(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ドナープレート、堆積デバイス、および堆積方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20240404BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C23C14/00 Z
H05K3/12 630Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546316
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 NL2022050043
(87)【国際公開番号】W WO2022164320
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511095850
【氏名又は名称】ネーデルランドセ・オルガニサティ・フォール・トゥーヘパスト-ナトゥールウェテンスハッペライク・オンデルズーク・テーエヌオー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロプ・ヤーコプ・ヘンドリクス
【テーマコード(参考)】
4K029
5E343
【Fターム(参考)】
4K029BA02
4K029BA11
4K029BA35
4K029BA46
4K029BA58
5E343AA33
5E343AA40
5E343BB24
5E343BB40
5E343DD25
(57)【要約】
ターゲット(30)上での堆積物質(2)の堆積のためのドナープレート(1)が、本明細書において開示される。ドナープレートは、可撓性基板(10)を備え、この可撓性基板(10)は、電極層(11)、第1の電気絶縁層(12)、抵抗加熱器層(13)、第2の電気絶縁層(14)、および、ターゲット上に堆積される堆積物質(2)を保持するための1つまたは複数の凹部(155)が設けられたパターン層(15)を第1の主表面(101)に続いて有する。電極層(11)は、相補的な形状のものであり互いに電気的に絶縁されている第1および第2の電極(111、112)を備える。抵抗加熱器層(13)は、第1の電気絶縁層における少なくとも1つのそれぞれのスリット(121、122)を介して、第1の電極(111)の接触面および第2の電極(112)の接触面のそれぞれに電気的に接続されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット(30)上での堆積物質(2)の堆積のためのドナープレート(1)であって、前記ドナープレートが、可撓性基板(10)を備え、前記可撓性基板(10)が、電極層(11)、第1の電気絶縁層(12)、抵抗加熱器層(13)、第2の電気絶縁層(14)、および、前記ターゲット上に堆積される堆積物質(2)を保持するための1つまたは複数の凹部(155)が設けられたパターン層(15)を第1の主表面(101)に続いて有し、前記電極層(11)が、相補的な形状のものであり互いに電気的に絶縁されている第1および第2の電極(111、112)を備え、前記抵抗加熱器層(13)が、前記第1の電気絶縁層における少なくとも1つのそれぞれのスリット(121、122)を介して前記第1の電極(111)の接触面および前記第2の電極(112)の接触面のそれぞれに電気的に接続されている、ドナープレート(1)。
【請求項2】
前記抵抗加熱器層(13)の各位置において、前記第1の電極(111)の前記少なくとも1つのスリット(121)と前記第2の電極(112)の前記少なくとも1つのスリット(122)との間の最小距離が、最大限でも前記抵抗加熱器層(13)の有効表面積の平方根の10分の1である、請求項1に記載のドナープレート(1)。
【請求項3】
前記第1の電極(111)および前記第2の電極(112)が、それぞれの櫛指(1111、1121)のセットを有する櫛形状であり、前記第1の電極(111)の前記櫛指(1111)および前記第2の電極(112)の前記櫛指(1121)が、交互配置されており、前記第1の電極(111)の前記少なくとも1つのスリット(121)が、前記第1の電極(111)の各櫛指(1111)のためのそれぞれのスリットを備え、前記第2の電極(112)の前記少なくとも1つのスリット(122)が、前記第2の電極(112)の各櫛指(1121)のためのそれぞれのスリットを備え、前記第1の電気絶縁層(12)におけるそれぞれのスリットが、前記櫛指のそれぞれの接触面(1112、1122)の上に前記櫛指の長手方向に延在する、請求項2に記載のドナープレート(1)。
【請求項4】
前記第1の電極(111)および前記第2の電極(112)が、螺旋軌道に従って互いに並んで延在し、前記少なくとも1つの第1のスリット(121)が、前記第1の電極(111)の前記接触面の上に長手方向に延在し、前記少なくとも1つの第2のスリット(122)が、前記第2の電極(112)の前記接触面の上に長手方向に延在する、請求項2に記載のドナープレート(1)。
【請求項5】
前記凹部(155)のそれぞれによって画定されたそれぞれのゾーン内で前記第2の電気絶縁層(14)と前記パターン層(15)との間に配置された、それぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットをさらに備える、請求項1に記載のドナープレート(1)。
【請求項6】
少なくとも1つの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットが、少なくとも2つの独立に制御可能な抵抗加熱要素を備える、請求項5に記載のドナープレート(1)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のドナープレート(1)と、プレート担体(16)と、を備え、前記ドナープレート(1)が、その第1の主表面(101)の反対側の第2の主表面(102)において、前記プレート担体(16)の第1のプレート担体表面(161)に横方向に取り付けられている、堆積デバイス。
【請求項8】
前記プレート担体(16)が、第1の側面(163)では基準フレーム(REF)に取り付けらており、前記第1の側面の反対側の第2の側面(164)では、前記第1の側面から前記第2の側面への軸線に沿った方向に前記プレート担体(16)が膨張するのを可能にするために、前記基準フレームに摺動可能に結合されている、請求項7に記載の堆積デバイス。
【請求項9】
前記ドナープレート(1)が、ラウンドゴーイングシール(165)とともに前記プレート担体(16)に固定され、前記プレート担体が、前記プレート担体を通って延在する1つまたは複数のチャネル(166)を有し、前記チャネル(166)が、圧力制御ユニットに結合されるように構成されている、請求項7または8に記載の堆積デバイス。
【請求項10】
前記パターン層(15)の自由表面(17)に1つまたは複数のスペーサ(151)を備える、請求項7、8または9に記載の堆積デバイス。
【請求項11】
前記ドナープレート(1)が、径方向外向きの方向において、中央セクション(1C)、抵抗加熱可能な中間セクション(1I)、および周辺セクション(1P)を有し、前記中央セクションが、前記電極層(11)、前記第1の電気絶縁層(12)、前記抵抗加熱器層(13)、前記第2の電気絶縁層(14)、および前記パターン層(15)を有する前記可撓性基板(10)のセクションを備え、前記中間セクション(1I)が、前記中央セクション(1C)を取り囲み、前記ドナープレートが、その周辺セクション(1P)により前記プレート担体(16)に取り付けられる、請求項7から10のいずれか一項に記載の堆積デバイス。
【請求項12】
前記中間セクション(1I)が、前記中央セクション(1C)の熱膨張係数よりも大きな熱膨張係数を有する、請求項11に記載の堆積デバイス。
【請求項13】
前記中間セクション(1I)が、複数の加熱層を備える、請求項11または12に記載の堆積デバイス。
【請求項14】
前記中央セクション(1C)が、さらなる抵抗加熱器層(18)を備え、前記抵抗加熱器層(13)および前記さらなる抵抗加熱器層(18)が、前記中央セクション(1C)の仮想中央面(19)の両側に配置されている、請求項11、12または13に記載の堆積デバイス。
【請求項15】
前記中央セクション(1C)の厚さが、径方向外向きの方向に増大する、請求項11、12または13に記載の堆積デバイス。
【請求項16】
可撓性基板(10)を備えるドナープレート(1)を使用して堆積する方法であって、前記可撓性基板(10)が、電極層(11)、第1の電気絶縁層(12)、抵抗加熱器層(13)、第2の電気絶縁層(14)、および、ターゲット(30)上に堆積される堆積物質(2)を保持するための1つまたは複数の凹部(151)が設けられたパターン層(15)を第1の主表面(101)に続いて有し、前記電極層(11)が、相補的な形状のものであり互いに電気的に絶縁されている第1および第2の電極(111、112)を備え、前記抵抗加熱器層(13)が、前記第1の電気絶縁層における少なくとも1つのそれぞれのスリット(121、122)を介して、前記第1の電極(111)および前記第2の電極(112)のそれぞれに電気的に接続されており、前記方法が、
前記ドナープレートをそのパターン層(15)が接触しない態様で前記ターゲット(30)の正面に位置付けるステップ(S1)と、
前記ドナープレートを前記抵抗加熱器層(13)によって実質的に一様に加熱することにより前記ドナープレートを変形させて、前記パターン層(15)を前記ターゲットに向かって移動させるステップ(S2)と、
堆積される前記堆積物質を前記凹部(151)から前記ターゲット上へ放出するステップ(S3)と、
前記ドナープレートを冷却して、前記パターン層(15)を前記ターゲットから取り去るステップ(S4)と、
を含む、方法。
【請求項17】
前記ドナープレートが、前記凹部のそれぞれによって画定されたそれぞれのゾーン内で前記第2の電気絶縁層(14)と前記パターン層(15)との間に配置された、それぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットを有し、前記方法が、前記それぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットに電気エネルギーを供給することにより前記放出するステップ(S3)を独立に制御することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット上での堆積物質の堆積のためのドナープレートに関する。
【0002】
本発明は、ドナープレートを備える堆積デバイスにさらに関する。
【0003】
本発明は、ドナープレートを使用して堆積する方法になおもさらに関する。
【0004】
本発明はまた、プログラム可能なデバイスに前述の方法を実行させるコンピュータプログラムを含む記録担体に関する。
【背景技術】
【0005】
堆積される堆積物質がドナープレートの表面における凹部からターゲットの表面上へ放出される堆積方法が知られている。例えば、米国特許出願公開第2017/0013724号は、ドナー基板の溝内に収容されたフィラーをレセプタオブジェクトへ転写する、トラックスパターン生成装置(tracks pattern production apparatus)を開示している。その文献では、フィラーの熱転写をもたらすために、走査レーザーが提案されている。転写されるフィラーがレセプタオブジェクト上に堆積される横方向位置は、フィラーの出所である溝の横方向位置に依存するばかりでなく、フィラーがその放出時に溝を離れる転写方向にも依存する。実際には、転写方向を正確に制御することが難しい場合もあり、そのため、堆積位置における横方向のずれが生じる。したがって、堆積位置のより正確な制御を可能にする手段を提供することが必要とされている。
【0006】
図1に示されるように、他の堆積方法が提案されている。例えば機能性インクといったフィラーの放出を引き起こすための熱を誘発するために、走査レーザーを使用する代わりに、抵抗加熱が適用される。
図1に示された例では、陽極および陰極が、担体として機能するウェハに埋め込まれる母線として設けられ、抵抗加熱器が、相反する極性の母線の対の間に延在するそれぞれの抵抗層セクションを備える抵抗層として設けられる。フィラーは、抵抗層が設けられた担体の側に堆積された絶縁層における空洞内に提供される。電気エネルギーを供給すると、抵抗層セクションは
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0013724号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様によれば、請求項1に記載のターゲット上での堆積物質の堆積のためのドナープレートが提供される。
【0009】
ドナープレートは、可撓性基板を備え、この可撓性基板は、電極層、第1の電気絶縁層、抵抗加熱器層、第2の電気絶縁層、および、ターゲット上に堆積される堆積物質を保持するための1つまたは複数の凹部が設けられたパターン層を第1の主表面に続いて有する。
【0010】
電極層は、相補的な形状のものであり互いに電気的に絶縁されている第1および第2の電極を備え、抵抗加熱器層は、第1の電気絶縁層における少なくとも1つのそれぞれのスリットを介して、第1の電極の接触面および第2の電極の接触面のそれぞれに電気的に接続されている。
【0011】
抵抗加熱器層に電気エネルギーを供給すると、抵抗加熱器層において発生した熱が可撓性基板を変形させ、その結果、パターン層がターゲットに向かって移動する。その結果、パターン層とターゲットとの間の間隙が減少され、それにより、転写方向のずれに起因する堆積位置のずれが減少される。
【0012】
堆積される堆積物質は、粘性材料である。粘性は、典型的には(望ましくない変形を回避するために)少なくとも50Pa.sである。場合によっては、粘性は、1000Pa.s程度である。例示的な堆積物質は、導電性ポリマー、金属化ポリマー、ソルダペースト、導電性接着剤などの導電性材料、電気絶縁ポリマーなどの電気絶縁材料、半導電性ポリマーなどの半導電性材料である。あるいは、またはさらに、堆積物質は、導電性、半導電性、または絶縁性を問わず、断熱材として、またはむしろ熱導体として、機能し得る。
【0013】
上述の要素以外の追加的な要素が存在し得る。例えば、熱拡散材層が、凹所を備える領域において第2の電気絶縁層とパターン層との間に設けられて、凹所内の堆積物質に向かう熱流束のさらなる向上に寄与することができる。例示的な実施形態では、パターン層は、断熱材料のものである。凹部は、抵抗加熱器層から堆積物質に向かう効率的な熱の流れを可能にするために、そこに途切れを形成する。
【0014】
一実施形態では、抵抗加熱器層の各位置において、第1の電極の少なくとも1つのスリットと第2の電極の少なくとも1つのスリットとの間の最小距離は、最大限でも抵抗加熱器層の有効表面積の平方根の10分の1である。本明細書において言及される抵抗加熱器層の有効表面積は、両方の電極と電気的に接続されている抵抗加熱器層の面積である。この方策によれば、抵抗加熱器層を加熱するための電力が比較的低い供給電圧で供給され得ることが達成される。より低い供給電圧は、より薄い第1の電気絶縁層の実装を可能にする。さらに、より低い供給電圧は、電極間隔の縮小を可能にする。結果として、電極層は、効率的で実質的に均質のヒートシンクとして機能することができる。それにより、ドナープレートは、その元の形状を復元するために急速に冷えることができる。結果として、ドナープレートは、堆積された堆積物質が凝固してドナープレートに付着する機会を有する前に、ターゲット表面から離れるように後退することができる。
【0015】
この実施形態の例では、第1および第2の電極は、それぞれの櫛指(comb finger)のセットを有する櫛形状とされており、第1の電極の櫛指および第2の電極の櫛指は、交互配置されている。第1の電極の少なくとも1つのスリットは、第1の電極の各櫛指のためのそれぞれのスリットを備え、第2の電極の少なくとも1つのスリットは、第2の電極の各櫛指のためのそれぞれのスリットを備える。第1の電気絶縁層におけるそれぞれのスリットは、櫛指のそれぞれの接触面の上に櫛指の長手方向に延在する。一方、典型的には、スリット間の距離lは一定であり、抵抗加熱器層の厚さdは一様であるが、これは必須ではない。距離lの平方とシート抵抗の積が一定であるならば、距離lおよび厚さdの変化が許容可能である。
【0016】
他の例では、第1および第2の電極は、螺旋軌道に従って互いに並んで延在する。少なくとも1つの第1のスリットは、第1の電極の接触面の上に長手方向に延在し、少なくとも1つの第2のスリットは、第2の電極の接触面の上に長手方向に延在する。
【0017】
ドナープレートのいくつかの実施形態は、凹部のそれぞれによって画定されたそれぞれのゾーン内で第2の電気絶縁層とパターン層との間に配置された、それぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットをさらに備える。独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットは、凹部からの堆積物質の放出を独立に制御することを可能にする。それにより、凹部からの堆積物質の放出の時点が、それぞれの抵抗加熱器層が作動される時点から独立に選択され得る。それにより、放出された堆積物質がターゲットに到達する速度を制御することが可能である。その例では、少なくとも1つの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットが、少なくとも2つの独立に制御可能な抵抗加熱要素を備える。少なくとも2つの独立に制御可能な抵抗加熱要素を独立に制御することを通じて、凹部から放出される堆積物質に及ぼされる力の分配を、ターゲット表面の形態に適応させることができる。また、このことは、ターゲット表面上で堆積物質が凝固する形状の制御のさらなる方法を可能にする。
【0018】
第2の態様によれば、請求項7に記載の堆積デバイスが提供される。堆積デバイスは、実施形態のうちの1つまたは上記で指定された実施形態の特定の例によるドナープレートを備え、プレート担体をさらに備える。ドナープレートは、その第1の主表面の反対側の第2の主表面において、プレート担体の第1のプレート担体表面に横方向に取り付けられる。プレート担体は、ドナープレートのための保持器として機能する。可撓性基板はその周辺においてのみドナープレート担体に取り付けられるので、ドナープレートは、その周辺における取付けによって定められた制約内で、熱膨張の結果として自由に変形することができる。プレート担体の一例では、プレート担体は、第1の側面では、基準フレームに取り付けられ、第1の側面の反対側の第2の側面では、前述の第1の側面から前述の第2の側面への軸線に沿った方向にプレート担体が膨張することを可能にするために、線形スライドにより基準フレームに摺動可能に結合される。プレート担体は、直接加熱されないが、ドナープレートにおいて誘発した熱に起因する温度変化にさらされる可能性がある。このようにして、そのような温度変化に起因するプレート担体の変形を回避することができる。非常に高い堆積精度が要求される場合、パターンの設計を前述の摺動に起因するパターン要素の横方向におけるずれの補償に適合させることが検討され得る。予想されるずれ、それとともに、適切な適合は、例えばシミュレーションによって比較的容易に計算することができる。あるいは、またはさらに、ターゲットにおける堆積材料の位置を測定すること、および、それらの観測からドナープレートのための改善されたパターンを設計することが、検討され得る。
【0019】
堆積デバイスの一実施形態では、ドナープレートは、ラウンドゴーイングシール(round going seal)とともにプレート担体に固定される。プレート担体は、その一例では、プレート担体を通って延在する1つまたは複数のチャネルを有し、このチャネルは、圧力制御ユニットに結合されるように構成されている。ドナープレートは、堆積モードに先立つ堆積デバイスの待機モードにおいてドナープレートがプレート担体表面に対して平坦に保持されるように、あらかじめ張力をかけられた態様でプレート担体に取り付けられてもよい。しかし、あらかじめの張力は補償されなければならないので、上記のことは、ドナープレートを十分に変形させるのに比較的大きな供給パワーが必要であることを意味する。この実施形態では、ドナープレートがあらかじめの張力を伴って取り付けられることは必須ではない。圧力制御ユニットは、待機モードでは、ドナープレートがプレート担体に対して平坦にしっかりと保持されるように、ドナープレートの中央において真空を適用するように構成される。プレートの変形中、真空シールは、自動的に破壊されるべきである。これは、プレートの変形により空気が通過することを可能にする一時的な開口部がそこに生じて真空が解消されるという点において、実現され得る。
【0020】
堆積デバイスの一実施形態では、1つまたは複数のスペーサが、パターン層の自由表面に設けられる。スペーサは、ドナープレートとターゲットとの間の安定した基準距離を維持することに寄与する。
【0021】
堆積デバイスの一実施形態では、ドナープレートは、径方向外向きの方向において、中央セクション、抵抗加熱可能な中間セクション、および周辺セクションを有する。その中で、中央セクションは、電極層、第1の電気絶縁層、抵抗加熱器層、第2の電気絶縁層、およびパターン層を有する可撓性基板のセクションを備える。中間セクションは、中央セクションを取り囲み、ドナープレートは、その周辺セクションによりプレート担体に取り付けられる。中間セクションを抵抗加熱することにより、ドナープレートの中央セクションは、実質的な変形を伴わずにターゲットに向かって平行移動され得る。この実施形態の例では、中間セクションは、中央セクションの熱膨張係数よりも大きな熱膨張係数を有する。これは、基板が局所的に改良されるという点において実現され得る。
【0022】
それにより、中間セクションの実質的な変形が達成され得る。
【0023】
一例では、上記のような区分されたプレートの中間セクションは、複数の加熱層を備えることができる。それにより、比較的大きな熱流束が誘導されて、中間セクションの相当な変形が実現され得る。
【0024】
一例では、上記のような区分されたプレートの中央セクションは、さらなる抵抗加熱器層を備え、抵抗加熱器層およびさらなる抵抗加熱器層は、中央セクションの仮想中央面の両側に配置される。この例では、パターン層により接近して配置された抵抗加熱器層のうちの一方が、堆積物質の放出をもたらすために加熱される。プレート担体により近い抵抗加熱器層のうちのもう一方は、中央セクションの厚さ方向における温度勾配を最小限に抑えるように加熱され、その結果、中央セクションの変形が緩和される。
【0025】
上記のような区分されたプレートの一例では、中央セクションの厚さは、径方向外向きの方向に増大する。結果として、熱平衡時間も径方向外向きの方向に増大する。したがって、熱膨張は、ドナープレートの径方向外方位置では、より径方向内方の位置と比較すると相対的に高くなる。それにより、ドナープレートの曲りが補償されて、印刷領域においてドナープレートが平坦に保たれ得る。径方向外向きに増大する厚さは、例えば、可撓性基板の厚さがその方向に増大するという点において、または、可撓性基板がプレート担体に面する側にそのような厚さプロファイルを有する被覆を備えるという点において、与えられ得る。
【0026】
第3の態様によれば、請求項16に記載の堆積方法が提供される。本明細書において指定される堆積する方法は、可撓性基板を備えるドナープレートを使用し、この可能性基板は、電極層、第1の電気絶縁層、抵抗加熱器層、第2の電気絶縁層、および、ターゲット上に堆積される堆積物質を保持するための1つまたは複数の凹部が設けられたパターン層を第1の主表面に続いて有し、電極層は、相補的な形状のものであり互いに電気的に絶縁されている第1および第2の電極を備え、抵抗加熱器層は、第1の電気絶縁層における少なくとも1つのそれぞれのスリットを介して、第1の電極および第2の電極のそれぞれに電気的に接続されている。
【0027】
請求項16に記載の第3の態様による方法は、
ドナープレートをそのパターン層が接触しない態様でターゲットの正面に位置付けるステップと、
ドナープレートを抵抗加熱器層によって実質的に一様に加熱することにより、熱膨張の結果としてドナープレートを変形させて、パターン層をターゲットに向かって移動させるステップと、
堆積される堆積物質を凹部からターゲット上へ放出するステップと、
ドナープレートを冷却して、パターン層をターゲットから取り去るステップと、
を含む。
【0028】
ドナープレートは、加熱されるとターゲットの方へ移動し、それとともに、場合によりターゲットに接触するので、印刷ギャップが軽減される。それにより、印刷精度が向上される。
【0029】
ドナープレートを一様に加熱するステップは、それと同時に堆積物質を十分に加熱して堆積物質の放出をもたらし得ることに、留意されたい。
【0030】
第3の態様による方法の一実施形態では、ドナープレートは、凹部のそれぞれによって画定されたそれぞれのゾーン内で第2の電気絶縁層とパターン層との間に配置された、それぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットを有し、また、方法は、前述のそれぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットに電気エネルギーを供給することにより放出するステップを独立に制御することをさらに含む。この実施形態では、堆積物質の放出は、ドナープレートの特定の状態において行われることにより堆積物がターゲットに向かって推進される速度を制御することを可能にするように制御され得る。
【0031】
方法のステップは、例えば、抵抗加熱器層および/または独立に制御可能な1つもしくは複数の抵抗加熱要素のセットへの電気エネルギーの供給を制御するために、プログラム可能プロセッサによって行われてもよい。そのために、プログラム可能プロセッサによって実行されたときにプログラム可能プロセッサに方法のそのようなステップを行わせるコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品が提供され得る。
【0032】
上記その他の態様は、図面を参照しながらより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】ターゲット上での堆積物質の堆積のための本発明によるドナープレートの一実施形態を概略的に示す図である。
【
図1B】位置の関数として測定された熱流束を示す図である。
【
図1C】本発明によるドナープレートの別の実施形態を示す図である。
【
図3A】本発明によるドナープレートの一実施形態を備える堆積デバイスの3つの動作段階のうちの1つを概略的に示す図である。
【
図3B】本発明によるドナープレートの一実施形態を備える堆積デバイスの3つの動作段階のうちの1つを概略的に示す図である。
【
図3C】本発明によるドナープレートの一実施形態を備える堆積デバイスの3つの動作段階のうちの1つを概略的に示す図である。
【
図4A】本発明によらない堆積デバイスの一実施形態における一動作段階を示す図である。
【
図4B】本発明による堆積デバイスの一実施形態における一動作段階を示す図である。
【
図5】本発明によるドナープレートの代替的な実施形態を示す図である。
【
図6】本発明による堆積デバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【
図7A】本発明による堆積デバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【
図7B】本発明による堆積デバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【
図8】シミュレーションにおいて使用されるドナープレートのモデルを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
様々な図面における同様の参照記号は、他に指示のない限り、同様の要素を示す。
【0035】
図1Aは、ターゲット30上での堆積物質2の堆積のためのドナープレート1の一実施形態を概略的に示す。ドナープレートは、例えばシリコン基板である可撓性基板10を備え、この可撓性基板10は、電極層11、第1の電気絶縁層12、抵抗加熱器層13、第2の電気絶縁層14、および、ターゲット上に堆積される堆積物質2を保持するための1つまたは複数の凹部155が設けられたパターン層15を第1の主表面101に続いて有する。パターン層15は、凹部によって画定された領域の外側の熱流束を減少させるために、断熱材層21を備えることができる。電極層11は、第1の電極111および第2の電極112を備え、第1の電極111および第2の電極112は、相補的な形状のものであり、間隙113により互いに電気的に絶縁されている。間隙は、自由空間として設けられてもよく、または、絶縁材料で満たされてもよい。例えば、担体の材料である。一例では、間隙の幅Wgは、10ミクロン未満、例えば3ミクロン未満である。抵抗加熱器層13は、第1の電気絶縁層における少なくとも1つのそれぞれのスリット121、122を介して第1の電極111の接触面および第2の電極112の接触面のそれぞれに電気的に接続されている。示された例では、スリットは、3ミクロン未満の幅Wsを有する。
【0036】
図2は、ターゲット表面30から離れる方向に見たときのプレートの上面図を示す。
【0037】
図2の実施形態では、第1の電極111および第2の電極112は、櫛形状である。電極のそれぞれは、櫛指1111、1121のそれぞれのセットを有する。
図2で分かるように、第1の電極111の櫛指1111および第2の電極112の櫛指1121は、交互配置されている。第1の電極111の少なくとも1つのスリット121は、第1の電極111の各櫛指1111のためのそれぞれのスリットを備え、第2の電極112の少なくとも1つのスリット122は、第2の電極112の各櫛指1121のためのそれぞれのスリットを備える。第1の電気絶縁層12におけるスリットは、櫛指のそれぞれの接触面1112、1122の上に櫛指の長手方向に延在する。
図2に示された例では、スリット間の距離Deは、約2mmよりも小さい。
【0038】
図1Aおよび
図2に示された例では、抵抗加熱器層13の各位置において、第1の電極111の少なくとも1つのスリット121と第2の電極112の少なくとも1つのスリット122の間の最小距離Deは、最大限でも抵抗加熱器層13の有効表面積A
effの平方根の10分の1である。本明細書において言及される抵抗加熱器層13の有効表面積A
effは、両方の電極と電気的に接続されている抵抗加熱器層の面積である。示された例では、有効表面積A
effは、電極111、112と電気接触している抵抗加熱器層13の長さLと幅Wの積に等しい。
【0039】
例として、長さLおよび幅Wのための値は、どちらも3cmであってもよく、それにより、スリット間の距離Deは、抵抗加熱器層の有効表面積Aeffの平方根の10分の1未満である。
【0040】
動作にあたっては、パターン層15における凹部155内に提供された堆積物質2を抵抗加熱するために、電極111、112間に電圧が印加される。
図1Bは、パターン層15に面している抵抗加熱器層13の表面に沿って左から右へ向かう方向における位置の関数として測定された熱流束を示す。
図1Bに示されるように、
図1Aおよび
図2の抵抗加熱器層の構成は、堆積物質が凹部155内で一様な放出速度で放出されるように、非常に均質の熱流を提供する。ささいなずれが生じるのみである。つまり、スリット122の位置において、パターン層に向かう熱流束のわずかな下落が生じる。これは、電極と抵抗加熱器層13との間に電気的接続が形成されて熱的接続も提供するので、熱の一部が電極111、112に向かって流れるという事実によるものである。しかし、スリットの小さな幅により、この影響は最小限であることが、
図1Bで分かる。また、パターン層に向かう熱流束の局所的なスパイクが認められ得るが、これは、隣り合う電極間の間隙における、より低いヒートシンク効果によるものである。つまり、電極111、112は、典型的には、一般に比較的高い伝導性を有する金属のものであるが、電気絶縁材料、例えばSiO2またはSiNは、一般により低い熱伝導性を有する。また、
図1Bで分かるように、電極間の間隙の比較的小さな幅Wgにより、スパイクはささやかなものである。さらなる方策として、高い熱伝導性を有する材料のものである熱拡散材層20が、凹部155の底部に設けられ、この熱拡散材層20は、パターン層15に向かう熱流束の一様な分配に寄与する。
図1Bは、堆積物質2を凹部の外へ放出するのに必要とされる閾値熱流束Theを熱流束の大きさがわずかに上回ることを示す。
【0041】
図1Cを参照すると、互いに連続するスリット間の距離がプレートの全領域にわたって同じであることは必須ではないことに留意されたい。例えば、
【0042】
【0043】
であるように、第1の連続するスリットの対が、距離l1を有してもよく、第2の連続するスリットの対が、異なる距離l2を有してもよい。
【0044】
式中、
【0045】
【0046】
および
【0047】
【0048】
は、それぞれ、第1の連続するスリットの対の間および第2の連続するスリットの対の間の抵抗加熱器層13の部分のシート抵抗である。それらの部分は、抵抗加熱器層の部分のための抵抗性材料の適切な選択により、または、それらの厚さの適切な選択により、互いに異なるシート抵抗を有し得る。
【0049】
図3A、
図3B、および
図3Cは、堆積デバイスの3つの動作段階を概略的に示す。例えば、初期動作段階における堆積デバイスを示す
図3Aを参照すると、堆積デバイスは、ドナープレート1およびプレート担体16を備える。ドナープレート1は、その第1の主表面101の反対側の第2の主表面102において、プレート担体16の第1のプレート担体表面161に横方向に取り付けられている。
【0050】
プレート担体16は、第1の側面163において基準フレームREFに取り付けられている。プレート担体16は、第1の側面の反対側の第2の側面164において、プレート担体16が第1の側面から第2の側面への軸線に沿った方向に膨張することを可能にするために、基準フレームに摺動可能に結合されている。
【0051】
図3Aにさらに示されるように、ドナープレート1は、ラウンドゴーイングシール165とともにプレート担体16に固定されており、プレート担体は、プレート単体を通って延在する1つまたは複数のチャネル166を有し、チャネル166は、圧力制御ユニットに結合されるように構成されている。
【0052】
この例に示された堆積デバイスは、パターン層15の自由表面17に1つまたは複数のスペーサ151を備える。
【0053】
次に、
図3A、
図3B、および
図3Cに示された3つの動作段階に対して、堆積デバイスを使用する堆積方法を説明する。
図3Aに示された第1の段階S1では、ドナープレート1は、そのパターン層15が接触しない態様でターゲット30の正面に位置付けられている。それにより、スペーサ151はターゲット表面までのパターン層15の所定の距離を維持することが分かる。あるいは、適切な位置付けを達成するために、サーボシステムが使用されてもよい。第1の段階では、ドナープレートは、典型的には、例えば約20℃である室温に等しい温度を有する。
【0054】
図3Bに示されるように、その次のステップS2では、ドナープレートを実質的に一様な態様で加熱するために、ドナープレートの抵抗加熱器層13に電圧が印加される。それにより、パターン層により近い第1の主表面101は、プレート担体16に面している第2の主表面102よりも急速に加熱され、実質的な温度差が生じる。例えば、第2の主表面102が依然として室温に近い温度を有している間に、第1の主表面101は、数百度程度の相当に高い温度、例えば500℃の温度を、急速に、例えば5から15マイクロ秒以内に達成することができる。結果として、ドナープレートは、パターン層15がターゲットに接触するまで、幅Wdにわたって変形される。その時点で、凹部151からターゲット上に堆積される堆積物質が、ステップS3において放出される。この段階でパターン層15はターゲットに接触するので、堆積物質のための移動距離は実質的にゼロであり、その結果、堆積位置における横方向のずれが最小限に抑えられる。
【0055】
図3Cに示されるように、引き続いてステップS4では、ドナープレートは、パターン層15がターゲットから離れるように後退されるように、冷却される。後退もまた、急速に、例えば20から40マイクロ秒内で行われてよく、プレートは、例えば30マイクロ秒の時間枠内で数十度、例えば40℃の一様な温度まで冷却されて、プレート担体16へ完全に後退される。
【0056】
今しがた説明した実施形態では、堆積物質2の放出は、抵抗加熱するステップによって開始される。
【0057】
図4A、
図4Bに示されるように、ドナープレート1の急速な後退は、堆積物質2のより良好な解放に寄与する。示された例では、ドナープレート1は、距離PGにわたってターゲット30から離れるように後退している。距離PGは、印刷厚さPTすなわちプレートのパターン層における凹部の深さの関数であってもよく、例えば、PGは、印刷厚さPTの約1/3から1/2である。
図4Aに示された例では、後退は比較的遅く、例えば数ミリ秒かかっており、例えば10ミリ秒かかっている。この時間枠内では、堆積物質2aは、流れ出ることにより、その堆積物質2aが放出された凹部の縁に接触し、凝固後にその縁に粘着する可能性がある。
【0058】
図4Bは、後退が数マイクロ秒から数十マイクロ秒内に、例えば10マイクロ秒内に行われた状況を示す。この時間枠内では、堆積物質2bは、流れ出るのに十分な時間を有さず、そのため、堆積物質2bが放出後にドナープレートに粘着することが回避される。
【0059】
代替的な実施形態では、凹部のそれぞれによって画定されたそれぞれのゾーン内で第2の電気絶縁層14とパターン層15との間に配置されたそれぞれの独立に制御可能な1つまたは複数の抵抗加熱要素のセットを有する、
図5に示されるようなドナープレートが使用される。動作にあたっては、ドナープレートは、ステップS2において、プレートを変形させるのに十分に高い温度までその第1の主表面101を加熱され、ステップS3において、堆積物質2の放出は、1つまたは複数の専用の抵抗加熱要素のセットの特定の選択された制御電極212a、212b、…212nに電気エネルギーを選択的に供給することによって正確に制御され得る。抵抗加熱要素は、共通の第2の電極211を共有してもよい。それにより、放出のタイミングをプレートの変形のタイミングとは独立に制御することができる。
【0060】
この実施形態では、堆積物質2の放出は、ドナープレート1の特定の状態において行われるように制御され得る。
【0061】
一例として、ステップS3において堆積物質2が放出される速度は、ドナープレート1がターゲット30に向かって移動しているときを放出のタイミングとすることによって増大され得る。例えば、ドナープレート1の熱膨張の結果としてステップS2においてもたらされるターゲット30に向かうドナープレート1の速度が10m/sであり、また、専用の抵抗加熱要素のうちの1つまたは複数にエネルギーを与えることにより堆積物質2が10m/sの速度でドナープレート1から放出されると仮定すると、堆積物質2は、ターゲット30に向かって20m/sの速度で転写されることになる。
【0062】
反対のことも起こり得る。ドナープレート1が10m/sで後退している間に堆積物質2が10m/sで放出されると、得られる速度は0m/sであり、それにより、重力が堆積物質をターゲット30上に落下させる。この減少した衝撃速度は、より低い粘性の堆積物質がはね散るのを防ぐこと、または、強い剪断力に起因する破壊を伴わずにインクで表面を包むことを可能にするのに有利であり得る。
【0063】
図6は、ドナープレート1が径方向外向きの方向において中央セクション1C、抵抗加熱可能な中間セクション1I、および周辺セクション1Pを有する堆積デバイスの例を示す。中央セクション1Cは、電極層11、第1の電気絶縁層12、抵抗加熱器層13、第2の電気絶縁層14、およびパターン層15を有する可撓性基板10のセクションを備える。中間セクション1Iは、中央セクション1Cを取り囲み、ドナープレート1は、その周辺部1Pによりプレート担体16に取り付けられる。示された例では、中央セクション1Cは、可撓性基板10によって画定された中立面の相互に対向する側に配置された底部抵抗加熱器層13CBおよび頂部抵抗加熱器層13CTを相互に有する。中間セクション1Iもまた、底部抵抗加熱器層13IBおよび頂部抵抗加熱器層13ITを有するという点において、抵抗加熱可能である。
【0064】
中間セクション1Iを抵抗加熱することにより、ドナープレートの中央セクション1Cは、実質的な変形を伴わずにターゲットに向かって平行移動され得る。中央セクション1Cの変形は、中央セクション1Cの表面法線の方向における中央セクション1Cの実質的な温度勾配を回避するように底部抵抗加熱器層13CBおよび頂部抵抗加熱器層13CTが制御されるという点において、さらに緩和される。また、中間セクション1Iは、例えば基板の局所的な変更により、中央セクション1Cの熱膨張係数よりも大きな熱膨張係数を有することができる。それにより、中間セクション1Iの実質的な変形が実現され得る。例のうちの1つでは、抵抗加熱器13CB、13CT、13IB、13ITに給電するための電極は、銅から提供されて、シリコン基板に埋め込まれ得る。銅は、約17ppm/Kの熱膨張係数を有し、一方で、シリコンの熱膨張係数は、約3.3ppm/Kである。さらに、銅は、非常に高い熱伝導性を有する。これは、プレートの加熱/冷却ならびにそれによる膨張および後退がさらに急速に達成され得るという利点を有する。
【0065】
図7Aおよび
図7Bは、堆積デバイスの2つのさらなる実施形態を示す。
図7Aの堆積デバイスの場合、ドナープレート1は、径方向外向きの方向に増大する厚さを持つ中央セクション1Cを有する。この厚さは、プレートの可撓性基板10が径方向に増大する厚さを有するという点において実現される。
【0066】
図7Bの実施形態においても、中央セクション1Cは、径方向外向きの方向に増大する厚さを有する。しかし、この実施形態では、この厚さは、低い熱伝導性を有し適切な厚さプロファイルを有する被覆117が可撓性基板10の第2の主表面102上に適用されるという点において実現される。この場合、適切な可撓性基板10は、一様な厚さのものである。
【0067】
熱平衡時間は、より径方向外向きの方向におけるものと比較して、プレートの中央では相対的に短い。結果として、プレートが印刷領域では実質的に平坦のままである間に、プレートの周辺部においてより大きな熱膨張が生じる。
【0068】
基板内への熱流束を減少させるために、例えばSiO2などのセラミック材料による1つまたは複数の熱緩衝層が可撓性基板10と抵抗加熱器層13との間に設けられてもよいことに、留意されたい。
【0069】
【0070】
図8は、この事例ではインクである物質2の堆積のためのシミュレーションされたドナープレート1を概略的に示す。ドナープレートは、300ミクロンの厚さを有するシリコン基板10を備える。基板10は、その第1の主表面101(破線で示される)に銅の電極層11を備える。電極層は、50ミクロンの厚さを有する相補的な形状の第1の電極111および第2の電極112を備え、第1の電極111および第2の電極112は、シリコン基板の第1の主表面101においてシリコン基板に埋め込まれており、また、基板の材料により互いに電気的に絶縁されている。図面における全ての要素が同じ縮尺で表されているわけではないことに、留意されたい。例えば、明瞭さのために、基板10の上側部分のみが示されている。シミュレーションのために使用された寸法および材料特性についてのさらなる詳細は、下の表に提供されている。電極層11に続いて、シミュレーションされたドナープレート1は、SiO2の第1の電気絶縁層12、モリブデンの抵抗加熱器層13、Si3N4の第2の電気絶縁層14、および、堆積される堆積物質2を保持するための1つまたは複数の凹部155が設けられたパターン層を備える。
図8はシミュレーションされたドナープレートがパターン層に凹部155を形成する部分のみを示すことに、留意されたい。
【0071】
図8に示されるように、抵抗加熱器層13は、第1の電気絶縁層におけるそれぞれのスリット121、122を介して、第1の電極111の接触面および第2の電極112の接触面のそれぞれに電気的に接続されている。
【0072】
図8は、凹部155の底部における熱拡散材層20をさらに示す。熱拡散材層20は、タングステンで形成されており、1ミクロンの厚さを有する。
【0073】
さらなる詳細が、以下の表に表される。
【0074】
【0075】
シミュレーションは、150kW/cm2のMo層において生成された熱流束のための固定された設定を用いて行われた。第2の絶縁層14の厚さ、およびスリット121、122の寸法は、可変であった。
【0076】
図9A、
図9B、および
図9Cは、スタック1、スタック2、およびスタック3とそれぞれ示される3つの例示的なシミュレーション設定を示す。
【0077】
図9Aでは、スリットは、1ミクロンの最小幅から2ミクロンの最大幅まで、第1の電極111から離れる方向に外向きにテーパしており、第2の絶縁層14は、500nmの厚さを有する。
【0078】
図9Bでは、スリットは、0.5ミクロンの最小幅から1.5ミクロンの最大幅まで、第1の電極111から離れる方向に外向きにテーパしており、第2の絶縁層14は、200nmの厚さを有する。
【0079】
図9Cでは、スリットは、1ミクロンの最小幅から2ミクロンの最大幅まで、第1の電極111から離れる方向に外向きにテーパしており、第2の絶縁層14は、200nmの厚さを有する。いずれの場合にも、モリブデン層13は、スリット121の幅狭部において第1の電極111に電気的に接触する。同じことが、スリット122におけるモリブデン層13と第2の電極112との間の電気的接触に当てはまる。第1の電極との電気的接続および第2の電極との電気的接続は同じであるので、第1の電極との電気的接続のみが示されている。
【0080】
図10A、
図10Bは、これらの事例ごとの物質の温度分布を、図面における左から右への位置の関数として示す。対照として、スリット121、122の位置が示されている。
図10Aは、温度の絶対値を示すが、
図10Bは、平均温度からの温度のずれを示す。一方ではスタック1、他方ではスタック2、3における、第2の絶縁層14の異なる厚さを考慮に入れるために、スタック1の温度分布は、6マイクロ秒後に測定されており、スタック2およびスタック3の温度分布は、5マイクロ秒後に判定されている。
図10Bで最も良く分かるように、スタック1およびスタック3の温度分布は、互いに酷似している。スタック2の温度分布は、スタック1およびスタック3に比べてより一様である。これは、抵抗層が熱を生成しない抵抗層13と電極111との接触面積が実質的にスタック1およびスタック3のそれぞれにおけるよりもスタック2において小さいという点において説明される。
【0081】
図10A、
図10Bでさらに認めることができるように、スリット121、122よりも上側の温度が平均温度にほぼ等しい最大値を得ることが実現される。これは、以下のことによって説明され得る。第1に、傾斜した側壁をスリットが有するという事実により、凹部155におけるこの表面の投影に関して比較的大きな表面が提供される。それにより、側壁表面の投影における熱流束、すなわち単位面積当たりの出力は、側壁において生成される熱流束よりも高い。第2に、抵抗層のために使用される堆積技法に応じて、抵抗層の側壁において生成される熱流束が、スリット間の抵抗層の領域において生成される熱流束よりも大きくなることが実現され得る。例えば、抵抗層13がスパッタリングによって堆積された場合、堆積のための材料は、スリット間の抵抗層の領域におけるよりも大きな領域にわたって側壁上に分散される。それにより、側壁における抵抗層の厚さは、スリット間の抵抗層の厚さ未満になる。側壁上に存在する抵抗層の比較的高い抵抗性により、その中で比較的高い熱流束が生成される。第1の絶縁層12の厚さ、ならびにテーパしているスリット121、122の寸法、すなわち電極111との接触領域におけるスリットの幅および抵抗層の主表面におけるスリットの幅の適切な選択により、スリット121、122の投影面積における平均熱流束がスリット間の領域における熱流束におおよそ等しくなることが実現され得る。凹部における熱流束は、
図8、および
図9A、
図9B、
図9Cに示されるように熱分配層20によってさらに均質化され得ることに、留意されたい。それにより、当業者は、望ましい均質性の程度とデバイスの効率とのトレードオフを行うことができる。高度の均質性が望ましい場合、望ましい平均温度を得るためにより長い加熱時間およびより多くのエネルギーが必要とされるという点において、ある程度の効率の損失という犠牲を払って、比較的厚い熱分配層20が選択され得る。したがって、効率がより重要である場合には、より薄い熱分配層20が選択され得る。
【0082】
本明細書において使用される専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図されていない。本明細書において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈から明らかにそうでないことが示されていなければ、複数形も同様に含むことが意図されている。「備える(comprises)」および/または「備えている(comprising)」という用語が本明細書において使用される場合、明示された特徴、完全体、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、完全体、ステップ、動作、要素、構成要素、および/もしくはそれらの群の存在あるいは追加を排除するものではないことが、さらに理解されるであろう。さらに、そうでないことが明確に述べられていない限り、「または(or)」は、包括的または(inclusive or)を意味するものであり、排除的または(exclusive or)を意味するものではない。例えば、状況AまたはBは、Aが真であり(または存在する)かつBが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在しない)かつBが真である(または存在する)、ならびに、AおよびBの両方が真である(または存在する)のうちのいずれか1つによって満たされる。
【符号の説明】
【0083】
1 ドナープレート
1C 中央セクション
1I 中間セクション
1P 周辺セクション
2 堆積物質
2a 堆積物質
2b 堆積物質
10 可撓性基板
11 電極層
12 第1の電気絶縁層
13 抵抗加熱器層、モリブデン層、抵抗層
13CB 底部抵抗加熱器層
13CT 頂部抵抗加熱器層
13IB 底部抵抗加熱器層
13IT 頂部抵抗加熱器層
14 第2の電気絶縁層
15 パターン層
16 プレート担体
17 自由表面
18 さらなる抵抗加熱器層
19 仮想中央面
20 熱拡散材層、熱分配層
21 断熱材層
30 ターゲット、ターゲット表面
101 第1の主表面
102 第2の主表面
111 第1の電極
112 第2の電極
113 間隙
117 被覆
121 スリット
122 スリット
151 スペーサ
155 凹部
161 第1のプレート担体表面
163 第1の側面
164 第2の側面
165 ラウンドゴーイングシール
166 チャネル
211 第2の電極
212a 制御電極
212b 制御電極
212n 制御電極
1111 櫛指
1121 櫛指
Aeff 抵抗加熱器層13の有効表面積
De スリット間の距離
L 抵抗加熱器層13の長さ
l1 距離
l2 距離
PG 距離
PT 印刷厚さ
REF 基準フレーム
S1 第1の段階
S2 ステップ
S3 ステップ
S4 ステップ
The 閾値熱流束
W 抵抗加熱器層13の幅
Wd 幅
Wg 間隙の幅
Ws スリットの幅
【国際調査報告】