(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】医療デバイスのラムノ脂質コーティング
(51)【国際特許分類】
A61L 27/34 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A61L27/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564515
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 SE2022050393
(87)【国際公開番号】W WO2022225444
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500085884
【氏名又は名称】コロプラスト アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ジャンナ アッレグローネ
(72)【発明者】
【氏名】イレーネ カルマニョーラ
(72)【発明者】
【氏名】キアーラ チェレーザ
(72)【発明者】
【氏名】バレーリア キオーノ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンルカ チャルデッリ
(72)【発明者】
【氏名】レティツィア フラッキア
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB00
4C081AB35
4C081AB36
4C081AB37
4C081AB38
4C081BA15
4C081BB09
4C081CD35
4C081EA06
(57)【要約】
本開示は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスであって、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、医療デバイスに関する。本開示は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆する方法であって、1)遊離アミノ基を導入することにより、被覆されるシリコーン表面を活性化するステップと、2)前記シリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させるステップとを含む方法にも関する。本開示は、気管と食道との間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼであって、ボイスプロテーゼの少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、ボイスプロテーゼにも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスであって、前記不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、医療デバイス。
【請求項2】
前記ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み、好ましくは、前記ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記ラムノ脂質は、前記不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部に共有結合されている、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して前記表面に共有結合されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記リンカーは、
-O-Si-(CH
2)
3-N-CO-、又は
-O-(CH
2)
3-N-CO-
である、請求項4に記載の医療デバイス。
【請求項6】
ラムノ脂質の表面密度は、4.5×10
15ラムノ脂質/cm
2超、例えば5×10
15ラムノ脂質/cm
2超、例えば6×10
15ラムノ脂質/cm
2超、例えば7×10
15ラムノ脂質/cm
2超、例えば8×10
15ラムノ脂質/cm
2超である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくはボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダーである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
ボイスプロテーゼ(100)、好ましくはボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼであり、好ましくは、ラムノ脂質で被覆された前記シリコーン表面は、前記ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ及び/又は少なくとも1つの保持フランジ(102、103)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆する方法であって、
1)遊離アミノ基を導入することにより、被覆される前記シリコーン表面を活性化するステップと、
2)前記シリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させるステップと
を含む方法。
【請求項10】
ステップ1)は、
- 被覆される前記表面を(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーに曝すこと
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ1)は、
- 被覆される前記シリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、
- 被覆される前記シリコーン表面を(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に曝すステップと、
任意選択的に、
- 被覆される前記シリコーン表面を50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップと
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ1)は、
- 被覆される前記シリコーン表面を、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーと組み合わせたアルゴン又はシクロプロピルアミンモノマーと組み合わせたアルゴンの大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、
任意選択的に、
- 被覆される前記シリコーン表面を90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップと
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
ステップ1)後、アミノ基の表面密度は、6×10
15アミノ基/cm
2超、例えば7×10
15アミノ基/cm
2超、例えば8×10
15アミノ基/cm
2超である、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ2)は、カルボジイミド化学を用いて実施される、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ2は、
2a)pH4.5~6、好ましくはpH5.5において、ラムノ脂質の水溶液を、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを含む水溶液と混合するステップと、
2b)NaOHの添加により、前記pHを7.4に増加させるステップと、
2c)被覆される前記シリコーン表面を、ステップ2b)で得られた混合物に1~24時間、好ましくは8~16時間、より好ましくは10~14時間、例えばおよそ12時間にわたって4~25℃の温度において曝すステップと
を含む、請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
3)ステップ2)後に得られた前記被覆シリコーン表面を蒸溜水で濯ぐステップと、
4)真空下において室温で前記被覆シリコーン表面を乾燥させるステップと
をさらに含む、請求項9~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み、好ましくは、前記ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する、請求項9~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼ(100)、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくは、前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ又は気管切開スピーキングバルブのためのホルダーであり、より好ましくは、前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼ(100)であり、さらにより好ましくは、ラムノ脂質で被覆された前記シリコーン表面は、前記ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面(108)の少なくとも1つ及び/又は前記ボイスプロテーゼの保持フランジ(102、103)の少なくとも1つを含む、請求項9~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
気管と食道との間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼ(100)であって、
- ルーメンを有する管状体(101)、
- 前記管状体(101)の前記ルーメンに配置されたバルブディスク(105)及びバルブシート(106)であって、前記バルブディスク(105)と前記バルブシート(106)との間の相互作用により、前記ルーメンを通した連通を制御するバルブディスク(105)及びバルブシート(106)
を含み、前記ボイスプロテーゼ(100)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、ボイスプロテーゼ(100)。
【請求項20】
前記管状体(101)は、遠位及び近位軸方向端を含み、前記近位端は、食道保持フランジ(102)を備え、及び前記遠位端は、気管保持フランジ(103)を備え、前記管状体(101)、前記食道保持フランジ(102)及び/又は前記気管保持フランジ(103)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、請求項19に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【請求項21】
前記管状体(101)、前記食道保持フランジ(102)及び/又は前記気管保持フランジ(103)は、シリコーンで作製され、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている、請求項20に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【請求項22】
前記バルブディスク(105)及び/又は前記バルブシート(106)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、請求項19~21のいずれか一項に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【請求項23】
前記バルブディスク(105)及び/又は前記バルブシート(106)は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている、請求項22に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラムノ脂質で被覆された不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイス並びに不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質グラフト化で被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成材料表面の細菌コロニー形成は、多くの技術分野、例えば植込み型医療デバイスの技術分野で問題となる。植込み型医療デバイスの使用は、経時的に増加している。植込み型デバイスでは、シリコーンゴムは、そのバイオ適合性、高い機械的強度及び弾性並びに潜在的に長いデバイス寿命に起因して広く使用されている。
【0003】
植込み医療デバイスに通常関連する問題の1つは、デバイスの表面上でのバイオフィルムの形成である。バイオフィルムは、細胞が互いに及び多くの場合に表面にも固着する微生物の群集である。こうした群集は、ポリマー物質からなる粘液性細胞外マトリックス内に埋め込まれる。植込み医療デバイス上でのバイオフィルムの形成は、多くの場合、植込みデバイス機能の喪失及びデバイス寿命の短縮を伴う複雑さの一般的な原因であり、デバイスのより早期の交換をもたらす。
【0004】
バイオフィルムの形成が既知の問題であるシリコーンデバイスの例は、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント、骨盤メッシュなどのような永久インプラントである。永久インプラントの場合、バイオフィルムの形成は、デバイス故障又はデバイス関連感染を引き起こし得ることから、入院及び手術の必要性をもたらし得る。より短い持続期間の植込みのためのデバイス、例えばボイスプロテーゼ、鼻涙管のためのシリコーンチューブ及び鼓膜耳チューブでは、バイオフィルムの形成は、デバイス性能の低下及びデバイス故障を引き起こし得ることから、デバイスのより早期の交換の必要性をもたらし得る。
【0005】
バイオフィルム形成に対する耐性を改善するために、抗生物質性、抗真菌性又は抗微生物性表面処理剤、例えば酸化銀又は金属銀、カスポファンギンペプチド、セレンなどを含めて、シリコーン医療デバイスに対するいくつかの表面処理剤の提案がなされてきた。しかしながら、ポリマーマトリックス中での銀イオン若しくは銀ナノ粒子の使用又は第4級アミン化合物の使用は、ヒト細胞及び組織への損傷が懸念され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、医療デバイスの表面上でのバイオフィルムの形成を防止又は低減するコーティングを有する医療デバイス及びかかるコーティングで医療デバイスを被覆する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、好ましくは、ラムノ脂質で被覆された医療デバイスを提供し、且つラムノ脂質で医療デバイスを被覆する方法を提供することにより、当技術分野の以上で特定された欠陥及び欠点の1つ以上を単独で又はいずれかの組合せで軽減、緩和又は排除することを目的とし、少なくとも以上に挙げた問題を解決する。
【0008】
第1の態様では、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスであって、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、医療デバイスが提供される。かかるコーティングは、医療デバイスの表面上でのバイオフィルムの形成を防止又は低減するであろう。
【0009】
第2の態様では、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆する方法であって、1)遊離アミノ基を導入することにより、被覆されるシリコーン表面を活性化するステップと、2)前記シリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させるステップとを含む方法が提供される。かかる方法は、医療デバイスの表面上にラムノ脂質の安定したコーティングをもたらすであろう。
【0010】
第3の態様では、気管と食道との間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼであって、ルーメンを有する管状体、管状体のルーメンに配置されたバルブディスク及びバルブシートであって、前記バルブディスクと前記バルブシートとの間の相互作用により、前記ルーメンを通した連通を制御するバルブディスク及びバルブシートを含み、ボイスプロテーゼの少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、ボイスプロテーゼが提供される。
【0011】
本開示の他の目的、特徴及び利点は、下記の詳細な説明、図面及び添付の特許請求の範囲から明らかであろう。本開示は、特徴のすべての可能な組合せに関することに留意されたい。
【0012】
一般に、特許請求の範囲で用いられるすべての用語は、特に本明細書に明示的に定義されない限り、当技術分野でのその通常の意味に従って解釈されるべきである。「1つの(a)/1つの(an)/その[要素、デバイス、コンポーネント、手段、ステップなど]」へのすべての参照は、特に明記されない限り、前記要素、デバイス、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つの事例を参照するものとして公然と解釈されるべきである。本明細書に開示されるいずれの方法のステップも、明記されない限り、開示されたそのままの順序で実施しなければならないわけではない。
【0013】
本明細書で用いられる場合、「含む」という用語及びその用語の変化形は、他の添加剤、コンポーネント、整数又はステップを排除することを意図したものではない。
【0014】
頭字語及び参照記号
APTES 3-アミノプロピルトリエトキシシラン
BS バイオサーファクタント
100 ボイスプロテーゼ
101 管状体
102 食道保持フランジ
103 気管保持フランジ
104 バルブ部材
105 バルブディスク
106 バルブシート
107 バルブヒンジ
108 シーリング表面
Silicone 無処理シリコーン
Silicone_AC7 AC7物理吸着を有する無処理シリコーン
Silicone_R89 R89物理吸着を有する無処理シリコーン
Silicone/P アルゴンプラズマ処理シリコーン
Silicone/P_AC7 AC7物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン
Silicone/P_R89 R89物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン
Silicone/P_A APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン
Silicone/P_A_AC7 APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン上へのAC7共有結合性グラフト化
Silicone/P_A_R89 APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン上へのR89共有結合性グラフト化
【0015】
本発明により可能になるこれら及び他の態様、特徴及び利点は、添付の図面を参照することで本発明の下記の実施形態の説明から明らかになり、解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1b】シクロプロピルアミンで官能基化された表面を示す。
【
図2a】シリコーン表面上へのバイオサーファクタント(BS)共有結合性グラフト化のスキームを示す。
【
図2b】シリコーン表面上へのバイオサーファクタント(BS)共有結合性グラフト化のスキームを示す。
【
図3a】未処理シリコーンエラストメリックディスク(SED)(上側曲線)及び物理吸着によりR89BSで被覆されたSED(下側曲線)のATR-FTIRスペクトルを示す。
【
図3b】シリコーン(Silicone)、物理吸着AC7を有する未処理シリコーン(Silicone_AC7)及び物理吸着R89(ラムノ脂質)を有する未処理シリコーンの接触角値を示す。
【
図4a】R89物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_R89)のATR-FTIRスペクトルを示す。
【
図4b】シリコーン(Silicone)、アルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P)、AC7物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_AC7)及びR89物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_R89)の接触角値を示す。
【
図4c】シリコーン(Silicone)、吸着AC7を有するプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_AC7)及び吸着R89(ラムノ脂質)を有するプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_R89)の表面サンプルのSEM(走査電子顕微鏡法)画像を示す。
【
図5a】未処理シリコーン(Silicone)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン上に共有結合でグラフトされたR89(Silicone/P_A_R89)のATR-FTIRスペクトルを示す。
【
図5b】APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン上に共有結合でグラフトされたAC7(Silicone/P_A_AC7)のATR-FTIRスペクトルを示す。
【
図5c】シリコーン(Silicone)、アルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A_AC7)、APTES重合と共有結合性グラフト化AC7とを有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A_AC7)及びAPTES重合と共有結合性グラフト化R89とを有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A_R89)の接触角値を示す。
【
図5d】1~5時間後のシリコーン(Silicone)及びアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P)の接触角値を示す。
【
図6】シリコーン(Silicone)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A)、AC7物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_AC7)のATR-FTIRスペクトルである。
【
図7b】気管と食道との間の瘻に取り付けられた、本開示に係るボイスプロテーゼを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスであって、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、医療デバイスに関する。本開示は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆する方法にも関する。
【0018】
本開示の具体的な態様及び実施形態を以下で詳細に説明する。
【0019】
微生物は、バイオサーファクタント(BS)と一般にいわれる広範にわたる界面活性化合物(SAC)を合成する。微生物性バイオサーファクタントは、抗接着剤として機能し、バイオフィルムの形成を防止又は低減する。本開示では、ラムノ脂質は、医療デバイスを被覆するために使用される。ラムノ脂質は、シリコーン上の真菌性及び細菌性バイオフィルム形成を有意に阻害できる。そのため、ラムノ脂質は、真菌性及び細菌性バイオフィルム成長を阻害して、シリコーン製医療デバイスのデバイス寿命を延長するとともに、抗微生物薬剤の使用を潜在的に低減することが可能である。
【0020】
本開示のラムノ脂質は、モノ及びジラムノ脂質ファミリーのホモログで構成される。ラムノ脂質は、細菌シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)89により産生され得るとともに、かかるラムノ脂質は、本明細書ではR89又はR89BSといわれる。
【0021】
生の抽出物の純度は、典型的には、約91%である。典型的には、ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。
【0022】
pH7.0では、リングテンシオメーターで測定されるアルカリ性蒸溜水の表面張力は、バイオサーファクタントの濃度が増加するにつれて迅速に減少し、約30mN/mの最小表面張力となる。界面活性剤分子のクラスター、いわゆるミセルの形成を伴うことなく達成可能な溶液中の最大界面活性剤濃度は、臨界ミセル濃度(CMC)を定義する。R89BSのCMC値は、40~50μg/mL、例えば42~48μg/mL、例えば約46.1μg/mLの濃度であることが分かった。そのため、CMC値は、最大表面張力低減に達するのに必要な界面活性剤の量を表し、CMCが低くなるほど、表面張力を低減するのに必要な界面活性剤が少なくなる。バイオフィルム形成は、低表面張力において低減される。そのため、バイオフィルム形成の特定の低減を達成するために、より高いCMCを有するバイオサーファクタントよりも低い濃度のR89BSが必要とされる。これは、粗ラムノ脂質のかなり低い最小阻害性濃度(MIC)に反映される。粗ラムノ脂質のMICは、S.アウレウス(S.aureus)に対して0.06mg/ml、及びS.エピデルミディス(S.epidermidis)に対して0.12mg/ml、及びC.アルビカンス(C.albicans)に対して>2mg/mlである。
【0023】
具体的には、ラムノ脂質粗抽出物ともいわれるラムノ脂質の生の抽出物は、シリコーンへのS.アウレウス(S.aureus)接着を阻害する能力を有し、その活性は、モノ及びジラムノ脂質精製画分のものと有意に異ならない。これは、これらの2つ画分が粗抽出物の抗接着活性に等しく寄与することを意味する。そのため、粗抽出物は、さらなる精製ステップを行うことなく、微生物成長及びバイオフィルム形成の阻害のためにシリコーン表面のコーティングに直接使用可能である。これは、下流操作コストが典型的には合計処理コストの約50~80%を占めるために有利である。
【0024】
ラムノ脂質のさらなる利点は、このバイオサーファクタントが広いpH範囲にわたってその界面活性を保持することである。
【0025】
さらに、本開示に従ってシリコーンに共有結合でグラフトされたR89は、8日間のインキュベーションでC.アルビカンス(C.albicans)及びS.アウレウス(S.aureus)のバイオフィルム形成をそれぞれ85%及び82%阻害できる。
【0026】
医療デバイス
本明細書に開示される医療デバイスは、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有し、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている。かかるデバイス上でのバイオフィルムの形成は、ラムノ脂質のコーティングを有してないデバイスと比較して低減される。さらに、以下の実験で実証されるように、ラムノ脂質を有するコーティングは、例えば、AC7BS(バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)AC7由来のリポペプチド)と比較して、シリコーンエラストマー表面に結合して、シリコーンエラストマーのバイオフィルム形成を打ち消す有意な能力を示す。
【0027】
本明細書に開示されるデバイスに当てはまり得る一般的な特徴及びかかるデバイスの具体例が以下に記載される。
【0028】
ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み得る。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。
【0029】
具体的な一実施形態では、ラムノ脂質は、75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。
【0030】
ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有し得る。
【0031】
ラムノ脂質は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部に共有結合され得る。かかるコーティングの利点の1つは、このラムノ脂質コーティングが、シリコーン表面に共有結合されていないラムノ脂質コーティングよりも長期間にわたり安定していることである。
【0032】
ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合され得る。
【0033】
一実施形態では、リンカーは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-である。かかるコーティングは、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーを用いて達成され得る。
【0034】
一実施形態では、リンカーは、-O-(CH2)3-N-CO-である。かかるコーティングは、シクロプロピルアミンモノマーを用いて達成され得る。
【0035】
一実施形態では、ラムノ脂質の表面密度は、4.5×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば5×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば6×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば7×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば8×1015ラムノ脂質/cm2超である。かかる表面は、バイオフィルムの形成に対して特に耐性がある。
【0036】
好ましくは、ラムノ脂質の表面密度は、6×1015ラムノ脂質/cm2超である。
【0037】
医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり得、好ましくは、医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダーである。
【0038】
具体的には、医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼ100であり得、好ましくは、ラムノ脂質で被覆された表面は、ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つを含む。
【0039】
具体的な一実施形態では、医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むボイスプロテーゼ100、好ましくはシリコーンボイスプロテーゼであり、ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つは、ラムノ脂質で被覆されたシリコーン表面である。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-であり得る。好ましくは、ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。好ましくは、ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する。
【0040】
他の具体的な実施形態では、医療デバイスは、ボイスプロテーゼ100、好ましくはシリコーンボイスプロテーゼであり、ボイスプロテーゼの保持フランジ102、103の少なくとも1つは、ラムノ脂質で被覆されたシリコーン表面である。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-であり得る。好ましくは、ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。好ましくは、ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する。少なくとも1つの保持フランジ102、103を被覆することにより、保持フランジ102、103の強度に悪影響を及ぼす微生物成長を防止することが可能である。
【0041】
さらに別の具体的な実施形態では、医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むボイスプロテーゼ100、好ましくはシリコーンボイスプロテーゼであり、ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ及び/又は保持フランジ102、103の少なくとも1つは、ラムノ脂質で被覆されたシリコーン表面である。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-であり得る。好ましくは、ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。好ましくは、ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する。
【0042】
医療デバイスを被覆する方法
本明細書に開示される方法は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆するためのものである。
【0043】
本明細書に開示される方法に当てはまり得る一般的な特徴及びかかる方法の具体例が以下に記載される。
【0044】
本方法は、1)遊離アミノ基を導入することにより、被覆されるシリコーン表面を活性化するステップと、2)前記シリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させるステップとを含む。
【0045】
以下の実験で実証されるように、ラムノ脂質を有するコーティングは、例えば、AC7BS(バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)AC7由来のリポペプチド)と比較して、シリコーンエラストマー表面に結合して、シリコーンエラストマーのバイオフィルム形成を打ち消す有意な能力を示す。
【0046】
本方法の一実施形態では、ステップ1)は、被覆される表面を(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーに曝すことを含む。かかるステップを用いて、アミド結合を含むリンカーを介してシリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させる。APTESリンカーは、シリコーン表面上にバイオサーファクタントを共有結合でグラフトするための良好な戦略であることが実証された(以下の実験の部を参照されたい)。シリコーン表面上へのAPTES分子の結合は、バイオサーファクタントのカルボキシル基(-COOH)とのアミド結合の形成に利用可能なアミノ基(-NH2)を露出させる。物理化学的及び生物学的結果は、R89を共有結合でグラフトするAPTESコーティングの効能を実証した。シクロプロピルアミンは、バイオサーファクタントをグラフトするためにNH2を露出するポリマーリンカーを得るための代替モノマーである。
【0047】
本方法の一実施形態では、ステップ1)は、a)被覆されるシリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、b)被覆されるシリコーン表面を(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に曝すステップとを含む。大気又は真空アルゴンプラズマ放電は、表面官能基化プロセスを増強する。ラムノ脂質などのラムノ脂質の共有結合性グラフト化前に、被覆されるシリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すことにより、表面に結合された多量のラムノ脂質がもたらされる。
【0048】
典型的には、a)被覆されるシリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、b)被覆されるシリコーン表面を(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に曝すステップとを含むかかるプロセスは、6×1015アミノ基/cm2超、例えば7×1015アミノ基/cm2超、例えば8×1015アミノ基/cm2超を有する表面を生成する。従って、これにより、表面に結合された高表面密度のラムノ脂質がもたらされる。
【0049】
大気プラズマ放電は、例えば、アルゴン、酸素又は水素の大気プラズマ放電であり得る。大気プラズマ放電は、これらのいずれかの混合物のものであり得る。例えば、大気プラズマ放電は、酸素と水素との混合物のプラズマ放電であり得る。好ましい一実施形態では、大気プラズマ放電は、アルゴンプラズマ放電である。大気プラズマ放電のパラメーターは、電力10~100W、例えば20~90W、例えば30~80W、例えば40~70W、例えば50~60W、流量5~20sccm(標準立方センチメートル/分)、例えば10~15sccm、時間10秒間(s)~10分間(min)、例えば20秒~5分間、例えば30秒~3分間、例えば1~2分間であり得る。プラズマノズルの出口からサンプルまでの距離は、0.5~2.5cm、例えば1~2cm、例えば1.2~1.8cm、例えば1.4~1.6cm、好ましくは1.5cmであり得る。
【0050】
プロセスは、プラズマパラメーター(電力、流量、時間及び距離)を変化させることにより最適化され得る。
【0051】
大気プラズマ放電のパラメーターの好適な組合せの1つは、電力10W、流量20sccm(標準立方センチメートル/分)、時間20秒及び距離5mmであり得る。パラメーターのさらなる好適な組合せは、電力100W、流量15sccm(標準立方センチメートル/分)、時間5分間であり得る。パラメーターの別の好適な組合せは、例えば、電力20W、流量10sccm(標準立方センチメートル/分)、時間20秒及び距離15mmであり得る。
【0052】
真空プラズマ放電は、例えば、アルゴン、酸素又は水素の真空プラズマ放電であり得る。真空プラズマ放電は、これらのいずれかの混合物のものであり得る。例えば、真空プラズマ放電は、酸素と水素との混合物のプラズマ放電であり得る。好ましい一実施形態では、真空プラズマ放電は、アルゴンプラズマ放電である。
【0053】
好ましくは、プラズマ放電は、真空プラズマ放電である。
【0054】
(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーの溶液は、溶媒としてエタノールを有する2~10%(体積/体積、好ましくは3~7%(体積/体積、例えば4~6%(体積/体積)、さらにより好ましくは5%(体積/体積)のAPTES溶液である。
【0055】
シクロプロピルアミンモノマーの溶液は、エタノールなどの有機溶媒を有する、2~10%(体積/体積)、好ましくは3~7%(体積/体積、例えば4~6%(体積/体積)、さらにより好ましくは5%(体積/体積)のシクロプロピルアミン溶液である。
【0056】
被覆されるシリコーン表面は、浸漬を介して(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に曝され得る。浸漬は、15~60分間、例えば20~40分間、好ましくは30分間行われ得る。好ましくは、浸漬は、室温で行われる。浸漬後、シリコーン表面は、濯がれ得、好ましくはエタノールで濯がれ得る。
【0057】
被覆されるシリコーン表面は、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に室温で曝され得る。
【0058】
任意選択的に、以上のステップb)後、被覆されるシリコーン表面を50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップが続く。被覆されるシリコーン表面を高温に曝すことは、APTES又はシクロプロピルアミンコーティングの安定化に寄与する。
【0059】
具体的な実施形態では、ステップ1)は、a)被覆されるシリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すステップであって、好ましくは、真空プラズマ放電は、下記パラメーター:電力20W、流量10sccm(標準立方センチメートル/分)、時間20秒及び距離15mmを用いて実施される、ステップと、続いて、b)被覆されるシリコーン表面をエタノール中の(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマーの溶液、好ましくは5%(体積/体積)のAPTESに30分間の時間にわたって曝すステップとを含む。任意選択的に、ステップb)後、被覆されるシリコーン表面を50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップが続く。好ましくは、シリコーン表面は、その後、20分間の時間にわたっておよそ100℃で硬化される。
【0060】
典型的には、かかるプロセスは、6×1015アミノ基/cm2超、例えば7×1015アミノ基/cm2超、例えば8×1015アミノ基/cm2超を有する表面を生成する。従って、これにより、表面に結合された高表面密度のラムノ脂質がもたらされる。
【0061】
本方法の他の実施形態によれば、ステップ1)は、i)被覆されるシリコーン表面を、(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマーと組み合わせたアルゴン又はシクロプロピルアミンモノマーと組み合わせたアルゴンの大気又は真空プラズマ放電に曝すステップを含む。モノマーは、プラズマ処理時にシリコーン表面上に直接重合される。これにより、モノマー重合によるシリコーン表面上でのアミノ基の発生がもたらされる。プラズマ技術を用いた表面官能基化は、APTESモノマー又はシクロプロピルアミンモノマーのいずれに適用するためにも使用可能である。表面官能基化をもたらすモノマーのこのタイプの直接適用のためにプラズマ放電を使用する利点は、それにより精度が増加するとともに、いずれの表面を処理するか及びどのような表面を除外するかの選択が可能になることである。他の利点は、プラズマ放電を介する表面官能基化の直接適用により、プラズマ放電プロセスパラメーター(例えば、放電電力、ガス流量、プロセス時間)の調整によってモノマーの量を制御可能なことである。さらに、不規則シリコーン表面の表面角の局所的な変動に対してプラズマストリーム角を最適化することにより、精密適用を達成可能である。好適な角度は、0°~30°、例えば10°~20°、例えば15°である。さらに、プラズマノズルの出口からサンプルまでの距離は、0.5~2.5cm、例えば1~2cm、例えば1.2~1.8cm、例えば1.4~1.6cm(好ましくは1.5cm)であり得る。
【0062】
大気プラズマ放電のさらなるパラメーターは、電力10~100W、例えば20~90W、例えば30~80W、例えば40~70W、例えば50~60W、流量5~20sccm(標準立方センチメートル/分)、例えば10~15sccm、時間10秒間(s)~10分間(min)、例えば20秒~5分間、例えば30秒~3分間、例えば1~2分間であり得る。
【0063】
プロセスは、プラズマパラメーター(電力、流量、時間及び距離)を変化させることにより最適化され得る。
【0064】
大気プラズマ放電のパラメーターの好適な組合せの1つは、電力10W、流量20sccm(標準立方センチメートル/分)、時間20秒及び距離5mmであり得る。パラメーターのさらなる好適な組合せは、電力100W、流量15sccm(標準立方センチメートル/分)、時間5分間であり得る。パラメーターの別の好適な組合せは、例えば、電力20W、流量10sccm(標準立方センチメートル/分)、時間20秒及び距離15mmであり得る。
【0065】
さらに、シリコーン表面上でのアミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマーの又はシクロプロピルアミンモノマーの重合を可能にする、以上に記載の方法は、消費される時間が少ないうえにより再現性がある。加えて、本方法は、溶媒を使用しない。さらに、かかる方法は、産業レベルにスケーラブルである。モノマーは、キャリヤーガス中にあり得る。キャリヤーガスは、O2又はH2であり得る。
【0066】
任意選択的に、以上のステップi)後、被覆されるシリコーン表面を50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップが続く。被覆されるシリコーン表面を高温に曝すことは、APTES又はシクロプロピルアミンコーティングの安定化に寄与する。
【0067】
他の具体的な実施形態では、ステップ1)は、a)被覆されるシリコーン表面を真空プラズマ放電に曝すステップであって、好ましくは、真空プラズマ放電は、下記パラメーター:電力20W、流量30sccm(標準立方センチメートル/分)、時間1分間及び距離15mmを用いて実施される、ステップと、続いて、b)真空プラズマ放電を介して、真空チャンバー中において、被覆されるシリコーン表面をアミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマーの蒸気に曝すステップとを含む。その結果行われるAPTESのプラズマ重合では、プラズマ源を用いてガス放電を発生させることにより、ガス状又は液状モノマーを活性化又はフラグメント化するためのエネルギーを提供し、重合を開始させる。モノマーの量は、プロセスパラメーターの調整により制御可能である。さらに、被覆される表面がエタノール中の(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーの溶液にある時間にわたって曝される、以上に記載の方法と比較して、この方法は、より精密であるうえに消費される時間が少ない。そのため、このプロセスは、シリーズ生産に好適である。なぜなら、それは、産業レベルに対してよりスケーラブルであるためである。そのうえ、本方法は、潜在的に有害な化学廃棄物を生成するいずれの溶媒の使用も必要としない。
【0068】
APTESモノマー蒸気は、液状APTESモノマーを沸点近くまで加熱することにより得ることができる。
【0069】
好ましくは、APTESモノマー蒸気は、アルゴンガスを液状APTESモノマーに通してフラッシュすることにより得られる。
【0070】
好ましくは、ステップ2)は、下記パラメーター:20W、30sccmアルゴン流量及び20sccm APTESモノマー蒸気流量、1分間を用いて実施される。
【0071】
典型的には、かかるプロセスは、とりわけAPTESモノマー蒸気がアルゴンガスを液状APTESモノマーに通してフラッシュすることにより得られるとき、6×1015アミノ基/cm2超、例えば7×1015アミノ基/cm2超、例えば8×1015アミノ基/cm2超を有する表面を生成する。従って、これにより、表面に結合された高表面密度のラムノ脂質がもたらされる。
【0072】
そのため、いくつかの実施形態では、ステップ1)後、アミノ基の表面密度は、6×1015アミノ基/cm2超、例えば7×1015アミノ基/cm2超、例えば8×1015アミノ基/cm2超である。
【0073】
いくつかの実施形態では、以上のステップ2)は、カルボジイミド化学を用いて実施される。この方法の利点は、物理吸着を介するコーティングと比較して、バイオサーファクタントの結合がより強く、より安定していることである。
【0074】
本方法の具体的な一実施形態では、ステップ2は、2a)pH4.5~6、好ましくはpH5.5において、ラムノ脂質の水溶液を、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む水溶液と混合するステップと、2b)NaOHの添加により、pHを中性pH、例えばpH7~7.5、好ましくはおよそpH7.3~7.4、さらにより好ましくはpH7.4に増加させるステップと、2c)被覆されるシリコーン表面を、ステップ2b)で得られた混合物に1~24時間、好ましくは8~16時間、より好ましくは10~14時間、例えばおよそ12時間にわたって4~25℃の温度において曝すステップとを含む。
【0075】
以上の2a)では、ラムノ脂質溶液と、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシ-スクシンイミドを含有する水溶液との比は、1:1~10:1、例えば2:1~9:1、例えば3:1~8:1、例えば4:1~7:1、例えば6:1~5:1であり得る。好ましくは、比は、2:1~6:1、例えば3:1~5:1である。好ましい一実施形態では、比は、4:1である。
【0076】
混合するステップ2a)は、4℃で1時間にわたって実施され得る。
【0077】
ステップ2a)で使用される水溶液中のEDC対NHSの比は、2:1~10:1、好ましくはおよそ4:1であり得る。1:1超の比は、これにより反応が加速されるため、とりわけ有利である。
【0078】
ラムノ脂質の水溶液は、例えば、4mg/mL溶液であり得る。
【0079】
ステップ2b)で添加されるNaOHは、好ましくは、1N NaOHである。
【0080】
共有結合性グラフト化プロセスの最適化のために、EDC及びNHS間の比並びにラムノ脂質の濃度は、1:1~10:1、例えば2:1~9:1、例えば3:1~8:1、例えば4:1~7:1、例えば6:1~5:1にさらに最適化可能である。好ましくは、比は、2:1~6:1、例えば3:1~5:1である。好ましい一実施形態では、比は、4:1である。
【0081】
ステップ2c)は、ラムノ脂質でグラフトされるシリコーン部を4℃で24時間にわたって例えば1mL活性化ラムノ脂質溶液中に浸漬することにより行うことが可能である。
【0082】
以上に記載の方法は、ステップ2)後に得られた被覆シリコーン表面を洗浄するステップをさらに含み得る。洗浄するステップは、例えば、3)ステップ2)後に得られた被覆シリコーン表面を蒸溜水で濯ぐステップと、4)真空下において室温で被覆シリコーン表面を乾燥させるステップとを含み得る。
【0083】
以上に記載の方法に使用されるラムノ脂質は、好ましくは、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。
【0084】
具体的な一実施形態では、ラムノ脂質は、75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。
【0085】
ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有し得る。
【0086】
本方法の一実施形態では、医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくは、医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ又は気管切開スピーキングバルブのためのホルダーであり、より好ましくは、医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイス100プロテーゼであり、さらにより好ましくは、ラムノ脂質で被覆された表面は、ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ及び/又はボイスプロテーゼの保持フランジ102、103の少なくとも1つを含む。保持フランジ102、103の少なくとも1つを被覆することにより、保持フランジの強度に悪影響を及ぼす微生物成長を防止し得る。
【0087】
本方法の他の具体的な実施形態では、医療デバイスは、シリコーンボイスプロテーゼであり、ボイスプロテーゼの保持フランジの少なくとも1つは、ラムノ脂質で被覆されている。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-であり得る。好ましくは、ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。好ましくは、ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する。保持フランジの1つ以上を被覆することにより、保持フランジの強度に悪影響を及ぼす微生物成長を防止し得る。
【0088】
【0089】
図1bは、シクロプロピルアミンで官能基化された表面を示す。
【0090】
本開示に係る具体的な方法は、
図2aに示される。ステップ(i)では、シリコーン表面は、アルゴンプラズマに曝され、ステップ(ii)では、表面は、表面を官能基化するためにAPTESモノマー又はシクロプロピルアミンモノマーに曝され、及びステップ(iii)では、ラムノ脂質は、EDC/NHSによるカルボジイミド化学を介して表面に共有結合でグラフトされる。ステップii)は、好ましくは、室温で20~40分間、好ましくは30分間にわたってシリコーン表面をエタノール中の好ましくは5%(体積/体積)のモノマーの溶液中に浸漬することにより行われる。その後、シリコーン表面は、例えば、エタノールで濯がれ得るとともに、50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃で5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって硬化され得る。好ましくは、シリコーン表面は、100℃で20分間の時間にわたって硬化される。好ましくは、ステップiii)は、4℃で1時間にわたり、ラムノ脂質の水溶液(4mg/mL)と、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(4:1)を含有する水溶液(pH5.5)とを等しい体積で混合することと、1N NaOHを滴下することによりpHを7.4に上昇させることと、続いて2~8℃、好ましくは5℃で20~30時間、好ましくは24時間にわたり、ステップi)で得られたシリコーン表面を、ステップii)で得られた溶液に曝すことと、続いて蒸溜水で濯ぎ、乾燥させることと、好ましくは真空下において室温で10 15時間、好ましくは12時間にわたって乾燥させることとを含む。
【0091】
本開示に係る他の具体的な方法は、
図2bに示される。表面は、(i)APTESモノマー又はシクロプロピルアミンを用いてプラズマ処理を介して官能基化され、続いて、(ii)EDC/NHSによるカルボジイミド化学を介してラムノ脂質のラムノ脂質共有結合性グラフト化が行われる。好ましくは、ステップi)は、被覆されるシリコーン表面を、(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマーと組み合わせたアルゴン又はシクロプロピルアミンモノマーと組み合わせたアルゴンの大気又は真空プラズマ放電に曝すことにより行われる。その後、シリコーン表面は、例えば、エタノールで濯がれ得るとともに、50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃で5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって硬化され得る。好ましくは、シリコーン表面は、100℃で20分間の時間にわたって硬化される。好ましくは、ステップiii)は、4℃で1時間にわたり、ラムノ脂質の水溶液(4mg/mL)と、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(4/1)を含有する水溶液(pH5.5)とを等しい体積で混合することと、1N NaOHを滴下することによりpHを7.4に上昇させることと、続いて2~8℃、好ましくは5℃で20~30時間、好ましくは24時間にわたり、ステップi)で得られたシリコーン表面を、ステップii)で得られた溶液に曝すことと、続いて蒸溜水で濯ぎ、乾燥させることと、好ましくは真空下において室温で10~15時間、好ましくは12時間にわたって乾燥させることとを含む。
【0092】
ボイスプロテーゼ
本明細書に開示されるボイスプロテーゼに当てはまり得る一般的な特徴及びかかるボイスプロテーゼの具体例が以下に記載される。
【0093】
本明細書では、気管と食道との間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼであって、ボイスプロテーゼ100の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、ボイスプロテーゼが開示される。ボイスプロテーゼは、気管食道共有壁Pの瘻又は穿刺孔に取り付けるためのものである。
【0094】
気管Tと食道Eとの間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼ100は、ルーメンを有する管状体101、管状体101のルーメンに配置されたバルブディスク105及びバルブシート106を含み、前記バルブディスク105及び前記バルブシート106は、前記バルブディスク105と前記バルブシート106との間の相互作用により、前記ルーメンを通した連通を制御し、ボイスプロテーゼ100の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている。
【0095】
ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み得る。モノラムノ脂質とジラムノ脂質との合計量は、100%(重量/重量)である。好ましくは、ラムノ脂質は、75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含む。
【0096】
ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有し得る。
【0097】
ラムノ脂質は、不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部に共有結合され得る。かかるコーティングの利点の1つは、このラムノ脂質コーティングが、シリコーン表面に共有結合されていないラムノ脂質コーティングよりも長期間にわたり安定していることである。
【0098】
ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合され得る。
【0099】
リンカーは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-であり得る。
【0100】
一実施形態では、管状体101は、遠位及び近位軸方向端を含み、近位端は、食道保持フランジ102を備え、及び遠位端は、気管保持フランジ103を備え、管状体101、食道保持フランジ102及び/又は気管保持フランジ103の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている。
【0101】
他の実施形態では、管状体101、食道保持フランジ102及び/又は気管保持フランジ103は、シリコーンで作製され、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている。
【0102】
他の実施形態では、バルブディスク105及び/又はバルブシート106の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている。
【0103】
さらに別の実施形態では、バルブディスク105及び/又はバルブシート106は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている。
【0104】
具体的な一実施形態では、管状体101は、遠位及び近位軸方向端を含み、近位端は、食道保持フランジ102を備え、及び遠位端は、気管保持フランジ103を備え、管状体101、食道保持フランジ102及び/又は気管保持フランジ103の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、好ましくは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-である。
【0105】
他の具体的な実施形態では、管状体101、食道保持フランジ102及び/又は気管保持フランジ103は、シリコーンで作製され、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、好ましくは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-である。
【0106】
他の具体的な実施形態では、バルブディスク105及び/又はバルブシート106の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、好ましくは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-である。
【0107】
他の具体的な実施形態では、バルブディスク105及び/又はバルブシート106は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている。ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して表面に共有結合される。リンカーは、好ましくは、-O-Si-(CH2)3-N-CO-又は-O-(CH2)3-N-CO-である。
【0108】
本開示に係るボイスプロテーゼは、
図7aに示される。ボイスプロテーゼ100は、管状体101を含む。管状体101は、遠位及び近位軸方向端を有する。使用時、近位端は、ユーザーの食道に面することが意図され、及び遠位端は、気管に面することが意図される(
図7bを参照されたい)。近位端は、食道保持フランジ102を備える。遠位端は、気管保持フランジ103を備える。食道及び気管保持フランジ102及び103は、管状体101から外側横方向に延在するように配置される。保持フランジ102、103は、管状体101の中心軸を横断する平面内に配置される。管状体101は、フレキシブルプラスチック又はゴム材料、例えばシリコーンで製造される。管状体101がシリコーンで製造されたとき、患者組織とのアレルギー反応が減少され得る。内側、すなわち管状体101のルーメンには、バルブ部材104が配置され、前記バルブ部材104は、管状体101を介する連通を閉鎖するのに好適であるが、近位方向の気流に曝されたときに開放される。近位方向の気流は、ユーザーが自らの手/指で気管瘻を閉塞すると同時に、ユーザーが息を吐くときにユーザーにより、又はユーザーの気管瘻をカバーするように配置された気管瘻バルブを作動させることにより実現される。
【0109】
バルブ部材104は、バルブディスク105及びバルブシート106を含む。バルブディスク105及びバルブシート106は、管状体101内に配置される。バルブディスク105は、バルブヒンジ107上に配置され、結果的にバルブディスク105が管状体101に接続される。
【0110】
バルブディスク105及び/又はバルブシート106は、細菌及び/又は真菌成長に対する耐性のある剛性材料、例えばフッ素ポリマー又は金属で製造され得る。好適なフッ素ポリマーの例は、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)である。細菌及び/又は真菌成長に対する耐性のある材料例は、ステンレス鋼及びチタンである。代替的に、バルブディスク105及び/又はバルブシート106は、シリコーンで直接作製される。バルブシート106は、弁体107のルーメンの周方向に配置される。バルブシート106は、弁体107のルーメンを横断する平面内にも配置され得る。バルブヒンジ107は、閉鎖力が長期間にわたり適正に維持されるように、良好なフレキシビリティーメモリーを有する好適な弾性材料で製造され得る。好適には、かかる弾性材料は、シリコーンである。
【0111】
ボイスプロテーゼ100のシリコーン表面は、ラムノ脂質で被覆され得る。これは、とりわけ有益である。なぜなら、ボイスプロテーゼ100のシリコーン表面、例えばバルブディスク105及びバルブシート106又は管状体101は、バルブシート106に対するバルブディスク105の閉鎖を可能にするように使用時に相互作用するためである。
【0112】
本明細書に開示されるラムノ脂質で被覆され得るボイスプロテーゼ100の他のシリコーン表面は、食道保持フランジ102、気管保持フランジ103及びボイスプロテーゼバルブの少なくとも1つのシーリング表面108の1つ以上である。
【0113】
バルブディスク105上及びバルブシート106上のそれぞれ、とりわけボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ上のラムノ脂質は、バイオフィルム形成のリスク低減を提供し、従ってバルブ機能障害のリスクを低減する。しかしながら、加えて、バルブディスク105上及びバルブシート106上のそれぞれ、とりわけボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ上のラムノ脂質のグリコシルヘッド基は、バルブシート106に固着するバルブディスク105のリスクを低減し、従ってこうした理由で不適正に機能するバルブ部材104のリスクも低減することが分かった。
【0114】
図7bは、気管と食道との間の瘻に取り付けられた、本開示に係るボイスプロテーゼを示す。ボイスプロテーゼは、気管Tと食道Eとの間の気管食道共有壁Pの瘻又は穿刺孔に取り付けられる。食道保持フランジ102は、食道Eに位置し、及び気管保持フランジ103は、気管Tに位置する。
【0115】
具体的な実施形態を参照して本発明を以上で説明してきたが、本明細書に定められる具体的な形態に限定することを意図するものではない。より正確には、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、以上に記載の具体的な実施形態以外の実施形態は、等しくこうした添付の特許請求の範囲内にあり得る。
【実施例】
【0116】
下記では、本開示のデバイス及び方法を例示する実施例が提示される。
【0117】
材料及び方法
ラムノ脂質(R89BSともいわれるR89)の産生
細菌シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)89をバイオサーファクタント産生性株として使用し、蒸溜水1000mL当たり0.7g KH2PO4、0.9g、2g NaNO3、0.4g MgSO4・7H2O、0.1g CaCl2・2H2O及び2mLの微量元素を含有するミネラル塩培地であるジークムント・ワグナー(SW)培地で培養した。微量元素溶液は、2g FeSO4・7H2O、1.5g MnSO4・H2O及び0.6g(NH4)6Mo7O24を1000mL蒸溜水に溶解させることにより調製される。最終ステップでは、pHを6.7にアジャストし、培地をオートクレーブで滅菌する。ラムノ脂質(R89)は、エチルアセテートを用いて酸性化(pH2.4 H2SO4、6M)無細胞上清から抽出される。有機相は、真空条件下で蒸発乾固される。ラムノ脂質粗抽出物の組成(すなわちモノラムノ脂質及びジラムノ脂質のパーセンテージ)は、ESI-MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析)解析により確認可能である。
【0118】
AC7(AC7BSともいわれる)
AC7(バイオサーファクタント、BS)は、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)AC7の培養物から抽出され、以下の実施例で比較化合物として使用された。AC7は、主にサーファクチンで構成される。
【0119】
接触角測定
静的接触角測定は、制御方式で制御体積の水滴を堆積することにより実施された。
【0120】
手短に言えば、静的接触角解析は、自動液滴堆積システム及びソフトウェアOneAttensionソフトウェア(Biolin Scientific,Gothenburg,SE)を備えたAttention Theta機器(Biolin Scientific,Gothenburg,SE)を用いて実施された。測定は、5μL体積の水滴を用いて静的条件で行われ、各タイプのサンプル上に少なくとも3滴が堆積された。
【0121】
静的接触角は、本明細書では接触角ともいわれる。
【0122】
バイオサーファクタントの存在は、シリコーン表面の湿潤性を増加させ、それにより表面の接触角を低下させる。高湿潤性は、湿潤性及び滑性表面に起因して表面への微生物の接着を困難にするため望ましい一方、疎水性表面は、細菌/微生物接着を増強する。
【0123】
微生物学的評価
本明細書に記載の未被覆又はバイオサーファクタント被覆シリコーンサンプル(シリコーンエラストメリックディスク、SED)を1×107CFU/mLの濃度の1mLのS.アウレウス(S.aureus)及びC.アルビカンス(C.albicans)サスペンジョンに液没し、37℃で24、48及び72時間にわたってインキュベートした。S.アウレウス(S.aureus)は、1%(重量/体積)のグルコースが補充されたトリプシンダイズブロス(TSB)中に懸濁させた。C.アルビカンス(C.albicans)は、10%(体積/体積)のウシ胎仔血清が補充されたPBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に懸濁させた。
【0124】
C.アルビカンス(C.albicans)では、90分間のインキュベーション後、フレッシュ培地を含有する新しいプレートにSEDを移した。
【0125】
S.アウレウス(S.aureus)及びC.アルビカンス(C.albicans)では、フレッシュ培地を含有する新しいプレートに24時間ごとにSEDを移した。S.アウレウス(S.aureus)のためのフレッシュ培地は、TSBであり、C.アルビカンス(C.albicans)のためのものは、10%(体積/体積)のウシ胎仔血清が補充された酵母ニトロゲンベースデキストロース(YNBD)ブロスであった。インキュベーション時間の終了時、培地を除去し、SEDをPBSで2回洗浄して非接着性細胞を除去した。
【0126】
24時間、48時間及び72時間後、クリスタルバイオレット染色(バイオマス)及びMTTアッセイ(代謝活性)評価により、バイオサーファクタントの阻害効果を試験した。
【0127】
実験及び結果
A - ラムノ脂質の物理吸着
シリコーンサンプル(シリコーンエラストメリックディスク、SED)をエタノールでクリーン化し、次いで37℃、180rpmで24時間にわたってpH7のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)中のバイオサーファクタント(BS)の溶液(2mg/mL)に浸漬した。バイオサーファクタントは、R89BS又はAC7であった。コントロールSEDは、1mLのPBSのみに浸漬した。BS溶液を吸引し、SEDを乾燥させた。
【0128】
図3aは、未処理シリコーンエラストメリックディスク(SED)(上側曲線)及び物理吸着によりR89BSで被覆されたSED(下側曲線)のATR-FTIRスペクトルを示す。分かるように、物理吸着によりR89BSで被覆されたシリコーンのFTIR-ATRスペクトルでは、吸着C=Oバンドの出現により、シリコーン表面上のR89バイオサーファクタントの存在が確認された。
【0129】
表1から分かるように、物理吸着ラムノ脂質で被覆されたシリコーンディスクは、未被覆シリコーンディスクよりも低い接触角を有する。接触角のこうした減少からラムノ脂質の存在が確認される。なぜなら、ラムノ脂質は、シリコーンの湿潤性に影響を及ぼすためである。
【0130】
【0131】
図3bは、シリコーン(Silicone)、物理吸着AC7を有する未処理シリコーン(Silicone_AC7)及び物理吸着R89(ラムノ脂質)を有する未処理シリコーンの接触角値を示す。表1に示される結果によれば、接触角値は、未処理シリコーンにバイオサーファクタントが物理吸着されたときに減少する。接触角値は、AC7のほうがR89よりも減少する。
【0132】
バイオフィルムプロデューサー病原性株(S.アウレウス(S.aureus)ATCC6538、C.アルビカンス(C.albicans)IHEM2894)に対するシリコーンエラストメリックディスク(SED)上に物理吸着されたAC7(バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)AC7由来のリポペプチド)及びR89の抗バイオフィルム活性のインビトロ評価は、以上に記載のように実施された(微生物学的評価)。
【0133】
2つのバイオサーファクタントは、真菌性バイオフィルム形成を有意に打ち消すことが可能であった。特に、最高バイオフィルム阻害活性は、バイオフィルムバイオマス及び細胞生存能の両方に関して、すべてのインキュベーション時間においてR89で観測され、それぞれ72時間のインキュベーションで61%及び53%の値を有していた(表2a)。
【0134】
【0135】
有意な阻害は、両方のバイオサーファクタントによりS.アウレウス(S.aureus)バイオフィルムで観測された。特に、C.アルビカンス(C.albicans)でも観測されたように、R89は、S.アウレウス(S.aureus)阻害で最も活性な結果をもたらし、72時間のインキュベーション後、バイオフィルムバイオマス及び細胞生存能の阻害は、それぞれ70%及び73%であった(表2b)。
【0136】
そのため、AC7がわずかにより低い接触角値を与えるとはいえ、R89(ラムノ脂質)は、AC7よりも高度に酵母(C.アルビカンス(C.albicans)(表2a))及び細菌(S.アウレウス(S.aureus)(表2b))の両方のバイオフィルム形成を防止することが、表2a及び2bに示される生物学的評価からの結果から明確に示唆される。
【0137】
【0138】
B - 後続バイオサーファクタント吸着を伴うプラズマ処理シリコーンサンプル
バイオサーファクタントの後続吸着のための反応性部位を発生させるために、シリコーンディスクをアルゴンプラズマで処理した(5分間、流量15sccm(標準立方センチメートル/分)、電力100W)。次いで、37℃、140rpmで24時間にわたって0.2%(重量/体積)のAC7又は0.2%(w/v)のR89水溶液にサンプルを浸漬した。
【0139】
図4aは、R89物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_R89)のATR-FTIRスペクトルを示す。分かるように、物理吸着によりR89BSで被覆されたプラズマ処理シリコーンのFTIR-ATRスペクトルでは、吸着C=Oバンドの出現により、シリコーン表面上のR89バイオサーファクタントの存在が確認された。
【0140】
図4bは、シリコーン(Silicone)、アルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P)、AC7物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_AC7)及びR89物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_R89)の接触角値を示す。プラズマ処理は、シリコーンの接触角値を減少させ、そのため、表面は、バイオフィルムを形成しにくくなることが、結果から明確に実証される。さらに、バイオサーファクタントがプラズマ処理シリコーン表面に物理吸着されたとき、シリコーン表面の接触角値は、さらなる減少が可能となることが、
図4bに提示される結果から示される。とりわけ、この効果は、R89(ラムノ脂質)のほうがAC7よりもわずかに強く、そのため、最低接触角値は、プラズマ前処理とR89吸着との組合せにより達成される。結果は、表面の調製直後に測定された。バイオサーファクタント吸着なしのコントロールシリコーンサンプルでは、経時的に接触角が増加する。
【0141】
AC7又はR89で被覆する前にプラズマでシリコーンを前処理することにより、実験A(バイオサーファクタントの物理吸着のみ)と比較して、より低い接触角値が達成される。これは、アルゴンプラズマでシリコーン表面を前処理することにより、後続ステップでより多くのバイオサーファクタントが結合されることを意味する。
【0142】
図4cは、シリコーン(Silicone)、吸着AC7を有するプラズマ処理シリコーンSilicone/P_AC7)及び吸着R89(ラムノ脂質)を有するプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_R89)の表面サンプルのSEM(走査電子顕微鏡法)画像を示す。R89のほうがAC7よりも多くシリコーンに結合されることが明確に分かる。
【0143】
バイオフィルムプロデューサー病原性株(S.アウレウス(S.aureus)ATCC6538、C.アルビカンス(C.albicans)IHEM2894)に対する抗バイオフィルム活性のインビトロ評価は、以上に記載のように実施された(微生物学的評価)。
【0144】
24時間ごとに、SEDは、フレッシュ培地を含有する新しいプレートに移された。インキュベーション時間の終了時、成長培地を除去し、SEDをPBSで2回洗浄して非接着性細胞を除去した。
【0145】
表3a及び3bに見られるように、シリコーン/プラズマ-バイオサーファクタントは、すべての試験株でバイオフィルム形成の有意な阻害を促進した。
【0146】
C.アルビカンス(C.albicans)(表3a)では、バイオフィルム形成の最高阻害は、R89で検出され、且つ活性は、すべてのインキュベーション時間で安定であった。特に、真菌性バイオフィルムのバイオマス及び細胞生存能は、それぞれ72時間のインキュベーションで71%及び74%減少した。
【0147】
【0148】
S.アウレウス(S.aureus)に関する限り(表3b)、バイオフィルム形成の最高阻害は、R89BSで再度検出された。特に、バイオフィルムバイオマス及び細胞生存能は、72時間のインキュベーションで平均して86%阻害された。
【0149】
【0150】
そのため、アルゴンプラズマ処理シリコーン表面に物理吸着されたR89(ラムノ脂質)は、AC7よりも高度に酵母(C.アルビカンス(C.albicans)(表2a))及び細菌(S.アウレウス(S.aureus)(表2b))の両方のバイオフィルムの形成を防止することが、表3a及び3bに示される生物学的評価からの結果から明確に示される。このことから、ラムノ脂質は、シリコーン表面上でのバイオフィルムの形成を防止するうえでAC7よりも有効であることが示唆される。
【0151】
C - プラズマ処理シリコーン表面上へのバイオサーファクタントの共有結合性グラフト化
アルゴンの真空プラズマ放電で前処理されたシリコーン基材を、エタノール(5%v/v)中の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の溶液に室温で30分間浸漬し、続いてエタノールで濯いだ。続いて、サンプルを100℃で20分間硬化させた。シリコーン表面上へのBSの共有結合性グラフト化は、カルボジイミド化学を介して達成された。簡潔に述べると、1mLのバイオサーファクタント水溶液(4mg/mL)と、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(4/1)を含有する1mLの水溶液(pH5.5)とを4℃で1時間混合した。次いで、1N NaOHを滴下することにより、pHを7.4に上昇させた。APTES(又はシクロプロピルアミン)変性シリコーン基材を1mLバイオサーファクタント活性化溶液に5℃で24時間浸漬し、次いで蒸溜水を用いて3回洗浄し、真空下において室温で一晩乾燥させた。
【0152】
図5aは、未処理シリコーン(Silicone)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン上に共有結合でグラフトされたR89(Silicone/P_A_R89)のATR-FTIRスペクトルを示す。分かるように、Silicone/P_A_R89のFTIR-ATRスペクトルは、R89に帰属可能な吸着バンドを示さなかった。これは、おそらく、ATR-FTIR機器の感度が原因である(2~5μm)。すなわち、共有結合性グラフト化は、物理吸着と比較してより少量のバイオサーファクタントを可能にする。
【0153】
図5bは、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン上に共有結合でグラフトされたAC7(Silicone/P_A_AC7)のATR-FTIRスペクトルを示す。分かるように、Silicone/P_A_AC7のFTIR-ATRスペクトルは、AC7に帰属可能な吸着バンドを示さなかった。これは、おそらく、ATR-FTIR機器の感度が原因である(2~5μm)。すなわち、共有結合性グラフト化は、物理吸着と比較してより少量のバイオサーファクタントを可能にする。
【0154】
図5cは、シリコーン(Silicone)、アルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A_AC7)、APTES重合と共有結合性グラフト化AC7とを有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A_AC7)及びAPTES重合と共有結合性グラフト化R89とを有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A_R89)の接触角値を示す。このデータは、以下の表4aにも提示される。
【0155】
プラズマ処理シリコーンサンプル(Silicone/P)の接触角値は最低であるが、この結果は、経時安定性がなく、何時間か以内に増加する。これは
図5dに示される。そのため、4~5時間後、静的接触角は約80°に増加した。これは、プラズマで処理され且つ物理吸着により又は共有結合性グラフト化によりR89で被覆されたシリコーンの接触角よりも高い。
【0156】
【0157】
共有結合性グラフト化は、物理吸着と比較してより少量の結合バイオサーファクタントを可能にする。しかしながら、共有結合性グラフト化を介してAPTES及びR89で被覆されたプラズマ処理シリコーンサンプルの接触角値が、物理吸着を介してR89で被覆されたシリコーンサンプルのもの(
図3bを参照されたい)よりも低いことから分かるように、共有結合性グラフト化R89の結合は、より強くより安定である。さらに、共有結合性グラフト化により、この場合、カルボジイミド化学により、結合されたバイオサーファクタントは、物理吸着バイオサーファクタントよりも経時的に安定に結合される。そのため、APTESで被覆されたプラズマ処理シリコーン表面へのラムノ脂質の共有結合結合は、シリコーン表面上でのバイオフィルムの形成を経時的に防止する安定したコーティングを与えることが明確に示された。
【0158】
バイオフィルムプロデューサー病原性株(S.アウレウス(S.aureus)ATCC6538、C.アルビカンス(C.albicans)IHEM2894)に対する抗バイオフィルム活性のインビトロ評価は、以上に記載のように実施された(微生物学的評価)。
【0159】
【0160】
表4bから分かるように、APTES変性シリコーン/Pディスク上へのR89共有結合性グラフト化は、72時間のインキュベーションまで抗バイオフィルム活性の維持を可能にした。C.アルビカンス(C.albicans)バイオフィルム形成は、バイオマス及び代謝活性に関して、それぞれ最後の時点(72時間)で80%及び78%低減された。
【0161】
S.アウレウス(S.aureus)バイオフィルムのバイオマス及び代謝活性は、それぞれ72時間で98%及び93%低減された(表4cを参照されたい)。
【0162】
これらの変性表面の効果は、経時的に一定であったか又はさらに漸増的であった。
【0163】
結論として、共有結合性グラフト化R89を有するSEDでは、未被覆コントロールと比較して、バイオマス及び細胞代謝活性が減少されることが、結果から示される。さらに、バイオフィルム形成の低減効果は、物理吸着ラムノ脂質を有するシリコーン表面(表2a及び2b)よりも、さらにまた物理吸着ラムノ脂質を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン表面(表3a及び3b)よりも大きい。
【0164】
【0165】
そのため、アルゴンプラズマで前処理されたAPTES変性シリコーン表面上にラムノ脂質を共有結合でグラフトすることにより、バイオフィルムを形成しにくいシリコーン表面を達成可能であることが明確に示される。
【0166】
D - さらなる比較例
図6は、シリコーン(Silicone)、APTES重合を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_A)、AC7物理吸着を有するアルゴンプラズマ処理シリコーン(Silicone/P_AC7)のATR-FTIRスペクトルである。分かるように、ATR-FTIR解析では、シリコーン表面上のAPTESの重合は確認されたが、AC7に帰属可能な吸着バンドは、機器感度に起因して提示されない。
【0167】
E - プラズマ処理シリコーン表面上のアミノ基の数
シリコーン表面上にアミノ基を導入する異なる方法の効果を調べた。
【0168】
真空チャンバー中でのアルゴンプラズマ放電によるシリコーンサンプルの前処理(20Wで20秒間)、続いて30分間の時間にわたるエタノール中の(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーの溶液(5%(体積/体積)のAPTES)中への浸漬により、試験サンプルAを調製した。その後、サンプルをエタノールで濯ぎ、20分間の時間にわたって100℃で硬化させ、それにより、APTESコーティングを安定化させた。
【0169】
連続波モダリティーで真空チャンバー中においてアルゴンプラズマ放電でシリコーンサンプルを前処理することにより(20Wで1分間)、試験サンプルBを調製した。真空チャンバー中のまま、液状モノマーを沸点近くまで加熱することにより得られたAPTESモノマー蒸気にシリコーンサンプルを曝した。1分間にわたり20W、30sccmアルゴン流量及び20ccm APTESモノマー蒸気流量においてパルス波モダリティーで真空プラズマ放電を介して、シリコーン表面上でのAPTESモノマーの重合を実施した。
【0170】
連続波モダリティーで真空チャンバー中においてアルゴンプラズマ放電でシリコーンサンプルを前処理することにより(20Wで1分間)、試験サンプルCを調製した。真空チャンバー中のまま、アルゴンガスを液状モノマーに通してフラッシュし「バブル」することにより得られたAPTESモノマー蒸気にシリコーンサンプルを曝した。1分間にわたり20W、30sccmアルゴン流量及び20ccm APTESモノマー蒸気流量においてパルス波モダリティーで真空プラズマ放電を介して、シリコーン表面上でのAPTESモノマーの重合を実施した。
【0171】
シリコンサンプルの表面上のアミノ基の数をアシッドオレンジアッセイにより測定した。手短に言えば、0.175mg/mLの濃度のアシッドオレンジII(以下の式I)の酸性水溶液(pH=3)にサンプルを一晩浸漬した。この時間の間、シリコン表面上に存在するアミノ基は、1:1の比でアシッドオレンジII(AO)の分子に結合した。
【化1】
【0172】
その後、サンプルをpH3水溶液で濯ぎ、30分間にわたり塩基性脱離溶液(pH=12の水溶液)中に浸漬した。こうして、アミノ基と反応したAO分子は、すべて溶液中に放出された。AO、従ってアミノ基の定量のために、脱離溶液を96ウェルマイクロタイタープレートにサンプリングし、Varioskan(商標)LUXマルチモードマイクロプレートリーダーにより485nmで吸光度を測定した。事前に作成した異なるAO濃度(0.000313mg/mL~0.025mg/mLの範囲)を有する検量線を用いて、サンプルから放出されたAOの量、従ってサンプル上に存在するアミノ基の数を定量した。
【0173】
結果は、以下の表5に示される。
【0174】
【0175】
サンプルA(前処理シリコン表面がエタノール中のAPTESの溶液に曝されたもの)及びサンプルC(前処理表面がアルゴンガスを液状モノマーに通すことにより得られたAPTESモノマー蒸気に曝され、真空プラズマ放電を介してAPTESモノマーの重合が実施されたもの)は、サンプルB(前処理表面が液状モノマーを沸点近くまで加熱により得られたAPTESモノマー蒸気に曝され、真空プラズマ放電を介してAPTESモノマーの重合が実施されたもの)と比較して、より高密度のアミノ基を表面上に生成した。
【0176】
そのため、サンプルA、B又はCのように処理された表面にラムノ脂質を共有結合したとき、高表面密度のラムノ脂質が達成される。具体的には、サンプルA又はCのように処理された表面にラムノ脂質を共有結合したとき、特に高い表面密度のラムノ脂質が達成される。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0176
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0176】
そのため、サンプルA、B又はCのように処理された表面にラムノ脂質を共有結合したとき、高表面密度のラムノ脂質が達成される。具体的には、サンプルA又はCのように処理された表面にラムノ脂質を共有結合したとき、特に高い表面密度のラムノ脂質が達成される。
《態様1》
不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスであって、前記不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、医療デバイス。
《態様2》
前記ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み、好ましくは、前記ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する、態様1に記載の医療デバイス。
《態様3》
前記ラムノ脂質は、前記不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部に共有結合されている、態様1又は2に記載の医療デバイス。
《態様4》
前記ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して前記表面に共有結合されている、態様1~3のいずれか一つに記載の医療デバイス。
《態様5》
前記リンカーは、
-O-Si-(CH
2
)
3
-N-CO-、又は
-O-(CH
2
)
3
-N-CO-
である、態様4に記載の医療デバイス。
《態様6》
ラムノ脂質の表面密度は、4.5×10
15
ラムノ脂質/cm
2
超、例えば5×10
15
ラムノ脂質/cm
2
超、例えば6×10
15
ラムノ脂質/cm
2
超、例えば7×10
15
ラムノ脂質/cm
2
超、例えば8×10
15
ラムノ脂質/cm
2
超である、態様1~5のいずれか一つに記載の医療デバイス。
《態様7》
ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくはボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダーである、態様1~6のいずれか一つに記載の医療デバイス。
《態様8》
ボイスプロテーゼ(100)、好ましくはボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼであり、好ましくは、ラムノ脂質で被覆された前記シリコーン表面は、前記ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ及び/又は少なくとも1つの保持フランジ(102、103)を含む、態様1~7のいずれか一つに記載の医療デバイス。
《態様9》
不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆する方法であって、
1)遊離アミノ基を導入することにより、被覆される前記シリコーン表面を活性化するステップと、
2)前記シリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させるステップと
を含む方法。
《態様10》
ステップ1)は、
- 被覆される前記表面を(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーに曝すこと
を含む、態様9に記載の方法。
《態様11》
ステップ1)は、
- 被覆される前記シリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、
- 被覆される前記シリコーン表面を(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に曝すステップと、
任意選択的に、
- 被覆される前記シリコーン表面を50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップと
を含む、態様9又は10に記載の方法。
《態様12》
ステップ1)は、
- 被覆される前記シリコーン表面を、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーと組み合わせたアルゴン又はシクロプロピルアミンモノマーと組み合わせたアルゴンの大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、
任意選択的に、
- 被覆される前記シリコーン表面を90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップと
を含む、態様9又は10に記載の方法。
《態様13》
ステップ1)後、アミノ基の表面密度は、6×10
15
アミノ基/cm
2
超、例えば7×10
15
アミノ基/cm
2
超、例えば8×10
15
アミノ基/cm
2
超である、態様9~12のいずれか一つに記載の方法。
《態様14》
ステップ2)は、カルボジイミド化学を用いて実施される、態様9~13のいずれか一つに記載の方法。
《態様15》
ステップ2は、
2a)pH4.5~6、好ましくはpH5.5において、ラムノ脂質の水溶液を、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを含む水溶液と混合するステップと、
2b)NaOHの添加により、前記pHを7.4に増加させるステップと、
2c)被覆される前記シリコーン表面を、ステップ2b)で得られた混合物に1~24時間、好ましくは8~16時間、より好ましくは10~14時間、例えばおよそ12時間にわたって4~25℃の温度において曝すステップと
を含む、態様9~14のいずれか一つに記載の方法。
《態様16》
3)ステップ2)後に得られた前記被覆シリコーン表面を蒸溜水で濯ぐステップと、
4)真空下において室温で前記被覆シリコーン表面を乾燥させるステップと
をさらに含む、態様9~15のいずれか一つに記載の方法。
《態様17》
前記ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み、好ましくは、前記ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する、態様9~16のいずれか一つに記載の方法。
《態様18》
前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼ(100)、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくは、前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ又は気管切開スピーキングバルブのためのホルダーであり、より好ましくは、前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼ(100)であり、さらにより好ましくは、ラムノ脂質で被覆された前記シリコーン表面は、前記ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面(108)の少なくとも1つ及び/又は前記ボイスプロテーゼの保持フランジ(102、103)の少なくとも1つを含む、態様9~17のいずれか一つに記載の方法。
《態様19》
気管と食道との間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼ(100)であって、
- ルーメンを有する管状体(101)、
- 前記管状体(101)の前記ルーメンに配置されたバルブディスク(105)及びバルブシート(106)であって、前記バルブディスク(105)と前記バルブシート(106)との間の相互作用により、前記ルーメンを通した連通を制御するバルブディスク(105)及びバルブシート(106)
を含み、前記ボイスプロテーゼ(100)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、ボイスプロテーゼ(100)。
《態様20》
前記管状体(101)は、遠位及び近位軸方向端を含み、前記近位端は、食道保持フランジ(102)を備え、及び前記遠位端は、気管保持フランジ(103)を備え、前記管状体(101)、前記食道保持フランジ(102)及び/又は前記気管保持フランジ(103)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、態様19に記載のボイスプロテーゼ(100)。
《態様21》
前記管状体(101)、前記食道保持フランジ(102)及び/又は前記気管保持フランジ(103)は、シリコーンで作製され、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている、態様20に記載のボイスプロテーゼ(100)。
《態様22》
前記バルブディスク(105)及び/又は前記バルブシート(106)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、態様19~21のいずれか一つに記載のボイスプロテーゼ(100)。
《態様23》
前記バルブディスク(105)及び/又は前記バルブシート(106)は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている、態様22に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスであって、前記不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、医療デバイス。
【請求項2】
前記ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み、好ましくは、前記ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記ラムノ脂質は、前記不規則及び/又は湾曲シリコーン表面の少なくとも一部に共有結合されている、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記ラムノ脂質は、アミド結合を含むリンカーを介して前記表面に共有結合されている、請求項
1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記リンカーは、
-O-Si-(CH2)3-N-CO-、又は
-O-(CH2)3-N-CO-
である、請求項4に記載の医療デバイス。
【請求項6】
ラムノ脂質の表面密度は、4.5×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば5×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば6×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば7×1015ラムノ脂質/cm2超、例えば8×1015ラムノ脂質/cm2超である、請求項
1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項7】
ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくはボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダーである、請求項
1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項8】
ボイスプロテーゼ(100)、好ましくはボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼであり、好ましくは、ラムノ脂質で被覆された前記シリコーン表面は、前記ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面108の少なくとも1つ及び/又は少なくとも1つの保持フランジ(102、103)を含む、請求項
1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項9】
不規則及び/又は湾曲シリコーン表面を有する医療デバイスをラムノ脂質で被覆する方法であって、
1)遊離アミノ基を導入することにより、被覆される前記シリコーン表面を活性化するステップと、
2)前記シリコーン表面にラムノ脂質を共有結合させるステップと
を含む方法。
【請求項10】
ステップ1)は、
- 被覆される前記表面を(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーに曝すこと
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ1)は、
- 被覆される前記シリコーン表面を大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、
- 被覆される前記シリコーン表面を(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマー又はシクロプロピルアミンモノマーの溶液に曝すステップと、
任意選択的に、
- 被覆される前記シリコーン表面を50~150℃、例えば70~130℃、例えば80~120℃、好ましくは90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップと
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ1)は、
- 被覆される前記シリコーン表面を、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)モノマーと組み合わせたアルゴン又はシクロプロピルアミンモノマーと組み合わせたアルゴンの大気又は真空プラズマ放電に曝すステップと、
任意選択的に、
- 被覆される前記シリコーン表面を90~110℃、例えば95~105℃、さらにより好ましくはおよそ100℃の温度に5~45分間、好ましくは10~30分間、例えば15~25分間、さらにより好ましくはおよそ20分間の時間にわたって曝すステップと
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
ステップ1)後、アミノ基の表面密度は、6×1015アミノ基/cm2超、例えば7×1015アミノ基/cm2超、例えば8×1015アミノ基/cm2超である、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項14】
ステップ2)は、カルボジイミド化学を用いて実施される、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項15】
ステップ2は、
2a)pH4.5~6、好ましくはpH5.5において、ラムノ脂質の水溶液を、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びN-ヒドロキシスクシンイミドを含む水溶液と混合するステップと、
2b)NaOHの添加により、前記pHを7.4に増加させるステップと、
2c)被覆される前記シリコーン表面を、ステップ2b)で得られた混合物に1~24時間、好ましくは8~16時間、より好ましくは10~14時間、例えばおよそ12時間にわたって4~25℃の温度において曝すステップと
を含む、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項16】
3)ステップ2)後に得られた前記被覆シリコーン表面を蒸溜水で濯ぐステップと、
4)真空下において室温で前記被覆シリコーン表面を乾燥させるステップと
をさらに含む、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項17】
前記ラムノ脂質は、70~85%(重量/重量)、好ましくは75%(重量/重量)のモノラムノ脂質と、15~30%(重量/重量)、好ましくは25%(重量/重量)のジラムノ脂質とを含み、好ましくは、前記ラムノ脂質は、少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度を有する、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項18】
前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼ(100)、気管切開スピーキングバルブ、気管切開スピーキングバルブのためのホルダー、鼻涙管のためのシリコーンチューブ、鼓膜耳チューブ、乳房インプラント、鼻インプラント、胃バンド、関節インプラント、臀部インプラント若しくは骨盤メッシュ又は導尿カテーテルであり、好ましくは、前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼ、気管切開スピーキングバルブ又は気管切開スピーキングバルブのためのホルダーであり、より好ましくは、前記医療デバイスは、ボイスプロテーゼバルブを含むシリコーンボイスプロテーゼ(100)であり、さらにより好ましくは、ラムノ脂質で被覆された前記シリコーン表面は、前記ボイスプロテーゼバルブのシーリング表面(108)の少なくとも1つ及び/又は前記ボイスプロテーゼの保持フランジ(102、103)の少なくとも1つを含む、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項19】
気管と食道との間の瘻に取り付けるためのボイスプロテーゼ(100)であって、
- ルーメンを有する管状体(101)、
- 前記管状体(101)の前記ルーメンに配置されたバルブディスク(105)及びバルブシート(106)であって、前記バルブディスク(105)と前記バルブシート(106)との間の相互作用により、前記ルーメンを通した連通を制御するバルブディスク(105)及びバルブシート(106)
を含み、前記ボイスプロテーゼ(100)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、ボイスプロテーゼ(100)。
【請求項20】
前記管状体(101)は、遠位及び近位軸方向端を含み、前記近位端は、食道保持フランジ(102)を備え、及び前記遠位端は、気管保持フランジ(103)を備え、前記管状体(101)、前記食道保持フランジ(102)及び/又は前記気管保持フランジ(103)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、請求項19に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【請求項21】
前記管状体(101)、前記食道保持フランジ(102)及び/又は前記気管保持フランジ(103)は、シリコーンで作製され、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている、請求項20に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【請求項22】
前記バルブディスク(105)及び/又は前記バルブシート(106)の少なくとも一部は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンの少なくとも一部は、ラムノ脂質で被覆されている、請求項
19又は20に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【請求項23】
前記バルブディスク(105)及び/又は前記バルブシート(106)は、シリコーンを含み、及び前記シリコーンは、ラムノ脂質で被覆されている、請求項22に記載のボイスプロテーゼ(100)。
【国際調査報告】