(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ウイルス感染の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20240403BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563121
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 SE2022050577
(87)【国際公開番号】W WO2022220736
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】PCT/SE2021/050344
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515312807
【氏名又は名称】ティーエックス メディック エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,ラーズ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、フラビウイルス感染または感染症の予防、阻害、及び/または処置における使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩に関する。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、平均分子量が10000Da以下であり、平均硫黄含有量が15%以上である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラビウイルス感染または感染症の予防、阻害、または処置における使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩であって、前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、平均分子量が10000Da以下であり、平均硫黄含有量が15%以上である、前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記フラビウイルス感染は、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、クンジンウイルス、ランガットウイルス、跳躍病ウイルス、マレーバレー脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、ポワッサンウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、及びジカウイルスからなる群から選択される、好ましくは、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、クンジンウイルス、跳躍病ウイルス、マレーバレー脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、ポワッサンウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、及びジカウイルスからなる群から選択される、フラビウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記フラビウイルス感染は、デングウイルス、黄熱ウイルス、及びジカウイルスからなる群から選択されるフラビウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染からなる群から選択される、請求項2に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記フラビウイルス感染は、ジカウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染である、請求項3に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記フラビウイルス感染は、デングウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染である、請求項3に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記フラビウイルス感染は、黄熱ウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染である、請求項3に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
前記フラビウイルス感染は、日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、及び黄熱ウイルス以外のフラビウイルスによって引き起こされる、請求項1に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、対象への全身投与用に製剤化される、請求項1~7のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、前記対象への静脈内または皮下投与用に製剤化され、好ましくは前記対象への皮下投与用に製剤化される、請求項8に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、平均硫黄含有量が15~20%の範囲である、請求項1~9のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項11】
前記平均分子量が2000~10000Daの範囲内、好ましくは3000~10000Daの範囲内、より好ましくは3500~9500Daの範囲内である、請求項1~10のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項12】
前記平均分子量が4500~7500Daの範囲内、好ましくは4500~5500Daの範囲内である、請求項11に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項13】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、核磁気共鳴(NMR)分光法によって測定される数平均分子量(Mn)が、1850~3500Daの範囲内、好ましくは1850~2500Daの範囲内、より好ましくは1850~2300Daの範囲内である、請求項1~10のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項14】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、NMR分光法によって測定されるMnが1850~2000Daの範囲内である、請求項13に記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項15】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、グルコース単位あたりの平均硫酸数が、2.5~3.0の範囲内、好ましくは2.5~2.8の範囲内、より好ましくは2.6~2.7の範囲内である、請求項1~14のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項16】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は、平均して5.1のグルコース単位を有し、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.6~2.7である、請求項1~15のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項17】
前記デキストラン硫酸または前記その薬学的に許容される塩は水性注射液として製剤化される、請求項1~16のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項18】
前記その薬学的に許容される塩はデキストラン硫酸のナトリウム塩である、請求項1~17のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に、ウイルス感染及び感染症の処置に関し、詳細には、フラビウイルス感染及びフラビウイルス感染によって引き起こされる感染症の処置におけるデキストラン硫酸の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルスは、フラビウイルス科におけるプラス鎖リボ核酸(RNA)ウイルスの属である。この属には、西ナイルウイルス、デングウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ジカウイルス、及び脳炎を引き起こし得るいくつかの他のウイルスが含まれる。
【0003】
フラビウイルスには一般に、サイズ(40~65nm)、対称性(エンベロープに覆われた正二十面体ヌクレオカプシド)、核酸(約10,000~11,000塩基の一本鎖陽方向鎖RNAウイルス)、及び電子顕微鏡下での外観を含むいくつかの共通の特徴がある。
【0004】
これらのウイルスのほとんどは主に、感染した節足動物(蚊またはダニ)に刺されることによって伝染するため、アルボウイルスとして分類される。これらのアルボウイルスのほとんどはヒトへの感染が偶発的であり、ヒトは、ウイルスのライフサイクルを継続するために必要な節足動物に再感染するのに十分に高い力価までウイルスを複製することができないため、ヒトは行き止まり宿主である。これに対する例外は、黄熱ウイルス、デングウイルス、及びジカウイルスである。これらの3つのウイルスは依然として蚊の媒介物を必要とするが、ヒトには十分に適応しているため、必ずしも動物宿主には依存しない。
【0005】
フラビウイルスは、ヒト宿主に感染する特定のウイルス種に応じて、様々な感染症を引き起こし得る。デングウイルスはデング熱を引き起こし、重症例では、デング出血熱またはデングショック症候群(一般に、潜在的に致命的な重症デング熱と言われる)に発展する場合がある。ジカウイルスはジカ熱を引き起こす。ジカ熱はジカウイルス病としても知られ、デング熱に似た症状を示す。しかし、妊娠中の母子感染は、子供に小頭症及び他の脳形成異常を引き起こす可能性がある。さらに、ジカウイルス感染は、成人におけるギランバレー症候群(GBS)に関連付けられている。黄熱病は、黄熱ウイルスによって引き起こされ、発熱、悪寒、食欲不振、吐き気、筋肉痛を含む症状が出るが、多くの場合に5日以内に終わる。しかし、感染者の約15%は肝障害を発症して、皮膚が黄色くなり、腎臓に問題が生じる。
【0006】
U.S.2004/0009953及びWO2005/004882では、HIV-1ウイルスに対する高分子量(40kDa、500kDa)及び低硫酸化(6~13%)デキストラン硫酸の抗ウイルス効果が詳しく調べられた。Antiviral Research 2017,143:186-194では、ジカウイルス感染に対する高硫酸化ヘパリン、高分子量及び低硫酸化デキストラン硫酸(二糖あたり2.3硫黄、40kDa)及びスラミンの効果が詳しく調べられた。
【0007】
対象がフラビウイルスに感染したら、ウイルスの感染及び蔓延のリスクを減らす処置が一般的に必要とされる。
【発明の概要】
【0008】
全般的な目的は、フラビウイルス感染または感染症の処置を提供することである。
【0009】
この目的及び他の目的は、本明細書で開示した実施形態によって満たされる。
【0010】
本発明の態様は、フラビウイルス感染または感染症の予防、阻害、及び/または処置における使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩に関する。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、平均分子量が10000Da以下であり、平均硫黄含有量が15%以上である。
【0011】
本明細書で提示した実験データは、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩を、フラビウイルス感染及びフラビウイルス感染症の処置に使用し得ることを示している。より詳細には、デキストラン硫酸によって、ヒト細胞のジカウイルス、デングウイルス、及び黄熱ウイルス感染の有意な用量依存性の阻害が、臨床的に妥当な濃度でもたらされた。
【0012】
実施形態は、さらなる目的及びその利点とともに、以下の説明を添付図面と一緒に参照することによって最良に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】デキストラン硫酸が、MOI0.5で濃度依存的にヒトHeLa細胞におけるジカウイルス感染を阻害することを例示する図である。データは平均+SEMを表す。
【
図1B】デキストラン硫酸が、MOI3で濃度依存的にヒトHeLa細胞におけるジカウイルス感染を阻害することを例示する図である。データは平均+SEMを表す。
【
図1C】デキストラン硫酸が、MOI5で濃度依存的にヒトHeLa細胞におけるジカウイルス感染を阻害することを例示する図である。データは平均+SEMを表す。
【
図2】デキストラン硫酸が、MOI0.05(2A)及び0.01(2B)で濃度依存的にVero細胞におけるジカウイルス感染を阻害することを例示する図である。データは平均+SEMを表す。
【
図3】ヒトHeLa細胞におけるジカウイルス感染の対照モネンシン阻害を例示する図である。
【
図4A】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4B】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4C】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4D】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4E】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4F】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4G】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図4H】インビトロで示されたフラビウイルスによる哺乳動物細胞の感染を防止するデキストラン硫酸及び陽性対照ウイルス感染性阻害剤モネンシンの能力を例示する図である。濃度効果データは、4パラメータのロジスティック方程式による反復曲線フィッティングによって分析した。デキストラン硫酸及びモネンシンそれぞれに対して、x軸はμMである。データは単一の実験からの個別のデータ点を表す。
【
図5】デキストラン硫酸が、濃度依存的にヒト細胞内へのデングウイルス、ジカウイルス、及び黄熱ウイルス感染を>90%阻害することを例示する図である。データは平均+SDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は全般的に、ウイルス感染及び感染症の処置に関し、詳細には、フラビウイルス感染及びフラビウイルス感染によって引き起こされる感染症の処置におけるデキストラン硫酸の使用に関する。
【0015】
デキストラン硫酸は、ヒト細胞におけるジカウイルス(ZIKV)、デングウイルス(DENV)、及び黄熱ウイルス(YFV)感染によって代表されるフラビウイルス感染を、臨床的に妥当な濃度で予防することができた。より詳細には、デキストラン硫酸処置は、対照と比べて感染細胞の数を有意に減少させ、デキストラン硫酸がヒト細胞におけるフラビウイルス感染を有意に予防または少なくとも阻害できるという証拠を示した。
【0016】
フラビウイルス粒子またはビリオンはエンベロープに覆われており、直径が約50nmの球状である。表面タンパク質は正二十面体様の対称性で配置される。成熟ビリオンは主に、タンパク質M及びタンパク質Eと表されるウイルスにコードされた2つの膜タンパク質を含むが、未成熟ビリオンは膜タンパク質前駆体を含む。
【0017】
一般的なフラビウイルス感染、特にジカ、デング熱及び黄熱ウイルス感染は、最初のウイルス細胞付着とそれに続く宿主細胞内への内在化という二段階プロセスと考えることができる。最初のウイルス細胞付着は、ウイルスエンベロープタンパク質Eと細胞表面上の負帯電したグリコサミノグリカン(GAG)との間の相互作用を介して媒介され(Infection,Genetics and Evolution 2019 69:22-29)、細胞表面上のウイルス粒子を富化する。宿主細胞内への実際の内在化は、宿主細胞の細胞表面受容体によって媒介される。神経細胞接着分子(NCAM1)が、ヘパラン硫酸塩と同様に(Virology 2002,292:162-168)、細胞内在化のための潜在的なフラビウイルス受容体、特にジカウイルス受容体として最近同定された(Nature Communications 2020 11:3896)。しかし、ヘパリン結合分析では直接的なジカウイルスヘパリン相互作用は観察されず、細胞ヘパラン硫酸塩の下方制御または除去はジカウイルス感染を阻害しなかった(Antiviral Research 2017,143:186-194)。これは、細胞表面ヘパラン硫酸塩が付着受容体としてジカウイルスによって利用されていないことを示した。
【0018】
フラビウイルス感染のデキストラン硫酸の阻害効果に対する可能なメカニズムは、最初のウイルス細胞付着及び/または細胞表面受容体への結合を妨害することであり得る。本実施形態のデキストラン硫酸塩は、負電荷を示し、細胞表面上のヘパラン硫酸塩及び他の負帯電したGAGを模倣し得る。したがって、本実施形態のデキストラン硫酸は、ウイルスエンベロープタンパク質Eと宿主細胞表面上のヘパラン硫酸塩及び他の負帯電したGAGとの間の結合を遮断または少なくとも妨害する可能性がある。加えて、NCAM1及び他の細胞表面受容体には、ヘパリン結合ドメイン(HBD)が含まれる(Journal of Neuroscience Research 1992 33(4):538-548)。本実施形態のデキストラン硫酸は、このようなHBDに結合することができるかまたは競合アンタゴニストとして作用することができ、したがって、NCAM1とこのようなHBDまたはヘパラン硫酸塩を含む他の細胞表面受容体とへのフラビウイルス粒子の結合を妨害し得る。
【0019】
したがって、本実施形態のデキストラン硫酸によって見られる実験結果は、最初のウイルス細胞付着を妨害し、ウイルスタンパク質と細胞表面受容体(NCAM1及びヘパラン硫酸塩など)との間の相互作用を妨害することによって得られ得る。
【0020】
本発明の態様は、フラビウイルス感染または感染症の予防、阻害、または処置における使用のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩に関する。
【0021】
一実施形態では、フラビウイルス感染は、デングウイルス(DENV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、クンジンウイルス(KUNV)、ランガットウイルス(LGTV)、跳躍病ウイルス(LIV)、マレーバレー脳炎ウイルス(MVEV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)、ポワッサンウイルス(POWV)、西ナイルウイルス(WNV)、黄熱ウイルス(YFV)及びジカウイルス(ZIKAV)からなる群から選択されるフラビウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染からなる群から選択される。別の実施形態では、フラビウイルス感染は、DENV、JEV、KUNV、LIV、MVEV、SLEV、POWV、WNV、YFV、及びZIKVからなる群から選択されるフラビウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染からなる群から選択される。
【0022】
特定の実施形態では、フラビウイルス感染は、DENV、YFV、及びZIKVからなる群から選択されるフラビウイルスによって引き起こされるフラビウイルス感染からなる群から選択される。
【0023】
好ましい実施形態では、フラビウイルス感染は、ZIKVによって引き起こされるフラビウイルス感染である。
【0024】
他の好ましい実施形態では、フラビウイルス感染は、DENVによって引き起こされるフラビウイルス感染である。
【0025】
さらなる実施形態では、フラビウイルス感染は、YFVによって引き起こされるフラビウイルス感染である。
【0026】
一実施形態では、フラビウイルス感染は、日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、及び黄熱ウイルス以外のフラビウイルスによって引き起こされる。
【0027】
フラビウイルス感染症は、本明細書で使用する場合、DENVによって引き起こされるデング熱、デング出血熱、及びデングショック症候群、JEVによって引き起こされる日本脳炎、KUNVによって引き起こされる非脳炎性クンジンウイルス病及び脳炎性クンジンウイルス病、LIVによって引き起こされる跳躍病、MVEVによって引き起こされるマレーバレー脳炎、SLEVによって引き起こされるセントルイス脳炎、POWVによって引き起こされる脳炎、WNVによって引き起こされる西ナイル熱、YFVによって引き起こされる黄熱病、及びZIKAVによって引き起こされるジカ熱またはジカウイルス病を含む。
【0028】
好ましい実施形態では、フラビウイルス感染症は、DENVによって引き起こされるデング熱、デング出血熱、及びデングショック症候群、YFVによって引き起こされる黄熱病、及びZIKAVによって引き起こされるジカ熱またはジカウイルス病からなる群から選択される。特定の実施形態では、フラビウイルス感染症は、ZIKAVによって引き起こされるジカ熱またはジカウイルス病である。他の特定の実施形態、フラビウイルス感染症は、DENVによって引き起こされるデング熱、デング出血熱、またはデングショック症候群である。さらに特定の実施形態では、フラビウイルス感染症は、YFVによって引き起こされる黄熱病である。
【0029】
一実施形態では、フラビウイルス感染症は、JEVによって引き起こされる日本脳炎、WNVによって引き起こされる西ナイル熱、DENVによって引き起こされるデング熱、デング出血熱、及びデングショック症候群、ならびにYFVによって引き起こされる黄熱病以外のフラビウイルス感染症である。
【0030】
本発明はまた、フラビウイルス感染または感染症の予防、阻害、及び/または処置用の薬剤の製造のためのデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0031】
本発明はさらに、フラビウイルス感染または感染症を予防、阻害、及び/または処置するための方法に関する。本方法は、フラビウイルス感染または感染症を患っている対象、またはフラビウイルス感染または感染症を患うリスクを有する対象に、有効量のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0032】
フラビウイルス感染または感染症の処置は、本明細書で使用する場合、必ずしもフラビウイルス感染または感染症の治療処置を意味するわけでなく、フラビウイルス感染または感染症の短期及び長期の症状の阻害または軽減も包含する。したがって、処置は、フラビウイルス感染または感染症の発症を遅らせること(フラビウイルス感染または感染症に関連する症状の発症を遅らせること、予防すること、確立された病態を解決することを含む)も包含する。
【0033】
また他のウイルスも、細胞に付着して内在化する際にフラビウイルスと同様のメカニズムを使用する。たとえば、狂犬病ウイルスも細胞表面受容体NCAM1を内在化に使用する(Philosophical Transactions Royal Society B 2015,370:2014035)。より詳細には、狂犬病ウイルス及び他のリッサウイルスは、宿主細胞との相互作用及び内在化に関与する糖タンパク質Gを含む。したがって、本実施形態のデキストラン硫酸は、リッサウイルス感染または感染症を予防、阻害、または処置する際にも使用することができる。
【0034】
一実施形態では、リッサウイルス感染は、オーストラリアコウモリリッサウイルス(ABLV)、ドゥベンハーゲリッサウイルス(DUVV)、ヨーロッパコウモリリッサウイルス(EBLV)、ラゴスコウモリウイルス(LBV)、モコラウイルス(MOKV)、及び狂犬病ウイルスからなる群から選択されるリッサウイルスによって引き起こされるリッサウイルス感染からなる群から選択される。特定の実施形態では、リッサウイルス感染は、狂犬病ウイルスによって引き起こされる。
【0035】
一実施形態では、リッサウイルス感染症は、狂犬病、脳炎、または狂犬病様脳炎疾患である。特定の実施形態では、リッサウイルス感染症は狂犬病である。
【0036】
一実施形態では、リッサウイルス感染は、狂犬病ウイルス以外のリッサウイルスによって引き起こされる。
【0037】
以下では、デキストラン硫酸の(平均)分子量及び硫黄含有量への言及は、デキストラン硫酸の任意の薬学的に許容される塩にも適用される。したがって、デキストラン硫酸の薬学的に許容される塩は好ましくは、以下の実施形態で述べるような平均分子量及び硫黄含有量を有する。
【0038】
本実施形態の好ましい範囲の外にあるデキストラン硫酸は、効果が劣り、及び/または細胞または対象に対して負の副作用を引き起こすと考えられる。
【0039】
たとえば、分子量が10,000Da(10kDa)を超えるデキストラン硫酸は一般に、平均分子量がより低いデキストラン硫酸と比べて、効果対副作用プロファイルが低い。これは、対象に安全に投与できるデキストラン硫酸の最大用量は、平均分子量が好ましい範囲内にあるデキストラン硫酸分子と比べて、より大きいデキストラン硫酸分子(>10,000Da)ではより低いことを意味する。結果として、このようなより大きいデキストラン硫酸分子は、デキストラン硫酸を対象にインビボで投与する場合の臨床用途にはそれほど適してはいない。たとえば、U.S.2004/0009953には、平均分子量が40kDaまたは500kDaで平均硫黄含有量が17%であるデキストラン硫酸は、ラットに対して非常に有毒であったことを開示している。
【0040】
本発明によるデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、提示した例に示されるように毒性がない。したがって、本発明のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、U.S.2004/0009953に開示された高分子量デキストラン硫酸と比べて、毒性の問題がない。
【0041】
デキストラン硫酸は、硫酸化多糖類、詳細には硫酸化グルカン、すなわち多くのグルコース分子で作られた多糖類である。本明細書で規定される平均分子量は、個別の硫酸化多糖類の分子量がこの平均分子量とは異なり得るが、平均分子量が硫酸化多糖類の平均分子量を表すことを示す。これはさらに、デキストラン硫酸サンプルについて、この平均分子量を中心として分子量の自然な分布が存在することを意味する。
【0042】
デキストラン硫酸の平均分子量(より正確には重量平均分子量(Mw))は通常、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、光散乱、または粘性などの間接的な方法を使用して決定される。このような間接的な方法を使用する平均分子量の決定は、カラムと溶離剤の選択、流量、較正手順などを含む多くの要因に依存する。
【0043】
【数1】
は、数値ではなく分子サイズに敏感な方法、たとえば、光散乱及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法にとって典型的である。正規分布が仮定される場合、M
wの各側の同じ重量、すなわち、分子量がM
w未満のサンプル中のデキストラン硫酸分子の総重量は、分子量がM
wを超えるサンプル中のデキストラン硫酸分子の総重量と等しい。パラメータN
iは、サンプルまたはバッチ中の分子量がM
iであるデキストラン硫酸分子の数を示す。
【0044】
一実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが10,000Da以下である。特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが2,000Da~10,000Daの区間内である。
【0045】
別の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが2,500Da~10,000Daの区間内、好ましくは3,000Da~10,000Daの区間内である。特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが3,500Da~9,500Daの区間内、たとえば3,500Da~8,000Daの区間内である。
【0046】
他の特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが4,500Da~7,500Daの区間内、たとえば4,500Da~6,500Daの区間内、または4,500Da~5,500Daの区間内である。
【0047】
したがって、いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが10,000Da以下、9,500Da以下、9,000Da以下、8,500Da以下、8,000Da以下、7,500Da以下、7,000Da以下、6,500Da以下、6,000Da以下、または5,500Da以下である。
【0048】
いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mwが1,000Da以上、1,500Da以上、2,000Da以上、2,500Da以上、3,000Da以上、3,500Da以上、4,000Da以上である、または4,500Da以上である。これらの実施形態のうちのいずれかを、Mwの上限を規定する上記で提示した実施形態のうちのいずれかと組み合わせてもよく、たとえば、10,000Da以下の上限と組み合わせてもよい。
【0049】
特定の実施形態では、上記で提示したデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩のMwは、平均Mwであり、好ましくは、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱または粘度に基づく方法よって決定される。
【0050】
【数2】
、典型的には、末端基アッセイ、たとえば、核磁気共鳴(NMR)分光法またはクロマトグラフィーによって得られる。正規分布が仮定される場合、同じ数のデキストラン硫酸分子をM
nの各側に見ることがわかる。すなわち、分子量がM
n未満であるサンプル中のデキストラン硫酸分子の数は、分子量がM
nを超えるサンプル中のデキストラン硫酸分子の数と等しい。
【0051】
一実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、NMR分光法によって測定したMnが1,850~3,500Daの区間内である。
【0052】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、NMR分光法によって測定したMnが1,850Da~2,500Daの区間内、好ましくは1,850Da~2,300Daの区間内、たとえば1,850Da~2,000Daの区間内である。
【0053】
したがって、いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mnが3,500Da以下、3,250Da以下、3,000Da以下、2,750Da以下、2,500Da以下、2,250Da以下、または2,000Da以下である。加えて、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、Mnが1,850Da以上である。
【0054】
一実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.5~3.0の区間内である。
【0055】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.5~2.8の区間内、好ましくは2.6~2.7の区間内である。
【0056】
一実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、グルコース単位の平均数が4.0~6.0の区間内である。
【0057】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、グルコース単位の平均数が4.5~5.5の区間内、好ましくは5.0~5.2の区間内である。
【0058】
一実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、NMR分光法によって測定したMnが1,850~3,500Daの区間内、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.5~3.0の区間内であり、デキストラン硫酸のグルコース単位におけるC2位の平均硫酸化が少なくとも90%である。
【0059】
一実施形態では、デキストラン硫酸は、グルコース単位の平均数が約5.1、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.6~2.7の区間内、Mnが1,850Da~2,000Daの区間内である。
【0060】
一実施形態では、デキストラン硫酸の薬学的に許容される塩は、デキストラン硫酸のナトリウム塩である。特定の実施形態では、デキストラン硫酸のナトリウム塩は、グルコース単位の平均数が約5.1、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.6~2.7の区間内、Na+対イオンを含むMnが2,100Da~2,300Daの区間内である。
【0061】
一実施形態では、デキストラン硫酸は、グルコース単位の平均数が5.1、グルコース単位あたりの平均硫酸数が2.7、NMR分光法によって測定したNa+を含まない平均Mnが約1,900~1,950Da、NMR分光法によって測定したNa+を含む平均Mnが約2,200~2,250Daである。
【0062】
デキストラン硫酸は、デキストランのポリアニオン誘導体であり、硫黄を含む。本実施形態のデキストラン硫酸の平均硫黄含有量は15%以上である。一実施形態では、本実施形態のデキストラン硫酸の平均硫黄含有量は、好ましくは15~20%、より好ましくは約17%であり、通常、グルコシル残基あたり約または少なくとも2つの硫酸基に対応する。特定の実施形態では、デキストラン硫酸の硫黄含有量は好ましくは、対応するデキストラン分子の可能な最大度の硫黄含有量に等しいか少なくともそれに近い。
【0063】
本実施形態によるデキストラン硫酸は、ナトリウム塩またはカリウム塩などのデキストラン硫酸の薬学的に許容される塩として提供することができる。
【0064】
本実施形態による現時点で好ましいデキストラン硫酸は、WO2016/076780に開示されている。
【0065】
対象は好ましくは哺乳類対象、より好ましくは霊長類、詳細にはヒト対象である。しかし、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、獣医応用においても使用することができる。動物対象の非限定的な例としては、霊長類、猫、犬、豚、馬、マウス、ラットが挙げられる。
【0066】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、好ましくは対象への注射、詳細には静脈内(i.v.)注射、皮下(s.c.)注射または(i.p.)腹腔内注射、好ましくはi.v.またはs.c.注射によって投与される。使用できる他の非経口投与経路には、筋肉内注射及び関節内注射が含まれる。デキストラン硫酸または薬学的に許容されるその誘導体の注射は、その代わりに、またはそれに加えて、たとえば、標的効果が起こるべき対象の体内の組織または臓器または他の部位において直接行うことができる。
【0067】
本実施形態のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は好ましくは、選択された溶媒または賦形剤を用いて水性注射液として製剤化される。溶媒は、有利には水性溶媒であり、詳細には緩衝液である。このような緩衝液の非限定的な例は、クエン酸塩一水和物(CAM)緩衝液などのクエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液である。たとえば、本実施形態のデキストラン硫酸は、0.9%NaCl生理食塩水などの生理食塩水中に溶解し、そして随意に75mM CAMによって緩衝し、水酸化ナトリウムを使用してpHを約5.9に調整することができる。また、生理食塩水、すなわちNaCl(水溶液)などの水性注射液を含む非緩衝溶液も可能である。さらに、緩衝溶液が要求される場合は、CAM以外の他の緩衝系を使用することもできる。
【0068】
本実施形態は注射に限定されず、経口、経鼻、口腔、直腸、経皮、気管、気管支、または局所投与を含む他の投与経路を代替的に使用することができる。次に、活性化合物であるデキストラン硫酸を、特定の投与経路に基づいて選択された好適な賦形剤または担体とともに製剤化する。
【0069】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩の好適な用量範囲は、インビトロ対インビボなどの用途、対象のサイズ及び重量、対象が処置される状態、及びその他の考慮すべき事柄に応じて変化し得る。詳細には、ヒト対象の場合、可能な用量範囲は、1μg/kg~100mg/kg体重、好ましくは10μg/kg~50mg/kg体重とすることができる。
【0070】
好ましい実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、0.05~50mg/kg対象体重、好ましくは0.05または0.1~40mg/kg対象体重、より好ましくは0.05または0.1~30mg/kg、または0.1~25mg/kgまたは0.1~15mg/kgまたは0.1~10mg/kg対象体重の範囲の用量で投与されるように製剤化される。好ましい用量は、0.25~5mg/kg、好ましくは0.5~2.5mg/kg、より好ましくは0.75~2mg/kg対象体重の範囲で選択される。
【0071】
デキストラン硫酸または薬学的に許容されるその誘導体は、単回ボーラス注射の形態などの単回投与機会で投与することができる。このボーラス用量は、対象に非常に迅速に注入することができるが、デキストラン硫酸溶液が5~10分間などの数分間にわたって患者に注入されるように、時間をかけて注入することが有利である。
【0072】
代替的に、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、治療期間中に複数(すなわち、少なくとも2回)の機会で投与することができる。
【0073】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、他の活性剤とともに、逐次的に、同時に、またはデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩と少なくとも1つの他の活性剤とを含む組成物の形態で、投与することができる。少なくとも1つの活性剤は、前述した疾患、障害、または状態のいずれかにおいて有用な任意の薬剤の中から選択することができる。
【実施例】
【0074】
実施例1-ZIKVに対する抗ウイルス活性
この研究の目的は、ジカウイルス(ZIKV)に対するデキストラン硫酸の抗ウイルス活性を詳しく調べることであった。
【0075】
材料及び方法
この実施例では、デキストラン硫酸のナトリウム塩を使用した(ILB(登録商標)、Tikomed AB,Viken,Sweden,WO2016/076780)。デキストラン硫酸は、0.9%NaCl中の100mg/mlのストック溶液で提供された。
【0076】
ウイルス感染を、ジカウイルスPF13を使用して2つの細胞系:ヒトHeLa Kyoto細胞及びアフリカミドリザル腎細胞(Vero AD細胞)において詳しく調べた。以下の条件を試験した。感染多重度(MOI)、すなわち感染開始時の細胞あたりのビリオン数が0.5、3、及び5のHeLa Kyoto、ならびにMOIが0.05及び0.01のVero AD。細胞毒性は、同じ濃度のデキストラン硫酸によって処置した非感染細胞に対するMTTアッセイを使用して決定した。
【0077】
試薬
完全培地:Vero ADに対しては5%M199、HeLa Kyotoに対しては、10%DMEM(Gibco)に10%FBS(Gibco)及び1Xp/s(Gibco)を補足した。
【0078】
補足培地:VeraADに対しては前述と同じ、HeLa Kyotoに対しては前述と同じだが2%FBSを使用。
【0079】
実験手順
デキストラン硫酸の3つの希釈液の抗ウイルス活性は、ジカウイルスによる感染前に薬剤をアッセイ細胞と1時間プレインキュベートすることによって調べた。ウイルス及び製剤は、実験全体の48時間にわたって細胞上に残した。同じ濃度範囲のデキストラン硫酸の細胞毒性を、同じ細胞株におけるMTTアッセイによって決定した。感染性の正しい範囲に到達したことを確認するために、ジカウイルスについては、3つのMOIを並行して試験した。
【0080】
細胞播種
細胞を分離して計数した。細胞型ごとに2つの96ウェルプレートに播種した。1つは抗ウイルスアッセイ用及び1つは細胞毒性アッセイ用である。細胞を、100μl/ウェルの完全培地に密度8,000細胞/ウェルで播種した。播種後、均一な分布になるようにプレートを室温で5分間インキュベートし、その後、37℃、5%CO2で次の日までインキュベートした。
【0081】
プレートには、デキストラン硫酸濃度(600μg/ml、200μg/ml、60μg/ml)及びMOIごとに3つのウェル、MOIごとに9つの感染対照ウェル、MOIごとに18の非感染対照ウェル及び8つのモネンシン対照ウェルが含まれていた。下表を参照されたい。太字は第1のMOIを表し、イタリック体は第2のMOIを表し、下線は第3のMOIを表す。
【表1】
600:600μg/mlデキストラン硫酸;200:200μg/mlデキストラン硫酸;60:60μg/mlデキストラン硫酸
M:モネンシン(モネンシンナトリウム塩、Sigma);I:感染;U:非感染
【0082】
化合物前処理
デキストラン硫酸は、ストック溶液(100mg/ml)から3つの異なる濃度において調製した。
【0083】
600μg/ml:994μlの補足培地内に6μlのデキストラン硫酸ストック
200μg/ml:998μlの補足培地内に2μlのデキストラン硫酸ストック
60μg/ml:900μlの補足培地内に100μlの600μg/ml。
【0084】
2.4μlの10mMモネンシンストックを1200μlの補足培地に添加し、続いてボルテックスで混合した。240μlの補足培地を、丸底の96ウェルプレートの各行3つのウェルに添加した(上記にMで示す)。360μlの希釈したモネンシンを3つの一番上のウェルに添加した。3つの一番上のウェルにおけるウェル内の容量の120μlを、次の行における3つのウェルに移動し、以下同様で、行ごとにモネンシンの3倍の希釈液を得た。
【0085】
培地を細胞から除去して、100μlの調製した化合物(デキストラン硫酸またはモネンシン)または培地(非感染及び未処置の対照)と1時間交換した。
【0086】
インキュベーションの終わりに向けて、新鮮なデキストラン硫酸及びモネンシンを、最終濃度の2倍において50μlの量で調製した(それらは、等量のウイルスまたは培地によって最終濃度まで希釈されるため)。
【0087】
1,200μg/ml:592.8μlの補足培地内に7.2μlのデキストラン硫酸ストック
400μg/ml:597.6μlの補足培地内に2.4μlのデキストラン硫酸ストック
120μg/ml:540μlの補足培地内に60μlの1,200μg/ml希釈液
【0088】
2.4μlの10mMモネンシンストックを600μlの補足培地に添加し、続いてボルテックスで混合した。120μlの補足培地を、丸底の96ウェルプレートの各行3つのウェルに添加した(上記にMで示す)。180μlの希釈したモネンシンを3つの一番上のウェルに添加した。3つの一番上のウェルにおけるウェル内の容量の60μlを、次の行における3つのウェルに移動し、以下同様で、行ごとにモネンシンの3倍の希釈液を得た。
【0089】
細胞毒性
デキストラン硫酸及びモネンシンをプレインキュベーション薬剤と同時に添加し、実験の間そのままにした。モネンシンを8時間後に除去し、補足培地と交換して細胞毒性を軽減した。
【0090】
ウイルスの調整及び感染
ウイルスを以下のMOIに従って加えた。
【0091】
ジカMOI0.5(HeLa Kyoto):27μlの未希釈ウイルス(1.5×107PFU/ml)+2,473μlの補足培地
ジカMOI3(HeLa Kyoto):160μlの未希釈ウイルス+2,340μlの補足培地
ジカMOI5(HeLa Kyoto):270μlの未希釈ウイルス+2,230μlの補足培地
【0092】
ジカMOI0.5(Vero AD):27μlの未希釈ウイルス(1.5×107PFU/ml)+2,473μlの補足培地
ジカMOI0.05(Vero AD):2.7μlの未希釈ウイルス+2,500μlの補足培地
ジカMOI0.01(Vero AD):0.6μlの未希釈ウイルス+2,500μlの補足培地
【0093】
化合物プレインキュベーションの終了時に、培地を細胞から除去し、50μlの希釈された化合物(デキストラン硫酸またはモネンシン)または培地(未処置及び非感染の対照)と交換した。50μlの希釈ウイルスまたは培地(非感染対照)を直ちに添加した。プレートを、37℃及び5%CO2において48時間インキュベートし、製剤+ウイルスを実験全体の時間にわたって細胞上に残した。
【0094】
固定及び展開
48時間後、プレートをPBSによって洗浄し、4%ホルムアルデヒドにより30分間固定し、PBSにより再び洗浄し、染色するまでPBS中で4℃で保存した。
【0095】
細胞毒性プレートをMTTにより処置して、細胞生存性を決定した。
【0096】
感染力の測定値
細胞を免疫蛍光染色により免疫染色した。簡単に言えば、任意の残留ホルムアルデヒドを、50mM塩化アンモニウムによりクエンチし、その後に、細胞を透過処理し(0.1%Triton X100)、フラビウイルスエンベロープタンパク質を認識する抗体(Millipore、MAB10216)により染色した。一次抗体を、Alexa-488コンジュゲート二次抗体(Life Technologies、A11001)により検出し、細胞核をHoechstにより染色した。画像を、CellInsight CX5ハイコンテントプラットフォーム(Thermo Scientific)上で10Xの対物レンズを使用して取得し、感染率を、CellInsight CX5ソフトウェアを使用して計算した(感染細胞/総細胞×100)。
【0097】
細胞毒性の測定値
細胞毒性をMTTアッセイにより検出した。簡単に言えば、MTT試薬(Sigma)を細胞に37℃、5%CO2で2時間添加し、その後に、培地を除去し、沈殿物を1:1のイソプロパノール:DMSOの混合物により20分間可溶化した。上澄みをきれいなプレートに移し、570nmで信号を読んだ。
【0098】
%阻害の決定
阻害の正規化されたパーセンテージを、以下の式を使用して計算した。
【数3】
【0099】
対照薬剤については、EC50値を、GraphPad Prism(バージョン9)を使用して、化合物濃度の対数対阻害の正規化されたパーセンテージの最良適合(非線形回帰分析、可変傾斜)を表す曲線から外挿した。
【0100】
細胞毒性の決定
細胞毒性のパーセンテージを、以下の式を使用して計算した。
【数4】
【0101】
対照薬剤に対するTC50値を、GraphPad Prism(バージョン9)を使用して、化合物濃度の対数対正規化された細胞毒性のパーセンテージの最良適合(非線形回帰分析、可変傾斜)を表す曲線から外挿した。
【0102】
結果
図1A~1C、2A~2Bにおける棒グラフは、示したウイルスについて試験した3つの濃度におけるデキストラン硫酸に対する感染阻害%(棒)及び細胞毒性%(点)を示す。デキストラン硫酸は、両方の細胞型においてジカウイルスの有意な用量依存性の阻害を引き起こした。
【0103】
試験した濃度のいずれにおいても、重大な細胞毒性は観察されなかった。
【0104】
ジカ及び他のフラビウイルスに対する効果的な抗ウイルスの臨床上の必要性が満たされていないことを考慮すると、本明細書で示される結果は、本実施形態のデキストラン硫酸がフラビウイルス科に対して治療の可能性を有することを示す。
【0105】
ジカウイルスに対するデキストラン硫酸の有効性は、Antiviral Research 2017、143:186-194において、デキストラン硫酸がVero細胞内では200μg/mlにおいて約60%の%感染阻害があったことが示され、それに比べて、本発明によるデキストラン硫酸を用いると200μg/mlにおいて80%を超える%感染阻害が得られた(
図2A)ことを考えると非常に驚くべきことであった。Antiviral Research 2017,143:186-194で使用したデキストラン硫酸は、Sigma製の低硫酸塩デキストラン硫酸(二糖類あたり2.3硫酸化)である。さらに、デキストラン硫酸は著しく高い平均分子量である(40kDa)。本発明のデキストラン硫酸とAntiviral Research 2017,143:186-194におけるデキストラン硫酸との間の硫酸化数及び平均分子量におけるこれらの差異は、ジカウイルスに対する抗ウイルス活性における有意差に対する根拠であると考えられる。
【0106】
実施例2-DENV、ZIKV、及びYFVに対する抗ウイルス活性
この研究の目的は、デングウイルス(DENV)、ジカウイルス(ZIKV)、及び黄熱ウイルス(YFV)に対するデキストラン硫酸の抗ウイルス活性を詳しく調べることであった。
【0107】
材料及び方法
この実施例では、デキストラン硫酸のナトリウム塩を使用した(ILB(登録商標)、Tikomed AB,Viken,Sweden,WO2016/076780)。デキストラン硫酸は、0.9%NaCl中の100mg/mlのストック溶液で提供された。
【0108】
ウイルス感染は、2つの細胞系:デングウイルス(DENV)の4つの血清型のパネル及び黄熱病17D(YF17D)のワクチン株を使用したヒトHuh-7細胞(VRSストックP1)と、ジカウイルス(ZIKV)の2つの系統を使用したヒトHeLa Kyoto細胞(VRSストックP1)において詳しく調べた。
【0109】
ウイルス:DENV1(Hawaii株、GenBankTMコードEU848545)
DENV2(New Guinea C株、GenBankTMコードAF038403)
DENV3(H87株、GenBankTMコードM93130)
DENV4(H241株;GenBankTMコードAY947539)
ZIKVアフリカ系統(MP1751株)
ZIKVアジア系統(PF/13)
YF17D(VRSストック)
【0110】
試薬
完全培地:DMEM(Gibco)に10%FBS(Gibco)及び1Xp/s(Gibco)を補足した。
補足培地:DMEM(Gibco)に2%FBS(Gibco)及び1Xp/s(Gibco)を補足した。
【0111】
実験手順
デキストラン硫酸の8つの希釈液の抗ウイルス活性を、ウイルスを添加する前に薬剤をアッセイ細胞と1時間プレインキュベートすることによって調べた。ウイルス及び製剤は、実験全体の48時間にわたって細胞上に残した。同じ濃度範囲のデキストラン硫酸の細胞毒性を、MTTアッセイによって決定した。
【0112】
細胞播種
細胞を分離して計数した。細胞型ごとに2つの96ウェルプレートに播種した。1つは抗ウイルスアッセイ用及び1つは細胞毒性アッセイ用である。Huh-7及びHeLa細胞を、100μl/ウェルの完全培地に密度8,000細胞/ウェルで播種した。播種後、均一な分布になるようにプレートを室温で5分間インキュベートし、その後、37℃、5%CO2で次の日までインキュベートした。
【0113】
ウイルスの調整及び感染
ウイルスストックを補足培地内に希釈して、以下のMOIに達した。
DENV1-3:0.3
DENV4:1
ZENV:5
YF17D:0.1
【0114】
製剤希釈
デキストラン硫酸製剤を、最終濃度の2倍において調製した(それらは、等量のウイルスまたは培地によって最終濃度まで希釈されるため)。
【0115】
各ウイルスに対して、デキストラン硫酸試験液を、150μlの100mg/mlストックを600μlの補足培地(20mg/ml)に添加することによって調製した。
【0116】
関連するウイルスごとに、対照阻害剤としてのモネンシンを、3μlの10mMストックを747μlの補足培地(40μM)に添加することによって調製した。
【0117】
丸底の96ウェルプレートの行Aにおいて、前述で調製した希釈液を3重で加えた(180μl/ウェル)。行B~Hにおいて、120μlの補足培地を加えた。3倍の連続希釈では、60μlを前の行から次の行に移して、その間に15回混合した。
【0118】
細胞処置
培地を細胞から除去し、50μlの補足培地を添加し、その直後に、50μlの希釈した製剤を加えた。培地のみを列11及び12に添加した(未処置の対照)。混合後、プレートを、37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0119】
細胞毒性試験
培地を細胞から除去して、50μlの補足培地と交換し、続いて50μlの希釈した製剤または培地と交換した。混合後、プレートを、37℃及び5%CO2で48時間インキュベートした。
【0120】
細胞感染
1時間後、培地を細胞から除去して、50μlのウイルスまたは培地(非感染未処置の対照)と交換し、その直後に、あらかじめ調製した50μlの製剤希釈液と交換した。プレートを、37℃及び5%CO2で48時間インキュベートし、製剤+ウイルスを実験全体の時間にわたって細胞上に残した。
【0121】
固定及び展開
48時間後、プレートをPBSによって洗浄し、4%ホルムアルデヒドにより30分間固定し、PBSにより再び洗浄し、染色するまでPBS中で4℃で保存した。
【0122】
細胞毒性プレートをMTTにより処置して、細胞生存性を決定した。
【0123】
感染力の測定値
細胞を免疫蛍光染色により免疫染色した。簡単に言えば、任意の残留ホルムアルデヒドを50mM塩化アンモニウムによりクエンチし、その後に、細胞を透過処理し(0.1%Triton X100)、デングウイルスエンベロープタンパク質を認識する抗体(Invitrogen MA1-27093、DENV1-3用)、パンフラビウイルスエンベロープ(Millipore MAB10216、DENV4及びZIKV用)、及び黄熱病E抗体3576(Santa Cruz、sc-58083、YF17D用)によって染色した。一次抗体を、Alexa-488コンジュゲート二次抗体(Life Technologies、A11001)により検出し、細胞核をHoechstにより染色した。画像を、CellInsight CX5ハイコンテントプラットフォーム(Thermo Scientific)上で4Xの対物レンズを使用して取得し、感染率を、CellInsight CX5ソフトウェアを使用して計算した(感染細胞/総細胞×100)
【0124】
細胞毒性の測定値
細胞毒性をMTTアッセイにより検出した。簡単に言えば、MTT試薬(Sigma)を細胞に37℃、5%CO2で2時間添加し、その後に、培地を除去し、沈殿物を1:1のイソプロパノール:DMSOの混合物により20分間可溶化した。上澄みをきれいなプレートに移し、570nmで信号を読んだ。
【0125】
EC50濃度の決定
濃度効果データを、KaleidaGraph(v5;Synergy Software)を使用して、4パラメータのロジスティック方程式(m1=感染力の最大阻害、m2=EC50濃度、m3=ヒル係数、m4=最大感染力;分析後にm1>m4の場合、m1が元のm4と強制的に等しくなるように分析を繰り返し、関連するグラフに関連付けられた表からm1が欠落し、分析後にm4がビヒクルデータの最も高い反復を10%超上回る場合、m4を強制的にビヒクルデータの平均値にし、関連するグラフに関連付けられた表からm4が欠落していることが明らかである)による反復曲線フィッティングを使用して分析した。示された濃度の示された薬剤の不在(ビヒクル)または存在における%感染のすべての反復が、分析に含まれた。
【0126】
TC
50濃度の決定
細胞毒性のパーセンテージを、以下の式を使用して計算した。
【数5】
【0127】
最大細胞毒性がTC50値に達しなかった場合、TC50値>試験された最大濃度が報告される。
【0128】
結果
表1に、デキストラン硫酸のEC50、TC50、及び選択指数(SI(=TC50/EC50)、ならびに陽性対照阻害剤モネンシンに対するEC50値を示す。
【0129】
すべてのフラビウイルス(すなわち、4つのデングウイルス株、2つのジカウイルス株、及び黄熱ウイルス株)の阻害が、デキストラン硫酸及び陽性対照薬剤の両方で明らかであり、デキストラン硫酸のEC50は、約0.03~0.6mg/ml(30~600μg/ml)の範囲である。
【0130】
試験した最大濃度(10mg/ml)での低いサブTC
50レベルを除いて(最大で16%の細胞毒性)、試験したデキストラン硫酸濃度のいずれにおいても細胞毒性は観察されなかった。
【表2】
【0131】
デングウイルス
デング熱は、蚊(通常、Aedes aegypti及びAedes albopictusの種)によって伝染するウイルス感染であり、世界の多くの地域(アジア、アフリカ、アメリカ、オーストラリア及びカリブ海)に蔓延している。デング熱感染は、DENV1、DENV2、DENV3、及びDENV4と命名される4つの抗原的に異なるデングウイルスタイプから発生する。これらは、地理的分布、罹患率、及び死亡率の点でヒトの最も多くのアルボウイルス疾患を含むフラビウイルス属に属する。少なくとも25億人がこの病気のリスクにあり、毎年1億~4億例のデング熱感染があると推定されている。症状は通常、軽度である(「デング熱」として知られる軽度な熱性疾患である)が、毎年推定500,000症例が、入院を必要とする非常に重篤で生命を脅かすものであり(「重度デング熱」別名デング出血熱)、罹患者のうちの約2.5%が死亡する。WHOによれば、重度デング熱は、アジア及びラテンアメリカの国々における子供及び大人の入院及び死亡の主な原因である。
【0132】
デング熱に対する薬物療法または何らかの広く利用可能な安全なワクチンはなく、デング熱の予防は効果的なベクター制御に依拠している。
【0133】
このアッセイでは、4つのデングウイルスタイプ(1~4)のそれぞれがHuh-7細胞(ヒト上皮腫瘍細胞株)に感染する能力と、デキストラン硫酸が感染を防止する能力とを評価した。デキストラン硫酸は、すべての4つのデングウイルスタイプによる感染の強力な阻害を示し、IC
50値は0.6mg/ml以下であった(
図4A~4D)。このアッセイは、抗ウイルス活性を有するイオノフォアであるモネンシンによる4つのデングウイルス変異型のそれぞれからの感染力の阻害によって検証された。
【0134】
デキストラン硫酸に関するデータは、この薬剤がデングウイルスによるヒトの感染を減らす可能性を支持した。
【0135】
黄熱ウイルス
黄熱病は、アフリカ、南米、中央アメリカ、及びカリブ海において発生する蚊(主にAedes aegypti及び他のAedes種)によって広がるフラビウイルス感染による別の重篤なアルボウイルス疾患である。黄熱病は急性の出血性疾患である。「黄色」は一部の患者に影響する黄疸を述べている。他の症状には、発熱、頭痛、筋肉痛、吐き気、嘔吐、及び疲労などがあり、重度では死に至る可能性がある。
【0136】
このアッセイでは、黄熱ウイルスがHuh-7細胞(ヒト上皮腫瘍細胞株)に感染する能力と、デキストラン硫酸が感染を防止する能力とを評価した。デキストラン硫酸は、感染の強力な阻害を示し、IC
50値は0.05mg/ml未満であった(
図4E)。このアッセイは、抗ウイルス活性を有するイオノフォアであるモネンシンによる感染力の阻害によって検証された。
【0137】
デキストラン硫酸に関するデータは、この薬剤が黄熱ウイルスによるヒトの感染を減らす可能性を支持した。
【0138】
ジカウイルス
デングウイルスと同様に、フラビウイルスジカは蚊(この場合も通常は、Aedes aegypti及びAedes albopictusの種)によって伝染し、世界の熱帯及び亜熱帯のマラリア地帯(たとえば、アフリカ、中南米、南及び東南アジア)に関連して発生する。アフリカ系統及びアジア系統として知られる2つの主なジカウイルス系統がある。
【0139】
ジカウイルス病は、ほとんどの人にとって軽度で一時的であるが、この疾患は、妊婦にとって、ウイルスが胎児に伝染し壊滅的な結果をもたらす可能性がある。これは、流産または先天性異常(潜在的に致命的な異常に小さい頭(小頭症)ならびに先天性ジカ症候群、脳の機能不全の発達障害など)を促進する可能性がある。2015~2016年に、ブラジルだけで20万を超える症例を伴う大規模な集団発生があり、8000人の子供が先天性異常を伴って生まれた。現在、ジカウイルス感染が確認された妊娠の5~10%が先天性異常を引き起こすと推定され、感染の確認が妊娠初期に限定された場合は8~15%まで増加する。加えて、低い割合の患者がギランバレー症候群、神経障害、または脊髄炎などの神経学的問題を発症するという理解が高まっている。
【0140】
ジカウイルス感染を軽減する現在の薬物療法はなく、予防は蚊との遭遇を減らす予防策に従うことになる。感染は症状から疑われ、臨床検査で確認される。
【0141】
このアッセイでは、両ジカウイルス系統(アジア及びアフリカ)がHeLa細胞(ヒト上皮腫瘍細胞株)に感染する能力と、デキストラン硫酸が感染を防止する能力とを評価した。デキストラン硫酸は、2つのジカウイルス系統による感染の強力な阻害を示し、IC
50値は0.140mg/ml未満であった(
図4G~4H)。このアッセイは、抗ウイルス活性を有するイオノフォアであるモネンシンによる両変異型からの感染力の阻害によって検証された。
【0142】
デキストラン硫酸に関するデータは、この薬剤がジカウイルスによるヒトの感染を減らす可能性を支持した。
【0143】
結論
デキストラン硫酸がフラビウイルスであるデングウイルス(4つの主なタイプ)、ジカウイルス(2つの主なタイプ)及び黄熱ウイルスの感染力を阻害する能力を評価した。ジカアジア株(ZIKV)、デングHawaii株(DENV)、及びYF17Dについては、
図5の結果の概要を参照されたい。
【0144】
デキストラン硫酸は、試験したすべてのフラビウイルスの感染力を阻害する強力な能力を示した。加えて、デキストラン硫酸の一般的な細胞毒性も同じアッセイにおいて評価したが、アッセイのいずれにおいても何らかの懸念されるレベルは明らかではなかった。データは、現在薬物療法がない壊滅的な疾患を引き起こす可能性があるフラビウイルスによるヒトへの感染を防止する処置としてのデキストラン硫酸の可能性を支持している。
【0145】
前述した実施形態は、本発明のいくつかの例示的な実施例として理解すべきである。当業者であれば分かるように、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に種々の変更、組み合わせ、及び変形を施してもよい。詳細には、技術的に可能であるならば、異なる実施形態における異なる部分の解決策を他の構成において組み合わせることができる。
【国際調査報告】