(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】再構成されていないT細胞受容体(TCR)遺伝子座を含む幹細胞及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240403BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240403BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240403BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240403BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20240403BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240403BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240403BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240403BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240403BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/545
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P37/02
A61K48/00
C12N5/0735
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564480
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 CA2022050622
(87)【国際公開番号】W WO2022221962
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523142272
【氏名又は名称】サニーブルック リサーチ インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ツニガ-プルッカー,ジュアン カルロス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB071
4C084ZB211
4C084ZB261
4C087AA01
4C087BB37
4C087BB63
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB21
4C087ZB26
(57)【要約】
T細胞受容体(TCR)またはB細胞受容体(BCR)遺伝子再構成を受けることができない幹細胞を生成する方法が提供される。具体的には、それぞれ、再構成されていないTCR遺伝子座またはBCR遺伝子座を含むT細胞系列またはB細胞系列の細胞の生成に使用するための方法、組成物及びキットを5提供する。一実施形態では、細胞は、関心の抗原に特異性を付与するTCR、bCRまたはCARを発現するように更に操作される。細胞、組成物、キット及びそれらの使用も提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)遺伝子再構成(TCR)を受けることができない幹細胞または前駆細胞を生成する方法であって、
(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養すること、を含み、
前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記方法。
【請求項2】
前記方法が、(b)T細胞系列の細胞を単離することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、RAG1及び/またはRAG2である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記幹細胞が、多能性幹細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記幹細胞または前記前駆細胞が、ヒト細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記T細胞系列の前記細胞が、前駆T(proT)細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞系列の前記細胞が、CD4+CD8+二重陽性細胞またはCD4+CD8+CD3+二重陽性細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記T細胞系列の前記細胞が、CD8+CD3+単一陽性細胞またはCD4+CD3+単一陽性細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記T細胞系列の前記細胞が、T細胞受容体(TCR)、TCRβ鎖及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作されることを更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記T細胞系列の前記細胞が、前記T細胞受容体(TCR)、前記TCRβ鎖及び前記キメラ抗原受容体(CAR)のうちの前記少なくとも1つを発現する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
TCRβ鎖をコードする核酸を含むように、前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記T細胞系列の前記細胞を操作することを更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記T細胞系列の前記細胞が、CARをコードする核酸を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記TCRまたはCARが、抗原、任意選択的に、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、または自己抗原に特異性を付与する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法によって生成される、T細胞系列の細胞。
【請求項17】
前記T細胞系列の前記細胞が、CD4+CD8+二重陽性細胞またはCD4+CD8+CD3+二重陽性細胞である、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
前記細胞が、CD45+CD34+CD7+前駆T細胞、CD8+CD3+単一陽性細胞、またはCD4+CD3+単一陽性細胞である、請求項16に記載の細胞。
【請求項19】
幹細胞または前駆細胞であって、前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記幹細胞または前記前駆細胞。
【請求項20】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、RAG1及び/またはRAG2である、請求項19に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項21】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される、請求項20に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項22】
T細胞受容体(TCR)、TCRβ鎖及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項23】
TCRβ鎖をコードする核酸を更に含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項24】
前記幹細胞が、多能性幹細胞である、請求項19~23のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項25】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項24に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項26】
前記幹細胞または前記前駆細胞が、ヒト細胞である、請求項19~25のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞。
【請求項27】
T細胞系列の細胞を生成するための、請求項19~26のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞の使用。
【請求項28】
(i)請求項19~27のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞と、(ii)前記T細胞系列の細胞を生成するための、請求項19~27のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞の使用説明書と、を含む、キット。
【請求項29】
対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記培養することと、
(ii)有効量の前記細胞または前駆細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
前記幹細胞または前記前駆細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作される、前記方法。
【請求項30】
対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養し、前記T細胞系列の細胞を単離することであって、前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記培養し、単離することと、
(ii)有効量の前記T細胞系列の前記細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記T細胞系列の前記細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作される、前記方法。
【請求項31】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、RAG1及び/またはRAG2である、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される、請求項29または30に記載の方法。
【請求項33】
前記疾患が、がんであり、前記抗原が、腫瘍関連抗原である、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
T細胞受容体(BCR)遺伝子再構成を受けることができない幹細胞または前駆細胞を生成する方法であって、
(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養すること、を含み、
前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記方法を提供する。
【請求項35】
前記方法が、(b)前記B細胞系列の細胞を単離することを更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、RAG1及び/またはRAG2である、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項38】
前記幹細胞が、多能性幹細胞である、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記幹細胞または前記前駆細胞が、ヒト細胞である、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記B細胞系列の前記細胞が、CD20+またはCD19+細胞である、請求項34~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記B細胞系列の前記細胞が、腫瘍浸潤性B細胞(TIB)である、請求項34~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記B細胞系列の前記細胞が、B細胞受容体(BCR)、キメラ抗原受容体(CAR)またはBCRβ鎖をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作されることを更に含む、請求項34~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記B細胞系列の前記細胞が、前記B細胞受容体(BCR)、キメラ抗原受容体(CAR)またはBCRβ鎖を発現する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記BCRまたはCARが、抗原、任意選択的に、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原または自己抗原に特異性を付与する、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞が、請求項35~45のいずれか一項に記載の方法によって生成される、前記B細胞系列の細胞。
【請求項47】
前記B細胞系列の前記細胞が、CD20+またはCD19+細胞である、請求項46に記載の細胞。
【請求項48】
前記B細胞系列の前記細胞が、腫瘍浸潤性B細胞(TIB)である、請求項46に記載の細胞。
【請求項49】
前記B細胞系列の細胞を生成するための、請求項19~21のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞の使用。
【請求項50】
(i)請求項19~21のいずれか一項に記載の幹細胞または前駆細胞と、(ii)前記B細胞系列の細胞を生成するための、請求項19~21のいずれか一項に記載の前記幹細胞または前記前駆細胞の使用説明書と、を含む、キット。
【請求項51】
対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記培養することと、
(ii)有効量の前記幹細胞または前記前駆細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
前記幹細胞または前記前駆細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする最小1つの核酸を含むように操作される、前記方法。
【請求項52】
対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養し、前記B細胞系列の細胞を単離することであって、前記幹細胞または前記前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、前記培養し、単離することと、
(ii)有効量の前記B細胞系列の前記細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
前記幹細胞もしくは前駆細胞、または前記B細胞系列の前記細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする最小1つの核酸を含むように操作される、前記方法。
【請求項53】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、RAG1及び/またはRAG2である、請求項51または52に記載の方法。
【請求項54】
V(D)J組換えに必要な前記少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質が、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される、請求項51または52に記載の方法。
【請求項55】
前記疾患が、がんであり、前記抗原が、腫瘍関連抗原である、請求項51~54のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月23日に出願された米国仮出願第63/178,990号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、T細胞受容体(TCR)またはB細胞受容体(BCR)遺伝子再構成を受けることができない幹細胞に関する。具体的には、本出願は、それぞれ、再構成されていないTCR遺伝子座またはBCR遺伝子座を含むT細胞系列またはB細胞系列の細胞の生成に使用するための方法、組成物、及びキットに関する。
【背景技術】
【0003】
抗原を特異的に認識するT細胞の能力は、TCRα鎖及びTCRβ鎖の独特に再構成されたゲノム遺伝子座によってコードされる特異的T細胞受容体の発現によって達成される。T細胞の発達は、抗原特異的受容体をコードするT細胞受容体(TCR)遺伝子座の再構成の成功に基づいている。
【0004】
V(D)J組換え活性化遺伝子(RAG)1及び2は、B細胞受容体及びT細胞受容体遺伝子座の再構成に必要な2つの必須DNAプロセシング酵素である(Schatz at al.,1989;Oettinger et al,1990)。RAG1/2は、最初に、各V、D、及びJ遺伝子セグメントに隣接して見出される組換えシグナル配列(RSS)を認識して結合する複合体を形成することによって、V(D)J組換えを開始する。別のRSSとのシナプスの形成時に、RAG複合体は、二本鎖DNA切断を誘導し、これは、非相同末端結合プロセスによって修復される(Jones and Gellert,2004;Smith et al,2019)。これは、最終的に、数百のV(D)Jセグメントから数百万の異なる抗原受容体を潜在的に生成するために、異なるV、D、及びJ遺伝子セグメントの不完全な結合をもたらす。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、RAG2遺伝子のCRISPR/Cas9指向性欠失(RAG2-KO)を用いてヒト多能性幹細胞を分化させ、ヒトRAG2欠損発達T細胞がCD4+CD8+二重陽性段階まで進行することを示した。本発明者らはまた、再構成されたTCRβ鎖の発現が、二重陽性段階での発達ヒトT細胞の細胞生存及び/または増殖を促進することを示した。
【0006】
したがって、本開示は、T細胞受容体(TCR)遺伝子再構成(TCR)を受けることができない幹細胞または前駆細胞を生成する方法であって、
(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することを含み、
幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、方法を提供する。
【0007】
一実施形態では、方法は、(b)T細胞系列の細胞を単離することを更に含む。
【0008】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、RAG1及び/またはRAG2である。
【0009】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される。
【0010】
別の実施形態では、幹細胞は、多能性幹細胞である。任意選択的に、多能性幹細胞は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0011】
別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、ヒト細胞である。
【0012】
別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、前駆T(proT)細胞、任意選択的に、CD45+CD34+CD7+前駆T(proT)細胞である。
【0013】
別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、CD4+CD8+二重陽性細胞またはCD4+CD8+CD3+二重陽性細胞である。
【0014】
別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、CD8+CD3+単一陽性細胞またはCD4+CD3+単一陽性細胞である。
【0015】
別の実施形態では、方法は、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞が、T細胞受容体(TCR)、TCRβ鎖及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作されることを更に含む。
【0016】
別の実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、T細胞受容体(TCR)、TCRβ鎖及びキメラ抗原受容体(CAR)のうちの少なくとも1つを発現する。
【0017】
別の実施形態では、方法は、TCRβ鎖をコードする核酸を含むように、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞を操作することを更に含む。更なる実施形態では、TCRβ鎖をコードする核酸を含む幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、TCRβ鎖またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含まない。
【0018】
別の実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、TCRβ鎖を発現する。
【0019】
別の実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、TCRβ鎖をコードする核酸及びCARをコードする核酸を含む。
【0020】
別の実施形態では、TCRまたはCARは、抗原、任意選択的に、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原または自己抗原に特異性を付与する。
【0021】
本開示はまた、T細胞系列の細胞を提供し、細胞は、本明細書に記載の方法によって生成される。
【0022】
一実施形態では、T細胞系列の細胞は、CD4+CD8+二重陽性細胞またはCD4+CD8+CD3+二重陽性細胞である。
【0023】
別の実施形態では、細胞は、CD45+CD34+CD7+前駆T細胞、CD8+CD3+単一陽性細胞、またはCD4+CD3+単一陽性細胞である。
【0024】
本開示はまた、幹細胞または前駆細胞であって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、幹細胞または前駆細胞を提供する。
【0025】
一実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、RAG1及び/またはRAG2である。
【0026】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される。
【0027】
別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、T細胞受容体(TCR)、TCRβ鎖及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを更に含む。
【0028】
別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、TCRβ鎖をコードする核酸を更に含む。更なる実施形態では、TCRβ鎖をコードする核酸を含む幹細胞もしくは前駆細胞は、TCRβ鎖またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含まない。
【0029】
別の実施形態では、幹細胞は、多能性幹細胞、任意選択的に、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0030】
別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、ヒト細胞である。
【0031】
本開示はまた、T細胞系列の細胞を生成するための、本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞の使用を提供する。
【0032】
本開示はまた、(i)本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞と、(ii)T細胞系列の細胞を生成するための、本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞の使用説明書と、を含む、キットを提供する。
【0033】
本開示は、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養することと、
(ii)治療を必要とする対象に、有効量の細胞または前駆細胞を投与することと、を含み、
幹細胞または前駆細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作される、方法を更に提供する。
【0034】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養し、T細胞系列の細胞を単離することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養して単離することと、
(ii)有効量のT細胞系列の細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作される、方法を提供する。
【0035】
一実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、RAG1及び/またはRAG2である。
【0036】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される。
【0037】
別の実施形態では、疾患は、がんであり、抗原は、腫瘍関連抗原である。
【0038】
本開示はまた、T細胞受容体(BCR)遺伝子再構成を受けることができない幹細胞または前駆細胞を生成する方法であって、
(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することを含み、
幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、方法を提供する。
【0039】
一実施形態では、方法は、(b)B細胞系列の細胞を単離することを更に含む。
【0040】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、RAG1及び/またはRAG2である。
【0041】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される。
【0042】
別の実施形態では、幹細胞は、多能性幹細胞、任意選択的に、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0043】
別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、ヒト細胞である。
【0044】
別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、CD20+またはCD19+細胞である。
【0045】
別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、腫瘍浸潤性B細胞(TIB)である。
【0046】
別の実施形態では、方法は、幹細胞もしくは前駆細胞、またはB細胞系列の細胞が、B細胞受容体(BCR)、BCRβ鎖及びキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作されることを更に含む。
【0047】
別の実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞、またはB細胞系列の細胞は、B細胞受容体(BCR)、BCRβ鎖またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。
【0048】
別の実施形態では、BCRまたはCARは、抗原、任意選択的に、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原または自己抗原に特異性を付与する。
【0049】
本開示はまた、B細胞系列の細胞を提供し、細胞は、本明細書に記載の方法によって生成される。
【0050】
一実施形態では、B細胞系列の細胞は、CD20+またはCD19+細胞である。
【0051】
別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、腫瘍浸潤性B細胞(TIB)である。
【0052】
本開示はまた、B細胞系列の細胞を生成するための、本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞の使用を提供する。
【0053】
本開示はまた、(i)本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞と、(ii)B細胞系列の細胞を生成するための、本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞の使用説明書と、を含む、キットを提供する。
【0054】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養することと、
(ii)有効量の幹細胞または前駆細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
幹細胞または前駆細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)をコードする核酸を含むように操作される、方法を提供する。
【0055】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養し、B細胞系列の細胞を単離することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養し、単離することと、
(ii)有効量のB細胞系列の細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
幹細胞もしくは前駆細胞、またはB細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)をコードする核酸を含むように操作される、方法を提供する。
【0056】
一実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、RAG1及び/またはRAG2である。
【0057】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質は、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμからなる群から選択される。
【0058】
別の実施形態では、疾患は、がんであり、抗原は、腫瘍関連抗原である。
【0059】
本出願の他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかになる。しかしながら、発明を実施するための形態及び特定の実施例は、本出願の好ましい実施形態を示すが、本出願の趣旨及び範囲内の様々な変更及び修正が、この発明を実施するための形態から当業者には明らかになるため、単に例示としてのみ与えられることを理解されたい。
【0060】
ここで、本開示の実施形態を、以下の図面と関連して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】RAG2-KO hESC系統の作製及び特徴付けを示す。Aは、クローン1及び4のCRISPR/Cas9標的化RAG2のゲノムDNAのSanger配列決定を示す。変更された対立遺伝子は、クロマトグラフ及びその上の配列に示されているが、改変された対立遺伝子及びWT対立遺伝子のアラインメントは下に示されている。Bは、RAG2-KOクローン(1及び4)及び対照WT hESCからのインビトロ由来T系列細胞、またはT-ALL患者から得られた対照PBMCのRAG2タンパク質発現のための免疫ブロットを示す。GAPDHは、負荷対照の役割を果たす。Cは、多能性マーカーのためのRAG2-KO hESCクローンの免疫蛍光を示す。スケールバーは100μmに対応する。Dは、奇形腫形成アッセイの外胚葉(神経組織)、中胚葉(軟骨)及び内胚葉(腺組織)系列に対するRAG2-KO hESCクローンの免疫組織化学を示す。Eは、対照WT、RAG2-KO-1及びRAG2-KO-4 hESCからの胚様体分化の8日後のCD34
+造血性内皮細胞の収率及び富化を示す。(n=3つの独立した実験のうちの3つ)。
【
図2】対照WT及びRAG2-KO hESC系統からのT細胞の発達を示す。Aは、示されるように、d8 EB+10-34d OP9-DL4-7FS共培養物からの対照WT及びRAG2-KO(クローン1及び4)hPSC由来T系列細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。細胞をDAPI
-CD45
+について予めゲートした。(n=5つの独立した実験のうちの5つ)。Bは、OP9-DL4-7FSでの示される培養日数後のCD34
+細胞の10,000入力当たりの対照WT及びRAG2-KO(クローン1及び4)hPSC由来T系列細胞の細胞数を示す。(n=3つの独立した実験のうちの3つ)。
【
図3】(A~B)RAG2-KO CD4
+CD8
+ DP細胞における再構成されたTCRβ鎖の強制発現が細胞拡大をもたらすことを示す。Aは、実験アプローチの概略図を示す。Bは、CD34
+細胞の10,000入力当たりの空ベクター(dTomato)、TCRアルファ鎖(TRA 1383i)またはTCRベータ鎖(TRB 1383i)でレトロウイルスで形質導入されたRAG2-KO DP(クローン1及び4)の細胞計数を示す。形質導入T系列細胞(dTomato
+)を、最初にCD7
+CD5
+CD4
+CD8
+二重陽性細胞について選別した後、OP9-DL4-7FS上で10日間再培養した。(n=3つの独立した実験のうちの3つ)。
【
図4】(A~B)TCR遺伝子発現及びCD4
+CD8
+シグネチャー遺伝子発現を示す。Aは、対照WT DPにおいて発現されるが、RAG2-KO1/4 DP及びTCRβ形質導入RAG2-KO1/4 DPには存在しない特定のTCR遺伝子のヒートマップ分析を示す。Bは、RAG2-KO、TCRβ形質導入RAG2-KO及び臍帯血(UCB)由来DPにおけるCD4
+CD8
+シグネチャー遺伝子の発現(表3に示される胸腺DPシグネチャー遺伝子によって決定される)を示す。(対照WT、RAG2-KO-1、RAG2-KO-4及びUCBについてはn=2、1つの独立した実験のTCRβ形質導入されたRAG2-KO-1及びTCRβ形質導入されたRAG2-KO-4についてはn=1)。
【
図5】対照WT、RAG2-KO及びRAG2-KO TCRβ形質導入CD4
+CD8
+ DP細胞のトランスクリプトーム分析を示す。対照WT、RAG2-KO1/4及びTCRβ
+ RAG2-KO1/4 CD4
+CD8
+ DPのRNA-seq分析。RAG2-KO1/4 DPと比較して対照WT DPにおいて差次的に高発現される遺伝子(A)及び対照WT DPと比較してRAG2-KO1/4 DPにおいて差次的に高発現される遺伝子(B)を示す。(対照WT、RAG2-KO-1及びRAG2-KO-4についてはn=2、1つの独立した実験のTCRβ形質導入されたRAG2-KO-1及びTCRβ形質導入されたRAG2-KO-4についてはn=1)。
【
図6】増殖及び分化遺伝子、ならびに生物学的経路の分析を示す。Aは、RAG2-KO1/4(KO)及びTCRβ形質導入RAG2-KO1/4(KOTCRb)細胞からのDPにおける差次的発現遺伝子のヒートマップ分析である。Bは、RAG2-KO DPと比較して、対照WT DPにおいて差次的に上方制御される遺伝子を伴う遺伝子オントロジー生物学的経路の名前を示す。細胞の生存及び/または増殖に関連する生物学的経路が強調されている。白血球調節の特定の態様に関与する生物学的経路の群内で、関与する特定の遺伝子も示される。
【
図7】RAG2-KO CD4
+CD8
+ DPにおけるTCRαβ及びTCRγδ鎖の強制発現を示す。Aは、TCRαβ及びTCRγδ形質導入DPが、dTomato形質導入DPと比較して、培養の4及び10日後により高い細胞数を示したことを示す。左から右に、dTomato、TCRαβ-及びTCRγδである。
図7Bは、T系列細胞の細胞表面上の対応するαβ及びγδ TCRのそれぞれの発現を示す、TCR形質導入RAG2-KO DP細胞のフローサイトメトリー分析である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
上述のように、本発明者らは、RAG2遺伝子のCRISPR/Cas9指向性欠失(RAG2-KO)を用いてヒト多能性幹細胞を分化させ、ヒトRAG2欠損発達T細胞がCD4+CD8+段階まで進行することを示した。本発明者らはまた、RAG2-KO CD4+CD8+二重陽性細胞が、TCRαβ及びTCRγδ鎖を発現するように操作され得ること、ならびに再構成されたTCRβ鎖の発現が、二重陽性段階での発達ヒトT細胞の細胞生存及び/または増殖を促進することを示した。
【0063】
I.細胞を生成するための方法
したがって、本開示は、T細胞受容体(TCR)遺伝子再構成を受けることができない幹細胞または前駆細胞を生成する方法であって、
(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することを含み、
幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、方法を提供する。一実施形態では、方法は、(b)T細胞系列の細胞を単離することを更に含む。
【0064】
本開示はまた、再構成されていないT細胞受容体(TCR)遺伝子座を含むT細胞系列の細胞を生成する方法であって、(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養することを含む、方法を提供する。
【0065】
「T細胞系列の細胞」という用語は、細胞を他のリンパ系細胞と区別するT細胞またはその前駆体もしくは前駆細胞の少なくとも1つの表現型の特徴を示す細胞、ならびに赤血球系列または骨髄系列の細胞を指す。そのような表現型の特徴は、細胞またはその前駆体もしくは前駆細胞上でのT系列コミットメントに特異的な1つ以上のタンパク質の発現、またはT細胞に特異的な生理学的、形態学的、機能的、もしくは免疫学的特徴を含むことができる。
【0066】
一実施形態では、T細胞系列の細胞は、ヒト細胞である。
【0067】
本明細書で使用される場合、「細胞(a cell)」または「細胞(the cell)」という用語は、複数の細胞を含む。
【0068】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、細胞が、それらの天然環境で細胞とともに見出される細胞または生物学的材料から分離または精製されたことを意味する。したがって、細胞をその細胞の自然界での有様と区別する。
【0069】
本開示はまた、B細胞受容体(BCR)遺伝子再構成を受けることができない幹細胞または前駆細胞を生成する方法であって、
(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することを含み、
幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、方法を提供する。一実施形態では、方法は、(b)B細胞系列の細胞を単離することを更に含む。
【0070】
本開示は、再構成されていないB細胞受容体(BCR)遺伝子座を含むB細胞系列の細胞を生成する方法であって、(a)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することと、(b)B細胞系列の細胞を単離することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、単離することと、を含む、方法を更に提供する。
【0071】
「B細胞系列の細胞」という用語は、細胞を他のリンパ系細胞と区別するB細胞またはその前駆体もしくは前駆細胞の少なくとも1つの表現型の特徴を示す細胞、ならびに赤血球系列または骨髄系列の細胞を指す。そのような表現型の特徴は、細胞またはその前駆体もしくは前駆細胞上でのB系列に特異的な1つ以上のタンパク質の発現、またはB細胞に特異的な生理学的、形態学的、機能的、もしくは免疫学的特徴を含むことができる。別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、CD20+またはCD19+細胞である。別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、腫瘍浸潤性B細胞(TIB)である。
【0072】
一実施形態では、B細胞系列の細胞は、ヒト細胞である。
【0073】
T細胞系列の細胞は、(a)T細胞系列に特化した前駆細胞または前駆体細胞(本明細書に記載される「前駆T細胞」または「proT細胞」)、(b)CD7+未成熟T細胞、(c)CD4またはCD8系列コミットメントを受けた細胞(例えば、CD4+CD8loTCRint細胞)、(d)TCR遺伝子再構成を特徴とする細胞、(e)CD4+CD8+二重陽性(DP)である前駆体胸腺細胞、(f)CD4-CD8+もしくはCD4+CD8-及び任意選択的にTCRhi、(g)CD3+CD90+、(h)CD4-CD8+もしくはCD4+CD8-及びTCRhiである単一陽性(SP)細胞、(i)TCR-αβ+及び/またはTCR-γδ+、(j)複数のVβ鎖のうちのいずれかの発現を特徴とする細胞(例えば、Vβ-3、-6及び17a)、または(k)TCR/CD3hi、CD4-CD8+もしくはCD4+CD8-を特徴とし得る成熟及び機能的もしくは活性化T細胞であり得る。
【0074】
一実施形態では、T細胞系列の細胞は、「前駆T細胞」または「proT細胞」である。本明細書で使用される場合、「前駆T細胞」または「proT細胞」という用語は、成熟T細胞またはリンパ球に成熟することができるT細胞を意味する。一実施形態では、プロT細胞は、CD45+CD34+CD7+proT細胞である。
【0075】
別の実施形態では、前駆T細胞は、ヒト前駆T細胞である。ヒト前駆T細胞の表現型としては、CD34+CD7+及びCD7+CD5+CD1a-が挙げられる。
【0076】
本発明者らは、ヒトRAG2欠損発達T細胞がCD4+CD8+二重陽性段階まで進行することを示した。したがって、別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、CD4+CD8+またはCD4+CD8+CD3+表現型を特徴とするCD4及びCD8二重陽性(DP)細胞である。
【0077】
別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、CD4-CD8+、CD4+CD8-またはCD4-CD8+CD3+、CD4+CD8-CD3+表現型を特徴とするCD4またはCD8単一陽性(SP)細胞である。
【0078】
本明細書で使用される場合、「再構成されていないT細胞受容体(TCR)遺伝子座」とは、再構成を受けておらず、生殖系列配置に残っているTCR遺伝子座を指す。同様に、「再構成されていないB細胞受容体(BCR)遺伝子座」とは、再構成を受けておらず、生殖系列配置に残っているBCR遺伝子座を指す。
【0079】
TCR遺伝子座は、アルファ(α)鎖及びベータ(β)鎖(それぞれ、例えば、遺伝子TRA及びTRBによってコードされる)、またはガンマ及びデルタ(γ/δ)鎖(それぞれ、例えば、遺伝子TRG及びTRDによってコードされる)を含むことができる。当業者には理解されるように、T細胞の発達中、TCR遺伝子座をコードする遺伝子のセグメントの再構成は、抗原特異的受容体をコードするように生じる。
【0080】
本明細書で使用される場合、「V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質」という用語は、B-またはT細胞受容体(BCRまたはTCR)遺伝子座の正しい再構成に必要なタンパク質の遺伝子を指す。一実施形態では、V(D)Jの組換えに必要な遺伝子またはタンパク質は、RAG1またはRAG2またはTdTなどのリンパ球特異的遺伝子である。
【0081】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質は、DNA修復のための非相同末端結合(NHEJ)経路のメンバーである。
【0082】
別の実施形態では、V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質は、Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1、CernunnosまたはXRCC4様因子(XLF)としても知られる)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、またはDNAポリメラーゼλ及びμである。
【0083】
上記のように、一実施形態では、V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質は、RAG1またはRAG2である。V(D)J組換え活性化遺伝子(RAG)1及び2は、B細胞受容体及びT細胞受容体(BCRまたはTCR)遺伝子座の再構成に必要な2つの必須DNAプロセシング酵素をコードする(Schatz at al.,1989;Oettinger et al,1990)。上述のように、本発明者らは、RAG2遺伝子のCRISPR/Cas9指向性欠失(RAG2-KO)を用いてヒト多能性幹細胞を分化させ、ヒトRAG2欠損発達T細胞がCD4+CD8+段階まで進行することを示した。
【0084】
したがって、本明細書に開示される方法では、T細胞系列またはB細胞系列の細胞は、幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することによって生成され得、幹細胞または前駆細胞におけるRAG1及び/またはRAG2の発現及び/または機能は、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される。
【0085】
本明細書で使用される場合、RAG1は、RAG1遺伝子によってコードされるV(D)J組換え活性化タンパク質(RAG)1を指す。「RAG1」という用語は、任意の種または供給源からのRAG1を含む。この用語はまた、RAG1タンパク質及び遺伝子の既知の公開された配列のうちのいずれかから改変された配列を含む。RAG1またはRAG1遺伝子は、GenBankなどの公的な供給源から得ることができるRAG1の既知の公開された配列のうちのいずれかを有し得る。一実施形態では、RAG1は、ヒトRAG1である。RAG1のヒトアミノ酸配列の例としては、GenBank受託番号AAQ13571.1が挙げられる。RAG1のヒト核酸配列の例としては、GenBank番号NM_001377277.1(遺伝子ID:5896)が挙げられる。前述の配列は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
RAG2は、RAG2遺伝子によってコードされるV(D)J組換え活性化タンパク質(RAG)2を指す。「RAG2」という用語は、任意の種または供給源からのRAG2を含む。この用語はまた、RAG2タンパク質及びRAG2遺伝子の既知の公開された配列のうちのいずれかから改変された配列を含む。RAG2またはRAG2遺伝子は、GenBankなどの公的な供給源から得ることができるRAG2の既知の公開された配列のうちのいずれかを有し得る。一実施形態では、RAG2は、ヒトRAG2である。RAG2のヒトアミノ酸配列の例としては、GenBank受託番号AAH22397.1が挙げられる。RAG2のヒト核酸配列の例としては、GenBank受託番号NM_000536.4(遺伝子ID:5897)が挙げられる。前述の配列は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
本明細書で使用される場合、「RAG1発現」という用語は、RAG1タンパク質発現及びRAG1遺伝子発現の両方を含む。同様に、「RAG2発現」という用語は、RAG2タンパク質発現及びRAG2遺伝子発現の両方を含む。
【0088】
本明細書で使用される場合、「RAG1機能」及び「RAG2機能」という用語は、それぞれ、RAG1及びRAG2の生物学的活性を指す。例えば、RAG1及び/またはRAG2酵素の生物学的活性を欠く細胞は、B細胞受容体及びT細胞受容体(BCRまたはTCR)遺伝子座の再構成を受けることができない。
【0089】
V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質の内因性発現及び/または機能(例えば、RAG1及び/またはRAG2の内因性発現及び/または機能)は、当該技術分野で既知のいくつかの方法のうちのいずれかを使用して低減または排除することができる。
【0090】
V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質の発現及び/または機能の低減または排除は、対応する遺伝子配列の欠失の変異によって達成され得る。RAG1またはRAG2の発現及び/または機能の低減または排除は、例えば、RAG1またはRAG2遺伝子配列の変異または欠失によって達成することができる。例えば、RAG1またはRAG2遺伝子配列は、例えば、遺伝子編集方法を使用して、多能性幹細胞のゲノムから変異または欠失され得る。したがって、例えば、RNA/DNA誘導型エンドヌクレアーゼ(例えば、クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)/Cas9、Cpf1、及びArgonaute)、転写活性化因子様エフェクター(TALE)-ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはメガヌクレアーゼを用いるアプローチを、本開示の実施形態で使用するために適応させることができる。様々な例では、挿入または欠失は、遺伝子編集によって行われ、フレームシフト変異を引き起こし、遺伝子ノックアウト(すなわち、機能的遺伝子産物の発現の欠如)をもたらす。
【0091】
RAG2の関連において本発明で使用されるプロトコルの具体例としては、RAG2を標的とするGFP、Cas9エンドヌクレアーゼ、CRISPRキメラcDNA及びgRNA部分のカセットを含有する発現ベクターのトランスフェクションが挙げられる。
【0092】
別の実施形態では、RAG1及び/またはRAG2阻害剤は、内因性RAG1及び/またはRAG2の発現及び/または機能を低減するために使用される。「阻害剤」という用語は、その標的の発現または活性を低減、減少、またはさもなければ遮断する薬剤を指し、標的の発現または活性を阻害することができる任意の物質を含み、小分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド分子(アンチセンス核酸分子)、siRNAまたはshRNA、アプタマー、タンパク質、抗体(及びその断片)、遺伝子編集剤、及び標的発現または活性に向けられた他の物質を含むが、これらに限定されない。
【0093】
内因性RAG1及び/またはRAG2の発現及び/または機能は、一時的または恒久的に(例えば、遺伝子変異または欠失を生殖系列に導入することによって)低減させることができる。
【0094】
本明細書で使用される場合、「野生型」という用語は、V(D)J組換えに必要な遺伝子またはタンパク質の正常な(非改変)内因性発現レベルを有する細胞を指す。一実施形態では、「野生型」という用語は、RAG1及び/またはRAG2遺伝子またはタンパク質の正常な(非改変)内因性発現レベルを有する細胞を指す。野生型細胞は、任意選択的に、幹細胞または前駆細胞である。
【0095】
本開示の一実施形態では、内因性RAG1発現及び/または機能は、野生型細胞と比較して、少なくとも5%、10%、25%、50%、75%または100%低減される。別の実施形態では、細胞は、検出可能な内因性RAG1発現及び/または機能を有さない。
【0096】
別の実施形態では、内因性RAG2発現及び/または機能は、野生型細胞と比較して、少なくとも5%、10%、25%、50%、75%または100%低減される。別の実施形態では、細胞は、検出可能な内因性RAG2発現及び/または機能を有さない。
【0097】
一実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、多能性幹細胞である。本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」という用語は、胚外組織を含まないヒトまたは動物の体の全ての細胞型に分化する可能性を有する任意の幹細胞を指す。これらの幹細胞には、胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性細胞(iPSC)の両方が含まれる。したがって、本発明の方法に好適な細胞は、iPSC及びESCから選択される幹細胞を含む。一実施形態では、多能性幹細胞は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)であり、それらは、ヒトiPSC(hiPSC)及びヒトESC(hESC)を含む。
【0098】
本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞」または「ESC」という用語は、発達胚の生殖系列に組み込み、その一部となる能力を有する未分化胚性幹細胞を指す。
【0099】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」または「iPSC」という用語は、胚様多能性状態に戻して再プログラムされた皮膚または血液細胞などの体細胞に由来する細胞を指す。一実施形態では、iPSCは、既知または未知のTCR特異性を有するT細胞(例えば、がんに対する特異性を有するTCRを有するT細胞)に由来する。
【0100】
一実施形態では、幹細胞または前駆細胞は造血幹細胞または造血前駆細胞(HSPC)である。別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、CD34+造血前駆体細胞、任意選択で、ESCもしくはiPSCから分化したCD34+造血内皮前駆体細胞、またはESCもしくは多能性幹細胞(PSC)から分化したCD34+前造血(pre-hematopoietic)細胞である。CD34+細胞を得るための様々な分化プロトコルは当該技術分野において既知である。治療用途のために、T細胞系列の細胞を生成するために使用される幹細胞または前駆細胞は、治療される患者から得ることができる。
【0101】
幹細胞または前駆細胞は、臍帯血、胚、胚組織、胎児組織、骨髄及び血液を含むがこれらに限定されない任意の好適な供給源から得てもよい。
【0102】
典型的には、幹細胞または前駆細胞を含有する試料は、最初に非幹細胞または成熟細胞を枯渇させる。当該技術分野で既知の負及び正の選択方法は、幹細胞または前駆細胞の富化に使用され得る。例えば、細胞は、蛍光活性化細胞選別機、またはある特定の細胞表面抗原と細胞を結合する磁気ビーズを使用して、細胞表面抗原に基づいて選別することができる。負の選択カラムを使用して、系列特異的表面抗原を発現する細胞を除去することができる。
【0103】
実施形態では、幹細胞または前駆細胞を含有する試料は、系列陰性(Lin-)及び系列位置(Lin+)分画に分離される。Lin-分画は、CD34+細胞について選別することができる。
【0104】
前駆細胞または幹細胞は、T細胞系列またはB細胞系列の細胞を生成するために、好適な条件下で培養され得る。T細胞系列またはB細胞系列の細胞を生成するための前駆細胞または幹細胞を培養する方法は、当該技術分野で既知である。
【0105】
例えば、本明細書に記載されるように、ヒト多能性幹細胞を胚様体として分化させるように誘導することができ、次いで、CD34+細胞を磁気補助細胞選別によって単離し、OP9-DL4細胞と共培養して、T細胞への分化を誘導することができる。そのようなプロトコルは、Kennedy et al.2012に記載されている。
【0106】
一実施形態では、細胞を、懸濁液支持体にコンジュゲートされた1つ以上のノッチリガンドの存在下で、T細胞系列の細胞を形成するのに十分な時間培養する。
【0107】
前駆細胞または幹細胞は、プレート上またはバイオリアクター、任意選択的に閉鎖型のバイオリアクターまたは閉鎖型の自動バイオリアクター内の懸濁液中で培養され得る。様々なバイオリアクターが当該技術分野で既知であり、バッチバイオリアクター、流加バイオリアクター、または連続バイオリアクターを含み得る。連続バイオリアクターの例は、連続攪拌タンク反応器モデルである。
【0108】
培養物中の様々な濃度の前駆細胞または幹細胞が企図される。例えば、培養物中の前駆細胞または幹細胞の濃度は、培地1ml当たり1~数百万個の間の細胞であり得る。
【0109】
T細胞系列またはB細胞系列の細胞のコミットメント及び分化を促進する1つ以上の陽性サイトカインも、培養物に添加され得る。サイトカインは、ヒト起源であり得るか、または他の種に由来し得る。培養物中のサイトカインの濃度は、典型的には約1~10ng/mlである。以下は、T細胞系列の細胞のコミットメント及び分化を促進するために本出願で用いられ得るサイトカインの代表的な例である: Flt-3-リガンドの全てのメンバー、ならびにインターロイキン-7(IL-7)及び幹細胞因子。一実施形態では、本明細書で使用されるサイトカインは、Flt-3リガンド及びIL-7、ならびに幹細胞因子である。サイトカインは、等モル量以上のヘパリン硫酸などのグリコサミノグリカンと併用され得る。サイトカインは、市販されているか、または組換えDNA技法によって産生され、様々な程度に精製され得る。サイトカインのいくつかは、標準的な生化学的技法によって細胞株の培養培地から精製され得る。
【0110】
懸濁液支持体に任意選択的にコンジュゲートされた1つ以上の追加の分子も、培養物に添加され得る。一実施形態では、追加の分子は、本明細書で「T細胞共刺激分子」とも称される、T細胞発達を促進する(例えば、T細胞系列の細胞のコミットメント及び分化を促進する)分子である。一例において、本発明者らは、HSPCで培養されたマイクロビーズコンジュゲートDL4及びVCAM1が、T細胞系列への分化を加速することを示した。したがって、一実施形態では、T細胞共刺激分子は、VCAM1である。本明細書で使用される場合、「VCAM1」という用語は、血管細胞接着分子1(VCAM1)または分化クラスター106(CD106)としても知られる血管細胞接着タンパク質1を指し、ヒトでは、VCAM1遺伝子によってコードされるタンパク質である。「VCAM1」という用語はまた、VCAM1の変異体またはバリアントを含む。別の実施形態では、T細胞共刺激分子は、サイトカインまたはケモカイン(幹細胞因子、IL-7、CCL25またはCXCR4)、主要組織適合複合体(MHC)クラスIもしくはクラスII、または共刺激(CD80、CD86)分子である。任意選択的に、T細胞共刺激分子は、少なくとも1つのタンパク質タグを含む。様々なタンパク質タグが当該技術分野で既知であり、いくつかの目的に使用され得る。一実施形態では、T細胞共刺激分子は、Fcタグ(Fc融合タンパク質としても知られる)を含む。
【0111】
前駆細胞及び幹細胞は、条件培地、非条件培地または胚性幹細胞培地を含む培養培地中で培養され得る。好適な条件培地の例としては、胚性線維芽細胞(例えば、ヒト胚性線維芽細胞またはマウス胚性線維芽細胞)で条件付けされたIMDM、DMEMもしくはαMEM、または同等の培地が挙げられる。好適な非条件培地の例としては、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、DMEMもしくはαMEM、または同等の培地が挙げられる。培養培地は、血清(例えば、ウシ血清、ウシ胎仔血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清または人工血清代替物)を含み得るか、または無血清であり得る。
【0112】
一実施形態では、培養条件は、調製物中の細胞がproT細胞を形成するように、前駆細胞または幹細胞を十分な期間培養することを伴う。別の実施形態では、培養条件は、調製物中の細胞が成熟T細胞、例えば、成熟SP T細胞を形成するように、前駆細胞または幹細胞を十分な期間培養することを伴う。細胞は、所望の細胞組成物を達成するために必要な適切な時間維持され得ることを理解されたい。任意選択的に、前駆細胞または幹細胞は、少なくとも6、8、10、12、14、21、28、35または42日間培養される。
【0113】
一実施形態では、方法は、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含むように細胞を操作することを更に含む。別の実施形態では、方法は、T細胞受容体ベータ鎖(TCRβ)をコードする核酸を含むように細胞を操作することを更に含む。
【0114】
細胞は、分化プロセス中の任意の時点で、TCR、CAR及び/またはTCRβをコードする核酸を含むように操作され得る。例えば、一実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、TCR、CAR及び/またはTCRβをコードする核酸を含む。別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、TCR、CAR及び/またはTCRβをコードする核酸を含む。更なる実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞及び/またはT細胞系列の細胞は、TCR、CAR及び/またはTCRβを発現する。
【0115】
一実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、TCRβのみをコードする核酸を含む。言い換えれば、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、TCRβをコードする核酸を含み、TCRまたはCARをコードする核酸を含まない。
【0116】
別の実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列の細胞は、TCRβをコードする核酸及びCARをコードする核酸を含む。そのような実施形態では、TCRβは分化を指示する一方で、CARは治療有効性を提供することができる。
【0117】
別の実施形態では、方法は、B細胞受容体(BCR)、B細胞受容体ベータ鎖(BCRβ)及び/またはCARを発現するように、B細胞系列の細胞を操作することを更に含む。細胞は、分化プロセス中の任意の時点で、BCR、BCRβ及び/またはCARをコードする核酸を含むように操作され得る。例えば、一実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、BCR、BCRβ及び/またCARをコードする核酸を含む。別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、BCR、BCRβ及び/またはCARをコードする核酸を含む。更なる実施形態では、幹細胞もしくは前駆細胞及び/またはB細胞系列の細胞は、BCR、BCRβ及び/またはCARを発現する。
【0118】
細胞は、TCR、TCRβ、CAR、BCRまたはBCRβをコードする核酸を含むように、当該技術分野で既知の任意の方法によって操作され得る。例えば、細胞は、TCR、TCRβ、CAR、BCRまたはBCRβを担持するウイルスまたは非ウイルスベクターで形質転換され得る。ウイルスベクターの例としては、限定されないが、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスが挙げられる。非ウイルスベクターの例としては、限定されないが、ヌードDNA、ミニサークルDNAベクター、リポソーム、重合体及び分子コンジュゲートが挙げられる。
【0119】
TCR、BCRまたはCARは、任意選択的に、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原または自己抗原などの抗原に特異性を付与する。
【0120】
「腫瘍関連抗原」は、腫瘍細胞によって産生される抗原である。腫瘍関連抗原の例としては、限定されないが、アルファフェトプロテイン(AFP)、アルシノ胚性抗原(CEA)、CA-125、MUC-1、上皮腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、黒色腫関連抗原(MAGE)、WT1及びNYESO1が挙げられる。
【0121】
「ウイルス抗原」は、ウイルスゲノムによってコードされる抗原である。ウイルス抗原の例として、限定されないが、EBV、CMV、HIV及びSARSウイルス抗原が挙げられる。
【0122】
「自己抗原」は、対象によって産生される抗原である。自己抗原は、腫瘍関連抗原であり得る。自己抗原に特異性を付与するTCRまたはCARを発現するT細胞は、例えば、自己反応性T細胞を遮断する調節性T細胞を作製するために使用することができる。
【0123】
II.多能性幹細胞
本明細書に記載されるように、本発明者らは、RAG2欠損(RAG2-KO)ヒト多能性幹細胞(hPSC)株を生成した。
【0124】
したがって、本開示はまた、単離された幹細胞または前駆細胞であって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質、任意選択的に、RAG1及び/またはRAG2の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、単離された幹細胞または前駆細胞を提供する。任意選択的に、幹細胞または前駆細胞は、ヒト細胞である。
【0125】
一実施形態では、幹細胞は、多能性幹細胞である。
【0126】
別の実施形態では、多能性幹細胞は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0127】
RAG1またはRAG2の発現及び/または機能の低減または排除は、当該技術分野で既知のいくつかの方法のうちのいずれか1つによって達成することができる。
【0128】
一実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、変異または欠失したRAG1及び/またはRAG2遺伝子配列を含む。例えば、RAG1及び/またはRAG2遺伝子配列における挿入または欠失は、フレームシフト変異を引き起こし、遺伝子ノックアウト(すなわち、機能的遺伝子産物の発現の欠如)をもたらし得る。
【0129】
本開示の一実施形態では、内因性RAG1発現及び/または機能は、野生型細胞と比較して、幹細胞または前駆細胞において、少なくとも5%、10%、25%、50%、75%または100%低減される。別の実施形態では、細胞は、検出可能な内因性RAG1発現及び/または機能を有さない。
【0130】
別の実施形態では、内因性RAG2発現及び/または機能は、野生型細胞と比較して、幹細胞または前駆細胞において、少なくとも5%、10%、25%、50%、75%または100%低減される。別の実施形態では、細胞は、検出可能な内因性RAG2発現及び/または機能を有さない。
【0131】
加えて、一実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、TCR、CAR、TCRβ、BCRまたはBCRβをコードする核酸を更に含む。別の実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、TCR、CAR、TCRβ、BCRまたはBCRβを発現する。
【0132】
更なる実施形態では、幹細胞または前駆細胞は、TCRβをコードする核酸を含み、TCRまたはCARをコードする核酸を含まない。
【0133】
IV.T細胞またはB細胞系列の細胞
本開示は、本明細書に記載の方法、システム及びキットによって生成されるT細胞系列もしくはB細胞系列の細胞、または細胞の子孫である有糸分裂細胞もしくは分化細胞を更に提供する。
【0134】
一実施形態では、本開示は、本明細書に記載の方法によって生成される「前駆T細胞」または「proT細胞」を提供する。別の実施形態では、前駆T細胞は、ヒト前駆T細胞、例えば、CD34+CD7+、CD7+CD5+CD1a-またはCD45+CD34+CD7+を特徴とするヒト前駆T細胞である。
【0135】
本開示はまた、CD4+CD8+またはCD4+CD8+CD3+を特徴とする二重陽性(DP)T細胞を提供する。本開示は、CD4-CD8+、CD4+CD8-またはCD8+CD3+、CD4+CD3+を特徴とする単一陽性(SP)細胞である、T細胞系列の細胞を更に提供する。
【0136】
一実施形態では、T細胞系列の細胞は、TCR、CARまたはTCRβをコードする核酸を更に含む。別の実施形態では、T細胞系列の細胞は、TCR、CARまたはTCRβを発現する。
【0137】
更なる実施形態では、T細胞系列の細胞は、TCRβをコードする核酸を含み、TCRまたはCARをコードする核酸を含まない。
【0138】
別の実施形態では、本明細書に記載の方法によって生成されるT細胞系列の細胞(例えば、前駆T細胞または成熟T細胞)は、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)で操作される。
【0139】
抗原は、任意選択的に、腫瘍関連抗原(TAA)、ウイルス抗原または自己抗原である。TAAに特異性を付与するためにTCRまたはCARを発現するように操作されたT細胞は、がんなどの状態を治療するために有用であり得る。
【0140】
同様に、別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、CAR、TCRβ、BCRまたはBCRβをコードする核酸を更に含む。別の実施形態では、B細胞系列の細胞は、CAR、BCRまたはBCRβを発現する。
【0141】
別の実施形態では、本明細書に記載の方法によって生成されるB細胞系列の細胞は、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)で操作される。
【0142】
抗原は、任意選択的に、腫瘍関連抗原(TAA)、ウイルス抗原または自己抗原である。TAAに特異性を付与するためにBCRまたはCARを発現するように操作されたT細胞は、がんなどの状態を治療するために有用であり得る。
【0143】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載の方法によって生成される、単離された幹細胞もしくは前駆細胞、またはT細胞系列もしくはB細胞系列の細胞と、薬学的に許容される希釈剤または担体とを含む、薬学的組成物を提供する。
【0144】
好適な希釈剤及び担体は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。これに基づいて、組成物は、排他的ではないが、1つ以上の薬学的に許容されるビヒクルまたは希釈剤と関連付けられたproT細胞の溶液を含み、好適なpHを有し生理学的流体と等張の緩衝溶液に含有される。
【0145】
薬学的組成物としては、限定されないが、凍結乾燥粉末、または水性もしくは非水性の滅菌注射液または懸濁液が挙げられ、これらは、抗酸化物質、緩衝液、静菌剤、及び意図されたレシピエントの組織または血液との実質的な適合性を組成物に付与する溶質を更に含有し得る。そのような組成物中に存在し得る他の構成要素としては、例えば、水、界面活性剤(Tween(商標)など)、アルコール、ポリオール、グリセリン及び植物油が挙げられる。即時注射溶液及び懸濁液は、滅菌粉末、顆粒、錠剤、または濃縮溶液もしくは懸濁液から調製され得る。組成物は、例えば、限定するものではないが、患者に投与する前に滅菌水または生理食塩水で再構成される凍結乾燥粉末として供給されてもよい。
【0146】
薬学的組成物はまた、凍結保存溶液を含む。一実施形態では、本明細書に記載の方法によって生成されるT細胞系列の細胞は、適切な培地、例えば、薬学的に許容される培地またはGMPグレードの培地中で凍結保存され、それを必要とする対象への投与のために任意選択的に製剤化される。
【0147】
好適な薬学的に許容される担体としては、薬学的組成物の生物学的活性の有効性を妨げない、本質的に化学的に不活性で非毒性の組成物が挙げられる。好適な薬学的担体の例としては、限定されないが、水、生理食塩水、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレシルホスホチジル-エタノールアミン(DOPE)、及びリポソームが挙げられる。そのような組成物は、患者に直接投与するための形態を提供するための好適な量の担体とともに、治療有効量の化合物を含有しなければならない。
【0148】
組成物は、例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼球内、脳室内、嚢内、脊髄内、大槽内、腹腔内、鼻腔内、エアロゾルまたは経口投与により投与することができる。非経口投与の場合、本明細書に記載のpro-T細胞の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と好適に混合した水で調製することができる。分散液はまた、アルコールの有無にかかわらず、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、DMSO及びそれらの混合物中で、ならびに油中で調製することができる。これらの調製物は、通常の保存条件及び使用条件下で、微生物の発育を阻止するための保存剤を含有する。当業者は、好適な製剤を調製する方法を知っているであろう。
【0149】
好ましくは、T細胞系列またはB細胞系列の細胞は、病状の治療を必要とする対象においてそれを行うのに有効な量で存在する。一実施形態では、T細胞系列の細胞は、造血前駆細胞の生着の増強を必要とする対象においてそれを行うのに有効な量で存在する。任意選択的に、組成物は、T細胞系列の細胞、または移植のための組織を更に含む。一実施形態では、組織は、胸腺を含む。別の実施形態では、組織は、器官を含む。
【0150】
III.キット
本明細書に記載される幹細胞または前駆細胞は、T細胞系列の細胞またはB細胞系列の細胞の生成に使用するために調製され、キットにパッケージ化されてもよい。
【0151】
したがって、幹細胞または前駆細胞を含むT細胞系列の細胞またはB細胞系列の細胞を産生するためのキットも本明細書に提供され、幹細胞または前駆細胞におけるRAG1及び/またはRAG2の発現は、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される。
【0152】
一実施形態では、キットは、T細胞系列の細胞またはB細胞系列の細胞を産生するための幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養するための培養培地を更に含む。培養培地の例としては、条件培地、非条件培地または胚性幹細胞培地が挙げられる。培養培地は、血清(例えば、ウシ血清、ウシ胎仔血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清または人工血清代替物)を含み得るか、または無血清であり得る。
【0153】
別の実施形態では、キットは、1つ以上の追加の分子を更に含む。一実施形態では、追加の分子は、本明細書で「T細胞共刺激分子」とも称される、T細胞発達を促進する(例えば、T細胞系列の細胞のコミットメント及び分化を促進する)分子である。別の実施形態では、T細胞共刺激分子は、VCAM1である。
【0154】
培地は、任意選択的に、T細胞系列の細胞またはB細胞系列の細胞のコミットメント及び分化を促進する1つ以上のサイトカインを含む。サイトカインは、ヒト起源であり得るか、または他の種に由来し得る。培養物中のサイトカインの濃度は、典型的には約1~10ng/mlである。以下は、本出願で用いられ得るサイトカインの代表的な例である: Flt-3-リガンドの全てのメンバー、ならびにインターロイキン-7(IL-7)及び幹細胞因子。一実施形態では、本明細書で使用されるサイトカインは、Flt-3リガンド及びIL-7、ならびに幹細胞因子である。サイトカインは、等モル量以上のヘパリン硫酸などのグリコサミノグリカンと併用され得る。サイトカインは、市販されているか、または組換えDNA技法によって産生され、様々な程度に精製され得る。サイトカインのいくつかは、標準的な生化学的技法によって細胞株の培養培地から精製され得る。
【0155】
一実施形態では、キットは、本明細書内に記載される試薬のための1つ以上の容器を含む。
【0156】
様々な実施形態では、試薬(複数可)の使用におけるガイダンスを提供する印刷された説明書もまた、キットに含まれてもよい。「説明書」または「使用説明書」という用語は、典型的には、細胞、培養期間、温度、培地条件などを説明する有形の表現を含む。例えば、一実施形態では、説明書は、幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することを含む方法を記載する。
【0157】
V.治療用途
特定の抗原を認識するように操作されたT細胞及びB細胞は、幅広い治療用途を有する。
【0158】
したがって、本開示は、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養することと、
(ii)有効量の細胞または前駆細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
【0159】
幹細胞または前駆細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)またはB細胞受容体(BCR)をコードする核酸のうちの少なくとも1つを含むように操作される、方法を提供する。
【0160】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養することであって、幹細胞または前駆細胞におけるRAG1及び/またはRAG2の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養することと、
(ii)有効量のT細胞系列の細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
T細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するようにT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)で操作される、方法を提供する。
【0161】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療するための本明細書に記載の方法によって生成されるT細胞系列の細胞の使用であって、T細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)で操作される、使用を提供する。本開示は、対象における疾患または状態を治療するための薬剤の調製のための、本明細書に記載の方法によって生成されるT細胞系列の細胞の使用であって、T細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)で操作される、使用を更に提供する。
【0162】
本開示はまた、対象における疾患または状態の治療に使用するための、本明細書に記載の方法によって生成されるT細胞系列の細胞であって、T細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)で操作される、T細胞系列の細胞を提供する。
【0163】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療する方法であって、
(i)幹細胞または前駆細胞を含む試料を培養し、B細胞系列の細胞を単離することであって、幹細胞または前駆細胞におけるV(D)J組換えに必要な少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質の発現が、野生型幹細胞または前駆細胞と比較して低減または排除される、培養し、単離することと、
(ii)有効量のB細胞系列の細胞を、それを必要とする対象に投与することと、を含み、
【0164】
B細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するように少なくとも1つのB細胞受容体(TCR)で操作される、方法を提供する。
【0165】
本開示はまた、対象における疾患または状態を治療するための本明細書に記載の方法によって生成されるB細胞系列の細胞の使用であって、B細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)またはCARで操作される、使用を提供する。本開示は、対象における疾患または状態を治療するための薬剤の調製のための、本明細書に記載の方法によって生成されるB細胞系列の細胞の使用であって、B細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)またはCARで操作される、使用を更に提供する。
【0166】
本開示はまた、対象における疾患または状態の治療に使用するための、本明細書に記載の方法によって生成されるB細胞系列の細胞であって、B細胞系列の細胞が、抗原に特異性を付与するB細胞受容体(BCR)またはCARで操作される、B細胞系列の細胞を提供する。
【0167】
抗原は、任意選択的に、腫瘍関連抗原(TAA)、ウイルス抗原または自己抗原である。一実施形態では、抗原はTAAであり、疾患はがんである。
【0168】
本明細書で使用される場合、「有効量」または「治療有効量」という語句は、所望の結果を達成するために必要な投薬量及び期間で有効な量を意味する。有効量は、対象の病状、年齢、性別、体重などの要因によって変化し得る。そのような量に対応する所与の細胞調製物の量は、様々な要因に応じて変化する。例えば、医薬製剤、投与経路、疾患または障害の種類、治療される対象または宿主の同一性などであるが、それにもかかわらず、当業者によって日常的に決定することができる。「有効量」は、T細胞系列の細胞が治療される対象に生着するのに有効な量であることが好ましい。
【0169】
本明細書で使用される場合、及び当該技術分野でよく理解されるように、「治療する」または「治療」という用語は、臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有益なまたは所望の臨床結果としては、検出可能または検出不能にかかわらず、限定されないが、1つ以上の症状または状態の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の安定した(すなわち、悪化しない)状態、疾患の拡大の予防、疾患の進行の遅延または減速、病状の改善または緩和、疾患の再発の減少、及び寛解(部分的もしくは完全のいずれか)が挙げられる。「治療する」及び「治療」は、治療を受けていない場合に予想される生存と比較して、生存を延長することも意味する。本明細書で使用される場合、「治療すること」及び「治療」には、予防的治療も含まれる。
【0170】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、動物界の任意のメンバーを意味し、好ましくはヒトである。
【0171】
以下の非限定的な例は、本出願の例示である。
【実施例】
【0172】
実施例1
材料及び方法:
hESCの維持。ヒトESC(H1;WiCell Research Institute,Madison,WI)を維持し、TeSR-E8培地(STEMCELL Technologies,Vancouver,Canada)中のMatrigel(Corning,NY,USA)でコーティングしたプレート上で拡大した。細胞を、0.5mMのEDTAを使用して非酵素解離により継代した。
【0173】
RAG2-KO hESCの生成。GFP、Cas9エンドヌクレアーゼ、CRISPRキメラcDNA、及びRAG2[GGTTATGCTTTACATCCAGA(配列番号1)]を標的にするように設計されたgRNA部分のカセットを含有するpD1321-GFP発現ベクターを、カスタム合成した(DNA2.0)。Lipofectamine 3000(Life Technologies,Carlsbad,CA)によるトランスフェクション後、フローサイトメトリーを使用してGFP+ hESCを選別した。個々のクローンを採取し、拡大し、ゲノムDNAキット(Invitrogen)を使用してゲノムDNAの精製のためにアリコートを収集した。変異(インデル)を、標的部位に隣接する領域のPCR増幅の生成物を配列決定することによって検証した。RAG2 KOクローン1は、一方の対立遺伝子において1bpの欠失を示し、他方の対立遺伝子において16bpの欠失を示し、一方、クローン4は、一方の対立遺伝子において11bpの欠失を示し、他方の対立遺伝子において23bpの欠失を示した。
【0174】
ウエスタンブロット分析。簡潔に、細胞溶解物を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含有する溶解緩衝液(50mMのTris-HCl、pH7.5、150mMのNaCl、0.5%のNP-40、2mMのEDTA)中で、20分間4℃で細胞をインキュベートし、続いて14000×gで、15分間4℃で遠心分離することによって調製した。タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、PVDF膜(Millipore,Louis,MO)上に移し、抗RAG2抗体(Abcam-Ab95955;1:1000希釈)で、一晩4℃でプローブし、続いて二次抗体でインキュベートした。使用した抗RAG2抗体は、gRNA標的部位をはるかに超えているヒトRAG2(Abcam)のアミノ酸271~519に対応する組換え断片に対して作製されたウサギポリクローナルであった。ウエスタンブロッティングルミノール試薬(Thermo)を使用して、免疫反応性バンドを視覚化した。T-ALL患者からのPBMCを陽性対照として使用した(Bories et al,1991)。
【0175】
免疫染色。細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、PBS中5%のNGS(Abcam,Cambridge,USA)及び1%のTriton X-100(Sigma-Aldrich,Louis,MO)で30分間透過処理及び遮断を行った。細胞を染色し、前述のように分析した(Li et al,2017)。
【0176】
奇形腫の形成。全ての動物研究は、Ethics Committee of Experimental Research of Peking Universityによって承認され、International Animal Care and Use Committee Guidelinesに従った。6~8週齢の非肥満性糖尿病(NOD)/SCIDマウスに、50%のMatrigelを含むDMED-F12に再懸濁した1×107のhESCを皮下に注射して、8週間の奇形腫の形成を可能にした。組織学的分析は、以前に記載されたように実施した(Li et al,2017)。
【0177】
hPSCの分化及びCD34+単離。hPSC、H1胚性幹細胞(ESC)を、前述のように分化させた(Kennedy et al,2012)。8日間の分化後、胚様体を採取し、前述のようにコラゲナーゼIV型及びトリプシン- EDTAを使用して単一細胞に解離させ(Kennedy et al,2012)、抗CD34 PEコンジュゲート抗体(BD Biosciences)及び抗PEマイクロビーズを含むMACSカラム(Miltenyi Biotec)を使用して正に選択した。正の選択の細胞収率及び純度を、フローサイトメトリーにより、MAC前及びMAC後に評価した。
【0178】
OP9-DL4-7FS共培養及び分化。hIL-7、hFLT3-L及びhSCF(7FS)を発現するOP9-DL4細胞を生成し、10~20%のFBS(Gibco)、1%のPen-Strep(Life Technologies)及びホスホ-アスコルビン酸(Sigma-Aldrich)を含有するα-MEM中で、37℃、5%のCO2で成長させた。共培養の場合、OP9-DL4-7FS細胞を、前日に6ウェルプレートにプレーティングした。MACS精製CD34+細胞を計数し、6ウェルプレート当たり5~20×104細胞の密度で播種し、37℃、5%のCO2で、OP9培地中でOP9-DL4-7FS細胞と共培養することによって分化させ、細胞を継代し、約5日ごとに新鮮なOP9-DL4-7FS細胞と共培養した。
【0179】
レトロウイルス形質導入。空ベクターdTomato、TCRα-dTomatoまたはTCRβ-dTomatoを安定的に発現するPG13細胞株を、70%のコンフルエンスに成長させ、その時点で培地を15%のFBS及び1%のPen-Strepを含むα-MEMに切り替えて、上清を48時間条件付けした後、OP9-DL4-7FS/T細胞培養物を形質導入した。OP9-DL4-7FS/T細胞培養物のD8+24において、1日1回、1μl/mlのポリブレンを用いて対応するPG13上清を形質導入し、2000xgで90分間、室温で4日間遠心分離した(2mlの上清当たり2~3×106の細胞)。細胞を3日間静置し、次いで、dTomato+CD7+CD5+CD4+CD8+ DPとして選別した。選別した細胞を、最大10日間、OP9-DL4-7FS共培養物中に配置した。
【0180】
フローサイトメトリー。細胞を、以下のマウス抗ヒト抗体で、氷上で30分間染色した:CD3-BrilliantViolet421、CD4-AlexaFluor700、CD8β-PE、CD31-FITC、CD34-PE、CD45RA-PE/CF594、TCRgd-FITC(BD Biosciences)、CD5-PE/Cy7、CD7-AlexaFluor700、CD45-APC/eFluor780、TCRab-APC(eBiosciences)、CD8α-PE/Dazzle、CD38-BrilliantViolet421(BioLegend)。細胞を、DAPIを含有するフローサイトメトリー緩衝液に再懸濁し、LSR Fortessaフローサイトメーター(BD Biosciences)を使用してデータを収集し、FlowJoバージョン9.7.6を使用して分析した。細胞内染色のために、製造業者の指示に従って、GolgiPlug(商標)(BD Biosciences)を用いた固定/透過処理キットを使用して、細胞を固定及び透過処理した。
【0181】
対照及びRAG2-KOインビトロ由来CD4+CD8+細胞のRNA-Seq分析。共培養の24~28日目に細胞を収集し、CD45、CD7(eBioscience)、CD5、CD4、CD8(BD Biosciences)、DAPIに対する蛍光色素標識抗体で染色し、FACSVantage DivaまたはFACSAria細胞選別機(BD Biosciences)を使用して、CD4+CD8+集団に選別した。TRIzolを使用して、選別された細胞集団から全RNAを抽出した。精製RNAを、Illumina Novaseq 6000を使用してRNA配列決定に供した。Illumina TruSeq Strandard Total RNA Sample Preparationキットを使用して、ライブラリ調製を行った。100サイクル対合読み取りプロトコル及び多重化を使用して、配列決定を行い、約4000万の読み取り/試料を得た。試料を、HISAT2を使用してGRCh38に整列させた。読み取り計数は、HTSeqを使用して計算した。RプラットフォームでedgeRパッケージを使用して、差次的遺伝子発現分析を行った。
【0182】
統計分析。データ及びエラーバーは、平均±平均の標準誤差として提示される。統計的有意性を決定するために、Prismバージョン6を使用して一元配置ANOVA(3つの平均を比較)を行った。統計的有意性は、*P<0.05及び**P<0.01として決定した。
【0183】
データの可用性。生の及び処理されたRNA-Seqデータは、Gene Expression Omnibusから、受入番号GSE164276(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?acc=GSE164276)で入手可能である。
【0184】
結果と考察
RAG2-KO hPSC株の生成及び特徴付け。ヒトT細胞発達におけるRAG2の役割を評価するために、CRISPR-Cas9遺伝子編集を使用して、RAG2遺伝子のエクソン3を標的化した(
図1A)。hPSCを、RAG2標的化ガイドRNA、Cas9酵素及び緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクトしたGFP
+hPSCを単一細胞選別し、培養した。個々のクローンを拡大した後、二対立遺伝子変異(KO-1及びKO-4)を含有する固有の挿入-欠失を含有する2つのクローンを同定した(
図1A)。タンパク質発現に対するRAG2変異の影響を評価するために、ウエスタンブロット分析を行い、KO-1及び-4由来T系列細胞の両方で検出可能なRAG2タンパク質が存在しないことを確認した(
図1B)。
【0185】
RAG2-KO hPSCが多能性を維持したかどうかを評価するために、主要マーカーの発現及び奇形腫の形成を評価した。免疫蛍光染色は、RAG2-KO hPSCがOCT4、NANOG、SOX2及びSSEA-4を発現したことを示した(
図1C)。多能性を機能的に試験するために、RAG2-KO hPSCを免疫不全マウスに注射し、組織学的分析により、3つの生殖層全てを有するRAG2-KO奇形腫の形成が明らかになり(
図1D)、RAG2-KO hPSCが多能性の主要な特徴を保持していることが示された。造血前駆細胞を生成するためのRAG2-KO hESCの能力を決定するために、8日間の胚様体分化培養後にCD34発現を分析した(Kennedy et al,2012)。対照WT、RAG2-KO-1及び-4 hPSCは、同様の頻度の血液内皮CD34
+細胞を生じ、これは、磁気支援細胞選別(MACS)によって更に富化され得る(
図1E)。
【0186】
RAG2-KO hPSCからのT細胞発達。CD34
+造血内皮細胞をMACS富化し、OP9-DL4細胞、発現ヒトIL-7、FLT3リガンド及び幹細胞因子(7FS)とともに培養して、T細胞分化を誘導した。10日間の培養後、対照WT、RAG2-KO-1及び-4細胞は、CD7及びCD5の両方の発現によって示されるように、T細胞系列に沿って進行した(
図2A)。3つの群は全て、15日目までにCD4
+中間単一陽性(ISP)段階に達し、20日目までに細胞内CD3発現を示した(
図2A)。24日間の培養後、対照WT、RAG2-KO-1及び-4群からの細胞の大部分は、CD7
+CD5
+であった(
図2A)。注目すべきことに、29~34日間の培養により、対照WT、RAG2-KO-1及び-4細胞は全て、CD4
+CD8
+ DP段階に達した(
図2A)。しかしながら、予想通り、対照WT細胞のみが細胞内TCRβ発現及び細胞表面CD3/TCRβ発現を示した(
図2A)。これらの結果は、RAG2欠損ヒトT細胞前駆細胞が、CD4
+CD8
+ DP段階まで分化し得ることを示す。
【0187】
細胞の生存及び拡大を決定するために、対照WT、RAG2-KO-1及び-4発達T細胞から総細胞充実度を定量化した。20日間の培養後、3つの試料は全て、類似した細胞数を示した(
図2B)。しかしながら、40日間の培養後、対照WT系列細胞は、RAG2-KO-1及び-4 T系列細胞とは対照的に、その生存及び拡大を更に増加させ、この時点までに約10倍の細胞充実度を有する(
図2B)。
【0188】
RAG2-KO CD4
+CD8
+ DPにおけるTCRβ鎖の強制発現。RAG2-KO hPSC由来CD34
+細胞をOP9-DL4-7FS細胞上で24日間培養し、DP細胞を、空ベクター(dTomato)、再構成TCRα鎖(TRA 1383i)または再構成TCRβ鎖(TRB 1383i)でレトロウイルス形質導入した(
図3A)。形質導入RAG-KO細胞を、CD7
+CD5
+CD4
+CD8
+ DP細胞について選別し、更に10日間、OP9-DL4-7FS細胞上に戻して、細胞生存及び拡大について評価した(
図3A)。dTomato-及びTCRα形質導入DPの両方が、10日間の培養後に同様の細胞数を示した(
図3B)。しかしながら、TCRβ形質導入DPは、dTomato及びTCRα形質導入DPと比較して、10日間の培養後に顕著に高い細胞数を示した(
図3B)。理論に拘束されることなく、これは、TCRα鎖とは対照的に、再構成されたTCRβ鎖の発現が、DP段階で発達ヒトT細胞の細胞生存及び/または拡大を促進することを示唆する。
【0189】
対照WT、RAG2-KO及びRAG2-KO TCRβ形質導入CD4
+CD8
+ DP細胞のトランスクリプトーム分析。対照WT、RAG2-KO対照形質導入及びRAG2-KO TCRβ形質導入DP細胞を、RNA配列決定(RNA-Seq)分析のために選別した。形質導入に使用される1383i TCRβ及びいくつかのTCRα遺伝子を含むいくつかのTCR遺伝子を明らかに除いて、対照WT DP細胞は、RAG2-KO対照形質導入及びRAG-KO TCRβ形質導入DP細胞には存在しなかった、大きなTCRα、TCRβ、TCRγ及びTCRδ遺伝子のセットを発現し、マウスに見られるように、β選択シグナルによって誘導された生殖系列転写物の結果である可能性が高い(Villey et al,1997)(表1及び
図4A)。更に、RAG2-KO対照及びTCRβ形質導入DP細胞からの遺伝子の発現を、DP関連シグネチャー遺伝子のセットについて、臍帯血(UCB)造血幹細胞由来DP細胞の発現と比較した(Casero et al,2015)(表1)。この分析は、TCRβ形質導入RAG2-KO DP細胞が、マウスにおけるβ選択後に誘導される、RORCを含むUCB由来DP細胞に存在した一連の遺伝子の発現を獲得したことを明らかにした(He 2000)(
図4B)。
【0190】
差次的発現遺伝子分析を行って、RAG2-KO(KO-1及びKO-4)DP細胞と比較して、対照WTにおいて上方制御された遺伝子及びその逆を決定した。RAG2-KO-1及びRAG2-KO-4の両方と比較して、対照WTで顕著に上方制御された遺伝子には、CCDC152、GPR183、IL32及びMALが含まれる(表1及び
図5A)。RAG2-KO-1または-4と比較して、対照WTで顕著に上方制御された遺伝子(p<0.05)には、それぞれ、ADAMTS17、IL1RL1、PLXNA2及びTEAD1、またはCTSW、IKBKG、IL21R及びIL4Rが含まれた(表1及び
図5A)。注目すべきことに、これらの遺伝子(TEAD1、IKBKG及びIL32など)の多くは、TCRβ形質導入RAG2-KO DP細胞においても、対照WT DP細胞に類似して高発現であった(
図5A)。興味深いことに、遺伝子のサブセット(MALなど)の発現は、TCRβ鎖の強制発現によって救済されなかった(
図5A)。対照WTと比較して、RAG2-KO-1及びRAG2-KO-4の両方で顕著に上方制御された遺伝子には、HBG1、HBG2、LOC100240735及びLOC339975が含まれる(表1及び
図5B)。対照WTと比較して、RAG2-KO-1または-4で顕著に上方制御された遺伝子には、それぞれ、CCDC8、CPA4、EPHA4及びID1、またはANKRD1、CMTM8、MET及びRHOUが含まれる(表1及び
図5B)。注目すべきことに、これらの遺伝子(ID1、RHOU及びHBG1など)の多くは、TCRβ形質導入RAG2-KO DP細胞においても、対照WT DP細胞に類似して低発現を示した(
図5B)。興味深いことに、遺伝子のサブセット(LOC100240735など)の発現は、TCRβ鎖の強制発現によって低減されなかった(
図5B)。系統樹分析は、TCRβ形質導入RAG2-KO DP細胞が、対照形質導入RAG2-KO DP細胞よりも対照WT DP細胞に類似していたことを再び示した(
図5)。
【0191】
マウスβ選択に関与することが知られている細胞周期調節因子、生存及び分化遺伝子の分析(Lefebvre et al,2005、Klein et al,2019、Sicinska et al,2003)は、RAG2-KO DPにおけるTCRβ発現後にも調節されるRORC、CD27、ERG及びCCDN3などの一連の遺伝子を明らかにした(
図6A)。RAG2-KO DP細胞と比較して、対照WTで上方制御された遺伝子を伴う生物学的経路を決定するための遺伝子オントロジー分析は、「内因性アポトーシスシグナル伝達経路の負の調節」に関与する遺伝子プログラムを明らかにした(
図6B)。更に、白血球調節に関連する遺伝子セット経路には、「リンパ球活性化の正の調節」及び「リンパ球増殖の調節」に関与する遺伝子が含まれた(
図6B)。したがって、これらのデータは、発達ヒトT細胞におけるRAG2依存性TCRβ発現が、それらの生存及び/または増殖を支持する更なる証拠を提供する。
[発明の概要]
【0192】
RAG2-KO hPSCを生成して、ヒトT細胞発達中のTCRβの役割を評価した。DP胸腺細胞の完全な欠如を示すRag1欠損マウスまたはRag2欠損マウスで見られる効果とは対照的に、発達ヒトT細胞は、RAG2発現の不在下でCD4+CD8+ DP段階に達することができた。マウスにおけるRAG1/2の欠如は、RAG1/2媒介TCRβ再構成がDN3からCD44-CD25- DN4及びDP段階への移行を制御することが十分に文書化されているため、CD44-CD25+ DN3段階で決定的な遮断をもたらす(von Boehmer et al,1999、Michie and Zuniga-Pflucker,2002)。しかしながら、ヒトT細胞発達中のRAG1/2発現またはTCRβ再編成の不在下で正確な発達遮断は、大部分未解決であった(Rothenberg and Taghon,2005、Carrasco et al,2002)。
【0193】
TCRβ誘導性生存/増殖、またはβ選択の必要性は、細胞の5%が細胞表面TCRβタンパク質を発現するCD4+ ISP段階で生じることが以前に示唆された(Blom et al,1999)。別の研究では、代わりに、細胞の25%が細胞内TCRβタンパク質を発現するCD4+CD8α+CD8β-初期二重陽性(EDP)段階でβ選択が後に起こることが示唆された(Carrasco et al,1999)。したがって、これらの2つの研究に基づいて、β選択がCD4+ ISP段階で始まり、EDP段階まで続くことが提案された。ここでは、RAG2-KO発達T細胞においてCD4、CD8α及びCD8βの発現が観察されたため、ISP及びEDPを過ぎてDP段階まで堅牢な発達が検出された。DP段階への表現型分化におけるTCRβ鎖の必要性は、マウスとヒトの間で異なるが、TCRβ鎖は、強制されたTCRβ発現が細胞拡大を救済したように、マウス及びヒト発達T細胞の両方において同様に細胞拡大(生存/増殖)を促進する。理論に拘束されることなく、ヒトT細胞発達中のDP段階の前ではなく、その間の、TCRβ、したがってpreTCRの必要性は、細胞周期及び生存遺伝子の差次的発現を反映し得る。マウスにおいて、DN3細胞におけるpreTCRの発現は、細胞周期阻害剤Cdkn2aの発現を抑制するBmi-1の発現をもたらす。Cdkn2aの抑制は、preTCR誘導性細胞増殖及びDN3-DP移行に必要である(Miyazaki et al,2008)。要約すると、この研究は、発達ヒトT細胞におけるTCRβ媒介性β選択に必要な予期せぬタイミングを明らかにする。
【0194】
実施例2
RAG2-KO CD4
+CD8
+ DPにおけるTCRαβ及びTCRγδ鎖の強制発現
RAG2-KO hPSC由来CD34
+細胞をOP9-DL4-7FS細胞上で21日間培養し、DP細胞を、空のベクター(dTomato)、再構成TCRαβ鎖(1383i-TCR)(Roszkowski et al.,2003)または再構成TCRγδ鎖(3C2-TCR)(Benveniste et al.,2018)(
図7)でレトロウイルス形質導入した。形質導入RAG-KO細胞を、CD7
+CD5
+CD4
+CD8
+ DP細胞について選別し、更に4及び10日間、OP9-DL4-7FS細胞上に戻して、細胞生存及び拡大について評価した(
図7A)。TCRαβ-及びTCRγδ形質導入DPは、dTomato形質導入DPと比較して、4及び10日後により高い細胞数を示し(
図7A)、TCRαβ形質導入細胞は、TCRγδ形質導入細胞よりもはるかに高い倍数拡大を示し、TCRβ形質導入DP細胞で見られたものと同様であった(
図3)。理論に拘束されることなく、これは、TCRβ鎖のみ(preTCR、pTα/TCRβ)に類似して、再構成TCRαβ鎖またはTCRγδ鎖の発現が、DP段階での細胞生存及び/または発達ヒトT細胞の増殖を促進することを示唆する。加えて、TCR形質導入RAG2-KO DP細胞のフローサイトメトリー分析は、それぞれ、T系列細胞の細胞表面上の対応するαβ及びγδ TCRの発現を示す(
図7B)。これらの結果は、インビトロで分化したRAG2欠損PSCから得られた発達T細胞を形質導入して、γδまたはαβ TCRを効果的に発現させることができることを示す。
【0195】
実施例3
CRISPR - Cas9遺伝子編集を使用して、以下の遺伝子の各々を標的とする:Artemis、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、DNAリガーゼIV、非相同末端結合因子1(NHEJ1、CernunnosまたはXRCC4様因子(XLF)としても知られる)、XRCC4及びXLFのパラログ(PAXX)、DNAポリメラーゼλ及びDNAポリメラーゼμ。
【0196】
hPSCを、遺伝子標的化ガイドRNA、Cas9酵素及び緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするプラスミドでトランスフェクトする。トランスフェクトしたGFP+hPSCを単一細胞選別し、培養する。
【0197】
様々なKO hPSCが多能性を維持したかどうかを評価するために、主要マーカーの発現及び奇形腫の形成を評価した。免疫蛍光染色は、KO hPSCがOCT4、NANOG、SOX2及びSSEA-4を発現することを示す。
【0198】
多能性を機能的に試験するために、KO hPSCを免疫不全マウスに注射し、組織学的分析により、3つの生殖層全てを有するKO奇形腫の形成が明らかになり、KO hPSCが多能性の主要な特徴を保持していることを示す。KO hESCが造血前駆細胞を生成する能力を決定するために、8日間の胚様体分化培養後にCD34発現を分析する(Kennedy et al,2012)。対照WT及びKO hPSCは、同様の頻度の血液内皮CD34+細胞を生じる。
【0199】
KO hPSCからのT細胞発達。CD34+造血内皮細胞をMACS富化し、OP9-DL4細胞、発現ヒトIL-7、FLT3リガンド及び幹細胞因子(7FS)とともに培養して、T細胞分化を誘導した。10日間の培養後、対照WT及びKO細胞は、CD7及びCD5の両方の発現によって示されるように、T細胞系列に沿って進行する。3つの群は全て、15日目までにCD4+中間単一陽性(ISP)段階に達し、20日目までに細胞内CD3発現を示す。24日間の培養後、対照WT及びKO群からの細胞の大部分は、CD7+CD5+である。29~34日間の培養により、対照WT及びKO細胞は全て、CD4+CD8+ DP段階に達する。
【0200】
細胞の生存及び拡大を決定するために、対照WT及びKO発達T細胞から総細胞充実度を定量化する。20日間の培養後、3つの試料は全て、同様の細胞数を示す。
【0201】
KO CD4+CD8+ DPにおけるTCRβ鎖の強制発現。KO hPSC由来CD34+細胞をOP9-DL4-7FS細胞上で24日間培養し、DP細胞を、空ベクター(dTomato)、再構成TCRα鎖(TRA 1383i)または再構成TCRβ鎖(TRB 1383i)でレトロウイルス形質導入する。形質導入KO細胞を、CD7+CD5+CD4+CD8+ DP細胞について選別し、更に10日間、OP9-DL4-7FS細胞上に戻して、細胞生存及び拡大について評価する。dTomato-及びTCRα形質導入DPの両方が、10日間の培養後に同様の細胞数を示す。しかしながら、TCRβ形質導入DPは、dTomato及びTCRα形質導入DPと比較して、10日間の培養後に顕著に高い細胞数を示す。
【0202】
実施例4
KO SP T細胞の生成
KO SP T細胞の生成。再構成TCRβ鎖(TRB 1383i)、CARまたはTCRのうちの1つ以上で操作されたKO hPSCは、上記のように、または間質細胞を含まない状態で、CD34+細胞及びその後のCD4+CD8+ DP細胞に分化される(例えば、WO2019157597A1を参照されたく、その内容は、参照によりその全体が組み込まれる)。生成したCD4+CD8+ DP細胞を、CD4-CD8+ SP及び/またはCD8-CD4+ SP T細胞に更に分化させる。TCRβで操作されたKO DP細胞は、KOのみの細胞と比較してSP T細胞への進行に成功する。
【表1】
【表2】
【表3】
参考文献
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【国際調査報告】