(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】真菌感染症治療用アリストテリア・チレンシス抽出物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20240405BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240405BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240405BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240405BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240405BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240405BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240405BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240405BHJP
A61K 36/45 20060101ALI20240405BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240405BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240405BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240405BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P31/10
A61P17/00
A61P15/00
A61P1/00
A61K9/14
A61K9/06
A61K9/20
A61K9/08
A61K36/45
A61K8/9789
A61Q19/00
A23L33/105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562482
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-06
(86)【国際出願番号】 RS2022000005
(87)【国際公開番号】W WO2022216171
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RS
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523382982
【氏名又は名称】フィトネット デーオーオー ベオグラード-ラコヴィツァ
(71)【出願人】
【識別番号】523382993
【氏名又は名称】インスティチュート ザ モレクラーヌ ゲネティク イ ゲネティコ インゼンジェルストヴォ ウニヴァージテタ ウー ベオグラード
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】パヴロヴィック,ボヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヨンチック,サヴィック,カタリナ
(72)【発明者】
【氏名】アイドガン,チェム
(72)【発明者】
【氏名】セネロヴィック,リディヤ
(72)【発明者】
【氏名】ドヨキック,リディヤ
(72)【発明者】
【氏名】モリック,イヴァナ
(72)【発明者】
【氏名】パヴィック,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】スタンコヴィック,ナーダ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
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4B018MF01
4C076AA09
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4C083AA112
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4C088AB12
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4C088MA17
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4C088MA43
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB32
4C088ZC75
(57)【要約】
本発明は、カンジダ属真菌、特にカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる消化器官、泌尿生殖器官のみならず全身性疾患における真菌性カンジダ症感染の予防および治療のために、アリストテリア・チレンシス果実抽出物または他のベリー果実の抽出物を活性物質として含有する、糸状体形成阻害のメカニズムによる予防および治療用の天然で安全な薬剤を提供する。その他のベリー類としては、チョークベリー、クランベリー、ブルーベリー、カラントなどのベリー類が挙げられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニンを豊富に含むアリストテリア・チレンシス果実抽出物および/または他のベリー果実の抽出物を活性物質として含有する製剤であって、糸状化を阻害することにより真菌感染症を処置するための予防剤または治療剤として使用するための製剤。
【請求項2】
真菌感染が、カンジダ属の真菌、特にカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
泌尿生殖器、消化管、皮膚および粘膜の真菌感染症の治療、ならびに全身疾患の治療に使用することができる請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
許容される物質の添加により、粉末、トローチ、ゲルまたは溶液を含むがこれらに限定されない任意の薬学的に許容される形態で使用することができる請求項1~3に記載の製剤。
【請求項5】
医薬品、栄養補助食品、または化粧品の補助食品として使用できる請求項1~4に記載の製剤。
【請求項6】
真菌感染症の治療および予防のために、単独でまたは他の製剤と組み合わせて使用することができる請求項1~5に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品の分野に属し、カンジダ属の真菌、特にカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる真菌感染の治療または予防のための、マキベリーとして知られるアリストテリア・チレンシスなどの植物の果実から得られる、アントシアニン・デルフィニジンを高含有する植物果実の抽出物である天然製剤の使用に関する。IPCによれば、本発明はクラスA61K36/00およびA61P31/10に属する。
【技術的問題】
【0002】
真菌は通常のヒトのマイクロバイオームの一部である微生物群に属し、粘膜、皮膚、生殖器、消化管に生息し、食物の吸収や消化を助ける。ヒトに存在する真菌の中で最もよく知られている種のひとつが、子のう菌類に属するカンジダ(カンジダ・アルビカンス)である。様々な要因によって過剰に繁殖したカンジダは、口腔、消化管、膣、その他の粘膜、さらには皮膚に至るまで、最も一般的な真菌感染症の一つであるカンジダ症を引き起こす。患部のカンジダ症は炎症を引き起こし、かゆみ、ヒリヒリ感、浮腫を引き起こす。カンジダは、抗真菌薬による治療が成功したように見えても、再び発症することがあり、慢性感染症に移行することもある。ヒトの免疫系がダメージを受けず、その能力を十分に発揮していれば、この種の感染症がより重篤な病態に発展することはほとんどない。しかし、免疫系が損なわれると、カンジダ菌は一次感染部位から移動し、内臓に広がり、感染者を深刻に、さらには生命にかかわる危険にさらす。カンジダ症の治療には、よく知られている治療薬では解決できない以下のような技術的問題がある。
-カンジダは治療が難しい。
-カンジダは抗真菌薬に耐性になりやすい。
-既知の薬は毒性がある。
-既知の薬の効果が不十分である。
-カンジダが再発したり、体外に排出できなくなったりする。
【0003】
既知の抗真菌薬は、カンジダの増殖を止めるか、殺すかのどちらかである。
【0004】
以上のことから、カンジダ属の酵母の増殖によって引き起こされる持続性の慢性真菌感染症の予防と治療の両方に使用できる、効果的で無害な天然製剤が必要とされている。
【背景技術】
【0005】
ポリフェノールは、植物や植物性食品に含まれる生理活性化合物の大きなグループである。ポリフェノールの中でも、アントシアニンと呼ばれるフラボノイドに属する化合物群は、様々な生化学的/シグナル伝達経路を調節し、血管保護作用、認知能力の向上、筋肉パフォーマンスの向上など、ハーブ製剤の有益な特性の促進に関与することが知られている。また、抗がん作用も知られている。アントシアニンは、アントシアニジンの配糖体であり、果実の実に広く分布する色の原因である。これらの天然無毒性色素は水溶性化合物で、マルビジン、デルフィニジン、ペチュニジン、ペラルゴニジン、シアニジン、ピオニジンの6種類に分類される。基本構造中のヒドロキシル基とメチル基の位置と数が、フリーラジカルを除去する能力にとって重要である。
【0006】
【0007】
デルフィニジンはアントシアニジンの一種で、非常に強い抗酸化物質として知られている。デルフィニウム属の植物は約300種あり、キンポウゲ科の多年草で、北半球全域に分布しているが、熱帯アフリカの高山にも生息している。
【0008】
デルフィニジンは青色で、ビオラ属やデルフィニウム属の植物の花に色を与える。また、カベルネ・ソーヴィニヨンの生産に使われるブドウに青みがかった赤色を与え、クランベリーやコンコードグレープ、ブルーベリー、その他のベリー類にも含まれる。デルフィニジンは、他の多くのアントシアニジンと同様、pHに敏感で、すなわち天然のpH指示薬であり、酸性環境では赤色に、塩基性環境では青色に変色する。
【0009】
デルフィニジン由来の配糖体がいくつか知られている。カシスの搾りかすに含まれるMyrtillin(デルフィニジン-3-O-グルコシド)とtulipanin(デルフィニジン-3-O-ルチノシド)、Violdelphin(デルフィニジン-3-ルチノシド-7-O-(6-O-(4-(6-O-(4-ヒドロキシベンゾイル)-b-D-グルコシル)-オキシベンゾイル)-b-D-グルコシド)はトリカブト(Aconitum chinense)の花の淡い紫色を、Nasunin(デルフィニジン-3-(p-クマロイルルチノシド)-5-グルコシド)はナスの紫色の皮に色を与える。
【0010】
果実にアントシアニンやその配糖体、デルフィニジンを豊富に含むベリー類は数多くある。現在では、そのような植物の一つがアリストテリア・チレンシス(マキベリー)であり、その果実がデルフィニジンを最も豊富に含むことがすでに確実に知られている。この植物は非常に抵抗力があり、マキあるいはチリのブドウの木としても知られている。アリストテリア・チレンシスは、南米原産のホルトノキ科の樹木の一種で、チリとアルゼンチン南部の近隣地域の温帯雨林に生息している。市場に出回っているこの種の果実は、主に原生林で採れたもので、有機栽培されている。
【0011】
チリの原住民の間では、下痢、炎症、発熱の治療に古くから伝統薬として用いられてきた。日本の科学者が初めて有効成分を分離し、ドライアイ症候群の治療に非常に有効であることを示した。アリストテリア・チレンシス果実エキスの様々な眼病治療における活性を示す論文は数多くあるが、血糖値の調節においても同様である。
【0012】
小さな紫黒色のマキの実は、ブラックベリーに似た味がする。ポリフェノールの質的組成の研究から、マキのアントシアニンにはデルフィニジンとシアニジンの8つのグルコシド色素が含まれ、主なアントシアニンはデルフィニジン 3-サンブビオジド-5-グルコシド(アントシアニン全体の34%)であることが示されている。
【0013】
アントシアニンを豊富に含むベリーの代表格であるマキベリーは、他の同様のベリーと比較して多くの利点があることが知られている。優れた抗酸化物質であることに加え、マキベリーにはポリフェノール、アントシアニン、その他の有効成分が豊富に含まれており、老化を引き起こす主な原因物質であるフリーラジカルを中和する働きがある。最強の天然抗酸化物質として、フリーラジカルを中和し、解毒し、日光の有害な影響から肌を守り、骨と関節を強化し、免疫システムを改善し、エネルギーレベルを向上させ、LDLコレステロールの酸化を抑える。
【0014】
チリ国立食品技術研究所(INTA)によると、この豊かな土壌は、植生が繁茂し、アンデス山脈と寒流フンボルト海流の間に位置し、高い日射量と大きな温度偏差を持つ、積極的な気候条件を持つユニークな生物気候地域である。このような条件下で生育する植物には、地球上のどこにも見られないユニークな植物化学的プロファイルが含まれている。これらの植物は、チョークベリー、ブルーベリー、クロフサスグリなど、他の国で栽培されている同様の植物よりも、30~40%も多くの生物活性分子を含んでいる。この地域の気候が果実の品質を向上させ、その結果、人間の健康に有用な分子の割合が高くなる。土着の果実は、何世紀にもわたって守られてきた古い伝統に従って、野生の森や畑から家族連れの摘み手によって注意深く選ばれ、摘み取られる。
【0015】
2010年5月の米国農務省のORACデータによると、マキベリーは最強の天然抗酸化物質であり、アサイーベリーの7倍、ゴジベリーの9倍である。アントシアニンの組成は、シアニジンが約25%、デルフィニジンが最大75%である。アントシアニンとデルフィニジンの両方が広く研究され、その複数の健康上の利点が証明されている。マキベリーの活性が他の関連植物やベリーより優位なのは、デルフィニジンが最も豊富であることによる。
【0016】
2015年9月の米国農務省の発表によると、マキベリーには1gあたり1,260.00mgのデルフィニジンが含まれており、最も多く含まれているのはブルーベリー(Vaccinum myrtillus)で97.59mgである。
【0017】
マキベリーは最も強力な抗酸化スーパーフルーツであり、ベリースーパーフードとも呼ばれている。
【0018】
臨床試験では、アリストテリア・チレンシス果実エキスの炎症性疾患、酸化ストレス、代謝性疾患に対する予防効果と治療効果の両方が示されている。アリストテリア・チレンシス果実エキスは、人間の健康全般に様々な有益な効果をもたらすことから、本研究でその活性を試験するために選択された。また、標準化されており、最も活性の高いアントシアニンとしてデルフィニジンを最も多く含み、他の類似したエキスの中で最も強い抗酸化作用を持つという事実から、アリストテリア・チレンシス果実エキスが選択された。
【0019】
デルフィニジンとして知られるアントシアニンを含有するマキベリー(アリストテリア・チレンシス)をはじめとするベリー類の植物抽出物などの天然由来の活性原則に基づく、カンジダ症およびその他の真菌感染症の治療および予防のための医薬品に関する利用可能な特許文献および科学文献を閲覧したところ、以下のことが判明した。
【0020】
特許EP2344154には、デルフィニジンに富むアントシアニジンの組み合わせが記載されており、特にベリー類やアリストテリア・チレンシスに見出されるデルフィニジンを含む。しかしながら、記載された組成物は、アンドログラフィス属の植物に見出されるような追加のアンドログラフォリド、またはワクチン属の植物に見出されるようなミルチリン、ケルセチンまたはカフェオイルキニック誘導体およびプロアントシアニジンの組み合わせを含む組成物を含む。
【0021】
特許RS59259 Bl、EP3209315 B1には、少なくとも次のものからなる分子の少なくとも1つの化合物を含む組み合わせに関連する製剤が記載されている。1つのChrysanthellum Indicum抽出物および1つのSunaga Scolymus抽出物および1つのVaccinum myrtillus抽出物および合成ピペリンおよび/またはピペリンを含むトウガラシ抽出物であり、ここで、そのような化合物分子は以下からなる。すなわち、以下の分子の少なくとも1つである。アピゲニン-7-O-グルクロニド、クリサンセマム A(chrysanthemum A)、クリサンセマム B(chrysanthemum B)、カフェ酸、ルテオリン、マリチメイン(maritimein)、エリオディクチオール、イソカニン、アピゲニン-8-α-L-アラビノシド-6-C-β-D-グルコシド(シャフトシド)、アピゲニン-6,8-C-ジ-β-D-グルコピラノシド(ビセニン-2)、および以下の分子の少なくとも1つである。モノカフェオイル酸、デルフィニジン-3-ガラクトシド、デルフィニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ガラクトシド、デルフィニジン-3-アラビノシド、シアニジン-3-グルコシド、ペチュニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-アラビノシド、ペチュニジン-3-グルコシド、ピオニジン-3-ガラクトシド、ピオニジン-3-ガラクトシド、ペチュニジン-3-アラビノシド、ピオニジン-3-グルコシド、ピオニジン-3-グルコシド、マルビジン、マルビジン-3-グルコシド、マルビジン-3-アラビノシド i-ピペリン。対象となる組み合わせは、本明細書に記載の特許解決策の対象ではない。本発明は、ヒトおよび動物における炭水化物および脂肪の代謝を調節することを目的とする。
【0022】
W02017113032A1出願は、試験管内で培養したチレンシスの苗から得られたフェノール化合物を豊富に含む抽出物の天然の抗菌・抗酸化組成物に関する発明を開示している。特に、記載された方法は、持続可能な方法で植物バイオマスを創出するためのものであり、自然条件下で栽培された材料を使用する必要がないため、種の開発への影響を低減することができる。この特許は本発明に反するものではない。
【0023】
特許JP2013107825Bには、マキベリーを含む抗酸化組成物が記載されている。
【0024】
特許TW201709920A出願は、抗酸化能力を有するマキベリーおよびその他の果実および果実を含む組成物を記載している。
【0025】
特許US2014377338A1出願は、非常に高い酸素ラジカル吸収能(ORAC)を有するアントシアニンを含むマキベリーエキスを記載し、皮膚の老化防止における局所適用に関する。
【0026】
特許R0131883には、チレンシスから単離されたキトサンの抗真菌活性が記載されている。
【0027】
特許US20050158396は、植物アントシアノシドの抗酸化特性と化粧品への使用について記述している。
【0028】
しかし、最も近い技術的状況は3つの科学論文に見られる。
1)「アリストテリア・チレンシス(Aristotelia chilensis)とウグニ・モリナエ(Ugni molinae)の抗酸化剤と抗菌剤抽出物、および化粧品の防腐剤としての応用」と題する論文(マーシャ・アヴェロル*等)は、カンジダ・アルビカンスに対するアリストテリア・チレンシスとウグニ・モリナエの葉の抽出物の効果を記述している。
2)カロリナ・フレデサとパズ・ロバートによる「マキのパワフルな色」と題する論文では、抗炎症作用と抗糖尿病作用を持つ抗酸化物質としてのアントシアニンの性能について述べられている。
3)「カンジダ・アルビカンスの接着、酵母菌糸移行およびバイオフィルム形成に対するマグノロールおよびホノキオールの効果」と題する論文 (2015) プラスワン 0 (2): eOl17695,リンメイ・スン等では、マグノリアの樹皮から単離された天然産物であるマグノロールとホノキオールが、カンジダの病原性を予防する効果について述べられている。
【0029】
上記から、文献および技術の現状において、カンジダ・アルビカンスに対するアリストテリア・チレンシスを含む植物の果実抽出物の使用、またはカンジダ症の治療における(この果実に存在するアントシアニンの1つとしての)デルフィニジンの高い含有量を有する抽出物の使用に関連する論文または特許が存在しないことが明らかである。
【0030】
さらに、上記の技術状況から、アリストテリア・チレンシス(マキベリー)の果実抽出物が抗酸化作用および抗炎症作用を有し、糖尿病、眼疾患の治療、美容目的、ヘアケア、スキンケア、アトピー性皮膚炎の治療、美白、酒さ、鎮痛剤、月経症候群の治療、栄養補助食品として使用されるだけでなく、C型肝炎、白血病、癌の治療にも使用されることが知られている。カンジダ症やその他の真菌感染症の治療に、このベリーや他のベリーのエキスを使用した論文は見つかっていない。
【発明の詳細】
【0031】
カンジダ・アルビカンスおよびカンジダ属の他の種(例えば、C.グラブラータ、C.クルセイ、C.トロピカリス)、総称してカンジダ種と呼ばれるは、温かく湿度の高い表面で最もよく生存する真菌であり、通常、消化および生殖のための臓器の皮膚や粘膜で見つけることができ、正常な細菌叢の一部として生息している。ヒトにおける真菌感染症(真菌症)の最も一般的な原因は、カンジダ・アルビカンスである。カンジダ・アルビカンスは、自然に腸の表面に生息し、数は少ないが、様々な影響を受けて急速に不自然に増殖し、病的状態に至ることがある。体内でカンジダが過剰に増殖する最も一般的な要因は、抗生物質の使用、経口避妊薬、ホルモン療法、糖尿病、免疫力の低下、免疫抑制剤の使用などである。
【0032】
C.アルビカンスはヒトの80%において正常な生理的細菌叢の一部であり、有害な影響を引き起こすことはないが、この真菌の過剰な増殖と繁殖はカンジダ症として現れる。カンジダ症は口腔、消化管、性器に感染することがあり、糖尿病患者や妊娠中の患者も珍しくない。カンジダ症は正常な細菌叢の障害である。
【0033】
この真菌が過剰に増殖する原因はたくさんある。砂糖や加工炭水化物の多い食事、アルコールの使用などである。不適切な生活習慣は、口腔内、腸内、膣内の細菌叢の健康を損ない、カンジダ菌の繁殖に理想的な条件となる。喫煙、ストレス、アルコール、砂糖、イースト生地の摂取、その他多くの日常生活習慣が体内のpH値を変化させ、カンジダ菌が過剰に繁殖する条件を作り出す。
【0034】
腫瘍学的、血液学的、およびHIV患者など、白血球数の激減によって示される免疫系の深刻な損傷の場合、あるいは未熟児のように免疫系が未熟な場合、真菌が血流や内臓に侵入する可能性がある。
【0035】
広域抗生物質は細菌感染症の治療に用いられる。抗生物質を長期間使用したり、数種類の抗生物質を繰り返し使用したりすると、体内が真菌の温床になる可能性がある。このリスクは経口避妊薬を使用している女性で増加する。
【0036】
吸入コルチコステロイドを使用した喘息治療では、口腔内でこの真菌感染症を発症し、カンジダ菌の全身感染へと急速に移行するリスクが高くなる。
【0037】
放射線療法や化学療法を受けている患者では、3分の1もの患者がある時点で侵襲性カンジダ感染症を発症する。その理由は、化学療法や放射線療法はがん細胞を死滅させるだけでなく、善玉菌も死滅させるため、カンジダ菌の増殖が可能になるからである。1型糖尿病や2型糖尿病の人は、口の中の糖分が多い。カンジダは糖を餌とする酵母であり、糖尿病患者はこの真菌感染症を発症するリスクが高い。
【0038】
乳幼児、小児、高齢者、がん患者、HIV感染者、自己免疫疾患患者など、免疫力が低下または免疫不全になっている人は、この真菌感染症を発症するリスクが高くなる。
【0039】
局所感染の治療薬は、感染部位に直接作用する薬剤が選択される。真菌における抗真菌薬耐性の発現は、治療に使用される薬剤の種類に依存し、口腔咽頭カンジダ症の治療で最も一般的に使用されるミコナゾール、クロトリマゾール、フルコナゾール、イトラコナゾールなどのアゾール系薬剤をベースとした治療では非常に一般的である。耐性菌は主に免疫不全の患者において発生するが、これは長期にわたる予防的抗真菌療法を受けているためである。臨床的に承認されている抗真菌薬の弊害のひとつは、その毒性に加えて、真菌を死滅させることである。
【0040】
適切な栄養とプロバイオティクスの培養は、軽症のカンジダ症の解決策となり得るが、これらの条件の基本的な問題は、条件が満たされるたびに、消化管や口腔のポケットで抑制されたカンジダ感染が再発することである。
【0041】
本発明は、マキベリーと呼ばれるチリ産のマキ(アリストテリア・チレンシス)に最も多く含まれ、ビタミン、ミネラル、アントシアニンを豊富に含み、中でも最も活性が高く頻度の高いデルフィニジン、および抗酸化物質である他の薬用アルカロイドを含むアントシアニンを含むベリー果実の、果実抽出から得られる天然物の予期せぬ新しい生物活性の発見である。この新しい生物活性は、カンジダ属真菌の糸状化防止に反映されている。糸状化は、カンジダが非病原性(イースト)形態から侵入性の病原性(糸状)形態に変化する形態形成過程であり、上皮組織の完全性にとって非常に危険であり、免疫系の細胞はその効果が弱い。糸状化を防ぐことは病原性を低下させ、カンジダを抗真菌薬や免疫系細胞の格好の標的にする。
【0042】
アリストテリア・チレンシスの標準化エキスを生物活性の研究に使用したのは、この果実のアントシアニンの含有量がブルーベリー、クランベリー、その他の果実の3~4倍であり、このエキスが効果的な抗酸化作用を有し、治療薬としてだけでなく、栄養補助食品として予防的に使用できるからである。本発明は、アリストテリア・チレンシス果実の試験抽出物が、カンジダ属真菌の糸状化プロセスを阻害するという予期せぬ発見を意味する。この研究で観察された驚くべき効果は、試験されたアリストテリア・チレンシスの抽出物が真菌的に作用するのではなく、すなわち、正常な微生物叢を乱すことになるカンジダを破壊するのではなく、非病原性から病原性形態への移行を阻止するという事実である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の対象である抽出物およびその成分は、カンジダ属の真菌によって引き起こされる感染症の予防および/または治療に有効であることが示されている。本発明は、カンジダ属の真菌、特にカンジダ・アルビカンスによって引き起こされる感染症の予防および治療における使用に関し、植物アリストテリア・チレンシスの果実から単離された天然製剤を使用するが、果実抽出物の組成の点では類似の植物も使用できる。
【0045】
以上のことから、現在未解決の問題であるこの真菌の繁殖の危険性を排除するために、長期的な影響を与える安全な天然製剤を見つける必要があることは明らかである。臨床で使用されている薬剤は即効性があり、上記のような繁殖に適した因子を獲得するとすぐに真菌の新たな増殖が起こる。
【0046】
この特許出願は、殺菌効果はないが、天然に存在するカンジダの糸状化を防ぎ、攻撃的で病原性のある形態への移行を防ぐ、天然で安全な製剤の使用を発見したことを明らかにするものである。
【0047】
ベリー果実抽出物の生物学的活性を試験する過程で、この果実のすべての種類が同様の活性物質を含有しているという事実にもかかわらず、最も強力な抗酸化物質であるデルフィニジンを標準化され高含有していることから、アリストテリア・チレンシス抽出物を使用した。実験研究の結果は、シアニジンとデルフィニジンを含むすべての植物抽出物に適用できる。アリストテリア・チレンシス果実抽出物を生物学的活性を試験するための様々なモデルで試験している間に、本発明は、モデルの一つであるゼブラフィッシュモデル(ダニオ・レリオ、ゼブラフィッシュ、)において、カンジダ菌糸の形成が欠如していることを予想外に明らかにした。
【0048】
植物抽出物やその精製成分の生物医学的応用は、主に最小有効(治療)用量と最小毒性用量との間の範囲に依存する。このような評価のためには、治療目的で使用するために、非常に重要な両方の効果を評価する適切なモデルを選択することが重要である。
【0049】
ゼブラフィッシュモデルは、生物学的活性を検出し、植物抽出物やその他の天然物の毒性を評価するための非常に信頼性の高い実験動物モデルとして、広範な科学文献で証明されている。このような信頼性は、ゼブラフィッシュとヒトの分子遺伝学的、生理学的、免疫学的類似性の高さ、および薬物に対する反応における両者の相関性の高さのおかげである。
【0050】
ベリーやキンポウゲ属の植物に含まれるデルフィニジン、すなわちアントシアニンの供給源の1つとして選ばれた植物アリストテリア・チレンシスの標準化抽出物の生物活性と毒性に関する研究において、我々はゼブラフィッシュモデルを用いて抽出物の生物学的安全性(毒性)を評価した。
【0051】
ゼブラフィッシュモデルを用いた実験はすべて、欧州指令2010/63/EUの勧告およびベオグラード大学分子遺伝学・遺伝子工学研究所(セルビア、ベオグラード)の実験動物の飼育と使用に関するガイドの倫理ガイドラインに従い、120時間齢までの胚のみを用いて実施した。アントシアニンの含有量を標準化したアリストテリア・チレンシスの抽出物であるデルフィニジンの毒性と生物活性を評価するための実験室試験において、ゼブラフィッシュの実験モデルで標準的な試験が実施され、期待通りの結果が得られた。予想外なことに、試験された抽出物はカンジダ・アルビカンスの糸状化、繁殖、拡散を阻害することが示された。本発明をさらに例示的な実施形態により説明するが、本発明はこれに限定されることを意図するものではない。
【0052】
例1-致死性と催奇形性の評価
ゼブラフィッシュ胚を用いた急性毒性分析 - FET(魚胚毒性試験)を行った。アリストテリア・チレンシス果実抽出物がゼブラフィッシュ胚の生存と発育に与える影響を、OECD 2013化学物質試験ガイドラインと既出のプロトコールに従って調べた。受精後6時間(hpf)の段階で、ゼブラフィッシュ胚を以下の9つの濃度のアリストテリア・チレンシス果実抽出物水溶液に曝露した: 10; 25; 50; 100; 250; 500; 1000; 2000および2500 μg/mL(デルフィニジン濃度は最小2.5; 6.25; 12.5; 25; 62.5; 125; 250; 250; 500および625 μg/mL、総アントシアニン濃度は最小3.5; 8.75; 17.5; 35; 87.5; 175; 350; 700および875 μg/mLに相当)。胚を120 hpfまでの期間に所定の濃度に曝露し、24時間ごとに生存率と催奇形性の発生を調べた。陰性対照として蒸留水を用いた。実験は1濃度あたり30個の胚を用いて3回行った。24; 48; 72; 96および120 hpfで毒性を評価するために異なるエンドポイント(表1)を用い、標準的な毒性パラメータであるLC50値(胚の50%を死滅させる濃度)およびEC50値(胚の50%に影響を及ぼす濃度)を決定した。
【0053】
【0054】
FET試験で得られたデータから、アリストテリア・チレンシス果実エキスは、最高適用用量である2.5 mg/mL(LC50 > 2.5mg/mL)または最低625 μg/mLのデルフィニジン、すなわち最低875 μg/mLの総アントシアニンでも毒性はなく、処理した胚はすべて120 hpfまで生存し、心毒性、肝毒性、発達障害の徴候なく発育した。また、処理胚のメラノサイトは、処理中も正常に発達し、色素沈着していた。これらの結果は、高用量(ミリグラム)のアリストテリア・チレンシス果実エキスの無毒性を示し、治療への使用の可能性を示唆した。
【0055】
例2-抗菌活性
研究の一環として、アリストテリア・チレンシス抽出物は、ヒトの口腔および口腔咽頭腔に関連する様々な細菌および真菌病原体(黄色ブドウ球菌、ミュータンス連鎖球菌、アガラクチア連鎖球菌、ピオゲネス連鎖球菌およびカンジダ・アルビカンス)に対する抗菌活性についても試験された。活性はディスク拡散試験を用いて試験され、アリストテリア・チレンシス抽出物はディスク1枚あたり0.125 mg~2 mgの濃度で適用された(ディスク1枚あたりのデルフィニジンは最小31.25 μg~500 μg、総アントシアニンは最小43.75 μg~700 μg)。
図1に示した結果では、いずれの菌株に対しても抗菌・抗真菌活性は認められなかった。
【0056】
例3-抗真菌活性
抗真菌効果に関する詳細な研究の一環として、カンジダ・アルビカンスの3つの臨床分離株に対するアリストテリア・チレンシス抽出物の最小発育阻止濃度(MIC)を標準微量希釈法で測定した。その結果、デルフィニジン2.5 mg/mLと総アントシアニン3.5 mg/mLを含む最高濃度10 mg/mLでも、いずれの分離株に対しても増殖抑制効果は認められなかった。
【0057】
抗菌効果に加えて、臨床的に承認されている抗真菌薬(AFL)であるナイスタチン、クロトリマゾール、ミカファンギンの効力に対するマキベリーエキスの効果を「チェッカーボードアッセイ」を用いて調べた。試験は、唾液を含まないRPMI培地(標準条件)および人工唾液存在下で行った。試験された抗真菌濃度は0.0312 μg/mLから2 μg/mLの範囲であり、試験されたマキベリーエキスの濃度範囲は0.0156 mg/mL(3.9 μg/mLのデルフィニジンおよび5.46 μg/mLの総アントシアニン)から4 mg/mL(1 mg/mLのデルフィニジンまたは1.4 mg/mLの総アントシアニン)であった。カンジダの臨床分離株の増殖に対する併用療法(薬剤とマキベリーエキスの併用療法)の効果に関する研究の結果、エキスの存在は試験した薬剤の効力に影響しない、すなわち、人工唾液の存在下でも標準条件下でも相乗効果も拮抗効果も示さなかったことから、マキベリーエキスの使用は抗カンジダ薬の効力を低下させないことが示された。
【0058】
例4-インビトロにおけるカンジダ糸状体形成の阻害
カンジダ・アルビカンスは正常な口腔微生物叢の一部であり、免疫力が低下した状態ではカンジダ症を引き起こすことがあり、糸状体形成と呼ばれるプロセスで酵母が菌糸に形態転換する引き金となる。糸状化はC.アルビカンスの主要な病原因子であり、真菌が上皮や上皮下組織に侵入し、内臓に定着することを可能にする。そこで、アリストテリア・チレンシス抽出物を、C.アルビカンスが生体内で遭遇するさまざまな環境条件(ウリジン含有スクロース(UPS+ウリジン)、N-アセチル-グルコサミン(GlcNAc)含有、血清タンパク質(スパイダ+FBS)を反映したさまざまな培地で、糸状化阻害についてさらに試験した。抽出物は、最低12.5; 50および500 μg/mLのデルフィニジン、それぞれ17.5; 70および700 μg/mLの総アントシアニンに相当する50; 200および2000 μg/mLの用量で適用した。
【0059】
図2に示すように、アリストテリア・チレンシス(Aristotelia chilensis)抽出物は、各試験培地上で、糸状体形成を阻害し、真菌コロニー(fungal colonies)の形態をしわのある状態(病原性状態)から滑らかな状態(病原性の低い状態または非病原性状態)に変化させ、C.アルビカンス(C. albicans)の病原性防止、すなわち異なる環境条件下で有意な特性を有することを示した。場合によっては、アリストテリア・チレンシス抽出物は、50 μg/mLの低濃度でも活性を示したが、2 mg/mLの濃度では、すべての実験条件において糸状化を完全に阻害した. また、これらの結果から、アリストテリア・チレンシス抽出物には、様々な環境刺激に対してC.アルビカンス(C. albicans)の糸状化を引き起こす異なるシグナル伝達経路に影響を与えると考えられる有効成分が含まれていることが示された。
【0060】
カンジダの糸状化に対するマキベリーエキスとナイスタチン(最も一般的に適用されている外用抗真菌薬のひとつ)の阻害効果を、RPMI培地中の3つの臨床分離株を用いてin vitroでチェッカーボードアッセイ法により検討した。抽出物は0.125; 0.25および0.5 mg/mLの濃度範囲(それぞれ31.25; 62.5および125 μg/mLのデルフィニジン、43.75; 87.5および175 μg/mLの総アントシアニン)で、ナイスタチンは2 μg/mL(MIK)、1 μg/mL(1/2 IK)および0.5 μg/mL(1/4 MIK)の濃度範囲で試験した。この試験の結果、0.5 mg/mLの濃度では抽出物の存在下で糸状化が抑制されたが、それ以下の濃度では抑制効果は認められなかった.MIK用量のナイスタチンでは、分離株は増殖が抑制され、糸状化もみられなかったが、1/2 MIKおよび1/4 MIK用量では増殖し、糸状化もみられた。しかし、カンジダの糸状化に対する併用療法(マキベリーエキスとナイスタチン)の阻害効果は、個々の治療(エキスのみまたはナイスタチンのみ)が効果を示さなかった用量も含め、試験したエキスと抗真菌剤のすべての濃度で達成された。少量の抽出物(0.125 mg/mL および 0.25 mg/mL)の存在下では、1/4 MIK および 1/2 MIK 用量のナイスタチンでも試験菌株は糸状化しなかったことから、これらの実験条件下ではマキベリーエキスはナイスタチンの有効性を高めることが示された(
図3)。
【0061】
文献データによれば、インビトロの実験条件ではカンジダに酸化ストレスは誘導されず、酸化ストレスによって活性化される生化学的経路以外の生化学的経路を活性化することによって糸状化が刺激されることから、マキベリーエキスの作用機序は酸化ストレスによる糸状化抑制ではないことが示された。
【0062】
例5-in vivoにおけるカンジダ糸状化の抑制
文献に記載されているカンジダ・アルビカンスによるゼブラフィッシュ胚の脳感染(後脳)モデルは、胚体の光学的透明性により、宿主であるゼブラフィッシュ胚の体内での複製、糸状化および真菌の播種に対する適用された治療薬の効果を調べ、モニタする能力を提供する感染系の動物モデルである。発育段階32~34 hpfの胚に、あらかじめ緑色蛍光色素で標識したカンジダ・アルビカンスSC5314細胞を50~75個、眼胞を通して脳に注入した。カンジダは5%ポリビニルピロリドン(PVP)溶液で調製した。カンジダのマイクロインジェクションの2時間後、感染胚を0.0625 mg/mL、0.125 mg/mL、0.25 mg/mLの濃度でマキベリーエキス、1 μg/mL(1/2 MIK)、0.5 μg/mL(1/4 MIK)の濃度でナイスタチンで処理した。個々の処理以外に、感染胚を、すべての記載用量を組み合わせた複合処理(ナイスタチンとエキスを併用)にも曝露した。5%PVPのみを注射した胚を対照群とした。処理後、ゼブラフィッシュ胚を31℃の温度で4日間育成し、蛍光顕微鏡でカンジダの糸状化と拡散、生存を毎日観察した。
【0063】
このインビボ試験の結果、抽出物は0.0625mg/mLの濃度で、投与開始後24時間でカンジダの糸状化を効果的に阻害した。抽出物濃度0.0625 mg/mLでは、感染胚の脳内にカンジダ細胞が少数、しかも酵母の形でのみ確認された。エキス濃度0.125mg/mLでは、ほとんどの胚でカンジダ細胞は検出されなかった。抽出物には抗真菌作用がないことから、カンジダ細胞が検出されないのは、抽出物が免疫系に及ぼす影響(免疫調節作用)の結果である可能性がある。0.5 μg/mL(1/4 MIK)と1 μg/mL(1/2 MIK)の用量のナイスタチンで処理したこれらの結果は、感染(カンジダ症)が未処理の胚の感染に比べて有意に減少したことを示している。しかしながら、糸状化はいずれのナイスタチン濃度においても認められた。それにもかかわらず、ナイスタチンとマキベリーエキスを投与した感染胚の体内からはカンジダ細胞が検出されなかったことから、この併用療法は糸状化とカンジダの増殖を抑制するのに非常に有効であり、マキベリーエキスはインビボでナイスタチンの効果を低下させることなく、感染の完全な除去に寄与することが示された。
【0064】
ゼブラフィッシュモデルを用いて得られた結果は、アリストテリア・チレンシス抽出物が非毒性の植物由来製品であることを示し、抗菌性および感染性試験により、アリストテリア・チレンシス植物抽出物がカンジダ症に対する新たな薬剤として使用できる可能性が示された。重要なことは、上記の実験結果からも明らかなように、アリストテリア・チレンシスの抽出物は塗布後すぐに粘膜から洗い流されることがないため、カンジダ・アルビカンスに汚染された組織が抽出物の有効成分に長時間さらされる可能性があることである。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
【
図1】ディスク拡散試験によるアリストテリア・チレンシス植物エキスの抗菌活性を示す説明図である。
【
図2】様々な固体基質上でのC.アルビカンスCS5314の糸状化に対するアリストテリア・チレンシス抽出物の阻害効果を示す説明図である。
【
図3】C,アルビカンスCS5314の糸状化に対する0.5, 0.25および0.125 mg/mL濃度のマキベリーエキス(EMB)とMIC, 1/2 MICおよび1/4 MIC濃度のナイスタチンの複合効果を示す説明図である。
【
図4】感染24時間後のゼブラフィッシュ胚体内におけるカンジダ・アルビカンスSC5314の増殖と糸状化に対するマキベリーエキス(EMB)とナイスタチンの単独または併用投与効果を示す説明図である。糸状化は矢印で、酵母型細胞は円で示されている。
【国際調査報告】