(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ニューロフィブロミン2/マーリン(NF2)遺伝子療法のための材料及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240403BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20240403BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240403BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20240403BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240403BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240403BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240403BHJP
A61K 38/17 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P27/16
A61P27/02
A61P27/12
A61P25/08
A61K35/76
C12N15/12
C12N15/864 100Z
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562895
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 US2022024680
(87)【国際公開番号】W WO2022221447
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ロン-シェン
(72)【発明者】
【氏名】フラニガン, ケビン
(72)【発明者】
【氏名】リキッテ, シビ
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー, キャスリン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA18
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA061
4C084ZA062
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA341
4C084ZA342
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA06
4C087ZA33
4C087ZA34
4C087ZB21
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、例えば、神経線維腫症2型(NF2)におけるような欠陥ニューロフィブロミン2/マーリン(NF2)遺伝子に起因する、マーリンタンパク質の必要性に関連する状態を治療する方法に関する。具体的には、本開示は、マーリンタンパク質の発現の喪失又はマーリンタンパク質レベルの低減を特異的に治療する遺伝子療法ベクターを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする導入遺伝子を、マーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性を必要とする対象に送達する方法であって、
前記方法が、前記導入遺伝子を含む遺伝子療法ベクターを、静脈内送達、腫瘍内送達、又は髄腔内送達によって前記対象に投与することを含み、
前記導入遺伝子が、腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする配列番号1、6、7、8、若しくは9のポリヌクレオチド、又は配列番号1、6、7、8、若しくは9に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含むか、又は前記導入遺伝子が、腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードする配列番号16、17、18、19、20のポリヌクレオチド、又は配列番号16、17、18、19、20に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項2】
前記導入遺伝子を、少なくとも1つの欠陥NF2対立遺伝子を有する対象に送達することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導入遺伝子が、前記対象のシュワン細胞若しくは髄膜細胞、又は両方に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、前記対象における悪性膠芽腫を治療する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が、前記対象における神経線維腫症2型を治療する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が、前記対象における腫瘍、難聴、耳鳴症、平衡障害、顔面の脱力又は痺れ、視覚障害、白内障、発作、及び脳幹圧迫のうちの1つ以上を緩和する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍が、シュワン腫、髄膜腫、上衣腫、又は他の脳神経腫瘍のうちの1つ以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝子療法ベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTT、Anc80、若しくはAAV7m8血清型ベクター、又はその誘導体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与され、前記方法が、前記遺伝子療法ベクターの投与後に前記対象をトレンデレンブルグ体位に置くことを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記遺伝子療法ベクターが、腫瘍内送達によって投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子療法ベクターが、静脈内送達によって投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与され、前記方法が、前記遺伝子療法ベクターの投与後に前記対象をトレンデレンブルグ体位に置くことを更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする配列番号1、6、7、8、若しくは9のポリヌクレオチド、又は配列番号1、6、7、8、若しくは9に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、導入遺伝子。
【請求項16】
腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードする配列番号16、17、18、19、20のポリヌクレオチド、又は配列番号16、17、18、19、20に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、導入遺伝子。
【請求項17】
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする配列番号1、6、7、8、若しくは9のポリヌクレオチド、又は配列番号1、6、7、8、若しくは9に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項18】
腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードする配列番号16、17、18、19、20のポリヌクレオチド、又は配列番号16、17、18、19、20に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項19】
前記組換えアデノ随伴ウイルスが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTT、Anc80、若しくはAAV7m8血清型ベクター、又はその誘導体である、請求項17又は18に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項20】
AAV9である、請求項20に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年4月14日に出願された米国仮特許出願第63/174,803号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、例えば、神経線維腫症2型(NF2)におけるような欠陥ニューロフィブロミン2/マーリン(NF2)遺伝子に起因する、マーリンタンパク質の必要性に関連する状態を治療する方法に関する。具体的には、本開示は、マーリンタンパク質の発現の喪失又はマーリンタンパク質レベルの低減を特異的に治療する遺伝子療法ベクターを提供する。
【0003】
配列表の参照による組み込み
本出願は、開示の別個の部分として、コンピュータ可読形式の配列表(ファイル名:54446_SeqListing.txt、79,842バイト、2022年4月13日に作成されたASCIIテキストファイル)を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
神経線維腫症2型(NF2)は、NF2遺伝子の喪失に起因する、世界中で40,000人に1人が罹患している自己優性遺伝子障害である。NF2遺伝子は、「マーリン」と呼ばれるモエシン、エズリン、及びラジキシン様タンパク質をコードする。マーリンは、神経系の組織における腫瘍サプレッサーとして機能する。マーリンは、細胞増殖の接触依存的阻害において機能する。NF2患者は、全身にわたって1つの対立遺伝子に機能喪失変異を有し、患者における腫瘍形成は、残りのNF2対立遺伝子におけるヘテロ接合性の喪失に関連する。この喪失は、多くの場合、セカンドヒット変異に起因するが、発現の喪失又はNF2腫瘍サプレッサータンパク質レベルの低減は、NF2遺伝子における変異がない場合、エピジェネティック又は翻訳後修飾によっても引き起こされ得る。
【0005】
NF2は、多発性髄膜腫、脊髄神経鞘腫、及び上衣腫などの他の頭蓋内、脊髄内、及び末梢腫瘍とともに、両側前庭神経鞘腫を特徴とする重度の衰弱状態である。これは、罹患率の増加及び平均余命の短縮をもたらす。症状は、幼児期に現れ、時間の経過とともに悪化する可能性がある。腫瘍を除いて、NF2は、難聴、耳鳴症(耳鳴り)、平衡障害、顔面神経麻痺及び他の脳神経機能不全、白内障、発作、並びに脳幹圧迫を含む著しい病態を引き起こす。
【0006】
NF2の治療法はなく、現在の「ゴールドスタンダード」治療の選択肢としては、手術及び放射線療法が挙げられる。腫瘍の外科的除去は、しばしば神経損傷を引き起こし、聴覚及び視覚障害、並びに顔面神経麻痺をもたらす。放射線療法は、侵襲性の低い選択肢であるが、更なる組織タイプにおいて、その後の悪性形質転換及び二次悪性腫瘍の著しい増加をもたらすと考えられる。更に、腫瘍形成への遺伝的寄与が強調されているため、成功した治療は、腫瘍の再成長及び他の罹患細胞から発生する新しい腫瘍のために短命である。したがって、合併症、副作用、腫瘍制御の非効率性、及び関連する神経学的能力の喪失により、これらの治療は不十分になる。疾患状態の進行を実際に止めることができる療法を伴わない腫瘍治療を繰り返すことによる多大な感情的及び財政的コストは、この患者集団の緊急の必要性を強調している。
【0007】
NF2関連腫瘍に加えて、前庭神経鞘腫及び髄膜腫は、一般集団において散発的に生じ得る。全てではないにしても、ほとんどの前庭神経鞘腫は、不活性化NF2変異を有する。また、散発性髄膜腫の約半数がNF2喪失を有する。
【0008】
したがって、NF2関連及び散発性の前庭神経鞘腫及び髄膜腫の両方、並びにマーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性が必要とされるがんを含む他の状態の治療が、当該技術分野で依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、機能性マーリンタンパク質(本明細書では「NF2タンパク質」と称されることもある)を発現する遺伝子療法ベクターを提供する。遺伝子療法ベクターは、マーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性(すなわち、インビボ又はインビトロでの腫瘍の成長又は新しい腫瘍の形成を減少させる活性)を必要とする対象に、マーリンタンパク質をコードする導入遺伝子を送達するのに有用である。
【0010】
提供される方法は、マーリンタンパク質レベルの低減を伴う状態を治療する。そのような状態には、NF2、並びにNF2遺伝子の病理学的変異に起因しない、マーリンタンパク質レベルの低減を伴うがんも含まれるが、これらに限定されない。また、そのような状態には、NF2の転写又は翻訳後調節に起因するマーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性の低減も含まれるが、これらに限定されない。
【0011】
本開示は、腫瘍への直接注射、静脈内送達、髄腔内送達などの全身送達経路、又はベクターを腫瘍若しくは脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法によって、遺伝子療法ベクターを投与することを含む、治療の方法を提供する。治療は、既存の腫瘍の成長を停止し、既存の腫瘍を縮小させ、かつ/又は新しい腫瘍の形成を低減若しくは防止する。
【0012】
遺伝子療法ベクターは、対象におけるマーリンタンパク質レベルが低減した細胞に導入遺伝子を送達するのに有用である。細胞としては、シュワン細胞及び髄膜細胞が挙げられるが、これらに限定されない。細胞としては、腫瘍細胞、例えば、シュワン腫、髄膜腫、及び膠芽腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
遺伝子療法ベクターは、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTT、又はAnc80、AAV7m8、及びそれらの誘導体である。遺伝子療法ベクターは、例えば、AAV2、AAV5、AAV6、AAV9、AAV8、又はAAV10である。遺伝子療法ベクターは、例えば、AAV9、AAV8、又はAAV10である。遺伝子療法ベクターは、例えば、AAV2、AAV5、又はAAV6である。
【0014】
遺伝子療法ベクター内の導入遺伝子は、例えば、2.3kbのNF2プロモーター又は縮小サイズのNF2プロモーター、CBプロモーター、P546プロモーター、MBPプロモーター、又は腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質の発現を駆動するCMVプロモーターを含む。
【0015】
遺伝子療法ベクターは、例えば、本明細書でNF2アイソフォームIと称される、エクソン16を欠くNF2/マーリンアイソフォームcDNAを含む。NF2アイソフォームIによってコードされるマーリンタンパク質は、腫瘍サプレッサー活性を有する。
【0016】
遺伝子療法ベクターは、別の例として、マーリンタンパク質が腫瘍サプレッサー活性を保持している間に、マーリンタンパク質のリン酸化部位を破壊する変異を有するマーリンタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0017】
例示的な遺伝子療法ベクターは、配列において、AAV2内部反復(ITR)、NF2プロモーター、SV40イントロン、腫瘍サプレッサー活性を有するタンパク質をコードするNF2ポリヌクレオチド、合成ポリAシグナル、及び第2のAAV2 ITRを含む。
【0018】
遺伝子療法ベクターは、それを必要とする対象に、例えば、髄腔内送達を使用して投与され、対象は、遺伝子療法ベクターの投与後にトレンデレンブルグ体位に置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
この特許又は出願ファイルには、少なくとも1つのカラーで作成された図面が含まれている。このカラー図面を含む特許又は特許出願公開のコピーは、請求により、必要な費用の支払いに応じて、米国特許商標庁によって提供される。
【0020】
【
図1】NF2遺伝子療法のための例示的な構築物設計の概略図を提供する。
【
図2】哺乳動物細胞におけるNF2プロモーター依存性の差次的なGFP発現を示す。
【
図3】哺乳動物細胞におけるNF2プロモーター依存性の差次的なNF2発現を示す。
【
図4】インビボでのNF2プロモーター依存性の差次的なGFP発現を示す。
【
図5】前庭核におけるNF2プロモーター依存性の差次的なGFP発現を示す。
【
図6】坐骨神経におけるNF2プロモーター依存性GFP発現を示す。
【
図7】坐骨神経におけるNF2プロモーター依存性GFP発現を示す。
【
図8】坐骨神経におけるプロモーター依存性GFP発現を示す。
【
図9】坐骨神経におけるプロモーター依存性GFP発現を示す。
【
図10】インビボでのNF2のNF2プロモーター依存性の差次的発現を示す。
【
図11】インビボでのNF2プロモーター依存性の差次的なNF2発現を示す。
【
図12】インビボでのNF2プロモーター依存性の差次的なNF2発現を示す。
【
図13】インビボでのNF2プロモーター依存性の差次的なNF2発現を示す。
【
図14】哺乳動物細胞におけるNF2プロモーター依存性の差次的なNF2 S518A発現を示す。
【
図15】リプログラミングされた誘導シュワン細胞(iSC)が、リプログラミングの9(A)日後及び24(B)日後にシュワン細胞マーカー(S100及びKrox20)を発現することを示す。線維芽細胞表面マーカー(FSM)は、両方の条件において存在しない。
【
図16】患者の皮膚由来線維芽細胞の、インビトロでNF2疾患をモデル化するための誘導シュワン細胞(iSC)への直接変換を示す。
【
図17】患者由来ヒトiSCにおけるNF2発現の低減を示す。
【
図18】患者由来ヒトiSCにおけるNF2発現の低減を示す。
【
図19】患者由来ヒトiSCにおけるNF2発現の低減を示す。
【
図20】患者由来ヒトiSCにおけるPhosph-NF2S518発現の増加を示す。
【
図21】NF2患者iSCにおけるシュワンKROX20及びMBP細胞成熟マーカー発現の低減を示す。
【
図22】NF2患者由来iSCにおけるc-Myc幹細胞マーカー発現の増加を示す。
【
図23】NF2患者由来iSCにおけるSOX2幹細胞マーカー発現の増加を示す。
【
図24】AAV9.NF2.GFPベクターを有する健常な対照iSCの成功した形質導入を示す。
【
図25】AAV9.NF2.GFPベクターを有するNF2患者由来iSCの成功した形質導入を示す。
【
図26】NF2患者iSCにおけるAAV9.NF2処理によるc-Myc幹細胞マーカー発現の低下を示す。
【
図27】NF2患者iSCにおけるAAV.NF2処理によるSOX2幹細胞マーカー発現の低下を示す。
【
図28】shNF2で直接ヒットした、選別されたiSCは、NF2レベルが低減していることを示す。
【
図29】原発性ヒト前庭神経鞘腫(hVS)腫瘍細胞におけるNF2発現の低減を示す。
【
図30】hVS腫瘍細胞におけるホスホ-NF2 S518発現の増加を示す。
【
図31】hVS腫瘍細胞が成熟シュワン細胞からより遠いことを示す。
【
図32】単一対立遺伝子変異型NF2患者iSC及びNF2二重ノックダウン患者iSCにおける高い増殖率を示す。
【
図33】hVS腫瘍細胞におけるc-Myc及びSOX2幹細胞マーカー発現の増加を示す。
【
図34】hVS細胞におけるAAV.NF2処理によるc-Myc幹細胞マーカー発現の低下を示す。
【
図35】hVS細胞におけるAAV.NF2処理によるSOX2幹細胞マーカー発現の低下を示す。
【
図36】膠芽腫におけるNF2タンパク質発現の低減を示す。
【
図37】膠芽腫におけるNF2 mRNAの発現の低減を示す。
【
図38】AAV9.NF2処理が、膠芽腫におけるNF2タンパク質発現を回復させることを示す。
【
図39】AAV9.NF2処理が、膠芽腫におけるNF2 mRNA発現を回復させることを示す。
【
図40】リン酸化抵抗性AAV9.NF2処理が、膠芽腫におけるNF2タンパク質をより良好に回復させることを示す。
【
図41】リン酸化抵抗性AAV9.NF2処理が、膠芽腫におけるNF2 mRNA発現を回復させることを示す。
【
図42】AAV9.NF2処理が、膠芽腫における細胞増殖を低減することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
遺伝子療法ベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠陥パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、約4.7kb長であり、2つの145ヌクレオチドの逆位末端反復(ITR)を含み、ウイルス自体又はその誘導体を指すために使用される場合がある。この用語は、他に特定されない限り、全てのサブタイプ、並びに天然に存在する形態及び組換え形態の両方を包含する。AAVには複数の血清型がある。AAVの血清型は、各々特定のクレードと関連しており、そのメンバーは、血清学的及び機能的類似性を共有している。したがって、AAVはまた、クレードによって称される場合がある。例えば、AAV9配列は、「クレードF」配列と称される(Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)。本開示は、特定のクレード、例えばクレードF内の任意の配列の使用を企図する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、既知である。例えば、AAV-1の完全なゲノムは、GenBank受入番号NC_002077で提供され、AAV-2の完全なゲノムは、GenBank受入番号NC_001401及びSrivastava et al.,J.Virol.,45:555-564(1983)に提供されている。AAV-3の完全なゲノムは、GenBank受入番号NC_1829に提供されている。AAV-4の完全なゲノムは、GenBank受入番号NC_001829に提供されている。AAV-5のゲノムは、GenBank受入番号AF085716に提供されている。AAV-6の完全なゲノムは、GenBank受入番号NC_001862に提供されている。AAV-7及びAAV-8のゲノムの少なくとも一部分は、それぞれGenBank受入番号AX753246及びAX753249に提供されている。AAV-9のゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供されている。AAV-10のゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)に提供されている。AAV-11のゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)に提供されている。AAV-12のゲノムの部分は、Genbank受入番号DQ813647に提供されている。AAV-13のゲノムの部分は、Genbank受入番号EU285562に提供されている。AAV rh.74のゲノムの配列は、米国特許第9,434,928号に提供されている(参照により本明細書に組み込まれる)。AAV-B1のゲノムの配列は、Choudhury et al.,Mol.Ther.,24(7):1247-1257(2016)に提供されている。Anc80は、AAV1、AAV2、AAV8、及びAAV9のものであるAAVベクターである。Anc80の配列は、Zinn et al.,Cell Reports 12:1056-1068、2015、並びにVandenberghe et al、PCT/US2014/060163(いずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、並びにGenBank受入番号KT235804~KT235812に提供されている。
【0022】
ウイルスDNA複製、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組み込みを指示するCis作用配列は、ITR内に含有される。3つのAAVプロモーター(それらの相対マップ位置にちなんでp5、p19、及びp40と名付けられている)は、rep遺伝子及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部のオープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一のAAVイントロンの差次的スプライシング(ヌクレオチド2107及び2227における)とカップリングした、2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与する。単一コンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVのライフサイクル及び遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)に概説されている。
【0023】
AAVは、例えば、遺伝子療法において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力のある固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、無症状及び無症候性である。更に、AAVは、多くの哺乳動物細胞に感染し、インビボで多くの異なる組織を標的化する可能性を与える。更に、AAVは、ゆっくりと分裂する細胞及び非分裂細胞に形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外要素)として本質的にそれらの細胞の生涯にわたって存続し得る。天然AAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド中のクローン化DNAとして感染性である。更に、AAV複製、ゲノムカプシド形成及び組み込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITR内に含有されるため、ゲノムの内部約4.3kb(複製及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)のいくつか又は全ては、プロモーター、目的のDNA、及びポリアデニル化シグナルを含有する遺伝子カセットなどの外来DNAと置換され得る。いくつかの事例において、rep及びcapタンパク質は、トランスで提供される。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定した頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥することもできる。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性がない。
【0024】
本明細書で使用される場合、「AAV」という用語は、野生型AAVウイルス又はウイルス粒子を指す。「AAV」、「AAVウイルス」、及び「AAVウイルス粒子」という用語は、本明細書では互換的に使用される。「rAAV」という用語は、組換えウイルス、感染性ウイルス、カプセル化ウイルス、又はウイルス粒子を指す。「rAAV」、「rAAVウイルス」、及び「rAAVウイルス粒子」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0025】
「rAAVゲノム」という用語は、修飾された天然AAVゲノムに由来するポリヌクレオチド配列を指す。天然AAVキャップ及びrep遺伝子を除去するように修飾されたrAAVゲノムが提供される。rAAVゲノムは、少なくとも1つ又は両方の内因性5’及び3’逆位末端反復(ITR)を含む。rAAVゲノムは、AAVゲノムが由来したAAV血清型とは異なるAAV血清型由来のITRを含み得る。
【0026】
ITRによって5’及び3’末端に隣接する導入遺伝子を含むrAAVゲノムが本明細書に提供される。
【0027】
配列番号1は、「NF2アイソフォームI」と称される、エクソン16を欠くNF2/マーリンアイソフォームのポリヌクレオチド配列を示す。配列番号1によってコードされるNF2アイソフォームIアミノ酸配列は、配列番号15に示される。
【0028】
本明細書に提供される導入遺伝子としては、配列番号1のNF2アイソフォームIポリヌクレオチド、又は腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、配列番号1のポリヌクレオチドに対して65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である、ポリヌクレオチドを含む導入遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書に提供される導入遺伝子としては、配列番号6~9に示される導入遺伝子であって、それぞれ、配列番号1のNF2アイソフォームIポリヌクレオチドを含む、導入遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする導入遺伝子であって、配列番号6、7、8、又は9に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である、導入遺伝子が、本明細書に提供される。
【0030】
本明細書に提供される導入遺伝子は、例えば、配列番号15のNF2アイソフォームIに対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードすることができる。
【0031】
本明細書に提供される導入遺伝子は、腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードし、かつストリンジェントな条件下で配列番号1を含む導入遺伝子、又は配列番号6、7、8、若しくは9の導入遺伝子、又はその補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。
【0032】
「ストリンジェントな」という用語は、ストリンジェントとして当該技術分野において一般に理解される条件を指すために使用される。ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、及びホルムアミドなどの変性剤の濃度によって決定される。ハイブリダイゼーション及び洗浄のためのストリンジェントな条件の例としては、65~68℃で0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、又は42℃で0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、及び50%ホルムアミドが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照されたい。
【0033】
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質は、リン酸化などの翻訳後陰性調節に抵抗性を有することができる。本明細書に提供される腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質としては、配列番号15の10位のセリン、配列番号15の230位のスレオニン、配列番号15の315位のセリン、及び配列番号15の518位のセリンのうちの1つ以上を、その位置での/その周りのリン酸化を防止するためにアラニンなどの別のアミノ酸で置き換えることによって、1つ以上のリン酸化部位が除去されるマーリンタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸置換は、例えば、マーリンタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を変更することによって達成され得る。例えば、配列番号1の1609位のチミジンをグアノシンに変更すると、コードされたマーリンタンパク質中のセリン残基に対するアラニン残基の置換がもたらされる。配列番号16は、リン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードするように、その位置にグアノシンを有するポリヌクレオチドを示す。配列番号17~20は、リン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む導入遺伝子を示す。
【0034】
プロモーターの例は、2.3kbのNF2プロモーター(配列番号2)、切断型NF2プロモーター[400bpのNF2プロモーター(配列番号3)、610bpのNF2プロモーター(本明細書では609bpと称されることもある)(配列番号4)、及び2.1kbのNF2プロモーター(配列番号5)を含むが、これらに限定されない]、CMVプロモーター、ニワトリβアクチンプロモーター(CB)、P546プロモーター、及びMyo7Aプロモーターである。サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン-バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、並びにヒト遺伝子プロモーター、例えば、これらに限定されないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、伸長因子-1aプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない追加のプロモーターが、本明細書において企図される。加えて、転写促進活性を有する、それぞれ対応する天然プロモーターヌクレオチド配列に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である、NF2プロモーター、切断型NF2プロモーター、CMVプロモーター、CBプロモーター、P546プロモーター、及びMyo7Aプロモーターが、本明細書に提供される。
【0035】
転写制御要素の他の例は、組織特異的制御要素、例えば、特異的にニューロン内、又は特異的にアストロサイト内、又は特異的にシュワン細胞内での発現を可能にするプロモーターである。例としては、ニューロン特異的エノラーゼ、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質、及びシュワン細胞特異的ミエリンタンパク質P0プロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターも企図される。誘導性プロモーターの非限定的な例としては、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリン調節プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。遺伝子カセットはまた、哺乳動物細胞において発現されるときに導入遺伝子RNA転写産物のプロセシングを促進するイントロン配列を含み得る。そのようなイントロンの一例は、SV40イントロンである。
【0036】
「パッケージング」とは、AAV粒子の組み立て及びカプシド形成をもたらす一連の細胞内事象を指す。「産生」という用語は、充填細胞によるrAAV(感染性のカプセル化されたrAAV粒子)の産生プロセスを指す。
【0037】
AAVの「rep」及び「cap」遺伝子は、それぞれアデノ随伴ウイルスの複製タンパク質及びカプシド形成タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を指す。AAVのrep及びcapは、本明細書ではAAVの「パッケージング遺伝子」と称される。
【0038】
AAVについての「ヘルパーウイルス」は、AAV(例えば、野生型AAV)が哺乳動物細胞によって複製及びパッケージングされることを可能にするウイルスを指す。アデノウイルス、ヘルペスウイルス、及びワクシニアなどのポックスウイルスを含む、AAVについての様々なこのようなヘルパーウイルスは、当該技術分野において既知である。アデノウイルスは、いくつかの異なるサブグループを包含し得るが、サブグループCのアデノウイルス5型が最も一般的に使用される。ヒト、非ヒト哺乳動物、及びトリ起源の多数のアデノウイルスが既知であり、ATCCなどの寄託機関から入手可能である。ヘルペス科のウイルスとしては、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)及びエプスタイン-バーウイルス(EBV)、並びにサイトメガロウイルス(CMV)、及び仮性狂犬病ウイルス(PRV)が挙げられ、これらはATCCなどの寄託機関からも入手可能である。
【0039】
「ヘルパーウイルス機能」とは、(本明細書に記載の複製及びパッケージングのための他の要件と併せて)AAV複製及びパッケージングを可能にするヘルパーウイルスゲノムにコードされている機能を指す。本明細書中に記載されるように、「ヘルパーウイルス機能」は、ヘルパーウイルスを提供すること、又は、例えば、必要な機能をコードするポリヌクレオチド配列をトランスでプロデューサー細胞に提供することによるなどの多数の方法で提供され得る。
【0040】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、AAVのrep及びcap DNAを欠く。本明細書で企図されるrAAVゲノム(例えば、ITR)におけるAAV DNAは、AAV血清型Anc80、Anc80L65、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV7mb、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-RH10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74、及びAAV-B1、並びにそれらの誘導体を含むがこれらに限定されない、組換えウイルスを誘導するのに適した任意のAAV血清型に由来し得る。上述のとおり、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が、当該技術分野において既知である。カプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。本明細書中の修飾カプシドもまた企図され、グリコシル化及び脱アミド化などの種々の翻訳後修飾を有するカプシドを含む。アスパラギン又はグルタミン側鎖を脱アミド化してアスパラギン残基をアスパラギン酸又はイソアスパラギン酸残基に変換すること、及びグルタミンをグルタミン酸又はイソグルタミン酸に変換することは、本明細書に提供されるrAAVカプシドにおいて企図される。例えば、Giles et al.,Molecular Therapy,26(12):2848-2862(2018)を参照されたい。本明細書中の修飾カプシドもまた、治療を必要とする罹患組織及び臓器にrAAVを指向させる標的化配列を含むと企図される。
【0041】
本明細書に提供されるDNAプラスミドは、本明細書に記載されるrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、rAAVゲノムをAAV9キャプシドタンパク質を有する感染性ウイルス粒子に組み立てるために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス、又はヘルペスウイルス)の感染に許容される細胞に移入され得る。パッケージングされるrAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能を細胞に提供するrAAVを産生する技術は、当該技術分野において標準的である。rAAV粒子の産生は、rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離した(すなわち、その中に存在しない)AAVのrep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が、単一細胞(本明細書でパッケージング細胞と表される)内に存在することを必要とする。AAVのrep及びcap遺伝子は、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、rAAVゲノムITRとは異なるAAV血清型に由来してもよい。偽型rAAVの産生は、例えば、WO01/83692に開示されている(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。AAVカプシドタンパク質は、組換えrAAVの送達を増強するために修飾され得る。カプシドタンパク質に対する修飾は、一般的に当該技術分野において既知である。例えば、US2005/0053922及びUS2009/0202490(その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0042】
パッケージング細胞を生成する方法は、rAAVの産生に必要な全ての成分を安定して発現する細胞株を作製することである。例えば、AAVのrep及びcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離されたAAVのrep及びcap遺伝子、並びに選択マーカー(例えば、ネオマイシン抵抗性遺伝子)を含むプラスミド(又は複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれ得る。rAAVゲノムは、GCテーリング[Samulski et al.,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081(1982)]、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加[Laughlin et al.,Gene,23:65-73(1983)]、又は直接平滑末端ライゲーション[Senapathy and Carter,J.Biol.Chem.,259:4661-4666(1984)]などの手順によって細菌プラスミドに導入され得る。次いで、パッケージング細胞株を、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染させてもよい。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適であることである。好適な方法の他の非限定例は、rAAVゲノム並びに/又はrep遺伝子及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するためのプラスミドではなく、アデノウイルス又はバキュロウイルスを使用する。
【0043】
rAAV粒子の生産の一般原理は、例えば、Carter,Current Opinions in Biotechnology,1533-539(1992)及びMuzyczka,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129(1992)に概説されている。様々なアプローチが、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984)、Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984)、Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985)、McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988)、及びLebkowski et al.,Mol.Cell.Biol.,7:349(1988)、Samulski et al.,J.Virol.,63:3822-3828(1989)、米国特許第5,173,414号、WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号、WO95/13392、WO96/17947、PCT/US98/18600、WO97/09441(PCT/US96/14423)、WO97/08298(PCT/US96/13872)、WO97/21825(PCT/US96/20777)、WO97/06243(PCT/FR96/01064)、WO99/11764、Perrin et al.,Vaccine,13:1244-1250 1995)、Paul et al.,Human Gene Therapy,4:609-615(1993)、Clark et al.,Gene Therapy 3:1124-1132(1996)、米国特許第5,786,211号、米国特許第5,871,982号、及び米国特許第6,258,595号に記載されている。前述の文書は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれ、具体的には、rAAV粒子産生に関する文書のセクションに重点を置く。
【0044】
感染性rAAV粒子を産生するパッケージング細胞が、本明細書で更に提供される。一実施形態において、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、及びPerC.6細胞(同種293株)などの安定的に形質転換されたがん細胞であり得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、形質転換されたがん細胞ではない細胞、例えば、低継代数の293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎臓細胞)、及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)であり得る。
【0045】
本開示のrAAVゲノムを含むrAAV(例えば、感染性のカプシド形成されたrAAV粒子)も本明細書に提供される。rAAVのゲノムは、AAVのrep及びcapのDNAを欠き、すなわち、rAAVのゲノムのITR間にAAVのrep又はcapのDNAが存在しない。rAAVゲノムは、自己相補型(sc)ゲノムであり得る。scゲノムを有するrAAVは、本明細書中でscAAVと称される。rAAVゲノムは、一本鎖(ss)ゲノムであり得る。一本鎖ゲノムを有するrAAVは、本明細書中でssAAVと称される。
【0046】
rAAVは、当該技術分野で標準的な方法によって(例えば、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配などによって)精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVを精製するための方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999)、Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69:427-443(2002)、米国特許第6,566,118号、及びWO98/09657に開示されている方法を含み得る。
【0047】
組成物
rAAVを含む組成物もまた、提供される。組成物は、マーリンタンパク質を含むが、これらに限定されない目的のポリペプチドをコードするrAAVを含む。組成物は、目的の異なるポリペプチドをコードする2つ以上のrAAVを含み得る。
【0048】
本明細書で提供される組成物は、rAAV及び薬学的に許容される賦形剤(複数可)を含む。許容される賦形剤は、レシピエントに非毒性であり、好ましくは、用いられる投与量及び濃度で不活性であり、リン酸、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸、若しくは他の有機酸などの緩衝剤、アスコルビン酸などの抗酸化剤、低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、若しくはリジンなどのアミノ酸、グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、マンニトール若しくはソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩形成対イオン、並びに/又はTweenなどの非イオン性界面活性剤、ポロキサマー188、プルロニック(登録商標)(例えば、Pluronic F68)、若しくはポリエチレングリコール(PEG)などのコポリマーを含むが、これらに限定されない。本明細書に提供される組成物は、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、又はイオキシランなどの非イオン性低浸透圧化合物又は造影剤を含有する、薬学的に許容される水性賦形剤を含むことができ、非イオン性低浸透圧化合物を含有する水性賦形剤は、以下の特徴のうちの1つ以上を有することができる:約180mgI/mL、約322mOsm/kg水の蒸気圧浸透圧法によるオスモル濃度、約273mOsm/Lのオスモル濃度、20℃で約2.3cp及び37℃で約1.5cpの絶対粘度、及び37℃で約1.164の比重。例示的な組成物は、約20~40%の非イオン性低浸透圧化合物、又は約25%~約35%の非イオン性低浸透圧化合物を含む。例示的な組成物は、20mMのTris(pH8.0)、1mMのMgCl2、200mMのNaCl、0.001%のポロキサマー188、及び約25%~約35%の非イオン性低浸透圧化合物中に配合されたscAAV又はrAAVウイルス粒子を含む。別の例示的な組成物は、1×PBS及び0.001%のPluronic F68中に配合されたscAAVを含む。
【0049】
髄腔内送達を含むが、これらに限定されないCSF送達のために、ウイルスベクターは、造影剤(Omnipaque又は同様のもの)と混合され得る。例えば、組成物は、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、イオキシラン、又はそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない非イオン性低浸透圧造影剤を含み得る。
【0050】
投与量は、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい。本明細書で企図される投与量は、約1×107vg、約1×108vg、約1×109vg、約5×109vg、約6×109vg、約7×109vg、約8×109vg、約9×109vg、約1×1010vg、約2×1010vg、約3×1010vg、約4×1010vg、約5×1010vg、約1×1011vg、約1.1×1011vg、約1.2×1011vg、約1.3×1011vg、約1.2×1011vg、約1.3×1011vg、約1.4×1011vg、約1.5×1011vg、約1.6×1011vg、約1.7×1011vg、約1.8×1011vg、約1.9×1011vg、約2×1011vg、約3×1011vg、約4×1011vg、約5×1011vg、約1×1012vg、約1×1013vg、約1.1×1013vg、約1.2×1013vg、約1.3×1013vg、約1.5×1013vg、約2×1013vg、約2.5×1013vg、約3×1013vg、約3.5×1013vg、約4×1013vg、約4.5×1013vg、約5×1013vg、約6×1013vg、約1×1014vg、約2×1014vg、約3×1014vg、約4×1014vg、約5×1014vg、約1×1015vg、~約1×1016vg、又はそれ以上の全ウイルスゲノムを含む。約1×109vg~約1×1010vg、約5×109vg~約5×1010vg、約1×1010vg~約1×1011vg、約1×1011vg~約1×1015vg、約1×1012vg~約1×1015vg、約1×1012vg~約1×1014vg、約1×1013vg~約6×1014vg、及び約6×1013vg~約1.0×1014vg、2.0×1014vg、3.0×1014vg、5.0×1014の投与量も企図される。本明細書に例示される1つの用量は、1.65×1011vgである。
【0051】
例えば、CSF用量は、年齢群に基づいて、約1×1013vg/患者~約1×1015vg/患者の範囲であり得る。例えば、静脈内送達用量は、1×1013vg/キログラム(kg)体重~2×1014vg/kgの範囲であり得る。
【0052】
治療の方法
本明細書における治療の方法は、マーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性が低減した細胞を標的とする。本明細書における治療の方法は、「欠陥」NF2遺伝子、すなわち、腫瘍サプレッサー活性を欠くマーリンタンパク質をコードする少なくとも1つの「欠陥」(すなわち、変異した)対立遺伝子を有する遺伝子を有する細胞を標的とすることができる。当該技術分野で理解されるように、ヒト対象などの二倍体対象は、一般に、対立遺伝子と呼ばれる各遺伝子の2つのコピーを有する。本明細書における治療の方法は、欠陥NF2遺伝子によって引き起こされる活性の低減、例えば、エピジェニック調節によって、又はマーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性を低減させる翻訳後修飾(例えば、リン酸化)によって引き起こされるマーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性の低減以外の、マーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性が低減した細胞を標的とすることができる。対象(例えば、ヒト対象)において標的細胞に形質導入する方法が提供される。対象(例えば、ヒト対象)においてそのようなシュワン、及び/又は髄膜細胞を形質導入する方法が提供される。対象(例えば、ヒト対象)においてシュワン腫、髄膜腫、及び/又は膠芽腫を形質導入する方法が提供される。
【0053】
本明細書に記載の治療の方法の使用は、例えば、NF2、急性骨髄性白血病、扁平上皮がん、膀胱がん、肉腫、乳がん、上皮がん、結腸直腸がん、混合腺扁平上皮がん、神経膠腫、肝細胞がん、腸がん、肝臓がん、腺がん、混合肺がん、黒色腫、髄膜腫、中皮腫、漿液性がん、下垂体がん、腎細胞がん、シュワン腫(NF2を有しない患者における散発性腫瘍)、胃がん、未分化甲状腺がん、子宮内膜がん、前立腺がん、及び尿路がんにおける低減したマーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性に対して示される。
【0054】
「形質導入する」及び「形質導入」という用語は、インビボ又はインビトロのいずれかで、腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする本開示のrAAVを標的細胞に投与/送達し、標的細胞による機能性マーリンタンパク質の発現をもたらすことを指すように使用される。本開示のrAAVによる細胞の形質導入は、rAAVによってコードされるポリペプチドの持続的発現をもたらす。
【0055】
本明細書に提供する方法は、標的細胞に、本明細書に記載の1つ以上のrAAVを形質導入する。いくつかの実施形態では、導入遺伝子を含むrAAVウイルス粒子は、例えば、全身投与(例えば、静脈内投与)又は髄腔内投与によって、対象の脳及び/又は脊髄に投与又は送達される。髄腔内投与は、脳又は脊髄のくも膜下の空間への送達を指す。特に脳への髄腔内投与は、脳室内注射によって実施することができる。送達が企図される脳の領域としては、運動皮質、視覚野、小脳、及び脳幹が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
髄腔内投与の場合、対象は、rAAVの注射後(例えば、約5分間、約10分間、約15分間、又は約20分間)、トレンデレンブルグ体位(頭位)に保持され得る。例えば、患者は、頭位で約1度~約30度、約15~約30度、約30~約60度、約60~約90度、又は約90~約180度傾けられてもよい。
【0057】
本明細書に提供される治療方法は、有効用量又は有効複数用量の、本明細書に提供されるrAAVを含む組成物を、それを必要とする対象(例えば、ヒト患者を含むが、これに限定されない動物)に投与するステップを含む。用量がNF2の症状の発症前に投与される場合、投与は、予防的である。用量が症状の発症後に投与される場合、投与は、治療的である。有効用量は、状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和(排除若しくは低減)する用量であり、状態の進行を遅延若しくは予防する用量であり、状態の程度を低減させる用量であり、状態の寛解(部分若しくは完全)をもたらす用量であり、かつ/又は生存を延長させる用量である。
【0058】
シュワン腫、髄膜腫、及び/又は膠芽腫の治療のための有効用量は、欠陥NF2遺伝子を有するシュワン腫、髄膜腫、及び/又は膠芽腫を緩和(排除若しくは低減)する用量であり、シュワン腫、髄膜腫、及び/又は膠芽腫の発症を遅延若しくは予防する用量であり、シュワン腫、髄膜腫及び/又は膠芽腫の寛解(部分若しくは完全)をもたらす用量であり、かつ/又は生存を延長させる用量である。
【0059】
NF2の治療のための有効用量は、NF2に関連する少なくとも1つの症状を緩和(排除若しくは低減)する[例えば、腫瘍(腫瘍のサイズ及び/若しくは数を減少させ、かつ/又は新しい腫瘍を形成する転移を減少させる)、難聴、耳鳴症(耳鳴り)、平衡障害、顔面の脱力若しくは痺れ、視覚障害、白内障、発作、及び脳幹圧迫のうちの少なくとも1つを緩和する]用量であり、NF2の進行を遅延若しくは予防する用量であり、NF2の程度を低減させる用量であり、NF2の寛解(部分若しくは完全)をもたらす用量であり、かつ/又は生存を延長させる用量である。
【0060】
本開示は、NF2に関連する難聴を治療する方法を提供する。
【0061】
本明細書に記載の治療の方法が難聴又は聴覚障害を改善するかどうかを判定するための試験には、聴覚系の機能状態を客観的に判定する生理学的試験、及び個体が聴覚情報をどのように処理するかを主観的に判定する聴力測定が含まれる。生理学的試験には、第8脳神経及び聴覚脳幹に起因し、表面電極で記録される、電気生理学的応答を誘発する刺激(例えば、クリック)を使用する聴覚脳幹応答試験(ABR;BAER、BSERとしても知られる)が含まれる。ABRの「V波検出閾値」は、神経学的に正常な個体における1500~4000Hz領域における聴覚感度と最も良く相関する。ABRは、低周波(1500Hz未満)感度を評価しない。
【0062】
聴覚定常状態応答試験(ASSR)は、客観的な統計ベースの数学的検出アルゴリズムを使用して、聴覚閾値を検出及び定義する。ASSRは、ブロードバンド又は周波数固有の刺激を使用して得ることができ、重度~超重度(severe-to-profound)の範囲で聴力閾値を区別することができる。ASSR試験は、ABRが提供しない周波数固有の情報を提供するために頻繁に使用される。500Hz、1000Hz、2000Hz、及び4000Hzの試験周波数が、一般的に使用される。
【0063】
誘発耳音響放射(EOAE)は、マイクロホン及びトランスデューサーを備えたプローブを使用して外耳道で測定される、蝸牛内で発生する音である。EOAEは、主に広い周波数範囲にわたる蝸牛の外毛細胞の活動を反映し、40~50dB HLよりも優れた聴覚感度を有する耳に存在する。イミタンス試験(鼓膜計測、音響反射閾値、音響反射減衰)は、中耳圧、鼓膜可動性、エウスタキオ管機能、及び中耳小骨可動性を含む末梢聴覚系を評価する。
【0064】
聴力測定には、聴性行動反応検査(BOA)及び視覚強化聴力検査(VRA)などの行動試験が含まれる。純粋なトーンの聴力測定(空気及び骨伝導)は、周波数(又はピッチ)の関数として、個体が純粋なトーンを「聞く」最低強度を判定することを含む。250(中央のCに近い)~8000Hzのオクターブ周波数は、イヤホンを使用して試験される。強度又はラウドネスは、2つの音圧間の比として定義されるデシベル(dB)で測定される。0dB HLは、正常な聴覚成人の平均閾値であり、120dB HLは、痛みを引き起こすほど大きい。語音聴取閾値(SRT)及び語音弁別が評価される。気導聴力測定の場合、音はイヤホンを通して提示される。閾値は、外耳道、中耳、及び内耳の状態に依存する。骨導聴力測定の場合、音は、乳様突起又は額に配置されたバイブレータを通して提示され、したがって、外耳及び中耳を迂回する。閾値は、内耳の状態に依存する。追加の試験には、各耳についての完全な周波数固有の聴力図を開発する条件遊戯聴力測定(conditioned play audiometry)、及び個体がいつ音を聞くかを示す従来の聴力測定が含まれる。
【0065】
聴力プロファイルは、単一のグラフ上のいくつかのオーディオグラフの記録を指す。これらの聴力図は、異なる時間に1人の個体からのものであってもよい。同じグラフ上に年齢を伴う多数の聴力図をプロットすることによって、難聴の年齢に関連する進行を識別することができる。
【0066】
その他の用語及び開示
値の範囲が本明細書に提供される場合、文脈上明らかに別段の指示がない限り、その範囲の上限と下限との間にある、下限の単位の10分の1までの各介在値と、その記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在値が、本開示に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、より小さい範囲に含まれてもよく、また、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従うことを条件として、本開示に包含される。記載された範囲が、限界のうちの一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のうちのいずれか又は両方を除く範囲も、本開示に含まれる。
【0067】
別段定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する当該技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料を、本開示の実施又は試験に使用することもできる。
【0068】
本明細書で言及される全ての出版物は、出版物が引用される目的のための方法及び/又は材料を開示及び説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
本開示を読むことで当業者に明らかになるように、本明細書に記載及び例示される個々の実施形態のそれぞれは、本開示の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のうちのいずれかの特徴から容易に分離することができるか、又はそれらの特徴と組み合わせることができる別個の構成要素及び特徴を有する。任意の記載された方法は、記載された事象の順序で、又は論理的に可能である任意の他の順序で実施することができる。本開示は、そのような全ての組み合わせについての裏付けを提供することを意図している。
【0070】
本明細書で使用される場合、「~してもよい(may)」、「含み得る(may comprise)」、「~であり得る(may be)」、「~することができる(can)」、「含み得る(can comprise)」、及び「~であり得る(can be)」は全て、提供される主題の一部として機能的かつ利用可能である、本発明者らによって想定されるものを示す。
【実施例】
【0071】
本開示の様々な態様及び利点は、以下の非限定例によって例示される。
【0072】
実施例1
NF2アイソフォームIを発現するrAAVの産生
rAAVは、緑色蛍光タンパク質(GFP)(配列番号14)などのレポーターを発現するか、又はNF2機能喪失病理に対する遺伝子療法再発現アプローチにおいて使用するためのヒトNF2 cDNA(配列番号1のNF2アイソフォームI cDNA)を発現する導入遺伝子を使用して産生した。
【0073】
導入遺伝子は、様々なNF2プロモーターを含んでいた:GFP又はマーリンタンパク質の発現を駆動する、2.3kb、2.1kb、610bp(本明細書では609bpと称されることもある)、又は400bp(
図1)。配列番号6の導入遺伝子は、400bpのプロモーターを含み、配列番号7の導入遺伝子は、610bpのプロモーターを含み、配列番号8の導入遺伝子は、2.1kbのプロモーターを含み、配列番号9の導入遺伝子は、2.3kbのプロモーターを含む。本明細書の方法で使用することが企図されるプロモーターは、導入遺伝子構築物がrAAVに良好に適合することを可能にし、また導入遺伝子発現を駆動して、形質導入細胞においてマーリンタンパク質発現を少なくとも10%増加させるサイズであり、NF2において最も頻繁に罹患する細胞型であるシュワン細胞及び髄膜細胞における発現に焦点を当てる。
【0074】
HEK293細胞にpAAV.NF2.GFPレポータープラスミドを一過的にトランスフェクトし、トランスフェクションから72時間後にGFP発現を分析した。
図2、(a)トランスフェクトされた細胞の蛍光イメージングは、GFPを駆動する対照ニワトリβアクチン(CB)プロモーターと比較して、異なる強度でのに基づいて、GFPのNF2プロモーター依存性の差次的発現を示した。(b)トランスフェクトされたHEK293細胞溶解物のウエスタンブロット分析は、トランスフェクトされていない細胞とトランスフェクトされた細胞との間の内因性NF2タンパク質レベルに影響を及ぼさない、トランスフェクトされた細胞におけるGFPのNF2プロモーター依存性発現を確認する。
【0075】
HEK293細胞にpAAV.NF2.NF2 CDSプラスミドを一過的にトランスフェクトし、トランスフェクションから72時間後にNF2発現を分析した。
図3、(a)トランスフェクション対照として使用されるpAAV.CB.GFPプラスミド処理されたHEK293細胞は、トランスフェクション効率を確認する堅牢なGFP蛍光を示し、(b)トランスフェクトされたHEK293細胞のウエスタンブロット分析は、pAAV.CB.GFPをトランスフェクトされた細胞及びトランスフェクトされていない細胞と比較して、NF2のNF2プロモーター依存性の差次的過剰発現を確認する。
【0076】
導入遺伝子をAAV9産生プラスミドにサブクローニングし、scAAV及びssAAVを、二本鎖AAV2-ITRベースの産生プラスミド、Rep2Cap9配列をコードするプラスミド、及びアデノウイルスヘルパープラスミドpHelperを使用して、293個の細胞を一過性三重トランスフェクションすることにより、Foust et al.,Nat Biotechnol.,27(1):59-65(2009)に記載されるように産生した。マーリンタンパク質コードscAAVは、scAAV9.NF2-2.3kb.NF2、scAAV9.NF2-2.1kb.NF2、scAAV9.NF2-610bp.NF2(本明細書ではscAAV9.NF2-609bp.NF2と称されることもある)、及びscAAV9.NF2-400bp.NF2と名付けた。マーリンタンパク質コードssAAVは、ssAAV9.NF2-2.3kb.NF2、ssAAV9.NF2-2.1kb.NF2、ssAAV9.NF2-610bp.NF2(プロモーターが実際には609bpであるため、本明細書ではssAAV9.NF2-609bp.NF2と称されることもある)、及びssAAV9.NF2-400bp.NF2と名付けた。
【0077】
異なるNF2プロモーターを試験するために、マウスに、400bp又は610bpのNF2プロモーターからのGFP発現を駆動するscAAVを注射した。免疫蛍光は、両方のプロモーターが、脳内のNF2陽性細胞(主に大脳皮質、海馬、基底前脳、前庭小脳、及び前庭核)、シュワン細胞、並びに坐骨神経において様々なレベルでGFPを発現することを示したが、400bpのプロモーターを用いたscAAVの注射は、610bpのプロモーターを用いたscAAVよりも、より高く、かつより広範囲のGFP発現をもたらした。同様に、マウスに、2.3kb又は2.1kbのNF2プロモーターからのGFPの発現を駆動するssAAVを注射し、発現を免疫蛍光によって評価する。
【0078】
異なるプロモーターを試験する別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.GFP、scAAV9.NF2-609bp.GFP、ssAAV9.NF2-2.1kb GFP、及びssAAV9.NF2-2.3kb GFPベクターを、脳室内(ICV)経路を介して同じ用量(5.0×10
10vg/動物)で新生児マウスに投与し、注射から1ヶ月後に屠殺した。免疫組織化学的蛍光分析によってGFP発現について検査した異なる脳領域(基底前脳、皮質、及び海馬)は、400bp.GFPベクターが、全体的により高いGFP発現及びS100βとの共局在を有し、609bp.GFP、2.1kb.GFP、及び2.3kb GFPがそれに続くことを示した。(
図4)
【0079】
更に別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.GFP、scAAV9.NF2-609bp.GFP、ssAAV9.NF2-2.1kb GFP、及びssAAV9.NF2-2.3kb GFPベクターを、ICV経路を介して同じ用量(5.0×10
10vg/動物)で新生児マウスに投与した。動物を注射から1ヶ月後に屠殺し、免疫組織化学的蛍光分析によって、異なる脳領域をGFP発現について検査した。前庭核において、400bp.GFPベクターは、全体的により高いGFP発現及びS100βとの共局在を示し、2.3kb.GFP及び2.1kbがそれに続いた。(
図5)
【0080】
別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.GFP及びscAAV9.NF2-609bp.GFPベクターを、ICV経路を介して同じ用量(5.0×10
10vg/動物)で新生児マウスに投与し、動物を注射から1ヶ月後に屠殺した。マウスの坐骨神経を採取し、免疫組織化学的蛍光分析によってGFP発現について検査した。400bp.GFPベクターは、609bp.GFPベクターと比較して、坐骨神経におけるGFPの著しく高い発現及びNF2発現細胞との共局在を示した。(
図6)
【0081】
別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.GFP及びscAAV9.NF2-609bp.GFPベクターを、ICV経路を介して同じ用量(5.0×10
10vg/動物)で新生児マウスに投与し、動物を注射から1ヶ月後に屠殺した。マウスの坐骨神経を採取し、免疫組織化学的蛍光分析によってGFP発現について検査した。400bp.GFPベクターは、609bp.GFPベクターと比較して、坐骨神経におけるGFPの高い発現及びS100β発現細胞との共局在を示した。(
図7)
【0082】
ニワトリベータアクチンユビキタスプロモーター又はミエリン塩基性タンパク質プロモーターと対応するscAAVもマウスに注射した。NF2陽性細胞におけるベータアクチンプロモーターからのGFP発現は、ミエリン塩基性タンパク質プロモーターからの発現よりも多く観察された。
【0083】
scAAV9.CB.GFP及びscAAV9.MBP.GFPベクターを、ICV経路を介して同じ用量(5.0×10
10vg/動物)で新生児マウスに投与し、動物を注射から1ヶ月後に屠殺した。マウスの坐骨神経を採取し、免疫組織化学的蛍光分析によってGFP発現を検査した。scAAV9.CB.GFPベクターは、GFPベクターを駆動するMBP(ミエリン塩基性タンパク質)と比較して、坐骨神経におけるGFPの著しい発現及びNF2発現細胞との共局在を示した。(
図8)
【0084】
別の実験では、scAAV9.CB.GFP及びscAAV9.MBP.GFPベクターを、ICV経路を介して同じ用量(5.0×10
10vg/動物)で新生児マウスに投与し、動物を注射から1ヶ月後に屠殺した。マウスの坐骨神経を採取し、免疫組織化学的蛍光分析によってGFP発現を検査した。scAAV9.CB.GFPベクターは、GFPベクターを駆動するMBP(ミエリン塩基性タンパク質)と比較して、坐骨神経におけるGFPの著しい発現及びS100β発現細胞との共局在を示した。(
図9)
【0085】
したがって、400bp、609bp、及び2.1kB構築物の全ての領域(基底前脳、皮質、海馬、前庭核)で、S100βとのレポーターGFPの共局在が観察された。基底前脳、皮質、及び海馬において、400bp.GFP及び609bp.GFPの共局在が、2.1kB.GFPよりも多く観察された。400bp.GFPベクターは、他のいずれの構築物よりも良好に前庭核内で共局在する。400bp.GFP及び609bp.GFP構築物は、坐骨神経内で共局在し、400bp.GFPについてより多くの共局在を有する。
【0086】
別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.NF2及びscAAV9.NF2-609bp.NF2ベクターを、それぞれ、動物当たり2.10E+10vg及び3.50E+10vgの用量で、ICV経路を介して新生児マウスに投与した。動物を、注射から1ヶ月後に屠殺した。動物からの全脳溶解物のウエスタンブロット分析は、注射されていない対照と比較して、400bp.NF2及び609bp.NF2処理マウスの両方において、NF2タンパク質の中程度の過剰発現を示した。(
図10)
【0087】
別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.NF2、scAAV9.NF2-609bp.NF2、及びssAAV9.NF2-2.1kb.NF2ベクターを、ICV経路を介して様々な用量で新生児マウスに投与し、注射から1ヶ月後に屠殺した。全ての処理されたマウスがNF2過剰発現を示したことを実証した免疫組織化学的蛍光分析によって、矢状脳切片をNF2発現について検査した。特に、scAAV9.NF2 400bp.NF2ベクターは、609bp.NF2及び2.1kb.NF2ベクターと比較して、更に低い用量で投与された場合、広範囲のNF2過剰発現をもたらした。(
図11)
【0088】
別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.NF2、scAAV9.NF2-609bp.NF2、及びssAAV9.NF2-2.1kb.NF2ベクターを、ICV経路を介して様々な用量で新生児マウスに投与し、注射から1ヶ月後に屠殺した。異なる脳領域(海馬、前部及び後部皮質、基底前脳、小脳、前庭核)を免疫組織化学的蛍光分析によってNF2発現について検査した。3つのベクター全てで処理したマウスは、609bp.NF2及び2.1kb.NF2ベクターと比較して、更に低い用量で投与された場合、堅牢なNF2過剰発現をもたらす400bp.NF2ベクターを有する全ての領域においてNF2過剰発現を示した。(
図12)
【0089】
別の実験では、scAAV9.NF2-400bp.NF2、scAAV9.NF2-609bp.NF2、及びssAAV9.NF2-2.1kb.NF2ベクターを、ICV経路を介して様々な用量で新生児マウスに投与し、注射から1ヶ月後に屠殺した。異なる脳領域(海馬、前部及び後部皮質、基底前脳、小脳、前庭核)を免疫蛍光分析によってNF2発現について検査した。3つのベクター全てで処理したマウスは、609bp.NF2及び2.1kb.NF2ベクターと比較して、更に低い用量で投与された場合、堅牢なNF2過剰発現をもたらす400bp.NF2ベクターを有する全ての領域においてNF2過剰発現を示した。(
図13)
【0090】
結果は、どのプロモーター構築物が、NF2関連細胞型を標的とするのに最も有効であるかを実証し、導入遺伝子の潜在的な発現レベルの指標を与える。
【0091】
実施例2
Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスにおけるAAV.NF2の有効性
実施例1に従って産生されたrAAV AAV.NF2を、100%の浸透度でヒトシュワン腫と組織学的に同一である複数の脊髄及び頭蓋神経腫瘍を発症するモデルPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスにおいて使用する(Clapp et al.,Hum Mol Genet 2015,24:1-8)。マウスはまた、脳神経VIII腫瘍の発達に起因する聴覚及び平衡における機能障害を示す。
【0092】
Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスを6ヶ月間成長させ、腫瘍を発達させる。Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスを、腫瘍発達の前又は後に、AAV.NF2で、静脈内又は脊髄内液注射によって処理する。マウスに、約1×1011vg~約5×1011vgのrAAV AAV.NF2[一例として、1×PBS及び0.001% Pluronic F68(PBS/F68として表される)中に配合される]の髄腔内(IT)注射を1回行う。AAV-GFPベクターの注射を、対照として使用する。発症前に(pre-symptomatically)処理されたマウスの場合は8ヶ月目、又は腫瘍形成開始後に処理されたマウスの場合は注射後3ヶ月目に、これらのマウスの聴覚障害を評価するために、聴性脳幹応答測定を実行し、別個のマウスコホートと比較する。次いで、AAV.NF2及びAAV.GFP処理マウスからの背根神経節及び腫瘍を切断して、処理効果を比較する。
【0093】
実験は、NF2の再発現が、この遺伝子操作されたマウスモデルにおいてシュワン腫の発達及び難聴を予防することができることを実証する。
【0094】
実施例3
様々なヒトNF2変異との関連において遺伝子療法を実証するマウスインビボNF2モデル
遺伝子置換療法を、誘導シュワン細胞(iSC)にリプログラミングされた患者線維芽細胞を使用して、ヒト患者インビトロモデルにおいて実証する。リプログラミング方法は、化学的に定義された培地を利用して、9日以内にシュワン細胞マーカー(S100及びKrox20)の発現を誘導する。更に、リプログラミングされた細胞は、線維芽細胞表面マーカーを下方調節する(
図15A)。細胞は、更に成長され、依然としてS100及びKrox20の発現を維持することができ(
図15B)、これにより、細胞の増殖及び異種移植片モデルでの使用が可能になる。
【0095】
iSC細胞は、インビボで遺伝子療法アプローチの効果を評価するために患者特異的異種移植マウスモデルで使用される。5000個のヒト患者iSC細胞を、以前にFuse et al.,Mol Cancer Ther 2017,16:2387-2398に記載されたように、マウスの坐骨神経に直接注射する。注射後2週間から2ヶ月まで、マウスを屠殺し、腫瘍形成を評価する。あるいは、患者由来のiSC細胞の代わりに、患者由来の不死化腫瘍細胞(散発性シュワン腫細胞株又はNF2患者シュワン腫細胞株及び髄膜腫細胞株など)を注射する。
【0096】
誘導iSCとは別に、患者由来の不死化ヒト腫瘍細胞も、異種移植片モデルに使用する。ここで、不死化散発性シュワン腫細胞、並びにNF2患者シュワン腫細胞及び髄膜腫細胞をマウスに注射し、腫瘍形成について更に評価する。
【0097】
ヒト患者線維芽細胞NF2遺伝子における変異は、マウスにおいてインビボで腫瘍形成を生成することが企図される。加えて、腫瘍増殖を促進するためにNF2遺伝子発現を更に低減させるために、レンチウイルスNF2 shRNAを使用して、ヒト患者において腫瘍形成細胞が経験する「セカンドヒット」を模倣するために、シュワン細胞分化の前にNF2遺伝子発現を低減させる。これらのNF2 shRNA発現線維芽細胞から生成されたシュワン細胞が、マウスにおいてインビボで腫瘍を産生する能力を、形質導入されていない線維芽細胞の能力と比較する。
【0098】
異なる患者NF2遺伝子変異を有する得られたマウスを使用して、患者変異との関連における腫瘍形成の予防又は腫瘍成長の低減におけるrAAV AAV.NF2の有効性を実証する。マウスを、iSC/不死化ヒト腫瘍細胞をマウスの坐骨神経及び/又は腫瘍に注射してから24時間後又は2週間後のいずれかにAAV.NF2で処理する。マウスに、約1×1011vg~約5×1011vgのrAAV AAV.NF2[一例として、1×PBS及び0.001% Pluronic F68(PBS/F68として表される)中に配合される]の範囲の髄腔内(IT)注射又は腫瘍内注射を1回行う。マウスを屠殺し、腫瘍の数及びサイズを評価する。
【0099】
誘導iSC
3つの健常な対照(野生型)線維芽細胞株及び3つの患者(NF2変異型)線維芽細胞株を、6つの小分子を用いた連続処理を使用して誘導シュワン細胞(iSC)に変換することに成功した。線維芽細胞及びそれぞれのiSCの明視野画像は、細胞形態の違いを示した。(
図16)
【0100】
患者由来iSCのウエスタンブロット分析は、健常iSCと比較して、NF2タンパク質の発現の著しい低減を示した。(
図17)患者由来iSCのqRT-PCRによるNF2 mRNA発現分析も、健常なiSCと比較して、NF2タンパク質の発現の著しい低減を示した。(
図18)患者由来iSCの免疫蛍光分析は、健常なiSCと比較して、総NF2タンパク質染色の発現の低減を示した。(
図19)
【0101】
患者由来のiSCの免疫蛍光分析は、健常な対照iSCと比較して、ホスホ-S518マーリン(不活性腫瘍サプレッサー)の発現の増加を示した。ホスホ-S518マーリン発現の増加は、疾患表現型の重症度と相関するようである(患者207は、より重度の表現型に関連している)。加えて、ホスホ-S518マーリンは、健常な(野生型NF2)対照iSCと比較して、患者由来iSCにおいて誤った位置に局在化している。(
図20)
【0102】
図21は、NF2患者のiSCにおけるシュワン細胞成熟マーカーの低減を示す。a)免疫蛍光分析は、健常な(野生型NF2)対照iSCと比較して、NF2患者由来iSCにおける成熟髄鞘形成シュワン細胞マーカー(KROX20及びMBP)の発現の著しい低減を示した。b)qRT-PCRによるmRNA発現分析は、健常な対照iSCと比較して、NF2患者iSCにおけるKROX20及びMBP mRNAの発現の著しい低減を示した。
【0103】
図22は、NF2患者iSCにおける幹細胞マーカー発現の増加を示す。a)免疫蛍光分析は、健常な(野生型NF2)対照iSCと比較して、3人のNF2患者のうちの2人において幹細胞マーカーc-Mycの発現の増加を示した。b)DAPIによって測定された細胞の総数にわたるc-Myc陽性細胞の画像-J分析は、対応する患者由来iSCにおける高c-Myc陽性のパーセンテージの著しい増加を示した。したがって、c-Mycは、インビトロで治療戦略を評価するための潜在的なバイオマーカーであり得ることが企図される。
【0104】
図23は、NF2患者iSCにおける幹細胞マーカー発現の増加を示す。a)免疫蛍光分析は、健常な(野生型NF2)対照iSCと比較して、3人のNF2患者のうちの2人において幹細胞マーカーSOX2の発現の増加を示した。b)DAPIによって測定された細胞の総数にわたるSOX2陽性細胞の画像-J分析は、対応する患者由来iSCにおける高SOX2陽性のパーセンテージの著しい増加を示した。したがって、SOX2は、インビトロで治療戦略を評価するための潜在的なバイオマーカーであり得ることが企図される。
【0105】
健常な対照iSCをノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにAAV9.NF2.GFPベクター(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にGFP蛍光について分析した。4つのベクターは全て、AAV9.CB.GFPベクター処理細胞でGFP発現を様々な強度で示し、処理細胞は、未処理の対照iSCと比較して、高い過剰発現を示した。(
図24)
【0106】
NF2患者由来iSCをノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにAAV9.NF2.GFPベクター(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にGFP蛍光について分析した。4つのベクターは全て、形質導入されていないiSC対照と比較して、様々な強度でGFP発現を示した。GFP過剰発現を有するAAV9.CB.GFPベクター処理細胞は、形質導入対照として機能する。(
図25)
【0107】
健常な対照及びNF2患者由来iSCを、ノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2-400bp.NF2、scAAV9.NF2-609bp.NF2、又はssAAV9.NF2-2.1kb.NF2(MOI 300K)を形質導入(25Kを播種、72時間の形質導入)し、形質導入から72時間後にc-Myc発現について分析した。
図26、a)免疫蛍光分析は、3つのベクター全てが、NF2患者由来iSC及び健常な(野生型NF2)対照iSCにおける幹細胞マーカーc-Mycの発現を低減させたことを示し、b)DAPIによって測定された細胞の総数にわたる高c-Myc陽性細胞のImage-J分析は、scAAV9を示した。NF2-400bp.NF2処理は、他の2つのベクターと比較して、高c-Myc陽性細胞の最も高い減少をもたらした。
【0108】
健常な対照及びNF2患者由来iSCを、ノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2 400bp.NF2、scAAV9.NF2 609bp.NF2、又はssAV9.NF2 2.1kb.NF2(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にSOX2発現について分析した(n=2)。免疫蛍光分析により、3つのベクター全てが、NF2患者由来iSC及び健常な(野生型NF2)対照iSCにおける幹細胞マーカーSOX2の発現を低減させることが示された。(
図27)
【0109】
したがって、全ての患者iSCは、アルファ-チューブリンに対して正規化した場合、NF2レベルが低減している。患者iSCは、SC成熟能力が低下したようである。患者iSCライン205及び207は、c-Myc及びSox2レベルの上昇を示す。AAV9.400bp.NF2及びAAV9.609bp.NF2の形質導入は、c-MYCレベルを低減することができ、AAV9.400bp.NF2ベクターにおいて観察される効果が最高である。
【0110】
上述のように、腫瘍増殖を促進するためにNF2遺伝子発現を更に低減させるために、レンチウイルスNF2 shRNAを使用して、ヒト患者において腫瘍形成細胞が経験する「セカンドヒット」を模倣するために、シュワン細胞分化の前にNF2遺伝子発現を低減させることができる。加えて、シュワン細胞分化後のNF2下方調節の有効性を、健常な対照及びNF2由来誘導シュワン細胞に形質導入するために、同じレンチウイルスNF2 shRNA構築物を使用することによっても試験した。
【0111】
NF2発現を低減するために、NF2配列5’-GGATGAAGCTGAAATGGAATA-3’(配列番号47)を標的とするshRNA(shNF2)を設計し、H1プロモーターの制御下でLV-H2B-RFP(Addgene 26001)にクローニングした。得られたベクターは、H1プロモーターからのshNF2、及びhPGKプロモーターからのH2B-RFPを発現し、核RFP発現をもたらす。iSCに、LV-shNF2及びLV-RFP(形質導入対照)(100MOI)を形質導入し、これをRFPベースのFACSを使用して選別するのに十分な細胞が存在するまで増殖させた。選別後、細胞を、選別された形質導入細胞の後続の分析(ウエスタンブロット、qPCR及びMTT細胞増殖アッセイ、抗レトロウイルス薬物治療)のために再播種、増殖、及び維持した。
【0112】
shNF2で直接ヒットした、選別されたiSCは、NF2レベルの低減を示した。
図28、(A)蛍光イメージングは、RFP及びshNF2を発現する選別されたiSC(黒)を示した。(B、C、D)ウエスタンブロットデータは、RFP対照と比較して、shNF2を形質導入された選別された健常なiSC及び患者iSCにおいて、NF2タンパク質レベルが40~50%減少することを示した。T検定:*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.00。
【0113】
播種から48時間後に分析した細胞増殖(MTT)アッセイは、単一対立遺伝子変異型NF2患者iSC及びNF2二重ノックダウン患者iSCにおいて高い増殖率を示した。
図29、(A)3つの単一対立遺伝子変異型NF2 iSCのうちの2つは、健常なiSCより1.5倍速く増殖する。(B)shNF2ノックダウン患者iSCは、健常なshNF2ノックダウンiSCよりも2~3倍速く増殖する。(C)RFP患者iSC(単一対立遺伝子変異体)及びshNF2(NF2ダブルノックダウン)増殖は、抗レトロウイルス薬物治療後に健常なレベルに近づくように低減される。T検定:*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001、****P≦0.0001。
【0114】
したがって、誘導シュワン細胞におけるshRNAベースのNF2の減少は、患者における腫瘍形成細胞の経験である「セカンドヒット」を模倣する。セカンドヒットを模倣するこの更なるNF2の減少は、増殖アッセイによって示されるように、インビトロでの適切な腫瘍モデリングアプローチであることが企図される。遺伝子療法構築物の使用に加えて、これらの細胞は、NF2患者の治療選択肢のための抗レトロウイルス薬及び他の小分子薬の薬物スクリーニングのためであり得ることが企図される。
【0115】
患者由来の不死化ヒト腫瘍細胞
他の実験では、hVS腫瘍細胞におけるNF2発現の低減が示された。
図30、a)ウエスタンブロット分析は、健常なiAstrocyte及びiSCと比較して、hVS腫瘍細胞におけるNF2の発現の低減を示した。b)qRT-PCRによるNF2 mRNA発現分析は、健常なiAstrocyte、iSC、及び線維芽細胞と比較して、hVS腫瘍細胞におけるNF2の対応する発現の低減も示した。
【0116】
hVS腫瘍細胞の免疫蛍光分析は、(a)健常な線維芽細胞と比較して、総NF2の全体的な発現の低減を示した。重要なことに、腫瘍サプレッサー(リン酸化型)の不活性型について分析すると、hVS腫瘍細胞は、(b)健常な対照線維芽細胞と比較して、ホスホ-S518マーリンの発現の増加を示した。(
図31)
【0117】
qRT-PCRによるmRNA発現分析は、健常な対照線維芽細胞と比較して、hVS腫瘍細胞における成熟シュワン細胞マーカー(Krox20及びMBP)の発現は低減しているが、線維芽細胞マーカー(FN1及びCol3A)の発現は増加していることを示し、これは、hVS腫瘍細胞が、成熟した、したがって機能的なシュワン細胞から遠く離れていることを示唆する。(
図32)
【0118】
hVS腫瘍細胞における幹細胞マーカー発現が増加した。
図33、a)免疫蛍光分析は、健常な(野生型NF2)対照iSCと比較して、hVS腫瘍細胞における幹細胞マーカーc-Myc及びSOX2の発現の増加を示した。b)DAPIによって測定された細胞の総数にわたるc-Myc又はSOX2陽性細胞のImage-J分析は、健常なiSCと比較して、hVS腫瘍細胞間で高いc-Myc/SOX2陽性のパーセンテージを示した。したがって、c-Myc及びSOX2は、インビトロで治療戦略を評価するためのバイオマーカーであることが企図される。
【0119】
hVS腫瘍細胞をノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2 609bp.NF2又はssAAV9.NF2 2.1kb.NF2(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にc-Myc発現について分析した。
図34、a)免疫蛍光分析は、scAAV9.NF2 609bp.NF2処理が、hVS腫瘍細胞における幹細胞マーカーc-Mycの発現を低減させることを示した。b)DAPIによって測定された細胞の総数にわたる高c-Myc陽性細胞のImage-J分析は、scAAV9を示した。NF2 609bp.NF2処理は、ssAAV9.NF2 2.1kb.NF2処理と比較して、高c-Myc陽性細胞の高い減少をもたらした。
【0120】
hVS腫瘍細胞をノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2 609bp.NF2又はssAAV9.NF2 2.1kb.NF2(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にc-Myc発現について分析した。
図35、a)免疫蛍光分析は、両方のベクターが、hVS腫瘍細胞における幹細胞マーカーSOX2の発現を低減させることを示した。b)DAPIによって測定された細胞の総数にわたる高c-Myc陽性細胞のImage-J分析は、scAAV9を示した。NF2 609bp.NF2処理は、ssAAV9.NF2 2.1kb.NF2処理と比較して、高SOX2陽性細胞の高い減少をもたらした。
【0121】
したがって、hVS腫瘍細胞は、NF2レベルを低減した。hVS腫瘍細胞は、SC成熟能力が低減されたようである。hVS腫瘍細胞は、c-Myc及びSox2レベルの上昇を示した。AAV9.609bp.NF2及びAAV9.2.1kb.NF2の形質導入は、c-MYCレベルを低減することができる。
【0122】
まとめ
上記のモデルは、各変異について新しいマウスモデルの生成を必要としないが、特定のNF2変異に対する、本明細書に記載のrAAV遺伝子療法ベクターを用いた遺伝子療法の有効性を実証する。更に、モデルは、可変性の高い患者集団における遺伝子療法及び相補的な治療的併用アプローチの同時評価を可能にする。
【0123】
実施例4
リン酸化抵抗性マーリンタンパク質を発現するrAAVの産生
マーリンタンパク質のリン酸化は、それを開放不活性コンフォメーションに変換し、他の細胞タンパク質と細胞骨格との結合を阻害し、かつ/又はユビキチン化によってその分解をもたらすことによって、その腫瘍サプレッサー活性を低減させることができる。したがって、遺伝子療法において必要に応じて使用するために、リン酸化抵抗性マーリンタンパク質も本明細書に提供される。
【0124】
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質は、リン酸化などの翻訳後陰性調節に抵抗性を有することができる。本明細書に提供される腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質は、配列番号15の10位のセリン、配列番号15の230位のスレオニン、配列番号15の315位のセリン、及び配列番号15の518位のセリンのうちの1つ以上を、その位置での/その周りのリン酸化を防止するためにアラニンなどの別のアミノ酸で置き換えることによって、1つ以上のリン酸化部位が除去されている。アミノ酸置換は、例えば、マーリンタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を変更することによって達成される。例えば、配列番号1の1609位のチミジンをグアノシンに変更すると、コードされたマーリンタンパク質中のセリン残基に対するアラニン残基の置換がもたらされる。配列番号16は、リン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードするように、その位置にグアノシンを有するポリヌクレオチドを示す。配列番号17~20は、そのポリヌクレオチドを含む導入遺伝子を示す。
【0125】
HEK293細胞にpAAV.NF2.NF2 S518Aプラスミドを一過的にトランスフェクトし、トランスフェクションから72時間後にNF2発現を分析した。(a)pAAV.NF2.NF2 S518AプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞のqRT-PCR分析は、pAAV.CB.GFPをトランスフェクトされた細胞及びトランスフェクトされていない細胞と比較して、NF2 S518Aの過剰発現を駆動する4つのプロモーター全てを示した。(b)トランスフェクトされたHEK293細胞のウエスタンブロット分析は、pAAV9.CB.GFPをトランスフェクトされた細胞及びトランスフェクトされていない細胞に対するNF2プロモーター依存性NF2 S518Aの過剰発現を確認する。歴史的に、NF2 mRNAの発現は、NF2タンパク質レベルと直接相関しておらず、NF2の更なる転写後調節を示唆している。
【0126】
リン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードするrAAVは、配列番号17~20に示される導入遺伝子を使用して、実施例1に記載されるように産生され、各導入遺伝子は、S518A置換(518位でのセリンに対するアラニンの置換)をコードする。実施例1と同様に、4つの導入遺伝子は、異なるNF2プロモーター:2.3kb、2.1kb、610bp(実際には609bp)、及び400bp(
図1)を含む。
【0127】
実施例5
膠芽腫におけるNF2再発現のためのAAV9ベクターのインビトロ標的化効率
膠芽腫は、アストロサイトに由来する非常に悪性の腫瘍である。U87ヒト膠芽腫細胞株は、ステージ3の44歳の白人女性に由来した。マーリンは、U87高悪性度膠芽腫における発現が低減している。
【0128】
U87膠芽腫細胞のウエスタンブロット分析は、健常な対照系と比較して、低いNF2タンパク質発現を示した。(
図36a~b)qRT-PCRによるmRNA発現分析は、U87膠芽腫細胞におけるNF2アイソフォーム1及び総NF2の発現が、健常な対照系と比較して低いことを示した。(
図37a~b)
【0129】
U87膠芽腫細胞をノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2-609bp.NF2又はssAAV9.NF2-2.1kb.NF2(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にNF2発現について分析した。
図38、a)ウエスタンブロット分析は、3つのベクター全てが、処理されたU87膠芽腫細胞におけるNF2発現を回復させることを示した。b)ウエスタンブロット分析の定量化により、scAAV9.NF2-400bp.NF2及びscAAV9.NF2-609bp.NF2処理が、ssAAV9.NF2-2.1kb.NF2処理と比較して、U87膠芽腫細胞におけるNF2発現の高い増加をもたらしたことが明らかになる。
【0130】
U87膠芽腫細胞をノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2-609bp.NF2又はssAAV9.NF2-2.1kb.NF2(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にNF2発現について分析した。mRNA発現分析を実行して、特定のNF2アイソフォームを決定した。
図39、a~b)NF2アイソフォーム1及び総NF2に特異的なプライマーを使用したmRNA発現分析では、AAV9.NF2処理されたU87膠芽腫細胞における対応する増加が示された。c)ベクター由来NF2転写物の分析では、ssAAV9.NF2-2.1kb.NF2処理と比較して、scAAV9.NF2-400bp.NF2及びscAAV9.NF2-609bp.NF2で処理したU87膠芽腫細胞における高いNF2発現を伴う処理U87細胞におけるベクター特異的NF2の著しい増加が示された。しかしながら、タンパク質発現がより低い高RNA発現は、NF2タンパク質が分解されている可能性があることを示唆し得る。
【0131】
U87膠芽腫細胞をノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2-400bp.NF2(野生型NF2アイソフォーム1)又はscAAV9.NF2-400bp.NF2 S518A(リン抵抗性NF2アイソフォーム1)(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にNF2発現について分析した。
図40、a)ウエスタンブロット分析は、両方のベクターが、処理されたU87膠芽腫細胞におけるNF2発現を回復させることを示した。b)ウエスタンブロット分析の定量化により、scAAV9.NF2-400bp.NF2 S51A処理が、scAAV9.NF2-400bp.NF2処理と比較して、U87膠芽腫細胞におけるNF2発現の更に高い増加をもたらしたことが明らかになる。
【0132】
U87膠芽腫細胞を、ノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2-400bp.NF2(野生型NF2アイソフォーム1)又はscAAV9.NF2-400bp.NF2 S518A(リン抵抗性NF2アイソフォーム1)(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から72時間後にNF2発現について分析した。mRNA発現分析を実行して、特定のNF2アイソフォームを決定した。NF2アイソフォーム1(a)、総NF2(b)、及びベクター由来のNF2転写産物(c)に特異的なプライマーを使用したmRNA発現分析は、scAAV9.NF2-400bp.NF2及びscAAV9.NF2-400bp.NF2 S518Aの両方で処理されたU87膠芽腫細胞において著しく高い発現を示した。重要なことに、scAAV9.NF2-400bp.NF2 S518A処理は、U87膠芽腫細胞において、高いRNA発現及び高いタンパク質発現をもたらした。(
図41)
【0133】
U87膠芽腫細胞をノイラミニダーゼ(NA)で処理し、これにscAAV9.NF2-400bp.NF2(野生型NF2アイソフォーム1)、scAAV9.NF2-400bp.NF2 S518A(リン抵抗性NF2アイソフォーム1)、又はscAAV9.NF2-400bp.GFP)形質導入対照のみ)(MOI 300K)を形質導入し、形質導入から144時間後にMTTアッセイによって細胞増殖について分析した。
図42、a)NA処理及びscAAV9.NF2-400bp.GFP後の対照U87膠芽腫細胞の明視野及び蛍光画像は、GFP発現によって明らかなように、細胞密度及び効率的なtAAV9形質導入を示した。b)scAAV9.NF2-400bp.NF2及びscAAV9.NF2-400bp.NF2 S518Aを形質導入されたU87膠芽腫細胞は、NAのみで処理した膠芽腫細胞及び未処理の膠芽腫細胞と比較して、減少した増殖速度を示した。
【0134】
したがって、AAV9.400bp.NF2及びAAV9.609bp.NF2は、NF2レベルの増加において最も有効であった。AAV9.400bp.NF2 cDNA及びAAV9.400bp.NF2 S518A形質導入は、膠芽腫増殖率を低減させる。NF2 mRNAレベルは実際に高いが、検出されたNF2の量は少ないため、リン酸化抵抗性NF2タンパク質が治療方法において有用であることも企図される。
【0135】
実施例で使用される様々な材料及び方法
AAV構築物及びベクター産生:最終構築物は、様々なプロモーター(CMVエンハンサー/ベータ-アクチン(CB)プロモーター、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーター、及びNF2プロモーター)に隣接するAAV2逆位末端反復(ITR)、SV40イントロン配列、並びにGFP、NF2、又はNF2 S518Aコード配列、続いてBGHポリA配列を含有する。表1に列挙されたプライマーの組み合わせを使用して、ヒトゲノムDNAからのPCRによって、4つの切断型NF2プロモーター配列を増幅した。アンプリコンを使用して、制限酵素消化によってCBプロモーターをKpnI及びPstI隣接配列に置き換え、GFP発現を駆動するNF2プロモーターを生成した。野生型NF2 cDNAを発現する構築物を生成するために、完全長野生型NF2アイソフォーム1配列を、以下の表1に列挙されるプライマーを使用して、市販の発現プラスミド(Origene、SC124024)から増幅した。次いで、NF2アイソフォーム1配列を使用して、AgeI及びBsrGI隣接配列による制限酵素消化によって、4つのNF2.GFP構築物中のGFP cDNA配列を置き換えた。リン酸化抵抗性NF2 S518Aを発現する構築物を生成するために、S518A置換を付与する点突然変異を含むNF2 cDNA配列を商業的に合成し(GenScript,Piscataway,NJ)、増幅し、4つのNF2.GFP構築物中のGFP cDNA配列を、制限酵素消化によって、AgeI及びBsrGI隣接配列と置き換えて使用した。構築したNF2プロモーター-NF2 cDNA及びNF2プロモーター-GFP cDNA発現カセットを、いずれかの方向のアンピシリン及びカナマイシン抵抗性遺伝子を用いて、順方向又は逆方向の自己相補型及び一本鎖AAVプラスミドにクローニングした。全てのベクターDNA構築物を、小規模ベクター産生(Andelyn Biosciences,Columbus,OH)によってAAV9カプシド(自己コメント又は一本鎖)にパッケージ化する前に配列検証した。
【0136】
動物:実行した全ての手順は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)のガイドラインに従い、Research Institute at Nationwide Children’s Hospital(Columbus,OH)Institutional Animal Care and Use Committees(IACUC)によって承認された。野生型C57Bl/6マウス(株番号000664;The Jackson Laboratory,ME,USA)について実験を実行した。P0~P2の仔を、AAV9ベクターの片側脳室内(ICV)注射のために使用した。健康状態を確認するために動物について毎日評価を行い、分析のために注射から1ヶ月後に屠殺した。
【0137】
注射:P0~P2におけるマウスのICV注射について、仔を氷上で10分間麻酔した後、注射した。注射は、前述のように、ハミルトンシリンジを33Gの針に取り付けて実行した。AAV9ベクターを、用量を減らすために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した。各動物について注射された総体積は、5μLであった。
【0138】
細胞株:ヒト皮膚線維芽細胞を、NF2患者から得られた皮膚パンチ試料から単離した。試料採取前に全ての対象からインフォームドコンセントを得た。ヒト試料の受領は、Nationwide Children’s Hospital Institutional Review Boardを通じて承認された。各患者に存在するヘテロ接合性NF2変異(P1~205、P2~207、及びP3~201)を、Illumina HiSeq 2000を使用したアンプリコン配列決定によって確認した。確立された皮膚線維芽細胞株を、GlutaMAX(商標)、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco)、及び1%抗生物質-抗真菌薬(Gibco)を補充したDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM;Gibco,Waltham,MA)中で培養及び増殖させた。
【0139】
不死化されたヒト前庭神経鞘腫(hVS)細胞株は、以前に記載されていた[Chang et al,PLoS ONE,16(7):e0252048.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0252048(2021)]。hVS細胞を、GlutaMAX(商標)、10% FBS及び1%抗生物質-抗真菌薬、100μMの組換えヒトHRG1-ベータ1(HRG;R&D Systems,Minneapolis,MN)、及び10mMのフォルスコリン(Peprotech,Cranbury,NJ)を補充したDulbecco’s Modified Eagle Medium/Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)中で培養した。組織培養処理プレートを、室温で30分間、50μg/mLのポリ-L-リジン(70~150kDa)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)、及び0.1Mのホウ酸、及び0.01%のホウ酸塩でコーティングし、1×PBSで2回洗浄し、hVS細胞を播種する前に、室温で30分間、4μg/mLのラミニンマウスタンパク質(Gibco)でコーティングした。
【0140】
U87膠芽腫細胞株(Dean Lee,Nationwide Children’s Hospital,Columbus,OHから受領)及びHEK293ヒト胚性腎臓細胞を、10% FBS及び1%抗生物質-抗真菌薬を補充したDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)中で培養した。
【0141】
線維芽細胞の誘導シュワン細胞への直接変換:Kitada et al.(2019)によって以前に記載された修飾プロトコルを使用して、患者線維芽細胞及び健常線維芽細胞を誘導シュワン細胞(iSC)に直接変換した。簡潔に述べると、継代5~9の間の線維芽細胞を、GlutaMAX(商標)、10% FBS、及び1%抗生物質-抗真菌薬を補充したDMEMを用いて組織培養処理プレートに790細胞/cm2の密度で播種した。播種の24時間後、血清を添加せずに培地をDMEMに交換し、1mMのβ-メルカプトエタノール(BME;Sigma-Aldrich)を補充した。翌日、培地を、10%のFBS及び35ng/mlのレチノイン酸(Sigma-Aldrich)を補充したDMEMと交換し、この培地中で72時間インキュベートした。その後、細胞をダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で1回洗浄し、新鮮なiSC誘導培地(GlutaMAX(商標)、5% FBS、1%抗生物質-抗真菌薬、以下の少量の化学物質:5μMのフォルスコリン(PeproTech)、10ng/mLのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Peprotech)、10ng/mlの血小板由来増殖因子-AA(PDGF-AA;Peprotech)、及び200ng/mLのHRGを補充したDMEM)中でインキュベートした。細胞を、この培地中でインキュベートし、増殖のために90%コンフルエンスで分割し、その後、顕微鏡検査並びに分子及び細胞アッセイによって特徴付けた。
【0142】
GFP及びNF2発現の評価のためのHEK293細胞のトランスフェクション:HEK293細胞に1.5×106細胞/ウェルで6ウェルプレート(2×105細胞/cm2の細胞密度)に播種した。細胞に、塩化カルシウム処理によって、1.5μgの精製プラスミド構築物を、80%コンフルエンスでトランスフェクトした。簡潔に述べると、プラスミドDNAを250mMのCaCl2に添加し、穏やかに旋回させてから、等量の2×HEPES緩衝生理食塩水(HBS)(pH7.05)を各チューブに添加した。2mlのトランスフェクション培地(DMEM 2% FBS)をプラスミド溶液に添加し、ピペットによって混合し、細胞に慎重に添加した。12時間後、トランスフェクション混合物を新鮮な培地に置き換え、72~96時間インキュベートして、トランスフェクション構築物からのGFP又はNF2の一過性発現を可能にした。細胞をトリプシン化によって採取し、GFP及びNF2発現についてのqPCRについてのウエスタンブロットによるその後の分析のために使用した。
【0143】
培養中の細胞のAAV形質導入:hVS腫瘍細胞及びiSCを、免疫染色による後続の分析のために、25,000細胞/ウェルのガラスカバースリップを有する24ウェルプレートに播種した。U87膠芽腫細胞を、ウエスタンブロット、qPCR、及びMTT細胞増殖アッセイによる分析のために、80,000細胞/ウェルで12ウェルの組織培養プレートに播種した。全ての培養容器を、室温でDPBS中の5μg/mLのヒトフィブロネクチンで30分間前処理して、細胞接着を増強した。翌日、細胞を、2%のFBS培地(hVS)、5%のFBS培地(iSC)、又は無血清培地(U87)で3回慎重に洗浄し、次いで、37℃/5%のCO2で、100mU/mLのノイラミニダーゼ(NA)(Sigma-Aldrich)中で2時間インキュベートした。NAを慎重に除去し、細胞を上記のそれぞれの培地で再び3回洗浄し、300,000DRP/mLで培地中で希釈したAAVベクターで処理した。プレートを4℃で1時間インキュベートした後、37℃/5% CO2の加湿インキュベーターに移した。形質導入から48時間後に、新鮮な完全培地を細胞に添加し、形質導入細胞のその後の分析のために72~96時間までインキュベートを続けた。
【0144】
免疫蛍光染色:線維芽細胞、hVS腫瘍細胞、及びiSCを、ガラスカバースリップを有する24ウェルプレートに播種した。翌日、細胞を室温で4%パラホルムアルデヒドで12分間固定し、DPBSで3回洗浄し、室温で10%ヤギ血清、0.1% TritonX-100、及び0.1% Tween-20を含むDPBSで1時間ブロッキングした。次いで、細胞を、一次抗体中で、4℃で一晩、穏やかに振盪しながらインキュベートした。全ての一次抗体をブロッキング溶液で希釈した。それぞれの希釈及び供給者を、以下の表2に列挙する。翌日、細胞をDPBS中で3回洗浄し、室温でブロッキング溶液中で1時間希釈したAlexa Fluorコンジュゲート二次抗体(Invitrogen)及びDAPI(Thermo Fisher Scientific)中でインキュベートした。DPBSで3回洗浄した後、カバースリップを、Vectashield(Vector Labs,Burlingame,CA)を用いてスライド上に取り付け、密封した。画像は、Nikon Eclipse Ti2-E電動倒立顕微鏡及びNIS-Elementsイメージングソフトウェアでキャプチャした。高いc-Myc又はSox2染色を有する細胞の定量は、ImageJ/Fiji画像処理及び分析ソフトウェアを使用して実行した(Schneider et al.,2012)。
【0145】
免疫組織化学:マウスの脳及び坐骨神経を、10mLの0.9%生理食塩水を経心臓灌流させた深く麻酔したマウスから切断した。脳を、切片化するまで4℃で4% PFA中に後固定し、水中5%アガロースを使用してビブラトームステージに取り付け、40μmの厚さで矢状に切断した。切片を、免疫染色まで4℃で保管するために、0.1M PBSと0.2%アジ化ナトリウムを含むマルチウェルプレートの隣接ウェルに順次配置した。次いで、切片を、0.1% Tween-20(PBST)を含むPBS中で3回洗浄し、次いで、10%正常ロバ血清、1% Triton X-100、及び0.02%アジ化ナトリウムを含むDPBS中で、室温で2時間ブロッキングした。切片を、ブロッキング溶液に希釈した一次抗体中で、48時間、4℃で穏やかに振盪しながらインキュベートした。使用される全ての抗体のそれぞれの希釈及びプロバイダを表2に列挙する。Alexa Fluorコンジュゲート二次抗体中でインキュベートする前に、DPBSで3回洗浄し、ブロッキング溶液中でDAPIを、穏やかに振盪しながら、室温で2時間希釈した。切片をPBS中で再度3回洗浄し、DABCOアンチフェイディング(PVA-DABCO;Sigma-Aldrich)を有するポリビニルアルコール封入剤を用いてスライドに取り付け、密封した。
【0146】
坐骨神経を、4℃で24時間、4% PFA中に後固定し、次いで、室温で2時間、PBSに移した。神経を、スクロース勾配(5%、10%、20%)中で30分間、室温で5%及び10%、並びにDPBS中の20%スクロース中で4℃で一晩インキュベートした。神経を、Tissue-Tekの最適冷却温度(OCT)封入剤(Sakura Finetek,Torrence,CA)に取り付け、14μmの厚さで-20℃のクライオスタット内で切断し、顕微鏡スライドに取り付け、染色するまで-80℃で保存した。染色は、スライドを室温で短時間温め、トリス緩衝生理食塩水(TBS)で洗浄してから、抗体希釈緩衝液(ADB;0.02%アジ化ナトリウム及び0.2% Triton X-100を含むTBS)で希釈した一次抗体を室温で一晩インキュベートすることによって実行した。スライドをTBS中で3回洗浄し、次いで、ADB中で1時間室温で希釈したAlexa Fluorコンジュゲート二次抗体中でインキュベートし、TBS中で再び3回洗浄し、PVA-DABCOを用いて取り付け、密封した。
【0147】
脳切片及び坐骨神経の視覚化及びイメージングは、Nikon Eclipse Ti2-E電動倒立顕微鏡及びNIS-Elementsイメージングソフトウェア、又はZeiss LSM 800共焦点顕微鏡及びZeiss ZENイメージングソフトウェアを用いて行った。
【0148】
ウエスタンブロット:細胞を、1×cOmplete(商標)、EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche,Indianapolis,IN)を含有する放射免疫沈降(RIPA)溶解及び抽出緩衝液(25mM Tris・HCl pH7.6、150mM NaCl、1% NP-40、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS)で溶解した。組織試料を、1×cOmplete(商標)、EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むT-PER(商標)組織タンパク質抽出試薬(Thermo Scientific)中でインキュベートし、次いで、30Hzに設定したQIAGEN TissueLyser IIビーズミル(QIAGEN,Valencia,CA)を用いて、室温で2分間ホモジナイズした。溶解物を3~5秒間超音波処理し、次いで、4℃で20分間、5000×gで遠心分離した。総タンパク質を含有する上清を、メーカーのプロトコルに従って、洗剤適合性(DC)タンパク質アッセイキット(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA)により定量化した。40μgの細胞/組織溶解物を、4~12%のBis-Trisポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)に充填し、120Vで1時間実行した。タンパク質をPDVF膜上に移し、Intercept(登録商標)(PBS)ブロッキング緩衝液(LI-COR Biosciences,Lincoln,NE)を用いて、室温で1時間ブロッキングした。NF2(ABclonal A2456、1:2000希釈)、GFP(Abcam ab13970、1:1000希釈)、GAPDH(Millipore MAB374、1:5000希釈)、及びα-チューブリン(Sigma-Aldrich T6074、1:5000希釈)に対する一次抗体を、1% Tween-20(TBS-T)の1:1ブロッキング緩衝液/TBSTで希釈し、4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜をTBS-Tで3回洗浄し、0.2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む1:1ブロッキング緩衝液/TBS-Tで1時間、室温で、LI-COR IRDye 800又は680二次抗体(1:7000希釈)とともにインキュベートした。ブロットをTBS-Tで3回洗浄した後、Odyssey DLx Imaging System(LI-COR)を使用してイメージングし、Image Studio(商標)Lite Quantification Software(LI-COR)を使用して分析した。GAPDH又はα-チューブリンをハウスキーピング遺伝子として使用して、NF2又はGFP発現を正規化した。
【0149】
定量的PCR:TRIzol(Invitrogen)抽出プロトコルを使用して、細胞ペレットから総RNAを単離した。次いで、RNA試料を、QIAGEN RNase-Free DNase Setを使用してDNAse-I処理に供した。RNAの質及び濃度を、NanoDrop分光光度分析(Thermo Scientific)によって決定した。第1鎖cDNAは、メーカーのプロトコルに従って、RevertAid RT Reverse Transcription Kit(Thermo Scientific)を使用して、セットアップ当たり1000μgのRNAを用いて生成した。定量的PCR(qPCR)は、1μLのRT生成物、500nMのプライマー、1×Power SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)、及びヌクレアーゼフリー水を使用して、総量20μLまで実行した。PCRは、50℃で2分間、95℃で10分間、95℃で15秒間及び60℃で1分間の40サイクルのサイクル条件で、96ウェルプレートqPCRシステム(QuantStudio 3、Applied Biosystems)で実行した。使用した遺伝子特異的プライマーを以下の表3に列挙する。各試料を3回実行し、正規化のためのハウスキーピング対照として内因性GAPDH及びRPL13Aを用いた比較Ct(ΔΔCT)法を使用して相対的なmRNA発現を計算した。各実験について、少なくとも3つの生物学的反復を実行した。
【0150】
細胞増殖アッセイ(MTT):U87細胞を、上記のようなAAV形質導入時に、5% FBS及び1%抗生物質-抗真菌薬を補充したDMEM中で、1500細胞/ウェルで96ウェルプレート中に3回再播種した。ウェル当たりの代謝活性細胞の数は、ウェル当たり10μLのMTT標識試薬を添加し、37℃で4時間インキュベートし、10μLの可溶化緩衝液を添加し、37℃で一晩インキュベートすることによって、細胞増殖キットI(MTT)(Roche)を使用して播種後48時間で測定した。575nmでの吸光度値を比色プレートリーダー(Synergy 2;BioTek,Winooski,VT)で測定し、Gen5データ収集及び分析ソフトウェア(BioTek)を使用して分析した。平均吸光度をセットアップごとに計算し、NAのみで処理した細胞に対して正規化した。
【0151】
統計分析:全ての統計的検定は、2つのセットアップ間の差を測定するために、不対両側t検定によって実行した。全ての定量的実験からのデータは、平均±標準誤差(SEM)として提示される。全ての検定において、有意性値は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、及び****P<0.0001として定義した。グラフは、GraphPad Prism 9.0ソフトウェアを使用して生成した。
【表1】
【表2】
【表3】
【0152】
本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、当業者には、その変更及び修正が想起されることが理解される。したがって、特許請求の範囲に見られるようなかかる限定のみが本発明に課されるべきである。
【0153】
本出願で参照される全ての文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする導入遺伝子を、マーリンタンパク質腫瘍サプレッサー活性を必要とする対象に送達する方法であって、前記導入遺伝子を含む遺伝子療法ベクターを、静脈内送達、腫瘍内送達、又は髄腔内送達によって前記対象に投与することを含む、方法。
(項目2)
少なくとも1つの欠陥NF2対立遺伝子を有する対象に、腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする導入遺伝子を送達することを含み、前記方法が、前記導入遺伝子を含む遺伝子療法ベクターを、静脈内送達、腫瘍内送達、又は髄腔内送達によって前記対象に投与することを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記導入遺伝子が、前記対象のシュワン細胞若しくは髄膜細胞、又は両方に送達される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記投与が、前記対象における悪性膠芽腫を治療する、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記投与が、前記対象における神経線維腫症2型を治療する、項目2又は3に記載の方法。
(項目6)
前記投与が、前記対象における腫瘍、難聴、耳鳴症、平衡障害、顔面の脱力又は痺れ、視覚障害、白内障、発作、及び脳幹圧迫のうちの1つ以上を緩和する、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記腫瘍が、シュワン腫、髄膜腫、上衣腫、又は他の脳神経腫瘍のうちの1つ以上である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記導入遺伝子が、腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする配列番号1、6、7、8、若しくは9のポリヌクレオチド、又は配列番号1、6、7、8、若しくは9に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記導入遺伝子が、腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードする配列番号16、17、18、19、20のポリヌクレオチド、又は配列番号16、17、18、19、20に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記遺伝子療法ベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTT、Anc80、若しくはAAV7m8血清型ベクター、又はその誘導体である、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与される、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与され、前記方法が、前記遺伝子療法ベクターの投与後に前記対象をトレンデレンブルグ体位に置くことを更に含む、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記遺伝子療法ベクターが、腫瘍内送達によって投与される、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記遺伝子療法ベクターが、静脈内送達によって投与される、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与される、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記遺伝子療法ベクターが、髄腔内送達によって投与され、前記方法が、前記遺伝子療法ベクターの投与後に前記対象をトレンデレンブルグ体位に置くことを更に含む、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする配列番号1、6、7、8、若しくは9のポリヌクレオチド、又は配列番号1、6、7、8、若しくは9に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、導入遺伝子。
(項目18)
腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードする配列番号16、17、18、19、20のポリヌクレオチド、又は配列番号16、17、18、19、20に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む、導入遺伝子。
(項目19)
腫瘍サプレッサー活性を有するマーリンタンパク質をコードする配列番号1、6、7、8、若しくは9のポリヌクレオチド、又は配列番号1、6、7、8、若しくは9に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
(項目20)
腫瘍サプレッサー活性を有するリン酸化抵抗性マーリンタンパク質をコードする配列番号16、17、18、19、20のポリヌクレオチド、又は配列番号16、17、18、19、20に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
(項目21)
前記組換えアデノ随伴ウイルスが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTT、Anc80、若しくはAAV7m8血清型ベクター、又はその誘導体である、項目19又は20に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
(項目22)
AAV9である、項目21に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【配列表】
【国際調査報告】