(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】有利なN-ヘテロ環式カルベン触媒の合成方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20240403BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240403BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240403BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20240403BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C07D487/04 139
B01J37/16
B01J37/04 102
B01J31/02 103Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565444
(86)(22)【出願日】2022-04-16
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 US2022025147
(87)【国際公開番号】W WO2022225825
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523400909
【氏名又は名称】エックスエフ テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】カハナ,アヴィアド
(72)【発明者】
【氏名】ファローネ,ウィリアム,エー.
【テーマコード(参考)】
4C050
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB06
4C050CC04
4C050EE03
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH01
4G169AA06
4G169AA08
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA21C
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE17A
4G169BE17B
4G169BE22A
4G169BE22B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169FB43
4G169FC07
4G169FC10
4H039CA66
4H039CJ90
(57)【要約】
本発明は、2-メチルアニリン、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド又は2-メチルフェニルヒドラジンから調製される様々な塩形態のトリアゾリウムN-ヘテロ環式カルベン(NHC)触媒の塩の合成に関する。このように調製された分子は、カルベン反応の触媒反応に有用であり、塩素化又はフッ素化中間体がなく、最終構造に塩素又はフッ素がないため有利である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒塩の合成方法であって、(a)2-メチルアニリンを水性塩酸と接触させて、塩化アミンを形成すること;(b)溶液中で前記塩化アミンをジアゾ化試薬と接触させて、塩化ジアゾニウム塩を形成すること;(c)還元剤を添加して、前記塩化ジアゾニウム塩を2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドへと変換すること;(d)濾過して、前記2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドを固体として回収すること;(e)前記回収した2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド塩を水性塩基と接触させて、遊離2-メチルフェニルヒドラジンを形成すること;(f)前記水性塩基溶液から前記2-メチルフェニルヒドラジンを有機溶媒によって抽出して、前記有機溶媒中の前記2-メチルフェニルヒドラジンの溶液を提供すること;(g)乾燥剤の添加により2-メチルフェニルヒドラジンの前記溶液を乾燥すること;(h)濾過により前記乾燥剤を除去すること;(i)前記乾燥2-メチルフェニルヒドラジン溶液を、2-ピロリジン及びジメチルスルフェートの反応生成物と接触させて、式2のイミノヒドラゾンを有機溶媒中で生成すること;(j)式2の前記イミノヒドラゾンの前記溶液を蒸留して過剰の溶媒を除去すること;(k)式2の前記イミノヒドラゾンを固体塩として回収すること;(l)式2の前記イミノヒドラゾン塩を有機溶媒及びトリメチルオルトホルメートと接触させて、式1の前記N-ヘテロ環式カルベン触媒のメチルスルフェート塩を生成すること;(m)式1の前記N-ヘテロ環式カルベン触媒を塩として回収することを含む方法。
【請求項2】
前記ジアゾ化試薬が亜硝酸ナトリウム(NaNO2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が二塩化第一スズである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)、(b)及び(c)の温度が、前記反応器全体にわたって、約0℃~約5℃で、250cc容量増分を意味する局所的に、維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(i)の温度が約60℃~約80℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(l)の温度が約80℃~約100℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(f)、(i)及び(l)の前記溶媒が芳香族炭化水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(f)、(i)又は(l)の前記溶媒が、トルエン、キシレンの混合物、m-キシレン、o-キシレン、p-キシレンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記合成が、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドを用いるステップ(e)から開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記合成が、2-メチルフェニルヒドラジンを使用するステップ(i)から開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(d)の後の前記濾液から、水酸化物塩基によって中和し、水酸化第二スズを生成し、これをその後濾過し、乾燥させて、スズへの再加工のための酸化第二スズ(SnO2)を製造し、その後二塩化第一スズを製造することによってスズ塩を回収する、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、2-メチルアニリン、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド又は2-メチルフェニルヒドラジンから調製される種々の塩形態のトリアゾリウムN-ヘテロ環式触媒の塩の合成に関する。そのように調製された分子は、カルベン反応の触媒反応に有用であり、それらには塩素化又はフッ素化された中間体がなく、また最終構造中に塩素又はフッ素がないため、生分解性が向上し、毒性が低減する点で有利である。
【背景技術】
【0002】
背景技術
N-ヘテロ環式カルベン(NHC)触媒は、種々の化学反応において有用であることが示されている。再生可能な供給原料から汎用化学物質を製造することは、持続可能なグリーンケミストリーの分野における継続的な優先事項である。生分解性であり、毒性が低く、商業的規模で合成するために経済的である触媒を用いて触媒的に操作する化学プロセスは、持続可能性のために非常に望ましい。
【0003】
そのような触媒の有用性は、5-(クロロメチル)-2-フラアルデヒドから製造される5-メチル-2-フロイン酸誘導体の合成における使用によって例示される。この有用性は、米国特許第8,710,250号及び米国特許第9,108,940号に詳細に議論されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
NHC触媒は、反応中、カルベンと標的化される試薬との間で循環することによって機能する。このリサイクルにより、少量の触媒で大量の生成物を高収率で合成することができる。触媒は基質に結合し、反応のために求電子炭素を求核炭素に変換し、その後、再び機能を果たすために放出される。
【0005】
NHC触媒の経済的価値は、反応に必要な試薬に対する触媒の比率、及び副反応又は副生成物反応を含む全体の収率に関連する。本発明の実施形態は、米国特許第8,710,250号及び米国特許第9,108,940号に記載されているような反応において驚くほど高い収率を可能にすることが見出されているNHCの合成及び使用のための方法を提供する。記載された合成手順は、塩素又はフッ素を含まない容易に入手可能な化合物からNHC触媒を製造し、したがって触媒及び合成プロセスを環境的に好ましいものにさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
例示的な一実施形態において、本発明は、2-メチルアニリンから出発する一連のステップを通して、式1(
図1)のNHC触媒を調製する方法を提供する。この方法は、(a)化学物質が接触する場所を含めて局所的に(例えば、250cc容量)温度を0~5℃に維持しながら、2-メチルアニリンを水性塩酸と接触させて、塩化アミンを形成すること;(b)化学物質が接触する場所を含めて局所的に(例えば、250cc容量)温度を0~5℃に維持しながら、溶液中で塩化アミンをジアゾ化試薬と接触させて、塩化ジアゾニウム塩を形成すること;(c)化学物質が接触する場所を含めて局所的に(例えば、250cc容量)温度を0~5℃に維持しながら、還元剤を添加して、塩化ジアゾニウム塩を2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドへと変換すること;(d)濾過して、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド塩を固体として回収すること;(e)回収した2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド塩を水性塩基と接触させて、遊離2-メチルフェニルヒドラジンを形成すること;(f)水性塩基溶液から2-メチルフェニルヒドラジンを有機溶媒によって抽出して、有機溶媒中の2-メチルフェニルヒドラジンの溶液を提供すること;(g)乾燥剤の添加により2-メチルフェニルヒドラジンの溶液を乾燥すること;(h)濾過により乾燥剤を除去すること;(i)乾燥2-メチルフェニルヒドラジン溶液を、2-ピロリジン及びジメチルスルフェートの反応生成物と接触させて、式2のイミノヒドラゾン(
図2)を有機溶媒中で生成すること;(j)式2のイミノヒドラゾンの溶液を蒸留して過剰の溶媒を除去すること;(k)式2のイミノヒドラゾンを塩として回収すること;(l)式2のイミノヒドラゾン塩を有機溶媒及びトリメチルオルトホルメートと接触させて、式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒のメチルスルフェート塩を生成すること;(m)式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒を塩として回収することを含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
例示的な一実施形態において、本発明は、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドから出発する一連のステップを通して、式1のNHC触媒を調製する方法を提供する。この方法は、(a)2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド塩を水性塩基と接触させて、遊離2-メチルフェニルヒドラジンを形成すること;(b)水性塩基溶液から2-メチルフェニルヒドラジンを有機溶媒によって抽出して、有機溶媒中の2-メチルフェニルヒドラジンの溶液を提供すること;(c)乾燥剤の添加により2-メチルフェニルヒドラジンの溶液を乾燥すること;(d)濾過により乾燥剤を除去すること;(e)乾燥2-メチルフェニルヒドラジン溶液を、2-ピロリジン及びジメチルスルフェートの反応生成物と接触させて、式2のイミノヒドラゾンを有機溶媒中で生成すること;(f)式2のイミノヒドラゾンの溶液を蒸留して過剰の溶媒を除去すること;(g)式2のイミノヒドラゾンを塩として回収すること;(h)式2のイミノヒドラゾン塩を有機溶媒及びトリメチルオルトホルメートと接触させて、式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒のメチルスルフェート塩を生成すること;(i)式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒を塩として回収することを含む。
【0008】
例示的な一実施形態において、本発明は、2-メチルフェニルヒドラジンから出発する一連のステップを通して、式1のNHC触媒を調製する方法を提供する。この方法は、(a)2-メチルフェニルヒドラジン溶液を、2-ピロリジン及びジメチルスルフェートの反応生成物と接触させて、式2のイミノヒドラゾンを有機溶媒中で生成すること;(b)式2のイミノヒドラゾンの溶液を蒸留して過剰の溶媒を除去すること;(c)式2のイミノヒドラゾンを塩として回収すること;(d)式2のイミノヒドラゾン塩を有機溶媒及びトリメチルオルトホルメートと接触させて、式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒のメチルスルフェート塩を生成すること;(e)式1のN-ヘテロ環式カルベン触媒を塩として回収することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面の簡単な説明
【
図2】式1の分子のイミノヒドラゾン前駆体である式2の分子を示す。
【
図3】2-メチルアニリンヒドロクロリドを製造するための2-メチルアニリンと塩酸との反応を示す。
【
図4】ジアゾニウム塩を製造するための2-メチルアニリンヒドロクロリドと亜硝酸ナトリウム及び塩酸との反応を示す。
【
図5】2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドを製造するためのジアゾニウム塩と塩化第一スズ及び塩酸との反応を示す。
【
図6】2-メチルフェニルヒドラジンを製造するための2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドと水酸化ナトリウムとの反応を示す。
【
図7】イミノヒドラゾンの中間前駆体を製造するための2-ピロリジンとジメチルスルフェートとの反応を示す。
【
図8】イミノヒドラゾンを製造するための中間体前駆体と2-メチルフェニルヒドラジンとの反応を示す。
【
図9】所望の式1のNHCを製造するためのイミノヒドラゾンとトリメチルオルトホルメートとの反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
以下に記載される詳細な説明は、本発明の例示的な実施形態の説明として意図され、本発明が構築又は利用されることができる唯一の形態を表すことを意図しない。本明細書は、本発明を構築及び操作するための例示的な機能及び一連のステップを明らかにする。本方法は多くのステップから構成されるため、異なる実施形態によって同一又は同等の機能及び一連を達成することができ、それらは本発明の範囲内に包含されることが意図されることを理解されたい。例えば、本発明では、さらなるステップで利用するために中間化学物質を回収する点がある。これにより、異なるサイズ容量の装置を後続のステップで使用することができ、中間的に収集された化学物質の純度及び品質を評価することができる。さらなる例として、純度レベルを考慮して成分の相対重量を変化させることができる。
【0011】
中間化学物質を貯蔵する能力に基づいて、本方法のステップを段階ごとにグループ化することができる。第1段階では、
図3~5に示される反応から2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドが製造される。第2段階では、
図6に示される反応から2-メチルフェニルヒドラジンが製造される。第3段階では、
図7~8に示される反応からイミノヒドラゾン前駆体が製造される。第4段階ではNHC触媒が製造される(
図9)。各段階は、個々の反応器及び関連装置で起こる可能性がある操作を含む。
【0012】
式1のNHCを製造する方法は、商業的経済性及びそれらの利用可能性次第で、3種の異なる出発化学物質から進行することができる。3種の可能性のある出発化学物質は、2-メチルアニリン(4段階全てを必要とする)、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリド(第2段階~第4段階を必要とする)及び2-メチルフェニルヒドラジン(第3段階~第4段階を必要とする)である。2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドは、2-メチルアニリンから製造することができ、続いて2-メチルフェニルヒドラジンは、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドから製造することができる。
【0013】
一連の連続的な化学反応を含む方法は、各ステップにおいて最適化された収率から利益がもたらされる。好ましい収率、最高品質及び最大の柔軟性のために、この方法は好ましくは2-メチルアニリンから出発して実施される。2-メチルアニリンから2-メチルフェニルヒドラジンに至る一連の反応(
図3~6、第1段階及び第2段階)は、Emil Fischer,“Ueber aromtatische Hydrazinverbindigen”, Berichte der deutscen chemischen Gesellschaft, 8, 589-594により1875年の早い時期に最初に報告された、アニリンからのフェニルヒドラジンの合成に関連しており、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。このようなプロセスにおける変形は、関連化合物を製造するために商業的に使用されている。本発明のステップは、化学構造の違い、高収率の必要性、及びより環境的に好ましいプロセスへの要望のために、参考文献のものとは大きく異なっている。2-メチルアニリンから出発する現行の方法における反応は発熱性が高く、発生する熱によって反応シーケンス中の中間体が破壊され、収率の低下、不純物の混入、コストの上昇を招く可能性がある。第1段階及び第2段階の化学物質は、品質及びコストの両面で現行法の技術によって製造するのが望ましい。
【0014】
第1段階の説明
第1段階(
図3~5)において、所望の化学物質の量が増加するにつれて、温度が約0~5℃の範囲に留まるように反応容器からの熱伝達を厳密に制御することが有用であり得る。温度がその範囲を上回ると、収率及び生成物の純度が劇的に低下する。温度がその範囲より低いと反応が遅くなり、反応速度を維持するのが難しくなる。反応速度を維持するために、
図3の反応で2-メチルアニリンを約45~50分で添加することができ、添加開始から1時間で反応を完了させることができる。
図4の反応におけるNaNO
2の添加は、約45~50分で添加し、添加開始から2時間で反応を完了させることができる。SnCl
2を用いた還元反応は2時間で完了し、添加開始から3時間で反応を完了させることができる。これらの速度及び時間を維持できない冷却システムは、収率を低下させる可能性がある。また、化学物質の添加部位で局所的に発生する熱は、バルク温度が範囲内であっても劣化を引き起こす可能性がある。反応速度論に関するこれらの問題を回避するために、特に大型容器における撹拌及び熱伝達は、局所的反応混合が所望の添加速度に一致する速度で熱を除去できる冷却面の近くにあるような内部冷却を有することが好ましい。反応は塩酸媒体中で起こり、ほとんどの金属と反応しうる反応性の高い中間体を含むため、構造材料は慎重に選択されなければならない。金属冷却コイル或いはチタン又はハステロイ金属コイルに高分子材料を薄くコーティングすること、を使用することができる。
【0015】
第1段階(
図5)の生成物は、濾過によって回収される。その後、さらなる段階で使用するために真空乾燥することができる。真空乾燥には、真空ポンプ又は大気に達する塩酸煙を除去するためのエアスクラビングを含めることができる。濾液はSn(Cl)
4を高濃度で含む。Snを回収するため、濾液を水酸化ナトリウム水溶液でpH約7.5まで中和することができ、この時にSn(OH)
4が沈殿し、残留水は10mg/L(ppm)より十分低いSn含有量を有する。その後、このSn(OH)
4を乾燥させてSnO
2とし、スズ金属を製造するための原料とすることができる。この再処理は環境にやさしく、コスト効率も高い。第1段階で使用できる代替還元剤は重亜硫酸ナトリウムである。この還元剤は、アニリンからフェニルヒドラジンを製造する際に使用される。これは、SnCl
2では必要とされない長い加熱ステップを必要とし、現在のところ経済的にリサイクル可能ではない。
【0016】
0.2グラム-モル(24.4グラム)までの製造に適切なサイズの典型的な第1段階の反応では、磁気撹拌機を取り付けた1リットルの反応フラスコを使用する。1リットルのレベルでは、-10℃の流体で内部冷却した場合、線形低密度ポリエチレン管内に密接に含まれる304ステンレス鋼の内部コイルを使用し、所望の添加率及び反応温度範囲を維持することができる。フラスコも同一流体で冷却される。反応の大部分は0℃で行われ、反応は0~5℃の範囲に維持され、好ましくは反応完了後まで5℃を超えない。フラスコに濃HCl 128mL及び水72mLを添加する。その後の添加は全て、撹拌機近くの反応器内の液面下で行う。温度が約0℃に達したら、0~5℃に予冷した21.4グラムの2-メチルアニリンを、0~5℃の範囲を維持しながら約50分かけてゆっくりと添加することができる。塩化アミンの形成のために、さらに10分(経過時間1時間)が許容される。次に、32mLの水中13.8グラムの亜硝酸ナトリウム、NaNO2の予冷溶液(0~5℃)を、0~5℃の範囲を維持しながら約50分かけて添加する。反応は次の70分で完了し、これはNaNO2の添加開始から2時間である。60mLの31重量%HCl及び140mLの水(合計約200mL)中の76グラムのSnCl2の予冷溶液(0~5℃)を、0~5℃の範囲を維持しながら、次の2時間かけてゆっくりと添加する。反応は次の1時間で完了することが可能である。沈殿物を濾過し、濾過ケーキを15mLの31重量%HCl及び35mLの水の溶液約50mLで洗浄する。ケーキを約40℃で真空乾燥する。濾液を回収し、SnCl4の再処理のために保存する。
【0017】
第2段階の説明
第2段階において、2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドは、10~20%水溶液の水酸化ナトリウムで処理することにより、2-メチルヒドラジンに変換される。これは都合よく水相から非水混和性溶媒によって抽出され、その溶媒はさらなる段階で使用される。溶媒中の2-メチルフェニルヒドラジンは、ゼオライト又は無水硫酸ナトリウムのような乾燥媒体の添加により乾燥される。例えば、選択された溶媒がトルエンである場合、溶媒中の水の量は1リットルあたり0.5~0.6グラムであり、迅速且つ容易に除去することができる。第2段階の処理は、2-メチルフェニルヒドラジンの精製手段にもなる。水溶性化合物及び塩基反応性化合物は水相に残るため除去される。
【0018】
第2段階は、処理を望む2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドの量に応じて、多くの規模で実施することができる。使用される反応は、粗2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドの各100グラムに基づく。したがって、容器の大きさは処理される粗原料の大きさに依存する。各100グラムあたり約500mLの容積が適切となることが可能である。水酸化ナトリウム、NaOHの25%溶液約250mLを、撹拌及び加熱装置を備えた500mLフラスコに入れる。塩酸ヒドラジン100グラムをNaOH溶液に撹拌しながら添加する。温度は約45℃に設定される。撹拌を続けながら、室温のトルエン約250mLを添加する。これによって系は45℃未満に冷却される。全ての撹拌を止め、層を分離させる。層は重力分離によって分離することができる。約5グラムの無水Na2SO4をトルエン溶液に添加することができる。溶液を約30分間混合し、次いで、Na2SO4水和物を沈殿させるために停止させる。溶液を濾過して濾液を回収し、濾過ケーキをトルエンで洗浄することができる。生成物は、トルエン中の2-メチルフェニルヒドラジンの溶液である。一例として、90~95%の収率を達成することができる。
【0019】
第3段階の説明
第3段階の反応は、2-ピロリジンとジメチルスルフェートとの反応(
図7)から開始し、中間体を製造する。この反応は、2-メチルフェニルヒドラジンを単に同一溶媒中の溶液として添加することができるように、第2段階で使用したものと同一溶媒、例えばトルエン中で実行することができる。ジメチルスルフェートの代わりに別の化学物質を使用することもできる。トリメチルオキソニウムテトラフルオロボレートは、そのような別の化学物質の一例である。
図10の典型的なトリアゾリウムNHCは、NHCアニオンとして残存するテトラフルオロボレートを用いて合成された。この試薬はその毒性のために使用が難しいだけでなく、触媒を使用した後の触媒の廃棄又は回収の試みの際に余分なフッ素を加えることになる。NHC触媒は使用中にいくらかの分解を受けるので、これらの化合物を使用する商業的プロセスでは、NHCの最終的な環境動態が考慮されなければならない。
【0020】
第3段階の生成物は、2-メチルフェニルヒドラジンと
図7の反応で形成された中間体との反応後の
図8に示すようなNHCのイミノヒドラゾン前駆体である。生成したメタノールは、混合物を真空蒸留する際に反応混合物から除去することができる。溶媒としてトルエンを使用する場合、メタノール-トルエン共沸物を早期フラクションで除去し、次にトルエンを除去することができる。残存するトルエン濃度が非常に低くなり、生成物が結晶化し始めたら、生成物を酢酸エチル又は同様の溶媒で洗浄し、結晶化を完了させることができる。溶媒は、好ましくはトルエンと共沸しない溶媒である。これにより、生成物を溶媒から濾過した後、両方の溶媒を蒸留することにより容易に回収することができる。その後、イミノヒドラゾン前駆体を真空乾燥し、第4段階で使用するために貯蔵することができる。
【0021】
第3段階の典型的な小規模反応は、2リットル又は3リットルの容器で行われる。この容器には、反応中に溶媒を還流させ、反応完了後に溶媒、例えばトルエンを真空蒸留できるように蒸留カラムが設置されている。容器は撹拌及び加熱装置を備える。1リットル(約867グラム)のトルエンを反応フラスコに添加する。次に、35グラムの2-ピロリドン、C4H7NOを添加する。次に52グラムの硫酸ジメチルを添加する。フラスコを撹拌しながら80℃で4時間加熱する。加熱を止め、容器及び内容物を室温まで冷却する。次に、トルエン中に溶解させた50グラムの2-メチルフェニルヒドラジンを添加する。容器を80℃で5時間加熱する。加熱を止め、容器を室温まで冷却する。温度を約20℃に維持しながら、約20~30Torrの圧力で真空にする。溶媒を分割して除去し、メタノールと若干のトルエンを含む第1のフラクションと、次にトルエンフラクションを回収する。温度は、約200~250mLのみの溶媒が残るまで、必要に応じてわずかに上昇させることができる。蒸留を停止し、約400mLの酢酸エチルを添加する。前駆体生成物は固体であり、濾過によって回収される。濾液は回収のために保存する。この生成物を真空乾燥して、第4段階で使用することができる。
【0022】
第4段階の説明
第4段階では、第3段階のイミノヒドラゾン前駆体を適切な溶媒中でトリメチルオルトホルメートと反応させ、所望のNHC触媒を形成する(
図9)。溶媒を必要とする全ての段階にトルエンなどの溶媒を使用することができ、それによって溶媒の貯蔵を減少させ、全体プロセスに関して設備内で同一溶媒の回収及び再利用を可能にする。反応完了後、過剰量のトリメチルオルトホルメート及び溶媒を真空蒸留により回収し、生成物が溶解しない適切な溶媒で生成物を洗浄することができる。生成物を濾過し、回収し、真空下で乾燥させることができる。濾液は、溶媒及び残留トリメチルオルトホルメートを再利用するために再処理することができる。この段階の生成物は、式1の最終NHCである。
【0023】
第4段階の典型的な反応は、20~22リットルの反応器で実施することができる。反応器には還流カラムを設置し、真空蒸留に使用できるように冷却器を介して受器に接続する。反応器には撹拌装置及び制御された熱を供給する手段が取り付けられている。約10~11kgのトルエンを反応器に添加する。次に、第3段階からのイミノヒドラゾン前駆体693グラムを添加する。次に、1.3kgのトリメチルオルトホルメート(TMOF)を添加する。約100℃を維持するために熱を加え、TMOF及びトルエンを良好に還流させる。反応を12~18時間続ける。反応が完了したら、系を蒸留に切り替え、反応器内の容積の約2/3を除去することができる。これは約7リットルである。真空にすると、蒸留カラムをフラッディングさせることなく、活発な蒸留速度に合わせて温度を下げることができる。溶媒が除去され、3~4リットルの容量が残ったら、ほぼ同量の酢酸エチルを添加し、生成物を完全に結晶化させることができる。形成された固体を濾過し、追加量の酢酸エチル(約1リットル)で洗浄することができる。固体生成物は、残留溶媒を除去するために、熱を加えずに真空下で乾燥させることができる。濾液は、酢酸エチル及びトルエンを回収するための再処理用に保存することができる。収率は70%を達成できる。
【0024】
工業的使用
式1のNHC触媒は、任意のNHC触媒と同様に化学反応に使用することができる。米国特許第8,710,250号及び米国特許第9,108,940号に記載されているようなメチル-2-メチル-5-フロエートを製造する方法においては、
図10のNHCよりも効果的となる可能性がある。本発明のNHCの重量比使用量は同等か又は若干少ないが、式1のNHCを用いた反応の収率は高くなり、副生成物の発生は少なくなる。式1のNHC触媒はまた、同フロエートエステル反応において試験された他の5種のNHCよりも低い重量比で使用可能である。
【実施例】
【0025】
実施例1. 0.05グラム-モルの2-メチルアニリンからの2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドの製造
磁気撹拌機を取り付けた250mLの反応フラスコに反応サイズを合わせた。フラスコを-10℃~-15℃の浴で冷却した。反応は0~5℃の範囲で行い、5℃を超えることはなかった。32mLの量の濃(31重量%)HCl及び18mLの量の水をフラスコに添加した。その後の添加は全て、撹拌機近くの反応器内の液面下で行った。温度が約2~3℃に達したとき、0~5℃に予冷した5.35グラムの2-メチルアニリンを、0~5℃の範囲を維持しながら約50分かけてゆっくりと添加した。塩化アミンの形成のために、さらに10分(経過時間1時間)が許容された。次に、8mLの水中3.5グラムの亜硝酸ナトリウム、NaNO2の予冷溶液(0~5℃)を、0~5℃の範囲を維持しながら約50分かけて添加した。反応を次の70分で完了させた。これはNaNO2の添加開始から2時間であった。15mLの31重量%HCl及び35mLの水(合計約50mL)中の19グラムのSnCl2の予冷溶液(0~5℃)を、0~5℃の範囲を維持しながら、次の2時間かけてゆっくりと添加した。その後、1時間かけて反応を完了させた。沈殿物を濾過し、濾過ケーキを4.5mLの31重量%HCl及び10.5mLの水の溶液15mLで洗浄した。ケーキを約40℃で真空乾燥した。7.01グラムの最終生成物が得られ、収率は88%であった。
【0026】
実施例2. 0.1グラム-モルの2-メチルアニリンからの2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドの製造
磁気撹拌機を取り付けた500mLの反応フラスコに反応サイズを合わせた。フラスコを-10℃~-15℃の浴で冷却した。反応は0~5℃の範囲で行い、5℃を超えることはなかった。64mLの量の濃(31重量%)HCl及び36mLの量の水をフラスコに添加した。その後の添加は全て、撹拌機近くの反応器内の液面下で行った。温度が約2℃に達したとき、0~5℃に予冷した10.7グラムの2-メチルアニリンを、0~5℃の範囲を維持しながら約50分かけてゆっくりと添加した。塩化アミンの形成のために、さらに10分(経過時間1時間)が許容された。次に、16mLの水中6.9グラムの亜硝酸ナトリウム、NaNO2の予冷溶液(0~5℃)を、0~5℃の範囲を維持しながら約50分かけて添加した。反応を次の70分で完了させた。これはNaNO2の添加開始から2時間であった。30mLの31重量%HCl及び70mLの水(合計約100mL)中の38グラムのSnCl2の予冷溶液(0~5℃)を、0~5℃の範囲を維持しながら、次の2時間かけてゆっくりと添加した。その後、1時間かけて反応を完了させた。沈殿物を濾過し、濾過ケーキを9mLの31重量%HCl及び21mLの水の溶液30mLで洗浄した。ケーキを約40℃で真空乾燥した。10.3グラムの最終生成物が得られ、収率は65%であった。
【0027】
実施例2における収率の減少は、反応量が増加した場合は内部冷却が望ましいことを示している。250mLフラスコと500mLフラスコとの間の表面対体積比の変化は、反応器全体で局所的に熱伝達を制御することが高収率に関して好ましいことを示している。
【0028】
実施例3. 2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドからの2-メチルフェニルヒドラジンの製造
水酸化ナトリウム、NaOHの25%溶液約160mLを、撹拌及び加熱装置を備えた500mLフラスコに入れた。次に、63グラムの2-メチルフェニルヒドラジンヒドロクロリドをNaOH溶液に撹拌しながら添加した。温度は約45℃に設定した。30分後、加熱を止め、室温のトルエン150mLを撹拌しながら添加した。撹拌を止め、層を分離させた。層は重力分離によって分離した。次に、4グラムの無水Na2SO4をトルエン溶液に添加した。溶液を30分間撹拌し、Na2SO4水和物を沈殿させた。溶液を濾過して濾液を集め、濾過ケーキを約15mLのトルエンで洗浄した。生成物は、トルエン中の2-メチルフェニルヒドラジンの溶液である。この2-メチルフェニルヒドラジン溶液をGC/MSで測定したところ、42~44グラムの2-メチルフェニルヒドラジンが含まれていた。収率は86~90%であった。
【0029】
実施例4. 2-メチルフェニルヒドラジンからの触媒のイミノヒドラゾン前駆体の製造
還流用及び反応完了時のその後の蒸留用の蒸留カラムを備える3リットルの反応容器を使用した。容器は撹拌及び加熱装置を有した。約700グラム(800mL)のトルエンを反応フラスコに添加した。次に、21グラムの2-ピロリドン、C4H7NOを添加した。次に31グラムの硫酸ジメチルを添加した。フラスコを80℃で4時間撹拌しながら加熱した。加熱を止め、容器及び内容物を室温まで冷却した。次に、150グラムのトルエン中に溶解した30グラムの2-メチルフェニルヒドラジンを添加した。容器を撹拌しながら80℃で5時間加熱した。加熱を止め、容器を室温まで冷却した。温度を約20℃に維持しながら、20~30Torrの圧力で真空を加えた。フラスコ内に約200mLの容量が残るまで溶媒を除去した。蒸留を止め、酢酸エチル300mLを添加した。前駆体生成物は固体であり、これは濾過によって回収された。濾過ケーキを約40mLの追加の酢酸エチルで洗浄した。濾液は回収のために保存した。生成物を一定重量まで真空乾燥する。乾燥後の固体の重量は43グラムであった。
【0030】
実施例5. イミノヒドラゾン前駆体からのNHC触媒の製造
1リットルの反応器に蒸留カラムを取り付け、真空蒸留に使用できるように冷却器を介して受器に接続した。反応器には撹拌装置及び制御された熱を供給する手段を取り付けた。600グラム(約700mL)の量のトルエンを反応器に添加した。次に、第3段階からのイミノヒドラゾン前駆体43グラムを添加した。次に、80グラムのトリメチルオルトホルメート(TMOF)を添加した。約100℃を維持するために熱を加え、TMOF及びトルエンを良好に還流させた。反応を18時間続けた。この時点で系を蒸留に切り替え、トルエン及び過剰量のTMOF合計450mLを除去した。蒸留が完了し、系を周囲温度まで冷却した後、250mLの酢酸エチルを添加した。形成された固体を濾過し、濾紙上で追加の酢酸エチル50mLで洗浄した。固体生成物を真空下で乾燥させた。濾液は酢酸エチル及びトルエンの回収のための再処理用に保存した。得られた生成物の重量は37.5グラムであった。
【0031】
実施例6. メチル-5-メチル-2-フロエートを製造するためのNHC触媒の使用
22Lの三ツ口反応容器を使用した。これに加熱マントル及びジャケットを取り付けた。中央の口には撹拌装置があり、ブレードは容器の底を掃引するために十分な幅があった。1つの口には熱電対が取り付けられ、これは加熱マントルの熱制御電子機器に接続されていた。他の口には蒸留カラムが取り付けられていた。還流冷却器の上部のジョイントには、冷却器に通じる蒸気温度の測定用の熱電対があった。冷却器は受器に通じ、これは真空蒸留源に接続されていた。トルエン中1.18kgの5-クロロメチル-2-フルフルアルデヒド(CMF)の溶液12.54kgを反応容器に添加した。撹拌を開始し、1,040グラムの無水炭酸ナトリウム、Na2CO3を添加した。次に400グラムのメタノールを添加した。次に、式1のNHC触媒11.7グラムを添加した。混合物の温度を80~81℃に上げ、反応を4時間続けた。この時間の終了時、トルエン及び過剰量のメタノールを、20~30Torrの真空圧を使用する分別真空蒸留によって除去した。これは20℃で開始し、120~130℃でメチル-5-メチル-2-フロエートフラクションの蒸留を完了した。メチル-5-メチル-2-フロエートは最終フラクションで回収された。最終フラクションを再蒸留し、メチル-5-メチル-2-フロエートを製造した。これは、GC/MS分析で測定したところ、純度99%であった。反応完了時、1,070グラムのフロエートが生成し、1,010グラムが回収された。これは93%の収率であり、他のNHC触媒の通常の範囲よりも高かった。
【0032】
本発明を種々の例示的な実施形態に関連して説明した。上記の説明は、本発明の原理の応用の単なる例示であり、その範囲は、明細書の見地から見た特許請求の範囲によって決定されることが理解されるであろう。本発明の他の変形及び修正は、当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】