IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニの特許一覧

特表2024-516075電解プロセスにおけるガス発生のための電極
<>
  • 特表-電解プロセスにおけるガス発生のための電極 図1
  • 特表-電解プロセスにおけるガス発生のための電極 図2
  • 特表-電解プロセスにおけるガス発生のための電極 図3
  • 特表-電解プロセスにおけるガス発生のための電極 図4
  • 特表-電解プロセスにおけるガス発生のための電極 図5
  • 特表-電解プロセスにおけるガス発生のための電極 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】電解プロセスにおけるガス発生のための電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/077 20210101AFI20240405BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240405BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240405BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20240405BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240405BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240405BHJP
【FI】
C25B11/077
C25B11/031
C25B11/052
C25B11/061
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023557276
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2022056780
(87)【国際公開番号】W WO2022194911
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】21162974.6
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マティエンソ, ディージェー ドン
(72)【発明者】
【氏名】ディ バリ, キアーラ
(72)【発明者】
【氏名】ピーノ, フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】インストゥリ, エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA21
4K011AA22
4K011AA27
4K011AA50
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021DA13
(57)【要約】
本発明は、金属基材および上記基材上に形成されたコーティングを備えた電解プロセスにおけるガス発生のための電極であって、上記コーティングは、固体酸化ニッケルバインダー中に分散された多孔質酸化ニッケルの領域を含有する触媒多孔質外部層を少なくとも備える、電極、および予め形成された酸化ニッケルバナジウム粒子からのそのような電極の製造方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材および前記基材上に形成されたコーティングを備えた電解プロセスにおけるガス発生のための電極であって、前記コーティングは、固体酸化ニッケルバインダー中に分散された多孔質酸化ニッケルの領域を含有する触媒多孔質外部層を少なくとも備える、電極。
【請求項2】
前記触媒多孔質外部層が、固体多孔質酸化ニッケル粒子が前記固体酸化ニッケルバインダー中に分散されている固体/固体分散体である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記触媒多孔質外部層が、ニッケル塩を含有する前駆体溶液中に分散された予め形成された酸化ニッケルバナジウム粒子を含む前駆体溶液の熱処理、および続いての前記熱処理された層からの酸化バナジウムの浸出によって得られる、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
多孔質酸化ニッケルの前記領域が、50nm~10μmの範囲内の直径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記金属基材が、ニッケル系基材、チタン系基材、および鉄系基材からなる群より選択される基材である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記多孔質外部層が、酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルからなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
酸化ニッケル、水酸化ニッケル、および残留バナジウムの前記多孔質外部層、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記多孔質外部層中の多孔質酸化ニッケルの前記領域が、少なくとも20m/g(BET)の表面積を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
前記多孔質外部層中の多孔質酸化ニッケルの前記領域が、20と80m/gの間(BET)を含む表面積を有する、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
前記コーティングが、前記ニッケル基材と前記触媒多孔質外部層との間に堆積されたニッケル系中間層を備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
前記ニッケル系中間層が、金属基材上に直接適用されたLiNiO中間層である、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
前記基材が、ニッケルメッシュである、請求項1から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
酸素発生のためのアノードとしての、請求項1から12のいずれか一項に記載の電極の使用。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の電極の製造方法であって、
a)予め形成された酸化ニッケルバナジウム(Ni(V)O)粒子を、ニッケル塩を含む溶液中に分散して、前駆体懸濁液を得る工程;
b)前駆体懸濁液を金属基材に適用して、適用されたコーティングを得る工程;
c)適用されたコーティングを、80~150℃の範囲内の温度で乾燥させる工程;
d)適用されたコーティングを、300~500℃の範囲内の温度でか焼する工程;
e)工程b)~d)を、ニッケルの所望される比充填量を有するコーティングが得られるまで繰り返す工程;
f)前記コーティングを、300~500℃の範囲内の温度で熱処理する工程;
g)アルカリ浴中で前記コーティングからバナジウムを浸出させる工程
を含む、方法。
【請求項15】
工程a)における前記予め形成された固体酸化ニッケルバナジウム粒子が、ニッケル前駆体およびバナジウム前駆体をベースとする樹脂を熱分解することによって得られる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程a)における前記溶液が、水、およびアルコール、好ましくはイソプロパノールを含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
工程a)における前記ニッケル塩が、ハロゲン化ニッケルである、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程g)が、アルカリ水酸化物水溶液中、60と100℃の間の範囲内の温度で、12と36時間の間の継続時間にわたって行われる、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程a)の前に行われる、ニッケル系中間層が金属基材上に直接適用される工程a0)を含む、請求項14から18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル基材およびニッケル系触媒コーティングを備えた、電解プロセスにおけるガス発生のための電極に関する。そのような電極は、特に電気化学セルのアノードとして、例えばアルカリ水電解の酸素発生アノードとして、用いることができる。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解は、典型的には、アノード室とカソード室とが隔膜または膜などの適切なセパレータで分割されている電気化学セルで行われる。pHが7を超えるアルカリ性水溶液、例えばKOH水溶液が、セルに供給され、カソード室およびアノード室にそれぞれある電極の間に、すなわち、カソードとアノードとの間に、典型的な範囲が1.8~2.4Vである電位差(セル電圧)で電流が確立される。これらの条件下で、水は、カソードから気体水素が発生し、アノードから気体酸素が発生するように、その構成成分に分離される。気体生成物は、セルを連続的に運転可能となるように、セルから取り出される。アルカリ性媒体中でのアノード側の酸素発生反応は、以下のように要約することができる。
4OH→O+2HO+4e
【0003】
アルカリ水電解は、典型的には、40~90℃の温度範囲で行われる。アルカリ水電解は、エネルギー貯蔵の分野で、特に太陽エネルギーおよび風力エネルギーなどの変動する再生エネルギー源からのエネルギー貯蔵の分野で有望な技術である。
【0004】
この点において、より安価な電極などのより安価な設備に関して技術のコストを低減することが特に重要であるが、プロセス全体の効率に関して技術のコストを低減することもまた、特に重要である。セル効率の1つの重要な態様は、水電解を効果的に起こすために必要とされるセル電圧に関する。全体のセル電圧は、本質的に、可逆的な電圧、すなわち、全体の反応に対する熱力学的寄与、系のオーム抵抗に起因する電圧損失、カソードでの水素発生反応の反応速度に関連する水素過電圧、およびアノードでの酸素発生反応の反応速度に関連する酸素過電圧によって決まる。
【0005】
酸素発生反応は、反応速度が遅く、これがアノードの高い過電圧の原因となっている。その結果、作動セル電圧が高くなり、この技術を大スケールで商業化することが困難となっている。
【0006】
さらに、水電解のための電極は、保護されていない状態でのシャットダウンに対するある一定の耐性を呈するべきである。実際、単一電気化学セルのスタックから構成される電解プラントの典型的な作動時に、技術的問題のメンテナンスに起因して給電を停止することが多くの場合求められ、電極にとって有害である極性の反転が引き起こされる。そのような反転は、通常、電流を所望される方向に維持する外部分極システム(または分極装置)を用いて回避される。この補助コンポーネントは、金属の溶解または電極の腐食によって引き起こされる可能性のある電極の劣化を回避するが、システムの投資コストが上昇する。
【0007】
先行技術では、アルカリ水電解のための好ましいアノード/アノード触媒として、未被覆ニッケル(Ni)電極、ラネーニッケル(Ni+Al)電極、および酸化イリジウム(Ir)系触媒コーティングを有する電極が挙げられている。
【0008】
未被覆ニッケル電極は、Niメッシュなどのニッケル基材のみによって形成され、これは、低コストで容易に製造可能であるが、高い酸素過電圧を呈して、遅い反応速度をもたらす。
【0009】
ラネーニッケル電極は、プラズマ溶射法によってNi+Alの触媒粉末の薄膜を堆積させることによって製造される。工業レベルでは、プラズマ溶射法は、生産コストが高いこと、ならびに騒音、爆発性、温度3000℃を超える激しい火炎、ガスなど、この方法に付随する健康および安全上の危険性に起因して、触媒コーティングにはそれほど多くは用いられない。さらに、ラネーニッケル製造プロセスは、触媒コーティングからアルミニウムを浸出させることによって達成される活性化プロセスを含み、これによって、ほとんど純粋なニッケルが表面上に残り、および表面積が非常に大きくなる。Al溶解の反応の過程で、Hが生成され、これは、突然の発熱反応であるために製造プロセス中の問題となる。プラズマ溶射を介して堆積されるラネーニッケルの別の技術的問題は、得られるコーティングが少しギザギザした形態であることである。電極が膜と接触しているゼロギャップセルの場合、鋭くギザギザした表面は、膜の損傷を引き起こす可能性がある。
【0010】
イリジウム系触媒コーティングを備えた電極は、もたらされる危険性がより低い充分に確立された技術である熱分解によって製造される。しかし、これらの電極に用いられるイリジウムは、地殻中にある量が最も少ない貴金属の1つであり、その結果、価格が高いだけでなく、工業スケールでの製造プロセスのために大量に購入することが困難でもある(例えば、イリジウムと比較して、金は、40倍豊富であり、白金は、10倍豊富である)。さらに、イリジウム系コーティングは、典型的には多層コーティングであり、その結果、製造プロセスが高コストとなる。先行技術の多層触媒コーティングは、例えば、Ni基材上に直接適用されるLiNiO中間層、中間層に適用されるNiCoO活性層、および酸化イリジウム外部層を備え得る。この多層組成は、極性の反転時にCoおよびIrが典型的には電解液中に溶解することから、保護されていない状態でのシャットダウンに対して低い耐性を呈する。
【0011】
ニッケル系電極基材の表面積を拡げるための他の方法も知られている。CN110394180Aには、光触媒性能を有する酸化ニッケルを製造するための方法が記載されており、この場合、ニッケル基材が、直接アノード酸化によって表面処理されて水酸化ニッケル膜が得られ、続いてこの膜のアニーリングによって酸化ニッケル膜が得られる。CN110863211A、CN109972158A、CN110438528B、およびCN110952111Aには、水酸化ニッケルおよび酸化ニッケルを含む外部表面層を有するニッケルフォーム電極が記載されている。ニッケルフォーム基材は、バルクニッケル材料よりも高い初期表面積を提供する足場として作用し、これらの先行技術文献では、電極の有効触媒面積をさらに拡げるための異なる表面処理法が記載されている。
【0012】
本出願者によるイタリア特許出願IT2020000020575(国際特許出願PCT/EP2021/073783に対応)では、特にアルカリ水電解のための改善された電極が記載されており、これは、貴金属を含まない多孔質酸化ニッケル触媒コーティングを用いることによって、高コストの貴金属系触媒コーティングを回避するものである。多孔質コーティングは、酸化ニッケル/酸化バナジウムコーティングからバナジウムを浸出させることによって得られる。しかし、コーティングからバナジウムを浸出させることが、コーティングの機械的安定性を低下させ得ることが見出された。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、改善された機械的安定性を呈すると同時に、IT2020000020575で見出されたアルカリ水電解用途での低い酸素過電圧を維持する、多孔質酸化ニッケルコーティングを有する費用対効果の高い電極を提供することである。
【0014】
本発明は、非常に高い表面積を呈する酸素発生のための電気化学的活性薄膜という発想に基づいている。コーティングの高い表面積により、より多い量の電解質が触媒およびその活性部位と接触することが可能となり、気体酸素(O)の生成を例とする電気化学的性能を増大させる。均一な酸化ニッケルバインダー中に分散された多孔質酸化ニッケル領域を備えたコーティングを用いることにより、酸素発生反応に特に適している安定な高多孔質酸化ニッケルコーティングを作製することが可能となった。
【0015】
本発明の様々な態様は、添付の請求項に記載される。
【0016】
本発明は、金属基材および上記基材上に形成されたコーティングを備えた電解プロセスにおけるガス発生のための電極であって、上記コーティングは、酸化ニッケルバインダー中に分散された多孔質酸化ニッケルの領域を含有する触媒多孔質外部層を少なくとも備える、電極に関する。本発明のコーティングは、高い多孔度を呈すると同時に、高い機械的安定性を維持する。
【0017】
本発明の意味における「酸化ニッケルバインダー」とは、本質的に連続的で本質的に均一である酸化ニッケルの相である。そのような連続相は、ニッケル塩を含有する均一な前駆体溶液を、例えば噴霧またははけ塗りによって基材上に適用し、続いて熱処理することによって作製することができる。本技術分野において公知であるように、そのような熱処理の結果、本質的に均一であるが、本発明の状況においてバインダーとして作用するコーティングが得られる。そのような本質的に均一な酸化ニッケルコーティングは、機械的に非常に安定であるが、酸素発生に対して高い過電圧を呈したことから、アルカリ水電解には適していない。
【0018】
本発明の意味における「多孔質酸化ニッケルの領域」とは、周囲の酸化ニッケルバインダーと比較して多孔度が高められた領域のことである。多孔質酸化ニッケルの領域は、したがって、酸化ニッケルバインダー中に本質的に局在化した領域であり、その多孔度は、酸化ニッケルバインダーのいずれの残留多孔度よりも実質的に高く、一般的には少なくとも2倍高い。したがって、本発明は、酸化ニッケルバインダー中に分散された多孔質酸化ニッケルの領域を提供することによって、酸素発生に対する過電圧を低下させ、同時にコーティングの機械的安定性を維持することを提案するものである。
【0019】
酸化ニッケルバインダー中の多孔質酸化ニッケルの領域は、様々な方法で得ることができる。本発明の1つの実施形態によると、触媒コーティングは、本質的に、固体多孔質酸化ニッケル粒子が、固体酸化ニッケルバインダー中に埋め込まれている固体/固体分散体の特性を呈する。固体ニッケル多孔質酸化物粒子は、したがって、上記で定めた多孔質酸化ニッケルの領域を構成する。したがって、本発明は、電極基材上に粉末形態の触媒粒子を適用するための新規な適用方法を提案するものである。
【0020】
例えば、本発明の好ましい実施形態では、多孔質酸化ニッケルの領域は、予め形成された酸化ニッケルバナジウム粒子(Ni(V)O)に基づいており、その多孔度は、冶金術からの選択的浸出によって犠牲金属を除去するという発想を用いることにより、すなわち、酸化バナジウム成分のアルカリ浸出によって上記粒子から酸化バナジウムを除去することにより、得られる。
【0021】
1つの実施形態では、触媒多孔質外部層は、電極の金属基材上に適用された適切な前駆体溶液の熱処理によって得ることができる。前駆体溶液は、ニッケル塩の溶液中に分散された適切な予め形成された固体粒子を含み得る。そのような予め形成された固体粒子は、例えば、以下でより詳細に述べる化学合成法を介して得ることができる。熱処理後、ニッケル塩は、触媒コーティングの本質的に均一なバインダー相を画定し、一方予め形成された固体粒子は、多孔質酸化ニッケルの領域を画定する。この趣旨で、予め形成された固体粒子は、酸化ニッケルバナジウム粒子を作製し、続いて粒子からバナジウム成分を浸出させることによって得られる、予め形成された多孔質酸化ニッケル粒子であり得る。好ましくは、前駆体溶液の予め形成された固体粒子は、酸化ニッケルおよび酸化バナジウムの粒子であり、多孔質酸化ニッケルの領域は、適用された前駆体溶液を熱処理した後に、形成された触媒層から酸化バナジウム成分を浸出させることによって得られる。熱処理は、好ましくは、ニッケルの溶融温度よりも充分に低い温度で、典型的には、前駆体溶液の適用プロセス中に予め形成された粒子が安定で無傷に維持される500℃までの温度で行われる。したがって、バナジウムの浸出後、粒子は、固体酸化ニッケルバインダー中に多孔質酸化ニッケルの明確な領域を構成し、粒子のいかなる焼結も回避することができる。
【0022】
したがって、酸化ニッケルコーティングは、大スケールの製造に容易に転換される充分に開発されたプロセスである熱分解によって製造される。さらに、熱分解法は、基材の形状またはサイズとは独立して、非常に様々なニッケル基材に対して容易に調整可能である。加えて、コーティングは、ニッケルおよびバナジウムのみから得られ、すなわち、地殻中に非常に豊富な金属であり、イリジウムなどの貴金属よりも非常に安価である。非常に豊富であることにより、工業スケールでの製造に必要である大量購入が容易に達成される。さらに、コーティングから酸化バナジウムを除去するために必要である浸出工程は、ラネーニッケル製造の浸出工程ほど困難ではなく、なぜなら、バナジウムの浸出は、その溶解時に水素ガスを生成しないため、付随する健康および安全上の危険性が回避されるからである。最後に、本発明の方法に従って製造されたコーティングの形態は、平坦であるため、ゼロギャップ電解セルでの膜の損傷が回避される。
【0023】
好ましくは、多孔質酸化ニッケルの領域は、50nm~10μmの範囲内、好ましくは100~400nmの範囲内の直径を有する。予め形成された酸化ニッケルバナジウム粒子の場合、予め形成された粒子は、適用および浸出プロセスの過程で、その構造的安定性を維持する。したがって、多孔質酸化ニッケルの得られる所望の領域の寸法は、本質的に、初期粒子の寸法に対応する。浸出後、多孔質酸化ニッケルの領域は、初期酸化ニッケル成分由来の酸化ニッケルのサブ構造および初期バナジウム成分由来のボイドのサブ構造を呈し、一方バインダーは、本質的に非多孔質の酸化ニッケルである。多孔質酸化ニッケルの領域/予め形成された粒子が、不規則な形状を有する場合、本発明の意味における「直径」は、粒子が内接され得る球の直径に相当する。
【0024】
本発明の電極の金属基材は、好ましくは、ニッケル系基材、チタン系基材、および鉄系基材からなる群より選択される基材である。ニッケル系基材としては、ニッケル基材、ニッケル合金基材(特に、NiFe合金およびNiCo合金、ならびにこれらの組み合わせ)、および酸化ニッケル基材が挙げられる。鉄系基材としてはステンレス鋼などの鉄合金が挙げられる。金属ニッケル基材が、本発明の状況において特に好ましい。未被覆ニッケル電極のように、本発明の電極は、ニッケルの触媒特性からの恩恵を受けるが、未被覆ニッケル電極の遅い反応速度を呈することがなく、反応速度を改善するための追加の貴金属または他の金属を必要とすることもない。
【0025】
したがって、好ましい実施形態では、本発明のコーティングは、本質的にイリジウムなどの貴金属を含まない。「本質的に含まない」とは、対応する金属が、例えば典型的な実験用X線回折(XRD)法を用いた場合に、典型的にはいかなる検出可能範囲からも外れていることを意味する。
【0026】
所望される多孔度を得るためにバナジウム成分の浸出が用いられる場合、一般的に、一部の残留バナジウムは、得られる固体多孔質酸化ニッケル粒子中に残ることになる。したがって、「多孔質酸化ニッケル」の用語は、ニッケルが重量基準で主要な金属であり続ける限りにおいて、いかなる残留バナジウムの存在も排除することを意図するものではない。さらに、アルカリ媒体中でのバナジウムの浸出による多孔質酸化ニッケル形成の特性に起因して、酸化ニッケルの2つの異なる相(すなわち、異なる酸化状態のニッケル)、すなわち、それぞれ酸化ニッケル(NiO)および水酸化ニッケル(Ni(OH))が、通常は外部層中に存在することになる。
【0027】
したがって、1つの実施形態では、触媒外部層は、酸化ニッケル(NiO)および水酸化ニッケル(Ni(OH))のみからなり、残留量のバナジウムを含む可能性がある。したがって、触媒は、いかなる希少で高価な金属も含有しない。
【0028】
1つの実施形態では、多孔質外部層中の多孔質酸化ニッケルの領域は、BET(ブルナウアー、エメット、テラー)測定に従って特定される、少なくとも20m/gの表面積を有する。対照的に、酸化ニッケルバインダー領域は、10m/g以下、好ましくは5m/g未満の表面積を有する。好ましくは、多孔質外部層全体(すなわち、多孔質酸化ニッケルの領域および酸化ニッケルバインダーの領域を含む)の表面積は、少なくとも30、より好ましくは少なくとも40m/g(BET)である。ある特定の実施形態では、多孔質外部層の表面積は、20と80の間、30と60m/gの間(BET)を含む。したがって、本発明の電極は、例えば典型的には10m/g未満の範囲内であるイリジウム系触媒コーティングの表面積よりも非常に高い、高多孔質ニッケル系触媒外部層を備えた触媒層を有する。
【0029】
好ましい実施形態では、コーティングは、ニッケル基材と触媒多孔質外部層との間に堆積されたニッケル系中間層を備える。好ましくは、ニッケル系中間層は、金属基材上に直接適用されたLiNiOx中間層である。そのような中間層およびその製造方法は、貴金属系触媒コーティングから公知である。中間層の存在は、電極の寿命を延ばすことが見出された。寿命が中間層の厚さと共に延びる一方で、中間層が酸素発生に対する過電圧を上昇もさせるシグナルも見出された。したがって、意図する用途に応じて、電極は、寿命または酸素発生過電圧に関して最適化することができる。
【0030】
1つの実施形態では、多孔質外部層は、5~40マイクロメートル(μm)の範囲内、好ましくは10~20μmの範囲内の厚さを有する。多孔質外部層は、金属元素に関して5~50g/mの範囲内の好ましいニッケル充填量を有する。ニッケル基材に直接適用される場合、触媒コーティングは、低電流密度の用途(例:1kA/mまたは数kA/mまでの範囲内)において特に有用である。このような用途では、好ましいニッケル充填量は、典型的には、10g/mの範囲内である。多孔質外部層がニッケル中間層上に適用される場合、このような実施形態は、高電流密度の用途(例:10kA/m以上)に用いることができ、それによって、典型的には20g/m以上の範囲内であるより高いニッケル充填量が好ましい。
【0031】
多孔質外部層および中間層からなるコーティングは、好ましくは30~300μmの範囲内、好ましくはおよそ50μmの厚さを有する。
【0032】
好ましくは、ニッケル基材は、ニッケルメッシュであり、これは、メッシュ厚さおよびメッシュ形状に関して様々な形態で用いることができる。好ましいメッシュ厚さは、0.2~1mmの範囲内、好ましくはおよそ0.5mmである。典型的なメッシュ開口部は、長幅が2~10mmの範囲内、短幅が1~5mmの範囲内の菱形開口部である。
【0033】
酸素過電圧の値が低いことに起因して、本発明の電極は、好ましくは、酸素発生のためのアノードとして、特にアルカリ水電解のための電解セルのアノードとして用いられる。
【0034】
本発明はまた、電極の製造方法にも関し、その方法は、
a)予め形成された酸化ニッケルバナジウム(Ni(V)O)粒子を、ニッケル塩を含む溶液中に分散して、前駆体懸濁液を得る工程;
b)前駆体懸濁液を金属基材に適用して、適用されたコーティングを得る工程;
c)適用されたコーティングを、80~150℃の範囲内、典型的には90℃の温度で、好ましくは5~30分間にわたって、典型的には10分間にわたって乾燥させる工程;
d)金属塩を金属酸化物に酸化するために、適用されたコーティングを、300~500℃の範囲内、典型的には400℃の温度で、好ましくは5~15分間にわたって、典型的には10分間にわたってか焼する工程;
e)工程b)~d)を、ニッケルの所望される比充填量を有するコーティングが得られるまで繰り返す工程;
f)上記コーティングを、300~500℃の範囲内、典型的には400℃の温度で、好ましくは0.5~2時間にわたって、典型的には1時間にわたって熱処理する工程;
g)アルカリ浴中で上記コーティングからバナジウムを浸出させる工程
を含む。
【0035】
工程a)で用いられる予め形成された固体酸化ニッケルバナジウム粒子の製造は、Yokoshima、K.他、Electrochemical supercapacitor behavior of nanoparticulate rutile-type Ru1-x.Journal of Power Sources、2006、160.2:1480-1486に記載される錯体重合法を介したRu-V二元酸化物粒子の合成方法をベースとすることができる。この文献に記載の方法を、酸化ニッケルバナジウム粒子の合成に適合させた。Yokoshima他では、製造された酸化ルテニウムバナジウム粒子は、スーパーキャパシタとして用いられている。Yokoshima他は、バナジウム化合物の選択的浸出も、電極の触媒コーティング中の多孔質触媒粒子としてのそのような粒子の使用も想定していなかった。
【0036】
好ましい実施形態では、工程a)で用いられる予め形成された固体酸化ニッケルバナジウム粒子は、当該金属の塩または硝酸塩などの適切な金属前駆体、例えばNi(NO・6HOおよびVClと、有機溶媒、例えばエタノールおよびエチレングリコールと、クエン酸との混合物から得られる。エタノールをエバポレートするための第一の加熱工程の後、混合物を、硬い樹脂を得るために加熱した。次に、この樹脂を空気中で熱分解して、最終的な予め形成された合成酸化ニッケルバナジウム粒子(Ni(V)O)を得た。
【0037】
本発明のコーティング中で酸化ニッケルバインダーを形成するニッケル塩を含む溶液は、アルコール水溶液中、例えば水およびイソプロパノール中にニッケル塩を溶解することによって形成することができ、その溶液中に、予め形成されたNi(V)O粒子が懸濁される。ニッケル塩は、好ましくは、ハロゲン化ニッケル、例えば塩化ニッケルである。ニッケルの他に、適切な他の金属酸化物バインダーが、異なる電気化学用途において想定され得る。また、プロセス条件も、各種類の金属酸化物バインダーに対して適合され得る。
【0038】
工程b)において、工程a)の前駆体懸濁液の金属基材への適用は、はけ塗りまたは噴霧などの本技術分野で公知の様々な方法を用いて行われる。
【0039】
乾燥およびか焼の工程c)およびd)は、酸化ニッケルが、予め合成された酸化ニッケル触媒粒子のための無機バインダーとして作用するコーティング層の形成をもたらした。
【0040】
工程e)により、酸化ニッケル外部触媒層を、所望されるニッケル充填量を精密に目的に合わせて調整する目的で、一連の層として作製することができる。1つのコーティング組成物のみが用いられることから、コーティングされた電極の製造は、先行技術の方法よりも早く、無駄が少ないため、コストが低下する。さらに、酸化物コーティングは、工業スケールのコーティング製造に対して充分に開発された本発明者らのプロセスである熱分解によって製造される。
【0041】
工程f)による最後の熱処理は、電極の寿命を向上させ、酸素過電圧を低下させる補助にもなり得る。
【0042】
工程g)の混合金属酸化物粒子からのバナジウムの選択的浸出の発想には、例えば、Navarro、R.他、Vanadium recovery from oil fly ash by leaching、precipitation and solvent extraction processes.Waste Management、2007、27.3:425-438ならびにTsai、S.およびM.Tsai、A study of the extraction of vanadium and nickel in oil-fired fly ash.Resources、Conservation and Recycling、1998、22.3-4:163-176に記載のように、浸出によってフライアッシュからバナジウムを回収したという文献に見出される研究を適合させることができる。本発明の方法では、工程f)の後、酸化ニッケルバナジウム混合物が存在するコーティングの領域/粒子は、2つの別々の結晶相、すなわち酸化ニッケル(NiO)および酸化バナジウム(VO)、を含む。工程g)では、粒子中に活性化された微多孔質酸化Ni構造を得る目的で(具体的にはNiOおよびNi(OH)の混合相)、酸化バナジウムが、アルカリ溶液(例:80℃の6M KOH)を用いた浸出によって除去される。したがって、工程f)は、好ましくは、アルカリ水酸化物水溶液中、例えば6M NaOHまたは6M KOH溶液中、60と100℃の間の温度、典型的には80℃の温度で、12~36時間の範囲内の継続時間にわたって、典型的には24時間の継続時間にわたって行われる。
【0043】
好ましい実施形態では、工程a)の前に、ニッケル系中間層がニッケル基材上に適用される初期工程a0)が行われる。
【0044】
本発明は、特定の利点を伴うものである。驚くべきことに、本発明の電極の触媒コーティングには貴金属が用いられていないものの、コーティングの多孔度の増加および活性表面積の同様の増加が、例えばアルカリ水電解における酸素発生に対する過電圧の低減により、材料の電気化学的活性を大きく上昇させることが見出された。多孔度の増加は、予め形成された触媒粒子からバナジウムを浸出させて、コーティング中に、酸素発生のための反応部位を増加させることによって全体としての酸素過電圧値を低下させるボイド/細孔を残すことによって得られる。さらに、浸出プロセスを、予め形成された粒子によって画定されるコーティング中の領域に限定することにより、コーティングの残りの部分、すなわち酸化ニッケルバインダーは、本質的に変化せずに残され、したがって、全体構造の改善された機械的安定性を明確にする。加えて、本発明に従う浸出工程は、例えば、発生する水素ガスがコーティング構造の損傷をもたらす可能性のあるNiAlおよびNiZnコーティングでの公知の浸出手順と比較して、水素を放出しない。最後に、本発明によると、酸化ニッケルなどの無機金属バインダーが用いられる。酸化ニッケルバインダーは、電極がアルカリ水電解に用いられる場合に特に好ましい。しかし、他の用途において、コーティングの所望される機械的安定性および意図する電気化学的用途に応じて、異なる金属バインダーが用いられてもよい。
【0045】
次に、本発明について、ある特定の好ましい実施形態および対応する図面と合わせて、より詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明に従う電極の模式図を示す。
図2】本発明に従う電極のSEM画像を、EDXスキャンの結果と重ね合わせて示す。
図3】バナジウム浸出の前後における、本発明に従う電極のXRDパターンを示す。
図4】バナジウム浸出の前後における、本発明に従う電極および反例の電極のSEM画像を示す。
図5】CISEP試験によって特定した酸素過電圧の結果を示す。
図6】促進寿命試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、図面a)において、本発明に従う電極10の模式図を示す。電極は、金属基材を備え、本発明のケースでは、0.1~5mmの範囲内の典型的な厚さを有するコーティングされたニッケルメッシュ11である。図1の図面b)およびc)は、本発明のコーティングの2つの別の選択肢に従う、メッシュ1のコーティングされたワイヤ12の拡大断面図を示す。選択肢b)によると、断面図は、ニッケル基材、すなわち、ニッケルワイヤ12、および酸化ニッケルバインダー15中に分散された固体多孔質酸化ニッケルバナジウム粒子14を含む多孔質外部層13、を示す。選択肢c)に従うコーティングは、選択肢b)に相当するが、但し、LiNi中間層16が、ニッケルワイヤ基材12上に直接適用されており、および酸化ニッケルバインダー15中に分散された固体多孔質酸化ニッケルバナジウム粒子14をやはり含む多孔質外部層13が、中間層16の上に配置されている。
【実施例
【0048】
実施例1:コーティング懸濁液の調製
a)化学合成を介する予め形成された固体触媒粒子の作製
上記で述べたK.Yokoshimaらの合成手順を例として取り入れ、改変してNi(V)O触媒を合成した。金属前駆体(Ni(NO・6HOおよびVCl)、有機溶媒(エタノールおよびエチレングリコール)、およびクエン酸の混合物を、25℃で2時間、続いて60℃で12時間にわたって充分に混合した。混合物を90℃で4時間加熱することによってエタノールをエバポレートした後、溶液を130℃で6時間加熱して、硬い樹脂を得た。次に、この樹脂を空気中、400℃で1時間にわたって熱分解して、100~200nmの範囲内の径を有する最終的な予め合成されたNi(V)O粒子を得た。
【0049】
b)コーティング溶液の調製
塩化ニッケルを、水およびイソプロパノール中(体積比1:1)に溶解した。Nafion(スルホン化テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー共重合体、DuPont de Nemours、Inc.より市販)を、イオノマーとして添加した。
【0050】
c)予め形成された固体触媒粒子およびコーティング溶液の分散
a)で得た予め形成された固体粒子を、b)で作製した溶液に添加し、いかなる凝集物も超音波処理およびマグネティックスターラー撹拌によって分散して、最終コーティング懸濁液を得た。コーティング分散体中のNi(V)O粒子は、100~200nmの範囲内のその初期サイズを維持している。
【0051】
実施例2(Ex2):中間層なしのNi(V)O粒子/NiOxバインダーコーティングによるニッケルメッシュ電極の調製
1mのコーティングされたメッシュを製造するために、厚さ0.5mmで、長幅5mm、短幅2.8mmの菱形開口部を有するニッケル織メッシュを、サンドブラスト処理し、塩酸溶液中でエッチングした。実施例1のコーティング懸濁液を、はけ塗りによってメッシュの両側に堆積し、90℃で10分間にわたって乾燥し、400℃で10分間にわたってか焼した。投影面積あたり10g/mの最終ニッケル充填量に到達するまで(バインダー領域および粒子領域の両方において)、堆積、乾燥、およびか焼の工程を繰り返した。続いて、コーティングされた電極を、400℃で1時間の後焼成に掛けた。最後に、電極を、バナジウム除去のために、アルカリ性6M KOH浴中、80℃の温度で24時間の合計時間にわたって浸出処理した。
【0052】
実施例3(Ex3):中間層を有するNi(V)Ox粒子/NiOxバインダーコーティングによるニッケルメッシュ電極の製造
実施例2に類似のニッケルメッシュに、Li0.5Ni1.5から構成される中間層を設けた。中間層は、ニッケルメッシュの両側を、酢酸ニッケルおよび酢酸リチウムを含む溶液でコーティングし、乾燥(80℃で10分間)および焼成(500℃で15分間)する反復サイクルを、投影面積あたり8g/mのニッケル充填量および投影面積あたり0.3g/mのリチウム充填量に到達するまで行うことによって得た。
【0053】
実施例1のコーティング懸濁液を、中間層上に堆積させ、バナジウムを、実施例2に記載のようにして浸出させて、最終電極を得た。
【0054】
反例4(CEx4)
反例4は、本出願者によって商業化された貴金属系触媒コーティングを備えた電極に対応する。LiNiOベース層、NiCoO中間層、およびIrOトップ層からなる三層コーティングを備えた0.17mm径ワイヤによるニッケルワイヤ織メッシュを、メッシュ基材上(またはそれぞれの下地層上)に各対応する前駆体溶液を、順にはけ塗りを介して適用し、熱分解することによって得た。
【0055】
反例5(CEx5)
反例5は、本出願者によって商業化された貴金属系触媒コーティングを備えたさらなる電極に対応する。実施例2に類似のニッケルメッシュ上に、LiNiIrOおよびIrOを含む混合物からなる単一層コーティングを適用した。
【0056】
反例6(CEx6)
コーティングのない実施例2の未被覆ニッケルメッシュ電極を、比較の目的でさらなる反例として用いた。
【0057】
反例7(CEx7)
実施例2の未被覆ニッケルメッシュ電極にニッケルバインダーのみからなるコーティングを備えたものを、さらなる反例として用いた。この趣旨で、実施例1b)のコーティング溶液を、バインダーコーティング中のニッケル充填量が10g/mに達するまで、実施例2のコーティング懸濁液について述べた方法と同様に適用した。
【0058】
本発明に従う実施例2および3の電極を、様々な方法を用いて特性評価し、反例4~7と比較した。
【0059】
反例8(CEx8)
実施例2の未被覆ニッケルメッシュ電極に、本出願者のイタリア特許出願IT2020000020575に従うコーティング、すなわち、予め形成された(予め合成された)粒子を含まないだけである浸出処理したNi(V)Oコーティングを備えた。
【0060】
本発明に従う実施例2および3の電極を、様々な方法を用いて特性評価し、反例4~8と比較した。
【0061】
A.コーティングの機械的および化学的特性
A.1 均一性
実施例3に従って製造した電極(中間層あり)を、走査電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光分析(EDX)の方法を用いて特性評価した。図2は、電極の断面のSEM画像20を、EDXスキャンの結果と重ね合わせて示す。SEM画像20は、未被覆ニッケル基材21、Li0.5Ni1.5中間層22、およびNi(V)O触媒外部層23を示す。画像の右側にある暗くなっている領域24は、試料調製に由来するカーボン樹脂である。画像20に重ね合わせたのは、スキャンライン25に沿ったEDXスキャンの結果であり、それぞれニッケル(ライン26)、バナジウム(ライン27)、および酸素(ライン28)の重量パーセント(重量%)を示す。試料は、最終浸出工程の後に得たが、図2から分かるように、残留バナジウムが、触媒外部層23に依然として存在している。したがって、バナジウムは、コーティングから完全に浸出除去されているわけではない。X線蛍光(XRF)法を用いて、浸出後の残留バナジウムの量が、中間層の厚さに依存することが明らかとなり、残留バナジウムは、典型的には、浸出前の初期バナジウム含有量の40と60%の間の範囲内であることが見出された。中間層は、浸出工程後であっても、コーティング内部のバナジウム種を安定化させる役割を有するものと想定され得る。
【0062】
A.2 化学組成
電極の化学組成を、X線回折(XRD)法を用いてさらに分析した。実施例3に従って製造した電極に対する典型的な結果を図3に示す。x軸は、回折角2θを示し、y軸は、任意単位(例えばスキャン当たりのカウント数)での回折強度を示す。ライン30は、浸出前の回折パターンを示し、一方ライン31は、浸出の回折パターンを示す。浸出前では、スペクトルは、試料に存在する結晶種が、Ni(基材)、LiNi、およびLiNiVO/LiVであることを示す。一方、浸出後では、結晶Ni(OH)が出現したこと以外は、同じ種が存在している。Li0.5Ni1.5サイクル数が少ない(5または10)他の試料では、LiNiに対するピーク強度は低下したが、浸出の前後で同じ結晶種が存在していた。
【0063】
実施例2の電極のXRD結果を、反例8に従って、すなわち、本出願者のイタリア特許出願IT2020000020575に従って製造した電極と比較すると、反例8の電極の場合、VOピークが本質的に消滅したことが明らかとなった。対照的に、本発明に従う電極の場合、低下したVOピークを依然として観察することができ、このことは、バナジウムがコーティングから完全に浸出除去されているわけではないことを意味する(図には示さず)。
【0064】
A.3 機械的安定性
実施例2による電極(中間層なし)の安定性を、反例8による電極と比較した。触媒外部層の安定性に対する浸出工程の効果を、図4のSEM画像に示す。図4a)およびb)には、実施例2による電極のバナジウム浸出前(a)および後(b)における断面図を示す。図4c)およびdは、反例8による電極(すなわち、予め形成された/予め合成された粒子を含まない多孔質Ni(V)O触媒コーティングを有する電極)のバナジウム浸出前(c)および後(d)における同様の断面図を示す。図4において、符号41は、ニッケル基材を示し、符号42は、試料調製に必要なカーボン樹脂を示す。本発明に従う多孔質触媒外部層は、符号43(バナジウム浸出前の層を示す)および44(バナジウム浸出後の層を示す)でそれぞれ示される。反例8による多孔質触媒外部層は、符号45(バナジウム浸出前の層を示す)および46(バナジウム浸出後の層を示す)でそれぞれ示される。画像から分かるように、予め形成された粒子および酸化ニッケルバインダーを含む本発明の多孔質触媒外部層は、バナジウム浸出に対してより安定であり、バナジウムが外部層全体で浸出された結果、浸出後に著しく収縮した反例8と比較して、実質的な収縮を示していない。図4a)および4b)の平均層厚さは、図4c)および4d)のそれぞれ18+/-4μmおよび5+/-1μmと比較して、それぞれ16+/-2μmおよび15+/-2μmであった。
【0065】
B.コーティングの電気化学的特性
B.1 酸素過電圧
「インピーダンス補正単一電極電位(Corrected Impedance Single Electrode Potential)」(CISEP)試験を用いて、アルカリ水電解に用いられる先行技術のアノードと比較して、本発明の電極の電気化学性能を特性評価した。本発明の電極の酸素過電圧を特定するために、三電極ビーカーセルのアノードとして試験した。試験条件を、表1にまとめて示す。
【0066】
まず、試料を、10kA/mで2時間の予備電解(コンディショニング)に掛けて、酸素過電圧(OOV)を安定化する。次に、いくつかのクロノポテンシオメトリー工程を試料に適用する。CISEP試験の最終出力は、電解質のインピーダンスで補正した、10kA/mで実施した3工程の平均である。
【0067】
図5は、それぞれ反例4(未被覆ニッケルアノードの340mV、「ベースライン」51で示す)、反例4および5のイリジウム系アノード(CEx4、CEx5)、ならびに本発明の実施例2および3の電極(Ex2、Ex3)の間の比較をまとめて示す。
【0068】
本発明のアノードを用いて得ることができるエネルギーの節約(未被覆ニッケル電極よりも120mV超低い酸素過電圧OOV)により、高コストである貴金属または危険な製造プロセスが関与することなく、未コーティングニッケルメッシュのアノード反応の遅い反応速度によってもたらされる高い作動コストの問題が解決される。
【0069】
B.2 寿命試験
促進寿命試験(ALT)を用いて、触媒コーティングの寿命を推定した。試験は、二電極設定およびそれに直接印加した連続電解電流によるビーカーセルでの長期間電解からなる。適用した条件は、消費プロセスを促進する目的で、CISEP試験の1つと比較してより苛酷であり、典型的な作動条件を超えるものである。促進寿命試験で用いた条件を、以下の表2にまとめて示す。
【0070】
ALTデータを図6に示す。x軸は、試験の継続時間を日数で示し、y軸は、セル電圧をボルトで示す。データ点61は、反例6による未コーティングの未被覆ニッケル電極に対する結果を示し、僅かに数時間の作動後に、2.5Vから2.7Vへのセル電圧の上昇を示している。セル電圧は、2.7Vで安定に維持されており、さらなる劣化は起こらなかったことが示される。データ点62は、反例8による酸化ニッケルバインダー層のみでコーティングした電極を示し、未被覆ニッケル電極と本質的に同様の挙動を示している。データ点63は、実施例2による電極に対応し、2.55から2.6Vの間のより低いセル電圧を維持し、60日間超で少しの上昇があるだけである。このことは、高多孔質外部触媒酸化ニッケル層(中間層なし)を有する実施例2の電極が、未被覆ニッケル電極と比較して、セル電圧に関してより優れた性能を有することを示している。データ点64は、反例4による貴金属系電極を示し、これは、ALT試験の苛酷な条件下で、さらにより良好な性能を呈している。しかしながら、低コストで製造することができ、高い機械的安定性および著しく改善された電気効率を呈する本発明の電極は、アルカリ水電解のアノードとして非常に適している。
【0071】
上記の記述は、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明は、様々な実施形態に従って、しかし目的から逸脱することなく用いられてよく、その範囲は、添付の請求項によって一意的に定められる。本出願の明細書および請求項において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」の用語は、他の追加の要素、成分、またはプロセス工程の存在を除外することを意図するものではない。文書、項目、材料、デバイス、物品などの考察は、単に本発明における状況を提供する目的で、本明細書に含まれる。これらのトピックのいずれかまたはすべてが、本出願の各請求項に対する優先日の前に、先行技術の一部を形成したことまたは本発明に該当する分野における共通の一般的知識を形成したことを示唆するものでもまたは表明するものでもない。
【0072】
謝辞
本プロジェクトは、マリー・スクウォドフスカ-キュリー助成金契約番号722614、-ELCOREL-H2020-MSCA-ITN-2016/H2020-MSCA-ITN-2016の下、欧州連合のHorizon2020研究・イノベーションプログラムからの資金提供を受けた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材および前記基材上に形成されたコーティングを備えた電解プロセスにおけるガス発生のための電極であって、前記コーティングは、固体酸化ニッケルバインダー中に分散された多孔質酸化ニッケルの領域を含有する触媒多孔質外部層を少なくとも備え、前記触媒多孔質外部層は、ニッケル塩を含有する前駆体溶液中に分散された予め形成された酸化ニッケルバナジウム粒子を含む前駆体溶液の熱処理、および続いての前記熱処理された層からの酸化バナジウムの浸出によって得られる、電極。
【請求項2】
前記触媒多孔質外部層が、固体多孔質酸化ニッケル粒子が前記固体酸化ニッケルバインダー中に分散されている固体/固体分散体である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
多孔質酸化ニッケルの前記領域が、50nm~10μmの範囲内の直径を有する、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記金属基材が、ニッケル系基材、チタン系基材、および鉄系基材からなる群より選択される基材である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記多孔質外部層が、酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記多孔質外部層が、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、および残留バナジウムからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記多孔質外部層中の多孔質酸化ニッケルの前記領域が、少なくとも20m/g(BET)の表面積を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記多孔質外部層中の多孔質酸化ニッケルの前記領域が、20と80m/gの間(BET)を含む表面積を有する、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記コーティングが、前記ニッケル基材と前記触媒多孔質外部層との間に堆積されたニッケル系中間層を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
前記ニッケル系中間層が、金属基材上に直接適用されたLiNiO中間層である、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
前記基材が、ニッケルメッシュである、請求項1から10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
酸素発生のためのアノードとしての、請求項1から11のいずれか一項に記載の電極の使用。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の電極の製造方法であって、
a)予め形成された酸化ニッケルバナジウム(Ni(V)O)粒子を、ニッケル塩を含む溶液中に分散して、前駆体懸濁液を得る工程;
b)前駆体懸濁液を金属基材に適用して、適用されたコーティングを得る工程;
c)適用されたコーティングを、80~150℃の範囲内の温度で乾燥させる工程;
d)適用されたコーティングを、300~500℃の範囲内の温度でか焼する工程;
e)工程b)~d)を、ニッケルの所望される比充填量を有するコーティングが得られるまで繰り返す工程;
f)前記コーティングを、300~500℃の範囲内の温度で熱処理する工程;
g)アルカリ浴中で前記コーティングからバナジウムを浸出させる工程
を含む、方法。
【請求項14】
工程a)における前記予め形成された固体酸化ニッケルバナジウム粒子が、ニッケル前駆体およびバナジウム前駆体をベースとする樹脂を熱分解することによって得られる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程a)における前記溶液が、水、およびアルコール、好ましくはイソプロパノールを含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
工程a)における前記ニッケル塩が、ハロゲン化ニッケルである、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程g)が、アルカリ水酸化物水溶液中、60と100℃の間の範囲内の温度で、12と36時間の間の継続時間にわたって行われる、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程a)の前に行われる、ニッケル系中間層が金属基材上に直接適用される工程a0)を含む、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】