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特表2024-516109全血の保存及び保管のための改善された添加剤溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】全血の保存及び保管のための改善された添加剤溶液
(51)【国際特許分類】
   A61J 3/00 20060101AFI20240405BHJP
   A61M 1/02 20060101ALI20240405BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20240405BHJP
   A61K 35/14 20150101ALN20240405BHJP
【FI】
A61J3/00 300A
A61M1/02 100
A61M1/02 121
A61J1/10 330A
A61K35/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562186
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 US2022023873
(87)【国際公開番号】W WO2022216955
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】63/172,039
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513182776
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・シンシナティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョセ・キャンセラス
(72)【発明者】
【氏名】マジド・ジア
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・アール・ヘス
【テーマコード(参考)】
4C047
4C077
4C087
【Fターム(参考)】
4C047AA11
4C047CC01
4C077AA12
4C077BB04
4C077CC03
4C077KK04
4C077KK11
4C077NN02
4C077NN03
4C087AA10
4C087BB34
4C087NA20
4C087ZA51
(57)【要約】
全血抗凝固剤組成物及び前記組成物を含むシステムであって、前記組成物が炭酸水素ナトリウム、マンニトール、酢酸ナトリウム及びクエン酸マグネシウムを含み、場合により、二リン酸ナトリウム及び/又はアデニンを含みうる、組成物及びシステム。全血保存システムは、改善された赤血球保存のためのpH最適化を伴う全血白血球除去を可能にする装置を含みうる。そのようなシステムは、医療現場で使用するための白血球の低減された全血を提供し、赤血球を保存し、全血の凝固活性を維持又は大部分維持することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む、全血抗凝固剤組成物。
【請求項2】
1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
二リン酸ナトリウムを更に含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの核酸塩基含有成分を更に含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの核酸塩基含有成分が、アデニンを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
1つ以上の糖を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
1つ以上の糖が、デキストロース及びグルコースからなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
組成物中の炭酸水素ナトリウム、マンニトール、酢酸ナトリウム、及びクエン酸マグネシウムのモル濃度が、40~120mMの炭酸水素ナトリウム、55~165mMのマンニトール、50~150mMの酢酸ナトリウム、及び0.5~10mMのクエン酸マグネシウムである、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
組成物中の炭酸水素ナトリウム、マンニトール、酢酸ナトリウム、及びクエン酸マグネシウムのモル濃度が、80mMの炭酸水素ナトリウム、110mMのマンニトール、100mMの酢酸ナトリウム、及び8mMのクエン酸マグネシウムである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
組成物中の炭酸水素ナトリウム、二リン酸ナトリウム、マンニトール、酢酸ナトリウム、及びクエン酸マグネシウムのモル濃度が、40~120mMの炭酸水素ナトリウム、10~30mMの二リン酸ナトリウム、55~165mMのマンニトール、50~150mMの酢酸ナトリウム、及び0.5~10mMのクエン酸マグネシウムである、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
組成物中の炭酸水素ナトリウム、二リン酸ナトリウム、マンニトール、酢酸ナトリウム、及びクエン酸マグネシウムのモル濃度が、80mMの炭酸水素ナトリウム、24mMの二リン酸ナトリウム、110mMのマンニトール、100mMの酢酸ナトリウム、及び8mMのクエン酸マグネシウムである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
第1の物質及び第2の物質を含む全血抗凝固剤組成物であって、第1の物質が複数の成分を含み、複数の成分が、1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む、全血抗凝固剤組成物。
【請求項13】
1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
複数の成分が、二リン酸ナトリウムを更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
第2の物質が、複数の成分を含み、複数の成分が、クエン酸、二リン酸ナトリウム、アデニン、グルコース及びクエン酸ナトリウムを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
組成物中の第1の物質及び第2の物質の成分のモル濃度が、40~120mMの炭酸水素ナトリウム、10~30mMの二リン酸ナトリウム、30~65mMのマンニトール、30~65mMの酢酸ナトリウム、及び5~15mMのクエン酸マグネシウム、5~15mMのクエン酸、0.25~5mMのアデニン、50~100mMのグルコース、及び30~65mMのクエン酸ナトリウムである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
組成物中の第1の物質及び第2の物質の成分のモル濃度が、33.3mMの炭酸水素ナトリウム、19.4mMの二リン酸ナトリウム、45.8mMのマンニトール、41.7mMの酢酸ナトリウム、8mMのクエン酸マグネシウム、9.1mMのクエン酸、1.2mMのアデニン、75.1mMのグルコース、及び52.2mMのクエン酸ナトリウムである、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む、第1の添加剤;並びに
第2の添加剤;
を含み、
第1の添加剤及び第2の添加剤が全血と組み合わされると、全血の凝固能が少なくとも約2週間若しくは少なくとも約3週間維持又は大部分維持される、全血保存システム。
【請求項19】
1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及び二リン酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む、請求項18に記載の全血保存システム。
【請求項20】
第2の添加剤が抗凝固剤を含む、請求項18に記載の全血保存システム。
【請求項21】
1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む、第1の添加剤;並びに
第2の添加剤;
を含み、
第1の添加剤及び第2の添加剤が全血と組み合わされると、全血が少なくとも約数週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間保存され、赤血球が少なくとも約数週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間保存されうる、全血保存システム。
【請求項22】
1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及び二リン酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む、請求項21に記載の全血保存システム。
【請求項23】
第2の添加剤が、クエン酸、クエン酸ナトリウム、及びデキストロースのうちの少なくとも1つを含む、請求項21に記載の全血保存システム。
【請求項24】
第2の添加剤が、CPDA-1又はCPDA-2を含む、請求項21に記載の全血保存システム。
【請求項25】
第1及び第2の添加剤が、使用前に別々に保存される、請求項21に記載の全血保存システム。
【請求項26】
第1の添加剤が、第1のレセプタクルに保存され、第2の添加剤が、第2のレセプタクルに保存され、第1及び第2のレセプタクルの少なくとも一方が、全血保存に適している、請求項25に記載の全血保存システム。
【請求項27】
第1のレセプタクル及び第2のレセプタクルが、流体経路を介して互いに流体連通しており、システムが、流体経路中に少なくとも1つの白血球除去フィルターを更に含む、請求項26に記載の全血保存システム。
【請求項28】
全血保存に適した第1及び第2のレセプタクルの少なくとも一方が、前記第1及び第2の添加剤の他方及び全血を受け入れるように構成され、前記全血が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間保存されうる、請求項26に記載の全血保存システム。
【請求項29】
このシステムで少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間保存された全血が、その後、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間の保存のために、別個の添加剤溶液中で赤血球へと処理されうる、請求項21に記載の全血保存システム。
【請求項30】
白血球除去フィルターが、血小板温存型白血球除去フィルターである、請求項27に記載の全血保存システム。
【請求項31】
全血から赤血球及び血漿を分離するための遠心分離機;並びに
全血から分離された赤血球を受け入れるように前記遠心分離機に接続された赤血球保存レセプタクル;及び全血から分離された血漿を受け入れるように前記遠心分離機に接続された血漿保存レセプタクル
を更に含む、請求項21に記載の全血保存システム。
【請求項32】
採取される全血を第1の添加剤を含む第1のレセプタクルに加える工程;
1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む第2の添加剤を、第2のレセプタクルから第1のレセプタクルに移送する工程;
を含み、
移送工程は、全血を第1のレセプタクルに加える工程の前又は後に行われる、全血の保存方法。
【請求項33】
1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及び二リン酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも約2週間又は少なくとも約3週間、赤血球を保存し、全血の凝固能を維持又は大部分維持するために、第1の添加剤及び第2の添加剤を組み合わせる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
全血を少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間の期間、保存する工程を更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
全血から赤血球を分離する工程を更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間の期間、赤血球を保存する工程を更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
全血を少なくとも1つの白血球除去フィルターに通す工程を更に含む、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
白血球除去フィルターが、血小板温存型白血球除去フィルターである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
全血を少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間の期間、保存した後、赤血球及び血漿をもたらす全血から赤血球を分離する工程を更に含む、請求項35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年4月7日に出願された米国仮特許出願第63/172,039号の優先権を主張する国際PCT出願であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の種々の態様は、血液及び血液製剤の保存、並びに血液及び血液製剤の収集、処理及び貯蔵のためのシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
このセクションは、以下に記載及び/又は特許請求される本発明の様々な態様に関連しうる技術の様々な態様を読者に紹介することを意図している。この考察は、本発明の様々な態様のより良い理解を容易にするための背景情報を読者に提供する上で有用であると考えられる。したがって、これらの記述はこのような観点から読まれるべきであり、先行技術として認めるものではないと理解されるべきである。
【0004】
出血は、軍人及び民間人の両方の外傷において予防可能な死亡の主な原因である。そのため、大量出血の蘇生時の輸血を最適化することに関心が持たれ続けている。様々な理由から、軍隊は特定の状況(例えば、重度の出血を伴う戦闘犠牲者)において、個々の血液成分の輸血(すなわち、個別の血液成分療法「CT」)とは対照的な全血(WB)輸血を採用してきた。軍隊において全血の使用の成功をふまえて、民間の病院が、血漿、血小板(PLT)、及び赤血球(RBC)を等しい比率で投与することにより、全血輸血をシミュレートする大量輸血プロトコルを採用した。
【0005】
生命を脅かす出血のある患者に対しては、出血のコントロールに加えて、血液製剤による蘇生が不可欠である。全血輸血は、軍事医学において長い歴史を有しており、第一次世界大戦において、血液喪失の激しい戦闘負傷者において、交差適合していない全血の輸血が死亡率を低下させることが実証されたことに始まる。2014年、米国戦術戦闘負傷者ケア委員会は、外傷性出血性ショック患者の蘇生に最適な製品として全血を推奨した。
【0006】
全血には、個別の血液成分療法(CT)と比較して、複数の利点がある。Nessenらは、米軍前方外科基地において、O型全血が赤血球及び血漿のみと比較して改善された転帰と独立に関連していることを示した。赤血球又は全血を用いたABO適合輸血の実施は、ABO不適合赤血球の輸血による致死的溶血反応のリスクが約80,000分の1の割合で伴うが、これは主にドナーとレシピエントを適切に適合させる際の人為的ミスによるものである。IgM及び/又はIgG抗A及び抗Bが「低い」ドナーから採取された未分離血液である低力価O型全血(LTOWB)は、クロスマッチの結果を待つことなく使用されうるため、輸血までの時間を短縮し、潜在的に生存率を向上させうる。出血している戦闘負傷者に輸血する場合、時間が最も重要であり、数分が重要となることを研究は示している。LTOWBはまた、遥か前方の環境において、最も物流的に実現可能な選択肢であるという利点もある;それは、冷蔵だけでなく、冷凍庫、保温器、解凍器も必要とするバランス型成分輸血戦略と比較すると、冷蔵を必要とするだけである。
【0007】
前述の理由から、戦闘環境においてLTOWBをはるかに前進させる大きな推進力があった。イラクにおける紛争の初期には、血液成分の全量が入手できない場合に、室温新鮮全血(WFWB)を採取するためにウォーキングブラッドバンクが使用された。(過酷な採取プロセスと適格なドナーのスクリーニングの欠如のため)FDAの承認は得られないが、イラクとアフガニスタンでは、前方作戦基地のよく訓練されたウォーキングブラッドバンクの一部として、10,000ユニット以上のWFWBが輸血された。
【0008】
低温保存低力価O型全血(CS-LTOWB)の使用は、米国の民間病院で着実に増加している。過去5年間で、全血は、外傷蘇生には成分輸血よりも投与が簡単で、より効果的である可能性があることが、市民病院によって、ますます認識されるようになってきた。より広い全血の採用に対する主な障壁には、O型以外の患者へのO型全血の輸血に関連する医学的及び(2018年までの)規制上の懸念が含まれる。近年、特に2018年にAABB(米国血液バンク協会)の基準の変更後、LTOWBの使用が魅力を得ている。最近では、いくつかの大都市圏で、民間救急サービスがCS-LTOWBを地上の救急車や救急航空機に採用している。CS-LTOWBの実施と、共有された経験から学んだ教訓を研究するために、全国的なサミットが開催されている(例えば、2019年5月にテキサス州サンアントニオで開催された第1回全国全血サミット)。
【0009】
これまでの研究は、非白血球除去(非LR)低温保存全血の止血効果を、保存中の様々なポイントで評価し、一般に、多くの凝固因子(不安定な第VIII因子[FVIII]以外)は1から6℃で14日間以上保存されると結論づけている。米国の大部分において、白血球除去(すなわち、輸血用に供給される血液又は血液成分からの白血球の除去)は、適用される全ての成分に対して強く推奨される修正である。外傷患者用の血液の白血球を低減させることは、科学的にも臨床的にも強い要求ではないが、少なくとも1つの施設審査委員会(IRB)が、民間人の外傷患者を対象とした試験において、非白血球除去全血ではなく、白血球除去全血の使用を要求していたことが明らかになり、外傷患者に対する白血球除去の妥当性が脚光を浴びている。歴史的に、全血は輸血前に白血球除去されておらず、現在の医学文献は、全血の機能性に対する白血球除去の影響を評価し始めたばかりである。白血球除去は、同種免疫、発熱性輸血反応、及びサイトメガロウイルス感染の低減を含む、患者にとって重要な利点を有することが長い間示されてきた。したがって、多くの病院が、全血を在庫に導入する際に、白血球除去製剤を検討する可能性が高い。更に、輸血されない全血ユニットは、資格のある血液バンクによって保存前白血球除去赤血球へと製造されうることから、保存前の白血球除去は一般に、白血球除去全血の使用を現実的に支持する標準ケアとみなされている。
【0010】
2015年以来、米軍血液プログラム(ASBP)は、第75レンジャー連隊をLTOWBでサポートし、世界各地の作戦任務をサポートしてきた。LTOWBプログラムはその後、他のSOCOM(米特殊作戦司令部)ユニットにも拡大された。追加の全血ユニットのASBPの作業により、軍の採血センターは、現在入手可能な認可された採血バッグを使用して、アデニン含有クエン酸-リン酸-デキストロース溶液(CPDA-1)(全血及び赤血球の保存、及び赤血球ATPレベルの維持に必要なアデニンを供給することにより赤血球の生存期間を延長するために使用される抗凝固剤溶液)において有効期間35日とする現在及び新たな作戦上の全血必要量を満たすように制約が課されている。有効期間35日の採血バッグは、血液ユニットが期限切れになるまでに、実際には3から4週間の使用期間しか提供しない。全血の有効期間は「一日一日が重要」である日常的な任務に対応するための物流上の能力に課題をつきつける。全血任務の世界的な移動は、給油ポイントでの時間ロスのために、特別な航空輸送を必要とする。常備軍をサポートするための要請は、CPDA-1(血液の保存及び貯蔵に使用される標準的な抗凝固剤溶液)中に採取された全血の有効期間が35日と短いため、ASBPの現在の能力を大きく上回っている。作戦任務をサポートするための物流的な負担は、軍の血液バンクにとって非常に大きな負担であり、輸血されなければ貴重な資源が大量に失効することにつながる。米国本土(CONUS)の支援基地からの距離が遠いこと、航空優勢に欠けること、及び同格同士の紛争を含む将来の軍事作戦は、血液サポートの可用性を満たすための物流上の課題を増やすであろう。
【0011】
採取された全血ユニットの有効期間を増加させた血液採取システム(例えば、現在の2倍又は3倍の有効期間)は、血液供給物流システムに対するリスクを軽減するであろう。しかしながら、血液バッグの抗凝固保存液は、40年以上変わっていない。1960年代後半に血液成分療法が登場し、全血の使用は減少した。近年、米軍は全血輸血の利点を再発見する最前線にいる。近年の採血バッグの技術革新は、包装された赤血球の保存損傷を改善するための添加剤溶液の改良に焦点が当てられている。プレホスピタル及び苛酷なRole 2環境におけるCS-LTOWBの多くの物流上の利点(冷凍庫/解凍器が不要で、1つの製品であらゆる範囲の成分療法を提供)を考えると、米中央軍(CENTCOM)にはCS-LTOWBに対する著しい需要の徴候がある。CS-LTOWBは、2016年における戦域でのその復活以来、被害応急蘇生に採用され、過酷な環境でのその実現可能性を証明してきた。赤血球、FFP及び血小板の平衡蘇生に比べて、より良い酸素運搬能力及び止血機能等のCS-LTOWBの臨床的利点が、大きな需要徴候と比較的高い利用率の理由であると思われる。CS-LTOWBは、解凍又はクロスマッチングを必要としないため、蘇生作業を簡素化するだけでなく、場所もとらず、輸血までの時間を短縮し、生存率の改善に寄与しうる。
【0012】
今日まで、輸血のための血液の採取、処理及び保存のために多くの方法が記述され、使用されてきた。また、複数の保存液が開発されてきた。CPDA-1(上述)に加えて、CPDA-2は米軍によって開発された保存液であり(Sohmer PR、Moore GL、Beutler E、Peck CC.、「In vivo viability of red blood cells stored in CPDA-2」、Transfusion. 1982年11月~12月; 22(6): 479~484頁参照)、CPDA-1で見られるよりも赤血球の生存率を改善しうる溶液を提供するために開発された。CPDA-2が開発され、ヒトの血液で試験され、良好に機能したが、認可或いは販売されることはなかった。
【0013】
上述したように、採取され保存される全血の白血球除去も望ましい(場合によっては強く好まれうる)。様々な全血白血球除去(LR)フィルターが存在し、その多くはFDAの認可を受けて米国で販売されている。第一世代の全血及び赤血球白血球除去フィルターは、主に全血又は赤血球製剤中の白血球を低減させるために開発された。しかしながら、これらの第一世代のフィルターは、白血球を低減させるだけでなく、血液及び血液製剤中の血小板含有量も低減させた。次世代の白血球除去フィルターは、血小板を実質的に温存しながら、全血の白血球除去を可能にし、赤血球(RBC)、多血小板血漿(PRP)、乏血小板血漿(PPP)及び血小板の4つの重要な白血球除去治療製品の調製のためのシステムを提供する。そのようなシステムの1つの例は、テルモ株式会社のIMUFLEX(登録商標)WB-SPである。
【0014】
IMUFLEX(登録商標)システムは、全血の採取において典型的な抗凝固剤であるCPD(クエン酸-リン酸-デキストロース溶液)を使用し、血小板温存型の白血球除去フィルターを使用して、白血球除去全血成分を生成する。濾過システムは、採取した全血成分全体をフィルターを通して実質的に排出し、実質的に空気を含まない白血球除去CPD全血成分を調製するためのバイパスを含む。血小板を豊富に含む全血成分は、添加剤溶液中で赤血球を含む血液成分へと更に分離されうる。
【0015】
血液保存システムは、それらを滅菌するためにオートクレーブする際に、それらが含むデキストロースがカラメル化するのを防ぐために、典型的には酸性(例えば、約5.5のpH)である。pHを上げるために追加のアルカリ成分を加えると、代謝が向上する。重炭酸塩は無毒であり、水とCO2と緩衝剤へと分解することから、この点で特に有用である。pHを7.2に近いがそれ未満に上昇させ、解糖によって生成される酸を緩衝するために血液保存システムに炭酸水素ナトリウムを添加するプロセスは、HessとGreenwaltによって開発され、複数の特許の対象となっている(米国特許第6,150,085号、米国特許第6,447,987号、米国特許第8,709,707号、米国特許第9,314,014号、米国特許第6,150,085号、米国特許第6,447,987号、米国特許第8,709,707号、及び米国特許第9,314,014号を含み、これらの開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0016】
しかしながら、有効期間を延長した採血システムの必要性は依然として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6,150,085号
【特許文献2】米国特許第6,447,987号
【特許文献3】米国特許第8,709,707号
【特許文献4】米国特許第9,314,014号
【特許文献5】米国特許第6,150,085号
【特許文献6】米国特許第6,447,987号
【特許文献7】米国特許第8,709,707号
【特許文献8】米国特許第9,314,014号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Sohmer PR、Moore GL、Beutler E、Peck CC.、「In vivo viability of red blood cells stored in CPDA-2」、Transfusion. 1982年11月~12月; 22(6): 479~484頁
【非特許文献2】Hess JR、Hill HR、Oliver CK、Lippert LE、Greenwalt TJ、「Alkaline CPD and the preservation of RBC 2,3-DPG」、Transfusion. 2002年6月;42(6):747~752頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の特定の例示的な態様が以下に示される。これらの態様は、単に本発明が取りうる特定の形態の簡単な要約を読者に提供するために提示されているものであり、これらの態様は、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。実際、本発明は、以下に明示されていない場合がある様々な態様を包含しうる。
【0020】
本発明の態様は、全血抗凝固剤組成物、全血保存システム、及びその使用方法を提供することによって、上記の欠点を克服及び/又は低減する。
【0021】
本発明の1つの態様は、したがって、1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む全血抗凝固剤組成物に向けられている。様々な実施形態において、組成物は、1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む。更に、組成物は、二リン酸ナトリウムを含んでいてもよい。更に、組成物は、アデニン等の少なくとも1つの核酸塩基含有成分を含んでもよい。また、組成物は、デキストロース又はグルコース等の1つ以上の糖類を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の別の態様は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)を含む全血抗凝固剤組成物に向けられている。追加の実施形態において、その組成物はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。なおもさらなる実施形態においては、アデニン(C5H5N5)が組成物に添加されうる。本発明の別の態様は、第1の物質及び第2の物質を含む全血抗凝固組成物に向けられており、ここで、第1の物質は、複数の成分を含み、複数の成分は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウムを含んでいる。さらなる実施形態において、その第1の物質はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。なおもさらなる実施形態では、アデニン(C5H5N5)が第1の物質に添加されてもよい。
【0023】
本発明の他の態様は、全血保存システムに向けられており、そのような保存システムは、例えば、上記のようなもの(又はより詳細に以下に記載されるもの)等の全血抗凝固剤組成物を組み込んでいてもよい。そこで、本明細書では、改善された赤血球保存のためのpH最適化を伴う全血白血球除去を含む全血保存システムが説明される。本システムは、内容物を劣化させることなく滅菌できるだけでなく、収集及び処理システムの設計、成分、操作、全体的なコストを簡素化することができる2成分抗凝固剤システムを含んでいる。
【0024】
そのようなシステムは、赤血球、血漿、血小板を保存し、実質的に全血の効果的な酸素供給と凝固活性を長期間(例えば、約5週間)にわたって維持又は大部分維持することによって、現場での医療用途のために白血球除去全血を提供することができる。このような現行のシステムよりも延長された全血の保存期間は、その後の成分調製も可能とするため、貴重な血液ユニットが無駄にならない。
【0025】
1つの例示的な実施形態において、全血保存システムは、第1の添加剤及び第2の添加剤を含んでいてもよく、ここで、添加剤の一方(例えば、第1の添加剤又は第2の添加剤)は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)等の重炭酸イオン提供成分、マンニトール(C6H14O6)等の糖アルコール、並びに酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)及び/又はクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)等の塩を含む。追加の実施形態において、添加剤はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)等のリン酸イオン提供成分も含みうる。なおもさらなる実施形態では、アデニン(C5H5N5)又はグアノシン等の核酸塩基含有成分が、添加剤に加えられうる。なおもさらなる実施形態では、カルニチン又はメチオニン等のアミノ酸又はその誘導体、グアノシンが添加剤に加えられてもよい。そのようなシステムでは、第1の添加剤と第2の添加剤が組み合わせられうる。また、組み合わせた場合、全血の凝固能は、少なくとも約2週間、若しくは少なくとも約3週間、若しくは少なくとも約4週間維持又は大部分維持されうる。更に、又は代替的に、第1の添加剤及び第2の添加剤が全血と組み合わせられた場合、全血は少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、赤血球は少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間保存されうる。
【0026】
全血保存システムの別の実施形態では、添加剤の一方(例えば、第1の添加剤)は、CPD、CP2D、CPDA-1、又はCPDA-2でありえ、他方の(例えば、第2の)添加剤は、少なくとも炭酸水素ナトリウムを含みうる。代替的な実施形態において、第1の添加剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、及び/又はデキストロースを含むことができ、第2の添加剤は、リン酸塩、重炭酸塩、及び/又はアデニンを含みうる。改善された保存性及び治療上の利益を提供するために、他の成分並びに第1及び第2の添加剤への様々な成分の分離が可能である。本システムは、非限定的な実施形態において、第1及び第2の添加剤を保持するための第1及び第2の添加剤バッグを含み、少なくとも第1の添加剤バッグは、全血及び/又は血漿及び/又は赤血球(RBC)の保存に適している。
【0027】
本発明の別の態様は、全血を保存する方法に向けられうる。この態様は、採取される全血を第1のレセプタクルに加えることを含んでいてもよく、第1のレセプタクルは第1の添加剤を含んでおり、第2のレセプタクルから第1のレセプタクルへと第2の添加剤を移送することを含みうる。第2の添加剤は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)を含んでいてもよい。さらなる実施形態において、その第2の添加剤はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。なおもさらなる実施形態では、アデニン(C5H5N5)が第2の添加剤に加えられてもよい。更に、移送工程は、全血を第1のレセプタクルに加える工程の前又は後に行われうる。
【0028】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を示すものであり、上述した本発明の一般的な説明及び以下に示す実施形態の詳細な説明と共に、本発明の原理を説明するために役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の原理に従った血液保存システムを用いて保存された血液の予想される保存可能期間と、現在使用されている抗凝固剤溶液との比較を示すチャートである。
図2図2は、本発明の原理に従って、第1の添加剤及び第2の添加剤を含む溶液中で2週間を超える低温保存の間維持される凝固特性を示すグラフである。
図3図3は、全血ユニットの白血球除去の前後における、本発明の原理に従ったCPD及び溶液中に保存された血液の赤血球数を示すグラフである。
図4図4は、本発明の原理に従って、第1の添加剤及び第2の添加剤を含む溶液中に保存された全血ユニット由来の血小板(PLT)の形態学的及び機能的な特性を示すグラフである。
図5図5は、本発明の原理に従った全血調製システムを示す概略図である。
図6図6は、本発明の原理に従った全血又は血液成分調製システムを示す追加の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の1つ以上の具体的な実施形態が説明される。これらの実施形態の簡潔な説明を提供するために、実際の実装の全ての特徴が本明細書に記載されていない場合がある。そのような実際の実装の開発では、エンジニアリング又は設計のプロジェクトにおけるのと同様に、システム関連及びビジネス関連の制約への準拠等、開発者の特定の目標を達成するために、実装ごとに異なりうる多くの実装固有の決定がなされなければならないことを理解されたい。更に、そのような開発努力は、複雑で時間がかかるものとなりうるが、それでも、本開示の利益を有する当業者にとっては、設計、製作、及び製造の日常的な業務であることを理解されたい。
【0031】
上述のように、本発明の態様は、全血抗凝固剤組成物、全血保存システム、及びその使用方法を提供することによって、上記の欠点を克服及び/又は低減する。本発明の1つの態様は、したがって、1つ以上のナトリウム塩、1つ以上のマグネシウム塩、及び1つ以上の糖アルコールを含む全血抗凝固剤組成物に向けられている。様々な実施形態において、組成物は、1つ以上のナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム及び酢酸ナトリウムを含み、1つ以上のマグネシウム塩が、クエン酸マグネシウムを含み、1つ以上の糖アルコールが、マンニトールを含む。更に、組成物は、二リン酸ナトリウムを含んでいてもよい。更に、組成物は、アデニン等の少なくとも1つの核酸塩基含有成分を含んでもよい。また、組成物は、デキストロース糖又はグルコース等の1つ以上の糖類を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の別の態様は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)を含む全血抗凝固剤組成物に向けられている。追加の実施形態において、その組成物はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。さらなる実施形態においては、アデニン(C5H5N5)が組成物に添加されうる。本発明の別の態様は、第1の物質及び第2の物質を含む全血抗凝固組成物に向けられており、ここで、第1の物質は、複数の成分を含み、複数の成分は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウムを含んでいる。さらなる実施形態において、その第1の物質はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。さらなる実施形態では、アデニン(C5H5N5)が第1の物質に添加されてもよい。ここで、この新規な全血抗凝固剤組成物は、「APEX(商標)組成物」と呼ばれることがあり、本組成物を含むシステムは、「APEX(商標)システム」と呼ばれることがある。
【0033】
本発明の他の態様は、全血保存システムに向けられており、そのような保存システムは、例えば、上記のようなもの(又はより詳細に以下に記載されるもの)等の全血抗凝固剤組成物を組み込んでいてもよい。そこで、本明細書では、改善された赤血球保存のためのpH最適化を伴う全血白血球除去を含む全血保存システムが説明される。本システムは、内容物を劣化させることなく滅菌できるだけでなく、収集及び処理システムの設計、成分、操作、全体的なコストを簡素化することができる2成分抗凝固剤システムを含んでいる。
【0034】
そのようなシステムは、赤血球、血漿、血小板を保存し、実質的に全血の効果的な酸素供給と凝固活性を長期間(例えば、少なくとも約5週間)にわたって維持又は大部分維持することによって、現場での医療用途のために白血球除去全血を提供することができる。このような現行のシステムよりも延長された全血の保存期間は、その後の成分調製も可能とするため、貴重な血液ユニットが無駄にならない。
【0035】
本明細書で使用される「保存」とは、指し示された細胞が、指し示された時間保存された後に保存の基準を満たすことを意味する。保存される細胞の種類によって時間は異なるであろう。保存される細胞が赤血球(RBC)である場合、赤血球が、42日間の保存後に集団評価の少なくとも95%が1%未満の溶血を有するという95%の信頼性で約1.0%未満の溶血レベルを有するとき、赤血球は6週間(すなわち42日間)保存されると言われる。保存される細胞が全血(WB)である場合、全血は、赤血球溶血レベル等の赤血球品質パラメーターに基づいて、5週間(すなわち35日間)保存されると言われる。例えば、全血中の赤血球の溶血レベルが約1.0%未満であり、35日間の保存後、集団評価の少なくとも95%が1%未満の溶血を有するという95%の信頼性がある場合、全血は5週間(すなわち35日間)保存されると言われる。
【0036】
本明細書で使用される場合、全血の凝固能は、本明細書に記載される保存全血の凝固活性が、標準的な凝固アッセイを用いて測定される従来法で採取された全血の採取当日又は採取翌日の凝固活性と比較して、少なくとも約75%である場合に維持されると言われる。非限定的な凝固アッセイは、トロンボエラストグラフィー(TEG)、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、トロンビン時間(TT)、ラッセルクサリヘビ毒時間を含む。全血の凝固能は、本明細書に記載の保存全血の凝固活性が、標準的な凝固アッセイを用いて測定される従来法で採取された全血の採取当日又は採取翌日の凝固活性と比較して、少なくとも約50%である場合に、大部分(すなわち、「ほとんどの凝固活性」)が維持されていると言われる。非限定的な凝固アッセイは、トロンボエラストグラフィー(TEG)、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、及びトロンビン時間(TT)、及びラッセルクサリヘビ毒時間を含む。
【0037】
1つの例示的な実施形態において、全血保存システムは、第1の添加剤及び第2の添加剤を含んでいてもよく、ここで、添加剤の一方(例えば、第1の添加剤)は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)を含む。追加の実施形態において、その組成物はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。さらなる実施形態においては、アデニン(C5H5N5)が組成物に添加されうる。そのようなシステムでは、第1の添加剤と第2の添加剤が組み合わせられうる。また、組み合わせた場合、全血の凝固能は、少なくとも約2週間、若しくは少なくとも約3週間、若しくは少なくとも約4週間維持又は大部分維持されうる。更に、又は代替的に、第1の添加剤及び第2の添加剤が全血と組み合わせられた場合、全血は、組み合わせの時点から、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、赤血球は少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間保存されうる。
【0038】
全血保存システムの別の実施形態では、添加剤の一方(例えば、第1の添加剤)は、CPD、CP2D、CPDA-1、又はCPDA-2でありえ、他方の(例えば、第2の)添加剤は、少なくとも炭酸水素ナトリウムを含みうる。代替的な実施形態において、第1の添加剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、及び/又はデキストロースを含むことができ、第2の添加剤は、リン酸塩、重炭酸塩、及び/又はアデニンを含みうる。改善された保存性及び治療上の利益を提供するために、他の成分並びに第1及び第2の添加剤への様々な成分の分離が可能である。本システムは、非限定的な実施形態において、第1及び第2の添加剤を保持するための第1及び第2の添加剤レセプタクルを含み、少なくとも第1の添加剤レセプタクルは、全血及び/又は血漿及び/又は赤血球(RBC)の保存に適している。
【0039】
本明細書に記載のシステムの様々な非限定的実施形態において、第1の添加剤も第2の添加剤も単独では、約5週間以上又は約6週間以上、全血を保存しない。
【0040】
本発明の別の態様は、全血を保存する方法に向けられうる。この態様は、採取される全血を第1のレセプタクルに加えることを含んでいてもよく、第1のレセプタクルは第1の添加剤を含んでおり、第2のレセプタクルから第1のレセプタクルへと第2の添加剤を移送することを含みうる。第2の添加剤は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)を含んでいてもよい。さらなる実施形態において、その第2の添加剤はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)も含みうる。さらなる実施形態では、アデニン(C5H5N5)が第2の添加剤に加えられてもよい。更に、移送工程は、全血を第1のレセプタクルに加える工程の前又は後に行われうる。
【0041】
したがって、本発明は、特定の実施形態において、新規な全血抗凝固剤(「APEX(商標)組成物」)を含む全血採取、処理、及び保存システムを含み、新規な組成物は、炭酸水素ナトリウム、二リン酸ナトリウム、マンニトール、酢酸ナトリウム、及びクエン酸マグネシウム(また場合により、二リン酸ナトリウム及び/又はアデニン)を含む。そうすることによって、本発明の態様の保存システムは、現在の解決策が提供するよりも近い必要とされるポイントでの被害応急介入のための優れた抗凝固剤-保存溶液を提供し、よって、出血性ショックの持続的蘇生を最適化するために使用されうる。したがって、本発明のシステムは、現在使用されているものよりも長い全血製剤の有効期間も提供する。また、それは全血提供の物流を簡素化し、失効率を低減させ、貴重な献血の集積を最大化すると同時に、血液サポートのコスト削減も実現する。このことは、本発明の原理に従って血液保存システムを用いて保存された血液と、現在使用されている抗凝固剤溶液との、予想される保存可能期間の比較を示している図1を参照することにより理解されうる。図1からわかるように、従来のCPD又はCPDA-1のみを使用した保存液及びシステムの使用と比較して、本発明のシステム(図1ではAPEX(商標)として示されている)の使用により、示されている両方の作戦(生来の決意及び自由の番人)における輸血用血液が(保存期間が延長されたため)より長い期間利用可能であった。実際、わかるように、APEX溶液/システムの使用は、両作戦においてCPDよりも21日多い使用日数を提供した。また、APEX溶液/システムの使用は、両作戦ともCPDA-1よりも7日多い使用日数を提供した。更に、図1からわかるように、CONUSから戦域までの輸送時間は、貴重な有効期間を最長2週間も消費しうる(生来の決意作戦では11日間、自由の番人作戦では14日間)。本発明のAPEX溶液によって実証された有効期間の延長は、運用コストを低減し、必要とされる物流サポートを減らし、血液ユニットの期限切れを低減し、全ての通常及び非通常型部隊の血液の利用可能性を高めるであろう。
【0042】
本システムは、現在の製品よりも生理学的、物流的、又はコスト面での優位性を提供し、プレホスピタル環境において戦闘関連及び外傷起因の傷害を治療できる新規又は改変された血液製剤の開発に関する2021年度(FY21)の防衛医学研究開発プログラム合同プログラム委員会6戦闘負傷者ケア研究プログラム、戦闘負傷者の即時安定化のための戦場蘇生アワードプログラム重点領域に沿ったものである。また、APEX血液システムは、必要なポイントのより近くでの被害応急介入のための優れた抗凝固剤-保存液を提供し、よって、大規模なマルチドメイン作戦(MDO)及び高い要求ピークの紛争(軍事環境に適用)をサポートするための出血性ショックに対する持続的蘇生を最適化するために使用されうる。したがって、本発明のシステムは、現在使用されているものよりも、全血製剤の有効期間を長くして、任務のサポートを改善する。また、それはSOCOM及び通常部隊のために、現在の製品よりもはるかに前方に全血を提供するための物流も簡素化し、有効期限切れ率を低減し、貴重な献血の集積を最大化する一方で、血液サポートにおけるコスト削減も実現する(図1に関して上述したとおり)。
【0043】
図2~4は、本発明の1つの態様の新規組成物が、貯蔵寿命を改善することを示している。これらの図では、トロンボエラストグラフィーによる細胞品質因子を利用した試験が、全血(図2及び図5参照)であろうと血液成分(図3及び図4参照)であろうと、少なくとも14日間は同様のプロファイルを示したことがわかる。特に、図2は、第1の添加剤(CPDである)及び第2の添加剤(APEX(商標)組成物である)を含む溶液において、2週間を超える低温(例えば、1~6℃での保存)保存で維持される凝固特性を示すグラフである。より具体的には、図2のグラフは、CPDとAPEX(商標)の添加剤において、2週間を超える低温保存でも維持される全血凝固特性を示している。CPD及びAPEX(商標)組成物中に保存された全血から得られた乏血小板血漿(PPP)中の血漿凝固因子含有量(フィブリノゲン、第V因子、第VIIIc因子、プロテインS)が、図2の左側に示されており(PPP、n=5ユニット、及びCPD/APEX全血、n=5ユニット)、全血細胞の採取及び濾過前(黒色のバー)、全血細胞の採取及び濾過の1日後(白いバー)、全血細胞の採取及び濾過の7日後(左に向かって上向いた斜めの縞模様のバー)、並びに全血細胞の採取及び濾過の14日後(右に向かって上向いた斜めの縞模様のバー)における、トロンボエラストグラフィーのデータが、図2の右側に示されている(全血、n=5ユニット)。
【0044】
図3は、全血ユニットの白血球除去の前後における、CPD及びAPEXを含む溶液中に保存された血液の赤血球数を示すグラフである。図3のグラフは、CPD/APEX全血ユニット(n=5)の白血球除去前(黒一色のバー)、白血球除去後(透明のバー)、及び本明細書に記載のAPEX製剤との併用後(左に向かって上向いた斜めの縞模様のバー)の赤血球数を示している。より具体的には、図3は、全血採取日、並びに採取及び濾過後1日目(右に向かって上向いた斜めの縞模様のバー)、採取及び濾過後7日目(水平のバー)、並びに採取及び濾過後14日目(垂直の縞模様のバー)における、濾過前(黒一色のバー)、濾過後(白のバー)、本明細書に記載のAPEX溶液と組み合わせた後(左に向かって上向いた斜めの縞模様のバー)、濾過前(黒一色のバー)、及び白血球除去濾過後(白一色のバー)における、白血球数(103/μl;一番左のセクション)、赤血球数(106/ul;左のセクションから2番目)、ヘモグロビン(Hgb)量(g/dL;左のセクションから3番目)、ヘマトクリット(HCT)のパーセンテージ(左のセクションから4番目)、フェムトリットル単位の平均赤血球体積(MCV)(右のセクションから3番目);ピコグラム単位の平均赤血球ヘモグロビン(MCH)(右のセクションから2番目)、及びg/dL単位の平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)(右端のセクション)を示している。注:赤血球の低減は、全血製剤の一部の除去によるものである)。14日目には、赤血球濃縮液中に約20%の血小板がみえる。
【0045】
図4は、全血採取後1日目(黒一色のバー)、7日目(白のバー)、及び14日目(左に向かって上向いた縞模様のバー)における、本発明の原理に従って第1の添加剤(CPD)及び第2の添加剤(APEX(商標))を含む溶液中に保存された全血ユニット由来の血小板(PLT)の形態学的及び機能的特性を示すグラフである。図4のグラフは、CPD/APEX全血ユニット由来血小板(PLT)の形態学的及び機能的特徴を示している(n=5)。図4において、「MPV」は平均血小板容積;「HSR」は低張性ショック反応;「ESC」は形状変化の程度である。
【0046】
したがって、本発明の様々な態様及び実施形態は、血液成分療法から全血療法への移行を促進する輸血製品を可能とし、前方被害応急蘇生法(FDCR)を提供する前方ケア提供者のために輸血の質量、体積、及び複雑さを低減する。血液成分療法は、提供された全血の赤血球、血漿、及び血小板の成分部分への分離である。これは、1回の献血からの赤血球、血漿、及び血小板が、貧血患者の赤血球の必要性、重症筋無力症で血漿交換を受けている患者の血漿の必要性、及び化学療法を受けている白血病の子供の血小板の必要性をサポートすることを可能とする(すなわち、1回の献血又は採血からの血液を成分に分離して、複数の異なるレシピエントに提供することができる)。しかしながら、急性傷害を受けた戦闘員は、出血が最も多く、血液量の補充、酸素運搬赤血球、並びに凝固促進性の血漿及び血小板の必要性に対処するために、3つの成分全てを必要とする。それぞれの血液成分の保存要件が異なっているため、3つの別個の成分を負傷した戦闘員に戻すことは現在困難である。今日、赤血球は追加の100から110mLの添加剤溶液中で冷蔵庫に保存され、血小板は呼吸を促進するために撹拌しながら室温で保管され、血漿は凍結保存され、必要なときだけ解凍される。多岐にわたる保存条件は、大量の血液のサポートが物流的に複雑となることを意味し、冷凍庫、冷蔵庫、空調、撹拌機等、それぞれが個々の物流上の要件を有する多くの成分のバッグが必要となる。簡素化された採血セット、最適化された保存溶液、シンプルなアイスボックス保存条件を使用し、全血を丸ごと保存することに基づいた、よりシンプルな血液サポートツールを構築することで、冷凍庫及び空調の必要性をなくし、採血セット及び処理された血液製剤の質量を減らし、血液輸送ボックスの質量及びエネルギー要件を減らすことができる。これらの措置は、ますます過酷になる戦場及び医療緊急事態において、負傷の現場のより近くでより多くのケアをサポートするために、より多くの血液を前方に送ったり、前方に集めたりすることを可能とするであろう。
【0047】
本発明の組成物及びシステムは、採取された全血に、より長い有効期間を提供する。例えば、本発明を用いれば、一次血液バッグ及び/又は二次血液バッグ中に採取された全血が、現行の従来のCPDA-1血液バッグよりも優れた赤血球品質、血小板機能、及び血漿因子安定性で42日間以上保存されうる(図1参照)。
【0048】
したがって、本発明の組成物は、(a)凝固カスケードの活性化の防止;及び(b)保存中の撹拌の有無にかかわらず、長期冷蔵保存中の全血成分の量的及び質的レベルの保存という目的を達成する。
【0049】
次に図5に目を向けると、本発明の実施形態に従う血液及び血液製剤の採取及び保存のためのシステムを示す概略図が描かれている。図5に図示されている実施形態では、全血保存システム10は、第1のレセプタクル12(第1の献血バッグ等)を含んでいる。血液入力システム14は、血液がドナーから第1のレセプタクル12に送達されることを可能にするために、第1のレセプタクル12に作動可能に接続されていてもよい。血液入力システム14は、図5に示すように、採取針16、針プロテクター18、及び採取導管20を含みうる。
【0050】
第1の添加剤は、第1のレセプタクル12内に収容されうる。第1の添加剤は、いくつかの実施形態では、抗凝固特性を有する。本発明の特定の実施形態において、第1の添加剤は、CPD、CP2D、CPDA-1、又はCPDA-2でありうる。また、特定の実施形態では、第1の添加剤は、予想される採血量の約1/7の体積で存在しうる(450mLの従来の「パイント」採血では約63mL、最新の500mL採血では約70mL)。したがって、特定の実施形態では、第1のレセプタクル12は、それぞれ450mL又は500mLの全血を採取するために、63mL又は70mLの第1の添加剤(例えば、CPD、CPDA-1、又はCPDA-2)を含みうる。
【0051】
全血保存システム10は、図5に示される実施形態におけるように、その中に含まれる第2の添加剤を有する第2のレセプタクル22も含みうる。特定の実施形態では、第2の添加剤は、APEX添加剤でありうる。よって、第2の添加剤は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、マンニトール(C6H14O6)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2)、及びクエン酸マグネシウム(C6H6MgO7)を含んでいてもよい。さらなる実施形態において、その組成物はまた、二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)、グアノシン(C10H13N5O5)、若しくはカルニチン(C7H15NO3)、又はこれらの成分の任意の組み合わせを含みうる。
【0052】
なおもさらなる実施形態においては、アデニン(C5H5N5)が組成物に添加されうる。例えば、上述のように、第1のレセプタクル12は、CPD、CP2D、CPDA-1、又はCPDA-2等の第1の添加剤を含みうる。CPDA-1及びCPDA-2はそれぞれ製剤の一部としてアデニンを含むが、CPDはアデニンを含まないことが、当業者には認識されるであろう。したがって、CPDが第1の添加剤として使用される実施形態では、アデニンを含む第2の添加剤(すなわち、アデニンを含むAPEX製剤)を第2のレセプタクル22において使用することが選択されうる。
【0053】
したがって、第1のレセプタクル内の第1の添加剤がCPD(例えば、上記のように63mL又は70mL)である1つの具体的な実施形態では、第2のレセプタクル22は、80mMの炭酸水素ナトリウム、110mMのマンニトール、100mMの酢酸ナトリウム、8mMのクエン酸マグネシウム、及び4mMのアデニンを含む第2の添加剤を50mL含みうる。第1のレセプタクル内の第1の添加剤がCPDA-1(例えば、上記のように63mL又は70mL)である別の具体的な実施形態では、第2のレセプタクル22は、80mMの炭酸水素ナトリウム、110mMのマンニトール、100mMの酢酸ナトリウム、及び8mMのクエン酸マグネシウムを含む第2の添加剤を50mL含みうる。
【0054】
他の実施形態では、第2の添加剤は、それ自体で抗凝固特性を有していても、有していなくてもよい。しかし、特定の実施形態では、第1の添加剤と第2の添加剤の組み合わせは、第1の添加剤単独の使用と比較して、血液の抗凝固特性及び優れた保存能力を有する。
【0055】
第2の添加剤は、全血が第1のレセプタクル12に採取される前又は採取された後に、第1の添加剤に加えられうる。第1及び第2の添加剤の目的は、採取された(そして処理される)全血の保存能力を向上させることである。体積及び抗凝固剤の含有量は、血液の保存に最適な栄養素を提供するため、蒸気滅菌による血液バッグセットの滅菌による分解生成物の防止手段を提供するため、及びフィルター後の血液回収を最大化するためにバイパスフィルター又はソフトフィルターの必要性を排除し、保存のために血液又は血液成分中に存在する余分な空気を最小化することによってセットのコストを削減するために選択されうる。
【0056】
第1及び第2の添加剤の組み合わせを容易にするために、第1のレセプタクル12は、第1のレセプタクル12と第2のレセプタクル22との間に流体経路を提供するライン24を介して、第2のレセプタクル22と流体連通されていてもよい。図5に図示されている実施形態からわかるように、第1のレセプタクルは、出口ポート26を含み、第2レセプタクル22は、入口ポート28を含み、ライン24がその間に延びている。図5に示されているように、第2のレセプタクル22も、2つの出口ポート30、32を含んでいる。
【0057】
更に、図5に図示されている実施形態に示すように、第1のレセプタクル12と第2のレセプタクル22との間のライン24には、フィルター34(例えば、白血球除去フィルタ)が存在してもよい。様々な特性をもつ、様々な白血球除去フィルターが使用されうる。例えば、フィルター34は、40mLの滞留量等、特定の滞留量を示していてもよい。標準的な白血球除去フィルターは、血小板を捕捉するが、現在では、テルモ社のIMUFLEX WB-SP血液保存システム(コード:1BB*LGQ506A6)で使用されているもの等、本発明の原理に従うシステムの実施形態での使用に適している血小板温存フィルターが利用可能である。
【0058】
また、フィルター34が、第1のレセプタクル12と第2のレセプタクル22との間の流体経路に存在する場合、ライン24は、連続ラインである必要はなく、むしろ、別個の第1のラインセグメント24a(これは、第1のレセプタクル12からフィルター34への流体(血液)の輸送を可能にする)、及び別個の第2のラインセグメント24b(これは、フィルター34から第2のレセプタクル22への流体(血液)の輸送を可能にする)を有してもよいことにも留意されたい。当業者であれば、流体(例えば、血液)が第2のレセプタクル22から第1のレセプタクル12へと移動できるように、移動方向が逆であってもよいことも認識するであろう。
【0059】
1つの実施形態では、第1のレセプタクル12は、血液型検査及びサンプリングのために約2~4インチの長さの約8~12個のセグメントへとヒートシールされるのに十分な長さの一体型全血白血球除去フィルターを有するライン24(例えば、チューブ)によって第2のレセプタクルに接続されうる。代替的な実施形態では、第2のレセプタクル22は、注射用滅菌水中の約12mEq強度の炭酸水素ナトリウム溶液を少なくとも約40mL含みうる。
【0060】
第1のレセプタクル12及び第2のレセプタクル22の少なくとも1つ、また特定の実施形態では両方が、全血及び/又は血漿及び/又は赤血球(RBC)の保存に適している。本発明のさらなる実施形態において、本発明のシステムによって採取される全血は、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間保存され、その後、赤血球(RBC)及び血漿へと更に処理することができ、少なくともRBCは、全血採取からさらなる期間、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間保存されうる。
【0061】
全血及び血液成分の有効期間を延長する本発明の組成物及び保存システムの能力のために、本組成物は非DEHP血液容器での使用にも適している。当業者には知られているように、可塑剤のDEHPは、血液バッグの柔軟性を高めるためにそれに使用され、赤血球の保存を助けることが知られている;しかしながら、DEHPは、バッグから浸出して赤血球に取り込まれることも知られている。保存期間を延長するために本組成物を使用すれば、DEHPを使用する必要のない容器において保存期間延長の利点を得ることができる。
【0062】
1つの具体的な非限定的実施形態において、本発明のシステム設計は、閉鎖系における、例えば、ポリビニルセルロース(PVC)/ジ-(2-エチルヒドロキシフタレート)(DEHP)で作られた一次収集用の従来の600mLのプラスチックバッグ(すなわち、第1のレセプタクル)への16G針接続に基づく。いくつかの実施形態では、プラスチックバッグは600mL以外の容量である。いくつかの実施形態では、一次バッグはFDAの認可を受けている。いくつかの実施形態では、一次バッグはPVC以外のプラスチック製である。いくつかの実施形態では、一次バッグは非フタル酸系可塑剤を含む。いくつかの実施形態において、この一次バッグは、40mLの滞留量(すなわち、40mLのホールドアップ体積)を有するFDA認可のテルモ社(コロラド州レイクウッド)から入手可能な血小板温存型白血球除去フィルター等の白血球除去フィルター、及び2つの出力ポート及び50mLの本発明の新規保存液を有する二次バッグ又は容器(すなわち、第2のレセプタクル)に接続されている。いくつかの実施形態では、二次バッグはFDAの認可を受けている。いくつかの実施形態では、二次バッグはPVC以外のプラスチック製である。いくつかの実施形態では、二次バッグは非フタル酸系可塑剤を含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、一次バッグは、製剤のmM濃度がTable 1(表1)に提供される70mLのクエン酸塩/リン酸塩/デキストロース(CPDA-1、USP)を含む。血液は、標準的な抗凝固剤CPDA-1又はCPD中に1.4:10の割合で採取されうる。血液は、採血の分野で周知されているように、他の標準的な抗凝固剤中に他の比率でも採血されうる。
【0064】
【表1】
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、全血は一次バッグに採取され、標準的な抗凝固剤(例えば、CPDA-1)と混合され、濾過まで室温に維持される。非限定的な実施形態では、一次バッグ内の抗凝固処理された全血は、採取後約8時間以内に血小板温存型白血球除去フィルターに通され(濾過は採取の8時間以後にも行われうる)、保存とさらなる処理のために二次バッグに入れられる。濾過は、製造業者の指示に従って行われ、少なくとも14日間、少なくとも21日間、少なくとも35日間、少なくとも42日間、少なくとも49日間、少なくとも56日間の保存期間中、検査が毎週、保存全血に対して行われる。
【0066】
1つの実施形態では、APEX全血採取システムは、全血の保存のために2つの溶液を利用する。第1の溶液は、標準的なCPDA-1抗凝固剤であり、80mMの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、24mMの二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)、110mMのマンニトール、100mMの酢酸ナトリウム、8mMのクエン酸マグネシウムを含む50mLフォーマットのAPEX-1A製剤で補完されている(Table 1(表1))。最終的な浸透圧は、等浸透圧に近い。これらの成分は全て、化学的に安定で生理学的に活性な既知の化学物質である。本製剤は、赤血球及び血小板の代謝的要求を維持するように設計されており、最長42日間の潜在的な保存有効期間を有している。
【0067】
本発明は、非限定的なAPEX-1A製剤によって限定されることを意味するものではないことに注意されたい。本明細書では、他の成分を含む他の製剤も想定されている。以下のTable 2(表2)は、本発明の製剤において使用されうる成分の範囲をpH範囲と共に提供している。
【0068】
【表2】
【0069】
更に、図6を参照すると、全血を血液成分に分離した後の血液成分の移送及び調製を容易にするために、追加のライン又はライン36が第2のレセプタクル22から設けられてもよい(典型的には、遠心分離機であるが、血漿から赤血球を分離するための他の手段が、本発明の実施形態に従って使用されうるであろう)。分離された血漿は、ライン36を通って血漿バッグ38に入り、分離された赤血球は、ラインを通ってバッグ40に入るか、又は追加のバッグ40に含まれる赤血球添加液が、添加液中の赤血球の保存のために第2のレセプタクル22へと移されうる(図6は、赤血球が第2のレセプタクル22に存在しうる実施形態を示しうる)。本明細書では遠心分離機について説明されているが、全血の成分を分離するための他の手段が、本発明の範囲に影響を及ぼすことなく、本発明に従って使用されうる。
【0070】
本発明の追加の実施形態に従って、さらなる添加剤が、全血から分離された赤血球と組み合わされるために、単一又は複数のバッグに保存されうる。赤血球はバッグに移されてもよいが、図6のような実施形態では、全血分離後、血漿を血漿バッグ38に移した後、赤血球が第2レセプタクル22において維持されうる。更に、赤血球添加剤AS-7(SOLX(登録商標))のようなさらなる添加剤が、使用のために第2のレセプタブル22単独、又は別のバッグ(図示せず)へとラインを通して移すために、追加の添加剤バッグ(図示せず)又はバッグ40及び/若しくは42に保存されうる。
【0071】
クエン酸、クエン酸ナトリウム、及びデキストロースが第1のレセプタクル12内の主要な抗凝固剤であり、リン酸塩、重炭酸塩、及びアデニンが第2のレセプタクル22内にあり、第1のレセプタクル内の体積が比較的少なく、第2のレセプタクル内の体積がより大きい、同様のシステムを作ることも可能である。
【0072】
1つの実施形態では、使用中、典型的にはドナーの腕からの静脈血は、(標準的な採血のように)第1のレセプタクル12内の抗凝固剤中に排出され、穏やかな撹拌によって採取中に混合される。血小板製剤に関心がある場合は、全血は室温で保持され、処理される。それ以外の場合、全血は、使用されるまで、又は成分に加工されるまで、冷蔵保存される(典型的には1~6℃)。特定の実施形態では、より良い血小板収量が可能となりうることから、成分に加工する前に、血液を室温で保持することが好ましい場合がある。いくつかの実施形態では、どの血液成分が保存されるかにかかわらず、赤血球及び血小板を含む全血又はその成分は、標準的な方法に従って、保存期間中(例えば、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間)穏やかに撹拌される。いくつかの実施形態では、どの血液成分が保存されるかにかかわらず、赤血球及び血小板を含む全血又はその成分は、保存期間中(例えば、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約7週間)撹拌されない。
【0073】
処理は、第2のレセプタクル22を上に載せたシステムを吊るすことにより、フィルター34を十分に濡らすために、第2のレセプタクル22内の約40mLの第2の添加剤をフィルター34を通して流すことを含みうる。溶液の実質的に全てがフィルター34の中にあるか、又はフィルター34を通過した際、システムが反転されてもよく、全血は、第1のレセプタクル12からフィルター34を通して第2のレセプタクル22中に排出され、第2のレセプタクル22は混合され、ライン24に全血が充填され、ヒートシーリングによって区分けされ、第2のレセプタクル22はその後、冷蔵されうる。
【0074】
第1及び第2の添加剤は、好ましくは、使用前に別々に保存されるか、又は採血セットの滅菌後に混合されうる。
【0075】
様々な実施形態において、第2のレセプタクル22内の流体の体積は、フィルター34の適切な湿潤を保証するために、約15から60mLの範囲で変化されうる。第2のレセプタクル22内の第2の添加剤の予想体積は、少なくともフィルター34のホールドアップ量であるべきである。第2のレセプタクル22内の第2の添加剤の濃度は、約5から60mEq(特定の実施形態において)の範囲で変動してもよく、これは、ATP代謝が阻害されないように、血液保存の開始pHを約7.2にするのを助けうる。特定の実施形態では、約12mEqの濃度が使用されうる(Hess JR、Hill HR、Oliver CK、Lippert LE、Greenwalt TJ、「Alkaline CPD and the preservation of RBC 2,3-DPG」、Transfusion. 2002年6月;42(6):747~752頁参照)。
【0076】
したがって、本発明の1つの実施形態では、改善された赤血球(RBC)保存のためのpH最適化を伴う全血白血球除去フィルターを含む全血保存システムは、第1の添加剤及び第2の添加剤を含み、第1の添加剤及び第2の添加剤が全血と組み合わされると、全血の凝固能力が少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間維持される。
【0077】
別の実施形態では、少なくとも第1の添加剤は、抗凝固剤を含む(特定の実施形態では、クエン酸、クエン酸ナトリウム、及びデキストロースのうちの少なくとも1つを含みうる)。いくつかの実施形態において、第1の添加剤及び第2の添加剤が全血と組み合わされると、全血は、全血と第1の添加剤及び第2の添加剤との組み合わせの後、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間保存され、赤血球は、約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約5週間、又は少なくとも約6週間保存されうる。
【0078】
このシステムで2から5週間保存された全血は、その後、全血採取(又は放血)から少なくとも6、添加剤溶液中で赤血球を保存するために、別々の添加剤溶液中で赤血球へと処理されうる。
【0079】
そのような様式で(また本発明に従って)全血を保存する方法において、改善された赤血球(RBC)保存のためのpH最適化を伴う全血白血球除去を含む全血保存システムは、第1の添加剤を含む第1の添加剤バッグと、第2の添加剤を含む第2の添加剤バッグとを含む。本方法は、処理される全血を第1の添加剤バッグに加える工程と、処理される全血を第1の添加剤バッグに加える前又は加えた後に、第2の添加剤を第2の添加剤バッグから第1の添加剤バッグに移す工程とを含む。2種類の添加剤と組み合わせ、混合された全血は、(2種類の添加剤を含む)全血混合物を白血球除去フィルター(好ましくは血小板温存フィルター)に通すことによって白血球が除去され、白血球除去全血を生成しうる。白血球除去全血は、輸血のために保存されるか、又は従来技術の方法によって血液成分へと処理されうる。
【0080】
添加剤は、少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、赤血球を保存し、全血の凝固能を維持又は大部分維持するために組み合わされ、全血及び/又は赤血球は、採取又は放血後、最長約2週間、又は最長約3週間、又は最長約4週間、又は最長約5週間、又は最長約6週間、又は少なくとも約7週間、又は少なくとも約8週間保存されうる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの白血球除去フィルターがシステムに含まれ、この白血球除去フィルターは血小板温存型でありうる。第1の添加剤は、凝固防止剤を含む。全血の保存後、全血から赤血球を分離して、赤血球と血漿を得てもよく、これらは更に長い時間保存されうる。
【0081】
本発明は、現場での医療活動をサポートする血液センターで使用するため、又は成分療法のために血液成分へと処理するために、全血採取を最適化するように設計されている。更に、遠く離れた軍事戦域又は離島領土等の遠隔地にあるウォーキングブラッドバンクのサポートにおいて、現場で使用されうるであろう。
【0082】
本明細書に記載されている本発明の実施形態は、単に例示的なものであることを意図しており、当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、数多くの変形及び修正を行うことができるであろう。上記にもかかわらず、ある種の変形及び修正は、最適な結果には至らないものの、それでも満足のいく結果をもたらしうる。そのような変形及び修正は全て、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあることが意図されている。
【符号の説明】
【0083】
10 全血保存システム
12 第1のレセプタクル
14 血液入力システム
16 採取針
18 針プロテクター
20 採取導管
22 第2のレセプタクル
24 ライン
26 出口ポート
28 入口ポート
30 出口ポート
32 出口ポート
34 フィルター
36 ライン
38 血漿バッグ
40 バッグ
42 バッグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】