(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】髄腔内送達によってピット・ホプキンス症候群を治療するためのメチル-CPG結合タンパク質2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20240403BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240403BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240403BHJP
A61K 38/02 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61K48/00
A61P43/00
A61P25/00
C12N15/12
C12N7/01
C12N15/864 100Z
A61K38/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562858
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 US2022024644
(87)【国際公開番号】W WO2022221424
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー、キャスリン クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】デニーズ-リバーズ、カサンドラ ニコル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA44
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZC54
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZC54
(57)【要約】
メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス9(rAAV9)の髄腔内送達を含む、ピット・ホプキンス症候群を治療するための方法及び材料を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピット・ホプキンス症候群を治療する方法であって、それを必要とする対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)を投与することを含む、方法。
【請求項2】
ピット・ホプキンス症候群に罹患している対象におけるメチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)レベルを増加させる方法であって、MECP2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項3】
PTHSに罹患している対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードするポリヌクレオチド配列を送達する方法であって、MECP2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記rAAVが、配列番号3のヌクレオチド配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記rAAVが、配列番号2のプロモーター配列を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記rAAVが、SV40イントロン及び合成ポリアデニル化シグナル配列を更に含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記rAAVが、逆方向末端反復(ITR)を更に含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記rAAVが、変異体ITR及び野生型ITRを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記rAAVが、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記rAAVが、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達を用いて投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
患者が、TCF4遺伝子に変異を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が症状のうちの1つ以上に罹患しており、前記症状が、知的障害、発達遅延、呼吸の問題、反復性の発作(てんかん)、及び特徴的な顔貌、発語の遅延又は欠如、乏しいコミュニケーションスキル、乏しい社会化スキル、過換気、無呼吸、チアノーゼ、手指及び/又は足趾のばち指、薄い眉毛、落ち窪んだ目、鼻梁が高く突出した鼻、上唇の目立つ2つの山(キューピッド弓)、唇の厚い幅広い口、歯間開離、厚みのあるかつ/又はカップ状の耳、便秘、胃腸の問題、小頭症、近視、斜視、低身長、軽度の脳異常、小さい手及び/又は足、単一手掌屈曲線(single crease across the palm of the hands)、扁平足、手指及び/又は足趾の腹の肥厚化、停留精巣、常同運動、手の不随意運動、歩行の喪失、筋緊張の喪失、脊柱側弯症、睡眠障害、協調又は平衡の問題、不安、行動の問題、歯ぎしり、過度な唾液及び流涎、心臓の問題、不整脈、摂食の問題又は嚥下の問題である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ピット・ホプキンス症候群を治療するための組成物であって、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)を含む、組成物。
【請求項14】
ピット・ホプキンス症候群に罹患している対象におけるメチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)レベルを増加させるための組成物であって、前記対象に対するMECP2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を含む、組成物。
【請求項15】
PTHSに罹患している対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードするポリヌクレオチド配列を送達するための組成物であって、前記対象に対するMECP2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を含む、組成物。
【請求項16】
前記rAAVが、配列番号3のヌクレオチド配列を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記rAAVが、配列番号2のプロモーター配列を更に含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記rAAVが、SV40イントロン及び合成ポリアデニル化シグナル配列を更に含む、請求項16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
前記rAAVが、逆方向末端反復(ITR)を更に含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記rAAVが、変異体ITR及び野生型ITRを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記rAAVが、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項13~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される、請求項13~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
患者が、TCF4遺伝子に変異を有する、請求項13~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記患者が症状のうちの1つ以上に罹患しており、前記症状が、知的障害、発達遅延、呼吸の問題、反復性の発作(てんかん)、及び特徴的な顔貌、発語の遅延又は欠如、乏しいコミュニケーションスキル、乏しい社会化スキル、過換気、無呼吸、チアノーゼ、手指及び/又は足趾のばち指、薄い眉毛、落ち窪んだ目、鼻梁が高く突出した鼻、上唇の目立つ2つの山(キューピッド弓)、唇の厚い幅広い口、歯間開離、厚みのあるかつ/又はカップ状の耳、便秘、胃腸の問題、小頭症、近視、斜視、低身長、軽度の脳異常、小さい手及び/又は足、単一手掌屈曲線、扁平足、手指及び/又は足趾の腹の肥厚化、停留精巣、常同運動、手の不随意運動、歩行の喪失、筋緊張の喪失、脊柱側弯症、睡眠障害、協調又は平衡の問題、不安、行動の問題、歯ぎしり、過度な唾液及び流涎、心臓の問題、不整脈、摂食の問題又は嚥下の問題である、請求項13~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
ピット・ホプキンス症候群(PTHS)を治療するための薬物を必要とする患者における薬物の調製のための、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)の、使用。
【請求項26】
ピット・ホプキンス症候群に罹患している対象におけるメチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)レベルを増加させるための薬物の調製のための、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)の、使用。
【請求項27】
PTHSに罹患している対象にメチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードするポリヌクレオチド配列を送達するための薬剤の調製のための、前記メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)の、使用。
【請求項28】
前記rAAVが、配列番号3のヌクレオチド配列を含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記rAAVが、配列番号2のプロモーター配列を更に含む、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記rAAVが、SV40イントロン及び合成ポリアデニル化シグナル配列を更に含む、請求項28又は29に記載の使用。
【請求項31】
前記rAAVが、逆方向末端反復(ITR)を更に含む、請求項28~30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
前記rAAVが、変異体ITR及び野生型ITRを含む、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記rAAVが、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項25~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
前記薬物が、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達を用いて投与されるように製剤化される、請求項25~33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
前記患者が、TCF4遺伝子に変異を有する、請求項25~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記患者が症状のうちの1つ以上に罹患しており、前記症状が、知的障害、発達遅延、呼吸の問題、反復性の発作(てんかん)、及び特徴的な顔貌、発語の遅延又は欠如、乏しいコミュニケーションスキル、乏しい社会化スキル、過換気、無呼吸、チアノーゼ、手指及び/又は足趾のばち指、薄い眉毛、落ち窪んだ目、鼻梁が高く突出した鼻、上唇の目立つ2つの山(キューピッド弓)、唇の厚い幅広い口、歯間開離、厚みのあるかつ/又はカップ状の耳、便秘、胃腸の問題、小頭症、近視、斜視、低身長、軽度の脳異常、小さい手及び/又は足、単一手掌屈曲線、扁平足、手指及び/又は足趾の腹の肥厚化、停留精巣、常同運動、手の不随意運動、歩行の喪失、筋緊張の喪失、脊柱側弯症、睡眠障害、協調又は平衡の問題、不安、行動の問題、歯ぎしり、過度な唾液及び流涎、心臓の問題、不整脈、摂食の問題又は嚥下の問題である、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年4月13日に出願された米国仮特許出願第63/174,327号及び2021年6月17日に出願された米国仮特許出願第63/211,822号の優先権を主張し、それらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本明細書と同時に提出され、以下のように特定されるコンピュータ可読形態の配列表は、その全体が参照により組み込まれる:2022年4月12日に作成された「56067_SeqListing.txt」という名称のASCIIテキストファイル、ファイルサイズ17,282バイト。
【0003】
本発明は、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス9(rAAV9)を使用して、ピット・ホプキンス症候群を治療するための方法及び材料に関する。
【背景技術】
【0004】
ピット・ホプキンス症候群(PTHS)は、34,000~41,000人に1人に発症する、ハプロ不全をもたらすTCF4遺伝子の変異によって引き起こされる神経学的障害である。患者は、広範囲の行動症状とともに、発達遅延、知的障害、小頭症及び発作を呈する(非特許文献1)。残念ながら、TCF4遺伝子のサイズが大きく、スプライスバリアントの数が多いため、完全な遺伝子置換療法は、現在のところ、PTHSの治療のための実行可能な選択肢ではない。したがって、PTHS患者を治療するための新規治療戦略を開発する必要がある。
【0005】
MECP2転写因子は、何千という遺伝子の転写を調節する。MECP2は、様々な組織で発現する52kDaの核タンパク質であるが、ニューロンに豊富に存在し、神経系において最も研究されている。ヒトには、MECP2A及びMECP2Bとして知られるMECP2の2つのアイソフォームが存在する[非特許文献2]。2つのアイソフォームは、選択的にスプライシングされたmRNA転写産物に由来し、異なる翻訳開始部位を有する。MECP2Bは、エキソン1、3及び4を含み、脳内で優勢なアイソフォームである。MECP2は、メチル化DNAに可逆的に結合し、遺伝子発現を調節する[非特許文献3]。これらの機能は、それぞれ、メチル結合ドメイン(MBD)及び転写リプレッサードメイン(TRD)にマッピングされる[非特許文献4]。もともと転写リプレッサーとして考えられていたMECP2は、標的遺伝子発現を誘導及び抑制することができる[非特許文献5]。MECP2は、適切な神経の発達及び維持を支持すると仮定される。ニューロンにおいて、MECP2は、DNA結合及び異なる結合パートナーとの相互作用を介して、シナプス活動の遺伝子発現への翻訳を促進する[非特許文献6及び非特許文献7]。アストロサイトにおいて、MECP2欠損は、マウスにおける無呼吸事象に関連している[非特許文献8]。MECP2欠損は、脳サイズの縮小、ニューロン充填密度の増加、神経細胞体サイズの減少、及び樹状細胞の複雑さの減少を引き起こす可能性がある[非特許文献9]。重要なことに、ニューロンの死は、MECP2欠損とは関連していない[非特許文献10]。MECP2はまた、神経系の外側にも見出されるが、レベルは組織によって異なる。
【0006】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、145ヌクレオチドの逆方向末端反復(ITR)を含んで約4.7kbの長さである。AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、非特許文献11によって修正された非特許文献12に提示されている。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組み込みを指示するシス作用配列は、ITR内に含まれている。3つのAAVプロモーター(それらの相対的なマップ位置からp5、p19、及びp40と命名)は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、単一のAAVイントロンの差異的スプライシング(ヌクレオチド2107及び2227における)と相まって、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。Repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。Cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与する。単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環及び遺伝学は、非特許文献13に概説されている。
【0007】
AAVは、例えば、遺伝子治療において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとしてそれを魅力的にする固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、サイレント及び無症候性である。更に、AAVは、多くの哺乳動物細胞に感染し、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を許容する。更に、AAVは、ゆっくりと分裂する細胞及び非分裂細胞を形質導入し、本質的にそれらの細胞の寿命にわたって、転写的に活性な核エピソーム(染色体外因子)として存続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド中にクローニングされたDNAとして感染性である。更に、AAV複製、ゲノムカプシド形成及び組み込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITR内に含まれているため、ゲノムの内部約4.3kb(複製及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)の一部又は全てを、プロモーター、目的のDNA及びポリアデニル化シグナルを含む遺伝子カセット等の外来DNAで置換することができる。Rep及びcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定した頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥され得る。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性を示さない。複数のAAVの血清型が存在し、多様な組織向性を提供する。既知の血清型としては、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、及びAAVrh74が挙げられる。AAV9は、特許文献1及び非特許文献14に記載されている。
【0008】
興味深いことに、PTHSの臨床的特徴は、メチルCpG結合タンパク質2(MECP2)の変異によって引き起こされる別の自閉症スペクトラム障害であるレット症候群と重複している。疾患表現型の類似性は、PTHS患者の誤診につながる可能性がある。実際、事例研究では、PTHS患者の血液試料においてMECP2タンパク質レベルの低下が見られた(未公開の臨床データ)。したがって、新たな治療法の開発につながる可能性のある、レット症候群及びPTHSの両方を治療するための方法、並びに影響を受けた根底にある経路を破壊する方法が、当該技術分野において依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,198,951号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rosenfeld et al.,Genet.Mut.11:797-805,2009
【非特許文献2】Weaving et al.,Journal of Medical Genetics,42:1-7(2005)
【非特許文献3】Guy et al.,Annual Review of Cell and Developmental Biology,27:631-652(2011)
【非特許文献4】Nan&Bird,Brain&Development,23,Suppl1:S32-37(2001)
【非特許文献5】Chahrour et al.,Science,320:1224-1229(2008)
【非特許文献6】Ebert et al.,Nature,499:341-345(2013)
【非特許文献7】Lyst et al.,Nature Neuroscience,16:898-902(2013)
【非特許文献8】Lioy et al.,Nature,475:497-500(2011)
【非特許文献9】Armstrong et al.,Journal of Neuropathology and Experimental Neurology,54:195-201(1995)
【非特許文献10】Leonard et al.,Nature Reviews,Neurology,13:37-51(2017)
【非特許文献11】Ruffing et al.,J Gen Virol,75:3385-3392(1994)
【非特許文献12】Srivastava et al.,J Virol,45:555-564(1983)
【非特許文献13】Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)
【非特許文献14】Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)
【発明の概要】
【0011】
本開示は、ピット・ホプキンス症候群(PTHS)の治療を必要とする患者において、その治療に有用な遺伝子治療の方法及び材料を提供する。特に、本開示は、PTHSの治療薬としてMeCP2を発現する遺伝子治療ベクターを提供する。
【0012】
本開示は、PTHSを治療する方法であって、それを必要とする対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、rAAVは、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達によって投与される。いくつかの実施形態において、rAAVは、トレンデレンブルグ体位(Trendelenberg position)で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0013】
本開示は、PTHSに罹患している対象におけるメチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)レベルを増加させる方法であって、MECP2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、rAAVは、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達によって投与される。いくつかの実施形態において、rAAVは、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0014】
本開示はまた、PTHSに罹患している対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードするポリヌクレオチド配列を送達する方法であって、MECP2をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV9)又はrAAVウイルス粒子を対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、rAAVは、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達によって投与される。いくつかの実施形態において、rAAVは、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0015】
本開示はまた、PTHSに罹患している対象におけるMECP2タンパク質の発現を上方制御するための方法及び組成物を提供し、そのような上方制御は、MECP2遺伝子の再活性化によって誘導され得る。
【0016】
他の実施形態において、患者は、症状のうちの1つ以上に罹患しており、該症状は、中等度の知的障害又は重度の知的障害を含む知的障害、精神的及び運動的スキルの発達遅延(精神運動遅延)、呼吸の問題、反復性の発作(てんかん)、及び特徴的な顔貌、発語の遅延若しくは欠如又は発語の消失、乏しいコミュニケーションスキル、乏しい社会化スキル、過換気、無呼吸、チアノーゼ、手指及び/又は足趾のばち指、薄い眉毛、落ち窪んだ目、斜視、鼻梁が高く突出した鼻、上唇の目立つ2つの山(キューピッド弓)、唇の厚い幅広い口、歯間開離、厚みのあるかつ/又はカップ状の耳、便秘、胃腸の問題、小頭症、近視、低身長、軽度の脳異常、小さい手及び/又は足、単一手掌屈曲線(single crease across the palm of the hands)、扁平足、手指及び/又は足趾の腹の肥厚化、停留精巣、常同運動、手の不随意運動、歩行の喪失、筋緊張の喪失、脊柱側弯症、睡眠障害、協調又は平衡の問題、不安、行動の問題、歯ぎしり、過度な唾液及び流涎、心臓の問題、不整脈、摂食の問題又は嚥下の問題である。
【0017】
例示的な手の不随意運動は、手絞り、手洗い、又は握りしめ等の機械的、反復的な手の動きを含む。
例示的な心臓の問題は、不規則な心調律を含む。心電図によって測定される異常に長い拍動の間隔、又は他の種類の不整脈等。
【0018】
本開示はまた、PTHSを治療するための組成物を必要とする対象においてPTHSを治療するための組成物であって、MECP2をコードするrAAV又はrAAVウイルス粒子を含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態において、組成物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される。開示される組成物は、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0019】
本開示は、PTHSに罹患している対象におけるメチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)レベルを増加させるための組成物であって、MECP2をコードするrAAV又はrAAVウイルス粒子を含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態において、組成物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される。開示される組成物は、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0020】
本開示はまた、PTHSに罹患している対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードするポリヌクレオチド配列を送達するための組成物であって、MECP2をコードするrAAV又はrAAVウイルス粒子を含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態において、組成物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される。開示される組成物は、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0021】
他の実施形態において、患者は、症状のうちの1つ以上に罹患しており、該症状は、中等度の知的障害又は重度の知的障害を含む知的障害、精神的及び運動的スキルの発達遅延(精神運動遅延)、呼吸の問題、反復性の発作(てんかん)、及び特徴的な顔貌、発語の遅延若しくは欠如又は発語の消失、乏しいコミュニケーションスキル、乏しい社会化スキル、過換気、無呼吸、チアノーゼ、手指及び/又は足趾のばち指、薄い眉毛、落ち窪んだ目、鼻梁が高く突出した鼻、上唇の目立つ2つの山(キューピッド弓)、唇の厚い幅広い口、歯間開離、厚みのあるかつ/又はカップ状の耳、便秘、胃腸の問題、小頭症、近視、斜視、低身長、軽度の脳異常、小さい手及び/又は足、単一手掌屈曲線、扁平足、手指及び/又は足趾の腹の肥厚化、停留精巣、常同運動、手の不随意運動、歩行の喪失、筋緊張の喪失、脊柱側弯症、睡眠障害、協調又は平衡の問題、不安、行動の問題、歯ぎしり、過度な唾液及び流涎、心臓の問題、不整脈、摂食の問題又は嚥下の問題である。
【0022】
加えて、本開示は、PTHSの治療を必要するための薬物を必要とする対象における薬物の調製のための、MECP2をコードするrAAV又はrAAVウイルス粒子の使用を提供する。いくつかの実施形態において、薬物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される。開示される薬物は、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0023】
本開示は、PTHSに罹患している対象において、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)レベルを増加させるための医薬の調製のための、MECP2をコードするrAAV又はrAAVウイルス粒子の使用を提供する。いくつかの実施形態において、薬物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される。開示される薬物は、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0024】
本開示はまた、PTHSに罹患している対象に、メチル-CpG結合タンパク質2(MECP2)をコードするポリヌクレオチド配列を送達するための薬物を調製するための、MECP2をコードするrAAV又はrAAVウイルス粒子の使用を提供する。いくつかの実施形態において、薬物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達のために製剤化される。開示される薬剤は、トレンデレンブルグ体位で患者に投与される。例えば、患者は、TCF4遺伝子に変異を有する。
【0025】
他の実施形態において、患者は、症状のうちの1つ以上に罹患しており、該症状は、中等度の知的障害又は重度の知的障害を含む知的障害、精神的及び運動的スキルの発達遅延(精神運動遅延)、呼吸の問題、反復性の発作(てんかん)、及び特徴的な顔貌、発語の遅延若しくは欠如又は発語の消失、乏しいコミュニケーションスキル、乏しい社会化スキル、過換気、無呼吸、チアノーゼ、手指及び/又は足趾のばち指、薄い眉毛、落ち窪んだ目、鼻梁が高く突出した鼻、上唇の目立つ2つの山(キューピッド弓)、唇の厚い幅広い口、歯間開離、厚みのあるかつ/又はカップ状の耳、便秘、胃腸の問題、小頭症、近視、斜視、低身長、軽度の脳異常、小さい手及び/又は足、単一手掌屈曲線、扁平足、手指及び/又は足趾の腹の肥厚化、停留精巣、常同運動、手の不随意運動、歩行の喪失、筋緊張の喪失、脊柱側弯症、睡眠障害、協調又は平衡の問題、不安、行動の問題、歯ぎしり、過度な唾液及び流涎、心臓の問題、不整脈、摂食の問題又は嚥下の問題である。
【0026】
一実施形態において、開示される方法、組成物、又は使用において投与されるrAAVは、配列番号3のヌクレオチド配列等の、MECP2をコードするヌクレオチド配列を含む。更に、rAAVは、配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヌクレオチド配列を含み、MECP2活性を保持するタンパク質をコードする。
【0027】
加えて、本開示は、配列番号2のプロモーター配列を更に含む、開示される方法、組成物又は使用において投与されるrAAVを提供する。例えば、rAAVは、配列番号2のプロモーター配列及び配列番号3のヌクレオチド配列を含む。本開示はまた、SV40イントロン、合成ポリアデニル化シグナル配列、及び変異体ITR及び野生型ITR等の逆方向末端反復(ITR)を更に含むrAAVを提供する。
【0028】
例示的な実施形態において、開示される方法、組成物又は使用において投与されるrAAVは、配列番号5のヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド151~2558、又は配列番号5のヌクレオチド151~2393を含む。L7 加えて、rAAVは、配列番号5のヌクレオチド配列、又は配列番号1のヌクレオチド151~2558、又は配列番号5のヌクレオチド151~2393に対して、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一であるヌクレオチド配列を含み、MECP2活性を保持するタンパク質を発現する。
【0029】
開示される方法、組成物、又は使用のいずれかにおいて、rAAVは、AAV血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、又はAAVrh74である。特定の実施形態において、rAAVは、血清型AAV9である。
【0030】
開示される方法、組成物、又は使用のうちのいずれかにおいて、患者は、開示されるrAAVと、組成物の粘度及び/又は密度を増加させる薬剤とを含む組成物を投与される。例えば、いくつかの実施形態において、その薬剤は造影剤である。造影剤は、20~40%の非イオン性低浸透圧化合物若しくは造影剤、又は約25%~約35%の非イオン性低浸透圧化合物、例えば、イオヘキソール、イオビトリドール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール若しくはイオキシラン、若しくはそれらの2つ以上の混合物であり得る。開示される組成物は、脳脊髄液への直接注射、脳室内送達、髄腔内送達、又は静脈内送達等の任意の送達手段のために製剤化され得る。
【0031】
いくつかの実施形態において、患者は、開示されるrAAVを含む組成物を投与され、組成物は、該組成物の粘度を約0.05%、又は約1%、又は1.5%、又は約2%、又は約2.5%、又は約3%、又は約4%、又は約5%、又は約6%、又は約7%、又は約8%、又は約9%、又は約10%増加させる薬剤を含む。いくつかの実施形態において、薬剤は、組成物の粘度を約1%~約5%、又は約2%~12%、又は約5%~約10%、又は約1%~約20%、又は約10%~約20%、又は約10%~約30%、又は約20%~約40%、又は約20%~約50%、又は約10%~約50%、又は約1%~約50%増加させる。
【0032】
いくつかの実施形態において、患者は、開示されるrAAVを含む組成物を投与され、組成物は、該組成物の密度を約0.05%、又は約1%、又は1.5%、又は約2%、又は約2.5%、又は約3%、又は約4%、又は約5%、又は約6%、又は約7%、又は約8%、又は約9%、又は約10%増加させる薬剤を含む。いくつかの実施形態において、薬剤は、組成物の密度を約1%~約5%、又は約2%~12%、又は約5%~約10%、又は約1%~約20%又は約10%~約20%、又は約10%~約30%、又は約20%~約40%又は約20%~約50%、又は約10%~約50%、又は約1%~約50%増加させる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「対象」は、任意の動物であり得、患者と称されてもよい。好ましくは、対象は、脊椎動物であり、より好ましくは、対象は、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ)又はペット(例えば、イヌ、ネコ)等の哺乳動物である。いくつかの実施形態において、対象はヒトである。いくつかの実施形態において、対象は、小児対象である。いくつかの実施形態において、対象は、小児対象であり、例えば、1~10歳の範囲の対象である。いくつかの実施形態において、対象は、4~15歳である。対象は、一実施形態において、青年期対象であり、例えば、10~19歳の範囲の対象である。他の実施形態において、対象は、成人(18歳以上)である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】rAAV9.P546.MECP2の概略図を提供する。
【
図2】TCF4欠失を有するPTHS誘導アストロサイト(iAstrocyte)が分化に問題を有することを示す。分化後の健常細胞及びTCF4変異体細胞からのiAstrocyteの代表的な画像が提供される。
【
図3】ミスセンス変異を有するPTHS iAstrocyteが、TCF4タンパク質レベルの調節不全、又はタンパク質アイソフォームの調節不全を有する一方で、欠失変異が、TCF4レベルの減少を有することを示す。神経前駆細胞(A、NPC)及びiAstrocyte(B)内のTCF4レベルの代表的なウエスタンブロットは、対照レベルに対して正規化されたときに可変発現を示す。TCF4及びGAPDHタンパク質レベルを定量し、健常対照に対して正規化した。重要なことに、遺伝子欠失を有する個体は、TCF4レベルの低下を示す。組み合わされた対照データに対する一元配置分散分析を用いて行った統計解析(N=3)。
【
図4】PTHS iAstrocyteが異常な神経突起形態をもたらし、運動ニューロンの生存率を低下させることを示す。アストロサイトの上に播種されたニューロン(黒)の代表的な画像(A)。ニューロンの定量は、生存期間、骨格長及び平均神経突起長の減少を示す(B)。
【
図5】PTHS NPCがMECP2レベルを低下させたことを示す。患者NPCの代表的ウエスタンブロット(N=3)。MECP2及びGAPDHタンパク質レベルを定量し、健常対照株に対して正規化した。統計解析は、一元配置分散分析を用いて行った(N=最小2つの実験)。
【
図6】TCF4欠失変異が、神経前駆細胞(NPC)からのiAstrocyte分化を妨げ、分化の2日前のAAV9.P546.MECP2(10及び100MOI)による形質導入が、分化を修復したことを示す。
【
図7】野生型(WT)マウスにおいてAAV9.P546.MECP2が良好な忍容性を示したことを示す。(A)任意のベクター用量で処理したWTマウスにおける生存率は、未処理のWTマウスにおける生存率と有意差はない(p=0.1525)(Log-Rank/Mantel Cox試験)。(B)未処理のWT及びベクター処理したWTマウスの重症度スコアは、処理がスコアに圧倒的な影響を及ぼさないことを示す。
【
図8-1】野生型動物におけるAAV9.P546.MECP2処理が、生存、行動又は歩行運動を妨げないことを実証する。(A)60日時点で、ベクター処理したWTマウスは、未処理のWTと比較して統計的に異なる重症度スコアを有しない。p値:(未処理KO、p<0.0001、WT1.50x10
9、P>0.9999;WT3.75x10
9、p=0.9992;WT7.50x10
9、p>0.9999;WT1.50x10
10、p=0.9512;WT3.00x10
10、p=0.9876;WT6.00x10
10、p>0.9999。(B)90日時点で、ベクター処理したWTマウスは、3.00x10
10vgを除いて、WTと比較して統計的に異なる重症度スコアを有しない。p値:(未処理KO、p<0.0001、1.50x10
9、p>0.9999;3.75x10
9、p=0.9911;7.50x10
9、p>0.8146;1.50x10
10、p=0.9983;3.00x10
10、p=0.0442;6.00x10
10、p>0.4566。(C~D)距離及び速度に関するオープンフィールドアッセイを49~63日に行った。(C)ベクター処理したWTマウスは、未処理のWTマウスと比較して有意に異なるオープンフィールド速度を有しない。未処理のWTと比較したp値(未処理KO、p<0.0001、1.50x10
9、p>0.9999;3.75x10
9、p>0.9999;7.50x10
9、p=0.9959;1.50x10
10、p=0.9991;3.00x10
10、p>9999;6.00x10
10、p>0.9999。(D)ベクター処理したWTマウスは、未処理のWTマウスと比較して有意に異なるオープンフィールド距離を有しない。未処理のWTと比較したp値(未処理KO、p=0.0037、1.5x10
9、p>0.9999;3.75x10
9、p>0.9999;7.5x10
9
、p=0.4199;1.5x10
10、p=0.9998;3.0x10
10、p=9976;6.0x10
10、p=0.7980。60日及び90日の平均重症度スコアを+/-2~4日つけて、隔週のスコアリング間隔における若干の時点のばらつきを説明する。WT未処理n=40、KO未処理n=43、WT-1.50x10
9n=11、WT-3.75x10
9n=32、WT-7.50x10
9n=16、WT-1.50x10
10n=36、WT-3.00x10
10n=20、WT-6.00x10
10=18。統計的有意性は、テューキー検定とともにANOVAを用いて決定した。有意性は、未処理のWTマウスに関連している。
【
図9】AAV9.P546.MECP2が、野生型脳におけるMECP2タンパク質の用量依存的な増加をもたらすことを示す。A)抗MeCP2ウエスタンブロットは、P1のICV注射の3週間後の様々な脳領域における総MeCP2タンパク質の用量依存的な上昇を示す。(Cb=小脳、Med=髄質、Hipp=海馬、Ctx=皮質、Mid=中脳)。TG3は、MeCP2複製症候群
1の重症マウスモデルから採取された試料を示す。B)パネルAの定量。中程度の用量ではなく高用量のAVXS-201が、選択された脳領域におけるMECP2発現を倍加する。
【
図10】非ヒト霊長類におけるAAV9.P546.MECP2の髄腔内注入が体重増加を妨げないことを示す。3匹のAVXS-201処理動物を、対照対象(円)の体重と比較する。
【
図11-1】非ヒト霊長類におけるAAV9.P546.MECP2の髄腔内注入が、注射後18ヶ月にわたって血液学的値に影響を与えないことを示す。3匹のAVXS-201処理動物の値を、対照対象(円)と比較する。
【
図12-1】非ヒト霊長類におけるAAV9.P546.MECP2の髄腔内注入が、注射後12~18ヶ月にわたって血清化学に影響を与えないことを示す。肝臓及び電解質の値は、AAV9.P546.MECP2で処理した対象と、対照で処理した対象との間で類似している。3匹のAAV9.P546.MECP2で処理した動物の値を、対照対象(円)と比較する。
【
図13-1】非ヒト霊長類におけるAAV9.P546.MECP2の髄腔内注入が、注射後12~18ヶ月にわたって血清化学に影響を与えないことを示す。心臓及び腎臓の値は、AAV9.P546.MECP2で処理した対象と、対照で処理した対象との間で類似している。3匹のAAV9.P546.MECP2処理動物の値を、対照対象(円)と比較する。
【
図14】AAV9.P546.MECP2で処理した霊長類及び対照非ヒト霊長類の脳全体にわたって同様のレベルのMeCP2発現を示す。抗MeCP2免疫組織化学検査では、MeCP2発現の肉眼的な構造的異常又は明らかな差異は示されなかった。OC=後頭皮質、TC=側頭皮質、LSc=腰髄、Thal=視床、Hipp=海馬、Cb=小脳。
【
図15】同様のレベルのMeCP2を示す、対照及びAAV9.P546.MeCP2を注射した非ヒト霊長類からの脳領域のウエスタンブロットを提供する。総MeCP2レベル及びGAPDHローディング対照が示される。パネルA及びBの定量は、それぞれのブロットの下に示される。グラフ内の破線は、対照全体で検出された平均正規化値を示す。OC=後頭皮質、TC=側頭皮質、LSc=腰髄、Thal=視床、Hipp=海馬、Cb=小脳。値は平均±SEMとして示されている。
【
図16】対照ではなく、AAV9.P546.MECP2で処理した非ヒト霊長類の脳の調べた全ての領域におけるベクター由来転写産物を示すインサイチュハイブリダイゼーションを提供する。図は、核標識(Dapi)とともに、GAPDH及びベクター由来MECP2 mRNAに対するプローブを示す。OC=後頭皮質、TC=側頭皮質、LSc=腰髄、Hipp=海馬、Cb=小脳。スケールバー=20μm。
【
図17】インサイチュハイブリダイゼーションは、注射後18ヶ月目の、対照ではなくAVXS-201で処理した非ヒト霊長類の脳の調べた全ての領域におけるベクター由来転写産物を示す。図は、核標識(Dapi)とともに、GAPDH及びベクター由来MECP2 mRNAに対するプローブを示す。OC=後頭皮質、TC=側頭皮質、CA1及びCA3=海馬の領域、CC=脳梁、Thal=視床、Cau=尾状核、Put=被殻、SColl=上丘、Med=髄質、Cb=小脳、Cerv=頸髄、Thor=胸髄、Lumb=腰髄。スケールバー=20μm。
【
図18】マウスにおけるICV注射部位の位置の概略図及び写真を提供する。
【
図19】マウスにおけるICV注射部位の位置の顕微鏡画像及び写真を提供する。
【
図20】マウスにおけるscAAV9.P546.GFPのICV注射後の脳におけるGFPタンパク質発現を提供する。
【
図21】野生型及びTCF
+/-マウスにおけるscAAV9.P546.MeCP2のICV注射後の脳におけるMeCP2タンパク質発現を提供する。
【
図22】異なるゾーンに記録された、Zスタックによる海馬及び視床におけるMeCP2タンパク質核強度を提供する。
【
図24】前部及び後部皮質、海馬、並びに視床における核強度を測定するグラフを提供する。
【
図25】マウスにおけるscAAV9.P546.GFPのICV注射後のビー玉埋め試験からのデータを提供する。
【
図26】マウスにおけるscAAV9.P546.GFPのICV注射後のオープンフィールド試験からのデータを提供する。
【
図27】マウスにおけるscAAV9.P546.GFPのICV注射後の高架式十字迷路試験からのデータを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示は、患者がTCF4及びMECP2の発現を低下させたことを実証する、PTHS患者から得られたNPC及びiAstrocytesを使用したデータを提供する。したがって、本開示は、rAAV発現MECP2を投与することを含む、PTHSの治療方法を提供する。
【0036】
本明細書においてscAAV.P546.MECP2又は「AVXS-201」と称される自己相補性AAV9(scAAV9)等のrAAVが提供される。その遺伝子カセット(配列番号5に示されるAVXS-201ゲノムのヌクレオチド151~2393)は、配列中に、マウスMECP2遺伝子からの546bpプロモーターフラグメント(配列番号2)(逆方向にNC_000086.7のヌクレオチド74085586~74086323)、SV40イントロン、ヒトMECP2B cDNA(配列番号3)(CCDSデータベース#CCDS48193.1)、及び合成ポリアデニル化シグナル配列(配列番号4)を有する。遺伝子カセットは、ともに自己相補性AAVゲノムのパッケージングを可能にする変異体AAV2逆方向末端反復(ITR)及び野生型AAV2逆方向末端反復に隣接する。ゲノムは、AAVのrep及びcap DNAを欠いており、すなわち、ゲノムのITR間にAAVのrep又はcap DNAが存在しない。
【0037】
TCF4は、ピット・ホプキンス症候群における乏突起膠細胞の成熟、及び異常なニューロン形態(2-4)に関与する(Li et al.,Mol.Psych.24:1235-1246,2019;Crux et al.,PLoS One 13(6):1-9,2018;Fu et al.,J.Neurosci.29:11399-11408,2009)。しかしながら、この障害における他の細胞型の役割はあまり理解されていない。直接変換技術を使用して、複数の神経学的及び神経変性障害を有する患者からのヒト線維芽細胞を神経前駆細胞(NPC)に再プログラムし、その後、それらをアストロサイト(iAstrocytes)に分化させた(Meyer et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.111(2):829-832,2014)。iAstrocyteを、GFPを発現するマウスニューロンと共培養することによって、レット症候群及びピット・ホプキンス症候群を含む、多くの神経障害の疾患病理におけるアストロサイトの役割が実証されている。
【0038】
興味深いことに、全てのPTHS患者の細胞株が、転写因子であるメチル-CpG結合タンパク質2(MeCP2)の下方制御を示した。MeCP2変異は、PTHS患者といくつかの臨床症状の重複を共有するレット症候群につながるため、このことは特に重要である。更に、MeCP2及びTCF4の両方の転写因子は、下流経路を共有している。これらの観察を組み合わせると、MeCP2遺伝子レベルを増加させることがPTHSに対する強力な代替戦略であり得ることが示唆される。
【0039】
総合すると、これらの知見は、i)PTHSアストロサイトが疾患において役割を果たすこと、ii)PTHSアストロサイトがニューロンに加えて治療的に標的とされるべきであること、及びiii)遺伝子治療構築物を使用したMECP2レベルの調節が、PTHSの治療のための潜在的な治療戦略であることを示唆している。本開示は、アストロサイト及び/又はニューロンの両方を治療的に処理するために、AAV9 p546.MECP2構築物を利用することを提供する。
【0040】
一態様では、本発明は、患者へのMECP2をコードするポリヌクレオチドの髄腔内投与(すなわち、脳又は脊髄のくも膜の下の空間への投与)のための方法であって、ポリヌクレオチドを含むゲノムを有するrAAV9を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、rAAV9ゲノムは、自己相補性ゲノムである。他の実施形態において、rAAV9ゲノムは、一本鎖ゲノムである。
【0041】
本方法は、MECP2をコードするポリヌクレオチドを患者の脳及び脊髄(すなわち、患者の中枢神経系)に送達する。送達が企図される脳のいくつかの標的領域としては、運動皮質及び脳幹が挙げられるが、これらに限定されない。送達が企図される中枢神経系のいくつかの標的細胞としては、神経細胞及びグリア細胞が挙げられるが、これらに限定されない。グリア細胞の例としては、ミクログリア細胞、オリゴデンドロサイト、及びアストロサイトが挙げられる。
【0042】
「治療」は、本発明のrAAVを含む組成物の有効用量又は有効な複数回用量を、それを必要とする対象動物(ヒト患者を含む)に髄腔内経路を介して投与するステップを含む。用量が、障害/疾患の発症前に投与される場合、投与は予防的である。用量が、障害/疾患の発症後に投与される場合、投与は治療的である。本発明の実施形態において、有効用量は、治療される障害/疾患の状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和する(排除するか若しくは軽減するかのいずれか)、治療される障害/疾患の状態に関連する少なくとも1つの症状を改善する、障害/疾患の状態への進行を遅延する若しくは予防する、疾患の程度を軽減する、疾患の寛解(部分寛解又は完全寛解)をもたらす、及び/又は生存を延長する用量である。
【0043】
本明細書に開示される方法、組成物及び使用のうちのいずれかにおいて、患者は、転写因子TCF4(別名、ITF2、SEF2又はE2-2)をコードする遺伝子に変異を有し、それがTCF4タンパク質の機能の障害又は低下をもたらす。ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、及びスプライス部位の変異、並びにTCF4遺伝子を包含する転座及び大きな欠失は、ピット・ホプキンス症候群(PTHS)を引き起こすことが示されている。
【0044】
TCF4遺伝子(MIM番号610954)は、染色体18q21.2に位置し、360kbに及ぶ20個のエキソン(最初と最後は非コードである)を有する。この転写因子は、ホモ又はヘテロ二量体として機能する、後半に発現する塩基性ヘリックスループヘリックス(bHLH)タンパク質である。TCF4は、中枢神経系、硬節、気管支周囲及び腎間葉、並びに生殖器芽にわたってヒトの初期発生中に高度に発現される転写調節活性を示し、細胞増殖、系統コミットメント、及び細胞分化において重要な役割を果たす。
【0045】
いくつかの選択的にスプライシングされたTCF4バリアントが記載されており、異なるN末端配列を有する少なくとも18のタンパク質アイソフォームの翻訳を可能にしている。以下は、PTHSを引き起こすことが知られているTCF4遺伝子の例示的な変異である:全遺伝子欠失、例えば、サイズが数メガ塩基のサイズの大きな再配列、部分的遺伝子欠失、例えば、7~20のエキソンのうちの1つ以上を伴う欠失、バランスのとれた転座、例えば、遺伝子のコード配列を破壊する欠失、ミスセンス変異、例えば、TCF4のbHLHドメインを伴う欠失、ナンセンス変異及びフレームシフト変異、例えば、エキソン7~18の遺伝子全体に広がる変異、並びにスライス部位変異、例えば、ドナー及びアクセプターコンセンサスススプライス部位に影響を及ぼすもの、読み取りフレームのシフトをもたらすもの。例示的なゲノム変異としては、t(14;18)(q13.1;q21.2)及びt(2;18)(q37;q21.2)が挙げられ、これらはそれぞれ、ブレークポイントが遺伝子の後半内にある、バランスのとれたデノボ転座である。TCF4遺伝子における更なる例示的な変異は、以下の表1及び表2に提供され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるAmiel et al.Am.J.Hum.Genet.80(5):988-993,2007,Pontual et al.Human Mut.30:669-676,2009,Goodspeed et al.J.Clin.Neurology 33(3):233-244,2018、及びZweier et al.J.Med.Genet.45(11):738-44,2008に記載されている。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
PTHSの治療において、方法は、筋緊張の改善、歩行及び可動性の改善、発語の改善、呼吸の問題の軽減、無呼吸の軽減、発作の軽減、不安の軽減、摂食行動の正常化、社会化の増加、IQの増加、睡眠パターンの正常化、及び/又は可動性の増加を含むが、これらに限定されない、対象における効果をもたらす。
【0059】
併用治療もまた、本発明によって企図される。本明細書で使用される組み合わせは、同時治療及び逐次治療の両方を含む。本発明の方法とPTHSに対する標準的な医学的処置との組み合わせが、新規治療との組み合わせと併せて、特に企図される。
【0060】
出生後にそれを必要とする個体への送達が企図されるが、胎児への子宮内送達も企図される。
別の態様では、本発明は、rAAVゲノムを提供する。rAAVゲノムは、MECP2をコードするポリヌクレオチドに隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。ポリヌクレオチドは、「遺伝子カセット」を形成するために標的細胞において機能的である転写制御DNA、具体的には、プロモーターDNA及びポリアデニル化シグナル配列DNAに作動可能に連結されている。遺伝子カセットは、ニューロン内での特異的発現又はグリア細胞内での特異的発現を可能にするプロモーターを含み得る。例としては、ニューロン特異的エノラーゼ及びグリア線維性酸性タンパク質プロモーターが挙げられる。摂取された薬物の制御下で誘導プロモーターも使用することができる。例としては、限定されないが、テトラサイクリン(TETオン/オフ)系等の系[Urlinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97(14):7963-7968(2000)]及びエクジソン受容体調節系[Palli et al.,Eur J.Biochem 270:1308-1315(2003]が挙げられる遺伝子カセットは、ポリヌクレオチドが哺乳動物細胞で発現されたときにRNA転写産物のプロセシングを促進するためのイントロン配列を更に含んでもよい。
【0061】
本発明のrAAVゲノムは、AAVのrep及びcap DNAを欠いており、すなわち、ゲノムのITR間にAAVのrep又はcap DNAが存在しない。rAAVゲノム内のAAV DNA(例えば、ITR)は、限定されないが、AAV血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13及びAAVrh74を含む、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来し得る。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当該技術分野において既知である。例えば、AAV9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供される。
【0062】
別の態様では、本発明は、本発明のrAAVゲノムを含むDNAプラスミドを提供する。DNAプラスミドは、rAAVゲノムを、AAV9カプシドタンパク質を有する感染性ウイルス粒子にアセンブリするために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス、又はヘルペスウイルス)による感染を許容する細胞に移される。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子を産生する技術は、当該技術分野において標準的である。rAAVの産生は、以下の成分が単一の細胞(本明細書でパッケージング細胞と示される)内に存在することを必要とする:rAAVゲノム、rAAVゲノムとは別個(すなわち、その中には存在しない)AAV rep遺伝子及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能。偽型rAAVの産生は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO01/83692に開示されている。様々な実施形態において、AAVカプシドタンパク質は、組換えベクターの送達を増強するために修飾され得る。カプシドタンパク質に対する修飾は、当該技術分野において一般的に既知である。例えば、参照によりその開示全体が本明細書に組み込まれる、US2005/0053922及びUS2009/0202490を参照されたい。
AAV遺伝子療法
本明細書で使用される場合、「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの一般的な略語である。アデノ随伴ウイルスは、同時感染ヘルパーウイルスによってある特定の機能が提供される細胞内でのみ成長する一本鎖DNAパルボウイルスである。現在、特徴付けられているAAVの血清型は13個存在する。AAVの一般的な情報及び概説は、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228、及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)に見ることができる。しかしながら、様々な血清型が、遺伝子レベルでさえも構造的及び機能的の両方で非常に密接に関連していることが周知であるため、これらの同じ原理が追加のAAV血清型に適用可能であることが十分に予想される。(例えば、Blacklowe,1988,pp.165-174 of Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照されたい)。例えば、全てのAAV血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される非常に類似した複製特性を明らかに呈し、これらは全て、AAV2で発現されるもの等の3つの関連カプシドタンパク質を有する。関連性の程度は、ゲノムの長さに沿った血清型間の広範な交差ハイブリダイゼーション、及び「逆方向末端反復」(ITR)に対応する末端における類似の自己アニーリングセグメントの存在を明らかにする、ヘテロ二本鎖分析によって更に示唆される。同様の感染性パターンもまた、各血清型における複製機能が類似の調節制御下にあることを示唆する。
【0063】
本明細書で使用される「AAVベクター」とは、AAV末端反復配列(ITR)に隣接する1つ以上の目的のポリヌクレオチド(又は導入遺伝子)を含むベクターを指す。かかるAAVベクターは、rep及びcap遺伝子産物をコード及び発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞中に存在する場合、感染性ウイルス粒子に複製及びパッケージングされ得る。
【0064】
「AAVビリオン」又は「AAVウイルス粒子」又は「AAVベクター粒子」は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質と、カプシド形成したポリヌクレオチドAAVベクターとからなる、ウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子等の野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「AAVベクター粒子」又は単に「AAVベクター」と称される。したがって、かかるベクターがAAVベクター粒子内に含有されるため、AAVベクター粒子の産生には、必然的にAAVベクターの産生が含まれる。
【0065】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、逆方向末端反復(ITR)を含んで約4.7kbの長さである。例示的なITR配列は、130塩基対長、又は141塩基対長であり得る(ITR配列等)。複数のAAVの血清型が存在する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は既知である。例えば、AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Ruffing et al.,J Gen Virol,75:3385-3392(1994)によって修正されたSrivastava et al.,J Virol,45:555-564(1983)に提示されている。他の例として、AAV-1の完全ゲノムは、GenBank受理番号NC_002077に提供され、AAV-3の完全ゲノムは、GenBank受理番号NC_1829に提供され、AAV-4の完全ゲノムは、GenBank受理番号NC_001829に提供され、AAV-5ゲノムは、GenBank受理番号AF085716に提供され、AAV-6の完全ゲノムは、GenBank受理番号NC_001862に提供され、AAV-7及びAAV-8のゲノムの少なくとも一部は、それぞれ、GenBank受理番号AX753246及びAX753249に提供され(AAV-8に関する米国特許第7,282,199号及び同第7,790,449号もまた参照されたい)、AAV-9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供され、AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)に提供され、AAV-11ゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)に提供される。AAVrh.74血清型のクローニングは、Rodino-Klapac.,et al.Journal of translational medicine 5,45(2007)に記載されている。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組み込みを指示するシス作用配列は、ITR内に含まれている。3つのAAVプロモーター(それらの相対的なマップ位置からp5、p19、及びp40と命名)は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、単一のAAVイントロンの差異的スプライシング(AAV2ヌクレオチド2107及び2227における)と相まって、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。Repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。Cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与する。単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環及び遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)に概説されている。
【0066】
AAVは、例えば、遺伝子治療において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとしてそれを魅力的にする固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、サイレント及び無症候性である。更に、AAVは、多くの哺乳動物細胞に感染し、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を許容する。更に、AAVは、ゆっくりと分裂する細胞及び非分裂細胞を形質導入し、本質的にそれらの細胞の寿命にわたって、転写的に活性な核エピソーム(染色体外因子)として存続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド中にクローニングされたDNAとして感染性である。更に、AAV複製、ゲノムカプシド形成及び組み込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITR内に含まれているため、ゲノムの内部約4.3kb(複製及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)の一部又は全てを、プロモーター、目的のDNA及びポリアデニル化シグナルを含む遺伝子カセット等の外来DNAで置換することができる。Rep及びcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定した頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥され得る。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性を示さない。
【0067】
本開示の組換えAAVゲノムは、本開示の核酸分子と、核酸分子に隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。rAAVゲノムのAAV DNAは、AAV血清型(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、又はAnc80、AAV7m8、及びそれらの誘導体)を含むが、これらに限定されない、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来し得る。偽型rAAVの産生は、例えば、WO01/83692に開示されている。他のタイプのrAAVバリアント、例えば、カプシド変異を有するrAAVもまた企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。上記の背景技術のセクションに記載したように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が、当該技術分野において既知である。
【0068】
提供される組換えAAV(すなわち、感染性カプシド形成rAAV粒子)は、rAAVゲノムを含む。「rAAVゲノム」という用語は、修飾された天然のAAVゲノムに由来するポリヌクレオチド配列を指す。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、天然のcap及びrep遺伝子を除去するために修飾されている。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは内因性5’及び3’逆方向末端反復(ITR)を含む。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、AAVゲノムが由来するAAV血清型とは異なるAAV血清型からのITRを含む。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、逆方向末端反復(ITR)によって5’末端及び3’末端に隣接された目的の導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、「遺伝子カセット」を含む。例示的な実施形態において、両方のrAAVのゲノムは、AAVのrep及びcap DNAを欠いており、すなわち、rAAVのゲノムのITR間にAAVのrep又はcapのDNAが存在しない。
【0069】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、いくつかの実施形態において、導入遺伝子ポリヌクレオチド配列に隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。導入遺伝子ポリヌクレオチド配列は、「遺伝子カセット」を形成するために標的細胞において機能的である転写制御要素(プロモーター、エンハンサー及び/又はポリアデニル化シグナル配列を含むが、これらに限定されない)に作動可能に連結されている。プロモーターの例は、pIRFプロモーター、ニワトリβアクチンプロモーター(CBA)、及び配列番号2に記載されるポリヌクレオチド配列を含むP546プロモーターである。サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長い末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、並びにヒト遺伝子プロモーター(例えば、限定されないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、伸長因子-1aプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーター等)を含むが、これらに限定されない追加のプロモーターが、本明細書で企図される。
【0070】
更に、P546プロモーター配列、及び、転写促進活性を示すヌクレオチド配列又はP546(配列番号2)配列に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一なプロモーター配列が、本明細書に提供される。
【0071】
転写制御要素の他の例は、組織特異的制御要素、例えば、ニューロン内での特異的発現又はグリア細胞内での特異的発現を可能にするプロモーターである。例としては、ニューロン特異的エノラーゼ及びグリア線維性酸性タンパク質プロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターもまた、企図される。誘導性プロモーターの非限定的な例としては、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリン調節プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。遺伝子カセットはまた、哺乳動物細胞中で発現されたときに導入遺伝子RNA転写産物のプロセシングを促進するためのイントロン配列を含んでもよい。そのようなイントロンの一例は、SV40イントロンである。
【0072】
限定されないが、rAAV9ゲノム内の遺伝子カセット内を含む、rAAV9ゲノム内の保存的ヌクレオチド置換が企図される。例えば、遺伝子カセット中のMECP2 cDNAは、MECP2活性を保持するタンパク質をコードする配列番号3のヌクレオチド配列等のMECP2ヌクレオチド配列に対して80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し得る。
【0073】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、MECP2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号3)を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるrAAVゲノムは、MECP2 cDNAによってコードされるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0074】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、配列番号1として示されるヌクレオチド配列のヌクレオチド151~2393、又は配列番号5として示されるヌクレオチド配列のヌクレオチド151~2393を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるrAAVゲノムは、配列番号1として示されるヌクレオチド配列のヌクレオチド151~2393、又は配列番号5として示されるヌクレオチド配列のヌクレオチド151~2393に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるポリペプチドを含む。
【0075】
核酸配列又はアミノ酸配列の文脈における「配列同一性」、「パーセント配列同一性」、又は「パーセント同一性」という用語は、最大の一致となるように整列させたときに同じである2つの配列中の残基を指す。配列同一性の比較の長さは、ゲノムの全長、遺伝子コード配列の全長にわたり得るか、又は少なくとも約500~5000ヌクレオチドの断片が望ましい。しかしながら、より小さい断片間の同一性、例えば、少なくとも約9個のヌクレオチド、通常は少なくとも約20~24個のヌクレオチド、少なくとも約28~32個のヌクレオチド、少なくとも約36個以上のヌクレオチド間の同一性もまた所望され得る。配列の同一性の割合は、当該技術分野において既知の技術によって決定することができる。例えば、相同性は、配列情報を整列させ、ALIGN、ClustalW2、及びBLAST等の容易に入手可能なコンピュータプログラムを使用することにより、2つのポリペプチド分子間の配列情報を直接比較することによって決定することができる。一実施形態において、BLASTがアライメントツールとして使用される場合、次のデフォルトパラメータ:遺伝暗号=標準;フィルタ=なし;鎖=両方;カットオフ=60;予測=10;マトリクッス=BLOSUM62;説明=50個の配列;並べ替え=高得点;データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIR。
【0076】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、いくつかの実施形態において、MECP2タンパク質をコードし、ストリンジェントな条件下で配列番号3に記載されるポリヌクレオチド配列又はその補体にハイブリダイズするポリヌクレオチド配列。
【0077】
本開示のDNAプラスミドは、本開示のrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、rAAVゲノムを感染性ウイルス粒子もアセンブリするために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス、又はヘルペスウイルス)による感染を許容する細胞に移される。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子を産生する技術は、当該技術分野において標準的である。rAAVの産生は、以下の成分が単一の細胞(本明細書でパッケージング細胞と示される)内に存在することを必要とする:rAAVゲノム、rAAVゲノムとは別個(すなわち、その中には存在しない)AAV rep遺伝子及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能。AAV rep及びcap遺伝子は、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、AAV血清型AAV-9、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAVrh.74、AAV-8、AAV-10、AAV-11、AAV-12及びAAV-13.を含むが、これらに限定されない、rAAVゲノムITRとは異なるAAV血清型に由来してもよい。偽型rAAVの産生は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO01/83692に開示されている。
【0078】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子の産生に必要な全ての成分を安定に発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離されたAAV rep及びcap遺伝子、並びにネオマイシン耐性遺伝子等の選択可能なマーカーを含むプラスミド(又は複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)、又は直接平滑末端ライゲーション(Senapathy&Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666等の手順により細菌プラスミドに導入されてきた。次いで、パッケージング細胞株を、アデノウイルス等のヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノム並びに/又はrep遺伝子及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するために、プラスミドではなく、アデノウイルス又はバキュロウイルスを用いる。
【0079】
rAAV産生の一般原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539、及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)に概説されている。様々なアプローチが、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowski et al.,Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.,J.Virol.,63:3822-3828(1989);米国特許第5,173,414号;WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号、WO95/13392;WO96/17947;PCT/US98/18600;WO97/09441(PCT/US96/14423);WO97/08298(PCT/US96/13872);WO97/21825(PCT/US96/20777);WO97/06243(PCT/FR96/01064);WO99/11764;Perrin et al.Vaccine 13:1244-1250(1995);Paul et al.Human Gene Therapy 4:609-615(1993);Clark et al.Gene Therapy 3:1124-1132(1996);米国特許第5,786,211号;米国特許第5,871,982号、及び米国特許第6,258,595号に記載されている。上記の文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれ、rAAV産生に関する文書の部分を特に強調する。
【0080】
したがって、本開示は、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。一実施形態において、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、及びPerC.6細胞(同種293株)等の安定に形質転換されたがん細胞であり得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、形質転換されたがん細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)、及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)である。
【0081】
rAAVは、当該技術分野で標準的な方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配によって精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製する方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999);Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002);米国特許第6,566,118号及びWO98/09657に開示されている方法を含む。
【0082】
別の態様では、本発明は、MECP2ポリペプチドをコードするrAAV9等のrAAVを含む組成物を企図する。
本明細書に提供される組成物は、rAAV及び薬学的に許容される賦形剤を含む。許容される賦形剤は、レシピエントにとって非毒性であり、好ましくは、用いられる投与量及び濃度で不活性であり、リン酸塩[例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)]、クエン酸塩、若しくは他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸等の抗酸化剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン若しくはリジン等のアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール若しくはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又はTween、ポロキサマー188等のコポリマー、プルロニック(登録商標)(例えば、プルロニックF68)若しくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に提供される組成物は、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、又はイオキシラン等の非イオン性低浸透圧化合物を含有する薬学的に許容される水性賦形剤を含むことができ、非イオン性低浸透圧化合物を含有する水性賦形剤は、以下の特性、約180mgI/mL、約322mOsm/kg水の蒸気圧浸透圧法によるオスモル濃度、約273mOsm/Lのオスモル濃度、20℃で約2.3cp及び37℃で約1.5cpの絶対粘度、並びに37℃で約1.164の比重、のうちの1つ以上を有することができる。
【0083】
例示的な組成物は、組成物の粘度及び/又は密度を増加させるための薬剤を含む。例えば、組成物は、組成物の粘度及び/又は密度を増加させるための造影剤を含む。例示的な組成物は、約20~40%の非イオン性低浸透圧化合物若しくは造影剤、又は約25%~約35%の非イオン性低浸透圧化合物を含む。例示的な組成物は、20mMトリス(pH8.0)、1mM MgCl2、200mM NaCl、0.001%ポロキサマー188、及び約25%~約35%の非イオン性低浸透圧化合物中に配合されたscAAV又はrAAVウイルス粒子を含む。別の例示的な組成物は、1×PBS及び0.001%プルロニックF68.IG中に配合されたscAAVを含む。
【0084】
無菌注射液は、必要な量のrAAVを、必要であれば上に列挙した他の様々な成分とともに、適切な溶媒に組み込み、その後滅菌濾過することによって調製される。一般的に、分散液は、基本的な分散媒と、上に列挙したものから必要な他の成分とを含む無菌ビヒクルに、滅菌した活性成分を組み込むことによって調製される。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製の方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、活性成分及び任意の追加の所望の成分の粉末が、それらの以前に滅菌濾過した溶液から得られる。
【0085】
本発明の方法で投与されるrAAVの力価及び投与量は、例えば、特定のrAAV、投与方法、治療目標、個体、投与時期、及び標的化される細胞型に応じて異なり、当該技術分野における標準的な方法によって決定され得る。rAAVの力価は、1ml当たり約1×106、約1×107、約1×108、約1×109、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013~約1×1014、又はそれ以上のDNase耐性粒子(DRP)の範囲であり得る。投薬量は、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい。RAAVのこれらの投与量は、約1×109vg以上、約1×1010vg以上、約1×1011vg以上、約1×1012vg以上、約6×1012vg以上、約1×1013vg以上、約1.3×1013vg以上、約1.4×1013vg以上、約2×1013vg以上、3x1013vg以上、約6×1013vg以上、約1×1014vg以上、約3x1014以上、約6×1014vg以上、約1×1015vg以上、約3×1015vg以上、約6×1015vg以上、約1×1016vg以上、約3×1016vg以上、又は約6×1016vg以上の範囲であり得る。新生児の場合、rAAVの投与量は、約1×109vg以上、約1×1010vg以上、約1×1011vg以上、約1×1012vg以上、約6×1012以上、約1×1013vg以上、約1.3×1013vg以上、約1.4×1013vg以上、約2×1013vg以上、約3×1013vg以上、約6×1013vg以上、約1×1014vg以上、約3×1014vg以上、約6×1014vg以上、約1×1015vg以上、約3×1015vg以上、約6×1015vg以上、約1×1016vg以上、約3×1016vg以上、又は約6×1016vg以上の範囲であり得る。
【0086】
インビボ又はインビトロで、rAAVを用いて標的細胞を形質導入する方法が、本開示によって企図される。インビボ方法は、有効用量又は有効複数回用量の本開示のrAAVを含む組成物を、それを必要とする動物(ヒトを含む)に投与するステップを含む。用量が、障害/疾患の発症前に投与される場合、投与は予防的である。用量が、障害/疾患の発症後に投与される場合、投与は治療的である。本開示の実施形態において、有効用量は、治療される障害/疾患の状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和する(排除する若しくは軽減する)、障害/疾患の状態への進行を遅延する若しくは予防する、障害/疾患の状態の進行を遅延若しくは予防する、疾患の程度を軽減する、疾患の寛解(部分寛解又は完全寛解)をもたらす、及び/又は生存を延長する用量である。本開示の方法による予防又は治療が企図される疾患の例は、PTHSである。
【0087】
本発明のrAAVを使用した細胞の形質導入は、rAAVによってコードされるMECP2ポリペプチドの持続的な発現をもたらす。いくつかの実施形態において、標的発現レベルは、PTHSを有しない対象における正常な(又は野生型)生理学的発現レベルの約10%~約25%、又はPTHSを有しない対象における正常な(又は野生型)生理学的発現レベルの約25%~約50%、又はPTHSを有しない対象における正常な(又は野生型)生理学的発現レベルの約50%~約75%、又はPTHSを有しない対象における正常な(又は野生型)生理学的発現レベルの約75%~約125%であることが企図される。標的発現レベルは、正常な発現レベルの約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約105%、約110%、約115%、約120%、又は約125%であり得る。
【0088】
「形質導入」という用語は、レシピエント細胞におけるMECP2の発現をもたらす、本開示の複製欠損rAAVを介した、インビボ又はインビトロのいずれかのレシピエント細胞へのMECP2のコード領域の投与/送達を指すために使用される。
【0089】
本発明の治療方法のいくつかの実施形態において、組成物の粘度及び/又は密度を増加させる薬剤が患者に投与される。例えば、非イオン性低浸透圧造影剤もまた、患者に投与される。そのような造影剤としては、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、イオキシラン、及び造影剤のうちの2つ以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、治療方法は、したがって、患者へのイオヘキソールの投与を更に含む。非イオン性低浸透圧造影剤は、患者の中枢神経系における標的細胞の形質導入を増加させることが企図される。本開示のrAAVを本明細書に記載の造影剤と組み合わせて使用した場合、本開示のrAAVを単独で使用した場合の細胞の形質導入と比較して、細胞の形質導入が増加することが企図される。様々な実施形態において、細胞の形質導入は、本開示のベクターが本明細書に記載の造影剤と組み合わせて使用される場合、造影剤と組み合わせて使用されない場合の本開示のベクターの形質導入と比較して、少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約120%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%若しくはそれ以上増加する。更なる実施形態において、細胞の形質導入は、本開示のベクターが本明細書に記載の造影剤と組み合わせて使用される場合、造影剤と組み合わせて使用されない場合の本開示のベクターの形質導入と比較して、約10%~約50%、又は約10%~約100%、又は約5%~10%、又は約5%~約50%、又は約1%~約500%、又は約10%~約200%、又は約10%~約300%、又は約10%~約400%、又は約100%~約500%、又は約150%~約300%、又は約200%~約500%増加する。
【0090】
いくつかの実施形態において、患者をトレンデレンブルグ体位(頭低位)にすると、細胞の形質導入が増加することが企図される。いくつかの実施形態において、例えば、患者は、髄腔内ベクター注入中又はその後に、約1度~約30度、約15~約30度、約30~約60度、約60~約90度、又は約90~約180度の頭低位に傾けられる。様々な実施形態において、細胞の形質導入は、トレンデレンブルグ体位が本明細書に記載されるように使用される場合、トレンデレンブルグ体位が使用されない場合と比較して、少なくとも約1%、又は少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約120%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%若しくはそれ以上増加する。
【0091】
更なる実施形態において、細胞の形質導入は、本開示のベクターが本明細書に記載の造影剤及びトレンデレンブルグ体位と組み合わせて使用される場合、造影剤及びトレンデレンブルグ体位と組み合わせて使用されない場合の本開示のベクターの形質導入と比較して、約10%~約50%、又は約10%~約100%、又は約5%~10%、又は約5%~約50%、又は約1%~約500%、又は約10%~約200%、又は約10%~約300%、又は約10%~約400%、又は約100%~約500%、又は約150%~約300%、又は約200%~約500%増加する。
【0092】
本開示はまた、本開示のベクター及び造影剤の、トレンデレンブルグ体位にある、それらを必要とする患者の中枢神経系への髄腔内投与が、本開示のベクターが造影剤及びトレンデレンブルグ体位の非存在下で投与される場合の患者の生存率と比較して、患者の生存率の更なる増加をもたらす治療方法の実施形態を提供する。様々な実施形態において、本開示のベクター及び造影剤の、トレンデレンブルグ体位(Trendelberg position)にある、それらを必要とする患者の中枢神経系への髄腔内投与は、本開示のベクターが造影剤及びトレンデレンブルグ体位の非存在下で投与される場合の患者の生存率と比較して、少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%又はそれ以上の患者の生存率の増加をもたらす。
【0093】
併用療法もまた、本開示によって企図される。本明細書で使用される組み合わせは、同時治療及び逐次治療の両方を含む。本開示の方法と標準的な医学的処置との組み合わせが、新規治療との組み合わせと併せて、特に企図される。いくつかの実施形態において、併用療法は、本明細書に開示される遺伝子治療と組み合わせて免疫抑制剤を投与することを含む。
【0094】
有効用量の組成物の投与は、筋肉内、非経口、静脈内、経口、頬側、経鼻、経肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸内、又は膣内を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で標準的な経路によるものであり得る。本開示のrAAVのAAV成分(特に、AAV ITR及びカプシドタンパク質)の投与経路及び血清型は、治療される疾患の状態及びMECP2タンパク質を発現する標的細胞/組織を考慮して、当業者によって選択及び/又は適合され得る。
【0095】
本開示は、有効用量のrAAV及び本開示の組成物の局所投与及び全身投与を提供する。例えば、全身投与とは、全身が影響を受けるように循環系に投与することである。全身投与は、消化管を介した吸収等の経腸投与、及び注射、注入、又は移植による非経口投与を含む。
免疫抑制剤
免疫抑制剤は、遺伝子治療の投与後に、対象におけるrAAVに対する免疫応答の開始前又は後に投与され得る。加えて、免疫抑制剤は、遺伝子治療又はタンパク質補充療法と同時に投与され得る。対象における免疫応答は、対象へのrAAVの投与に続く、又はそれによって引き起こされる、有害な免疫応答又は炎症反応を含む。免疫応答は、投与されたrAAVに応答した、対象における抗体の産生であり得る。
【0096】
例示的な免疫抑制剤としては、グルココルチコステロイド、ヤヌスキナーゼ阻害剤、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、細胞分裂阻害剤、例えば、プリン類似体、メトトレキサート、及びシクロホスファミド、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMDH)阻害剤、生物製剤、例えば、モノクローナル抗体又は融合タンパク質が挙げられる。
【0097】
免疫抑制剤は、炎症を減少させ、対象の免疫系を抑制又は変調するステロイドである、抗炎症ステロイドであり得る。例示的な抗炎症ステロイドは、プレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、デフラザコート、ブデソニド、又はプレドニゾン等のグルココルチコイドである。
【0098】
ヤヌスキナーゼ阻害剤は、ヤヌスキナーゼファミリーの酵素のうちの1つ以上を標的とすることによる、JAK/STATシグナル伝達経路の阻害剤である。例示的なヤヌスキナーゼ阻害剤としては、トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ、ペフィシチニブ、及びオクラシチニブが挙げられる。
【0099】
カルシニューリン阻害剤は、シクロフィリンに結合し、カルシニューリンの活性を阻害する。例示的なカルシニューリン阻害剤としては、シクロスポリン、タクロリムス、及びピセクロリムスが挙げられる。
【0100】
mTOR阻害剤は、セリン/スレオニン特異的タンパク質キナーゼmTORを低減又は阻害する。例示的なmTOR阻害剤としては、シロリムス、エベロリムス、及びテムシロリムスが挙げられる。
【0101】
免疫抑制剤は、免疫抑制マクロライドを含む。「免疫抑制マクロライド」という用語は、対象の免疫系を抑制又は調節するマクロライド剤を指す。マクロライドは、クラジノース又はデソアミン等の1つ以上のデオキシ糖が付着した大きな大環状ラクトン環を含む薬剤のクラスである。ラクトン環は通常、14、15、又は16員である。マクロライドは、ポリケチドクラスの薬剤に属し、天然産物であり得る。免疫抑制マクロライドの例としては、タクロリムス、ピメクロリムス、及びシロリムスが挙げられる。
【0102】
プリン類似体は、ヌクレオチド合成を阻止し、IMDH阻害剤を含む。例示的なプリン類似体としては、アザチオプリン、ミコフェノール酸、及びレフノミドが挙げられる。
例示的な免疫抑制生物製剤としては、アバタセプト、アダリムマブ、アナキンラ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、イキセキズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、トシリズマブ、ウステキネヌマブ(ustekinenumab)、ベドリズマブ、バシリキシマブ、ベラタセプト、及びダクリズマブが挙げられる。
【0103】
特に、免疫抑制剤は、抗CD20抗体である。抗CD20特異的抗体という用語は、CD20に特異的に結合するか、又はCD20の発現若しくは活性を阻害若しくは低減する抗体を指す。例示的な抗CD20抗体としては、リツキシマブ、オクレリズマブ、又はオファツムマブが挙げられる。
【0104】
免疫抑制抗体の追加の例としては、バシリキシマブ及びダクリズマブ等の抗CD25抗体(又は抗IL2抗体若しくは抗TAC抗体)、並びにムロモナブ-CD3、オテリキシズマブ、テプリズマブ、及びビジリズマブ等の抗CD3抗体、アレムツズマブ等の抗CD52抗体が挙げられる。
【0105】
以下の実施例は、限定ではなく例示として提供される。記載される数値範囲には、各範囲内の各整数値が含まれ、最小及び最大の記述される整数が含まれる。
【実施例】
【0106】
実施例1
TCF4タンパク質レベルは、ミスセンス変異を有する個体内で可変である。
患者の線維芽細胞から神経前駆細胞(NPC)への直接変換は、目的の特定の細胞タイプにおける疾患機構の研究を可能にする。このインビトロ細胞モデルを使用して、細胞ストレスの特定の疾患マーカーの存在に基づいて患者応答者を識別することができる。疾患マーカーが存在する場合、この情報を使用して、小分子又は生物製剤等の治療分子の選択から潜在的な治療法を選択し、PTHS表現型に対するそれらの効果を決定することができる。
【0107】
TCF4にヘテロ接合ミスセンス又は欠失変異のいずれかを有する6人のPTHS患者由来の線維芽細胞を得て、以下の表3に要約する。レトロウイルス、SOX2、KLF4、cMyc、及びOct3/4、並びに以前に記載された化学的に定義された媒体を使用して(Meyer et al.,PNAS 829-832(2014))、線維芽細胞を誘導神経前駆細胞(iNPC)に変換した。その後、NPCをアストロサイト(iAstrocyte)に分化させた。神経前駆細胞を、NPC培地(1% N2サプリメント(Life Technologies)、1% B27、1% Anti-anti(抗生物質-抗真菌剤)、20ng/ml線維芽細胞成長因子2を含有するDMEM/F12培地)中のフィブロネクチンでコーティングされた皿でコンフルエントになるまで培養した。アストロサイト誘導培地(0.2% N2を含有するDMEM培地)中の別のフィブロネクチンでコーティングされた皿で少量のNPCを播種することによりiAstrocyteを分化させた。これらの誘導アストロサイトは、本明細書においてiastrocyte又はiASTと称される。ニューロンを、レトロ-Ngn2を用いた形質導入によってNPCから変換した。
【0108】
【0109】
分化の5日後、誘導アストロサイトを、96ウェル(10,000細胞/ウェル)、384ウェル(2,500細胞/ウェル)、24ウェルのシーホースプレート(20,000細胞/ウェル)、又は96ウェルのシーホースプレート(10,000細胞/ウェル)のいずれかに播種した。分化後の健常細胞及びTCF4変異体からのiAstrocyteの代表的な画像を
図2に提供する。
【0110】
これらの患者系統のうちの3つに関する初期研究では、患者の神経前駆細胞及びiAstrocyteにおけるTCF4タンパク質のレベルを調査した。TCF4(アイソフォームB、D、E、F、M、N、O、Q)のウエスタンブロットにより、健康対照と比較してPTHS iAstrocytes及びNPCの差異レベルが見出された(
図3A及びB)。重要なことに、ヘテロ接合遺伝子欠失を有する患者は、TCF4レベルが50%低下したのに対し、ミスセンス変異は、タンパク質レベルの変化をもたらさないか、又は有意な上方制御をもたらし、潜在的に毒性の過剰発現が示唆された(
図3B)。
【0111】
加えて、TCF4患者からのiAstrocyteと共培養したGFP+ニューロンは、ニューロン生存率の低下を示す(
図4A及びB)。PTHS iAstrocyteは、ニューロン形態の変化を引き起こした(
図4B)。したがって、この直接変換技術及び共培養アッセイを利用して、新しい疾患機序を特定すると同時に、PTHSを有する患者を治療するための潜在的な治療戦略(限定されないが、遺伝子治療を含む)を評価することができる。
【0112】
試験した全ての患者系統のNPCにおけるMECP2レベルの低下を示すウエスタンブロットデータが低減された(
図5)。興味深いことに、TCF4遺伝子欠失をもたらす変異を有するPTHS iAはまた、iAstrocyteの分化にも悪影響を及ぼした(
図2)。更に、PTHS患者に由来するiAstrocyteの共培養分析は、ニューロンに対する支持性が低く、潜在的な治療アプローチをスクリーニングするためのプラットフォームを提供する(
図4A及びB)。TCF4変異を有するNPCで観察されたMECP2レベルの低下は、MECP2の修復がPTHSを治療するための有望なアプローチであることを示唆している。これは、TCF4欠失変異を含むNPCをMECP2.AAV9で形質導入したときに観察された分化の回復によって更に支持される(
図6)。したがって、MECP2.AAV9遺伝子治療は、PTHSを治療するために使用され得る。
【0113】
実施例2
ScAAV9.P546.MECP2の構築物
scAAV9.P546.MECP2の組換えウイルスゲノム(配列番号5;
図1に示す)は、ヒトMECP2 cDNAの発現を駆動する546プロモーター(P546プロモーター)、及び合成ポリアデニル化シグナルを含む。遺伝子カセット(配列番号5のヌクレオチド151~2558)は、自己相補性AAVゲノムのパッケージングを可能にする変異体AAV2逆方向末端反復(ITR)及び野生型AAV2 ITRに隣接する。
【0114】
【0115】
自己相補性AAV9(scAAV9)は、293細胞において、アデノウイルスヘルパープラスミドpHelper(Stratagene,Santa Clara,CA)とともに以前に記載された[Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)]Rep2Cap9配列をコードするプラスミドを用いて、二本鎖AAV2-ITRベースのベクターを使用する一過性トランスフェクション手順によって産生させた。ウイルスを産生させ、2回の塩化セシウム密度勾配精製ステップによって精製し、PBSに対して透析し、ウイルス凝集を防止するために0.001% Pluronic-F68を配合し、4℃で保存した。全てのベクター調製物を、Taq-Man技術を用いた定量的PCRにより滴定した。ベクターの純度は、4~12%のドデシル硫酸ナトリウム-アクリルアミドゲル電気泳動及び銀染色(Invitrogen,Carlsbad,CA)によって評価した。
【0116】
scAAV9は、293細胞において、アデノウイルスヘルパープラスミドpHelper(Stratagene,Santa Clara,CA)とともに以前に記載された[Gao et al.上記参照]Rep2Cap9配列をコードするプラスミドを用いて、二本鎖AAV2-ITRベースのベクターを使用する一過性トランスフェクション手順によって産生させた。実験のためにウイルスを3つの別々のバッチで産生させ、2回の塩化セシウム密度勾配精製ステップによって精製し、PBSに対して透析し、ウイルス凝集を防止するために0.001% Pluronic-F68を配合し、4℃で保存した。全てのベクター調製物を、Taq-Man技術を用いた定量的PCRにより滴定した。ベクターの純度は、4~12%のドデシル硫酸ナトリウム-アクリルアミドゲル電気泳動及び銀染色(Invitrogen,Carlsbad,CA)によって評価した。
【0117】
scAAV9.P546.MECP2を試験して、TCF4欠失変異が神経前駆細胞(NPC)からのiAstrocyte分化を妨げるかどうかを決定した。健常なNPCは、ネスチン(前駆細胞マーカー、緑色)の減少及びGFAP(アストロサイトマーカー、紫色)染色の増加によって示されるように、誘導アストロサイト(iA)に効率的に分化する。TCF4欠失(未処理)は、ネスチンの増加及びGFAP染色の減少によって示されるように、分化効率の低下をもたらす。
図2に示すように、分化の2日前に、scAAV9.P546.MECP2(10及び100MOI)を用いたインビトロでTCF4ノックアウト患者NPCを形質導入することにより、iAの分化が回復した。データは、MECP2の発現レベルを上昇させることにより、NPCからのiAstrocyteの分化が改善されることを示している。
【0118】
このscAAVはまた、国際出願公開第WO2018/094251号及び米国特許出願第2020/179467号に記載されており、どちらもその全体が参照により本明細書に組み込まれる。以下の研究は、これらの出願に開示され、野生型マウス及び非ヒト霊長類におけるscAAV9発現に関するデータを提供する。
【0119】
実施例3
野生型マウス及び非ヒト霊長類におけるデータ
scAAV9.P546.MECP2による野生型マウスの処理は、安全であり、良好な忍容性を示す
MECP2補充療法に関する重要な懸案事項は、MECP2の無傷なコピーを発現する細胞への影響を評価することである。scAAV9.P546.Mecp2は、MECP2導入遺伝子の生理学的調節を支持するためにマウスMecp2プロモーターの断片を組み込むことによって、このことを考慮して設計された。scAAV9.P546.MECP2の安全性を試験するために、scAAV9.P546.MECP2をP1にICV注射した野生型マウスのコホートで生存及び行動分析を行った。
【0120】
合計131匹の野生型雄マウスを、様々なICV用量のAVXS-201で処理し、生存について追跡した(
図7A)。標的とする治療用量(1.44×10
10vg)での死亡は記録されず、21匹の処理動物がP342まで生存した。PBS処理群では死亡は記録されず、3.50×10
9、2.78×10
10及び1.13x10
11vg処理群で、それぞれ1件の死亡が記録された。ボックス1からの基準を使用した行動スコアリングは、主に平均表現型スコア1を有していたベクター処理群が、2つの最高用量群(5.56×10
10及び1.13x10
11vg、
図7B)にのみ見られたことを示す。2~3ヶ月齢でのオープンフィールド試験は、ベクターで処理した野生型雄とPBSで処理した野生型雄との間に統計的差異を示さなかった(
図8A~B)。興味深いことに、3ヶ月齢の対照処理野生型マウスと比較して、13x10
11vgコホートにおいて、ロータロッド試験の成績に有意な低下が検出された(
図8C)。これらの組み合わされたデータは、最大AVXS-201用量でのMECP2の過剰発現の毒性効果を示唆する。これらのデータを総合すると、野生型細胞に形質導入するのみのscAAV9.P546.MECP2処理の「最悪のシナリオ」において、標的とする治療用量での動物の生存及び行動への影響は最小限であることが示唆される。
【0121】
MECP2の生理学的レベルは、治療用量のscAAV9.P546.MECP2で処理した野生型マウスの脳内で維持される
症候性MECP2の過剰発現に関連するレベルを更に調査するために、野生型雄マウスに1.44x10
10vgの治療標的又は1.13x10
11vgの最大試験用量で、PBS又はscAAV9.P546.MECP2をP1にICV注射した。注射後3週間で動物を安楽死させ、ウエスタンブロットのために脳を採取した。比較のために、Tg3と称されるMECP2過剰発現のマウスモデルからの脳とともに組織をブロットした。脳を別々の領域(Cb=小脳、Med=髄質、Hipp=海馬、Ctx=皮質及びMid=中脳;
図9)に切断し、個々の領域をブロッティングのために均質化した。データを、PBSで処理した野生型脳のMECP2レベルに対して正規化した。標的治療用量(1.44x10
10vg)での処理は、調べた全ての領域にわたって1~1.5倍の野生型組織のMECP2レベルを有していた。高用量(1.13x10
11vg)は、野生型レベルの1.31~2.56倍の範囲であったが、Tg3組織の2.31~3.93倍のレベルには達しなかった(
図9B)。これらのデータは、先に示された行動及び生存データとともに、scAAV9.P546.MECP2が、標的用量で投与された場合、ほぼ生理学的レベルでタンパク質を発現するという確信を与える。重要なことに、治療用投与量は、MECP2重複症候群に関連する2倍のタンパク質レベルに近づかない。これは、遺伝子治療を使用したMECP2補充アプローチの安全性を示す。
【0122】
scAAV9.P546.MECP2の髄腔内注射後18ヶ月にわたって、非ヒト霊長類の体重、血液学、及び血清化学は注目すべきものではない
ScAAV9.P546.MECP及び関連する髄腔内注射手順の安全性及び忍容性を調査するために、3匹の処理した雄カニクイザルを注射後18ヶ月間追跡した。投薬パラメータを表5に示す。
【0123】
【0124】
2匹の動物を意図した治療用量(体重1kg当たり約1.44×10
9vg相当)で処理し、1匹の動物に約2倍低い用量(体重1kg当たり約7.00×10
8vg相当)を投与した。髄腔内注射手順は、以前にMeyer et al.,Molecular Therapy:The Journal of the American Society of Gene Therapy,23:477-487(2015)に記載されている。簡潔に述べると、ベクターの拡散を検証するために、ベクターを造影剤と混合した。麻酔した対象を側臥位にし、約L4/5レベル(脊髄円錐の下)の後正中線注射部位を調製した。無菌条件下で、スタイレット付きの脊髄針を挿入し、針からの透明なCSFの流れにより、くも膜下カニューレ挿入を確認した。くも膜下腔内の圧力を低下させるために0.8mlのCSFを排出し、直後にベクター溶液を注射した。注射後、動物をトレンデレンブルグ体位に維持し、その体を10分間、頭が低くなるようにして傾けた。処理した動物に6ヶ月齢又は12ヶ月齢で投与し、体重、血球数及び血清化学を、注射後最初の6ヶ月間は毎月、その後は2ヶ月毎に収集した。体重を
図10に示し、血球数を
図11に示し、血清化学を
図12及び13に示し、Mannheimer Foundation(Homestead,FL)の同じコロニーからの対照処理動物の値とともにグラフ化した。全体として、ベクター処理動物からの体重、細胞数及び血清値は、対照処理動物と一致していた。ベースライン時に2匹のベクター処理動物においてより高かったアミラーゼを除き、所与の動物における2回を超える連続した観察で対照から実質的に逸脱した値はなかった。これらのデータは、AVXS-201及び髄腔内注射手順が安全であり、忍容性が良好であることを示している。
【0125】
scAAV9.P546.MECP2の髄腔内注射後の非ヒト霊長類由来の組織の組織病理学的解析
動物15C38、15C49及び15C34(上述)からの内臓及び神経系組織の試料を、パラフィン包埋、切片化、並びにヘマトキシリン及びエオシン染色のためにGEMpath Inc.(Longmont,CO)に送った。GEMpath Board認定の獣医病理学者によって、スライドが読み取られ、報告書が作成された。サンプリングして調べた組織を表6に示す。病理学的報告は、scAAV9.P546.MECP2処理が、6週間又は18ヶ月の時点で任意のプロトコル指定の組織において病変を誘発しなかったことに言及している。
【0126】
【0127】
scAAV9.P546.MECP2の髄腔内注射後の非ヒト霊長類脳におけるMECP2の生理学的レベル
2匹の12ヶ月齢の雄カニクイザルに、上述のように7.7×10
12vg/kgのAVXS-201を髄腔内注射した。動物は、注射後6週間生存させ、MECP2発現の分析のために安楽死させた。選択された脳領域を、免疫組織化学によって総MECP2発現について分析した(皮質領域及び皮質下領域でMECP2の明らかな上昇は検出されなかった、
図14)。注射部位の近位でも検出されなかった(腰髄、
図14)。重要なことに、これらのデータはまた、注射した動物由来の組織においていずれの肉眼的な異常も示さない。導入遺伝子の発現を更に調べるために、脳領域を均質化し、同じコロニーからの動物由来の過去の対照組織と比較した(
図15)。後頭皮質及び側頭皮質、視床下部、腰髄、視床、扁桃体、海馬及び小脳の試料を、総MECP2発現についてウエスタンブロットで分析した。調べた領域の全てにわたって、対照の2倍以上のMECP2発現レベルを示した領域はなかったMECP2の上昇は、それぞれ第三脳室及び外側脳室に近接する領域である視床下部及び扁桃体で検出されたが、小脳では検出されなかった。更に、注射部位の近位にある腰髄脊髄は、MECP2レベルの上昇を示さなかった(
図15)。これらのデータは、ウイルス用量と発現構築物との組み合わせが、MECP2発現を調節していることを示唆している。更に、インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)を行って、ベクター由来転写産物を検出し、注射後6週間及び18ヶ月に脳内の分布を決定した(
図16及び17)。脳及び脊髄の調べた全ての領域(後頭皮質、側頭皮質、海馬、脳梁、視床、尾状核、被殻、上丘、脳橋、髄質、小脳、頸髄、胸髄及び腰髄)は、対照処理動物由来の組織には存在しなかったベクター由来転写産物の発現を示した。これらのデータは、ベクター由来MECP2転写産物に対するISHプローブの特異性を示し、scAAV9.P546.MECP2プロモーター構築物がNHP神経系組織において機能することを示す。これらのデータは、scAAV9.P546.MECP2が腰椎穿刺によって投与される場合、CNS全体に広く分布し、生理学的レベルで発現することを示す。
【0128】
実施例4
TCF+/-マウスにおける行動分析
野生型及びTCF+/-マウスにおけるMeCP2の発現及び行動への影響を調べた。野生型及びTCF+/-マウスの生後36時間以内(生後2日目(P2))に、ICV注射によってscAAV9.P546.GFP又はscAAV9.P546.MECP2の動物1匹当たり1.5e10ウイルスゲノム(vg)を投与した。AAVをPBSで希釈し、注射当たり5μLの総注射量を達成した。
【0129】
動物をチャンバ内で1分間、イソフルランで麻酔した。最後に、動物を斬首し、脳を取り出して、4%PFA/0.1M PBSに入れた。極低温ミクロトーンを使用して脳を切断し、蛍光顕微鏡下でスライスを観察した。
図20に示すように、GFPは、処理したマウスの皮質及び海馬で発現した。加えて、注射後の野生型及びTCF
+/-マウスの脳においてMeCP2タンパク質が発現した(
図21参照)。この研究は、scAAV9.P546.MECP2の注射が脳内でMeCP2タンパク質の強い過剰発現を引き起こさないことを示した。
【0130】
共焦点顕微鏡法を用いて、海馬、皮質(前部及び後部)及び視床におけるMeCP2タンパク質発現の核強度を調べた。
図22~24に示すように、scAAV9.P546.MECP2のICV注射は、野生型マウスで観察されたものと同様の、TCF
+/-マウスの皮質及び海馬におけるMeCP2核強度をもたらした。
【0131】
P60に、処理したマウスの行動を分析した。ビー玉埋め実験は、Angoa-Perez et al.J.Vis.Exp.82:50978、2013に記載されるように行った。
図25及び以下の表に示されるように、scAAV9.P546.MECP2のICV注射は、ビー玉埋め実験の成績を向上させた。
【0132】
【0133】
加えて、Kraeuter et al.Methods Mol.Biol.1916:99-103,2019に記載されるように、オープンフィールド試験を行った。同様に、scAAV9.P546.MECP2のICV注射は、TCF
+/-マウスにおけるオープンフィールド試験でも成績の向上をもたらした(
図26)。
【0134】
【0135】
加えて、Komada et al.J.Vis.Exp.22(22):1088,2008に記載されるように高架式十字迷路分析を行い、scAAV9.P546.MECP2のICV注射が、TCF
+/-マウスにおいて成績向上をもたらした(
図27)。
【0136】
【0137】
実施例5
ヒトにおける予言的実施例
ヒトにおいてこの構築物の可能性を治療的に試験するために、scAAV9.P546.MECP2を患者の脳脊髄液(CSF)に送達する。CSF送達のために、ウイルスベクターを造影剤(Omnipaque又は同様のもの)と混合する。例えば、組成物は、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、イオキシラン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非イオン性低浸透圧造影剤を含み得る。患者は、腰椎CSF注射の直後に、頭を下向きに15~30度の角度で傾けたトレンデレンブルグ体位で5、10、又は15分間保持される。CSF用量は、年齢群に基づいて、患者当たり1e13ウイルスゲノム(vg)~1e15vg/患者の範囲であろう。開発された新しい注入ツールを使用した新たなCSF送達技術も使用することができる。静脈内送達用量は、1e13vg/キログラム(kg)体重~2e14vg/kの範囲であろう。
【0138】
本発明を様々な実施形態及び実施例に関して説明してきたが、当業者は変更及び改善を相当することを理解されたい。したがって、特許請求の範囲に見られるようなそのような制限のみが、本発明に課されるべきである。
【0139】
本明細書で参照される全ての文書は、参照によりその全体が組み込まれる。
配列
P546プロモーター配列(配列番号2)
GTGAACAACGCCAGGCTCCTCAACAGGCAACTTTGCTACTTCTACAGAAAATGATAATAAAGAAATGCTGGTGAAGTCAAATGCTTATCACAATGGTGAACTACTCAGCAGGGAGGCTCTAATAGGCGCCAAGAGCCTAGACTTCCTTAAGCGCCAGAGTCCACAAGGGCCCAGTTAATCCTCAACATTCAAATGCTGCCCACAAAACCAGCCCCTCTGTGCCCTAGCCGCCTCTTTTTTCCAAGTGACAGTAGAACTCCACCAATCCGCAGCTGAATGGGGTCCGCCTCTTTTCCCTGCCTAAACAGACAGGAACTCCTGCCAATTGAGGGCGTCACCGCTAAGGCTCCGCCCCAGCCTGGGCTCCACAACCAATGAAGGGTAATCTCGACAAAGAGCAAGGGGTGGGGCGCGGGCGCGCAGGTGCAGCAGCACACAGGCTGGTCGGGAGGGCGGGGCGCGACGTCTGCCGTGCGGGGTCCCGGCATCGGTTGCGCGCGCGCTCCCTCCTCTCGGAGAGAGGGCTGTGGTAAAACCCGTCCGGAAAAC
コード領域配列(ヒトMECP2 cds)(配列番号3)
ATGGCCGCCGCCGCCGCCGCCGCGCCGAGCGGAGGAGGAGGAGGAGGCGAGGAGGAGAGACTGGAAGAAAAGTCAGAAGACCAGGACCTCCAGGGCCTCAAGGACAAACCCCTCAAGTTTAAAAAGGTGAAGAAAGATAAGAAAGAAGAGAAAGAGGGCAAGCATGAGCCCGTGCAGCCATCAGCCCACCACTCTGCTGAGCCCGCAGAGGCAGGCAAAGCAGAGACATCAGAAGGGTCAGGCTCCGCCCCGGCTGTGCCGGAAGCTTCTGCCTCCCCCAAACAGCGGCGCTCCATCATCCGTGACCGGGGACCCATGTATGATGACCCCACCCTGCCTGAAGGCTGGACACGGAAGCTTAAGCAAAGGAAATCTGGCCGCTCTGCTGGGAAGTATGATGTGTATTTGATCAATCCCCAGGGAAAAGCCTTTCGCTCTAAAGTGGAGTTGATTGCGTACTTCGAAAAGGTAGGCGACACATCCCTGGACCCTAATGATTTTGACTTCACGGTAACTGGGAGAGGGAGCCCCTCCCGGCGAGAGCAGAAACCACCTAAGAAGCCCAAATCTCCCAAAGCTCCAGGAACTGGCAGAGGCCGGGGACGCCCCAAAGGGAGCGGCACCACGAGACCCAAGGCGGCCACGTCAGAGGGTGTGCAGGTGAAAAGGGTCCTGGAGAAAAGTCCTGGGAAGCTCCTTGTCAAGATGCCTTTTCAAACTTCGCCAGGGGGCAAGGCTGAGGGGGGTGGGGCCACCACATCCACCCAGGTCATGGTGATCAAACGCCCCGGCAGGAAGCGAAAAGCTGAGGCCGACCCTCAGGCCATTCCCAAGAAACGGGGCCGAAAGCCGGGGAGTGTGGTGGCAGCCGCTGCCGCCGAGGCCAAAAAGAAAGCCGTGAAGGAGTCTTCTATCCGATCTGTGCAGGAGACCGTACTCCCCATCAAGAAGCGCAAGACCCGGGAGACGGTCAGCATCGAGGTCAAGGAAGTGGTGAAGCCCCTGCTGGTGTCCACCCTCGGTGAGAAGAGCGGGAAAGGACTGAAGACCTGTAAGAGCCCTGGGCGGAAAAGCAAGGAGAGCAGCCCCAAGGGGCGCAGCAGCAGCGCCTCCTCACCCCCCAAGAAGGAGCACCACCACCATCACCACCACTCAGAGTCCCCAAAGGCCCCCGTGCCACTGCTCCCACCCCTGCCCCCACCTCCACCTGAGCCCGAGAGCTCCGAGGACCCCACCAGCCCCCCTGAGCCCCAGGACTTGAGCAGCAGCGTCTGCAAAGAGGAGAAGATGCCCAGAGGAGGCTCACTGGAGAGCGACGGCTGCCCCAAGGAGCCAGCTAAGACTCAGCCCGCGGTTGCCACCGCCGCCACGGCCGCAGAAAAGTACAAACACCGAGGGGAGGGAGAGCGCAAAGACATTGTTTCATCCTCCATGCCAAGGCCAAACAGAGAGGAGCCTGTGGACAGCCGGACGCCCGTGACCGAGAGAGTTAGCTGA
ポリA配列(合成)(配列番号4)
AATAAAAGATCTTTATTTTCATTAGATCTGTGTGTTGGTTTTTTGTGTG
scAAV9.P546.MECP2(配列番号5)
ctgcgcgctcgctcgctcactgaggccgcccgggcaaagcccgggcgtcgggcgacctttggtcgcccggcctcagtgagcgagcgagcgcgcagagagggagtggaattcacgcgtggatctgaattcaattcacgcgtggtaccacgcgtgaacaacgccaggctcctcaacaggcaactttgctacttctacagaaaatgataataaagaaatgctggtgaagtcaaatgcttatcacaatggtgaactactcagcagggaggctctaataggcgccaagagcctagacttccttaagcgccagagtccacaagggcccagttaatcctcaacattcaaatgctgcccacaaaaccagcccctctgtgccctagccgcctcttttttccaagtgacagtagaactccaccaatccgcagctgaatggggtccgcctcttttccctgcctaaacagacaggaactcctgccaattgagggcgtcaccgctaaggctccgccccagcctgggctccacaaccaatgaagggtaatctcgacaaagagcaaggggtggggcgcgggcgcgcaggtgcagcagcacacaggctggtcgggagggcggggcgcgacgtctgccgtgcggggtcccggcatcggttgcgcgcgcgctccctcctctcggagagagggctgtggtaaaacccgtccggaaaacgcgtcgaagggcgaattctgcagataactggtaagtttagtcttttttgtcttttatttcaggtcccggatccggtggtggtgcaaatcaaagaactgctcctcagtcgatgttgcctttacttctaggcctgtacggaagtgttactatggccgccgccgccgccgccgcgccgagcggaggaggaggaggaggcgaggaggagagactggaagaaaagtcagaagaccaggacctccagggcctcaaggacaaacccctcaagtttaaaaaggtgaagaaagataagaaagaagagaaagagggcaagcatgagcccgtgcagccatcagcccaccactctgctgagcccgcagaggcaggcaaagcagagacatcagaagggtcaggctccgccccggctgtgccggaagcttctgcctcccccaaacagcggcgctccatcatccgtgaccggggacccatgtatgatgaccccaccctgcctgaaggctggacacggaagcttaagcaaaggaaatctggccgctctgctgggaagtatgatgtgtatttgatcaatccccagggaaaagcctttcgctctaaagtggagttgattgcgtacttcgaaaaggtaggcgacacatccctggaccctaatgattttgacttcacggtaactgggagagggagcccctcccggcgagagcagaaaccacctaagaagcccaaatctcccaaagctccaggaactggcagaggccggggacgccccaaagggagcggcaccacgagacccaaggcggccacgtcagagggtgtgcaggtgaaaagggtcctggagaaaagtcctgggaagctccttgtcaagatgccttttcaaacttcgccagggggcaaggctgaggggggtggggccaccacatccacccaggtcatggtgatcaaacgccccggcaggaagcgaaaagctgaggccgaccctcaggccattcccaagaaacggggccgaaagccggggagtgtggtggcagccgctgccgccgaggccaaaaagaaagccgtgaaggagtcttctatccgatctgtgcaggagaccgtactccccatcaagaagcgcaagacccgggagacggtcagcatcgaggtcaaggaagtggtgaagcccctgctggtgtccaccctcggtgagaagagcgggaaaggactgaagacctgtaagagccctgggcggaaaagcaaggagagcagccccaaggggcgcagcagcagcgcctcctcaccccccaagaaggagcaccaccaccatcaccaccactcagagtccccaaaggcccccgtgccactgctcccacccctgcccccacctccacctgagcccgagagctccgaggaccccaccagcccccctgagccccaggacttgagcagcagcgtctgcaaagaggagaagatgcccagaggaggctcactggagagcgacggctgccccaaggagccagctaagactcagcccgcggttgccaccgccgccacggccgcagaaaagtacaaacaccgaggggagggagagcgcaaagacattgtttcatcctccatgccaaggccaaacagagaggagcctgtggacagccggacgcccgtgaccgagagagttagctgaaataaaagatctttattttcattagatctgtgtgttggttttttgtgtggcatgctggggagagatcgatctgaggaacccctagtgatggagttggccactccctctctgcgcgctcgctcgctcactgaggccgggcgaccaaaggtcgcccgacgcccgggctttgcccgggcggcctcagtgagcgagcgagcgcgcagagagggagtgg
5’ITR(配列番号6)
Ctgcgcgctcgctcgctcactgaggccgcccgggcaaagcccgggcgtcgggcgacctttggtcgcccggcctcagtgagcgagcgagcgcgcagagagggagtgg
SV40イントロン(配列番号7)
Ggtaagtttagtcttttttgtcttttatttcaggtcccggatccggtggtggtgcaaatcaaagaactgctcctcagtcgatgttgcctttacttctaggc
3’ITR(配列番号8)
agg aacccctagt gatggagttg gccactccct ctctgcgcgctcgctcgctc actgaggccg ggcgaccaaa ggtcgcccga cgcccgggct ttgcccgggcggcctcagtg agcgagcgag cgcgcagaga gggagtgg
【配列表】
【国際調査報告】