IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アパロン エルティーディー.の特許一覧

特表2024-516120ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物
<>
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図1
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図2A
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図2B
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図3
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図4
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図5
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図6
  • 特表-ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ウェルシュ菌感染症治療用バクテリオファージ組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20240405BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20240405BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20240405BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240405BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240405BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240405BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240405BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20240405BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20240405BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N15/33 ZNA
C12Q1/70
A61K35/76
A61P31/04
A61P31/04 171
A61P43/00 121
A61K48/00
A23K10/18
A23K50/75
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562277
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 GB2022050887
(87)【国際公開番号】W WO2022214826
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】63/173,041
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523382166
【氏名又は名称】アパロン エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、ジョゼフ チャールズ サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ、ジョゼフ リジエーロ
(72)【発明者】
【氏名】ケイ、サミー ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】デネス、エレン オリヴィア
(72)【発明者】
【氏名】スタンフォード、クリストファー ジェレミー
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B063
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
2B005DA01
2B150AA05
2B150AB10
2B150AC39
2B150AE05
2B150DD12
2B150DD13
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ06
4B063QR79
4B063QS24
4B063QX01
4B065AA98X
4B065BA22
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA08
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB35
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、ファージ療法の分野に関する。より詳細には、ヒト、水産養殖動物、および家畜動物を含む動物において、細菌、特にウェルシュ菌による感染症を治療または予防するための、ファージ、ファージをベースとする組成物、および方法の提供に関する。本発明はまた、ヒトや動物が消費する飼料製品や食品における飼料原料や生物学的除染剤としての上記組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも95%もしくは99%)の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶解可能である、バクテリオファージ。
【請求項2】
バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10のいずれか1つに示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10のいずれか1つに対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶解可能である、バクテリオファージ。
【請求項3】
前記バクテリオファージが、少なくとも5種の異なるウェルシュ菌株を溶解可能である、請求項1または請求項2に記載のバクテリオファージ。
【請求項4】
前記異なるウェルシュ菌株が、ウェルシュ菌株ATCC13124、Q143.CN7、JBCNJ055、Q100.CN13、Q159.4C、JBFR063、M030.1C、CP_UoA_CA_39、CP_UoA_CA_24、JBCNI056、JBCNC058、JBCNC056、およびCP_UoA_CA_132のうちの1種以上またはすべてを含む、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項5】
前記バクテリオファージのゲノムが、配列番号10または11に示すヌクレオチド配列を有する、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項6】
先行する請求項のいずれか一項に記載のバクテリオファージを、1種以上の製薬上許容可能な担体、賦形剤、または希釈剤とともに含む、医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、1種以上の追加のバクテリオファージを含み、該1種以上の追加のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11のいずれか1つに示すヌクレオチド配列、または、該配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそのバリアントを有し、該追加のバクテリオファージがそれぞれ、ウェルシュ菌の少なくとも1種の菌株を溶解可能である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、または10種の前記追加のバクテリオファージ、好ましくは3~5種の前記追加のバクテリオファージを含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
(i)前記追加のバクテリオファージのゲノムが、配列番号9および10に示すヌクレオチド配列、または、それらの配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(ii)前記追加のバクテリオファージのゲノムが、配列番号3および6に示すヌクレオチド配列、または、それらの配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(iii)前記追加のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1、3、6、9、および10に示すヌクレオチド配列、または、それらの配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(iv)前記追加のバクテリオファージのゲノムが、配列番号2、3、および10に示すヌクレオチド配列、または、それらの配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、あるいは、
(v)前記追加のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1~10のそれぞれに示すヌクレオチド配列、または、それらの配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージまたは請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物を含む、動物用飼料であって、好ましくは鶏用飼料である、動物用飼料。
【請求項11】
前記動物用飼料は、乾燥形態、好ましくは乾燥ペレットの形態である、請求項10に記載の動物用飼料。
【請求項12】
(i)請求項1または請求項2に記載のバクテリオファージと、
(ii)1種以上の他のバクテリオファージと、を含むキット。
【請求項13】
薬剤としての使用のためまたは療法における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージ、請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10もしくは11に記載の動物用飼料。
【請求項14】
ウェルシュ菌によって引き起こされる疾患の治療、低減、および/または予防に使用するための、請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージ、請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10もしくは11に記載の動物用飼料。
【請求項15】
対象においてウェルシュ菌によって引き起こされる疾患を治療、低減、および/または予防する方法であって、治療上有効量の請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージ、請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10もしくは11に記載の動物用飼料を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
対象においてウェルシュ菌によって引き起こされる疾患の治療、低減、および/または予防に使用するための薬剤の製造における、請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージまたは請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項17】
前記バクテリオファージが、前記対象に、104~109PFU/対象、好ましくは約106PFU/対象または約109PFU/対象の投与量で投与される、請求項14から16のいずれか一項に記載の使用のためのバクテリオファージもしくは組成物、方法、または使用。
【請求項18】
前記ウェルシュ菌によって引き起こされる疾患が、食中毒、胃腸炎、胆嚢炎、腹膜炎、虫垂炎、腸穿孔、筋壊死、軟部組織感染症、ガス壊疽、壊死性腸炎、または新生児壊死性腸炎である、請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の使用のためのバクテリオファージもしくは組成物、方法、または使用。
【請求項19】
前記対象が、鶏(chicken)、シチメンチョウ、小エビ(shrimp)、またはヒトであり、好ましくは鶏である、請求項14から18のいずれか一項に記載の使用のためのバクテリオファージもしくは組成物、方法、または使用。
【請求項20】
飼料製品を処理するためのプロセス、または、飼料製品上もしくは飼料製品中のウェルシュ菌感染を予防もしくは低減するプロセスであって、
(a)請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージまたは請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物を飼料製品に適用する工程を含む、プロセス。
【請求項21】
ウェルシュ菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクのある対象を同定する方法であって、
(a)対象から得られた生体試料中に存在する細菌を培養する工程と、
(b)前記培養した細菌に、請求項1から5のいずれか一項に記載のバクテリオファージまたは請求項6から9のいずれか一項に記載の組成物を接種する工程と、
(c)前記培養した細菌のいずれかが前記バクテリオファージまたは前記組成物中のバクテリオファージによって溶解されるかどうかを判定する工程と、を含み、
前記バクテリオファージ(1種または複数種)による培養細菌の溶解は、前記対象がウェルシュ菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクがあることを示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージ療法の分野に関する。特に、ヒト、水産養殖動物、および家畜動物を含む動物において、細菌、特にウェルシュ菌による感染症を治療または予防するための、バクテリオファージ、バクテリオファージをベースとする組成物、および方法の提供に関する。本発明はまた、ヒトや動物が消費する飼料製品や食品における飼料原料や生物学的除染剤としての上記組成物の使用に関する。
【0002】
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は、自然環境に遍在する病原性、グラム陽性、桿状の芽胞形成嫌気性細菌である。この細菌は宿主の感染部位から常法で単離することができる。この細菌は多くのヒト疾患の原因となっている。
ウェルシュ菌は毒素を産生し、それらは主要な毒素とマイナーな毒素の2つのカテゴリに分けることができる。主要な毒素は、α(CPA)、β(CPB)、ι(ITX)、ε(ETX)、エンテロトキシン(CPE)、および壊死性腸炎B様毒素(NETB)の6種類であり、これらは致死性と細胞毒性を有する(Nagahamaら、2015年)。マイナーな毒素は多数存在するが、その多くはまだ定義されていない。
染色体上やプラスミド上に存在する毒素遺伝子は、ウェルシュ菌分離株の型別を行うのに用いられる古典的な毒素型システムとして利用されている(表1)。
【表1】
【0003】
ウェルシュ菌は、クロストリジウム性筋壊死の最も一般的な原因とみなされている(Titballら、1999年)。この疾患は、一般に、外傷性創傷がウェルシュ菌に感染して筋組織が汚染された場合に発生する(Titball、2005年)が、基礎疾患のない健康な個体にも見られている(Boenickeら、2006年)。この疾患は、ヒト、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびウマで報告されている。
【0004】
ウェルシュ菌は、血便、胆汁性嘔吐、腹部膨満を症状とする重篤な炎症性腸疾患である新生児壊死性腸炎(necrotising enterocolitis)(NEC)の原因でもある(Obladen、2009年)。
【0005】
ウェルシュ菌C型分離株は、「ピグベル(pigbel)」(壊疽性腸炎(enteritis necroticans))やおそらく同一の疾患であるダルムブランド(darmbrand)の原因となる(Obladen、2009年)。ピグベルは、トリプシン阻害物質が食事によく含まれ、タンパク質が不足している裕福でない国で主に見られる、重篤な衰弱性の腸壊死(enteric necrosis)である。
【0006】
ウェルシュ菌の消化による食中毒は主にF型ウェルシュ菌または新たに発見されたBEC遺伝子becAおよびbecBによって引き起こされる。ウェルシュ菌による食中毒は、24時間の下痢を誘発するが、その自己調節性のために、報告されていない場合が多い。
【0007】
壊死性腸炎(necrotic enteritis)(NE)は、ウェルシュ菌が鳥類の腸内で増殖し、組織を壊死させる毒素を産生すると発生する。通常、ウェルシュ菌の単一のクローンが疾患の原因となり、このバリアントは非常に増殖し、ウェルシュ菌の他のクローンや他の生物を駆逐する。ほぼすべての鳥類種がNEを発症することが観察されており、主な罹患種は商業的に飼育されているブロイラー鶏であるが、シチメンチョウ(KaldhusdalおよびLovland、2002年)、カラス(Asaokaら、2004年)、アヒルなどのさらなる鳥類種も壊死性腸炎の発症が見られている。
【0008】
無症状性NE(SNE)は、飼料要求率(FCR)の上昇により、重大な経済的損失の原因となる。この疾患は商業用ブロイラー群の40%を冒していると推定されている(CooperおよびSonger、2009年)。この疾患は、2001年の時点で、世界の養鶏産業に、合わせて年間20億米ドルの損失を与えていると推定されていた(van der Sluis、2000年)。この疾患は、抗生物質成長促進剤(AGP)の廃止によって急増するようになり、世界の養鶏産業に年間60億米ドルの損失を与えていると推定し直されている(WadeおよびKeyburn、2015年)。これらのコストの大部分はSNEによる生産性の低下によるものであり、この疾患形態が最も経済的損失をもたらすものとなっている(Keyburnら、2008年)。
【0009】
最近、新規の膜孔形成毒素NETE、NETF、およびNETGが、致死性のイヌと仔ウマのA型検体から得られた試料で単離された(Gohariら、2014年)。これらの毒素の存在に関連する罹患疾患の症状は、血が混じった嘔吐物と血が混じった悪臭を伴う下痢便である。家禽の急性NEと同様に、急性型の出血性胃腸炎は進行が速く、夕方に症状を示していなかったイヌが、朝になると血便のプールの中で死んでいるのが発見される。NETF毒素に関連する疾患は、仔ウマに発症すると、高い死亡率をもたらす。ほとんどの仔ウマは生後6日未満の若齢であり、多くの場合、生後24時間以内に発病し、発病から24時間以内に死亡する。
【0010】
抗生物質成長促進剤(AGP)を予防的に添加することで、飼料要求率が改善し、飼料利用率が2~5%、成長率が4~8%向上することがわかった。無症状感染の罹患率の低下および臨床例の死亡率の低下も見られた(Butayeら、2003年)。抗生物質を家禽の環境に添加すると、たとえ低投与量であっても、抗生物質は非特異的な細菌を除去することができる。これにより、宿主の腸内バイオームが変化し、使用した抗菌薬に耐性を持ち得る細菌による感染のリスクに鳥がさらされることになる。
【0011】
抗生物質は鳥類を効果的に保護し、FCRを低下させることができたが、このような治療と予防的使用には、より明白かつ壊滅的になってきている問題がある。主として、抗生物質の自由な使用は、飼料添加物としての鳥類の治療を無効にし得るだけでなくヒト用治療薬を無効にしてヒトの罹患や死亡につながる抗生物質耐性を促進・誘発する原因となる。農業における抗生物質の使用をパフォーマンス向上剤としてではなく治療のみの使用に減らすための世界的な取り組みが求められている。
【0012】
したがって、鳥類や他の動物の感染症の治療における抗生物質に代わるもの、および、AGPとしての抗生物質の使用に代わるものが、明らかに必要とされている。
【0013】
バクテリオファージ(ファージ)は、細菌細胞に特異的に感染してそれらを死滅させる天然の細菌ウイルスである。宿主細菌に感染するために、ファージはまず宿主細胞上の受容体と相互作用し、不可逆的に吸着してゲノムを細菌に注入する。次いで、ファージのゲノム内容が細菌細胞の細胞質に移動する。タンパク質およびゲノムを含む宿主資源は、ファージ複製を促進するために転用される。バクテリオファージゲノムとその子孫の複製、転写、および翻訳は、典型的には、宿主の代謝を新しいファージ粒子の産生に振り向けることによって開始する。新しいファージビリオンの構築が臨界量に達すると、ファージエンドリシンによる細菌細胞の溶菌により、新たに複製されたファージ粒子が細胞質から脱出して他の感受性細菌に感染することが可能になる。
【0014】
特定のバクテリオファージ株は、狭い宿主域または特定の微生物種もしくは微生物株に感染できることが知られている。ファージと細菌細胞との相互作用における特異性は、吸着の特異性によって決まる。これは細菌細胞表面上の受容体の性質および構造に依存する。ファージがある菌種の一部のみにしか感染できないという明確な証拠があり、ほとんどのファージは、単一の菌種に特異的であり、さらにその菌種内のいくつかの株に特異的である(KoskellaおよびMeaden、2013年)。例えば、あるバクテリオファージは、ウェルシュ菌に感染する能力を有するが、悪性水腫菌(Clostridium septicum)またはボツリヌス菌(Clostridium botulinum)などの他のクロストリジウム種や、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ腸炎菌(Salmonella enteritis)、またはリステリア菌(Listeria monocytogenes)などの他の菌種には感染しない。
【0015】
ファージ療法は、1世紀以上前に初めて使用されたが、その後、抗生物質耐性という危機によって復活を遂げた。ファージ生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の理解が進んだことにより、治療成功の標準化された改善が可能になった(AltamiranoおよびBarr、2019年)。
【0016】
ファージは、その特異性により、病原菌に対して直接作用することができる。これとは対照的に、抗生物質による治療には、付随的なダメージがあり、マイクロバイオームを攪乱する。ファージ療法にはオフターゲット効果がなく、抗生物質に関連する下痢症、粘膜カンジダ症、偽膜性大腸炎、さらには長期的な代謝障害および免疫障害といった、マイクロバイオーム障害による影響を防止する(De Sordiら、2017年;AltamiranoおよびBarr、2019年)。
【0017】
現在では多くの新規バクテリオファージが単離されている。これらのバクテリオファージは、ウェルシュ菌を菌種特異的に溶菌するのに特に効果的であることが本明細書中に示されている。これらのバクテリオファージの組み合わせ(カクテル)がウェルシュ菌に対する作用において相乗効果を示すことも示されている。
【0018】
したがって、本発明の1つの目的は、ウェルシュ菌を菌種特異的に標的とする溶菌性バクテリオファージ、およびそれらの組み合わせ(カクテル)を提供することである。このようなバクテリオファージおよび組み合わせは、ヒト、水産養殖動物、および家畜動物、特に鶏(chicken)、を含む動物において、細菌、特にウェルシュ菌による感染症の治療または予防に使用され得る。また、ヒトや動物が消費する飼料製品や食品における飼料原料や生物学的除染剤としても使用され得る。
【0019】
一実施形態において、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも95%もしくは99%)の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0020】
本発明はまた、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10のいずれか1つに示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10のいずれか1つに対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0021】
本発明はまた、先行する請求項のいずれか一項に記載のバクテリオファージを、1種以上の製薬上許容可能な担体、賦形剤、または希釈剤とともに含む、医薬組成物を提供する。本発明はまた、本発明のバクテリオファージまたは本発明の組成物を含む動物用飼料、好ましくは鶏用飼料を提供する。
【0022】
本発明はまた、薬剤としての使用または療法における使用のための、本発明のバクテリオファージ、本発明の組成物、または本発明の動物用飼料を提供する。本発明はまた、ウェルシュ菌によって引き起こされる疾患の治療、低減、および/または予防に使用するための、本発明のバクテリオファージ、本発明の組成物、または本発明の動物用飼料を提供する。本発明はさらに、対象においてウェルシュ菌によって引き起こされる疾患を治療、低減、および/または予防する方法であって、治療上有効量の本発明のバクテリオファージ、本発明の組成物、または本発明の動物用飼料を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、飼料製品を処理するためのプロセスまたは飼料製品上もしくは飼料製品中のウェルシュ菌感染を予防もしくは低減するプロセスであって、
(a)本発明のバクテリオファージまたは本発明の組成物を上記飼料製品に適用する工程を含む、プロセスを提供する。
さらに別の実施形態において、本発明は、ウェルシュ菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクがある対象を同定する方法であって、
(a)対象から得られた生体試料中に存在する細菌を培養する工程と、
(b)上記培養細菌に本発明のバクテリオファージまたは本発明の組成物を接種する工程と、
(c)上記培養細菌のいずれかが上記バクテリオファージまたは上記組成物中のバクテリオファージによって溶菌されるかどうかを判定する工程と、を含み、
上記バクテリオファージ(1種または複数種)による培養細菌の溶菌は、上記対象がウェルシュ菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクがあることを示す、方法を提供する。
【0024】
本発明は、ウェルシュ菌を菌種特異的に標的とする11種の新しい溶菌性バクテリオファージと、それらの組み合わせ(カクテル)とを提供する。これらの新しいバクテリオファージは、本明細書中、配列番号1~11に示すように、それらのゲノム配列を参照することによって例示される。本発明はまた、これらのゲノム配列のバリアントを有するバクテリオファージを提供する。
【0025】
「バクテリオファージ」および「ファージ」(ならびにそれらの複数形)という用語は同義語であり、本明細書中では互換的に使用される。「バクテリオファージ」という用語は細菌に感染可能なウイルスを指す。本発明のバクテリオファージは二本鎖DNAゲノムを有する。
【0026】
本発明のバクテリオファージは、ポドウイルス(Podoviridae)科、ミオウイルス(Myoviridae)科、またはシホウイルス(Siphoviridae)科に属するものであることが好ましい。本発明の好ましいバクテリオファージが属する科を以下に示す。
【表2】
【0027】
本発明のバクテリオファージは、一般に、単離または精製された形態、すなわち、それらが自然環境から分離された形態で存在する。特に、「単離された」という用語は、細菌(例えばウェルシュ菌)細胞を含まないことを含めて、バクテリオファージが得られた宿主細胞または組織源に由来する細胞物質または汚染タンパク質を実質的に含まないことを含む。「精製された」という用語は、絶対的な純度(均質な製剤など)を必要としない。その代わりに、バクテリオファージまたはバクテリオファージ製剤が自然環境におけるよりも比較的純度が高いことを示すものである(このレベルは、自然レベルと比較して、例えばmg/mL換算で、少なくとも2~5倍高くなければならない)。精製は、他の核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、細胞内小器官、または細菌細胞を実質的に含まないバクテリオファージの製剤が得られる、当業者に公知の任意の方法に従って達成され得る。
【0028】
ただし、本発明のバクテリオファージは、1種以上の他の本発明のバクテリオファージと組み合わせてもよく(例えば、本発明の組成物中で)、他の既知もしくは未知のバクテリオファージと組み合わせてもよい。
【0029】
本発明はまた、配列番号1~11のバクテリオファージのバリアントであって、配列番号1~11のうちの1つ(または複数)に対して少なくとも90%の配列同一性を有するバリアントを提供する。好ましくは、上記バリアントは、配列番号1~11のうちの1つ(または複数)に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または99.9%の配列同一性を有する。より好ましくは、上記バリアントは、配列番号1~11のうちの1つ(または複数)に対し、少なくとも99%、99.5%、または99.9%の配列同一性を有する。上記バリアントは、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号1~7および9~11のバクテリオファージのバリアントであって、配列番号1~7または9~11のうちの1つ(または複数)に対して少なくとも90%の配列同一性を有するバリアントを提供する。好ましくは、上記バリアントは、配列番号1~7または9~11のうちの1つ(または複数)に対し、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または99.9%の配列同一性を有する。上記バリアントは、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である。
【0031】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号2に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号2に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号3に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号3に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号4に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号4に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号5に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号5に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号6に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号6に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号7に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号7に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号8に示すヌクレオチド配列をするか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号8に対して少なくとも99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号9に示すヌクレオチド配列をするか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号9に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号10に示すヌクレオチド配列をするか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号10に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に示すヌクレオチド配列をするか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、もしくは99.9%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である、バクテリオファージを提供する。
【0042】
本発明はまた、上記で定義したバクテリオファージを1種以上含む組成物を提供する。
【0043】
Clustal Omegaは、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の多重配列アラインメント(multiple sequence alignments)を迅速かつ正確に行うためのパッケージであり、以前のClustalプログラムが完全にアップグレードされて書き直されたものである。Clustal Omegaは多重配列アラインメント(MSA)の作成に使用される。これは、3つ以上の相同なヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を、それら異なる配列からの相同な残基が可能な限り多く列に並ぶように、整列させる手順である。これは、相同な遺伝子やタンパク質の系統発生解析や比較解析のほとんどに不可欠な前提条件であるため、バイオインフォマティクスにおいて長い間にわたり最も広く使用されている手順の1つである。Clustal Omegaは、極めて多数の配列を非常に迅速かつ正確に整列させることができるように設計されている。その速度は、O(N2)やO(N3)ではなくO(NlogN)の時間およびメモリでガイドツリーを計算するmBedアルゴリズムの使用によるところが大きい。その精度は、HMMのペアを整列させる高度な隠れマルコフモデル(HMM)アライナーであるHh alignを使用することによる。このプログラムは、MAFFTやMUSCLEなどの多くの代替的な「高速」プログラムと同程度に高速であるが、「高精度」とされる多くの他のパッケージと同程度に正確である。この組み合わせにより、Clustal Omegaは非常に大規模なアラインメントを行うための非常に有用な汎用プログラムとなっている。Clustal Omegaの特に有用な1つの特徴は、外部HMMを使用してアラインメントをガイドするのに役立てることができる機能である。この機能をこのユニットでは外部プロファイルアラインメント(EPA)と呼ぶ。EPAは、整列対象の各配列を取得し、それをHMMに対して整列させてデータセット内の他の配列とのアラインメントに役立てることで構成される。これは、例えば、PFAMからの、またはユーザーが構築したエキスパートアラインメントからの、公開されているHMMとともに使用することができる。この手順は、出力されたMSAからHMMを繰り返し生成し、これを入力して入力配列を再アラインメントするために使用することもできる。1回または2回の繰り返しは通常、アラインメントの質にわずかな有益な影響を与えることがわかっている。(例えば、Sievers,F.、Higgins,D.G.、2014年、Clustal Omega. Curr. Protoc. Bioinform.、48:3.13.1-3.13.16、(doi: 10.1002/0471250953.bi0313s48)を参照。
【0044】
本発明の文脈において、2つのDNA配列を比較するための適切なパラメーターは、CLUSTALプログラムClustal Omega v1.2.3をデフォルトパラメーターで使用することである。
【0045】
本発明のバクテリオファージはすべて、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶菌可能である。本発明のバクテリオファージはすべて、溶菌性バクテリオファージである。本明細書中で用いる「溶菌性」バクテリオファージとは、細菌宿主に付着して細菌宿主細胞に遺伝物質を挿入する病原性(virulent)バクテリオファージを指す。溶菌性バクテリオファージは、細胞の機構を乗っ取り、バクテリオファージ成分を作る。そしてそれらは細胞を破壊つまり溶菌し、新しいバクテリオファージ粒子を放出する。好ましくは、閉鎖系において宿主細菌細胞の99%超が溶菌され破壊される。
【0046】
本発明のバクテリオファージによるウェルシュ菌株の溶菌は、(a)増殖阻害、(b)光学密度、(c)代謝出力、(d)測光(例えば、蛍光アッセイ、吸収アッセイ、もしくは透過アッセイ)、および/または(e)プラーク形成によって実証され得る。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、ウェルシュ菌株は、A型株、B型株、C型株、D型株、E型株、F型株、またはG型株である。好ましくは、ウェルシュ菌株は、A型株、C型株、F型株、またはG型株である。
【0048】
いくつかの実施形態では、ウェルシュ菌ゲノムは、以下の毒素コード遺伝子のうちの1つ以上を含む:cpa、cpb、itx、etx、cpe netB、tpeL、cpb2、becA、becB、netE、netF、netG、cnaA、pfoA、colA。
【0049】
好ましくは、バクテリオファージは、5種以上のウェルシュ菌株を溶菌できるものであり、より好ましくは、家禽、ブタ、および/またはウシに関連する5種以上のウェルシュ菌株、より好ましくは、家禽(例えば、鶏、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒル)、好ましくは鶏に関連する菌株を溶菌できるものである。
【0050】
本発明のバクテリオファージは、本明細書において、ウェルシュ菌の多種多様な菌株および型に感染してそれらを溶菌することが可能であることが示されている(例えば、本明細書の実施例3および図2を参照)。
【0051】
いくつかの好ましい実施形態において、上記バクテリオファージは、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11のいずれか1つに示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11のいずれか1つに示すヌクレオチド配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも95%もしくは99%)の配列同一性を有し、かつ、該バクテリオファージが、対応する配列番号に対して100%のヌクレオチド配列同一性をゲノムが有するバクテリオファージによって溶菌可能であると図2において同定されているウェルシュ菌株のうちの1種以上またはすべての菌株に感染するかまたはそれらを溶菌することが可能である、バクテリオファージである。
【0052】
例えば、本発明は、バクテリオファージであって、
(a)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に示すヌクレオチド配列を有するか、または、
(b)該バクテリオファージのゲノムが配列番号11に示すヌクレオチド配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも95%もしくは99%)の配列同一性を有し、かつ、該バクテリオファージがウェルシュ菌株ATCC13124、Q143.CN7、JBCNJ055、Q100.CN13、Q159.4C、JBFR063、M030.1C、CP_UoA_CA_39、CP_UoA_CA_24、JBCNI056、JBCNC058、JBCNC056、およびCP_UoA_CA_132(すなわち、これらの菌株は、配列番号11のバクテリオファージによる溶菌が可能であり、図2において識別名「SMS460」によって同定されている菌株)のうちの1種以上もしくはすべての菌株に感染するかもしくはそれらを溶菌することが可能である、バクテリオファージを提供する。
【0053】
本発明のバクテリオファージの溶菌活性はウェルシュ菌に特異的である。すなわち、本発明のバクテリオファージは、ウェルシュ菌を特異的に溶菌する。特に、本発明のバクテリオファージは、大腸菌、サルモネラ腸炎菌、またはリステリア菌などの他の菌種に感染したりそれらを溶菌することはできない)。さまざまな他の近縁種および遠縁種(例えば、悪性水腫菌またはボツリヌス菌)を試験して本発明のバクテリオファージの溶菌活性を測定したが、溶菌は観察されなかった。
【0054】
特に、本発明のバクテリオファージは、以下の細菌のいずれをも溶菌できないことが示されている:コンパニラクトバチルス・ファルシミニス(Companilactobacillus farciminis)、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、フソバクテリウム・ネクロフォーラム 亜種ネクロフォーラム(Fusobacterium necrophorum s. necrophorum)、フソバクテリウム・ネクロフォーラム 亜種ファンデュリフォルメ(Fusobacterium necrophrum s. fundiliforme)、エンテロコッカス・セコルム(Enterococcus cecorum)、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、大腸菌、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロバクター・クロアカエ 亜種クロアカエ(Enterobacter cloacae s. cloacae)、枯草菌(Bacillus subtilis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、リステリア菌、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・デュランス(Enterococcus durans)、エンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、酪酸菌(Clostridium butyricum)、悪性水腫菌、ノーヴィ菌(Clostridium novyi)、クロストリジウム・ファラックス(Clostridium fallax)、クロストリジウム・ディスポリカム(Clostridium disporicum)、およびクレブシエラ・ニューモニアエ 亜種ニューモニアエ(Klebsiella pnuemoniae s. pnuemoniae)。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明のバクテリオファージは、野生型バクテリオファージでも天然に存在するバクテリオファージでもない。すなわち、上記バクテリオファージは、野生型バクテリオファージと比較して少なくとも1つのヌクレオチドの相違を有する。
【0056】
さらなる実施形態において、本発明は、1種以上の本発明のバクテリオファージを含む組成物、好ましくは医薬組成物または農業用組成物を提供する。上記組成物はまた、当該バクテリオファージの保存に適した成分、すなわち当該バクテリオファージの安定性を維持する成分を含んでもよい。
【0057】
本明細書中に記載する医薬組成物は、有効成分を医薬用の組成物に加工しやすくする賦形剤や助剤を含む1種以上の生理学的に許容可能な担体を用いて、従来の方法で製剤化され得る。医薬組成物を製剤化する方法は当該技術分野において公知である(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PA.を参照)。いくつかの実施形態では、医薬組成物を、錠剤化、凍結乾燥、直接打錠、従来の混合、溶解、顆粒化、糊状化(levigating)、乳化、カプセル化、封入、または噴霧乾燥に供し、錠剤、顆粒剤、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、マイクロ錠剤、ペレット、または散剤を形成する(これらは腸溶コーティングされてもされなくてもよい)。適切な剤形は投与経路によって異なる。
【0058】
上記組成物は、液体組成物であっても固体組成物であってもよい。上記組成物は、1種以上の担体、賦形剤、治療薬(例えば、抗生物質などの非バクテリオファージ剤)をさらに含んでもよい。例えば、液体組成物は、PBSを含んでもよく、必要に応じてマグネシウムイオン、カルシウムイオン、および塩化ナトリウムイオンを含有する緩衝塩とともに、含んでもよい。
【0059】
農業用組成物は、飼料組成物であってもよい。飼料組成物(例えば、食料生産動物に与えるための飼料組成物)は、固体組成物であってもよく、液体組成物であってもよい。好ましい一実施形態において、飼料組成物は、1種以上の本発明のバクテリオファージを含む、必要に応じて乾燥ペレットの形態の乾燥組成物である。例えば、固体組成物はブタ用飼料または鶏用飼料であり得る。このような乾燥組成物は特に有効であることがわかっている。
【0060】
バクテリオファージの適切な投与量は、飼料1グラム当たり2.5×102~2.5×106PFU(例えば、250~500PFU、500~1000PFU、1000~2500PFU、2500~5000PFU、5000~10,000PFU、10,000~25,000PFU、25,000~100,000PFU、または1×105~1×106PFUもしくは1×106~2.5×106PFU)の範囲であり得る。本発明のバクテリオファージの一部は、試験において、液体製剤として家禽に経口投与された場合、5×109PFU/mLまで安全であった(これは、試験したバクテリオファージの最高使用可能数である)。
【0061】
本発明の組成物は、1種以上(例えば、1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、またはそれ以上)の異なる本発明のバクテリオファージを含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、2~5種、3~5種、または3~4種の異なる本発明のバクテリオファージを含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、2種以上の異なる本発明のバクテリオファージを含み、
(a)各バクテリオファージのゲノムが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11からなる群から選択されるヌクレオチド配列、または、該配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそのバリアントを有し、かつ、
(b)各バクテリオファージが、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶解可能である。
【0063】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、3種以上の異なる本発明のバクテリオファージを含み、
(a)各バクテリオファージのゲノムが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11からなる群から選択されるヌクレオチド配列、または、該配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそのバリアントを有し、かつ、
(b)各バクテリオファージが、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶解可能である。
【0064】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、4種以上の異なる本発明のバクテリオファージを含み、
(a)各バクテリオファージのゲノムが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11からなる群から選択されるヌクレオチド配列、または、該配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそのバリアントを有し、かつ、
(b)各バクテリオファージが、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶解可能である。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、5種以上の異なる本発明のバクテリオファージを含み、
(a)各バクテリオファージのゲノムが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11からなる群から選択されるヌクレオチド配列、または、該配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそのバリアントを有し、かつ、
(b)各バクテリオファージが、ウェルシュ菌の1種以上の菌株を溶解可能である。
【0066】
上記組成物中の異なるバクテリオファージの比率は、同じであっても異なっていてもよい。好ましくは、上記比率は同じである(例えば、1:1:1:1)。
【0067】
バクテリオファージの好ましい組み合わせ(カクテル)としては、以下の表3および表4に示すものが挙げられる。
これらの表3および表4において、特定のバクテリオファージへの言及は、本明細書中で定義するように、それらのバクテリオファージのゲノムの配列番号およびそのバリアント(例えば、少なくとも90または少なくとも99%の配列同一性)への言及を具体的に含む。
【表3】
【表4】
【0068】
特に、本発明は、複数種の本発明のバクテリオファージを含む医薬組成物であって、
(i)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号9、10、および11に示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(ii)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号3、6、および11に示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(iii)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1、3、6、9、10、および11に示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(iv)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号2、3、10、および11に示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、あるいは、
(v)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1~11のそれぞれに示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有し、
上記複数種のバクテリオファージがそれぞれ、ウェルシュ菌の少なくとも1種の菌株を溶菌可能である、医薬組成物を提供する。
【0069】
本発明はまた、複数種の本発明のバクテリオファージを含む医薬組成物であって、
(vi)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1、4、および11に示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有するか、
(vii)上記複数種のバクテリオファージのゲノムが、配列番号1、3、4、8、および10に示すヌクレオチド配列、またはそれらの配列に対して少なくとも90%(好ましくは少なくとも99%)の配列同一性を有するそれらのバリアントを有し、
上記複数種のバクテリオファージがそれぞれ、ウェルシュ菌の少なくとも1種の菌株を溶菌可能である、医薬組成物を提供する。
【0070】
病原性指数(Virulence Index)は、所与のMOIにおけるファージの殺傷能力の尺度である。(「The Virulence Index: A Metric for Quantitative Analysis of Phage Virulence」、Stormsら、PHAGE: Therapy, Applications, and Research、vol.1、no.1、2020年を参照。)ファージの病原性が高いほど、多数の細菌を死滅させる(または増殖を阻害する)のが速く、指数の数値が高くなる。局所病原性は0から1までの段階で測定され、0は病原性が全くないことを表し、1は理論上の最大の病原性を表す。このような結果は、ファージの殺滅能力を個別にまたは組み合わせ(カクテル)で比較し、異なる細菌宿主に対してより好ましい組み合わせを評価するために使用することができる。病原性指数は、ファージの組み合わせを含む組成物に適用した場合、個々のファージと比較したときの当該組成物中のファージ間の相乗効果を実証するために用いられ得る。
【0071】
本発明はまた、ウェルシュ菌感染症治療用キットであって、2種以上の本発明のバクテリオファージを含むキットを提供する。
【0072】
また、2種以上の本発明のバクテリオファージを含む、または、2種以上の本発明のバクテリオファージを含む本発明の組成物を含む、組み合わせ製剤であって、対象に別々、順次、または同時に投与するための、組み合わせ製剤を提供し、好ましくはウェルシュ菌感染症の治療に適した形態でまたはウェルシュ菌感染症の治療のための、対象に別々、順次、または同時に投与するための、組み合わせ製剤を提供する。
【0073】
さらなる実施形態において、本発明は、対象においてウェルシュ菌によって引き起こされる疾患を治療、低減、および/または予防する方法であって、治療上有効量の本発明のバクテリオファージまたは組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0074】
「治療上有効量」という用語は、未治療の対照と比較して、ウェルシュ菌感染症の予防、症状発症の遅延、または症状の改善をもたらすバクテリオファージまたは組成物の量を指すために用いる。治療上有効量は、例えば、未治療の対照と比較して、ウェルシュ菌感染症の1つ以上の症状の治療、予防、重症度の低減、発症の遅延、および/または発生リスクの低減に十分であり得る。さらなる実施形態において、本発明は、ウェルシュ菌によって引き起こされる疾患の治療、低減、および/または予防に使用するための本発明のバクテリオファージまたは組成物を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、動物においてウェルシュ菌によって引き起こされる疾患の治療、低減、および/または予防に使用するための薬物の製造における本発明のバクテリオファージまたは組成物の使用を提供する。
【0075】
好ましくは、ウェルシュ菌によって引き起こされる疾患は、食中毒、胃腸炎、胆嚢炎、腹膜炎、虫垂炎、腸穿孔、筋壊死、軟部組織感染症、ガス壊疽、壊死性腸炎、または新生児壊死性腸炎である。
【0076】
本発明のバクテリオファージおよび/または組成物は、対象がウェルシュ菌に感染する前に対象に投与されてもよい。例えば、離乳中の若齢のブタは非常に感染しやすい。したがって、本発明のバクテリオファージおよび/または組成物を用いた予防的治療を施すことができるだろう。
【0077】
治療される対象は、動物、好ましくは鳥類、魚類、または哺乳類である。治療される鳥類の例としては、家禽が挙げられ、鶏、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒル、キジ、ウズラ、ハト、カラス、およびヤマウズラが挙げられる。治療される魚類の例としては、アジ、イワシ、サバ、タラ、サケ、バサ、ハドック ニベ、ブリーム、ティラピア、ボラ、エソ、ホワイティング、シャッド、ナマズ、および貝・甲殻類が挙げられる。対象のさらなる例としては、エビ(prawns)、カキ、小エビ(shrimp)、およびロブスターが挙げられる。
【0078】
治療される哺乳類の例としては、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ネコ、ヤギ、イヌ、およびヒトが挙げられる。好ましくは、対象は、鶏、シチメンチョウ、小エビ、またはヒトである。
【0079】
本発明のバクテリオファージおよび組成物は、任意の適切な経路によって対象に投与され得る。液体組成物は、経口投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、または静脈内注射によって対象に投与され得る。固体組成物(例えば飼料)は、経口投与され得る。
【0080】
投与計画を治療効果が得られるように調整してもよい。投与は、疾患の重症度や反応性、投与経路、治療の時間経過(数日から数ヶ月、数年)、疾患の改善までの時間など、いくつかの要素に依存し得る。例えば、1つの大丸薬(bolus)を一度に投与してもよく、数回に分割した投与量を所定期間にわたって投与してもよく、治療状況に応じて投与量を減らしたり増やしたりしてもよい。
【0081】
好ましい実施形態としては、飼料添加物プレミックスとして含有される乾燥バクテリオファージ組成物として、1回の投与量で、500g(米国453.592g/1lb)、250g(米国226.796g/0.5lb)、または125g(米国113.398g/0.25lb)中に約5×106PFU/gが挙げられる。
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のバクテリオファージは、対象(例えば、1羽の鶏)に、104~109PFU/対象または104~106PFU/対象、例えば、104~105PFU/対象、105~106PFU/対象、106~107PFU/対象、107~108PFU/対象、または108~109PFU/対象の投与量で投与される。例えば、上記の投与量を、1mlの投与量中で(例えば1羽の鶏に)投与してもよい。
【0082】
なおさらなる実施形態において、本発明は、飼料製品を処理するためのプロセスであって、(a)本発明のバクテリオファージまたは組成物を飼料製品に適用する工程を含むプロセスを提供する。なおさらなる実施形態において、本発明は、飼料製品上または飼料製品中のウェルシュ菌感染を予防または低減するためのプロセスであって、(a)本発明のバクテリオファージまたは組成物を飼料製品に適用する工程を含むプロセスを提供する。
【0083】
飼料製品は、ウェルシュ菌に感染しやすいもの、例えば、生肉または部分加熱された肉であってもよい。肉は、例えば、家禽(例えば、鶏、シチメンチョウ、ガチョウ、キジ、ウズラ、もしくはハト)の肉、豚肉、または牛肉であり得る。
【0084】
バクテリオファージ検出方法は、生存細菌細胞の迅速かつ特異的な同定を可能にする。バクテリオファージは、その細菌宿主を改変、溶菌、単離、および抽出して検出を可能にする多数の方法で検出ツールとして使用することができる。
【0085】
バクテリオファージ増幅アッセイは、ファージ子孫の産生または宿主細菌の死を検出信号として用いる。ファージの増殖は、ペトリ皿上のプラークの形成によって測定される。感染した宿主が溶菌され、細菌の再感染を可能にするファージ子孫を放出すると、プラークが形成される。このアッセイでは、バクテリオファージに感染させ、続いて細胞外ファージを化学的に不活性化させ(すなわち殺ウイルス剤)、その後、増殖速度の速い「レポーター」生物を用いてプラークを検出することが必要である。各プラークは最初に感染した1つの細菌を表すと考えられている。プラークを抽出し、PCRを用いて、付加された特異性があるかどうか試験することができる。
【0086】
ファージ捕捉(phage capture)は、細菌に選択的に結合するめに、エンドリシンやテールスパイクタンパク質などのバクテリオファージの特定の特性を利用する。エンドリシンは、ファージによって産生される酵素であり、溶菌時に細菌の細胞壁を分解する。エンドリシンは2つのドメインを含み、1つは細胞壁の分解を触媒するためのドメインであり、もう1つは宿主細胞壁の領域を特異的に認識する細胞壁結合ドメインである。ファージテールスパイクは、宿主細胞に選択的に付着して結合し、感染を可能にする。これにより、培養法、ELISA法、またはqPCR法を用いた下流での分離および検出を介した標的生物の捕捉および単離が可能になる(Jonesら、2020年).
【0087】
なおさらなる実施形態において、本発明は、ウェルシュ菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクがある対象を同定する方法であって、
(a)対象に由来する生体試料を得る工程と、
(b)上記生体試料中に存在する細菌を培養する工程と、
(c)上記培養細菌に本発明のバクテリオファージまたは本発明の組成物を接種する工程と、
(d)上記培養細菌のいずれかが上記バクテリオファージまたは上記組成物中のバクテリオファージによって溶菌されるかどうかを判定する工程と、を含み、
バクテリオファージによる培養細菌の溶菌は、上記対象がウェルシュ菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクがあることを示す、方法を提供する。
【0088】
本方法は、以前に対象から得られたもしくは由来した生体試料を用いて行ってもよい。このような場合、対象は、本発明のバクテリオファージまたは組成物による上記ウェルシュ菌感染症の治療を受けるのに適していることになる。したがって、上記の同定方法の後に、有効量の本発明のバクテリオファージまたは組成物を上記対象に投与する工程が行われてもよい。
【0089】
以下の各実施形態も好ましい。
1. 少なくとも1種のファージを含む組成物であって、該組成物は、
a.ファージvB_CpeM_SMS460(配列番号11)またはファージvB_CpeP_ABCP22(配列番号9)のゲノム配列を有する少なくとも1種のファージ、
b.配列番号11または配列番号9に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するゲノム配列を含むファージバリアントであって、細菌に感染するかまたは細菌の溶菌を引き起こすことが可能であるファージバリアント、
c.ファージvB_CpeM_SMS460またはファージvB_CpeP_ABCP22によってコードされる少なくとも1種のポリペプチドバリアントをコードするゲノム配列を含むファージバリアントであって、上記ポリペプチドバリアントが、ファージvB_CpeM_SMS460またはファージvB_CpeP_ABCP22のCDSとして同定されたコードされたポリペプチドに対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有し、該ファージバリアントが細菌に感染するかまたは細菌の溶菌を引き起こすことが可能である、ファージバリアント、および/あるいは、
d.(a)~(c)のいずれか1つを含む混合物、を含む、組成物。
2. 上記組成物が、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種、または少なくとも10種のファージを含み、各ファージが1(a)~1(c)から選択される、請求項1に係る実施形態。
3. 上記組成物が、自然界に存在するファージを含まない、請求項1または請求項2に係る実施形態。
4. 上記組成物が提供する各ファージの投与量が105~1013pfuの範囲内であり、好ましくは、上記各ファージの投与量が、106~1012pfu、107~1011pfu、108~1011pfu、109~1011pfu、もしくは109~1010pfuの範囲内であるか、または、約106pfu、約107pfu、約108pfu、約109pfu、約1010pfu、約1011pfu、約1012pfu、もしくは約1013pfuである、先行する請求項のいずれか一項に係る実施形態。
5. 動物において1種以上の細菌によって引き起こされる感染症を治療、低減、および/または予防する方法であって、治療上有効量の先行する実施形態のいずれか1つに係る組成物を上記動物に投与することを含む方法。
6. 細菌感染症に罹患しているかまたは罹患するリスクのある動物を同定する方法であって、
a.動物に由来する生体試料を得る工程と、
b.上記生体試料中に存在する細菌を培養する工程と、
c.上記培養細菌に実施形態1から3のいずれか1つに係る組成物を接種する工程と、
d.上記培養細菌がファージによって溶菌されるかどうかを判定する工程であって、上記培養細菌のいずれかがファージによって溶菌される場合、上記鶏は、(1)バクテリオファージによる上記細菌感染症の治療を受けるのに適している、(2)細菌感染症に罹患している、かつ/または、(3)細菌感染症に罹患するリスクがある、と判定される工程と、を含む方法。
7. 上記細菌が、クロストリジウム属菌のうちの少なくとも1菌種から選択される、実施形態5または6に係る方法。
8. 上記クロストリジウム属菌がウェルシュ菌である、実施形態7に係る方法。
9. 上記動物が、ヒト、家畜動物、または水産養殖動物である、実施形態5から8のいずれか1つに係る方法。
10. 上記家畜動物が、鶏、ブタ、またはウシから選択される、実施形態9に係る方法。
11. 上記動物が、食中毒、胃腸炎、胆嚢炎、腹膜炎、虫垂炎、腸穿孔、筋壊死、軟部組織感染症、ガス壊疽、壊死性腸炎、または新生児壊死性腸炎に罹患している、実施形態5から10のいずれか1つに係る方法。
12. 上記組成物が、食品添加物として、経口投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、または静脈内注射により上記動物に投与される、実施形態5から11のいずれか1つに係る方法。
13. 上記溶菌が、
(a)増殖阻害、
(b)光学密度、
(c)代謝出力、
(d)測光(例えば、蛍光、吸収、透過アッセイ)、および/または、
(e)プラーク形成、における変化により測定される、実施形態6から12のいずれか1つに係る方法。
【0090】
本明細書中に記載する各参考文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1図1は、ポリメラーゼ連鎖反応によって行ったウェルシュ菌分離株の毒素遺伝子型別を示す。
図2A図2Aおよび図2Bは、本発明のバクテリオファージのバクテリオファージ宿主域を示し、黒いブロックは宿主を示す。
図2B】同上
図3図3および図4は、ウェルシュ菌株JBCNJ055に対する個別のバクテリオファージおよびバクテリオファージのカクテルの病原性指数のプロット図であり、「カクテル9」はバクテリオファージMN6171、ACP5、およびSMS460の組み合わせである。
図4】同上
図5図5および図6は、本発明のバクテリオファージのpH安定性および温度安定性に関するグラフである。
図6】同上
図7図7は、ウェルシュ菌CP4(2×106CFU)を接種後、高投与量(108PFU)もしくは低投与量(106PFU)のバクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)またはPBSを接種した10日齢のCobb500鶏胚についての92時間のカプランマイヤー(Kaplan-Meier)生存分布である。
【実施例
【0092】
本発明について、以下の実施例によってさらに説明する。以下の実施例において、特に明記しない限り、部およびパーセントは重量部および重量パーセントであり、度はセルシウス度である。なお、これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、例示のみを目的として記載されていることが理解されるべきである。上記の記述およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を把握することができ、本発明を種々の用途および条件に適合させるために、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明を種々に変更および変形することができる。よって、当業者には、本明細書中に図示および記載されたものの他に、本発明の種々の変形例が上記の説明から明らかであろう。このような変形例もまた添付の請求項の範囲に含まれることが意図されている。
【0093】
実施例1:ファージの精製と配列の特徴づけ
家禽の糞便および腸内容物ならびに廃水の試料(すべて英国)について、バクテリオファージの存在をスクリーニングした。スクリーニング前に、試料を水和させ、0.22μmのフィルタでろ過した。ろ過した試料100μLを、BHI(brain heart infusion)ブロス中の標的宿主細菌(例えばATCC13124)500μLに添加した。これを短時間混合し、3mLの溶融培地(0.5%w/vBHI寒天)に添加した。次いで、これをホモジナイズし、セットした寒天プレート(2%w/vBHI寒天)上に注いだ。嫌気性ガス条件で一晩インキュベート後、プレートに視認可能なプラークがあるかどうか確認した。
個々のプラークをSM緩衝液(100mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH7.5)、8mM MgSO4、0.1%w/vゼラチン)に採取した。このうち100μLを上記のように増殖させた。嫌気性ガス条件下で一晩インキュベート後、プラークを採取した。各ファージを少なくとも3回精製した。プラーク数の多いプレートにSM緩衝液5mLをかけることにより、ファージを回収した。4℃で一晩インキュベート後、SM緩衝液を回収し、0.22μmのフィルタでろ過した。従来のアルカリ溶解法を用いてDNAを抽出した。
各バクテリオファージ由来のDNAを、Illumina配列決定法を用いて配列決定した。Unicyclerアルゴリズムを用いてゲノムをアセンブルした。GeneiousアルゴリズムとGLIMMERアルゴリズムとを併用してオープンリーディングフレーム(ORF)を予測した。
【0094】
オープンリーディングフレームとコード配列の決定
最小サイズを150超の遺伝コードとし、開始コドンパラメーターをデフォルトのままとして、オープンリーディングフレーム(ORF)を同定した。それぞれのORFを抽出し、Basic Line Alignment Search Tool(BLAST)を実施した。冗長性をなくした(non-redundant)ヌクレオチド(nr/nt)データベースをプログラムBLASTnとともに選択した。最大ヒット数を500に変更し、他のパラメーターはすべて一定のままとした。無関係(バクテリオファージ配列でもウイルスのゲノム配列でもない)とみなされたすべての配列をヒットテーブル(Hit Table)から除去した。ヒット(Hit)した配列はコンセンサス遺伝子を選択して解析した(例えば、ゲノムの半分超が「主要キャプシドタンパク質」としてラベル付けされていれば、このラベルをコード配列として転送した。)。ヒットしなかった場合、得られたORFを「仮説タンパク質(hypothetical protein)」としてラベル付けした。これをすべてのORFについて繰り返した。
【表5】
配列番号1~11のヌクレオチド配列は、本特許出願の明細書の一部をなす添付の配列表に示されている。
【0095】
系統樹の作成
米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のウイルスゲノムデータベースから該当配列を抽出した。組み込みのClustal Omegaプログラム(バージョン1.2.3)をデフォルトのパラメーターで実行して配列をアラインメントした。Geneious Tree Builderツールを選択した。Tamura-Nei遺伝的距離モデルを選択し、ノードの統計的解析を増やすために10,000に変更したブートストラップ反復回数(Bootstrap replicates)を除くすべての変数をデフォルトのままとした。
【0096】
実施例2:ウェルシュ菌分離株の特徴づけ
種々の分離株由来の細菌コロニーを、通常はレシタナーゼ(lecithanase)が存在している丸い黒色のコロニーに基づいて、推定的にウェルシュ菌と同定した。単一コロニーを3連でBHI寒天に移し、37℃で一晩嫌気的にインキュベートした。PCRによるウェルシュ菌の確認を、ウェルシュ菌cpa遺伝子のスクリーニングによって実施した。
【0097】
毒素遺伝子の同定
ウェルシュ菌分離株を嫌気条件下でBHI寒天上で一晩増殖させた後、数個のコロニーを無菌的に回収した。各コロニーについて、多数のウェルシュ菌毒素遺伝子のプライマーを用いてPCR反応を行った(図1)。
【0098】
実施例3:バクテリオファージ宿主域
バクテリオファージの宿主域は、そのバクテリオファージが溶菌できる細菌の属、種、および株によって定義され、特定の細菌ウイルスを決定づける生物学的特性の1つである。
選択された11種のバクテリオファージ(配列番号1~11)のそれぞれについて、多数のウェルシュ菌分離株に対する溶菌能力/宿主域を評価した。これはスポットアッセイ法によって行った。あるバクテリオファージについて3連3回反復のすべてにおいて溶菌ゾーンが明確に観察できた場合、そのバクテリオファージが溶菌すると推定した。1回目の宿主域解析として、すべてのバクテリオファージ溶解物を分離株30株に対してスクリーニングした。さらに研究を進め、ブロイラー鶏からより多くのウェルシュ菌分離株を単離した。そのうちの一部はNEに罹患していると推定された。そして、これらの分離株の一部をバクテリオファージの宿主域の解析に含めた。これらの結果を図2に示す。
宿主域の結果
この宿主域解析の結果は、各バクテリオファージが、幅広い宿主域を有し、さまざまな型および起源のウェルシュ菌を溶菌可能であることを示している。また、複数種のバクテリオファージを組み合わせて用いた場合、それにより当該ファージカクテルの宿主域が広がり、ウェルシュ菌のより大きなコホートをうまく溶菌できるようになることも示している。
【0099】
実施例4:感染多重度(MOI)の計算
96ウェルプレートで、×108個の細菌細胞を含むことが知られている0.1OD(600nmにおいて)に調整したウェルシュ菌100μLを、×108PFU/mLのバクテリオファージ100μLに添加した。これはMOI1を表す。バクテリオファージをさまざまなPFU/mLタイトレーション(titrations)に希釈し、細菌培養液100μLに添加し、0.00001までのMOIとなるようにした。陽性対照には細菌培養液100μLとバクテリオファージ希釈液100μLとを用い、陰性対照には細菌培養培地100μLとバクテリオファージ希釈液100μLとを用いた。プレートを37℃で一晩インキュベートした。ウェルシュ菌の増殖を阻止した最も低いバクテリオファージ希釈度(the lowest dilution of bacteriophage)として、MOIを記録した。結果を以下の表に示す。
【表6】
【0100】
実施例5:プランクトンキリングアッセイ(Planktonic Killing Assay)(PKA)および病原性指数法
Stormsら、2020年に従って実験を行った。96ウェルプレートで、×108個の細菌細胞を含むことが知られている0.1OD(600nmにおいて)に調整したウェルシュ菌100μLを、×108PFU/mLのバクテリオファージまたはバクテリオファージカクテル100μLに添加し、MOIが1となるようにした。陽性対照には、細菌培養液100μLとバクテリオファージ希釈液100μLとを用い、陰性対照には、細菌培養培地100μLとバクテリオファージ希釈液100μLとを用いた。光学密度の読み取り値(600nmにおいて)を、5分毎に合計24時間記録した。それぞれの読み取りの前に10秒間振盪した。結果を3連で記録し、データを1つの曲線として記録した。
病原性指数を確定するために、ファージごとに曲線を作成した。台形公式を用いて、180分までまたは細菌の定常期の開始までの曲線下の面積を求めた。遊離ファージ対照(Ao)とMOI1で感染させた培養物(Ai)とについて計算した2つの面積を用いて、局所病原性(vi)指数スコアを計算した。
代表的な結果を図3および図4に示す。選択したバクテリオファージの30種類のカクテルについての結果を表にしたものを以下に示す。各カクテル中のバクテリオファージの詳細は、上記の表3に示されている。
【表7】
【0101】
実施例6:pH安定性および温度安定性
ファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)500μLを、異なるpH(2.5、3.5、4.5、5.7、および7)の緩衝SM溶液49.5mL中に希釈した。次いで、それらを37℃、50rpmで180分間インキュベートした。設定した時点で、標準の二重寒天層増殖法(double agar layer propagation methods)によって、力価をPFU/mLとして計算した。乾燥させてペレット状にしたバクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)については、緩衝SM溶液49.5mL中にペレット0.5gを用いた。
結果を図5および図6に示す。これらの結果は、液体のバクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)が胃腸管と同様の酸性pHにさらされると、バクテリオファージ(ACP22、ACP45、およびSMS460)がゆっくりと不活化されることを示している。これに対して、バクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)を乾燥させてペレット状にして配合飼料にすると、バクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)は胃腸管の酸性環境に耐えることができる。
【0102】
実施例7:液体の強制投与(liquid gavage)による生きた鳥の試験
米国ジョージア州の南部家禽研究所(Southern Poultry Research Group)によって、生きた鳥の試験が実施された。この試験は、Dr.Charles L Hofacre DVM,MAM,PhDの後援で、529 サンフォード・ニコルソン・ロード ニコルソン(Sanford Nicholson Road Nicholson)、GA 30565、米国において実施された。
【0103】
ジョージア州(GA)ブレアズビル(Blairsville)のアビアジェン孵化場(Aviagen Hatchery)から440羽の孵化日の雄のヒナを入手した。使用した鳥系統はRoss x Rossであった。孵化場で雌雄鑑別が行われた。この調査には明らかに健康なヒナのみを用いた。
【表8】
バクテリオファージの投与
20日目および21日目のウェルシュ菌強制投与に先立って、18日目、20日目、および21日目に、バクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)1mLを経口的に強制投与した。
チャレンジ投与(challenge administration)、試料回収、および解析
曝露(challenge)モデルは、群れの死亡率5~10%を目標とするために、DOT14に各鳥に強制投与したアイメリア・マキシマ(E.maxima)の約1,500個のオーシスト(Dr.Fullerより提供)由来のコクシジウムと、ウェルシュ菌株CP6とで構成した。以前にHofacreら(1998年)によって発表された1.0×108CFU/mLのウェルシュ菌の組み合わせ1.0mLを用いて、DOT19、20、および21に強制投与した。
壊死性腸炎病変のスコアリング。DOT22に、1ケージ当たり1羽を人道的に安楽死させ、重量測定し、剖検し、病変をスコア付けした(Hofacre、1998年)。
病変スコア0=正常
病変スコア1=小腸を覆うわずかな粘液
病変スコア2=小腸粘膜壊死
病変スコア3=脱落し、血液の混じった小腸粘膜と内容物
【0104】
結果
パフォーマンスデータ解析
体重増加、飼料消費量、飼料要求率(死亡率を考慮して調整済み:消費した飼料/最終生体重+死亡体重)、病変スコア、および死因について囲い(pen)ごとの平均値を計算した。死亡は剖検時の肉眼的病変によって評価した。Windows用STATISTIXプログラム(Analytical Software、Tallassee、フロリダ州(FL))を用いてデータの統計的評価を行った。使用した手順は、ANOVAを用いた一般的な線形手順であり、有意水準0.05での最小有意差(t検定)(LSD)(T))を用いた平均値の比較を行った。
【0105】
研究の解釈
この研究は、Arden Biotechnology社のバクテリオファージカクテル(ACP22、ACP45、およびSMS460)を、臨床的壊死性腸炎(N.E.)の予防とウェルシュ菌がブロイラーパフォーマンスに及ぼす無症状の影響とについて、2種類の投与量レベルで評価するように設計した。また、バクテリオファージ単独(ACP22、ACP45、およびSMS460、曝露なし)を評価し、当該ファージがブロイラーの健康やパフォーマンスに悪影響も及ぼすかどうかを判定した。
【0106】
臨床的N.E.の結果
T2群~T5群のブロイラー鶏を、DOT14にアイメリア・マキシマで曝露し、DOT19、20、および21にウェルシュ菌で曝露した。曝露対照群の壊死性腸炎死亡率は5.56%Aであった。低投与量群(T4)の死亡率は2.22ABで数値的に低く、高投与量群(T5)の壊死性腸炎死亡率は0%Bであり、有意に低かった(表9)。壊死性腸炎病変スコアに有意差はなかったが、治療群はすべて数値的に低かった。ファージ対照群(T6)による死亡率および壊死性腸炎病変への影響はなかった。
【0107】
無症状性N.E.の結果
曝露開始前、各治療群間の差はわずかであった(表10)。ウェルシュ菌曝露がDOT22にピークに達しつつあるとき、どちらのファージ投与量群もFCRが数値的に低かった(表3)。なお、死亡率が最も高い治療群の方が飼料摂取量が多い可能性があることが多い。これはケージメイトとの競争が少ないためである。鳥がウェルシュ菌から回復し始めていたため、DOT28までの体重増加に差はなかった。しかし、Arden社のバクテリオファージの両投与量群(T4およびT5)は、抗生物質BMD群(T3)と同様のFCRを示した(表12)。これらの治療群は、対照群(T2)よりも有意に優れていた。バクテリオファージ単独による体重、FCR、または飼料摂取量への悪影響は、本研究で測定したどの時点においても認められなかった。
【0108】
全体的な結論
高投与量群(T5)は、壊死性腸炎による死亡と損失を有意に予防した。どちらのバクテリオファージ投与量群(T4およびT5)も、ウェルシュ菌が鳥の飼料効率(FCR)に及ぼす悪影響を予防する有意な効果を示した。曝露なし対照群と比較したとき、バクテリオファージによるブロイラーパフォーマンスおよび生存率への影響はなかった。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【0109】
実施例8:飼料中のバクテリオファージを用いた生きた鳥の試験
米国ジョージア州の南部家禽研究所(Southern Poultry Research Group)によって、生きた鳥の試験が実施された。試験は、Dr.Charles L Hofacre DVM,MAM,PhDの後援で、529 サンフォード・ニコルソン・ロード ニコルソン(Sanford Nicholson Road Nicholson)、GA 30565、米国において実施された。
ジョージア州(GA)ブレアズビル(Blairsville)のアビアジェン孵化場(Aviagen Hatchery)から500羽の孵化日の雄のヒナを入手した。使用した鳥系統はRoss x Rossであった。孵化場で雌雄鑑別が行われた。この調査には明らかに健康なヒナのみを用いた。
【表13】
【0110】
バクテリオファージの投与
バクテリオファージ(ACP22、ACP45、およびSMS460)は、T4群およびT5群に50gm/メートルトンで飼料を通じて投与した。飼料は、試験期間中、自由に摂取できるようにした。バクテリオファージは、これらの群に投与されたすべての飼料に、配給量に関係なく、含まれていた。
曝露投与、試料回収、および解析
曝露モデルは、群れの死亡率5~10%を目標とするために、DOT14に各鳥に強制投与したアイメリア・マキシマの約1,500個のオーシスト(Dr.Fullerより提供)由来のコクシジウムと、ウェルシュ菌株CP6とで構成した。以前にHofacreら(1998年)によって発表された1.0×108CFU/mLのウェルシュ菌の組み合わせ1.0mLを用いて、DOT19、20、および21に強制投与した。
壊死性腸炎病変のスコアリング。DOT22に、1ケージ当たり1羽を人道的に安楽死させ、重量測定し、剖検し、病変をスコア付けした(Hofacre、1998年)。
病変スコア0=正常
病変スコア1=小腸を覆うわずかな粘液
病変スコア2=小腸粘膜壊死
病変スコア3=脱落し、血液の混じった小腸粘膜と内容物
【0111】
結果
パフォーマンスデータ解析
体重増加、飼料消費量、飼料要求率(死亡率を考慮して調整済み:消費した飼料/最終生体重+死亡体重)、病変スコア、および死因について囲い(pen)ごとの平均値を計算した。死亡は剖検時の肉眼的病変によって評価した。Windows用STATISTIXプログラム(Analytical Software、Tallassee、フロリダ州(FL))を用いてデータの統計的評価を行った。使用した手順は、ANOVAを用いた一般的な線形手順であり、有意水準0.05での最小有意差(t検定)(LSD)(T)を用いた平均値の比較を行った。
【0112】
研究の解釈
この研究では、バクテリオファージを鳥の飼料中で連続投与した。治療群2、3、および5は、19日目と20日目にウェルシュ菌で曝露した。治療群4は、ファージ高投与量での安全性評価を目的とした。
【0113】
臨床的壊死性腸炎の結果
1羽当たり1,500個のオーシストで投与したアイメリア・マキシマは、新しい継代であり、非常に感染力が強かった。そのため、ウェルシュ菌曝露投与は2日間のみ実施した。曝露対照群(T2)のN.E.死亡率は29%Aであったが、抗生物質BMD群(T3)は18%Aであり、106PFU/gのファージ投与量群(T5)は18%であった(表14)。106PFU/gのファージ投与量群(T5)は、曝露対照群(0.9A)に対して、壊死性腸炎病変の有意な減少を示した(0.3BC)。
【0114】
パフォーマンスの結果
曝露(14日目)前は、体重とFCRの差が小さかった(表15)。曝露のピークでは、曝露なし群(T1)が最も重い体重を示し(表16)、106PFU/gのファージ投与量群(T5)は、抗生物質BMD群(T3)と同様の体重を示した。106PFU/gのファージ投与量群(T5)は、無調整FCRが曝露なし対照群(T1)および抗生物質治療群(T3)と同様であった。28日目、ウェルシュ菌曝露をした治療群では、106PFU/gのファージ投与量群(T5)と抗生物質BMD群とが、非常によく似た体重増加と飼料効率とを示した(表17)。
【0115】
安全性の結果
ウェルシュ菌曝露をしなかったファージ安全性対照群(T4)は、28日目において、全体死亡率が、曝露なし群(T1)(11%BC)に対して、数値的に最も低かった(5%C)。この治療群は、治療をしなかった曝露なし対照群(T1)と同様のFCR、体重増加、および飼料摂取量を示した。
【0116】
全体
106PFU/g(T5)のファージ投与量は、非常に強い壊死性腸炎攻撃において、N.E.による死亡を予防する上で抗生物質BMD(T3)と同程度に効果的であった。また、106PFU/g(T5)のファージ投与量は、ウェルシュ菌が鳥のパフォーマンスに及ぼす悪影響をうまく予防した。さらに、ファージが鳥のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことはないようである。
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【0117】
実施例9:鳥類におけるファージのインオボ(in ovo)試験
産卵日のCobb500ブロイラー鶏卵を、ブロイラーブリーダーストックから入手した。卵は37℃でインキュベートし、52.5%の一定湿度を維持しながら45分ごとに自動的に回転させた。インキュベート9日目、心拍数モニターを使用して発育中の胚の生存率をスクリーニングした。55±10gで、識別可能な生存胚を含む卵を、その後の実験に使用した。
曝露群については、FTGで培養した対数期のウェルシュ菌を、各10mL量中で2×108CFU/mLに調節した。調節後の培養液を、1600xgで遠心分離し、得られたペレットを滅菌PBSで洗浄した。このプロセスを3連で繰り返した。次に、その後に調節および洗浄した培養物を、PBSを用いて2×107CFU/mLまで連続希釈し、30gの針を取り付けた1mLの滅菌注射器に吸い込んだ。調製した接種菌液とファージ治療薬は、製造後30分以内に使用した。
インキュベート後10日目、心拍数モニターを使用してすべての卵をスクリーニングした。卵の外側を、100%エタノールの塗布によって滅菌し、注射前に乾燥させた。21G滅菌針を用いて卵の気嚢まで穿刺した。2×106CFUの曝露のために卵の尿膜腔に接種菌液100μLを注入した後、続いて、108PFUもしくは106PFUのファージカクテル、または陰性対照としてPBSを、約100μL注入し、パラフィンワックスで密封した。バクテリオファージ対照群は、まず、PBS約100μLを注入し、続いて、109PFUの陽性対照の注入を行った。偽感染群は、PBS100μLを2回続けて注入した。すべての群において、2回の注入は20分以内の間隔で行った。無処置群は、生存率の対照として用いた。注入後、卵を孵卵器に戻した。
すべてのインビボ鳥試験で、ACP22、ACP45、およびSMS460からなるバクテリオファージカクテル を使用した。
【表18】
96時間の感染ウィンドウ期間中、24時間間隔で死亡を評価した。死亡は、胚の活動が観察されないこと、一貫した心拍数を得られないこととして定義し、肉眼的病理学によって確認した。曝露から96時間後、すべての胚を断頭して殺し、肉眼的病理検査を行った。
【0118】
結果:
無処置対照群、バクテリオファージ対照群、注入対照群では、死亡は観察されなかった。ウェルシュ菌CP4で曝露した胚は、平均累積死亡率が40%となった。ACP22、ACP45、SMS460のバクテリオファージ治療群は両方とも、胚の生存率を有意に改善した(P<0.001;マンテル・コックスのログランク検定(Mantel-Cox Log Rank Test))。高投与量および低投与量の累積生存率はそれぞれ5%および28%であった。
【0119】
実施例10:細菌感染症の診断におけるバクテリオファージの使用
バクテリオファージは、常法の微生物学的スクリーニングによって、ウェルシュ菌によって引き起こされる細菌性疾患の診断に使用される。特定の細菌病原体を標的とするバクテリオファージを、BHI寒天(0.5%w/v~0.8%w/v)にファージ濃度×102~×105で埋め込む。その後、最大で100μLの再構成された患者試料(例えば、糞便/大便試料)を寒天上に広げ、37℃で12~18時間嫌気的にインキュベートする。インキュベート後、プラークまたはクリアランスゾーンが存在すれば、試料に標的細菌が含まれていることが示唆される。診断アッセイに含まれるバクテリオファージは、溶菌が効果的であることがわかっているため、その後、治療薬として提供される。
【0120】
出所開示
すべてのバクテリオファージは、英国で家禽またはブタの糞便/胃腸管または廃水から単離されたものである。動物試料はいずれも、データ収集の一環として無償提供された助成金や共同研究の一部であった。
【0121】
参照文献
Asaoka, Y., Yanai, T., Hirayama, H., Une, Y., Saito, E., Sakai, H., Goryo, M., Fukushi, H. and Masegi, T. (2004) Fatal necrotic enteritis associated with Clostridium perfringens in wild crows (corvus macrorhynchos). Avian Pathology, 33(1) 19-24.
Boenicke, L., Maier, M., Merger, M., Bauer, M., Buchberger, C., Schmidt, C., Thiede, A. and Gassel, H. (2006) Retroperitoneal gas gangrene after colonoscopic polypectomy without bowel perforation in an otherwise healthy individual: Report of a case. Langenbeck's Archives of Surgery, 391(2) 157-160.
Butaye, P., Devriese, L.A. and Haesebrouck, F. (2003) Antimicrobial growth promoters used in animal feed: Effects of less well known antibiotics on gram-positive bacteria. Clinical Microbiology Reviews, 16(2) 175-188.
Cooper, K.K. and Songer, J.G. (2009) Necrotic enteritis in chickens: A paradigm of enteric infection by Clostridium perfringens type A. Anaerobe, 15(1-2) 55-60.
De Sordi, L., Khanna, V., & Debarbieux, L. (2017). The gut microbiota facilitates drifts in the genetic diversity and infectivity of bacterial viruses. Cell host & microbe, 22(6), 801-808.
Gohari, I.M., Arroyo, L., MacInnes, J.I., Timoney, J.F., Parreira, V.R. and Prescott, J.F. (2014) Characterization of Clostridium perfringens in the feces of adult horses and foals with acute enterocolitis. Canadian Journal of Veterinary Research, 78(1) 1-7.
Gordillo Altamirano, F. L., & Barr, J. J. (2019). Phage therapy in the postantibiotic era. Clinical microbiology reviews, 32(2), e00066-18.
Hofacre, C. L., Froyman, R., Gautrias, B., George, B., Goodwin, M. A., & Brown, J. (1998). Use of Aviguard and other intestinal bioproducts in experimental Clostridium perfringens-associated necrotizing enteritis in broiler chickens. Avian Diseases, 579-584.
Jones, H. J., Shield, C. G., & Swift, B. M. (2020). The Application of Bacteriophage Diagnostics for Bacterial Pathogens in the Agricultural Supply Chain: From Farm-to-Fork. PHAGE, 1(4), 176-188.
Kaldhusdal, M. and Lovland, A. (2002) Clostridial necrotic enteritis and cholangiohepatitis. In: The Elanco Global Enteritis Symposium. Indianapolis, USA.
Keyburn, A.L., Boyce, J.D., Vaz, P., Bannam, T.L., Ford, M.E., Parker, D., Di Rubbo, A., Rood, J.I. and Moore, R.J. (2008) NetB, a new toxin that is associated with avian necrotic enteritis caused by Clostridium perfringens. PLoS Pathogens, 4(2) e26.
Koskella, B., & Meaden, S. (2013). Understanding bacteriophage specificity in natural microbial communities. Viruses, 5(3), 806-823.
Nagahama, M., Ochi, S., Oda, M., Miyamoto, K., Takehara, M. and Kobayashi, K. (2015) Recent insights into Clostridium perfringens beta-toxin. Toxins, 7(2) 396-406.
Obladen, M. (2009) Necrotizing enterocolitis--150 years of fruitless search for the cause. Neonatology, 96(4) 203-210.
Storms, Z. J., Teel, M. R., Mercurio, K., & Sauvageau, D. (2020). The virulence index: a metric for quantitative analysis of phage virulence. Phage, 1(1), 27-36.
Titball, R.W., Naylor, C.E. and Basak, A.K. (1999) The Clostridium perfringens α-toxin. Anaerobe, 5(2) 51-64.
Titball, R.W. (2005) Gas gangrene: An open and closed case. Microbiology, 151(9) 2821-2828.
Van der Sluis, W. (2000) Clostridial enteritis is an often underestimated problem. World Poultry, 16(7) 42-43.
Wade, B. and Keyburn, A. (2015) The true cost of necrotic enteritis. World Poult, 31(7) 16-17.
【0122】
配列
本出願とともに提出された配列表は、明細書の一部として本願に完全に組み込まれる。
【0123】
SEQUENCE LISTING FREE TEXT
<210> 1 <223> Clostridium phage vB_CpeP_MN6171, complete genome
<210> 2 <223> Clostridium phage vB_CpeS_RO96, complete genome
<210> 3 <223> Clostridium phage vB_CpeM_AE3110, complete genome
<210> 4 <223> Clostridium phage vB_CpeP_ACP5, complete genome
<210> 5 <223> Clostridium phage vB_CpeP_ACP8, complete genome
<210> 6 <223> Clostridium phage vB_CpeP_VLR28, complete genome
<210> 7 <223> Clostridium phage vB_CpeP_ACP10, complete genome
<210> 8 <223> Clostridium phage vB_CpeP_ACP11, complete genome
<210> 9 <223> Clostridium phage vB_CpeP_ACP22, complete genome
<210> 10 <223> Clostridium phage vB_CpeM_ACP45, complete genome
<210> 11 <223> Clostridium phage vB_CpeM_SMS460, complete genome
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024516120000001.app
【国際調査報告】