(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】受容体標的化遺伝子導入を増強するための手段及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240403BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240403BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240403BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240403BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20240403BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240403BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240403BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/553 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20240403BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20240403BHJP
C07D 417/12 20060101ALN20240403BHJP
C07D 215/54 20060101ALN20240403BHJP
C07D 498/18 20060101ALN20240403BHJP
C07D 239/42 20060101ALN20240403BHJP
C07D 498/22 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/506
A61K31/496
A61P35/00
A61P35/02
A61P31/12
A61P31/18
A61K35/76
A61K35/12
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P43/00 121
A61K31/436
A61K31/505
A61K31/553
C12N15/867 Z
C12N9/99
C07D417/12
C07D215/54
C07D498/18
C07D239/42 Z
C07D498/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562190
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2022059251
(87)【国際公開番号】W WO2022214588
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ICLE 2022 (International Conference on Lymphocyte Engineering in Munich in March 2022)に関するアドレス 「https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/hum.2022.29200.abstracts」で公開された要旨集を開示するウェブサイトの写し 掲載日:2022年3月30日 (2)ICLE 2022 (International Conference on Lymphocyte Engineering in Munich in March 2022)に関するアドレス 「https://www.liebertpub.com/doi/epdf/10.1089/hum.2022.29200.abstracts」で公開された要旨集のPDFデータの印字物の写し 掲載日:2022年3月30日 (3)ICLE 2022 (International Conference on Lymphocyte Engineering in Munich in March 2022)において、「Dasatinib enhances gene delivery by T cell-targeted lentiviral vectors through CD3 upregulation」との題名におけるポスター発表で用いたポスターの写し 発表日:2022年3月31日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】フランク,アニカ
(72)【発明者】
【氏名】ブーフホルツ,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C063
4C072
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA04
4B065CA05
4B065CA15
4B065CA16
4B065CA18
4B065CA44
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC29
4C063DD62
4C063EE01
4C072AA03
4C072BB03
4C072CC01
4C072CC03
4C072CC11
4C072CC12
4C072DD07
4C072DD10
4C072EE09
4C072FF15
4C072GG07
4C072GG08
4C072HH01
4C072UU01
4C084AA13
4C084MA01
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZB33
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC82
4C086CB22
4C086EA16
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZB33
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA01
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZB33
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、遺伝子導入の分野に関する。より具体的には、本発明は、宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、前記方法は、サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップを含む、方法に関する。本発明はまた、医薬の調製方法、並びにCD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤とを含む、医薬に関する。さらにまた、前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能である、チロシンキナーゼ阻害剤、又は前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクルに関する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、前記方法は、
(a)サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び
(b)ステップ(a)で得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、Src/Ablチロシンキナーゼ阻害剤、好ましくはSrcキナーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ダサチニブ、イマチニブ、及びニロチニブからなる群から選択され、好ましくは前記チロシンキナーゼ阻害剤がダサチニブである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ボスチニブである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記宿主細胞を、ステップ(a)及び/又はステップ(b)中に少なくとも1つのさらなる形質導入エンハンサーと接触させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記さらなる形質導入エンハンサーが、ベクトフシン-1、BX 795、シクロスポリンA、シクロスポリンH、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2、プロスタグランジンE2、ラパマイシン、ロスバスチンカルシウム、及びスタウロスポリンからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記初代T細胞が、CD3陽性初代T細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
宿主細胞としての初代T細胞への前記受容体標的化遺伝子導入が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で宿主細胞を接触させなかった対照と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、最大10倍、好ましくは少なくとも3倍増強される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法のステップ、及びステップ(b)で得られた宿主細胞培養物を細胞性治療用組成物として製剤化するさらなるステップを含む、細胞性治療用組成物の調製方法。
【請求項10】
前記細胞性治療用組成物が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症を治療するためのものである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び
(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤
を含む、医薬。
【請求項12】
初代T細胞に導入されるべき目的の前記核酸が、治療上有効な目的の核酸である、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項2~4のいずれか一項に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項11又は12に記載の医薬。
【請求項14】
前記医薬が、請求項6に定義される形質導入エンハンサーをさらに含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項15】
がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病の治療に使用するための、請求項11~14のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項16】
感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIVの治療に使用するための、請求項11~14のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項17】
(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症の治療のための医薬の製造における、(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の使用。
【請求項18】
初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能であり、チロシンキナーゼ阻害剤は、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルと組み合わせて使用される、チロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項19】
初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクル。
【請求項20】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項2又は3に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項21】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、請求項18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項22】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、請求項19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項23】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項5に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、請求項18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項20に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項24】
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、請求項18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項25】
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、請求項19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項26】
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、請求項18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入の分野に関する。より具体的には、本発明は、宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、前記方法は、サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップを含む、方法に関する。本発明はまた、医薬の調製方法、並びにCD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤とを含む、医薬に関する。さらにまた、前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能である、チロシンキナーゼ阻害剤、又は前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における前記初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクルに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生命を脅かす疾患、例えば、がん、免疫疾患並びに代謝若しくは神経疾患は、遺伝子療法又は免疫療法による治療を必要とする。
【0003】
遺伝子療法アプローチにおける遺伝子導入について、様々な遺伝子導入ビヒクルが報告されている。これらのビヒクルの中には、レトロウイルスベクター、特にレンチウイルスベクター、並びにアデノウイルス若しくはアデノウイルス様ベクター、又は非ウイルスビヒクル、例えば、リポソーム又はナノ粒子がある。
【0004】
レンチウイルスベクター(LV)は、安全性を高め、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞などのT細胞療法製品の複雑な製造プロセスを簡素化する可能性があるため、遺伝子療法及び免疫療法における重要なツールである(Jamali et al 2019)。さらに、レンチウイルスベクターは、CAR T細胞の直接的なインビトロ生成を可能にした(Pfeiffer et al. 2018、Agarwal et al. 2020、Frank et al. 2020)。しかし、T細胞標的化LVは、従来使用されていたベクターと比較して低い形質導入効率を特徴とする。
【0005】
これまでのところ、T細胞標的化LVによるインビトロでのT細胞の形質導入は、ベクトフシン-1(Vectofusin-1)などの形質導入エンハンサーによって増強されている(Jamali, Kapitza et al., 2019)。
【0006】
ベクトフシン-1は、インビトロでのT細胞標的化LVによる形質導入の著しい増加をもたらすが、インビボモデルではまだ試験されていない。このエンハンサーがそのような適用に安全に使用できるかどうか、及びインビボ使用時にもその形質導入増強特性を保持するかどうかはまだ決定されないままである。
【0007】
ダサチニブ(Dasatinib)は、AML及びCMLの療法として使用されるFDA及びEMA承認薬であり、インビボでのその生体内分布及び動態、並びに潜在的な副作用は周知である。さらに、ダサチニブは、インビトロ及びインビボでCAR T細胞活性化を制御することが示されている(Mestermann, 2019)。
【0008】
ダサチニブは、T細胞活性化カスケードにおける上流キナーゼであるT細胞特異的タンパク質チロシンキナーゼLCKを妨害することが知られているSrc/Ablチロシンキナーゼ阻害剤ファミリーのメンバーである。CD3-ゼータドメインのLCKリン酸化を遮断することにより、継続的にZAP 70が阻害され、T細胞受容体(TCR)の活性化誘発性下方制御が妨げられる(Schade et al. 2008、Lissina et al. 2009)。それにより、TCR表面レベルは、阻害剤の存在下で増加する。ダサチニブ処理の同様の効果は、CD8共受容体でも観察されているが、この現象の背後にある正確なメカニズムはさらに研究されないままである(Lissina et al. 2009)。
【0009】
標的化遺伝子療法前、療法中及び療法後のチロシンキナーゼ阻害剤、特にSrc/Ablチロシンキナーゼ阻害剤ファミリーのチロシンキナーゼ阻害剤の使用が記載されている(例えば、Shangming et al., 2006、WO2019/110815、WO2020/092650、WO2019/213184、WO2018/183842、US2020/181573を参照されたい)。しかし、そのようなチロシンキナーゼ阻害剤の形質導入増強特性についての報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、遺伝子導入についての形質導入有効性を高めるための手段は、インビトロ及びインビボの両方の適用について非常に望ましい。
【0011】
本発明の根底にある技術的課題は、前述の必要性を満たすための手段及び方法の提供と見なすことができる。この技術的課題は、特許請求の範囲及び本明細書において以下に特徴付けられる実施形態によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、前記方法は、
(a)サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び
(b)ステップ(a)で得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップ
を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ダサチニブは、活性化されたPBMCにおけるCD3標的化遺伝子導入を増強する。新たに解凍した初代ヒトPBMCを、IL-2の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、標的化LV又はVSV-LVで形質導入するか、又は形質導入せずに非形質導入(ut)のままとした。形質導入中、細胞を、100nMダサチニブ含有培地中で7時間インキュベートした。さらに、VF-1を、形質導入中に添加した(B)。散布棒グラフは、形質導入3日後のGFP発現をまとめて示し、ダサチニブの存在下での形質導入(塗りつぶした点)を、ダサチニブなし(w/o)での形質導入(中抜きの点)と比較する(A~B)。細胞生存を、形質導入3日後(C)及び7日後(D)に測定し、異なる処理条件を定義する重ね合わせた記号として示す。3つの技術的反復の平均±SD。(E~F)散布棒グラフは、形質導入3日後の形質導入単位/mL(T.U./mL)の倍率変化をまとめて示し、CD3-LV(GFP)(E)及びCD3-LV(CAR)(F)を用いた、ダサチニブの存在下での形質導入(塗りつぶした点)を、ダサチニブなし(w/o)での形質導入(中抜きの点)と比較する。データを、1~4人のドナーで試験した4つのベクターストックの平均±SDとして示す。
【
図2】ダサチニブは、用量依存的に活性化PBMCへのCD3標的化遺伝子導入を増強する。新たに解凍した初代ヒトPBMCを、IL-7/15の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、CD3標的化LVで形質導入するか、又は形質導入せずに非形質導入(ut)のままとした。形質導入中、細胞を、0.39~100nMダサチニブ含有培地中で7時間インキュベートした。例示的なドットプロットは、形質導入後3日目の、異なるダサチニブ濃度で形質導入されたT細胞における用量依存的な導入遺伝子発現を示す(A)。線で結んだ重ね合わせた記号は、CD3-LV(GFP)(塗りつぶした点)及びCD3-LV(CAR)(中抜きの四角)を用いた、形質導入3日後の用量依存的な導入遺伝子発現を示す(B)。細胞生存を、形質導入3日後に測定し、異なる形質導入条件を定義する重ね合わせた記号として示す(C)。生物学的反復について、平均±SDを用いたN=1~2を示す。
【
図3】ダサチニブは、時間及び用量依存的に遺伝子導入を増強する。新たに解凍した初代ヒトPBMCを、IL-7/15の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、CD3標的化LVで形質導入した。形質導入中、細胞を、25nM、50nM又は100nMダサチニブ含有培地中で3時間、5時間又は7時間インキュベートした。ドットプロットは、形質導入後3日目の、異なるダサチニブ濃度及びインキュベーション時間で形質導入されたT細胞における用量及び時間依存的な導入遺伝子発現を示す(A)。線で結んだ異なる濃度についての重ね合わせた記号は、形質導入3日後のGFP発現を示し、異なる処理条件を定義する(B)。
【
図4】ダサチニブは、最小限に刺激されたT細胞のCD3標的化形質導入を増強する。初代ヒトPBMCを、IL-7/15のみを補充したTCM中で一晩培養し、翌日、標的化LV又はVSV-LVで形質導入するか、又は非形質導入(ut)のままとした。形質導入中、細胞を、100nMダサチニブ含有培地中で7時間インキュベートした。さらに、VF-1を、形質導入中に添加した(B)。GFP発現を、4日後にフローサイトメトリーによって決定し、散布棒グラフとして示し、ダサチニブの存在下での形質導入(塗りつぶした点)を、ダサチニブなし(w/o)での形質導入(中抜きの点)と比較する(A~B)。細胞生存を、形質導入4日後(C)及び7日後(D)に測定し、異なる処理条件を定義する色コードを用いた重ね合わせた記号として示す。7日目に、生存が低すぎるため、CD4-LVを除外した(D)。活性化マーカーCD25の発現を、形質導入4日後に異なる処理条件を定義する重ね合わせた記号として示す(E)。3つの技術的反復の平均±SD。CD4-LV、CD8-LV又はVSV-LVを対照として使用した。
【
図5】ダサチニブは、活性化されたPBMCへのCD3標的化CAR遺伝子導入を増強する。新たに解凍した初代ヒトPBMCを、IL-2の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、CD19-CARを送達するTR66-LV、TR66.opt-LV又はVSV-LVで形質導入するか、又は形質導入せずに非形質導入(ut)のままとした。形質導入中、細胞を、100nMダサチニブ含有培地中で7時間インキュベートした。さらに、VF-1を、形質導入中に添加した(C)。例示的なドットプロットは、形質導入後3日目の、VF-1なしで形質導入されたCD3+ T細胞におけるCAR発現を示す(A)。フローサイトメトリーによって形質導入3日後に決定したCAR発現のパーセントを、散布棒グラフとして示す(B~C)。ダサチニブの存在下での形質導入を、塗りつぶした点として示し、ダサチニブなし(w/o)での形質導入を、中抜きの点として示す。2つの技術的反復の平均±SD。
【
図6】ダサチニブは、CD3標的化LVの活性化PBMCへの結合を増強及び延長する。新たに解凍した初代ヒトPBMCを、IL-2の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、CD3受容体標的化LVで形質導入した。形質導入中、細胞を、100nMダサチニブ含有培地中で7時間インキュベートするか、又はダサチニブなしとした。タイムラインは、PBMCに結合したLVの検出を可能にする、ダサチニブによる処理後72時間にわたる抗His染色の平均蛍光強度(MFI)を示す。塗りつぶした記号及び線は、ダサチニブで処理した細胞(+dasat.)へのLVの結合を示し、破線で結んだ中抜きの点は、ダサチニブで処理しなかった細胞へのLVの結合を示す。3つの技術的反復の平均±SD。
【
図7】ダサチニブは、T細胞の活性化を阻害し、他のチロシンキナーゼ阻害剤と比較して最も強い、形質導入に対する増加を示す。(A)初代ヒトPBMCを、IL-7/15のみを補充したTCM又はNutriT培地中で一晩培養した。翌日、細胞を、活性化抗体CD3/CD28、CD3-LV、VSV-LVで処理するか、又は非形質導入(ut)のままとした。形質導入中、細胞を、100nMダサチニブ含有培地中で7時間インキュベートした。活性化マーカーCD25の発現を、形質導入4日後に異なる処理条件を定義する重ね合わせた記号として示す。1人のドナーからの3つの技術的反復及び2番目のドナーからの1つの反復の平均を示す。(B)新たに解凍した初代ヒトPBMCを、IL-7/15の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、様々なチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の存在下で標的化LVで形質導入した。形質導入中、細胞を、TKI含有培地(50nMダサチニブ、1μMボスチニブ、1μMイマチニブ又は30μMゲニステイン)中で5時間インキュベートした。棒グラフは、形質導入3日後のGFP発現の倍率変化を、2~3個の生物学的反復の平均±SDとして示す。CD8-LV又はVSV-LVを対照として使用した。
【
図8-1】ダサチニブは、表現型を変えることなく、有効なCAR T細胞の生成を可能にする。(A~B)非形質導入又はCD3-LV(CAR)形質導入T細胞を、CellTraceViolet(CTV)標識化Nalm-6細胞とともに0.5:1のエフェクター対標的比で共培養した。死滅したCTV標識化標的細胞のパーセントを、殺滅の4時間後(A)及び24時間後(B)にFACSによって決定し、技術的三重反復で決定したn=3の生物学的反復の平均±SDとして示す。(C~H)新たに解凍した初代ヒトPBMCを活性化し、その後、CD3-LV(CAR)で形質導入するか、又は形質導入なしで非形質導入(ut)のままとした。形質導入中、細胞を、50nMダサチニブ含有培地中で5時間インキュベートし、その後、CellTraceViolet標識化Nalm-6細胞を1:1比で添加した。増加する数の新たに標識化されたNalm-6細胞を1日置きに添加した。インビトロ反復殺滅アッセイの概要図(C)。生存Nalm-6細胞(D)及びCAR-T細胞(E)のパーセントを、表示の時点で数える。(F~H)CAR T細胞を、それらの表現型(F)及び疲弊(G~H)について8日目にフローサイトメトリーによって分析した。データは、2つの独立した実験のn=4の生物学的反復の平均±SDを表す。
【
図9】ダサチニブは、全血中のヒトT細胞の形質導入を増加させる。全血を、健康なドナーから採取し、100nMダサチニブとともに1時間インキュベートし、その後、CD3-LV(GFP)又はVSV-LV(GFP)で形質導入した。続いて、PBMCを、密度遠心分離によって単離し、IL-7/15を有するTCM中で5日間培養した。(A)ヒト全血の形質導入の概要図。(B)形質導入6日後のGFP発現を示す代表的なドットプロット。(C)棒グラフは、フローサイトメトリーによって決定した形質導入5~6日後のGFP陽性細胞を示す。データは、2つの独立した実験の2つの生物学的反復の平均±SDを表す。
【
図10】ダサチニブは、ヒト化NSGマウスから単離されたT細胞に対する形質導入を増強する。ヒト化NSGマウス(huNSG)から単離された、新たに解凍した脾細胞、又は初代ヒトPBMCを、IL-7/15の存在下でαCD3及びαCD28抗体で3日間活性化し、その後、CD3-LV(GFP)で形質導入した。形質導入中、細胞を、50nMダサチニブ含有培地中で5時間インキュベートした。(A)棒グラフは、形質導入3日後のhuNSG(灰色)又はPBMC(黒色)からのCD3陽性細胞のGFP陽性のパーセントを示す。(B)形質導入3日後のCD3陽性細胞の平均蛍光強度。データは、技術的三重反復の平均±SDを表す。
【
図11】ダサチニブは、一部のマウスでインビボ形質導入を増加させる。(A)実験概要:ベクター注射の12日前に、1×10e7個のエクスビボで活性化されたヒトPBMC細胞を、静脈内(i.v.)注射によって移植した。LV注射の1時間前に、10mg/kgのダサチニブを、腹腔内(i.p.)注射した。導入遺伝子発現を、7日後にフローサイトメトリーによって分析した。(B)棒グラフは、ダサチニブにより処理した(黒色)又はダサチニブなし(灰色)の各マウスの血液中のすべての生存単一CD45+細胞からのGFP陽性細胞のパーセントをまとめて示す。(C)qPCRによって決定した血液から単離されたゲノムDNA中のベクターコピー数(VCN)。データは、1群あたりn=4匹のマウスの平均±SDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において、「a」又は「an」は、それが使用される文脈に応じて、1つ又は複数を意味し得ることが理解されるべきである。したがって、例えば、「ある(an)」品目への言及は、少なくとも1つの品目を利用できることを意味し得る。
【0015】
以下で使用される場合、用語「有する」、「含む(comprise)」又は「含む(include)」は、非限定的意味又は限定的意味を有することを意味する。したがって、限定的意味を有する場合、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴以外に、記載される実施形態に他の特徴が存在しない状況を指すことができ、すなわち、これらの用語は、「からなる」又は「から本質的になる」という意味で限定的意味を有する。非限定的意味を有する場合、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴以外に、記載される実施形態に1つ以上の他の特徴が存在する状況を指す。
【0016】
さらに、以下で使用される場合、用語「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「特に」、「より詳細には」、「典型的には」、及び「より典型的には」又は同様の用語は、代替の可能性を制限することなく、追加又は代替の特徴とともに使用される。
【0017】
さらに、用語「少なくとも1つの」は、本明細書で使用される場合、この用語に続いて言及される品目の1つ以上が、本発明に従って使用され得ることを意味することが理解される。例えば、この用語が、少なくとも1つの品目が使用されることを示す場合、これは、1つの品目又は2つ以上の品目、すなわち、2つ、3つ、4つ、5つ又は任意の他の数として理解され得る。この用語が言及する品目に応じて、当業者は、この用語がどのような上限(もしあれば)に言及し得るのかについて理解する。
【0018】
本発明による方法は、前述のステップ(a)及び(b)からなってもよく、又はさらなるステップ、例えば、ステップ(a)の前に宿主細胞を前培養及び/又は前処理するステップ、並びに受容体標的化遺伝子導入後に宿主細胞を処理又はさらに培養するステップ、例えば選択ステップ、及び/又は前記受容体標的化遺伝子導入を分析するステップを含んでもよい。
【0019】
用語「受容体標的化遺伝子導入」は、本明細書で使用される場合、遺伝子導入のための遺伝子導入ビヒクルを使用することによって、目的の核酸分子(すなわち「遺伝子」)を宿主細胞に導入するプロセスを指す。このプロセスは、受容体標的化であり、すなわち、とりわけ、遺伝子導入ビヒクル上の標的化剤と宿主細胞上のCD3との間の特異的結合に依存する。前記標的化により、標的とされた宿主細胞のみが遺伝子導入の影響を受ける。
【0020】
用語「遺伝子導入ビヒクル」は、本明細書で使用される場合、本発明により宿主細胞への遺伝子導入を可能にする任意のビヒクルを指す。好ましくは、本発明による遺伝子導入ビヒクルは、ウイルス遺伝子導入ビヒクル、より好ましくは、レトロウイルスベクター、典型的にはレンチウイルスベクター、アデノウイルス随伴ベクター又はアデノウイルスベクターである。また好ましくは、遺伝子導入ビヒクルは、ウイルス様粒子、リポソーム若しくはリポソームに基づくビヒクル又はナノ粒子であり得る。本発明による遺伝子導入ビヒクルは、その表面上に、CD3に特異的に結合する標的化剤を提示するものとする。この標的化剤は、遺伝子標的化ビヒクルが宿主細胞によって内部移行可能となり、宿主細胞に導入されるべき目的の核酸の遺伝子導入が生じ得るように、宿主細胞上の標的化構造、すなわちCD3に特異的に結合することが可能であるものとする。典型的には、この標的化剤は、遺伝子標的化ビヒクルが宿主細胞によって内部移行可能となり、宿主細胞に導入されるべき目的の核酸の遺伝子導入が生じ得るように、さらにより典型的には、パッケージングされた目的の核酸の宿主細胞への遺伝子導入が生じ得るように、宿主細胞上の標的化構造、すなわちCD3に特異的に結合することが可能であるものとする。
【0021】
より好ましくは、本発明による遺伝子導入ビヒクルは、レンチウイルスベクター系である。遺伝子導入のメディエーターに有用なレンチウイルスベクターは、当技術分野で周知である。典型的には、治療適用での遺伝子導入に使用されるレンチウイルスベクターは、HIV-1に基づく。HIV-2、サル免疫不全ウイルス又は非霊長類レンチウイルス、好ましくはネコ免疫不全ウイルス、ウマ伝染性貧血ウイルス、ウシ免疫不全ウイルス又はヤギ関節炎脳炎ウイルスも、レンチウイルスベクターを生成するために使用されている。
【0022】
そのようなレンチウイルスベクターは、典型的には、安全性を高め、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞などのT細胞療法製品の複雑な製造プロセスを簡素化する可能性があるため、遺伝子療法及び免疫療法における重要なツールである(Jamali et al 2019)。さらに、レンチウイルスベクターは、CAR T細胞の直接的なインビトロ生成を可能にした(Pfeiffer et al. 2018、Agarwal et al. 2020、Frank et al. 2020)。しかし、T細胞標的化レンチウイルスベクターは、従来使用されていたベクターと比較して低い形質導入効率を特徴とする。
【0023】
本発明の方法に従って遺伝子導入に使用されるレンチウイルスベクターは、典型的には、必要なウイルス成分を保有するプラスミドと、導入されるべき目的の核酸を含むプラスミドとを含むベクター系を包含する。
【0024】
本発明に従って使用されるべき特に好ましいレンチウイルスベクターは、以下の添付の実施例においてより詳細に記載される。
【0025】
用語「CD3に特異的に結合する標的化剤」は、本明細書で使用される場合、細胞表面抗原の1つであるCD3、好ましくはその細胞外部分を特異的に認識して結合することが可能な分子を指す。
【0026】
好ましくは、標的化剤は、CD3に特異的に結合する抗体又は抗体断片である。抗体は、本発明に従って意味する場合、CD3に特異的に結合するあらゆる種類の抗体を包含する。好ましくは、本発明の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、又は依然としてCD3に特異的に結合することが可能な、そのような抗体の任意の断片であり得る。本明細書で使用される抗体という用語に含まれるそのような断片は、二重特異性抗体、合成抗体、Fab、F(ab)2、Fv若しくはscFv断片、又はこれらの抗体断片のいずれかの化学的に修飾された誘導体を包含する。一般に、所望の標的に特異的に結合する抗体又はその断片は、例えば、Harlow and Lane "Antibodies, A Laboratory Manual", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載される方法を使用することによって得ることができる。モノクローナル抗体は、免疫化された哺乳動物、好ましくは免疫化されたマウスに由来する脾臓細胞へのマウス骨髄腫細胞の融合を含む技術によって調製することができる。当業者は、当技術分野で周知の技術、例えば免疫学的又は生化学的技術、例えばイムノアッセイ、細胞選別又はウェスタンブロッティング又はプラズモン表面共鳴測定によって特異的結合をどのように試験できるかをよく知っている。
【0027】
また好ましくは、本発明による標的化剤は、CD3に特異的に結合するアプタマー、より好ましくは、オリゴ核酸又はペプチドアプタマー分子であってもよい。オリゴ核酸アプタマーは、反復ラウンドの選択、又はいわゆる指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化(SELEX技術)を通じて操作される。ペプチドアプタマーは、通常、タンパク質足場に両端で結合した可変ペプチドループで構成される。この二重の構造的制約により、ペプチドアプタマーの結合親和性がナノモル範囲に増加するものとする。前記可変ペプチドループの長さは、好ましくは10~20個のアミノ酸で構成され、足場は、改善された溶解性及びコンパシティー(compacity)特性を有する任意のタンパク質、例えばチオレドキシン-Aであってもよい。ペプチドアプタマーの選択は、例えば酵母ツーハイブリッドシステムなどの様々なシステムを使用して行うことができる。当業者は、当技術分野で周知の技術、例えばプラズモン表面共鳴測定によって特異的結合をどのように試験できるかをよく知っている。
【0028】
さらに、やはり好ましくは、標的化剤は、CD3の細胞外部分に天然に結合するタンパク質又はその断片であってもよい。そのようなタンパク質は、典型的には、CD3に特異的に結合することが可能なMHC I又はその断片、MHC II又はその断片を包含する。
【0029】
さらに好ましくは、標的化剤は、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)であってもよい。DARPinは、遺伝子操作された抗体模倣タンパク質であり、高度に特異的且つ高親和性の標的タンパク質結合を達成するように設計することができる。DARPinは、天然のアンキリンリピートタンパク質に由来する。典型的には、DARPinは、少なくとも3つのリピートモジュールを含み、そのうちの最もN末端及び最もC末端のモジュール(「キャップ」とも呼ばれる)は、タンパク質の疎水性コアを保護する(Binz et al. 2003)。
【0030】
用語「宿主細胞に導入されるべき目的の核酸」は、本発明によれば、宿主細胞、すなわち初代T細胞に導入されるべき任意の核酸、例えば、DNA又はRNAを指す。好ましくは、目的の核酸は、治療効果を達成するために宿主細胞において発現されるべき、治療上有効な目的の核酸である。したがって、受容体標的化遺伝子導入の影響を受ける初代T細胞の生物学的機能は、導入されるべき目的の核酸の発現の結果として、変化し得る、例えば、活性化又はサイレンシングされ得る。典型的には、初代T細胞に導入されるべき目的の核酸は、宿主細胞において発現される治療上有効なタンパク質をコードするか、又は宿主細胞において治療上有効な核酸分子を構成する。本発明に沿った好適な治療上有効なタンパク質は、酵素、阻害剤、アプタマー、抗体又はそれらの断片からなるリストから選択され得る。治療上有効なタンパク質の特定の例は、細胞間及び細胞内シグナル伝達分子、例えば、T細胞受容体(TCR)、例えば公知の腫瘍抗原(CD19、CD20、CEA、ErbB2などを含む)に対する、キメラ抗原受容体(CAR)、チェックポイント受容体及びチェックポイント阻害剤(例えばPD-1及びCTLA)、サイトカイン(例えばIL2、IL-7及びIL-15)及びサイトカイン受容体、転写因子、酵素、例えばヌクレアーゼ、及び他のゲノム編集剤、例えばCas、ARCUS及びTALENヌクレアーゼ、及びこれらに関連するベースエディタ、阻害剤、抗体、例えば抗PD-1、又はそれらの断片を含む。さらに、遺伝性障害を治療するために、治療用タンパク質は、公知の腫瘍抗原、例えばCD19、CD20、CEA、ErbB2に対するキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、治療用ゲノム編集剤、例えばCRISPR/Cas9エレメントなどの、不活性な変異型細胞タンパク質の機能的コピーをコードし得る。好適な治療上有効な核酸分子は、アプタマー、ヘアピンRNA、siRNA、ゲノム編集用のガイドRNA、及びノンコーディングRNAを含み得る。
【0031】
用語「増強された」は、本明細書で使用される場合、サンプルに含まれる宿主細胞を、宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む上記の遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の非存在下 存在下で接触させる方法において受容体標的化遺伝子導入に関して観察される参照効率と比較した、受容体標的化遺伝子導入の形質導入効率の増加を指す。受容体標的化遺伝子導入の形質導入効率は、当技術分野で公知の方法、好ましくは本明細書の他の箇所に記載される方法、より好ましくは以下の添付の実施例に記載される方法によって決定することができる。好ましくは、この用語は、本明細書で使用される場合、統計的に有意な形質導入効率の増加を指す。増加が統計的に有意であるかどうかは、例えば、スチューデントのt検定又はマン・ホイットニー検定を含む、標準的な統計手法によって決定することができる。好ましくは、宿主細胞としての初代T細胞への前記受容体標的化遺伝子導入は、前記チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で宿主細胞を接触させなかった対照と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、最大10倍、好ましくは少なくとも3倍増強される。
【0032】
用語「前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤」は、宿主細胞においてLCKのチロシンキナーゼ活性を低下させるか又は遮断することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤を指す。活性の低下は、本明細書で言及される場合、好ましくは、統計的に有意な活性の低下である。好ましくは、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤は、小分子、より好ましくは2-アミノチアゾール-5-芳香族カルボキサミド又はその誘導体である。LCKチロシンキナーゼの阻害剤であるチロシンキナーゼ阻害剤を同定するための技術は、当技術分野で周知である。さらに、好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、Src/Ablチロシンキナーゼ阻害剤でもあり、特にSrcチロシンキナーゼ阻害剤である。チロシンキナーゼ阻害剤をSrc/Ablチロシンキナーゼ又はSrcチロシンキナーゼの阻害剤と同定するための技術も、当技術分野で周知である。本発明に従って使用することができる好適なチロシンキナーゼ阻害剤は、WO2005077945又はWO2006121742に開示される。さらに、これらの文書に開示される化合物はまた、候補化合物がLCKチロシンキナーゼを阻害するかどうかを決定することによって、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤を同定するために使用され得る。本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤は、候補化合物がSrc/Ablキナーゼ、特に本明細書ではSrcチロシンキナーゼとも呼ばれるSrcキナーゼを阻害するかどうかを決定することによって、さらに同定され得る。
【0033】
より好ましくは、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤は、ダサチニブとしても知られる、'N-(2-クロロ-6-メチルフェニル)-2-[[6-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-2-メチル-4-ピリミジニル]アミノ]-5-チアゾールカルボキサミド又はその塩である。また好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、4-[(4-メチルピペラジン-1-イル)メチル]-N-{4-メチル-3-[(4-ピリジン-3-イルピリミジン-2-イル)アミノ]フェニル}ベンズアミド又はその塩(イマチニブ(imatinib))又は4-メチル-N-[3-(4-メチルイミダゾール-1-イル)-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-[(4-ピリジン-3-イルピリミジン-2-イル)アミノ]ベンズアミド又はその塩(ニロチニブ(nilotinib))である。また好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、4-[(2,4-ジクロロ-5-メトキシフェニル)アミノ]-6-メトキシ-7-[3-(4-メチルピペラジン-1-イル)プロポキシ]キノリン-3-カルボニトリル又はその塩(ボスチニブ(bosutinib))である。本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤として好適なさらなる化合物は、以下の通りである:N-(5-クロロ-1,3-ベンゾジオキソール-4-イル)-7-[2-(4-メチルピペラジン-1-イル)エトキシ]-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)キナゾリン-4-アミン(サラカチニブ(Saracatinib))、6,7-ジメトキシ-N-(4-フェノキシフェニル)キナゾリン-4-アミン(Srcキナーゼ阻害剤1)、7-シクロペンチル-5-(4-フェノキシフェニル)ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(RK 24466)、1-(tert-ブチル)-3-(p-トリル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミン(PP1)。
【0034】
典型的には、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤は、Srcキナーゼ阻害剤及びリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)阻害剤である。より典型的には、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤はダサチニブであるか、あるいは本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤はボスチニブであってもよい。
【0035】
本発明による受容体標的化遺伝子導入のための宿主細胞は、初代T細胞であるものとする。用語「初代T細胞」は、本明細書で使用される場合、T細胞を保有する生物から得ることができる任意のT細胞を指す。典型的には、前記生物は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは実験動物、例えばマウス、ラット、サル若しくはウサギ、又はペット若しくは家畜、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ若しくはヤギ、最も好ましくはヒトである。前記初代T細胞は、不死化するように遺伝子改変されていないことが理解される。初代T細胞は、細胞傷害性T細胞、Tヘルパー細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、Tメモリー細胞、又はγδT細胞であってもよい。典型的には、初代T細胞は、CD3陽性初代T細胞である。
【0036】
そのような初代T細胞を生物からどのように得ることができるかは、当技術分野で周知である。典型的には、初代T細胞は、例えば、前記生物から得られた血液サンプルからの細胞選別技術によって、精製又は単離することができる。初代T細胞は、以下の添付の実施例に記載されるように、単離又は精製後にT細胞培養培地中で培養されてもよい。
【0037】
本発明の方法では、初代細胞培養物などのサンプルに含まれる宿主細胞としての初代T細胞を、宿主細胞に導入されるべき遺伝子を含む、本明細書の他の箇所に記載される遺伝子導入ビヒクルと接触させる。接触は、本明細書で使用される場合、遺伝子導入ビヒクルが、想定される遺伝子導入のためのベクターとして作用できるように、2つの成分、すなわち、宿主細胞及び遺伝子導入ビヒクルを物理的に近接させることを指す。典型的には、遺伝子導入ビヒクル調製物は、サンプルに含まれる宿主細胞に添加される。宿主細胞としての初代T細胞を取得及び/又は培養するための好ましい技術は、以下の添付の実施例に記載される。
【0038】
前記接触は、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で実施されるものとする。チロシンキナーゼ阻害剤は、好ましくは、宿主細胞を、想定される遺伝子導入のための遺伝子導入ビヒクルと接触させる前に、宿主細胞を含むサンプル中にすでに存在していてもよい。したがって、遺伝子導入ビヒクルを培養物に添加する前に本明細書で言及されるように初代宿主細胞培養物を培養することは、チロシンキナーゼ阻害剤の存在下ですでに行われていてもよい。好ましくは、チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞を遺伝子導入ビヒクルと接触させる3時間前、2時間前、1時間前、30分前、20分前、10分前又は5分前に添加される。
【0039】
また好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、想定される遺伝子導入のための遺伝子導入ビヒクルと一緒に、又は宿主細胞を遺伝子導入ビヒクルと接触させた後に、宿主細胞を含むサンプルに添加され得る。しかし、後者の場合、遺伝子導入は、チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で起こることが想定される。したがって、宿主細胞を遺伝子導入ビヒクルと接触させた後にチロシンキナーゼ阻害剤が添加される場合、チロシンキナーゼ阻害剤の添加は、前記接触後すぐに、例えば5分後、10分後又は20分後に行われなければならない。好ましい接触は、以下の添付の実施例に記載される。
【0040】
本明細書において上記のように接触させるステップの後、接触ステップ後に得られる培養物中の宿主細胞は、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養されることになる。典型的には、培養は、宿主細胞を遺伝子導入ビヒクルと接触させる前の宿主細胞の培養と本質的に同じ培養条件、すなわち、宿主細胞としての初代T細胞についての培養条件下で行われる。好ましくは、培養は、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも5時間、少なくとも6時間、少なくとも7時間、少なくとも8時間、少なくとも9時間又は最大10時間の第1の培養期間、行われる。チロシンキナーゼ阻害剤の存在下での前記第1の培養期間の後、培養は、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤の非存在下で継続される。前記第2の培養期間は、好ましくは、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも1週間又は少なくとも2週間であり得る。好ましい培養条件は、以下の添付の実施例に記載される。
【0041】
第1及び/若しくは第2の培養期間中、並びに/又は接触中に、宿主細胞において受容体標的化遺伝子導入を促進する形質導入エンハンサーなどのさらなる薬剤が存在してもよい。用語「形質導入エンハンサー」は、本明細書で使用される場合、標的細胞のウイルス形質導入の増強を促進することが可能な薬剤として理解される。特に、形質導入エンハンサーは、ウイルスベクターから標的細胞への遺伝子導入を増強することが可能な薬剤として理解される。したがって、前記宿主細胞を、ステップ(a)及び/又はステップ(b)中に少なくとも1つのさらなる形質導入エンハンサーと接触させることが、本発明の方法において好ましくは想定される。より好ましくは、前記さらなる形質導入エンハンサーは、ベクトフシン-1、BX 795、シクロスポリンA、シクロスポリンH、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2、プロスタグランジンE2、ラパマイシン、ロスバスチン(Rosuvastin)カルシウム、及びスタウロスポリンからなる群から選択される。
【0042】
有利なことに、本発明の基礎となる研究では、Src/Ablチロシンキナーゼ阻害剤ダサチニブ及び/又はボスチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤が、典型的には遺伝子導入ビヒクルとしてのT細胞標的化レンチウイルスベクターによって媒介される、リンパ球への遺伝子送達の強力なエンハンサーであることが見出された。特に、ダサチニブ又はボスチニブによるT細胞の前処理により、CD3特異的LV(CD3LV)を使用したインビトロでの細胞指向性遺伝子導入が劇的に増加することが実証された。ダサチニブ前処理により、ベクター選択性又は細胞完全性に影響を与えることなく、非処理の対照細胞と比較して、T細胞への遺伝子導入率が3倍から最大10倍まで大幅に且つ予想外に増加した。さらに、ダサチニブによる形質導入の増強は、組換え抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激されたT細胞、及びサイトカインの存在下のみで培養されたT細胞の両方に対して有効である。完全に活性化されたPBMCでは、CD3-LVは、ダサチニブの存在下でT細胞の最大70%を形質導入することができ、これは、最適条件下で一般に使用されるVSV-LVについて観察される形質導入率に匹敵する。最近記載されたように、CD3-LVは、サイトカインのみで刺激されたT細胞を形質導入することができ、これはダサチニブの存在下で7倍改善され得る。しかし、サイトカインのみで刺激されたT細胞のVSV-LV形質導入は、著しいレベルの形質導入細胞をもたらさない。
【0043】
本発明の基礎となる所見のおかげで、初代ヒトリンパ球への高効率での専用の遺伝子送達が可能になる。T細胞を標的とする遺伝子導入ビヒクルは、他の細胞型は影響を受けないままで、T細胞標的集団のみの形質導入を確実にする。チロシンキナーゼ阻害剤ダサチニブ又はボスチニブなどの臨床的に承認された薬剤の使用は、そのようなアプローチにおいてインビボ適用に関しても簡単であることが理解される。ダサチニブによって引き起こされる形質導入の増加は、形質導入エンハンサーであるベクトフシン-1によるものよりもさらに強力であった。ダサチニブは、作用機序が完全に異なり独立しているため、ベクトフシンと相乗作用を示し、その結果、形質導入効率のさらなる増加をもたらし得る。
【0044】
本発明はまた、宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強するための前述の方法のいずれか1つのステップ、及び細胞性治療用組成物としてステップ(b)で得られた宿主細胞培養物を製剤化するさらなるステップを含む、細胞性治療用組成物の調製方法に関する。
【0045】
宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強するための前述の方法によって得られた宿主細胞培養物又はその単離された宿主細胞は、疾患を治療するための細胞性治療用組成物としてさらに製剤化され得ることが理解される。細胞性治療用組成物に含まれる細胞は、典型的には、対象に適用可能であり、且つ細胞にいかなる損傷も引き起こさない、薬学的に許容される溶液又は希釈液中に存在する。細胞性治療用組成物の細胞は、生物学的に活性な生細胞である。
【0046】
好ましくは、前記細胞性治療用組成物は、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症を治療するためのものである。
【0047】
用語「がん」は、本明細書で言及される場合、異常な、制御されない細胞増殖を伴う疾患のクラスに関する。好ましくは、本発明によるがんは、遺伝子療法又は免疫療法による治療に好適ながん、例えば、リンパがん、肺がん、乳がん、結腸がん、腎臓がん、前立腺がん、CNSにおけるがん、皮膚がんである。より好ましくは、がんは、リンパがん、典型的には白血病、最も好ましくはリンパ芽球性白血病である。
【0048】
用語「感染性疾患」は、本明細書で言及される場合、細菌又はウイルスなどの病原性侵入者によって引き起こされる任意の感染症に関する。他の病原性侵入者は、真菌、又は単細胞若しくは多細胞の寄生生物、例えば、ワーム(worm)、蠕虫又は節足動物であり得る。好ましくは、本発明による感染性疾患は、ウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症である。
【0049】
本発明はまた、
(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び
(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤
を含む、医薬に関する。
【0050】
用語「医薬」は、本明細書で使用される場合、薬学的活性化合物として、前述の成分、すなわち、(i)宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強するための遺伝子導入ビヒクル、及び(ii)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤を含む、医薬組成物を指す。
【0051】
典型的には、前記遺伝子導入ビヒクルは、薬学的に活性な化合物として初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む。より典型的には、前記の目的の核酸は、薬学的に活性な化合物である。さらにより典型的には、初代T細胞に導入されるべき目的の核酸は、薬学的に活性なタンパク質をコードするか、又は薬学的に活性な核酸分子を構成する。
【0052】
好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書の他の箇所で定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である。前記医薬は、治療上有効な用量で、本明細書の他の箇所に特定される様々な疾患又は障害のヒト又は非ヒトの療法に使用され得る。遺伝子導入ビヒクル及びチロシンキナーゼ阻害剤は、本発明による医薬中に、予め混合された形態で、又は別個の化合物として存在し得る。典型的には、両方とも予め混合された形態で存在し、遺伝子導入療法を必要とする患者に適用され得る。医薬は、好ましくは、局所又は全身投与用である。慣習的に、医薬は、筋肉内又は皮下に投与される。しかし、性質、及び所望の治療効果、及び作用機序に応じて、医薬は他の経路によっても投与され得る。医薬は、好ましくは、従来の手順に従って成分を標準的な医薬担体と組み合わせることによって調製される従来の剤形で投与される。これらの手順は、成分を所望の調製物に適切に混合又は溶解することを含み得る。好ましくは、医薬について溶液が想定される。薬学的に許容される担体の形態及び特性は、それが組み合わされることになる活性成分の量、投与経路及び他の周知の変動要素によって決定されることが理解される。
【0053】
担体は、製剤のその他の成分と適合性があり、且つそのレシピエントにとって有害ではないという意味で許容性でなければならない。用いられる医薬担体は、固体、ゲル、又は液体を含み得る。固体担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などである。液体担体の例は、リン酸緩衝食塩溶液、シロップ、油、水、エマルション、様々な種類の湿潤剤、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及びハンクス液などである。同様に、担体は、当技術分野で周知の時間遅延材料、例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルを単独で又はワックスとともに含み得る。前記好適な担体は、上に言及される担体及び当技術分野で周知の他の担体を含む。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvaniaを参照されたい。
【0054】
さらに、医薬はまた、他の担体、アジュバント、又は非毒性、非治療的、非免疫原性の安定剤などを含んでもよい。
【0055】
チロシンキナーゼ阻害剤の治療上有効な投薬量は、受容体標的化遺伝子導入を増強する、本発明の医薬に使用されるべきチロシンキナーゼ阻害剤の量を指す。受容体標的化遺伝子導入のための遺伝子導入ビヒクルの治療上有効な投薬量は、本明細書で言及される疾患又は状態に随伴する症状を予防、改善又は治療する遺伝子導入ビヒクルの量を指す。化合物の治療有効性及び毒性は、細胞培養物又は実験動物における標準的な薬学的手順、例えば、ED50(集団の50%に治療上有効な用量)及びLD50(集団の50%に致死的な用量)によって決定することができる。治療効果と毒性効果との間の用量比は、治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。投薬レジメンは、主治医及び他の臨床的要因によって決定される。医療分野で周知であるように、任意の一人の患者に対する投薬量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与時間及び投与経路、全般的健康状態、及び同時に投与されている他の薬物を含む、多くの要因によって決まる。経過は定期的な評価によってモニターすることができる。本明細書で言及される医薬は、本明細書に記載される疾患又は状態を治療又は改善又は予防するために少なくとも1回投与される。しかし、前記医薬は、複数回投与されてもよい。
【0056】
本発明による医薬はまた、その製剤化中に医薬に添加される薬物又は他の成分を含んでもよい。好ましくは、前記医薬は、本明細書の他の箇所に定義される形質導入エンハンサーをさらに含む。
【0057】
最後に、医薬の品質、薬学的安全性、及び有効性を確実にするために、医薬の製剤化は、GMP標準化条件などの下で行われることが理解されるべきである。
【0058】
本発明はさらに、がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症、又は(iii)単一遺伝子疾患の治療のための医薬の製造における、(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の使用に関する。
【0059】
本発明はまた、初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能であり、遺伝子導入ビヒクルは、CD3に特異的に結合する標的化剤、及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、チロシンキナーゼ阻害剤に関する。
【0060】
好ましくは、使用されるべき前記チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書の他の箇所で定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である。好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書の他の箇所で定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる。
【0061】
好ましくは、受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象は、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症、又は(iii)単一遺伝子疾患に罹患している。
【0062】
また、本発明に従って、初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクルが提供される。
【0063】
好ましくは、使用されるべき前記チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書の他の箇所で定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である。好ましくは、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書の他の箇所で定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる。
【0064】
好ましくは、受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象は、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症、又は(iii)単一遺伝子疾患に罹患している。
【0065】
本発明はまた、受容体標的化遺伝子導入を用いた、治療を必要とする対象を治療する方法であって、前記方法は、
(i)CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞としての初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、治療上有効な量の遺伝子導入ビヒクルを前記対象に投与し、前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能な、受容体標的化遺伝子導入を増強するのに有効な量のチロシンキナーゼ阻害剤を前記対象に投与するステップ、又は
(ii)本発明の方法によって得られた治療上有効な量の初代T細胞を前記対象に投与するステップ
を含む、方法を企図する。
【0066】
以下に、本発明の特定の好ましい実施形態について記載する。用語の説明及び定義は準用される。
【0067】
実施形態1。宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、前記方法は、
(a)サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び
(b)ステップ(a)で得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップ
を含む、方法。
【0068】
実施形態2。前記チロシンキナーゼ阻害剤が、Src/Ablチロシンキナーゼ阻害剤、好ましくはSrcキナーゼ阻害剤である、実施形態1に記載の方法。
【0069】
実施形態3。前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ダサチニブ、イマチニブ、及びニロチニブからなる群から選択され、好ましくは前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ダサチニブである、実施形態1又は2に記載の方法。
【0070】
実施形態4。前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ボスチニブである、実施形態1~2のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
実施形態5。前記宿主細胞を、ステップ(a)及び/又はステップ(b)中に少なくとも1つのさらなる形質導入エンハンサーと接触させる、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0072】
実施形態6。前記さらなる形質導入エンハンサーが、ベクトフシン-1、BX 795、シクロスポリンA、シクロスポリンH、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2、プロスタグランジンE2、ラパマイシン、ロスバスチンカルシウム、及びスタウロスポリンからなる群から選択される、実施形態5に記載の方法。
【0073】
実施形態7。前記初代T細胞が、CD3陽性初代T細胞である、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0074】
実施形態8。宿主細胞としての初代T細胞への前記受容体標的化遺伝子導入が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で宿主細胞を接触させなかった対照と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、最大10倍、好ましくは少なくとも3倍増強される、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0075】
実施形態9。実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法のステップ、及びステップ(b)で得られた宿主細胞培養物を細胞性治療用組成物として製剤化するさらなるステップを含む、細胞性治療用組成物の調製方法。
【0076】
実施形態10。前記細胞性治療用組成物が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症を治療するためのものである、実施形態9に記載の方法。
【0077】
実施形態11。
(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び
(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤
を含む、医薬。
【0078】
実施形態12。初代T細胞に導入されるべき目的の前記核酸が、治療上有効な目的の核酸である、実施形態11に記載の医薬。
【0079】
実施形態13。初代T細胞に導入されるべき目的の核酸が、宿主細胞において発現される治療上有効なタンパク質をコードするか、又は宿主細胞において治療上有効な核酸分子を構成する、実施形態11又は12に記載の医薬。
【0080】
実施形態14。前記チロシンキナーゼ阻害剤が、実施形態2又は3に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、実施形態11~13のいずれか1つに記載の医薬。
【0081】
実施形態15。前記医薬が、実施形態5に定義される形質導入エンハンサーをさらに含む、実施形態11~14のいずれか1つに記載の医薬。
【0082】
実施形態16。がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病の治療に使用するための、実施形態11~15のいずれか1つに記載の医薬。
【0083】
実施形態17。感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIVの治療に使用するための、実施形態11~15のいずれか1つに記載の医薬。
【0084】
実施形態18。(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症、又は(iii)単一遺伝子疾患の治療のための医薬の製造における、(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の使用。
【0085】
実施形態19。初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能であり、チロシンキナーゼ阻害剤は、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルと組み合わせて使用される、チロシンキナーゼ阻害剤。
【0086】
実施形態20。初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクル。
【0087】
実施形態21。前記チロシンキナーゼ阻害剤が、実施形態2又は3に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、実施形態19に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項20に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【0088】
実施形態22。前記チロシンキナーゼ阻害剤が、実施形態5に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、実施形態19に記載の使用のためのチロシンキナーゼ、実施形態20に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル、又は実施形態21に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤又は使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【0089】
実施形態23。受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、実施形態19に記載の使用のためのチロシンキナーゼ、実施形態20に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル、又は実施形態21又は22に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤又は使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【0090】
実施形態24。受容体標的化遺伝子導入を用いた、治療を必要とする対象を治療する方法であって、前記方法は、
(i)CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞としての初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、治療上有効な量の遺伝子導入ビヒクルを前記対象に投与し、前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能な、受容体標的化遺伝子導入を増強するのに有効な量のチロシンキナーゼ阻害剤を前記対象に投与するステップ、又は
(ii)実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法によって得られた治療上有効な量の初代T細胞を前記対象に投与するステップ
を含む、方法。
【0091】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、その開示内容全体及び本明細書で特に言及される開示内容に関して参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0092】
実施例は単に本発明を説明するものであり、保護の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0093】
実施例1:ダサチニブは、時間及び用量依存的に、完全に活性化されたPBMCのCD3標的化形質導入を増強する。
CD3標的化形質導入に対するダサチニブの効果を評価するために、IL-2又はIL-7/15を補充したTCM中で抗(α)CD3及びαCD28抗体の存在下で3日間活性化したPBMCを、3つのCD3標的化LV、すなわち、TR66-LV、TR66.opt-LV及びHuM291-LV、並びに対照としてのCD4-LV、CD8-LV若しくはVSV-LVとともにインキュベートした。細胞は、形質導入1時間前に0.39~100nMの間のダサチニブ含有培地を受け、これを形質導入3、5又は7時間後に細胞から除去した。特に、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、同意を与えた健康な匿名のドナーの血液から単離した。細胞を解凍し、抗ヒトCD3(aCD3、クローンOKT3)及び抗ヒトCD28(aCD28、15E8、両方ともMiltenyi Biotec)で3日間活性化するか、又は単離して、IL-2(50U/ml)又はIL-7(25U/ml)及びIL-15(U/ml)(すべてMiltenyi Biotec)を補充したT細胞培地(TCM;0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン及び25mM HEPES(Sigma-Aldrich)を含有する完全RPMI)中で一晩インキュベートした後に新たに使用した。ダサチニブ(Selleck Chemicals、DMSO中で再構成)の存在下でのPBMCのT細胞形質導入の増強のために、8×10e4個の細胞/ウェルの完全に活性化された又はIL-7/15刺激されたPBMCを、96ウェルプレート中に播種した。細胞を、IL-2(50U/ml)又はIL-7(25U/ml)及びIL-15(5U/ml)を補充した100μLのTCM中に播種し、形質導入の1時間前に、0.39~100nMダサチニブを培養培地に添加した。850×g及び32℃で90分間の遠心分離によるスピンフェクションの後、細胞を、5μLの適切なレンチウイルスベクターストック(粒子数/MOI)で形質導入した。
【0094】
形質導入を、形質導入エンハンサーVF-1によってさらに促進した。ダサチニブ及びベクトフシン-1なしの培養培地を、対照形質導入に使用した。T細胞における導入遺伝子発現を、フローサイトメトリーによって形質導入3日後及び7日後に評価した。特に、一部の実験において形質導入のさらなる増強のために、ベクトフシン-1(VF-1)(Miltenyi Biotec)を、ベクターとともに5~10分間インキュベートし、その後、形質導入ミックスを細胞に添加し、スピンフェクションを行った。スピンフェクション後、異なるダサチニブ濃度を含有する、又はダサチニブなしの新鮮な培地100μLを添加し、細胞を37℃で培養した。ダサチニブとのインキュベーション開始から3時間、5時間又は7時間後に、培地を、ダサチニブなしのIL-2又はIL-7/15を有する新鮮なTCMに交換した。細胞を、37℃でさらに培養し、形質導入3~4日後及び7日後にフローサイトメトリーによって導入遺伝子発現について分析した。ベクター力価を、LV希釈液から1ミリリットルあたりの形質導入単位(T.U./mL)で決定し、これは導入遺伝子陽性細胞の数と線形相関を示し、次の式を使用して計算した:
【0095】
【0096】
3つすべてのCD3標的化LV(TR66-LV、TR66.opt-LV及びHuM291-LV)による形質導入は、ダサチニブの存在下で5~10倍増加した。CD8-LV及びVSV-LVによる形質導入は、影響を受けず、CD4-LV形質導入は、遺伝子導入のわずかな増加を示した(
図1A~B)。非処理条件では、CD3標的化TR66-LVは、4%のGFP発現に達し、これはダサチニブの存在下では30%のGFP発現に増加した(
図1A)。ダサチニブの存在下での形質導入中にVF-1を添加した場合、TR66-LVについてほぼ70%のさらに高い形質導入が達成され、CD3標的化LVについて全体で3~5倍の形質導入増加を観察できた(
図1B)。遺伝子導入は、すべての条件で形質導入後7日で安定したままであった。また、非処理細胞と比較して、ダサチニブの存在下で生存は損なわれなかったが、VF-1及びダサチニブと組み合わせたVF-1による処理は、形質導入後7日目に生存の極端な低下をもたらした(
図1C~D)。
【0097】
CD3標的化LVの力価は、ダサチニブの存在下で、レポーター遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)を送達する場合(CD3-LV(GFP))、5~11倍増加し、CD19キメラ抗原受容体(CAR)を送達する場合(CD3-LV(CAR))、3~16倍増加した(
図1E~F)。非処理条件では、CD3-LV(GFP)は、約1e6T.U./mLの力価に達し、これは、ダサチニブの存在下で1e7~1e8T.U./mLに増加した(
図1E)。
【0098】
形質導入の増強は、ダサチニブ濃度の増加と正の相関があった。最低濃度の0.39nMダサチニブは、CD3標的化LVによる形質導入を増強するに十分ではなかったが、一方、1.56nMダサチニブで開始した場合、形質導入は、非処理細胞と比較して1.6倍の増加を示した(
図2)。50nM以上の濃度は、形質導入における3倍の増加に達し、この構成ではこれが到達できる最大値であると思われた。50nMを超えるダサチニブ濃度では、細胞の生存は、わずかに低下した(
図2C)。さらに、細胞のダサチニブとのインキュベーション時間は、形質導入の増強に影響を与えた。5~7時間のより長い処理は、形質導入の増強を増加させ、一方、3時間後のダサチニブ含有培地の除去は、より長いインキュベーション時間と比較して10~35%低い形質導入をもたらした(
図3)。これらの結果は、50nMダサチニブを含有する培地で活性化T細胞を5時間インキュベートすることが、CD3標的化LV形質導入について最適条件であり、ダサチニブ非存在下での形質導入と比較して遺伝子導入の増強を可能にすることを証明した。
【0099】
実施例2:ダサチニブは、最小限に刺激されたPBMCのCD3標的化形質導入を増強する
次のステップでは、IL-7/15のみに一晩曝露した新たに単離されたPBMCを、100nMダサチニブとともにインキュベートし、その1時間後に、VF-1の存在下又は非存在下でベクター粒子とともにインキュベートした。完全に活性化されたPBMCと同様に、ダサチニブは、CD3標的化LVによる形質導入を3~8倍増強した(
図4A)。形質導入中にダサチニブ処理細胞にVF-1を添加すると、TR66-LV媒介遺伝子導入が10%に増加し、これは活性化PBMCと比較してよりわずかな増加である(
図4B)。重要なことに、ダサチニブは、非活性化細胞のT細胞生存に悪影響を及ぼさず、活性化PBMCと比較して、VF-1で処理した細胞は、7日目に十分な生存を示した(
図4C~D)。活性化マーカーCD25の発現を追跡することにより、形質導入の4日後に、ダサチニブなしのCD3-LV形質導入細胞と比較して、ダサチニブで処理したCD3-LV形質導入細胞の間で、活性化状態の違いを観察することができた(
図4E)。活性化抗体とともにインキュベートした細胞と同様に、CD3-LV処理細胞は、約30~50%のバックグラウンド発現と比較して、80%超までCD25発現の上方制御を示した。しかし、ダサチニブの存在下では、活性化抗体又はCD3-LVとのインキュベーションは、CD25発現の増加を引き起こさなかった。これらの結果は、チロシンキナーゼLCK1、2の阻害を通じてダサチニブによって誘導されることが知られているT細胞活性化の妨害を強調する。
【0100】
実施例3:ダサチニブは、殺滅能力が変化していない効率的なCAR T細胞を生成する、CD3標的化LVによるキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入を増加させる
ダサチニブによって引き起こされる形質導入の観察された増加がCAR遺伝子導入に適用可能であることを検証するために、活性化PBMCを、100nMダサチニブを補充したTCM+IL-2とともにインキュベートし、2つのCD3標的化LVであるTR66-LV及びTR66.opt-LV、又はVSV-LV(検出用のmycタグを含有するCD19-CARを送達する)で形質導入した。形質導入3日後のフローサイトメトリーにより、0.3%未満のCD3-LV形質導入細胞での低CAR発現が明らかになり、これは、形質導入中にダサチニブが存在する場合、最大10%のCAR発現まで増加した(
図5)。また、VF-1の存在下では、ダサチニブは、形質導入を1.6%から13%に増加させた(
図5C)。殺滅活性を評価するために、CAR T細胞を、CellTraceViolet(CTV)標識化CD19+ Nalm-6細胞とともに、サイトカインなしのNutriT培地中で、0.5:1のエフェクター:標的比で共培養し、こうして、異なるCAR T細胞含有量を補った。死滅した標的細胞のパーセントを決定する、4時間後及び24時間後のフローサイトメトリーによって、腫瘍殺滅を測定した。4時間後、非形質導入(ut)T細胞は、標的細胞の20%を殺滅し、一方、ダサチニブの存在下(+dasat.)又は非存在下で生成されたCAR T細胞は、約40%の腫瘍殺滅に達した(
図8A)。共培養開始から24時間後、CD19-CAR T細胞は、ほぼすべてのNalm-6細胞を殺滅し、一方、非形質導入T細胞は、約70%の腫瘍殺滅にのみ達した(
図8B)。
【0101】
反復殺滅アッセイでは、活性化PBMCを、50nMダサチニブを含有するサイトカインなしの培地中でインキュベートし、CD3-LV(CAR)で形質導入した。ダサチニブ及びLVとのインキュベーション後、細胞を洗浄し、1:1のエフェクター対標的比でNalm-6細胞と共培養した。1日置きに、細胞を、フローサイトメトリーによる分析のために取り出し、増加する数のCTV標識化Nalm-6細胞を、残りのウェルに添加した(
図8C)。腫瘍細胞殺滅を、フローサイトメトリーにより1日置きに分析したところ、ダサチニブの非存在下(CD3-LV)及び存在下(CD3-LV+dasat.)で生成されたCAR T細胞条件について、2日目から開始して8日目まで完全な標的細胞殺滅が示された(
図8D)。ダサチニブあり(ut+dasat.)又はなし(ut)でインキュベートした非形質導入T細胞は、4日目以降、増加する量の標的細胞を除去できなかった。CD3-LV(CAR)による形質導入中のダサチニブの存在により、非処理細胞と比較して全体的なCAR発現が増加した(
図8E)。殺滅アッセイの8日目における疲弊及び表現型マーカーについての抗体染色によるCAR T細胞のフローサイトメトリー分析により、形質導入中のダサチニブ処理に依存するCAR T細胞の特性に違いがないことが明らかになった(
図8F~H)。
【0102】
ダサチニブの存在下でCD3-LV(CAR)でPBMCを形質導入すると、増加した数のCD19+ CAR T細胞の生成が可能になる。これらのCAR T細胞は、数日間にわたって増加する量の標的細胞を効率的に殺滅することができる。
【0103】
実施例4:ダサチニブは、CD3標的化LVの活性化PBMCへの結合を増強する
ダサチニブの形質導入増強特性の背後にあるメカニズムを理解するために、完全に活性化されたPBMCを、上記のようにCD3標的化LVとともにインキュベートし、ダサチニブとのインキュベーションの開始及び形質導入から7、24及び72時間後にフローサイトメトリーによって分析した。細胞を、抗His-PEで染色し、細胞に結合したLVの検出を可能にした。
【0104】
細胞に結合したCD3-LVの量は、細胞をダサチニブで処理した場合、大幅に増加した。これは、初期の時点(ダサチニブ処理開始から7時間後)で特に顕著であり、ダサチニブ非存在下でベクター結合がバックグラウンドレベルに戻った24時間後にも検出可能であった(
図6)。この所見は、ダサチニブが、細胞表面上の標的化受容体(この場合はCD3)の量を増強し、その存在を延長し、こうして、より多くのCD3標的化LVが標的T細胞に結合できるようになり、その結果、より良好な形質導入がもたらされることを示唆する。
【0105】
実施例5:ダサチニブは、Lckの阻害によりCD3-LV標的化形質導入を増強する
ダサチニブの形質導入増強特性の背後にあるメカニズムを理解するために、IL-7/15のみに一晩曝露した新たに単離されたPBMCを、100nMダサチニブとともにインキュベートし、その1時間後に、ベクター粒子又は活性化抗体αCD3/αCD28とともにインキュベートした。活性化抗体とともにインキュベートした細胞と同様に、CD3-LV処理細胞は、約20~50%のバックグラウンド発現と比較して、80%超までCD25発現の上方制御を示した(
図7A)。しかし、ダサチニブの存在下では、活性化抗体又はCD3-LVとのインキュベーションは、CD25発現の増加を引き起こさなかった。これらの結果は、チロシンキナーゼLCKの阻害を通じてダサチニブによって誘導されることが知られているT細胞活性化の妨害を強調する(Schade et al. 2008、Lissina et al. 2009)。
【0106】
ダサチニブは、ABL、SRC及びc-KITを標的とする多標的チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。ダサチニブは、イマチニブに対する先天的又は後天的抵抗性のために最前線の治療ができないフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)慢性骨髄性白血病(CML)患者の治療を可能にするAbl阻害剤として重要性を増している(Luo et al. 2006)。イマチニブは、ABL、c-KIT及びPDGFRを標的とするTKIとして知られ、2001年以来、Ph+ CML患者における最前線の治療として役立っている。イマチニブ抵抗性を引き起こすABL変異体を治療するために、SRC/ABL阻害剤ボスチニブは、ダサチニブと重複するが異なるキナーゼ阻害特性を有することが特徴付けられている(Remsing Rix et al. 2009)。それとは別に、TKI及び細胞周期停止誘導物質であるゲニステインは、G2細胞周期停止によりVSV-LV媒介遺伝子導入を増強することが記載されている(Zhang et al. 2006)。形質導入の増加に必要な標的チロシンキナーゼをさらに決定するために、CD3-LV形質導入増強に対するこれらの異なるTKIの効果を試験した。
【0107】
この目的のために、完全に活性化されたPBMCを、適切なTKI濃度とともにインキュベートし、標的化LVで形質導入した。使用した濃度でABLを阻害するイマチニブは、いずれのベクターの形質導入の増加も引き起こさなかった(
図7B)。ゲニステインは、キナーゼ阻害によるものではなく、むしろG2細胞周期停止により、VSV-LV誘導性形質導入を増加させることが記載されている(Zhang et al. 2006)。この効果は、LVのHIVに基づく性質により生じるため、エンベロープに依存しない。HIV感染症は細胞周期に依存せず、細胞周期の後期G1/S/G2期で感染率が増加することが示されている。これはすべてのHIVに基づくベクターに当てはまるため、すべての標的化LVについて、導入遺伝子発現のわずかな増加を見ることができる(
図7)。対照的に、ボスチニブは、ダサチニブなどのLCKを妨害するSRC阻害剤として作用する。この場合、CD3-LVによる形質導入中のボスチニブによる処理は、ダサチニブと同様に、導入遺伝子発現の4倍の増加を誘導する(
図7B)。
【0108】
これらの結果は、ダサチニブの存在下での形質導入の増加が、ABL又は他のチロシンキナーゼではなく、SRCキナーゼLCKの阻害によって引き起こされることを強調する。
【0109】
実施例6:ダサチニブは、CD3標的化LVによる全血中のヒトT細胞の形質導入を増加させる
ベクター粒子が、赤血球、血小板、及び血漿中のタンパク質などの、血液中で活性なすべての成分の存在下でそれらの標的細胞を形質導入するため、ヒト全血中でのT細胞の形質導入は、インビボ様状況を模倣する。この構成にダサチニブを添加することにより、血液中で活性なすべての成分の存在下でのダサチニブのCD3-LV形質導入増強効果に関する知識が得られる。
【0110】
血液を、健康なドナーから採取し、120rpmで同時に振盪しながら、24ウェル形式で37℃にて100nMダサチニブとともにインキュベートした。1時間後、CD3-LV又はVSV-LVを添加し、培養を4時間継続した。PBMCを、Histopaque密度勾配を使用して、ダサチニブとのインキュベーション開始から5時間後に血液から単離した。単離されたPBMCを、NutriT培地+IL-7/15中で37℃で5~6日間培養し、フローサイトメトリーを使用して導入遺伝子発現について分析した。CD3-LVは、CD3+ T細胞に対する選択性を維持しながら、ダサチニブなしでは0.5%のGFP発現、及びダサチニブの存在下では2%を超えるGFP発現に達するCD3+細胞の選択的形質導入を示した(
図9B~C)。VSV-LVは、CD3+細胞とCD3-細胞とを区別することなく、すべての条件において低形質導入を媒介した。
【0111】
ダサチニブは、このアッセイに存在する他の成分及び細胞の影響を受けず、全血中のCD3-LVによるヒトT細胞の増加した、選択的な形質導入を可能にする。
【0112】
実施例7:ダサチニブは、ヒト化NSG(huNSG)マウスの脾細胞から単離されたT細胞の形質導入を増加させ、一部のNSGマウスにおけるインビボ形質導入を増加させる
インビボでのCD3-LV標的化形質導入に対するダサチニブの効果を試験する前に、ヒトCD34+細胞移植NSG(huNSG)マウスから単離された脾細胞を、標的細胞として使用した。新たに解凍した脾細胞を、IL-7/15を補充したNutri-T培地中でαCD3及びαCD28抗体の存在下で3日間活性化した。活性化された脾細胞を、8e4個の細胞/ウェルで播種し、50又は100nMダサチニブとともに1時間インキュベートし、その後、CD3標的化LVを添加した。さらに、完全に活性化されたヒトPBMCを、ダサチニブで処理し、CD3-LVで形質導入した。ダサチニブとのインキュベーション開始から5時間後に細胞を洗浄し、新鮮なNutriT培地+IL-7/15中で8日間培養した。
【0113】
ダサチニブの存在下では、huNSGマウスから単離されたCD45+脾細胞の形質導入は、7%から約25%のGFP発現まで増加した(
図10A)。CD3:TCR下方制御を誘導するT細胞活性化に対するダサチニブの阻害効果は、形質導入3日後にCD3受容体の平均蛍光強度(MFI)を測定した場合にうまく見えた。CD3-LV(w/o)とともにインキュベートすると、ヒトCD3受容体のMFIは、非処理細胞(ut)と比較して激しく減少した(
図10B)。ダサチニブの存在下では、CD3受容体のMFIは、CD3-LVの存在下でわずかにのみ減少した(50又は100nM dasat.)。
【0114】
次に、ダサチニブを、NSGマウス(NOD.Cg.PrkdcscidIL2rgtmWjl/Szj, Charles River Deutschland GmBH)を使用してインビボで試験した。ヒト化のために、1×107個のエクスビボで活性化されたPBMCを、静脈内(i.v.)尾静脈注射によって8週齢のマウスに移植した。ヒト化レベルを測定し、PBMC注射の11日後に採取した血液からのフローサイトメトリーによるマウスの群分けに使用した。翌日、ビヒクル(4%DMSO、33.3%PEG-300、5%Tween80、57.7%ddH2O)中で希釈した10mg/kgダサチニブを、CD3-LVのi.v.注射の1時間前に、マウスに腹腔内(i.p.)投与した。ベクター投与の7日後に動物を屠殺した。血液、脾臓及び骨髄を収集し、単一細胞懸濁液を調製し、フローサイトメトリーによって分析した。さらに、ゲノムDNAを、単一細胞懸濁液から単離し、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を使用したベクターコピー数(VCN)分析に使用した。
【0115】
CD3-LVで処置した8匹のマウスはすべて、CD3+細胞のみを標的とした血液から単離されたCD45+細胞の形質導入を示した(
図11B)。統計的に有意ではないが、GFP発現、及び血液細胞のゲノムDNAにおけるベクター組み込みの両方について、インビボで適用された場合にもダサチニブが遺伝子導入を増強するという明らかな傾向があった(
図11B)。
【0116】
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、
前記初代T細胞は、CD3陽性初代T細胞であり、前記方法は、
(a)サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び
(b)ステップ(a)で得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、Src/Ablチロシンキナーゼ阻害
剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ダサチニブ、イマチニブ、及びニロチニブからなる群から選択さ
れる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ボスチニブである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記宿主細胞を、ステップ(a
)又はステップ(b)中に少なくとも1つのさらなる形質導入エンハンサーと接触させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記さらなる形質導入エンハンサーが、ベクトフシン-1、BX 795、シクロスポリンA、シクロスポリンH、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2、プロスタグランジンE2、ラパマイシン、ロスバスチンカルシウム、及びスタウロスポリンからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
宿主細胞としての初代T細胞への前記受容体標的化遺伝子導入が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で宿主細胞を接触させなかった対照と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、最大10
倍増強される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法のステップ、及びステップ(b)で得られた宿主細胞培養物を細胞性治療用組成物として製剤化するさらなるステップを含む、細胞性治療用組成物の調製方法。
【請求項9】
前記細胞性治療用組成物が、(i)がん
、又は(ii)感染性疾
患を治療するためのものである、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び
(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤
を含む、医薬。
【請求項11】
初代T細胞に導入されるべき目的の前記核酸が、治療上有効な目的の核酸である、請求項
10に記載の医薬。
【請求項12】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項2~4のいずれか一項に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項
10又は
11に記載の医薬。
【請求項13】
前記医薬が、請求項6に定義される形質導入エンハンサーをさらに含む、請求項
10~
12のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項14】
が
んの治療に使用するための、請求項
10~
13のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項15】
感染性疾
患の治療に使用するための、請求項
10~
13のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項16】
(i)が
ん、又は(ii)感染性疾
患の治療のための医薬の製造における、(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の使用。
【請求項17】
初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能であり、チロシンキナーゼ阻害剤は、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルと組み合わせて使用される、チロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項18】
初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクル。
【請求項19】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項2又は3に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項
17に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項
18に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項20】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、請求項
17に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項21】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、請求項
18に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項22】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、請求項
6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、請求項
17に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項
18に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項23】
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)が
ん、又は(ii)感染性疾
患に罹患している、請求項
17に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項24】
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)が
ん、又は(ii)感染性疾
患に罹患している、請求項
18に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【請求項25】
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)が
ん、又は(ii)感染性疾
患に罹患している、請求項
17に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は請求項
18に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0115
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0115】
CD3-LVで処置した8匹のマウスはすべて、CD3+細胞のみを標的とした血液から単離されたCD45+細胞の形質導入を示した(
図11B)。統計的に有意ではないが、GFP発現、及び血液細胞のゲノムDNAにおけるベクター組み込みの両方について、インビボで適用された場合にもダサチニブが遺伝子導入を増強するという明らかな傾向があった(
図11B)。
(付記)
[付記1]
宿主細胞としての初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を増強する方法であって、前記方法は、
(a)サンプルに含まれる宿主細胞を、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む遺伝子導入ビヒクルと、前記宿主細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の存在下で接触させるステップ、及び
(b)ステップ(a)で得られた前記宿主細胞培養物を、受容体標的化遺伝子導入を可能にする時間及び条件下で培養するステップ
を含む、方法。
[付記2]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、Src/Ablチロシンキナーゼ阻害剤、好ましくはSrcキナーゼ阻害剤である、付記1に記載の方法。
[付記3]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ダサチニブ、イマチニブ、及びニロチニブからなる群から選択され、好ましくは前記チロシンキナーゼ阻害剤がダサチニブである、付記1又は2に記載の方法。
[付記4]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ボスチニブである、付記1又は2に記載の方法。
[付記5]
前記宿主細胞を、ステップ(a)及び/又はステップ(b)中に少なくとも1つのさらなる形質導入エンハンサーと接触させる、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
[付記6]
前記さらなる形質導入エンハンサーが、ベクトフシン-1、BX 795、シクロスポリンA、シクロスポリンH、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2、プロスタグランジンE2、ラパマイシン、ロスバスチンカルシウム、及びスタウロスポリンからなる群から選択される、付記5に記載の方法。
[付記7]
前記初代T細胞が、CD3陽性初代T細胞である、付記1~6のいずれか一項に記載の方法。
[付記8]
宿主細胞としての初代T細胞への前記受容体標的化遺伝子導入が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で宿主細胞を接触させなかった対照と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、最大10倍、好ましくは少なくとも3倍増強される、付記1~7のいずれか一項に記載の方法。
[付記9]
付記1~7のいずれか一項に記載の方法のステップ、及びステップ(b)で得られた宿主細胞培養物を細胞性治療用組成物として製剤化するさらなるステップを含む、細胞性治療用組成物の調製方法。
[付記10]
前記細胞性治療用組成物が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症を治療するためのものである、付記8に記載の方法。
[付記11]
(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び
(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤
を含む、医薬。
[付記12]
初代T細胞に導入されるべき目的の前記核酸が、治療上有効な目的の核酸である、付記11に記載の医薬。
[付記13]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、付記2~4のいずれか一項に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、付記11又は12に記載の医薬。
[付記14]
前記医薬が、付記6に定義される形質導入エンハンサーをさらに含む、付記11~13のいずれか一項に記載の医薬。
[付記15]
がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病の治療に使用するための、付記11~14のいずれか一項に記載の医薬。
[付記16]
感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIVの治療に使用するための、付記11~14のいずれか一項に記載の医薬。
[付記17]
(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症の治療のための医薬の製造における、(a)CD3に特異的に結合する標的化剤及び初代T細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクル、及び(b)前記初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤の使用。
[付記18]
初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するためのチロシンキナーゼ阻害剤であって、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能であり、チロシンキナーゼ阻害剤は、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルと組み合わせて使用される、チロシンキナーゼ阻害剤。
[付記19]
初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入を必要とする対象における初代T細胞への受容体標的化遺伝子導入の増強に使用するための、CD3に特異的に結合する標的化剤及び宿主細胞に導入されるべき目的の核酸を含む、遺伝子導入ビヒクルであって、遺伝子導入ビヒクルは、宿主細胞としての初代T細胞においてLCKチロシンキナーゼを阻害することが可能なチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用される、遺伝子導入ビヒクル。
[付記20]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、付記2又は3に定義されるチロシンキナーゼ阻害剤である、付記18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は付記19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
[付記21]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、付記6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、付記18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤。
[付記22]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、付記6に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、付記19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
[付記23]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、付記5に定義される形質導入エンハンサーと組み合わせて使用されることになる、付記18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は付記20に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
[付記24]
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、付記18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤。
[付記25]
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、付記19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
[付記26]
受容体標的化遺伝子導入を必要とする前記対象が、(i)がん、好ましくは白血病、より好ましくはリンパ芽球性白血病、又は(ii)感染性疾患、好ましくはウイルス感染症、より好ましくはHIV感染症に罹患している、付記18に記載の使用のためのチロシンキナーゼ阻害剤、又は付記19に記載の使用のための遺伝子導入ビヒクル。
【国際調査報告】