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特表2024-515620生物学的製剤の薬理動態および脳透過性を予測するためのインビトロにおける細胞ベースのアッセイ
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  • 特表-生物学的製剤の薬理動態および脳透過性を予測するためのインビトロにおける細胞ベースのアッセイ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】生物学的製剤の薬理動態および脳透過性を予測するためのインビトロにおける細胞ベースのアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240403BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240403BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240403BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C12Q1/06
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562826
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 US2022024345
(87)【国際公開番号】W WO2022221236
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】63/174,913
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/187,750
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リュウ, チャン
(72)【発明者】
【氏名】ロウ, ジョン ホク ニン
(72)【発明者】
【氏名】チャン, シャン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA36
2G045DA37
2G045FA40
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB08
2G045FB12
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR77
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
本開示は、分子の経細胞輸送またはリサイクルを測定するために有用な方法および組成物に関する。特に、本開示は、ヒトおよび動物における治療用抗体分子およびFc融合タンパク質のクリアランス速度を評価するためのインビトロ受容体依存性経細胞輸送またはリサイクルアッセイに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分子のリサイクルを決定することを含む方法であって、前記決定することが、
前記複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、
前記第1のチャンバーが、細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーが水溶液を含む、導入すること;
前記複数の分子を前記第1のチャンバー内でインキュベートすること;
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーの両方で前記水溶液を交換すること;ならびに
前記細胞層から前記第1のチャンバー内に放出される前記複数の分子の量を測定すること、を含み
前記水溶液が生理学的pHにあり、前記細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、方法。
【請求項2】
前記細胞層が細胞単層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子輸送を媒介する受容体が、トランスフェリン受容体、Fc受容体、メガリンまたはキュブリンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分子輸送を媒介する受容体が、新生児のFc受容体(FcRn)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞層から放出される前記複数の分子の量を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、または質量分析の使用を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の分子がFc含有分子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の分子が抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記FcRnが、ヒトRcRn、マウスFcRn、ラットFcRnおよびカニクイザルFcRnからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞層を横切って前記複数の分子の経細胞輸送を測定することをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記経細胞輸送を測定することが、
前記水溶液が前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーの両方で交換された後、前記第2のチャンバー内の前記複数の分子の量を測定することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
薬剤の存在下で前記第1のチャンバー内で前記複数の分子をインキュベートすることと、前記薬剤が前記複数の分子の前記リサイクルに影響を及ぼすかどうかを決定することとを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
複数の分子の組織浸透性を決定する方法であって、
a) 前記複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、前記第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーは水溶液を含み;
前記水溶液が生理学的pHにあり、前記細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;
b) 前記第1のチャンバーから前記細胞層にリサイクルされ、前記第1のチャンバーに戻る前記複数の分子の量を測定すること;
c) 前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーに経細胞輸送される前記複数の分子の量を測定すること;ならびに
d) 前記複数の分子の前記組織浸透性を、経細胞輸送される分子とリサイクルされる分子との比に基づいて決定することを含む、方法。
【請求項14】
リサイクルされる前記複数の分子を測定することが、
前記複数の分子を前記第1のチャンバーに導入した後、前記複数の分子を前記第1のチャンバー内でインキュベートすること;
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーの両方で前記水溶液を交換すること;ならびに
前記細胞層から前記第1のチャンバー内に放出される前記複数の分子の量を測定することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
経細胞輸送される前記複数の分子を測定することが、
前記複数の分子を前記第1のチャンバーに導入した後、前記複数の分子を前記第1のチャンバー内でインキュベートすること;
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーの両方で前記水溶液を交換すること;ならびに
前記細胞層から前記第2のチャンバー内に放出される前記複数の分子の量を測定することを含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞層が細胞単層を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記分子輸送を媒介する受容体が、トランスフェリン受容体、Fc受容体、メガリンまたはキュブリンである、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記分子輸送を媒介する受容体が、新生児のFc受容体(FcRn)である、請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
リサイクルされる前記複数の分子の量を測定すること、および経細胞輸送される前記複数の分子の量を測定することが、独立して、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、質量分析、またはそれらの任意の組合せの使用を含む、請求項13~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の分子がFc含有分子である、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の分子が抗体である、請求項13~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体が、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体、または抗gD抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記組織浸透性が脳浸透性である、請求項13~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
薬剤の存在下で前記第1のチャンバー内で前記複数の分子をインキュベートすることと、前記薬剤が前記複数の分子の前記組織浸透性に影響を及ぼすかどうかを判定することとを含む、請求項13~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
複数の分子の薬物動態(PK)パラメータを決定する方法であって、
a) 前記複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、前記第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーは水溶液を含み;
前記水溶液が生理学的pHにあり、前記細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;
b) 前記第1のチャンバーから前記細胞層にリサイクルされ、前記第1のチャンバーに戻る前記複数の分子の量を測定すること;ならびに
c) リサイクルされる前記複数の分子の量に基づいて前記PKパラメータを決定することを含む、方法。
【請求項27】
リサイクルされる前記複数の分子を測定することが、
前記複数の分子を前記第1のチャンバーに導入した後、前記複数の分子を前記第1のチャンバー内でインキュベートすること;
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーの両方で前記水溶液を交換すること;ならびに
前記細胞層から前記第1のチャンバー内に放出される前記複数の分子の量を測定することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞層が細胞単層を含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が異種FcRnを発現する、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞が、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である、請求項26~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
リサイクルされる前記複数の分子の量を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、または質量分析の使用を含む、請求項26~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記複数の分子がFc含有分子である、請求項26~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記複数の分子が抗体である、請求項26~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記抗体が、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体、または抗gD抗体である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記PKパラメータが、前記複数の分子のインビボクリアランス、分布容積、曲線下面積(AUC)またはインビボにおける半減期の測定値である、請求項26~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
薬剤の存在下で前記第1のチャンバー内で前記複数の分子をインキュベートすることと、前記薬剤が前記複数の分子の前記PKパラメータに影響を及ぼすかどうかを判定することとを含む、請求項26~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
a) 各チャンバーが生理学的pHの水溶液を含む、第1のチャンバーおよび第2のチャンバー;
b) 前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーを分離する細胞層であって、前記第1のチャンバーから前記細胞層内へ、および前記第1のチャンバー内に戻る分子のリサイクルを媒介し得る、細胞層;
c) 前記第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器、を備えるアッセイ系であって;
前記アッセイ系は、複数の分子のリサイクルを決定するように構成され、前記決定することは:
前記複数の分子を前記第1のチャンバーに導入すること;
前記複数の分子を前記第1のチャンバー内でインキュベートすること;
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーの両方で前記水溶液を交換すること;ならびに
前記細胞層から前記第1のチャンバー内に放出される前記複数の分子の量を測定することを含む、アッセイ系。
【請求項38】
前記アッセイ系が、
前記第2のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器をさらに備え;
前記細胞層が、前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を媒介し得るものであり;および
前記アッセイ系が、前記細胞層を横切る複数の分子の経細胞輸送を決定するように構成され、経細胞輸送を決定することが、前記水溶液が交換された後に、前記第2のチャンバー内の前記複数の分子の量を測定することを含む、請求項37に記載のアッセイ系。
【請求項39】
前記第1のチャンバーおよび前記第2のチャンバーが、96ウェルのトランスウェルプレートの構成要素である、請求項37または38に記載のアッセイ系。
【請求項40】
請求項37~39のいずれか一項に記載のアッセイ系と、使用説明書とを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月14日に出願された米国仮特許出願第63/174,913号、および2021年5月12日に出願された米国仮特許出願第63/187,750号の利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
配列表
【0002】
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2022年3月15日に作成されたASCIIコピーの名称は「P36572-WO_SL.txt」であり、サイズは16,584バイトである。
【0003】
本開示は、細胞層による分子のリサイクルを測定するのに有用な方法および組成物に関する。特に、本開示は、FcRnと相互作用する分子、例えば治療用抗体、Fc融合分子、およびアルブミンに連結された分子のインビボ薬物動態プロファイル(例えば、クリアランス速度および/または半減期)および組織浸透を評価するためのインビトロ受容体依存性リサイクルアッセイ、ならびにリサイクルおよび経細胞輸送アッセイに関する。
【背景技術】
【0004】
治療用モノクローナル抗体(mAb)は、様々な疾患の処置におけるそれらの立証された効果およびそれらの望ましい薬理特性により、世界中で主要なクラスの医薬品製品となってきている。mAb薬の好都合な薬理特性の1つは、それらの典型的には長い循環半減期である。バイオ医薬品の半減期を延長することにより、薬剤の投与頻度の低下および/または投与量の低下が可能になり、これにより、医療コストが低減し、患者のコンプライアンスが改善し、および/または濃度依存性細胞傷害性/有害事象が低減され得る。
【0005】
動物およびヒトにおけるmAb薬の薬物動態(PK)プロファイルを理解することにおいては、著しい進歩がなされてきた。多くのmAb薬物は、内因性IgGに類似するPK挙動を示すが、ヒトにおけるmAb薬物の非特異的クリアランス速度の実質的な不均一性が依然として一般的に観察されている。したがって、望ましいPK特性に関する臨床候補の評価および選択は、薬物開発中の初期における重要な段階である。インシリコ、インビトロおよびインビボ分析を伴う広範囲の技術が、ヒトにおけるmAbのPK挙動を評価し、および/または予測するために用いられてきたDostalekら,2017,MAbs 9(5):756-766)。しかしながら、動物からヒトへ、およびインビトロアッセイからインビボ読み出しへのPKデータの翻訳は、薬物開発者にとっては分かりにくいままである(Vugmeysterら,2012,World J Biol Chem 3(4):73-92)。さらに、ヒトFcRnトランスジェニックマウス(Averyら,2016,MAbs,8(6),1064-1078)および非ヒト霊長類(Dengら,2011,Drug Metab Dispos 38(4):600-605)などのいくつかの動物モデルは、mAbのヒトPKを予測するために首尾よく使用されているが、これらの研究は、通常は時間がかかり、費用がかかり、動物の犠牲を伴う。
【0006】
動物試験およびインビトロアッセイからmAbのヒトPKを予測する際には、多くの複雑さがある。標的介在性の薬物体内動態(TMDD)は、mAbの用量依存性PK挙動に影響を及ぼして、非線形分布および排除をもたらすことが公知である。TMDDの非存在下で、mAbは、標的非依存性の分子特異的な薬物異化作用を反映した線形排除および非特異的クリアランス速度を示すことが期待される。mAbの非特異的クリアランスは、新生児Fc受容体(FcRn)介在性サベージ経路が主要な役割を果たす細網内皮系におけるリソソーム分解によって主に介在される。構造的に、FcRnは、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI様分子と相同の膜貫通重鎖(FCGRT)および可溶性軽鎖、β2ミクログロブリン(B2M)で構成される、ヘテロ二量体である。FcRnは、酸性pH(6.5未満)で内因性IgGのFcドメインと結合するが、中性または塩基性pH(7.0超)では最小限のみである。この独自の特性は、FcRnがFc含有分子を、細胞への分子の取り込み後に酸性エンドソームにおいて結合することにより分解から保護し、次いで、それらを細胞表面へ輸送して戻し、生理的pHで循環中に放出することを可能にする。対照的に、FcRnに結合していない内在化分子は、分解のためにリソソームに誘導される(図1およびRoopenianら,Nat Rev Immunol.2007 Sep;7(9):715-25を参照されたい)。
【0007】
Fc含有タンパク質の半減期の延長におけるFcRnの寄与は十分に認識されているが(Roopenianら,2003,J Immunol,170(7),3528-3533)、ヒトにおけるmAb薬物についてのFcRn結合とPKとの間に相関がないという報告(Suzuki,2010;Zheng,2011;Hotzel,2012)は、FcRnに対する結合親和性がFc含有タンパク質の排出速度の唯一の決定因子ではないことを示唆している。細胞内移動におけるFcRnの機能を考慮すると、Fc含有分子/FcRn複合体のエンドソーム選別および移動の動力学は、FcRn介在性サルベージ機序の全体的効率、およびそれ故、分子の非特異的クリアランス速度に影響を及ぼす可能性が高い。さらに、飲作用またはエンドサイトーシスによる細胞取り込みのプロセス、ならびにリソソームにおける分解もまた、mAb分解の速度および程度の決定において役割を果たし得る(JunghansおよびAnderson,1996,PNAS93(11),5512-5516)。最後に、電荷/pI、疎水性、非特異的結合および他の因子などの生化学的特徴が、mAbの体内動態に影響を及ぼすことが報告されている(Datta-Mannanら,2015,MAbs7(3),483-493;Igawaら,2010Protein Eng Des Sel23(5),385-392;Sharmaら,2014PNAS111(52);Hotzelら,2012MAbs4(6),753-760)。これらの分子特徴は、FcRnとの「真の」相互作用をin vivoで変更するように、それら自体がmAb構造に影響し得るか、または、内在化のモード/速度ならびにリサイクリングおよび経細胞輸送を含むFcRn介在性細胞内移動経路の相対的割合を変更する非特異的細胞表面結合に寄与し得る。
【0008】
げっ歯類および非ヒト霊長類で行われるインビボ動物試験は、ヒトにおける治療抗体のPKを予測するために一般的に使用される(Averyら,MAbs,2016,8(6),1064-1078;Dengら,MAbs 2011,3(1),61-66)。これらのアプローチは、動物を犠牲にすることを必要とし、費用対効果が低く、ハイスループット方式で行い得ない。経験的なスケーリング法に基づいて、いくつかの場合、動物試験におけるPKは、ヒトにおけるPKの異種間差を忠実に予測し得ず、FcRn結合の種差、標的媒介性薬物体内動態、および示差的免疫応答の誘発に起因することが実証された(Wangら,2016,Biopharm Drug Dispos,37(2),51-65)。インビトロアッセイに対する取り組みは、時間および費用をかけずに、かつ、動物を節約するアプローチでPKを評価するために使用されている。これらの方法論のほとんどは、非特異的結合などのPKに影響を及ぼし得る分子特性(Hotzelら,MAbs2012,4(6),753-760)、FcRnの相互作用(Schlothauerら,MAbs2013,5(4),576-586;Soudersら,MAbs2015,7(5),912-921)およびヘパリンまたは細胞外マトリックス(de Ridderら,Cerebrovasc Dis2013,35(1),60-63;Kraftら,MAbs2020,12(1))の1つまたはサブセットを考慮に入れる。これらの方法は、通常、カットオフ閾値に依存し、時折、直接的PK予測においては成功することが限られ、予測精度を改善するために別の方法と組み合わせなければならなかった。
【0009】
抗体の実際の挙動のためのインビトロモデルがないことは、脳への浸透の状況における特に問題となる。中枢神経系(CNS)障害は深刻な健康上の負担であり、何十年もの間、CNS障害のための有効な治療法を開発する強い動機があった。血液脳関門は、密着結合を有する内皮細胞(その他)を含む高度に特殊化された組織であり、血流からCNSへの現在の治療薬の大部分の輸送を防ぐなど、脳への分子の通過を調節している。分子の脳浸透を改変するための様々な方法があるが、それらの有効性を評価するためのロバストなモデルなしで前臨床薬物開発にこれらの方法を適用することは非常に困難である。既存のモデルとインビボ結果との間の相関が低いため、潜在的な治療薬の脳浸透を経験的に試験しなければならないことが多く、これには時間がかかり、費用がかかる。
【0010】
ヒトFcRnを発現するように改変されたヒト微小血管内皮細胞(HMEC1)株が開発され、評価され、リサイクル/残留mAb比がヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるそれらの血清半減期と相関することが見出された(Grevysら,Nat Commun2018,9(1),621)。しかし、データセットは、はるかに増強されたFcRn結合親和性を有する操作されたIgGに限定されたが、治療用抗体においてより一般的に使用された正常なIgGフレームワークを含まなかった。さらに、細胞を通常の細胞培養プレートで培養したが、これは細胞の極性化には理想的ではなく、経細胞輸送成分がリサイクルサンプルに混入する可能性がある。
【0011】
したがって、治療分子の評価および選択を支援するために短時間で合理的なコストで実施し得る治療分子のインビボにおけるPK特性(例えば、クリアランス、半減期など)および脳への浸透を予測する方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
本開示は、目的の分子のリサイクル、ならびに目的の分子のリサイクルおよび経細胞輸送を含む、細胞膜への、および細胞膜からの目的の分子の移動または輸送を測定するのに有用な方法、アッセイ、アッセイ系、キットおよび組成物に関する。特に、本開示は、治療用抗体、Fc融合分子、およびアルブミンに連結された分子などの分子を含む、分子輸送受容体(例えば、FcRn)と相互作用する分子のインビボ薬物動態プロファイル(例えば、インビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿中濃度(Cmax/Cmin)を含む)の評価のためのインビトロ受容体依存性経細胞輸送おおびリサイクルアッセイを提供する。本明細書で提供される方法およびアッセイは、他の方法と比較して、試験分子(抗体を含む)のインビボPK挙動に影響を及ぼし得る複数の因子、例えば非特異的結合および細胞表面との相互作用、pH依存性結合(例えば、FcRn結合)および細胞内輸送経路をより十分に包含し得る。本明細書で提供される方法およびアッセイは、他の方法と比較して、目的の分子(抗体を含む)のインビボ組織浸透性(脳浸透性など)をより十分に予測および/またはモデル化し得る。他の方法および/またはアッセイと比較して、細胞の頂端側-基底側極性化の改善、および/または経細胞輸送成分に対するリサイクルのより明確な評価をさらに提供し得る方法およびアッセイが提供される。
【0013】
特定の実施形態では、本開示は、複数の分子のリサイクルを決定する方法に関する。例えば、決定することは、複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが、細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーが水溶液を含む、導入すること;複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含み得;水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む。
【0014】
特定の実施形態では、本方法は、細胞層を横切る複数の分子の経細胞輸送を測定することをさらに含む。特定の実施形態では、経細胞輸送を測定することが、水溶液が交換された後に、第2のチャンバー内の複数の分子の量を測定することを含む。
【0015】
特定の実施形態では、本方法は、薬剤の存在下で第1のチャンバー内で複数の分子をインキュベートすることと、薬剤が複数の分子のリサイクルに影響を及ぼすかどうかを決定することとを含む。
【0016】
特定の実施形態では、本開示は、複数の分子の組織浸透性を決定する方法であって、a)複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは水溶液を含み;水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;b)第1のチャンバーから細胞層にリサイクルされ、第1のチャンバーに戻る複数の分子の量を測定すること;c)第1のチャンバーから第2のチャンバーに経細胞輸送される複数の分子の量を測定すること;ならびにd)複数の分子の組織浸透性を、経細胞輸送される分子とリサイクルされる分子との比に基づいて決定することを含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、組織浸透性は脳浸透性である。
【0017】
特定の実施形態では、リサイクルされる複数の分子を測定することは、複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む。
【0018】
特定の実施形態では、経細胞輸送される複数の分子を測定することは、複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第2のチャンバー内に放出される分子の量を測定することを含む。
【0019】
特定の実施形態では、リサイクルされる複数の分子の量を測定すること、および経細胞輸送される複数の分子の量を測定することは、独立して酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、質量分析、またはそれらの任意の組合せの使用を含む。特定の実施形態では、組織浸透性は脳浸透性である。
【0020】
特定の実施形態では、本方法は、薬剤の存在下で第1のチャンバー内で複数の分子をインキュベートすることと、薬剤が複数の分子の組織浸透性に影響を及ぼすかどうかを決定することとを含む。
【0021】
特定の実施形態では、本開示は、複数の分子の薬物動態(PK)パラメータを決定する方法であって、a)複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは水溶液を含み;水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;b)第1のチャンバーから細胞層にリサイクルされ、第1のチャンバーに戻る複数の分子の量を測定すること;c)リサイクルされる複数の分子の量に基づいてPKパラメータを決定することを含む、方法に関する。
【0022】
特定の実施形態では、リサイクルされる複数の分子を測定することは、複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む。
【0023】
特定の実施形態では、細胞は異種FcRnを発現する。特定の実施形態では、リサイクルされる複数の分子の量を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、または質量分析の使用を含む。
【0024】
特定の実施形態では、PKパラメータは、複数の分子のインビボクリアランス、分布容積、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、またはインビボにおける半減期の測定値である。
【0025】
特定の実施形態では、本方法は、薬剤の存在下で第1のチャンバー内で複数の分子をインキュベートすることと、薬剤が複数の分子のPKパラメータに影響を及ぼすかどうかを判定することとを含む。
【0026】
特定の実施形態では、複数の分子は、複数の単一分子である。特定の実施形態では、複数の分子は、複数の別個の分子である。特定の実施形態では、細胞層は細胞単層を含む。特定の実施形態では、分子輸送を媒介する受容体は、分子の細胞内輸送を媒介する受容体である。特定の実施形態では、分子輸送を媒介する受容体は、トランスフェリン受容体、Fc受容体、メガリンまたはキュブリン(cubulin)である。特定の実施形態では、分子輸送を媒介する受容体は新生児型のFc受容体(FcRn)である。
【0027】
特定の実施形態では、細胞は、真核細胞、哺乳動物細胞または腎臓細胞である。特定の実施形態では、細胞は、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である。
【0028】
特定の実施形態では、細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、または質量分析の使用を含む。
【0029】
特定の実施形態では、複数の分子は、第1のチャンバー内で約1時間~約48時間インキュベートされる。特定の実施形態では、複数の分子は、第1のチャンバー内で約1時間~約30時間インキュベートされる。特定の実施形態では、水溶液を交換することは、第1のチャンバーを洗浄することを含む。特定の実施形態では、本方法は、測定前に第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを置換水溶液とインキュベートすることをさらに含む。特定の実施形態では、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは、測定前に1時間~6時間、置換水溶液とインキュベートされる。特定の実施形態では、インキュベーションは約35℃~約39℃の温度で行われる。
【0030】
特定の実施形態では、複数の分子はFc含有分子である。特定の実施形態では、Fc含有分子は受容体Fc融合分子である。特定の実施形態では、複数の分子は抗体である。特定の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、FcRnは、ヒトRcRn、マウスFcRn、ラットFcRn、およびカニクイザルFcRnからなる群から選択される。
【0031】
特定の実施形態では、生理学的pHは約7.4である。
【0032】
特定の実施形態では、本開示は、a)各チャンバーが生理学的pHの水溶液を含む、第1のチャンバーおよび第2のチャンバー;b)第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを分離する細胞層であって、第1のチャンバーから細胞層内へ、および第1のチャンバー内に戻る分子の再循環を媒介し得る、細胞層;c)第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器を備えるアッセイ系であって;該アッセイ系は、複数の分子のリサイクルを決定するように構成され、決定することは:複数の分子を第1のチャンバーに導入すること;複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む、アッセイ系に関する。
【0033】
特定の実施形態では、アッセイ系は、第2のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器をさらに備え;細胞層は、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を媒介し得るものであり;および細胞層を横切る複数の分子の経細胞輸送を決定するように構成され、経細胞輸送を決定することは、水溶液が交換された後に、第2のチャンバー内の複数の分子の量を測定することを含む。
【0034】
特定の実施形態では、本開示は、本開示のアッセイ系および/または方法を含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、pH依存性の捕捉および放出、ならびにリサイクル、経細胞輸送およびリソソーム分解を含む細胞内輸送経路を含むFcRnの作用機序の概略図を示す。
【0036】
図2図2は、本開示のリサイクルアッセイの特定の実施形態の概略図を示す。
【0037】
図3A図3Aは、実施例に記載されるようなリサイクルを定量するために使用される高感度ヒトIgG特異的酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)の概略図を示す。
【0038】
図3B図3Bは、図3Aに示すELISAアッセイの標準曲線を提供し、検出下限を示す。
【0039】
図4図4は、示差的Fc-FcRn結合親和性を有する様々なヒト化IgG1抗体のリサイクルおよび経細胞輸送出力がヒトFcRnによって影響を受けることを示す。
【0040】
図5図5A~5Bは、4種の治療用抗体における同様のリサイクル動態を実証する時間依存性リサイクル測定の比較を提供する。図5Aは、非正規化データを提供し、図5Bは、正規化データを提供する。
【0041】
図6図6は、野生型(WT)BACE-1抗体分子およびいくつかの配列バリアントについての経細胞輸送/リサイクル(T/R)比を示す。
【0042】
図7図7は、5種の抗BACE1mAbバリアントについてのカニクイザルにおける経細胞輸送/リサイクル(T/R)比および脳血清比の関係を示す。
【0043】
図8図8A図8Dは、計算されたpI(図8A)、Fv電荷(図8B)、HI和(図8C)、および一連の治療用抗体の本明細書中に記載される方法およびアッセイに従って行われる正規化されたリサイクルアッセイの出力と比較した、ヒトにおけるクリアランス速度を示す。図8A図8Cでは、クリアランス速度と、比較したパラメータとの間に相関が低いか、または相関がない。図8Dは、クリアランス速度と正規化されたリサイクル出力との相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本開示の主題を実施する際には、分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学における多くの従来技術が使用される。これらの技術は、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual第3版,J.F.SambrookおよびD.W.Russell,編.Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001;Recombinant Antibodies for Immunotherapy,Melvyn Little,編、Cambridge University Press 2009;“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,編,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,編,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubelら,編,1987,およびperiodic updates);“PCR:The Polymerase Chain Reaction,”(Mullisら,編,1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988);“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbasら,2001)にさらに詳細に記載されている。これらの参考文献、ならびに製造業者の使用説明書を含む、当業者に広く公知でありかつ信頼されている標準プロトコールを含有する他の参考文献の内容は、参照により本開示の一部として本明細書に組み込まれている。
【0045】
1.定義
別途指定のない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語、表記法、および他の科学用語は、本開示が関係する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有することが意図されている。場合によっては、一般的に理解される意味を有する用語は、明確性および/または容易な参照のために本明細書に定義され、本明細書にそのような定義を含めることは、必ずしも、当該技術分野において一般に理解されるものに対する実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。
【0046】
本明細書で使用される用語「含む」(「comprise(s)」、「include(s)」)、「有する」(「having」「has」)、「~できる」(「can」)「含有する」(「contain(s)」)、およびこれらの変形は、追加の行為または構造の可能性を排除しないオープンエンドの移行句、用語または単語であることが意図されている。単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうではない場合を除き、複数の指示対象を含む。また、本開示では、明示的に記載されているかどうかにかかわらず、本明細書に提示される実施形態または要素を「含む」、それら「から成る」、およびそれら「から本質的に成る」他の実施形態も企図されている。
【0047】
本明細書で用いられる場合、「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容誤差範囲内であることを意味し、これは、一部には、値を測定または決定する方法、すなわち、測定システムの制限に依存するものである。例えば、「約」とは、ある特定の実施形態では、当該技術分野での1回の実施当たり3つまたは3つよりも多くの標準偏差以内を意味し得る。あるいは、「約」とは、ある特定の実施形態では、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、または最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、例えば5倍以内、または2倍以内を意味し得る。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「培地」および「細胞培養培地」は、細胞を成長させるまたは維持するために使用される栄養源を指す。当業者には理解されるように、該栄養源は、成長および/もしくは生残のために細胞によって必要とされる成分を含有してよく、または細胞成長および/もしくは生残を支援する成分を含有してよい。ビタミン、必須または非必須アミノ酸(例えば、システインおよびシスチン)、および微量元素(例えば、銅)は、培地成分の例である。本明細書で提供される任意の培地は、インスリン、植物加水分解物および動物加水分解物のうちのいずれか1つまたは複数を補充したものであってもよい。
【0049】
本明細書で使用される場合、「薬物動態(PK)パラメータ」という語句は、限定するものではないが、複数の分子のインビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)、またはインビボにおける半減期(t1/2)を含む、当技術分野で公知の様々なPKパラメータのいずれかを指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「クリアランス」という用語は、分子またはポリペプチドが動物の血流から除去される速度を指す。動物は、例えば、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット、または他の齧歯動物)、非ヒト霊長類(カニクイザルなど)、イヌまたはヒトなどの哺乳動物であり得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「生理学的pH」という用語は、約6.5~約8.0のpHを指す。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5~約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8もしくは約7.9、または約6.5~約8.0の範囲内の任意の範囲である。
【0052】
細胞を「培養すること」とは、細胞を、細胞の生残および/または成長および/または増殖に好適な条件下にて、細胞培養培地と接触させることを意味する。
【0053】
本明細書で使用する場合、「分子」は、一般に、アッセイの対象である分子を指す。例えば、限定するものではないが、分子は、FcRnに天然に結合する(例えば、ポリペプチド、抗体、Fc含有分子など)か、またはFcRnに結合するように操作された任意の分子、例えば、限定するものではないが、アルブミン含有分子、ペプチドタグもしくは他のアミノ酸配列を介してFcRnに結合するように操作された分子、抗体、抗体断片、または以下に定義されるポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体であり得る。そのようなポリペプチド、タンパク質、抗体、抗体断片またはポリクローナルもしくはモノクローナル抗体は、天然に存在しないアミノ酸、非アミノ酸リンカーまたはスペーサーを含むが、これらに限定されない、天然に存在しない態様を含み得、他の組成物、例えば、小分子または大分子治療薬とのコンジュゲートを含み得る。
【0054】
本明細書で用いられる場合、「ポリペプチド」は、概して、約10より多くのアミノ酸を有するペプチドおよびタンパク質を指す。ポリペプチドは、宿主細胞に相同であることができる、または好ましくは、外因性であることができる。後者は、利用される宿主細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞により産生されるヒトタンパク質、または、哺乳動物細胞により産生される酵母ポリペプチドに対して異種である、すなわち、外部のものである、ということを意味する。特定の実施形態では、哺乳動物ポリペプチド(元々、哺乳動物生命体に由来したポリペプチド)が使用され、ある特定の実施形態では、本発明のポリペプチドが培地に直接分泌される。
【0055】
「タンパク質」という用語は、高次の三次構造および/または四次構造を生成するのに十分な鎖長を持つアミノ酸の配列を指す。これは、そのような構造を有しない「ペプチド」または他の低分子量の薬物と区別するためである。典型的には、本明細書のタンパク質は、少なくとも約15~20kD、特定の実施形態では、少なくとも約20kDの分子量を有する。本明細書の定義に包含されるタンパク質の例には、全ての哺乳動物タンパク質、特に治療用タンパク質および診断用タンパク質、例えば治療用抗体および診断用抗体、ならびに1以上の鎖間ジスルフィド結合および/または鎖内ジスルフィド結合を含む多重鎖ポリペプチドを含めた、1以上のジスルフィド結合を含むタンパク質が一般に含まれる。
【0056】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体、および所望の抗原結合活性を示す抗体断片を含むがこれらに限定されない様々な種類の抗体および抗体構造を包含する。
【0057】
本明細書で使用する場合、抗体の「抗体断片」、「抗原結合部」(もしくは単に「抗体部」)、または、抗体の「抗原結合断片」とは、抗原および/またはエピトープに結合するインタクトな抗体の一部を含むインタクトな抗体以外の分子を意味する。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2が挙げられるが、これらに限定されない。ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体から形成された抗体断片が挙げられる。
【0058】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」または「mAb」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、集団を含む個々の抗体は、例えば天然に存在する突然変異を含有するか、またはモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる可能性のあるバリアント抗体を除いて、同一であるおよび/または同じエピトープに結合し、そのようなバリアントは一般に少量存在する。モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の特徴を、抗体の実質的に均一な集団から得られると示すものであり、任意の特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に開示される主題に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法が挙げられるが、これらに限定されない、様々な技術によって作製し得、そのような方法およびモノクローナル抗体を作製するための他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0059】
「ハイブリドーマ」という用語は、免疫原の不死化細胞株と、抗体産生細胞との融合により産生される、ハイブリッド細胞株を意味する。この用語は、ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株とを融合した後、トリオーマ細胞株として一般に知られる形質細胞と融合した結果である、ヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の後代を包含する。さらに、この用語は、抗体を産生する、あらゆる不死化ハイブリッド細胞株、例えばクアドローマなどを含むことを意味する。例えば、Milsteinら,Nature,537:3053(1983)を参照のこと。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「細胞」とは、動物細胞、哺乳動物細胞、培養細胞、宿主細胞、組み換え細胞、および組み換え宿主細胞を意味する。このような細胞は一般に、適切な栄養素および/または成長因子を含有する培地に配置されたときに、増殖および生残可能な哺乳動物組織から入手される、またはその組織に由来する細胞株である。
【0061】
本明細書で使用される場合、「異種遺伝子」という用語は、チャイニーズハムスター卵巣細胞により産生されるヒトタンパク質をコードしている遺伝子、または哺乳動物細胞において産生される酵母ポリペプチドをコードしている遺伝子等、利用されている宿主細胞に対して外部のものであるタンパク質をコードしている遺伝子を指す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「複数の分子」には、複数の単一の分子、および複数の異なる分子が含まれる。複数の単一分子は、例えば、同じ抗体の2つ以上の物理的分子、同じ抗体断片の2つ以上の物理的分子、同じポリペプチドの2つ以上の物理的分子、または同じFc含有分子の2つ以上の物理的分子、または別の目的の分子の2つ以上の物理的分子であり得る。複数の異なる分子としては、1つの分子タイプの混合物(例えば、少なくとも2つの異なる抗体の物理的分子、少なくとも2つの異なる抗体断片の物理的分子、少なくとも2つの異なるポリペプチドの物理的分子、または少なくとも2つのFc含有分子の物理的分子)が挙げられるが、また分子タイプ間の混合物(例えば、1つ以上の抗体および1つ以上のポリペプチドの物理的分子;または1つ以上の抗体断片、1つ以上のポリペプチド、および1つ以上のFc含有分子など)が挙げられ得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、「試験分子」および「目的の分子」は、本明細書に記載されるアッセイ、方法、キット、およびシステムで評価される複数の分子の同一性を指す。複数の分子について記載されるように、そのような用語は、単一のタイプの分子(例えば、1つの抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)および2つ以上のタイプの分子(例えば、2つ以上の抗体、抗体断片、ポリペプチドもしくはFc含有分子、またはカテゴリーの組み合わせ)の両方を包含する。
【0064】
本明細書で使用される場合、「小分子」は、約2000ダルトン以下、または好ましくは約500ダルトン以下の分子量を有する、タンパク質またはポリペプチド以外の分子を指す。
【0065】
2.概要
本開示は、目的の分子(図1に示すような)のリサイクルなどの、細胞膜への、および細胞膜からの目的の分子の移動または輸送を測定するのに有用な方法、アッセイ、アッセイ系、キットおよび組成物に関する。本開示はさらに、目的の分子(図1に示すような)の経細胞輸送およびリサイクルを測定するために有用な方法アッセイ、アッセイ系、キットおよび組成物に関する。特に、本開示は、治療用抗体分子のクリアランス速度および/または半減期などのPKパラメータを評価するためのインビトロ受容体依存性リサイクルおよび経細胞輸送アッセイに関する。本明細書で詳細に開示されるように、本開示の方法によって測定された目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)の、場合により経細胞輸送とさらに組み合わせたリサイクルは、その分子のインビボクリアランスなどの細胞のPK特性と高度に関連する可能性がある。したがって、目的の分子のリサイクル、場合によっては経細胞輸送とリサイクルとの組み合わせを測定するための請求項に記載されている方法を使用して、分子のインビボクリアランス、ならびに複数の分子の半減期、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティおよび最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)などの他のPKパラメータを評価し得る。さらに、本開示の方法によって測定された、場合により経細胞輸送とさらに組み合わせた、目的の分子(例えば、抗体またはその抗体断片)のリサイクルは、インビボでの当該目的の分子の組織浸透と高度に関連する可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、目的の分子のリサイクル、およびいくつかの例では経細胞輸送とリサイクルとの組み合わせを測定するための請求項に記載された方法を使用して、当該目的の分子のインビボ組織浸透性を評価し得る。組織浸透性は、例えば、脳浸透性を含む場合がある。
【0066】
特定の実施形態では、本方法は、第1のチャンバー内の溶液からの1つ以上の分子の取り込み、および元の溶液が第2の溶液と交換された後の第1のチャンバーへのそれらの分子の戻りを測定することによって、第1のチャンバーから同じチャンバーへの複数の同じ目的の分子の経細胞リサイクルを測定することを含み、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーのそれぞれは、生理学的pH値(例えば、pH=約7.4)を有する。いくつかの実施形態では、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの複数の同じ目的の分子の細胞間輸送も評価される。他の実施形態では、本方法は、複数の異なる目的の分子(例えば、2種、3種、4種、5種、またはそれを超える種類の目的の分子)の細胞間リサイクルを測定することを含み、これは場合により、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの複数の異なる目的の分子の細胞間輸送を評価することを含み得る。当該アッセイの使用は、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを分離する細胞層を使用して行われる。特定の実施形態では、細胞層は、分子輸送を媒介する1つ以上の受容体を安定に発現する。そのような受容体は、トランスフェリン受容体、Fc受容体、メガリンまたはキュブリンを含むがこれらに限定されない任意の目的の受容体であり得る。
【0067】
したがって、例えば、一態様では、FcRn媒介IgGサルベージ経路に関連する条件下で、ポリペプチド、抗体、または他のFcRn結合分子のリサイクル効率、さらに場合により経細胞輸送を測定するために、ヒトFcRnおよびβ2-ミクログロブリン遺伝子を安定に発現するMDCK細胞を使用する細胞ベースのアッセイが本明細書で提供される。この経細胞輸送およびリサイクルアッセイは、生理学的pH条件下で行われ、IgGの細胞への非特異的結合、飲作用による取り込み、FcRnとのpH依存的相互作用、および細胞内輸送および選別プロセスの動態の2つ以上の複合効果からの結果を評価するように設計されている。この特定の実施形態では、FcRnの発現は、アッセイにおける試験分子の経細胞輸送およびリサイクルを促進するのに必要であり、観察された相関に直接寄与する。さらに、本明細書で提供されるもの等のアッセイは、前臨床種におけるFc含有分子の電荷またはグリコシル化バリアントのクリアランス速度を正しく順位付けし得た。実施例で提供される結果は、リード選択および最適化中の抗体医薬品候補、および所望の薬物動態学的特性のためのプロセス開発を含む、ポリペプチド、抗体、または他のFcRn結合分子の評価のための費用効果が高く、動物を節約するスクリーニングツールとしての本明細書に開示されるアッセイの有用性を支持する。
【0068】
本開示はまた、複数の分子の経細胞輸送/リサイクル(T/R)比を決定することによって複数の分子の組織浸透性を決定するのに有用な方法および組成物に関する。特定の実施形態では、本方法は、経細胞輸送された分子とリサイクルされた分子との比に基づいて、複数の分子の脳浸透性を決定することを含む。目的の分子の経細胞輸送およびリサイクルを測定し、T/R比を決定するための請求項に記載された方法は、分子の脳浸透性および半減期などの他のPKパラメータを評価するために使用し得る。本明細書で提供されるようなインビトロアッセイは、前臨床種におけるFc含有分子の脳浸透性との相関を実証した。したがって、実施例で提供される結果により、リード選択および最適化中の抗体薬物候補、および所望の組織浸透特性のためのプロセス開発を含む、ポリペプチド、抗体、または他のFcRn結合分子を評価するための費用効果が高く、動物を節約するスクリーニングツールとしての本明細書に開示されるアッセイの有用性が支持される。
【0069】
本開示は、本明細書で提供される方法、アッセイ、アッセイ系、キットおよび組成物を使用して、複数の同じ目的の分子(例えば、同じ種類の抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)または複数の2つ以上の目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチド、Fc含有分子、またはそれらの任意の混合物から選択される2つ以上の目的の分子)の移動または輸送(例えば、リサイクル、またはリサイクルおよび経細胞輸送)、1つ以上のPKパラメータおよび/または組織浸透性(例えば、脳浸透性)を評価し得る。
【0070】
3.リサイクルアッセイ、リサイクルおよび経細胞輸送アッセイ
再利用とは、細胞の片側から同じ側への高分子の小胞輸送を指す。リサイクルは、細胞膜の陥入において細胞が細胞外物質を取り囲んで小胞を形成し、次いで小胞を細胞内に移動させて、逆のプロセスによって同じ細胞膜を通して物質を排出する、細胞を通過する輸送のための機構である。図1を参照されたい。
【0071】
細胞の片側から他側への巨大分子の小胞輸送を指す経細胞輸送は、2つの環境間で、それらの環境の独自の組成を変更することなく、材料を選択的に動かすために、多細胞生物によって使用される戦略である。経細胞輸送は、細胞が細胞外物質を細胞膜の陥入に封入して小胞を形成し、次いで、該細胞を越えて該小胞を動かして、逆のプロセスにより反対側の細胞膜を経由して該物質を噴出する、経細胞輸送のための機序である。図1を参照されたい。
【0072】
典型的なFcRn介在性経細胞輸送アッセイでは、FcRn発現MDCK細胞を、トランスウェルプレート内のフィルタ膜上で集密度まで成長させ、アッセイの前に、内部チャンバーを酸性アッセイ緩衝液(pH<6.0)でおよび外部チャンバーを塩基性アッセイ緩衝液(pH>7.4)で充填することによってpH勾配を作成する。このアッセイ設計は、酸性pH下での細胞表面上のFcRnとの結合および塩基性pH下での試験分子の放出を介して試験分子の細胞取り込みを促進するためにFcRnのpH依存性結合特性を利用し、両方ともアッセイの堅牢性および感度を向上させる。しかしながら、当該アッセイを使用した試験分子のPK挙動の予測評価を改善し得た。トランスフェクトされた細胞は典型的には高レベルのFcRnを細胞表面上で発現し、試験抗体は酸性環境下で細胞とインキュベートされるので、酸性pHでFcRnに対して高い結合親和性を示す試験分子(抗体など)は容易にFcRnに結合し、FcRn媒介性エンドサイトーシスを介して細胞に入ると考えられる。これは、ポリペプチドまたは抗体が生理学的pH下で細胞表面FcRnに最小限に結合し、細胞取り込みが非特異的飲作用によって主に媒介されるインビボで典型的に起こることとは対照的である。結果として、理論に拘束されることを望むものではないが、pH勾配経細胞輸送アッセイの出力は、酸性pHでのポリペプチドまたは抗体のFcRn結合親和性によって大きく影響される可能性があり、したがって、静電相互作用および細胞内輸送パラメータなどのPKに影響を及ぼす他の因子の寄与を必ずしも十分に反映しない可能性があると考えられる。さらに、人工的なpH条件は、本質的に細胞にとって有害である可能性があり、アッセイの期間を制限し、潜在的にさらなるアッセイアーチファクトを生じさせる可能性がある。
【0073】
したがって、実施例においてより詳細に記載されるように、本明細書では、細胞環境内での分子の輸送を評価するための改善された方法が提供され、この方法は、1つ以上のPKパラメータ(例えば、インビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)またはインビボにおける半減期(t1/2))または組織浸透度(脳浸透度など)をより正確に決定または測定するためにさらに使用され得る。したがって、例えば、特定の実施形態では、本開示は、複数の分子のリサイクルを決定または測定するための方法を提供する。例えば、決定または測定することは、複数の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは水溶液を含み;複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートする導入すること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含み得;水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む。
【0074】
本明細書で提供される方法、アッセイおよび系の特定の実施形態では、生理学的pH値は約6.5~約8.0である。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5~約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8もしくは約7.9、または約6.5~約8.0の範囲内の任意の範囲である。特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、または逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。
【0075】
特定の実施形態では、本開示は、複数の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の薬物動態(PK)パラメータを決定する方法であって、a)複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは水溶液を含み;水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;b)第1のチャンバーから細胞層にリサイクルされ、第1のチャンバーに戻る複数の分子の量を測定すること;ならびにc)リサイクルされる複数の分子の量に基づいてPKパラメータを決定することを含む、方法に関する。特定の実施形態では、リサイクルされる複数の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)を測定することは、複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む。特定の実施形態では、複数の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)は、第2のチャンバー内で、約1時間~約48時間、約1時間~約30時間、約1時間~約24時間、約1時間~約12時間、約1時間~約6時間、もしくは約1時間~約4時間、またはその中の任意の値、例えば約1時間、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、約12時間、もしくは約18時間インキュベートされる。特定の実施形態では、水溶液を交換することは、第1のチャンバーを洗浄することを含む。特定の実施形態では、本方法は、測定前に第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを置換水溶液とインキュベートすることをさらに含む。特定の実施形態では、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは、測定前に、約10分~約12時間、約20分~約12時間、約30分~約6時間、約20分~約5時間、または約1時間~約4時間、またはその中の任意の値、例えば30分、1時間、2時間、3時間、または4時間、置換水溶液と共にインキュベートされる。特定の実施形態では、インキュベーションは、約35℃~約39℃、例えば約37℃の温度で行なう。いくつかの実施形態では、少なくとも200pg/mL、少なくとも100pg/mL、少なくとも50pg/mLまたは符号一桁のpg/mLの定量下限値(LLOQ)を有する定量方法が使用される。そのような方法としては、例えば、ビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fc、例えばビオチン-R10Zであり得る高親和性捕捉試薬を使用するELISAが挙げられ得る。特定の実施形態では、複数の分子は複数の同じ分子(例えば、同じ種類の抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)であり、他の実施形態では、複数の分子は複数の分子の混合物(例えば、1種以上の異なる抗体、抗体断片、ポリペプチドもしくはFc含有分子、またはそれらの混合物)である。
【0076】
特定の実施形態では、リサイクルの尺度は、第1のチャンバー内の溶液からの1種以上の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の取り込み、および元の溶液が第2の溶液に置き換えられた後のそれらの分子の第1のチャンバーへの戻りを測定することによって決定し得る。経細胞輸送も評価されるいくつかの実施形態では、経細胞輸送の尺度は、第1のチャンバー内の溶液から第2のチャンバー内の溶液への1種以上の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の経細胞輸送を測定することによって決定し得、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは細胞単層によって分離されており、各チャンバー内の溶液は生理学的pHにある。特定の実施形態では、複数の細胞は、真核生物、例えば哺乳動物、例えばげっ歯類(例えば、マウス、レート、モルモット、ハムスター、または他の哺乳動物)、イヌ、非ヒト霊長類(カニクイザルなど)、またはヒトに由来する。使用され得る細胞は、本明細書においてより詳細に記載される。特定の実施形態では、該細胞または複数の細胞は、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞であり得る。いくつかの実施形態では、複数の細胞は野生型である。他の実施形態では、該細胞は、1つ以上の目的の異種受容体を発現する。特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子およびB2M遺伝子からなる群から選択され得る。特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現し得る。特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含み得る。特定の実施形態では、分子のリサイクルおよび場合により経細胞輸送を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、または蛍光リーダーシステムの使用を含む。いくつかの実施形態では、分子のリサイクルおよび場合により経細胞輸送を測定することは、ナノモル濃度以下の目的の分子を評価し得る定量方法の使用を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも200pg/mL、少なくとも100pg/mLまたは少なくとも50pg/mLの、より低い定量下限値(LLOQ)を有する定量方法が使用される。そのような方法としては、例えば、ビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fc、例えばビオチン-R10Zであり得る高親和性捕捉試薬を使用するELISAが挙げられ得る。そのような高感度ELISA法は、本開示の実施例の節に記載されている。いくつかの態様では、そのような高感度定量法を使用してリサイクルを測定するが、低感度の方法を使用して経細胞輸送を評価する(例えば、ナノモル濃度のLLOQを用いる)。いくつかの実施形態では、高感度自動免疫アッセイプラットフォームを使用して、リサイクルおよび/または経細胞輸送された分子(例えば、Quanterix、Gyrolab、またはSingulex由来)を定量する。特定の実施形態では、本開示の方法は、測定された分子の量に基づいて、複数の分子のインビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)、またはインビボにおける半減期(t1/2)を決定することをさらに含み得る。特定の態様では、分子は、目的の受容体に自然に結合する分子、または目的の受容体に結合するように操作された分子であり得、ここで目的の受容体は複数の細胞によって発現される。したがって、いくつかの実施形態では、分子は、FcRnに天然に結合する分子またはFcRnに結合するように操作された分子である。特定の実施形態では、該分子は、Fc含有分子であり得る。特定の実施形態では、該分子は、抗体であり得る。特定の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体であり得る。特定の実施形態では、抗体は、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体(例えば、抗α4β7インテグリン抗体)、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体、または抗gD抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、オマリズマブ、ベバシズマブ、ベドリズマブ、トシリズマブ、アダリムマブ、抗BACE1 WT、抗BACE1バリアントYEY(変異:M252Y;N286E;N434Y)、抗BACE1バリアントYQAY(変異:M252Y;T307Q;Q311A;N434Y)、抗-BACE1バリアントYPY(変異:M252Y;V308P;N434Y)、抗-BACE1バリアントYY(変異:M252Y;N434Y)、抗-BACE1バリアントYLY1(Q6)(変異:M252Y;M428L;N434Y;Y436I)、または抗-BACE1バリアントYIY(T3)(変異:M252Y;Q311I;N434Y)であり得る。特定の実施形態では、該分子は、アルブミン含有分子であり得る。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5~約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8もしくは約7.9、または約6.5~約8.0の範囲内の任意の範囲である。特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、または逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。特定の実施形態では、PKパラメータ、例えば、複数の分子のインビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)またはインビボにおける半減期(t1/2)の尺度が決定される。他の実施形態では、別個にまたは組み合わせて、脳浸透性などの組織浸透性が決定される。
【0077】
特定の実施形態では、本開示は、a)各チャンバーが生理学的pHの水溶液を含む、第1のチャンバーおよび第2のチャンバー;b)第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを分離する細胞層であって、第1のチャンバーから細胞層内へ、および第1のチャンバー内に戻る分子の再循環を媒介し得る、細胞層;c)第2のチャンバーにおける分子の存在を検出するための検出器を備える、アッセイ系であって、該アッセイ系は、複数の分子のリサイクルを決定するように構成され、決定することが、複数の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)を第1のチャンバーに導入すること;複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む、アッセイ系に関する。細胞層を形成する細胞は、本明細書でさらに説明するように、細胞層を形成するために安定して成長し得るあらゆるものであってもよい。特定の実施形態では、該細胞は、細胞増殖培地中に約1×10細胞/ウェルの密度で播種され得る。細胞増殖培地は、選択された細胞を増殖させるための任意の適切な培地であり得る。特定の実施形態では、該細胞増殖培地は、10%のFBS、100単位のペニシリン/ストレプトマイシン、および5μg/mLのプロマイシンを補充した、DMEM高グルコースであり得る。いくつかの実施形態では、内側および外側チャンバー内の培地の容量は、独立して、25μL~500μL、または50μL~350μL、または50μL~200μLである。特定の実施形態では、該内部チャンバー内の培地は、100μLであり得、該外部チャンバー内の培地は、200μLであり得る。特定の実施形態では、該細胞は、平板培養後2日目に使用され得る。特定の実施形態では、該試験分子は、約100μg/mL(0.67μM)の最終濃度まで添加され得、37℃の組織培養インキュベーター内で24時間にわたってインキュベートされ得る。特定の実施形態では、ルシファーイエロー(ルシファーイエローCH、ジリチウム塩;Sigma Aldrich;セントルイス、ミズーリ州)は、細胞増殖培地中で調製し得、24時間のアッセイインキュベーションの最後の90分間に添加し得る。特定の実施形態では、アッセイ中におけるルシファーイエローの受動的通過のレベルは、外部チャンバー由来のサンプルにおける蛍光シグナルを、内部チャンバーのもので割ることによって算出され得る。特定の実施形態では、外側チャンバーにおいて0.1%を超えるルシファーイエローの受動的継代を示すウェル、すなわち、0.1%未満のルシファーイエローの受動的継代が使用されるウェルからの経細胞輸送およびリサイクルの結果を廃棄し得る。いくつかの実施形態では、検出器システムは、少なくとも200pg/mL、少なくとも100pg/mL、または少なくとも50pg/mLのLLOQなどで、ナノモル濃度以下の目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)を評価し得るものである。いくつかの実施形態では、検出器システムは、例えばビオチン-R10Zなどのビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fcであり得る高親和性捕捉試薬を使用するELISAアッセイを含む。そのような高感度の方法は、本明細書の実施例に記載されている。
【0078】
特定の実施形態では、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)は、トランスウェルアッセイの外側または内側チャンバーに添加し得、リサイクルは、適切なインキュベーション期間(パルス工程)後に、同じチャンバー(例えば、それぞれ外側チャンバーまたは内側チャンバー)内に存在する試験分子の量を測定し、培地を除去し、それを交換することによって検出し得る(チェース工程)。いくつかの実施形態では、試験分子の経細胞輸送はまた、反対側のチャンバー(例えば、それぞれ内側チャンバーまたは外側チャンバー)に存在する試験分子の量を測定することによって検出される。特定の実施形態では、試験分子は、細胞の頂端膜に曝露されたチャンバーから同じチャンバーにリサイクルされる。いくつかの実施形態では、試験分子は、細胞の基底外側膜に曝露されたチャンバーから同じチャンバーにリサイクルされる。なおさらなる実施形態では、試験分子は、細胞の頂端膜に露出したチャンバーから細胞の基底側膜に露出したチャンバーに経細胞輸送される。
【0079】
特定の実施形態では、本開示は、1つ以上の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のPKパラメータを決定または予測するための方法であって、a)2つのチャンバーのうちの第1のチャンバーに分子を導入することであって、第1のチャンバーが1つ以上の細胞によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの各々が生理学的pH値を有する、導入すること;ならびに第1のチャンバーから第1のチャンバーにリサイクルされた分子の数を測定することを含む方法を提供する。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5~約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8もしくは約7.9、または約6.5~約8.0の範囲内の任意の範囲である。特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、または逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。いくつかの態様では、PKパラメータは、インビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿中濃度(Cmax/Cmin)またはインビボにおける半減期(t1/2)である。特定の実施形態では、PKパラメータは、インビボクリアランスである。
【0080】
特定の実施形態では、アッセイ系は、第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器をさらに備え;細胞層は、第1のチャンバーから第1のチャンバーへの分子のリサイクルを媒介し得;アッセイ系は、細胞層から第1のチャンバーへの複数の分子のリサイクルを決定するように構成され、リサイクルを決定することが、水溶液が交換された後に、第1のチャンバー内の複数の分子の量を測定することを含む。いくつかの実施形態では、経細胞輸送も測定される。特定の実施形態では、アッセイ系は、第2のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器をさらに備え;細胞層は、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を媒介し得るものであり;および細胞層を横切る複数の分子の経細胞輸送を決定するように構成され、経細胞輸送を決定することは、水溶液が交換された後に、第2のチャンバー内の複数の分子の量を測定することを含む。いくつかの実施形態では、第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器は、少なくとも200pg/mL、少なくとも100pg/mL、または少なくとも50pg/mLのLLOQなどで、ナノモル濃度以下の目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)を評価し得る。いくつかの実施形態では、第2のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器は、同様の感度を有する。他の実施形態では、当該検出器は、例えば、ナノモル濃度範囲のLLOQを有していなくてもよい。
【0081】
特定の実施形態では、本開示は、複数の同じ分子または複数の異なる分子の経細胞輸送を測定するためのアッセイであって、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの各々が生理学的pH値を有し、第1のチャンバーが複数の分子を受け取り、第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を可能にし、分子を第1のチャンバーにリサイクルさせるように構成されている、アッセイを提供する。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5~約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8もしくは約7.9、または約6.5~約8.0の範囲内の任意の範囲である。特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、または逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。
【0082】
特定の実施形態では、本開示は、1つ以上の分子の1つ以上のPKパラメータを決定または予測するためのアッセイであって、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの各々が生理学的pH値を有し、第1のチャンバーが複数の分子を受容し、第1のチャンバーから第1のチャンバーへの分子のリサイクルを可能にするように構成され、場合により、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を可能にするように構成される、アッセイを提供する。特定の実施形態では、該生理的pH値は、約7.4である。いくつかの態様では、PKパラメータは、インビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿中濃度(Cmax/Cmin)またはインビボにおける半減期(t1/2)である。いくつかの実施形態では、PKパラメータはインビボクリアランスである。
【0083】
ある特定の実施形態では、該第1のチャンバーは、細胞の単層を含み得る。特定の実施形態では、アッセイに使用される細胞は、以下の「細胞」と題するセクション4に提供されるリストから選択される。特定の実施形態では、アッセイに使用される細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態では、真核細胞は哺乳動物細胞である。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は腎臓細胞である。いくつかの実施形態では、腎臓細胞は、げっ歯類、非ヒト霊長類、ヒトまたはイヌの細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はMDCK細胞である。特定の実施形態では、本開示にて記述される方法で使用される細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含み得る。特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子およびB2M遺伝子からなる群より選択され得る。特定の実施形態では、本開示にて記述される方法で使用される細胞は、細胞表面タンパク質を発現し得る。特定の実施形態では、該細胞表面タンパク質は、Fc受容体(FcR)を含む。特定の実施形態では、該細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。
【0084】
特定の実施形態では、該分子は、標識されているか、または非標識であり得る。標識分子の非限定的な例としては、3H-標識、蛍光標識分子、または放射性同位元素、例えば、I-125およびP-32が挙げられる。
【0085】
特定の実施形態では、本開示の方法は、リサイクルされた分子、および場合により経細胞輸送された分子の数を測定することを含む。特定の非限定的な実施形態では、リサイクルまたは経細胞輸送された分子の数の測定は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、共焦点顕微鏡法、または生細胞イメージングシステム、またはそれらの任意の組み合わせによって実施し得る。リサイクルされた分子および経細胞輸送された分子について異なる検出方法の使用が企図される。いくつかの実施形態では、測定方法は、例えば、少なくとも200pg/mL、少なくとも100pg/mLまたは少なくとも50pg/mLのLLOQを用いて、ナノモル濃度以下の目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の濃度を評価し得る方法である。いくつかの実施形態では、検出器システムは、例えばビオチン-R10Zなどのビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fcであり得る高親和性捕捉試薬を使用するELISAアッセイを含む。特定の実施形態では、異なる方法が使用され、ここで、リサイクルを測定するために使用される方法は、ナノモル濃度以下の濃度を評価し得、経細胞輸送を測定するために使用される方法は、そうではない。高感度自動イムノアッセイプラットフォーム(例えば、Quanterix、Gyrolab、またはSingulex由来)を使用して、リサイクルおよび/または経細胞輸送された分子を定量し得る。
【0086】
特定の実施形態では、本開示は、FcRn媒介IgGサルベージ経路に類似する条件下で、ヒトFcRnおよびB2Mを発現するMDCK細胞を介して、目的の分子(例えば、1つ以上の抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)のリサイクルおよび場合により経細胞輸送を測定するためのFcRn依存性細胞ベースのアッセイを提供する。特定の実施形態では、このアッセイの出力は、生理学的条件でのFc-FcRn相互作用だけでなく、目的の分子のインビボPK挙動に関連する非特異的結合、細胞取り込み、選別および細胞内輸送プロセスも含む。いくつかの実施形態では、目的の分子は、本明細書の他の箇所に記載されているものなどのIgG mAbである。いくつかの実施形態では、アッセイは、2つ以上の目的の分子のリサイクル、および場合により経細胞輸送を測定する。
【0087】
特定の実施形態では、本開示は、リサイクルを、多様な構造、機能および薬理学的特性を有する目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)の動物における1つ以上のPK特性と相関させるための方法およびアッセイを提供する。特定の実施形態では、PK特性は、インビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)、またはインビボにおける半減期(t1/2)である。いくつかの実施形態では、PKパラメータはインビボクリアランスである。いくつかの実施形態では、動物は、ヒトなどの哺乳動物、またはカニクイザルなどの非ヒト霊長類である。特定の実施形態では、本開示は、経細胞輸送およびリサイクルを、多様な構造、機能および薬理学的特性を有する目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子)の動物における組織浸透性と相関させるための方法およびアッセイを提供する。いくつかの実施形態では、組織浸透性は脳浸透性である。いくつかの実施形態では、動物は、ヒトなどの哺乳動物、またはカニクイザルなどの非ヒト霊長類である。
【0088】
特定の実施形態では、FcRnの発現は、アッセイにおけるmAbなどの目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のリサイクル、および場合により経細胞輸送(これも評価される場合)を促進し、評価される再利用とPKパラメータまたは組織浸透との間の観察された関連に寄与するために必要とされることがある。特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、前臨床種におけるFc含有分子の電荷またはグリコシル化バリアントの順序クリアランス速度をランク付けし得る。特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、リードの選択および最適化中の薬物候補(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の評価、ならびに所望の薬物動態学的特性のためのプロセス開発のための時間効率がよく、費用効果が高く、動物を節約するツールとして使用し得る。
【0089】
特定の実施形態では、本開示は、生理学的に適切な条件下で薬物(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のリサイクル効率を測定する細胞ベースのアッセイおよび方法を提供する。特定の実施形態では、ヒトFcRnおよびβ2-ミクログロブリン遺伝子を安定的に発現しているMDCK細胞は、本明細書で記述されているアッセイに関連して使用される。
【0090】
特定の実施形態では、本開示は、ヒトFcRn(Chaudhury C.ら,2003,J.Exp.Med.197,315-322)に結合することが知られているウシアルブミンを供給するウシ胎児血清を補充した正常細胞培養培地において生理学的pH下で実施される方法およびアッセイを提供する。
【0091】
特定の実施形態では、本開示は、分子が非特異的飲作用を介して細胞によって取り込まれ、アルブミンの存在下でヒトFcRnと相互作用し、FcRn媒介作用機序に関連する条件下で細胞によってリサイクルされる方法およびアッセイを提供する。いくつかの実施形態では、当該分子の少なくとも一部は、それらが取り込まれた細胞層の側にリサイクルされる。いくつかの実施形態では、当該分子の少なくとも一部は、細胞層の反対側に経細胞輸送される。特定の実施形態では、本開示は、細胞への非特異的結合、飲作用による取り込み、FcRnとのpH依存性相互作用、および/または細胞内輸送および選別プロセスの動態の複合効果を評価する方法および/またはアッセイの能力により、哺乳動物における目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のクリアランスを決定または予測するための方法およびアッセイを提供する。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、カニクイザルなどの非ヒト霊長類である。いくつかの実施態様では、哺乳動物はヒトである。
【0092】
特定の実施形態では、本開示は、目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の組織浸透性を決定または予測するための方法およびアッセイを提供する。特定の実施形態では、組織は脳組織である。特定の実施形態では、本開示は、分子のT/R比を決定することによって目的の分子の組織浸透性を決定または予測するための方法およびアッセイを提供する。特定の実施形態では、本開示は、細胞への非特異的結合、飲作用による取り込み、FcRnとのpH依存性相互作用、および/または細胞内輸送および選別プロセスの動態の複合効果を評価し、目的の分子のT/R比を決定する方法および/またはアッセイの能力により、哺乳動物における目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の組織浸透性を決定または予測するための方法およびアッセイを提供する。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、カニクイザルなどの非ヒト霊長類である。いくつかの実施態様では、哺乳動物はヒトである。
【0093】
特定の実施形態では、本開示は、哺乳動物において目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のPKパラメータを用いて得られたリサイクルおよびさらに場合により経細胞輸送出力を相関させるために使用される方法およびアッセイを提供する。いくつかの実施形態では、PKパラメータは、インビボクリアランス(CL)、分布容積(Vd)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、最大/最小血漿中濃度(Cmax/Cmin)またはインビボにおける半減期(t1/2)である。特定の実施形態では、本開示の方法およびアッセイの出力は、内側チャンバー(例えば、第1のチャンバー)の培地中のリサイクルされた分子の濃度(ng/mL)、または場合によりさらに外側チャンバー(例えば、第2のチャンバー)の培地中の経細胞輸送された分子の濃度であり得、アッセイの報告可能な値は、同じプレートからの少なくとも2つの複製ウェルの平均濃度であり得る。特定の実施形態では、方法および/またはアッセイの出力は、リサイクル率の尺度または対照分子に対するリサイクル分子の相対リサイクルの尺度であり得る。ある特定の実施形態では、該アッセイの出力は、経細胞輸送の速度の尺度、または、対照の分子と比べた、経細胞輸送された分子の相対的な経細胞輸送の尺度であり得る。なおさらなる実施形態では、アッセイの出力は、単独でまたは対照分子を基準として、リサイクルおよび場合により経細胞輸送に基づく計算値、例えば、経細胞輸送に対するリサイクルの比またはリサイクルに対する経細胞輸送の比であり得る。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、カニクイザルなどの非ヒト霊長類である。いくつかの実施態様では、哺乳動物はヒトである。
【0094】
なおさらなる実施形態では、本開示は、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のリサイクル、経細胞輸送、組織浸透性、PKパラメータまたは他の特徴に対する試験分子以外の1つ以上の薬剤の効果を決定するのに使用するための方法およびアッセイを提供する。そのような薬剤(二次分子と呼ばれることもある)は、例えば、小分子薬物などの小分子(例えば、タンパク質またはポリペプチドではない)であってもよく、またはペプチドであってもよく、またはポリペプチドであってもよく、または抗体もしくはその断片、またはそのような分子の複数もしくは組み合わせであってもよい。そのような薬剤は、試験分子に結合するか、もしくは試験分子に結合すると疑われるもの、または分子輸送を媒介する受容体への試験分子の結合を調節するもの、例えばFcRnへの試験分子の結合を調節するもの;もしくは評価されている系における目的の受容体に対するリガンドである(例えば、細胞層の1つ以上の細胞によって発現される受容体に対するリガンド);もしくは試験分子もしくは細胞層によって発現される受容体と相互作用することが知られているか、または疑われる。薬剤は、処方薬または店頭(OTC)薬などの治療用分子であってもよく、またはサプリメント、ビタミン、研究試薬、イメージング試薬、または他の関心対象の薬剤であってもよい。治療薬としては、免疫系、心血管系、内分泌系、胃腸管、腎臓系、呼吸器系、または中枢神経系の障害または状態を処置するため、または癌もしくは他の悪性腫瘍(化学療法薬および免疫療法薬を含む)、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症を処置するために使用されるものが挙げられ得る。2種以上の目的の薬剤の組み合わせも評価し得る。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書中に提供される方法は、1種以上の薬剤の存在下における試験分子のリサイクル、またはリサイクルおよび経細胞輸送を評価することを含む。当該1種以上の薬剤は、第1のチャンバーに含まれるが第2のチャンバーには含まれないか、または第2のチャンバーに含まれるが第1のチャンバーには含まれないか、または両方のチャンバーに含まれるか、または第1のチャンバーの第1の溶液に含まれるが、溶液が交換されるときには存在しないか、またはそれらの組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、アッセイ出力は、1種以上の薬剤の非存在下におけるリサイクル、またはリサイクルおよび経細胞輸送とさらに比較される。本明細書中に記載される方法およびアッセイに従って試験分子のリサイクル、またはリサイクルおよび経細胞輸送に対する1種以上の薬剤の効果を評価する能力は、例えば、1種以上の薬剤が試験分子の1つ以上のPKパラメータにどのように影響するか、または試験分子の組織浸透性(例えば、脳浸透性)にどのように影響するかを決定するために有用であり得る。本明細書中に記載される方法およびアッセイは、例えば、目的の分子のPKパラメータおよび/または組織浸透性に対する一般的に同時投与される薬物の影響を理解するために使用され得る。本明細書中に記載される方法およびアッセイは、例えば、細胞内輸送の機構、PKパラメータおよび/または組織浸透性を調べるために使用される場合がある。
【0095】
本開示はまた、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のリサイクル、経細胞輸送、組織浸透性、PKパラメータまたは他の特性に対する1つ以上の環境条件の変化の影響を決定する際に使用するための方法およびアッセイを提供する。そのような環境条件としては、例えば、1種以上の細胞培地成分の存在、非存在もしくは濃度、または温度、またはpH、または酸化、またはそれらの組み合わせが挙げられ得る。いくつかの実施形態では、組織浸透性は脳浸透性である。
【0096】
特定の実施形態では、本開示の方法およびアッセイの試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の選択は、臨床グレードの材料、ならびに処方情報、集団PKもしくは組織浸透モデルに基づく公開された報告、または線形PKもしくは組織浸透データが生成された社内臨床試験などの信頼できる情報源からの動物PKデータおよび/または動物組織浸透データの利用可能性に基づき得るが、これらに限定されない。特定の実施形態では、臨床グレードの材料の使用は、試験材料の品質が、ヒトPKまたは組織浸透性データが生成された臨床試験で使用されたものと一致し得ることを保証し得る。
【0097】
特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、候補をランク付けし、動物モデルで試験される分子の数を減らし、および/または必要な動物モデルの数を減らすことを目的として、リードの選択および最適化を支援するための、薬物候補(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の非特異的クリアランスにおける潜在的な責任のインビトロ評価のためのツールとして使用し得る。
【0098】
特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイを使用して、望ましくないもしくは非定型のPKもしくは組織浸透挙動を示す目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の調査、または脳への曝露を促進するための血液脳関門の通過、もしくは腫瘍標的化の改善のための腫瘍微小環境における処置の増強などの特殊な用途に関連する、リサイクル特性が改善された新規薬物(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有薬物を含む)の開発を支援し得る。そのような「改善されたリサイクル特性」は、いくつかの実施形態では血清半減期を増加させ得る別の分子と比較したリサイクルの増加を含み得る。特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、望ましくないもしくは非定型のPK挙動を示す目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の調査、または脳への曝露を促進するための血液脳関門の通過もしくは腫瘍標的化を改善するための腫瘍微小環境における処置の増強などの特殊な用途に適した、経細胞輸送特性が改善された新規薬物の開発を支援するために使用し得る。そのような「経細胞輸送特性の改善」としては、別の分子と比較した経細胞輸送特性の向上が挙げられ得る。さらにまた、特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、望ましくないもしくは非定型のPK挙動を示す目的の分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の調査を支援するため、または脳への曝露を促進するための血液脳関門の通過、もしくは腫瘍標的化を改善するための腫瘍微小環境における処置の増強などの特殊な用途に適切な経細胞輸送特性が改善された新規薬物の開発に使用され得る。そのような「経細胞輸送特性の改善」としては、別の分子と比較した経細胞輸送特性の増加が挙げられ得る。別の分子と比較して、経細胞輸送対リサイクル比が改善された新規薬物(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の開発を支援するための本明細書に記載のアッセイの使用がさらに企図される。そのような「改善された経細胞輸送対リサイクル比」(T/R比)は、例えば経細胞輸送の増加、リサイクルの減少、またはその両方に起因して、別の分子よりも高い比を含み得る。より高いT/R比は、別の分子と比較して、より良好な組織浸透性、例えばより良好な脳浸透性をもたらし得る。いくつかの実施形態では、目的の分子および/または薬物はmAbである。
【0099】
特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、臨床試験における最適な用量および投与スキームの設計を支援するための改善された機構に基づくPKモデルの開発のために使用され得る。特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイを使用して、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のインビトロ読み出しおよびインビボPKデータの間の相関を実証し得る。そのようなPKモデルおよび/またはデータとしては、インビボクリアランス(CL)、インビボにおける半減期(t1/2)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、分布容積(Vd)または最大/最小血漿中濃度(Cmax/Cmin)が挙げられ得る。
【0100】
特定の実施形態では、目的の分子、試験分子および/または複数の分子は、抗体であり得る。特定の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。特定の実施形態では、抗体は異なる構造組成(キメラ、ヒト化、および完全ヒト)を有し得る。特定の実施形態では、該抗体は、様々な重鎖および軽鎖配列(IgG1、IgG2およびIgG4重鎖、カッパおよびラムダ軽鎖)からなってよい。特定の実施形態では、該抗体は、異なる種類の標的(膜結合および可溶性)を認識してよい。特定の実施形態では、抗体は、様々な治療作用機序(作動性、拮抗性および細胞傷害性)を発揮し得る。特定の実施形態では、該抗体は、様々な経路(例えば、静脈内、筋肉内および皮下)を介して患者に投与される。特定の実施形態では、抗体は、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体(例えば、抗α4β7インテグリン抗体)、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体もしくは抗gD抗体、またはそれらの断片である。いくつかの実施形態では、抗体は、オマリズマブ、ベバシズマブ、ベドリズマブ、トシリズマブ、アダリムマブ、抗BACE1 WT、抗BACE1バリアントYEY(変異:M252Y;N286E;N434Y)、抗-BACE1バリアントYQAY(変異:M252Y;T307Q;Q311A;N434Y)、抗-BACE1バリアントYPY(変異:M252Y;V308P;N434Y)、抗-BACE1バリアントYY(変異:M252Y;N434Y)、抗-BACE1バリアントYLY1(Q6)(変異:M252Y;M428L;N434Y;Y436I)、もしくは抗-BACE1バリアントYIY(T3)(変異:M252Y;Q311I;N434Y)、またはそれらの断片である。いくつかの実施形態では、2つ以上の抗体が評価される。
【0101】
特定の実施形態では、目的の分子、試験分子および/または複数の分子は、それらのエフェクター機能を変化させ得る(例えば、限定されないが、アテゾリズマブ、デュルバルマブ)、二重特異性半抗体の会合を可能にし得る(例えば、限定されないが、エミシズマブ)、またはIgG4Fabアームを安定化し得る(例えば、限定されないが、ニボルマブ、ペンブロリズマブ)、操作された変異を有し得る。
【0102】
特定の実施形態では、目的の分子、試験分子、および/または複数の分子は、極端なFcRn結合親和性を示す抗体であり得る。特定の実施形態では、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類、またはヒト)におけるリサイクル読み出しとPKパラメータとの間で観察された相関関係は、典型的なFc領域を有する広範囲の抗体に適用され得る。特定の実施形態では、該試験分子は、変更されたFcRn結合活性を有するように操作されている抗体であってよい。特定の実施形態では、目的の分子、試験分子および/または複数の分子は、アルブミン含有分子、またはペプチドタグもしくは組換えタンパク質を介してFcRnに結合するように操作された任意の分子であり得る。特定の実施形態では、目的の分子、試験分子および/または複数の分子は、FcRnに自然に結合する分子であり得る。特定の実施形態では、目的の分子、試験分子および/または複数の分子は、FcRnに結合するように操作された分子であり得る。
【0103】
特定の実施形態では、本開示に記載される方法およびアッセイは、ヒトFcRnの発現が、リサイクルまたはリサイクルおよび経細胞輸送アッセイにおいて、効率的なリサイクル、ならびにいくつかの実施形態ではリサイクルおよび経細胞輸送に必要であるか否かを示すために使用され得る。
【0104】
特定の実施形態では、本開示の方法およびアッセイを使用して、FcRnとの相互作用が試験分子のリサイクル読み出しとPKパラメータとの間で観察された相関に寄与することを検出および/または示し得る。いくつかの実施形態では、インビボクリアランス(CL)、インビボにおける半減期(t1/2)、曲線下面積(AUC)、バイオアベイラビリティ、分布容積(Vd)、または最大/最小血漿濃度(Cmax/Cmin)である。
【0105】
特定の実施形態では、本開示の方法およびアッセイは、目的の分子、試験分子および/または複数の分子の受容体への結合分析のために使用され得る。特定の実施形態では、該受容体は、FcRn受容体であり得る。特定の実施形態では、試験分子は抗体であり得る。特定の実施形態では、受容体はトランスフェリン受容体であり得る。特定の実施形態では、受容体は、ヒト、マウス、ラット、またはカニクイザルのトランスフェリン受容体である。特定の実施形態では、受容体は、トランスフェリン1またはトランスフェリン2受容体である。特定の実施形態では、受容体は、UNIPROT P02786(TFR1_HUMAN)、UNIPROT Q9UP52(TFR2_HUMAN)、UNIPROT A0A2K5X958(A0A2K5X958_MACFA、cyno)、UNIPROT Q62351(TFR1_MOUSE)、UNIPROT Q9JKX3(TFR2_MOUSE)、UNIPROT Q99376(TFR1_RAT)、またはUNIPROT B2GUY2(TFR2_RAT)に記載されるトランスフェリン受容体である。いくつかの実施形態では、受容体は、UNIPROT P02786(TFR1_HUMAN)、またはUNIPROT Q9UP52(TFR2_HUMAN)に記載されている。特定の実施形態では、受容体はメガリン受容体であり得る。特定の実施形態では、受容体は、UNIPROT P98164(LRP2_HUMAN)、UNIPROT A2ARV4(LRP2_MOUSE)、またはUNIPROT P98158(LRP2_RAT)に記載のメガリン受容体である。特定の態様では、受容体はキュブリン受容体であり得る。いくつかの実施形態では、受容体は、UNIPROT O60494(CUBN_HUMAN)、UNIPROT Q9JLB4(CUBN_MOUSE)、UNIPROT O70244(CUBN_RAT)、またはUNIPROTA0A2K5USK6(A0A2K5USK6_MACFA,cyno)に記載されているキュブリン受容体である。
【0106】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのFcRn受容体は、ヒトFcRn受容体である。
【0107】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのヒトFcRn受容体の重鎖は、以下の配列を有する。AESHLSLLYHLTAVSSPAPGTPAFWVSGWLGPQQYLSYNSLRGEAEPCGAWVWENQVSWYWEKETTDLRIKEKLFLEAFKALGGKGPYTLQGLLGCELGPDNTSVPTAKFALNGEEFMNFDLKQGTWGGDWPEALAISQRWQQQDKAANKELTFLLFSCPHRLREHLERGRGNLEWKEPPSMRLKARPSSPGFSVLTCSAFSFYPPELQLRFLRNGLAAGTGQGDFGPNSDGSFHASSSLTVKSGDEHHYCCIVQHAGLAQPLRVELESPAKSSVLVVGIVIGVLLLTAAAVGGALLWRRMRSGLPAPWISLRGDDTGVLLPTPGEAQDADLKDVNVIPATA(配列番号1)
【0108】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのヒトFcRn受容体の軽鎖は、以下の配列を有する。MSRSVALAVLALLSLSGLEAIQRTPKIQVYSRHPAENGKSNFLNCYVSGFHPSDIEVDLLKNGERIEKVEHSDLSFSKDWSFYLLYYTEFTPTEKDEYACRVNHVTLSQPKIVKWDRDM(配列番号2)
【0109】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのFcRn受容体は、マウスFcRn受容体である。
【0110】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのマウスFcRn受容体の重鎖は、以下の配列を有する。SETRPPLMYHLTAVSNPSTGLPSFWATGWLGPQQYLTYNSLRQEADPCGAWMWENQVSWYWEKETTDLKSKEQLFLEALKTLEKILNGTYTLQGLLGCELASDNSSVPTAVFALNGEEFMKFNPRIGNWTGEWPETEIVANLWMKQPDAARKESEFLLNSCPERLLGHLERGRRNLEWKEPPSMRLKARPGNSGSSVLTCAAFSFYPPELKFRFLRNGLASGSGNCSTGPNGDGSFHAWSLLEVKRGDEHHYQCQVEHEGLAQPLTVDLDSSARSSVPVVGIVLGLLLVVVAIAGGVLLWGRMRSGLPAPWLSLSGDDSGDLLPGGNLPPEAEPQGANAFPATS(配列番号3)
【0111】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのマウスFcRn受容体の軽鎖は、以下の配列を有する。MARSVTLVFLVLVSLTGLYAIQKTPQIQVYSRHPPENGKPNILNCYVTQFHPPHIEIQMLKNGKKIPKVEMSDMSFSKDWSFYILAHTEFTPTETDTYACRVKHDSMAEPKTVYWDRDM(配列番号4)
【0112】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのFcRn受容体はラットFcRn受容体である。
【0113】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのラットFcRn受容体の重鎖は、以下の配列を有する。AEPRLPLMYHLAAVSDLSTGLPSFWATGWLGAQQYLTYNNLRQEADPCGAWIWENQVSWYWEKETTDLKSKEQLFLEAIRTLENQINGTFTLQGLLGCELAPDNSSLPTAVFALNGEEFMRFNPRTGNWSGEWPETDIVGNLWMKQPEAARKESEFLLTSCPERLLGHLERGRQNLEWKEPPSMRLKARPGNSGSSVLTCAAFSFYPPELKFRFLRNGLASGSGNCSTGPNGDGSFHAWSLLEVKRGDEHHYQCQVEHEGLAQPLTVDLDSPARSSVPVVGIILGLLLVVVAIAGGVLLWNRMRSGLPAPWLSLSGDDSGDLLPGGNLPPEAEPQGVNAFPATS(配列番号5)
【0114】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのラットFcRn受容体の軽鎖は、以下の配列を有する。MARSVTVIFLVLVSLAVVLAIQKTPQIQVYSRHPPENGKPNFLNCYVSQFHPPQIEIELLKNGKKIPNIEMSDLSFSKDWSFYILAHTEFTPTETDVYACRVKHVTLKEPKTVTWDRDM(配列番号6)
【0115】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのFcRn受容体は、カニクイザル(カニクイザル)FcRn受容体である。
【0116】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのカニクイザルFcRn受容体の重鎖は、以下の配列を有する。AESHLSLLYHLTAVSSPAPGTPAFWVSGWLGPQQYLSYDSLRGQAEPCGAWVWENQVSWYWEKETTDLRIKEKLFLEAFKALGGKGPYTLQGLLGCELSPDNTSVPTAKFALNGEEFMNFDLKQGTWGGDWPEALAISQRWQQQDKAANKELTFLLFSCPHRLREHLERGRGNLEWKEPPSMRLKARPGNPGFSVLTCSAFSFYPPELQLRFLRNGMAAGTGQGDFGPNSDGSFHASSSLTVKSGDEHHYCCIVQHAGLAQPLRVELETPAKSSVLVVGIVIGVLLLTAAAVGGALLWRRMRSGLPAPWISLRGDDTGSLLPTPGEAQDADSKDINVIPATA(配列番号7)
【0117】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットのカニクイザルFcRn受容体の軽鎖は、以下の配列を有する。MSPSVALAVLALLSPSGLEAIQRTPKIQVYSRHPPENGKPNFLNCYVSGFHPSDIEVDLLKNGEKMGKVEHSDLSFSKDWSFYLLYYTEFTPNEKDEYACRVNHVTLSGPRTVKWDRDM(配列番号8)
【0118】
特定の実施形態では、本発明の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットは、限定されないが、内在化、選別および細胞内輸送の動態、およびエキソサイトーシスなどの複数の因子の、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の回収プロセスの全体的な効率に対する寄与を評価するために使用され得る。特定の実施形態では、本開示の方法およびアッセイを使用して、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のPKを決定または予測するためのFcRn媒介サルベージ経路に関与する複数のパラメータを同定および/または検出し得る。
【0119】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットを使用して、試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)のインビトロリサイクルおよびインビボクリアランスの相関を検出し得る。特定の実施形態では、本開示のアッセイを使用して、BV ELISAまたはFvチャージ/pIと比較して、分子のインビトロリサイクルおよびインビボクリアランスの相関を検出し得る。
【0120】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットを使用して、インビボでの試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の分布および異化作用に対するグリコシル化の役割を評価および/または調査し得る。特定の実施形態では、該分子は、グリコフォームバリアントであり得る。
【0121】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットを使用して、細胞内輸送パラメータに対する分子へのシアル酸の付加の役割を評価し得る。特定の実施形態では、それらは、インビボでの分子の高マンノースおよび高シアル化グリコフォームバリアントのクリアランスにおけるさらなる機構の関与の分析に使用し得る。
【0122】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットは、それらのPKに関連する試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の排除機構としてのFcRn媒介性経細胞輸送およびリサイクルの研究のためのツールとして使用し得る。
【0123】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットは、FcRnと複合体化したIgGの分布を支配する分子機構の研究および解明のためのツールとして使用し得る。
【0124】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットは、ヒトにおける典型的なFcRn結合親和性を有する試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の標的非依存的、非特異的クリアランス機構を反映する出力を提供し得る。
【0125】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットは、多様な群のFc含有分子の分析に使用し得、PKに影響を及ぼすことが知られている因子に応答し得る。
【0126】
特定の実施形態では、本実施形態の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットを使用して、リサイクルアッセイならびにリサイクルアッセイおよび経細胞輸送アッセイに関与する因子を分析し、これらの因子がインビボクリアランスとどのように相関するかを理解し、この相関の定量的性質を定義し得る。
【0127】
特定の実施形態では、本実施形態の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットを使用して、リサイクルアッセイならびにリサイクルアッセイおよび経細胞輸送アッセイに関与する因子を分析し、これらの因子が組織浸透性とどのように相関するかを理解し、この相関の定量的性質を定義し得る。いくつかの実施形態では、組織浸透性は脳浸透性である。
【0128】
特定の実施形態では、本開示の方法、アッセイ、アッセイ系およびキットは、様々な細胞型/組織区画におけるリサイクル経路、経細胞輸送経路の中の、飲作用または内在化試験分子(例えば、抗体、抗体断片、ポリペプチドまたはFc含有分子を含む)の分布、ならびにIgGのクリアランスに関与する細胞におけるそのような分布を支配する分子機構の調査に使用し得る。
【0129】
特定の実施形態では、本開示は、リサイクルアッセイ系に関する。特定の実施形態では、本開示は、リサイクルおよび経細胞輸送アッセイ系に関する。例えば、限定するものではないが、そのような系は、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの各々が生理学的pHの水溶液を含む、第1のチャンバーおよび第2のチャンバー;第1のチャンバーと第2のチャンバーとを分離する細胞層であって、細胞層が、第1のチャンバーに導入された分子を細胞層に戻し、第1のチャンバーに戻す、細胞層;ならびに第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器を備える。特定の実施形態では、本明細書に開示されるアッセイ系は、哺乳動物細胞、例えばげっ歯類、イヌ、非ヒト霊長類、またはヒト細胞などの真核細胞の細胞層を用いる。いくつかの実施形態では、本明細書中に開示されるアッセイ系は、腎臓細胞の細胞層を用いる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるアッセイ系は、MDCK細胞の細胞層を用いる。いくつかの実施形態では、細胞層は単細胞層である。特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイ系は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む細胞を用いる。特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイ系は、FCGRT遺伝子およびB2M遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの異種遺伝子を含む細胞を用いる。特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイ系は、異種細胞表面タンパク質を発現する細胞を用いる。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイ系は、異種細胞表面タンパク質を発現する細胞を用い、ここで、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。特定の実施形態では、本明細書に開示されるアッセイ系は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、自動免疫アッセイプラットフォーム(例えば、Quanterix、Gyrolab、およびSingulex)、蛍光イメージング、または質量分析の使用を介してリサイクルされた分子の数を測定し得る。特定の実施形態では、本明細書に開示されるアッセイ系は、少なくとも200pg/mL、または少なくとも100pg/mL、または少なくとも50pg/mLのLLOQを有する方法、例えば高親和性捕捉試薬(例えば、ビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fc、例えばビオチン-R10Z)を使用するELISAアッセイを使用して、リサイクルされた分子の数を測定し得る。特定の実施形態では、本開示のリサイクルおよび経細胞輸送アッセイ系において、細胞層は、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を媒介し得る。いくつかの実施形態では、アッセイ系は、第2のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器をさらに備える そのような検出器は、第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器と同じタイプおよび/または同じLLOQを有してもよく、あるいは別のタイプおよび/または異なる感度、例えば低感度タイプ(例えば、ナノモル濃度範囲のLLOQを有する)であってもよい。
【0130】
4.細胞
本開示の方法、アッセイ、アッセイ系またはキットで使用される適切な細胞としては、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞が挙げられる。
【0131】
特定の実施形態では、脊椎動物細胞を使用し得る。有用な哺乳動物細胞株の非限定的な例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);初代ヒト内皮細胞;ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC);ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC);血管内皮細胞(EA.hy926);ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMEC);ヒト胎児腎臓細胞株(293、または例えばGrahamら、J.Gen Virol.36:59(1977)に記載された293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980)に記載されているTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝細胞(BRL3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えば、Matherら、AnnalsN.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982)に記載されているTRI細胞;MRC5細胞;およびFS4細胞である。有用な哺乳動物細胞株の更なる非限定的な例としては、DHFR-CHO細胞(Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA第77巻:第4216頁(1980年))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が挙げられる。ある特定の実施形態では、本開示の方法は、ハイブリドーマ細胞を使用し得る。例えば、限定としてではないが、ハイブリッド細胞株は、ヒトおよびマウスを含む任意の種のものであり得る。特定の実施形態では、本開示の方法は、初代および確立された内皮および/または上皮細胞を使用し得る。例えば、限定するものではないが、内皮細胞および/または上皮細胞は、caco-2、T-84、HMEC-1、MHEC2.6、HUVEC、および人工多能性幹細胞(iPSC)由来細胞(例えば、Lidington,E.A.,D.L.Moyes,ら.(1999)、“A comparison of primary endothelial cells and endothelial cells lines for studies of immune interactions”Transpl Immunol 7(4):239-246、またはYamaura,Y,B.D.Chapron,ら(2016)、“Functional Comparison of Human Colonic Carcinoma Cell Lines and Primary Small Intestinal Epithelial Cells for Investigations of Intestinal Drug Permeability and First-Pass Metabolism,”Drug Metab Dispos 44(3):329-335を参照されたい)であり得る。
【0132】
特定の実施形態では、開示される方法、アッセイ、アッセイ系またはキットで使用するための細胞は、分子、例えば受容体をコードする核酸を含み得る。特定の実施形態では、核酸は、1つ以上のベクター、例えば発現ベクター中に存在し得る。ベクターの1種は「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得る。特定のベクターは、それらが導入される細胞内で自己複製し得る(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、細胞への導入時に細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、特定のベクター、発現ベクターは、それらが作動可能に連結する遺伝子の発現を誘導し得る。一般に、組換えDNA技法において利用される発現ベクターは、プラスミド(ベクター)の形態である場合が多い。本開示で使用するための発現ベクターの更なる非限定例としては、等価な機能的役割を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0133】
特定の実施形態では、分子、例えば受容体をコードする核酸は、細胞に導入され得る。特定の実施形態では、細胞への核酸の導入は、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、核酸配列を含有するウイルスベクターまたはバクテリオファージベクターによる感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子導入、微小細胞媒介遺伝子導入、スフェロプラスト融合等を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の任意の方法によって行い得る。特定の実施形態では、細胞は真核生物、例えばMDCK細胞である。
【0134】
5.チャンバー
本開示の方法、アッセイ、アッセイ系またはキットは、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを必要とし、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは、細胞層によって分離されている。細胞層に沿って交差する2つの別個の区画に水溶液を保持し得る任意の適切な構成のチャンバーを使用し得る。当該チャンバーの材料としては、例えば、プラスチック(例えば、ポリカーボネート)、ガラス、セラミック、コーティング材料(例えば、可塑化金属)、またはそれらの混合物を挙げ得る。当該チャンバーは、両方のチャンバー内に十分な水溶液を保持し、当該チャンバーを分離する細胞層を維持し得る限り、完全に密閉されていてもよく、または1つ以上の側面が露出していてもよい。当該チャンバーは、一方のチャンバーが他方のチャンバーよりも容積が小さく、例えば、細胞層によって分離された他方のチャンバーの三次元空間内に嵌合する(例えば、インサートである)構成をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、小さい方のチャンバー(「内側チャンバー」と記載してもよい)が第1のチャンバーであり、大きい方のチャンバー(「外側チャンバー」と記載してもよい)が第2のチャンバーである。しかしながら、そのような用語は、現在記載されているアッセイおよびシステムの使用を、別のチャンバーの組み合わせ(例えば、外側チャンバーは第1のチャンバーとして使用され、内側チャンバーは第2のチャンバーとして使用してもよい)に限定することを意味しない。試験分子は、チャンバーのいずれの構成が使用されても、第1のチャンバーに導入される。いくつかの実施形態では、チャンバーはトランスウェルシステムである。本開示の方法、アッセイ、アッセイ系またはキットにおいて使用され得る好適なトランスウェルシステムとしては、ボイデンチャンバー、細胞遊走アッセイ、細胞浸潤アッセイ、マイクロ流体遊走デバイス、インビトロスクラッチアッセイ、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。本開示の方法は、「汎用的な」トランスウェルプラットフォームを含む多種多様なアッセイプラットフォーム(例えば、12ウェル、24ウェルまたは96ウェルマルチウェルアレイ)を利用して行い得る。アッセイプラットフォームの非限定的な例としては、MILLICELL(登録商標)細胞培養インサートおよびインサートプレート、ならびにCORNING(登録商標)TRANSWELL(登録商標)ポリカーボネート膜細胞培養インサートが挙げられる。
例示的な実施形態
E1.複数の分子のリサイクルを決定することを含む方法であって、決定することが、
複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、
第1のチャンバーが、細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、
第1のチャンバーおよび第2のチャンバーが水溶液を含むこと;
複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;
第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに
細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含み;
水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、方法。
E2.複数の分子が、複数の単一分子である、E1に記載の方法。
E3.複数の分子が複数の異なる分子である、E1に記載の方法。
E4.細胞層が細胞単層を含む、E1~E3のいずれか1つに記載の方法。
E5.分子輸送を媒介する受容体が、分子の細胞内輸送を媒介する受容体である、E1~E4のいずれか1つに記載の方法。
E6.分子輸送を媒介する受容体が、トランスフェリン受容体、Fc受容体、メガリンまたはキュブリンである、E1~E4のいずれか1つに記載の方法。
E7.分子輸送を媒介する受容体が新生児のFc受容体(FcRn)である、E1~E6のいずれか1つに記載の方法。
E8.細胞が真核細胞または哺乳動物細胞である、E1~E7のいずれか1つに記載の方法。
E9.細胞が、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である、E1~E7のいずれか1つに記載の方法。
E10.細胞層から放出される複数の分子の量を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、または質量分析の使用を含む、E1~E9のいずれか1つに記載の方法。
E11.複数の分子が、第1のチャンバー内で約1時間~約48時間インキュベートされる、E1~E10のいずれか1つに記載の方法。
E12.複数の分子が、第1のチャンバー内で約1時間~約30時間インキュベートされる、E1~E11のいずれか1つに記載。
E13.水溶液を交換することが、第1のチャンバーを洗浄することを含む、E1~E12のいずれか1つに記載の方法。
E14.測定前に第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを置換水溶液とインキュベートすることをさらに含む、E1~E13のいずれか1つに記載の方法。
E15.第1のチャンバーおよび第2のチャンバーが、測定前に1時間~6時間、置換水溶液とインキュベートされる、E14に記載の方法。
E16.インキュベーションが、約35℃~約39℃の温度で行われる、E1~E15のいずれか1つに記載の方法。
E17.複数の分子がFc含有分子である、E1~E15のいずれか1つに記載の方法。
E18.Fc含有分子が受容体Fc融合分子である、E17に記載の方法。
E19.複数の分子が抗体である、E1~E15のいずれか1つに記載の方法。
E20.抗体がモノクローナル抗体である、E19に記載の方法。
E21.抗体が、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体、または抗gD抗体である、E20に記載の方法。
E22.抗体が、オマリズマブ、ベバシズマブ、トシリズマブ、抗BACE1 WT、抗BACE1バリアントYEY、抗BACE1バリアントYQAY、抗BACE1バリアントYPY、抗BACE1バリアントYY、抗BACE1バリアントYLY1(Q6)、または抗BACE1バリアントYIY(T3)である、E20に記載の方法。
E23.FcRnが、ヒトRcRn、マウスFcRn、ラットFcRnおよびカニクイザルFcRnからなる群から選択される、E7に記載の方法。
E24.生理学的pHが約7.4である、E1~E23のいずれか1つに記載の方法。
E25.細胞層を横切る複数の分子の経細胞輸送を測定することをさらに含む、E1~E24のいずれか1つに記載の方法。
E26.経細胞輸送を測定することが、
水溶液が第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で交換された後、第2のチャンバー内の複数の分子の量を測定することを含む、E25に記載の方法。
E27.薬剤の存在下で第1のチャンバー内で複数の分子をインキュベートすることと、薬剤が複数の分子のリサイクルに影響を及ぼすかどうかを判定することとを含む、E1~E26のいずれか1つに記載の方法。
E28.薬剤が小分子またはポリペプチドである、E27記載の方法。
E29.複数の分子の組織浸透性を決定する方法であって、
a) 複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは水溶液を含み;
水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;
b) 第1のチャンバーから細胞層にリサイクルされ、第1のチャンバーに戻る複数の分子の量を測定すること;
c) 第1のチャンバーから第2のチャンバーに経細胞輸送される複数の分子の量を測定すること;および
d) 複数の分子の組織浸透性を、経細胞輸送された分子とリサイクルされた分子との比に基づいて決定することを含む、方法。
E30.E29に記載の方法であって、リサイクルされる複数の分子を測定することが:
複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;
第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに
細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む、方法。
E31.E29またはE30に記載の方法であって、経細胞輸送される複数の分子を測定することが:
複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;
第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに
細胞層から第2のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む、方法。
E32.複数の分子が、第1のチャンバー内で少なくとも約1時間~約48時間インキュベートされる、E30またはE31に記載の方法。
E33.複数の分子が、第1のチャンバー内で約1時間~約30時間インキュベートされる、E30またはE31に記載の方法。
E34.水溶液を交換することが、第1のチャンバーを洗浄することを含む、E30~E33のいずれか1つに記載の方法。
E35.測定前に第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを置換水溶液とインキュベートすることをさらに含む、E29~E34のいずれか1つに記載の方法。
E36.測定の1時間~6時間前に、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを置換水溶液とインキュベートする、E35に記載の方法。
E37.インキュベーションが、約35℃~約39℃の温度で行われる、E29~E36のいずれか1つに記載の方法。
E38.複数の分子が、複数の単一分子である、E29~E36のいずれか1つに記載の方法。
E39.複数の分子が複数の異なる分子である、E29~E36のいずれか1つに記載の方法。
E40.細胞層が細胞単層を含む、E29~E39のいずれか1つに記載の方法。
E41.分子輸送を媒介する受容体が、分子の細胞内輸送を媒介する受容体である、E29~E40のいずれか1つに記載の方法。
E42.分子輸送を媒介する受容体が、トランスフェリン受容体、Fc受容体、メガリンまたはキュブリンである、E29~E41のいずれか1つに記載の方法。
E43.分子輸送を媒介する受容体が新生児のFc受容体(FcRn)である、E29~E42のいずれか1つに記載の方法。
E44.細胞が真核細胞または哺乳動物細胞である、E29~E43のいずれか1つに記載の方法。
E45.細胞が、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である、E29~E44のいずれか一項に記載の方法。
E46.リサイクルされる複数の分子の量を測定すること、および経細胞輸送される複数の分子の量を測定することは、独立して酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、質量分析、またはそれらの任意の組合せの使用を含む、E29~E45のいずれか1つに記載の方法。
E47.複数の分子がFc含有分子である、E29~E46のいずれか1つに記載の方法。
E48.Fc含有分子が受容体Fc融合分子である、E47に記載の方法。
E49.複数の分子が抗体である、E29~E48のいずれか1つに記載の方法。
E50.抗体がモノクローナル抗体である、E47に記載の方法。
E51.抗体が、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体、または抗gD抗体である、E50に記載の方法。
E52.抗体が、オマリズマブ、ベバシズマブ、トシリズマブ、抗BACE1 WT、抗BACE1バリアントYEY、抗BACE1バリアントYQAY、抗BACE1バリアントYPY、抗BACE1バリアントYY、抗BACE1バリアントYLY1(Q6)、または抗BACE1バリアントYIY(T3)である、E50に記載の方法。
E53.生理学的pHが約7.4である、E29~E52のいずれか1つに記載の方法。
E54.組織浸透性が脳浸透性である、E29~E53のいずれか1つに記載の方法。
E55.薬剤の存在下で第1のチャンバー内で複数の分子をインキュベートすることと、薬剤が複数の分子の組織浸透性に影響を及ぼすかどうかを決定することとを含む、E29~E54のいずれか1つに記載の方法。
E56.薬剤が小分子である、E55に記載の方法。
E57.複数の分子の薬物動態(PK)パラメータを決定する方法であって、
a) 複数の分子を第1のチャンバーに導入することであって、第1のチャンバーが細胞層によって第2のチャンバーから分離されており、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーは水溶液を含み;
水溶液が生理学的pHにあり、細胞層が、分子輸送を媒介する受容体を発現する細胞を含む、導入すること;
b) 第1のチャンバーから細胞層にリサイクルされ、第1のチャンバーに戻る複数の分子の量を測定すること;および
c) リサイクルされる複数の分子の量に基づいてPKパラメータを決定することを含む、方法。
E58.E57に記載の方法であって、リサイクルされる複数の分子を測定することが:
複数の分子を第1のチャンバーに導入した後、複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;
第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに
細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む、方法。
E59.複数の分子が、第1のチャンバー内で少なくとも約1時間~約48時間インキュベートされる、E58に記載の方法。
E60.複数の分子が、第1のチャンバー内で約1時間~約30時間インキュベートされる、E58に記載の方法。
E61.水溶液を交換することが、第1のチャンバーを洗浄することを含む、E58~E60のいずれか1つに記載の方法。
E62.測定前に第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを置換水溶液とインキュベートすることをさらに含む、E54~E57のいずれか1つに記載の方法。
E63.第1のチャンバーおよび第2のチャンバーが、測定前に約1時間~約6時間、置換水溶液とインキュベートされる、E62に記載の方法。
E64.インキュベーションが、約35℃~約39℃の温度で行われる、E58~E63のいずれか1つに記載の方法。
E65.複数の分子が、複数の単一分子である、E57~E63のいずれか1つに記載の方法。
E66.複数の分子が、複数の異なる分子である、E57~E64のいずれか1つに記載の方法。
E67.細胞層が細胞単層を含む、E57~E66のいずれか1つに記載の方法。
E68.細胞が異種FcRnを発現する、E57~E67のいずれか1つに記載の方法。
E69.細胞が、マディン・ダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞である、E57~E68のいずれか1つに記載の方法。
E70.リサイクルされる複数の分子の量を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーションカウンティング(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、または質量分析の使用を含む、E57~E68のいずれか1つに記載の方法。
E71.複数の分子がFc含有分子である、E57~E70のいずれか1つに記載の方法。
E72.Fc含有分子が受容体Fc融合分子である、E71に記載の方法。
E73.複数の分子が抗体である、E57~E72のいずれか1つに記載の方法。
E74.抗体がモノクローナル抗体である、E73に記載の方法。
E75.抗体が、抗IgE抗体、抗VEGF抗体、抗インテグリン抗体、抗IL-6抗体、抗TNFa抗体、抗BACE1抗体、または抗gD抗体である、E74に記載の方法。
E76.抗体が、オマリズマブ、ベバシズマブ、トシリズマブ、抗BACE1 WT、抗BACE1バリアントYEY、抗BACE1バリアントYQAY、抗BACE1バリアントYPY、抗BACE1バリアントYY、抗BACE1バリアントYLY1(Q6)、または抗BACE1バリアントYIY(T3)である、E74に記載の方法。
E77.生理学的pHが約7.4である、E57~E76のいずれか1つに記載の方法。
E78.PKパラメータが、複数の分子のインビボクリアランス、分布容積、曲線下面積(AUC)またはインビボにおける半減期の測定値である、E57~E77のいずれか1つに記載の方法。
E79.薬剤の存在下で第一チャンバー内で複数の分子をインキュベートすることと、薬剤が複数の分子のPKパラメータに影響を及ぼすかどうかを判定することとを含む、E57~E78のいずれか1つに記載の方法。
E80.薬剤が小分子である、E79に記載の方法。
E81.アッセイ系であって、
a) 各チャンバーが生理学的pHの水溶液を含む、第1のチャンバーおよび第2のチャンバー;
b) 第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを分離する細胞層であって、第1のチャンバーから細胞層内へ、および第1のチャンバー内に戻る分子の再循環を媒介し得る、細胞層;
c) 第1のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器を備えるアッセイ系であって;
該アッセイ系は、複数の分子のリサイクルを決定するように構成され、決定することは:
複数の分子を第1のチャンバーに導入すること;
複数の分子を第1のチャンバー内でインキュベートすること;
第1のチャンバーおよび第2のチャンバーの両方で水溶液を交換すること;ならびに
細胞層から第1のチャンバー内に放出される複数の分子の量を測定することを含む、アッセイ系。
E82.E81に記載のアッセイ系であって、
第2のチャンバー内の分子の存在を検出するための検出器をさらに備え;
細胞層が、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの分子の経細胞輸送を媒介し得るものであり;および
細胞層を横切る複数の分子の経細胞輸送を決定するように構成され、経細胞輸送を決定することが、水溶液が交換された後に、第2のチャンバー内の複数の分子の量を測定することを含む、アッセイ系。
E83.第1のチャンバーおよび第2のチャンバーが96ウェルトランスウェルプレートの構成要素である、E81またはE82に記載のアッセイ系。
E84.E81~E83のいずれか1つに記載のアッセイ系と、使用説明書とを含むキット。
【実施例
【0135】
以下の実施例は、本明細書で開示される主題の例示にすぎず、いかなる意味でも制限とみなすべきではない。
【0136】
材料および方法
ヒトFcRnを発現するMDCK細胞株
ヒトFcRn重鎖(FCGRT)および軽鎖(B2M)の両方を安定的に発現するクローン細胞株を、以前に公開されたように(Chung,S.ら,2019,MAbs,11(5),942-955)作製した。簡単に説明すると、2つの遺伝子FCGRT(UniProtKB-P55899、FCGRTN_HUMAN)およびB2M(UniProtKB-P61769、B2MG_HUMAN)のcDNAを、改変pPRKプラスミドを用いてMDCK細胞に導入し、次いで、ピューロマイシンを用いて選択し、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって選別した。FCGRTおよびB2Mタンパク質の両方の有意な発現レベルに基づいて、アッセイに使用した最終クローンを選択した。MDCK-hFcRn細胞を、10% FBS(HyClone、Logan、UT)、5μg/mLピューロマイシンおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)を補充したGlutaMAX(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)を含むダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)中で維持した。細胞を37℃、5% COで培養し、2~3日ごとに継代した。
【0137】
試験分子
試験分子には、一連のヒト化IgG 1抗体-ヒト研究においてクリアランス値が文書化または公表されている7つの治療抗体のパネル、およびFc-FcRn結合親和性を変化させる操作された突然変異を有するそのバリアントの2つを有する抗単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D野生型(抗gD WT)(抗gD HAHQおよび抗gD YTE)が含まれていた。7種の治療用抗体のうち、5種は市販の製剤であり、そのうち2種(ベドリズマブおよびアダリムマブ)は製造業者から購入した。残りの治療用抗体(ベバシズマブ、オマリズマブ、トシリズマブ、mAbXおよびmAbY)は、抗gDバリアントと共に、Genentech(カリフォルニア州、サウスサンフランシスコ)の操作されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で産生した。
【0138】
リサイクルアッセイ
MDCK-hFcRn細胞を、6×10細胞/ウェルの密度で、96ウェルトランスウェルプレート(MilliporeSigma、マサチューセッツ州バーリントン)の内側チャンバーに播種し、100μLの増殖培地を内側チャンバーに、200μLの増殖培地を外側チャンバーに入れ、メンブレンフィルター上でコンフルエンスに達するまで3日間培養した。リサイクルを測定するために、内側チャンバー中の培地を除去し、50μLの試験抗体を100μg/mL(0.67μM)の濃度で各内側チャンバーに負荷し、続いて5% CO中、37℃で2時間インキュベートした。トランスウェルを増殖培地で洗浄して、両方のチャンバー内の残留抗体を除去し、100μL/ウェルの新鮮な細胞培養培地を内側チャンバーに、200μL/ウェルの培地を外側チャンバーに残した。細胞を5% CO中、37℃でさらに4時間インキュベートし、ヒトIgG特異的ELISAアッセイによる以下の定量のために、リサイクルサンプルを内部チャンバーから採取した。実験の最後の工程において、20mMのルシファーイエローを内側チャンバーに添加し、1時間インキュベートすることによって、細胞単層の完全性をルシファーイエロー(Sigma Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用いて評価した。次いで、外側チャンバーから採取したサンプルをルシファーイエローのレベルについて測定し、0.1%を超える受動流路(外側チャンバーからのルシファーイエローのシグナルを対応する内側チャンバーのシグナルに分割することによって測定される)を有するウェルからの結果は、細胞単層の潜在的な漏れのために無効であるとみなし、廃棄した。各リサイクルアッセイ測定を6~8回反復して行い、報告された値は、同じトランスウェルプレートにおいて並行して試験されたベバシズマブのリサイクル出力によって正規化された平均濃度である。
【0139】
内側チャンバーから採取したサンプルはリサイクル成分を表し、外側チャンバーからのサンプルは経細胞輸送成分を表す。ELISAを用いた定量のために、サンプルを-70℃で凍結した。
【0140】
この手順の変形を使用してもよい。例えば、場合により、フィルタ上で培養された細胞層に対する外乱/損傷を最小限に抑えるため、構成要素(内部チャンバー)をリサイクルするための洗浄手順では、電子ピペットの最低速度を使用し得る。場合により、免疫アッセイの定量下限を2桁にすることにより、感度が低濃度の抗体を検出するのに十分に厳密であることを確実にし得る。場合により、95%を超える生存率を達成する条件下で細胞を培養し得る。場合により、細胞培養培地は、使用されている細胞の種類および/または評価されている試験分子に応じて調整され得る。場合により、大きなトランスウェルプレートを使用してもよい(例えば、12ウェルまたは24ウェル)。さらなる変形を行ってもよい。
【0141】
ELISA法
捕捉分子としてビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fc(ビオチン-R10Z、Genentech社)、検出分子としてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗ヒトFab Jackson ImmunoResearch Laboratories,West Grove,PA)、および発色のための3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)溶液(Kirkegaard&Perry Laboratories,Gaithersburg,MD)を使用する半均一架橋酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して、サンプルを評価した。具体的には、標準、対照、およびサンプルを細胞培養培地で希釈してそれらの最終濃度にし、他の試薬をアッセイ希釈液(PBS/0.5% BSA/0.05%ポリソルベート20/0.05% ProClin 300、pH7.4±0.1)で調製した。各治療分子標準液を4ng/mL~31.25pg/mLまで段階希釈した(ウェル内濃度)。アッセイのために、60μL/ウェルの希釈標準液、対照、またはサンプルを、穏やかに撹拌しながら密封した96ウェルポリプロピレンプレート中、60μL/ウェルの1μg/mLのビオチン-R10Zと共に周囲温度で一晩インキュベートした。一晩インキュベーションした後、100μL/ウェルの混合物をストレプトアビジンでコーティングし、予めブロックしたプレート(Roche Diagnostics Corporation、インディアナ州、インディアナポリス)に添加した。プレートを密封し、撹拌しながら周囲温度で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液(PBS/0.05%ポリソルベート20、pH7.34)でサイクルあたり400μL/ウェルで4回洗浄した。次に、100μL/ウェルの0.1μg/mL HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトを添加し、プレートを密封し、周囲温度で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液でサイクルあたり300μL/ウェルで4回洗浄した後、100μL/ウェルのペルオキシダーゼ基質溶液BおよびTMBペルオキシダーゼ基質混合物(Kirkegaard&Perry Laboratories、メリーランド州、ゲイザースバーグ)を添加し、15~20分間インキュベートし、プレートを発色させた。発色を停止させるために、100μLの1M HPOを各ウェルに添加した。プレートを、630nmの参照フィルタを用いて450nm(検出波長)でSpectraMax340プレートリーダー(MolecularDevices、カリフォルニア州サンノゼ)で読み取った。4パラメータフィットを使用してデータを分析し、SoftMax Pro 6.5.1ソフトウェアプログラムで1/y2で重み付けした。
【0142】
実施例1:リサイクルアッセイの開発
ヒトFcRn重鎖(FCGRT)および軽鎖(B2M)の両方を発現するように操作したクローンMDCK細胞株(MDCK-hFcRn)を使用して、FcRn依存性リサイクルアッセイを開発した。MDCK細胞株における機能的ヒトFcRnが示唆された発現レベル、細胞内共局在および機能的読み出しは以前に実証されている(Chung,S.ら,2019,MAbs,11(5),942-955)。リサイクルアッセイは、パルスチェース実験手順(図2)、および細胞のより完全な頂端側-基底側分極を可能にするトランスウェル培養系で設計した。MDCK-hFcRn細胞を96ウェルのトランスウェルプレートに播種し、コンフルエンスまで3日間培養した。パルス工程のために、抗体を内部チャンバーに添加し、2時間インキュベートして、抗体が細胞によって内在化され、細胞内経路の間でホメオスタシスに分布し到達する時間を提供した(リサイクル、トランスサイトーシスおよび分解)。内側チャンバーおよび外側チャンバーの両方を洗浄し、既存または経細胞輸送された抗体を除去した後、新鮮な培地を両方のチャンバーに添加し、細胞を4時間インキュベートした。このチェース工程の間に、3つの可能な結果が考えられ、細胞内の抗体が、内側チャンバーにリサイクルされるか、外側チャンバーに経細胞輸送されるか、または細胞内で分解される。内側チャンバーに現れる抗体は、リサイクルされた分子を表す。したがって、分析のために内部チャンバー溶液を収集した。外側チャンバーに経細胞輸送された抗体はいずれもサンプルから除外し、FcRn媒介経細胞輸送によるリサイクルアッセイの汚染を回避した。単層の完全性を各実験の最後に評価し、損なわれた単層からのデータを分析から除外した。
【0143】
96ウェルアッセイ形式で細胞から放出されるリサイクル抗体の量が少ないので、高感度ヒトIgG特異的酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を開発した。このサンドイッチELISAは、捕捉にビオチン化マウス抗ヒトIgG-Fc、検出にHRPコンジュゲート化ヤギ抗ヒトFab、および発色にTMB溶液を使用し(図3A)、定量下限(LLOQ)は50pg/mLを達成し、ナノモル濃度以下のリサイクル出力(図3B)の定量を可能にした。
【0144】
実施例2:ヒト化IgG1抗体のリサイクル出力は、FcRnを発現する細胞におけるFcRn媒介機構に大きく依存する
リサイクルアッセイにおけるFcRn媒介機構の関与を実証するために、ヒト化IgG1抗体-抗単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(抗gD)野生型(WT)を、Fc-FcRn結合親和性を変化させるFc突然変異を有する2つのバリアントと比較した。抗gDHAHQバリアントの1つは、FcRn結合を無効にするH310A/H435Q変異を保有し、他の抗gDYTEバリアントは、FcRn結合増強変異M252Y/S254T/T256Eを保有する。抗gDHAHQのリサイクル出力は0.6ng/mLであり、抗gDWTのリサイクル出力(1.2ng/mL)よりも有意に低かったが、抗gDYTEはリサイクル出力が増大していた(1.9ng/mL)(図4)。これらの結果は、この系におけるリサイクル出力によって反映される主要な機構がFcRnによって媒介されることを示唆し、FcRn媒介IgGホメオスタシスを評価するためのこのアッセイの使用を支持する。
【0145】
次に、リサイクル測定の動態を、オマリズマブ、ベバシズマブ、ベドリズマブおよびトシリズマブを含む一群の従来のヒト化治療抗体を使用することによって評価した。リサイクルサンプルは、チェース工程中の様々な時点(20分~4時間範囲)で採取した。個々の各分子について、リサイクルの累積的な増加が観察され、リサイクル出力は20分で最も低く、4時間で最も高かった(図5A)。評価した抗体のうちの3つは約0.4~0.5ng/mlの最大リサイクル量を示したが、トシリズマブはより高いリサイクル値を有し、4時間で1.09ng/mlに達した。4つの分子間のリサイクル出力の違いにもかかわらず、リサイクルの動力学は同様であり、チェース工程の時間経過を通してほとんど変動を示さない(図5B;リサイクル出力を同じ分子の4時間データ点に対して正規化した。データを表1Bにまとめた)。4つの分子間のリサイクル出力の順位付けを、ベバシズマブのリサイクル出力に正規化して各時点でさらに調べた。ランキング順位および正規化されたリサイクル出力の両方が4つの時点(ベバシズマブに対して正規化された表1A)にわたって同様であり、リサイクル出力の相対性が追跡時間に関係なく一貫していることを示唆している。4つの時点(20、30、60、および240分)にわたる変動係数(CV)は、各分子について20%未満であり、絶対リサイクル値が異なる抗体間の相対的なリサイクル出力が4時間の追跡にわたって一貫していたことを示唆した。したがって、定量に対して信頼性のある高いリサイクル出力のために、パルス工程における4時間をこのシステムの標準的なアッセイ手順として選択し、他の試験分子で測定されたリサイクル出力の正規化のための内部対照としてベバシズマブを使用することを決定した。
【表1A】
【表1B】
【0146】
実施例3:カニクイザルにおける経細胞輸送/リサイクル(T/R)比とインビボ脳血清比との相関
野生型(WT)分子および6種のバリアントを含む7種の抗BACE1バリアントのパネルを、経細胞輸送/リサイクルデュアルアッセイで試験した。抗BACE1抗体は、国際公開第2020/132230号にさらに記載されている。6種のバリアントは、中性pHでFcRnに対する結合親和性を有意に増強し、pH7.4でのKdを13.3~78.1倍低下させるバリアントをそれらのFc領域に有する(表1)。FcRnに対する結合親和性が高いほど、mAbはより多く保護され、mAbは、FcRn媒介性のリサイクルおよび経細胞輸送経路にさらに導かれるであろう。WT分子と比較して、pH7.4バリアントは、リサイクルおよび経細胞輸送出力が、いずれも有意に増加した。この知見は、おそらく、pH7.4バリアントに対するFcRn受容体媒介取り込みを介したmAb内在化の増強に起因する。さらに、経細胞輸送およびリサイクルの間の比は、pH7.4バリアントの間で有意に増加した。WT分子のT/R比は0.026であったが、pH7.4バリアントでは比は0.074から0.191の範囲であり(表2および図6)、変異が導入されることにより、経細胞輸送経路バイアスが生じ、細胞層を横切る抗体輸送が促進され得る。
【表2】
【0147】
次いで、アッセイ出力とカニクイザルの研究からのインビボ脳浸透結果との間の潜在的相関を分析した(5分子について利用可能なカニクイザルのデータ;表3)。経細胞輸送またはリサイクル出力のみでは、脳血清比と有意な相関を示さなかった。しかし、T/R比は脳血清比と非常に強い相関を示した(ピアソンの相関係数0.837)。T/R比が高いほど、経細胞輸送に有利な偏った細胞内経路を示し、インビボでの脳浸透挙動が高いことを示す(図7)。したがって、T/R比は、治療候補の脳浸透能力の予測のための有意義な生物学的パラメータである。
【表3】
【0148】
実施例3:ヒトにおけるmAbのインビトロでのリサイクル出力とインビボでのクリアランスとの相関
5種の市販薬および開発中の2種を含む7種の治療用抗体を試験し、ヒトにおけるインビボクリアランスとの相関の可能性について評価した。7種の分子は、IgG1/カッパアイソタイプのヒト化抗体であり、作用機序、標的特性および投与経路を含む多様な特性を反映するが、PK特性またはFcRn相互作用を修飾するためのFc突然変異を有するものはない。薬物の処方情報および以前の刊行物に基づいて、クリアランス値は2.2~8.5mL/日/kgの範囲をカバーする。類似の抗体アイソタイプ間で観察された非特異的クリアランスの不一致は、pI、電荷または疎水性などの分子特性に起因すると提案されている(Hotzel,I.ら,(2012),MAbs,4(6),753-760)。確立された配列ベースのアルゴリズムを使用して、本発明者らは、(i)pI値、(ii)pH5.5での正味のFv電荷、および(iii)CDRL1、L3、H2、およびH3上の疎水性指数値の和(HIsum)を含む分子パラメータを計算した(Sharma,V.K.ら,(2014),PNAS,111(52),18601-18606)。これらのパラメータの極端な値は、クリアランスの早い抗体を示すことが示されているが、以前の知見と一致して、これらのパラメータとクリアランスとの相関の明らかな傾向は認められなかった(図8A図8C;表4)。リサイクルとクリアランスとの相関関係を調べるために、7種の分子をリサイクルアッセイで評価して、FcRn媒介リサイクルプロセスの定量的測定を行った。各分子のリサイクル出力は、内側チャンバーに戻された抗体の濃度によって測定し、対照として同じ96ウェルトランスウェルプレート上で実行されたベバシズマブのリサイクル値に対して正規化した。これらの分子を用いたリサイクルアッセイの結果を、ヒトにおけるそれらの公開されたクリアランスと共に表4に示す。7種全ての分子が測定可能なリサイクル出力を示し、より速いクリアランス値の分子がより高いリサイクル出力を示した。リサイクル出力は、ヒトにおけるクリアランスとの強い正の相関を示した(リサイクルについてR=0.856;図8D)。平均アッセイ内精度は10.7%であり、アッセイ間精度は12.3%である。この結果により、開発中の治療用抗体または候補のPK挙動の予測のための有望なアッセイとしてのリサイクルが示唆される。
【表4】
【0149】
従来のFc領域をそれぞれ有する7種の評価された抗体は、多様なFab領域特性にかかわらず、ヒトにおけるリサイクル出力とクリアランスとの間の顕著な相関を実証した。同一のFc領域を有するIgGは、FabアームのFv電荷に起因すると考えられているPk特性が大きく異なり得、FcRnとの相互作用に影響を及ぼし得、内部移行中の液相飲作用に影響を及ぼし得る。この試験では、各分子について4時間で最大値に正規化した後、試験した4種のヒト化治療抗体(オマリズマブ、ベバシズマブ、ベドリズマブ、およびトシリズマブ)の間でリサイクル動態曲線間の変動はほとんどなかった。トシリズマブはリサイクルの速度(各時点での傾き)は同一であったが、4時間で他の3種の抗体よりも約2倍高いリサイクル出力値を示した。理論に拘束されることを望むものではないが、同様のリサイクル速度論は、従来のFc領域を有するmAbでは、リサイクル経路を通じたFcRn媒介輸送が同様である可能性があり、その結果、リサイクル排出量の測定量の差がFcRn媒介輸送の上流の機構から生じ得ることを示唆している。これらの4種の抗体は、pH6.0でFcRnに対して同等の結合親和性を有するが、トシリズマブは計算上のPI値が高く、Fv電荷が高い。これは、正電荷が細胞表面でのアニオン性ヘパラン硫酸プロテオグリカンとの静電相互作用を介して非特異的結合を増強し得るので、トシリズマブのリサイクル値が高く、クリアランスが早いことを説明し得る。これらの相互作用は、液相飲作用によってトシリズマブの内在化を増加させる可能性がある。以前の研究により、FcRn非依存性機構が、同一のFcを共有するが異なるFab領域を有するmAbのPK挙動の調節において役割を果たし得ることが示されている。
【0150】
理論に拘束されることを望むものではないが、IgGをリソソーム分解から救済し、それを血液に戻すサルベージ機構であると考えられることから、当初は、高いリサイクル出力がクリアランス速度と逆相関し得ると予想された。意外にも、より高いリサイクル出力は、より速いクリアランスに対応することが観察された。理論に拘束されることを望むものではないが、クリアランスとFcRn媒介性リサイクルとの間の正の相関は、各内在化事象中に排除機構を受ける抗体の画分に関連している可能性がある。リサイクルプロセスは、抗体を循環から取り出し、それらを同じ区画に戻すが、単独の因子としての血清濃度の正味量には影響しない。しかしながら、リサイクル事象が、リソソームにおける分解に起因する抗体のわずかな喪失を伴い得ることが以前に実証されている(Grevysら、2018)。現在説明されているトランスウエル培養系において、経細胞輸送はまた、抗体をリサイクルから遠ざけるように導く排除経路として機能する場合がある。理論に束縛されるものではないが、各リサイクル事象に対するそのような損失(分解および経細胞輸送による)は、循環に戻るリサイクル量を減少させ得ると推測される。したがって、高リサイクル分子の場合、損失は誇張されており、血清濃度の減少が速くなり、クリアランスの測定も速くなる。興味深いことに、この観察結果は、FcRn結合バリアント群では逆転しているようであり、Fc操作抗gDバリアントのリサイクル出力とクリアランスとの間の負の相関の傾向を実証している。より遅いクリアランスを示したYTE突然変異は、WTと比較してより高いリサイクル出力を有していた(実施例2参照)。理論に束縛されるものではないが、FcRnに対する結合が非常に増強されたことで、主要な生物学的因子になっている可能性があり、これは、抗体の保護レベルが高まり、血清半減期を延長され、リソソームの分解の減少をもたらし得る。従来のmAbとFc操作mAbとの間の不一致を説明するには、PK挙動に影響を及ぼす支配的な因子が、分子の設計に応じて2つのシナリオの間で異なる可能性がある。したがって、このインビトロ系からの結果を解釈する場合、抗体の生化学的特性およびFc操作を考慮すべきである。
【0151】
評価した7種のmAbは、本明細書に記載のリサイクルアッセイが、Fc修飾を伴わないmAbのPK特性、特にヒトにおける循環からのクリアランスの予測因子として抗体のpI、電荷または疎水性パラメータを使用する他のモデルよりも優れていたことを示している。アッセイ設計は、3コンパートメントインビトロモデルシステム(内側チャンバー、細胞、および外側チャンバー)を使用して、インビボ状況(血液区画、小胞内皮細胞、および組織区画)を模倣し、抗体の細胞代謝に影響を及ぼし得る複数の生物学的事象を組み込む。リサイクルアッセイは、抗体の細胞代謝に影響を及ぼし得る複数の生物学的因子の全体的評価を提供し、したがって、単一またはサブセットの因子、例えば非特異的結合、細胞外マトリックスへの結合、およびFcRn相互作用のみを考慮する他の公開されたアッセイと比較して、1つ以上のPK特性をより良好に予測し得る。
【0152】
さらに、理論に拘束されることを望まないが、両方のトランスウェルチャンバーにおいて使用される中性pHは、抗体が細胞表面において中性pHで捕捉され、放出されるインビボ状況により生理学的に関連するので、PK特性予測を成功させるために重要であり得る。これは、酸性pH(Chungら,(2018),J Immunol Methods,462,101-105;Jaramilloら,2017,MAbs,9(5),781-791;Sockolosky,JTら,2012,PNAS,109(40),16095-16100;Yingら,2015,MAbs,7(5),922-930)で増強されたFcRn結合を利用するために、細胞に抗体を負荷する際に酸性緩衝液を使用した他のFcRn媒介細胞ベースのアッセイの限られた適用を説明し得る。これらの方法のいくつかは、FcRn結合が増強されたFc操作分子のクリアランスまたは半減期を予測するものであったが、FcRn結合への変化がより微妙である従来のmAbのPK挙動を予測する能力は限られていた。さらに、リサイクルおよび経細胞輸送のいずれもが本質的に極性化され、極性化された内皮細胞の頂端面および基底外側面で独立したプロセスによって少なくとも部分的に運ばれるので、細胞の極性化は重要な因子と考えられ得る(Dickinsonら,1999,J Clin Invest,104(7),903-911;Tzaban,S.ら,2009,J Cell Biol,185(4),673-684)。トランスウエル細胞培養系を利用する本明細書中に記載されるアッセイは、トランスサイトーシス成分からのリサイクルのより良好な極性化および分離を可能にし、これは、通常の細胞培養プレート(Grevys,A.Nat Commun,9(1)621)で行われる他のリサイクルアッセイと比較して、従来のmAbをより正確に評価し得る。
【0153】
本明細書で引用される全ての公報、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が本開示に組み込まれている。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
【配列表】
2024515620000001.app
【国際調査報告】