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特表2024-515833引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品およびその製造方法
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  • 特表-引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240403BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240403BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240403BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C22C21/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566557
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 CN2022090627
(87)【国際公開番号】W WO2022228574
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110480760.7
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 浩
(72)【発明者】
【氏名】譚 寧
(72)【発明者】
【氏名】洪 繼 要
(72)【発明者】
【氏名】畢 文 珍
【テーマコード(参考)】
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037EB12
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FE02
4K037FG01
4K037FJ05
4K037GA05
4K037JA06
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA11
4K042CA02
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD01
4K042DE05
4K042DE06
(57)【要約】
引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品およびその製造方法であって、その化学成分は、重量パーセントで、C 0.05~0.20%、Si 0.02~1.00%、Mn 0.5~2.0%、P≦0.10%、S≦0.05%、Al 0.01~0.30%、Nb 0.01~0.0.04%、Ti 0.01~0.06%、Cr:0.12~0.50%、B 0.001~0.05%であり、残部はFeおよびその他の不可避的不純物であり、且つ0.24%≦C+Mn/6≦0.45%、0.05%≦Nb+Ti+B×10≦0.15%という条件を同時に満たす。得られる熱間プレス部品は、初期オーステナイトの平均結晶粒径≦10μm、VDA冷間曲げ角度≧80°、室温下衝撃靱性≧80J/cm、降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、破断伸び率≧6%である。熱間プレス部品は、高強度とともに高靱性を有し、自動車、船舶、機械等の産業に広く応用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品であって、その化学成分は、重量パーセントで、C:0.05~0.20%、Si:0.02~1.00%、Mn:0.5~2.0%、P≦0.10%、S≦0.05%、Al:0.01~0.30%、Nb:0.01~0.04%、Ti:0.01~0.06%、Cr:0.12~0.50%、B:0.001~0.05%であり、残部はFeおよびその他の不可避的不純物であり、且つ以下の条件を同時に満たし:
0.24%≦C+Mn/6≦0.45%;
0.05%≦Nb+Ti+B×10≦0.15%;
前記熱間プレス部品は、初期オーステナイトの平均結晶粒径≦10μm、VDA冷間曲げ角度≧80°、室温下衝撃靱性≧80J/cmである、引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項2】
前記熱間プレス部品は、成分として、重量パーセントで、さらにNi:0.01~1.0%、Mo:0.01~0.5%、V:0.01~0.5%のうちの一つまたは複数を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項3】
前記Pが≦0.05%、および/または前記Sが≦0.01%である、ことを特徴とする請求項1に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項4】
前記Siの含有量は0.05~0.7%であり、および/または前記Alの含有量は0.01~0.25%であり、および/または前記Bの含有量は0.001~0.005%である、ことを特徴とする請求項1に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項5】
前記熱間プレス部品の顕微組織において、マルテンサイトとベイナイトの面積割合が≧75%であり、残部はフェライト、残留オーステナイトまたはその両者が混合したものからなる、ことを特徴とする請求項1~4のいずれ一項に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項6】
前記熱間プレス部品は、降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、破断伸び率≧6%である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれ一項に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項7】
前記熱間プレス部品は、降伏強度≧830MPa、引張強度≧1020MPa、破断伸び率≧7.0%である、ことを特徴とする請求項6に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項8】
前記熱間プレス部品は、降伏強度が830~1150MPaであり、引張強度が1020~1300MPaであり、破断伸び率が7.0~9.0%である、ことを特徴とする請求項7に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項9】
前記熱間プレス部品は、VDA冷間曲げ角度≧85°、好ましくは≧90°、好ましくは85~120°であり;および/または前記熱間プレス部品の室温下衝撃靱性≧85J/cm、好ましくは≧90J/cm、好ましくは80~115J/cmである、ことを特徴とする請求項1~7のいずれ一項に記載の引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【請求項10】
以下のステップを含む、ことを特徴とする請求項1~9のいずれ一項に記載の引張強度≧1000MPa熱間プレス部品の製造方法:
1)製錬、鋳造
請求項1~4中のいずれ一項に記載の成分に従って製錬し、スラブに鋳造する;
2)熱間圧延、卷取、酸洗い
前記スラブの加熱と出炉温度は1100~1260℃とし、最終圧延温度は830~880℃とする;
卷取温度は580~650℃とし、後は酸洗いを経て熱間圧延スラブを得る;
3)冷間圧延、焼鈍
冷間圧延総圧下量は40~80%とし、焼鈍温度は720~780℃とする;
4)熱間プレス成形
焼鈍後の鋼板をAc~960℃に加熱し、加熱時間は2~10minとし;その後、金型に搬送し、プレス加工成形を行い、成形温度は≧700℃とし;
その後、30℃/sを超える冷却速度で200℃以下に冷却し、熱間プレス部品を得る。
【請求項11】
ステップ3)において、前記焼鈍後の鋼板の組織中に、網状で分散的に分布するマルテンサイトと炭化物粒子の面積割合は10~40%であり、且つ単一マルテンサイトまたは炭化物粒子の面積は25μm未満である、ことを特徴とする請求項10に記載の引張強度≧1000MPa熱間プレス部品の製造方法。
【請求項12】
ステップ3)において、前記焼鈍後の鋼板の組織中に、80%以上の結晶粒のアスペクト比は0.5~2.0である、ことを特徴とする請求項10または11に記載の引張強度≧1000MPa熱間プレス部品の製造方法。
【請求項13】
前記ステップ3)の焼鈍後、鋼板に対しめっきを行い、めっき層を有する鋼板を得て、且つ前記めっき層の片面の重量平均値が20~120g/mである、ことを特徴とする請求項10に記載の引張強度≧1000MPa熱間プレス部品の製造方法。
【請求項14】
前記めっき層は純亜鉛めっき層、亜鉛鉄合金めっき層、AlとMg含有亜鉛系合金めっき層またはアルミシリコン合金めっき層である、ことを特徴とする請求項11に記載の引張強度≧1000MPa熱間プレス部品の製造方法。
【請求項15】
前記ステップ4)の熱間プレス成形前、鋼板とその他の強度グレードの熱間プレス部品用鋼板をレーザ突合せ溶接技術で溶接し、熱間プレス突合せ溶接部品を形成する、ことを特徴とする請求項10または11または12に記載の引張強度≧1000MPa熱間プレス部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車材料の技術分野に関し、具体的には引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の悪化および石油資源の不足が日々深刻化する中、グリーンおよび安全性が自動車製造業の主な発展方向になりつつある。現在の研究によると、自動車用鋼の強度グレードの増加に伴い、特に引張強度が1000MPaを超える鋼板は、冷間成形における冷プレス加工成形性が顕著に悪化し、成形ピアスのサイズ精度が悪く、そして一部の場所で裂く場合がある。熱間プレス成形部品は、高強度化、高成形性、低歪み回復量等の特徴があるため、その製品は自動車構造の軽量化において一つ重要な技術解决策になる。熱間プレス製品は、ホワイトボディのA/Bピラー、バンパー、中央通路等の安全性構造部品に広く応用されるため、ニーズが日々増加している。
【0003】
現在市場で応用される熱間プレス製品は主に1500MPa強度グレードであり、その靱性に関しては、VDA冷間曲げ角度が約50°で、室温下衝撃靱性が約40J/cmである。それに比べると、1000MPa熱間プレス製品はより高い靱性を有するため、靱性がさらに求められるエネルギー吸収ピアスに応用できる。1000MPaグレードの高靱性熱間プレス製品は、材料の性能に関してはより高い衝突性能を有し、構造強化材においてはエネルギー吸収領域として働き、高強度と良好な局部衝突等の利点を兼備する。現在では1000MPa強度グレードの熱間プレス用鋼が知られるが、高強度、高靱性を得るために成分として複数の貴重元素が添加され、製造に当たって、多くの場合、複雑な多段階制御プロセスが採用されるなどの欠点が存在する。
【0004】
中国特許CN107810281Bは、「プレス硬化用の鋼およびそのような鋼から製造されたプレス硬化部品」を開示する。引張強度が950MPaを超え、冷間曲げ角度が75°を超えるプレス硬化部品が得られるが、その成分には大量のマイクロアロイが存在し、且つ鋼板の生産において高温焼鈍処理が採用され、部品の生産における熱間プレスプロセスには二段階冷却制御処理等が採用されるため、製造工程が複雑であり、実際の運用では困難である。
【0005】
中国特許CN105829562Bは、「熱間プレス鋼板部材、その製造方法及び熱間プレス用鋼板」を開示する。合金成分として、0.060~0.20%のTi元素が添加され、そして全Tiの90%の析出が求められ、さらにプロセスに関しては、熱間プレス後の冷却に二段階冷却が採用される。得られる熱間プレス部材は、980MPa以上の強度しか実現できず、熱間プレス部材が高靱性を有することも言及されない。
【0006】
中国特許CN104838030Bは「靭性が向上した熱間プレス部品およびその製造方法」を開示する。その合金成分としては、B≦0.001%、主にMo等の他の貴重合金によって焼入れでのマルテンサイト取得性を高め、高強度化を実現する。
【0007】
このように、従来の高強度熱間プレス用鋼は靱性不足、衝突エネルギー吸収効果が悪い等の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、引張強度≧1000MPaの高靱性熱間プレス部品およびその製造方法の提供にある。得られる熱間プレス部品は、降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、破断伸び率≧6%、VDA冷間曲げ角度≧80°、室温下衝撃靱性≧80J/cmである。熱間プレス部品は、高強度とともに高靱性を有し、従来の高強度熱間プレス部品における靱性不足、衝突エネルギー吸収効果が悪い等の問題が解決され、自動車、船舶、機械等の産業に広く応用される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明が提供する技術案は以下の通りである:
引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品であって、その化学成分は、重量パーセントで、C:0.05~0.20%、Si:0.02~1.00%、Mn:0.5~2.0%、P≦0.10%、S≦0.05%、Al:0.01~0.30%、Nb:0.01~0.04%、Ti:0.01~0.06%、Cr:0.12~0.50%、B:0.001~0.05%であり、残部はFeおよびその他の不可避的不純物であり、且つ以下の条件を同時に満たし:
0.24%≦C+Mn/6≦0.45%;
0.05%≦Nb+Ti+B×10≦0.15%;
前記熱間プレス部品は、初期オーステナイト平均結晶粒径≦10μm、VDA冷間曲げ角度≧80°、室温下衝撃靱性≧80J/cmである、引張強度≧1000MPaの熱間プレス部品。
【0010】
さらに、前記熱間プレス部品は、成分として、重量パーセントで、さらにNi:0.01~1.0%、Mo:0.01~0.5%、V:0.01~0.5%のうちの一つまたは複数を含んでもいい。
【0011】
好ましくは、前記Pが≦0.05%である。
好ましくは、前記Sが≦0.01%である。
【0012】
本発明による熱間プレス部品の顕微組織において、マルテンサイトとベイナイトの面積割合が≧75%であり、残部はフェライト、残留オーステナイトまたはその両者が混合したものからなる。
【0013】
本発明による熱間プレス部品は、降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、破断伸び率≧6%。
【0014】
いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、降伏強度≧830MPa、引張強度≧1020MPa、破断伸び率≧7.0%である。いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、降伏強度が830~1150MPaであり、引張強度が1020~1300MPaであり、破断伸び率が7.0~9.0%である。
【0015】
いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、VDA冷間曲げ角度≧85°である。いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、VDA冷間曲げ角度≧90°である。いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、VDA冷間曲げ角度が85~120°である。
【0016】
いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、室温下衝撃靱性≧85J/cmである。いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、室温下衝撃靱性≧90J/cmである。いくつかの実施方案において、本発明による熱間プレス部品は、室温下衝撃靱性は80~115J/cmである。
【0017】
本発明の成分設計において:
C:強度や硬度を高めるのに重要な元素であり、炭素含有量が0.05%以上であることで、鋼板や熱間プレス部品の強度と焼入れ性が保障され、熱間プレス部品の引張強度が目標要求に達することができる。なお、炭素含有量の増加により、熱間プレス部品の可塑性、靱性と溶接性等が悪化する場合があるため、本発明では、C含有量は0.05~0.20%とする。
【0018】
Si:一定の量のSiを添加することで、それがフェライトやオーステナイト中に溶け、熱間プレス部品の強度と硬度が高まる。Siの含有量が1.0%を超えた後、熱間プレス部品のメッキ性が影響されるため、本発明では、Si含有量は0.02~1.0%とする。一実施形態において、Si含有量は0.05~0.7%とする。
【0019】
Mn:脱酸素と脱硫黄の効果があり、さらに熱間プレス部品の硬度と強度を高めることができる。Mnは強いオーステナイト安定化元素であり、熱間プレス部品の焼入れ性を顕著に増加できる。熱間プレス部品の強度を保障するために、鋼におけるMn含有量は0.5%以上とする。なお、Mn含有量が2.0%を超えると、熱間プレス部品の製造性と溶接性が悪化する場合があるため、本発明では、Mn含有量は0.5~2.0%とする。
【0020】
C+Mn/6は合金成分の重要組成であり、材料強度、靱性および溶接性を十分に反映するものである。合金成分においてC+Mn/6<0.24%であると、熱間プレス部品において高い引張強度が保障できず、且つ材料中にマルテンサイトを得る能力が不足である。合金成分においてC+Mn/6>0.48%であると、熱間プレス部品においてマルテンサイト組織中のC、Mn含有量が高くなり、高い炭素量のマルテンサイトが得られやすく、材料の靱性が顕著に悪化する。なお、0.45%を超えると、溶接性が著しく下がるため、本発明では、0.24%≦C+Mn/6≦0.45%とする。
【0021】
P、S:PとSはともに有害元素であり、P元素の偏析により、熱間プレス部品において低温脆性現象が現れる。高温状態でのSの偏析により、可塑性が下がり、場合によって低温脆性現象が発生する。本発明設計の主要な目的は材料の靱性を顕著に高めることにあり、P≦0.10%、S≦0.05%とする必要があり、好ましくはP≦0.05%、S≦0.01%とする。
【0022】
Al:脱酸素元素として、熱間プレス部品において、0.01%以上のAlが含有されると好適であるが、熱間プレス部品中に大量のAlが含有されると、粗大な酸化物が形成され、熱間プレス部品の総合的な性能が悪化する。そのため、本発明では、Al含有量は0.01~0.3%とする。いくつかの実施形態において、Al含有量は0.01~0.25%とする。
【0023】
Nb:重要なマイクロアロイである。Nbは、固溶強化効果がある。一方、Nbは、C、Nのいずれとも非常に強い結合力を有し、それらと安定な化合物を形成することができ、結晶粒を微細化させ、熱間プレス部品の強度や靱性を高め、同時に熱間プレス部品に良好な冷間曲げ性を与えることができる。そして、Nbの炭素窒素化物は、水素トラプとして、水素誘起割れに対する敏感性を下げることができる。そのため、本発明では、Nb含有量は0.01~0.04%とする。0.01%未満であると、結晶粒微細化効果が不足し、また0.04%を超えると、製品のコストが高くなる。
【0024】
Ti:重要なマイクロアロイであり、それが窒素、酸素、炭素と強い親和力を有し、良好な脱酸素および窒素固定可能な元素であり、ホウ素と窒素によるBNの形成を避けることができる。なお、Tiは結晶粒微細化効果を有し、材料の靱性を高めることができる。しかし、Ti含有量が高すぎると、バルク状の窒化物が形成されやすく、靱性・可塑性が悪化する。そのため、本発明では、Ti含有量は0.01~0.06%とすることで、熱間プレス部品の靱性・可塑性を高めることができる。
【0025】
B:主な効果は、鋼の焼入れ性を大きく増加することで、その他の貴重金属を節約することである。焼入れ性を高めるためのBの添加には最適な範囲があり、一定の量を超えると焼入れ性の増加効果が明らかではなくなるため、本発明では、B含有量は0.001~0.05%とする。いくつかの実施形態において、B含有量は0.001~0.005%とする。
【0026】
成分として、Nb、Ti、B元素は異なる方式で熱間プレス部品の結晶粒組織を微細化させ、Nb/Ti析出炭素窒素化合物は熱間プレス部品の生産において結晶粒を微細化させ、Bは焼入れ性を高め、両者の相乗効果で靱性が高められる。Nb/Tiは類似する効果を有し、添加量のオーダーも一致するが、Bは微量ながら焼入れ性を顕著に高める効果を有する。合金成分として、Nb+Ti+B×10<0.05%であると、熱間プレス部品組織は顕著に微細化されない。特に、初期オーステナイト平均結晶粒径が10μmを超えると、高靱性は実現できない。合金成分として、Nb+Ti+B×10>0.15%であると、合金含有量がさらに増加しても微細化効果が明らかでなくなり、一方で合金コストが増加するため、本発明では、0.05%≦Nb+Ti+B×10≦0.15%とする。
【0027】
Cr:熱間プレス部品の焼入れ性を効果的に高めることができる。効果がMnと類似し、熱間プレス部品の強度と靱性をさらに高める。そして、Cr元素の添加により、後続の熱間プレスの加熱での高温による表面酸化が防止されるため、本発明では、Cr含有量は0.12~0.5%とする。
【0028】
Ni、MoおよびV:いずれも熱間プレス部品の強度靱性性能を安定に保証する元素である。Niは鋼の強度を高め、鋼の低温脆性転移温度を下げ、衝撃靱性を高めるのに重要である。Moは鋼の焼入れ性を顕著に高め、オーステナイト結晶粒を微細化させ、焼き戻し脆性を防止し、熱間プレス部品の強度と靱性を高めることができる。Vは微細な炭素窒素化物としてオーステナイト結晶粒を微細化させ、鋼の靱性を高める。そのため、Ni、Mo、Vはいずれも熱間プレス部品の高強度と良好な靱性を同時に保証できる。
【0029】
鋼の合金コストや元素の効果の飽和度を総合的に考慮すると、本発明はさらにNi:0.01~1.0%、Mo:0.01~0.5%、V:0.01~0.5%のうちの一つまたは複数の合金成分を含むことができる。いくつかの実施方案において、本発明の鋼において、Ni≦0.3%、Mo≦0.3%、V≦0.2%とする。
【0030】
本発明の成分は、主に低炭素マイクロアロイ化という設計思想に従い、Cによる固溶強化とC/Mnの複合により、焼入れ性を高め、熱間プレス部品の強度を確保する。微量のNb、Ti、B等のマイクロアロイの添加により、初期オーステナイト結晶粒径を含む熱間プレス部品の結晶粒径をさらに顕著に微細化させ、高強度、高靱性の熱間プレス部品を得る。好ましくはNi、Mo、V等の合金元素を一部添加することにより、熱間プレス部品の強度と靱性をさらに高める。
【0031】
本発明による引張強度が1000MPaである熱間プレス部品の製造方法は、以下のステップを含む:
1)製錬、鋳造
上記成分に従って製錬し、スラブに鋳造する;
2)熱間圧延、卷取、酸洗い
前記スラブの加熱と出炉温度は1100~1260℃とし、最終圧延温度は830~880℃とする;
卷取温度は580~650℃とし、後は酸洗いを経て熱間圧延スラブを得る;
3)冷間圧延、焼鈍
冷間圧延総圧下量は40~80%とし、焼鈍温度は720~780℃とする;
4)熱間プレス成形
焼鈍後の鋼板の加熱温度はAc~960℃とし、加熱時間は2~10minとする;その後、金型に搬送し、プレス加工成形を行い、成形温度は≧700℃とする;
その後、30℃/sを超える冷却速度で200℃以下に冷却し、熱間プレス部品を得る。
【0032】
いくつかの実施方案において、スラブの加熱と出炉温度は1150~1260℃とする。
【0033】
さらに、ステップ3)において、前記焼鈍後の鋼板組織において、網状に分散的に分布するマルテンサイトと炭化物粒子の面積割合は10~40%であり、且つ単一マルテンサイトまたは炭化物粒子の面積は25μm未満である。
【0034】
さらにまた、ステップ3)において、前記焼鈍後の鋼板組織において、80%以上の結晶粒のアスペクト比が0.5~2.0である。
【0035】
また、前記ステップ3)の焼鈍後、鋼板に対しめっきを行い、めっき層を有する鋼板を得て、且つ前記めっき層の片面の重量平均値が20~120g/mである。
【0036】
好ましくは、前記めっき層は純亜鉛めっき層、亜鉛鉄合金めっき層、AlとMg含有亜鉛系合金めっき層またはアルミシリコン合金めっき層である。
【0037】
さらに、前記ステップ4)の熱間プレス成形前、鋼板とその他の強度グレードの熱間プレス部品用鋼をレーザ突合せ溶接技術で溶接し、突合せ溶接部品を形成する。
【0038】
いくつかの実施形態において、ステップ4)における加熱時間は200~600sとする。
【0039】
いくつかの実施形態において、ステップ4)における成形温度は700~820℃とする。
【0040】
いくつかの実施形態において、ステップ4)の冷却速度は35~60℃/sとする。
上述の成分で作製される鋼スラブは、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を経て無めっき層鋼板になり、または熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を経た後、任意な方法で鋼板に対しめっきを行うことによりめっき層付鋼板になる。
【0041】
本発明は、熱間プレス部品の生産プロセスを制御し、熱間圧延におけるスラブの加熱と出炉温度は1100~1260℃とする。加熱温度が1100℃未満であると、マイクロアロイは充分に溶解できない。加熱温度が1260℃を超えると、結晶粒は粗大化しやすく、靱性が悪化する。最終圧延温度を830~880℃とすることで、最終圧延がオーステナイトの未再結晶区間内にあるように圧延し、結晶粒組織を微細化させる。
【0042】
本発明では微量のNb、Tiマイクロアロイが添加されているため、卷取においてニオブチタン炭化物の析出をより多くするために、卷取温度は580~650℃とする。このように、ナノサイズのスケールで分布するNbC、TiCが高い割合で析出し、得られるNbC、TiCは後続の熱間プレスの加熱における初期オーステナイト結晶粒の成長を抑制でき、初期オーステナイト結晶粒径の微細化には有利である。卷取温度が580℃未満であると、ニオブチタン炭化物は良好な析出を示せず、熱間圧延後の鋼板は強度が高く、冷間圧延が難しくなる。卷取温度が650℃を超えると、結晶粒が粗大になり、全工程における結晶粒の微細化制御には不利であり、そして鋼板の一部表面に酸化が発生し、後続の酸洗いプロセスの制御には不利であり、鋼板のメッキ性が影響される。
【0043】
冷間圧延の総圧下量は40~80%とする。冷間圧延の総圧下量が40%未満であると、組織の崩壊が少なく、結晶粒の微細化効果が明らかでなく、そして冷間圧延総圧下量が80%を越えると、鋼板の内部における残留硬度が高く、帯状組織が多く、後続の生産に不利であり、熱間プレス部品の靱性が顕著に悪化する。
【0044】
熱間圧延後の焼鈍は、鋼板の結晶粒径や形状をさらに制御し、熱間プレス部品の高靱性を確保するためである。成分設計に基づき、焼鈍温度を720~780℃とすることで、焼鈍後に得られる鋼板組織の中に80%以上の結晶粒がほぼ等軸状になり、つまり結晶粒の形状のアスペクト比が0.5~2.0を満たすことを保証する。高割合の等軸状結晶粒は帯状組織を減少させ、初期鋼板組織を微細化させることができ、後続の熱間プレス部品の組織は微細化できる。焼鈍温度が780℃を超えると結晶粒径が顕著に増大する。
【0045】
焼鈍温度を720~780℃とすることで、組織中で、フェライト結晶境界に沿って細かいマルテンサイトと炭化物粒子が分散的に分布する。マルテンサイトと炭化物はともに高炭素相である。また、組織中で、面積が25μm未満の細かい粒子が10~40%を占めるため、有効結晶境界面積が顕著に増加する。高炭素相と有効結晶境界はオーステナイトの優先核生成サイトであるため、オーステナイトの核生成率の増加に有利であり、核生成が促進され、初期オーステナイト結晶粒径が微細化される。組織中でのマルテンサイトと炭化物粒子の面積割合が40%を超えると、焼鈍後の鋼板のクオリティーが高く、後続の打ち抜き加工に不利であり、また組織中でのマルテンサイトと炭化物粒子の面積割合が10%未満であると、結晶粒界面積を効果的に増加できない。上述の通り、結晶粒径を制御しないと、高靱性の熱間プレス部品が得られないため、鋼板は720~780℃で焼鈍する必要がある。
【0046】
本発明では、熱間プレス鋼板の加熱温度がAC未満であると、鋼板の組織の完全なオーステナイト化が実現できない。加熱時間が2min未満であると、鋼板のオーステナイト化及び炭化物の溶解等が不充分である。熱間プレス温度が960℃を超え、または加熱時間が10minを超えると、オーステナイト結晶粒が粗大になり、熱間プレス部品の靱性が顕著に下がる。鋼板の変形温度が700℃未満であるとき、変形が困難で、且つフェライト等の組織が大量に析出しやすいため、熱間プレス部品の強度と靱性の設計要件を保証するために、後続では熱間プレス成形後の冷却速度が30℃/s、つまりマルテンサイト組織を得るための臨界冷却速度を超え、焼入れで200℃以下に冷却する必要がある。
【0047】
焼鈍完成後に得られる鋼板は、無めっき層板であっでもよく、鋼板の加熱による表面の酸化鉄膜や後続の耐腐食性の悪化等の影響を減少するために、鋼板の表面に合金めっき層を塗布してもよい。めっき層の塗布量は20~120g/mとする。めっき層の塗布量が20g/m未満であるとき、生産時での制御が難しくなり、そして熱間プレス部品の耐腐食性が不良で、めっき層の塗布量が120g/mを超えると、耐腐食性が飽和になり、且つコストが増加する。
【0048】
前記めっき層は、純亜鉛めっき層であってもよい。また、亜鉛鉄合金めっき層、例えばZn-Fe、Zn-Al、Zn-Mg、Zn-Al-Mg等の合金めっき層であってもよい。さらに、AlとMg含有亜鉛系合金めっき層またはアルミシリコン合金めっき層、例えば0~4%Fe、5~11%Siを含み、残部はアルミニウムや不可避的不純物であるアルミシリコン合金めっき層であってもよい。
【0049】
本発明による有益な効果は以下の通りである:
本発明の成分は、主に低炭素マイクロアロイ化という設計思想を採用し、Cによる固溶強化とC/Mnの複合により、焼入れ性を高め、熱間プレス部品の強度を保証する。微量のNb、Ti、B等のマイクロアロイを添加し、0.24%≦C+Mn/6≦0.45%、0.05%≦Nb+Ti+B×10≦0.15%になるよう制御することにより、熱間プレス部品の結晶粒径を顕著に微細化させ、熱間プレス部品の初期オーステナイト平均結晶粒径≦10μmにさせ、高強度熱間プレス部品の靱性を改善する。従来の高強度熱間プレス部品における靱性不足や、衝突エネルギー吸収効果が悪い等の問題が解決されるため、自動車、船舶、機械等の産業に広く応用される。
【0050】
本発明の作製プロセスでは、本発明は微量のマイクロアロイ成分を添加し、卷取温度を580~650℃とすることで、NbC、TiCが高い割合で析出し、得られるNbC、TiCが後続の熱間プレスの加熱における初期オーステナイト結晶粒の成長を抑制し、初期オーステナイト結晶粒径が微細化される。さらに、焼鈍温度を720~780℃とすることで、焼鈍後に得られる鋼板の組織中に、80%以上の結晶粒がほぼ等軸状になる。このように、鋼板の熱間プレス後、初期オーステナイト結晶粒径が微細化し、初期オーステナイト平均結晶粒径≦10μm、高強度熱間プレス部品の靱性が大幅に高め、得られる熱間プレス部品は、降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPaであり、且つ熱間プレス部品のVDA冷間曲げ角度≧80°、室温下衝撃靱性≧80J/cmである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、本発明の実施例の熱間プレス部品の走査電鏡顕微組織写真を示す。
図2図2は、本発明の実施例の熱間プレス部品の初期オーステナイト組織写真を示す。
図3図3は、本発明の実施例の焼鈍後の鋼板の金相組織写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下では、実施例を参考しながら、さらに本発明に対し説明を行う。実施例において、VDA冷間曲げ角度の測定基準:VDA238-100 金属材料板材曲げ試験;衝撃靱性の測定基準:GB/T 229 金属材料 シャルピー衝撃試験方法;力学的性質の測定基準:GB/T 228.1 金属材料 引張試験 第1部:室温下引張試験方法。
【0053】
本発明の実施例の具体的な成分やプロセスパラメータは表1、表2に示し、各実施例の熱間プレス部品の性能は表3に示す。
【0054】
図1は、熱間プレス部品の走査電鏡顕微組織写真を提供した。図1からわかるように、本発明による熱間プレス部品の顕微組織はマルテンサイト、ベイナイトおよび微量の残留オーステナイトであり、マルテンサイトとベイナイトの面積割合が≧75%である。
【0055】
図2からわかるように、初期オーステナイトの平均結晶粒径が≦10μmである。図3からわかるように、焼鈍後の鋼板組織において、約85%の結晶粒の形状のアスペクト比が0.5~2.0を満たし、マルテンサイトと炭化物粒子は網状で分散的に分布し、且つマルテンサイトと炭化物粒子の面積割合は25%を超え、単一粒子面積は25μm未満である。
【0056】
表3における性能からわかるように、本発明による熱間プレス部品は、降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、VDA冷間曲げ角度≧80°、室温下衝撃靱性≧80J/cm、破断伸び率≧6%である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】

図1
図2
図3
【国際調査報告】