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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】工具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/18 20060101AFI20240403BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20240403BHJP
   B23K 1/008 20060101ALI20240403BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240403BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240403BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20240403BHJP
   C21D 9/22 20060101ALI20240403BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 29/08 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
B23B27/18
B23K1/00 330B
B23K1/008 A
B23P15/28 Z
C22C38/00 301H
C22C38/58
C22C5/08
C22C9/00
B23K35/30 310B
B23K35/30 310C
C21D9/50 101B
C21D9/22
B23B27/14 B
C22C29/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560381
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2022058424
(87)【国際公開番号】W WO2022207711
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】21166490.9
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591106875
【氏名又は名称】セコ ツールズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン-フリッツ, ステファン
【テーマコード(参考)】
3C046
4K042
【Fターム(参考)】
3C046GG00
4K042AA12
4K042AA24
4K042BA14
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DE02
4K042DE05
(57)【要約】
本発明は、ろう付けによって接合された超硬合金部位および鋼部位を含む工具であって、鋼部位が390~510 HV30の平均硬度を有する、工具に関する。ろう付け接合部は、Tiおよび超硬合金部位に隣接して0.03~5μmの厚さのTiC層を含む。工具は、強いろう付け接合部および均一な硬度を有する鋼部位を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金部位;
0.63~0.70wt%のC、1.40~1.60wt%のSi、1.35~1.55wt%のMn、1.00~1.20wt%のCr、0.23~0.27wt%のMo、0.25wt%未満のNi、0.025wt%未満のPおよび0.0015wt%未満のSならびに残余Feの組成を有し;0と30 HV30の間の標準偏差で390と510 HV30の間の平均硬度を有する鋼部位;
前記超硬合金部位および前記鋼部位を接合するろう付け接合部;
を含む工具であって、
前記ろう付け接合部がTiを含み、前記ろう付け接合部が、超硬合金部位に隣接して0.03と5μmの間の厚さのTiC層を含む、工具。
【請求項2】
鋼部位が、0と15 HV1の間の標準偏差で420と480 HV30の間の平均硬度を有する、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
ろう付け接合部が、20と200μmの間の厚さを有する、請求項1または2に記載の工具。
【請求項4】
ろう付け接合部が、CuおよびAgを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の工具。
【請求項5】
ろう付け接合部が、30~80wt%の量のAg、15~65wt%の量のCu、0~15wt%の量のInおよび0.3~15wt%の量のTiの組成を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の工具。
【請求項6】
請求項1から6のいずれか一項に記載の工具を製造する方法であって、
- 超硬合金部位を提供する工程と;
- 0.63~0.70wt%のC、1.40~1.60wt%のSi、1.35~1.55wt%のMn、1.00~1.20wt%のCr、0.23~0.27wt%のMo、0.25wt%未満のNi、0.025wt%未満のPおよび0.0015wt%未満のSならびに残余Feの組成を有する鋼部位を提供する工程と;
- ろう付け材料を間に有する超硬合金部位および鋼部位を、800と1100℃の間の温度の炉中のろう付け工程に5と60分の間の期間供する工程であり、ろう付けが不活性雰囲気中で、10~400mBarの間の圧力で行われる、ろう付け工程に供する工程と;
- ろう付け後に、200℃未満の温度に到達するまで、少なくとも400mBarの圧力で不活性ガスを炉の中へ流入させることによって、ろう付け材料を間に有する超硬合金部位および鋼部位を焼入れ工程に供する工程と、
- 少なくとも鋼部位を、300と700℃の間の温度で15分と3時間の間、焼戻し工程に供する工程と
を含む、方法。
【請求項7】
ろう付け工程が850と980℃の間の温度で15と45分の間の期間行われる、請求項6に記載の工具を製造する方法。
【請求項8】
ろう付け中の不活性雰囲気がArおよび/またはNである、請求項6または7に記載の工具を製造する方法。
【請求項9】
焼入れ中の温度が少なくとも30℃/分の速度で下げられる、請求項6から8のいずれか一項に記載の工具を製造する方法。
【請求項10】
焼入れ中に炉の中へ流入させるのに使用される不活性ガスが、ArもしくはNのうちの1方またはそれらの混合物である、請求項6から9のいずれか一項に記載の工具を製造する方法。
【請求項11】
焼戻し工程が、400と650℃の間の温度で15分と3時間の間行われる、請求項6から10のいずれか一項に記載の工具を製造する方法。
【請求項12】
ろう付け材料が488と1123℃の間の固相線温度および612と1180℃の間の液相線温度を有し、ろう付け材料が、Tiに加えて、Zn、Ag、Cu、Sn、In、Zr、HfおよびCrから選択される1つまたは複数の元素をさらに含む、請求項6から11のいずれか一項に記載の工具を製造する方法。
【請求項13】
ろう付け材料が、30~80wt%の量のAg、15~65wt%の量のCu、0~15wt%の量のInおよび0.3~15wt%の量のTiを含む、請求項6から12のいずれか一項に記載の工具を製造する方法。
【請求項14】
ろう付け工程中に0.5~10MPaの締付力が加えられる、請求項6から13のいずれか一項に記載の工具を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金部位およびスチール部位を含む工具であって、部位がろう付けによって接合されている、工具に関する。本発明は、こうした工具の製造にも関する。
【背景技術】
【0002】
ろう付けまたは溶接によって鋼を超硬合金に接合することは、工具製造の分野では長い間知られてきた。鋼を超硬合金と接合する場合、例えば、CTE(熱膨張係数)の違い、ろう付け接合部の強度、鋼の望ましくない硬度プロファイルなど、いくつかの課題がある。
【0003】
これらの問題のそれぞれを個別に改善できるいくつかの解決策があるが、これらの解決策はしばしば他の領域で問題をもたらし、全ての問題が解決できるわけではない。
【0004】
ろう付けの原理は、加熱時に2つの部品を接合するろう付け材料を使用することである。ろう付け接合部を加熱するいくつかの方法があり、最も一般的な方法の1つは誘導コイルを使用する誘導加熱である。コイルを使用する利点の1つは、ろう付け接合部のまわりの局所的領域だけが加熱され、工具の残りを影響されずに残すことである。しかし、この局所加熱は鋼部位に望まない硬度プロファイルをもたらす可能性があり、回転バイトおよび他の切削工具などを固定するためのねじ切りなどが鋼部位に提供される場合に、問題を引き起こす恐れがある。
【0005】
加熱にコイルを使用する別の不利点は、各工具を個別に扱う必要があり、より自動的な工業プロセスが好ましいことである。
【0006】
鋼および超硬合金部位全体を加熱すると、硬度プロファイルをより均一にするが、次いで、上昇した温度は鋼部位全体に影響し、従って全体の硬度を低下させる。
【0007】
切削工具を固定するために鋼部位にねじ切りが適用される場合に起こり得る別の問題は、磨耗である。同じ工具、例えばシャンクは長期間使用されることが好ましいので、切削工具の交換が頻繁に行われ、ねじ切りの磨耗が切削工具の固定にマイナスの影響を与える恐れがある。
【0008】
本発明の1つの目的は、強固なろう付け接合部、ならびに均一な硬度プロファイルおよび高硬度を備え、結果的に耐摩耗性が改善された鋼部位の両方を有する工具を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、鋼と超硬合金を接合する使いやすい方法を提供し、高強度である予測可能な接合部および予測可能な硬度を有する鋼部位をもたらすことである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明によるろう付け接合部の倍率1000でのSEM画像を示す図である。Aは鋼部位であり、Bはろう付け接合部であり、Cは超硬合金部位であり、DはTiC層である。
図2】本発明によるろう付け接合部の倍率1500でのSEM画像を示す図である。
図3】本発明によるろう付け接合部の倍率10000でのSEM画像を示す図である、Bはろう付け接合部であり、Cは超硬合金部位であり、DはTiC層であり、EはTi蓄積層である。
図4】本発明によるろう付け接合部の、ろう付け接合部と鋼部位の間の接触面における倍率10000でのSEM画像を示す図である。Aは鋼部位であり、Bはろう付け接合部であり、Fは鋼表面のTiC層である。
図5】誘導加熱を使用した、工具の硬度プロファイルを示す図である。Aは鋼部位であり、Bはろう付け接合部であり。Cは超硬合金である。
図6】特許請求される方法の工程を示す図である。Aは超硬合金部位を用意する工程であり、Bは鋼部位を用意する工程であり、Cは超硬合金部位と鋼部位の間にろう付け材料を配置する工程であり、Dはろう付けする工程であり、Eは焼入れ工程であり、Fは焼戻し工程である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、超硬合金部位および鋼部位を含む工具であって、鋼部位が、0.63~0.70wt%のC、1.40~1.60wt%のSi、1.35~1.55wt%のMn、1.00~1.20wt%のCr、0.23~0.27wt%のMo、0.25wt%未満のNi、0.025wt%未満のPおよび0.0015wt%未満のSならびに残余Feの組成を有する、工具に関する。鋼部位は、0と30 HV30の間の標準偏差で390と510 HV30の間の平均硬度を有する。工具は、前記超硬合金部位と前記鋼部位を接合しているろう付け接合部をさらに含み、前記ろう付け接合部はTiを含み、前記ろう付け接合部は超硬合金部位に隣接して0.03と5μmの間の厚さのTiC層を含む。
【0012】
超硬合金部位は、当該技術分野で一般的な任意の超硬合金で製造することができる。超硬合金は、結合金属相(metallic binder phase)マトリックスに埋め込まれた硬質相を含む。
【0013】
本明細書で超硬合金とは、硬質相の少なくとも50wt%がWCであることを意味する。
【0014】
好適には、結合金属相の量は、超硬合金の3と20wt%の間、好ましくは4と15wt%の間である。好ましくは、結合金属相の主成分は、Co、NiおよびFeの1種または複数から選択され、より好ましくは、結合金属相の主成分はCoである。
【0015】
本明細書で主成分とは、バインダー相を形成するために他の元素が添加されないことを意味するが、例えばCrのような他の成分が添加される場合、それは焼結中にバインダー中に必然的に溶解される。
【0016】
本発明の一実施形態では、超硬合金は、元素としてまたは炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として存在するCr、Ta、Ti、NbおよびVから選択される、超硬合金元素において一般的な他の成分も含むことができる。
【0017】
本発明による鋼部位は、好ましくは0.63~0.70wt%のC、1.40~1.60wt%のSi、1.35~1.55wt%のMn、1.00~1.20wt%のCr、0.23~0.27wt%のMo、0.25wt%未満のNi、0.025wt%未満のPおよび0.015wt%未満のSを含有する。残余は、Feである。
【0018】
鋼部位の平均硬度は、好適には390と510 HV30の間、好ましくは420と480 HV30の間である。硬度はビッカース硬さ試験機により、30kgf(キログラム重)の荷重および15秒の負荷時間を加えて測定する。鋼部位の断面に、3×3のくぼみのパターンを施した。平均値は、これらの測定箇所の平均である。硬度値の標準偏差は、好適には0と30 HV30の間、好ましくは0と15 HV30の間である。
【0019】
ろう付け技術は、いわゆるアクティブなろう付けである。それは、接合部が、ろう付け材料を溶融させて金属結合を形成することによって形成されるだけでなく、接合する材料の一方または両方との化学反応も伴うことを意味する。ろう付け材料における反応性元素は、通常Tiであるが、Hf、V、ZrおよびCrなどの元素もアクティブな元素であると考えられる。本発明によれば、Tiはアクティブな元素である。
【0020】
本明細書でろう付け接合部とは、ろう付け材料によって埋められ、ろう付けプロセス中に形成される超硬合金部位と鋼部位の間の領域または塊を意味し、以下を参照されたい。
【0021】
ろう付け接合部の厚さは、好適には20と200μmの間、好ましくは30と100μmの間である。
【0022】
ろう付け接合部は、均一な相ではない。むしろ、ろう付けの後、ろう付け材料中の元素は異なる相を形成する。
【0023】
ろう付け接合部は、好適にはTiを含有する。ろう付け中にTiは超硬合金部位中の炭素と反応し、ろう付け接合部と超硬合金部位の間の接触面にTiC層を形成する。
【0024】
TiC層の存在を検出するには、使用する機器のタイプに応じていくつかの方法がある。
【0025】
十分高い分解能を有する走査電子顕微鏡(SEM)を使用する場合、TiC層は、超硬合金部位に隣接して明瞭に目視可能である。それがTiC層であることを確認するために、EDS、またはWDSを備えたSEM-EPMAを使用することができる。
【0026】
使用するSEMがTiC層を示すのに十分な分解能を有さない場合、ろう付け材料と超硬合金の間の接触面におけるTiおよび/またはCの蓄積は、例えばSEM-EDS、またはWDSを備えたSEM-EPMAを使用して見ることができる。Tiの蓄積は以下Ti蓄積層と呼び、SEM画像で視覚的に検出されなくとも、TiC層が形成されているよい指標である。Ti蓄積層は実際のTiC層より相当に厚く、これは全てのTiがTiCを形成するわけではないことを意味し得る。Ti蓄積層の厚さは、分析方法によっても部分的には影響を受ける。
【0027】
本発明の一実施形態では、TiC層の厚さは、0.03と5μmの間、より好ましくは0.05と0.5μmの間、最も好ましくは0.05と0.25μmの間である。
【0028】
好ましくは、ろう付け接合部は、Zn、Ag、Cu、Sn、In、Zr、Hf、Crから選択される1種または複数の元素をさらに含む。より好ましくは、Ag、Cu、およびInから、最も好ましくは、AgおよびCuから。
【0029】
ろう付け後のろう付け接合部の組成は、元素が均一に分布していないので決定することが困難である。可能であれば、ペーストまたは箔は均一なブレンドであるので、最も容易な方法は使用したろう付け材料を調べることである。さらに、ろう付け接合部は、接合する材料からの少量の元素、例えば、超硬合金からのCo、Ni、Fe、Wなど、および鋼からのFe、Niなどを含み得る。
【0030】
ろう付け接合部におけるTiおよび他の元素の量は、エネルギー分散型X線分光法分析(EDS)を使用して測定することもできる。しかし、ろう付け接合部における元素の不均一な分布のために、多くの測定点を使用する必要があり、標準偏差は大きい。好ましくはろう付け接合部は、平均で、30~80wt%、好ましくは40~75wt%の量のAg、15~65wt%、好ましくは20~40wt%の量のCu、0~15wt%の量のIn、および0.3~15wt%、好ましくは0.5~5wt%の量のTiを含む。
【0031】
ろう付け接合部は、好適には少なくとも130MPa、好ましくは少なくとも140MPaより好ましくは140と300MPaの間の剪断強度を有する。剪断強度は、剪断試験によって測定される。
【0032】
ろう付け接合部と鋼部位の間の接触面において、Tiはろう付け接合部にも蓄積され、TiはTiC層を形成する。鋼接触面におけるこのTiC層の厚さは、好ましくは1と10μmの間、好ましくは2と5μmの間であり、例えば、SEM-EDSによって測定することができる。
【0033】
工具は、超硬合金部位が鋼部位とろう付けによって接合された、当該技術分野において一般的な任意の工具または工具の一部であり得る。具体例は、ドリル、エンドミル、シャンクのようなツールホルダなどである。
【0034】
本発明の一実施形態では、工具は、差込み工具、ドリルヘッドなどのような切削工具用のツールホルダとして使用されるシャンクである。シャンクは超硬合金部位および鋼部位によって形成され、超硬合金部位は安定性を生成するために使用され、鋼部位は切削工具を固定するためのねじ切りを生成するのに必要である。
【0035】
本発明は、上記による工具を製造する方法であって、以下の工程:
- 超硬合金部位を用意する工程;
- 0.63~0.70wt%のC、1.40~1.60wt%のSi、1.35~1.55wt%のMn、1.00~1.20wt%のCr、0.23~0.27wt%のMo、0.25wt%未満のNi、0.025wt%未満のPおよび0.0015wt%未満のSならびに残余Feの組成を有する鋼部位を用意する工程、
- ろう付け材料の0.3~15wt%の量でTiを含むろう付け材料を、超硬合金部位と鋼部位の間でそれぞれに接して配置する工程、
- ろう付け材料を間に有する超硬合金部位および鋼部位を、800と1100℃の間の温度の炉中のろう付け工程に5と60分の間の期間供する工程であり、ろう付けが不活性雰囲気中で、10と400mBarの間の圧力で行われる工程;
- ろう付けの後に、200℃未満の温度に到達するまで、少なくとも400mBarの圧力で不活性ガスを炉の中へ流入させることによって、ろう付け材料を間に有する超硬合金部位および鋼部位を焼入れ工程に供する工程、
- 少なくとも鋼部位を、300と700℃の間の温度で15分と3時間の間、焼戻し工程に供する工程
を含む。
【0036】
超硬合金部位および鋼部位は、上述の組成を有する。ろう付けに先立つ、部位の平均硬度は、鋼のグレードおよび鋼が焼戻されたか否かに応じて、上述したものと異なり得る。
【0037】
超硬合金部位および鋼部位の形状および大きさは、製造すべき工具のタイプに依存する。
【0038】
本発明によるろう付け材料(溶加材(filler metal)またははんだとも呼ばれる)は、全量で、ろう付け材料の0.3~15wt%、好ましくは1~5wt%のTiを含有する。本発明のろう付け材料は、好適には488と1123℃の間、好ましくは650と850℃の間の固相線温度(solidus temperature)を有する。さらに、本発明のろう付け材料は、の612と1180℃の間、好ましくは750と900℃の間の液相線温度を有する。ろう付け材料はTiに加えて、Zn、Ag、Cu、Sn、In、Zr、HfおよびCr、好ましくはAg、CuおよびIn、最も好ましくはAgおよびCuから選択される1種または複数の元素をさらに含む。
【0039】
本発明の一実施形態では、ろう付け材料は、30~80wt%、好ましくは40~75wt%の量のAg、15~65wt%、好ましくは20~40wt%の量のCu、0~15wt%の量のIn、および0.3~15wt%、好ましくは0.5~5wt%の量のTiを含む。
【0040】
本発明の一実施形態では、ろう付け材料は、55~75wt%のAg、20~30wt%のCu、0~15wt%のIn、および1~5wt%のTi、好ましくは65~75wt%のAg、25~30wt%のCuおよび1~5wt%のTiを含む。
【0041】
好適には、ろう付け材料は箔またはペーストとして提供される。
【0042】
ろう付け材料は、超硬合金部位と鋼部位の接合表面上に提供される。
【0043】
ろう付けプロセス前のろう付け材料の厚さは、材料のタイプ、すなわち、箔またはペーストに依存する。ペーストが使用される場合、十分な材料が施され、ろう付けされる表面は覆われる。典型的には、厚さは25と200μmの間、好ましくは50と100μmの間である。
【0044】
次いで部位は、不活性な環境、すなわち最小量の酸素を有する炉に入れられる。好ましくは、炉中のろう付け温度は、800と1100℃の間、好ましくは850と980℃の間である。部位が高温に供される時間は、5と60分の間、好ましくは15と45分の間である。高温での時間がより短い場合、ろう付け接合部を形成し、Tiが反応してろう付け接合部の所望の強度に到達するための十分な時間がない。高温での時間がより長い場合、Tiを含有する脆い反応域が制御されずに成長し、接合部の性質、例えば、剪断強度にマイナスの影響を及ぼす。
【0045】
ろう付けは、不活性ガス、好ましくはアルゴンの存在下で、好適には低圧で行われる。好適には、圧力は10~400mBarの間、好ましくは20~200mBarの間である。
【0046】
炉中でのろう付け中に、ろう付けをさらに強化するために、締付力を加えてもよい。本明細書で締付力とは、鋼部位および超硬合金部位を互いに対して押しつけ、好ましくはカーバイド部位に外部重量を配置することによって、力を加えることを意味する。超硬合金部位または鋼部位の重量によってろう付け接合部に作用する力は、どの部位が他の部位の上にあるかに依存するが、これらの値には含まれない。
【0047】
一実施形態では、0.5と10MPaの間、好ましくは2と8MPaの間の締付力が加えられる。
【0048】
本発明の一実施形態では、締付力は加えられない。
【0049】
本明細書で焼入れとは、ろう付け材料を間に有する超硬合金部位および鋼部位を、ろう付け工程の後に、不活性ガスを炉の中へ流入させることによって急速に冷却することを意味する。不活性ハス(inert has)は、ArもしくはNのうちの1種、またはそれらの混合物であり得る。温度は、酸化が起こる温度未満に下げる必要がある。好ましくは、炉中の温度は、200℃未満、好ましくは150℃未満に、好ましくは少なくとも30℃/分の速度、より好ましくは少なくとも45℃/分の速度で下げられる。その後、空気中での自由冷却が許され得る。
【0050】
ろう付けの後、部位を300と700℃の間、好ましくは400と650℃の間の高温に、15分と3時間の間の期間供することによって、部位は焼戻し工程に供される。好ましくは、焼戻しは不活性雰囲気中、例えば、Arおよび/またはN中で行われる。正確な時間および温度は、鋼部位の目的とする平均硬度レベルに依存する。
【0051】
本発明により使用されるろう付け炉は、圧力、加熱速度および冷却速度などに関して、上述したような、よく制御された状態を提供することができる任意の炉であり得る。ろう付けおよび焼戻しの工程は、同じ炉、または2つの別個の炉のいずれでも行うことができる。
【0052】
鋼部位が、例えばねじ切りなどのような、機械加工作業に供されることは一般的である。鋼部位を機械加工することができるためには、硬度が高すぎることはあり得ず、最終工具における所望の硬度および耐摩耗性を達成するために、選択される鋼グレードのタイプに応じて、鋼部位の機械加工の前または後に、焼戻し工程を行うことができる。
【0053】
本発明の一実施形態では、ろう付け工程の後に焼戻しは直接行われ、すでに焼戻された鋼の上に、すなわち焼戻し工程の後に、例えばねじ切りのような鋼の任意の機械加工が実行される。
【0054】
本発明の別の実施形態では、例えばねじ切りなどのような鋼の任意の機械加工の後に、焼戻しは行われる。
【実施例
【0055】
例1(本発明)
0.63~0.70wt%のC、1.4~1.6wt%のSi、1.35~1.55wt%のMn、1~1.2wt%のCr、0.23~0.27wt%のMoおよび残りのFeの組成を有する軸受鋼グレードOvako 677で製造された鋼部位を、10wt%Coおよび残りのWCの組成を有する超硬合金部位とともに用意した。
【0056】
ろう付け材料を、ペーストの形態で、接合する表面を覆うのに十分な量で用意した。ろう付け材料は、70wt%Ag、28wt%Cuおよび2wt%Tiの組成を有した。
【0057】
ペーストを鋼部位と超硬合金部位の間に配置し、その結果両部位はペーストに接した。次いで、組み立てられた接合部品を、真空焼結炉、PVA COV 231の中に入れ、そこで10-2mBarの真空度を最初に達成して全ての酸素を除去し、その後不活性雰囲気、50mBarのArを導入した。最初に温度を250℃に上げて5分間保持し、次いで550℃で5分間再度停止した。ろう付け温度880℃を30分間保持し、その後温度が150℃未満になるまで600mBarの圧力で炉の中へArガスを流すことによって、部品を焼入れした。
【0058】
ろう付け/焼入れ工程の後、鋼の硬度を保持するために、ろう付けされた部品を焼戻しプロセスに供した。部品を炉内に入れ、そこで部品を50mBar Arの不活性雰囲気中で、温度550℃に加熱し、それを30分間保持し、その後部品を冷却した。
【0059】
本明細書では、この試料を発明1と表示する。
【0060】
例2(比較2)
0.21wt%C、0.9wt%Si、0.45wt%Mn、13.5wt%Cr、0.2wt%Mo、0.6wt%Niおよび0.25wt%Vならびに残りのFeの組成を有するUddeholm Idunで製造された鋼部位を、10wt%Coおよび残りのWCの組成を有する超硬合金部位とともに用意した。
【0061】
ろう付け材料を、ペーストの形態で、接合する表面を覆うのに十分な量で用意した。ろう付け材料は、70wt%Ag、28wt%Cuおよび2wt%Tiの組成を有した。
【0062】
ペーストを鋼部位と超硬合金部位の間に配置し、その結果両部品はペーストに接した。次いで、組み立てられた接合部品を、真空焼結炉、PVA COV 231の中に入れ、そこで10-2mBarの真空度を最初に達成して全ての酸素を除去し、その後不活性雰囲気、50mBarのArを導入した。最初に温度を250℃に上げて5分間保持し、次いで550℃で5分間再度停止した。ろう付け温度880℃を30分間保持し、その後温度が150℃未満になるまで600mBarの圧力で炉の中へArガスを流すことによって、部品を焼入れした。
【0063】
ろう付け/焼入れ工程の後、鋼の硬度を保持するために、ろう付けされた部品を焼戻しプロセスに供した。部品を炉内に入れ、そこで、部品を50mBar Arの不活性雰囲気中で、温度550℃に加熱し、それを30分間保持し、その後部品を100℃未満に冷却し、その後部品を温度550℃に再度加熱し、それを30分間保持し、その後部品を冷却した。この鋼タイプには、2回の焼戻しサイクルが推奨される。本明細書では、この試料を比較1と表示する。
【0064】
例3(比較)
鋼1.6582(34CrNiMo6)で製造された鋼部位を、10wt%Coおよび0.4wt%Crならびに残りのWCの組成を有する超硬合金部位とともに用意した。
【0065】
ろう付け材料は、1~2mmの直径を有する環として適用されるワイヤー形態のAg49Zn23Cu16Mn7.5Ni4.5であった。
【0066】
部品は、コイルを使用する誘導加熱により、ろう付け接合部を700℃に急速加熱して15秒間保持することによって接合し、その後粉末(powder)を切り、工具を室温に放冷した。図5に鋼部位の硬度値を示しており、そこでは、鋼部位のろう付け接合部から、ろう付け接合部を越えて、超硬合金部位までの距離からの線に沿って計測点が配置されている。
【0067】
本明細書では、この試料を比較2と表示する。
【0068】
例4(比較)
炭素硬化熱間加工鋼(carbon-hardening hot-work steel)1.2344で製造された鋼部位を、10wt%Co、1wt%の他のカーバイドおよび残りのWCの組成を有する超硬合金部位とともに用意した。
【0069】
ろう付け材料を、100μmの厚さを有する箔の形態で用意した。ろう付け金属は、100wt%Cuの組成を有した。溶融温度は1085℃である。
【0070】
箔を鋼部位と超硬合金部位の間に配置し、組み立てられた接合部品を炉の中に入れ、温度は最初に20℃/分の速度で650℃まで上げ、5分間保持した。次いで温度を10℃/分の速度で、650℃から、1100℃であるろう付け温度Tろう付けまで上げた。Tろう付けを15分の滞留時間の間保持し、その後部品を50℃/分の冷却速度で850℃まで冷却した。850℃からは、2barの過剰圧力および2500分-1のファン振動数で標本をN急冷した。
【0071】
続いて、超硬合金-鋼接合部を、炭素硬化熱間加工鋼1.2344をとともに、630℃で2時間、2回焼戻した。
【0072】
本明細書では、この試料を比較3と表示する。
【0073】
例5
硬度はビッカース硬さ試験機を使用して、30kgf(HV30)および1kgf(HV1)の荷重を加えて測定した。荷重は、15秒間加えた。
【0074】
発明1および比較2について、ろう付け接合部と超硬合金の間の接触面を分析するために、SEM-EDS技術を使用した。使用したSEMは、Oxford Instruments NordlysMax EBSD検出器を備え、Oxford Instruments X-Max EDSシステムを提供する、Zeiss Sigma VPであった。
【0075】
発明1および比較1のろう付け接合部におけるTiC層の厚さは、倍率1000のSEM画像上で測定した。TiC層は、後方散乱電子モードで視覚的外観によって確認した。図1および2に、TiC層が明確に目視可能な発明1のSEM画像を示す。表1に示すTiC層の厚さの値は、全てろう付け接合部の中央、すなわち端から離れて得た3つの測定値の平均である。
【0076】
EDSを使用すると、Tiの蓄積をSEM画像の中で確認することができ、Ti蓄積層として測定した。本明細書で蓄積層とは、SEM画像の中で確認され、EDSによって確認された蓄積の厚さを意味し、図3を参照されたい。表1の中の値は、SEM画像の目視検査からの概算値であり、従って幅(interval)として与えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】