(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】抗SIGLEC組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240403BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240403BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240403BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240403BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 D
A61P35/02
A61K39/395 U
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566870
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 US2022027006
(87)【国際公開番号】W WO2022232558
(87)【国際公開日】2022-11-03
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521449809
【氏名又は名称】オンコシーフォー、インク.
(71)【出願人】
【識別番号】517322042
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド ボルチモア
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、パン
(72)【発明者】
【氏名】デブンポート、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ミンユエ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA16
4C085BB11
4C085CC21
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、抗Siglec-10抗体、及びがん治療における前記抗体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号3に記載の配列を含む相補性決定領域(CDR)1、配列番号4に記載の配列を含むCDR2、及び配列番号5に記載の配列を含むCDR3のうちの1つ又は複数を含む重鎖可変領域と、(b)配列番号6に記載の配列を含むCDR1、配列番号7に記載の配列を含むCDR2、及び配列番号8に記載の配列を含むCDR3のうちの1つ又は複数を含む軽鎖可変領域とを含む、抗Siglec-10抗体。
【請求項2】
前記重鎖可変領域が、配列番号1に記載の配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項3】
キメラ抗体である、請求項1又は請求項2に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項4】
前記重鎖可変領域が、配列番号9~13のうちの1つに記載の配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号14~18のうちの1つに記載の配列を含む、請求項1に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項5】
前記重鎖可変領域が、配列番号9、10又は11に記載の配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号15に記載の配列を含む、請求項4に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項6】
前記重鎖可変領域が、配列番号9に記載の配列を含む、請求項5に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項7】
重鎖が、配列番号25に記載の配列を含む、請求項6に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項8】
軽鎖が、配列番号27に記載の配列を含む、請求項7に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項9】
前記重鎖可変領域が、配列番号10に記載の配列を含む、請求項5に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項10】
重鎖が、配列番号32に記載の配列を含む、請求項9に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項11】
軽鎖が、配列番号27に記載の配列を含む、請求項10に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項12】
前記重鎖可変領域が、配列番号11に記載の配列を含む、請求項5に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項13】
前記重鎖可変領域が、配列番号10又は12に記載の配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号17に記載の配列を含む、請求項4に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項14】
前記重鎖可変領域が、配列番号10に記載の配列を含む、請求項13に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項15】
前記重鎖可変領域が、配列番号12に記載の配列を含む、請求項13に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項16】
前記重鎖可変領域が、配列番号10又は12に記載の配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号16に記載の配列を含む、請求項4に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項17】
前記重鎖可変領域が、配列番号10に記載の配列を含む、請求項16に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項18】
重鎖が、配列番号32に記載の配列を含む、請求項17に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項19】
軽鎖が、配列番号34に記載の配列を含む、請求項18に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項20】
前記重鎖可変領域が、配列番号12に記載の配列を含む、請求項16に記載の抗Siglec-10抗体。
【請求項21】
請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の抗Siglec-10抗体を患者に投与することを含む、治療を必要とする患者におけるがんを治療する方法。
【請求項22】
前記抗Siglec-10抗体が、第2のがん治療と組み合わせて投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のがん治療が、がんを標的とする免疫療法又は免疫細胞を標的とする免疫療法である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のがん治療が抗CTLA-4抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記がんが、進行固形腫瘍、血液がん、又は前記抗Siglec-10抗体に結合する浸潤細胞を含むがんである、請求項21~請求項24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記がんが、肺腺がん(LUAD)、皮膚黒色腫-転移(SKCM-TM)、肺扁平上皮がん(LUSC)、乳房浸潤がん-基底、乳房浸潤がん-Her2、膵臓腺がん、頭頸部扁平上皮がん、腎臓腎明細胞がん、胃腺がん、多形性膠芽細胞腫、乳房浸潤がん-LumB又は乳房浸潤がん-LumA、非小細胞肺がん、膠芽腫、黒色腫、低悪性度神経膠腫、腎がん、乳がん基底型、Her2+乳がん、膵がん及び卵巣がんからなる群から選択される進行固形腫瘍である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記肺腺がんが非小細胞肺腺がんである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記がんが、白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫及び多発性骨髄腫からなる群から選択される血液がんである、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
重鎖が配列番号32に記載の配列を含み、軽鎖が配列番号27に記載の配列を含むか、重鎖が配列番号25に記載の配列を含み、軽鎖が配列番号27に記載の配列を含むか、又は重鎖が配列番号32に記載の配列を含み、軽鎖が配列番号34に記載の配列を含む、抗Siglec-10抗体。
【請求項30】
請求項29に記載の抗Siglec-10抗体を患者に投与することを含む、治療を必要とする患者におけるがんを治療する方法。
【請求項31】
前記抗Siglec-10抗体が、第2のがん治療と組み合わせて投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第2のがん治療が、がんを標的とする免疫療法又は免疫細胞を標的とする免疫療法である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記第2のがん治療が抗CTLA-4抗体である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記がんが、進行固形腫瘍、血液がん、又は前記抗Siglec-10抗体に結合する浸潤細胞を含むがんである、請求項30~請求項33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記がんが、肺腺がん(LUAD)、皮膚黒色腫-転移(SKCM-TM)、肺扁平上皮がん(LUSC)、乳房浸潤がん-基底、乳房浸潤がん-Her2、膵臓腺がん、頭頸部扁平上皮がん、腎臓腎明細胞がん、胃腺がん、多形性膠芽細胞腫、乳房浸潤がん-LumB又は乳房浸潤がん-LumA、非小細胞肺がん、膠芽腫、黒色腫、低悪性度神経膠腫、腎がん、乳がん基底型、Her2+乳がん、膵がん及び卵巣がんからなる群から選択される進行固形腫瘍である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記肺腺がんが非小細胞肺腺がんである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記がんが、白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫及び多発性骨髄腫からなる群から選択される血液がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
がんを治療するための医薬の製造における、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の抗Siglec-10抗体の使用。
【請求項39】
前記医薬が、第2のがん治療と組み合わせての使用を意図したものである、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記第2のがん治療が、がんを標的とする免疫療法又は免疫細胞を標的とする免疫療法である、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記第2のがん治療が抗CTLA-4抗体である、請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記がんが、進行固形腫瘍、血液がん、又は前記抗Siglec-10抗体に結合する浸潤細胞を含むがんである、請求項38~請求項41のいずれか一項に記載の使用。
【請求項43】
前記がんが、肺腺がん(LUAD)、皮膚黒色腫-転移(SKCM-TM)、肺扁平上皮がん(LUSC)、乳房浸潤がん-基底、乳房浸潤がん-Her2、膵臓腺がん、頭頸部扁平上皮がん、腎臓腎明細胞がん、胃腺がん、多形性膠芽細胞腫、乳房浸潤がん-LumB又は乳房浸潤がん-LumA、非小細胞肺がん、膠芽腫、黒色腫、低悪性度神経膠腫、腎がん、乳がん基底型、Her2+乳がん、膵がん及び卵巣がんからなる群から選択される進行固形腫瘍である、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
前記肺腺がんが非小細胞肺腺がんである、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記がんが、白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫及び多発性骨髄腫からなる群から選択される血液がんである、請求項42に記載の使用。
【請求項46】
がんを治療するための医薬の製造における、請求項29に記載の抗Siglec-10抗体の使用。
【請求項47】
前記医薬が、第2のがん治療と組み合わせての使用を意図したものである、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記第2のがん治療が、がんを標的とする免疫療法又は免疫細胞を標的とする免疫療法である、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
前記第2のがん治療が抗CTLA-4抗体である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
前記がんが、進行固形腫瘍、血液がん、又は前記抗Siglec-10抗体に結合する浸潤細胞を含むがんである、請求項46~請求項49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項51】
前記がんが、肺腺がん(LUAD)、皮膚黒色腫-転移(SKCM-TM)、肺扁平上皮がん(LUSC)、乳房浸潤がん-基底、乳房浸潤がん-Her2、膵臓腺がん、頭頸部扁平上皮がん、腎臓腎明細胞がん、胃腺がん、多形性膠芽細胞腫、乳房浸潤がん-LumB又は乳房浸潤がん-LumA、非小細胞肺がん、膠芽腫、黒色腫、低悪性度神経膠腫、腎がん、乳がん基底型、Her2+乳がん、膵がん及び卵巣がんからなる群から選択される進行固形腫瘍である、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
前記肺腺がんが非小細胞肺腺がんである、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
前記がんが、白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫及び多発性骨髄腫からなる群から選択される血液がんである、請求項50に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトSiglec-10に選択的に結合する抗Siglec-10抗体、及びがん治療におけるそのような抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CD24は、小型の重度にグリコシル化されたムチン様グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合細胞表面タンパク質である。CD24は、B細胞、T細胞、好中球、好酸球、樹状細胞及びマクロファージを含む造血細胞、並びに神経細胞、神経節細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、筋細胞、膵臓細胞及び上皮幹細胞を含む非造血細胞上で高レベルに発現される。一般に、CD24は、前駆細胞及び代謝的に活性な細胞では発現レベルが高くなり、最終分化細胞では発現の程度が低くなる傾向がある。CD24の機能は、ほとんどの細胞型では不明であるが、CD24の多様な免疫学的機能が報告されている。
【0003】
CD24は、自然免疫細胞上のSiglec-10と相互作用して、炎症に関連する細胞損傷に対する宿主応答を負に調節し、少なくとも2つの重複する機構により、この活性が説明され得る。第1に、CD24は、HSP70、90、HMGB1及びヌクレオリンを含むいくつかの損傷関連分子パターン(DAMP)に結合して、これらのDAMPに対する宿主応答を抑制する。CD24は、炎症性刺激を捕捉して、TLR又はRAGEとの相互作用を防ぐのではないかと推測される。第2に、その受容体であるSiglec G(Siglec-10のマウスホモログ)との相互作用により、CD24は、組織傷害に対する宿主応答に対して強力な負の調節を提供する。この活性を達成するために、CD24は、Siglec Gに結合して、Siglec Gによるシグナル伝達を刺激する可能性があり、ここでSiglec G関連SHP1が負の調節を誘発する。いずれかの遺伝子の標的化された変異を有するマウスがはるかに強い炎症反応を示したことから、両機構は協調して作用する可能性がある。
【0004】
Siglecは、NH3+末端が細胞外空間にあり、COO-末端が細胞質ゾルにあるI型膜貫通タンパク質である。Siglec-10の細胞外ドメインは、シアル酸のための結合受容体として機能するN末端V型免疫グロブリンドメイン(Igドメイン)と、結合活性を有しないがV型Ig結合ドメインを細胞表面から遠ざけるように延長する5つのC2型Igドメインとを含有する。Siglec-10を含むほとんどのSiglecの細胞質ドメインは、免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM)を有し、SH2ドメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼSHP1及びSHP2などのチロシンホスファターゼの動員を介して負にシグナル伝達する。Siglecの主な機能は、シアル酸を含有するグリカンに結合することである。これらの受容体-グリカン相互作用は、細胞接着、細胞シグナル伝達及びその他の機能に使用することができ、これは多くの場合、それらの細胞分布に限定される。ヒトSiglec-10は、マウスSiglec Gの機能的オルソログであり、マウスCD24及びヒトCD24の両方に結合する。
【0005】
多くのがんは、「do not eat me」シグナルと呼ばれる抗ファゴサイトーシス性表面タンパク質の過剰発現を通して免疫系によるクリアランスを回避する。そのようなタンパク質の例には、それぞれ免疫細胞上のPD-1及びシグナル調節タンパク質α(SIRPα)に結合し、これによりマクロファージの活性を阻害するPD-L1及びCD47が挙げられる。したがって、これらのdo-not-eat-me経路を遮断するか又はそれに拮抗する抗体が、免疫腫瘍薬として開発されている。CD24は、Siglec-10とのその相互作用を介してさらに別のそのようなdo-not-eat-meシグナルを表すことが実証されており、CD24は、多くの正常組織及び細胞型に見られるものの、ヒトがんのほぼ70%において過剰発現されており、がん細胞内における最も過剰発現されるタンパク質の1つである。CD24発現は腫瘍形成中にアップレギュレートされ、腫瘍の進行及び転移に果たすその役割が示唆される。がんにおけるCD24の過剰発現はまた、がん患者についての予後不良と疾患がより悪性度の高い経過を辿ることを示すマーカーとして同定されている。
【0006】
したがって、当技術分野では、がんの治療のための、CD24:Siglec-10 do-not-eat-me系を標的とする新しい免疫療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本開示では、(a)配列番号3に記載の配列を含む相補性決定領域(CDR)1、配列番号4に記載の配列を含むCDR2、及び配列番号5に記載の配列を含むCDR3のうちの1つ又は複数を含む重鎖可変領域、並びに(b)配列番号6に記載の配列を含むCDR1、配列番号7に記載の配列を含むCDR2、及び配列番号8に記載の配列を含むCDR3のうちの1つ又は複数を含む軽鎖可変領域、を含んでもよい抗Siglec-10抗体が提供される。重鎖可変領域は、配列番号1に記載の配列を含んでもよく、また軽鎖可変領域は、配列番号2に記載の配列を含んでもよい。抗体はキメラ抗体であってもよい。
【0008】
抗Siglec-10抗体の重鎖可変領域は、配列番号9~13のうちの1つに記載の配列を含んでもよく、また軽鎖可変領域は、配列番号14~18のうちの1つに記載の配列を含んでもよい。重鎖可変領域は、配列番号9、10又は11に記載の配列を含んでもよく、また軽鎖可変領域は、配列番号15に記載の配列を含んでもよい。Siglec-10抗体の重鎖可変領域は、配列番号10又は12に記載の配列を含んでもよく、また軽鎖可変領域は、配列番号17に記載の配列を含んでもよい。抗Siglec-10抗体の重鎖可変領域は、配列番号10又は12に記載の配列を含んでもよく、また軽鎖可変領域は、配列番号16に記載の配列を含んでもよい。抗体は、配列番号9に記載の配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号15に記載の配列を含む軽鎖可変領域を含んでもよい。抗体は、配列番号25に記載の配列を含む重鎖を含んでもよく、また配列番号27に記載の配列を含む軽鎖をさらに含んでもよい。抗体は、配列番号10に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15又は16に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含んでもよい。抗体は、配列番号32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号27に記載の配列を含む軽鎖とを含んでもよい。抗体は、配列番号32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号34に記載の配列を含む軽鎖とを含んでもよい。
【0009】
本開示では、抗Siglec-10抗体を患者に投与することを含んでもよい、治療を必要とする患者におけるがんを治療する方法も提供される。がんを治療するのに使用するための抗Siglec-10抗体、及びがんを治療するための医薬の製造における抗Siglec-10抗体の使用がさらに提供される。がんを治療するための、抗Siglec-10抗体を含む組成物も提供される。この組成物は医薬組成物であってもよい。
【0010】
抗Siglec-10抗体は、第2のがん治療と組み合わせて投与されてもよく、あるいは第2のがん治療と組み合わせての使用を意図したものであってもよい。第2のがん治療は、がんを標的とする免疫療法又は免疫細胞を標的とする免疫療法であってもよい。第2のがん治療は抗CTLA-4抗体であってもよい。
【0011】
がんは、進行固形腫瘍、血液がん、又は抗Siglec-10抗体に結合する浸潤細胞を含むがんであってもよい。がんは、進行固形腫瘍であってもよく、これは、肺腺がん(LUAD)、皮膚黒色腫-転移(SKCM-TM)、肺扁平上皮がん(LUSC)、乳房浸潤がん-基底、乳房浸潤がん-Her2、膵臓腺がん、頭頸部扁平上皮がん、腎臓腎明細胞がん、胃腺がん、多形性膠芽細胞腫、乳房浸潤がん-LumB若しくは乳房浸潤がん-LumA、非小細胞肺がん、膠芽腫、黒色腫、低悪性度神経膠腫、腎がん、乳がん基底型、Her2+乳がん、膵がん又は卵巣がんであってもよい。肺腺がんは非小細胞肺腺がんであってもよい。血液がんは、白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫又は多発性骨髄腫であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)のレポーターアッセイにおける抗Siglec-10抗体のアンタゴニスト活性を示す。Jurkat ADCCエフェクター細胞内において異所発現されたSiglec-10によって抑制されたADCCをレスキューする能力について、4つの異なる抗Siglec-10抗体の段階分けした用量を比較した。標的:CHO-CTLA4-OFPクローン9(2×10e4)。エフェクター:Jurkat-PWPI-Siglec10(2×10
4)。ADCCをトリガーする抗体:抗CTLA4 mAb(0.1μg/ml)。
【0013】
【
図2】
図2は、ELISAによって測定した抗Siglec-10 mAb 31F11の結合特異性を示す。Siglec融合タンパク質をプレート上にコーティングし、ビオチン化された31F11を添加した。結合した抗体を西洋ワサビペルオキシダーゼに結合させたストレプトアビジンによって検出した。
【0014】
【
図3】
図3は、フローサイトメトリーによって測定した抗Siglec-10 mAb 31F11の結合特異性を示す。293T細胞にGFPに結合させたSiglec cDNAをトランスフェクトした。細胞を31F11によって染色し、Canto IIサイトメーターによって分析した。
【0015】
【
図4A】
図4A~
図4Bは、マウス脾臓細胞にSiglec-10Fcが結合することに対する強力な阻害を抗Siglec-10 mAb 31F11が示すことを示す。
図4A:実験プロトコルのフローチャート。
【
図4B】
図4A~
図4Bは、マウス脾臓細胞にSiglec-10Fcが結合することに対する強力な阻害を抗Siglec-10 mAb 31F11が示すことを示す。
図4B:脾臓細胞にSiglec-10Fc(S10)が結合することに対する阻害の%。
【0016】
【
図5】
図5は、抗Siglec-10 mAb 31F11がマクロファージによるがん細胞のファゴサイトーシスを促進することを示す。40ng/mlのM-CSFを補充したRPMI-1640培地によって、末梢血から単離したヒト単球を5~7日間刺激した。次いで、50ng/mlのTGFβ1とIL10とによって、M2マクロファージを24時間誘導した。MCF-7細胞をCELLTRACE(商標)Violet BMQC Dyeによって標識し、示された濃度の抗siglec-10 mAb、5G6、10H3及び31F11(mFc=マウスFc;hFc=ヒトFc)の存在下で2時間にわたり、ドナー由来M2マクロファージと共培養した。細胞をAPCに結合させた抗CD11b Abによって染色し、総CD11b+細胞中におけるViolet色素陽性CD11b+細胞の%に基づいて、フローサイトメトリーによってファゴサイトーシス(%)を測定した。示されたデータは、フローサイトメトリーによって測定した、がん細胞を貪食したマクロファージ%の平均及び標準誤差である。
【0017】
【
図6A】
図6A~
図6Bは、抗CD24抗体と抗Siglec-10抗体との相乗的抗腫瘍活性を示す。ヒトSiglec-10を発現するトランスジェニックマウスから得た骨髄細胞からなるBMキメラマウスに、1×10
6個のMC38-hCD24細胞を皮下接種した(n:4~5)。腫瘍移植後7、10、13及び16日目に、100μgのhIgFc、α-hCD24、31F11(α-S10)又はα-hCD24+31F11 Abによってマウスを処置した。
図6A:腫瘍増殖の動態。
【
図6B】
図6A~
図6Bは、抗CD24抗体と抗Siglec-10抗体との相乗的抗腫瘍活性を示す。ヒトSiglec-10を発現するトランスジェニックマウスから得た骨髄細胞からなるBMキメラマウスに、1×10
6個のMC38-hCD24細胞を皮下接種した(n:4~5)。腫瘍移植後7、10、13及び16日目に、100μgのhIgFc、α-hCD24、31F11(α-S10)又はα-hCD24+31F11 Abによってマウスを処置した。
図6B:腫瘍担持マウスの%割合の経時変化。
【0018】
【
図7】
図7は、Jurkat細胞上に異所発現された細胞表面Siglec-10への結合についての、ヒト化31F11クローンの特性解析を示す。示されたデータは、抗体の段階分けした用量それぞれにおける最大結合の%値である。
【0019】
【
図8】
図8は、ヒト化31F11クローンの熱安定性を示す。各クローンについてのデータを表1に示す。
【表1】
【0020】
【
図9】
図9は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)レポーターアッセイのレスキューにおける活性に基づく、ヒト化31F11クローンのアンタゴニスト活性を示す。5×10
4個のJurkat-PWPI-S10細胞と5×10
4個のCHO-hCTLA4細胞とを、0.1μg/mlの抗hCTLA4抗体、及び示された濃度の抗siglec 10抗体と共培養した。16~24時間のインキュベーション後、BIO-GLO(商標)Luciferase Assay Reagentを全試験ウェルに添加し、グロー型発光を読取る能力を有するプレートリーダーを使用して発光を測定した。示されたデータは、抗体の段階分けした用量それぞれにおける最大ADCC活性の%値である。
【0021】
【
図10A】
図10A~
図10Bは、Siglec-10シグナル伝達がADCCレポーター活性を抑制することを示す。
図10A:レポーターアッセイの図。Jurkatレポーター細胞は、CTLA-4発現標的細胞及び様々な濃度の抗CTLA-4 mAbイピリムマブの存在下で、FcγRIIIAの活性化時にNFAT発現を活性化する。
【
図10B】
図10A~
図10Bは、Siglec-10シグナル伝達がADCCレポーター活性を抑制することを示す。
図10B:ベクター対照(ADCC3-p)、WT Siglec-10タンパク質(ADCC 3-10)、又はITIMドメイン位置667にY>A変異を有する変異型Siglec-10(ADCC3-10-667)を発現するJurkatレポーター細胞のレポーター活性。前記変異は、Siglec-10による負のシグナル伝達を部分的に防ぐ。
【0022】
【
図11】
図11は、ADCC活性を増強させることにおける31F11の優れた活性を示す。Siglec-10発現Jurkatレポーター細胞であるADCC3-10をレポーター細胞として使用した。CTLA-4発現CHO細胞を標的細胞として使用した。0.1μg/mLの抗CTLA-4 mAb ONC-392、並びに段階希釈(serial diluted)した抗Siglec-10 mAb 10H3、5G6及び31F11の存在下で細胞を共培養した。アッセイデザインを
図10Aに図示する。所与の用量の3つの抗Siglec-10 mAbを比較した。
【0023】
【
図12】
図12は、ONC-841がCD24-Siglec-10によるdo-not-eat-meシグナル(DNEMS)を遮断して腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進することの考えられる仕組みの概略図を示す。
【0024】
【
図13】
図13は、ONC-392との併用療法におけるONC-841の機序を示す。ONC-392は、腫瘍微小環境内でTregを選択的に枯渇させることによって腫瘍拒絶を引き起こし、それによって、腫瘍内T細胞応答を増強する。一方、ONC-841は、Siglec-10に媒介される抑制に拮抗することによってADCC/ACDP媒介Treg枯渇を増強する。
【0025】
【
図14A】
図14A~
図14Bは、組換えSiglecファミリータンパク質へのONC-841の結合を示す。
図14A:Hisタグ付きSiglec又はFcタグ付きSiglecに対するONC-841の特異性。
【
図14B】
図14A~
図14Bは、組換えSiglecファミリータンパク質へのONC-841の結合を示す。
図14B:ONC-841は、高濃度では、Siglec-5Fc、Siglec-6Fc、Siglec-11Fc及びSiglec-14Fcと同様のパターンでヒトIgG1Fcへの結合を示したが、このことは、Siglec-5Fc、Siglec-6Fc、Siglec-11Fc及びSiglec-14FcへのONC-841の結合がFcタグへの非特異的結合によるものであり、組換えSiglecタンパク質への特異的結合によるものではないことを示唆した。
【0026】
【
図15】
図15は、ONC-841が、Jurkat-CTLA4細胞へのSiglec-10Fcの結合を遮断することを示す。Siglec-10 Fc-ビオチンをストレプトアビジン-PEと前もって複合体化し、濃度増加系列のONC-841と5分間インキュベートした後、Jurkat-CTLA4細胞と1時間インキュベートした。
【0027】
【
図16A】
図16A~
図16Bは、Siglec-10FcがTregに結合することに対するONC-841の効果を示す。
図16A:100μg/mLのONC-841の存在下(薄い灰色)又は非存在下(濃い灰色)での、Siglec-10-ビオチン+ストレプトアビジン-PEのTregへの結合を示す代表的なデータ。ストレプトアビジン-PEを陰性対照として灰色で示す。
【
図16B】
図16A~
図16Bは、Siglec-10FcがTregに結合することに対するONC-841の効果を示す。
図16B:Siglec-10Fc-ビオチン+ストレプトアビジン-PEのTregへの結合をONC-841が遮断することの非線形回帰分析。
【0028】
【
図17A】
図17A~
図17Cは、抗体依存性ADCCレポーターアッセイにおけるONC-841の効果を示す。
図17A:ONC-841は、Raji細胞に対する抗CD20依存性ADCCを促進する。
【
図17B】
図17Bは、抗体依存性ADCCレポーターアッセイにおけるONC-841の効果を示す。
図17B:ONC-841は、EGFR発現B16細胞に対するセツキシマブ依存性ADCCを促進する。
【
図17C】
図17Cは、抗体依存性ADCCレポーターアッセイにおけるONC-841の効果を示す。
図17C:ONC-841は、CTLA-4発現CHO細胞に対するONC-392依存性ADCCを促進する。示されたデータは正規化されており、ベースラインを超えるADCC活性の増加倍率(fold increase)を示す。
【0029】
【
図18A】
図18A~
図18Cは、ヒトNK細胞による白血病細胞に対するADCC及び抗体非依存性殺傷におけるONC-841の効果を示す。
図18A:ONC-392なし。
【
図18B】
図18A~
図18Cは、ヒトNK細胞による白血病細胞に対するADCC及び抗体非依存性殺傷におけるONC-841の効果を示す。
図18B:ONC-392あり。
【
図18C】
図18A~
図18Cは、ヒトNK細胞による白血病細胞に対するADCC及び抗体非依存性殺傷におけるONC-841の効果を示す。
図18C:ONC-841によるONC-392媒介性ADCCの増強%。
【0030】
【
図19】
図19は、ヒトPBMCによる白血病細胞の抗体非依存性殺傷におけるONC-841の効果を示す。ONC-841は、がん細胞を標的とする抗体の非存在下でPBMCがJurkat-CTLA-4細胞を殺傷することを促進する。
【0031】
【
図20】
図20は、固形腫瘍におけるONC-841の治療活性を実証する。ヒトEGFRを発現するB16F10細胞株を使用した。腫瘍細胞負荷を与えた6日後、対照IgG、ONC-841又はONC-841+セツキシマブで腫瘍担持マウスを処置し、腫瘍増殖を盲検で測定した。腫瘍接種後6日目から開始して、B16-EGFR腫瘍担持(s.c.)Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-マウス(n=4~5)を200μgの対照hIgGFc又はONC-841を用いて腹腔内(i.p.)処置し、4回の注射のために3日ごとに10μgの対照hIgGFc又はセツキシマブを用いて腫瘍内(i.t.)処置した。
【0032】
【0033】
【
図22】
図22は、ONC-841と抗CTLA-4抗体9D9との組合せが、B16F10黒色腫細胞の拒絶を引き起こすことを示す。B16-F10腫瘍担持C57BL/6 SIGLEC10TG
+/+;Siglecg
-/-マウス(n=5~6)を、8、11、14及び17日目に、200μgの9D9又は/及び400μgのONC-841でi.p.処置した。腫瘍体積を3日ごとに測定した。示されたデータは、平均及びSEMである。
【0034】
【
図23】
図23は、異なる種由来のHisタグ付きSiglec-10/Siglec-GへのONC-841の結合を検出するための比色ELISAアッセイを示す。
【0035】
【
図24】
図24は、expi293上に発現したSiglec-10オルソログへのONC-841の結合のフローサイトメトリー評価を示す。Zombie色素を使用して生細胞をゲーティングし、ONC-841(濃い灰色の線)の結合を評価し、ポリクローナル抗Siglec-10抗体(薄い灰色の線)と比較した。Fluorescent-minus-one(FMO、灰色)を陰性対照として使用した。各ヒストグラムの凡例の数字は、各試料の蛍光強度中央値を示す。
【0036】
【
図25】
図25は、ヒト及びカニクイザルの単球及びB細胞へのONC-841の結合のフローサイトメトリー評価を示す。Zombie色素を使用して生細胞をゲーティングし、ONC-841(濃い灰色の線)の結合を評価し、陰性対照としてのFluorescent-minus-one(FMO、灰色)と比較した。結合が特異的であるかどうかを試験するために、染色前に過剰のヒトIgGをチューブのうちいくつかのものに添加した(薄い灰色の線)。各ヒストグラムの凡例の数字は、各試料の蛍光強度中央値を示す。
【0037】
【
図26A】
図26A~
図26Cは、Siglec10トランスジェニックマウスPBMC及びヒトPBMCへのONC-841の結合を示す。
図26A:左、ヒトSiglec10トランスジェニックマウスとSiglecGノックアウトマウスとの交配から得られたF1マウスからの血液分析。マウスは、ヒトSiglec-10及びSiglec Gの両方を発現する。右、交配F1マウスの血液分析、及びトランスジェニックコロニーを作製するために選択されたマウスの表現型。さらに繁殖させるために、ヒトSiglec-10染色のみを有するF2マウスを選択する。マウス血液を市販の抗体によって染色した。
【
図26B】
図26A~
図26Cは、Siglec10トランスジェニックマウスPBMC及びヒトPBMCへのONC-841の結合を示す。
図26B:マウス血液サブセットの追加の染色:NK細胞、B細胞、樹状細胞(DC)、好中球、単球及びT細胞。Siglec-10染色をX軸に示し、非トランスジェニックマウスの各細胞サブタイプ染色を左側のグラフに示し、ヒトSiglec-10トランスジェニックマウスの染色を右側のグラフに示す。
【
図26C】
図26A~
図26Cは、Siglec10トランスジェニックマウスPBMC及びヒトPBMCへのONC-841の結合を示す。
図26C:ヒトPBMCの代表的な染色。ONC-841(薄い灰色)はY軸に、市販の5G6抗Siglec-10 mAb抗体(濃い灰色)はX軸とし、各プロットは、各抗体単独の染色を示す近接したヒストグラムを有する。Siglec-10について陽性であったB細胞及び単球について、陽性細胞のパーセント値を示す。
【0038】
【
図27】
図27は、Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-マウスの様々な器官から得た凍結切片の免疫組織化学的染色を示す。最上段の列は、Siglec-10発現細胞ペレット(左)及びSiglec-10陰性細胞ペレット(右)の陽性染色及び陰性染色を示す。褐色はONC-841の結合を示し、青色は核染色(ヘマトキシリン)である。切片はいずれも、倍率20倍の拡大で示す。
【0039】
【
図28】
図28は、抗CTLA-4抗体処置に対する応答性についてヒトがんをランク付けするための戦略の図を示す。我々は、まず、抗CTLA-4抗体による新たに同定された作用機序と、FCGR3A多型、及びイピリムマブに対する応答性についての別のグループによって行われた分析とを考慮して、CTLA-4応答データベースに基づいて、抗CTLA-4抗体の治療応答に影響を及ぼす成分を同定した。各成分の中央値に基づいてヒトがん型をランク付けした。これらの成分を等しく重み付けし、5つのカテゴリーにグループ分けし、各カテゴリーにランク付けした。次いで、5つのカテゴリーのランキングを重み付けして、最終ランキングを得た。
【0040】
【
図29】
図29は、ONC-841がサイトカイン放出症候群(CRS)を誘導しないことを示す。4ドナーのうちの1つから得られた代表的なデータを示す。アッセイは二連で行った。
【発明を実施するための形態】
【0041】
実験モデル系及び患者において、免疫系はがんを認識及び排除することができる。その結果、がん免疫療法は、がん治療の最も有望な領域の1つとして浮上している。能動的ながん免疫療法は、免疫チェックポイント又はdo-not-eat-meシグナルを遮断することによって自然免疫応答を増幅する薬剤(PD-1、PD-L1、CTLA-4及びCD47に対する抗体など)を含む。
【0042】
本開示では、抗Siglec-10抗体組成物及びその抗原結合断片が提供される。この抗体分子は、モノクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体又はヒト化抗体であってもよい。抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性又は多重特異性であってもよい。Siglec-10結合分子は、Siglec-10、特にヒトSiglec-10に免疫特異的に結合する、抗体の抗原結合断片を含んでもよく、前記Siglec-10は、特に内因性濃度又はトランスフェクトされた濃度で生細胞の表面に発現されたものであってもよい。自らの抗原結合断片がSiglec-10に結合する抗体分子も提供される。抗体は、検出可能に標識されていてもよく、又は結合した毒素、薬物、受容体、酵素若しくは受容体リガンドを含んでもよい。
【0043】
異なる腫瘍型及び患者の応答性は様々であり、これは、異なる腫瘍型又は異なる集団には異なる阻害経路が関連しているのであろうことを意味する。したがって、追加のdo-not-eat-meシグナルの同定は、単独で、又は可能性としては組み合わせても、特定の腫瘍型又は患者に対してさらに効果的な新しい治療法の開発につながる可能性がある。本開示に記載の抗体分子は、本開示に記載の抗Siglec-10抗体を単独で又は他の治療法と組み合わせて投与することによってがんを治療するために使用されてもよい。
【0044】
我々は、Siglec-10に対して、特に細胞表面のSiglec-10に対して、驚くほど強力な結合を示す抗Siglec-10抗体を発見した。この抗体はまた、強力なdo-not-eat-meシグナルを阻害することによって、強力なADCC活性を増強する。
【0045】
1.定義
本開示で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明することのみを目的とするものであって、限定することを意図するものではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、そうではないことを文脈が明確に指示していない限りは、複数の指示対象を含む。数値に付随する「約」という語は、その値の合理的な近似値を示す。特定の場合には、「約」は、それが付随する特定の値からの差異が10%以内の範囲内にあると解釈することができる。例えば、「約100」という語句は、90と110の間の任意の値を包含する。
【0046】
本開示における数値範囲の列挙では、間に位置する、同じ程度の精度を有する各数字が明示的に想定(contemplate)されている。例えば、6~9の範囲では、6及び9に加えて数字7及び8が想定され、6.0~7.0の範囲では、数字6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9及び7.0が明示的に想定される。
【0047】
「治療(treatment)」又は「治療する(treating)」は、疾患からの動物の保護を指す場合、疾患を予防すること、抑制すること、退縮(regress)させること、又は完全に排除することを意味する。疾患を予防することは、疾患の発症前に本開示の組成物を動物に投与することを含む。疾患を抑制することは、疾患の誘導後であるがそれが臨床的に出現する前に、本開示の組成物を動物に投与することを含む。疾患を退縮させることは、疾患が臨床的に出現した後に、本開示の組成物を動物に投与することを含む。
【0048】
本開示で使用される場合、用語「抗体」は、「可変領域」抗原認識部位を有する免疫グロブリン分子を指すことが意図されている。用語「可変領域」は、免疫グロブリンの当該ドメインを、抗体によって広く共有されているドメイン(抗体Fcドメインなど)と区別することが意図されている。可変領域は、その残基が抗原結合を担う「超可変領域」を含む。超可変領域は、「相補性決定領域」、すなわち「CDR」由来のアミノ酸残基(すなわち、典型的には、軽鎖可変ドメインにおけるおおよそ第24~第34残基(L1)、第50~第56残基(L2)及び第89~第97残基(L3)、並びに重鎖可変ドメインにおけるおおよそ第27~35残基(H1)、第50~65残基(H2)及び第95~102残基(H3))及び/又は「超可変ループ」由来の残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける第26~32残基(L1)、第50~52残基(L2)及び第91~96残基(L3)、並びに重鎖可変ドメインにおける第26~32残基(H1)、第53~55残基(H2)及び第96~101残基(H3))を含む。「フレームワーク領域」、すなわち「FR」残基は、本開示で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。抗体という用語には、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ラクダ抗体、一本鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、イントラボディ、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本開示に開示される抗体に対する抗Id抗体及び抗抗Id抗体を含む)が含まれる。特には、そのような抗体には、任意の種類(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスの免疫グロブリン分子が含まれる。
【0049】
本開示で使用される場合、抗体の「抗原結合断片」という用語は、抗体のCDRを含み、及び任意に(optionally)抗体の「可変領域」抗原認識部位を含むフレームワーク残基を含み、抗原に免疫特異的に結合する能力を示す抗体の1つ又は複数の部分を指す。そのような断片には、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖(ScFv)及びそれらの変異型、天然のバリアント、並びに抗体の「可変領域」抗原認識部位と異種タンパク質(例えば、毒素、異なる抗原に対する抗原認識部位、酵素、受容体又は受容体リガンドなど)とを含む融合タンパク質が含まれる。本開示で使用される場合、用語「断片」は、少なくとも5個の連続するアミノ酸残基、少なくとも10個の連続するアミノ酸残基、少なくとも15個の連続するアミノ酸残基、少なくとも20個の連続するアミノ酸残基、少なくとも25個の連続するアミノ酸残基、少なくとも40個の連続するアミノ酸残基、少なくとも50個の連続するアミノ酸残基、少なくとも60個の連続するアミノ残基、少なくとも70個の連続するアミノ酸残基、少なくとも80個の連続するアミノ酸残基、少なくとも90個の連続するアミノ酸残基、少なくとも100個の連続するアミノ酸残基、少なくとも125個の連続するアミノ酸残基、少なくとも150個の連続するアミノ酸残基、少なくとも175個の連続するアミノ酸残基、少なくとも200個の連続するアミノ酸残基、又は少なくとも250個の連続するアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチド又はポリペプチドを指す。
【0050】
ヒト抗体、キメラ抗体又はヒト化抗体は、ヒトにおけるインビボで使用にとって特に好ましいが、マウス抗体又はその他の生物種の抗体は、多くの用途(例えば、インビトロ又はin situでの検出アッセイ、急性インビボ使用など)のために有利に使用され得る。
【0051】
「キメラ抗体」は、抗体の異なる部分が異なる免疫グロブリン分子に由来する分子、例えば、非ヒト抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体である。非ヒト種由来の1つ又は複数のCDRとヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域とを含むキメラ抗体は、例えば、CDRグラフティング(各々その内容全体が本開示に取り込まれる欧州特許第239,400号、国際公開番号WO91/09967並びに米国特許第5,225,539号、米国特許第5,530,101号及び米国特許第5,585,089号)、ベニアリング(veneering)又はリサーフェシング(resurfacing)(参照により各々その内容が本開示に取り込まれる欧州特許第592,106号、欧州特許第519,596号)及び鎖シャッフリング(参照によりその内容が本開示に取り込まれる米国特許第5,565,332号)を含む、当技術分野で既知の様々な技術を使用して製造することができる。
【0052】
本開示では、「ヒト化抗体」も企図される。本開示で使用される場合、用語「ヒト化抗体」は、ヒトフレームワーク領域と、非ヒト(通常マウス又はラット)免疫グロブリン由来の1つ又は複数のCDRとを含む免疫グロブリンを指す。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。定常領域は存在しなくてもよいが、存在する場合、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一でなければならず、すなわち、少なくとも約85~90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。したがって、ヒト化免疫グロブリンの全ての部分は、CDRはそうでなくてもよいが、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。ヒト化抗体は、ヒト化軽鎖免疫グロブリン及びヒト化重鎖免疫グロブリンを含む抗体である。例えば、キメラ抗体の例えば可変領域全体が非ヒトであるため、ヒト化抗体は、典型的なキメラ抗体を包含しないことになる。ドナー抗体は、「ヒト化」のプロセスによって「ヒト化」されたと称されることがあるが、これは、得られたヒト化抗体が、CDRを提供するドナー抗体と同じ抗原に結合すると予測されるためである。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有する、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)由来の超可変領域残基によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には見られない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含み、可変ドメインでは、超可変領域の全部又は実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンの超可変領域に対応し、FRの全部又は実質的に全部がヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体はまた、アミノ酸残基の置換、欠失又は付加の導入(すなわち、変異)によって改変された免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を任意に(optionally)含み、前記一部は典型的には、FcγRIIBポリペプチドに免疫特異的に結合するヒト免疫グロブリン免疫グロブリン定常領域(Fc)の一部である。
【0053】
2.抗Siglec-10抗体組成物
本開示では、抗Siglec-10抗体又はその抗原結合断片が提供される。本開示に記載される抗体の1つ以上の特徴も抗原結合断片に含まれていてもよいことが理解される。抗Siglec-10抗体は、腫瘍関連マクロファージに結合してもよく、がん細胞上に発現されたCD24への結合又はシグナル伝達を阻害してもよく、それによってがん細胞からの抗ファゴサイトーシスシグナルを阻害してもよい。抗Siglec-10抗体は、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体又はキメラ抗体であってもよい。
【0054】
抗Siglec-10抗体は、それぞれ配列番号1及び2に記載の配列を含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗体31F11の1つ又は複数の配列を含んでもよい。抗体は、配列番号1に記載の配列を含む重鎖可変領域を含んでもよく、また配列番号2に記載の配列を含む軽鎖可変領域を含んでもよい。抗Siglec-10抗体の重鎖可変領域は、配列番号3に記載の配列を含むCDR1、配列番号4に記載の配列を含むCDR2、及び配列番号5に記載の配列を含むCDR3のうちの1つ又は複数を含んでもよい。抗Siglec-10抗体の軽鎖可変領域は、配列番号6に記載の配列を含むCDR1、配列番号7に記載の配列を含むCDR2、及び配列番号8に記載の配列を含むCDR3のうちの1つ又は複数を含んでもよい。一例では、抗体は、ヒトFcドメインに結合した、31F11の可変ドメインを含むキメラ抗体である。
【0055】
一実施形態では、重鎖可変領域は、それぞれ配列番号3~5を有するCDR1~3を含む。別の実施形態では、軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号6~8を有するCDR1~3を含む。さらなる例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号3~5を含む重鎖可変領域と、配列番号6~8を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0056】
抗Siglec-10抗体の重鎖及び軽鎖のうちの1つ又は複数は、31F11に対してヒト化されてもよい。抗Siglec-10抗体は、それぞれ配列番号9、10、11、12及び13のうちの1つに記載の配列を含む1つ又は複数の重鎖可変領域(それぞれHu-VHv1、Hu-VHv2、Hu-VHv3、Hu-VHv4及びHu-VHv5と呼ばれる)を含んでもよい。抗Siglec-10抗体は、それぞれ配列番号14~18のうちの1つに記載の配列を含む1つ又は複数の軽鎖可変領域(それぞれHu-VLv1、Hu-VLv2、Hu-VLv3、Hu-VLv4及びHu-VLv5と呼ばれる)を含んでもよい。
【0057】
31F11の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列を以下に与える。
【0058】
31F11重鎖可変領域
【0059】
QVTLKESGPGILQSSQTLSLTCSFSGFSLSTSGMGLSWIRQPSGKGLEWLAHIYWDDDKRYNPSLKSRLTISKDTSRNQVFLKITSVDTADTATYYCVRGLYGNWFFDVWGAGTTVTVSS (配列番号1)
【0060】
31F11軽鎖可変領域
【0061】
DIVMTQSQKFMSTSVGDRVSITYKASQNVGTAVAWYQQKPGQSPKLLIYSASNRYTGVPDRFTGSGSGTDFTLTISNMQSENLANYFCQQYSSYPLTFGAGTKLELK (配列番号2)
【0062】
ヒト化31F11重鎖可変領域の配列を以下に与える(CDRには下線が引かれている)。
【0063】
Hu-31F11-VHv1
【0064】
【0065】
Hu-31F11-VHv2
【0066】
【0067】
Hu-31F11-VHv3
【0068】
【0069】
Hu-31F11-VHv4
【0070】
【0071】
Hu-31F11-VHv5
【0072】
【0073】
ヒト化31F11軽鎖可変領域の配列を以下に与える(CDRには下線が引かれている)。
【0074】
Hu 31F11-VLv1
【0075】
【0076】
Hu 31F11-VLv2
【0077】
【0078】
Hu 31F11-VLv2-軽鎖全体
【0079】
【0080】
Hu 31F11-VLv2-軽鎖全体+シグナルペプチド
【0081】
【0082】
Hu 31F11-VLv3
【0083】
【0084】
Hu 31F11-VLv3-軽鎖全体
【0085】
【0086】
Hu 31F11-VLv3-軽鎖全体+シグナルペプチド
【0087】
【0088】
Hu 31F11-VLv4
【0089】
【0090】
Hu 31F11-VLv5
【0091】
【0092】
一例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号9に記載の配列を含む重鎖可変領域、又は配列番号25に記載の配列を含む重鎖と、配列番号15に記載の配列を含む軽鎖可変領域、又は配列番号27に記載の配列を含む軽鎖とを含む。抗Siglec-10抗体は、hu-VHv1VLv2を含んでもよい。
【0093】
別の例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号10に記載の配列を含む重鎖可変領域、又は配列番号32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号15に記載の配列を含む軽鎖可変領域、又は配列番号27に記載の配列を含む軽鎖とを含む。抗Siglec-10抗体は、hu-VHv2VLv2を含んでもよい。
【0094】
さらなる例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号10に記載の配列を含む重鎖可変領域、又は配列番号32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号16に記載の配列を含む軽鎖可変領域、又は配列番号34に記載の配列を含む軽鎖とを含む。抗Siglec-10抗体は、hu-VHv2VLv3を含んでもよい。
【0095】
抗Siglec-10抗体は、配列番号9、10又は11に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15、27、16又は34に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含んでもよい。
【0096】
別の例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号10に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含む。抗Siglec-10抗体は、hu-VHv2VLv4を含んでもよい。さらなる例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号12に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含む。抗Siglec-10抗体は、hu-VHv4VLv4を含んでもよい。抗Siglec-10抗体は、配列番号10又は12に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号17に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含んでもよい。
【0097】
別の例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号12に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16又は34に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含む。抗Siglec-10抗体は、hu-VHv4VLv3を含んでもよい。
【0098】
別の例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号10に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15又は17に記載の配列を含む軽鎖可変領域とを含む。さらなる例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号12に記載の配列を含む重鎖可変領域を含み、軽鎖可変領域は、配列番号16、34又は17に記載の配列を含む。
【0099】
抗Siglec-10抗体は、ヒトIgκポリペプチドを含んでもよい。一例では、Igκは、配列番号19に記載の配列を有する。抗Siglec-10抗体は、ヒトIgGポリペプチドを含んでもよく、該ヒトIgGポリペプチドは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1又はIgA2であってもよい。一例では、IgGはIgG4であり、該IgG4は、配列番号20に記載の配列を有してもよい。別の例では、IgG4はS228P変異を含んでもよく、これは以下の配列を有してもよい。
【0100】
【0101】
別の例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号9に記載の配列を含む重鎖可変領域と、配列番号24に記載の配列を含むS228P変異型IgG4とを含む。重鎖(VHv1)は、以下に記載の配列を含んでもよい。
【0102】
【0103】
配列番号25に記載の配列を有する重鎖(VHv1)は、シグナルペプチドをさらに含んでもよく、以下に記載の配列を有してもよい。
【0104】
【0105】
重鎖(VHv2)は、以下の配列を含んでもよい:
【0106】
【0107】
重鎖(VHv2)はまた、以下の配列を含んでもよい:
【0108】
【0109】
抗Siglec-10抗体は、配列番号9又は25に記載の配列を含む重鎖と、配列番号15又は27に記載の配列を含む軽鎖とを含んでもよい(VHv1VLv2)。一例では、抗Siglec-10抗体は、配列番号25に記載の配列を含む重鎖と、配列番号27に記載の配列を含む軽鎖とを含んでもよい。抗Siglec-10抗体は、配列番号10又は32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号15又は27に記載の配列を含む軽鎖とを含んでもよい(VHv2VLv2)。一例では、抗体は、配列番号32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号27に記載の配列を含む軽鎖とを含む。抗Siglec-10抗体は、配列番号10又は32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号16又は34に記載の配列を含む軽鎖とを含んでもよい(VHv2VLv3)。一例では、抗体は、配列番号32に記載の配列を含む重鎖と、配列番号34に記載の配列を含む軽鎖とを含む。
【0110】
3.二重特異性抗体組成物
本開示では、他の免疫刺激分子、免疫細胞を標的とする分子又はがんを標的とする分子に結合する抗体に架橋された、Siglec-10に結合する抗体を含む二重特異性抗体も提供される。特定の実施形態では、二重特異性抗体は、抗Siglec-10抗体又はその抗原結合断片と、がんを標的とする抗体又はその抗原結合断片とを含む。そのような分子は、腫瘍微小環境内に濃縮される。がんを標的とする抗体には、特異的T抗原、TN抗原、差次的にグリコシル化されたムチン、CD24、her-2、又はPMSAが含まれてもよい。
【0111】
別の実施形態では、抗Siglec-10二重特異性抗体は、補完的(complementary)抗腫瘍経路又は補完的(complementary)抗腫瘍機構を標的とする第2の抗体又はその抗原結合断片を含んでもよい。一実施形態では、本開示に記載の抗Siglec-10抗体組成物は、自然免疫応答を増幅するがん免疫療法抗体と組み合わせられてもよい。そのようながん免疫療法抗体の例には、抗PD-1、抗CTLA-4、抗PD-L1、抗B7-H3、抗B7-H4、抗LIGHT、抗LAG3、抗TIM3、抗TIM4抗CD40、抗OX40、抗GITR、抗BTLA、抗CD27、抗CD47、抗ICOS又は抗4-1BBが挙げられる。そのような抗体は、がんを治療するために用いることができる。
【0112】
当技術分野で既知の多くの異なる二重特異性抗体技術が存在する。これらの大部分は、2つの部分を単一のコンストラクトで発現することができるように、2成分抗体が一本鎖形式であることを必要とする。好ましい方法は、抗体を一本鎖可変断片(scFv)として発現させることである。二重特異性抗体技術の非限定的な例には、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャーを表す)、DART(二重親和性再ターゲティングを表す)、タンデム型Fab(Fabs-in-tandem)免疫グロブリン(FIT-Ig)、及びknobs-into-holesが挙げられる。
【0113】
治療方法
【0114】
本開示では、がんを治療するための、本開示に記載の抗体組成物の使用、及びその医薬組成物の使用が提供される。本開示で使用される場合、用語「がん」は、細胞の異常な制御されない増殖から生じる新生物又は腫瘍を指す。本開示で用いられる用語、がんには、白血病及びリンパ腫が明示的に含まれる。該用語は、遠位部位に転移する可能性を有する細胞を伴う疾患を指す。
【0115】
本開示では、治療を必要とする対象におけるがん又は異常増殖性疾患を治療する方法が提供され、該方法は、前記抗体組成物を対象に投与することを含んでもよい。前記対象は、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、モンキー、エイプ又はヒトなどの哺乳動物であってもよい。一例では、対象はヒト患者である。がん又は異常増殖性疾患の治療に使用するための、前記抗体組成物を含む医薬組成物も提供される。がん又は異常増殖性疾患を治療するための医薬の製造における前記抗体組成物の使用がさらに提供される。一例では、前記抗体組成物は単剤療法として使用され、単剤療法は、マクロファージ、ADCC及び抗体依存性細胞ファゴサイトーシス(ADCP)のうちの1つ又は複数によるがん細胞のファゴサイトーシスを促進し得る。
【0116】
前記がんは、がん腫、例えば、膀胱、乳房、結腸、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺及び皮膚のがん腫;例えば、扁平上皮がん;リンパ系統の造血器腫瘍、例えば、白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫;骨髄系統の造血器腫瘍、例えば、急性及び慢性骨髄性白血病、及び前骨髄球性白血病;間葉系起源の腫瘍、例えば、線維肉腫及び横紋筋肉腫;その他の腫瘍、例えば、黒色腫、セミノーマ、テラトカルシノーマ、神経芽細胞腫及び神経膠腫;中枢神経系及び末梢神経系の腫瘍、例えば、星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫及びシュワン細胞腫;間葉系起源の腫瘍、例えば、線維肉腫、横紋筋肉腫及び骨肉腫;並びにその他の腫瘍、例えば、黒色腫、色素性乾皮症(xenoderma pegmentosum)、ケラトアカントーマ、セミノーマ、甲状腺濾胞状がん及びテラトカルシノーマのうちの1つ又は複数であってもよい(ただし、これらに限定されない)。特に、前記がんは、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん又は本開示に開示される白血病であってもよい。前記がんは、抗Siglec-10抗体に結合する浸潤細胞を含んでもよい。
【0117】
前記がんは、進行固形腫瘍であってもよい。進行固形腫瘍は、標準治療(standard-of-care)全身療法後に進行したものであってもよい。前記がんは、肺腺がん(LUAD)、皮膚黒色腫-転移(SKCM-TM)、肺扁平上皮がん(LUSC)、乳房浸潤がん-基底、乳房浸潤がん-Her2、膵臓腺がん、頭頸部扁平上皮がん、腎臓腎明細胞がん、胃腺がん、多形性膠芽細胞腫、乳房浸潤がん-LumB若しくは乳房浸潤がん-LumA、非小細胞肺がん、膠芽腫、黒色腫、低悪性度神経膠腫、腎がん、乳がん基底型、Her2+乳がん、膵がん又は卵巣がんであってもよい。一例では、前記がんは、LUAD、SKCM-TM、又はLUSCである。特に、前記がんは非小細胞肺腺がんであってもよい。前記がんはまた血液学的悪性疾患であってもよく、これは、白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫又は多発性骨髄腫であってもよい。
【0118】
前記がんは、アポトーシスの異常によって引き起こされたものであってもよく、そして本開示に記載の方法及び組成物によって治療されてもよい。がんは、濾胞性リンパ腫、p53変異を有するがん腫、乳房、前立腺又は卵巣のホルモン依存性腫瘍、及び家族性腺腫性ポリポーシス又は骨髄異形成症候群などの前がん性病変のうちの1つ又は複数であってもよい(ただし、これらに限定されない)。特定の実施形態では、卵巣、膀胱、乳房、結腸、肺、皮膚、膵臓又は子宮において、悪性疾患又は増殖異常性(dysproliferative)の変化(化生(metaplasias)及び異形成(dysplasias)など)又は過剰増殖性障害が、本発明の方法及び組成物によって治療又は予防される。他のある特定の実施形態では、肉腫、黒色腫及び白血病のうちの1つ又は複数が、本開示に記載の方法及び組成物によって治療又は予防される。
【0119】
別の実施形態では、前記抗体組成物は、1つ又は複数の他の抗腫瘍療法と組み合わせて使用され、該抗腫瘍療法としては、現在の標準的化学療法及び実験的化学療法、ホルモン療法、生物学的療法、免疫療法、放射線療法又は外科手術が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、前記抗体組成物は、がん、自己免疫疾患、感染性疾患又は中毒の治療及び/又は予防のための、治療有効量又は予防有効量の1つ若しくは複数の薬剤、治療用抗体、又は当業者に既知の他の薬剤と組み合わせて投与される。そのような薬剤は、例えば、上記の生物学的応答調節剤、細胞毒、代謝拮抗物質、アルキル化剤、抗生物質又は有糸分裂阻害剤並びに免疫療法薬うちの任意のものを含む。
【0120】
本発明の好ましい実施形態では、前記抗体組成物は、1つ又は複数の抗腫瘍免疫療法とともに使用される。該抗腫瘍免疫療法は、免疫調節効果を増強するために、1つ若しくは複数の代替的な免疫調節経路(TIM3、TIM4、OX40、CD40、GITR、4-1-BB、PD-L1、PD-1、B7-H3、B7-H4、CTLA-4、LIGHT、BTLA、ICOS、CD27、CD47、TIGIT又はLAG3など)を破壊若しくは増強するか、又はサイトカイン(例えば、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、GF-ベータ、IFNg、Flt3、BLys)及びケモカイン(例えば、CCL21)などのエフェクター分子の活性を調節する分子であってもよい。さらに別の実施形態では、前記抗体組成物は、さらに広範な免疫応答を達成するために、免疫応答の異なる段階又は態様を活性化する1つ又は複数の分子と組み合わせて投与される。さらに好ましい実施形態では、前記抗体組成物は、自己免疫性副作用を悪化させることなく、抗PD-1抗体又は抗4-1BB抗体と組み合わされる。
【0121】
前記抗体組成物は、腫瘍を標的とする抗体とともに使用されてもよい。腫瘍を標的とする前記抗体は、ADCC又はADCPのうちの1つ又は複数を引き起こす任意の抗体であってもよい。腫瘍を標的とする前記抗体は、セツキシマブ(アービタックス)、リツキシマブ(リツキサン)、トラスツズマブ(ハーセプチン)又はダラツムマブ(ダラザレックス)であってもよい。前記抗体組成物はまた、宿主細胞を標的とする免疫療法薬とともに使用されてもよく、該免疫療法薬は抗CTLA-4抗体であってもよい。抗CTLA-4抗体は、当技術分野で既知である。抗CTLA-4抗体は、参照によりその内容が本開示に取り込まれる米国特許第10,618,960号に開示されたものであってもよい。一例では、抗CTLA-4抗体は、配列番号21を含む重鎖可変領域と、配列番号22を含む軽鎖可変領域とを有する。抗CTLA-4抗体軽鎖は、配列番号29を含む定常領域をさらに含んでもよく、重鎖は、配列番号30又は31を含む定常領域をさらに含んでもよい。別の例では、抗CTLA-4抗体は、配列番号21を含む可変領域と配列番号31を含む定常領域とを含む重鎖、及び配列番号22を含む可変領域と配列番号29を含む定常領域とを含む軽鎖を有する。
【0122】
製造
【0123】
本開示に記載の抗Siglec-10抗体は、真核生物発現系を使用して調製されてもよい。発現系は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞内のベクターからの発現を伴ってもよい。系はまた、真核細胞を感染させるために使用されてもよい複製欠損レトロウイルスベクターなどのウイルスベクターであってもよい。抗体はまた、細胞ゲノムにインテグレーションされたベクターの一部又はベクターから抗体を発現する安定な細胞株から産生されてもよい。安定な細胞株は、インテグレーションされた複製欠損レトロウイルスベクターから抗体を発現してもよい。
【0124】
本開示に記載の抗Siglec-10抗体、又はその抗原結合断片は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、DEAEイオン交換、ゲル濾過及びヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法を使用して精製することができる。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチドが親和性マトリックス上に捕捉されることを可能にする追加のドメイン含有アミノ酸配列を含有するように改変されてもよい。例えば、本開示に記載の抗体は、免疫グロブリンドメインのFc領域を含む場合は、プロテインAカラムを使用して細胞培養上清又は細胞質抽出物から単離することができる。さらに、ポリペプチド精製を補助するために、c-myc、ヘマグルチニン、ポリヒスチジン又はFlag(商標)(Kodak)などのタグを使用することができる。そのようなタグは、カルボキシル末端又はアミノ末端を含め、ポリペプチド内の任意の箇所に挿入されてもよい。有用でありうるその他の融合物としては、ポリペプチドの検出を補助する酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、が挙げられる。免疫アフィニティークロマトグラフィーを使用してポリペプチドを精製することもできる。
【0125】
医薬組成物
【0126】
本開示では、本開示に記載の抗Siglec-10抗体及び組成物のうちの1つ又は複数の治療有効量、並びに生理学的に許容されるキャリア又は製剤添加剤(excipient)を含む医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、予防有効量又は治療有効量の抗Siglec-10抗体、及び薬学的に許容されるキャリアを含んでもよい
【0127】
特定の実施形態では、用語「薬学的に許容される」は、連邦政府若しくは州政府の規制当局によって承認されていること、又は動物、さらに具体的にはヒトに使用するために米国薬局方若しくは他の一般に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。用語「キャリア」は、治療薬とともに投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全及び不完全)、製剤添加剤(excipient)又は溶媒(vehicle)を指す。そのような医薬キャリアは、滅菌液体、例えば水及び油、であってもよく、前記滅菌液体としては、石油起源、動物起源、植物起源又は合成起源のものが挙げられ、その例としては、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などがある。医薬組成物が静脈内投与される場合、水が好ましいキャリアである。生理食塩水並びにデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液も、液体キャリア、特には注射液用の液体キャリアとして使用することができる。好適な医薬製剤添加剤(excipient)には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。組成物は、所望であれば、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤も含有してもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、持続放出製剤などの形態をとってもよい。
【0128】
一般に、前記医薬組成物の成分は、活性剤の量が表示されたアンプル又はサシェ(sachette)などの密閉容器内に、例えば、凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、別個に供給されていてもよく、又は単位剤形で一緒に混合されてもよい。組成物が輸液(infusion)によって投与される場合、無菌医薬グレードの水又は生理食塩水を含有する輸液ボトルを用いて組成物を投薬することができる。組成物が注射によって投与される場合、成分が投与前に混合され得るように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルが提供されてもよい。
【0129】
前記医薬組成物は、中性形態又は塩形態として製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩には、限定するものではないが、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するアニオンなどのアニオンと形成した塩、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するカチオンなどのカチオンと形成した塩が含まれる。
【0130】
前記医薬組成物は、ヒスチジン緩衝液、スクロース及びポリソルベート80(PS80)のうちの1つ若しくは複数、又は全部を含んでもよい。一例では、前記医薬組成物は、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24又は約25mMのヒスチジン緩衝液を含む。特に、ヒスチジン緩衝液濃度は20mMであってもよい。前記医薬組成物は、約6、約7、約8、約9又は約10%w/vのスクロースを含んでもよい。一例では、前記医薬組成物は8%のスクロースを含む。前記医薬組成物は、約0.01、約0.02又は約0.03%のPS80を含んでもよい。一例では、PS80濃度は0.02%である。一例では、前記医薬組成物は、20mMのヒスチジン緩衝液、8%のスクロース、及び0.02%w/vのPS80を含む。前記医薬組成物は、約5、約5.5又は約6.0のpHを有してもよい。一例では、pHは5.5である。前記医薬組成物は、対象に投与される前に、0.9%塩化ナトリウム又は5%デキストロース溶液中に希釈されてもよい。
【0131】
ONC-841であってもよい抗Siglec-10抗体は、約10、約15、約20、約25又は約30mg/mLで前記医薬組成物中に存在してもよい。抗Siglec-10抗体は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8又は約9mg/kgの用量で投与されてもよい。用量は、10mg/kg未満であってもよい。一例では、用量は3~9mg/kgである。別の例では、用量は3mg/kgである。対象が抗体組成物の投与に関連する有害事象を被っている場合には、その後の用量は、以前の用量から下方へと調整されてもよい。抗体組成物ががんに対して十分に強い効果を有しない場合、その後の用量は、以前の用量から上方へと調整されてもよい。
【0132】
投与方法
【0133】
本開示に記載の抗Siglec-10抗体組成物及びその医薬組成物を投与する方法には、非経口投与(例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内及び皮下)、硬膜外及び粘膜(例えば、鼻腔内経路及び経口経路)が含まれるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、本発明の抗体は、筋肉内投与、静脈内投与又は皮下投与される。組成物は、任意の何らかの好都合な経路によって、例えば輸液又はボーラス注射によって、上皮ライニング又は皮膚粘膜ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜及び腸粘膜など)を介した吸収によって投与されてもよく、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与されてもよい。投与は、全身的又は局所的であってよい。
【実施例】
【0134】
本開示は、以下の非限定的な例によって例示される複数の態様を有する。
【0135】
実施例1
モノクローナル抗Siglec-10抗体の作製
アンタゴニストを作製するために、Siglec-10をトランスフェクトしたマウス細胞株を用いてマウスを免疫し、3回の免疫後、ハイブリドーマの作製のために脾臓細胞を採取した。ヒトFcγRIIIaを発現するエフェクター細胞を使用して測定した、ADCCにおけるSiglec-10の阻害効果を打ち消す活性について、ハイブリドーマ上清をスクリーニングした。20,000を超えるクローンのうち、1つ(31F11)がSiglec-10による阻害を打ち消すのに最も強力であることが分かった(
図1)。別の抗Siglec-10抗体(10H3及び5G6)と比較して、31F11はSiglec-10機能に拮抗する上でより強力である。
【0136】
31F11の特異性を確認するために、我々は、Siglec1、2、3、5、6、7、9、10及び11の細胞外ドメインからなる融合タンパク質によってプレートをコーティングし、これらのSiglecへの3F11の結合を試験した。
図2に示すように、Siglec-10のみが31F11への明らかな結合を示した。代替的な手法として、GFPタグ付きSiglec2、3、5、9、10、12及び15を293T細胞株にトランスフェクトした。
図3に示すように、31F11は、Siglec-10を発現する細胞に特異的に結合するが、試験した他のいずれのSiglecにも特異的に結合しない。まとめると、
図2及び
図3のデータは、31F11がSiglec-10に結合するが、Siglec1、2、3、5、6、7、9、11、12及び15には結合しないことを実証している。
【0137】
実施例2
抗siglec10抗体は、脾細胞へのSiglec-10-Fc結合を遮断する
そのSiglec-10がそのリガンドに結合することを31F11が遮断するかどうかを確認するために、我々は、Siglec-10-Fcのマウス脾臓細胞への結合に対する31F11の効果を試験した。
図4に示すように、Siglec-10-Fcが脾臓細胞に結合することを遮断する上で、31F11は他の抗Siglec-10抗体(5G6及び10H3)よりも強力である。
【0138】
実施例3
抗siglec-10抗体ファゴサイトーシスアッセイ
抗Siglec-10がマクロファージによるがん細胞のファゴサイトーシスを促進するかどうかを試験するために、40ng/mlのM-CSFを補充したRPMI-1640培地によって、末梢血から単離したヒト単球を5~7日間刺激した。次いで、50ng/mlのTGFβ1及びIL10によって、M2マクロファージを24時間誘導した。MCF-7細胞をCellTracker(商標)Violet BMQC Dyeによって標識し、示された濃度の抗Siglec-10 Abの存在下で2時間にわたり、ドナー由来マクロファージと共培養した。ファゴサイトーシスを行ったマクロファージの%をフローサイトメトリーによって決定した。
図5に示すように、31F11はファゴサイトーシスを2倍超にしたが、他の抗Siglec-10抗体は明らかな効果を有しない。したがって、31F11はファゴサイトーシスを促進する点で独特である。
【0139】
実施例4
抗hCD24抗体と組み合わせた抗腫瘍活性
31F11はインビトロでADCCを促進するため、我々は、該抗体は腫瘍細胞を標的とする抗体と組み合わせて使用されれば腫瘍拒絶を促進するのではないかと仮説立てした。この仮説を試験するために、1×10
6個のMC38-hCD24細胞をS10 BMキメラマウス(n:4~5)に接種した。7、10、13及び16日目に、100μgのhIgFc、α-hCD24、31F11(αS10)又はα-hCD24+31F11でマウスを処置した。
図6に示すように、抗CD24と31F11との組合せは、全てのレシピエントマウスにおいて腫瘍拒絶を誘導したが、いずれか単独の場合はそうでなかった。これらのデータは、腫瘍拒絶における抗Siglec-10抗体の使用を裏付ける。
【0140】
実施例5
がん治療のための31F11のヒト化
ヒトIgデータベースをブラストすることによって、31F11 VHのCDR領域のためのヒトフレームワークアクセプターとして、ヒト生殖系列V領域配列IGHV2-70*04及びJ領域配列JH6を適用した。31F11 VLのCDR領域のためのヒトフレームワークアクセプターとして、ヒト生殖系列V領域IGKV3-15*01及びJ領域配列JK4を適用した。5つのhuVHバージョン(配列番号9~13を有するVHv1、VHv2、VHv3、VHv4及びVHv5)及び5つのhuVLバージョン(配列番号14~18を有するVLv1、VLv2、VLv3、VLv4及びVLv5)を設計した。
【0141】
Siglec-10結合のためのHuVH及びHuVLの最適に働く組合せを選択するために、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを発現コンストラクト内に合成し、様々な組合せを293個の細胞に同時にトランスフェクトし、ヒトSiglec-10を発現するJurkat細胞への結合について、7つのヒト化抗体及びキメラ親抗体を比較した。クローンの特性を表2にまとめて示す。
表2 31F11のヒト化クローンの特性評価
【表2】
【0142】
抗体の組合せは以下の通りである:#21(配列番号9及び15)、#22(配列番号10及び15)、#23(配列番号11及び15)、#32(配列番号10及び17)、#34(配列番号12及び17)、#52(配列番号10及び16)、及び#54(配列番号12及び16)。これらのうち、親抗体は210ng/mlのEC
50を有し、ヒト化抗体は228ng/ml~423ng/mlのEC
50を有した(
図7)。このことは、全ての抗体が細胞表面Siglec-10への強力な結合を示したことを示唆している。熱安定性分析では、全てのヒト化抗体が良好な熱安定性を示すことが示された(
図8)。Biacore分析を使用して、上位5つにランク付けされた抗体の親和性を測定した。表2に示すように、試験した5つの抗体はいずれも、Siglec-10に対して高い親和性結合を示す。特に、5つの抗体のうち3つ(#22、#23及び#52)は、キメラ親クローンよりも高い親和性を有した。
【0143】
生物学的機能を試験するために、ADCC活性を回復させる能力について、7つのmAbを親キメラ抗体と比較した。
図9に示すように、試験した全てのクローンに強力なADCCが検出された。
【0144】
実施例6
抗Siglec-10抗体の前臨床試験
前臨床試験は、抗CTLA-4 mAbの治療効果が腫瘍内Tregの枯渇によるものであり、その毒性がCTLA-4のダウンレギュレーションによるものであることを示唆している。抗CTLA-4を、抗CTLA-4のADCCを増加させることができる薬物と組み合わせることが興味を惹く。我々はSiglec-10が抗CTLA-4によって誘発されるADCCを含むADCCの負の調節因子であることを実証したため(
図10)、Siglec-10は有望な標的として浮上した。抗Siglec-10 mAbである31F11は、ADCCを増強し(
図11)、そしてがん細胞のファゴサイトーシスを増強する(
図12)その能力に基づいて開発された。本開示によって、ヒトがんの治療のために前記抗体のヒト化バージョンが開発され、ONC-841と命名された。
【0145】
まとめると、Siglec-10のアンタゴニストは、2つの別個の機構によって抗腫瘍免疫を促進し得る。第1に、Siglec-10のアンタゴニストは、DNEMSを不活性化して腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進し得る。第2に、前記アンタゴニストは、ADCCの負の調節因子の不活性化によって、ADCCに基づく治療抗体の治療活性を増強し得る。
【0146】
作用機序
蓄積データによって、Siglec-10がファゴサイトーシス、ADCC及びADCPに対する負の調節因子であることが確立された。したがって、ONC-841は、単剤療法として、又は併用療法で腫瘍拒絶を促進することができる。
【0147】
単剤療法
図13に示すように、ONC-841は、単剤療法として、Siglec-10-CD24 DNEMS相互作用を遮断することによって腫瘍拒絶を促進する。この機構は、CD24又はその他の高親和性Siglec-10リガンドを過剰発現するがんに対して最も活性となるものである。全ヒトがんのほぼ70%がCD24を過剰発現し、その発現が予後不良に対応することが今や明らかである。さらに、Siglec-10は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)でも高レベルで発現される。ONC-841は、非小細胞肺がんを含むほとんどのがん型に対する先天性免疫に広範な影響を及ぼし得ると予測される。
【0148】
併用療法
Siglec-10はADCC及びADCPを負に調節するため、ONC-841は、ADCC及びADCPによって抗腫瘍活性を達成する薬物と相乗的に作用する。そのような薬物は、がん細胞を標的としていても(例えば、アービタックス、リツキシマブ)、又は宿主細胞を標的としていても(例えば、抗CTLA-4抗体)よい。Siglec-10はADCC/ADCPを負に調節し、また、CD24はSiglec-10がADCC/ADCPを阻害するように負にシグナル伝達することができるが、データは、Siglec-10が非CD24リガンドを認識することができることを実証している。したがって、CD24発現とは独立している腫瘍型について宿主細胞又はがん細胞のいずれかの枯渇を増強するために、ONC-841を使用することができる。
図13は、TME内でTregの枯渇を促進するよう、すなわち、Siglec-10による負のシグナル伝達を遮断することによってTME内でTregの枯渇を促進するよう、ONC-841をONC-392などの抗CTLA-4と組み合わせて使用することができるメカニズムを示す。
【0149】
実施例7
抗Siglec-10抗体の薬理及び毒性
インビトロ薬理
ONC-841の特異性
ONC-841の結合特異性を確認するために、我々は、他のヒトSiglec組換えタンパク質へのONC-841の結合をELISAによって試験した。Hisタグ又はFcタグを有する様々なSiglec細胞外ドメイン組換えタンパク質をELISAプレート上にコーティングした。ビオチン化されたONC-841を添加して、コーティングされたSiglecタンパク質への結合を検出した。アビジン-HRPを検出のための二次抗体として使用した。
図14A及びBに示すように、ONC-841は、約0.02247μg/mLのKdでSiglec10に強力に結合するが、Siglec1~9、11、14及び15を含む試験した他の全てのSiglecには強力な結合をしない。ONC-841は、高濃度で、Siglec-5Fc、Siglec-6Fc、Siglec-11Fc及びSiglec-14Fcに対するいくらかの結合を示した。結合がSiglec組換えタンパク質に特異的であったのか、またはFcへの非特異的結合であったのかを解明するために、我々は、対照としてヒトIgG1 Fc(hIgG1Fc)を含めた。結果は、Siglec-5Fc、Siglec-6Fc、Siglec-11Fc及びSiglec-14FcへのONC-841の結合は、結合がhIgGFcと同等であることから、Fcタグへの非特異的結合によるものであることを示唆した。(
図14B)。
【0150】
ONC-841は、ヒト悪性Jurkat細胞上及びインビトロ分化した制御性T細胞上のSiglec-10とそのリガンドとの相互作用を遮断する
Siglecタンパク質は、細胞の表面上のシアリル化タンパク質を認識し、α2,3-シアリル化よりもα2,6シアリル化を優先する。悪性細胞上のSiglec-10がその天然リガンドと相互作用することをONC-841が遮断するかどうかを試験するために、Siglec-10Fcのヒト白血病Jurkat細胞株への結合をONC-841が遮断する能力を試験した。Siglec-10Fc-ビオチンをストレプトアビジン-PE(SA-PE)と4:1のモル比で1時間かけて前もって複合体化し、次いで、様々な濃度のONC-841に5分間かけて添加した。Siglec-10Fc-ビオチン濃度に基づいて10μg/mLの濃度で混合物をJurkat-CTLA4細胞に添加し、室温で1時間のインキュベーションした。細胞を十分に洗浄して過剰の未結合試薬を除去し、フローサイトメーターによって取得した。死細胞の排除後に分析を行った。
図15に示すように、Siglec-10FcはJurkat細胞株に強力に結合し、この結合は用量依存的にONC-841によって遮断される。IC50は、2μg/mL(13.3nM)であると見積もられる。
【0151】
Siglec-10Fc-ビオチンの正常な宿主細胞への結合に対するONC-841の影響を試験するために、蛍光Siglec-10Fc四量体を使用し、上記と同じ方法を使用してONC-841の影響を評価した。我々の提案する併用療法を裏付けるために、我々はTregに注目した。新鮮なPBMCから単離されたナイーブCD4 T細胞からTregを分化させた。
図16に示すように、Siglec-10Fcは、インビトロ分化させたヒトTregへの明確な結合を示す。Siglec-10FcとTregとの相互作用は、ONC-841によって用量依存的に遮断された。IC50は、3.57μg/mL(23.8nM)であると見積もられる。
【0152】
ONC-841は、がんを標的とする抗体両方のADCCレポーター活性を促進する
CD20、CTLA-4及び上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とするものを含むがんを標的とする抗体が有する、ADCC活性を促進する能力について、ONC-841を試験した。PromegaのADCCレポーターアッセイを利用して、がんを標的とする抗体の存在下でのFcγRIIIAの活性化の際の、エフェクター細胞内のNFATによって発現される発光を検出することによって、ADCC活性を測定した。簡潔に言えば、ADCCエフェクター細胞、空(mock)導入ADCCエフェクター細胞(ADCC-Mock)又はヒトSiglec-10発現ADCC細胞(ADCC-hSiglec10)のいずれかと標的細胞を共インキュベートした。滴定したONC-841 mAbとともに、腫瘍を標的とする抗体を固定濃度で添加した。相対発光単位(RLU)を測定した。
図17Aに示すように、ONC-841は、抗CD20によるRajiリンパ腫細胞株に対するADCC活性を促進し、EC50は0.5μg/mlであった。固形腫瘍に対するONC-841の影響を試験するために、ヒトEGFRを発現するB16黒色腫細胞株を使用し、抗EGFR薬セツキシマブを使用してADCCを誘発した。
図17Bに示すように、ONC-892はセツキシマブのADCC活性をほぼ倍増させ、EC50は0.3μg/mlであった。我々の併用療法試験デザインを裏付けるために、ONC-392によるADCCの促進におけるONC-841の有効性を試験した。
図17Cに示すように、ONC-841はONC-392のADCC活性を増強し、IC50は0.08μg/mlであった。ONC-392との組み合わせについてEC50が最も低いという事実は、初期の治験における組み合わせパートナーとしてONC-392を我々が選択したことを裏付けており、広範な活性は、血液悪性腫瘍及び固形腫瘍の両方におけるがんを標的とする抗体との併用療法のためにONC-841を使用する可能性を示唆している。
【0153】
ONC-841は、ヒトNK細胞による白血病細胞のADCC及び抗体非依存性殺傷を促進する
NK細胞による腫瘍細胞殺傷に対するONC-841の影響を試験するために、標的細胞としてCTLA-4をトランスフェクトしたJurkat細胞を使用し、エフェクター細胞として新たに単離したヒトNK細胞を使用した。簡潔に言えば、カルセインAM標識Jurkat-CTLA-4標的細胞を、滴定したONC-841 mAbと共に、そして固定濃度のONC-392と共に又はONC-39無しに、新鮮な全血由来のネガティブ選択したヒトNK細胞と6時間共インキュベートした。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリーによって分析した。対照と比較しての、残存するカルセインAM+生細胞の数に基づいて、細胞死のパーセント値を計算した。
図18A~Cに示すように、ONC-841は、腫瘍細胞を標的とする抗体の非存在下でJurkat細胞のNK媒介細胞殺傷を増強し、推定EC50は0.3744μg/mlであった。飽和量のONC-392(20μg/ml)の存在下では、ONC-841はNK細胞活性をさらに増強し、推定EC50は2.274μg/mlであった。したがって、ONC-841は、NK細胞による悪性白血病細胞のADCC及び抗体非依存性細胞溶解の両方を促進した。
【0154】
ONC-841はヒトPBMCによるヒト腫瘍細胞殺傷を促進する
Siglec-10は、骨髄細胞上に主に発現される。したがって、ONC-392の影響は、NK細胞を超えて広がる可能性が高い。抗腫瘍効果のさらに包括的な理解を得るために、3個体のドナーの新鮮な全血から単離したPBMCにより、白血病細胞溶解に対するONC-841の効果を試験した。カルセインAM標識Jurkat-CTLA-4標的細胞を、滴定したONC-841 mAbと共に、新鮮な全血から単離したPBMCと共インキュベートした。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリーによって分析した。対照と比較しての、残存するカルセインAM+生細胞の数に基づいて、細胞死のパーセント値を計算した。
図19に示すように、低用量のONC-841によって顕著な溶解が達成され、ドナー1、ドナー2及びドナー3の推定EC50は、それぞれ0.3645、0.01761及び0.009572μg/mlであった。これらのデータは、ONC-841が白血病を標的とする抗体の非存在下で白血病殺傷を促進することができることを実証している。
【0155】
インビボ薬理試験
動物モデルにおけるONC-841の治療活性を試験するために、マウスSiglec-Gを除去してヒトSiglec-10オルソログを挿入したトランスジェニックマウスモデルを我々は作製したが、これはそれぞれ、Siglecg遺伝子の標的変異及びヒトSiglec-10を含有するBacmidクローンの挿入とにより行った(下記を参照)。トランスジェニックマウスにおけるSiglec-10の組織分布はヒト白血球におけるその分布と一致するため、腫瘍拒絶に対するONC-841の影響を試験するためにこのモデルを、2つの別個のモデルにおいて使用した。
【0156】
単剤療法及びがんを標的とする抗体との併用療法
固形腫瘍に対する治療効果を評価するために、我々は、ヒトEGFRを発現するB16F10細胞株を使用した。腫瘍細胞負荷の6日後、対照IgG、ONC-841又はONC-841+セツキシマブを用いて腫瘍担持マウスを処置し、腫瘍増殖を盲検で測定した。腫瘍接種後6日目から開始して、3日ごとに4回の注射分、B16-EGFR腫瘍担持(皮下(s.c.))Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-マウス(n=4~5)を200μgの対照hIgGFc又はONC-841でi.p.処置し、10μgの対照hIgGFc又はセツキシマブでi.t.処置した。
図20に示すように、セツキシマブの腫瘍内注射は最小限の効果しか有しなかったが、ONC-841での単剤療法では腫瘍増殖の部分的遅延が達成された。組み合わせでは、より顕著な腫瘍増殖遅延が達成された。これらのデータは、マウスモデルにおいて、ONC-841が固形腫瘍に対する治療活性を有することを示唆している。
【0157】
腫瘍体積の50%減少に必要なONC-841の量を試験するために、我々は併用療法モデルにおいてONC-841の用量を検証(titrate)した。セツキシマブの腫瘍内処置の用量を10μg/注射で固定し、全身ONC-841の用量を5、10及び20mg/kgとした。簡潔に言うと、5×10
5個のB16-EGFR腫瘍細胞をSiglec10TG
+/+;Siglecg
-/-マウス(n=4~5)に注射(s.c.)し、腫瘍が直径4~7mmに達した際に処置を開始した。3日ごとに4回の注射分、腫瘍担持マウスを2.5、10又は20mg/kgのONC-841でi.p.処置し、10μgのhIgFc又はセツキシマブでi.t.注射した。
図21に示すように、ONC-841用量に依存的な腫瘍体積の減少が達成された。線形回帰分析を用いて、ONC-841のEC50は16.49mg/kgであると求められた。
【0158】
抗CTLA-4抗体との併用療法
ONC-841と宿主を標的とする免疫療法抗体との組み合わせ効果を示すモデルとして、我々は、未改変B16F10モデル及び抗マウスCTLA-4 mAb、9D9を使用した。
図22に示すように、9D9もONC-841も腫瘍増殖遅延を引き起こさなかった。ただし、組み合わせでは、腫瘍増殖の顕著な減少が観察された。
【0159】
薬理学的に関連する生物種
ONC-841はマウスSiglec G/10及び非ヒト霊長類Siglec G/10と反応しない
Siglecタンパク質は、異なる種のオルソログ間で相同性は限られ、急速に進化していることが知られている。ヒトSiglec-10は、その非ヒト霊長類(NHP)オルソログのいくつかに対して高い類似性を有し、カニクイザルSiglec-10及びアカゲザルSiglec-10に対して90%の類似性を有するが、マウスSiglec-Gに対する類似性はわずか60%である(Ensembl.orgより)。
【0160】
どの動物種がONC-841についての適切な毒物学的種であるかを決定するために、我々は、3つのアッセイでNHP Siglec-10又はマウスオルソログSiglec-GへのONC-841抗体の結合を評価した:
【0161】
A.組換えSiglec-10/Siglec-Gへの結合
【0162】
B.NHP Siglec-10/Siglec-Gを一過性に発現するexpi293細胞への結合
【0163】
C.カニクイザルPBMCへの結合
【0164】
いずれのアッセイも、NHP Siglec-10又はマウスSiglec-GへのONC-841の特異的結合を示さず、このことはONC-841が結合する特異的エピトープがこれらの種と共有されていないことを示唆している。
【0165】
他の生物種由来の組換えSiglec-10/Siglec-Gへの結合
組換えHisタグ付きヒトSiglec-10及びカニクイザルSiglec-10並びにマウスSiglec-Gは、ACROBiosystemsから購入した。Siglecタンパク質を捕捉抗原としてELISAプレートにコーティングした。ヤギ抗ヒト抗体を使用して、捕捉されたONC-841を検出した。以下の
図23に示すように、ONC-841は、ヒトSiglec-10に対して特異的結合を示したが、カニクイザルタンパク質又はマウスタンパク質のいずれに対しても特異的結合を示さなかった。
【0166】
NHP Siglec-10遺伝子をトランスフェクトした293T細胞への結合
expi293細胞に、それぞれヒト、カニクイザル、アカゲザル及びマーモセットのSiglec-10発現プラスミドをトランスフェクトして、細胞の表面にこれらのタンパク質を産生させた。生きたexpi293細胞に対してフローサイトメトリーを使用してONC-841の結合を評価し、Siglec-10に対するポリクローナル抗体を使用して様々なSiglec-10タンパク質の発現を検証した(
図24、薄い灰色の線)。ONC-841は、ヒトSiglec-10を発現する細胞のみに結合を示し、NHP Siglec-10のいずれにも結合を示さなかった(
図24、濃い灰色の線)。
【0167】
カニクイザルPBMCへの結合
天然に発現したSiglec-10へのONC-841の結合を試験するために、ヒトPBMC及びカニクイザルPBMCを染色し、フローサイトメトリーによって評価した。Siglec-10は単球(CD14
+細胞)及びB細胞(CD20
+細胞)の両方によって発現されるため、これらの集団に対してONC-841結合を試験した。特異的染色を検証し、生じるおそれのあるFc受容体を介したONC-841の結合を排除するために、各生物種の追加の細胞試料を染色前に過剰のヒトIgGでブロッキングした。ONC-841は、ヒトの単球及びB細胞の両方に対する高度に特異的な結合を明確に示し、結合は過剰量のヒトIgGの存在によって影響を受けなかった(
図25)。対照的に、ONC-841は、カニクイザルの両細胞亜集団に対して弱い結合を示した。さらに、過剰量のヒトIgGはこの結合を顕著に減少させ、このことは、これらのNHP Siglec-10に対してONC-841が低特異的~非特異的な結合特性を有することを示している(
図27)。
【0168】
内因性Siglecg遺伝子を有しないヒトSIGLEC10トランスジェニックマウス:Siglec10TG+/+;Siglecg-/-の作製
ONC-841は、NHPの利用可能な種及びマウス由来の白血球には結合しないため、NHPもマウスも、毒性試験及び薬理学的試験にとって適切な生物種とは考えられない。他の一般的に使用される毒性用生物種は、試験したNHPよりもヒトから遺伝的に遠く離れているため、毒性試験にとって適切である可能性はより低い。したがって、我々は、ヒトSiglec10遺伝子によってそのマウスオルソログであるSiglecgが置き換えられている、毒性試験のためのトランスジェニックマウスモデルの開発に着手した。
【0169】
Siglec10トランスジェニック系統(本開示ではSiglec10TG+/+と呼ばれる)は、ヒトのSiglec10遺伝子、Siglec8遺伝子及びSiglec12遺伝子を含有するゲノム配列を有するBacmidクローンを使用して、Cyagen,Inc.(Santa Clara,CA)によってC57/BL6マウスから作製された。ヒトの調節配列及びコード配列を有するゲノムクローンの使用は、マウスがヒト白血球内における発言態様と実質的に同様の態様でSiglec10を発現することを可能にし得る。本開示に提示した我々のデータは、この仮説を裏付けている。さらに、インビボでSiglec-10を遮断することの効果を捕捉するために、我々は、Siglecgのエクソン2~11がGFP/Neoカセットによって置き換えられたSiglecg-/-マウスに導入遺伝子を交配することによって、内因性マウスSiglecg遺伝子を除去した。
【0170】
Siglec10TG
+/+をSiglecg
-/-マウスと交配させることによって、C57BL/6 Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-系統を作製した。血球(
図26上部及び中央)のフローサイトメトリーによってhSiglec-10及びSiglec-Gの両方の発現について交雑マウスのF1世代及びF2世代をスクリーニングして、所望の遺伝子型であるSiglec10TG
+;Siglecg
-/-を選択した。この染色により、ヒトSiglec-10の発現と、マウスSiglec-Gの欠如とが確認された。データは、マウスPBMCにおいて、マウスのB細胞、NK細胞、単球、樹状細胞(DC)及び好中球のうち>30%並びにT細胞のうち<10%におけるSiglec-10の発現を示した。
【0171】
Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-に観察された血液中の細胞の亜集団へのONC-841の結合を、内因性Siglec-10を発現するヒト細胞へのONC-841の結合と比較するために、系列マーカーと、蛍光標識されたONC-841又は市販の抗Siglec-10抗体のいずれかとについてヒトPBMCを染色した。
図26の下部パネルは、単球及びB細胞に対するONC-841によるSiglec-10の明確な染色を示したのに対して、T細胞は、文献に報告されているように明らかな染色を有しなかった。驚くべきことに、データは、ONC-841がPBMCから単離されたNK細胞のADCC活性を増強することを示したが、血液中のNK細胞、CD16陽性又は16陰性のNK細胞の明確な染色はなかった(
図26)。1つの可能な説明は、ヒトNK細胞がより少ない量のSiglec-10を発現し、本アッセイはそのための感度がないということである。別の選択肢は、ヒトPBMC由来のNK細胞を凍結状態で購入し、Siglec-10染色のために解凍したことである。Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-間に観察された矛盾をさらに調査する。
【0172】
Siglec10TG
+/+;Siglecg
-/-マウスから得られた凍結切片に対して免疫組織化学的解析を行って、マウス組織内におけるONC-841結合を検出した。簡潔に言えば、瞬間凍結マウス組織を切片化し、スライドに載せた。切片をブロッキングし、次いで、1μg/mLのONC-841を用いてプローブ付けした後、HRPで標識した抗ヒト二次抗体を使用して検出した。HRPの色素原基質としてDABを使用してONC-841の結合を可視化し、これは茶色を与え、そして、細胞核を青色で可視化するためにスライドをヘマトキシリンによって対比染色した。スライドを調べることによって、造血器官及びその他ほとんどの組織内における免疫細胞の染色が示された。これは繰り返されることになる予備実験であり、切片は訓練された病理学者によって解析される。染色の例は、
図27に見ることができる。
【0173】
Siglec-10の広範な発現は、Siglec10TG+/+;Siglecg-/-マウス由来のほとんどの組織/器官内の組織常在白血球上に見られ、このマウスモデルが毒性試験及び薬理試験に有用であることを示唆している。
【0174】
インビトロサイトカイン放出アッセイ
特定のモノクローナル抗体治療薬は、患者に有害事象をもたらすおそれがあるサイトカイン放出症候群(CRS)を含む様々な急性輸液反応を誘導することが示されている。分子レベルでは、CRSは、投与1~2時間後にTNF-α及びIFN-γのレベルが上昇し、続いて、IL-6、IL-10、並びにときどきはIL-2及びIL-8が上昇することを特徴とする。CRSの誘導の可能性についてONC-841を単独で又はONC-392と組み合わせて試験するために、予備的なサイトカイン放出アッセイ(CRA)を行った。ONC-392を伴う又は伴わない、2mg/mLまでの様々な濃度のONC-841を96ウェルプレートに一晩かけてコーティングした。市販のヒトIgG抗体(hIgG)を陰性対照として使用し、CD3_CD28ビーズを陽性対照として使用した。翌日、プレートを洗浄し、4人の異なる健常ドナー由来のPBMCをウェルに添加した。BioLegendのLegendPlex Human Inflammation Panel 1(カタログ番号740809)を使用して、PBMC添加の48時間後に上清へのサイトカイン放出を試験し、IL-1β、IFN-α2、IFN-γ、TNF-α、MCP-1(CCL2)、IL-6、IL-8(CXCL8)、IL-10、IL-12p70、IL-17A、IL-18、IL-23及びIL-33を含めた。4人の異なるドナー由来のPBMCを用いてアッセイを行い、結果は、ドナーのうちの1人から得られた代表的なデータである(
図29)。ONC-392有り又は無しで、ONC-841は、コーティングされていないウェルについて検出されたレベルを超えてサイトカインを誘導しなかった。サイトカインが誘導された唯一のウェルは、CD3/CD28ビーズの陽性対照であった。商業的に供給されたIgG4を含有するウェルでは、いくつかのサイトカインも誘導された。全体として、データは、ONC-841がwPBMCからのサイトカイン放出を誘導せず、患者にCRSを誘導するものではないことを示唆している。
【0175】
ONC-392有り又は無しで、同様の濃度のONC-841が正常な静止期ヒトPBMCからのサイトカイン放出を誘導することができるかどうかを評価するために、後に追加のインビトロアッセイを行う。TGN1412に関してCRSの高リスクを予測したであろうプロトコルに従って、サイトカイン放出アッセイを行った。少なくとも10人のドナーを試験することになる。ONC-392を単独で用いて行った実験では、ONC-392がT細胞を直接活性化しないことが示された。
【0176】
実施例8
抗Siglec-10抗体のための治験
適応
第1相については、NCCNガイドラインなどの標準治療ガイドラインに従った確立された標準的な医療抗がん治療が奏効しなかった又はそれを耐容できなかった後の、進行性の局所的に進行した又は転移性の疾患を有する、組織学的又は細胞学的に固形腫瘍との診断が確認された患者を登録する。
【0177】
第2相については、Simonの2段階デザインを使用して臨床的有効性を試験するための非盲検試験のために、免疫療法が奏効しなかった非小細胞肺がん患者を選択する。
【0178】
理論的根拠の要約
医療施設における抗PD(L)1抗体及び抗CTLA-4抗体の成功によって例示されるように、腫瘍微小環境内でT細胞の抑制を解除する抗体は、がん患者のケアに変革的影響を及ぼしてきた。この成功は、適応T細胞免疫の免疫チェックポイントを標的とすることの効力を強調している。最近の研究では、NK細胞及びマクロファージの機能を抑制する先天性免疫チェックポイントを標的とすることは、がん免疫療法を改善するための新しい手法を提供する可能性があることが示唆されている。これらの推定的な先天性チェックポイントの中には、マクロファージ及びNK細胞による腫瘍細胞のファゴサイトーシス又は殺傷を負に調節する経路がある。マクロファージファゴサイトーシスを抑制する分子は、まとめて「do-not-eat-me」シグナル(DNEMS)と呼ばれる。既知のDNEMSの中でも、CD47-SIRPα経路はがん免疫療法のための主要な先天性免疫チェックポイントであり、抗CD47 mAbは臨床試験において活発に試験されている。
【0179】
前臨床試験は、CD24-Siglec-10相互作用を、CD47-SIRPα経路に匹敵する強力なDNEMSとして明らかにした。CD24-Siglec-10経路は、組織傷害に対する炎症反応を最小限に抑えるための先天性免疫チェックポイントとしてOncoC4共同創設者によって最初に明らかにされた[4]。Siglec-10アゴニストであるCD24Fcは、ウイルス性肺炎及びウイルス性大腸炎に対する防御を発揮することが示されている。最近の第3相治験では、CD24Fcが、入院したCOVID-19患者に対して顕著な保護を与えることが実証された。対照的に、この経路を標的とすると腫瘍細胞ファゴサイトーシスが促進されるという強力な前臨床データにもかかわらず、CD24-Siglec-10経路のアンタゴニストは臨床的に試験されていない。ここに提案された治験は、標準治療の治療法が奏効しなかったか又はそれを耐容できないがん患者において、抗Siglec-10 mAbであるONC-841の安全性及び有効性を試験することによって、この大きなギャップを埋め得る。
【0180】
マクロファージによる腫瘍細胞のファゴサイトーシスの促進に果たすONC-841の役割に加えて、我々の前臨床試験は、ONC-841が抗体依存性細胞傷害(ADCC)も促進したことを明らかにした。この新たな知見は、我々を、がん細胞を標的とする抗体及び免疫細胞を標的とする抗体を含む、薬物の一次機能が抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び/又はADCPを介するものである薬物と組み合わせてONC-841を試験するよう促す。CD152(分化クラスター152)としても知られる細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)は、B7-1(CD80)及びB7-2(CD86)と相互作用して制御性T細胞の適切な機能を確実にし、そして自己炎症性疾患から宿主を保護する細胞表面タンパク質受容体である。承認された抗体であるイピリムマブ(Bristol Myers SquibbによってYERVOY(登録商標)として販売されている)などの抗CTLA-4モノクローナル抗体(mAb)は、様々な前臨床モデルにおいて強力で広範ながん免疫療法効果(CITE)を示しており、単剤療法として、及びニボルマブ(Bristol Myers SquibbによってOPDIVO(登録商標)として市販されている抗PD-1)との併用療法の一部として臨床使用されている。しかし、CTLA-4単剤療法は、抗PD-1/PD-L1療法よりも多くの免疫療法関連有害作用(irAE)を有する。さらに、重度のirAE(グレード3及び4)の割合は、イピリムマブとニボルマブとの組合せを投与されている黒色腫患者では55%に達した。重度のirAEは、がん患者によって耐容される用量をさらに制限する。とはいえ、抗PD-1ニボルマブと組み合わせたイピリムマブは、複数の種類のがんでは顕著に改善された奏効率及び全生存期間をもたらした。さらに、抗CTLA-4抗体は、がん患者における持続性免疫を誘導する。したがって、CTLA-4は依然として重要な免疫療法標的であるが、抗CTLA-4 mAbの安全性及び有効性の両方を改善することにおいて大きな課題が残っている。
【0181】
ONC-392は、CTLA-4に対する高度に選択的なヒト化モノクローナルIgG1カッパアイソタイプ抗体である。我々は、ONC-392が低pH下でCTLA-4から解離して、ONC-392がリソソーム分解から逃げ、また細胞表面に再循環することを可能とすることを実証した。我々は、ONC-392のようなpH感受性抗体が、pH非感受性であるイピリムマブと比べてより安全であるだけでなく、Treg枯渇及び腫瘍拒絶の点でもより効果的であるという考えに関して、いくつかの方面からの証拠を提供した。
【0182】
抗CTLA-4 mAbの治療効果はADCC及び/又はADCPによる腫瘍内Tregの枯渇に起因するが、それらの毒性はCTLA-4のダウンレギュレーションに起因するため、ONC-392をONC-841と組み合わせて、これがTregを枯渇させる増強されたADCCを通して、より強力な抗腫瘍活性をもたらし得るかどうかを確認し、同時に、irAEを回避するためにONC-392をさらに安全な用量レベルで維持することが関心を呼ぶ。
【0183】
Siglec-10は、免疫療法のための有望な標的として浮上している。インビトロ試験及びインビボ試験からの前臨床試験は、Siglec-10が、ONC-392によって誘発されるADCCを含め、ADCCの負の調節因子であることを実証した。我々は、ONC-392のADCCを増強するその能力に基づいて、ONC-841を開発した。我々は、動物モデルにおいて、ONC-841が抗CTLA-4 mAbによって誘導される腫瘍拒絶を増強したことを実証した。
【0184】
まとめると、Siglec-10のアンタゴニストとして、ONC-841は、2つの別個の機構によって抗腫瘍免疫を促進し得る。第1に、ONC-841は、腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進するようDNEMSを不活性化し得る。第2に、ONC-841は、ADCCにおいてSiglec-10を介した陰性シグナル伝達を遮断することによって、ADCCに基づく治療用抗体の治療活性を増強し得る。これらの生物学的活性及び治療可能性を最大限に利用するために、本試験は、進行した又は転移性の固形腫瘍を有する患者において、単剤療法としてのONC-841、及びONC-392と組み合わせたONC-841の安全性、薬物動態及び有効性を評価するようにデザインされている。
【0185】
試験デザインの概略
進行した/転移性の固形腫瘍を有する参加者における、単剤としてのONC-841の、及びONC-392と組み合わせてのONC-841の静脈内(IV)投与の第1/2相非盲検用量漸増試験。
【0186】
第1A相、用量設定試験
第1A相試験は、単剤療法(パートA)及び併用療法(パートB)のRP2Dをそれぞれ規定するための2つの部分からなる。
【0187】
(1)パートA:単剤療法のための推奨第2相用量(RP2D-M)を規定するための単剤療法用量漸増。ONC-841の用量漸増では、様々な組織型の進行がんを有するONC-392ナイーブ患者が登録される。6つのレベルのONC-841を試験するが、開始用量は、GLP毒性データを考慮して決定する。ONC-841は、21日に1回(q3w)IV輸液によって投与される。試験では、2番目に高い用量まで患者内用量漸増が使用され、その時点で3+3デザインに移行する。6人の患者が最終用量レベルで登録されるが、ただし用量制限毒性(DLT)が2人以上の患者に観察された場合、用量漸減の選択肢がある。RP2D-Mは、6例の患者のうち2例未満がDLTを発現した最高用量レベルとして決定される。
【0188】
(2)パートB:3.0、6.0又は10.0mg/kgのONC-392と組み合わせたONC-841の推奨第2相用量(RP2D-C)を決定するための併用療法用量設定試験。第1の用量は、3週毎(q3w)の、ONC-392と組み合わせた、RP2D-Mよりも1つ低い用量レベルである。3人の患者が、3+3デザイン後の第1のコホートに登録される。DLTが観察されない場合、用量はRP2D-Mに増加される。1人のDLTが存在した場合、別の3人の患者が登録される。6人のうち1人以下の患者がDLTを有する場合、次のコホートのONC-841は、RP2D-Mの1つ下のレベルとRP2D-Mとの間の中間レベル、又はRP2D-Mのいずれかであり、これは安全性データによって決められる。6人の患者が最終用量レベルで登録される。RP2D-Cは、6人の患者のうち2人未満がDLTを発現した最高用量レベルとして決定される。
【0189】
第1B相、拡大コホート
第1B相は、用量拡大の2つのアームからなり、これはRP2D-MでのONC-841単剤療法(アームA)、又はRP2D-CでのONC-841と3.0、6.0若しくは10.0mg/kgのONC-392との組合せ(アームB)の安全性及び臨床活性を試験するためのものである。
【0190】
我々は、進行した固形腫瘍を有するか、又は標準治療(SOC)下で疾患が進行しているか、又はSOCに耐容性でないアームあたり30人の患者を登録することを計画している。適格基準は、第1A相と同じである。
【0191】
第2相
治験第2相は、Simonの2段階デザインに従う。段階1では、合計29人の非小細胞肺がん患者が、客観的奏効率を決定するために登録される。4人を超える患者が客観的奏効を達成した場合、試験は段階2に進み、奏効率が20%未満であるという帰無仮説を棄却する80%の検出力を達成するのに十分な患者(80~130人)を登録する。
【0192】
我々は、ONC-392+ONC-841を使用した併用療法に対する潜在的な応答性について、22の主要ながん型をランク付けした。これは、RNAseq、及びTCGAデータベースのゲノムデータによって再構築された免疫学的ランドスケープに基づいていた。
図28に示すように、我々は、RNAseq、及びThe Cancer Genomics Atlas(TCGA)データベースからの22のがん型に属する7279の独立したがん試料のゲノムデータから、免疫腫瘍微小環境のランドスケープを生成した。主に、抗CTLA-4抗体イピリムマブに対する応答者及び非応答者として後に同定された黒色腫患者の治療前臨床試料のゲノムデータ及びRNAseqデータから、抗CTLA-4に対する応答性の5つのランキング成分を同定したが、これには、CTLA-4遺伝子発現、ADCC能(ADCC potential)、変異負荷、並びにCTLA-4応答性に有利な遺伝子濃縮及び細胞組成が含まれる。それぞれ1~3つの成分から構成された5つの独立した区分値(partitioning values)の合計によって、総ランキング数を計算した。ONC-841に対する応答のランキングは、RNAseqデータによって確立されたSIGLEC10発現の存在量及びマクロファージの存在量に基づく。併用療法に対する応答についてのランキングは、各抗体に対するそれらの応答のランキングに基づく(表3)。我々の分析は、非小細胞肺腺がんが最も応答性の高いがん型であることを示唆する。ONC-392の単剤活性は、我々の進行中の治験によって支持される。
【表3】
【0193】
我々の臨床データ及びインシリコ分析に基づいて、我々は、ONC-841とONC-392との併用療法の臨床的有効性を試験するための第2相試験における我々の第1の臨床適応症として非小細胞肺腺がんを選択した。
【0194】
投薬/投薬形態、経路及び投与レジメン
単剤療法における用量漸増のために、ONC-841は、最小60分間のIV輸液として投与される。ONC-841の6つの用量レベルが評価される。投与間隔は21日間である。ONC-841は、Q3Wのスケジュールで投与される。ONC-392とONC-841との組合せでは、ONC-841が最初に最小60分間のIV輸液として投与される。次いで、ONC-392は、3.0、6.0又は10.0mg/kgでの最小60分間のIV輸液として投与される。ONC-392とONC-841とは投与において混合されるべきではなく、2つの薬物の投与間に少なくとも30分の間隔があるべきである。ONC-841単独、又はONC-392とONC-841との組合せは、Q3Wのスケジュールで投与される。
【配列表】
【国際調査報告】