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特表2024-515531生体電気プロセス制御およびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】生体電気プロセス制御およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 5/00 20060101AFI20240403BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20240403BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20240403BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20240403BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20240403BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20240403BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20240403BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240403BHJP
   C12N 13/00 20060101ALN20240403BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C25B5/00
C25B1/02
C25B15/023
C12M1/36
C12M1/42
H01M8/16
H01M8/1016
C25B9/00 H
C12N13/00
C12N1/00 R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561003
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 US2022022872
(87)【国際公開番号】W WO2022212733
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/168,818
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523374068
【氏名又は名称】エレクトロ-アクティブ テクノロジーズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボロール,アビジート ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,アレックス ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ブリュワー,ジョーダン ウェイン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB01
4B029FA15
4B033NG01
4B033NH05
4B033NH10
4B033NJ01
4B033NK01
4B033NK10
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BD50
4B065CA54
4K021AA01
4K021BA06
4K021BB01
4K021BB03
4K021BB04
4K021BB05
4K021BC01
4K021BC09
4K021DB10
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB40
4K021EA03
5H126AA03
5H126FF05
(57)【要約】
本発明は、生体電気化学系の安定で高い性能に向けたプロセスの制御を対象とする。開示されているのは、セル電圧を積極的に制御し維持管理しつつバイオフィルムを確立することを含む、生体電気化学系(BES)を準備する方法である。また、開示されているのは、過剰なバイオフィルムを除去し、その存在を測定することにより、BESの能動的、継続的な手作業のまたは自動化された制御を行う方法および系である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、および膜と;
制御ループによってセル電圧を制御した状態で、前記セル電圧を0.4Vから最高1.7Vのセル電圧の値まで上昇させつつ、前記アノード上にバイオフィルムを確立することと;
アノード電位を、基準電極電位に対してアノード電圧に維持管理し、
有機負荷率を増大させることによって少なくとも1A/mの所望の電流密度を発生させることであって、前記有機負荷率が、1日当たり1リットルのアノード体積当たり0から100グラムの基質の値の範囲であることと;
前記アノード電圧、前記有機負荷率、前記セル電圧、またはそれらの組み合わせを変動させることによって前記所望の電流密度を維持管理することと、
を含んでなる、MECを製造する方法。
【請求項2】
前記所望の電流密度が少なくとも約5A/mである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所望の電流密度が少なくとも約10A/mである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アノード電圧が、約-0.4V、約-0.35V、約-0.30V、約-0.25V、約-0.20V、約-0.15V、約-0.10V、約0.05V、約0.00V、約0.05V、約0.10V、約0.15V、約0.20V、約0.25V、約0.30V、約0.35V、または約0.40Vを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
BESが微多孔性膜またはイオン交換膜を含んでなる、BESにおいて少なくとも1A/mの高い電流密度を維持管理する方法であって:
アノードとカソードとの間に周期的な対流性の流れが生じるようにして、前記アノードを通る流体の流れを0.00001から10Hzの周波数でパルス化することと;
前記カソードのpHを13未満の値に維持管理することと、
を含んでなる方法。
【請求項6】
前記BES膜がアニオン交換膜を含んでなり、前記アノードを通る流体の流れが0.00001から10Hzの間の周波数でパルス化される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記BES膜がカチオン交換膜を含んでなり、前記アノードを通る流体の流れが0.00001から10Hzの間の周波数でパルス化される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記BESが微生物電気分解セル(MEC)であり;
前記微多孔性膜を横切る液体の流れを提供することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記液体の流れが、前記膜のアノード側から前記膜のカソード側に向かう、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記液体の流れが、パルス化された液体の流れを含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記パルス化した液体の流れが可逆的である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記液体を、トラップを通してポンプ輸送することをさらに含んでなる、請求項8に記載の方法であって、それによって前記トラップが前記液体を液相と気相とに分離する方法。
【請求項13】
前記気相が収集され、製造物として貯蔵され、前記液相が、前記MECにポンプ輸送されるか、または中間容器に、次いでその先の前記MECにポンプ輸送されるかのどちらかである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記液体を、前記液体から気相を分離する装置を通してポンプ輸送し、残りの液体をあとに残すことと;前記残りの液体を、前記MECにポンプ輸送するか、または中間容器に、次いでその先の前記MECにポンプ輸送するかのいずれかと、
をさらに含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記MECから過剰なバイオフィルムを除去することをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法であって、前記MECから過剰なバイオフィルムを除去する工程が:
アノード、カソード、またはその両方を通る低または高pH溶液の通過;
一体型MEC-ソニケータを通じた超音波処理;
またはそれらの組み合わせ、
を含んでなる、方法。
【請求項16】
BESのアノードを横切る低い圧力降下を維持管理する方法であって:
負圧降下を測定することと;
前記負圧降下が1PSI/分を超える場合には、過剰なバイオフィルムを除去して、前記アノードを横切る低い圧力降下を維持管理することと、
を含んでなる方法。
【請求項17】
前記負圧降下の測定が真空試験を用いて実行される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
過剰なバイオフィルムを除去することが、低もしくは高pH溶液、または超音波処理を適用することによって実行される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
製造物を作り出することをさらに含んでなり、前記製造物が、所望の電流を発生させ維持管理するステップの間に作り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記製造物が水素を含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記水素が、一つまたは複数の化学製造物の製造に使用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記製造物が、プロトン、電子、およびその他の加えられた化学物質に由来する化学物質である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
BESが、アノード、カソード、および一つまたは複数の触媒を含んでなる、BESの自動化された制御を行う系であって:
前記BES、および一つまたは複数の補助的な測定装置から入力を受けとる手段を含んでなるプロセッサを含んでなり;
前記プロセッサが、前記BESの一つまたは複数の動作パラメータを制御する一つまたは複数の制御機構に出力を提供し;
前記一つまたは複数の補助的な測定装置が、電圧センサ、電流センサ、圧力センサ、有機負荷率(OLR)を測定する検出器、およびアノード流体の流れを測定する検出器を含んでなる群から選択され;
前記一つまたは複数の制御機構が、前記アノードの電圧を制御する電源、有機負荷率(OLR)を制御する装置、前記アノード流体の流量および方向を制御するポンプ、ソニケータ、前記アノードのチャンバへの入口点に動作可能に接続されたシリンジポンプ、および前記BESへの酸または塩基の流量を制御する装置を含んでなる群から選択され;
前記一つまたは複数の動作パラメータが、バイオフィルムの蓄積レベル、前記アノードを横切る圧力降下、および前記BESにおける電流密度を含んでなる群から選択される、系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において引用されるあらゆる特許、特許出願、および公開文献は、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。これらの公開文献の開示は、本明細書中に記載され特許請求される発明の日付の時点で当業者に公知の最高水準の技術をさらに完全に記載するために、その全体が参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本特許開示は、著作権保護の対象である材料を含む。著作権者は、特許文書または特許開示の何人によるファクシミリ複製に対しても、これが米国特許商標庁の特許ファイルまたは記録に現れる際には何ら異議を唱えないが、それ以外のありとあらゆる著作権を留保する。
【0003】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月31日に出願された米国特許出願第63/168,818号明細書の優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
政府利益
該当なし
【0005】
本発明は、生体電気化学系の安定で高い性能に向けたプロセスの制御を対象とする。
【背景技術】
【0006】
生体電気化学系(BES)(Borole,A.P.in Bioelectrochemical Biorefining in Biofuels & Bioenergy(ed.O.Konur)(CRC Press,2017))は、酸化還元反応を通じてイオンまたは化学分子と電子を交換し電気または新しい化学物質を生成する、アノードおよびカソードを含んでなる装置であり、反応を促進するために生物学的および電気化学的触媒を採用している。二つの例示的なBESには、微生物燃料電池(MFC)および微生物電気分解セル(MEC)が挙げられ、それぞれ有機分子または無機分子を電気と水素に変換する(Borole,A.P.(2015).“Microbial Fuel Cells and Microbial Electrolyzers.”The Electrochemical Society-Interface 24(3):55-59”。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、アノード、カソード、および膜と;制御ループによってセル電圧を制御した状態で、セル電圧を0.4Vから最高1.7Vのセル電圧の値まで上昇させつつ、アノード上にバイオフィルムを確立することと;アノード電位を、基準電極電位に対してアノード電圧に維持管理し、有機負荷率を増大させることによって少なくとも5A/mの所望の電流密度を発生させることであって、有機負荷率が、1日当たり1リットルのアノード体積当たり0から100グラムの基質の値の範囲内であることと;アノード電圧、有機負荷率、セル電圧、またはそれらの組み合わせを変動させることによって所望の電流密度を維持管理することと、を含んでなる、MECを製造する方法を提供する。実施形態では、所望の電流密度は、少なくとも約10A/mである。実施形態では、アノード電圧は、約-0.4V、約-0.35V、約-0.30V、約-0.25V、約-0.20V、約-0.15V、約-0.10V、約0.05V、約0.00V、約0.05V、約0.10V、約0.15V、約0.20V、約0.25V、約0.30V、約0.35V、または約0.40Vを含んでなる。さらなる実施形態では、本方法は、アノード、カソード、またはその両方を通る低または高pH溶液の通過;MEC-ソニケータまたは同類の装置による超音波処理;またはそれらの組み合わせを含んでなる、MECから過剰なバイオフィルムを除去することを含んでなる。別の実施形態では、本方法は、所望の電流を発生させ維持管理するステップの間に作り出される製造物を作り出すことをさらに含んでなる。一実施形態では、製造物は水素を含んでなる。さらなる実施形態では、水素は、一つまたは複数の化学製造物の製造に使用される。一実施形態では、製造物は、プロトン、電子、およびいずれかの他の加えられた化学物質に由来する化学物質である。
【0008】
別の態様では、本発明は、少なくとも1A/mのBESにおける高い電流密度を維持管理する方法であって、BESが微多孔性膜またはイオン交換膜を含んでなる方法を提供し、方法は:アノードとカソードの間に周期的な対流性の流れが生じるようにして、アノードを通る流体の流れを0.00001から10Hzの周波数でパルス化することと:カソードのpHを13未満の値に維持管理することと、を含んでなる。実施形態では、BES膜は、アニオン交換膜を含んでなり、アノードを通る流体の流れは、0.00001から10Hzの間の周波数でパルス化される。実施形態では、BES膜は、カチオン交換膜を含んでなり、アノードを通る流体の流れは、0.00001から10Hzの間の周波数でパルス化される。
【0009】
別の態様では、本発明は、負圧降下を測定することと;負圧降下が1PSI/分より大きい場合には、過剰なバイオフィルムを除去して、アノードを横切る低い圧力降下を維持管理することと、を含んでなる、BESのアノードを横切る低い圧力降下を維持管理する方法を提供する。実施形態では、負圧降下は、真空試験を用いて実行される。一実施形態では、過剰なバイオフィルムの除去は、低または高pH溶液の適用、または超音波処理によって実行される。
【0010】
本発明の他の目的および利点は、後に続く記載から容易に明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、二つの実施形態の下でのMECの設計を示す。パネルAは、矩形構成の側面図、正面図、および背面図を示す。背面図は、例示的なスペーサ設計の一つを示す。非排他的な代替設計は、さらに高密度のバッフル、または気体および液体の流れ用の間隙を備えた双方向のバッフルを含む;パネルBは、円形構成を示す(上面図を示す。)
図2図2は、一実施形態の下でのプロセスの動作特性を示す、微多孔性膜を備えたMECの模式図である。微多孔性膜を使用するMECは、アノードからカソードへの対流性の流れを促進し、その逆もまた然りであり、さらに良好なpH管理を可能にする。カソードに移送された液体は、生成された気体から分離されアノードに向かって再利用されて、ループが完了する。G/L分離トラップには、センサが埋め込まれており、これがトラップからMECへの液体の回帰速度を制御する。あるいは、トラップとMECの間にリザーバが配置されて、MEC内への流れを管理する場合がある。
図3A図3Aは、一実施形態における、より良好な流れの分配のための流れチャネルを備えたアノード構成を示す。
図3B図3Bは、カソード用のスペーサ-分配装置を示す。カソード電極は、平面または三次元とすることができる一方、スペーサは、カソードからの製造物気体/液体の上方への流れを可能にするよう三次元である。カソードスペーサの第2の構成を、図3Aにおけるアノードの場合に示された流れチャネル構成と同様のものとすることができる。
図4図4は、バイオアノードの低い中点電位を示す、MECアノードのサイクリック・ボルタンメトリを示す。
図5A1図5A1~A3は、一実施形態の下でのアノード電圧および有機負荷率の制御ループ、ならびに付随するプロセス制御装置の図を示す。
図5A2】同上。
図5A3】同上。
図5B図5Bは、完全なMEC制御系に向けたグラフィカル・ユーザ・インタフェースを示す。
図6A図6(パネルAおよびB)は、一実施形態の下でのMECの動作条件の摂動の結果としてのMECのアノード電圧および電流の応答のグラフを示す。条件:応答時間=5分、微分電圧勾配を基準にした変更、設定点-0.29から-0.31V。
図6B】同上。
図7A図7(パネルAおよびB)は、アノード電圧について同じ微分電圧勾配基準を使用しつつ、応答時間を5分から10分に増加させることに対するMECの応答のグラフを示す。
図7B】同上。
図8A図8(パネルAおよびB)は、上限については10分、下限については20分である応答時間を使用しつつ、制御基準を微分電圧勾配からアノード電圧の単純な増加/減少に変更することに対するMECの応答のグラフを示す。
図8B】同上。
図9A図9(パネルAとB)は、上限については10分、下限については20分の応答時間を用い、一次刺激として、パルス化された流れと、設定された限界からの電圧偏差とを使用するMECの応答のグラフを示す。
図9B】同上。
図10図10は、電流に基づく供給速度の自律的制御を示す、基質供給制御を用いるMECの電流および電圧の応答のグラフを示す。
図11図11(パネルAおよびB)は、MEC性能パラメータに及ぼすパルス化された流れの効果のグラフを示す。結果が、二つの複製MEC(パネルAおよびパネルB)について示されており、パルス化された流れ対連続した流れに起因する電流生成の>50%の増加をもたらす再現性のある効果を示している。
図12図12は、MECアノード極を横切る圧力降下測定のための例示的な装置設定を示す。
図13A-C】図13のパネルA、B、およびCは、過剰なバイオフィルムを破壊および除去するための例示的な一体型MEC-ソニケータを示す。
図13D図13Dは、水素製造上の超音波処理から得られた結果を示す。
図13E図13Eは、超音波処理の前後のMECの電気化学インピーダンス分光法(EIS)から得られた結果を示す。
図14図14は、例示的な微生物電気分解反応装置の画像を示す。
図15図15は、電流(mA)対時間(時)のグラフを示す。アノード電圧制御および有機負荷率の調節を通じて実現された電流生成の連続的な増加。
図16図16は、アノード電圧対時間(日)のグラフを示す。セル電位と、事前に決められたランプ・レート(ramp rate)でのOLRの維持管理を通じたアノード電圧の動作制御。
図17図17は、一実施形態の下での、MEC技術を開発するための一体化された学際的手法の模式図を示す。直接の電子移動が可能な複雑な微生物群集を、高速電荷移動および生体電気化学プロセス制御と組み合わせることが、水素製造の高い速度につながっている。
図18A図18は、実際の食品廃棄物をHに変換する例示的な微生物群集のグラフと、2セル、800mLの反応装置において20L-H/L-日を発生させる電流生成を示すMEC性能を示すグラフとを示す。
図18B】同上。
図19図19は、MECとカソードの非限定的な実施例の図を示す。
図20図20は、セルサイズの5×増加を使用するスケールアップ戦略の非限定的な実施例に続いて、分配された発生に向けた積層体およびモジュールの設計の非限定的な実施例の図を示す。
図21図21は、複雑な廃棄物を水素および関連するインピーダンス構成要素に変換する際に関与し得る非限定的なプロセスステップの実施例の図を示す。
図22図22は、バイオマス加水分解物および食品廃棄物(FW)の場合のMEC技術に関する性能指標の非限定的な実施例を示す。
図23図23は、実際の食品廃棄物を使用して試験された既存のMEC積層体の試作品の例を示す。
図24図24は、プレスと、MECモジュールと、コンプレッサとからなる一体化された系の非限定的な実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の態様は、生体電気化学プロセス制御、その使用方法、およびそれに関する維持管理プロトコルに向けられたものである。
【0013】
一つまたは複数の好ましい実施形態の詳細な説明が本明細書に提供されている。しかし、本発明が様々な形態で具体化される場合のあることは理解されよう。したがって、本明細書に開示された特定の細部は、限定するものとして解釈されるのではなく、むしろ特許請求の範囲の基礎として、また、本発明をいずれかの適切なやり方で採用することを当業者に教示する代表的な基礎として、解釈されるものとする。
【0014】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないと指示しているのでない限り、複数形の指示対象を含む。特許請求の範囲および/または明細書において用語「含んでなる(comprising)」と組み合わせて使用される場合の「a」または「an」の使用は、「一つ」を意味する場合があるが、「一つまたは複数」、「少なくとも一つ」、および「一つ以上」の意味とも一致する。
【0015】
本明細書において、語句「例えば」、「など」、「を含む」、および同類のもののいずれかが使用される場合は常に、明示的に別途記載があるのでない限り、語句「および限定することなしに」が続くものと理解される。同様に、「一例」、「例示的」、および同類のものは、非限定的であると理解される。
【0016】
用語「実質的に」は、記述子からの逸脱があっても、意図される目的に悪影響を与えないならば、これを許容する。記述用語は、用語「実質的に」が明示的に記載されていない場合であっても、この語「実質的に」によって修飾されると理解される。
【0017】
用語「含んでなる(comprising)」および「含む(including)」および「有する(having)」および「関与する(involving)」(そして同様に「含んでなる(comprises)」、「含む(includes)」、「有する(has)」および「関与する(involves)」)、および同類のものは、互換的に使用され、同一の意味を有する。具体的には、用語のそれぞれは、一般的な米国特許法での「含んでなる(comprising)」の定義と一致するように定義されており、したがって、「少なくとも以下のもの」を意味する非限定的な用語であると解釈され、また、追加の特徴、限定、態様などを排除しないとも解釈される。よって、例えば、「ステップa、b、およびcが関与するプロセス」は、このプロセスが少なくともステップa、b、およびcを含むことを意味する。用語「a」または「an」が使用される場合には常に、「一つまたは複数」であるとする理解は、そうした解釈が文脈上無意味というのではない限り、そうであると理解される。
【0018】
本明細書で使用されるとおり、用語「約」は本明細書で、近似的に、おおまかに、およそ、またはその範囲内の、を意味するのに使用される。用語「約」が数値範囲と組み合わせて使用される場合には、これは、規定された数値の上下に境界を拡げることによってその範囲を修飾する。概して、「約」という用語は、本明細書では記載された数値の上下に、20%上下の(さらに高いまたはさらに低い)分散のぶんだけ数値を修飾するのに使用される。
【0019】
様々な実施形態では、本発明は、微生物電気分解セルを準備する方法に関する。この方法は、(i)セル電圧を直接制御した状態で、アノード電圧を特定の範囲に制限および維持管理し、有機負荷率を制限および維持管理する、電子発生バイオフィルムの確立と、(ii)アノードおよび/またはカソードを通る流体の流れを制御することによって、MEC性能を維持管理することと、(iii)アノードおよび/またはカソードを通る低または高pH溶液の通過を通じて、または一体型MEC-ソニケータを使用する超音波処理を通じて、またはそれらの組み合わせを通じて、MECから過剰なバイオフィルムを除去することと、を含むものとすることができる。
【0020】
一態様では、本発明は機能的使用のための微生物電気分解セル(MEC)を準備する方法を対象とする。別の態様では、本発明は、以下に記載されるステップのいずれか一つまたは複数に従って準備されるMEC自体を対象とする。実施形態では、MECの動作は、始動段階、製造段階、またはそれらの組み合わせを含む。始動段階は、MECの準備/発達を含み得る。実施形態では、MECの準備は、アノード電圧などのプロセスパラメータの制御、ならびにアノード微生物バイオフィルム触媒の成長を向上させるための、供給速度または有機負荷率(OLR)、および反応装置を通る流れの制御を含む。MECにおける始動段階が所定の性能に達し終わった後、製造段階を開始することができる。本発明において考察される目標製造物の製造に向けて制御される機能パラメータは、MECを通るパルス化された流れを含む。加えて、BESの安定した長期性能のために、死滅して過剰なバイオフィルムをアノードから定期的に除去する維持管理プロトコルを組み込むことができ、これはアノード電圧の制御をも含み得る。
【0021】
MECは、水素を製造するために外部の電気エネルギーを必要とする可能性があるが、これは0.5から2Vの間の電圧で電源を通じて供給することができる。本明細書で考察されるプロセスパラメータの一つが、セル電圧の制御を通じた、MECの始動段階におけるアノード電圧の制御である。バイオアノードの最適な発達を実現するためのアノード電圧の制御が記載されている。商業的製造には、大量製造を実現するために数千の個々のセルを使用する必要がある。個々のセルは、ポテンショスタットを通じて制御することができるものの、そのような機器の使用は、数千のセルの動作には経済的でない。本明細書に記載された本発明の方法により、燃料および化学物質の商業的製造を可能にする電気化学セルを経済的に制御することが可能になる。加えて、市販のポテンショスタットは、扱える電流に限界があり、したがって1Aを超える電流の系を操作し制御するには、特別なハードウェアおよび電子機器が必要となる。バイオアノードの発達、すなわちアノードとして働く電極上に成長した電気活性微生物バイオフィルムの成長のみならず、アノードの動作には、複数のパラメータが関与し得る。これらのパラメータには、アノード電圧、有機負荷率(OLR)、セル電圧、アノードを通過する液体の流量、またはそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらには限定されない。最初の三つのパラメータが関与する制御ループは、流量を一定に保ちつつ、一実施形態の第1の構成部分を含んでなるものとすることができる。アノード電圧を制御することで、バイオフィルム内で発生した電子が、バイオフィルムをその上で増殖させている電極(アノード)に押しやられ、次いで外部回路を通じて電子がカソードに移動する。これにより、カソードは電気陰性となり、アノードとカソードの間に電位差が作り出される。アノードとカソードの間のこの差が、セル電圧を指す。アノード表面上で電気活性バイオフィルムが成長している間に、微生物は、酸化還元タンパク質または微生物からアノード表面への電子移動の媒体として働く生物学的ナノワイヤを含んでなる、導電性細胞外マトリクスを発生させる(Reguera,G.,et al.(2005),“Extracellular electron transfer via microbial nanowires”,Nature 435(7045):1098-1101)。供給物(例えば食品廃棄物)中に存在する有機分子を電子およびプロトンに変換する生化学反応の結果として到達する微生物の酸化還元電位は、Ag/AgCl基準電極に対して約-0.55V±0.02Vを含んでなり得る。本明細書に記載されるバイオアノードの実施形態から得られた結果から、サイクリック・ボルタンメトリ実験に基づいて、約-0.4V未満の中点電位が実証されている(図4)。いくつかの実施形態では、中点電位は、約-0.5Vから約0Vの範囲の値を含んでなる。いくつかの実施形態では、中点電位は、約-0.5V、約-0.4V、約-0.3V、約-0.2V、約-0.1V、約0.0V、およびそれらの中間値を含んでなる。これらの結果は、これまでに報告されたもの(Lewis,A.J.& Borole,A.P.Adapting microbial communities to low anode potentials improves performance of MECs at negative potentials.Electrochimica Acta 254,79-88(2017))と同様であり、高活性の電子発生バイオアノードを示している。しかし、これまでの仕事では、低電位での電気活性を実現するには数ヶ月の成長期間が必要であった。本開示に先だって、ポテンショスタットなどの高額な機器を使用することなしに、商業的応用に必要な-0.4Vまたはその近傍で働く電気陰性アノードを1週間未満で成長させる方法は、報告されていない。
【0022】
実施形態では、-0.4Vまたその近傍での酸化還元ピークを実証する電気活性バイオアノードが、約-0.4Vより高い電圧で安定化すると、対向電極(典型的にはカソード)への電子の移動が始まる。そのような電気活性バイオフィルムが成長している間には、最適な酸化還元電位で動作させて、バイオアノードからの電子の除去を連続して行うことで、電気活性なバイオフィルムのさらなる成長を促進して高性能のバイオアノードを発達させることができる。加えて、そのような制御を、MECの製造段階の間に実施することで、アノード電位を所望の範囲に維持管理することもできる。実施形態では、これは、バイオフィルムが成長するにつれて、セル電位をシフトさせてバイオアノードからの電流の変化に対応することを通じて、実現することができる。ポテンショスタットなどの高額な機器を使用することなしに、そのような高性能の電気活性バイオフィルムを発達させる、そして引き続きMECを動作させて有機分子から電子を発生させるプロセスが、記載される。このプロセスは、成長パラメータ、動作パラメータ、またはそれらの組み合わせの関数としてのアノード電位の制御を含み得る。このようなパラメータの例には、本明細書では有機負荷率(OLR)とも称される基質供給速度、および印加されてその最大値のところで電流を発生させているセル電位などが挙げられるが、これらには限定されない。フィードバック・ループを使用して、アノードを約-0.4Vの電位に、あるいは、アノードの最適性能にとって当技術分野において望ましいまたは公知の、そしてさらには使用される基質および所望の製造物に応じた、いずれかの他の値に維持管理することができる。いくつかの実施形態では、基質は、以下の:酢酸、酢酸を含んでなる混合物、糖類、炭水化物、および生分解性分子、例えば食品廃棄物、バイオマスなどの有機廃棄物の、いずれか一つまたは複数を含んでなるものとすることができる。基質供給速度は、当技術分野で公知の一つまたは複数の装置によって制御することができ、これらの装置は、実施形態では、BESのプロセス制御を自動化するために、本明細書に開示される本発明の系に動作可能に接続される場合もあるものである。この例示的な目標電圧は、バイオフィルムの所望の成長速度にさらに依存する可能性がある。一実施形態では、アノード電位は約-0.3Vに維持管理され、これは、アノードとカソードの間にセル電圧を印加してこの電圧を数マイクロボルトの増し分で増減させて、アノード電圧をAg/AgClの基準電極に対して約-0.3に維持管理することによってなされる。この電圧は、バイオアノード発達の過程において、低いレベル、実例としては約-0.5Vから、約0Vなどのさらに高い値まで変更することもできる。実施形態では、設定点を制御および変更するプログラムを実装することができる。そのようなプログラムは、自動化された制御系を含んでなるものとすることができ、この系は、プロセッサを備えた計算装置、例えばラップトップ、デスクトップコンピュータ、タブレット、および/またはモバイル装置の上で実行することができるものであり、これにより、そうした装置は、BESに関連する様々なパラメータの制御および変更に関して、本明細書に記載される入力に対応する一つまたは複数の入力を受けとる手段を含む。そのような装置を、本明細書に記載されるタイプの測定値を1回でまたは継続して実時間で収集するのに使用される当技術分野で公知の一つまたは複数の物理的測定装置に、動作可能に接続できることは、当業者には理解されよう。バイオフィルムが成長するにつれて設定値の値を増加させる一つの目的は、バイオフィルムの厚さの増加する結果として生じるさらに高い過電位に対応することである。より厚いバイオフィルムは、そのような変更を必要とする、質量および電荷の移動のさらに高い制限の一因となり得る。バイオフィルムが成長するにつれて、発生する電流が増加する可能性があり、別のパラメータであるOLRを増加させる必要がある。これは、電流が増加するにつれてOLRを増加させる第2の制御ループを通じて実現することができる。図5は、目標の制御機能を実現するために開発された二つの例示的な制御ループおよび例示的なプロセス制御系を示す。
【表1】

【0023】
MECプロセスは、電流生成を最大化しつつ、MECを目標アノード電位で動作させることによって発達させることができる。酸化還元電位の影響を受ける、MECなどの生物系は、外部の酸化還元電位を感知する機構を有する。それらは、酸化還元電位の変化などの外部刺激に対して、細胞内で起こる細胞プロセスを変化させることによって反応する。これには、特定の遺伝子のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション;酸化還元メディエータ、または生化学的分子、および/またはタンパク質の産生;細胞内での生化学的実体の、受容体から遠ざかるまたは特定の受容体に向かう動き、または細胞内のコンパートメント内への/そこから外への移動が関与し得る。これらのプロセスは、微生物細胞が信号を受けとった瞬間から、細胞がその応答を完了するまで、特定の時間を要する。この応答時間は、酸化還元電位の変化に応答する微生物細胞の成長を含め、MECの挙動を管理するさいに非常に重要である可能性がある。微生物群集を使用するMECにおいて発達するプロセスは、外部刺激に応答する個々のタンパク質や酵素を持つ数百から数千の異なる種の存在によって複雑になっている。本発明者らは、本発明のいくつかの実施形態にしたがって、本発明のアノードに使用されている複雑な微生物バイオフィルム群集の応答を調査して、MECの最適性能を促進するための適切な応答時間を決定した。酸化還元に基づく成長の応答時間を確立する上での重要なパラメータには、セル電圧の変化の関数としてのアノード電圧の利得と損失、生体電気化学系のクーロン効率によって規定される、OLRの関数として生成される電流、アノード電圧を制御する範囲であるアノード電圧の上限と下限、および時間に関して固定電圧対微分電圧勾配(dVanode/dt)の使用などを挙げることができる。これらのパラメータのそれぞれを、個別にまたは一緒に試験して、アノード電位の制御に使用するのに適切な論理を決定して、アノード電位を所与の範囲内に維持管理するようにしたことで、最適なMEC性能を可能にすることができる。表1に、実施した各種試験を示す。図6は、応答時間を5分としてセル電圧の設定に微分電圧勾配を使用する場合の、アノード電位の制御に及ぼす効果を示す。セル電圧の変更の基準は、dVanode/dtに基づいた。換言すると、センサ系は、アノード電圧の変化を時間の関数として測定した。アノード電圧がその設定点範囲(この場合には、-0.29Vから-0.31V)から逸脱すると、セル電圧をdVanode/dtに比例する速度で変更した。換言すると、電圧変化の増分を、アノード電圧の時間変化の傾きによって決めた。よって、傾きが大きいほど、セル電圧の変化も大きい結果となる。この後には、5分間の待ち時間(応答時間)をとることで、アノード電圧を評価し、限界の範囲内の値に戻ったかどうかを判断した。もしそうでなければ、再び傾きに応じてセル電圧の変更をもう一度行った。実施形態では、微分電圧勾配を使用することで、アノード電圧を限界の範囲内に収めるためのセル電圧の線形応答が得られる。この例示的な制御基準を使用して、アノード電圧を、図6に示されるとおり最初の12時間維持管理した。アノード電圧が-0.29Vより正になると、セル電圧は低下し、逆も然りであった。しかし、アノード電圧に影響を与える摂動が、さらに大きい程度にまで、および/または反復するようなやり方で導入されると(図6)、アノード電圧は上限より上から下限より下に振動し始めた。この振動は10時間以上続いた。アノード電圧が限界を行き過ぎて、振動傾向の結果となったので、制御基準では、アノード電圧を目標範囲内に維持管理することができなかった。よって、微分電圧勾配または応答時間のどちらかが不適切であった。この挙動の根本原因を特定するために、いくつかの追加試験を実施した。応答時間が短か過ぎることが見出された。したがって、応答時間を長くして次の試験を実施した。
【0024】
応答時間を10分とした2回目の試験の結果を図7に示す。応答時間は、制御基準の一部として独立に設定可能な二つのパラメータを構成していた。この制御基準は、電圧センサの測定値に、応答を生じさせるために増加方向または減少方向に必要な繰り返しの発生回数を掛けたものから構成された。測定は2~3分ごとに行い、4回連続測定について変化の方向が同一であったならば、セル電圧を変更した。この基準を使用して、設定点の限界からアノード電圧が逸脱した場合には必ずセル電圧を調整した。これは最初の3時間はうまく働いたが、しかしその後は、アノードが限界から外れていた間、4回連続測定の場合の基準を満たさなかった。したがって、アノード電圧は限界から外れたままであった。よって、アノード電位を設定された限界内に保持するこの動作管理は、最適な結果を得るにはさらに見直す必要があった。
【0025】
制御基準を、微分電圧勾配から、アノード電圧と設定点との間の単純な電圧差に変更した。下限と上限の範囲についての異なる応答時間を用いた追加試験もまた行った。アノード電圧と上限および下限との間の単純な電圧差を使用して、応答時間を上端で10分、下端で20分として実施した試験の一つから得られた結果を、図8に示す。この条件により、アノード電圧の振動、例えば5分の応答時間で観測されたものは防止されたが、しかし振動が完全になくなったわけではなかった。しかし、セル電圧の設定に手動で介入することで、アノード電圧は限界内に収まり、さらなる振動は最小限になった。この状態は、さらに手動で介入することなしに、数時間安定であった。
【0026】
系をさらに安定化させるために、アノードを通る液体の流れのモードを変更した。連続した流れの代わりにパルス化された流れを導入した。パルス化は、2秒のON、および2秒のOFFであり、全アノード流を制御した。これにより、本明細書に記載されるとおり、系は、セル電圧以外のパラメータによってもたらされる変化にも反応することが可能になった。図9では、基質供給速度を階段状に変更するだけでなく、3回の異なる機会に基質供給を急激に停止させても、設定された限界からアノード電圧が外れる結果にはならなかった。よって、設定点から限界より上下へのアノード電圧の逸脱を使用することに対応する動作管理は、上限で10分、下限で20分の応答時間の後、セル電圧の10mV変化に対応し、アノード電圧を設定制限の範囲内に制御することができた。本発明はまた、MEC動作を制御する自動化された系を含んでなり、これは、MEC系を制御するよう実装された、電圧および電流に基づくセンサを使用する。本発明の系は、本明細書に開示された論理を自動化して、最適性能に向けたMEC機能の自動化された制御を可能にする。本発明の系は、いかなるサイズのMECまたはMECの積層体の制御を自動化するのにも使用でき、MEC動作の自律的制御を可能にする。応答時間は、MECのサイズ、積層体での複数のMECの使用、または他の生体電気化学系における制御系の使用に応じて変更することができる。本明細書に開示された本発明の方法は、応答因子および動作管理を決定するのに使用することができ、これは、本発明の系を通じて手動によりまたは自動的に完了することができ、このようにして決定された応答因子および動作管理は次いで、本発明の生体電気化学系を自律的に制御するために、系の能動制御部分への入力として使用することができる。
【0027】
よって、本発明の実施形態は、本明細書に記載のプロセスを自動化するハードウェア系およびソフトウェア系をも含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、本発明はまた、観測された電流に基づいて供給速度を調整する第2の制御ループを含んでなる場合がある。いくつかの実施形態では、供給速度は、約0.1g/L-日から約40g/L-日またはそれ以上を含んでなるものとすることができる。特定の実施形態では、供給速度は最大約100g/L-日である。供給速度は、約0.1g/L-日、約0.1g/L-日、約0.2g/L-日、約0.3g/L-日、約0.4g/L-日、約0.5g/L-日、約0.6g/L-日、約0.7g/L-日、約0.8g/L-日、約0.9g/L-日、または約1.0g/L-日とすることができる。実施形態では、供給速度は、約1g/L-日、約2g/L-日、約3g/L-日、約4g/L-日、約5g/L-日、約6g/L-日、約7g/L-日、約8g/L-日、約9g/L-日、または約10g/L-日である。特定の実施形態では、供給速度は、約5g/L-日、約10g/L-日、約15g/L-日、約20g/L-日、約25g/L-日、約30g/L-日、約35g/L-日、約40g/L-日、約45g/L-日、約50g/L-日、約55g/L-日、約60g/L-日、約65g/L-日、約70g/L-日、約75g/L-日、約80g/L-日、約85g/L-日、約90g/L-日、約95g/L-日、約100g/L-日、またはそれらの組み合わせを含んでなる。
【0029】
実施形態では、約1g/L-日のOLRは、約1A/mの電流密度に相当する。同様に、20g/L-日のOLRは、約20A/mの電流密度に相当する可能性がある。実施形態では、ORLと電流密度との間の関係は、使用されるMECの寸法に依存する。
【0030】
各MECは、供給された有機基質を電流に変換するさいに特定の効率を有する可能性がある。この効率と供給流中の有機物濃度とに基づいて、基質供給量を変更する制御方式が本発明者らにより開発されて、いったん所与の電流生成が実現されるとその供給速度の自律的変更が可能になった。設定された量の基質から発生させることのできる電流の理論的な量は、化学的酸素要求量(COD)に基づいて基質供給量から計算することができる。この理論的な量がいったん決まれば、観測された電流を比較することができて、観測された電流の関数として供給速度を維持管理するための効率について上限と下限を設定することができる。これにより、いったん供給タンクが基質で満たされ本発明による制御プログラムが開始されると、目標電流を実現するためのMECの無人動作が可能になった。例示的な一実施形態では、この方式を、図10に示される結果を与えた試験と並行して実施した。系の明確な応答を、173、183、および200時間から観測することができる。基質供給は、これらの各時点で400mA未満の理論電流に対応する値に手動で設定した。電流生成量が高かったので、本発明の制御系は速やかに応答し、供給速度を階段状に増加させて、その供給速度を要求する電流に相当する速度にまで到達させた。このプロセスの間の電流の降下は最小限であった。よって、この例示的な実施形態は、本発明の制御系が自律的に動作して供給速度を変更することで、高電流生成を実現できることを実証している。実施形態では、この制御ループは、アノード電圧制御ループと連携して使用することができ、随意に、各制御ループは独立にまたは連携して機能する。これにより、MEC系における電流への有機廃棄物の変換を、最小限の人為的介入により制御することが可能となり、最適性能に向けた供給速度と電圧の制御が可能になった。
【0031】
本開示の実施形態において導入することができる第2のパラメータは、MECの全体的な機能と性能を制御するために電圧制御と組み合わせて先に使用された、アノード流体のパルス化された流れの使用を含んでなる。流量のパルス化はそれ自体、MEC系の範囲内の構成部分である。これは、以下に説明されるとおり、MECの性能を向上させることができる。図11のパネルAおよびパネルBは、例示的な一実施形態における、一組の複製されたMECを通るパルス化された流れ対連続した流れの効果を示している。この例示的な実施形態では、電流生成は、連続した流れからパルス化された流れに向け50%増加した。MECのアノード・チャンバは、電子、プロトン、および有機分子の分解から生成される二酸化炭素を発生させる微生物を含有する。電極上で成長するバイオフィルム内で生成されたプロトン、二酸化炭素、および部分的に変換された有機分子は、バイオフィルム内に留まり、拡散を通じてゆっくりと外に移動する。アノードを通って流れる液相のパルス化を使用することで、バイオフィルム内外への基質および製造物の移動の向上が可能になり、性能の向上が可能になる。流れのパルス化は、断続的に駆動させることのできるダイヤフラムポンプを使用して、または制御された入口と出口を用いた自然流下によって、実現することができる。実施形態では、パルス化の周波数を、約1Hzに設定することができる。実施形態では、パルス化を、約0.00001Hzから約10Hzまで変動させることができる。パルス化の周波数は、約0.00001Hz、約0.0001Hz、約0.001Hz、約0.01Hz、約0.1Hz、約1Hz、約10Hz、または前述のいずれかの間のいずれかの値を含んでなるものとすることができる。パルスの大きさは、系の完全性に影響を及ぼすことなしにアノードを通って流れることのきる液体の最大流量として定義される設計パラメータである。このパラメータの許容範囲は、約10mL/分から約1000mL/分とすることができる。例えば、性能に関連する可能性のあるパラメータは、空間速度である。本明細書で使用されるとおり、用語「空間速度」は、アノードの断面積に対する流量の比を指すものとすることができる。
【0032】
MECは、アノードとカソードの間に電気的な障壁を収めており、これが、イオンの移動の機能を果たし、微多孔性膜、イオン交換膜、またはそれらの組み合わせを含むことができる。微多孔性膜を含んでなるMECにおいては、液体のパルス化は、膜を横切る分子とイオンの移動という付加的な機能を提供することができる。流れのパルス化によって可能になる多孔性電極およびバイオフィルムの中へのまたはそこから外への基質および製造物の動きに加えて、微多孔性膜は、アノード・チャンバからカソード・チャンバへの中間体およびアノード反応生成物の移動を可能にすることができる。生体電気化学プロセスにおける最終製造物、例えばその一例として水素を発生させるのに必要な後半の反応は、カソードのところで生じる。水素ガスを製造物とする場合には、プロトンがカソード内に存在しなければならない可能性があり、このプロトンを、アノードからカソードに移動させることができる、またはカウンターイオンである水酸化物を、カソードからアノードに移動させることができる。同様に、他の製造物でも、電荷を釣り合わせるために、膜を横切って荷電種またはイオンを移動させる必要がある。微多孔性膜を有するアノード・チャンバに液体をパルス化して入れると、双方向の移動が促進される。そのような双方向の移動の例には、アノードからカソードへのプロトンの移動だけでなく、カソードからアノードへの水酸化物および他のアニオンの移動などが挙げられる。この対流性の移動は、印加電圧に起因して主に拡散を通じて生じる電荷移動に加わるものである。本発明の特定の実施形態におけるパルス化サイクルの間、プロトンの移動は、ポンプがONの場合にアノードからカソードに向かって生じる一方、カウンターイオンの移動は、ポンプがOFFの場合にオフサイクル時間の間、カソードからアノードに向かって生じる。本発明の方法のパルス化の性質により、ポンプがオンの場合にはアノード内の圧力の蓄積、ポンプがオフの場合には圧力の降下が可能になり得る。アノード内で圧力が蓄積すると、液体はカソードに流入する可能性がある一方、アノード内で圧力が降下すると、液体は逆に流れる可能性があり、よって、アノードとカソードの間で対流性の移動が実現される。実施形態では、液体を順方向逆方向に循環させることによって、自然に、そしてアノードとカソードの間の電位差に起因して生じるイオンの拡散に加えて、質量および電荷の移動が向上する。
【0033】
実施形態では、MECにおけるアノード生体触媒の発達段階または始動段階の間、電極上のバイオフィルムとして微生物がアノード内で成長する。パルス化された流れは、発達段階の間、パルスの大きさおよび周波数をゼロから系で許容される最大値まで、経時的に増加させることによって、徐々に実現することができる。アノードにおける生物学的成長は、約10~15%のバイオマス収率を有することができ、経時的にバイオフィルムを構築する。本発明のプロセスの発達段階/始動の間、その蓄積は電流密度の増加を生じる。目標性能が実現されていると、バイオフィルムの蓄積が継続する。目標性能は数週間維持管理することができるが、しかし実施形態では、定期的な維持管理を採用して、死滅したおよび経時的に成長する過剰なバイオフィルムを除去することができる。実施形態では、バイオマスの定期的な除去によって、目標レベルでの継続する最適性能を確実にすることができる。そのような定期的維持管理は、様々な実施形態に存在する場合には、本発明の系によって自動的に促進することができ、これは、規則的な間隔で、または系の決定による所望の頻度に基づいてなされ、この頻度は、本明細書に開示されるパラメータのいずれかに関する、本発明の系による測定に基づくものとすることができる。実施形態では、アノードを横切る圧力降下の(手動または本発明の系による)測定によって、過剰なバイオフィルムの除去が必要となる時期を特定することが可能になる。実施形態では、バイオフィルム除去の指標としてこの方法を補う方法は、OLR、電圧、および電流データを使用した効率および収率の分析を通じて実現することができる。圧力降下測定の間、パルス化された流れに対して一定の流れを使用することができる。この方法は、圧力降下を決定するシリンジポンプおよび圧力センサの使用を含む(図12)。一例として、この方法は、アノード・チャンバへの入口点で配管を接続し、それを通じて液体をシリンジポンプによって特定の速度で特定の時限間、抜き取ることを含む真空試験を含むものとすることができる。そのようなプロセスは、手動で、または実施形態では、系によって所定の間隔で、もしくは本明細書に記載の一つまたは複数の変数の検出に基づく系の最適なタイミングに基づいて自動的に、行うことができる。よって、実施形態では、この目的に好適なポンプを系に動作可能に接続して試験を自動化することができる。過剰なバイオフィルムをアノード・チャンバが有する場合には、シリンジポンプによる液体の抜き取りによって、アノードの入口のところに真空が作り出される。負圧が蓄積するにつれて、この負圧を、インラインで接続された圧力センサを通じて継続的に測定することができる。いったん所定の体積が抜き取られ真空が作り出されたら、シリンジポンプを停止することができて、約5~15分という時限の間、シリンジを平衡圧力に戻すことができる。この時限の終わりに定常圧力に達するまでにかかった時間を測定し、これを使用して圧力降下を決定することができる。約1psi/分より大きい圧力降下は、過剰なバイオフィルムの除去を開始するための少なくとも一つのしきい値を示すと見なされる。圧力降下は定期的に測定され、過剰なバイオフィルムを除去する手順がそのあとに続く。センサを通じたアノード入口のところでの圧力の測定により、圧力降下を測定する頻度に関する情報を得ることができる。この目的に好適な圧力センサを、この目的のために本発明の系に動作可能に接続することができる。圧力降下測定は、1週間から1ヶ月の頻度のどこでも実施することができる。実施形態では、圧力降下測定頻度は、1ヶ月より大きい。圧力降下測定の頻度は、1週間未満である可能性がある。実施形態では、圧力降下測定は、毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、または7日ごとに実行される。圧力降下は、1日に複数回測定される可能性がある。実施形態では、圧力降下は約1時間ごとに測定される。特定の実施形態では、圧力降下は、約1週間に1回、約2週間ごと、約3週間ごと、約4週間ごと、約5週間ごと、約6週間ごと、約7週間ごと、または約8週間ごとに測定される。約3psiの入口圧力変化を、圧力降下を測定する合図とすることができる。
【0034】
過剰なバイオフィルムを除去する例示的な方法を、以下に概説する。
【0035】
以下の記載で、圧力降下測定試験の一実施形態において使用されるソフトウェア、ハードウェア、および動作手順を概説する。しかし、後述のそして本明細書で説明される、装置ならびにハードウェアおよびソフトウェアの系と同一または類似の機能を提供するいかなる数の市販のまたは以下で開発された装置および系をも、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく利用できることは、当業者であれば理解するであろう。
● ソフトウェア
〇 Arduino:CP2_xxxxxx_GUI.ino
〇 Python:MEC GUI Controller_xxxxxx_GDrive.py
● ハードウェア
〇 A4988ステッパ・モータ・ドライバ
〇 Nema 17バイポーラ・ステッパ・モータ
〇 Arduino Mega/Uno/Nano
〇 3D印刷されて組み立てられたシリンジポンプ・フレーム
● 操作
1.シリンジポンプ上の指定されたプラグに9V電源を接続する。
2.印のついたロッカ・スイッチにより方向(押す/引く)を指定し、次いで印のついた電源ロッカ・スイッチを入れる。
3.手動で停止させない限り、シリンジポンプは、CP2_1_GUI.inoにおいて定められた約0.1~10分の設定されたランタイムの間、動作する。自動または手動により動作が終了した時点で、定常圧力に達するまで数分間、圧力センサデータを記録することができる。この時点で、電源スイッチをオフ位置に切り替えることで、誤って操作を続行しないようにすることができる。このデータは、ExperimentData_“date”.txtとして、制御PCがアクセスすることのできる好適なフォルダに保存される。
A.データ収集の2分という時限の間には、電源スイッチをオフ位置に、次いでオン位置に切り替えて戻すことによって、シリンジポンプを再始動させることができる。これは、データ収集を早まって終了させることになり、動作が再び終了すると、新たな2分間が始まることになる。
4.データ収集時限の終了時、または所望の時間が経過したら、シリンジポンプをそのデフォルト位置に戻すことができ、これは、方向を逆にして電源スイッチを切り替えてオンの位置に戻すことによって行う。
5.収集されたデータに区切りを入れることが必要な場合(例:反応装置間での移動)には、現在のデータファイルの名前を変更して、何が記録されたかを表示することによって行うことができる。(例:ExperimentData_xxxxxxx.txtからMEC_X_predeplugging_xxxxxx.txt)これにより、次のデータ収集時限の間、新しいデータファイルが作成されることになる。
6.試験が完了し、シリンジポンプが所望の状態にリセットされたら、9V電源を切断するだけである。
【0036】
アノード・チャンバは、約pH2から約pH4の間、または約pH11~14の間のpHを有する酸性/塩基性緩衝液で満たすことができる。酸性/塩基性緩衝液は、HCl、NaOH、酢酸、または当技術分野で公知のいずれかの他の酸性/塩基性緩衝液を含んでなるものとすることができる。いくつかの実施形態では、酸性/塩基性緩衝液は、約0.1Mから約3Mの濃度を含んでなる。MECにおいて思い切ったpHを使用するのに先立って、既存の流体を除去して脱気水で置き換えることができる。MECを通して水をフラッシングして、それ以前の流体をすべて取り除くことができる。次いで、通常の流れとは逆の方向にアノードを通して緩衝液を流して、アノード内のバイオフィルムと接触させることができる。アノード・チャンバの少なくとも1×体積に等しい体積を、アノードを通して流すことができる。緩衝液をアノード内に保持して、特定の時限の間、再循環させることができる。実施形態では、この特定の時限は、約5分と約60分の間を含んでなる。緩衝液は次いで、通常の流れ方向とは逆の方向にアノードから引き抜かれ、剥れたそして過剰なバイオフィルムと、電極から離れやすくなった浮遊性微生物とを除去することができる。この微生物バイオマスは、不活性化後に廃棄することができ、アノードにはまず水を満たして、残留する細胞性バイオマスを洗浄し、次いで通常のMEC動作に使用できる脱気アノード流体を満たすことができる。本明細書に記載されるとおり、圧力降下を再び測定することができる。酸/塩基をフラッシングする手順は、所望の圧力降下が実現されるまで反復することができる。
【0037】
バイオフィルムの一定の成長を伴う多孔性アノードを通る流れの結果として、過剰なバイオフィルムの頻繁な除去の必要性が生じる可能性がある。MECの別の実施形態では、修正された構成が使用され、この場合にはアノードは、基質の流れと群集中に存在する浮遊性微生物とに対して異なる経路を有し、この経路は、基質の分配の向上と製造物の回収の向上とに向けたフェルト材料を通るパターン化された流れによって提供される。これは、金属製またはポリマー製のインサートを通じてアノード内にチャネルを導入することによって実現することができる。一実施形態では、流れチャネルは、より良好な分配を可能にする蛇行経路を含んでなるものとすることができる。流路は、アノードの多孔性部分、バイオフィルム、およびMECの他の部分への液体の流入および流出を促進し、質量および電荷の全体的に向上した移動を可能にする。このような流れチャネルの二つの例示的なパターンを図3Aおよび3Bに示す。
【0038】
実施形態では、方法は、-0.4Vのアノード電圧で開始することと、事前設定されたまたは系によって決定される最高電圧のどちらかまで電流密度が増加するにつれて、前記電圧を徐々に増加させることと、を含んでなるものとすることができる。本発明の実施形態によれば、本発明の系は、本明細書に記載の方法を使用して、電気活性バイオフィルムの成長への最適な経路をやがてMECが発現することを可能にするよう電圧を自動的に制御する。いくつかの実施形態では、本発明の系は、MECにおいて使用可能な異なるタイプの微生物のデータベースにアクセスし、微生物をそれらの最適な酸化還元電位と相互参照し、最適な最高電圧、開始電圧、電圧上昇率、または他のパラメータを系が自動的に決定できるようにすることを含むことができる。他の実施形態では、系は、そのような微生物のデータベースにアクセスして操作者に推奨を示すことができ、操作者は次いで、すぐ上で言及された本操作パラメータを決定することができる。
【実施例
【0039】
実施例を、本発明のさらに完全な理解を促すために以下に提供する。以下の実施例は、本発明を作製および実施する例示的な態様を示す。しかし、本発明の範囲は、例示のみを目的とした、これらの実施例に開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、それは、同様の結果を得るために代替の方法を利用することができるからである。
【0040】
実施例1-MEC構造
MECユニットは、アノード、カソード、およびこれら二つを分離する膜を含んでなるものとすることができる。一実施形態では、アノードは炭素材料を含んでなる。カソードは、水素を生成する、電極触媒金属メッシュ電極、例えばニッケルまたはステンレス鋼を使用して作製することができる。膜は、イオン交換(IEX)膜または微多孔性膜を含んでなるものとすることができる。微多孔性膜に対してIEX膜の場合には、セルの構造は異なる可能性がある。図1は、IEX膜または微多孔性膜のどちらかを使用して構築できるセルを示す。図2は、セルと、微多孔性膜を用いて可能な対流性の質量および電荷の移動とを示す。膜の構成は、矩形(図1A)または円形(図1B)の断面とすることができる。カソード内のメッシュに、ステンレス鋼プレートまたはロッドなどの集電体を取り付けることができる。アノード内では、集電体は、ステンレス鋼製のメッシュと、導電性接着剤または金属コネクタを通じてこれもまた取り付けられた、炭素材料に面するメッシュに一体に取り付けられたプレートまたはロッドとの組み合わせを含んでなるものとすることができる。アノードの炭素材料は、多孔性炭素のいずれかの形態、例えばフェルト、布、発泡体などとすることができる。このセル設計により、矩形設計においては水平方向に、または円形設計においては半径方向に、炭素材料を横切って液体を流すことが可能になることで、バイオフィルムへの基質供給が可能になる。アノードは、食品廃棄物の分配を向上させるための個別のチャネルを収めることができ、この場合、チャネルは、アノード電極上でバイオフィルムとして成長する電流発生細菌と共生的に働く浮遊性発酵菌の使用も可能になる。
【0041】
実施例2-恒温放置と操作
アノードに微生物培養液を用いて植菌することができ、ついでこれをアノード炭素材料上で成長させて電気活性バイオフィルムを形成させる。栄養媒質を、アノードを通して循環させて、成長を促進するのに必要なミネラル塩、ビタミン、化学物質を供給することができる。この液体には、炭素とエネルギーの源を補うことができ、これは典型的には、水素を製造するために使用される、酢酸塩を補われた原料である。供給物は、食品廃棄物、バイオマス廃棄物、それらの組み合わせ、またはそのような材料に由来する液体を、酢酸塩またはその好適な物質と組み合わせて含んでなるものとすることができる。廃棄物に対する酢酸塩の比は、植菌時から成長段階の終わりまで減少させる。例えば比は、約99%の酢酸塩:約1%の廃棄物から、約1%の酢酸塩:約99%の廃棄物まで変動させることができる。成長期間は、微生物培養液、および目標の水素製造能力に応じて、数日間続く可能性がある。成長段階にある間、アノードからカソードへの液体の移動を減少させて、多孔性アノードの全体を通る液体の流れを、電極チャンバ間の圧力微分の制御を通じて可能にすることができる。
【0042】
実施例3-生物廃棄物を低コストの再生可能水素に変換する微生物電気分解系の非限定的で例示的な適用
1.0 MEC技術の非限定的で例示的な影響
理論に束縛されるのを望むものではないが、本明細書で開示される微生物電気分解技術は、>20L-H2/LReactor-日(L/L-日と称する)製造能力を生成しつつ、MECにおける水素収率を劇的に増加させることによって、生体を用いた経路の商業的展開を加速させることができる。さらに、性能を持続させ2ドル/kgに至る低い製造コストを可能にする、低コストの材料、自動化、および維持管理を使用する設計が、本明細書に記載される。本開示の系および方法は、産業界の協力者と共に実世界での環境において展開することができて、廃棄物管理コストを軽減すると同時に、燃料電池装置で使用するために再生可能な水素源を現場で製造するという操作上の二面的な利点を実証することができる。
【0043】
2.0 非限定的で例示的な技術的説明、革新性、および影響
2.1 非限定的で例示的な関連性および成果
2.1.1 微生物電気分解技術:我々は、一体化された微生物群集を使用する微生物電気分解セル(MEC)技術を開発しており、この技術は、発酵性および外部電子発生部材を組み合わせて、食品廃棄物およびバイオマス有機物を低コストの再生可能な水素に変換するものである。微生物群集に複数の機能性が共存することで、中間体/製造物の除去が促進され、よって複雑な有機物質から高い電子発生率が得られる。微生物群集は、強固で工業的に適切なものとすることができ、揮発性脂肪酸(VFA)、フラン類、およびフェノール類を含む阻害性の化合物に耐性があり、これらの化合物の多くを電子に変換して、水素生成を支援するように進化してきた1~4
【0044】
群集は、廃棄有機物をプロトン、電子、二酸化炭素に分解することができる。プロトンと他の荷電種は、外部電圧の影響下でセパレータを横切って駆動され、プロトンは電子と結合して水素を発生させ(図17)、この水素は、圧力制御を通じて反応装置から除去される。センサおよび電子機器により、操作者の頻繁な介入なしにセルを稼働させることが可能になる。MECは、廃棄物から取り出されるエネルギーに起因して、水の電気分解よりも高い電気的効率で、廃棄物から清浄な水素を製造することができる。設計されたMECは、図17に示されるとおり、生物学と、プロセス制御を通じて質量移動と生体電気化学的制限を管理する電気力学とにおける進歩を組み合わせることができる。
【0045】
2.1.2 非限定的な性能実施例
MEC技術開発に関する以前の仕事では、単一チャンバMEC反応装置を使用することによって課題に対処し、課題を克服するために、ナノ材料を用いた電極とメタン生成菌抑制体を調査してきた。糖類と加水分解物の発酵を使用して20L/L-日という水素製造能力が報告されたが、H収率は低かった。バイオマス廃棄物の流れを高収率で水素に変換する微生物群集の開発に、仕事の重点が置かれてきた。今回の仕事では、スイッチグラス、トウモロコシの茎葉などを含め多様なバイオマス源を、様々な前処理を組み合わせて利用することで、水素製造能力が20L/L-日に達することが示された5~7。仕事では、水素製造に向けたMECの発想が実証されたが、対処すべき残りの技術的課題は、スケールアップ、性能、耐久性、およびシステム/プロセス工学である。
【0046】
20L/L-日またはそれ以上の速度で水素を製造できる、食品廃棄物を利用できる群集が開発された(図18)。この例で使用されたベースライン性能は、48時間の時限で、1日あたり反応装置1リットルあたり20リットル(20L/L-日)という水素の平均製造能力を有する。
【0047】
2.1.3 MEC技術および材料分析における進展の非限定的な実施例
試験された設計およびプロセスパラメータは、アノード厚、アノード材料、膜タイプ、カソード触媒、有機負荷率、COD濃度、反応装置体積、および面積/体積比を含んでなる。累積的に、これは100反応装置-月を超える試験となった。
【0048】
一態様では、我々は、例示的な実施形態を開発するための反応装置、プロセス条件、および制御パラメータを設計することができる。セルの図およびセルの分解図を図19に示す。この系は、カソード内に微生物が入るのを防ぐことのできる微多孔性膜を使用することができるが、しかし双方向にイオンを移動させることができ、この特徴によってこの設計は電荷移動の制限を克服することができる。このセルは、カソードのところで水素を発生させることができる。実施形態では、このセルはカソードのところで最高99.9%純度の水素を発生させる。理論に束縛されるのを望むものではないが、Hフラッシュを通じた窒素成分の除去を通じたさらなる精製が存在する。個々のセルを用いた研究では、大学のカフェテリアおよびレストランの二つの供給源に由来する食品廃棄物を使用した。食品廃棄物は、さまざまな野菜および果物を含んでなる調理済みカットを含んでなるものとすることができる。供給源は多様なものとすることができるので、広範な特異性を伴う微生物群集を発達させる。
【0049】
2.1.4 技術経済的分析の非限定的な実施例
コスト削減の戦略は、市販の反応装置材料の使用、および製造業者との協力による先端材料の開発を基本にすることができる。我々は、世界中の複数の業者のデータベースを開発し、炭素電極、膜、およびニッケル系のカソード材料を含む、業者の材料を試験した。これによって、MEC反応装置のコストを下げることができる。
【0050】
2.1.5 スケールアップの非限定的な実施例
経験済みの過電位は、系の性能を規定することができ、また、系の制限を定めるのに使用することができる。一実施形態では、我々は、その制限を特定するために、インピーダンス分析を通じた第一原理に基づく手法を用いている。電気化学インピーダンス分光法は、MEC反応装置内に存在する生体電気化学系の青写真を提供することのできる、そして個々のステップのインピーダンスの詳細を得ることのできるツールである。これらの構成要素は、抵抗、キャパシタンス、インダクタンス、およびワールブルグ(Warburg)拡散を含む8、9。我々は、我々の反応装置の詳細な分析を実行して、拡散/質量移動、電荷移動、酸化還元反応速度、および電子移動に寄与する可能性のあるこれらの構成要素のそれぞれを特定しており、スケールアップを理解するためにこの分析を使用している。商業化のために個々のセルのサイズを特定することは、スケールアップにおける最初のステップである。我々の手法は、2ステップのプロセスを用いており、この場合には我々は、セルサイズを決定し、次いで積層体およびモジュールを設計している。積層体内で使用する個々のセルのサイズを決定するために、我々は、5×スケールアップの戦略を使用することができる。反応装置のスケールアップには、鍵となるスケールアップパラメータを理解するために、段階的なスケールの増大が必要である。各段階でサイズを5倍に増加させることによって、これらのパラメータを特定することが可能になる(図20)。
【0051】
2.2 実施の非限定的な実施例
2.2.1.インピーダンス分析による非限定的な例示的結果
三つの異なるサイズでの反応装置の例示的なEIS分析から、セルの全体的なインピーダンスが、スケールの増大に伴って減少することが見いだされた(16mLから400mLのセルサイズの場合には20から1オーム)。我々は、全インピーダンスを主要なパラメータとして使用して、市販の系に使用するセルサイズを特定することができる。この分析は、系の長期安定性評価にも影響し得るが、それは、時間およびバイオフィルムの成長に伴って、または質量および電荷の移動の変化に伴って、過電位が変化し得るからである。
【0052】
2.2.2.複雑なバイオ廃棄物からの水素収率を向上させる非限定的な実施例
バイオマスまたは廃棄物からの水素の収率に制限のあることが、MEC技術の商業化におけるハードルであると特定された。我々は、多機能生体触媒の開発とプロセス向上からなる組み合わせ手法により、この制限に対処することができる。水素の収率は、高負荷条件の使用と、発酵可能な基質からの電子のより低い収率とに起因して制限されてきた。我々の手法は、別個の発酵プロセスと外部電子発生プロセスのステップを使用するのではなく、それらを単一の反応装置内で一体化することができる。これによって、VFAを発生させることが可能になり、次いでこれを、電子を発生させる外部電子発生体が同時に使用することが可能になることで、VFAの蓄積が防がれ、バイオマス有機物からの電子収率を増加させる正のフィードバック・ループが得られる。我々の手法が対処する第二の制限は、高い変換率を実現するために、発酵装置内で基質バイオマスまたは廃棄物を高濃度にする必要性である。高濃度を使用することで、質量移動の課題、および、理論に束縛されるのを望むものではないが生化学的速度論の制限を克服することができる。この制限は、フロースルー反応装置の設計と、基質送達方法の修正とを用いると同時に、より低濃度で高い変換率を可能にする低Kmの微生物を濃集させることによって、対処することができる。電極繊維の多孔性マトリクスを通る流れは、生体触媒の成長を支える反応装置内の質量移動を緩和することができる。16~400mLのMECにおいて1日当たり反応装置に対して4~30g-COD/Lの範囲の有機負荷率で収率を大幅に向上させる可能性を示すフロースルーの連続送達モードを使用する我々の反応装置において、低基質濃度を使用して、水素製造能力(2.5~27.5L/L-日)の範囲で高い水素収率(50~70%)を実現する能力が達成された。
【0053】
2.3 限定的で例示的な制御系
2.3.1 非限定的で例示的な生体電気化学プロセス制御
我々は、持続的な性能のためのフィードバック・ループとともに、電圧、供給速度、ならびにアノードおよびカソードを通る流れを管理できる、センサを用いたプロセス制御系を開発した。これはさらに修正することができる。これにより、一度に数日から数週間、操作者なしでのMEC積層体プロトタイプの自律的動作を可能にすることができる。
【0054】
2.3.2 MEC耐久性の非限定的な実施例
MEC性能を数ヶ月の動作にわたって維持管理する能力は重要であり得る。これを実現するために、定期的で非侵入的な維持管理のための超音波混合法が開発され、MEC一体型ソニケータが開発された。
【0055】
2.3.3 影響の非限定的な実施例
MECは、食品廃棄物に対するウィン・ウィンの解決策を提供することができる。クリーンでグリーンな輸送に必要な、より高価値の水素にアップグレードすることができる。世界中で約33%の食品が廃棄されている。理論に束縛されるのを望むものではないが、本明細書の組成物、装置、および方法は、食品廃棄物および水素の使用に関連する排出の削減、エネルギー安全保障の強化、災害に対する緊急時の備え、および米国の競争力の国際的な回復を提供することができる。
【0056】
微生物電気分解などの新技術の開発は、商業的応用を成功させる結果を得るために、製造物に幾層にも組み込まれる革新性を必要とする可能性がある。技術的革新性をビジネス的革新性と組み合わせることで、市場の要求に基づいた問題に対処することができる。有機廃棄物の転換への要求がある(例えば、カリフォルニア州のSB1383、ニューヨーク州のS2995などの規制)。我々の革新性は、運搬業者および廃棄物管理者が廃棄物の体積と重量を現場で75%も削減することによって、州や地域の指令を満たすことが可能になるようにすることができる。これは、液体の分離を通じそしてこれを水素発生に使用して実現することができ、廃棄物の運搬コストを削減すると同時に、堆肥化にさらに好適な固形副生成物を発生させる。全体として、水素製造と副生成物転換へのこの循環型手法は、輸送の削減、ごみ埋立地からの排出の低減、化石燃料使用の置き換えを通じて、ライフサイクルにわたる負の炭素経路を作り出すことができ、これにより、-82kgのCO/1kgの製造されたHを可能とし、市場価値のある持続可能で付加的な利益を顧客にもたらす。この手法は、現在のインフラに適合させることができ、我々が提供できる解決策を市場に急速に浸透させることを可能にする。
【0057】
3.1.中核MEC技術のスケールアップ
MECにおける水素の製造は、直列または並列に行われるステップに依存する可能性があり、これは、複雑な有機物の分解から水素の発生および回収にわたり得る。制限するパラメータを特定することは、系の大規模設計に役立つ可能性がある。図21は、質量移動、電荷移動、酸化還元/生体/化学反応を含んでなる、非限定的で例示的なステップを示す。今回の仕事は、これらのステップのインピーダンスの特性評価、ならびにこれらを廃棄有機物の変換および水素製造の速度に関連付けることを含み得る。この系は、高い水素製造能力だけでなく高速始動に向けて設計することができる。理論に束縛されるのを望むものではないが、我々はEISを使用して、図21に示されるとおりの等価回路モデル(ECM)を使用する各ステップのインピーダンスを決定することができる。このモデルの複雑さを、系に我々が加える変更を表現するように改めることができる。我々は、約80mLから約10Lまでの範囲にわたり得るMECについてECMパラメータを決定することができる。以前に開発された、Arduinoを用いた制御系は、プリント回路基板に転換されることになる。理論に束縛されるのを望むものではないが、このボードは、120Vから1.8Vに電圧を下げる電源管理系と、セルおよびアノードの電圧、電流、圧力、液面、ならびにpHをモニタリングするセンサと、アノード内への供給速度、および再循環ポンプの液体流量を調整する制御系とを含むものとすることができる。以前に開発された専売のプログラムと関連ハードウェアは、アップグレードすることで、基質供給速度、水素の収集、および外部タンクへのこの水素の移動の調節を伴う、電流および電圧のフィードバックを使用して、自律的に実行することができる。理論に束縛されるのを望むものではないが、制御系は、現場や遠隔からプロセスを監視するユーザーインタフェースパネルを備えた積層体および立方メートルのユニット上に設置することができる。個々のセルについて、非限定的で例示的な性能指標と技術経済的目標を図22に示す。この取り組みは、水素の製造能力および収率を、それぞれ20から50L/L-日および57から69%に向上させて商業的実現可能性を示すことに、焦点を当てている。組み立てられたモジュールの最初の実証について目標(25L/L-日および40%の収率)が選択されている。
【0058】
3.2.持続的動作の非限定的な実施例
嫌気性バイオフィルム成長については、~12%の微生物収率が可能であり、これには、持続的な性能を可能にするためのバイオフィルムの維持管理が必要である可能性がある。理論に束縛されるのを望むものではないが、積層体と一体化された超音波処理を使用する電気機械的手法を使用して、過剰なバイオフィルムの定期的な間隔での除去を管理することができる。図13Dは、例示的な実施形態における超音波処理を通じて過剰なバイオフィルムを除去する効果から得られた結果を示す。図13Eは、超音波処理の前後のMECの電気化学インピーダンス分光法(EIS)の結果を示す。
【0059】
目標の製造能力でMECを持続的に動作させるために、方法を標準化しバイオフィルムの再成長を研究するための調査を実行することができる。本明細書において開発されたセルは、30日間動作させてバイオフィルム/バイオマス収率の割合を決定し、次いでバイオフィルム維持管理プロトコルを実施することができ、このプロトコルは、約90日間の連続動作を実証するためにサイクル中に動作させる。
【0060】
3.3.パイロットユニットを現場で実証する非限定的な実施例
理論に束縛されるのを望むものではないが、実現可能な最小の製造物であることを示す1mのモジュールを開発することができる。理論に束縛されるのを望むものではないが、既存のプロトタイプ(図23)および継続する試験に基づいて系の様々な構成部分を構築して、モジュールを得ることができる。我々は、食品廃棄物源とのやりとり、液体の抽出、および水素へのこの液体の変換のみならず、製造された水素の利用を含めることができ、水素の品質と結果としての排出の両方を確認する。系は、廃棄物を捨てるホッパ、プレス機、MECモジュール、およびコンプレッサを含むことができる(図24)。系は移動式とすることができ、フロントエンドとバックエンドの一体化された構成部分を含んでなるものとすることができて、原料の食品廃棄物を99.999%の純水素に変換する。
【0061】
実施例4-実施例の概要-生体電気化学プロセス制御
目的
微生物電気分解10および他の生体電気化学系の商業的に適切な性能および安定な動作を可能にする生体電気化学プロセスを制御する方法を開発し、実証する。
【0062】
問題の記載
現在の生体電気化学系は、概してバッチモード下で動作させており、ポテンショスタットまたはかさばる電源を使用して、給電および電圧制御を行うとともに電流およびその他の電気化学的パラメータをモニタリングしている1、2、3、4、5。この技術の工業的応用には、これらの系のコストとサイズを最小化するのみならず、高い電流密度と変換効率を維持管理するプロセス制御戦略を確立する必要がある。生体電気化学系においては、水素やその他の燃料、および化学物質などの製造物を効果的に発生させるには厄介な、三つの問題がある。
低い電流密度
不十分な電荷移動
経時的な性能損失
【0063】
解決策
生体電気化学プロセスにおける例示的なパラメータには、印加電圧、電流密度、製造能力、アノードクーロン効率、カソード効率、および電気変換効率などが挙げられる7、11図14は、本開示の実施形態の下で水素を発生させるのに使用される例示的な装置の写真を示す。
【0064】
1.連続動作する生体電気化学的制御を通じた高い電流密度。
エレクトロアクティブ社(Electro-Active)は、セル電圧および有機負荷率の同時制御を含んでなる生体電気化学プロセス制御によって、連続プロセスにおいて高製造効率のみならず商業的実現可能性に必要である高い水素製造能力(1日当たり反応装置体積1リットル当たり15リットルより多量のH)を実現し維持管理する方法を開発した。アノード電圧を-0.3から-0.45Vの間に維持管理することで、高い電流密度が可能になり、高い水素製造能力が可能になる。
【0065】
2.電荷バランスを促進するための正弦波形のまたは振動する電圧の使用
水素製造には、カソードでのプロトン、または高い水素製造速度を維持管理するための効果的な電荷バランシングが必要である。正弦波電圧または振動電圧の使用により、電荷移動が向上し、高い水素製造速度が得られる。
【0066】
3.安定な長期水素製造のための電気活性バイオフィルムの維持管理。
アノードにおける微生物バイオフィルムの成長は、アノードにおける過剰なバイオマスにつながる可能性があることで、質量移動、高い圧力降下、副生成物の発生および交互の吸い込みへの電子の損失、電荷移動の課題、および生体電気化学系の全体的な性能の損失を伴う問題につながる。エレクトロアクティブ社は、反応装置から電極を取り外すことなしに過剰なバイオフィルムを除去するプロセスを開発した。これは、バイオアノードのpH変化を通じて、そして電気活性バイオフィルムを収容する小型のアノード構造からの過剰な細胞の剥離または除去につながるバイオフィルム内の細胞外重合体層の分解を通じて、行うことができる。実施形態では、これは、変化させたpHにバイオフィルムを特定の時限の間さらすこと、次いで、アノードを通して液体試薬をフラッシングして、高流量と高性能を生体電気化学系が回復するようにすることが関与する。
【0067】
結果
1.アノード電圧を、Ag/AgCl基準電極に対して-0.3から-0.45Vの間に維持管理するプロセス制御法を使用した結果、高変換効率を可能にしつつ、高い電流密度および水素製造能力、ならびにその連続製造が実現された。アノードを約-0.4V、さらに一般的には-0.3から-0.45Vの範囲に維持管理することによって、>15L/L-日の水素製造能力が得られた。このためには、特定の有機負荷率を同時に実現して高い電流密度およびH製造能力を維持管理する必要がある。図15は、10A/mより高い電流密度に対応する、>20mAの大電流を実現した結果を示す。図16は、約-0.4V以下に維持管理された、対応するアノード電圧を示す(基質供給ポンプの変更の間に時折生じるスパイクを除く)。
【0068】
2.振動するまたは正弦波形の電圧を使用する結果、高電流と低電流が交互に生じる。これにより、振動するまたは正弦波形の電圧の印加に続いて、高い電流密度の持続につながる電荷バランシング、および高い水素製造能力が可能になる。
【0069】
3.pHを変化させる試薬の使用、および引き続くフラッシングにより、アノードを通じた圧力降下が減少する結果になることが示された。これは、高い質量移動と電荷移動の維持管理に役立ち、この手順の定期的な適用を通じて長期にわたって水素の一貫した製造につながる。
【0070】
結論
三つの制御手順は、異なるパラメータ値の様々な入れ替えおよび組合せを通じて、三つの主請求項および考えられる追加の副請求項を得ることができるという結果になる。
【0071】
実施例5
過剰なバイオフィルムを除去する方法が開発された。これは、一体型MEC-ソニケータを含むものとすることができて、反応装置自体におけるバイオフィルムの非侵襲的な機械的破壊を促進する。一体化された系の二つの構成を図13に示す。パネルAでは、ソニケータは、MECの底部に配置することができる一方、パネルCでは、ソニケータは、MECアノードの上部に配置するように設計することができる。パネルBは、一体型MEC-ソニケータを示す。ソニケータの定期的な初期化の結果、過剰なバイオフィルムをアノードから除去することができ、MECからは液体の流れを通じて除去することができる。これにより、数ヶ月から数年にわたり高電流を維持管理することができる、MECの長期的な最適性能を可能することができる。
【0072】
本明細書で引用された参考文献
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9 Borole,A.P.& Lewis,A.J.Proton transfer in microbial electrolysis cells.Sustainable Energy & Fuels 1,725(2017).
【0081】
10 Borole,A.P.Microbial Fuel Cells and Microbial Electrolyzers.The Electrochemical Society - Interface 24,55-59(2015).
【0082】
11 Lewis,A.J.& Borole,A.P.Understanding the impact of flow rate and recycle on the conversion of a complex biorefinery stream using a flow-through microbial electrolysis cell.Biochemical Engineering Journal 116,95-104(2016).
【0083】
均等物
当業者であれば、本明細書に記載された特定の物質および手順に対する多数の均等物を、日常的な実験以上のことを行わずに認識する、または確認できるであろう。そのような均等物は、本発明の範囲内であると見なされ、添付の代表的な請求項のサンプルの対象範囲内にある。
【産業上の利用可能性】
【0084】
今日、電気、具体的にはクリーンエネルギーの需要は世界で高く急成長している。開示された発明は、有機または無機分子を電気および水素に変換できる生体電気化学系(BES)を準備および制御する方法および系を含む。本明細書で開示される革新性は、操作者の頻繁な介入なしにBESを商業規模で使用することを可能にする方法および系を含んでおり、よって、そのようなエネルギーセルを膨大な数の住宅、商業、および/または工業の用途で使用することが可能になる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A1
図5A2
図5A3
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A-C】
図13D
図13E
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【国際調査報告】