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  • 特表-二相潤滑剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】二相潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240403BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 145/26 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 149/00 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 129/16 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20240403BHJP
   C10M 133/54 20060101ALN20240403BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240403BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240403BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240403BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20240403BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240403BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/04
C10M107/34
C10M105/32
C10M145/26
C10M149/00
C10M129/16
C10M133/04
C10M133/54
C10N20:02
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:30
C10N30:02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565898
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2022060540
(87)【国際公開番号】W WO2022228988
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】63/180,261
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】リサラガ-ガルシア,エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】キーケブッシュ,レオナルト・ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ウイ,デイリーン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BB31A
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB35A
4H104BB36A
4H104BB41A
4H104BB41C
4H104BE01C
4H104BF01C
4H104CB14A
4H104CB14C
4H104CE19C
4H104EA02A
4H104LA01
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA20
(57)【要約】
本発明は、(a)3.5~7.0mm2/秒の範囲の100℃における動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ誘導基油である、45~75質量%の低粘度の第1の基油構成成分と、(b)ポリアルキレングリコールである、3~35質量%の高粘度の第2の基油構成成分と、(c)非イオン性界面活性剤である消泡添加剤と、を含み、質量%は、潤滑組成物の全質量を基準とする、潤滑油組成物を提供する。本発明はまた、車軸を潤滑にするための方法を提供するが、当該方法は、当該車軸に潤滑油組成物を供給することを含み、潤滑油組成物は、(a)3.5~7.0mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ誘導基油である、45~75質量%の低粘度の第1の基油構成成分と、(b)ポリアルキレングリコールである、3~35質量%の高粘度の第2の基油構成成分と、(c)非イオン性界面活性剤である消泡添加剤と、を含み、質量%は、潤滑組成物の全質量を基準とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
(a)3.5~7.0mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ誘導基油である、45~75質量%の低粘度の第1の基油構成成分と、
(b)ポリアルキレングリコールである、3~35質量%の高粘度の第2の基油構成成分と、
(c)非イオン性界面活性剤である消泡添加剤と、を含み、質量%は、前記潤滑組成物の全質量を基準とする、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記低粘度の第1の基油構成成分が、4.0~6.0mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記高粘度の第2の基油構成成分が、90~120mm/秒、好ましくは95~105mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
1種以上のエステル基油を含む調整構成成分もまた含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記エステル基油が、0.080~0.350、好ましくは0.080~0.300の酸素/炭素重量比を有する、請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記エステル基油が、前記低粘度の第1の基油構成成分の動粘度を1mm/秒以下、より好ましくは0.5mm/秒以下で上回る、又は下回る、100℃における動粘度を有する、請求項4又は5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
1種以上のエステル基油を含む前記調整構成成分が、前記潤滑油組成物の前記全質量を基準として、2~10質量%の量で存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリアルコキシル化アルコール、ポリアルコキシル化アミン、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
車軸を潤滑にするための方法であって、前記方法が、前記車軸に潤滑油組成物を供給することを含み、前記潤滑油組成物が、
(a)3.5~7.0mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ誘導基油である、45~75質量%の低粘度の第1の基油構成成分と、
(b)ポリアルキレングリコールである、3~35質量%の高粘度の第2の基油構成成分と、
(c)非イオン性界面活性剤である消泡添加剤と、を含み、質量%は、前記潤滑組成物の前記全質量を基準とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸の潤滑方法及びそれに使用する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料経済性は、自動車産業における主要な課題である。燃料効率を改善するための重要な方法は、より低い粘度を有する潤滑剤の使用である。しかしながら、装置が作動する温度の全範囲にわたって適切な潤滑剤粘度を維持することもまた重要である。特に、高負荷及び高温条件で必要な保護レベルを維持することは、低粘度の潤滑剤配合物では困難であることが判明し得る。
【0003】
二相潤滑剤は、低粘度構成成分及び高粘度構成成分からなる。典型的には、鉱物基油又はポリ-α-オレフィン(Poly-α-Olefin、PAO)が低粘度構成成分として使用され、ポリアルキレングリコールが高粘度構成成分として選択される。二相潤滑剤において、ポリアルキレングリコールは、室温未満で低粘度構成成分から分離した相にあるが、温度が上昇するにつれて低粘度構成成分に溶解し始める。次に、本現象は、温度が低下するにつれて逆転する。したがって、低温では、潤滑は低粘度構成成分に由来し、摩擦を効果的に低減し、一方、高温では、高粘度構成成分が大きな役割を果たし、より大きな摩耗保護を提供する。
【0004】
国際公開第9611244号には、低粘度潤滑油と高粘度潤滑油とを組み合わせることにより、低温では低粘度潤滑油の特性のみを利用し、一方で、高温では高粘度潤滑油と低粘度潤滑油とを混合することによって粘度が増加する油の特性を利用して、高温と低温の両方で機能する潤滑油が開示されている。
【0005】
国際公開第2014207172号は、(i)鉱油、合成油及びGTLから選択される低粘度潤滑油基油構成成分を、(ii)ポリアルキレングリコール系の高粘度構成成分と、(iii)調整構成成分と、を混合することによって生成される、100℃での動粘度が3.5~7.0mm/秒である駆動システム動力伝達油組成物を教示している。
【0006】
二相潤滑油の使用に関する更なる研究は、KamataらのTribology Online,11,1(2016年),24-33に記載されている。
【0007】
二相潤滑油をブレンドすることは、多くの課題を有する。任意の添加剤は、潤滑油が二相である場合に低温で完全に溶解して活性であり、二相が完全に混合する際に溶解と活性との両方を維持し、温度が再び低下する際に溶解と活性との両方を維持し続ける必要がある。このような活性は、加熱及び冷却の繰り返しサイクルにわたって維持されなければならない。特に重要なのは、二相潤滑油中で作用し、広範囲の温度にわたって実質的な消泡保護を提供し得る消泡添加剤の提供である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1a、図1b、及び図1cは、使用中の二相流体の概略図である。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、潤滑油組成物であって、
(a)3.5~7.0mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)誘導基油である、45~75質量%の低粘度の第1の基油構成成分と、
(b)ポリアルキレングリコールである、3~35質量%の高粘度の第2の基油構成成分と、
(c)非イオン性界面活性剤である消泡添加剤と、を含み、質量%は、潤滑組成物の全質量を基準とする、潤滑油組成物を提供する。
【0010】
本発明はまた、車軸を潤滑にするための方法を提供するが、当該方法は、当該車軸に潤滑油組成物を供給することを含み、潤滑油組成物は、
(a)3.5~7.0mm/秒の範囲の100℃における動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)誘導基油である、45~75質量%の低粘度の第1の基油構成成分と、
(b)ポリアルキレングリコールである、3~35質量%の高粘度の第2の基油構成成分と、
(c)非イオン性界面活性剤である消泡添加剤であって、質量%が、潤滑組成物の全質量を基準とする、消泡添加剤と、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
驚くべきことに、非イオン性界面活性剤系の消泡剤は、低粘度構成成分としてフィッシャー・トロプシュ系の基油及び高粘度構成成分としてポリアルキレングリコールを含む二相潤滑油組成物において、優れた消泡特性を提供することが見出された。
【0012】
また、この潤滑油組成物は、自動車用ギア油、AT油、MT油、及びCVT油等の動力伝達油、作動油、コンプレッサ油などの工業用潤滑油として、広く有効に使用され得る。好ましい実施形態では、それは車軸流体として使用される。
【0013】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、一酸化炭素と水素とを、様々な液体燃料と油とに変換するために、フィッシャー・トロプシュプロセスを使用して調製されたものである。一酸化炭素及び水素の供給源は、多様であり得る。例えば、ガス液化(Gas To Liquid、GTL)基油は、出発物質として天然ガスを使用してフィッシャー・トロプシュプロセスによって合成される。例えば、石炭液化(Coal To Liquid、CTL)、バイオマス液化(Biomass To Liquid、BTL)及び動力液化(Power To Liquid、PTL)など、Xが炭素原子及び水素原子の根源を表す様々なその他のXTLプロセスが知られている。GTL基油又はそのブレンドは、原油から生成される鉱油基油と比較して、硫黄含量及び芳香族含量が極めて低く、パラフィン構成成分比が非常に高いので、酸化安定性に優れ、蒸発損失が極めて小さいことから、本発明におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油として使用するために理想的である。
【0014】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油については、広範囲の100℃での動粘度(KV100)が存在するが、3.5~7.0mm/秒の範囲のKV100を有するものが本発明において使用される。当該フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、3.5~7.0mm/秒の範囲のKV100を有する単一のフィッシャー・トロプシュ誘導基油であってもよい、又はブレンドのKV100が3.5~7.0mm/秒の範囲である2種以上のフィッシャー・トロプシュ誘導基油のブレンドであってもよい。より好ましくは、フィッシャー・トロプシュ誘導基油である低粘度の第1の基油構成成分は、100℃で4.0~6.0mm/秒の範囲の動粘度を有する。
【0015】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油である低粘度の第1の基油構成成分の量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、45~75質量%、好ましくは45~65質量%である。
【0016】
高粘度の第2の基油構成成分は、潤滑油組成物の全質量を基準として、3~35質量%の範囲で存在する。当該高粘度の第2の基油構成成分は、ポリアルキレングリコールである。好ましいポリアルキレングリコールとしては、ポリ(オキシプロピレン)系の生成物が挙げられる。好ましくは、当該高粘度の第2の基油構成成分は、潤滑油組成物の全質量を基準として、13~28質量%の範囲の量で存在する。
【0017】
好適な高粘度の第2の基油構成成分は、90~120mm/秒、好ましくは95~105mm/秒の範囲のKV100を有する。
【0018】
潤滑油組成物はまた、消泡添加剤として非イオン性界面活性剤を含む。このような非イオン性界面活性剤は、ポリアルコキシル化アルコール、アミン、及びこれらの混合物である傾向がある。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、1種以上のエステル基油を含む調整構成成分を潤滑油組成物に添加することが好ましい場合がある。このようなエステル基油は、二相油分離温度の調整構成成分として作用するが、この温度より上では両方の相が混和性となり、この温度より下では両方の相が非混和性となる。KamataらのTribology Online,11,1(2016年),24-33で説明されているように、高粘度構成成分と低粘度構成成分との極性の差は、この調整構成成分の添加によって変化する。
【0020】
好適なエステルは、疎水性基及び親水性基の両方を有し、高粘度構成成分及び低粘度構成成分の両方に溶解して、それらの極性を変化させ、したがって、二相油が分離する温度を制御し得る。なお、調整構成成分として2種以上の異なるエステル基油を組み合わせて使用することもまた可能である。
【0021】
好ましくは、調整構成成分として使用される当該エステル基油又はこれらの混合物は、3.5~10mm/秒の範囲、より好ましくは3.5mm/秒以上の100℃における動粘度を有する。好ましくは、KV100は8mm/秒以下であり、より好ましくは6mm/秒以下である。また、好ましくは、調整構成成分として使用されるエステル基油又はこれらの混合物は、低粘度の第1の基油構成成分の動粘度を1mm/秒以下、より好ましくは0.5mm/秒以下で上回る、又は下回る、100℃における動粘度を有する。
【0022】
調整構成成分として使用するのに好適なエステル基油は、国際公開第2014207172号に記載されており、当該エステル基油(又はこれらの混合物)は、0.080~0.350、好ましくは0.080~0.300、より好ましくは0.080~0.250の酸素/炭素重量比を有することが必要とされる。
【0023】
エステル系基油としては、多価アルコールのモノエステル、ジエステル、部分エステル又は全エステルのいずれであってもよい。
【0024】
エステル基油を構成するアルコールは、一価アルコールであってもよい、又は多価アルコールのいずれかであってもよく、酸は、単塩基酸であっても多塩基酸であってもよい。
【0025】
一価アルコールとしては、炭素数1個~24個のアルコールであってもよいが、好ましくは1個~12個、より好ましくは1個~8個のアルコールであってもよく、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。それらはまた、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0026】
多価アルコールは、二価~十価アルコールであってもよいが、好ましくは、二価~六価アルコールである。二価~十価の多価アルコールとしては、二価アルコールが挙げられる。エステル基油を構成するアルコールは、一価アルコールであってもよい、又は多価アルコールのいずれかであってもよく、酸は、単塩基酸であっても多塩基酸であってもよい。
【0027】
エステル基油を形成する酸の単塩基酸としては、炭素数2個~24個の脂肪酸が挙げられ、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。上述の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のうち、炭素数3個~20個の飽和脂肪酸、炭素数3個~22個の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物が好ましいが、炭素数4個~18個の飽和脂肪酸、炭素数4個~18個の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物がより好ましい。潤滑性、取り扱い性が向上し、酸化安定性も考慮すると、炭素数4個~18個の飽和脂肪酸が最も好ましい。
【0028】
存在する場合、1種以上のエステル基油を含む調整構成成分の量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、1~20質量%、好ましくは2~10質量%である。
【0029】
本発明の潤滑油組成物には、例えば、極圧添加剤、分散剤、金属系清浄剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、封止膨潤剤、消泡剤、着色剤等の当該技術分野で周知の各種添加剤を、単独で又は数種類を組み合わせてブレンドしてもよい。典型的には、これらの添加剤の一部又は全部を添加剤パッケージとして提供してもよい。
【0030】
図面の詳細な説明
図1a、図1b、及び図1cは、二相潤滑油組成物の使用の概略図を提供する。
【0031】
図1aは、本発明の潤滑油組成物の一態様を表し、低温における潤滑油組成物の状態である二相状態1を示す。低粘度の第1の基油構成成分2は上相を形成し、高粘度の第2の基油構成成分3は下相を形成する。図1bは、潤滑されている機械4が使用され、機械が潤滑油組成物の上相に浸漬されている状態を示す。始動時(低温時)には、上相を形成する低粘度の第1の基油構成成分2が潤滑に主に寄与し、一方で、高粘度の第2の基油構成成分3は潤滑にほとんど寄与していない。低粘度の第1の基油構成成分2は、低温で十分な潤滑性能を発揮するため、低粘度の構成成分のみが存在する場合であっても潤滑性能を阻害することはない。図1cは、機械4の連続使用から生じる温度上昇に続いて生成される単相状態5を示す。
【0032】
ここで、温度上昇の結果として、低粘度の第1の基油構成成分2と高粘度の第2の基油構成成分3とが混合し、均質な潤滑油組成物を生成する。低粘度の第1の基油構成成分2の温度上昇に伴う粘度低下は、高粘度の第2の基油構成成分3によって補われるので、温度上昇が生じた場合であっても油膜が崩れる等の問題は生じない。
【0033】
ここで、以下の非限定的な実施例によって、本発明を実証する。
【0034】
実施例
表1及び表2に列挙するように、一連の潤滑油をブレンドした。使用した組成物は、以下のとおりである。
低粘度基油:5.5mm/秒のKV100を有するGTL基油のブレンド
高粘度基油:Synalox100-D450、例えば、Dow、プロピレンオキシドの水不溶性ホモポリマー(713cStのKV40、110cStのKV100)。
エステル基油:例えば、CrodaのPriolube1936、ジエステル基油(26cStのKV40、5.3cStのKV100)
アドパック1-市販の多機能自動車ギアパッケージアドパック。
消泡剤1-Viscoplex14-520、Evonik製の有機変性シロキサン消泡剤。
消泡剤2-DCF200-12500cSt(3%)、例えば、Dow Corning製のポリジメチルシロキサン系消泡剤。
消泡剤3-Synative AC AMH-2-非イオン性界面活性剤系消泡剤、例えば、Cognis製。
摩擦調整剤-市販のアミン系摩擦調整剤。
【0035】
表1及び表2に示す配合物を、標準的な方法を使用してブレンドし、標準試験ASTM D892を使用して試験した。試験によって説明されるように、油が泡立つ傾向は、高速ギア、大容量ポンピング、及びスプラッシュ潤滑などのシステムにおいて深刻な問題であり得る。不十分な潤滑、キャビテーション、及び潤滑剤のオーバーフロー損失は、機械的故障につながる可能性がある。本試験方法は、このような操作条件についての油の評価において使用される。本試験方法は、24℃及び93.5℃での潤滑油の発泡特性の決定を包含する。これは3つの作用順序からなる。
【0036】
作用順序Iでは、24℃+/-0.5℃の恒温槽温度に維持された試料の一部を、空気によって一定速度(94mL/分+/-5mL/分)で5分間発泡させ、次に、10分間静置する。泡の体積は、両方の期間の終わりに測定される。
【0037】
作用順序IIでは、93.5℃+/-0.5℃の恒温槽温度に維持された試料の第2の部分が、前の作用順序で示されたものと同じ空気流量及び発泡及び静置時間を使用して分析される。
【0038】
最後に、作用順序IIIでは、作用順序IIを実施する際に使用された試料部分が再び使用されるが、ここで、任意の残りの発泡体が崩壊され、試料部分の温度は、24℃+/-0.5℃に維持された浴中にシリンダーを配置する前に、試験シリンダーを室温で空気中に放置することによって、43.5℃未満に冷却される。作用順序Iで示したのと同じ空気流量、発泡、及び静置時間が続く。
【0039】
試験した実施例の結果を、表1に示す。SAE J2360は、商業用途及び軍事用途のための自動車ギア潤滑剤の基準を定めている。SAE J2360規格において、油の発泡傾向特性は、ASTM D892によって決定される。ここで、作用順序I、II及びIIIについての5分間の発泡期間の終わりにおける泡の最大許容体積は、それぞれ20、50及び20mLである。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
消泡剤は、低粘度基油のみを含む潤滑油組成物に必要とされる(実施例1と比較して、実施例2~5を参照のこと)。有機変性シロキサン(消泡剤1)は、望ましい結果を提供せず、ポリジメチルシロキサン系の脱泡剤(消泡剤2)は、発泡における必要な低減を提供するために必要とされる(実施例3~5を参照のこと)。
【0043】
しかしながら、二相潤滑油組成物におけるこの消泡剤の使用(実施例6)は、単相組成物と比較して発泡の増加をもたらす。実施例7~実施例10で使用される非イオン性界面活性剤系消泡剤は、単独で使用されてもその他の消泡剤と組み合わせて使用されても、二相潤滑油組成物において優れた発泡結果を提供する。二相流体中で単一の消泡剤を使用して、ある温度範囲にわたって(二相状態及び単相状態の間に)優れた発泡結果をもたらすことは、非常に望ましい結果である。
図1
【国際調査報告】