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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-10
(54)【発明の名称】回転式静電吸着クラッチ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566910
(86)(22)【出願日】2022-05-02
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 US2022027355
(87)【国際公開番号】W WO2022232707
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】63/182,681
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523408639
【氏名又は名称】エスタット アクチュエーション,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ESTAT ACTUATION,INC.
【住所又は居所原語表記】1028 Welfer Street,Pittsburgh,PA 15217 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディラー,スチュアート ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィッテ,カービー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ワトキンス,ジョン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】マジディ,カーメル
(72)【発明者】
【氏名】ゼカニー,ブロック
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA01
5F131CA68
5F131EA03
5F131EB14
5F131EB67
5F131EB68
5F131EB79
(57)【要約】
【解決手段】対向しており電極として機能するクラッチプレートを隔てるセラミック系誘電体層を使用した静電吸着クラッチである。クラッチプレートの少なくとも1つは、薄いフィルムのような可撓性部材であってよい。電極間に電圧が印加されると、電極間に静電引力が発生する。セラミック系誘電体層を片方又は両方の電極に付すること、或いは、対向する電極の間に配置することができる。セラミック系誘電体は、隣接するプレートを付着させるのに必要な電圧を低くする一方で、吸引力を向上させる。セラミック系誘電体を使用した回転式電気接着クラッチは、吸引力が向上し、入力から出力に伝達されるトルクの量を制御するために使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性であるクラッチプレートの第1の組と、
導電性であって、前記クラッチプレートの第1の組の間に介在するクラッチプレートの第2の組と、
前記クラッチプレートの第1の組の各クラッチプレートを、前記クラッチプレートの第2の組における隣接するプレートから隔てる誘電体材料と、
前記クラッチプレートの第1の組と前記クラッチプレートの第2の組の間に電圧を印加する制御装置と、
を備えており、
前記クラッチプレートの第1の組と前記クラッチプレートの第2の組の少なくとも一方は、可撓性のフィルム、膜、又は薄いシートを備えている、回転式静電吸着クラッチ。
【請求項2】
クラッチプレートが円形であり、軸に沿って互いに平行に揃えられている、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項3】
前記クラッチプレートの第1の組はハウジングに対して回転が拘束されており、前記クラッチプレートの第2の組はシャフトに対して回転が拘束されている、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項4】
前記クラッチプレートの第1の組及び前記クラッチプレートの第2の組の一方又は両方は、構造フレームに選択的に又は均一に取り付けられた可撓性のフィルム、膜、又は薄いシートを含む、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項5】
取付けは、感圧接着材、選択焼結、溶接、リベット、スウェージ、ボルト、熱杭、ステッチ、接着剤、又はエポキシを用いて行われる、請求項4に記載の回転クラッチ。
【請求項6】
前記クラッチプレートの第1の組と前記クラッチプレートの第2の組とは、電圧が印加されると、前記クラッチプレートの第1の組の各クラッチプレートが前記クラッチプレートの第2の組の2枚のプレートに付着するように前記軸に沿って交互に配置されている、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項7】
前記クラッチプレートの第1の組及び前記クラッチプレートの第2の組は、ばね、波板ばね、皿ばね、ベルビルディスクばね、スプリット波板ばね、空気ばね、又は圧縮発泡体インサートを用いて、或いは、軸肩により、保持リングにより、又はクラッチプレートとの接触により所定位置に固定される圧縮要素を用いて圧縮される、請求項6に記載の回転クラッチ。
【請求項8】
前記クラッチプレートの第1の組及び前記クラッチプレートの第2の組は、ボルト、シカゴねじ、リベット、又は締結具を用いて圧縮される、請求項6に記載の回転クラッチ。
【請求項9】
前記構造フレームは、ガラス繊維、炭素繊維、プラスチック、木材、紙、樹脂、鋳造エポキシセラミック、摩擦材、金属、又は、これらの任意の組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項4に記載の回転クラッチ。
【請求項10】
前記電源から前記可撓性クラッチプレートへの電気接続部を更に備えており、前記電気接続部は、前記構造フレームに一体化されている、又は前記構造フレームの表面に配置されている、請求項9に記載の回転クラッチ。
【請求項11】
前記クラッチプレートの第1の組は前記ハウジングにトルクを伝達し、前記クラッチプレートの第2の組は、クラッチプレートの穴、接続部、又は摩擦面を通って嵌合する接続特徴を介してトルクをハウジングに伝達する、請求項3に記載の回転クラッチ。
【請求項12】
前記クラッチプレートの第1の組の各々は、前記第2の組の2枚のプレートに付着し、前記2枚のプレートの各プレートは、前記第1の組のプレートに直に隣接している、請求項2に記載の回転クラッチ。
【請求項13】
クラッチ対のアライメントは、前記ハウジング又は前記シャフトに配置された肩部又は保持リングの少なくとも一方を用いて行われる、請求項12に記載の回転クラッチ。
【請求項14】
前記電源とクラッチプレートの間の電気的接続であって、前記電気的接続は、クラッチプレートの導電性表面と機械的に接触する導電性ハウジング及び/又は導電性シャフトを介して伝達される、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項15】
前記電源とクラッチプレートとの間の電気的接続は、剛性又は可撓性のワイヤ、リボンケーブル、フラットフレックスケーブル、プリント回路基体、スリップリング、導電性スペーサ、又は同様な電気的接続を介して伝達される、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項16】
前記電源とクラッチプレートの間の電気的接続は、導電性ブラシ、スプリングフィンガ、ばね仕掛けピン、導電性ワッシャ、リングシム、バッテリーコンタクト、導電性ガスケット、導電性クリップ、スウェージ、アイレット、2つの導電性表面の接触を保持する非導電性クランプ、導電性感圧接着材、導電性エポキシ、又は、はんだを介して伝達される、請求項1に記載の回転クラッチ。
【請求項17】
前記構造フレームに設けられたスリット又は開口と、前記可撓フィルムの延長部とを備えており、前記延長部は、前記構造フレームの一方の側から他方の側へ通過し、前記クラッチプレートの第1の組の導電性部分の間で前記クラッチプレートの第2の組の導電性部分との接触を防止するための電気的接続を可能にする、請求項4に記載の回転クラッチ。
【請求項18】
電気的ビアを更に備えており、前記電気的ビアは、単一の絶縁層、複数の絶縁層、又は物理的に離れた導電性表面間の電気的接続を形成する、請求項4に記載の回転クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願との相互参照>
本願は、2021年4月30日に出願された米国仮出願第63/182,681号の35U.S.C.§119に基づく利益を主張するものであり、当該米国仮出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
<連邦政府資金による研究開発の記載>
本発明は、全米科学財団から授与されたSBIR第1941405の政府支援を受けてなされた。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
<技術分野>
本発明は概して静電吸着クラッチに関しており、より詳細には、セラミック系誘電体を用いて隣接するクラッチプレートを隔てる静電吸着クラッチと、少なくとも1組の可撓性プレートを有する複数のクラッチプレートを採用した回転クラッチ設計とに関する。
【背景技術】
【0004】
静電吸着クラッチは、誘電体材料によって隔てられた導電性クラッチプレートを使用する。対向するクラッチプレートにわたって電圧が印加されると、それらプレートが電極として機能して、プレート間に静電荷が発生し、吸引力が生じてそれらプレートが付着する。対向するプレートを互いに付着させれば、一方のプレートから他方のプレートへと力を伝達させることができる。例えば、一方のプレートに加えられたトルクは、それに対向しているプレートに伝達される。静電吸着クラッチは、とりわけ、回転式、積層型回転式、直線式など、様々な形状で作られ得る。
【0005】
既存の静電吸着クラッチは力を伝達する能力を示しているが、伝達される力の量はプレート間の吸引力によって制限される。プレートを隔てるために使用される誘電体材料は、クラッチの応答性と残留吸引力、即ちヒステリシスとに加えて、吸引力に影響する。従来のクラッチは、ポリマー誘電体材料又はセラミック粒子包理ポリマー誘電体材料を使用しているが、これらは、高いヒステリシスを示すか、又は動作にかなりの電圧を必要とする。さらに、ポリマー誘電体材料は、空隙、コーティングの不完全さ、厚みの不均一さなどの欠陥の影響を受けやすい。粒子包理ポリマーは、凝集、混合不良、経年劣化を受けることがある。他の静電吸着式クラッチは剛性プレートを採用しているが、これは、対向するクラッチプレート間の面接触を制限する。したがって、静電吸着クラッチ用の改良された誘電体材料、誘電体材料をクラッチプレートに適用する改良方法を、そして、より低い電圧でより大きな吸引力を可能にするクラッチ構成を開発することが有益であろう。
【0006】
静電吸着クラッチは、他のクラッチ技術に比べて軽量であって電力消費が少ないことから、回転運動を制御する必要がある用途に非常に望ましい。多くの用途において、必要とされる出力トルクは、装置がアセンブリに収まる必要がある場合に装置の直径に実際上の制約があると、一対の静電吸着クラッチプレートの性能を超えてしまう。これにより、トルクが増大するように平行に配置された複数対のプレートの使用が余儀なくされる。しかしながら、剛性クラッチプレートを並列に全体的に使用することは、アライメント、オフ状態摩擦、ペア間での効果的な負荷分担の問題など、多くの課題をもたらす。複雑なアライメント機構や過度のプレート予圧を必要とすることなくこれらの課題を克服するクラッチ構成は有益であろう。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に開示されるのは、対向するクラッチプレートを隔てるセラミック系誘電体層を使用した静電吸着クラッチである。少なくとも一方の電極はセラミック誘電体層で被覆されるが、両方が被覆されてもよい。誘電体は隣接するプレート間に配置されてよいが、どちらにも恒常的に何れかに付着しない。誘電体層は、酸化アルミニウム、二酸化チタン、その他のセラミック酸化物を含んでよく、様々な方法で適用することができる。これらの方法には、浸漬コーティング、電気めっき、陽極酸化、エッチング、ゾル-ゲル反応、プラズマ電解酸化(PEO)、プラズマ変換、化学蒸着、物理蒸着、スパッタリング、スピンコーティング、レーザ変換、又は、その他の表面化学反応が挙げられる。改良されたセラミック誘電体は、隣接するプレートを吸着するのに必要な電圧を下げると同時に、吸引力を向上させている。ポリマー系誘電体とは対照的に、本開示のセラミック系誘電体材料は、短絡する、絶縁破壊を招く、又は、腐食を引き起こす傾向がある欠陥部位をより少なくすることができる。改良された誘電体は、残留吸着、オフ状態摩擦、及びヒステリシスを低減することによってクラッチ性能を高める。
【0008】
本明細書で更に開示されるのは、回転式静電吸着クラッチである。その回転クラッチは、対向する一対のクラッチプレートを、又は、ユニット内で重ねられた多数のプレートを備えてよい。複数のプレートを利用する実施形態では、プレートの第1の組は、プレートの中心に接続されたシャフトと係合してよく、プレートの第2の組は、プレートの外周に接続されたハウジングと係合してよい。シャフト第1の組のプレートと第2の組のプレートとが付着状態で係合すると、シャフトからの回転力がハウジングに伝達される。
【0009】
本明細書で更に開示されるのは、複数のクラッチ対を使用する回転式静電吸着クラッチであって、各対において少なくとも1枚の可撓性クラッチプレートがある。その回転クラッチは、対向する一対のクラッチプレートを、又は、ユニット内で重ねられた多数のプレートを備えてよい。複数のプレートを利用する実施形態では、プレートの第1の組は、プレートの中心に接続されたシャフトと係合してよく、プレートの第2の組は、プレートの外周に接続されたハウジングと係合してよい。プレートの第1の組とプレートの第2の組とが付着状態で係合すると、シャフトからの回転力がハウジングに伝達される。可撓性プレートは、プレートのアライメントをより容易に可能にするので、積層構成を可能にし、クラッチトルクが増大し、オフ状態摩擦が低減される。ある実施形態では、可撓性クラッチプレートは、クラッチ構造を介したトルク伝達を容易にするために、選択的な取付点を介して剛性裏材に取り付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、セラミック系誘電体を用いたリニアクラッチの例である。
【0011】
図2A図2Aは、プレートを重ねた回転クラッチを示している。
図2B図2Bは、プレートを重ねた回転クラッチを示している。
【0012】
図3A図3Aは、ハウジングにトルクを伝達する入れ子式重ねプレートを備えた回転クラッチである。
図3B図3Bは、ハウジングにトルクを伝達する入れ子式重ねプレートを備えた回転クラッチである。
【0013】
図4A図4Aは、同心クラッチプレートを有する回転クラッチである。
図4B図4Bは、同心クラッチプレートを有する回転クラッチである。
【0014】
図5図5は、エネルギーリサイクルアクチュエータに使用されるクラッチである。
【0015】
図6図6は、別々に分かれた円筒面を持つ回転クラッチである。
【0016】
図7図7は管状クラッチである。
【0017】
図8図8はリニア回転組合せクラッチである。
【0018】
図9図9は、可能である複数の電極構成を示す。
【0019】
図10図10は、入れ子式回転クラッチの可能な電極配置を示している。
【0020】
図11図11は、重ね回転クラッチの幾つかの可能な電極配置を示している。
【0021】
図12図12は、幾つかパターン化/テクスチャリング戦略を示している。
【0022】
図13図13は、複数の重ねられたクラッチ対を有する回転クラッチであって、スタックの端部に内側フレームを有する。
【0023】
図14図14は、複数の重ねられたクラッチ対を有する回転クラッチであって、端部に内側フレーム及び外側フレームを有する。
【0024】
図15図15は、平行に作用する複数の入れ子式クラッチ対を有する回転クラッチである。
【0025】
図16A図16Aは、一方から他方への電極の通過を可能にするフレーム開口を示す。
図16B図16Bは、一方から他方への電極の通過を可能にするフレーム開口を示す。
【0026】
図17A図17Aは、フレームスタックに張力をかける方法を示している。
図17B図17Bは、フレームスタックに張力をかける異なる方法を示している。
【0027】
図18A図18Aは電極の電気的接続を示す。
図18B図18Bは電極の電気的接続を示す。
図18C図18Cは電極の電気的接続を示す。
【0028】
図19A図19Aは回転クラッチの構成の例である。
図19B図19Bは回転クラッチの構成の例である。
【0029】
図20図20は、セラミック誘電体層を形成する方法を示すフローチャートである。
【0030】
図21図21は、誘電体層の表面を処理する方法を示す図解フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示の一実施形態によれば、2つの隣接する電極、即ちクラッチプレート102の間の誘電体絶縁材料101としてセラミックを使用することで、性能の向上を実現した静電吸着クラッチ100が提供される。中立状態では、隣接する対向した電極102間に薄い空隙又は低摩擦状態が存在しており、各電極102が独立して移動することを可能にしている。例えば、回転クラッチ100では、一方の電極102は回転できる一方で、他方の電極102は静止したままである。空隙は数ミリメートルまであってよく、又は代替的に、それら電極102の接触を最小限にして摩擦力を小さくすることもできる。2つの電極102に電圧差が加わると、電荷が誘導されるか、又は、電極102が別の方法で帯電若しくは分極し、2つの電極102間の離隔が無くなって2つの電極が大きな引力で互いに付着し、負荷がかかると接触面を横切って力が伝達されるようになる。この電圧により、一方の電極102に正電荷が発生し、対向する電極102に負電荷が発生し、静電吸着が生じる。電荷を均一にするだろう低い電気抵抗で2つの電極102が直接接触しなければ、吸引力は維持される。電圧差を無くさずに電源を切った場合、当初は吸引力が残るが、リーク電流により時間とともに消失する。また、電極102が互いに接地されると、又は絶縁破壊があると、吸引力が失われる。誘電体材料101は、一方の電極102と対向する電極102とを電気的に絶縁することで、電荷の均一化を抑制する。
【0032】
先の実施例のクラッチ100は、対向する電極102が完全に係合した状態と係合を解除された状態の2つのうちの1つの状態にあるものとして説明されたが、不完全に係合した状態でクラッチ100を作動させることもできる。例えば、図2A乃至2Bは、対向している電極102が係合時に制限された回転運動を可能にするように制御される回転式静電吸着クラッチ100を示す。言い換えると、不完全に吸着したアクティブな状態では、各電極102の表面が他方に対して滑っていることから、一方の電極102の1回転は他方の電極102の完全な回転をもたらさない。これは、加えられたねじれ荷重を完全に伝達するのに十分な吸着を生じるのに印加電圧が不十分であるときに起こる。完全係合状態と不完全係合状態とを分けるトルク閾値は、幾つかの方法で、即ち、クラッチプレート102の対の全量より少ない量を係合させること、又は、被る吸引力を調節するために電圧を制御すること、或いは、他の方法で能動的に制御することができる。
【0033】
ある実施形態では、一方の電極102のみが誘電体層101で被覆されているが、両方の電極102が被覆されてもよい。例えば、意図した用途に応じて、2つの電極102を被覆することで、摩耗寿命を増加させること、又は、漏れ電流を低減させることができる。誘電体コーティングはまた、力を生じさせるために必要な摩擦係数に影響を与える。別の実施形態では、誘電体材料101は何れのプレート102にも付着されない。むしろ、誘電体材料101は、独立しているセラミックウエハやセラミックコーティングを有する薄膜のようにして、隣接するプレート102の間に配置される。
【0034】
電圧を落とすと、電極102間の静電引力は解除される。図1に示すように、クラッチ100は、薄い可撓性材料で構成されている少なくとも1つの電極102を含む。薄い可撓性材料としては、箔、金属層を有するポリマー(例えば、アルミニウムスパッタリングされたBOPET)、本質的に導電性のポリマー若しくは複合材料、炭素繊維若しくはグラフェン、又は同様の導電性材料が挙げられる。薄い可撓性電極102は、電圧が印加されると変形して空隙を無くし、対向電極102の表面に適合することができる。これによって、非作動時における低いオフ状態摩擦と、作動時におけるより大きな調整された面接触との両方が可能となり、オン状態のクラッチプレートの付着とトルク伝達とが向上する。幾つかの実施形態では、薄い電極102は、剛性基体110に取り付けられて力の伝達を可能にする一方で、薄い電極102が動作中に変形することを可能にする。例えば、図2Aは、剛性フレームアセンブリ110に接続された可撓性電極102を示している。対向電極102が厚い、及び/又は硬いと、基体110を使用せずに力を伝達することができる。
【0035】
セラミック系誘電体絶縁層101を使用することで、以前に実証されたポリマー絶縁体やセラミック粒子包理ポリマーで作られた複合絶縁体と比較して、より高い性能とより低い動作電圧とが可能になる。表1は、幾つかの一般的な誘電体材料と本開示のセラミック系誘電体材料との比較を示している。クラッチ100の単位面積当たりの力は、電極102を隔てる誘電体絶縁層101の厚さ、印加電圧、誘電体材料101の誘電率、絶縁破壊強度、誘電体絶縁層101の表面抵抗、及び、クラッチ接触面において適合して良好な面接触を可能にする全体的なクラッチプレート構造102の能力に依存する。
【0036】
力/電圧ヒステリシスは、電圧を落とした後も残る不要な残留吸引力と電圧であって、その後の充放電サイクルにおいてクラッチ100の応答性又は保持力を低下させる可能性がある。これは、電荷が誘電体材料101の表面に捕捉されること、又は、誘電体材料101自体が半永久的に分極することに起因する。これらの効果の大きさとクラッチヒステリシスに与える影響とは、クラッチ100に使用される誘電体材料101の特性に依存する。この力/電圧ヒステリシスは更に、クラッチの対称性又は非対称性によって影響を受ける。対称性又は非対称性は、クラッチ電極102の両方が誘電体材料101で被覆されている(即ち、対称)構成、又は、一方の電極102のみが被覆されている(即ち、非対称)構成を意味する。クラッチ100の性能はまた、非対称クラッチ100の被覆電極102にどのように電荷(即ち、負又は正)を加えるかによって影響を受ける。セラミック系誘電体材料101は、より低いクラッチヒステリシス挙動を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
誘電体層の厚さを薄くすることで、より低い電圧で高い保持力を得ることができる。しかしながら、誘電体層が薄くなるほど、ポリマー系コーティングによく見られるような、欠陥部位での電気的短絡のリスクがより高くなる。セラミック材料は、化学的、蒸着、又は電気化学的手段によって、薄い欠陥のない層として適用することができるので、電気的短絡の危険性が減少する。
【0039】
クラッチ100のセラミック誘電体層101は、アルミニウム、チタン、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、タンタルやその他の金属のような金属の基体を陽極酸化して、電極102として作用する金属に直接セラミック層を生成することによって生成することができる。クラッチプレート102は、金属又は金属を含む合金から形成することができる。あるいは、クラッチプレート102は基体110で構成されてよく、金属又は金属合金が基体110の表面に配置されてよい。例えば、誘電体層101は、基体に金属をスパッタリングし、酸素チャンバを通して金属を処理して薄い金属の表面を酸化する一方で、導電性電極102として作用させるために酸化層の下に金属層の一部をそのまま残すことによって作製することができる。この場合、基体110はキャリアとして機能して、生産を容易にし、クラッチ100の動作中、負荷がかかった状態でクラッチプレート102を介して力を伝達するのを助ける。別の方法としては、電極102の表面にセラミックを直接蒸着させる化学蒸着やスパッタリングが挙げられる。別の実施形態では、自立セラミック誘電体層101の一方の面に金属層をスパッタリングすることで、それに対向するクラッチプレート102の表面に誘電体層101が接触するクラッチプレート102を作製することができる。
【0040】
セラミック層101はまた、炭化物、酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、ケイ酸塩、チタン酸塩、ジルコン酸塩、及びアルミン酸塩を含む一般的なアニオンと組み合わせた単一又は複数のタイプの金属カチオンに基づいてよい。これらの例では、セラミックのナノ粒子又はマイクロ粒子をポリマーマトリックスに埋め込んで、塗装可能な、印刷可能な、又は噴霧可能な材料を作ることができる。他の溶媒又はキャリアもまた、クラッチプレート102の表面への誘電体材料101の塗布を可能にするために使用されてよい。粒子の大きさは1乃至100μm、又は1乃至1,000nmである。ある実施形態では、誘電体材料は、フルオロポリマーマトリックス中に分散したチタン酸バリウム(BaTiO)を含む。
【0041】
上述の方法では、誘電体層101は、典型的には少なくとも50%の重量パーセントを有するセラミックの実質的に均質又は均一な層で形成される。誘電体層101は、陽極酸化プロセス又は他のプロセスに起因する欠陥及び/又は微細構造を有してよい。さらに、誘電体層101は、少量の添加剤(例えば、着色用の顔料)を含んでよい。ある実施形態では、誘電体層101は均一な酸化物セラミックであって、電極102の表面に連続層を形成している。
【0042】
酸化プロセス酸化の例では、当該技術分野で知られているように、金属表面を高酸性溶液に浸漬し、電気化学的酸化プロセスを完了するための陽極として使用する。これは最も一般的にはアルミニウム合金に適用されるが、類似の金属、チタン、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、タンタルやマグネシウムにも適用できる。多くの酸性溶液を電解質として使用することができ、最も一般的には、硫酸、ホウ酸又はクロム酸が挙げられる。このプロセスは、一般的に1乃至100Vで適用され、溶液の冷却と、印加時間及び電圧とによって制御される。得られる表面は概ね多孔質であって、直径1乃至100nmのオーダーの柱状の孔があり、一般的な染料化学薬品を使って染色されてよく、沸騰水や化学的シーリング剤を使って密閉することでより強固な表面を得ることができる。代わりに、酸化プロセスの他の例、例えばプラズマ電解酸化を使用して、孔のない表面を得ることができる。このプロセスは、例えばスクリーン印刷された複合誘電体と比較してより正確に制御することができ、一貫した誘電体層101の厚さ、均一性、及び低欠陥を達成する。
【0043】
陽極酸化後、誘電体101は自然な柱状の空隙を有することがある。熱処理を使用して、細孔結合水を除去し、層101の全体的な誘電特性を変化させ、電圧印加下でのファラデー過程を制限することができる。例えば、ファラデー電流は水ベースの電気化学反応から生じ得る。誘電体層101から水を除去することで、これらの反応を低減することができる。また、浸漬、超音波処理、真空、噴霧や他の類似の技術によって、液体、気体、又は油を陽極酸化された誘電体層101の細孔に導入することができる。
【0044】
液体としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、THF、アセトニトリル、ジオキサン、DMSOなどの水混和性ラボ溶媒(miscible lab solvents)が挙げられる。水不混和性溶媒も使用でき、例えばヘキサン、トルエン、ベンゼン、ブタノール、ジクロロエタン、ジクロロメタン、MEK、クロロホルム、エーテル、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、キシレンなどが挙げられる。これらの水不混和性溶媒は、誘電特性を改善し、誘電体層101の表面から水を排除する能力を有する。また、誘電性オイルが陽極酸化層101の孔に導入されてもよい。オイルには、ミネラルオイル、シリコーンオイル、植物オイル、石油オイル、その他の類似のオイルが挙げられる。陽極酸化層101の気孔に導入されるガスは、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、クリプトン、空気、炭酸ガス、六フッ化硫黄、一酸化炭素、一酸化二窒素などの不活性ガスが挙げられる。
【0045】
誘電体層101の表面形態は、フラットプレス、ローラ、又は同様の装置を使用して熱及び/又は圧力を加えることによって制御することができる。プレス、ローラ、及びその他の装置は、静電吸着クラッチ100の摩擦係数及び保持力に影響を及ぼすテクスチャ又はパターンを誘電体101の表面に付与するためにも使用できる。テクスチャ及びその他の表面特徴120には、ナノスケール若しくはマイクロスケールの穴、溝、細孔、エンボス領域、デボス領域、ピラー、波、リッジ、くぼみ、ジグザグ、スリット、凹み、又は選択的非導電性コーティングが挙げられる。テクスチャ及び特徴120はまた、ブレード、レーザアブレーション、パターン化マスク、メディアブラスト、選択的コーティング、化学エッチングや電気化学溶解を使用して付与されてよい。誘電体層101及び/又は電極102の表面は、選択的な粗さ、テクスチャと特徴120の混合、又は、滑らかな領域と組み合わされた特徴/粗さを有する領域を有してよい。シランやシロキサンのような界面活性剤も、誘電体層101及び/又は電極102の表面を改質するために使用することができる。
【0046】
本明細書に記載される装置100は、クラッチ、ブレーキ、ダンパ、又はトルクリミッタとして使用されてよく、2つの構成要素間の相対運動を防止するために使用することができる。各装置100の多様な使用は、印加電圧の戦略的な制御によって可能になる。高電圧は、装置が大きい力又はトルクを生成して、運動に抵抗すること、又は構成要素の相対的位置を固定することを可能にするであろう。中電圧は、使用者又は駆動アクチュエータによって克服され得るより小さな力又はトルクを供給するであろう。この場合、本明細書で説明する装置100は、トルクトランスミッタ、ダンパ、又は抵抗性機械的負荷として機能する。
【0047】
図には、固体セラミック系誘電体層101を用いた様々なクラッチ100が示されている。図1は、1つの薄い可撓性電極102と1つの厚い電極102とを有するリニアクラッチ100を示しており、それら電極の両方とも誘電体材料101で被覆されている。薄い電極102には張力が加えられ、厚い電極102は、複数の方向の面内力を、又は面内トルクを伝達するために使用される。あるいは、リニアクラッチ100は、2つの薄い可撓性電極102を備えてよく、それら電極の一方又は両方は誘電体層101で被覆されてよい。それら電極102は張力を通じて力を伝える。
【0048】
図2Aは、剛性基体110に選択的に着けられた1つの薄い電極102と、1つの厚い電極102とを有し、一方又は両方の電極が被覆されているリニアクラッチ100を示しており、図2Bは、剛性基体110に夫々着けられた2つの薄い電極を有するリニアクラッチ100を示している。それらクラッチ100は、面内張力、面内圧縮、又は、面内ねじれで負荷をかけられ得る。
【0049】
図3A及び図3Bは、入力シャフト130とハウジング131との間でトルクを伝達する平行な複数のプレート102を有する回転クラッチ100を示しており、それらプレート102は、シャフト130に対して垂直に向いている。厚い電極102は静電吸着と力伝達の両方に使用でき、薄い電極102は、その電極102とハウジング131又はシャフト130との間でトルクを伝達するフレーム又は基体110に接続される。
【0050】
図4A及び図4Bは、管状の厚い電極102又は湾曲した厚い電極102と、厚い電極102の外周の周囲を覆っており、トルク伝達フレーム110に接続された薄い電極102とを備える回転クラッチ100を示している。
【0051】
図5は、複数のダブルクラッチ式ばねを互いに並列に使用するエネルギーリサイクルアクチュエータであり、出力部又はハウジングの何れかへの各ばねの接続は、静電吸着クラッチ100によって制御される。
【0052】
図6は、回転クラッチ100を示しており、2つの別個の円筒面(同心で直径が等しい)が、それら円筒面間の隙間を覆い隠して、第2の電極102として機能する薄い電極102によって包まれている。それら円筒面102は、誘電体層101を形成するセラミックコーティングされてよい。クラッチ100が作動すると、薄い電極102が両方の円筒面102に付着して、それら円筒面102を互いに固定する。クラッチ100が切られると、2つの円筒面102は互いに自由に相対的に回転することができる。円筒状の構成要素間の隙間を覆い隠す薄い電極102の部分は、しわを防止するためにより厚くてよく、又は、より強い若しくはより硬い材料のストリップに着けられることによって補強されてよい。そのカラーは、円筒状構成要素102の直径よりも僅かに小さい直径で曲げられた圧延シートメタルから作製されてよく、その結果、カラーは、延ばされて円筒102にわたって配置されると円筒102を抱え込む。あるいは、薄い電極102は2つの円筒面102のうちの1つに恒常的に取り付けられる一方で、薄い電極102と他方の円筒面が同じ方法で相互作用することが可能にされてよい。
【0053】
更に詳しく述べると、図6に示すように、2つの円筒面102は共通の回転軸を共有しており(左図)、薄い可撓性ロール状カラーが存在しており(中図)、そのカラーは両円筒102の間の隙間を覆い隠すように両円筒102に巻かれる。カラーは、円筒102の一方又は両方に恒常的に取り付けられてよい。カラーと円筒面102に電圧が印加されると、両者は付着し、円筒102の相対的な角度位置が固定される。誘電体コーティング101は、カラー、円筒102、又はそれら両方に付されてよい。
【0054】
図7は、一方の電極102が管状であって、他方の電極102がボーデンケーブルに取り付けられたブラシからなるリニアクラッチ100である。変形していないブラシの直径は管の内径よりも広く、ブラシが変形して管に挿入されると、管の側面との接触を維持する。ブラシの毛は細く幅広で、金属部品又は炭素繊維で作られてよい。荷電すると、毛が管の内張りに付着する。毛と管の内張りの一方又は両方が誘電体101で被覆されてよい。
【0055】
図7に示すように、このクラッチ100は、可撓性又は剛性であってよい中空管内で使用される。ケーブル又は他の細長い要素が中空管を通って延びて、管の軸に沿って管に対して移動する。ブラシの毛は、管の内側形状に適合して、管の内面との接触を維持する導電性材料の薄いシートから構成される。管の内側は誘電体で被覆されており、ブラシはむき出しの導電性材料であってよく、又はコーティングされてもよい。電圧が印加されると、ブラシの毛が管の内面に付着する。毛は、ケーブルの撚り工程中にケーブルに組み込まれてよい。
【0056】
図8は、リニア回転組合せクラッチ100の断面図である。一方の電極102は管状であり、他方の電極102は円筒状であって、管内に嵌まる。内側の円筒状構成要素は、管の軸の周りで自由に回転し(即ち、回転)、また、軸に沿って平行移動する(即ち、伸縮)。ブラシを介して、又は、導電性材料で被覆された低剛性の間隙充填材を介して、円筒と管の間の接触が維持される。隙間充填材自体が導電性であれば、追加のコーティングは必要ない。
【0057】
クラッチは、外側ハウジング(白色)と内側シャフト(灰色の陰影)の2つの構成要素に分かれている。外側ハウジングは中空であって、内側円筒面は誘電体材料101で被覆されている。内側シャフトは、ゴム製ガスケットや発泡体のような圧縮可能な隙間充填材に固定されている。この隙間充填材は導電性材料で被覆されている。電圧が印加されていない場合、シャフトはハウジングの軸に沿って自由にスライドして回転する。電圧が印加されると、隙間充填材の導電性コーティングがハウジングの内面に付着する。これによってそのジョイントは固定されて、相対的な回転とスライドの両方が妨げられる。
【0058】
図9は、電極102の可能な構成の幾つかを示している。クラッチ102が作動するためには、各クラッチ対は誘電体材料101によって隔てられた2つの電極102を含んでいる必要がある。誘電体101は、一方の電極102にあってよく、又は、両方にあってもよい。個々の各電極102は、むき出しの金属若しくは他の導電性材料であってよく、あるいは、絶縁性若しくは導電性であり得るキャリア110に堆積若しくは接着された導電層であってよい。場合によっては、電極はキャリア110の両側に導電性電極を含んでよい。これらの構成の各々は、誘電体コーティング101を加えることによっても可能である。幾つかの実施形態では、両側に導電性電極102を有するキャリア110は、両方の電極102の表面に被覆された絶縁誘電体101を有してよい。
【0059】
図10は、入れ子式回転クラッチ100について、電極102の可能な幾つかの構成の概要を示す断面図である。基本構成は、リング(最も濃い灰色)の形状の剛性外側フレーム136を示しており、当該フレームは、両面接着材(斑点付き)で2つの電極102(中間灰色)に接続されている。高剛性のリング状の外側フレーム136とその電極102とは、内側フレーム135を囲んでいる。外側フレーム136は機械的荷重をハウジング131に伝達し、内側フレーム135は機械的荷重をシャフト130に伝達する。内側電極102と外側電極102は夫々、可撓性又は剛性であってよく、両方が剛性である以外に任意の組合せが可能である。誘電体材料101は、両方の電極102、内側の電極102だけ、又は外側の電極102だけに堆積されてよい。これらの特徴を組み合わせた9つの構成を図10に示す。これらの構成は格子状に配置されている。最上段は、内側電極102が剛性であり、電極102とフレーム135の両方として機能する全ての構成を示している。中央の列は、内側フレーム135が可撓性電極102を含んでおり、外側電極102が剛性である(黒)全ての組合せを示している。最下段は、外側電極102と内側電極102の両方が可撓性である全ての構成を示している。左の列は、誘電体材料101が内側電極102と外側電極102の両方に堆積している全ての構成を示している。中央の列は、誘電体材料101が外側電極102にのみ堆積された全ての構成を示している。右の列は、誘電体コーティング101が外側電極102ではなく内側電極102に付された全ての構成を示している。
【0060】
図11は、積層型回転クラッチ100について、電極102の可能な幾つかの構成の概要を示す断面図である。基本的な構成では、リング状の硬いフレーム136(最も濃い灰色)が、パターンで塗布された両面接着材(最も濃い灰色)で電極120(中間灰色)に接続されている。剛性外側フレーム136は、内側フレーム135に隣接して積み重ねられて、それらの電極102は接触するか、僅かな空隙を有する。外側フレーム136は機械的荷重をハウジング131に伝達し、内側フレーム135は機械的荷重をシャフト130に伝達する。内側電極102と外側電極102は夫々、可撓性又は剛性であってよく、両方が剛性である以外の任意の組合せが可能である。誘電体材料101は外側電極102と内側電極102の両方に堆積されてよく、内側電極102だけに堆積されてよく、外側電極102だけに堆積されてよい。これらの特徴を組み合わせた9つの構成を図11に示す。これらの構成は格子状に配置されている。最上段は、内側電極102が硬い全ての構成を示している。中央の列は、内側フレーム135が可撓性電極102を含んでおり、外側電極102が剛性である(黒)全ての組合せを示している。最下段は、外側電極102と内側電極102の両方が可撓性であり、両方がパターン化された接着材を使用して硬いフレーム135/136に接着されている全ての構成を示している。左の列は、誘電体材料101が内側フレーム135と外側フレーム136の両方に堆積されている全ての構成を示している。中央の列は、誘電体材料101が外側電極102にのみ堆積された全ての構成を示している。右の列は、誘電体コーティング101が外側電極102ではなく内側電極102に付された全ての構成を示している。
【0061】
図12は、パターニング及びテクスチャリングの幾つかの戦略を示している。これらの戦略は、電極102又は誘電体層101に特徴120を与えるために使用され、非アクティブ化後の切り離しを改善し、及び/又は、有効摩擦係数を戦略的に変化させて、オン状態の保持力を改善し、又はオフ状態の摩擦を低減する。これらの戦略には、(左から右、上から下に)穴、エンボス加工、リッジ、トレンチ、デボス加工、スリット、細孔、ピラー、粗さが増加した領域が含まれる。示された特徴120の配置は例示に過ぎない。これらの特徴120は、任意の大きさであってよく、クラッチプレート102又は誘電体101の表面の任意の場所に、非対称的にさえ配置されてよい。また、複数のタイプの特徴101を単一のプレート102上で、又は、対になった2つのクラッチ電極102にわたって組み合わせることで、異なるパターン又は効果が作り出されてよい。
【0062】
図13は、複数の積み重ねられたクラッチ対を有する回転クラッチ100であって、クラッチプレート102のスタックの端に内側フレーム135を有する。圧縮は、上側内側フレーム135上のウェーブワッシャ138と、スタックの底部でシャフト130の溝に取り付けられた保持リング137とを使用して、スタックを通して維持される。多数のクラッチフレーム135/136を互いに積み重ねて、クラッチ100のトルク容量を全体として増大させることができる。シャフト130は、ハウジング131の表面にあるハブ内の2つのベアリング接続部を介して、円筒状ハウジング131に接続されている。内側フレーム135はシャフト130と相互作用し、外側フレーム136はハウジング131と相互作用する。この実施形態は、ハウジング131内にモータ、歯車、又は他のアクチュエータ若しくは伝達部品を直接含めるように変更されてよい。あるいは、クラッチプレート102は、これらの補助部品なしで、ギアクチュエータ、又は他のアクチュエータのハウジングに配置されてよく、これらの装置におけるベアリングのような既存の補助部品を重複させる必要が無くなる。
【0063】
図14は、積層型クラッチ100を示しており、最外クラッチフレーム136は頂部の外側にあり、底部に内側フレーム135がある。フレーム135/136間の圧縮は、底部ベアリングのインナーレース上に載置されるウェーブワッシャ138を介して維持される。スタックの最上部は、ハウジング131の溝に配置される内側保持リング137によって支持される。シャフト130は、頂部ベアリングのインナーレースに載置される保持リング137によって拘束される。
【0064】
図15は、入れ子式クラッチ100を示しており、外側フレーム136はリング状であり、内側フレーム135は外側フレームの電極102によってこのリング136内に囲まれている。この図では、スペーサ139が、入れ子フレーム135/136間の間隔を管理するために入れ子フレーム135/136間に配置されているが、スペーサ139は、この設計に必ずしも必要ではない。アライメントは、ベアリングのインナーレースに載置されるウェーブワッシャ138によって管理される。クラッチプレート102のスタックの底部は保持リング137に載置されており、この保持リング137は他のベアリングに載置されている。この場合も、ウェーブワッシャ138及び保持リング137は、入れ子式クラッチ板対102の半独立的性質のため、この設計に対して常に必要なものではない。
【0065】
更なる詳細として、図13図14及び図15に示されるクラッチは、以下を含むがこれらに限定されない幾つかの方法で変更されてよい。所望のトルク容量を達成するために、任意の数のクラッチフレーム135/136が追加又は除去されてよい。任意の保持リング137は、段部、肩部、又は他の機械的制限によって置換されてよい。ボールベアリングは、平面ベアリング、ブッシング、エアベアリングによって置換されてよく、又は全く存在しなくともよい。ハウジング131及びハブは、明示的構成要素であってよく、又はそれらは、ロボットなどより大きい製品において複数の機能を果たす、より大きいハウジング131の特徴であってよい。
【0066】
図16Aは、内側フレーム135の構成を示す分解斜視図である。硬いフレーム135は、スプラインシャフト130と相互作用するための歯と、4つの開口140とを含む。円形開口140は、スウェージを挿入するためのものである。スウェージは、可撓性電極102をフレームにクランプして電気的接続を確立するために使用できる。矩形開口140は、電極の端部をフレーム135の反対側に通すためのものである。これは、内側フレーム135と外側フレーム136との電気的接触を避けるために、又は、電気的接続を簡素化するために有利となり得る。次に、可撓性電極102は、パターン化された接着材を介してフレーム135に機械的に接続される。図16Bは、電極の端部が開口140を通過する様子をより良く示すために、同じ構成を断面図で示している。単一のフレーム135に、1回、2回、又は複数回、端部が通ってよい。
【0067】
図17A及び図17Bは、クラッチのスタックに沿って圧縮を確立するための2つの方法を示している。図17Aでは、シャフト130にねじ山が設けられており、ナットがねじ山に配置されて締められて、スタックを保持リングに対して押し付ける。ワッシャは、荷重をより良好に分散させるために保持リング上に配置されてよく、又は、されなくてもよい。図17Bに示す第2の構成では、肩部がシャフト130に含まれており、リベットやボルトなどの締結具がクラッチのスタック100を通ってシャフト130の肩部に締結される。なお、クラッチスタック100はまた、クラッチシャフト130を含まずにこのように圧縮されてよい。これにより、フレームのカセットが作製されて、1つずつではなく、一度に纏めてハウジング131又はシャフト130に挿入することができる。締結具、肩部、保持リング、及び溝の任意の組合せが使用されて、フレーム135/136を圧縮し、シャフト130に対するフレーム135/136の位置を軸方向に維持するという所望の効果が達成されてよい。
【0068】
図18A乃至18Cは、電源からクラッチプレートへの電気的接続を確立する3つの方法を示している。図18Aは、ハウジングが隠されたクラッチ100を示しており、スプリングフィンガ150が、ハウジングに取り付けられた共通のレール151に外側フレーム136を接続する構成を示している。図18Bは、はんだパッド又は面コネクタ152を介してワイヤが外側フレーム136に接続される実施形態を示す。有線接続のための空間を確保するために、フレーム136から歯が選択的に省略されてよく、省略されなくてもよい。図18Cは、フレーム135/136自体の導電性が利用される実施形態を示す。フレーム135/136には電気コネクタは追加されていない。内側クラッチフレーム135とシャフト130の間は、機械的接触を介して電気的に接続される。クラッチ100の構成に応じて、クラッチフレーム135の上面及び底面は、それ自体が導電性であってもなくてもよく、又は、誘電体材料101で被覆されてよい。同様の特徴で、外側フレーム136は、電気的に活性なハウジング131の歯への接続を確立してよい。
【0069】
図19Aは、クラッチ100の構成例を示す断面図である。内側フレーム135は、導電性スペーサ139又はスプリングフィンガ150を介して電気的に接続されている。内側フレーム135とスペーサ139のスタックは、スリップリングブラシ又はスプリングフィンガ150が取り付けられた回転ディスクがあるスリップリングを介して、電源に電気的に接続されている。これらのブラシは、スライド式の機械的接続を介してハウジング131に取り付けられたスリップリングの固定部に接続される。図19Bは、内側クラッチフレーム135の例を示しており、導電性スペーサ139が接触するための導電性表面が上面及び底面にある。残りの表面は、構成に応じて、導電性であってよく、又は、誘電体材料101でコーティングされてもよい。更なる詳細として、スペーサ139は、内径上で絶縁されて、シャフト130への電気的接続が確立されることが防止されてよい。
【0070】
図20は、可能であり得るアルミニウム表面の一連の改質のフローチャートを示す。アルミニウム表面は、まずステップ201で陽極酸化され、次にステップ202でオーブン乾燥されて細孔結合水が除去され、ステップ203にて親水性、疎水性又は絶縁性の油で更に改質され、最後にステップ204でシールされる。クラッチ100は、任意の改質状態で動作可能であるが、寿命、摩耗、漏れ電流、又は保持力は、これらのステップの組合せを使用することによって改善され得る。
【0071】
図21は、図20のフローチャートに記載された改質の概略図であって、乾燥と、液体含浸と、液体を封入するための密封とによって改質されている陽極酸化された細孔を示している。表面は、ステージの何れかとしてクラッチ100に効果的に使用することができるが、クラッチ100の様々な実施形態について、ある特定の改質によって別の改質よりも性能が向上されることがある。
【0072】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、用語「備える」及び「含む」、並びにそれらの変形は、特定された特徴、ステップ又は整数が含まれることを意味する。これら用語は、他の特徴、ステップ、構成要素の存在を排除するように解釈されるべきではない。
【0073】
本発明ではまた、個別に又は集合的に本明細書において言及された又は示された部分、要素、ステップ、例及び/又は特徴を、2つ以上の部分、要素、ステップ、例及び/又は特徴の任意の及び全ての組合せで構成されてよい。特に、本明細書に記載される実施形態の何れかにおける1又は複数の特徴は、本明細書に記載される他の実施形態の1又は複数の特徴と組み合わせられてよい。
【0074】
開示と組み合わせて本明細書で参照される任意の1又は複数の刊行物に開示される任意の特徴に対して保護が求められ得る。本発明の特定の例示的な実施形態について説明したが、添付の特許請求の範囲は、これらの実施形態のみに限定されることを意図するものではない。特許請求の範囲は、文言通りに、合目的的に、及び/又は均等物を包含するように解釈されるべきである。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
図20
図21
【国際調査報告】