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特表2024-515771重合性チオ尿素成分を含む開始剤系、歯科用組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】重合性チオ尿素成分を含む開始剤系、歯科用組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/10 20060101AFI20240403BHJP
   A61K 6/79 20200101ALI20240403BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20240403BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20240403BHJP
【FI】
C08F20/10
A61K6/79
A61K6/15
A61K6/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565841
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 IB2022052845
(87)【国際公開番号】W WO2022229734
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】21171076.9
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(71)【出願人】
【識別番号】524062087
【氏名又は名称】ソルベンタム インテレクチュアル プロパティズ カンパニー
(72)【発明者】
【氏名】クラウセン,カイ ウー.
(72)【発明者】
【氏名】ライカウフ,ヨハネス エム.
(72)【発明者】
【氏名】シュタイガー,ボルフ
(72)【発明者】
【氏名】ビッシンガー,ペーター
【テーマコード(参考)】
4C089
4J100
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BC06
4C089BD01
4C089BD03
4C089BD10
4C089BD11
4C089CA09
4J100AL08R
4J100AL09P
4J100AL62Q
4J100BA03Q
4J100BA59R
4J100BA64Q
4J100CA03
4J100DA36
4J100DA47
4J100FA08
4J100FA18
4J100FA28
4J100JA52
(57)【要約】
本発明は、歯科用組成物を硬化させるための開始剤系であって、開始剤系が、ヒドロペルオキシド成分と、遷移金属成分と、
3~11アルキル鎖を介して(メタ)アクリレート部分に結合しているチオ尿素部分を含む、重合性チオ尿素成分と、を含む、開始剤系に関する。本発明はまた、そのような開始剤系と、硬化性成分、特に酸性部分を含む硬化性成分とを含む歯科用組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用組成物を硬化させるための開始剤系であって、前記開始剤系が、
ヒドロペルオキシド成分と、
Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Znのイオン又はそれらの混合物を含む遷移金属成分と、
3~11アルキル鎖を介して(メタ)アクリレート部分に結合しているチオ尿素部分を含む、重合性チオ尿素成分と、
を含む、開始剤系。
【請求項2】
前記ヒドロペルオキシド成分及び重合性チオ尿素成分が、ヒドロペルオキシド部分とチオ尿素部分との比で3/1~1/2のモル比で存在する、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項3】
前記ヒドロペルオキシド成分が、テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、及びジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシド、ベンゼンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、5-フェニル-4-ペンテニルヒドロペルオキシド、並びにそれらの混合物から選択される、請求項1又は2に記載の開始剤系。
【請求項4】
前記重合性チオ尿素成分が式
MA-S-TU-R
(式中、
MA:(メタ)アクリレート、
S:C3~11アルキル、
TU:NH-CS-NH、
R:C~Cアルキル又はシクロアルキルである)
を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項5】
前記重合性チオ尿素成分が、23℃で0秒~12秒の時間をかけて測定して10°を超える平均水接触角を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項6】
前記重合性チオ尿素成分が、N-(5-メタクリルオキシペンチル)-N’-エチルチオ尿素、N-(5-メタクリルオキシペンチル)-N’-シクロヘキシルチオ尿素、N-(5-メタクリルオキシウンデシル)-N’-エチルチオ尿素、及びそれらの混合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項7】
前記遷移金属成分が、酢酸銅、塩化銅、安息香酸銅、アセチルアセトナト銅、ナフテン酸銅、カルボン酸銅、銅ビス(1-フェニルペンタン-1,3-ジオン)錯体、サリチル酸銅、チオ尿素、エチレンジアミン四酢酸との銅の錯体、及び/又はそれらの混合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項8】
光開始剤を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項9】
安定剤、特にフリーラジカル部分を含む安定剤成分を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項10】
前記安定剤が、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジニルオキシル、2,6-ジ-tert-ブチル-α-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル、トリフェニルメチルラジカル、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール及びそれらの混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の開始剤系。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の開始剤系と、
重合性成分、特に酸性部分を含む重合性成分と、
任意選択で、充填剤と、
任意選択で、添加剤と、を含む、歯科用組成物。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の開始剤系を、好ましくは、0.1重量%~5重量%の量で、
酸性部分を含む重合性成分を、好ましくは0.5重量%~15重量%の量で、
酸性部分を含まない重合性成分を、好ましくは1重量%~50重量%の量で、
水を、好ましくは0.25重量%~20重量%の量で、
酸反応性充填剤を、好ましくは5重量%~70重量%の量で、
非酸反応性充填剤を、好ましくは0重量%~40重量%の量で、
ポリ酸を、好ましくは1重量%~25重量%の量で、及び
添加剤を、好ましくは0重量%~15重量%の量で、含み、
重量%が前記歯科用組成物に対するものである、請求項11に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
酸性部及び非酸性部を含む二剤型組成物として提供され、
酸性部及び非酸性部が、体積で3:1~1:3の比で提供され、
前記酸性部又はペーストが、
酸性部分を有する重合性成分と、
任意選択で、酸性部分を有しない重合性成分と、
ヒドロペルオキシド成分と、
遷移金属成分と、
ポリ酸と、
非酸反応性充填剤と、
水と、
添加剤と、を含み、
前記非酸性部又はペーストが、
酸性部分を有しない重合性成分と、
任意選択で、光開始剤と、
重合性チオ尿素成分と、
酸反応性充填剤と、
非酸反応性充填剤と、
添加剤と、
を含む、請求項11又は12に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載の歯科用組成物と、以下のパーツ:歯科用ミリングブロック;歯科用クラウン;混合チップ;歯科用接着剤;歯科用コンディショナーの単独又は組み合わせとを含む、パーツキット。
【請求項15】
請求項11~13のいずれか一項に記載の歯科用組成物の、象牙質に対する接着強度を向上させる方法に使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の開始剤系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性チオ尿素成分及び酸化剤を含む開始剤系に関する。開始剤系は、特に歯科分野において、酸性部分を有する硬化性成分を含む硬化性組成物を硬化させるのに有用である。
【背景技術】
【0002】
重合性組成物を硬化させるために、光開始剤系及びレドックス開始剤系を含む異なる開始剤系が知られている。
【0003】
全ての開始剤系が同じ性能を示すわけではないので、重合性組成物の更なる成分に応じて、適切な開始剤系を選択しなければならない。
【0004】
特に、酸性成分を含む重合性組成物の硬化は困難であることが多い。
【0005】
これらの種類の組成物を硬化させるために、過酸化物成分、チオ尿素成分及び促進剤成分を含む開始剤系が提案されている。
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2016/0051450(A1)号(Kashikiら)は、酸性基を有しないラジカル重合性モノマーと、ヒドロペルオキシド化合物と、置換エチレンチオ尿素化合物、置換プロピレンチオ尿素化合物及び置換ブチレンチオ尿素化合物(a3-3)からなる群から選択される少なくとも1つの環状チオ尿素化合物と、を含む硬化性組成物に関する。
【0007】
米国特許出願公開第2004/235981(A1)号(Quian)は、(a)少なくとも1つの酸性化合物と、(b)重合性基が、アクリレート、メタクリレート及びビニル基からなる群から選択される酸性基を含まない少なくとも1つの重合性モノマーと、(c)1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素及び1-(2-テトラヒドロフルフリル)-2-チオ尿素からなる群から選択される置換チオ尿素と、(d)第三級炭素に結合した少なくとも1つのヒドロペルオキシド基を有するヒドロペルオキシド化合物と、を含む歯科用組成物を記載しており、この組成物は、貯蔵安定な二剤型自己接着性組成物である。
【0008】
米国特許出願公開第2003/166740(A1)号(Mitraら)及び米国特許出願公開第2007/88096(A1)号(Mitraら)は、レドックス重合反応において還元剤として機能する重合性尿素又はチオ尿素化合物を含む固化性組成物を記載している。アリル基及び(メタ)アクリレート基を含む重合性チオ尿素還元剤が好ましい。これらの成分は、尿素又はチオ尿素化合物からの誘導体の潜在的な毒性又は麻薬性を低減することができるので、有利であると言われている。
【0009】
米国特許出願公開第2007/0040151(A1)号(Utterodtら)は、(a)第三級炭素に結合した1つ以上のヒドロペルオキシド基を含有するヒドロペルオキシド化合物と、(b)チオ尿素誘導体、特にアセチルチオ尿素と、(c)促進剤として可溶性銅化合物を含む二成分開始剤系に関する。
【0010】
しかしながら、特に最近の歯科材料に関して満たされるべき要件については、今なお改善の余地がある。
【発明の概要】
【0011】
レジン改質グラスアイオノマーセメント(RMGIC)は、従来のグラスアイオノマーの化学的性質をより洗練されたレジンセメントの要素と融合させたものである。したがって、RMGICは、両方のセメントカテゴリーの利点、例えば、純粋なレジンセメントよりも高いフッ化物放出及び純粋なグラスアイオノマーセメントよりも良好な力学を提供する。
【0012】
RMGICは、強固な材料から作製された歯科用修復物を保持的な歯調製物にセメント接合するために使用することができる。しかしながら、歯科用レジンセメントと比較して、RMGICの象牙質に対する接着結合強度は、そのグラスアイオノマーセメントの特質及び接着性モノマーの欠如のためにかなり低い。
【0013】
チオ尿素化合物は、通常、RMGIC製剤において良好に作用するが、象牙質に対して十分な接着強度を提供しないことが多い。
【0014】
したがって、酸性成分を含有する重合性組成物を効果的に硬化させるために使用することができる開始剤系が必要とされている。
【0015】
開始剤系は、最終的に、硬化条件、例えば硬化時間に悪影響を及ぼすことなく、硬化した組成物の象牙質に対する十分な又は更に改善された接着強度をもたらすべきである。
【0016】
開始剤系はまた、例えばレジン改質グラスアイオノマーセメント(RMGIC)を硬化させるのに適した、水を含有する環境で機能すべきである。
【0017】
毒物学的観点から許容される開始剤系を有することも望ましい。
【0018】
可能であれば、開始剤系は、親水性象牙質表面に対して良好な湿潤特性を有するべきであり、かつ/又は硬化される硬化性組成物の疎水性成分とのより良好な混和性を有するべきである。
【0019】
上記の目的のうちの1つ以上は、本明細書及び特許請求の範囲に記載される本発明により対処される。
【0020】
一実施形態では、本発明は、ヒドロペルオキシド成分と、特にCu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Znのイオン又はそれらの混合物を含む遷移金属成分と、重合性チオ尿素成分と、を含む開始剤系を特徴とし、重合性チオ尿素成分は、本明細書及び特許請求の範囲に記載のC3~11アルキル鎖を介して(メタ)アクリレート部分に結合しているチオ尿素部分を含む。
【0021】
更なる実施形態では、本発明は、開始剤系、硬化性成分、特に酸性部分を含む硬化性成分、任意選択で充填剤、任意選択で本明細書及び特許請求の範囲に記載される添加剤を含む歯科用組成物を特徴とする。
【0022】
本発明はまた、本明細書及び特許請求の範囲に記載される歯科用組成物と、以下のパーツ:歯科用ミリングブロック、歯科用クラウン、混合チップ、歯科用接着剤、歯科用コンディショナーの単独又は組み合わせとを含む、パーツキットに関する。
【0023】
更に、本発明は、酸性部分を含む硬化性成分を含む硬化性組成物を硬化させるために、本明細書及び特許請求の範囲に記載の開始剤系を使用する方法を特徴とする。
【0024】
別段の定義のない限り、本明細書では、以下の用語は、以下に記載の意味を有するものとする。
【0025】
用語「化合物」又は「成分」は、特定の分子的同一性を有する化学物質であるか、又はそのような物質、例えば、ポリマー性物質の混合物から作製される化学物質である。
【0026】
「固化性(hardenable)又は硬化性(curable)又は重合性(polymerizable)成分」は、放射線誘導重合によって光開始剤の存在下で硬化又は固化させることができる任意の成分である。固化性成分は、1つのみ、2つ、3つ、又はそれ以上の重合性基を含有し得る。重合性基の典型例としては、とりわけ(メチル)アクリレート基中に存在するビニル基などの不飽和炭素基が挙げられる。
【0027】
本明細書で使用する場合、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す短縮語である。例えば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH=CH-C(O)-O-)及び/又はメタクリルオキシ基(すなわち、CH=C(CH)-C(O)-O-)のいずれかを指す短縮語である。
【0028】
本明細書で使用する場合、組成物の「固化」又は「硬化」は、交換可能に使用され、例えば、組成物中に含まれる1つ以上の材料が関与する、光重合反応及び化学重合技術(例えば、エチレン性不飽和化合物を重合するのに有効なラジカルを形成するイオン反応又は化学反応)を含む重合及び/又は架橋反応を指す。
【0029】
「開始剤」は、例えば、レドックス/自動硬化化学反応(redox/auto-cure chemical reaction)、又は放射線により誘導される反応により、又は熱により誘導される反応により、重合性成分又はモノマーの硬化プロセスを開始又は引き起こすことができる物質である。
【0030】
「レドックス開始剤系」は、適用デバイスの適用部分上に位置する還元剤及び酸化剤の組み合わせとして定義される。存在する場合、遷移金属成分はまた、レドックス開始剤系の成分とみなされる。
【0031】
「歯科用物品」は、特に、歯科用修復物として又は歯科用修復物を製造するために、歯科分野で使用される物品を意味する。歯科用物品は、典型的には、2つの異なる表面部分、外側表面及び内側表面を有する。外側表面は、典型的には歯の表面と恒久的には接触しない表面である。それとは対照的に、内側表面は、歯科用物品を歯に取り付ける又は固定するために使用される表面である。歯科用物品が歯科用クラウンの形状を有する場合、内側表面は典型的には凹形状を有し、一方、外側表面は典型的には凸形状を有する。歯科用物品は、患者の健康に有害である成分を含有してはならず、したがって、歯科用又は歯科矯正用物品から漏出し得る有害成分及び毒性成分を含まない。
【0032】
「歯科用修復物」は、治療される歯を修復するために使用される歯科用物品を意味する。歯科用修復物の例としては、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー、ベニヤ、前装、コーピング、クラウンブリッジフレームワーク、及びそれらのパーツが挙げられる。
【0033】
「粒子」は、幾何学的に決定できる形状を有する固体である物質を意味する。その形状は規則的であっても不規則的であってもよい。粒子は、典型的には、例えば粒径及び粒径分布に関して分析することができる。
【0034】
粉末の粒径(d50)は、粒度分布の累積曲線から得ることができる。それぞれの測定は、市販の粒度計(例えば、Malvern Mastersizer 2000)を使用して行うことができる。「D」は粉末粒子の直径を表し、「50」は粒子の体積百分率を指す。場合によっては、50%を「0.5」と表現することもある。例えば、「(d50)=1μm」は、粒子の50%が1μm以下のサイズを有することを意味する。
【0035】
「ペースト」は、液体中に分散した、軟らかく粘性の固体の塊を指す。
【0036】
「粘性の」は、(23℃において)50Pa*sを上回る粘度を意味する。
【0037】
「液体」は、周囲条件(例えば23℃)において成分を少なくとも部分的に分散又は溶解させることができる任意の溶媒又は液体を意味する。液体は、典型的には、10Pa*sを下回る、又は8Pa*sを下回る、又は6Pa*sを下回る粘度を有する。
【0038】
「グラスアイオノマーセメント」又は「GIC」は、水の存在下、酸反応性ガラスとポリ酸との反応により硬化(cure)又は固化(harden)するセメントを意味する。
【0039】
「レジン改質グラスアイオノマーセメント」又は「RMGIC」は、重合性成分、開始剤系、及び典型的には2-ヒドロキシル-エチル-メタクリレート(HEMA)などの希釈剤を更に含有するGICを意味する。
【0040】
「酸反応性充填剤」は、(ポリ)酸の存在下で化学的に反応して固化反応、例えば、グラスアイオノマーセメント反応に至らせる充填剤を意味する。
【0041】
「非酸反応性充填剤」は、(ポリ)酸と周囲条件(例えば23℃)にて混合した場合に、約30分以内に化学固化反応を示さない充填剤を意味する。
【0042】
酸反応性充填剤を非酸反応性充填剤と区別するために、次の試験が行われ得るか、又は行われることになる。A剤とB剤とを質量比3:1で混合して組成物を調製し、ここで、A剤では分析されることになる充填剤が100重量%を占め、B剤ではポリ(アクリル酸コマレイン酸)(Mw:約20,000±3,000)が43.6重量%、水が47.2重量%、酒石酸が9.1重量%、安息香酸が0.1重量%を占める。
【0043】
「ポリ酸」又は「ポリアルケン酸」は、複数の(例えば10個を超える、又は20個を超える、又は50個を超える)酸性繰り返し単位を有するポリマーを意味する。つまり、酸性繰り返し単位は、ポリマー主鎖に結合しているか、又はぶら下がっている。
【0044】
「貯蔵安定性組成物」は、重要な性能問題(例えば、低下した機械的特性又は望ましくない硬化挙動)を示すことなく、適切な期間(例えば、周囲条件下で少なくとも12ヶ月又は加速エージング条件下で3ヶ月)貯蔵することができる組成物である。
【0045】
本明細書で使用される「歯表面」は、歯構造(例えば、エナメル質、象牙質、及びセメント質)及び骨を指す。
【0046】
「周囲条件」は、本明細書に記載の組成物が、保存及び取り扱い中に通常さらされる条件を意味する。周囲条件は、例えば、圧力900mbar~1,100mbar、温度10℃~40℃及び相対湿度10%~100%としてもよい。実験室では、周囲条件は、典型的には、20℃~25℃及び1,000mbar~1,025mbar(海面の高度で)に調整される。
【0047】
本明細書で使用する場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」及び「1つ以上の」は、交換可能に使用される。また、本明細書において、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0048】
用語に「(s)」を付加することは、その用語が単数形及び複数形を含むべきであることを意味する。例えば、「添加剤(additive(s))」という用語は、1つの添加剤及び2つ以上の添加剤(例えば2つ、3つ、4つなど)を意味する。
【0049】
特に指示のない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用されている、例えば下に記載するものなどの含有物質(ingredient)の量、物性の測定値を表す全ての数は、全ての例で「約」という用語により修飾されていると理解されるべきである。
【0050】
「含む」又は「含有する」という用語及びそれらの変形は、それらの用語が本明細書及び特許請求の範囲で記載される場合、限定的な意味を有しない。「から本質的になる」は、特定の更なる成分、つまり物品又は組成物の本質的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分が存在し得ることを意味する。「からなる」は、更なる成分が存在するべきではないことを意味する。「含む」という用語はまた、「から本質的になる」及び「からなる」という用語を含むものとする。
【0051】
組成物が特定の成分を本質的な特徴として含有しない場合、この組成物はこの成分を「本質的又は実質的に含まない」。したがって、この成分は、それだけで、又は他の成分若しくは他の成分の含有物質との組み合わせでのいずれによっても、組成物に意図的に添加されない。特定の成分を本質的に含まない組成物は、通常はその成分を全く含有しない。しかし、例えば用いられる原料に含有される不純物のために、少量のこの成分が存在するのを回避できないこともある。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本明細書に記載の発明は、いくつかの利点をもたらすことが見出された。
【0053】
本明細書に記載の開始剤系は、還元剤としてチオ尿素成分を含有する既存の開始剤系に対する好適な代替物を提供する。
【0054】
開始剤系は、水性環境においても機能することができる。
【0055】
開始剤系は、レジン改質グラスアイオノマー組成物を硬化させるのに特に適している。
【0056】
(メタ)アクリレート基の存在により、重合性チオ尿素成分は、硬化性組成物中に存在する他の重合性成分と共重合することもできる。
【0057】
この特性は、使用中の硬化性組成物からのチオ尿素成分の望ましくない移動又は浸出を回避するのに役立ち得るという点で有益であり得る。
【0058】
更に、かなり親水性のチオ尿素部分とかなり疎水性の(メタ)アクリレート部分とを含むその構造により、重合性チオ尿素成分は両親媒性であり、バランスのとれた界面活性特性を有する。
【0059】
開始剤系は、硬化性組成物の硬質歯組織、特に象牙質に対する接着強度を改善するのに好適であることも見出された。
【0060】
開始剤系は重合性チオ尿素成分を含む。
【0061】
重合性チオ尿素成分は、アルキル鎖、好ましくはC3~11アルキル鎖を含むスペーサー単位を介して(メタ)アクリレート部分に結合しているチオ尿素部分を含む。
【0062】
重合性チオ尿素成分は、レドックス開始剤系において還元剤として機能する。
【0063】
重合性チオ尿素成分の分子量は、典型的には、200g/mol~400g/molの範囲内である。この分子量範囲は、硬化される硬化性組成物内で十分な分子運動性及び反応性を可能にするための適切な妥協点であるように思われる。
【0064】
重合性チオ尿素成分は、典型的には一般式:
MA-S-TU-R
(式中、
MA:(メタ)アクリレート、
S:C3~11直鎖アルキル、又はC3~8直鎖アルキル、又はC3~6直鎖アルキル、
TU:チオ尿素、
R:C~Cアルキル又はシクロアルキル(C3~6、好ましくはC5~6)である)
を有する。
【0065】
重合性チオ尿素成分は、典型的には、アリル部分(HC=CH-CH-)及びカルバメート部分(-O-CO-NH-)を含まない。
【0066】
好適な重合性チオ尿素成分は、典型的には、重合性チオ尿素成分でコーティングされた表面上に水滴を置いた後、0秒~12秒の時間をかけて測定して、10°超又は15°超の範囲の平均水接触角を示す。
【0067】
好ましい重合性チオ尿素成分としては、N-(5-メタクリルオキシペンチル)-N’-エチルチオ尿素、N-(5-メタクリルオキシペンチル)-N’-シクロヘキシルチオ尿素、N-(5-メタクリルオキシウンデシル)-N’-エチルチオ尿素、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0068】
重合性チオ尿素成分は、典型的には、硬化される硬化性組成物の量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0.1重量%又は0.2重量%又は0.3重量%;最大3重量%又は2.5重量%又は2重量%、範囲:0.1重量%~3重量%又は0.2重量%~2.5重量%又は0.3重量%~2重量%で存在する。
【0069】
開始剤系は、ヒドロペルオキシド成分を含む。
【0070】
ヒドロペルオキシド成分は、1分子当たり1つ以上のヒドロペルオキシド基(-OOH基)を有し、より好ましくは、1分子当たり第三級炭素原子に結合した-OOH基を有するヒドロペルオキシドである。
【0071】
使用することができるヒドロペルオキシド成分の具体例としては、テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、及びジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシド、ベンゼンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、5-フェニル-4-ペンテニルヒドロペルオキシド、p-ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、並びにそれらの混合物が挙げられ、クメンヒドロペルオキシド及び/又は1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドが好ましい場合がある。
【0072】
所望であれば、1つ以上のヒドロペルオキシド成分が存在してもよい。
【0073】
ヒドロペルオキシド成分は、典型的には、硬化される硬化性組成物の量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0.1重量%又は少なくとも0.2重量%又は少なくとも0.3重量%;最大5重量%又は最大4重量%又は最大3重量%、範囲:0.1重量%~5重量%又は0.2重量%~4重量%又は0.3重量%~3重量%で存在する。
【0074】
ヒドロペルオキシド成分の重合性チオ尿素成分に対する比は、典型的には、ヒドロペルオキシド部分とチオ尿素部分との比で5/1~1/2の範囲、特に3/1~1/2又は3/1~1/1の範囲である。
【0075】
このような比を使用することは、適切な時間枠、例えば約10分以内で硬化性組成物の硬化を可能にするので、有利であることが見出されている。
【0076】
ヒドロペルオキシド成分が重合性チオ尿素成分の量(ヒドロペルオキシド及びチオ尿素の官能性部分のモル当量に関して計算される)に対して等量又は過剰量で使用される場合、適切な時間枠での硬化性組成物の硬化が更に良好に達成され得ることが見出された。
【0077】
好適な遷移金属成分としては、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び/又は亜鉛から選択される有機及び/又は無機塩が挙げられ、銅、バナジウム及び鉄が好ましい場合がある。
【0078】
有用な塩としては、遷移金属のいずれかの酢酸塩、塩化物、硫酸塩、安息香酸塩、アセチルアセトン酸塩、ナフテン酸塩、カルボン酸塩、ビス(1-フェニルペンタン-1,3-ジオン)錯体、サリチル酸塩、エチレンジアミン四酢酸との錯体、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0079】
一実施形態によると、遷移金属成分は、酸化段階にあり、これにより、成分を還元することが可能になる。有用な酸化段階としては、適宜、+2、+3、+4、+5、+6、及び+7が挙げられる。
【0080】
銅成分が、好ましい場合がある。銅成分中の銅の酸化段階は、好ましくは+1又は+2である。
【0081】
使用することのできる銅成分の典型例としては、酢酸銅、塩化銅、安息香酸銅、アセチルアセトナト銅、ナフテン酸銅、カルボン酸銅、銅ビス(1-フェニルペンタン-1,3-ジオン)錯体(銅プロセトネート(copper procetonate))、サリチル酸銅、チオ尿素、エチレンジアミン四酢酸との銅の錯体、及び/又はそれらの混合物を含む、銅の塩及び錯体が挙げられる。銅化合物は、水和物形態で使用されてもよく、又は水を含まなくてもよい。酢酸銅がとりわけ好ましい。
【0082】
使用できる遷移金属成分の量は、特に限定されない。遷移金属塩は、意図する目的を達成するのに十分な量で用いなければならない。
【0083】
存在する場合、遷移金属成分は、典型的には、硬化される硬化性組成物の量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0.00001重量%又は少なくとも0.0001重量%又は少なくとも0.001重量%;最大1.5重量%又は最大1.0重量%又は最大0.5重量%、範囲:0.00001重量%~1.5重量%又は0.0001重量%~1.0重量%又は0.001重量%~0.5重量%で存在する。
【0084】
開始剤系はまた、安定剤成分を含んでもよい。
【0085】
好適な安定剤としては、フリーラジカルスカベンジャー、例えば、置換及び/又は非置換のヒドロキシ芳香族化合物(例えばブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene、BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(hydroquinone monomethyl ether、MEHQ)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エトキシフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(ジメチルアミノ)メチルフェノール又は2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(UV-9)、2-(2’-ヒドロキシ-4’,6’-ジ-tert-ペンチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリルオキシ-エチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、及びフェノチアジンが挙げられる。
【0086】
上記成分以外にも、次の安定剤成分:すなわち、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジニルオキシル、2,6-ジ-tert-ブチル-アルファ-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル、トリフェニルメチルラジカル、及びそれらの混合物を含むフリーラジカル部分を含む安定剤成分が有用であると見出された。
【0087】
存在する場合、安定剤成分は、典型的には、硬化される硬化性組成物の量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0.005重量%又は少なくとも0.01重量%又は少なくとも0.02重量%;最大0.3重量%又は最大0.2重量%又は最大0.1重量%、範囲:0.005重量%~0.3重量%又は0.01重量%~0.2重量%又は0.02重量%~0.1重量%で存在する。
【0088】
ある特定の一実施形態によれば、歯科用組成物は、光開始剤又は光開始剤系を更に含む。
【0089】
光開始剤としては、350nm~500nmの範囲の波長を有する可視光の作用によって、重合性モノマーを重合させることができるものが好ましい。
【0090】
好適な光開始剤は、多くの場合、アルファジ-ケト部分、アントラキノン部分、チオキサントン部分又はベンゾイン部分を含有する。
【0091】
光開始剤の例としては、カンファーキノン、1-フェニルプロパン-1,2-ジオン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2-メトキシエチル)ケタール、4,4’-ジメチルベンジルジメチルケタール、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノンが挙げられる。
【0092】
アシルホスフィンオキシドを使用することも同様に有用であることが見出された。
【0093】
好適なアシルホスフィンオキシドは以下の式
(R-P(=O)-C(=O)-R10
(式中、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、及びアラルキルなどのヒドロカルビル基であってもよく、そのいずれかがハロ-、アルキル-、若しくはアルコキシ基で置換されていてもよく、又は2つのR基が結合してリン原子と共に環を形成することができ、R10は、ヒドロカルビル基、S-、O-、若しくはN-含有5若しくは6員複素環式基、又は-Z-C(=O)-P(=O)-(R基であり、Zは2個~6個の炭素原子を有するアルキレン又はフェニレンなどの二価ヒドロカルビル基を表す)
によって特徴づけることができる。
【0094】
好適なシステムはまた、例えば、米国特許第4,737,593号(Ellrichら)に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0095】
好ましいアシルホスフィンオキシドは、R及びR10基が、フェニル、又は低級アルキル-若しくは低級アルコキシ-置換フェニルであるものである。「低級アルキル」及び「低級アルコキシ」は、1個~4個の炭素原子を有するような基を意味する。特に、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドが有用であることが見出された(Lucirin(商標)TPO、BASF)。
【0096】
より具体的な例としては、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-ビフェニリルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-クロロフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,4-ジメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)デシルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-オクチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロ-3,4,5-トリメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロ-3,4,5-トリメトキシベンゾイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-4-ビフェニリルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-2-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-2,5-ジメチルホスフィンオキシド、ビス-(2-メトキシ-1-ナフトイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メトキシ-1-ナフトイル)-4-ビフェニリルホスフィンオキシド、ビス-(2-メトキシ-1-ナフトイル)-2-ナフチルホスフィンオキシド及びビス-(2-クロロ-1-ナフトイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0097】
アシルホスフィンオキシドビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(以前はIRGACURE(商標)819,Ciba Specialty Chemicalsとして公知)が好ましい場合がある。
【0098】
光開始剤は、硬化される硬化性組成物の量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0重量%又は0.005重量%又は0.01重量%;最大2重量%又は1.5重量%又は1重量%、範囲:0.001重量%~4重量%又は0.005重量%~3重量%又は0.01重量%~2重量%で存在することができる。
【0099】
本明細書に記載の開始剤系は、レジン改質グラスアイオノマーセメントを含む、酸性部分を含む硬化性成分を含む硬化性組成物を硬化させるのに特に有用である。
【0100】
開始剤系はまた、歯科用組成物、特に本明細書に記載される歯科用組成物の硬質歯組織に対する、特に象牙質に対する接着強度を向上させるために使用することができる。典型的な歯科用組成物は、重合性成分、充填剤、及び添加剤を含む。
【0101】
本発明はまた、本明細書に記載の開始剤系を含む硬化性歯科用組成物にも関する。
【0102】
歯科用組成物は、典型的には、以下の特徴:
a)粘度:28℃で10Pa*s~5,000Pa*s、28℃で100Pa*s~2,000Pa*s(組成物の混合を開始してから60秒後に、1.25Hzの周波数での振動及び1.75%の撓みで測定);
b)pH値:例えば、湿ったpH感受性紙又はスティックで測定した場合、1~6;
c)象牙質に対する剪断接着強度:1MPa~10MPa;
d)硬化時間:28℃で測定して10分以内、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0103】
以下の特徴の組み合わせ:a)及びb);a)及びc);b)及びc)が好ましい場合がある。
【0104】
歯科用組成物は、重合性成分、特に酸性部分を含む硬化性成分を含む。重合性成分は、(メタ)アクリレート部分などの少なくとも1つ又は2つの重合性部分を有する成分を含む。重合性成分の架橋又は重合は、レドックス開始剤系を使用することによって開始することができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、重合性成分は、酸性基又は部分を含有する。
【0106】
酸部分を有する重合性成分は、典型的には以下の式
BC
(式中、Aは、(メタ)アクリル部分などのエチレン性不飽和基であり、
Bは、(i)他の官能基(例えば、ハロゲン化物(Cl、Br、Iを含む)、OH、又はそれらの混合物)で任意に置換された直鎖又は分枝鎖C~C12アルキル、(ii)他の官能基(例えば、ハロゲン化物、OH、又はそれらの混合物)で任意に置換されたC~C12アリール、(iii)1つ以上のエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、チオカルボニル、アミド、ウレタン、カルボニル、及び/又はスルホニル結合によって互いに結合している4個~20個の炭素原子を有する有機基などのスペーサー基であり、
Cは酸性基、又は酸無水物などの酸性基の前駆体であり、
m、nは独立して、1、2、3、4、5、又は6から選択され、
酸性基は、1つ以上の、-COOH若しくは-CO-O-CO-などのカルボン酸残基、-O-P(O)(OH)OHなどのリン酸残基、C-P(O)(OH)(OH)などのホスホン酸残基、-SOHなどのスルホン酸残基、又は-SOHなどのスルフィン酸残基を含む)
によって表すことができる。
【0107】
酸部分を有する重合性成分の例としては、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシプロピルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ-又はトリ-メタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。例えば水と容易に反応して、酸ハロゲン化物又は無水物などの上述の特定の例を形成することができる酸部分を有するこれらの固化性成分の誘導体もまた、企図される。
【0108】
酸性基を有する重合性成分が存在する場合、それらは典型的には、組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも1重量%又は2重量%又は3重量%;最大25重量%又は20重量%又は15重量%、範囲:1重量%~25重量%又は2重量%~20重量%又は3重量%~15重量%で存在する。
【0109】
いくつかの実施形態では、重合性成分は、酸性基を含有しない。
【0110】
酸性部分を有しない重合性成分は、典型的には、エチレン性不飽和モノマー、モノマー又はオリゴマー又はポリマーを含むフリーラジカル重合性材料である。
【0111】
酸性部分を有しない好適な重合性成分は、以下の式:
BA
(式中、Aは、(メタ)アクリル部分などのエチレン性不飽和基であり、
Bは、(i)他の官能基(例えば、ハロゲン化物(Cl、Br、Iを含む)、OH、若しくはそれらの混合物)で任意に置換された直鎖若しくは分枝鎖C~C12アルキル、(ii)他の官能基(例えば、ハロゲン化物、OH、若しくはそれらの混合物)で任意に置換されたC~C12アリール、又は(iii)1つ以上のエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、チオカルボニル、アミド、ウレタン、カルボニル、及び/若しくはスルホニル結合によって互いに結合している4個~20個の炭素原子を有する有機基から選択され、
m、nは独立して、0、1、2、3、4、5、又は6から選択されるが、ただしn+mは0より大きく、つまり少なくとも1つのA基が存在する)
によって特徴づけることができる。
【0112】
そのような重合性材料としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(2,2,4-trimethylhexamethylene diisocyanate、TMDI)との反応生成物であるUDMAと呼ばれるジウレタンジメタクリレート(異性体の混合物、例えば、Rohm Plex6661-0)、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビス[1-(2-(メタ)アクリルオキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン(bis[1-(3-methacryloxy-2-hydroxy)]-p-propoxy-phenyldimethylmethane、BisGMA)、ビス[1-(3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン、及びトリスヒドロキシエチル-イソシアヌレートトリメタクリレートなどの、モノ-、ジ-、又はポリ-アクリレート及びメタクリレート;分子量200~500のポリエチレングリコールのビス-アクリレート及びビス-メタクリレート、アクリル化モノマー(米国特許第4,652,274号を参照)、及びアクリル化オリゴマー(米国特許第4,642,126号を参照)の共重合性混合物;並びにスチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、及びジビニルフタレートなどのビニル化合物;ウレタン、尿素、又はアミド基を含む多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。所望であれば、これらのフリーラジカル重合性材料のうちの2つ以上の混合物を使用することができる。
【0113】
存在し得る更なる重合性成分としては、エトキシ化ビス-フェノールAのジ(メタ)アクリレート、例えば、2,2’-ビス(4-(メタ)アクリルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、ウレタン(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリルアミドが挙げられる。使用されるモノマーは、更に、[アルファ]-シアノアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、及びソルビン酸のエステルであり得る。
【0114】
欧州特許第0235826号に記載のメタクリルエステル、例えば、ビス[3[4]-メタクリル-オキシメチル-8(9)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デシルメチルトリグリコレートを使用することも可能である。2,2-ビス-4(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニルプロパン(Bis-GMA)、2,2-ビス-4(3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニルプロパン、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザへキサデカン-1,16-ジオキシジメタクリレート(7,7,9-trimethyl-4,13-dioxo-3,14-dioxa-5,12-diazahexadecane-1,16-dioxy dimethacrylate、UDMA)、ウレタン(メタ)アクリレート、及びビスヒドロキシメチルトリシクロ-(5.2.1.02,6)デカンのジ(メタ)アクリレートも好適である。
【0115】
これらのエチレン性不飽和モノマーは、単独で又は他のエチレン性不飽和モノマーと組み合わせて歯科用組成物に用いることができる。それらの成分に加えて又はそれらの成分の他に、添加することのできる他の固化性成分としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びポリウレタン(メタ)アクリレートなどのオリゴマー又はポリマー化合物が挙げられる。これらの化合物の分子量は、典型的には、20,000g/mol未満、特に15,000g/mol未満、特に10,000g/mol未満である。
【0116】
酸性基を有しない重合性成分が存在する場合、それらは、典型的には、組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも1重量%又は10重量%又は15重量%;最大65重量%又は50重量%又は40重量%;範囲:1重量%~65重量%又は10重量%~50重量%又は15重量%~40重量%で存在する。
【0117】
歯科用組成物は、酸性部分を含まない硬化性成分と、酸性部分を含む硬化性成分とを含んでもよい。
【0118】
歯科用組成物はまた、1つ以上の充填剤を含んでもよい。充填剤は、酸反応性充填剤又は非酸反応性充填剤であってもよい。
【0119】
組成物は、1つ以上の酸反応性充填剤を含んでもよい。
【0120】
酸反応性充填剤及びポリ酸が存在する場合、組成物は、いわゆるグラスアイオノマーセメント反応を受けることができる。
【0121】
一実施形態によれば、酸反応性充填剤は、以下の特徴:
a)平均粒径:1μm~25μm、
b)(d10/μm):0.5μm~3μm、(d50/μm):2μm~7μm、(d90/μm):6μm~30μm、
c)脱イオン水(pHは約5)10mL中で5分間撹拌した充填剤1gの分散体のpH値:5~10、のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0122】
特徴a)及びb)、又はa)及びc)の組み合わせが好ましい場合がある。
【0123】
酸反応性充填剤の平均粒径が上に概説した範囲を上回る場合、本明細書に記載のパーツキットの各部分に含有された組成物を混合した際に得られる組成物の粘稠性が適切にはならないことがあり、所望の機械的特性が悪影響を受ける場合がある。
【0124】
酸反応性充填剤の平均粒径が上に概説した範囲を下回る場合、硬化時間が速すぎることになり得る。
【0125】
好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、金属水酸化物、ヒドロキシアパタイト、アルミノシリケートガラス及びフルオロアルミノシリケートガラスを含む酸反応性ガラスが挙げられる。
【0126】
典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛が挙げられる。
【0127】
典型的な金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0128】
典型的な酸反応性ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、特にフルオロ-アルミナ-シリケート(fluoro-alumina-silicate、「FAS」)ガラスが挙げられる。
【0129】
ガラスは、フルオライド、シリカ、アルミナ、及び他のガラス形成要素を含有する融解物から、FASガラス製造技術における当業者によく知られている技術を用いて作ることができる。
【0130】
FASガラスは、典型的には、十分に微細化された粒子の形態であるので、他のセメント成分とうまい具合に混合することができ、得られた混合物が口腔内に使用される場合に、良好に機能する。
【0131】
好適なFASガラスは当業者によく知られており、かつ多種多様な民間の供給元から入手可能であり、多くは、商品名Ketac(商標)-Molar、又はKetac(商標)-Fil Plus(3M Oral Care)、及びFUJI(商標)IX(GC)にて市販されているものなどの現在入手可能なグラスアイオノマーセメント中に見出される。
【0132】
有用な酸反応性ガラスはまた、Si/Al比によっても特徴づけることができる。1.5又は1.4又は1.3未満のSi/Al比(重量%による)を有する充填剤が特に有用であることが見出された。
【0133】
好適な酸反応性充填剤は、例えば、Schott AG(ドイツ)又はSpeciality Glass(US)からも市販されている。
【0134】
酸反応性充填剤の量が多すぎる場合、本明細書に記載のパーツキット中のペーストを混合することがより難しくなり得る。更に、同様に、もたらされる組成物の、適切な粘稠性及び許容される機械的特性を得ることが難しくなり得る。
【0135】
酸反応性充填剤の量が低すぎる場合、好適なペーストを配合することはより難しくなり得る。更に、機械的特性が劣るものとなり得る。
【0136】
酸反応性充填剤は、典型的には、硬化性組成物全体の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも5重量%又は8重量%又は10重量%;最大70重量%又は60重量%又は50重量%、範囲:5重量%~70重量%又は8重量%~60重量%又は10重量%~50重量%で存在する。5重量%~50重量%の範囲が好ましい場合がある。
【0137】
非酸反応性充填剤は、好ましくは無機充填剤である。
【0138】
好適な非酸反応性充填剤の例は、天然に存在する又は合成の材料であり、以下が挙げられるが、これらに限定されない:カオリン;シリカ粒子(例えば、Evonic製の「OX 50」、「130」、「150」及び「200」シリカを始めとする商品名「AEROSIL(商標)」で入手可能なもの、並びにWacker製の「H15」、「H20」、「H2000」を始めとするHDK(商標)、並びにCabot Corp.製のCAB-O-SIL M5シリカ、などのサブミクロンの焼成シリカ)、アルミナ、チタニア並びにジルコニアの各粒子。
【0139】
これらの非酸反応性充填剤の混合物もまた、想定される。
【0140】
非酸反応性充填剤は、液体(例えば水)中の粒子の分散体又はゾルとして提供される場合もある。
【0141】
充填剤が水性分散体又はゾルとして提供される場合、水性分散体又はゾル中の水の量は、組成物中の水及び充填剤の量が算出される又は測定されるときに、考慮されなければならない。
【0142】
好適な非酸反応性充填剤はまた、例えばObermeier,Bad Berleburg,Germanyから、タイプ「50/50%」(%値は重量%での充填剤含有率を示す)を始めとする商品名Levasil(商標)にて、水性分散体としても市販されている。
【0143】
所望の場合、非酸反応性充填剤の粒子表面を表面処理することができる。好適な表面処理剤としては、シラン、例えば粒子の化学的特性を改変するための有機官能基を有するトリメトキシシランが挙げられる。好適なシランは、例えば、酸性特性を改変するシラン(アミノ基を有するか又はカルボン酸基を有する)、又は疎水性/親水性を改変するシラン(アルカン鎖を有するか又はポリエチレングリコール鎖を有する)である。
【0144】
一実施形態によれば、非酸反応性充填剤は、シリカ、(アルミノ)シリケート、アルミナ、及びそれらの混合物から選択される。
【0145】
非酸反応性充填剤は、典型的には、組成物全体の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0重量%又は4重量%又は6重量%;最大40重量%又は35重量%又は30重量%、範囲:0重量%~40重量%又は4重量%~35重量%又は6重量%~30重量%で存在する。
【0146】
歯科用組成物はまた、水を含んでもよい。典型的には、脱イオン水が使用される。
【0147】
水の量が少なすぎると、得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。
【0148】
水の量が多すぎると、同様に、得られるペーストの作業可能な粘稠性を得ることが難しくなり得る。更に、所望の機械的特性を実現するのが難しくなり、ペーストが貯蔵中に分離し得る。
【0149】
水が存在する場合、水は、典型的には、組成物全体の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0.25重量%又は0.5重量%又は1重量%;最大20重量%又は15重量%又は10重量%、範囲:0.25重量%~20重量%又は0.5重量%~15重量%又は1重量%~10重量%で存在する。
【0150】
組成物はまた、ポリアクリル酸を含んでもよい。
【0151】
ポリ酸は、グラスアイオノマー材料中で、良好な貯蔵性、取り扱い特性及び混合特性を付与するのに十分な、並びに良好な材料特性をもたらすのに十分な分子量を有するべきである。
【0152】
一実施形態によれば、ポリ酸は、以下の特徴、
固体であること(23℃において);分子量(Mw):約2,000~約250,000又は約4,000~約100,000g/mol(ゲル浸透クロマトグラフィーを使用してポリアクリル酸ナトリウム塩標準に対して評価)
のうち単独又は組み合わせにより特徴づけることができる。
【0153】
ポリ酸の分子量が大きすぎる場合、本明細書に記載のパーツキット中に含有される組成物を混合した際に得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。更に、組成物の調製も、難しくなり得る。加えて、得られた混合物又は組成物は、粘着性が高くなりすぎることがある(すなわち適用のために使用される歯科用器具に接着してしまう)。
【0154】
ポリ酸の分子量が低すぎる場合、得られたペーストの粘度は低すぎるものになり得、機械的特性は劣ったものになり得る。
【0155】
典型的には、ポリ酸は、複数の酸性繰り返し単位を有するポリマーである。
【0156】
本明細書に記載のセメント組成物のために使用されるポリ酸は、重合性基を実質的に含まない。
【0157】
ポリ酸は完全に水溶性である必要はないが、他の水性成分と組み合わせた際に実質的に沈降することのないよう、典型的には、少なくとも十分に水混和性である。
【0158】
ポリ酸は、例えば酸反応性充填剤及び水の存在下で、固化性であるが、エチレン性不飽和基は含有しない。
【0159】
すなわち、ポリ酸は、不飽和酸を重合することにより得られたポリマーである。しかしながら、本製造方法により、ポリ酸は、回避できない微量の(例えば使用されるモノマーの量に対して、最大1、又は0.5、又は0.3重量%)遊離モノマーを依然として含有し得る。
【0160】
典型的には、不飽和酸は、炭素、硫黄、リン、又はホウ素のオキシ酸(すなわち酸素含有酸)である。より典型的には、それは、炭素のオキシ酸である。
【0161】
好適なポリ酸としては、例えばポリアルケン酸、例えば不飽和モノ-、ジ-、又はトリカルボン酸のホモポリマー及びコポリマーが挙げられる。
【0162】
ポリアルケン酸は、不飽和脂肪族カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、グルタコン酸、アコニット酸、シトラコン酸、メサコン酸、フマル酸、及びチグリン酸の単独重合及び共重合により調製できる。
【0163】
好適なポリ酸としては、マレイン酸とエチレンとの交互コポリマー(例えばモル比1:1のもの)もまた挙げられる。
【0164】
好適なポリ酸はまた、以下の文献、米国特許第4,209,434号(Wilsonら)、米国特許第4,360,605号(Schmittら)に記載されている。これらの文献のポリ酸の説明に関する内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0165】
好適なポリ酸はまた、例えば3M Oral Care製(例えばKetac(商標)Fil Plus Handmix)、又はGC製(例えばFuji(商標)IX GP Handmix)の市販製品の液体成分中の水溶液として含まれる。
【0166】
ポリ酸の量は、酸反応性充填剤と反応し、所望の硬化特性を有するアイオノマー組成物を与えるのに十分であるべきである。
【0167】
ポリ酸の量が多すぎる場合、本明細書に記載のパーツキット中に含有される組成物を混合した際に得られるペーストの粘稠性を作業可能なものとすることが難しくなり得る。更に、組成物の調製が難しくなり得る。加えて、得られた混合物又は組成物は、粘着性が高くなりすぎることがある(すなわち適用のために使用される歯科用器具に接着してしまう)。
【0168】
ポリ酸が存在する場合、ポリ酸は、典型的には、組成物全体の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも1重量%又は4重量%又は6重量%;最大25重量%又は20重量%又は15重量%、範囲:1重量%~25重量%又は4重量%~20重量%又は6重量%~15重量%で存在する。0.25重量%~20重量%の範囲が好ましい場合がある。
【0169】
組成物は、添加剤も含むことができる。
【0170】
添加することができる添加剤としては、染料、顔料、光退色性着色剤、可塑剤、遅延剤、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0171】
使用することのできる染料又は顔料の例としては、二酸化チタン又は硫化亜鉛(リトポン)、赤色酸化鉄3395,Bayferrox(商標)920 Z Yellow、Neazopon(商標)Blue 807(銅フタロシアニン系染料)又はHelio(商標)Fast Yellow ERが挙げられる。これらの添加剤は、歯科用組成物の個々の着色に使用することができる。
【0172】
存在し得る光漂白性着色剤の例としては、ローズベンガル、メチレンバイオレット、メチレンブルー、フルオレセイン、エオシンイエロー、エオシンY、エチルエオシン、エオシンブルーイッシュ、エオシンB、エリトロシンB、エリトロシンイエローイッシュブレンド、トルイジンブルー、4’,5’-ジブロモフルオレセイン、及びそれらのブレンドが挙げられる。光漂白性着色剤の更なる例は、米国特許第6,444,725号に見出すことができる。
【0173】
添加することのできる更なる添加剤としては、抑制剤(例えば1,2-ジフェニルエチレン)、及び可塑剤(ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール、低分子量ポリエステル、フタル酸ジブチル、ジオクチル、ジノニル及びジフェニル、ジ(イソノニルアジペート)、トリクレシルホスフェート、パラフィン油、三酢酸グリセロール、ビスフェノールAジアセテート、エトキシ化ビスフェノールAジアセテート、並びにシリコーン油を含む)が挙げられる。
【0174】
添加剤は存在する必要はなく、添加剤は全く存在しなくてもよい。しかし、これらが存在する場合、典型的には、意図した目的に有害ではない量で存在する。
【0175】
添加剤は、典型的には、組成物全体の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、少なくとも0重量%又は0.01重量%;最大15重量%又は10重量%又は5重量%、範囲:0重量%~15重量%又は0重量%~10重量%又は0.01重量%~5重量%で存在する。
【0176】
本明細書に記載の歯科用組成物及び開始剤系に使用される全ての成分は、十分に生体適合性である必要があり、すなわち、この組成物は、生体組織内で、有毒反応、有害反応、又は免疫反応を引き起こさない必要がある。
【0177】
開始剤系及び歯科用組成物は、典型的には、以下の成分:組成物の重量に対する重量%で、0.1重量%超の量の過硫酸塩;0.1重量%超の量のスルフィン酸塩を、単独で又は組み合わせて含まないか、又は本質的に含まない。
【0178】
ある特定の実施形態によれば、歯科用組成物は、これらの成分のいずれかを単独で又は組み合わせて本質的に含まない。
【0179】
ある特定の実施形態では、歯科用組成物は、次の量のそれぞれの成分:
本明細書に記載の開始剤系(ヒドロペルオキシド、チオ尿素成分及び遷移金属成分を含む):0.1重量%~5重量%、
酸性部分を有する重合性成分:0.5重量%~15重量%、
酸性部分を有しない重合性成分:1重量%~50重量%、
酸反応性充填剤:5重量%~70重量%、
非酸反応性充填剤:0重量%~40重量%、
ポリ酸:1重量%~25重量%、
水:0.25重量%~20重量%、
光開始剤:0重量%~2重量%、
添加剤:0重量%~15重量%、を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなってもよく、
重量%は組成物全体の重量に対するものである。
【0180】
ある特定の実施形態では、歯科用組成物は、次の量のそれぞれの成分:
本明細書に記載の開始剤系(ヒドロペルオキシド、チオ尿素成分及び遷移金属成分を含む):0.3重量%~5重量%、
酸性部分を有する重合性成分:1重量%~10重量%、
酸性部分を有しない重合性成分:5重量%~40重量%、
酸反応性充填剤:5重量%~50重量%、
非酸反応性充填剤:4重量%~35重量%、
ポリ酸:4重量%~20重量%、
水:0.5重量%~15重量%、
光開始剤:0.01重量%~1重量%、
添加剤:0重量%~10重量%、を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなってもよく、
重量%は組成物全体の重量に対するものである。
【0181】
歯科用組成物は、典型的には、酸部又はペースト及び非酸性部又はペーストを含むパーツキットとして提供される。
【0182】
酸性部及び非酸性部は、典型的には、体積で3:1~1:3又は2:1~1:2の比で、好ましくは体積で1:1の比で提供される。
【0183】
パーツキットの成分は、典型的には、それらの間の望ましくない反応又は相互作用を回避する形態で提供される。
【0184】
酸性部又はペーストは、典型的には、
酸性部分を有する重合性成分を、好ましくは1重量%~20重量%の量で、
任意選択で、酸性部分を有しない重合性成分を、好ましくは0重量%~50重量%又は5重量%~40重量%の量で、
ヒドロペルオキシド成分を、好ましくは0.1重量%~5重量%の量で、
任意選択で、遷移金属成分を、好ましくは0重量%~0.5重量%又は0.001重量%~0.5重量%の量で、
ポリ酸を、好ましくは1重量%~30重量%の量で、
任意選択で、非酸反応性充填剤を、好ましくは0重量%~50重量%又は5重量%~50重量%の量で、
水を、好ましくは0.5重量%~20重量%又は1重量%~20重量%の量で、及び
任意選択で、添加剤を、0重量%~10重量%の量で、含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなってもよく、
重量%は酸性部又はペーストに対するものである。
【0185】
非酸性部又はペーストは、典型的には、
酸性部分を有しない重合性成分を、好ましくは1重量%~60重量%又は5重量%~40重量%の量で、
任意選択で、光開始剤を、好ましくは0重量%~2重量%又は0.01重量%~2重量%の量で、
重合性チオ尿素成分を、好ましくは0.1重量%~3重量%の量で、
酸反応性充填剤を、好ましくは15重量%~70重量%の量で、
任意選択で、非酸反応性充填剤を、好ましくは0重量%~30重量%又は1重量%~20重量%の量で、及び
任意選択で、添加剤を、好ましくは0重量%~10重量%の量で、含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなってもよく、
重量%は非酸性部又はペーストに対するものである。
【0186】
個々の部分又はペーストの粘度は、典型的には、20s-1の剪断速度で測定して、23℃で5Pa*s~1,000Pa*s、又は23℃で10Pa*s~500Pa*sの範囲である。
【0187】
本明細書に記載の開始剤系は、それぞれの成分を混合することによって製造することできる。所望であれば、スピードミキサー又は混練機を使用することができる。必要に応じて、製造は、セーブライト条件下で行われる。
【0188】
本発明はまた、パーツキットに関する。
【0189】
パーツキットは、本明細書に記載される歯科用組成物及び以下の成分を単独で又は組み合わせて含み得る:歯科用ミリングブロック;歯科用クラウン;混合チップ;歯科用接着剤又は接着システム;クラウン材料又は歯材料のための調整液。
【0190】
好適な歯科用ミリングブロックは、典型的には、相安定化成分としてのイットリア及び着色成分を含有する多孔質ジルコニア材料を含む。歯科用ミリングブロックの例は、米国特許出願公開第2017/020639号(Jahnsら)、米国特許出願公開第2015/238291(A1)号(Hauptmannら)に記載されている。
【0191】
使用することができる既製の歯科用クラウンとしては、ステンレス鋼クラウン(3M Oral Care)、又はポリアセタール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリスルホン(PSU)から作製されたプラスチッククラウンが挙げられる。
【0192】
好適な既製の歯科用クラウンは、米国特許第8,651,867(B2)号(Zilberman)、国際公開第2007/098485(A2)号(Nusmile)、国際公開第2008/033758(A2)号(3M)、及び米国特許出願公開第2007/0196792(A1)号(Johnsonら)にも記載されている。上述した参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0193】
使用することができる市販の歯科用接着剤又は接着システムとしては、Scotchbond(商標)Universal Adhesive(3M Oral Care)、Scotchbond(商標)Universal Plus Adhesive(3M Oral Care)が挙げられる。
【0194】
使用することができる市販のコンディショナーとしては、Ketac(商標)コンディショナー(3M Oral Care)及びCavity Conditioner(GC)が挙げられる。
【0195】
本明細書に記載の歯科用組成物は、典型的には、適切なパッケージング材料内又はデバイス内で貯蔵される。
【0196】
歯科用組成物が、酸性ペースト及び非酸性ペーストを含むパーツキットとして提供される場合、ペーストは、別個の密封可能な容器(vessels)又は容器(receptacles)(例えば、プラスチック又はガラスから作製される)に含有されていてもよい。
【0197】
使用のために、医師は、含有されている組成物の適切な分量を容器から取り、その分量を混合プレート上で手で混合することができる。
【0198】
好ましい実施形態によると、酸性ペースト及び非酸性ペーストは、保存デバイスの別個のコンパートメントに含有される。
【0199】
保存デバイスは、典型的には、それぞれの部分を保存するための2つのコンパートメントを備え、各コンパートメントには、それぞれの部分を送達するためのノズルが備え付けられている。一旦、適切な分量が送達されたら、次いで、その部分は、混合プレート上で手で混合され得る。好適な保存デバイスは、カートリッジ、シリンジ及びチューブを含む。
【0200】
別の実施形態によると、保存デバイスは、静的混合チップを受容するためのインターフェースを有する。混合チップは、それぞれのペーストを混合するために使用される。静的混合チップは、例えばSulzerMixpac companyから市販されている。
【0201】
保存デバイスは、典型的には2つのハウジング又はコンパートメントを備え、これは、ノズルを有する前端、及び後端、及びハウジング又はコンパートメント中で移動可能な少なくとも1つのピストンを有する。
【0202】
使用可能なカートリッジは、例えば米国特許出願公開第2007/0090079(A1)号(Keller)、又は米国特許第5,918,772号(Kellerら)に記載され、その開示は、参照により組み込まれる。使用することのできるカートリッジの一部は、例えば、Sulzer Mixpac AG(Switzerland)から市販されている。使用可能な静的混合チップは、例えば米国特許出願公開第2006/0187752(A1)号(Keller)、又は米国特許第5,944,419号(Streiff)に記載され、その開示は、参照により組み込まれる。使用することのできる混合チップは、同様に、Sulzer Mixpac AG(Switzerland)から市販されている。
【0203】
他の好適な貯蔵デバイスは、例えば、国際公開第2010/123800号(3M)、国際公開第2005/016783号(3M)、国際公開第2007/104037号(3M)、国際公開第2009/061884号(3M)(特に、国際公開第2009/061884号(3M)の図14に示されるデバイス)又は国際公開第2015/073246号(3M)(特に、国際公開第2015/07346号の図1に示されるデバイス)に記載されている。これらの保存デバイスは、シリンジの形状を有する。これらの参考文献の内容は、同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0204】
あるいは、それほど好ましくはないが、本明細書に記載のペースト/ペースト組成物は、2つの個々のシリンジ中で提供され得、その個々のペーストは、使用前に手で混合されてもよい。
【0205】
したがって、本発明はまた、本明細書に記載のパーツキットを保存するためのデバイスであって、デバイスは2つのコンパートメント、コンパートメントA及びコンパートメントBを備え、コンパートメントAは酸性ペーストを含有し、コンパートメントBは非酸性ペーストを含有し、酸性ペースト及び非酸性ペーストは本明細書に記載の通りのものであり、コンパートメントA及びコンパートメントBの両方が、ノズル又は静的混合チップのエントランスオリフィスを受容するためのインターフェースを備える、デバイスを対象とする。
【0206】
本明細書に記載の歯科用組成物は、調製された歯の表面に歯科用修復物を固定するための歯科用セメントとして使用することができる。歯科用修復物は、典型的には、歯科用クラウン若しくはブリッジ、ベニヤ、アンレー又はインレーの形状を有する。
【0207】
本明細書に引用した特許、特許文献、及び刊行物の全開示は、それぞれが個別に組み込まれたかのごとく、それらの全体が参照により組み込まれる。本発明に対する様々な改変及び変更が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなるであろう。上記の明細書、例及びデータは、本発明の組成物の製造及び使用並びに方法の説明を提供する。本発明は、本明細書に開示された実施形態には限定されない。当業者であれば、本発明の多くの代替的実施形態が、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく実施できることを理解するであろう。
【0208】
以下の実施例は本発明の範囲を例示するために示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない。特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量による。
【実施例
【0209】
特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。更に、特に指示のない限り、全ての実験は周囲条件(23℃、1013mbar)で実施した。
【0210】
方法
単一部分の粘度
所望であれば、組成物の単一部分/ペースト組成物の粘度は、プレート/プレートの形状を有するPhysica MCR301レオメーター(Anton Paar,Graz,Austria)を用いて23℃にて制御された剪断速度の下で測定することができる。プレート直径は15mmであり、プレート間の分離ギャップは0.5mmである。剪断速度は、20s-1である。
【0211】
二剤型組成物の粘度
所望であれば、二剤型組成物の粘度は、28℃で制御された振動下でプレート/プレート形状を有するPhysica MCR 301レオメーター(Anton Paar,Graz,Austria)を使用して測定することができる。プレート直径は8mmであり、プレート間の分離ギャップは0.75mmである。振動周波数は1.25Hzであり、撓みは1.75%である。
【0212】
粒径(マイクロサイズ粒子に適している)
所望であれば、体積ごとの粒径(d50)を含む粒径分布は、Fraunhofer近似を適用するMastersizer 2000(Malvern)粒径検出装置を用いたレーザー回折によって決定することができる。測定中に、典型的には超音波を用いて、サンプルを正確に分散させる。水不溶性粒子の場合、典型的には水が分散剤として使用される。
【0213】
粒径(ナノサイズ粒子に好適)
所望であれば、633nmの光の波長を有する赤色レーザーを備えた光散乱型粒径測定装置(「ZETA SIZER-Nano Series,Model ZEN3600」の商品名でMalvern Instruments Inc.,Westborough,MAから入手)を使用して、粒径測定を実施できる。各試料を、1平方センチメートルのポリスチレン試料キュベット内で解析する。試料は1:100で希釈され、例えば1gの試料が100gの脱イオン水に添加されて混合される。試料キュベットに、約1グラムの希釈試料を充填する。次いで試料キュベットを器具内に置き、25℃にて平衡化させる。器具のパラメータは次のように設定する:分散剤の屈折率1.330、分散剤の粘度0.8872mPa*s、材料の屈折率1.43、及び材料の吸着値0.00ユニット。次に、自動粒径測定手順を実行する。器具は、粒径の最も良好な測定値を得るよう、レーザー光線位置及び減衰器設定を自動的に調整する。
【0214】
光散乱型粒径測定装置は、レーザーで試料を照射し、粒子から散乱された光の強度変動を173度の角度で解析する。粒径を計算するため、器具による光子相関分光法(Photon Correlation Spectroscopy、PCS)の方法を用いることができる。PCSは、液体中の粒子のブラウン運動を測定するために、変動する光の強度を用いる。次に、粒径を、測定された速度で移動する球体の直径であるとして計算する。
【0215】
粒子によって散乱される光の強度は、粒子直径の6乗に比例する。Z平均サイズ又はキュムラント平均は、強度分布から計算される平均であり、計算は、粒子が単峰性、単分散性、及び球状であるという仮定に基づく。変動する光の強度から計算される関連する関数は、強度分布及びその平均である。強度分布の平均は、粒子が球状であるという仮定に基づき計算される。Z平均サイズ及び強度分布平均の双方とも、より小さい粒子に対するよりも、より大きな粒子に対して、感度が高い。
【0216】
体積分布は、所与のサイズ範囲内の粒子に相当する粒子の総体積の百分率を示す。体積平均粒径は、体積分布の平均に相当する粒径である。粒子の体積は直径の3乗に比例するため、この分布は、より大きな粒子に対しては、Z平均サイズよりも感度が低い。したがって、体積平均は、典型的には、Z平均サイズよりも小さい値である。この文献の範囲では、Z平均サイズは、「平均粒径」と称される。
【0217】
pH値
所望であれば、pH値は次のようにして測定することができる:湿ったpH感受性紙又は試験スティックを分析すべき組成物と接触させる。
【0218】
硬化時間
所望であれば、硬化時間は、ある時間をかけて硬化中の混合組成物の粘度を記録することによって測定することができる。粘度は、28℃でプレート/プレート形状を有するPhysica MCR 301レオメーター(Anton Paar,Graz,Austria)を使用して測定する。記録されたグラフから、硬化の開始及び終了を示す2つの測定点が取られる。2つの測定点は:a)硬化の開始=粘度が出発粘度の3倍になる時間(混合の開始から60秒後に測定される)、b)硬化時間=剪断応力が100,000Paに達する時間である。
【0219】
剪断接着強度(SBS)
ウシの歯を平らに研削して象牙質を露出させ、研磨し(グリット320サンドペーパー)、水ですすぎ、穏やかに空気乾燥させた。サンドブラストされシラン化されたスチールロッド(直径=4mm)を、試験されるペーストの混合物を使用して、調製された歯に接合した。20g/mmの荷重を、36℃で10分間、接合したロッドにかけ、次いで取り除いた。その後、試料を22時間保存した。次いで、Zwick 010(Germany)引張試験機(速度=0.75mm/分)を使用して、試験片に剪断接着強度(SBS)試験を行った。
【0220】
水接触角
所望であれば、水接触角は以下のように測定することができる:試験される成分の10重量%エタノール溶液の液滴を歯科用混合パッドの表面上に適用する。エタノール性溶媒を蒸発させて、コーティングされた表面(およそ、4cmのサイズ)を得る。その表面上に水滴を置き、水接触角の進展を23℃で分析する(Kruess Advanceソフトウェア1.13.1.31401)。液滴の配置後0秒~12秒以内に得られた平均値をとる。
【表1】
【0221】
ペーストを製造するための一般的方法
ペーストの調製は、スピードミキサーを使用して標準化された条件(室温、周囲圧力、相対湿度50%)下で所与の成分を混合することによって行った。
【表2】
【表3】
【0222】
適切かつ匹敵する硬化条件を得るために、重合性チオ尿素成分の量を非酸性ペースト中で増加させて、それぞれのペースト中のチオ尿素成分のモル量が本質的に等しくなるようにした(DMTU:104g/mol;MOPETU:258g/mol)。
【0223】
各ペーストは、重量比で1対1.5(体積比で約1:1に相当)の割合で混合した。
【表4】
【表5】
【0224】
本発明の重合性チオ尿素成分を硬化性組成物、特にレジン改質グラスアイオノマー組成物に添加すると、妥当な硬化時間内に硬化した組成物の象牙質に対する接着強度が改善されることが見出された。
【0225】
これは、例1(比較例)及び例2(本発明)の剪断接着強度値を比較すると明らかになる。例2は、より高い剪断接着強度を示す。
【0226】
例2では硬化時間がより長いので、例4(本発明)ではより多量のヒドロペルオキシドを使用することによって組成を調整した。この結果、例4(本発明)の剪断接着強度は更に高くなり、例3(比較例)との差ははるかに顕著になった。
【0227】
例3(比較例)は、例3及び4におけるヒドロペルオキシドの量が等しいので、例4のより高い接着強度が、より多量のヒドロペルオキシドに関連しないことを示す。
【0228】
例5(本発明)は、本発明の重合性チオ尿素成分が、米国特許出願公開第2003/0166740(A1)号の例14(例6、比較例)に記載されている重合性チオ尿素成分よりも良好な象牙質に対する剪断接着強度を提供することを示す。
【0229】
更に、本発明の重合性チオ尿素成分は、バランスのとれた親水性を示すことがわかった。この成分は、DMTUより親水性が低いが、象牙質に対する剪断接着強度を改善するのに十分な親水性を提供する。しかしながら、例6(米国特許出願公開第2003/0166740(A1)号の例14の成分を使用する)は、本発明の重合性チオ尿素成分(例5)よりも高い水接触角を有するが、低い接着強度を有するので、水接触角のみが必ずしも接着強度に直接影響を与えるわけではない。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0207
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0207】
本明細書に引用した特許、特許文献、及び刊行物の全開示は、それぞれが個別に組み込まれたかのごとく、それらの全体が参照により組み込まれる。本発明に対する様々な改変及び変更が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなるであろう。上記の明細書、例及びデータは、本発明の組成物の製造及び使用並びに方法の説明を提供する。本発明は、本明細書に開示された実施形態には限定されない。当業者であれば、本発明の多くの代替的実施形態が、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく実施できることを理解するであろう。
本発明は以下の態様を包含する。
(1)歯科用組成物を硬化させるための開始剤系であって、前記開始剤系が、
ヒドロペルオキシド成分と、
Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Znのイオン又はそれらの混合物を含む遷移金属成分と、
3~11 アルキル鎖を介して(メタ)アクリレート部分に結合しているチオ尿素部分を含む、重合性チオ尿素成分と、
を含む、開始剤系。
(2)前記ヒドロペルオキシド成分及び重合性チオ尿素成分が、ヒドロペルオキシド部分とチオ尿素部分との比で3/1~1/2のモル比で存在する、項目1に記載の開始剤系。
(3)前記ヒドロペルオキシド成分が、テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、及びジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシド、ベンゼンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、5-フェニル-4-ペンテニルヒドロペルオキシド、並びにそれらの混合物から選択される、項目1又は2に記載の開始剤系。
(4)前記重合性チオ尿素成分が式
MA-S-TU-R
(式中、
MA:(メタ)アクリレート、
S:C 3~11 アルキル、
TU:NH-CS-NH、
R:C ~C アルキル又はシクロアルキルである)
を有する、項目1~3のいずれかに記載の開始剤系。
(5)前記重合性チオ尿素成分が、23℃で0秒~12秒の時間をかけて測定して10°を超える平均水接触角を有する、項目1~4のいずれかに記載の開始剤系。
(6)前記重合性チオ尿素成分が、N-(5-メタクリルオキシペンチル)-N’-エチルチオ尿素、N-(5-メタクリルオキシペンチル)-N’-シクロヘキシルチオ尿素、N-(5-メタクリルオキシウンデシル)-N’-エチルチオ尿素、及びそれらの混合物から選択される、項目1~5のいずれかに記載の開始剤系。
(7)前記遷移金属成分が、酢酸銅、塩化銅、安息香酸銅、アセチルアセトナト銅、ナフテン酸銅、カルボン酸銅、銅ビス(1-フェニルペンタン-1,3-ジオン)錯体、サリチル酸銅、チオ尿素、エチレンジアミン四酢酸との銅の錯体、及び/又はそれらの混合物を含む、項目1~6のいずれかに記載の開始剤系。
(8)光開始剤を更に含む、項目1~7のいずれかに記載の開始剤系。
(9)安定剤、特にフリーラジカル部分を含む安定剤成分を更に含む、項目1~8のいずれかに記載の開始剤系。
(10)前記安定剤が、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジニルオキシル、2,6-ジ-tert-ブチル-α-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル、トリフェニルメチルラジカル、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール及びそれらの混合物から選択される、項目1~9のいずれかに記載の開始剤系。
(11)項目1~10のいずれかに記載の開始剤系と、
重合性成分、特に酸性部分を含む重合性成分と、
任意選択で、充填剤と、
任意選択で、添加剤と、を含む、歯科用組成物。
(12)項目1~10のいずれかに記載の開始剤系を、好ましくは、0.1重量%~5重量%の量で、
酸性部分を含む重合性成分を、好ましくは0.5重量%~15重量%の量で、
酸性部分を含まない重合性成分を、好ましくは1重量%~50重量%の量で、
水を、好ましくは0.25重量%~20重量%の量で、
酸反応性充填剤を、好ましくは5重量%~70重量%の量で、
非酸反応性充填剤を、好ましくは0重量%~40重量%の量で、
ポリ酸を、好ましくは1重量%~25重量%の量で、及び
添加剤を、好ましくは0重量%~15重量%の量で、含み、
重量%が前記歯科用組成物に対するものである、項目11に記載の歯科用組成物。
(13)酸性部及び非酸性部を含む二剤型組成物として提供され、
酸性部及び非酸性部が、体積で3:1~1:3の比で提供され、
前記酸性部又はペーストが、
酸性部分を有する重合性成分と、
任意選択で、酸性部分を有しない重合性成分と、
ヒドロペルオキシド成分と、
遷移金属成分と、
ポリ酸と、
非酸反応性充填剤と、
水と、
添加剤と、を含み、
前記非酸性部又はペーストが、
酸性部分を有しない重合性成分と、
任意選択で、光開始剤と、
重合性チオ尿素成分と、
酸反応性充填剤と、
非酸反応性充填剤と、
添加剤と、
を含む、項目11又は12に記載の歯科用組成物。
(14)項目11~13のいずれかに記載の歯科用組成物と、以下のパーツ:歯科用ミリングブロック;歯科用クラウン;混合チップ;歯科用接着剤;歯科用コンディショナーの単独又は組み合わせとを含む、パーツキット。
(15)項目11~13のいずれかに記載の歯科用組成物の、象牙質に対する接着強度を向上させる方法に使用するための、項目1~10のいずれかに記載の開始剤系。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用組成物を硬化させるための開始剤系であって、前記開始剤系が、
ヒドロペルオキシド成分と、
Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Znのイオン又はそれらの混合物を含む遷移金属成分と、
3~11アルキル鎖を介して(メタ)アクリレート部分に結合しているチオ尿素部分を含む、重合性チオ尿素成分と、
を含む、開始剤系。
【請求項2】
前記ヒドロペルオキシド成分及び重合性チオ尿素成分が、ヒドロペルオキシド部分とチオ尿素部分との比で3/1~1/2のモル比で存在する、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項3】
前記重合性チオ尿素成分が式
MA-S-TU-R
(式中、
MA:(メタ)アクリレート、
S:C3~11アルキル、
TU:NH-CS-NH、
R:C~Cアルキル又はシクロアルキルである)
を有する、請求項1又は2に記載の開始剤系。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の開始剤系と、
重合性成分、特に酸性部分を含む重合性成分と、
任意選択で、充填剤と、
任意選択で、添加剤と、を含む、歯科用組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の開始剤系を、好ましくは、0.1重量%~5重量%の量で、
酸性部分を含む重合性成分を、好ましくは0.5重量%~15重量%の量で、
酸性部分を含まない重合性成分を、好ましくは1重量%~50重量%の量で、
水を、好ましくは0.25重量%~20重量%の量で、
酸反応性充填剤を、好ましくは5重量%~70重量%の量で、
非酸反応性充填剤を、好ましくは0重量%~40重量%の量で、
ポリ酸を、好ましくは1重量%~25重量%の量で、及び
添加剤を、好ましくは0重量%~15重量%の量で、含み、
重量%が前記歯科用組成物に対するものである、請求項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
酸性部及び非酸性部を含む二剤型組成物として提供され、
酸性部及び非酸性部が、体積で3:1~1:3の比で提供され、
前記酸性部又はペーストが、
酸性部分を有する重合性成分と、
任意選択で、酸性部分を有しない重合性成分と、
ヒドロペルオキシド成分と、
遷移金属成分と、
ポリ酸と、
非酸反応性充填剤と、
水と、
添加剤と、を含み、
前記非酸性部又はペーストが、
酸性部分を有しない重合性成分と、
任意選択で、光開始剤と、
重合性チオ尿素成分と、
酸反応性充填剤と、
非酸反応性充填剤と、
添加剤と、
を含む、請求項又はに記載の歯科用組成物。
【国際調査報告】