(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】3Dプリント用リサイクルポリマー
(51)【国際特許分類】
B29C 64/357 20170101AFI20240405BHJP
C08J 3/14 20060101ALI20240405BHJP
B29C 64/147 20170101ALI20240405BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240405BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20240405BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20240405BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240405BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20240405BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240405BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240405BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20240405BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B29C64/357
C08J3/14 CER
C08J3/14 CEZ
B29C64/147
B29C64/314
B29C64/112
B29C64/165
B33Y10/00
B33Y40/10
B33Y40/20
B33Y80/00
B29B17/04 ZAB
B29B17/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540964
(86)(22)【出願日】2022-01-03
(85)【翻訳文提出日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 US2022011034
(87)【国際公開番号】W WO2022147500
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2021-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519337156
【氏名又は名称】インポッシブル オブジェクツ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】シュバルツ・ロバート
(72)【発明者】
【氏名】バスケス・マイケル
(72)【発明者】
【氏名】クリスト・バックリー
(72)【発明者】
【氏名】ゴア・ユージーン
【テーマコード(参考)】
4F070
4F213
4F401
【Fターム(参考)】
4F070DA24
4F070DA55
4F070DB09
4F070DC07
4F070DC11
4F213AA03
4F213AA25
4F213AA29
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4F213AB07
4F213AC04
4F213AR12
4F213WA25
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4F213WB01
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4F213WW24
4F401AA27
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4F401CA03
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4F401CA26
4F401CA58
4F401CB01
4F401CB10
4F401CB18
4F401DC06
4F401EA90
4F401FA08Z
(57)【要約】
さまざまなプロセス(射出成形、選択的レーザー焼結)からの廃棄物を加工して、CBAM(Composite Based Additive Manufacturing)として知られる3Dプリント技術に最適な粒子径と分布を有する粉末を形成する。別のリサイクルプロセスとしては、研削とふるいがけ、エマルション押出、及び液液相分離がある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.工業プロセスまたは消費者製品で使用されたポリマー材料をリサイクル粉末に変換することと、
b.前記リサイクル粉末を基板シートに堆積させて3Dオブジェクトの平面層に対応する断面層を作る3Dプリントプロセスの粉末化工程に前記リサイクル粉末を挿入することと
を有する、リサイクル材料から3Dオブジェクトを作るためのプロセス。
【請求項2】
前記変換するステップは、
第1に、前記ポリマー材料を研削して粒子にすることと、
第2に、前記粒子に1回目のふるいがけを行い、ふるい分け粒子を得ることと、
第3に、前記ふるい分け粒子に流動助剤を添加することと、
第4に、前記ふるい分け粒子に2回目のふるいがけを行い、二重ふるい分け粒子を得ることと
を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記添加するステップは、流動助剤を添加することを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記粒子分布D50は、70ミクロンより大きい、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記変換するステップは、
第1に、前記ポリマー材料を、前記ポリマー材料が元々有していた粒子よりも小さな粒子からなる変質ポリマーに加工することと、
第2に、前記変質ポリマーを非混和性液体中で攪拌またはかき回して、十分なせん断力を得て、前記液体中に懸濁したさらなる変質ポリマーとすることと、
第3に、前記さらなる変質ポリマーよりも低い融点を有するマトリックスと前記さらなる変質ポリマーを混合して、ポリマー-マトリックス混合物を形成することと、
第4に、前記ポリマー-マトリックス混合物を、前記変質ポリマーおよび前記マトリックスの融点温度よりも高く加熱された押出機に投入することと、
第5に、前記変質ポリマーと前記マトリックスの両方の融点温度よりも高温にしながら、前記ポリマー-マトリックス混合物を押出して押出物を形成することと、
第6に、前記押出物を前記変質ポリマーおよび前記マトリックスの両方の融点温度以下に冷却することと、
第7に、混合装置内で前記マトリックスを液体で溶解除去して加工ポリマーを得ることと、
第8に、前記加工ポリマーを乾燥することと
を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記加工するステップにおいて、粒子状、フレーク状、ペレット状、または顆粒状に変質したポリマーを作成する、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記変換するステップは、
第1に、前記ポリマー材料を溶媒である液体と高温で混合してポリマー-液体混合物を形成することと、
第2に、前記ポリマー-液体混合物を撹拌しながら加熱して溶液を形成することと、
第3に、前記溶液を冷却して、ポリマーに乏しいマトリックス中にポリマーに富む小滴を有する2つの液相を形成することと、
第4に、ポリマーが実質的にすべて沈殿するまで、前記2つの液相を冷却し続けることと、
第5に、前記溶媒-沈殿混合物をろ過して粉末を回収することと、
第6に、前記粉末を乾燥させることを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記溶液を冷却して2つの液相を形成するステップは、1分あたり約0.5~3℃の速度で行われる、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
請求項1に記載のプロセスで作られた3Dオブジェクト。
【請求項10】
請求項2に記載のプロセスで作られた3Dオブジェクト。
【請求項11】
請求項5に記載のプロセスで作られた3Dオブジェクト。
【請求項12】
請求項7に記載のプロセスで作られた3Dオブジェクト。
【請求項13】
前記3Dオブジェクトは半田パレットを有する、請求項9に記載の3Dオブジェクト。
【請求項14】
前記3Dオブジェクトは半田パレットを有する、請求項10に記載の3Dオブジェクト。
【請求項15】
前記3Dオブジェクトは半田パレットを有する、請求項11に記載の3Dオブジェクト。
【請求項16】
前記3Dオブジェクトは半田パレットを有する、請求項12に記載の3Dオブジェクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願のクロスリファレンス>
本出願は、米国仮特許出願番号63/133,666(2021年1月4日出願)および63/184,755(2021年5月5日出願)に基づく優先権を主張し、各々に記載された全ての記載内容を援用する。
【0002】
本発明は、3Dプリントプロセスおよびシステムの分野におけるものである。より具体的には、3Dプリント部品を作成するシステムの材料入力および供給原料を改良するものである。これらの改良は、本譲受人が創作し、本譲受人がCBAM(Composite-Based Additive Manufacturing)と呼ぶ3Dプリントのサブフィールドに属するものである。
【背景技術】
【0003】
3Dプリントプロセスには多くの制限がある。特に、一般的には、材料に大きな制約がある。例えば、選択的レーザー焼結又は高速焼結などの類似の方法や、HP社のマルチジェットフュージョンやストラタシス社の選択的吸フュージョンのような、やそれをベースとしたプロセスでは、PA12またはPA11として知られる材料を主に使用している。これは、PA12やPA11が、多くの熱可塑性ポリマーでは利用できない大きな熱処理ウィンドウを有しているためである。それでも、焼結プロセスでは、10℃の処理ウィンドウ内で溶けるポリマーが必要である。PA12やPA11の場合、これらは高価な樹脂であり、典型的な沈殿による粉末の製造方法は高価になる。そのため、使用できる樹脂の数が少なく、コスト高になる。ポリマー焼結プロセスでは、ポリマー粉末をベッド内で高温(ポリマーの融点の直ぐ下の温度)に長時間保つ必要がある。PA12やPA11のようなポリマーは、この高温加熱によってポリマー鎖が伸長し、分子量が増加することがある。これらの現象によって、使用可能であった材料を標準的な焼結パラメータで再び使用することができなくなることがある。そのため、廃粉を完全に処理するか、バージン材とブレンドすることが必要となる。つまり、焼結工程では、製造に使用する部品に含まれる粉末の平均2倍の量が必要であり、部品の材料費が2倍になる。この粉は廃棄する必要があるため、廃棄物がかなりの量になる。ステレオリソグラフィーにおいては、樹脂やフォトポリマーが熱可塑性樹脂よりも高価なため、同様の問題がより深刻となるだけでなく、カーボン社などが使用する、ポットライフが制限される二液型システムのように、腐敗も深刻である。さらにステレオリソグラフィーでは、高価な光重合開始剤が必要であり、ステレオリソグラフィーで製造された熱硬化性樹脂はリサイクルが困難である。
【0004】
同様に、射出成形、ブロー成形、熱成形でも、なかんずく、不合格品やスプルーなどの廃物が発生する。これらの一旦加工された材料は、含有物、不純物、メルトフローや結晶性の変化など、さまざまな理由により、バージン材と同じ性能を発揮することはできない。つまり、これらの製造プロセスでは、リサイクル材料は大量生産に必要な性能を安定して発揮することができない。リサイクル材料の利用率を高めることで、環境改善やポリマー供給原料のコストダウンなどのメリットが生まれる。3Dプリントプロセスにリサイクルポリマーを使用する方法を組み込むことは有益であり、このような用途に使用されるリサイクル材料を粉末として加工することで、加工の副次的効果として、不純物を排除することができれば、さらに有益である。上記の問題に加えて、PET飲料ボトルのような使い古したリサイクル材料は、汚染、着色料、および材料とその特性の不均一性のために、リサイクルされた状態では使用が困難である。
【0005】
Impossible Objects社のCBAMプロセス(Composite Based Additive Manufacturing)には、こうした問題はない。CBAMは、以下を含む多数の特許文献に開示されており、例えば、10,967,577、10,046,552、および9,827,754があり、各々、記載内容を援用する。ほとんどの熱可塑性樹脂の粉末を使用することができる。余分な粉末を捕獲し、印刷時に再利用するため、無駄がほとんどない。また、印刷とは別のプレスで加熱が行われるため、熱処理ウィンドウの制約を受けることもない。
【0006】
CBAMでは、コンピュータモデルによって、印刷する部品を断面にスライスする。印刷技術(インクジェットなど)を用いて、対象物の断面の1つに対応する形状で多孔質シートに液体を印刷する。多孔質シートは、典型的には炭素繊維であるが、ガラス繊維または他の適切な基材からなることもある。また、印刷は供給されたロール(またはウェブ)の端で行われ、下流工程で切断が行われることもある。印刷されたシートには、粉末(通常、熱可塑性粉末)が非印刷領域に付着せず、印刷領域のみに付着するよう、大量に印刷シートに供給される。付着していない粉をシートから除去するために、様々な手段(例えば、真空引き、振動、エアナイフ)が用いられている。その後、シートは積層工程に移り、すぐ隣のオブジェクトの断面に対する同様のプロセスを経た先のシート(あれば)の上に置かれる。スタッカーは、シートを整列させるよう、先細のレジストピンを上流の印刷工程でシートに開けられた穴にフィットさせ、る。このプロセスを必要な断面数だけ繰り返し、3Dオブジェクトの全断面を表現するのに必要かつ正確な順番で複数の基板シートを積み重ね、ビルドブロックを作成する。この後、印刷領域の粉末を溶かして繊維の周りに融合させるように、ビルドブロックに対して圧縮や加熱などの加工が施される。その後、圧縮、加熱後のビルドブロックは、例えば、脆い炭素繊維の非印刷領域である基材を除去するために削磨される。溶融/融解した領域はこの摩耗に耐えうるため、コンピュータモデルで定義された最終的な3Dプリント部品の意図された形状でこのプロセスによって現れる。有利なことに、炭素繊維と熱可塑性プラスチック粉末をこのように使用することで、非常に耐久性が高く、産業用途で必要とされる高い耐性に適した部品ができあがる(したがって、これは「複合材料ベース」3Dプリント部品である)。’552特許は、前述のシステムの様々な態様、および各工程(例えば、材料供給、プラテン上での印刷、粉末化、粉末除去、積層など)を実施するサブシステムの実施形態を説明している。PETのような脆くはない基材については、参照した特許に記載されているように、化学的除去プロセスを使用することができる。
【0007】
Impossible Objects社のCBAMプロセスの利点の一つには、PEEK、PEKK、PAEK、PPS、PEIなどの高性能な熱可塑性材料を使用可能にすることである。例えば、PEEKは1ポンド約65ドルもする非常に高価な素材である。従来のPEEKは、
図1Aおよび1B(先行技術)に見られるように、研削プロセスで切子状の粒子が発生するため、滑らかな粉末にすることが困難である。
図1Aは、バージンのPEEKが塊になっていることを示し(本明細書で論じるリサイクルPEEKでは問題ない)、
図1B(
図1Aと同じであるが500倍に拡大)は、粒子径の変化を示している。これらの粉末は、粒度分布が広く、小さな粒子がかなり多く、全体の平均粒径D50は30ミクロンである。
【0008】
CBAMプロセスの課題の一つは、シート上に十分な量のポリマー(熱可塑性樹脂の粉)を付着させることである。粒子の質量は粒子の直径の3乗に比例するため、粒子が大きいと堆積するポリマーの質量が大幅に増加する。堆積質量が大きいほど強度のより高い部品が製造され、圧縮する必要がなくなるので、層がぶ厚くなり、その分、プロセスが高速化される。
【0009】
多くの粉末の場合、流動性を向上させるために、Aerosil 200(Evonik Industries社、ドイツ、エッセン。「Aerosil」は登録商標。以下の出現箇所では注記を省略)のような流動助剤を粉末に添加することがある。例えば、リサイクルPEEKの場合、未処理の粉末の安息角は40度を超えるが、Aerosil 200を使用すると安息角は35度未満になる(ASTM C1444による測定)。これにより、CBAMプロセスで粉末を良好に流動させることができる。
【0010】
例えばPEEKの場合、PEEKが相当量供給され、射出成形などの多くのプロセスで廃棄される。PEEKの廃材は、医療や航空宇宙など、規制の関係でバージン材料しか使用できない産業で出ることが多い。様々な理由から、多くの成形業者は、不合格品やスプルー、ランナーを再研削して使用することはない。一般的に、射出成形では、新しい部品を作るのには再研削された材料のごく一部しか使用できない。
【発明の概要】
【0011】
CBAMにおいて、PEEK射出成形の廃材を高い割合で、あるいは完全に再研削して再利用できることが発見された。さらに、予想外なことに、このような再研削された射出成形の廃材を粉砕すれば、Solvay社のような製造業者から購入するバージン粉砕材料よりも優れた粒度分布と大きな粒子が製造される。廃棄される射出成形材(例えば、スプルー、ランナー、不合格品等)を研削し、適切な粒度分布になるようにふるいがけし、CBAM工程で使用する。
【0012】
さらに、ポリオレフィン類、PET、および他の非CBAM技術の廃棄物であるポリマーを、エマルション技術で再加工して再利用できることも発見した。エマルションプロセスは、熱可塑性材料を非混和性液体中で加熱混合した後、高速で撹拌またはかき回して混合物中に液滴を形成し、その後冷却して熱可塑性材料を固化し、その後混合物から粉末を回収するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1A(先行技術)は、バージンPEEKの塊を光学的(低)解像度で示す。
【
図1B】
図IB(先行技術)は、バージンPEEKを500倍に拡大した近接写真であって、粉末粒子が相対的に不均一であることを示す。
【
図2】
図2は、本発明の研削実施形態によるリサイクルPEEK粉末を示し、そのD50は80~100ミクロンである。
【
図3】
図3は、本発明の研削実施形態によるリサイクルPEEKを用いたCBAMプロセスによって作った構造体(半田パレット)の例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の研削実施形態に係るPEEKをリサイクルするためのワークフローを示す。
【
図5】
図5(先行技術)は、高精度のふるいがけを行うためのRussell Ultrasonic Finnex装置を示している。
【
図6】
図6は、本発明の研削実施形態によるリサイクルPEEK粉末を示し、流動剤添加後を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明のエマルション実施形態によるポリマーをリサイクルするためのワークフローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
粒子径と分布(D50が80~100ミクロン)を改善することで、CBAMでより良い(強度が高く緻密な)部品が得られる。
図2は、そのようなサイズと分布を有する、本明細書に記載の研削実施形態の出力を示す。新たに投入された熱可塑性樹脂原料は、これまで一般的に捨てられていたものであり、研削のコストは原料の数分の一でため、材料費は、PA12のような低性能の材料よりも、このように新たに使用された高性能PEEKの方が安く済む。そのため、材料特性が実質的に向上した部品をより安価に製造することができる。
【0015】
CBAMで使用するリサイクルPEEK材料は、引張強度が140MPa、引張弾性率が14GPaに達しており、従来のPEEK粉末の性能に非常に近い。さらに、リサイクル材料を使用することで、最終部品の二酸化炭素排出量を削減することができる。ほとんどすべての熱可塑性樹脂がこのようなリサイクル粉末として使用可能である。これらには、飲料用ボトルなどのPET、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレン、ポリカーボネート、および熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0016】
CBAMプロセスでリサイクルPEEKから作られる最終品の一例として、半田パレットがある。
図3は、本明細書の教示によってリサイクルPEEK粉末で作られた半田パレットの両面を示している。
【0017】
CBAMでは、融点や溶融粘度(メルトインデックス)の変化や変動は、完成品に大きな影響を与えない。ポリマーメルトフローや粘度の変化は、一般的に焼結ベースのプロセスよりもCBAMプロセスにおいて影響が少ない。これは、CBAMの最終加工工程で、すべての材料を融点以上に加熱し、ビルドブロックを所定の厚さに圧縮することで、溶融した熱可塑性プラスチックを強制的に流動させ、固化させているためである。このように、本明細書に記載されたプロセスと結果は、リサイクルPEEK(およびその他)が、改善された粉末特性(すなわち、粉末化工程で基材シートのカバー率を最大化する、大きなサイズと優れた分布)を所有するだけでなく、より従来の製造プロセスからの一般的な廃棄物を使用して実現できることを明らかにした。二酸化炭素排出量の削減など、環境へのプラスの影響が必然的に生じ、射出成形廃棄物や、例えば製品のほとんどがリサイクルされていない包装材のようなポリエチレン、ポリプロピレンや飲料ボトルのPETなど、使い古したリサイクル材料の用途を広げることができる。
【0018】
リサイクル材料を使用する試みは、PEEKのような高機能材料に限らず、例えばPETのような様々な材料を使用可能である。PET材料は、製品の中でも、リサイクルのニーズが高い素材である飲料用容器などに使用されている。この材料をリサイクルした場合、バージン材料の約半分のコストで済む。リサイクル材料に含まれる不純物および/又は着色料は、CBAMにとって大きな問題にはならない。熱可塑性プラスチックの中でも、PEEK、PAEK、PEKK、PPS、PEI等と同様に、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、PA12などのエンジニアリングプラスチックを含む、ほとんどの熱可塑性プラスチックにおいても同様である。焼結プロセスで発生したPA12やPA11の粉末は、回収し、再度押出し、例えばエマルションや他のプロセスで粉末に変換し、CBAMプロセスで再利用することができる。
【0019】
また、Freudenberg Group社(ドイツ、ヴァインハイム)の不織布PETのようなリサイクル材料から作った基材も使用可能となり、CBAMで部品の製造することも可能である。EVAのような粉末材料と、化学的に除去された余分な材料と共に使用することが可能である。
【0020】
実施例#1:研削によるリサイクルPEEK
図4に関し、以下の手順は、CBAMシステム用のリサイクルPEEK材料の生産バッチを調製するのに必要なステップを表す。ステップ10において、PEEKを主成分とする射出成形スクラップを回収する。ステップ20において、操作員は、スクラップを上述した好ましいサイズ及び分布を概ね有するような粒子に研削する:D50は30ミクロン以上、より好ましくは70ミクロン以上、最も好ましくは80~100ミクロンである。ステップ30において、操作員は粒子が所望の範囲のサイズと分布を有するよう、粒子をふるいがけする。ステップ40において、次に、操作員は、流動助剤を添加する。ステップ50において、操作員は、粒子を2回目のふるいがけを行い(今回は流動助剤を含む)、結果60-所望の粒径と分布を有する所望の最終粉末を、流動助剤と共に得る。
【0021】
ステップ10、20、30に関してさらに詳しく述べると、使用済みのPEEK樹脂は、既存の工業用射出成形作業から調達する。スプルー、ランナー、および他の廃材を回収し、製粉機にかけて微粉末にする。この粒子は、その後、140メッシュの篩を備えたホソカワ・マイクロ・エアジェット・シーブ・テスターで処理され、初期粉末バッチになる。
【0022】
ステップ40に関してさらに詳しく述べると、この材料は、濃度1%のAerosil 200シリカ流動助剤で処理される。この流動助剤粒子を高速可変ブレンダーでPEEK粉末と混合し、ASTM C1444で測定した安息角が28度~34度となるようにする。
【0023】
ステップ50に関してさらに詳しく述べると、PEEKとAerosilの混合物には、140メッシュの篩と超音波ヘッドを備えたRussell Finnex社のふるいがけステーション(
図5に示す)を用いた二次ふるいがけプロセスが施される。
【0024】
ステップ60に関してさらに詳細に述べると、二度ふるいがけされた材料(
図6)は、次に、生産のためにCBAMシステムに、例えば、粉末化サブシステムに投入される。
【0025】
射出成形からリサイクルされたPEEKがこれまでバルク原料の主要な供給源として産業界からほとんど拒まれてきた一般的な理由は、プロセス温度まで加熱された材料に生じるポリマーの変化に関係している。このような材料(今や廃棄物)を比較的高い熱で加熱して溶かし、冷却すると、原料のバージン材に比べてポリマー鎖が長くなっていると考えられる。射出成形のプロセスでは、分子量が一定で、メルトフローや粘度が一定である材料が必要である。バージン粉末樹脂では可能であるが、再研削された材料では保証できない。一方、前述したように、CBAMプロセスは、より長鎖のポリマーや、鎖長分布が均一でないポリマーに対しても有効である。
【0026】
同様に、従来の焼結プロセスで使用される多くの予熱材料でも、粘度やメルトフローが変化する。そのため、焼結廃棄物も通常捨てられてしまう。一旦加熱された材料は、粘度やメルトフローが予測できないなど不均一であり、広く再利用することができない。そしてまた、CBAMプロセスは、粘度やメルトフローの変化やばらつきを許容しつつ、申し分のない加工品を製造することができる。
【0027】
実施例#2:マルションプロセスからのリサイクルポリマー
研削実施形態とは別に、エマルション実施形態でも同様に、リサイクルポリマーを使用して申し分のない最終加工品の結果を得る。本実施形態では、廃棄ポリマー(PEEK、オレフィン類、PA12など、または本特許文献に記載されている他のポリマーであり得る)を溶融し、非混和性液体と混合する。その後、加熱された混合物を高速で攪拌またはかき回し、混合物中に小滴を形成する。「エマルション」という用語を使用しているが、得られた加熱混合物は、ポリマーをその中に懸濁させて含有する結合(ここでは溶融)材料であれば、エマルションの最も技術的な定義を正確に満たしていてもいなくてもよい。
【0028】
二相流体混合物を冷却した後、ポリマーが固化してパウダーとなり、その後取り出される。この操作には、いくつかの形態がある。押出のような連続的なプロセスが採用され得る。エマルションプロセスの利点としては、粉末の製造と同時にリサイクル材料の不純物や汚染物質を除去することができることにある。つまり、使い古したリサイクルポリエチレン、ポリプロピレン、PETであれば、どんな色のものでもプロセスに使用可能である。さらに、CBAMではポリマーのメルトフローがあまり重要でないため、メルトフローや分子量の変化や変動は、プロセスや完成した加工品にわずかな影響しか及ぼさないか、存在しない。同様に、傷のない(より高価な)原材料が供給原料としてより望ましいとみなされる他の多くのプロセスとは異なり、CBAMの加工品には、傷のない原材料も着色した原材料も一般的に同様に受け入れ可能である。
【0029】
本発明の前述の議論の1つの非限定的な例として、PBT顆粒を粉末に変換するための先行技術のプロセスを使用して、押出サブステップを実施してもよい(R. G. Kleinjnen, M Schmid, K. Wegener: Production and Processing of a Spherical Polybutylene Terephthlate Powder for Laser Sintering;Applied Science,2019,Vol.9,pp.1308 ff.)。以前に公開された議論において、230℃~250℃のバレル温度プロファイルの実験規模単軸押出機(Brabender Extrusiograph社、ドイツ、デュイスブルク)で、6kgのPBT TORAYCON 1200M顆粒(東レ、日本、東京)を9kgのPEGポリグリコール3500Sフレーク(Clariant社、ムッテンツ、スイス)とブレンドした。押出物をスリットダイに通した後、室温まで冷却した;この冷却ステップ中に、溶融PBTドメイン(Tm=225℃)が溶融PEGマトリックス(Tm=68℃)内で固化した。
【0030】
水を使用して、コンクリートミキサー内でかき回した、2.5kgのブレンド物のバッチ中にPEO固体マトリックス相を溶解し、水不溶性PBT粒子が沈降した後さらに2回洗浄した。その後、得られた湿潤PBTを乾燥させた。顕微鏡で観察したところ、PBT粒子の75%はほぼ球状(アスペクト比A=1.22)であり、残りの25%は押出機内のせん断場によって生じた繊維形状を保持していた。球状のPBT粒子は、沈降によって最小の粒子(10ミクロン未満)を除去した後、乾燥させ、150ミクロンの篩にかけて分級した。粒度分布は、D10で9ミクロン、D50で35ミクロン、D90で110ミクロンであった。
【0031】
分級した球状のPBT粒子を0.05wt%のAerosil R812流動助剤(Evonik社、エッセン、ドイツ)とブレンドし、Superstation 2000レーザー焼結機(DTM社、オースティン、テキサス州、アメリカ)で引張棒を印刷するために用いた。先行技術の開示において意図した用途に反して、エマルションプロセスによって得られた粉末は、未知の理由により、より高い温度で結晶化することが発見された。この変化はSLS部品に悪影響を及ぼすが、上述した理由により、CBAMにおいて予想外に申し分のない供給原料を提供できる。
【0032】
また、第2の液体混合プロセスも有利に使用され得る。スクラップ/廃棄熱可塑性材料を溶媒(非溶媒ではなく)と組み合わせる場合、液液相分離のプロセス、すなわちLLPSによって粉末粒子が形成され得る。簡単に説明すると、ポリマー-溶媒系を加熱して均質な単相-溶液-を形成する。ポリマーの分子量と濃度を適切に選択するには、単一溶液相を冷却時に分離して、ポリマーに乏しいマトリックス中に分散されたポリマーに富む液体領域にする。界面表面エネルギーにより、分散領域は球状になる。二相混合物をさらに冷却すると、ポリマーに富む小滴が結晶化し、その形状が固定化され、簡単なろ過で粉末の回収が可能となる。LLPSは、エマルション法に比べ、粒子形成のために高温(乾燥Tmを超える)や強い機械的せん断場を用いない。
【0033】
先行技術源は、現在CBAM 3Dプリントに適していると考えられる粉末を作るためのLLPSプロセスの記述例を提供している(M. A. Dechet, et al. a:Production of polyamide 11 microparticles for Additive Manufacturing by liquid-liquid phase separation and precipitation. Chemical Engineering Science, Vol.197 (2019), pp.11-25)。100rpmの磁気撹拌で200Barの能力を持つDBA-3オートクレーブ(Berghof社)において、20グラムのPA11(Rislan BMNO、Arkema社)を0.1%のMEKで変性させた80グラムの99.5%エタノールとブレンドした。190℃まで昇温し、15分間保持した後、0.5~3℃/分で冷却した。温度が50℃に達したところで、反応器を開け、ブフナー漏斗に乗せたWhatman#1(「Whatman」は登録商標)濾紙で濾過してPA11粉末粒子を回収した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量は、このプロセスで約20%減少した。
【0034】
乾燥粉末を0.5wt%の疎水性フュームドシリカ(Aerosil、Evonik社)で処理した。電子顕微鏡で見ると、粒子は不規則な等軸の粒状凝集体として見える;光散乱による粒度分布では、体積平均D503が150ミクロンである。連続冷却を120℃または130℃で30分の等温保持により中断した場合、それぞれD503が90ミクロンおよびD503が50ミクロンとなる。LLPS粉末は、冷却条件にもよるが、15℃~19℃のSLSプロセスウィンドウを有していた。ベッド温度170℃、パワー0.6J/mm2のDTM Sinterstation2000で引張試験片を作成した。部品の外観は良好であったが、引張データは報告されていない。
【0035】
LLPSプロセスは、高圧での攪拌が必要なバッチ方式である。粒子サイズは冷却速度によって制御できる。LLPSは、エマルションプロセスよりも不純物や添加物を除去しやすい。
【0036】
また、特に高速焼結やヒューレットパッカード社のマルチジェットフュージョンプロセスからの廃棄物(例えば、本来廃棄する必要があるPA12)は、分子量の変化や結晶化がCBAMの障害として作用しないため、リサイクルして本エマルション実施形態で再利用することができる。PETリサイクル不織布基材はもちろん、セルロースや他の天然繊維や水溶性紙、PETなどの熱可塑性ポリマーやポリ乳酸(トウモロコシから誘導可能)を用いたオレフィン類でも同様である。
【0037】
図7に関して、以下の手順は、エマルション実施形態によるCBAMシステム用のリサイクルポリマー材料の製造バッチを調製するために必要なステップを表したものである。ステップ110において、操作員は、他のプロセスまたはPETボトルなどの製品からの廃棄物である樹脂を得る。また、レーザー焼結プロセス後に廃棄されるPA12の回収物であってもよい。ステップ120において、操作員は、廃棄物をフレークに変換する(すでに半粉砕状態または完全粉砕状態でない場合)。これには、研削実施形態で使用されるような工業用グラインダーを使用することができる。ステップ130において、操作員は、次にマルジョンプロセスを行って、フレークを粉末に変換する。前述したように、このプロセスでは、非混和性液体での加熱時に撹拌又はかき回しを行う。最後に、ステップ140において、完成した加工品を作るために、得られた粉末をCBAMプリントプロセスに入れる。
【0038】
射出成形部品が同じ全体形状を持つ溶接部品や彫刻部品とは構造的に異なるように、当業者であれば、上述のいずれかの方法を用いて構築された3DプリントCBAM部品が、バージンポリマーで作られた3DプリントCBAM部品と構造的に異なることを理解できるであろう。微視的なレベルでは、上記の説明のいずれかに従って粉末にされた供給原料ポリマー材料を使用すると、(例えば)ポリマー鎖長、結晶化構造などにおける最終部品全体わたるばらつきが大きいため、特性および性質が異なる。
【0039】
上述の明細書および実施例は本発明の説明を提供しているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの実施形態が可能である。前述の実施形態は、例示的なものとしてのみ提供しており、本発明の範囲を限定または定義するものではないことを理解されたい。特許請求の範囲の範囲には、他の様々な実施形態も含まれる。
【国際調査報告】