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特表2024-515670部分フッ素化ポリマーを製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】部分フッ素化ポリマーを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240403BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240403BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240403BHJP
   C08F 14/22 20060101ALI20240403BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240403BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20240403BHJP
   C08L 101/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08F14/22
C08K3/22
C08L27/16
C08L101/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563950
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2022059624
(87)【国際公開番号】W WO2022223348
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21169087.0
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】オリアーニ, アンドレーア ヴィットーリオ
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J002AA041
4J002BD141
4J002DE096
4J002FD116
4J002GQ00
4J002HA06
4J100AC23Q
4J100AC24P
4J100AC26Q
4J100AC27Q
4J100AC28R
4J100AC31Q
4J100CA01
4J100DA09
4J100HA01
4J100HE01
4J100HE21
4J100JA43
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB04
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA24
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA07
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、親水性フッ化ビニリデンポリマー、これらのポリマーを調製するためのプロセス、及び改良された性能を特徴とする物品を作製するためのその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの電極活物質(AM)と、
b)少なくとも1つのバインダー(B)であって、バインダー(B)は、少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]を含み、ポリマー(A)は、70kGy未満の線量で酸素の存在下で電離放射線をポリマー(F)に照射する工程を含むプロセスによって得られ、ポリマー(F)は、
(i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
(ii)任意に0.01モル%~15.0モル%の、VDFとは異なるフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、
を含み、前記モルパーセントは、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルを指す、少なくとも1つのバインダー(B)と、
c)少なくとも1つの溶媒(S)と、
を含む電極形成組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
VDFとは異なる前記コモノマー(CF)は、
(a)C~Cフルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、及びヘキサフルオロイソブチレン、
(b)C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えば、フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン、
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン、
(d)クロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C2~C6フルオロオレフィン、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)
からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
ポリマー(A)は、本記載に報告された方法に従って、73°未満、好ましくは70°未満の接触角を有する、請求項1又は2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
ポリマー(F)の照射は、α線、β線、γ線、又は電子線、好ましくはβ線、γ線及び電子線からなる群より選択されるいずれかの電離放射線により実行される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項5】
ポリマー(F)の照射は、好ましくは0.1kGy~70kGy、より好ましくは1kGy~40kGy、更により好ましくは1kGy~20kGyの線量で実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
(A)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供する工程と、
(B)請求項1~5のいずれか一項に記載の電極形成組成物[組成物(C)]を提供する工程と、
(C)工程(B)で提供された前記組成物(C)を、工程(A)で提供された前記金属基材の前記少なくとも1つの表面に塗布し、これにより、前記少なくとも1つの表面に前記組成物(C)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供する工程と、
(D)工程(C)で提供された前記組立体を乾燥する工程と、
(E)工程(D)で得られた前記乾燥された組立体を圧縮工程に付して、本発明の前記電極(E)を得る工程と、
を含む、電極[電極(E)]の製造プロセス。
【請求項7】
前記電極形成組成物(C)は、キャスティング、印刷及びロールコーティングなどの任意の手順によって前記金属基材の少なくとも1つの表面に塗布される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のプロセスにより得られることができる電極[電極(E)]。
【請求項9】
- 金属基材と、

(a)少なくとも1つのポリマー(A)であって、ポリマー(A)は、70kGy未満の線量で酸素の存在下で電離放射線をポリマー(F)に照射する工程を含むプロセスによって得られ、ポリマー(F)は、
(i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
(ii)任意に0.01モル%~15.0モル%の、VDFとは異なるフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、を含み、前記モルパーセントは、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルを指す、少なくとも1つのポリマー(A)と、
(b)少なくとも1つの電気活物質(AM)と、
を含む組成物からなる、前記金属基材の少なくとも1つの表面に直接接着させられた少なくとも1つの層と、
を含む電極(E)。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイス。
【請求項11】
好ましくは二次電池であり、
- 正極及び負極
を含み、
前記正極及び前記負極の少なくとも1つは、請求項8又は9に記載の電極(E)である、請求項10に記載の電気化学デバイス。
【請求項12】
- 正極及び負極
を含む二次電池であり、
前記負極は、請求項8又は9に記載の電極(E)である、請求項10又は11に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月19日出願の欧州特許出願第21169087.0号に対する優先権を主張し、この出願の全内容は全ての目的のために本明細書に参照により組み入れられる。
【0002】
本発明は、親水性フッ化ビニリデンポリマー、これらのポリマーを調製するためのプロセス、及び改良された性能を特徴とする物品を作製するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ化ビニリデンポリマー(PVDF)などのフルオロポリマーは、自動車材料、パイプ及び継手、ベアリング、ライニング、及び容器など、フルオロポリマーと金属表面との間の良好な界面接着性が強く求められる幅広い範囲の用途で非常に役立つ。しかしながら、フルオロポリマーは、表面エネルギーが非常に低いため、金属との接着性が劣る。
【0004】
金属への接着性を改善することを目的としたフルオロポリマーの表面処理は、当技術分野において知られており、確立されている。
【0005】
シート、フィルム及び成形品の形態のフルオロポリマーは、金属とのそれらの接着性を改善させるために、化学処理され、コロナ放電及びプラズマを使用した放電に供され、火炎処理に供され、及び化学吸着手順などの物理的処理に供される。
【0006】
化学的機能性及び表面特性を変化させるためにフルオロポリマー粒子に適用される処理も当技術分野で知られている。
【0007】
一例として、米国特許第6300641号明細書は、前述の表面の濡れ角を減少させ、その接着強度を増加させるために、エネルギーを与えられたイオン粒子を、PVDF表面などの物品のポリマー表面に照射するプロセスを開示している。照射は、ポリマーの表面と化学的に反応する反応性ガスの存在下で実行されるため、物品の表面に化学的改質が発生する。
【0008】
他の表面処理の中で、特開平3-269024号公報は、フッ素樹脂に短波長の紫外線を照射することを含む表面改質されたフッ素樹脂を作製するための方法を開示している。前述の方法は、フィルムの形態のフッ素樹脂に適用することが好ましいが、この方法は、粉末にも適用されることができる。
【0009】
関連技術では、非水電解質二次電池の電極バインダーとしてPVDFが使用されてきた。一般的に、PVDFホモポリマーは、金属への接着性が不十分である。
【0010】
この問題に向き合うために、いくつかの解決策が提案されてきた。一例として、国際公開第2008/129041号パンフレットにおいて、(メタ)アクリルモノマーに由来する特定の繰り返し単位を含めると、PVDFポリマーの金属への接着性が改善されることが実証されている。しかしながら、使用された活物質によっては、活物質間のより高い結合特性が、依然として望まれている。
【発明の概要】
【0011】
本出願人は、金属に対する接着性が改善された電極の必要性が依然として存在すると認識した。
【0012】
本出願人は、驚くべきことに、特定のフッ化ビニリデン(VDF)ポリマーが電離放射線による低強度照射処理に供されると、前述のフルオロポリマーは、より親水性が高く、金属への接着性が大幅に向上することを特徴とするフルオロポリマーを得るように改質され、従って二次電池で使用される電極のバインダーとして適切に使用することができることを見出した。
【0013】
従って、第1の態様では、本発明は、
a)少なくとも1つの電極活物質(AM)と、
b)少なくとも1つのバインダー(B)であって、バインダー(B)は、少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]を含み、ポリマー(A)は、70kGy未満の線量で電離放射線をポリマー(F)に照射する工程を含むプロセスによって得られ、ポリマー(F)は、
(i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
(ii)任意に0.01モル%~15.0モル%の、VDFとは異なるフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、
を含み、前述のモルパーセントは、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルを指す、少なくとも1つのバインダー(B)と、
c)少なくとも1つの溶媒(S)と、
を含む電極形成組成物[組成物(C)]に関する。
【0014】
別の態様では、本発明は、電極[電極(E)]の製造プロセスにおける上記で定義された電極形成組成物(C)の使用に関し、前述のプロセスは、
(A)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供する工程と、
(B)上記で定義された電極形成組成物[組成物(C)]を提供する工程と、
(C)工程(B)で提供された組成物(C)を、工程(A)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に塗布し、これにより、少なくとも1つの表面に前述の組成物(C)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供する工程と、
(D)工程(C)で提供された組立体を乾燥する工程と、
(E)工程(D)で得られた乾燥された組立体を圧縮工程に付して、本発明の電極(E)を得る工程と、
を含む。
【0015】
更なる目的では、本発明は、本発明のプロセスによって得られることができる電極[電極(E)]に関する。
【0016】
更に別の目的では、本発明は、本発明の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
用語「フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位」(一般に二フッ化ビニリデン、1,1-ジフルオロエチレン、VDFとしても示される)とは、式CF=CHの繰り返し単位を意味することを意図する。
【0018】
ポリマー(A)は、70kGy未満の線量で電離放射線をポリマー(F)に照射する工程を含むプロセスによって得られ、ポリマー(F)は、
(i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
(ii)任意に0.01モル%~15.0モル%の、VDFとは異なるフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、
を含む。
【0019】
前述の照射プロセスにより、出発となるポリマー(F)よりも著しく高い親水性を有するポリマー(A)が得られる。
【0020】
この照射プロセスにより、VDFコポリマーの主鎖における、極性基の、主にヒドロキシル基の形成によるポリマー(F)の改質が引き起こされ、これにより、水に対して親水性が付与され、接触角が著しく低下したポリマー(A)を得ることができる。
【0021】
本発明の一実施形態では、好ましいポリマー(A)は、73°未満、好ましくは70°未満の接触角を有する。
【0022】
本発明で使用される用語「接触角」又は「水に対する接触角」は、表面に置かれた水滴の接線と水滴が存在する表面自体との間で形成される角度として定義される。
【0023】
接触角が小さくなるということは、水滴が材料表面に広く薄く広がり、これにより、水に対する表面の引き付ける特性、即ち親水性が高まることを意味する。
【0024】
粉末の形態であるポリマー(A)の接触角を測定するには、表面処理が必要である。ポリマー(A)のフィルムは、粉末の形態のポリマー(A)から出発する任意の公知のプロセス、例えば、不活性支持体、好ましくはガラス支持体にキャストすることによってポリマー(A)の組成物を適切な溶媒中で処理し、その後適切に乾燥して溶媒を除去することによって調製されることができる。次いで、基材に露出されたフィルムの側で水に対する接触角の測定を実行できる。
【0025】
より詳細には、水に対する接触角の測定は、接触角システム(Contact Angle System)OCA20(DataPhysics Instruments GmbH)装置を使用して、室温でガラス表面においてNMP溶液からキャストされたポリマーフィルムに対して適切に実行される。MilliQ水の液滴は、フィルムの調製中にガラス基材に露出したフィルム表面に自動的に堆積する。接触角は、10回の測定の平均として決定される。
【0026】
少なくとも85モル%のVDFに由来する繰り返し単位を含むポリマー(F)を使用して、優れた結果が得られている。
【0027】
ポリマー(F)は、好ましくは半結晶性ポリマーである。本明細書で使用される場合、用語「半結晶性」は、DSC分析において、ガラス転移温度Tgに加えて、少なくとも1つの結晶融点を有するフルオロポリマーを意味する。本発明の目的のために、半結晶性フルオロポリマーは、有利には、少なくとも0.4J/g、好ましくは少なくとも0.5J/g、より好ましくは少なくとも1J/gのASTM D 3418に従って決定される融解熱を有するフルオロポリマーを示すことを本明細書では意図する。
【0028】
好ましくは、25℃でジメチルホルムアミドにて測定されたポリマー(F)の固有粘度は、0.1l/g~0.80l/g、より好ましくは0.15l/g~0.45l/g、更により好ましくは0.25l/g~0.35l/gに含まれる。
【0029】
本発明のプロセスで使用されるポリマー(F)は、通常、120~200℃の範囲に含まれる溶融温度(T)を有する。
【0030】
融解温度は、示差走査熱量測定(以下ではDSCとも呼ばれる)によって得られたDSC曲線から決定され得る。DSC曲線が複数の融解ピーク(吸熱ピーク)を示す場合、融解温度(T)は、最大のピーク面積を有するピークに基づいて決定される。
【0031】
ポリマー(F)は、任意にVDFとは異なる1つ以上のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を含み得る。
【0032】
用語「フッ素化コモノマー(CF)」とは、少なくとも1つのフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを示すことを本明細書では意図する。
【0033】
適切なフッ素化コモノマー(CF)の非限定的な例には、とりわけ、以下:
(a)C~Cフルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレン、
(b)C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えば、フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン、
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン、
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-、及び/又はブロモ-、及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン
が含まれる。
【0034】
好ましい一実施形態では、ポリマー(F)は、0.1~10.0モル%、好ましくは0.3~5.0モル%、より好ましくは0.5~3.0モル%の前述のフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位を含む。
【0035】
別の好ましい実施形態では、ポリマー(F)は、フッ素化コポリマー(CF)を含まない。
【0036】
ポリマー(F)は、文献で知られている手順に従って、有機媒体中の懸濁液中、又は水性エマルジョン中で、VDFモノマー及び任意に少なくとも1つのコモノマー(CF)を重合することによって得られることができる。
【0037】
ポリマー(F)を調製するための手順は、ラジカル開始剤であるフッ化ビニリデン(VDF)、及び任意に少なくとも1つのコモノマー(CF)の存在下、任意に連鎖移動剤及び反応容器内の分散剤の存在下、水性媒体中での重合を含む。
【0038】
一般に、本発明のプロセスは、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも35℃の温度で実行される。
【0039】
重合が懸濁状態で実行される場合、ポリマー(F)は、典型的には粉末の形態でもたらされる。
【0040】
ポリマー(F)を得るための重合が乳化状態で実行される場合、ポリマー(F)は、典型的には水性分散液(D)の形態でもたらされ、乳化重合によって直接得られるように、又は濃縮工程の後に使用され得る。好ましくは、分散液(D)中のポリマー(F)の固形分は、20~50重量%に含まれる範囲にある。
【0041】
乳化重合によって得られたポリマー(F)は、分散液の濃縮及び/又は凝固によって水性分散液(D)から単離されることができ、その後の乾燥によって粉末形態で得られることができる。
【0042】
粉末の形態のポリマー(F)を任意に更に押出して、ペレットの形態のポリマー(F)を得ることができる。
【0043】
押出は、押出機において適切に実行される。押出の継続時間は、適切には数秒~3分の範囲である。
【0044】
ポリマー(F)を任意の適切な有機溶媒に溶解して、ポリマー(F)の溶液(ゾル)を得ることができる。好ましくは、溶液(ゾル)中のポリマー(F)の固形分は、2~30重量%に含まれる範囲にある。
【0045】
ポリマー(F)を溶解するのに適した有機溶媒の非限定的な例は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、及びリン酸トリメチル、脂肪族ケトン、脂環式ケトン、脂環式エステルである。これらの有機溶媒は、単独で又は2つ以上の化学種の混合物で使用され得る。
【0046】
イオン化処理に供されるポリマー(F)は、粉末の形態であることが好ましい。
【0047】
ポリマー(F)を照射する工程は、従って、α線、β線、γ線、又は電子線であり得る、任意の電離放射線を用いて実行されることができ、しかしながら、安全性及び反応性の観点から、β線、γ線、及び電子線が好ましい。
【0048】
照射は、酸素の存在下で実行される必要がある。照射は、空気中で行われることができる。
【0049】
当技術分野では、照射処理により、ポリマー鎖の鎖切断による照射されたポリマーの分子量の減少、ポリマー鎖に沿った二重結合の形成、及び酸素を含む極性基の形成が起こることが知られている(Taguet,A.,Ameduri,B.,Boutevin,B.(2005 ).Crosslinking of Vinylidene Fluoride-Containing Fluoropolymers.In:Crosslinking in Materials Science.Advances in Polymer Science,vol 184.Springer,Berlin,Heidelberg)。極性基は、ポリマー鎖の主鎖における酸素とラジカルの反応によって形成されたヒドロペルオキシドの分解によって主に生成される。その後のこれの分解によってもヒドロキシル基が形成される可能性があり、このことは、ポリマーの親水性の増加を説明している。
【0050】
酸素の存在下での照射は、前述のヒドロキシル基の形成を更に促進する可能性がある(Choi,Y.Kim,M.Preparation and characterization of polyvinylidene fluoride by irradiating electron beam.Appl.Chem.Eng.22,353-357)。
【0051】
本発明のプロセスの照射工程は、好ましくは0.1kGy~70kGy、より好ましくは1kGy~40kGy、更により好ましくは1kGy~20kGyの線量で行われる。
【0052】
本出願人は、驚くべきことに、このような柔らかい条件下でポリマー(F)を改質して親水性にすることができ、ポリマー(F)の元の主鎖構造への損傷を最小限にすることができることを見出した。これは、使用される低強度の放射線に主としてよるものである。従って、ポリマー(A)とポリマー(F)のモノマー組成は、実質的に同一である。同時に、本発明のプロセスで使用される低強度の放射線は、ポリマー鎖の主鎖における極性基の存在のため、ポリマー(A)が親水性になることを可能にする。
【0053】
本発明において、接触角の減少は、ポリマーの表面での親水基の形成を意味し、親水基の形成は、接触角の減少を意味するであろう。
【0054】
本発明の電極形成組成物(C)は、1つ以上の電気活物質(AM)を含む。本発明の目的のために、用語「電気活物質」は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にアルカリ又はアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れる又は挿入する及びそれから実質的に放出することができる化合物を示すことを意図する。電気活物質は、好ましくは、リチウムイオンを組み入れる又は挿入する、及び放出することができる。
【0055】
本発明の電極形成組成物中の電気活物質の性質は、前述の組成物が正極[電極(Ep)]の製造に使用されるか又は負極[電極(En)]の製造に使用されるかに依存する。
【0056】
リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合、電気活性化合物は、リチウム含有化合物を含み得る。
【0057】
好ましい一実施形態では、リチウム含有化合物は、式LiMQの金属カルコゲニドであり得、式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属、又はAlなどの金属及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである。これらの中でも、式LiMO(式中、Mは、上記定義と同じである)のリチウム系複合金属酸化物を用いることが好ましい。それらの好ましい例には、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNiCoAl(a+b+c=1)及びスピネル構造化LiMnが含まれ得る。
【0058】
別の実施形態では、更に、リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合、電気活性化合物は、式M(JO1-f(式中、Mは、リチウムであり、それは、M金属の20%未満を表す別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、Mは、Fe、Mn、Ni又はそれらの混合物から選択される、+2の酸化レベルでの遷移金属であり、それは、+1~+5の酸化レベルでの及びM金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属によって部分的に置換され得、JOは、JがP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである任意のオキシアニオンであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、一般に、0.75~1に含まれる、JOオキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活物質を含み得る。
【0059】
上記定義されたM(JO1-f電気活物質は、好ましくは、ホスフェート系であり、規則正しい又は改質されたかんらん石構造を有し得る。
【0060】
より好ましくは、正極を形成する場合の電気活性化合物は、式Li3-xM’M’’2-y(JO(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、これらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JOは、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換され得るPOであり、式中、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組合せのいずれかである)を有する。更により好ましくは、電気活性化合物は、式Li(FeMn1-x)PO(式中、0≦x≦1であり、ここで、xは、好ましくは、1である(即ち式LiFePOの鉄リン酸リチウムである))のホスフェート系電気活物質である。
【0061】
最も好ましい実施形態では、正極のための電気活物質は、一般式(III)
LiNiM1M2 (III)
(式中、M1及びM2は、互いに同じである又は異なり、Co、Fe、Mn、Cr及びVから選択される遷移金属であり、0.5≦x≦1であり、ここで、y+z=1-xであり、Yは、好ましくは、O及びSから選択されるカルコゲンを示す)のリチウム含有複合金属酸化物から選択される。
【0062】
この実施形態における電気活物質は、好ましくは、YがOである式(III)の化合物である。更なる好ましい実施形態では、M1はMnであり、M2はCoである又はM1はCoであり、M2はAlである。
【0063】
このような活物質の例には、LiNiMnCo(本明細書では以下、NMCと呼ぶ)、及びLiNiCoAl(本明細書では以下、NCAと呼ぶ)が含まれる。
【0064】
具体的には、LiNiMnCoに関して、マンガン、ニッケル、及びコバルトの含量比を変動させて、電池の電力及びエネルギーの性能を調整することができる。
【0065】
本発明の特に好ましい実施形態では、化合物AMは、上記定義の式(III)(式中、0.5≦x≦1、0.1≦y≦0.5、及び0≦z≦0.5である)の化合物である。
【0066】
式(III)の正極用の適切な電気活物質の非限定的な例には、とりわけ:
LiNi0.5Mn0.3Co0.2
LiNi0.6Mn0.2Co0.2
LiNi0.8Mn0.1Co0.1
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiNi0.8Co0.2
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiNi0.6Mn0.2Co0.2
LiNi0.8Mn0.1Co0.1
LiNi0.9Mn0.05Co0.05
が含まれる。
【0067】
化合物:
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiNi0.6Mn0.2Co0.2
LiNi0.8Mn0.1Co0.1
LiNi0.9Mn0.05Co0.05
が特に好ましい。
【0068】
リチウムイオン二次電池用の負極を形成する場合に、電気活性化合物は、好ましくは、1つ以上の炭素系材料及び/又は1つ以上のケイ素系材料を含み得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、炭素系材料は、天然又は人工黒鉛などの黒鉛、グラフェン、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブ(CNT)から選択することができる。
【0070】
これらの材料は、単独で又はこれらの2つ以上の混合物として使用され得る。
【0071】
炭素系材料は、好ましくは、黒鉛である。
【0072】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素、及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。より具体的には、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0073】
電気活性化合物中に存在する場合、ケイ素系化合物は、電気活性化合物の総重量に対して1~60重量%、好ましくは5~20重量%の範囲の量で含まれる。
【0074】
本発明の電極形成組成物は、少なくとも1つの溶媒(S)を含む。
【0075】
カソード形成組成物中の溶媒は、1つ以上の有機溶媒、好ましくは極性溶媒を含み、その例には:N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート及びトリメチルホスフェートが含まれ得る。これらの有機溶媒は、単独で又は2つ以上の化学種の混合物で使用され得る。
【0076】
本発明の電極形成組成物は、典型的には0.5重量%~10重量%、好ましくは0.7重量%~5重量%のポリマー(A)を含む。この組成物は又、80重量%~99重量%の電気活物質を含む。全てのパーセントは、総「固形分」の重量パーセントである。「固形分」とは、「溶媒を除いて本発明の電極形成組成物の原料全て」を意図する。
【0077】
一般に、本発明の電極形成組成物において、溶媒は、組成物の総量の10重量%~90重量%である。特にアノード形成組成物の場合、溶媒は、組成物の総量の好ましくは25重量%~75重量%、より好ましくは30重量%~60重量%である。カソード形成組成物の場合、溶媒は、組成物の総量の好ましくは5重量%~60重量%、より好ましくは15重量%~40重量%である。
【0078】
本発明の電極形成組成物は、本発明の組成物から作製された得られる電極の導電性を改善するために、1つ以上の任意の導電性剤を更に含み得る。電池用の導電剤は、当技術分野において公知である。
【0079】
それらの例には:カーボンブラック、黒鉛微粉末カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、又は繊維などの炭素質材料、或いはニッケル又はアルミニウムなどの金属の微粉末又は繊維が含まれ得る。任意の導電剤は、好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、ブランド名、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)で入手可能である。
【0080】
存在する場合、導電剤は、上記の炭素系材料とは異なる。
【0081】
任意の導電剤の量は、好ましくは、電極形成組成物中の総固形分の0~30重量%である。特に、カソード形成組成物の場合、任意の導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~10重量%、より好ましくは0重量%~5重量%である。
【0082】
シリコン系電気活性化合物を含まないアノード形成組成物の場合、任意の導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~5重量%、より好ましくは0重量%~2重量%であるが、シリコン系電気活性化合物を含むアノード形成組成物の場合、より多量の任意の導電剤、典型的には組成物内の固形分の総量の5重量%~20重量%を導入することが有益であることが判明している。
【0083】
電極の製造プロセスにおいて、本発明の電極形成組成物(C)を使用することができ、前述のプロセスは、
(A)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供する工程と、
(B)上記で定義された電極形成組成物[組成物(C)]を提供する工程と、
(C)工程(B)で提供された組成物(C)を、工程(A)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に塗布し、これにより、少なくとも1つの表面に前述の組成物(C)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供する工程と、
(D)工程(C)で提供された組立体を乾燥する工程と、
(E)工程(D)で得られた乾燥された組立体を圧縮工程に付して、本発明の電極(E)を得る工程と、を含む。
【0084】
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀などの、金属から作製された箔、メッシュ又はネットである。
【0085】
本発明のプロセスの工程(C)の下で、電極形成組成物は、典型的には、キャスティング、印刷及びロールコーティングなどの任意の適切な手順によって金属基材の少なくとも1つの表面に塗布される。
【0086】
任意に、工程(B)で提供された電極形成組成物を工程(D)で提供された組立体に塗布することによって、工程(C)を、典型的には1回以上繰り返すことができる。
【0087】
工程(D)で得られた組立体は、電極の目標多孔率及び密度を達成するために、カレンダー加工プロセスなどの圧縮工程に更に供されることができる。
【0088】
好ましくは、工程(D)で得られた組立体は、ホットプレスされ、圧縮工程中の温度は、25℃~130℃であり、好ましくは約90℃である。
【0089】
得られる電極にとって好ましい目標空隙率は、15%~40%、好ましくは20%~30%に含まれる。電極の空隙率は、電極の測定密度と理論密度との間の比の1の補数として計算され、ここで、
- 測定密度は、24mmに等しい直径及び測定された厚さを有する電極の円形部分の体積で割った質量によって与えられ、
- 電極の理論密度は、電極の構成要素の密度に電極配合物中のそれらの体積比を掛けた積の合計として計算される。
【0090】
更なる場合、本発明は、本発明のプロセスによって得られることができる電極に関する。
【0091】
従って、本発明は、
- 金属基材と、

(a)少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]であって、ポリマー(A)は、70kGy未満の線量で電離放射線をポリマー(F)に照射する工程を含むプロセスによって得られ、ポリマー(F)は、
(i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
(ii)任意に0.01モル%~15.0モル%の、VDFとは異なるフッ素化コモノマー(CF)に由来する繰り返し単位と、を含み、前述のモルパーセントは、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルを指す、少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]と、
(b)少なくとも1つの電気活物質(AM)と、
を含む組成物からなる、前述の金属基材の少なくとも1つの表面に直接接着させられた少なくとも1つの層と、
を含む電極に関する。
【0092】
本発明の電極形成組成物(C)は、電気化学デバイス用の正極の製造に特に適している。
【0093】
本出願人は、驚くべきことに、本発明の電極(E)が集電体に対するバインダーの優れた接着性を示すことを見出した。
【0094】
従って、本発明の電極(E)は、電気化学デバイスでの、特に二次電池での使用に特に適している。
【0095】
本発明の目的のために、用語「二次電池」は、再充電可能な電池を示すことを意図する。本発明の二次電池は、好ましくは、アルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。本発明の二次電池は、より好ましくは、リチウムイオン二次電池である。
【0096】
更に別の目的では、本発明は、本発明の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【0097】
本発明による電気化学デバイスは、好ましくは二次電池であり、
- 正極及び負極
を含み、
正極及び負極の少なくとも1つは、本発明の電極(E)である。
【0098】
本発明の好ましい一実施形態では、電気化学デバイスは、
- 正極及び負極
を含む二次電池であり、
負極は、本発明による電極(E)であることが提供される。
【0099】
本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって調製することができる。
【0100】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0101】
本発明は、これから以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0102】
実験の部
原材料
ポリマー(F-1):25℃におけるDMF中0.271l/gの固有粘度及び169.8℃のTfを有するVDFホモポリマー。
【0103】
ポリマーの固有粘度の決定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を使用して、ポリマーをN,N-ジメチルホルムアミドに約0.2g/dlの濃度で溶解させることによって得られた溶液の、25℃での滴下時間に基づいて次式を用いて測定された:
【数1】
式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηは、相対粘度、即ち、試料溶液の滴下時間と溶媒の滴下時間の比であり、ηspは、比粘度、即ち、η-1であり、Γは、実験係数であり、ポリマー(A)の場合は3に相当する。
【0104】
DSC分析
DSC分析は、ASTM D 3418規格に従って実行され、融点(Tf2)は、10℃/分の加熱速度で決定された。
【0105】
水に対する接触角の決定:フィルムの調製と接触角の測定。
PVDFのフィルムの調製:
1.10重量%のNMPにおけるポリマー溶液を調製する。室温で一晩磁気撹拌しながら溶解する。
2.ドクターブレード技術を介してポリマー溶液をガラス基材にキャストする。ブレードの高さは、最終的な膜厚が約40umに達するように設定される。
3.10l/分の乾燥空気流量で膜を90℃で一晩乾燥させる。
4.ガラス基材から膜を取り除く。
【0106】
水に対する接触角の測定:
水に対する接触角の測定は、フィルムの光沢のある側(膜の調製中にガラス基材に露出した側)にて室温で実行された。以下の機器を使用する:接触角システムOCA20(DataPhysics Instruments GmbH)。
溶媒:MilliQ水
測定設定:
液滴堆積:自動モード
滴下量=2ml-速度=0.5ml/秒
θM=10滴の平均
実験室温度:23℃
【0107】
NMC活物質を用いた電極の一般的な調製
96.5重量%のNMC、1.5重量%のポリマー、2重量%の導電性添加剤の最終組成を有する正極を以下のように調製した。
【0108】
第1の分散液は、6重量%のNMPにおけるポリマーの溶液34.7g、NMC133.8g、SC-65 2.8g及びNMP8.8gを遠心ミキサーにて10分間予備混合することによって調製した。次いで、混合物を、高速ディスクインペラを使用して2000rpmで50分間混合した。続いて、追加の7.2gのNMPを分散液に添加し、バタフライ型インペラを用いて1000rpmで20分間更に混合した。得られた組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ15μmのAl箔上にキャストし、コーティングされた層を真空オーブン中で90℃の温度で約50分間乾燥させることによって、正極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約110μmであった。
【0109】
アルミと電極との間の接着剥離力法
Al箔に対する乾燥したコーティング層の接着性を評価するために、規格ASTM D903に記載されている設定に従い、20℃で300mm/分の速度にて180°剥離試験を実施した。
【0110】
ポリマーA-1の調製
ポリマー(F-1)は、0.6Mradの電子ビーム(β放射線)放射線で処理された。ポリマーA-1の特性を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
ポリマーF-1及びA-1を使用して、上記の手順に従って電極を作製し、剥離接着力の結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
この結果は、驚くべきことに、ポリマーA-1をバインダーとして使用して調製した電極が、電離放射線で処理していないポリマーF-1を使用して得られたものよりも、金属箔に対してはるかに低い固有粘度でさえはるかに高い接着力を有することを示している。
【国際調査報告】