IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェンチェン ブルーファ バイオサイエンシズ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-515917アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法
<>
  • 特表-アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法 図1
  • 特表-アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法 図2
  • 特表-アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法 図3
  • 特表-アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法 図4
  • 特表-アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法 図5
  • 特表-アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-11
(54)【発明の名称】アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240404BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240404BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240404BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N15/53 ZNA
C12N15/63 Z
C12N9/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529891
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 CN2022101796
(87)【国際公開番号】W WO2023193352
(87)【国際公開日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】202210353444.8
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523050771
【氏名又は名称】シェンチェン ブルーファ バイオサイエンシズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN BLUEPHA BIOSCIENCES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 808,8 Floor Research Building,Tsinghua Hi-Tech Park,West Of South Gate,No.13,Langshan Road,Songpingshan Community,Xili Street,Nanshan District,Shenzhen,Guangdong 518057 China
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】イン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ユ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジアジア
(72)【発明者】
【氏名】ホウ,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,リアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジシアン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA12
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は微生物の技術分野に関するものであり、具体的には、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法に関するものである。本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子は、菌株から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を有意に増加させることができ、本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子により構築された、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファから生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が有意に増加し、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を生産する遺伝子操作された菌株の開発に新規な遺伝子及び菌株資源を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させるための、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種またはそのコーディング遺伝子の使用であって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号9~15のいずれかが示すとおりであることを特徴とする、前記使用。
【請求項2】
前記コーディング遺伝子のヌクレオチド配列が配列番号1~7のいずれかが示すとおりであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
微生物がラルストニア・ユートロファ、大腸菌またはハロモナス菌であることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファであって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号9~15のいずれかが示すとおりであることを特徴とする、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項5】
前記発現は、
(1)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、及び
(2)ゲノムに前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つまたは複数のコピーを挿入する方式
のいずれか一種または多種で実現されることを特徴とする、請求項4に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項6】
前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子は、配列番号1~7のいずれかが示すとおりであることを特徴とする、請求項5に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項7】
前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが、さらに、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
の一種または多種を含むことを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項8】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号16が示すとおりであることを特徴とする、請求項7に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項9】
ラルストニア・ユートロファを修飾することにより前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させるステップを含むことを特徴とする、請求項4~8のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの構築方法。
【請求項10】
ラルストニア・ユートロファに対して、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
の一種または多種を行うことをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の技術分野に関するものであり、具体的には、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作された微生物、及びPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(Polyhydroxyalkanoates、PHA)は、微生物から合成される再生・分解可能な複数の材料特性を有する高分子重合体であり、医療、材料、及び環境保護の分野で広く応用される見込みがある。PHAは、主に炭素源およびエネルギーの貯蔵担体として微生物の細胞に広く存在する。PHAは、モノマーの種類や重合方法に応じて、硬くて脆い硬質プラスチックないし柔軟なエラストマー等、一連の多様な材料特性を有する。ポリヒドロキシブチレート(PHB、またはP(3HB))は、PHAの一種であって、細菌から産生される複合生体高分子であり、熱可塑性プラスチックとして、その機械的特性及び物理的特性がポリスチレンなどの従来のプラスチックに匹敵するものである。一方、P(3HB)は、結晶性が高いため、従来のプラスチックに比べて脆くて硬く、それゆえに、製品プラスチックの代替品として実用価値がない。よって、熱的特性及び物理的特性を改進するために、3HBとより長い鎖を備えるモノマーの組み合わせを含む共重合体を生産する必要がある。ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P(3HB-co-3HHx))は、鎖長が異なるものが混合された共重合体であり、P(3HB)ホモポリマーに比べてフレキシブルであり、その中の3HHx(3-ヒドロキシヘキサン酸)モノマーの部分は重合体の特性を大きく影響する。高い3HHxモル分率(H割合と略称する)を有するP(3HB-co-3HHx)共重合体は、低密度ポリエチレン(LDPE)などの一般的な製品プラスチックに類似する特性を示すことができる。そのため、微生物から生産される3HB-co-3HHxにおける3HHxの割合を増加させることは、重要な意義がある。
【0003】
ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha、カプリアビダス・ネカトル(Cupriavidus necator)とも言う)は、PHAの合成を研究するための重要なモデル細菌であり、現在多く研究されているPHBの生成に用いられる菌株である。炭素が過剰で窒素が不足すると、ラルストニア・ユートロファはPHBを蓄積することができる。一方、細胞内の他の炭素源の代謝が活発になる場合、PHBの合成は影響されてしまう。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加できるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子、並びにPHA生産用の遺伝子操作された微生物を提供することを目的とする。
【0005】
具体的には、本発明は下記の技術案を提供する。
【0006】
第1に、本発明は、アミノ酸配列が配列番号9~15のいずれかが示すとおりであるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を提供する。
【0007】
第2に、本発明は、ヌクレオチド配列が配列番号1~7のいずれかが示すとおりであるアセトアセチルCoAレダクターゼのコーディング遺伝子変種を提供する。
【0008】
本発明では、実験により、上記の遺伝子変種がいずれも菌株から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を顕著に増加できることが証明された。
【0009】
第3に、本発明は、上記の遺伝子変種を含む、発現カセット、ベクターまたは宿主細胞である生体材料を提供する。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、上記のような遺伝子変種を含む発現カセットは、プロモーター、上記のような遺伝子変種、及びターミネーターが作動可能に連結してなるものである。発現の需要及び発現カセットの上下流の配列の相違により、発現カセットにはターミネーターを含有しなくてもよく、或いはエンハンサーなどの他の転写・翻訳調節因子を含有してもよい。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態では、上記のような遺伝子変種を含むベクターは、複製型ベクター及び非複製型ベクターを含めたプラスミドベクターである。上記の核酸分子を載せるベクターは、プラスミドベクターに限らず、ファージ、ウイルスなどのベクターであってもよい。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態では、上記の遺伝子変種、発現カセットまたはベクターを含む大腸菌細胞及びラルストニア・ユートロファ細胞を提供するが、宿主細胞の種類は、これらに限らず、いずれの微生物細胞またはタンパク質発現に使用できる動物細胞であってもよい。
【0013】
第4に、本発明は、遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させるための、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種またはそのコーディング遺伝子の使用であって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列が配列番号9~15のいずれかが示すとおりである使用を提供する。
【0014】
上記で提供されたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列及びコドンの規則に基づき、当業者は上記のようなアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の配列を得ることができる。同一のアミノ酸配列をコードする遺伝子の配列は唯一ではなく、上記のようなアセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードできる遺伝子はいずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、前記コーディング遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1~7のいずれかが示すとおりである。
【0016】
上記の使用は、
(1)前記微生物に前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、及び
(2)前記微生物のゲノムに前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つまたは複数のコピーを挿入する方式
のいずれか一種または多種で実現される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は不活性化されていない。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子は完全に保留されている。
【0019】
上記の使用において、前記遺伝子操作された微生物は、さらに、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
の一種または多種を含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、元のPHAポリメラーゼに対して、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種は、149番目のアスパラギンからセリンへの突然変異、及び171番目のアスパラギン酸からグリシンへの突然変異を含む。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号16が示すとおりである。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性の向上は、配列番号17で示されるプロモーターによりゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。
【0023】
上記の使用において、前記微生物はラルストニア・ユートロファ、大腸菌またはハロモナス菌であることが好ましい。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、前記遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることは、遺伝子操作された微生物が脂質を炭素源とした場合に生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることである。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、前記遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることは、遺伝子操作された微生物が植物油を炭素源とした場合に生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることである。
【0026】
上記の植物油は、パーム油、落花生油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、ひまし油、コーン油から選ばれる一種または多種の混合物を含む。第5に、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体を生産する微生物を構築するための、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種、そのコーディング遺伝子または前記コーディング遺伝子を含む生体材料の使用を提供する。
【0027】
本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種の、微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加できる機能に基づき、これらの変種のコーディング遺伝子及びこれらの遺伝子を含む生体材料は、PHAを生産する菌株の構築に用いることができる。
【0028】
上記の使用において、前記微生物はラルストニア・ユートロファ、大腸菌またはハロモナス菌であることが好ましい。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、配列番号1~7のいずれかで示される遺伝子をラルストニア・ユートロファに導入してPHAを生産する菌株を構築する。
【0030】
第6に、本発明は、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファであって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列が配列番号9~15のいずれかが示すとおりである遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0031】
本発明において、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種の発現は、
(1)アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方法、及び
(2)ゲノムにアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つ又は複数のコピーを挿入する方法
のいずれか一種または多種で実現することができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、ゲノムにアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つのコピーを挿入することにより、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、ゲノム中のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の挿入位置がphaC遺伝子の位置である。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が配列番号1~7のいずれかが示すとおりである。これらのコーディング遺伝子の配列は、ラルストニア・ユートロファのコドンバイアスに応じて人工最適化及び選別を組み合わせて得られた、ラルストニア・ユートロファにおいてアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を効率良くかつ正確に発現できる配列である。これらの配列の使用は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種がラルストニア・ユートロファにおいてPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合増加作用をよりよく発揮することを促進するのに有利である。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子が不活性化されていない。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子が完全に保留されている。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)の合成を促進するために、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、さらに、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
の一種または多種を含む。
【0038】
ここで、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種について、C6脂肪酸(3-ヒドロキシヘキサン酸)を重合できるように細菌のPHAポリメラーゼのアミノ酸配列に突然変異を引き起こしてもよい。先行技術におけるC6脂肪酸(3-ヒドロキシヘキサン酸)を重合できるPHAポリメラーゼ変種を用いてもよいが、先行技術におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種の突然変異部位を組み合わせてより高い効率の新たなPHAポリメラーゼ変種を得てもよい。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、元のPHAポリメラーゼに対して、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種は、149番目のアスパラギンからセリンへの突然変異、及び171番目のアスパラギン酸からグリシンへの突然変異を含む。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列が配列番号16が示すとおりである。
【0041】
上記のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種の発現は、
(1)前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、及び
(2)ゲノムにポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子の一つまたは複数のコピーを挿入する方式
の一種または多種で実現される。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させるとともに、ゲノムにおける元のPHAポリメラーゼのコーディング遺伝子を不活性化させる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子をゲノムに挿入する。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子を含む発現プラスミドを導入する。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態では、前記発現プラスミドは安定的に発現するプラスミドであり、プラスミドの安定的な発現は、プラスミドに菌株成長に必要な代謝物の合成遺伝子を含有させるとともに、ゲノムにおける当該合成遺伝子を不活性化させることにより実現される。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、前記配列番号16で示されるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドは、さらにproC遺伝子を含み、且つ前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのゲノムproC遺伝子が不活性化された。
【0047】
上記の酵素の発現の向上は、下記の(1)~(4)のいずれか一種または多種の方式により実現することができる。
(1)前記酵素のコーディング遺伝子を含むベクターを導入する方式、
(2)ゲノムにおける前記酵素のコーディング遺伝子のコピー数を増やす方式、
(3)ゲノムにおける前記酵素のコーディング遺伝子の転写及び/または翻訳調節因子(プロモーターなどを含む)の配列を変化させる方式、及び
(4)前記酵素のコーディング遺伝子のヌクレオチド配列を変化させる方式。
【0048】
上記の酵素活性の向上は、前記酵素における一つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失又は挿入により実現することができる。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態では、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性の向上は、配列番号17で示されるプロモーターによりゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態では、配列番号17で示されるプロモーターによりゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることは、ゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子とその上流にある遺伝子との遺伝子間領域に配列番号17で示されるプロモーターを挿入することにより実現される。
【0051】
野生型ラルストニア・ユートロファにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現が沈黙される。本発明において、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び酵素活性の向上に用いられるプロモーターは、配列番号17で示されるプロモーターに限らず、ラルストニア・ユートロファにおいてプロモーターの機能を発揮できるDNA断片であれば、いずれも(R)-エノイルCoAヒドラターゼの転写を開始させ、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させることができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態では、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性の向上は、ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株における(R)-エノイルCoAヒドラターゼの遺伝子の上流プロモーターにより、ゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。
【0053】
本発明では、実験により、本発明のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の、遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる機能の発揮が、特定の(R)-エノイルCoAヒドラターゼの遺伝子のプロモーターの配列に依存せず、遺伝子操作された微生物における(R)-エノイルCoAヒドラターゼが発現可能であればよいことが証明された。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態では、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、野生型ラルストニア・ユートロファ、ラルストニア・ユートロファH16菌株またはラルストニア・ユートロファBPS-050を出発菌株として修飾されたものである。
【0055】
ここで、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)BPS-050は、2021年10月13日にChina General Microbiological Culture Collection Center(CGMCCと略称し、住所:北京市朝陽区北辰西路1号院3号、中国科学院微生物研究所、郵便番号:100101)に受託され、分類学上の位置がラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)で、受託番号がCGMCC No.23600である。
【0056】
第7に、本発明は、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの少なくとも2株を含む、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの形質転換体ライブラリーを提供する。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態では、前記形質転換体ライブラリーにおける遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファは、アミノ酸配列が配列番号9~15のいずれかが示すとおりであるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現し、前記形質転換体ライブラリーにおける各株の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが発現するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列は相違する。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態では、前記形質転換体ライブラリーにおいて上記のような遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの2株、3株、4株、5株、6株または7株を含む。
【0059】
第8に、本発明は、ラルストニア・ユートロファを修飾することにより前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させるステップを含む前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの構築方法を提供する。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態では、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファのポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)合成能力を促進するために、前記方法が、ラルストニア・ユートロファに対して、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
の一種または多種を行うことをさらに含む。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態では、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列が配列番号16が示すとおりである。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、配列番号17で示されるプロモーターにより、ゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることを含む。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子をゲノムに挿入することを含む。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入することを含む。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種のコーディング遺伝子及びproC遺伝子を含むプラスミドを導入すること、及びゲノムにおけるproC遺伝子を不活性化させることを含む。
【0066】
ここで、遺伝子の不活性化は、遺伝子ノックアウト、発現の沈黙化、RNA干渉などの方式で実現することができる。
【0067】
第9に、本発明は、下記のいずれかの前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの使用を提供する。
(1)ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産における使用、及び
(2)ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産に用いられる菌株の選別・育成における使用。
【0068】
上記の使用において、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産に用いられる菌株の選別・育成は、具体的には、本発明が提供する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを出発菌株とした、遺伝子操作改造、変異誘発または馴化の方法による、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産に用いられる菌株の選別・育成であってもよい。
【0069】
第10に、本発明は、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを培養して培養物を得るステップを含む、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体の発酵生産方法を提供する。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを活性化培養し、活性化された菌体を種培地に接種して種培養を行い、種培養液を得た後、該種培養液を生産培地に接種し、前記培養物を得ることを含む。
【0071】
上記の培養では、通常のラルストニア・ユートロファ培養用培地を選択してもよい。培地には、炭素源、窒素源及び無機塩を含有してもよい。ここで、炭素源として、植物油(例えば、パーム油)、ショ糖、グルコース、糖蜜、マルトース、フルクトース、アラビノースの一種または多種の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。窒素源として、コーンスティープリカー、酵母エキス、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムの一種または多種の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。無機塩として、リン酸塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、鉄塩、マンガン塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、コバルト塩、銅塩、ニッケル塩、モリブデン塩の一種または多種の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、培養した培養物に対して分離及び抽出を行い、ポリヒドロキシアルカノエートまたはその誘導体を収集するステップを含む。
【0073】
第11に、本発明は、遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法であって、ラルストニア・ユートロファを修飾することによりアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させることを含み、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列が配列番号9~15のいずれかが示すとおりである方法を提供する。
【0074】
上記の方法において、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種の発現は、
(1)アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方法、及び
(2)ゲノムにアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つ又は複数のコピーを挿入する方法
の一種または多種により実現することができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態では、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子は、配列番号1~7のいずれかが示すとおりである。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態では、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子が不活性化されていない。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態では、前記微生物のゲノムの原位置のphaB遺伝子が完全に保留されている。
【0078】
上記の方法において、前記遺伝子操作された微生物は、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
の一種または多種をさらに含む。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態では、元のPHAポリメラーゼに対して、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種は、149番目のアスパラギンからセリンへの突然変異、及び171番目のアスパラギン酸からグリシンへの突然変異を含む。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態では、前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号16が示すとおりである。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態では、(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性の向上は、配列番号17で示されるプロモーターにより、ゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現される。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態では、前記遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることは、遺伝子操作された微生物が脂質を炭素源とした場合に生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることである。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態では、前記遺伝子操作された微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることは、遺伝子操作された微生物が植物油を炭素源とした場合に生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることである。
【0084】
上記の植物油は、パーム油、落花生油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、ひまし油、コーン油から選ばれる一種または多種の混合物を含む。
【0085】
本発明において、前記ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)であることが好ましく、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)であることがより好ましい。
【0086】
本発明の有益な効果は、下記の通りである:本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子は、菌株から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を顕著に増加させることができ、本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子により構築された遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファから生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が顕著に増加し、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を生産する遺伝子操作された菌株の開発に新規な遺伝子及び菌株資源を提供し、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)の生産にとって、重要な使用価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】本発明の実施例2における各菌株の発酵生産で得られたPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸のモル分率を示す図である。
図2】本発明の実施例2における各菌株のPHAの発酵生産能力を示す図である。
図3】本発明の実施例3における各菌株の発酵生産で得られたPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸のモル分率を示す図である。
図4】本発明の実施例3における各菌株のPHAの発酵生産能力を示す図である。
図5】本発明の実施例4における各菌株の発酵生産で得られたPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸のモル分率を示す図である。
図6】本発明の実施例4における各菌株のPHAの発酵生産能力を示す図である。図1図2図3図4図5及び図6において、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7は、それぞれ、配列が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7が示すとおりであるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を発現する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを指すものである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
本発明の応用は、下記の明細書に記載または例示された形態に制限されない。本発明は、他の実施形態に適用でき、且つ多種の方式で実施または進行することができる。また、本明細書で用いた記述や用語は、説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではない。本明細書で用いた「含む」、「包含する」または「有する」、「含有する」、「関する」及びそれらの変形は、以下で挙げた事項及びその等価物並びに他の事項を含むことを趣旨とする。
【0089】
本発明が提供する具体的な実施形態の一部または全部は、本発明が、菌株から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を顕著に増加させることができるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子を見出したことに基づくものである。これらのアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子は、PHA(特にP(3HB-co-3HHx))の合成に必要な他の遺伝子を有する菌株に導入されることにより、それらの菌株から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させることに用いられ、遺伝子操作された微生物を得ることができる。これらの遺伝子操作された微生物は、PHA(特にP(3HB-co-3HHx))の生産に適用することができ、従来のPHA発酵生産菌株の3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いP(3HB-co-3HHx)の発酵生産能力を向上させることができる。本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現することに加え、遺伝子操作された微生物は他の修飾が施されてもよい。本発明は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種の発現という修飾を、少なくともPHAポリメラーゼ(phaC)変種の発現、phaJの発現の向上といった修飾と組み合わせて行うことにより、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いP(3HB-co-3HHx)の生産量を更に増加させることできることを見出した。
【0090】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号9~15のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を提供する。これらの変種は菌株から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を有意に増加させることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、本発明は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種をコードする、配列番号1~7のいずれかで示されるヌクレオチド配列を有する遺伝子を提供する。これらの遺伝子はラルストニア・ユートロファにおいて発現するように最適化されたものである。
【0092】
いくつかの実施形態では、本発明は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を発現する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0093】
いくつかの実施形態では、本発明は、ゲノムに上記のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が挿入された遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0094】
いくつかの実施形態では、本発明は、ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株のゲノムに上記のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が挿入された遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株に比べて、これらの遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファから生産されるP(3HB-co-3HHx)における3-ヒドロキシヘキサン酸の割合は有意に増加する。
【0095】
いくつかの実施形態では、本発明は、ラルストニア・ユートロファBPS-050菌株のゲノムにおけるphaC遺伝子の位置に上記のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が挿入された遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。
【0096】
いくつかの実施形態では、本発明は、ラルストニア・ユートロファH16菌株のゲノムにおけるphaC遺伝子がPHAポリメラーゼ変種(配列が配列番号16が示すとおりである)のコーディング遺伝子に置換された上で、そのゲノムに上記のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が挿入された遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。これらの遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファから生産されるP(3HB-co-3HHx)における3-ヒドロキシヘキサン酸の割合は有意に増加する。
【0097】
いくつかの実施形態では、本発明は、ラルストニア・ユートロファBPS-050のゲノムにおけるphaJ4b遺伝子の上流プロモーターが配列番号17で示されるプロモーターに置換された上で、そのゲノムに上記のアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子が挿入された遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファを提供する。これらの遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファから生産されるP(3HB-co-3HHx)における3-ヒドロキシヘキサン酸の割合は有意に増加する。
【0098】
下記の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲はそれらに制限されない。
【0099】
特に説明がない限り、下記の実施例で使用される実験方法は、いずれも通常の方法である。
【0100】
特に説明がない限り、下記の実施例で使用される材料、試薬などは、いずれも商業ルートから入手可能である。ここで、使用される酵素試薬は、New England Biolabs(NEB)社から購入されたものであり、プラスミドを抽出するためのキットは、TIANGEN Biotech(Beijing)Co.,Ltd.から購入されたものであり、DNA断片を回収するためのキットは、米国omega社から購入されたものであり、相応の操作手順は、製品の取り扱い説明書に準じて厳密に行った。特に説明がない限り、培地はいずれも脱イオン水で製造したものである。
【0101】
下記の実施例に用いられた培地の処方は、下記の通りである。
種培地I:ペプトン10g/L、酵母エキス5g/L、グルコース3g/L。
種培地II:パーム油0.15%、ペプトン10g/L、酵母エキス5g/L。
生産培地:パーム油1.0% 、NaHPO・12HO 9.85g/L、KHPO 1.5g/L、NHCl 3.0g/L、微量元素溶液I 10mL/L、及び微量元素溶液II 1mL/L。そのうち、微量元素溶液Iの組成は、MgSO 20g/L、CaCl 2g/Lである。微量元素溶液IIの組成は、ZnSO・7HO 100mg/L、MnCl・4HO 30mg/L、HBO 300mg/L、CoCl・6HO 200mg/L、CuSO・5HO 10mg/L、NiCl・6HO 20mg/L、NaMoO・2HO 30mg/Lである。上記の試薬は、いずれもSinopharm Chemical Reagent Co., Ltd.から購入されたものである。
【実施例1】
【0102】
実施例1 BPS-050を出発菌株とした、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する形質転換体ライブラリーの構築
本実施例では、ラルストニア・ユートロファBPS-050を出発菌株として、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現するように、出発菌株を修飾した。具体的には、下記のステップを含む。
【0103】
ステップ1:基礎プラスミドの構築
ラルストニア・ユートロファのゲノムをテンプレートとして、PCR増幅を行うことで、phaCの上流及び下流と相同な断片phaC-H1及びphaC-H2を得、後続操作を容易するために、phaC-H1、phaC-H2の後端及び前端にBsaIを添加した。修飾されたプラスミドpK18mob(Orita, I.,Iwazawa,et al.J. Biosci. Bioeng.113,63-69)をテンプレートとして、PCR増幅を行うことで、ベクター断片を得た。Gibson Assembly法によりphaC-H1、phaC-H2をベクター断片に連結させ、組換えプラスミドpKO-Cを得た。使用したプライマーは、表1に示す通りである。
【0104】
【表1】
【0105】
ステップ2:遺伝子の合成
異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を、それぞれ、ラルストニア・ユートロファにおいて良好に発現するように、配列を最適化した。最適化されたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の配列は、配列番号1~配列番号7が示すとおりである。
【0106】
上記の最適化されたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を合成に供する際に、後続操作を容易するために、DNA配列の上流にGGTCTCATCを添加し、下流にGTGAAGAGACCを添加した。
【0107】
ステップ3:標的遺伝子を含む目的菌株の構築
ステップ1で構築したプラスミドpKO-C、及び遺伝子合成会社から返送した最適化されたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドについて、Golden gate組み立てを行い、それぞれ異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を持つ組換えプラスミドpKO-C-N(Nは、載せたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を表す)を得た。各プラスミドをそれぞれ大腸菌S17-1に導入し、さらに接合導入法によりラルストニア・ユートロファBPS-050に導入し、自殺プラスミドが宿主菌内で複製できない特性を利用して、スペクチノマイシン500μg/mLとアプラマイシン100μg/mLを同時に含むLBプレートで陽性クローンをスクリーニングした。相同な断片を有する組換えプラスミドがゲノム上のH1およびH2が存在する特定の位置に組み込まれた当該陽性クローンを、第一の相同組換え菌とした。
【0108】
第一の相同組換え菌をショ糖100mg/mLを含むLBプレート上に画線状に塗布して、単一のクローンを培養し、これらの単一のクローンからスペクチノマイシン耐性のないクローンをスクリーニングし、プライマーFphaCH1-F:tggtctggctggcggactgag、及びプライマーphaCH2-R:ggcgaactcatcctgcgcctcによるPCRにより、標的遺伝子が挿入された組換え菌を同定した。得られた組換え菌は、プラスミドが安定なラルストニア・ユートロファReΔproCΔphaC::Nである(Nは挿入された遺伝子である)。
【0109】
ステップ4:ラルストニア・ユートロファの元のphaB遺伝子を過剰発現する組換え菌の構築
ステップ3における組換えプラスミドの構築方法を参考して、Gibson組み立てによりラルストニア・ユートロファの元のphaB遺伝子を含む組換えプラスミドを構築した。具体的な方法は下記の通りである。
【0110】
ステップ1で得られたプラスミドをテンプレートとして、PCR増幅を行うことで、プラスミド骨格断片を得た。ラルストニア・ユートロファBPS-050のゲノムをテンプレートとして、増幅を行うことでphaB遺伝子断片を得た。上記の2つの断片をGibson Assembly法により連結させ、組換えプラスミドpKO-C-phaBを得た。使用したプライマーは、表2に示す通りである。
【0111】
【表2】
【0112】
pKO-C-phaBプラスミドを大腸菌S17-1に導入し、上記のステップ3の方法を参考して組換え菌を構築し、最終的にphaB遺伝子がラルストニア・ユートロファゲノムのphaC遺伝子の位置に取り込まれた過剰発現菌株ReΔphaC::phaB(phaB過剰発現と略称する)を得た。
【実施例2】
【0113】
実施例2 菌株の発酵特性の測定(1)
ラルストニア・ユートロファBPS-050及び過剰発現菌株ReΔphaC::phaBを対照菌とし、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株の発酵特性をそれぞれ測定した。
【0114】
まず、グリセロールチューブに保存された実施例1で構築された各菌株(1000μL)をそれぞれ種培地I(20mL)に接種し、種の一次培養を12時間行った。次に、1%の種培養液Iを種培地IIに接種し、種の二次培養を行った。その後、10v/v%の種培養液IIを、1.1Lの生産培地を含む2Lの小型発酵タンク(T&J Bioengineering社製)に接種した。操作条件は、培養温度30℃、攪拌速度800rpm、通気量1L/minであり、pHを6.7~6.8とした。pH制御には、28%のアンモニア水溶液が用いられた。培養中、炭素源としてパーム油を継続的に使用し、培養時間は54時間であった。
【0115】
発酵液を採取して遠心分離して菌体を得た。菌体を一定の重量となるように乾燥させた。乾燥菌体の重量を測定して、乾燥重量とした。得られた乾燥菌体にクロロホルム100mLを加え、室温で一昼夜攪拌し、菌体内のポリエステルを抽出した。菌体残渣を濾別した後、全容積が約30mLとなるようにエバポレーターで濃縮させ、その後、約90mLのヘキサンをゆっくり添加し、ゆっくり攪拌しながら1時間放置した。析出したポリエステルを濾別した後、5CTCで3時間真空乾燥した。乾燥ポリエステルの質量を測定し、菌体内のポリエステル含有量を算出した。
【0116】
その結果、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株はいずれも、対照菌より高いPHAの割合を示した。また、対照菌に比べて、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合はいずれも有意に増加し、各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合を図1に示し、その対応の乾燥重量及びPHAの割合を図2に示した。
【実施例3】
【0117】
実施例3 BPS-050を出発菌株とした、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する形質転換体ライブラリーの構築及びその発酵特性の測定
本実施例では、BPS-050を出発菌株として、phaJ4b遺伝子の上流プロモーターをphaJ194(配列番号17)に置換し、そこにおいてアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子(配列番号1~7)を発現させた。
【0118】
ステップ1:相同組換えによるBPS-050のphaJ4b遺伝子の上流プロモーターの置換
(1)ラルストニア・ユートロファBPS-050のゲノムをテンプレートとして、PCR増幅を行うことで、phaJ-H1 Fp、phaJ-H1 Rpを用いて、phaJ遺伝子のプロモーターの上流と相同な断片H1を得た。phaJ-H2 Fp、phaJ-H2 Rpを用いて、phaJ遺伝子のプロモーターの上流と相同な断片H2を得た。
(2)遺伝子合成によりphaJ遺伝子のプロモーターphaJ194(配列番号17)を合成した。
(3)Gibson Assembly法により、PCRにより得られたH1、H2及びphaJ194プロモーターをベクター断片に連結させ、組換えプラスミドpK18mob-phaJ194を得た。使用したプライマーは、表3に示す通りである。
【0119】
【表3】
(4)組換えプラスミドpK18mob-phaJ194を大腸菌S17-1に導入し、さらに接合導入法により出発菌株に導入し、自殺プラスミドが宿主菌内で複製できない特性を利用して、カナマイシン200μg/mLとアプラマイシン100μg/mLを同時に含むLBプレートで陽性クローンをスクリーニングした。相同な断片を有する組換えプラスミドがゲノム上のH1およびH2が存在する特定の位置に組み込まれた当該陽性クローンを、第一の相同組換え菌とした。
【0120】
第一の相同組換え菌をショ糖100mg/mLを含むLBプレート上に画線状に塗布して、単一のクローンを培養し、これらの単一のクローンからカナマイシン耐性のないクローンをスクリーニングし、プライマーphaJ FpとphaJ RpによるPCRにより、相応のサイズの組換え菌を同定した。得られた組換え菌はラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac_phaJ194(Re_phaJ194と略称する)である。
【0121】
ステップ2:実施例1の方法を参考して、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子(配列番号1~7)を、それぞれラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac_phaJ194のゲノムに挿入した。
【0122】
ステップ3:ラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac_phaJ194においてラルストニア・ユートロファの元のphaB遺伝子を過剰発現させ、phaBを過剰発現する菌株であるphaB過剰発現-2を得た。
【0123】
ステップ4:ステップ2及びステップ3で構築された菌株について、実施例2の方法により発酵培養及びPHA測定を行った。その結果、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株はいずれも、対照菌より高いPHAの割合を示した。また、対照菌に比べて、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合はいずれも有意に増加した。各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合を図3に示し、その対応の乾燥重量及びPHA割合を図4に示した。
【実施例4】
【0124】
実施例4 H16を出発菌株としたアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する形質転換体ライブラリーの構築及びその発酵特性の測定
本実施例では、ラルストニア・ユートロファH16を出発菌株として、H16のゲノムにおけるphaC遺伝子からphaC遺伝子変種(タンパク質をコードする配列が配列番号16が示すとおりである)への突然変異を行うことにより、組換え菌に3HHxの合成能力を付与し、得られた組換え菌においてアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子(配列番号1~7)を発現させた。
【0125】
ステップ1:ラルストニア・ユートロファゲノムにおけるphaC遺伝子の置換
遺伝子合成により配列番号8で示される配列を合成し、該配列はphaC遺伝子の上流と下流の約600bpの断片及びphaC遺伝子変種を持つ。プラスミドの構築には、実施例1のステップ1で構築されたプラスミドを用いて、遺伝子合成を行う際にDNA配列の上流にGGTCTCATCを添加し、下流にGTGAAGAGACCを添加した。Golden gate法により合成遺伝子をベクター断片に連結させ、組換えプラスミドpK18mob-ΔphaC::phaCacを得た。
【0126】
組換えプラスミドpK18mob-ΔphaC::phaCacを大腸菌S17-1に導入し、さらに接合導入法によりラルストニア・ユートロファに導入し、自殺プラスミドが宿主菌内で複製できない特性を利用して、カナマイシン200μg/mLとアプラマイシン100μg/mLを同時に含むLBプレートで陽性クローンをスクリーニングした。相同な断片を有する組換えプラスミドがゲノム上のH1およびH2が存在する特定の位置に組み込まれた当該陽性クローンを、第一の相同組換え菌とした。
【0127】
第一の相同組換え菌をショ糖100mg/mLを含むLBプレート上に画線状に塗布して、単一のクローンを培養し、これらの単一のクローンからカナマイシン耐性のないクローンをスクリーニングし、プライマーphaC-H1 FPとphaC-H2 RPによるPCRにより、phaC遺伝子が置換された組換え菌を同定した。得られた組換え菌はラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCac(Re_H16と略称する)である。
【0128】
ステップ2:実施例1の方法を参考して、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子(配列番号1~7)を、それぞれステップ1で構築されたラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCacのゲノムに挿入した。
【0129】
ステップ3:ステップ1で構築されたラルストニア・ユートロファReΔphaC::phaCacにおいてラルストニア・ユートロファH16の元のphaB遺伝子を過剰発現させ、phaBを過剰発現する菌株であるphaB過剰発現-3を得た。
【0130】
ステップ4:ステップ2及びステップ3で構築された菌株について、実施例2の方法により発酵培養及びPHA測定を行った。その結果、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株はいずれも、対照菌より高いPHAの割合を示した。また、対照菌に比べて、異なるアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合はいずれも有意に増加した。各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合を図5に示し、その対応の乾燥重量及びPHA割合を図6に示した。
【0131】
実施例5 菌株の発酵特性の測定(2)
上記の実施例1、実施例3及び実施例4で構築された菌株について、他の植物油を炭素源とした発酵実験を行った。即ち、対応の発酵測定方法における炭素源を、パーム油からそれぞれ大豆油及び亜麻仁油に変換した上で、実施例1、実施例3及び実施例4で構築された菌株について発酵特性の測定を行った。その結果、大豆油または亜麻仁油を炭素源とした場合、各菌株から生産されたPHAにおけるHの割合、細胞乾燥重量及びPHAの割合は、パーム油を炭素源とした場合に測定した発酵特性の結果に一致する傾向があり、顕著な差異が見られなかった。
【0132】
ここで、一般的な説明及び具体的な実施形態により本発明を詳細に説明したが、本発明を基にいくつかの修正または改進を行ってもよいことは、当業者にとって自明である。よって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で行われたこれらの修正または改進はいずれも本発明の保護範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子を発現する遺伝子操作された微生物、微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させるための、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種及びそのコーディング遺伝子の使用、ならびに微生物から生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させる方法を提供する。微生物においてアセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させることにより、微生物から合成されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が有意に増加するとともに、微生物細胞におけるPHAの高い含有量を保証することができる。本発明が提供するアセトアセチルCoAレダクターゼ変種、そのコーディング遺伝子及び遺伝子操作された微生物は、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いPHAを生産する菌株の開発に、新規な遺伝子及び菌株資源を提供し、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が高いPHAの生産において重要な経済価値及び応用見通しがある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024515917000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファがパーム油を炭素源とした場合に生産されるPHAにおける3-ヒドロキシヘキサン酸の割合を増加させるための、アセトアセチルCoAレダクターゼ変種またはそのコーディング遺伝子の使用であって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号10が示すとおりであることを特徴とする、前記使用。
【請求項2】
前記コーディング遺伝子のヌクレオチド配列が配列番号が示すとおりであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記使用は、
(1)ラルストニア・ユートロファに前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、及び
(2)ラルストニア・ユートロファのゲノムに前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つまたは複数のコピーを挿入する方式
のいずれか一種または多種で実現されることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが、さらに、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
のうちの一種を含み、
前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号16が示すとおりであり、
前記(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性の向上は、配列番号17で示されるプロモーターにより、ゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現されることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現する遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファであって、前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号10が示すとおりであることを特徴とする、遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項6】
前記発現は、
(1)前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子を含むプラスミドを導入する方式、及び
(2)ゲノムに前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子の一つまたは複数のコピーを挿入する方式
のいずれか一種または多種で実現されることを特徴とする、請求項に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項7】
前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種のコーディング遺伝子は、配列番号が示すとおりであることを特徴とする、請求項に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項8】
前記遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファが、さらに、
(1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)を合成できるPHAポリメラーゼ変種を発現させる修飾、及び
(2)(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性を向上させる修飾
うちの一種を含み
前記PHAポリメラーゼ変種のアミノ酸配列は、配列番号16が示すとおりであり、
前記(R)-エノイルCoAヒドラターゼの発現及び/または酵素活性の向上は、配列番号17で示されるプロモーターにより、ゲノムにおける(R)-エノイルCoAヒドラターゼのコーディング遺伝子の転写を開始させることにより実現されることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファ。
【請求項9】
ラルストニア・ユートロファを修飾することにより前記アセトアセチルCoAレダクターゼ変種を発現させるステップを含むことを特徴とする、請求項~8のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたラルストニア・ユートロファの構築方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2024515917000001.app
【国際調査報告】