流液体クロマトグラフィー」又は「TFLC」(高乱流液体クロマトグラフィー又は高スループット液体クロマトグラフィーとしても知られている)という用語は、カラム充填材を通してアッセイされる材料の乱流を、分離を行うための基礎として利用するクロマトグラフィーの形態を指す。TFLCは、質量分析による分析の前に、2つの無名の薬物を含有する試料の調製に適用されている。例えば、Zimmer et al.,J Chromatogr A 854:23-35(1999)を参照されたい;TFLCを更に説明する米国特許第5,968,367号、同第5,919,368号、同第5,795,469号、及び同第5,772,874号も参照されたい。当業者は、「乱流」を理解する。流体がゆっくりと滑らかに流れるとき、その流れは「層流」と呼ばれる。例えば、低流速でHPLCカラムを通って移動する流体は、層状である。層流では、流体の粒子の動きは秩序立っており、粒子は一般に直線状に移動する。より速い速度では、水の慣性は流体の摩擦力と乱流の結果を克服する。不規則な境界に接触していない流体は、摩擦によって遅くなるか、又は不均一な表面によって偏向した流体を「追い越す」。流体が乱流しているとき、それは渦(eddies)及び渦(whirls)(又は渦(vortices))を巻いて流れ、流れが層状のときよりも「抗力」が大きくなる。流体の流れが層流又は乱流であるかを判断するのに役立つ多数の参考文献が利用可能である(例えば、Turbulent Flow Analysis:Measurement and Prediction,P.S.Bernard & J.M.Wallace,John Wiley & Sons,Inc.,(2000)、An Introduction to Turbulent Flow,Jean Mathieu & Julian Scott,Cambridge University Press(2001))。
【0040】
「ガスクロマトグラフィー」又は「GC」という用語は、試料混合物が気化され、(窒素又はヘリウムとしての)キャリアガスの流れに注入され、液体又は粒子固体からなる固定相を含むカラムを通って移動し、固定相に対する化合物の親和性に従ってその成分化合物に分離されるクロマトグラフィーを指す。
【0041】
「オンライン」及び「インライン」という用語は、例えば、「オンライン自動化された方法」又は「オンライン抽出」で使用されるように、オペレータの介入を必要とせずに行われる手順を指す。対照的に、本明細書で使用される「オフライン」という用語は、オペレータの手動の介入を必要とする手順を指す。したがって、試料が沈殿に供され、次いで、上清がオートサンプラーに手動でロードされる場合、沈殿ステップ及びロードステップは、後続のステップからオフラインである。本方法の様々な実施形態では、1つ以上のステップは、オンライン自動化様式で行われ得る。
【0042】
「質量分析」又は「MS」という用語は、その質量によって化合物を同定するための分析技術を指す。MSは、質量電荷比又は「m/z」に基づいてイオンをフィルタリング、検出、及び測定する方法を指す。MS技術は、一般に、(1)化合物をイオン化して荷電化合物を形成すること、及び(2)荷電化合物の分子量を検出し、質量電荷比を計算すること、を含む。化合物は、任意の好適な手段によってイオン化及び検出することができる。「質量分析計」は、一般に、イオナイザー及びイオン検出器を含む。一般に、目的の1つ以上の分子がイオン化され、続いて、磁場及び電場の組み合わせにより、イオンが質量(「m」)及び電荷(「z」)に依存する空間内の経路に従う質量分析機器に導入される。例えば、「Mass Spectrometry From Surfaces」と題する米国特許第6,204,500号、「Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry」と題する同第6,107,623号、「DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry」と題する同第6,268,144号、「Surface-Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desorption And Detection Of Analytes」と題する同第6,124,137号、Wright et al.,Prostate Cancer and Prostatic Diseases 1999,2:264-76、及びMerchant and Weinberger,Electrophoresis 2000,21:1164-67を参照されたい。
【0043】
本明細書で使用される場合、「高分解能/高精度質量分析」は、固有の化学イオンを確認するのに十分な精度及び精度で荷電種の質量電荷比を測定することができる質量分析器で行われる質量分析を指す。イオンからの個々の同位体ピークが容易に識別可能である場合、イオンに対して固有の化学イオンの確認が可能である。固有の化学イオンを確認するために必要な特定の分解能及び質量精度は、イオンの質量及び電荷状態によって異なる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「分解能」又は「分解能(FWHM)」という用語(当該技術分野では「m/Δm
50%」としても知られている)は、観察された質量電荷比を50%最大高さでの質量ピークの幅(半最大値全幅、(Full Width Half Maximum)「FWHM」)で割ったものを指す。分解能の差の効果を、
図1A~Cに示し、これは、約1093のm/zを有するイオンの理論的質量スペクトルを示す。
図1Aは、約3000の分解能を有する質量分析器(従来の四重極質量分析器の典型的な動作条件)からの理論的な質量スペクトルを示す。
図1Aに見られるように、個々の同位体ピークは識別可能ではない。比較すると、
図1Bは、約10,000の分解能を有する質量分析器からの理論的な質量スペクトルを示し、明らかに識別可能な個々の同位体ピークを有する。
図1Cは、約12,000の分解能を有する質量分析器からの理論的な質量スペクトルを示す。この最高分解能では、個々の同位体ピークはベースラインから1%未満の寄与を含む。
【0045】
本明細書で使用される場合、質量分析に関して「固有の化学イオン」は、単一の原子構造を有する単一のイオンを指す。単一のイオンは、単一又は多重に荷電され得る。
【0046】
本明細書で使用される場合、質量分析に関する「精度」(又は「質量精度」)という用語は、調査されたイオンの真のm/zからの機器応答の潜在的な偏差を指す。精度は、典型的には、百万分率(ppm)で表される。質量精度の差の影響を、
図2A~Dに示す。これらは、1093.52094のm/zでの理論上のピークについて、検出されたm/zと実際のm/zとの間の潜在的な差の境界を示す。
図2Aは、120ppmの精度で検出されたm/zの潜在的な範囲を示す。対照的に、
図2Bは、50ppmの精度で検出されたm/zの潜在的な範囲を示す。
図2C及び2Dは、20ppm及び10ppmの精度で検出されたm/zの更に狭い潜在的な範囲を示す。
【0047】
本発明の高分解能/高精度質量分析法は、10,000、15,000、20,000、25,000、50,000、100,000、又は更にそれ以上のFWHMで質量分析を行うことができる機器で実施してもよい。同様に、本発明の方法は、50ppm、20ppm、15ppm、10ppm、5ppm、3ppm未満、又は更にそれ以下の精度で質量分析を行うことができる機器で実施してもよい。これらの性能特性が可能な機器には、特定のオービトラップ質量分析器、飛行時間(「TOF」)質量分析器、又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器を組み込むことができる。好ましい実施形態では、本方法は、オービトラップ質量分析器又はTOF質量分析器を含む機器を用いて行われる。
【0048】
「オービトラップ」という用語は、外側のバレル状電極及び同軸内側電極からなるイオントラップを説明する。イオンは、電極間の電界に接線方向に注入され、イオンが同軸内側電極を周回するとき、イオンと電極との間の静電相互作用が遠心力によってバランスが保たれるため捕捉される。イオンが同軸内側電極を周回するとき、捕捉されたイオンの軌道経路は、イオンの質量電荷比に対して高調波周波数で中央電極の軸に沿って振動する。軌道振動周波数の検出により、オービトラップを高精度(最小1~2ppm)及び高分解能(FWHM)(最大約200,000)の質量分析器として使用することができる。オービトラップに基づく質量分析器は、米国特許第6,995,364号に詳細に記載されている(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。様々な分析物の定性及び定量分析について、オービトラップ分析器の使用が報告されている。例えば、米国特許出願公開第2008/0118932号(2007年11月9日出願)、Bredehoeft,et al.,Rapid Commun.Mass Spectrom.,2008,22:477-485、Le Breton,et al.,Rapid Commun.Mass Spectrom.,2008,22:3130-36、Thevis,et al.,Mass Spectrom.Reviews,2008,27:35-50、Thomas,et al.,J.Mass Spectrom.,2008,43:908-15、Schenk,et al.,BMC Medical Genomics,2008,1:41、及びOlsen,et al.,Nature Methods,2007,4:709-12を参照されたい。
【0049】
「負イオンモードで動作する」という用語は、負イオンが生成され検出される質量分析法を指す。本明細書で使用される「正イオンモードで動作する」という用語は、正イオンが生成及び検出される質量分析法を指す。
【0050】
「イオン化」又は「イオン化させること」という用語は、1つ以上の電子単位に等しい正味の電荷を有するイオンを生成するプロセスを指す。負イオンは、1つ以上の電子単位の正味の負電荷を有するものであり、正イオンは、1つ以上の電子単位の正味の正電荷を有するものである。
【0051】
「選択的イオンモニタリング」という用語は、比較的狭い質量範囲内、典型的には、約1質量単位以下のイオンのみが検出される質量分析装置の検出モードである。
【0052】
「選択反応モニタリング」としても知られている「多重反応モード」は、前駆イオン及び1つ以上の断片イオンが選択的に検出される質量分析機器の検出モードである。
【0053】
「定量下限(lower limit of quantification)」、「定量下限(lower limit of quantitation)」、又は「LLOQ」という用語は、測定が定量的に意味を持つようになる点を指す。このLLOQでの分析物の応答は、20%未満の相対標準偏差(RSD%)及び85%~115%の精度で、同定可能、離散的、及び再現可能である。
【0054】
「検出限界」又は「LOD」という用語は、測定値がその測定に関連する不確かさよりも大きくなる点である。LODは、0濃度での平均のRSDの4倍として定義される。
【0055】
試料からの2つ以上の分析物の量を同時に検出することに適用される「同時」という用語は、同じ試料注入からの試料中の2つ以上の分析物の量を反映するデータを取得することを意味する。各分析物についてのデータは、用いられる機器技術に応じて、順次又は並行して取得することができる。例えば、インタクトなIGF-I及びIGF-IIタンパク質などの2つの分析物を含有する単一の試料がHPLCカラムに注入されてもよく、次いで、各分析物が次々に溶出され、その結果、分析物が質量分析計に順次導入されてもよい。これらの2つの分析物の各々の量を決定することは、両方の分析物がHPLCへの同じ試料の注入から生じるため、本明細書における目的のために同時に行われる。
【0056】
体液試料中の分析物の「量」は、一般に、試料の体積で検出可能な分析物の質量を反映する絶対値を指す。しかしながら、量はまた、別の分析物の量と比較した相対量を企図する。例えば、試料中の分析物の量は、試料中に通常存在する分析物の対照レベル又は正常レベルよりも大きい量であり得る。
【0057】
イオンの質量の測定を含まない定量測定に関連して本明細書で使用される「約」という用語は、示された値プラス又はマイナス10%を指す。質量分析機器は、所与の分析物の質量を決定する際にわずかに変化し得る。イオンの質量又はイオンの質量電荷比の文脈で「約」という用語は、+/-0.50原子質量単位を指す。
【0058】
上記の本発明の概要は非限定的であり、本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】同位体ピークインデックスが同位体ピーク相対強度と結びついているIP
i概念の原理を示す。どのような電荷状態でも、IGF-1 WT及び全てのバリアントは、このインデックス強度分布に従う。IPrIは、WT IGF-1の定量に使用されるように、IP
4ピークの強度に対して計算される。
【
図2-1】2人の異なる患者からの検体についてのVG4ピークを含有するLC-MSデータを示す。A:患者1のWT
4のEIC、B:患者1のVG4のEIC、C:患者1のバリアント同位体エンベロープ、長方形はIP
6がVG4で検出されたことを示す。
【
図2-2】2人の異なる患者からの検体についてのVG4ピークを含有するLC-MSデータを示す。D:患者2のWT
4のEIC、E:患者2のVG4のEIC、F:患者2のバリアント同位体エンベロープ、長方形はIP
4がVG4で検出されたことを示す。
【
図3-1】自動化されたIGF-1バリアントの検出を示す。レポートは、TraceFinder5.0Clinicalで生成される。バリアントレポートには、IGF-1バリアントを含むことが疑われる検体のみが表示される。IGF-1定量レポートは、ホモ接合性バリアントの疑いをマークする。
【
図3-2】自動化されたIGF-1バリアントの検出を示す。レポートは、TraceFinder5.0Clinicalで生成される。バリアントレポートには、IGF-1バリアントを含むことが疑われる検体のみが表示される。IGF-1定量レポートは、ホモ接合性バリアントの疑いをマークする。
【
図4】抽出及び分析ポンプのためのLC勾配を示す。移動相Aは、0.1%ギ酸を含む水であり、移動相Bは、0.1%ギ酸を含む20%イソプロピルアルコール、80%アセトニトリルである。
【
図5】様々なエネルギーのインソースCID(SID)及びHCDとのSIMスキャンの比較を示す。赤い長方形は、最高の感度を示す。
【
図6】VG2からの未知のバリアントを示す。VG2のm/zのピークは、IP
10又はIP
11のいずれかに対応し、そのグループからの任意の既知のバリアント(IP
4又はIP
8のいずれか)と一致しなかった。DNA配列決定は、バリアントS33Pを明らかにし、S33P
10の計算値m/z1095.8130と一致する(VG2のm/zとは6ppm異なる)。
【
図7】患者検体A及びWTにおけるWT及びバリアントA67T、並びに患者検体BにおけるバリアントA70Tの存在を示す、タンデムMS/MS後の選択されたyイオンの抽出されたイオンクロマトグラムを示す。
【
図8-1】IGF-1バリアントの同時IGF-1定量及び検出を示す。MS実験は、低NCE(10)及び高NCE(30)を有する2サイクルのワイドアイソレーションウインドウPRMスキャンとして設計されている。低エネルギースキャンを使用してIGF-1を検出及び定量することができ、一方、高エネルギースキャンを使用して、A67TとA70Tのバリアントを区別するために再利用されたyイオンを抽出することができる。定量的なピーク当たりのスキャンの数は、この場合13である。これは、より速い機器又はより低い検出器解像度を用いて更に増やすことができる。
【
図8-2】IGF-1バリアントの同時IGF-1定量及び検出を示す。MS実験は、低NCE(10)及び高NCE(30)を有する2サイクルのワイドアイソレーションウインドウPRMスキャンとして設計されている。低エネルギースキャンを使用してIGF-1を検出及び定量することができ、一方、高エネルギースキャンを使用して、A67TとA70Tのバリアントを区別するために再利用されたyイオンを抽出することができる。定量的なピーク当たりのスキャンの数は、この場合13である。これは、より速い機器又はより低い検出器解像度を用いて更に増やすことができる。
【
図9】IGF-1アッセイの定量限界及び検出限界を示す。濃度(x軸)及びSD(y軸)の値は、ng/mLである。
【
図10】IGF-2アッセイの定量限界及び検出限界を示す。濃度(x軸)及びSD(y軸)の値は、ng/mLである。
【
図11】LC-MS対RIAのIGF-1アッセイ分割試料の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明の方法で使用するための好適な試験試料は、目的の分析物を含有し得る任意の試験試料を含む。いくつかの好ましい実施形態では、試料は生体試料であり、すなわち、動物、細胞培養物、臓器培養物などの任意の生体源から得られる試料である。特定の好ましい実施形態では、試料は、哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマなど)から得られる。特に好ましい哺乳動物は、霊長類であり、最も好ましくは男性又は女性のヒトである。好ましい試料は、血液、血漿、血清、唾液、脳脊髄液、又は組織試料などの体液、好ましくは血漿及び血清を含む。かかる試料は、例えば、患者、すなわち、疾患又は状態の診断、予後、又は治療のために臨床環境における生存者、男性、又は女性から入手することができる。
【0061】
本発明の実施形態で使用するための既知の濃度を有する精度管理(QC)プールは、好ましくは、意図された試料マトリックスと同様のマトリックスを使用して調製される。
【0062】
質量分析のための試料調製
質量分析の準備において、IGF-Iタンパク質は、例えば、固相抽出(solid phase extraction)(SPE)、LC、濾過、遠心分離、薄層クロマトグラフィー(thin layer chromatography)(TLC)、キャピラリー電気泳動を含む電気泳動、免疫親和性分離を含む親和性分離、酢酸エチル若しくはメタノール抽出を含む抽出方法、並びにカオトロピック剤の使用、又は上記の任意の組み合わせなどを含む、当該技術分野で既知の様々な方法によって、試料中の1つ以上の他の成分(例えば、他のタンパク質)に対して濃縮され得る。いくつかの実施形態では、液体クロマトグラフィー、及び/又はSPE、及び/又はタンパク質沈殿を組み合わせて使用することができる。
【0063】
タンパク質沈殿は、試験試料、特に血清又は血漿などの生体試料を調製する1つの方法である。タンパク質精製方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Polson et al.,Journal of Chromatography B 2003,785:263-275には、本発明の方法における使用に好適なタンパク質沈殿技術が記載されている。タンパク質沈殿を使用して、試料からタンパク質の大部分を除去し、上清中のIGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質を残すことができる。試料を遠心分離して、液体上清を沈殿したタンパク質から分離することができ、代替的に試料を濾過して、沈殿したタンパク質を除去することができる。次いで、得られた上清又は濾液を質量分析、又は代替的に固相抽出及び/若しくは液体クロマトグラフィー、並びにその後の質量分析に直接適用することができる。特定の実施形態では、タンパク質沈殿物(例えば、酸性エタノールタンパク質沈殿物)を使用すると、質量分析又はHPLC及び質量分析の前のTFLC、SPE、又は他のオンライン抽出の必要性がなくなる可能性がある。
【0064】
好ましい実施形態では、試料から天然のインタクトなIGF-I及び/又はIGF-IIを抽出するために、液-液抽出方法(酸エタノール抽出など)が使用される。これらの実施形態では、10μl~500μl(例えば、25μl~250μl、例えば、約100μl)の試料が、抽出溶媒の一部に添加される。抽出溶媒の量は、試料体積に見合っており、使用する抽出溶媒に応じて変動し得るが、好ましくは、約50μl~1000μlである。試料/溶媒混合物を混合し、遠心分離し、(使用される溶媒に応じて)上清又は有機相の一部が更なる分析のために取り出される。溶媒は、例えば、窒素流下で取り出された部分から除去され得、残渣は、液体-液体抽出に使用したものとは異なる溶媒中で再構成される。次いで、得られた溶液の少なくとも一部を、質量分析の前に、SPE及び/又はLCなどの追加の処理ステップに供することができる。
【0065】
質量分析の前に使用され得る試料精製の別の方法は、液体クロマトグラフィー(LC)である。HPLCを含む液体クロマトグラフィーの特定の方法は、比較的遅い層流技術に依存している。従来のHPLC分析は、カラムを通る試料の層流が試料から目的の分析物を分離するための基礎であるカラム充填材に依存する。当業者は、そのようなカラムでの分離が拡散プロセスであり、IGF-I及び/又はIGF-IIを用いた使用に好適なHPLC、機器、及びカラムを含むLCを選択することができることを理解するであろう。クロマトグラフィーカラムは、典型的には、化学部分の分離(すなわち、分画)を容易にするための媒体(すなわち、充填材)を含む。媒体は、微粒子を含んでもよく、又は多孔質チャネルを有するモノリシック材料を含んでもよい。媒体の表面は、典型的には、様々な化学部分と相互作用して化学部分の分離を容易にする結合表面を含む。1つの好適な結合表面は、アルキル結合表面又はシアノ結合表面などの疎水性結合表面である。アルキル結合表面は、C-4、C-8、C-12、又はC-18結合アルキル基を含み得る。好ましい実施形態では、カラムは、C-18アルキル結合カラム(Phenomenex OnyxモノリシックC-18カラムなど)である。クロマトグラフィーカラムは、試料を受け入れるための入口ポートと、分画試料を含む溶出液を排出するための出口ポートと、を含む。試料は、入口ポートに直接又はSPEカラム(例えば、オンラインSPEガードカートリッジ又はTFLCカラム)から供給されてもよい。
【0066】
一実施形態では、試料は、入口ポートでLCカラムに適用され、溶媒又は溶媒混合液で溶出され、出口ポートで排出され得る。目的の分析物を溶出するために異なる溶媒モードを選択することができる。例えば、液体クロマトグラフィーは、勾配モード、アイソクラティックモード、又は多型(すなわち、混合)モードを使用して行うことができる。クロマトグラフィー中、材料の分離は、溶出液の選択(「移動相」としても知られている)、溶出モード、勾配条件、温度などの変数によって影響を受ける。
【0067】
特定の実施形態では、分析物は、1つ以上の他の材料が保持されない一方で、目的の分析物がカラム充填材によって可逆的に保持される条件下で、試料をカラムに適用することによって精製することができる。これらの実施形態では、目的の分析物がカラムによって保持される第1の移動相条件を採用することができ、その後、保持されなかった材料を洗い流して、保持された材料をカラムから取り出すための第2の移動相条件を採用することができる。代替的に、分析物は、目的の分析物が1つ以上の他の材料と比較して差次的な速度で溶出する移動相条件下でカラムに試料を適用することによって精製することができる。そのような手順は、試料の1つ以上の他の成分と比較して、1つ以上の目的の分析物の量を濃縮することができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、HPLCは、アルキル結合分析用カラムクロマトグラフィーシステムを用いて行われる。特定の実施形態では、C-18分析用カラム(例えば、Phenomenex OnyxモノリシックC18、又は同等物)が使用される。特定の実施形態では、HPLC及び/又はTFLCは、移動相Aとして水中HPLCグレード0.2%ギ酸、及び移動相Bとしてアセトニトリル中0.2%ギ酸を使用して行われる。
【0069】
バルブ及びコネクター配管を慎重に選択することによって、2つ以上のクロマトグラフィーカラムを、必要に応じて材料が手動ステップを必要とせずに次から次へと通過するように、接続することができる。好ましい実施形態では、バルブ及び配管の選択は、必要なステップを実行するように事前にプログラムされたコンピュータによって制御される。最も好ましくは、クロマトグラフィーシステムはまた、かかるオンライン様式で検出器システム(例えば、MSシステム)に接続される。したがって、オペレータは、試料のトレイをオートサンプラーに配置することができ、残りの動作は、コンピュータ制御下で実行され、選択された全ての試料の精製及び分析をもたらす。
【0070】
いくつかの実施形態では、TFLCは、質量分析の前にIGF-Iタンパク質又は断片を精製するために使用され得る。そのような実施形態では、試料は、分析物を捕捉するTFLCカラムを使用して抽出され、次いで、イオン化前に第2のTFLCカラム又は分析用HPLCカラム上で溶出及びクロマトグラフィー処理され得る。例えば、TFLC抽出カラムによる試料抽出は、大きな粒径(50μm)の充填カラムで達成され得る。次に、このカラムから溶出された試料を、質量分析の前に更に精製するためにHPLC分析用カラムに移してもよい。これらのクロマトグラフィー手順に関与するステップは、自動化された様式で連結され得るため、分析物の精製中、オペレータが関与する必要性を最小限に抑えることができる。この機能により、時間とコストを節約し、オペレータエラーの可能性を排除することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、タンパク質沈殿は、血清からの酸性エタノール抽出によって達成され、得られた溶液は、SPEに供され、好ましくは、C-18抽出カラム(例えば、Phenomenex Onyx C-18ガードカートリッジ又は同等物)を用いてオンラインで行われる。次いで、SPEカラムからの溶出液を、質量分析の前に、オンライン様式でHPLCカラムなどの分析用LCカラムに適用してもよい。
【0072】
質量分析による検出及び定量
質量分析は、質量分析計を使用して行われ、質量分析計は、試料をイオン化し、更なる分析のために荷電分子を生成するためのイオン源を含む。様々な実施形態では、IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質は、当業者に既知の任意の好適な方法によってイオン化され得る。例えば、試料のイオン化は、電子イオン化、化学イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光子イオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、高速原子衝撃(FAB)、液体二次イオン化(LSI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、電界イオン化、電界脱離、サーモスプレーイオン化/プラズマスプレーイオン化、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合プラズマ(ICP)、及び粒子ビームイオン化によって行われ得る。当業者は、イオン化方法の選択が、測定される分析物、試料の種類、検出器の種類、ポジティブモード対ネガティブモードの選択などに基づいて決定され得ることを理解するであろう。用いる特定のイオン化の方法及び条件に応じて、IGF-I及びIGF-IIタンパク質は、いくつかの異なる電荷状態にイオン化され得る。イオン化源は、生成される電荷状態の分散を最小限に抑えるように選択され得る。いくつかの実施形態では、ESI(任意選択的に加熱型)がイオン化源として使用され、イオン化条件は、観察された多価IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質イオンの分散を最小限に抑えるように最適化される。
【0073】
IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質は、ポジティブモード又はネガティブモードでイオン化され得る。好ましい実施形態では、1つ以上のIGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質は、ポジティブモードでイオン化される。いくつかの実施形態では、インタクトな多価IGF-Iイオンは、約850.8±2、957.1±2、1093.7±2、及び1275.8±2の範囲内のm/z比で生成される。いくつかの実施形態では、インタクトな多価IGF-IIイオンは、約934.69±2、1068.07±2、1245.92±2、及び1494.89±2の範囲内のm/z比で生成される。これらの範囲内の生成された多価イオンの大部分は、示されたm/z±1などのより狭いサブ範囲内であり得る。
【0074】
質量分析技術では、一般に、試料がイオン化された後、それによって生成された正又は負に荷電したイオンを分析して、質量電荷比(m/z)を決定することができる。m/zを決定するための様々な分析器としては、四重極分析器、イオントラップ分析器、及び飛行時間分析器、並びにオービトラップ分析器が挙げられる。本発明の方法によれば、高分解能/高精度質量分析は、IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質の定量分析に使用される。すなわち、質量分析は、目的のイオンについて約50ppm以下の精度で、少なくとも10,000の分解能(FWHM)を示すことができる質量分析計を用いて行われる。好ましくは、質量分析計は、20,000以上の分解能(FWHM)及び約20ppm以下の精度、例えば、25,000以上の分解能(FWHM)及び約5ppm以下の精度、例えば、25,000以上の分解能(FWHM)及び約3ppm以下の精度を示す。IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質のイオンに必要なレベルの性能を示すことができる3つの例示的な質量分析計は、オービトラップ質量分析器、特定のTOF質量分析器、又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器を含むものである。
【0075】
炭素、酸素、及び窒素などの生物活性分子に見出される元素は、いくつかの異なる同位体形態で自然に存在する。例えば、ほとんどの炭素は12Cとして存在するが、天然に存在する全ての炭素の約1%が13Cとして存在する。したがって、天然に存在する炭素を含有する分子の一部は、少なくとも1つの13C原子を含有するであろう。分子中の天然に存在する元素同位体の包含は、複数の分子同位体形態を生じる。分子同位体形態の質量の差は、少なくとも1原子質量単位(amu)である。これは、元素同位体が少なくとも1つの中性子(1つの中性子の質量≒1amu)分異なるためである。分子同位体形態がイオン化されて複数の荷電状態になると、質量分析の検出が質量電荷比(m/z)に基づくため、同位体形態間の質量区別を識別することが困難になる場合がある。例えば、質量が1amuだけ異なる2つの同位体形態であって、両方とも5+状態にイオン化されている同位体形態は、それらのm/zの差がわずか0.2(5つの電荷状態当たり1amuの差)であることを示す。高分解能/高精度質量分析計は、多価イオン(電荷が±5、±6、±7、±8、±9、又はそれ以上のイオンなど)の同位体形態を識別することができる。
【0076】
天然に存在する元素同位体のために、典型的には、全ての分子イオンについて複数の同位体形態が存在する(それらの各々は、十分に感度の高い質量分析機器で分析した場合、別個に検出可能な分光ピークを生じ得る)。複数の同位体形態のm/z比及び相対存在量は、分子イオンの同位体シグネチャをまとめて含む。いくつかの実施形態では、2つ以上の分子同位体形態についてのm/z比及び相対存在量を利用して、調査中の分子イオンの同一性を確認することができる。いくつかの実施形態では、1つ以上の同位体形態からの質量分析ピークは、分子イオンを定量するために使用される。いくつかの関連する実施形態では、1つの同位体形態からの単一の質量分析ピークを使用して、分子イオンを定量する。他の関連する実施形態では、複数の同位体ピークを使用して、分子イオンを定量する。これらの後の実施形態では、複数の同位体ピークは、任意の適切な数学的処理を受けることができる。いくつかの数学的処理が当該技術分野で既知であり、複数のピーク下の面積を合計すること、又は複数のピークからの応答を平均化することが含まれるが、これらに限定されない。
【0077】
質量分析技術では、一般に、イオンは、いくつかの検出モードを使用して検出することができる。例えば、選択したイオンを検出することができ、すなわち、選択イオンモニタリングモード(SIM)を使用して検出することができ、又は代替的に、イオンをスキャンモードを使用して検出することができる。スキャンモードで動作する場合、質量分析計は、典型的には、ユーザにイオンスキャン、すなわち、所与の範囲(例えば、100~1000amu)にわたる特定の質量/電荷を有する各イオンの相対存在量を提供する。更に、特定のイオントラップ又はトリプル四重極機器などの複数の質量分析事象が可能な機器を使用する場合、衝突誘起解離又は中性損失から生じる質量遷移(mass transition)をモニタリングすることができる(例えば、多重反応モニタリング(multiple reaction monitoring)(MRM)又は選択反応モニタリング(selected reaction monitoring)(SRM))。
【0078】
分析物のアッセイ(すなわち、質量スペクトル)の結果は、当該技術分野で既知の多数の方法によって、元の試料中の分析物の量に関連し得る。例えば、サンプリング及び分析パラメータが慎重に制御されている場合、所与のイオンの相対存在量は、その相対存在量を元の分子の絶対量に変換する表と比較され得る。代替的に、内部標準又は外部標準は、試料、及びそれらの標準から生成されたイオンに基づいて構築された標準曲線で実行され得る。そのような標準曲線を使用して、所与のイオンの相対存在量は、元の分子の絶対量に変換され得る。特定の好ましい実施形態では、1つ以上の標準を使用して、IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質の量を計算するための標準曲線を生成する。そのような標準曲線を生成及び使用する方法は、当該技術分野で周知であり、当業者は、適切な内部標準を選択することができる。例えば、好ましい実施形態では、同位体標識された若しくは標識されていないインタクトな非ヒトIGF-I及び/若しくはIGF-II(例えば、組換えマウスIGF-I及び/若しくはIGF-II)、又は同位体標識されたインタクトなヒトIGF-I及び/若しくはIGF-IIを、標準として使用することができる。イオンの量を元の分子の量に関連付けるための多くの他の方法は、当業者に周知であろう。
【0079】
本明細書で使用される場合、「同位体標識」は、質量分析技術によって分析した場合、標識されていない分子と比較して、標識された分子において質量シフトを生じさせる。好適な標識の例としては、重水素(2H)、13C、及び15Nが挙げられる。同位体標識は、分子内の1つ以上の位置に組み込むことができ、1種類以上の同位体標識を、同じ同位体標識分子に対して使用することができる。
【0080】
本方法の1つ以上のステップは、自動化された機械を使用して行うことができる。特定の実施形態では、1つ以上の精製ステップがオンラインで行われ、より好ましくは、精製ステップ及び質量分析ステップの全てがオンラインで行われてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態では、試料中のインタクトなIGF-I及び/又はIGF-IIは、以下のようにMSを使用して検出及び/又は定量される。試料は、液体クロマトグラフィー、好ましくはHPLCに供され、クロマトグラフィーカラムからの液体溶媒の流れは、ESIイオン化源の加熱ネブライザーインターフェイスに入り、溶媒/分析物混合物は、インターフェイスの加熱荷電チューブ内で蒸気に変換される。溶媒に含まれる分析物(例えば、インタクトなIGF-I及び/又はIGF-II)は、溶媒/分析物混合物に大きな電圧を印加することによってイオン化される。分析物がインターフェイスの荷電チューブを出ると、溶媒/分析物混合物が噴霧され、溶媒が蒸発し、分析物イオンが様々な荷電状態になる。次いで、イオンのうちの1つ以上の強度について定量データが収集される。次いで、1つ以上のイオンのシグナル強度の定量データが収集され、試料中のインタクトなIGF-I及び/又はIGF-IIの量に関連付けられる。
【0082】
インタクトなIGF-Iの場合、様々な電荷状態のイオンは、約850.8±2(9+)、957.1±2(8+)、1093.7±2(7+)、及び1275.8±2(6+)の範囲内のm/zで観察され得る。いくつかの実施形態では、約1093.7±2の範囲内のm/zを有する1つ以上のIGF-Iイオンからのデータが収集され、定量に使用される。このm/z範囲内の例示的なイオンとしては、約1091.9±0.1、1092.8±0.1、1092.9±0.1、1093.1±0.1、1093.2±0.1、1093.4±0.1、1093.5±0.1、1093.7±0.1、1093.8±0.1、1093.9±0.1、1094.1±0.1、1094.2±0.1、1094.4±0.1、1094.5±0.1、1094.7±0.1、及び1095.4±0.1のm/zを有するIGF-Iイオンが挙げられる。このリストは、限定することを意図するものではない。
図3に示すスペクトルに示されるように、他の多くのイオンが本発明の方法における使用に好適であり得る(これは、約828.0509±2、850.7373±2、871.8730±2、920.5544±2、939.6930±2、956.9532±2、975.4576±2、1034.8128±2、1051.6337±2、1073.9335±2、1093.6597±2、1114.5219±2、1207.9401±2、1226.5705±2、1252.5871±2、及び1275.6019±2のm/zでの同位体イオン群の検出を示している)。しかしながら、上記のように、これらの範囲内の個々の同位体のイオンは、主に、示されたm/z±1の範囲内に収まる。また、このレベルの精度では、任意のイオンについて観察された質量は、機器の変動のためにわずかに(例えば、±0.1)変化し得る。
【0083】
インタクトなIGF-IIの場合、様々な電荷状態のイオンは、約934.69±2(8+)、1068.07±2(7+)、1245.92±2(6+)、及び1494.89±2(5+)の範囲内のm/zで観察され得る。いくつかの実施形態では、約1068.07±2の範囲内のm/zを有する1つ以上のIGF-IIイオンからのデータが収集され、定量に使用される。このm/z範囲内の例示的なイオンとしては、約1067.36±0.1、1067.51±0.1、1067.65±0.1、1067.80±0.1、1067.94±0.1、1068.08±0.1、1068.23±0.1、1068.37±0.1、1068.51±0.1、1068.65±0.1、1068.80±0.1、1068.94±0.1、及び1069.08±0.1のm/zを有するIGF-IIイオンが挙げられる。いくつかの実施形態では、1つ以上のIGF-IIイオンは、約1067.94±0.1及び1068.08±0.1のm/zを有するIGF-IIイオンからなる群から選択される。このリストは、限定することを意図するものではなく、他のイオンも、本方法における使用に好適であり得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、高分解能/高精度質量分析計の使用により、単一のイオンの単一の同位体形態からのピークのシグナル強度(例えば、
図4に示される約1093.66のm/zでの単一のIGF-Iイオンピーク、又は
図12に示される約1067.80のm/zでの単一のIGF-IIピーク)を、データ取得のために選択することが可能になり得る。代替的に、単一イオンの1つ以上の同位体形態(例えば、
図4及び12に示される1つ以上のIGF-I又はIGF-IIの同位体形態)からのシグナル強度又は狭いm/z範囲にわたるシグナル強度(例えば、約1093.7±1のm/z範囲についての全てのIGF-Iシグナル強度、又は約1068.2±1のm/z範囲についての全てのIGF-IIシグナル強度)の定量データを収集し、試料中のインタクトなIGF-I及び/又はIGF-IIの量に関連付けることができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、シグナル強度の定量データは、少なくとも2つの異なる電荷状態からの1つ以上のIGF-Iイオン及び/又はIGF-IIイオンについて収集される。次いで、これらのイオンの強度は、試料中のインタクトなIGF-I及び/又はIGF-IIの定量的評価に使用され得る。例えば、IGF-Iは、8+電荷状態の1つ以上のIGF-Iイオン(すなわち、約957.1±2のm/z範囲内のIGF-Iイオン)及び7+電荷状態の1つ以上のIGF-Iイオン(すなわち、1093.7±2のm/z範囲内のIGF-Iイオン)からのシグナル強度を用いて定量され得る。2つ以上のイオンのシグナル強度の定量データが収集される実施形態では、強度は、試料中のインタクトなIGF-I及び/又はIGF-IIの定量的評価のために、当該技術分野で既知の任意の数学的方法(例えば、合計、又は曲線下面積の平均化)によって組み合わされ得る。
【0086】
イオンが検出器と衝突すると、電子のパルスが生成され、それが、デジタルシグナルに変換される。取得されたデータは、コンピュータに中継され、収集されたイオンのカウントを時間に対してプロットする。得られた質量クロマトグラムは、従来のHPLC-MS法で生成されたクロマトグラムと同様である。特定のイオンに対応するピーク下面積又はかかるピークの振幅は、測定され、目的の分析物の量に相関し得る。特定の実施形態では、ピークの曲線下面積又は振幅を測定して、IGF-I及び/又はIGF-IIタンパク質若しくは断片の量を決定する。上に記載のように、所与のイオンの相対存在量は、内部分子標準の1つ以上のイオンのピークに基づいて較正標準曲線を使用して、元の分析物の絶対量に変換され得る。
【0087】
いくつかの実施形態では、IGF-I及びIGF-IIは、同時に定量される。これらの実施形態では、各IGF-I及びIGF-IIは、各々、上に提供された方法のうちのいずれかによって定量され得る。
【0088】
特定の好ましい実施形態では、IGF-Iの定量下限(LLOQ)は、約15.0ng/mL~200ng/dLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約15.0ng/dL~100ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約15.0ng/mL~50ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約15.0ng/mL~25ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約15.0ng/mL~15ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約15.0ng/mL~10ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約15.0ng/mLである。
【0089】
特定の好ましい実施形態では、IGF-IIの定量下限(LLOQ)は、約30.0ng/mL~200ng/dLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約30.0ng/dL~100ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約30.0ng/mL~50ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約30.0ng/mL~25ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約30.0ng/mL~15ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約30.0ng/mL~10ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約30.0ng/mLである。
【0090】
特定の好ましい実施形態では、IGF-Iの検出限界(LOD)は、約4.9ng/mL~200ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約4.9ng/mL~100ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約4.9ng/mL~50ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約4.9ng/mL~25ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約4.9ng/mL~20ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約4.9ng/mLである。
【0091】
特定の好ましい実施形態では、IGF-IIの検出限界(LOD)は、約8.2ng/mL~200ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約8.2ng/mL~100ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約8.2ng/mL~50ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約8.2ng/mL~25ng/mLの範囲内(境界値を含む)、好ましくは約8.2ng/mL~20ng/mLの範囲内、好ましくは約8.2ng/mLである。
【0092】
以下の実施例は、本発明を説明するために役立つ。これらの実施例は、本方法の範囲を限定することを決して意図したものではない。特に、以下の実施例は、特定の内部標準を使用した質量分析によるIGF-I及びIGF-IIタンパク質又は断片の定量を示す。示された内部標準の使用は、いかなる形でも限定することを意図するものではない。当業者によって容易に決定される任意の適切な化学種を、内部標準として使用することができる。
【実施例】
【0093】
実施例1:質量分析によるIGF-1バリアントの同定
検体の供給源
検体はもともとLC-MSによるインタクトなIGF-1の定量のためにQuest Diagnosticsに提出され、更なる解析の前に非特定化された。IRBスポンサープロトコル番号は、BR13-002であり、IRBプロトコル番号は、20121940である。
【0094】
バリアントデータベース
患者検体中のIGF-1バリアントを見つけるために、本発明者らは、エクソームアグリゲーションコンソーシアム(Exome Aggregation Consortium)データベース、ExAC(14)(2/6/2019にアクセス、補足表2に)を使用した。これには、臨床的意義が不明な13のバリアントを含む、現在知られている全てのバリアント:T4M、V17M、T29I、S34N、A38V、R55K、M59R、P66A、P66T、A67S、A67T、A70P、A70T、及び以前に報告された3つの病原性バリアント:V44M、R50W、及びR36Qが含まれている。
【0095】
試料調製及びLC-MS
患者試料は、Bystrom et al(3)によって以前に記載されている方法の改変を使用して調製した。簡潔に述べると、100μLの患者血清、品質管理(Bio-Rad)、及びキャリブレーター(Ajinomoto)を解凍し、ボルテックスし、ディープウェルプレート(Thermo Scientific)に移した。その後、10μLの内部標準(15N標識IGF-1、ProSpec)及び400μLの酸性化エタノール溶液(87.5%のEtOH、12.5%の1N HCl)の混合物を添加し、試料を激しく混合し、室温で30分間インキュベートした。次いで、試料を遠心分離し(10℃で10分間5,500RCF)、350μLの上清を60μLの1.5M Tris塩基と混合した。試料を-20℃で60分間冷却して、更なるタンパク質沈殿物を生成した後、以前の設定で遠心分離した。
【0096】
遠心分離後、IGF-1及びそのバリアントを、0.1%ギ酸を含む水(移動相A)及び0.1%ギ酸を含むアセトニトリル(移動相B)の勾配(補足
図1)を使用して、オンライン抽出(Thermo Scientific、San Jose,CA)を備えた多重高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Aria TLX-4)を使用して分離した。抽出カラムは、Phenomenex Monolithic Onyx C18ガードカートリッジであり、分析用カラムは、Phenomenex Kinetex C18 50×4.6mm、100Åポアサイズであった。質量分析は、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)源を装備し、SIMスキャンモードと比較して約2倍の感度を有する正の全イオン断片化(AIF)モードで動作するQ Exactive Focus Hybrid四重極オービトラップ機器(Thermo Scientific)を使用して行った(補足
図2及び補足表1)。以下のMSパラメータを使用した。解像度70,000、スキャン範囲1,060~1,110Da、正規化衝突エネルギー:10、自動ゲイン制御(AGC):2e4、最大注入時間(IT):自動。A67T/A70T対の決定の場合、質量分析計は、35,000の分解能、単離ウインドウ2.0m/z、NCE30、固定第1質量150Da、AGC:2e4、MaxIT:250ms及び1マイクロスキャン。
【0097】
MSデータ解析及び可視化
LC-MSデータをThermo TraceFinder5.0 Clinicalによって解析し、Thermo Xcalibur v.4.2のQual Browserで可視化した。
【0098】
DNA配列決定による確認
非特定化された血清検体廃棄物からのDNA抽出を、Apostle MiniMax(商標)高効率単離キット(Beckman Coulter life science、Indianapolis,IN)を用いて行った。抽出されたDNAを使用して、IGF-1遺伝子のエクソン4領域(Build GRCh38でChr12:102419509-102419690)及びエクソン3領域(Build GRCh38でChr12:102475582-102475855)を配列決定した。プライマー設計では、一般的なSNP位置(>1%の母集団MAF)を除外した。配列決定は、ABI Prism BigDye Terminator v3.1サイクル配列決定キット及びABI3500遺伝子アナライザー(Applied Biosystems)を製造業者の説明書に従って使用して行った。
【0099】
結果及び考察
同位体ピークインデックス(IPi)及び相対保持時間(rRT)の概念を使用して、IGF-1バリアントの検出のプロセスを開発し、自動化した。最も一般的なバリアントA67TとA70Tのペアを区別するために、タンデム質量分析を使用する。
【0100】
同位体ピークインデックス(IPi)
天然の非還元形態(C331H513N94O101S7)のWT IGF-1の元素組成及びその既知のバリアントに基づいて、ポリペプチドの観察された電荷状態の各々についての同位体エンベロープにおけるピークは、それらの正確なm/z及びピーク強度の分布の観点から正確に予測することができる。
【0101】
以前の研究では、同位体エンベロープ内のピークの命名法を簡単に説明した(12)。本明細書では、「同位体ピークインデックス(IPi)」及び「同位体ピーク相対強度(IPrI)」の概念を更に発展させる(
図1)。IGF-1及びバリアントの同位体エンベロープは、それらの単同位体m/z及び電荷状態にかかわらず、このインデックス強度分布に従う。
【0102】
IPiは、同位体エンベロープのピークの数値インデックスであり、下付き文字に示され、ゼロから始まる。単同位体ピークは、IP0(「同位体ピークゼロ」又は「IPゼロ」と読む)として指定され、その後の重同位体ピークは、IP1~IP13として識別される。この命名法は、WT及び全てのバリアントの同位体エンベロープに適用される。例えば、V44MバリアントのIP0は、V44M0として指定され、V44Mバリアントの同位体エンベロープ内の単同位体ピークを表す。WT IGF-1のルーチン検出及び定量中、IP4は、ラベルWT4の下で使用される。
【0103】
IPrIは、同位体エンベロープ内のピークの強度の分布である。特定のパターンは、IGF-1バリアントにおいて非常に類似している分子の元素組成にのみ依存し、したがって、IPrIは、WT及び全てのバリアントについて類似しているべきである。
図1におけるピーク相対強度の分布は、実際の患者検体から平均化され、WT IGF-1の定量に使用されるIP
4ピークの強度と比較して計算される。IGF-1同一性を確かめるために「定量イオン(quantifier)」同位体に隣接する「確認イオン(qualifier)」同位体の相対強度を使用することは、臨床分野でIPrIを使用する実用的な例である(7)。
【0104】
全てのIGF-1バリアントをモニタリングすることは困難であり、制限がある。Q Exactive Focus機器のオービトラップ質量分析器の質量分解能(200m/zで70,000)は、同位体エンベロープ内の同位体ピークを認識するのに十分である(MH7
+7の場合、0.14m/zの差)。任意のMSアプローチの制限は、同位体バリアントA67TとA70T、並びにV17MとV44Mとを区別することができないことである。更に、現在の機器分解能では、非常に近い単同位体m/z(±10ppm)を有するバリアント:R55K及びR36Q;R50W、T4M、及びA67/70Tを分解することができない。最後に、全てのP66T同位体ピークは、WT IGF-1同位体エンベロープからの干渉を有するため、P66Tバリアントの同位体エンベロープは、WT IGF-1と重複しており、ルーチン解析では検出することができない。
【0105】
全てのバリアントの理論的同位体エンベロープに基づいて、以下のようにバリアントの元素組成の違いに基づいて、WT IGFに対する正確なm/zシフトを計算することによって分解することができないピークを同定した。単同位体ピークの正確な質量を、まず、非還元ジスルフィド結合を有する全てのバリアントにおいて、MH7
+7について計算した(補足表3)。次いで、次の13のバリアント同位体について正確なm/zを表に入力し、全てのm/z値を最小値から最大値まで並べ替えることによって再グループ化した(同位体ピークマスターテーブル、補足表4)。<10ppmの隣接するm/z差が同定され、互いに分解することができないが、他の群のピークから分解することができるピークとしてグループ化した。合計で、5m/z値(オレンジ色のセル、補足表4)を選択して、WT及び4つのバリアント群(VG、表1)をモニタリングした。
【0106】
いくつかのバリアントの同位体ピークは、2つのバリアント群(VG3及びVG4)に属し、それらのIPrIは、それらの同定のための更なる信頼性を提供する(表1)。例えば、S34N
2(VG3)の抽出されたイオンクロマトグラム(EIC)は、IGF-1の同位体エンベロープにおけるその相対強度に従って、S34N
4のものの57%であると予想される(
図1を参照されたい)。しかしながら、VG4では、S34N
9は、WTのわずか25%、S34N
2の面積の約半分になると予想される。EICにおけるこの差を使用して、S34Nを他のバリアントと区別することができる。VG4からVG3に切り替えることで、S34Nの検出感度を2倍に高めることができる。同じことは、感度がVG4でより高いA38Vを除いて、VG3からの他のバリアントにも当てはまる。
【0107】
本発明者らの方法では、全てのバリアントが、わずか4m/z比でモニタリングされる(表1)。これらのm/z比のいずれかにおけるピークの存在は、所与のVGに属するバリアントが存在することを示す。例えば、
図2は、2人の異なる患者からの検体についてのVG4ピークを含むLC-MSデータを示す。患者1からの検体では、IP
6がVG4のm/zとして検出されたため、IP
i概念は、患者1がR50W、T4M、A67T、又はA70Tバリアントを有するに違いないと予測する(表1)。同様に、患者2の検体では、IP
4がVG4のm/zとして検出されたため、V17M又はV44Mバリアントのいずれかを有するはずである。DNA配列決定により、患者1がA70Tを有し、患者2がV44Mを有することを確認した。したがって、バリアントを区別するためのアプローチとしてのIPiの妥当性を提供する。ほとんどのバリアントは、IPiアプローチのみを使用して、すなわち、それらの質量スペクトルにおけるピークの同位体分布にのみ基づいて、区別することができる。
【0108】
このアプローチは標的化されるが、新しいバリアントの発見につながる可能性もある。VG2のメンバーが検出された患者検体からのLC-MSデータを詳細に検査すると、IPiがVG2の2つのバリアント:A67S(IP
4)又はT29I(IP
8)のいずれにも一致しないことが明らかになった。代わりに、そのピークは、IP
10又はIP
11のいずれかに対応した(補足
図3)。DNA配列決定により、S33P
10の計算値m/z1095.8130と一致するが(VG2のm/zとは6ppm異なる、補足表4)、ExACデータベースでは一致しないバリアントS33Pが明らかになった。したがって、新しいバリアントの発見のためのアプローチとしてのIPiを検証した。
【0109】
相対保持時間(rRT)
本発明者らの予備研究は、いくつかのIGF-1バリアントがWTと共溶出しないことを示す。WTのRTとバリアントのRTとの間のこの差は、相対保持時間(rRT)と呼ばれ、バリアント間を区別するために使用することができる。IPi概念を使用して、異なるVGにバリアントを予測及び割り当て、それらの観察されたrRTを比較し、DNA配列決定によってそれらの同一性を確認することによって、本発明者らは、バリアントの区別及び発見のためのツールとしてのrRTを検証した(表2)。
【0110】
例えば、WT
4及びVG4のEICは、2つの検体からの既知のIGF-1バリアントのrRTのわずかな差を示す。したがって、WT(
図2A)と共溶出するバリアントA70T(
図2B)と、WT(
図2D)より後に溶出するV44M(
図2E)とが区別される。
【0111】
特に、いくつかのVGでは、IPiは、単一のバリアントを予測したが、rRTは、新しいIGF-1バリアントの存在を明らかにした(表2)。例えば、VG3のm/zでIP1を有し得る既知のバリアント(A38V)は1つだけ存在し、これは、WTと共溶出するはずである。しかしながら、IP1バリアントがWTよりもわずかに遅れて溶出する検体を発見した。DNA配列決定は、共溶出するバリアントがA38Vであることを確認した。しかし、後で溶出するバリアントはA67Vであり、これは、ExACデータベースにはないバリアント(すなわち、同じアミノ酸置換を有するが、異なる位置にあるバリアント)であった(表2)。同様に、VG1におけるIP4の場合、患者検体中に、報告されていないY31Hバリアントを見出した。これは、P66A(補足表2)と比較して、計算値m/zの差がほんの1.5ppmであり、WTよりもわずかに早く溶出する(表2)。また、VG1では、rRTは、DNA配列決定によって同定された新しいバリアントR50Q又はR56Kの存在を示した。これらの新しいバリアントのいずれも、既知のバリアントのように同一のアミノ酸置換を有していたが、異なる位置にあった(表2)。これらの例は、rRTがバリアントの同定及び新たなバリアントの発見のためのツールであることの検証を提供する。
【0112】
タンデム質量分析
ExACデータベースでは、A67T及びA70Tの発生頻度が最も高い(合計93%、補足表1、ExACブラウザーから作成)。これらは、MS/MSによる再分析時に、y3断片イオンのm/zの差により互いに区別され、y5断片イオンのm/zの差によりWTと区別され得る(補足表5)。本発明者らのワークフローでは、m/z1093.5215(WT4)及び1098.0969(VG4)の包含リストを備えた並列反応モニタリング(PRM)を用いる。
【0113】
本発明者らは、A67T、A70T、T4M、又はR50Wバリアントの存在を示すVG4のIP
6が検出された検体を使用して、このアプローチを検証した。例えば、2つの患者検体を再分析すると、MS/MSスペクトルは、yイオンを明らかにし、患者がそれぞれ、WTとA67Tバリアント(患者A)及びWTとA70Tバリアント(患者B)についてヘテロ接合性であることを確認する(補足
図4)。合計で、本発明者らは、MS/MSが、試験した28検体(A67Tバリアントを含む9検体及びA70Tバリアントを含む19検体)において、DNA配列決定結果と一致することを確認した。
【0114】
MS及びMS/MSスキャンを交互に用いることによって、1回の実行でA67T及びA70Tを検出できる可能性があるが(補足
図5)、このワークフローは、クロマトグラフィーのピークにわたるMSスキャンの数がより少ないため、IGF-1の定量が損なわれないことを証明する必要がある。更に、最も豊富な多型A67/70Tが患者検体の0.2%のみに存在することを考えると、このワークフローを正当化するのは困難な可能性がある(補足表2)。
【0115】
自動バリアント検出
IGF-1バリアントの検出を自動化し、ルーチンのIGF-1定量ワークフローに組み込んだ。質量抽出許容値を20ppmに設定して、全てのスペクトルをThermo TraceFinder5.0 Clinicalで解析した。以下の化合物について検体スペクトルを検索するために、TraceFinder Masterメソッドを設定した:WT4(確認イオンとしてWT3及びWT5を追加)、内部標準(ISTD5)、及び内部標準として指定された4つのバリアントグループに対応するm/z。ソフトウェアは、2つのレポートを生成した。
【0116】
バリアントレポートの場合、TraceFinderのレポートタイプは、以下のフィルターストリングを使用して、バッチとして設定した:
AND(quanresults.sampleType=“Specimen”,quanresults.totalArea<>“N/F”,quanresults.peakArea>300000,compound.compoundname<>“IGF-1”,Compound.CompoundName<>“ISTD”)
これにより、IGF-1バリアントを含むことが疑われる検体のリスト(
図3、パネルA)が生成される。示された実施例では、検体は、VG4バリアントを含むことが疑われる。次いで、バリアントの存在に関する情報は、臨床検査情報システム(Laboratory Information System)(LIS)の標準的なコメントを介して医師に報告される。
【0117】
質量分析データに基づいて、希少なヘテロ接合性IGF-1バリアントが、この検体で検出された。このバリアントのレベルは、上記の報告されたIGF-1結果には含まれておらず、予想される値よりも低い可能性があることを説明する。バリアントのレベルは、野生型IGF-1タンパク質について報告された値と同じであることが予想される。このIGF-1バリアントの臨床的意義は、依然として不明である。バリアントの存在を確認するために、追加のDNA配列決定が推奨される。
【0118】
IPi及びrRTの概念を使用して、バリアントの同一性を予測し、次いで、A67T/A70T対の場合、DNA配列決定又はタンデム質量分析で確認することができる。
【0119】
IGF-1の定量レポートは、WTの検出及び定量に関連する情報を示すように設計されている(
図3、パネルB)。TraceFinderのレポートタイプは、複合カスタム数式<compound.compoundType=“eTargetCompound”>として設定される。これに加えて、レポートは、以下のセル数式
IF(AND(sample.sampletype=“Specimen”,quanresults.peaksfound=FALSE),“POSSIBLE HOMO VAR”,IF(AND(sample.sampletype=“Specimen”,quanresults.peaksfound=TRUE),IF(quanresults.calcamount-compound.loq<0,“POSSIBLE HOMO VAR”,“”),“”))を使用して、
ホモ接合性IGF-1バリアントを含むことが疑われる検体を標識する。この場合、結果は手動で検査され、バリアントのレベルは、WT IGF-1較正曲線に基づいて推定され、LISシステムにおける標準的なコメントを介して医師に報告される(定量値は例として使用される)。
【0120】
質量分析データに基づいて、希少なホモ接合性IGF-1バリアントが、この検体で検出された。バリアントのレベルは、上記の報告されたIGF-1結果には含まれていなかった。これは、全てのIGF-1がバリアントタンパク質の形態で産生されるため、報告されたIGF-1濃度を説明する。バリアントの推定濃度は、75ng/mLである。このバリアントの臨床的意義は、依然として不明である。バリアントの存在を確認するために、追加のDNA配列決定が推奨される。
【0121】
臨床応用
本発明者らは、臨床検査室で高分解能LC-MS法を使用した、堅牢な高スループットのIGF-1バリアントの検出及び発見を開発した。バリアントを区別及び発見するための個々の方法IPi、rRT、及びMS/MSを、DNA配列決定によって検証した。IGF-1バリアントを同時にモニタリング及び同定するという本発明者らのアプローチは、臨床検査室における他の方法と比較して、大幅に改善されている。市販の機器ソフトウェアによるLC-MSデータの自動解釈は、ヒューマンエラーのリスクを低減する。
【0122】
アプローチの開発及び検証中に、ExACデータベースから6つのバリアントP66A、A67S、S34N、A38V、A67T、A70T、並びに2つの以前に報告されたバリアントV44M及びA67Vを同定した。更に、このアプローチは、以前に報告されていない6つのバリアントY31H、S33P、R50Q、R56K、T41I、及びA62Tを発見した。多数の新しい発見を考慮すると、IGF-1バリアントの現在の知識は限られており、IGF-1バリアントの世界はより広大であることが明らかになる。
【0123】
本発明者らは、本発明者らの方法論が、ポリペプチド及びタンパク質の自動定量、並びに臨床検査室におけるそれらの多型バリアントの効率的な検出のための高分解能LC-MSアプローチに、より一般的に適用される可能性があると予想する。IGF-1の場合、本方法は、臨床医に患者のIGF-1状態のより多くのプロファイルを提供する機会、並びに遺伝子型-表現型の関係を更に探求する機会を提供する。
【0124】
将来的には、モニタリングされたIGF-1バリアントのリストには、新たに報告されたものが含まれる。また、P66T、A67S、及びA67VバリアントをDNA配列決定なしに確認するためのMS/MS戦略を開発することも可能である。質量分析計及びそのスキャン速度における現在の改善を考慮すると、平行したWT IGF-1のMS定量及びそのバリアントのいくつかのMS/MS検証は、臨床検査室で可能になる可能性がある。
【0125】
このアプローチを多数の検体からのデータに適用することによって、将来の研究では、一般集団と臨床集団との間の異なるIGF-1バリアントの発生頻度を比較することを目指す。発生頻度の不一致は、バリアントが病原性又は病原性の可能性があることを意味する可能性があり、したがって、診断及び患者ケアに情報を提供する。
【表2】
【表3】
【0126】
各バリアントグループ内で、IPi概念を検出された各バリアントに適用した。IPi予測後、rRTを同定し、未分解バリアント内で比較した。rRTにより、R56KバリアントからのR50Qの分離、並びにA67VからのA38Vの分離がもたらされた。また、Y31H、S33P、及びA62Tバリアントの発見がもたらされた。
【0127】
表3.キャリブレーター及びQCに示されているように、様々なエネルギーのインソースCID(SID)及びHCDとのSIMスキャンの比較の概要。結果は、10NCEのHCDを適用した最初のキャリブレーター及び内部標準(黄色で強調されたセル)に対する応答の顕著な増加を示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【0128】
電荷状態+7及び非還元ジスルフィド結合における全てのIGF-1バリアント及びそれらの同位体ピークの理論的に正確なm/z。
【表7】
【0129】
全てのバリアントの理論上のm/z値を、最小値から最大値まで並べ替えた。次いで、<10ppm(ピンク色のセル)の隣接するm/z差を同定し、互いに分解することができないが、他の群のピークから分解することができるピークとしてグループ化した。合計で、5m/z値(オレンジ色のセル)を選択して、WT及び4つのバリアント群をモニタリングした。
【表8】
【0130】
実施例2:質量分析によるIGF-1及びIGF-2の感度定量
方法.試料は、同位体標識された内部標準を含有する酸性化エタノール溶液を添加し、冷凍庫に60分間置くことによって調製される。遠心分離後、上清を回収し、分析物を抽出し、オンライン抽出を備えた多重高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)システムによって分離する。検出は、ESI源を備え、正の全イオン断片化(AIF)モードで動作するイオントラップオービトラップ質量分析計によって行われる。内部標準に対する分析物応答の比率は、較正曲線を構築し、患者試料中のIGF-1又はIGF-2を定量するために使用される。
【表9】
【0131】
精密研究.定義:アッセイ内での試料の再現性
従来技術:許容基準:SD<TEa/3;SD及びCV(%)に基づいて各プロセスのシグマが>3.0でなければならない。
【0132】
高度な技術:許容基準は、測定を監督する医療及び科学ディレクターによって決定される。許容基準は、データに基づいて、合理的かつ裏付け可能でなければならない。
【0133】
実行内での精度.許容基準:SDは、許容SD(wr)未満又は≦TEa/4でなければならない。
【0134】
アッセイ内精度は、測定内での品質管理プールの再現性として定義される。全てのレベルのQCを分析して、平均、SD、及び変動係数(%CV)を決定した。各レベルを5回の実行にわたって1回の実行当たり5回測定し、合計25回反復した。分析物の要約データを以下に示す。元のデータを以下の表に列挙する。
【表10】
【表11】
【0135】
結果は、ヒト血清中のIGF-1及びIGF-2の検出について許容基準が満たされたことを示す。
【0136】
総合精度.許容基準:総合SD≧1/2TEaの場合は許容できない、又は総合SDが定義された最大SD又はCV未満でなければならない。
【0137】
測定間精度は、アッセイ間の試料の再現性として定義される。全てのレベルのQCを分析して、平均、SD、及び変動係数(%CV)を決定した。各レベルを20日間にわたって1日当たり2回測定し、合計40回反復した。分析物からの要約データを以下に示す。元のデータを以下の表に列挙する。
【表12】
【表13】
【0138】
結果は、ヒト血清中のIGF-1及びIGF-2の検出について許容基準が満たされたことを示す。
【0139】
ブランク限界(LOB).LOBは、ゼロキャリブレーターの平均+2SDとして決定した。IGF-1及びIGF-2のLOBは、それぞれ、1.621ng/mL及び10.162ng/mLである。
【0140】
検出限界(LOD).LODは、ゼロキャリブレーターの平均+4SDとして決定した。IGF-1及びIGF-2のLODは、それぞれ、2.446ng/mL及び12.276ng/mLである。
【0141】
定量限界(LOQ).許容基準:SD<TEa/3の最低濃度
処理尿に添加したメタノール中の標準キャリブレーター材料を使用して調製した3つのプールを試験して、LOQを決定した。各プールは、5回の実行にわたって1回の実行当たり5回測定した。LOQは、SD<TEa/3の最低濃度によって決定した。検出限界の要約データを以下に示す。IGF-1及びIGF-2のLOQは、それぞれ、7.794ng/mL及び31.983ng/mLである。
【表14】
【表15】
【0142】
較正の検証.許容基準:観察された値の平均は、TEa/4以下で予想される範囲から逸脱していなければならない。
【0143】
アッセイの線形性は、2つの異なるキャリブレーターロットの結果を分析することによって決定した。キャリブレーターロットを新たに調製し、現在使用しているキャリブレーター(以前の調製)に対して不明なものとして試験した。標的化した濃度と観察された濃度との間の差を分析した。データに対して行われた統計は、許容される性能を示す。
【0144】
IGF-1及びIGF-2の分析測定範囲(AMR)は、それぞれ、7.8~2,000ng/mL及び31.3~2,000ng/mLである。
【0145】
報告範囲(reportable range)(RR)。IGF-1及びIGF-2の臨床報告範囲(CRR)は、それぞれ、7.8~2,000ng/mL及び31.3~2,000ng/mLである。
【0146】
既知の濃度のIGF-1を有する6つの患者試料を、処理血清で2、4、8、及び16倍に希釈した。2、4、及び8倍希釈レベルでの回収率は、回収誤差の100±20%以内であった。
【0147】
既知の濃度のIGF-2を有する6つの患者試料を、処理血清で2、4、8、及び16倍に希釈した。各希釈レベルでの全ての回収は、回収誤差の100±20%以内であった。
【0148】
回収試験.許容基準:完全な回収の欠如(回収量から追加量を差し引いたもの)による誤差は、各個々の測定値について≦TEaでなければならない。
【0149】
添加回収試験を実施して、アッセイ内の任意のマトリックス効果を評価した。IGF-1塩基回収試料(合計6つ)を、200uLの処理血清と400uLの各試料とを組み合わせることによって調製した。添加した試料は、2,000ng/mLのIGF-1のストック溶液200uLを、400uLの各試料に添加することによって調製した。結果は、許容可能な精度範囲内にある。
【0150】
IGF-2塩基回収試料(合計6つ)を、100uLの処理血清と100uLの各試料とを組み合わせることによって調製した。添加した試料は、2,000ng/mLのIGF-2のストック溶液100uLを、100uLの各試料に添加することによって調製した。結果は、許容可能な精度範囲内にある。
【0151】
分割試料比較試験.許容基準:平均の差の絶対値は、TEa/4未満でなければならない。
【0152】
RIA対現在のAgilent TOF LC-MS。IGF-1の定量のために放射免疫測定法(RIA)と現在のAgilent TOF LC-MS技術を比較する、分割試料比較試験を行った。100人の患者からの試料を分割し、Aria TX-4システム上でLC-MS法を用いて分析した。試料を、Esoterix Laboratory(Calabasas,CA)でRIA法を使用して同時にアッセイした。(試験コード#500282、酸:アルコール抽出後のRIAの遮断)。データを、Deming回帰によって解析した(n=100、m=1.039±0.01572、b=-11.55±5.673)。LC-MS法は、RIAと非常に一致することが見出された。
【0153】
HPLC-MS法の比較.LC-MSによるIGF-1の分割試料比較を、現在のAgilent TOFと提案されたQ Exactive Focus HPLC-MS法との間で行った。197の患者試料(n=197)を試験した。線形回帰は、1.0266x+0.57、r2=0.9861であった。結果は、ヒト血清中のIGF-1の定量について許容基準が満たされたことを示す。
【0154】
LC-MSによるIGF-2の分割試料比較を、現在のHPLC-MS法と提案されたHPLC-MS法との間で行った。214の患者試料(n=144)を試験した。線形回帰は、0.9327x+38.17、r2=0.9132であった。
【0155】
測定の不確かさ.定義:特定の測定の結果が確実である程度。複数の決定の平均+/-1.96*SDによって決定される所与の数の周りの95パーセンタイル信頼区間として表される。
【0156】
修正又は未修正のFDA認可又は承認試験の場合、測定の不確かさは、各QCレベルを1日当たり5回、5日間別個に測定することによって決定される。5日間よりも短い期間にわたってMU試験を完了する必要がある場合、5つのQC値の各セットを別個に実行し、最終的な精度試験に記録された短縮された時間枠を確認する必要がある。
【0157】
MU信頼区間は、アッセイ検証計算機テンプレートの精度シートを使用して計算される。平均及び標準偏差を計算することによってデータを解析し、次いで、SDに1.96を乗じ、これを平均に加算又は減算することによってMUを計算する。
【0158】
ヒト血清中のIGF-1及びIGF-2の各QCレベルの信頼区間を以下の表に示す。
【表16】
【表17】
【0159】
検体の安定性.許容基準:ベースライン値と時間/温度試料値との間の差(%)がその分析物について≦TEaである限り、試料は安定しているとみなされる。血清プールは、臨床相関部門から入手し、事前にアリコートされ、セットアップの準備ができていた。
【0160】
様々な温度でのIGF-1及びIGF-2の回収率を試験するために、各々について10試料を評価した。各プールから、表7~11に示された時間、様々な温度でアリコートをインキュベートした。安定性試験プールが適切なインキュベーション時間に達した場合、全ての試験プールが一緒にアッセイされるアッセイ日まで、-90℃~-60℃の冷凍庫に入れる。
【0161】
凍結/融解安定性.ヒト血清中のIGF-1物質の凍結/融解の回収率について、6つの試料を評価した。次いで、全てのプールをアリコートし、-90℃~-60℃で保管した。各プールからの6つのアリコートは、異なる数の凍結/融解サイクル(0~5)に供された。表7aのデータは、試験した全てのプールについて、最初の凍結/融解(サイクル「0」)から5回の凍結/融解サイクルを追加しても、ヒト血清中のIGF-1の許容可能なレベルの活性が保持されたことを示す。最初の凍結/融解サイクル(サイクル「0」)は、回収プロセス中に全ての検体が受ける凍結/融解を表す。患者試料中のIGF-2の回収率を、最大5回の凍結/融解サイクルにわたって同様の方法で行った。
【0162】
IGF-1患者試料は、少なくとも6回の凍結/融解サイクルで安定である。IGF-2患者試料は、少なくとも5回の凍結/融解サイクルで安定である。
【0163】
冷蔵安定性(2.0℃~8.0℃).データは、ヒト血清が少なくとも7日間、冷蔵温度で許容レベルのIGF-1及びIGF-2活性を保持したことを示す。
【0164】
周囲安定性(18.0℃~25.0℃).データは、ヒト血清が、それぞれ、少なくとも2日間及び少なくとも7日間、室温で許容レベルのIGF-1及びIGF-2活性を保持したことを示す。
【0165】
凍結安定性(-30.0℃~-10.0℃).データは、ヒト血清が、それぞれ、少なくとも2ヶ月間及び少なくとも21日間、凍結温度で許容レベルのIGF-1及びIGF-2活性を保持したことを示す。
【0166】
凍結安定性:超低温(-90.0℃~-60.0℃).データは、ヒト血清が、それぞれ、少なくとも3ヶ月間及び少なくとも34日間、室温で許容レベルのIGF-1及びIGF-2活性を保持したことを示す。
【0167】
干渉試験.許容基準:潜在的な干渉物質による平均差は、許容可能とみなされるには、≦TEa/4でなければならない。
【0168】
溶血干渉.アッセイにおける溶血の効果を、溶血したRBCを低濃度、中濃度、及び高濃度で3つの患者試料(100uL)に添加して、軽度、中等度、及び重度(gross)の溶血を表すことによって評価した。
【0169】
IGF-1の場合、平均回収率は、軽度、中等度、及び重度の溶血について、それぞれ82.4%、72.4%、及び63.9%であった。軽度の溶血は、血清アッセイにおいてIGF-1と干渉しないが、中等度及び重度の溶血試料は許容できない。
【0170】
IGF-2の平均回収率は、軽度、中等度、及び重度の溶血について、それぞれ111.9%、119.6%、及び130.1%であった。軽度及び中等度の溶血についての平均回収率は許容範囲内であるが、個々の値は許容範囲内ではない。溶血は、全てのレベルで血清アッセイにおけるIGF-2と干渉する。あらゆる程度の溶血を伴う試料も許容されない。
【0171】
脂肪血症の干渉.アッセイにおける脂肪血症の効果を、軽度、中等度、及び重度の脂肪血症を表す、低濃度、中濃度、及び高濃度のIntralipid(20%、エマルション)を3つの患者試料(100uL)に添加することによって評価した。
【0172】
IGF-1の場合、平均回収率は、軽度、中等度、及び重度の脂肪血症について、それぞれ102.8%、97.0%、及び96.8%であった。脂肪血症は、血清アッセイにおいてIGF-1と干渉しない。あらゆる程度の脂肪血症を伴う試料も許容される。
【0173】
IGF-2の場合、平均回収率は、軽度、中等度、及び重度の脂肪血症について、それぞれ105.1%、108.6%、及び122.5%であった。脂肪血症は、軽度及び中等度のレベルで血清アッセイにおいてIGF-2と干渉しない。重度の脂肪血症を伴う試料は許容されない。
【0174】
ビリルビンの干渉.アッセイにおける黄疸の効果を、軽度、中等度、及び重度の黄疸を表す、低濃度、中濃度、及び高濃度のビリルビン粉末を3つの患者試料(100uL)に添加することによって評価した。
【0175】
IGF-1の場合、平均回収率は、軽度、中等度、及び重度の黄疸について、それぞれ102.8%、99.0%、及び98.9%であった。黄疸は、血清アッセイにおいてIGF-1と干渉しない。あらゆる程度の黄疸を伴う試料も許容される。
【0176】
IGF-2の平均回収率は、軽度、中等度、及び重度の黄疸について、それぞれ99.7%、102.0%、及び106.0%であった。黄疸は、血清アッセイにおいてIGF-2と干渉しない。あらゆる程度の黄疸を伴う試料も許容される。
【0177】
分析特異性.IGF-1結合タンパク質の干渉も、以下の化合物:IGF結合タンパク質1(IGFBP1)、IGF結合タンパク質2(IGFBP2)及びIGF結合タンパク質3(IGFBP3)を含有する混合物を使用して試験した。
【0178】
6つの患者試料を採取し、ベースラインを確立するために実行した。次いで、当量(200uL)の各試料及び結合タンパク質(800ng/mLのIGFBP1、2,000ng/mLのIGFBP2、及び10,000ng/mLのIGFBP3)を組み合わせ、試験して、IGF-1の回収率を計算した。これらの後、結合タンパク質の混合物(以前と同じ濃度)の6つの溶液を実行した。結果は、回収率が100±20%以内であり、ヒト血清中のIGF-1の定量について許容基準が満たされたことを示す。試料回収率は、干渉が存在しなかったことを示した。
【0179】
1つの患者試料を採取し、ベースラインを確立するために実行した。次いで、当量(200uL)の各試料及び結合タンパク質(800ng/mLのIGFBP1、2,000ng/mLのIGFBP2、及び10,000ng/mLのIGFBP3)を組み合わせ、試験して、IGF-2の回収率を計算した。これらの後、結合タンパク質の混合物(以前と同じ濃度)の溶液を実行した。結果は、回収率が100±20%以内であり、ヒト血清中のIGF-2の定量について許容基準が満たされたことを示す。試料回収率は、干渉が存在しなかったことを示した。注記:結合タンパク質溶液中のIGF-2の低いシグナルは、マトリックスとして使用した処理血清中に存在する低量のIGF-2によって説明することができる。
【0180】
イオン抑制試験.この試験の目的は、勾配の過程で、又はマトリックス成分の注入時、イオン抑制効果又はイオン増強効果が観察されるかどうかを決定することであった。これを評価するために、患者試料(6人の男性及び6人の女性)の取得中に、同位体標識された内部標準(N15標識IGF-1)の、カラム後の「T」注入を行った。この実験では、総イオン計数(TIC)は、目的の分析物の溶出時間中に20%未満の変化を示した。試験は、アッセイが試験に合格し、IGF-1及びIGF-2の両方についてイオン抑制が観察されなかったことを示す。
【0181】
キャリーオーバー.高濃度の標準(2,000ng/mL)の8回の反復の直後に、ブランク血清の12回の反復を試験し、各LCカラム(4チャネルAria LCシステムの各々に対応する)でキャリーオーバーを評価した。低キャリブレーターの反復は、ヒト血清中のIGF-1及びIGF-2の両方についてキャリーオーバーを示さなかった。
【0182】
基準範囲(RI)
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【0183】
IGF-2の参照範囲
成人、男性及び女性 267~616ng/mL
小児、男性及び女性(2~18歳) 260~630ng/mL
検体の種類/代替的な検体の種類。IGF-1アッセイは、レッドトップ(red top)(ゲルなし)チューブに採取されたヒト血清について検証される。SSTチューブからのIGF-1とレッドトップチューブとの比較を完了した。SSTチューブは、許容基準を満たした。
【0184】
IGF-2アッセイは、レッドトップチューブに採取されたヒト血清について検証される。レッドトップ試料とSST試料を対にした40人の対象を収集し、IGF-2について分析した。SST血清とレッドトップ血清を比較した。試料チューブの種類間で顕著な差は観察されなかった。SSTチューブは、許容基準を満たした。
【表23】
【0185】
血漿試料は、自動ピペッティングシステムに適合しない粘度を示すことが以前に指摘されていた。このため、血漿試料は、IGF-1及びIGF-2アッセイには許容されない。
【0186】
臨床的有用性.IGF-1及びIGF-2の測定は、成長障害の診断において有用である。小人症は、血清IGF-1及びIGF-2のレベルの低下と関連しているが、先端巨大症は、血清IGF-1及びIGF-2のレベルが高くなる。
【0187】
偏差.IGF-2アッセイ分割試料比較では、1点SE(20.21)>TEa/4(20.03)があるが、<TEa/3(26.70)である。これらの比較では、TEa/4未満のSEが好ましく、TEa/3未満のSEが許容される。
【0188】
結論.この検証試験は審査されており、本方法の性能は患者の検査に許容できると考えられる。
【表24】
【0189】
本明細書で言及又は引用される文献、特許、及び特許出願、並びに他の全ての文書及び電子的に入手可能な情報の内容は、各個々の刊行物が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されるのと同じ程度に、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。出願人らは、任意のそのような文献、特許、特許出願、又は他の物理的文書及び電子的文書からのありとあらゆる資料及び情報を本出願に物理的に組み込む権利を留保する。
【0190】
本明細書に例示的に記載された方法は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素又は複数の要素、限定又は複数の限定がなくても好適に実施することができる。したがって、例えば、「含むこと(comprising)」、「含むこと(including)」、「含有すること(containing)」などの用語は、広義かつ限定されずに、読み取られるべきである。加えて、本明細書で使用されている用語及び表現は、限定ではなく、説明の用語として使用されており、そのような用語及び表現の使用において、示され、説明された特徴又はその一部のいずれかの同等物を除外する意図はない。特許請求される発明の範囲内で様々な修正が可能であると認識される。したがって、本発明は好ましい実施形態及び任意選択的な特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示され、そこに具現化された本発明の修正及び変形は、当業者によって利用され得、かかる修正及び変形は、本発明の範囲内であるとみなされると理解されるべきである。
【0191】
本発明は、本明細書において広範かつ包括的に説明されている。包括的な開示に含まれる、より狭い種及び亜属の群の各々も、本方法の一部を形成する。これは、除去された材料が本明細書に具体的に列挙されているかどうかにかかわらず、その属から任意の主題を除去する但し書き又は負の制限を伴う本方法の包括的な記載を含む。
【0192】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。加えて、本方法の特徴又は態様がマーカッシュ群の観点から記載される場合、当業者は、本発明が、それによってマーカッシュ群のいずれかの個々のメンバー又はメンバーの亜群の観点からも記載されることを認識するであろう。
【国際調査報告】