(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素の隔離のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240403BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240403BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01D53/14 200
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562831
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 US2022071726
(87)【国際公開番号】W WO2022221861
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317020139
【氏名又は名称】カーボンフリー ケミカルズ ホールディングス リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ ジョー
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA05
4D002DA06
4D002DA12
4D002DA66
4D002EA02
4D002EA06
4D002EA07
4D002EA13
4D002FA02
4D002HA08
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA02
4D020BA08
4D020BB03
4D020BC06
4D020CB01
4D020CC21
4D020CD10
(57)【要約】
本発明は、二酸化炭素を回収し、二酸化炭素を第II族金属炭酸塩の形態で永久に隔離するための方法に関する。本発明は、塩化マグネシウム水和物を含む材料と水蒸気とを反応させることによるHClの生成を伴う。このプロセスから発生するHClは、鉱物および産業廃棄物を含む様々な異なる材料から第II族鉱物塩を浸出させるために用いられる。浸出させた第II族鉱物塩は、第II族鉱物炭酸塩を形成することによって、二酸化炭素を回収するために用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を隔離するために廃棄物を使用する方法であって、以下の工程:
HClおよびMg(OH)
2を発生させるために、塩化マグネシウム水和物含有材料と水蒸気とを反応させる工程、
部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体を得るために、二酸化炭素を含むガス流とMg(OH)
2とを接触させる工程、
廃棄物から鉱物イオン塩をブラインまたはスラリーへ浸出させるために、廃棄物と、HClおよび任意で水とを接触させる工程、
該ブラインまたはスラリーから該鉱物イオン塩を回収する工程、ならびに
二酸化炭素を鉱物イオン炭酸塩の形態で隔離するために、該部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体と該鉱物イオン塩とを反応させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
部分的または完全に炭酸塩化された流体が、Mg(OH)
x(HCO
3)
yを含み、ここでx+y=2である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
鉱物イオン塩が、少なくとも1つの第II族金属カチオンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第II族金属カチオンがカルシウムカチオンである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
第II族金属カチオンがマグネシウムカチオンである、請求項3記載の方法。
【請求項6】
廃棄物が産業廃棄物である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
産業廃棄物が、石材、コンクリート、製鋼スラグ、バイオマス燃料製造スラグ、および廃石炭フライアッシュからなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
二酸化炭素が煙道ガス流の成分である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
二酸化炭素が大気中の二酸化炭素である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
廃棄物とHClとを接触させる工程が常温で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
廃棄物とHClとを接触させる工程が常圧で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
廃棄物とHClとを接触させる工程が、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴わない、請求項1記載の方法。
【請求項13】
廃棄物とHClとを接触させる工程が、廃棄物とHClとの接触を増加させるために液体を再循環させることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
ブラインまたはスラリーを沈殿槽に移す工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ブラインまたはスラリー中の固形物を沈殿槽の底部に沈殿させる工程をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ブラインまたはスラリーを蒸発池に移す工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ブラインまたはスラリー中の液体を蒸発させる工程をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
太陽エネルギーおよび/または自然発生する風力を利用して蒸発速度を増加させる、請求項16記載の方法。
【請求項19】
蒸発速度を増加させるために非再生可能エネルギーは用いられない、請求項16記載の方法。
【請求項20】
蒸発速度を増加させるために蒸発池にエネルギーは供給されない、請求項16記載の方法。
【請求項21】
鉱物イオン炭酸塩が炭酸カルシウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
二酸化炭素を隔離するために地質ケイ酸塩鉱物を使用する方法であって、以下の工程:
HClおよびMg(OH)
2を発生させるために、塩化マグネシウム水和物含有材料と水蒸気とを反応させる工程、
部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体を得るために、二酸化炭素を含むガス流とMg(OH)
2とを接触させる工程、
地質ケイ酸塩鉱物から鉱物イオン塩をブラインまたはスラリーへ浸出させるために、地質ケイ酸塩鉱物と、HClおよび任意で水とを接触させる工程、
該ブラインまたはスラリーから該鉱物イオン塩を回収する工程、ならびに
二酸化炭素を鉱物イオン炭酸塩の形態で隔離するために、該部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体と該鉱物イオン塩とを反応させる工程
を含む、方法。
【請求項23】
部分的または完全に炭酸塩化された流体が、Mg(OH)
x(HCO
3)
yを含み、ここでx+y=2である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
鉱物イオン塩が、少なくとも1つの第II族金属カチオンを含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
第II族金属カチオンがカルシウムカチオンである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
第II族金属カチオンがマグネシウムカチオンである、請求項24記載の方法。
【請求項27】
地質ケイ酸塩鉱物が、カンラン石、苦土カンラン石、パイロープ、スペサルティン、グロッシュラー、灰鉄ザクロ石、灰クロムザクロ石、ハイドログロッシュラー、ノルベルジャイト、コンドロダイト、ヒューマイト、クリノヒューマイト、ダトライト、チタン石、硬緑泥石、ローソン石、斧石、珪灰鉄鉱、緑簾石、ユウレン石、タンザナイト、斜ユウレン石、褐簾石、ドレイス石、ベスビアナイト、パパゴ石(paopgoite)、トルマリン、大隅石、キン青石、セカニナイト、ユージアライト、ミラライト、頑火輝石、ピジオン輝石、透輝石、灰鉄輝石、普通輝石、プロクスフェロイト(proxferroite)、珪灰石、曹灰針石、直閃石、カミングトン閃石、透角閃石、アクチノ閃石、角閃石、藍閃石、ソーダ角閃石、アンチゴライト、温石綿、リザダイト、タルク、イライト、モンモリロナイト、緑泥石、バーミキュライト、海泡石、パリゴルスカイト、黒雲母、金雲母、真珠雲母、海緑石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石、灰長石、灰霞石、藍方石、青金石、エリオン沸石、斜方沸石、輝沸石、束沸石、スコレサイト、モルデナイト、クリノエンスタタイト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項28】
二酸化炭素が煙道ガス流の成分である、請求項22記載の方法。
【請求項29】
二酸化炭素が大気中の二酸化炭素である、請求項22記載の方法。
【請求項30】
地質ケイ酸塩鉱物とHClとを接触させる工程が常温で実施される、請求項22記載の方法。
【請求項31】
地質ケイ酸塩鉱物とHClとを接触させる工程が常圧で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項32】
地質ケイ酸塩鉱物とHClとを接触させる工程が、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴わない、請求項22記載の方法。
【請求項33】
地質ケイ酸塩鉱物とHClとを接触させる工程が、地質ケイ酸塩鉱物とHClとの接触を増加させるために液体を再循環させることをさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項34】
ブラインまたはスラリーを沈殿槽に移す工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項35】
ブラインまたはスラリー中の固形物を沈殿槽の底部に沈殿させる工程をさらに含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
ブラインまたはスラリーを蒸発池に移す工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項37】
ブラインまたはスラリー中の液体を蒸発させる工程をさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
太陽エネルギーおよび/または自然発生する風力を利用して蒸発速度を増加させる、請求項36記載の方法。
【請求項39】
太陽エネルギーおよび/または自然発生する風力を利用して蒸発速度を増加させる、請求項36記載の方法。
【請求項40】
蒸発速度を増加させるために非再生可能エネルギーは用いられない、請求項36記載の方法。
【請求項41】
蒸発速度を増加させるために蒸発池にエネルギーは供給されない、請求項36記載の方法。
【請求項42】
鉱物イオン炭酸塩が炭酸カルシウムを含む、請求項22記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2021年4月14日に出願された米国仮特許出願第63/174,977号の優先権の恩典を主張し、該出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は概して、大気中の二酸化炭素の削減、より具体的には二酸化炭素の回収および隔離に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
二酸化炭素などの温室効果ガスの存在および生成による地球温暖化の進行により、経済的な手段による二酸化炭素の回収および永久的な隔離が緊急課題となっている。
【0004】
二酸化炭素の回収・貯留(CCS)は、発電所およびセメント製造施設などの、燃焼プロセスに依存する産業からの温室効果ガスの排出を大幅に削減する可能性がある。残念ながら、CCSを介して二酸化炭素を回収することは、熱エネルギー要件、および回収した二酸化炭素を地下貯留するための圧縮の必要性のために、エネルギー集約的である。このエネルギー需要により、発電装置からの実質的な出力が20%超低下され得る。
【0005】
ガス会社はアミンスクラビング法を用いてメタンから二酸化炭素を分離しており、非常によく似た方法を用いて煙道ガスから二酸化炭素を除去することができる。アミンスクラビング法の大きな問題は、アミン溶液の再生およびそれに続く二酸化炭素の圧縮が非常にエネルギー集約的なことである。その結果、発電装置にアミンベースの炭素回収器を設置すると効率が35%も低下する。
【0006】
代替的なCCS法は、純酸素の存在下で石炭を燃焼させて燃焼産物として二酸化炭素および水を生成する酸素燃焼プロセスを伴う。次いで、二酸化炭素/水の混合物から水を凝縮させることによってCO2が回収される。酸素燃焼において用いられる純酸素は、空気を極低温で液体形態まで冷却し、液体空気中で窒素から純酸素を蒸留するという、エネルギー集約的な空気分離プロセスから得られる。
【0007】
化石燃料への依存を考えると、温室効果ガスの削減および地球温暖化の制御のためにはCCSの普及が不可欠である。一部の企業は代替的なCCS法の発見に重点を置いているが、膨大な研究が、現行の二酸化炭素回収プロセスの効率を高めることに重点を置いている。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明の目的は、従来技術の欠点の多くを克服する、二酸化炭素の吸収および分離のための方法を提供することである。発明者は、鉱物イオン炭酸塩の形態で二酸化炭素を隔離するために用いることができる鉱物イオン塩の生成のための方法を特定した。鉱物イオン塩は、産業廃棄物および様々な地質ケイ酸塩鉱物を含む、異なる供給源から取得することができる。
【0009】
開示のいくつかの態様は、二酸化炭素を隔離するために廃棄物を使用する方法を指向する。いくつかの態様では、方法は、塩酸および水酸化マグネシウムを発生させるために、塩化マグネシウム水和物含有材料と水蒸気(steam)とを反応させる工程、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体を得るために、二酸化炭素を含むガス流と水酸化マグネシウムとを接触させる工程、廃棄物から鉱物イオン塩をブラインまたはスラリーへ浸出させるために、廃棄物と、塩酸および任意で水とを接触させる工程、ブラインまたはスラリーから鉱物イオン塩を回収する工程、ならびに二酸化炭素を鉱物イオン炭酸塩の形態で隔離するために、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体と鉱物イオン塩とを反応させる工程を含む。いくつかの態様では、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体は、Mg(OH)x(HCO3)yを含み、ここでx+y=2である。いくつかの態様では、鉱物イオン炭酸塩は沈降炭酸カルシウム(PCC)を含む。いくつかの態様では、鉱物イオン炭酸塩はより低価な混合炭酸塩をさらに含む。
【0010】
開示のいくつかの態様は、二酸化炭素を隔離するために地質ケイ酸塩鉱物を使用する方法を指向する。いくつかの態様では、方法は、塩酸および水酸化マグネシウムを発生させるために、塩化マグネシウム水和物含有材料と水蒸気とを反応させる工程、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体を得るために、二酸化炭素を含むガス流と水酸化マグネシウムとを接触させる工程、地質ケイ酸塩鉱物から鉱物イオン塩をブラインまたはスラリーへ浸出させるために、地質ケイ酸塩鉱物と、塩酸および任意で水とを接触させる工程、ブラインまたはスラリーから鉱物イオン塩を回収する工程、二酸化炭素を鉱物イオン炭酸塩の形態で隔離するために、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体と鉱物イオン塩とを反応させる工程を含む。いくつかの態様では、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体は、Mg(OH)x(HCO3)yを含み、ここでx+y=2である。いくつかの態様では、鉱物イオン炭酸塩は沈降炭酸カルシウムを含む。いくつかの態様では、鉱物イオン炭酸塩はより低価な混合炭酸塩をさらに含む。
【0011】
いくつかの態様では、鉱物イオン塩は少なくとも1つの第II族金属カチオンを含む。いくつかの態様では、第II族金属カチオンはカルシウムカチオンである。いくつかの態様では、第II族金属カチオンはマグネシウムカチオンである。いくつかの態様では、廃棄物は産業廃棄物である。いくつかの態様では、産業廃棄物は石材、コンクリート、製鋼スラグ、バイオマス燃料製造スラグ、および廃石炭フライアッシュからなる群より選択される。
【0012】
いくつかの態様では、二酸化炭素は煙道ガス流の成分である。いくつかの態様では、二酸化炭素は大気中の二酸化炭素である。いくつかの態様では、廃棄物を塩酸と接触させる工程は常温で実施される。いくつかの態様では、廃棄物を塩酸と接触させる工程は常温より高い温度で実施される。いくつかの態様では、廃棄物を塩酸と接触させる工程は常圧で実施される。
【0013】
いくつかの態様では、廃棄物を塩酸と接触させる工程は、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴わない。いくつかの態様では、廃棄物を塩酸と接触させる工程は、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴う。いくつかの態様では、廃棄物を塩酸と接触させる工程は、廃棄物と塩酸との接触を増加させるために液体を再循環させることをさらに含む。
【0014】
いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物を塩酸と接触させる工程は常温で実施される。いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物をHClと接触させる工程は常温より高い温度で実施される。いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物を塩酸と接触させる工程は常圧で実施される。いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物を塩酸と接触させる工程は常圧より高い圧力で実施される。
【0015】
いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物を塩酸と接触させる工程は、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴わない。いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物を塩酸と接触させる工程は、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴う。いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物を塩酸と接触させる工程は、地質ケイ酸塩鉱物と塩酸との接触を増加させるために液体を再循環させることをさらに含む。
【0016】
いくつかの態様では、ブラインまたはスラリー中に存在する鉱物イオン塩が回収される。いくつかの態様では、ブラインまたはスラリーは沈殿槽に移される。いくつかの態様では、ブラインまたはスラリー中の固形物は沈殿槽の底部に沈殿させる。いくつかの態様では、ブラインまたはスラリーは蒸発池に移される。いくつかの態様では、ブラインまたはスラリー中の液体は蒸発させる。いくつかの態様では、太陽エネルギーおよび/または自然発生する風力を利用して蒸発速度を増加させる。いくつかの態様では、蒸発速度を増加させるために非再生可能エネルギーは用いられない。いくつかの態様では、蒸発速度を増加させるために蒸発池にエネルギーは供給されない。
【0017】
いくつかの態様では、鉱物イオン塩は少なくとも1つの第II族金属カチオンを含む。いくつかの態様では、第II族金属カチオンはカルシウムカチオンである。いくつかの態様では、第II族金属カチオンはマグネシウムカチオンである。いくつかの態様では、地質ケイ酸塩鉱物は、カンラン石、苦土カンラン石、パイロープ、スペサルティン、グロッシュラー、灰鉄ザクロ石、灰クロムザクロ石、ハイドログロッシュラー、ノルベルジャイト、コンドロダイト、ヒューマイト、クリノヒューマイト、ダトライト、チタン石、硬緑泥石、ローソン石、斧石、珪灰鉄鉱、緑簾石、ユウレン石、タンザナイト、斜ユウレン石、褐簾石、ドレイス石、ベスビアナイト、パパゴ石(paopgoite)、トルマリン、大隅石、キン青石、セカニナイト、ユージアライト、ミラライト、頑火輝石、ピジオン輝石、透輝石、灰鉄輝石、普通輝石、プロクスフェロイト(proxferroite)、珪灰石、曹灰針石、直閃石、カミングトン閃石、透角閃石、アクチノ閃石、角閃石、藍閃石、ソーダ角閃石、アンチゴライト、温石綿、リザダイト、タルク、イライト、モンモリロナイト、緑泥石、バーミキュライト、海泡石、パリゴルスカイト、黒雲母、金雲母、真珠雲母、海緑石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石、灰長石、灰霞石、藍方石、青金石、エリオン沸石、斜方沸石、輝沸石、束沸石、スコレサイト、モルデナイト、クリノエンスタタイト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0018】
発明の1つの態様に関して検討された任意の限定が発明の任意の他の態様に適用され得ることが特に企図されている。さらに、発明の任意の組成物を発明の任意の方法に用い得、発明の任意の組成物を生成するかまたは利用するために発明の任意の方法を用い得る。
【0019】
本発明の他の目的、特徴および利点は下記の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体例は発明の好ましい態様を示している一方で、発明の精神および範囲内の様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者には明らかになるため、単なる例示として与えられていると理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のいくつかの態様に係る二酸化炭素隔離プロセスのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本発明は、二酸化炭素を回収し、二酸化炭素を金属炭酸塩の形態で永久に隔離するための方法に関する。発明は、塩化マグネシウム水和物を含む材料と水蒸気とを反応させることによるHClの生成を伴う。このプロセスから発生するHClは、鉱物および産業廃棄物を含む様々な異なる材料から鉱物塩を浸出させるために用いられる。浸出させた鉱物塩は、鉱物塩カチオンの炭酸塩を形成することによって、二酸化炭素を回収するために用いられる。
【0022】
利用可能な多数の鉱物塩のうち、CO2回収のためには第II族塩が概して使用される。第II族金属であるカルシウムおよびマグネシウムは、世界中の様々な地質鉱床中および産業廃棄物中に比較的豊富にある。豊富にあるカルシウムおよびマグネシウム含有鉱物ならびに廃棄物は、CO2隔離化学物質のための比較的安価な原料を提供する。
【0023】
A.定義
本明細書において用いられるように、「炭酸塩」または「炭酸塩生成物」という用語は概して、炭酸塩基[CO3]2-を含有する鉱物成分として定義される。よって、該用語は、炭酸塩/重炭酸塩混合物と炭酸塩イオンのみを含有する種との両方を包含する。「重炭酸塩」および「重炭酸塩生成物」という用語は概して、重炭酸塩基[HCO3]1-を含有する鉱物成分として定義される。よって、該用語は、炭酸塩/重炭酸塩混合物と重炭酸塩イオンのみを含有する種との両方を包含する。
【0024】
本明細書において用いられるように、「Ca/Mg」とは、Caのみ、Mgのみ、またはCaおよびMg両方の混合物のいずれかを表している。CaとMgの比率は0:100~100:0の範囲であり得、例えば、1:99、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、および99:1を含む。「Ca/Mg」、「MgxCa(1-x)」、および「CaxMg(1-x)」という記号は同義である。「第II族」および「第2族」という表現は互換的に用いられる。塩化マグネシウムの水和物とは、塩化マグネシウム1当量あたり2、4、6、8、または12当量の水を有する水和物を非限定的に含む、任意の水和物を指す。文脈に応じて、「MW」という略語は分子量またはメガワットのいずれかを意味する。「PFD」という略語はプロセスフローチャートである。「Q」という略語は熱(または熱負荷)であり、熱はエネルギーの一種である。これは任意の他の種類のエネルギーを含まない。
【0025】
本明細書において用いられるように、「隔離」という用語は、点排出源からCO2を除去することおよびそのCO2が大気中に戻るのを防止するように何らかの形で貯蔵することがその部分的または全体的な効果である、技術または行為を概して指すために用いられる。この用語の使用は記載された態様のうちの任意の形態を、隔離」技術とみなすことから除外するものではない。
【0026】
クレームおよび/または明細書において「含む(comprising)」という用語と併せて用いられた場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語の使用は、「1つの」を意味し得るが、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つ以上の」という意味とも合致する。
【0027】
本願全体を通じて、「約」という用語は、値を決定するために使用された装置、方法ごとの誤差の固有のばらつき、または研究対象間に存在するばらつきを、値が含むことを示すために用いられる。
【0028】
「含む(comprise)」、「有する(have)」、および「含む(include)」という用語はオープンエンドの連結動詞である。任意の形態または時制の1つまたは複数のこれらの動詞、例えば、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「有する(has)」、「有している(having)」、「含む(includes)」、および「含んでいる(including)」もオープンエンドである。例えば、1つまたは複数の工程を「含む(comprises)」、「有する(has)」、または「含む(includes)」いずれの方法も、それら1つまたは複数の工程のみを備えていることに限定されるものではなく、他の記載されていない工程も包含する。
【0029】
上の定義は、参照により本明細書に組み入れられる文献のいずれかにおける任意の矛盾する定義に優先する。しかしながら、特定の用語が定義されているという事実は任意の未定義の用語が不明確であることを示しているとみなされるべきではない。むしろ、用いられるすべての用語は、当業者が範囲を理解して本発明を実施できるような用語で発明を説明していると考えられる。
【0030】
B.地質鉱物または産業廃棄物から浸出させた第II族塩を用いたCO
2の隔離
図1は本開示の装置および方法の概略的で例示的な態様を図示した簡略化されたプロセスフローチャートを示す。このチャートは例示目的のためにのみ提供されており、よって本発明の特定の態様を示しているだけであり、クレームの範囲を限定することを何ら意図していない。
【0031】
二酸化炭素を回収するための方法が本明細書において開示される。
図1を参照すると、方法は、反応器25内で塩化マグネシウム水和物含有材料20と水蒸気10とを反応させて、HCl 30およびMg(OH)
2 40を発生させる第一工程を伴う。塩化マグネシウム水和物含有材料20は、塩化マグネシウムを二水和物、四水和物、六水和物、八水和物、十二水和物、または他の水和形態で含み得る。塩化マグネシウム水和物の分解により、Mg(OH)
2 40およびHCl 30が生成される。この内部生成HCl 30はHClガス、HClの水溶液、または水蒸気中のHClの気体溶液の形態であり得る。
【0032】
二酸化炭素50を含むガス流とMg(OH)2 40を接触させて、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体110が得られる。部分的または完全に炭酸塩化された流体110はMg(OH)2 40と二酸化炭素50との反応生成物であるMg(OH)x(HCO3)yを含み、ここでx+y=2である。
【0033】
HCl 30は反応器35に送られ、ここで産業廃棄物40および/または地質ケイ酸塩鉱物50と接触する。液体または気体形態の水80を任意で反応器35に供給することができる。HCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70との接触は、常圧で実施することができる。あるいは、HCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70との接触は、常圧より高い圧力で実施することができる。HCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70との接触は、常温で実施することができる。あるいは、HCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70との接触は、常温より高い温度で実施することができる。反応器35内のHCl 30の濃度は、反応器25内の条件を調節することによって、ならびに/またはHCl 30が反応器35に供給される時間および/もしくは速度を調節することによって、制御することができる。反応器35内のHCl濃度を制御することによって、様々なSiO複合体への塩化物の取り込みを制御するかまたは回避することができる。
【0034】
HCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70とは、固形物の機械的撹拌または摩砕を伴わずに反応器35内で反応させることができる。反応器35内のHCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70とは、固形物の機械的撹拌および/または摩砕に供することができる。反応器35内の液体を再循環させて、産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70とHCl 30との接触を増加させることができる。
【0035】
HCl 30と産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70との接触により、HCl 30が産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70と反応し、廃棄物から鉱物イオン塩をブラインまたはスラリー90に浸出させる。ブラインまたはスラリー90は回収され、このブラインまたはスラリーは産業廃棄物60および/または地質ケイ酸塩鉱物70からの鉱物イオン塩を含有する。ブラインまたはスラリー90に存在する鉱物イオン塩は、溶液、固体状、または溶液と未溶解固形物との組み合わせであり得る。
【0036】
ブラインまたはスラリー90に存在する鉱物イオン塩100を回収する。ブラインまたはスラリー90からの存在する鉱物イオン塩100の回収を補助すべく様々な方法を使用することができる。ブラインまたはスラリー90は沈殿槽に移すことができる。ブラインまたはスラリー90内の固形物は沈殿槽の底部に沈殿させることができる。あるいは、サンドフィルターを使用してブラインまたはスラリー90から固形物を除去することができる。ブラインまたはスラリー90をブラインまたはスラリー90内の液体を蒸発させる蒸発池に移すことができる。太陽エネルギーおよび/または自然発生する風力を利用して蒸発速度を増加させることができる。いくつかの態様では、蒸発速度を増加させるために非再生可能エネルギーは用いられない。いくつかの態様では、蒸発速度を増加させるために蒸発池にエネルギーは供給されない。ブラインまたはスラリー70は蒸発システムに移すことができる。蒸発システムは単、二重、三重効用蒸発システムであり得る。
【0037】
鉱物イオン塩100は、部分的にまたは完全に炭酸塩化された流体110内に存在するMg(OH)x(HCO3)yと反応して、二酸化炭素を鉱物イオン炭酸塩120の形態で隔離する。
【実施例】
【0038】
C.実施例
以下の実施例は発明の好ましい態様を実証するために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示される技術は発明の実施において良好に機能することが発明者によって見出された技術を表しており、よってその実施のための好ましい形態を構成すると考えられ得ることを認識すべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、開示された具体的な態様に多くの変更を加えることができ、発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を依然として得ることができることを認識すべきである。
【0039】
実施例1
PCCの生成のための材料の評価
沈降塩化カルシウム(PCC、沈降鉱物イオン塩)の生成のために3つの産業廃棄物試験材料(高炉スラグ、バイオマススラグ、石炭フライアッシュ)を試験した。研究は3つの試験用供給源からの未加工-未改良ブラインの使用を評価するために実施した。広範な処理条件にわたって沈降プロセスをテストするために様々な条件を試験した。沈降温度のプロセス制御、取り込み液に対する沈降塩の体積の変化、および取り込み液条件のpH制御を用いて、未加工の試験材料に含有されるマグネシウムおよび鉄塩に対するカルシウム塩の沈降選択性を高めることができる。
【0040】
試験材料を再循環浴内で塩酸と接触させてブラインを生成し、溶解後に固形物をろ過した。SEM/ICPを用いてブラインを分析して溶解塩の化学組成を決定した。下の表1に提供される結果は、様々な産業廃棄物の塩酸溶解からカルシウム含有量の高いブラインを取得できることを実証している。これらの高カルシウムブラインは、PCCを生成するために用いることができるか、または二酸化炭素隔離プロセスに直接用いることができる。
【0041】
【0042】
実施例2
廃棄物の溶解およびCO2の回収
MgCl2水和物含有材料の試料を分解反応器内で水蒸気と反応させて、Mg(OH)2水溶液およびHClガスを発生させた。未反応の水蒸気と気体HClとの混合物をHCl水溶液として収集した。この溶液を15%の濃度まで希釈し、得られた溶液を用いて石炭フライアッシュおよびバイオマススラグ廃棄物を溶解した。廃棄物溶解プロセスは、各廃棄物を別の反応器内のHCl溶液に加えることおよび反応温度をモニタリングすることを伴った。追加の水を加えて溶解反応物を希釈するかまたは再び液化した。バイオマススラグ溶解反応は水蒸気(water vapor)の発生および水分の損失を伴うので、水の損失を補うために水を加えた。下の表2は様々な廃棄物-溶解実験ランに関する温度、体積、および質量を示す。
【0043】
【0044】
材料を十分に混合し、任意で水で再び液化させたら、得られたブラインおよびスラリーを30分間放置して、依然として起きている反応をすべて完了させた。この期間中、ブライン/スラリーの温度は周囲温度まで下がり始め、較正済みのpH計を用いてスラリーのpHを測定した。低pH試料(<3.5)にNH4OH水溶液を加えてpHを≧6まで上昇させた。スラリーが周囲温度まで冷却されたら、スラリーから固形物をろ過してケーキおよびろ液を得た。いくつかの局面では、上に開示された廃棄物の溶解から発生したブラインはろ過せずに直接用いることができる。
【0045】
水蒸気によるMgCl2水和物の分解から発生させたMg(OH)2水溶液に、気体CO2の気流をバブリングして、Mg(HCO3)2を含む炭酸塩化溶液を得た。炭酸塩化溶液を上で生成したブラインまたはろ液と合わせて、溶液中に炭酸カルシウム(固体)およびMgCl2を含む生成物を得た。生成物をろ過してMgCl2溶液から沈殿炭酸カルシウム(PCC)を分離した。表2のラン7および8から収集したPCCに対して誘導結合プラズマ(ICP)分析を実施した。カチオンの組成を下の表3に示す。
【0046】
【0047】
上の表3の結果は、塩化マグネシウム水和物含有材料の分解から発生するHClを利用することによって高純度の炭酸カルシウムを取得できることを実証している。HClを用いて様々な廃棄物を溶解して、カルシウム含有量の高いブラインまたはスラリーを得た。塩化マグネシウム水和物含有材料の分解から発生した水酸化マグネシウムを二酸化炭素ガスで炭酸塩化させ、得られた炭酸塩化溶液を廃棄物由来のブラインまたはスラリーと合わせて、沈降炭酸カルシウムを含有する塩化マグネシウム溶液を得た。本明細書において開示される方法は、様々な廃棄物をリサイクルし、環境に配慮した二酸化炭素ガスの隔離のための重要な成分として利用できる新規な手段を提供する。本方法は、廃棄物の代替物としての地質ケイ酸塩鉱物の使用にまで拡大することができる。
【国際調査報告】