(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】一次産業プラントの運転に関する最適化方法
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20240403BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20240403BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G05B13/02 J
B21B37/00 220
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561838
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2022057639
(87)【国際公開番号】W WO2022214317
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515153152
【氏名又は名称】プライメタルズ・テクノロジーズ・オーストリア・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル・サットラー
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルト・ホーヘンビッヒラー
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・クラデル
(72)【発明者】
【氏名】ソンジャ・ストラッセール
【テーマコード(参考)】
3C100
4E124
5H004
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA57
3C100AA59
3C100BB13
3C100BB15
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3C100EE10
4E124AA01
4E124AA02
4E124BB03
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4E124BB08
5H004GA34
5H004GA36
5H004GB01
5H004GB03
5H004HA16
5H004JA13
5H004JA23
5H004JA29
5H004KC02
5H004KC03
5H004KC04
(57)【要約】
素材産業のプラント(1)を用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行される。プラントの運転を最適化するために、コンピュータ(9)が、技術プロセスの第1の目標変数(Z1)に関する規定の基準値(R)に基づいて、技術プロセスの第1の実際変数(I1)に関する第1の期待値(E1)を決定し、これによって第1の目標変数(Z1)が可能な限り基準値(R)に到達する。次に、コンピュータは、技術プロセスの個々の周期に関して、第1の目標変数(Z1)と第2の目標変数(Z2)と前記第1の実際変数(I1)と第2の実際変数(I2)とを含む、多くのデータ記録(D)から、第1の実際変数(I1)が第1の期待値(E1)から可能な限り小さい距離を有する所定の数(n2)のデータ記録(D)を暫定的に選択する。次に、コンピュータは、規定の基準値(R)及び第1の期待値(E1)に基づいて、第2の実際変数(I2)に関する第2の期待値(E2)を決定する。暫定的に選択されたデータ記録(D)から、コンピュータは、第1の実際変数(I1)及び第2の実際変数(I2)が第1の期待値(E1)及び第2の期待値(E2)から可能な限り小さい距離を有する所定の第2の数(n2)のデータ記録(D)を最終的に選択する。当該データ記録(D)に基づいて、コンピュータ(9)は、実行されるべき技術プロセスの周期に関して、第2の目標変数(Z2)の設定値(S)を決定し、これによって、第1の目標変数(Z1)が可能な限り基準値(R)に到達する。コンピュータ(9)は、決定された設定値(S)を、プラント(1)のオペレータ(13)又は制御装置(2)に出力する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材産業のプラント(1)、特に鉄鋼産業又はアルミニウム産業のプラントの運転に関して、コンピュータ(9)によって実行される最適化方法であって、前記プラントを用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行され、
a)前記コンピュータ(9)が、前記プラント(1)及び前記技術プロセスのモデル(14)を使用して、前記技術プロセスの第1の目標変数(Z1)に関する規定の基準値(R)に基づいて、前記技術プロセスの第1の実際変数(I1)に関する第1の期待値(E1)を決定し、これによって前記第1の目標変数(Z1)が可能な限り前記基準値(R)に到達し、
b)前記コンピュータ(9)が、前記技術プロセスの個々の周期に関して、前記第1の目標変数(Z1)と第2の目標変数(Z2)と前記第1の実際変数(I1)と第2の実際変数(I2)とを含む、前記コンピュータ(9)に知られている複数のデータ記録(D)から、所定の第1の距離基準に従って、前記第1の実際変数(I1)が前記第1の期待値(E1)から可能な限り小さい距離を有する所定の第1の数(n1)のデータ記録(D)を暫定的に選択し、
c)前記第1の目標変数(Z1)が前記第2の目標変数(Z2)から分離しており、前記第1の実際変数(I1)が前記第2の実際変数(I2)から分離しており、
d)前記コンピュータ(9)が、前記第1の目標変数(Z1)に関する前記規定の基準値(R)及び前記第1の期待値(E1)に基づいて、前記第2の実際変数(I2)に関する第2の期待値(E2)を決定し、
e)前記コンピュータ(9)が、暫定的に選択された前記データ記録(D)から、所定の第2の距離基準に従って、前記第1の実際変数(I1)及び前記第2の実際変数(I2)が前記第1の期待値(E1)及び前記第2の期待値(E2)から可能な限り小さい距離を有する所定の第2の数(n2)のデータ記録(D)を最終的に選択し、
f)前記コンピュータ(9)が、最終的に選択された前記データ記録(D)に基づいて、実行されるべき前記技術プロセスの周期に関して、前記第2の目標変数(Z2)の設定値(S)を決定し、これによって、前記第1の目標変数(Z1)が可能な限り前記基準値(R)に到達し、
g)前記コンピュータ(9)が、決定された前記設定値(S)を、素材産業の前記プラント(1)のオペレータ(13)又は制御装置(2)に出力する最適化方法。
【請求項2】
前記コンピュータ(9)が、前記基準値(R)を前記オペレータ(13)から受信することを特徴とする、請求項1に記載の最適化方法。
【請求項3】
前記コンピュータ(9)がまず前記オペレータ(13)から前記第1の目標変数(Z1)の選択を受信し、その後初めて前記オペレータ(13)から前記第1の目標変数(Z1)に関する前記基準値(R)を受信する、請求項2に記載の最適化方法。
【請求項4】
前記コンピュータ(9)が、前記第1の目標変数(Z1)の選択の受信と前記第1の目標変数(Z1)に関する前記基準値(R)の受信との間に、前記データ記録(D)に基づいて、前記第1の目標変数(Z1)に関して生じる値範囲を決定し、生じた前記値範囲を前記オペレータ(13)に出力することを特徴とする、請求項3に記載の最適化方法。
【請求項5】
前記コンピュータ(9)が、少なくとも前記第1の数(n1)のデータ記録(D)の前記第1の実際変数(I1)を前記オペレータ(13)に出力し、かつ、前記コンピュータ(9)が、前記出力に基づく前記オペレータ(13)の指示に基づいて、前記第1の数(n1)のデータ記録(D)から個々のデータ記録(D)を削除し、したがって、削除された前記データ記録(D)は、最終的に選択される前記データ記録(D)の決定の際に考慮されないままであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の最適化方法。
【請求項6】
前記コンピュータ(9)がステップe)の初回の実行後に、ステップb)からe)までを再度実行し、前記コンピュータ(9)が、すでに行われたステップe)の実行の際に前記第1の期待値(E1)からの距離が最小であった前記第2の数(n2)のデータ記録(D)の内のデータ記録(D)の、前記第1の期待値(E1)としての前記第1の実際変数(I1)に基づいて、ステップb)からe)を再度実行することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の最適化方法。
【請求項7】
コンピュータ(9)によって処理可能であるマシンコード(12)を含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータ(9)による前記マシンコード(12)の処理は、前記コンピュータ(9)が請求項1から6のいずれか一項に記載の最適化方法を実行することをもたらすコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のコンピュータプログラム(11)でプログラミングされたコンピュータであって、請求項1から6のいずれか一項に記載の最適化方法を動作中に実行するコンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材産業のプラント、特に鉄鋼産業又はアルミニウム産業のプラントの運転に関して、コンピュータによって実行される最適化方法に基づいており、プラントを用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行される。素材産業のプラントは、例えば製鋼所若しくは圧延工場、又は製鋼所若しくは圧延工場の一部であり得る。
【背景技術】
【0002】
本発明はさらに、コンピュータによって処理可能であるマシンコードを含むコンピュータプログラムに基づいており、コンピュータによるマシンコードの処理は、コンピュータに当該最適化方法を実行させる。
【0003】
本発明はさらに、当該コンピュータプログラムでプログラミングされたコンピュータに基づいており、当該コンピュータは、当該最適化方法を動作中に実行する。
【0004】
非特許文献1からは、プロセスにおける主要目標の達成を最適化するためのデータの統計分析及び数理解析が知られている。
【0005】
非特許文献2からは、コンピュータによって実行されるプラントの最適化方法が知られており、当該プラントを用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行される。当該最適化方法では、コンピュータは、プラント及び技術プロセスのモデルを使用して、技術プロセスの目標変数に関する規定の基準値に基づいて、技術プロセスの実際変数に関する期待値を決定し、これによって、目標変数は可能な限り基準値に到達する。次に、コンピュータは、技術プロセスの個々のサイクルに関する目標変数と実際変数とを含んでいる、コンピュータに知られている多数のデータ記録から、所定の距離基準に従って、実際変数が期待値に対して可能な限り小さい距離を有している数のデータ記録を選択する。選択されたデータ記録に基づいて、コンピュータは、技術プロセスの実行されるべき周期に関する設定値を決定し、これによって、目標変数は可能な限り基準値に到達する。コンピュータは、決定された設定値をプラントのオペレータ又は制御装置に出力する。プラントは化学工業プラントである。
【0006】
非特許文献3及び非特許文献4からは、自動化された方法で、プラントの運転に関して質的に高い価値を有する設定値を決定するための手順が知られており、当該プラントを用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行される。当該プラントは、鉄鋼又はアルミニウム産業のプラントである。
【0007】
素材産業の周期的に実行されるプロセス、特に鉄鋼業におけるプロセス、例えば鉄の製錬、鉄鋼生産、金属(特に鉄鋼又はアルミニウム)の鋳造及び圧延などのプロセスにおけるパフォーマンスは、同一のプロセス制御が行われているはずにもかかわらず、ほとんど一定ではない。多くの場合、周期ごとに著しい差異が生じることさえある。これによって、主要目標(KPI)の達成にも著しい差異が生じることが多い。このような主要目標の典型的な例としては、生産性の最大化、製品品質の最適化、工程費用の最小化、単位当たりのエネルギー消費量の最小化(例えば材料1トン当たり)などがある。さらに、パフォーマンスは、プラントの運転方法、例えば投入材料の量及び種類(例えば、鉄鋼生産の場合は化学組成、圧延の場合は投入寸法及び温度分布)、プロセス制御、さらにプラントの状態及びメンテナンスの状態(例えば、プラントの従属部品の摩耗及び故障)にも非常に大きく左右される。
【0008】
プロセスの最適化を試みる際、当業者及びプロセスエンジニアは、常に多くのパラメータ及び影響変数を考慮しなければならない。この際、影響変数の多くは、相反するものであり、すなわち、正反対の結果をもたらす。このような最適化タスクの多次元性は、当業者にも部分的又は完全に過剰な要求をもたらす可能性があり、結果として、素材産業のプラントの準最適の運転のみが達成されることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“Data Analytics for Manufacturing Systems - A Data-Driven Approach for Process Optimization” by Florian Ungermann et al., Proceedings 52nd CIRP Conference on Manufacturing Systems (2019), pages 369 to 374.
【非特許文献2】“Adaptive generalized predictive control based on JITL technique” by Yasuki Kansha et al., Journal of Process Control 19 (2009), pages 1067 to 1072.
【非特許文献3】“Artificial Intelligence Services in Steel Production - On Premises and in the Cloud” by Sonja Strasser et al., AISTech 2020 - Proceedings of the Iron and Steel Technology Conference (2019), pages 1936 to 1944.
【非特許文献4】“A Hybrid Data-Based and Model-Based Approach to Process Monitoring and Control in Sheet Metal Forming” by Sravan Tatipala et al., Processes 2020, Volume 8, pages 89 to 99.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、素材産業のプラントの最適な運転又は少なくともほぼ最適な運転を効率的な方法で達成する可能性を生み出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本課題は、請求項1の特徴を有する最適化方法によって解決される。最適化方法の有利な態様は、従属請求項2から6の対象である。
【0012】
本発明によると、素材産業のプラント、特に鉄鋼産業又はアルミニウム産業のプラントの運転に関して、コンピュータによって実行される最適化方法が作成され、素材産業のプラントを用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行される。当該最適化方法の範囲内で、
a)コンピュータが、プラント及び技術プロセスのモデルを使用して、技術プロセスの第1の目標変数に関する規定の基準値に基づいて、技術プロセスの第1の実際変数に関する第1の期待値を決定し、これによって第1の目標変数が可能な限り基準値に到達すること、
b)コンピュータが、技術プロセスの個々の周期に関して、第1の目標変数と第2の目標変数と第1の実際変数と第2の実際変数とを含む、コンピュータに知られている多数のデータ記録から、所定の第1の距離基準に従って、第1の実際変数が第1の期待値に対して可能な限り小さい距離を有する所定の第1の数のデータ記録を暫定的に選択すること、
c)第1の目標変数が第2の目標変数から分離しており、第1の実際変数が第2の実際変数から分離していること、
d)コンピュータが、第1の目標変数に関する規定の基準値及び第1の期待値に基づいて、第2の実際変数に関する第2の期待値を決定すること、
e)コンピュータが、暫定的に選択されたデータ記録から、第1の実際変数及び第2の実際変数が、第2の距離基準に従って、第1の期待値及び第2の期待値に対して可能な限り小さい距離を有する所定の第2の数のデータ記録を最終的に選択すること、
f)コンピュータが、最終的に選択されたデータ記録に基づいて、実行されるべき技術プロセスの周期に関して、第2の目標変数の設定値を決定し、これによって、第1の目標変数が可能な限り基準値に到達すること、及び
g)コンピュータが、決定された設定値を、素材産業のプラントのオペレータ又は制御装置に出力すること、が規定されている。
【0013】
すでに述べたように、素材産業のプラントは、特に製鋼所、圧延工場、又は当該プラントの一部であり得る。
【0014】
多くの場合、素材産業のプラントでは、バッチ処理が実施される。このような場合、「周期」という概念は自明である。しかしまた、素材産業のプラントで、連続的又は準連続的なプロセスが実施される場合も多い。この場合、「周期」という概念は、過去に関する限り、対応する目標変数及び実際値を有するデータ記録が存在している、時間的に関連する各セクションとして理解される。未来に関する限りでは、「周期」という概念は、基準値及び設定値が決定される、時間的に関連する期間として理解される。
【0015】
一般的に、記載された種類の何千、何万、又は何十万のデータ記録がコンピュータに知られている。当該データ記録は履歴データ記録である。つまり、当該データ記録は、素材産業のプラントが、過去に実施された特定の周期において、どのように運転されたかをそれぞれ表している。データプール、すなわちデータ記録の全体は、静的又は動的であってよい。データプールが動的である場合、一方で新しいデータ記録をデータプールに追加し、他方で古いデータ記録をデータプールから削除することができる。
【0016】
技術プロセスの目標変数とは、技術プロセスの各周期において可能な限り達成されるべき変数である。プラントがアーク炉であり、技術プロセスが銑鉄及び/又はスクラップを溶融するための溶融プロセスであり、後続の例えば脱炭による精錬を伴うものである場合、目標変数は、例えば銑鉄/スクラップの溶融に必要な電気エネルギー又は対応する費用、生成される溶融物の最終温度、生成される溶融物の化学組成、各周期のプロセス持続時間、各周期で生じる摩耗などであり得る。当該目標変数は、直接検出可能な変数(1つの例:溶融物の温度)又は誘導変数(2つの例:1つの周期において生産される鋼の量を生産に要する時間で割った商、又は生産される鋼1トンあたりに必要な電気エネルギー)であってよい。
【0017】
技術プロセスの実際変数は、多様な性質を有し得る。実際変数とは、例えば技術プロセスが実施されるプラントの状態データ、投入材料、継続時間若しくは開始時点若しくは/又は終了時点を含む運転状態、又は技術プロセスの結果などであり得る。プラントがアーク炉であり、技術プロセスが銑鉄/スクラップを溶融するための溶融プロセスであり、後続の例えば脱炭による精錬を伴うものである場合、実際変数は、例えばアーク炉の摩耗状態(例えばライニングの厚さ又は電極消耗)、アーク炉に供給される投入材料の量(例えばトン単位)及び種類(銑鉄、スクラップ、石灰又はドロマイトなどの融剤、酸素など)、様々な投入材料がアーク炉に供給される時点又は期間、時間の関数としての溶融物の温度、及び時間の関数としての必要とされる電流であり得る。さらなる実際変数は、目標変数に対応する実際変数であってよい。別のあり得る実際変数は、最後の保守若しくは点検の時点、又は、例えば最後の保守/点検以降に実行された周期の数のような、比較可能な変数であってよい。これらのレベル2の変数に加えて、実際変数は、少なくとも部分的に、レベル1の変数の時間的経過、すなわちプラントの制御器の内少なくともいくつかの制御器の実際変数及び/又は制御変数の時間的経過も含んでいる。アーク炉の場合、これは例えば電極の位置決め、電極電圧及び電極電流に関する制御器であり得る。すでに実施された技術プロセスの周期に関して、実際変数は、目標変数も含み得る。なぜなら、目標変数は、このすでに実施された周期の範囲内で、純粋に事実に基づいて設定されているからである。単純な例としては、データ記録の実際変数1=電極位置の実際値の時間的経過であり、同じデータ記録の実際変数2=電極位置の設定値の時間的経過である。
【0018】
データ記録が、目標変数及び/又は実際変数の相関もさらに含んでいる可能性がある。この場合、相関はコンピュータによって決定され得る。対応する手順は一般的に、当業者に知られている。データ分析の分野では、当業者は、例えばいわゆるヒートマップ及び部分依存グラフ、トレンド分析及びトレンドグラフ(データ分析及びプロセスオートメーションから知られている)に精通している。代替的に、相関を他の方法で決定し、データ記録の設定の際にコンピュータに与えることも可能である。必要に応じて他の相関を決定することもできる。
【0019】
第1の実際変数は、必要に応じて、特異変数及び実際変数の時間的経過を含み得る。一般的に、第1の実際変数はレベル2の変数である。つまり、例えばアーク炉において、第1の目標変数に関する基準値として、トン当たりの必要とされる電気エネルギーが決められている場合、第1の実際変数は、例えば溶融物の最終温度若しくは時間の関数としての電極の目標位置決めであるか、又は溶融物の最終温度若しくは時間の関数としての電極の目標位置決めを含むことができる。これに対して、一般的に、レベル1の変数、例えばプロセス制御器の操作変数ではない。
【0020】
データ記録の所定の第1の数は、必要に応じて決定することができる。この第1の数は多くの場合、2桁又は3桁前半から中盤の範囲にある。例えば、所定の第1の数は15から500の間とすることができる。15から200の間の値が好ましい。データ記録の所定の第2の数は、データ記録の第1の数よりも小さい。この第2の数は、多くの場合、1桁中盤から後半の範囲内にあり、時には2桁前半の範囲内にあることさえある。例えば、所定の第2の数は5から20の間、特に5から10の間とすることができる。
【0021】
可能な最小距離の決定は、一般的に、当業者に知られている。一般的に知られている、いわゆる最近傍のアルゴリズム及び方法を参照することが可能である。
【0022】
第2の目標変数が第1の目標変数に対して補完的であること、及び/又は、第2の実際変数が第1の実際変数に対して補完的であることは可能である。しかし、これは必須ではない。これらは、互いに対して分離していればよい。
【0023】
「期待値」という概念は、統計学及び確率計算の分野で用いられるような意味を有してはいない。第1の期待値に関しては、当該概念は、むしろ、第1の目標変数を基準値に合わせることを可能にするために、対応する値が得られるよう努力される、又は設定されなければならないという意味で用いられる。第2の実際変数に関しては、同様に、目標変数を基準値に合わせ、第1の実際変数を第1の期待値に合わせることを可能にするために、対応する値が得られるよう努力される、又は設定されなければならないということが当てはまる。
【0024】
基準値がコンピュータに対して固定的に設定されていることも可能である。しかしながら、好ましくは、コンピュータはオペレータから基準値を受信する。これによって、特に、最適化方法の柔軟な運用が可能になる。
【0025】
特に、コンピュータがまずオペレータから第1の目標変数の選択を受信し、その後で初めてオペレータから第1の目標変数の基準値を受信すると規定してもよい。これによって、最適化方法を非常に柔軟に用いることができる。
【0026】
好ましくは、第1の目標変数の選択の受信と第1の目標変数に関する基準値の受信との間に、コンピュータは、データ記録に基づいて、第1の目標変数に関して生じる値範囲を決定し、生じた値範囲をオペレータに出力する。これによって、オペレータにとって「有意義な」基準値の設定が容易になる。
【0027】
生じる値範囲を決定する範囲内で、コンピュータが完全に生じた値範囲をオペレータに出力するのではなく、最大値と最小値とを考慮しないでおくことも可能である。例えば、コンピュータは、最大5%及び/又は最小5%の値を排除すること、又は、完全に生じた値範囲を出力するが、最大5%及び/又は最小5%にそのようなものとして目印をつけることが可能である。5%の値の代わりに、別の数値、例えば2%も自明のことながら可能である。また、例えば5%又は2%といった上述の数値が、オペレータによってコンピュータに与えられることも可能である。
【0028】
好ましくは、コンピュータは、少なくとも第1の数のデータ記録の第1の実際変数をオペレータに出力し、それに基づくオペレータの要求に基づいて、第1の数のデータ記録から個々のデータ記録を削除するので、削除されたデータ記録は、最終的に選択されるデータ記録の決定の際に考慮されないままである。これによって、オペレータがその専門知識に基づいて、非現実的であると分類した、又は、他に、不適切であると分類したデータ記録を、特に容易に削除することができる。
【0029】
好ましくは、最適化方法は、さらに、ステップe)の初回の実行後に、コンピュータがステップb)からe)までを再度実行するように構成されている。この場合、コンピュータは、すでに行われたステップe)において第1の期待値からの距離が最小であった、第2の数のデータ記録の内のデータ記録の、第1の期待値としての第1の実際変数に基づいて、ステップb)からe)を再度実行する。これによって、さらに優れた最適化が行われ得る。
【0030】
本課題はさらに、請求項7の特徴を有するコンピュータプログラムによって解決される。本発明によると、コンピュータプログラムの処理によって、コンピュータは本発明に係る最適化方法を実行する。
【0031】
本課題は、さらに、請求項8の特徴を有するコンピュータによって解決される。本発明によると、コンピュータは、本発明に係るコンピュータプログラムでプログラミングされているので、コンピュータは、動作中に本発明に係る最適化方法を実行する。
【0032】
本発明の上述の特性、特徴及び利点、並びにこれらを得る方法は、図面に関連してより詳細に行われる以下の実施例の説明に関連して、より明確になり、かつ、より明確に理解されるであろう。この際、以下が概略的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】素材産業のプラントと、配設された構成要素と、を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1によると、素材産業のプラント1は制御装置2によって制御される。制御装置2の制御下で、プラント1を用いて、技術プロセスが周期的に繰り返し実行される。各周期の範囲内で、すなわち自己完結型の1回限りの技術プロセスの実行の範囲内で、投入材料3及びエネルギー4がプラント1に供給され、(所望の)一次製品5が生産され、(望ましくない)副産物6もしばしば生産される。投入材料3及びエネルギー4の供給は、しばしば時間的な変動の影響を受ける。一次製品5及び副産物6の生産についても同じことが当てはまる。
【0035】
プラント1は一般的に鉄鋼業のプラントであり、場合によっては、アルミニウム産業のプラントでもある。例えば、プラント1は、新しい圧延材(図示せず)を繰り返し圧延する圧延工場として構成されていてよい。この場合、投入材料3は、例えば、未だ圧延されていない圧延材(=主な投入材料)と、圧延材を冷却し、場合によっては圧延材をスケール除去するための水と、であってよい。この場合のエネルギー4は一般的に、主に電気エネルギーである。所望の一次製品5は圧延された圧延材である。望ましくない副産物6は、例えば、汚染された水及び水蒸気であってよい。
【0036】
同様に、プラント1は、例えば鋼の新しいバッチが繰り返し製造されるアーク炉として構成されていてよい。この場合、投入材料3は、例えば銑鉄、スクラップ、石灰又はドロマイトなどの融剤、及び(精錬の範囲では)酸素であってよい。投入材料3は、特定の時点又は特定の期間にアーク炉に供給される。エネルギー4は、主に電気エネルギーの形でアーク炉に供給されるが、部分的には化石原料の燃焼によっても供給され得る。アーク炉の場合、所望の一次製品5は鋼のバッチである。鋼のバッチは、プロセスの終わりになってようやく利用可能になるが、完全に利用可能でもある。望ましくない副産物6は、特に汚染物質で汚染された排ガス及びスラグであり得る。
【0037】
プラント1は、例えば連続鋳造プラントとして、又は鋳造と圧延とを組み合わせたプラントとして、鉄鋼業又はアルミニウム産業の他のプラントとして構成されていてもよい。
【0038】
プラント1を制御する制御装置2は、一般的に、複数の制御レベルを含んでいる。一方では、制御装置2は、一般的にプロセス制御部7を含んでおり、プロセス制御部7は、リアルタイムでシステム1に制御介入を行う。プロセス制御部7全体は一般的に、当業者によってレベル1システムと呼ばれる。アーク炉の場合、例えばアーク炉の電極が動作する際の動作電圧と電極の位置とが制御される。圧延工場では、特に圧延機スタンドの油圧状況、圧延速度、圧延材の張力、冷却材の供給などが制御される。他方では、制御装置2は、上位の技術プロセス制御部8を含んでおり、技術プロセス制御部8を用いて、特に、プロセス制御部7に関する基本設定値、すなわち、プラント1が完全に円滑で理想的な運転で稼働するであろう基本設定値が決定される。上位の技術プロセス制御部8は、一般的に、当業者によってレベル2システムと呼ばれる。
【0039】
制御装置2はコンピュータ9に接続されている。代替的に、コンピュータ9を制御装置2と組み合わせて共通のユニットを形成してもよい。制御装置2は、技術プロセスの各周期において生じる多数の異なる変数をコンピュータ9に伝達する。伝達される変数は、一方では目標変数Z’を含み、他方では第1の実際変数I1及び第2の実際変数I2を含んでいる。
【0040】
目標変数Z’は、技術プロセス制御部8に供給される技術的な設定値を含んでいる。目標変数Z’は、プラント1を用いた技術プロセスのそれぞれの実行中に、いずれの一次製品5が製造されるべきかを決定する。目標変数Z’は、多くの場合、各周期に関して時間に依存しない。しかしまた、目標値Z’は時間に依存していてもよい。圧延工場の場合、技術的な設定値は、例えば、圧延された圧延材の寸法、圧延後の温度(場合によっては巻き付けに際して)、所望のマクロ機械的特性又はミクロ機械的特性などを含み得る。アーク炉の場合、技術的な設定値は、例えば、生成される溶融物の温度及び化学組成を含み得る。技術的な設定値は、必要に応じて、望ましくない副産物6に関する規準値、例えば法的要件に基づいて遵守すべき限界値も含み得る。
【0041】
技術的な設定値及び投入材料3の記述に基づいて、技術プロセス制御部8は、プロセス制御部7に関する基本設定値を決定する。第1の実際変数I1は、特に、そのようなプロセス制御部7に関する基本設定値を含み得る。第2の実際変数I2は、例えば技術プロセスの実際値、すなわち、プラント1内で生じ、プロセス制御部7に供給される実際値を含み得る。さらに、第2の実際変数I2は、プロセス制御部7によってプラント1に出力される操作変数を含み得る。特定の変数の第1の実際変数I1又は第2の実際変数I2としての特定の分類に関係なく、第1の実際変数は、第2の実際変数I2とは分離している。これらは、互いに補完的であってもよく、すなわち、検出された全ての実際変数に対して、それらの全体において相補的であり得る。さらに、第1の実際変数I1及び第2の実際変数I2の両方は、時間に依存していてよい。
【0042】
目標変数「Z’」と第1の実際変数I1及び第2の実際変数I2と、必要に応じてさらなる情報と、を用いて、さらなる目標変数「Z”」が決定される。さらなる目標変数「Z”」は、例えば1トンの一次製品5を製造するために必要な電気エネルギー若しくは総エネルギー、及び/又は1トンの一次製品5を製造するために必要な費用を含み得る。以下において、最初に挙げた目標変数Z’及びさらなる目標変数Z”の全体は、総じて目標変数Zという概念で表される。さらなる目標変数Z”の決定は、コンピュータ9によって実行することができるが、実行しなければならないということではない。
【0043】
必要である場合には、目標変数Zと実際変数I1、I2との相関を、目標変数Zと第1の実際変数I1及び第2の実際変数I2と、必要に応じてさらなる情報と、を用いて決定することができる。相関の決定は、コンピュータ9によって実行することができるが、実行しなければならないということではない。
【0044】
相関は、局所的な性質、時間的な性質、又はその他の性質を有し得る。以下に、局所的及び時間的相関のいくつかの簡単な例を説明する。
【0045】
連続鋳造鋳型の場合、多数の温度センサが二次元格子内で、低温側にわたって分布するように配置されている。温度センサは特に、鋳型破損の危険を伴うシェルのたるみを適時に検知するために用いられる。特に、互いに隣接して配置された温度センサによって検出される時間-温度曲線、又は互いに重なり合って配置された温度センサによって検出される、タイムシフトの時間-温度曲線の局所的な相関が重要であり得る。
【0046】
アーク炉の場合、時間の関数としての溶融物の温度と時間の関数としての投入エネルギーとの間には、しばしば時間的な相関が存在する。
【0047】
圧延機スタンドの場合、4段圧延機スタンドのワークロールがそのバックアップロールに押し付けられる際の曲げ力と、これによってもたらされる圧延材の外形及び平坦度への影響と、の間には、しばしば相関が存在する。
【0048】
各周期の目標変数Zと第1の実際変数I1及び第2の実際変数I2の総体(より正確にはそれぞれの値)は、必要に応じて関連する相関を含めて、1つのデータ記録Dを形成する。各データ記録Dは、
図2に例示的に示されている。
【0049】
技術プロセスの各周期において、さらなるデータ記録Dが生じる。これによって、時間の経過とともに、このようなデータ記録Dを多数含むデータプール10が形成される。
【0050】
コンピュータ9を用いて、プラント1の運転に関する最適化方法が実行される。この目的のために、コンピュータ9はコンピュータプログラム11でプログラミングされている。コンピュータプログラム11は、コンピュータ9によって処理され得るマシンコード12を含んでいる。コンピュータ9によるマシンコード12の処理によって、コンピュータ9は対応する最適化方法を実行する。最適化方法については、
図3に関連して以下に詳しく説明する。この際、データプール10がすでに存在している、すなわち複数のデータ記録Dを含んでいるものと仮定する。この関連において「複数」という概念は、「複数」、すなわち1より大きいという意味で理解されるのではない。むしろ、当該概念は、1よりはるかに大きいという意味で理解されるべきである。データプール10は、少なくとも数百のデータ記録Dを含んでいる。しばしば、データプール10は、数千、数万、又はさらに多数のデータ記録Dを含むことさえある。さらに、コンピュータ9は、データプール10へのアクセスを有している。つまり、データ記録Dは、コンピュータに知られている。
【0051】
図3によると、ステップS1において、技術プロセスの第1の目標変数Z1に関する基準値Rがコンピュータ9に知られる。例えば、第1の目標変数Z1の基準値Rは、コンピュータ9に対して固定的に設定されていてよい。しかしながら、基準値Rは、
図1に示すように、オペレータ13によってコンピュータ9に対して与えられることが多い。第1の目標変数Z1は、目標変数Zの部分集合を形成する。第1の目標変数Z1は、プラント1の運転中に達成されるべき主要目標(KPI)である。最も単純な場合では、1つの第1の目標変数Z1のみが設定される。しかしまた、複数の第1の目標変数(この場合、それぞれの重み付けを伴うことが望ましい)を設定することも可能である。
【0052】
「基準値」と「第1の目標変数」という概念の違いを説明するために、以下に例を示す。ただし、この例はあくまで一例であり、他の類似の状況にも同様に適用されることに留意されたい。例えば、ある第1の目標変数Z1が、ある量の鋼を生産するために必要な電気エネルギーであると仮定する。そうすると、対応する第1の目標変数Z1は、具体的な数値とは無関係に、「ある量の鋼を生産するために必要な電気エネルギー」という状況をそのようなものとして表現する。これに対して、対応する基準値Rは、具体的な数値、例えば「300kWh/t」を表している。
【0053】
ステップS2において、コンピュータ9は、基準値Rを用いて第1の実際変数I1に関する期待値E1を決定する。この決定は、場合によっては、期待値E1が有効である時点及び期間も含んでいる。つまり、これらは必ずしも純粋なスカラー値ではない。むしろ、時間的経過であることもある。つまり、コンピュータ9は、基準値Rによってすでに決定されていない限りにおいて、技術プロセス制御部8に供給されるべき技術的な設定値を決定する。期待値E1は、第1の実際変数I1に関して決定されるので、以下において、第1の期待値E1と称される。
【0054】
第1の期待値E1の決定は、プラント1及び技術プロセスを記述するモデル14を用いて行われる。モデル14は、多くの場合、数理物理学の方程式に基づいてプラント1及び技術プロセスを記述しており、当該方程式は代数方程式及び/又は微分方程式を含んでいる。しかしまた、例えば人工知能に基づく他のモデル14も考えられる。しかしながら、モデル14の種類とは無関係に、第1の期待値E1の決定は、第1の目標変数Z1が可能な限り基準値Rに到達するように行われる。必要な限りにおいて、コンピュータ9は、第1の目標変数Z1が含まれる、ステップS2の実施のための費用関数を設定することができる。必要に応じて、境界条件も付加的に考慮され得る。費用関数の設定、及び、境界条件の考慮を含むそれらの最適化は、一般的に、当業者に知られている。
【0055】
ステップS3において、コンピュータ9は、第2の実際変数I2に関する期待値E2を決定する。つまり、コンピュータ9は、基準値Rが達成されるべき技術プロセスの計画された周期に関して、いわゆるセットアップ計算を実行する。セットアップ計算の結果が、期待値E2である。ステップS3の決定は、必要である限りにおいて、期待値E2が有効である時点及び期間も含んでいる。期待値E2は、第2の実際変数I2に関して決定されるので、以下において、第2の期待値E2と称される。ステップS3の決定は、再びモデル14を用いて行われる。当該決定は、第1の目標変数Z1に関して規定の基準値R、及び、ステップS2で決定された第1の期待値E1に基づいて行われる。
【0056】
ステップS4において、コンピュータ9はデータプール10から、所定の第1の数n1のデータ記録Dを選択する。この選択は暫定的なものに過ぎない。具体的には、コンピュータ9は、ステップS4においてまず、所定の第1の距離基準に従って、データ記録Dに関して、それぞれのデータ記録Dの第1の期待値E1に対する第1の距離を決定する。距離基準は一般的に、当業者に知られている。特に、「最近傍」という方法が用いられ得る。具体的に用いられる第1の距離基準とは無関係に、コンピュータ9は、ステップS4において、第1の距離が可能な限り小さいデータ記録Dを選択する。これによって、(所定の第1の距離基準に従って)第1の限界距離が生じ、暫定的に選択された全てのデータ記録Dに関して、それぞれの付随する第1の距離が、最大でも第1の限界距離と同じ大きさである一方で、暫定的に選択されていない全てのデータ記録Dに関して、それぞれの付随する第1の距離は、少なくとも第1の限界距離と同じ大きさである。
【0057】
ステップS3及びS4は、逆の順序で実行することも可能であることに留意されたい。
【0058】
ステップS5において、コンピュータ9は、所定の第2の数n2のデータ記録Dを選択する。この選択は最終的なものである。選択は、ステップS4で暫定的に選択されたデータ記録Dに限定されている。具体的には、コンピュータ9は、ステップS5においてまず、所定の第2の距離基準に従って、暫定的に選択されたデータ記録Dに関して、第1の期待値E1及び第2の期待値E2に対するそれぞれのデータ記録Dの第2の距離を決定する。ここでも、距離基準は一般的に、当業者に知られている。これまでと同様に、特に「最近傍」法が用いられ得る。具体的に用いられる第2の距離基準とは無関係に、コンピュータ9は、ステップS5において、第2の距離が可能な限り小さいデータ記録Dを選択する。これによって、(所定の第2の距離基準に従って)第2の限界距離が生じ、最終的に選択された全てのデータ記録Dに関して、それぞれの付随する第2の距離が、最大でも第2の限界距離と同じ大きさである一方で、最終的に選択されなかった全てのデータ記録Dに関して、それぞれの付随する第2の距離は、少なくとも第2の限界距離と同じ大きさである。
【0059】
ステップS6において、コンピュータ9は、第2の目標変数Z2に関する設定値Sを決定する。設定値Sは、実行されるべき技術プロセスの周期に関して決定される。第2の目標変数Z2に対する設定値Sの比は、第1の目標変数Z1に対する基準値Rの比に類似している。つまり、第2の目標変数Z2は、具体的な値とは無関係な、そのようなものとしての目標変数であり、他方、設定値Sは、対応する具体的な値である。コンピュータ9は、ステップS6において、最終的に選択されたデータ記録Dに基づいて設定値Sを決定する。この決定は、第1の目標変数Z1が可能な限り基準値Rに到達するように行われる。
【0060】
第2の目標変数Z2(第1の目標変数Z1に類似)も同様に、目標変数Zの部分集合を形成する。第2の目標変数Z2は、第1の目標変数Z1とは分離している。一般的に、第2の目標変数Z2は、第1の目標変数Z1と補完し合って目標変数Zを形成する、すなわち、第1の目標変数Z1に対して補完的である。
【0061】
ステップS7において、コンピュータ9は、決定された設定値Sを出力する。オペレータ13に出力することも可能である。代替的又は付加的に、制御装置2、特に技術プロセス制御部8に出力することも可能である。
【0062】
本発明に係る最適化方法は、様々な方法で構成され得る。可能な構成を以下に説明する。
【0063】
図4によると、コンピュータ9は、ステップS1の前にステップS11~S13を実行するが、ステップS12は任意に過ぎない。ステップS11において、コンピュータ9は、オペレータ13から第1の目標変数Z1を受信する。つまり、オペレータ13は、コンピュータ9に対して、いずれの第1の目標変数Z1に関して基準値Rを決定すべきかを指定する。最も単純な場合、オペレータ13は、1つの第1の目標変数Z1のみを選択する。代替的に、オペレータ13は、複数の第1の目標変数Z1を選択することもできる。この場合、オペレータ13は、付加的に、個々の第1の目標変数Z1をどのように重み付けすべきかについても指定する必要がある。ステップS12において、コンピュータ9は、第1の目標変数Z1に関して生じる値範囲を決定する。この決定は、データ記録Dに基づいて行われる。例えば、ステップS11で設定されたそれぞれの第1の目標変数Z1に関して、最小値と最大値とを決定することが可能である。特に、値範囲を決定する際に、生じる最大値の一部及び/又は最小値の一部が除外される場合、変動も有用である。ステップS13において、コンピュータ9は、生じた値範囲をオペレータ13に出力する。
【0064】
図5によると、代替的又は付加的に、コンピュータ9は、ステップS4とステップS5との間にステップS21~S23を実行してもよい。ステップS21において、コンピュータ9は、少なくとも第1の数n1のデータ記録Dの第1の実際変数I1をオペレータ13に出力する。ステップS22において、コンピュータ9は、オペレータ13から指示Vを受信する。指示Vは、ステップS21の出力に基づいている。指示Vに基づいて、コンピュータ9は、ステップS23において、第1の数n1のデータ記録Dから個々のデータ記録Dを消去する。消去されたデータ記録Dは、ステップS5において、最終的に選択されるデータ記録Dを決定する際に考慮されない。つまり、消去されたデータ記録Dは、第2の数n2の最終的に選択されたデータ記録Dには含まれない。
【0065】
さらに、コンピュータ9が、本発明に係る手順を複数回反復する範囲内で、設定値Sを決定することが可能である。例えばコンピュータ9は、ステップS3からS5までの、第2のパス、及び必要に応じて第3のパスを行うことができる。ステップS3及びS4の第2の処理及び必要に応じて第3の処理の範囲内で、その際の決定が、第1の期待値E1である、第1の目標変数Z1が基準値Rから最小の距離を有しているデータ記録Dの第1の実際変数I1に基づいて行われ得る。コンピュータ9は、第2の数n2の最終的に選択されたデータ記録Dの第1の実際変数I1の加重平均値又は非加重平均値を決定し、これらの値を第1の期待値E1として採用することもできる。これによって、さらなる最適化を達成することが可能であり、つまり、例えば追加の費用若しくはエネルギーを節約することが可能であるか、又は質若しくは生産性をさらに最大化することが可能である。
【0066】
本発明は多くの利点を有している。プラント1の広範な運転データを利用することによって、先行技術よりも改善された運転モードを決定することができる。データ記録Dを決定する際の2段階の手順に基づいて、すなわち、まずデータ記録Dの第1の数n1を決定するために第1の実際変数I1のみを使用し、次にデータ記録Dの第2の数n2を決定するために第2の実際変数I2も使用することによって、設定値Sが決定される際に用いられるデータ記録Dを決定するために必要な労力を合理的な範囲内に抑えることができる。その結果、技術プロセスは、先行技術よりも迅速かつ持続的に最適化され得る。
図3に係る基本的な態様においてすでに、しかしまた、特に
図4に係る態様において、非常に短い時間で変更された要求に対応することが可能である。
【0067】
好ましい実施例を通じて本発明を詳細に図示し説明してきたが、本発明は開示された実施例によって限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の保護範囲を離れることなく、他の変型例を導き出すことが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 プラント
2 制御装置
3 投入材料
4 エネルギー
5 一次製品
6 副産物
7 プロセス制御部
8 技術プロセス制御部
9 コンピュータ
10 データプール
11 コンピュータプログラム
12 マシンコード
13 オペレータ
14 モデル
D データ記録
E1、E2 期待値
I1、I2 実際変数
n1、n2 数
R 基準値
S 設定値
S1~S23 ステップ
V 指示
Z、Z’、Z”、Z1、Z2 目標変数
【国際調査報告】