(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】間葉系前駆体又は幹細胞を使用する特定の患者における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240405BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240405BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20240405BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240405BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240405BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240405BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240405BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240405BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240405BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240405BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240405BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20240405BHJP
C12Q 1/06 20060101ALN20240405BHJP
C07K 14/55 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P11/00
A61K31/58
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
A61K9/08
A61K47/20
A61K47/42
G01N33/68
C12N5/0775
C07K14/52
C12Q1/06
C07K14/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564584
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 IB2022053762
(87)【国際公開番号】W WO2022224206
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C076
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
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4H045EA50
(57)【要約】
本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療又は予防を必要とする対象においてそれを行うための方法に関し、方法は、間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法であって、65歳以上であるARDSを有する対象を選択することと、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を前記対象に投与することと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記対象が、
(a)肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、
(b)マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又は、
(c)T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す、増加した炎症性バイオマーカーを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法であって、
(a)肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、
(b)マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又は、
(c)T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す、増加した炎症性バイオマーカーを有する、ARDSを有する対象を選択することと、
体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を前記対象に投与することと、を含む、前記方法。
【請求項4】
前記対象が、人工呼吸器を付けている、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
肺への好中球及びマクロファージ流入の増加を示す前記炎症性バイオマーカーが、CCR2又はCXCR3結合ケモカインである、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記CCR2結合ケモカイン(複数可)が、CCL2、CCL3、又はCCL7、好ましくはCCL2である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
CXCR3結合ケモカインが、CXCL10又はCXCL9、好ましくはCXCL10である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大を示す前記炎症性バイオマーカーが、IL-6又はIL-8である、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す前記炎症性バイオマーカーが、CCL19又はIL-2である、請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
炎症性バイオマーカー(複数可)の前記対象のレベルが、65歳未満である対象と比較して増加する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象の炎症性バイオマーカー(複数可)の前記対象のレベルが、65歳未満である対象と比較して少なくとも2倍増加する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象の炎症性バイオマーカー(複数可)の前記対象のレベルが、65歳未満である対象と比較して少なくとも5倍増加する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、65歳以上である、請求項3~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個未満のMLPSCを含む第1の用量のMLPSCを投与された後に、持続的なCRPレベルを有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、前記第1の用量のMLPSCを投与された後3日間、持続的なCRPレベルを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、治療後に、前記人工呼吸器を外される、請求項4~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、治療の60日以内に人工呼吸器を外される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療又は予防を必要とするヒト対象においてそれを行う方法であって、
-(i)CXCR3結合ケモカイン、好ましくはCXCL10、及び/又はCXCL9、(ii)CCR2結合ケモカイン、好ましくはCCL2、CCL3、及び/又はCCL7、(iii)IL-6、(v)IL-8、(vi)CCL19、(vii)IL-2、及び/又は(viii)CRPを含むリストから選択される1つ以上の炎症性バイオマーカーの対象のレベルを決定すること、又は決定していることと、
-
〇65歳以上である、及び/又は、
〇65歳未満である対象と比較して、1つ以上の炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する、及び/又は、
〇体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個未満の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む第1の用量のMLPSCを投与された後3日間、持続的なCRPレベルを有する
対象を選択することと、
-体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を前記対象に投与することと、を含む、前記方法。
【請求項19】
治療が、ベースラインと比較して、前記少なくとも1つの炎症性バイオマーカー(複数可)のレベルを低下させ、前記少なくとも1つの炎症性バイオマーカー(複数可)が、
(a)肺への好中球及びマクロファージ流入の減少、
(b)インフラマソームの減少、
(c)マクロファージ活性化及び肺への好中球遊走の減少、
(d)T細胞流入及び活性化の減少、又は
(e)マクロファージ及び好中球炎症の循環バイオマーカーの減少を示す、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記炎症性バイオマーカー(複数可)が、以下:
-CXCR3結合ケモカイン、好ましくはCXCL10及び/又はCXCL9、
-CCR2結合ケモカイン、好ましくはCCL2、CCL3、及び/又はCCL7、
-IL-6、
-IL-8、
-TNF、
-IL-18、
-CCL19、
-IL-4、
-IL-13、
-GM-CSF、
-CRP、又は
フェリチンのうちの1つ以上である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
治療が、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超のMLPSCを投与してから3~14日以内に、CRP及び/又はフェリチンレベルを減少させる、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
治療が、前記対象における呼吸機能を改善する、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ベルリン基準によって定義される呼吸機能が、14日目及び/又は21日目に改善される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、500万個のMLPSC/kg超、600万個のMLPSC/kg超、又は800万個のMLPSC/kg超を投与される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記400万個のMLPSC/kg超が、少なくとも2~3回の用量にわたって投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、第1の用量を投与されてから5~9日以内に、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超のMLPSCを受ける、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、第1の用量が投与されてから7日以内に、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超のMLPSCを受ける、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
1用量当たり1×10
8~2.5×10
8個のMLPSCを投与することを含む、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
1用量当たり約1.6×10
8個のMLPSCを投与することを含む、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記対象がまた、コルチコステロイドも服用している、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
コルチコステロイドを投与することを更に含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記コルチコステロイドが、デキサメタゾンである、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記ARDSが、中等度又は重度である、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記ARDSが、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はコロナウイルスなどのウイルス感染症によって引き起こされる、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記ウイルス感染症が、コロナウイルスによって引き起こされる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又はCOVID-19である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記MLPSCが、凍結保存されており、解凍されている、請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記MLPSCが、中間凍結保存MLPSC集団から培養増殖される、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記MLPSCが、少なくとも約5の継代にわたって培養増殖される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記MLPSCが、100万個のMLPSC当たり少なくとも13pgのTNFR1を発現する、請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記MLPSCが、100万個のMLPSC当たり約13pg~約44pgのTNFR1を発現する、請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記培養増殖が、少なくとも20回又は30回の集団倍加を含む、請求項38~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記MLPSCが間葉幹細胞(MSC)である、請求項1~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記MLPSCが同種である、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記MLPSCが、抗ウイルス薬又は血栓溶解剤を担持又は発現するように改変される、請求項1~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記MLPSCが、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)を含む組成物(複数可)中で投与される、請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記組成物が、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み、前記HSA溶液が、5%HSA及び15%緩衝液を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物が、6.68×10
6生存細胞/mL超を含む、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法であって、
-体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を前記対象に投与することと、
-MLPSCを投与する前に、バイオマーカー(複数可)のベースラインレベルと比較して、CXCL10、CXCL9、CCL2、CCL3、CCL7、IL-6、IL-8、CCL19、IL-2、フェリチン、及び/又はCRPからなる群から選択される1つ以上のバイオマーカーの前記対象のレベルを決定するか、又は決定していることと、
-前記1つ以上のバイオマーカーのレベルがベースラインから低下しない場合、更なる用量のMLPSCを前記対象に投与することであって、前記更なる用量に続いて、前記対象が、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を投与されている、前記投与することと、を含む、前記方法。
【請求項50】
前記バイオマーカーが、CRP及び/又はフェリチンである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
CRP及び/又はフェリチンの前記対象のレベルが、7日目及び/又は14日目のベースラインと比較して決定される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記更なる用量が、体重1キログラム当たり(細胞/kg)200万個のMLPSCを含む、請求項49~51のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療又は予防を必要とする対象において急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療又は予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染などの様々な状態に関連する呼吸器疾患は、一般集団において問題となる。多くの場合、これらは炎症を伴い、肺の状態を悪化させ、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす可能性がある。65歳を超える患者は、65歳未満の患者よりも増加した疾患の重症度を有し、悪化した臨床転帰を有する可能性が高い。
【0003】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を有する高齢患者において、特に新たな治療選択肢が必要とされるウイルス感染に続発する場合に、満たされていない治療的必要性が残る。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)の投与が、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を有する患者の呼吸機能を改善することができることを示した。バイオマーカー分析は、炎症経路が、MLPSC治療された<65歳の患者において下方制御され、かつ、これが、予後の改善及び呼吸機能の持続的な改善に対応することを明らかにした。65歳を超えるMLPSC治療された患者における対応するバイオマーカー分析は、驚くべきことに、これらの患者がより高いベースラインレベルの炎症を有し、かつ、これが、持続しない呼吸機能の初期改善に対応することを明らかにした。同様の炎症経路は、年齢に関係なく(<65歳対>65歳)ARDS患者に関与するので、本発明者の知見は、炎症性バイオマーカーのベースラインレベルが増加した患者及び/又は>65歳の患者の改善された治療は、MLPSCのより高度な又はより長期の投薬で治療される場合に達成されることができることを示唆する。ある特定の例では、<65歳の患者と同等の転帰は、MLPSCのより高度な又はより長期の投薬で達成され得る。
【0005】
したがって、第1の例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、65歳以上であるARDSを有する対象を選択することと、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を対象に投与することと、を含む。
【0006】
一例では、対象は、
-肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、
-マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又は、
-T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す、炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する。
【0007】
別の例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、ベースライン炎症のレベルの増加を有するARDSを有する対象を選択することを含む。一例では、ベースライン炎症のレベルの増加は、炎症性バイオマーカーの増加に基づいて決定される。したがって、一例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、
-肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、
-マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又は、
-T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す、増加した炎症性バイオマーカーを有する、ARDSを有する対象を選択することと、
体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体もしくは幹細胞(MLPSC)を対象に投与することと、を含む。
【0008】
別の例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療又は予防を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を対象に投与することを含み、対象は、65歳以上であり、及び/又は
-肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、
-マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又は、
-T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す増加した炎症性バイオマーカーを有する。
【0009】
一例では、対象は、人工呼吸器を付けている。例えば、対象は、MLPSCを投与する前に機械的に換気されることができる。
【0010】
一例では、肺への好中球及びマクロファージ流入の増加を示す炎症性バイオマーカー(複数可)は、CCR2又はCXCR3結合ケモカインである。例えば、CCR2結合ケモカインは、CCL2、CCL3、又はCCL7であり得る。一例では、CCR2結合ケモカインは、CCL2である。別の例では、CXCR3結合ケモカインは、CXCL10又はCXCL9である。一例では、CXCR3結合ケモカインはCXCL10である。一例では、マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大を示す炎症性バイオマーカー(複数可)は、IL-6又はIL-8である。一例では、T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す炎症性バイオマーカー(複数可)は、CCL19又はIL-2である。
【0011】
本発明者らの知見は、ある特定のバイオマーカー(複数可)及び/又は年齢のレベルに基づいて、炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する対象を、有効な治療のために選択することができることを示唆する。一例では、本開示の方法は、<65歳の対象と比較して増加しているCCL2のレベルに基づいて対象を選択することを含む。別の例では、対象は、<65歳の対象と比較して増加しているCCL3のレベルに基づいて選択される。別の例では、対象は、<65歳の対象と比較して増加しているCCL7のレベルに基づいて選択される。別の例では、本開示の方法は、<65歳の対象と比較して増加しているCXCL10のレベルに基づいて対象を選択することを含む。別の例では、対象は、<65歳の対象と比較して増加しているCXCL9のレベルに基づいて選択される。別の例では、本開示の方法は、<65歳の対象と比較して増加しているIL-6のレベルに基づいて対象を選択することを含む。別の例では、対象は、<65歳の対象と比較して増加しているIL-8のレベルに基づいて選択される。別の例では、本開示の方法は、<65歳の対象と比較して増加しているCCL19のレベルに基づいて対象を選択することを含む。別の例では、対象は、<65歳の対象と比較して増加しているIL-2のレベルに基づいて選択される。これらの例では、炎症性バイオマーカーのレベルの増加は、<65歳である患者と比較して、1倍を超えて増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳である患者と比較して、少なくとも2倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳である患者と比較して、少なくとも3倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳である患者と比較して、少なくとも4倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳である患者と比較して、少なくとも5倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳である患者と比較して、5倍を超えて増加する。一例では、<65歳である患者は、コルチコステロイドを服用していない。
【0012】
別の例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後、持続的なCRPレベルに基づいて選択される。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後7日間の持続的なCRPレベルに基づいて選択される。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後14日間の持続的なCRPレベルに基づいて選択される。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後21日間の持続的なCRPレベルに基づいて選択される。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後30日間の持続的なCRPレベルに基づいて選択される。
【0013】
一例では、本明細書に開示される方法による治療は、対象を人工呼吸器から外すことを可能にする。一例では、対象は、治療の60日以内に人工呼吸器を外される。
【0014】
一例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療又は予防を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、
-65歳以上である、及び/又は、
-65歳未満である対象と比較して、1つ以上の炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する、及び/又は、
-体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個未満の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む第1の用量のMLPSCを投与された後3日間、持続的なCRPレベルを有する対象を選択することと、
体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を対象に投与することと、を含む。一例では、本方法は、(i)CXCR3結合ケモカイン、好ましくはCXCL10及び/又はCXCL9、(ii)CCR2結合ケモカイン、好ましくはCCL2、CCL3、及び/又はCCL7、(iii)IL-6、(v)IL-8、(vi)CCL19、(vii)IL-2、及び/又は(viii)CRPを含むリストから選択される1つ以上の炎症性バイオマーカーの対象のレベルを決定すること、又は決定していることを更に含む。
【0015】
本発明者らはまた、細胞療法による治療が、患者における炎症性バイオマーカーのレベルを減少させることができることを特定した。したがって、別の例では、本開示による組成物による治療は、
-肺への好中球及びマクロファージ流入の減少、
-インフラマソームの減少、
-マクロファージ活性化及び肺への好中球遊走の減少、
-T細胞流入及び活性化の減少、又は
-マクロファージ及び好中球炎症の循環バイオマーカーの減少を示す、炎症性バイオマーカーのうちの少なくとも1つのレベルを低下させる。
【0016】
一例では、炎症性バイオマーカーは、CXCR3結合ケモカイン、例えば、CXCL10である。別の例では、CXCR3結合ケモカインは、CXCL9である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、CCR2結合ケモカイン、例えば、CCL2である。別の例では、CCR2結合ケモカインは、CCL3である。別の例では、CCR2結合ケモカインは、CCL7である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、IL-6である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、IL-8である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、TNFである。別の例では、炎症性バイオマーカーは、IL-18である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、CCL19である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、IL-4である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、IL-13である。別の例では、炎症性バイオマーカーは、GM-CSFである。別の例では、炎症性バイオマーカーは、CRPである。別の例では、炎症性バイオマーカーは、フェリチンである。
【0017】
一例では、本開示による治療は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超のMLPSCを投与してから3~14日以内に、CRP及び/又はフェリチンレベルを減少させる。別の例では、治療は、対象の呼吸機能を改善する。例えば、改善された呼吸機能は、ベルリン基準を使用して決定することができる。一例では、治療は、14日目及び/又は21日目の対象のベルリン基準を改善する。一例では、改善された呼吸機能は、ベースライン呼吸機能と比較して、7日目以降も維持される。一例では、改善された呼吸機能は、ベースライン呼吸機能と比較して14日目に維持される。
【0018】
一例では、対象は、500万個のMLPSC/kg超を投与される。別の例では、対象は、600万個のMLPSC/kg超を投与される。別の例では、対象は、800万個のMLPSC/kg超を投与される。一例では、400万個のMLPSC/kg超は、少なくとも2~3回の用量にわたって投与される。一例では、400万個のMLPSC/kg超は、3回の用量にわたって投与される。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与されてから5~9日以内に、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超のMLPSCを受ける。一例では、本開示の方法は、1用量当たり1×108~2.5×108個のMLPSCを投与することを含む。別の例では、本開示の方法は、1用量当たり約1.6×108個のMLPSCを投与することを含む。別の例では、本開示の方法は、1用量当たり約200万個のMLPSC/kgを投与することを含む。
【0019】
一例では、対象のARDSは、中等度又は重度である。
【0020】
一例では、対象は、本明細書に開示される細胞組成物を投与する前に、コルチコステロイドを服用している。別の例では、本開示による方法は、コルチコステロイドを投与することを更に含む。一例では、コルチコステロイドは、デキサメタゾンである。
【0021】
一例では、ARDSは、ウイルス感染症によって引き起こされる。ウイルス感染は、例えば、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)又はコロナウイルスによって引き起こされ得る。
【0022】
一例では、ARDSは、コロナウイルス感染症によって引き起こされる。コロナウイルスは、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、COVID-19、229E、NL63、OC43、又はKHU1であり得る。一例では、コロナウイルスは、SARS-CoV、MERS-CoV、又はCOVID-19(SARS-CoV-2)である。一例では、ARDSは、SARS-CoV-2による感染に続発する。
【0023】
一例では、ARDSは、静脈血栓症又は動脈血栓症などの血栓症によって引き起こされる。別の例では、ARDSは、肺塞栓症によって引き起こされる。
【0024】
一例では、MLPSCは、凍結保存されており、解凍されている。一例では、MLPSCは、中間凍結保存MLPSC集団から培養増殖される。別の例では、MLPSCは、少なくとも約5の継代にわたって培養増殖される。一例では、MLPSCは、100万個のMLPSC当たり少なくとも13pgのTNF-R1を発現する。一例では、MLPSCは、100万個のMLPSC当たり約13pg~約44pgのTNF-R1を発現する。一例では、培養増殖MLPSCは、少なくとも20回の集団倍加にわたって培養増殖される。別の例では、培養増殖MLPSCは、少なくとも30回の集団倍加にわたって培養増殖される。一例では、MLPSCは、間葉幹細胞(MSC)である。別の例では、MLPSCは、同種である。例えば、MLPSCは、同種MSCであり得る。
【0025】
別の例では、MLPSCは、抗ウイルス薬又は血栓溶解剤を担持又は発現するように改変される。一例では、抗ウイルス薬は、レムデシビルである。一例では、血栓溶解剤は、Eminase(アニストレプラーゼ(anistreplase))Retavase(レテプラーゼ)Streptase(ストレプトキナーゼ、カビキナーゼ(kabikinase))からなる群から選択される。
【0026】
別の例では、MLPSCは、抗ウイルスペプチド又はそれをコードする核酸を発現するように遺伝子改変される。
【0027】
一例では、組成物は、静脈内に投与される。
【0028】
一例では、対象は、400万個のMLPSC/kg超が少なくとも2~3回の用量にわたって投与される。一例では、対象は、第1の用量が投与されてから5~9日以内に400万個のMLPSC/kg超を受ける。別の例では、対象は、第1の用量が投与されてから7日以内に、400万個のMLPSC/kg超を受ける。これらの例では、用量は、1用量当たり1×108~2.5×108個の細胞を含む。例えば、用量は、1.6×108個の細胞を含む。別の例では、用量は、200万個の細胞/kgを含む。
【0029】
一例では、本開示のMLPSCは、組成物中に投与される。一例では、組成物は、プラズマライトA、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)を更に含む。一例では、組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を更に含み、HSA溶液は、5%HSA及び15%緩衝液を含む。
【0030】
一例では、組成物は、6.68×106生存細胞/mL超を含む。
【0031】
別の例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、
-体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を対象に投与することと、
-MLPSCを投与する前に、バイオマーカー(複数可)のベースラインレベルと比較して、CXCL10、CXCL9、CCL2、CCL3、CCL7、IL-6、IL-8、CCL19、IL-2、フェリチン、及び/又はCRPからなる群から選択される1つ以上のバイオマーカーの対象のレベルを決定するか、又は決定していることと、
1つ以上のバイオマーカーのレベルがベースラインから低下しない場合、対象に更なる用量のMLPSCを投与することであって、更なる用量に続いて、対象は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を投与されている、投与することと、を含む。
【0032】
一例では、バイオマーカーは、CRP及び/又はフェリチンである。一例では、CRP及び/又はフェリチンの対象のレベルは、7日目及び/又は14日目のベースラインと比較して決定される。
【0033】
一例では、更なる用量は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)200万個のMLPSCを含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】細胞療法は、<65歳の患者における60日目の死亡に対する保護を提供する。A:<65歳のITT患者、B:≧65歳のITT患者。
【
図2】細胞療法は、<65歳の患者における60日目の死亡に対する保護を提供する。A:<65歳のPP患者(n=123)、B:≧65歳のPP患者(n=94)。
【
図3】<65歳の患者及び>65歳の患者におけるARDS重症度(ベルリン基準によって定義されるARDSの解消及び/又は改善として測定される)。
【
図4A】ベースラインならびに3日目、7日目、及び14日目のCRPレベル。
【
図4B】ベースラインならびに3日目、7日目、及び14日目のフェリチンレベル。
【
図4C】ベースラインならびに3日目、7日目、及び14日目のD-ダイマー。
【
図5】>65歳の患者は、ベースライン炎症のより高いレベルを有する。データはレベルの倍率変化である。
【
図6】年齢グループ別の炎症性バイオマーカー層別分析。データは、ベースラインからのレベルの倍率変化である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書全体を通じて、別途特に明記されない限り、又は文脈上そうでないとする要求がない限り、単一のステップ、組成物(composition of matter)、ステップの群又は組成物の群への言及は、1つ及び複数の(すなわち1つ以上の)それらのステップ、組成物、ステップの群又は組成物の群を包含するように受け取られるものとする。
【0036】
当業者は、本明細書に記載される開示が、具体的に記載されるもの以外の変形及び改良を受ける余地があることを理解するであろう。本開示が全てのこのような変形及び改変を含むことを理解されたい。本開示は、本明細書において個別に又は集合的に言及又は示されるステップ、特徴、組成物、及び化合物の全て、ならびにありとあらゆる組み合わせ、又は任意の2つ以上の該ステップもしくは特徴も含む。
【0037】
本開示は、例示のみを目的とする、本明細書に記載される特定の実施形態によって、範囲が限定されるべきではない。機能的に均等な生成物、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本開示の範囲内である。
【0038】
本明細書に開示される任意の例は、別途特に明記されない限り、任意の他の例に準用されるものとする。
【0039】
特に別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、幹細胞治療、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学の)当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものと理解されるべきである。
【0040】
別段の指示がない限り、本開示で利用される外科的技法は、当業者に周知の標準的な手順である。
【0041】
間葉系幹細胞又は前駆体細胞の集団を得る及び富化する方法は、当該技術分野で既知である。例えば、間葉系幹細胞又は前駆体細胞の富化集団は、間葉系幹細胞又は前駆体細胞上で発現される細胞表面マーカーの使用に基づくフローサイトメトリー及び細胞選別手順の使用によって得ることができる。
【0042】
本明細書で引用又は参照される全ての文書、及び本明細書で引用される文書内で引用又は参照される全ての文書は、本明細書で又は本明細書での参照により組み込まれる任意の文書内で言及される任意の製品に対する、任意の製造業者の指示、記述、製品仕様、及び製品シートとともに、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
選択された定義
「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」という用語は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味又はいずれかの意味に明確なサポートを提供するものとみなされる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、そうでないと述べられない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは、+/-5%を指す。
【0045】
「レベル」及び「量」という用語は、対象からの試料中、又は細胞調製物(又はそこからの試料)中の特定の物質の量を定義するために使用される。例えば、特定の濃度、重量、パーセンテージ(例えば、v/v%)又は比率を使用して、特定の物質のレベルを定義することができる。
【0046】
一例では、特定のマーカーのレベルは、患者又は対象から得られた試料(複数可)(例えば、血液試料、血漿試料、又は血清試料)において決定される。例えば、本開示による炎症性バイオマーカーのレベルは、血液試料中で決定することができる。
【0047】
一例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、対象から得られた試料中のタンパク質発現のレベルを測定することによって決定される。試料中の炎症性バイオマーカーのタンパク質発現レベルを測定するために利用可能な様々なアッセイが当該技術分野で既知である。例えば、炎症性バイオマーカーレベルは、酵素結合免疫吸着剤(ELISA)アッセイなどの抗体ベースのイムノアッセイを使用して、試料中で測定されることができる。一例では、血液試料は、患者から得られ、次いで、本開示による炎症性バイオマーカーに結合する抗体と接触する前に精製される。この例では、抗体結合の程度を使用して、試料中の炎症性バイオマーカーのレベルを定量化する(例えば、pg/mL)。別の例では、炎症性バイオマーカーレベルは、多重イムノアッセイ、例えば、Luminexアッセイ(例えば、Cook et al.Methods.158:27-32.2019を参照)を使用して、試料中で測定されることができる。別の例では、炎症性バイオマーカーレベルは、蛍光ビーズベースのイムノアッセイを使用して、試料中で測定することができる。これらの例では、複数の炎症性バイオマーカーのタンパク質発現は、単一の試料において測定される。別の例では、炎症性バイオマーカーのタンパク質発現は、別個の試料中で測定される。
【0048】
別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、対象から得られた試料中の遺伝子発現のレベルを測定することによって決定される。試料中の炎症性バイオマーカーの遺伝子発現レベルを測定するために利用可能な様々なアッセイが当該技術分野で既知である。例えば、炎症性バイオマーカーレベルは、定性ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースのアッセイのような、分子ベースのアッセイを使用して、試料中で測定されることができる。一例では、血液試料は、対象から得られ、次いで精製され、溶解されて、血液細胞溶解物を得る。この例では、分子プライマー及びプローブの結合を使用して、試料中の炎症性バイオマーカーの遺伝子発現のレベルを定量化する。一例では、レベルは、適切な制御に対する倍率変化として表される。「倍率変化」は、2つの量の差の比率である。別の例では、炎症性バイオマーカーの遺伝子発現のレベルは、多重PCRアッセイ、例えば、Luminexアッセイ(例えば、Cook et al.Methods.158:27-32.2019を参照)を使用して、試料中で測定されることができる。これらの例では、複数の炎症性バイオマーカーの遺伝子発現は、単一の試料において測定される。別の例では、複数の炎症性バイオマーカーの遺伝子発現は、別個の試料中で測定される。
【0049】
一例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、血清中で測定される。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、血漿中で測定される。
【0050】
一例では、複数の試料は、経時的に対象から得られる。炎症性バイオマーカーレベルは、これらの試料において決定して、炎症の対象のレベルを経時的にモニタリングすることができる。ある例では、試料は、ベースラインで(すなわち、細胞療法を投与する前に)、及び細胞療法の投与後に採取される。炎症性バイオマーカーのレベルを試料間で比較して、炎症性バイオマーカーのレベルが変化した(例えば、減少した)かどうかを判定することができる。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、経時的に採取した(例えば、ベースライン、7日目、14日目、21日目、30日目)複数の試料において決定することができる。これらの例では、試料は、炎症が変化した(例えば、減少した)かどうか、及び減少の文脈において、炎症の減少が持続的であるかどうかを判定するために評価されることができる。一例では、炎症の持続的な減少は、細胞療法の投与後の少なくとも2つの試料におけるベースラインからの観察される炎症の減少に基づいて決定される。一例では、試料は、7日目及び14日目に採取される。別の例では、試料は、14日目及び21日目に採取される。別の例では、試料は、21日目及び30日目に採取される。別の例では、試料は、7日目、14日目、21日目、及び30日目に採取される。一例では、炎症の持続的な変化は、細胞療法を投与した後、7日目及び14日目に変化が観察されることを意味する。別の例では、炎症の持続的な変化は、細胞療法を投与した後、7日目、14日目、及び21日目に変化が観察されることを意味する。一例では、炎症の持続的な変化は、細胞療法を投与した後、14日目及び21日目に変化が観察されることを意味する。
【0051】
一例では、レベルは、適切な制御と比較して、倍率変化として表される。「倍率変化」は、2つの量の差の比率である。一例では、倍率変化は、log2(倍率-変化)として計算される。例では、レベルは、<65歳であるARDSを有する患者と比較して、倍率変化として表される。別の例では、レベルは、ベースラインレベルと比較して、倍率変化として表される。別の例では、レベルは、ARDSを有さない患者と比較して、倍率変化として表される。例では、レベルは、<65歳であり、コルチコステロイドを服用していない、ARDSを有する患者と比較して、倍率変化として表される。
【0052】
別の例では、レベルは、培養条件下で本開示の細胞によってどのくらいの量の特定のマーカーが発現されるかという点で表される。一例では、発現は、細胞表面発現を表す。別の例では、レベルは、培養条件下で本明細書に記載の細胞からどのくらいの量の特定のマーカーが放出されるかという点で表される。一例では、レベルはpg/mlで表される。別の例では、レベルは、106個の細胞当たりのpgで発現される。pg/mlのレベルは、必要に応じて106個の細胞当たりのpgに変換され得る。例えば、TNF-R1の文脈では、一例では、200pg/mlのTNF-R1は、106個の細胞当たり約23.5pgのTNF-R1に対応する。一例では、TNF-R1の文脈では、一例では、225pg/mlのTNF-R1は、106個の細胞当たり約26.5pgのTNF-R1に対応する。一例では、230pg/mlのTNF-R1は、106個の細胞当たり約27pgのTNF-R1に対応する。別の例では、260pg/mlのTNF-R1は、106個の細胞当たり約30pgのTNF-R1に対応する。別の例では、270pg/mlのTNF-R1は、106個の細胞当たり約32pgのTNF-R1に対応する、などである。
【0053】
一例では、特定のマーカーのレベルは、培養条件下で決定される。「培養条件」という用語は、培養物中で成長する細胞を指すために使用される。一例では、培養条件は、細胞の積極的な分裂集団を指す。そのような細胞は、一例では、指数関数的成長段階であり得る。例えば、特定のマーカーのレベルは、細胞培養培地の試料を採取し、試料中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。別の例では、特定のマーカーのレベルは、細胞の試料を採取し、細胞溶解物中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。当業者であれば、分泌されたマーカーは培養培地をサンプリングして測定できるが、細胞表面に発現したマーカーは細胞溶解液の試料を評価して測定することができることを理解するであろう。一例では、細胞が指数関数的成長段階にあるときに試料が採取される。一例では、試料は、培養物中で少なくとも2日後に採取される。
【0054】
凍結保存された中間体から細胞を増殖させる培養とは、細胞の成長に適した条件下で、低温凍結及びインビトロ培養を受けた細胞を解凍することを意味する。
【0055】
一例では、TNF-R1などの特定のマーカーの「レベル」又は「量」は、細胞が凍結保存された後に決定され、次いで培養物に再び播種される。例えば、レベルは、細胞の最初の凍結保存後に決定される。別の例では、レベルは、細胞の第2回目の凍結保存後に決定される。例えば、特定のマーカーのレベルを培養条件下で決定できるように、細胞を凍結保存された中間体から培養増殖し、培養で再播種する前に2回目の凍結保存をし得る。
【0056】
「バイオマーカー」は、特定の病理学的又は生理学的プロセス、疾患などを同定することができる天然に存在する分子、遺伝子、又は特徴を指す。本明細書で使用される場合、「炎症性バイオマーカー」は、活性型炎症性疾患及び/又は活性型炎症経路の存在又は非存在を示す、天然に存在する分子を指す。一例では、炎症性バイオマーカーは、サイトカインである。別の例では、炎症性バイオマーカーは、ケモカインである。炎症性バイオマーカーの例は、以下で更に説明され、例えば、CXCL10、CXCL9、CCL2、CCL3、CCL7、IL-6、IL-8、CCL19、IL-2、フェリチン、及び/又はCRPが含まれる。
【0057】
「持続的なCRPレベル」とは、対象が、MLPSCでの治療後に有意に減少しないCRPレベル(例えば、p<0.05)を有することを意味する。一例では、持続的なCRPレベルは、第1の用量のMLPSCを受けた後に、対象CRPレベルが維持される(すなわち、有意に変化しない)ことを意味する。
【0058】
一例では、本開示の方法は、炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する、患者を治療すること、及び/又は治療のための患者を選択することに関する。一例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、対照集団と比較して増加する。一例では、患者は、<65歳である患者と比較して、炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する。別の例では、患者は、ベースラインレベルと比較して、炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する。
【0059】
「単離された」又は「精製された」とは、その天然の環境の少なくともいくつかの構成要素から分離された細胞を意味する。この用語は、細胞の天然の環境からの全体的な物理的分離(例えば、ドナーからの除去)を含む。「単離された」という用語は、例えば、解離による、それが直接的に関与している隣接細胞との細胞の関係の変化を含む。「単離された」という用語は、組織切片にある細胞を指すものではない。細胞の集団を指すために使用される場合、「単離された」という用語は、本開示の単離された細胞の増殖から生じる細胞の集団を含む。
【0060】
「継代」、「継代させる」又は「継代培養」という用語は、細胞数が継続的に増加することができるように、細胞を生存させ、長期間培養条件下で成長させるために使用される既知の細胞培養技術を指すために本開示の文脈で使用される。細胞株が経た継代培養の程度は、「継代数」として表されることが多く、これは、一般に、細胞が継代培養された回数を指すために使用される。一例では、1回の継代は、非接着細胞を除去し、接着した間葉系前駆体又は幹細胞を残すことを含む。そのような間葉系前駆体又は幹細胞は、次いで、基質又はフラスコから(例えば、トリプシン又はコラゲナーゼなどのプロテアーゼを使用することによって)解離することができ、培地を添加することができ、任意選択的な洗浄(例えば、遠心分離による)を行うことができ、次いで、間葉系前駆体又は幹細胞は、全体としてより大きな表面積を含む1つ以上の培養容器に再プレーティング又は再播種することができる。間葉系前駆体又は幹細胞は次いで、培養で増殖し続けることができる。別の例では、非接着細胞を除去する方法として、非酵素処理のステップ(例えば、EDTAによる)が挙げられる。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、コンフルエンスで又はほぼコンフルエンス(例えば、約75%~約95%のコンフルエンス)で継代される。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、培養培地の約10%、約15%、又は約20%細胞/mlの濃度で播種される。
【0061】
「培地」(単数又は複数)という用語は、本開示の文脈で使用される場合、培養中の細胞を取り囲む環境の構成要素を含む。培地は、細胞の成長を可能にするのに好適な条件に寄与する、及び/又は条件を提供することが想定される。培地は、固体、液体、気体、又は相及び材料の混合物であり得る。培地は、液体増殖培地ならびに細胞成長を維持しない液体培地を含むことができる。例示的な気体培地としては、ペトリ皿又は他の固体もしくは半固体支持体上で成長する細胞が曝露される気体相が挙げられる。
【0062】
本明細書で使用される場合、「治療すること」、「治療する」又は「治療」という用語は、間葉系幹細胞もしくは前駆体細胞の集団及び/又はそれらの子孫及び/又はそれらに由来する可溶性因子を投与し、それによってARDSの少なくとも1つの症状を低減又は排除することを含む。一例では、治療は、培養増殖された間葉系幹細胞又は前駆体細胞の集団を投与することを含む。一例では、治療応答は、ベースラインと比較して決定される。一例では、治療応答は、対象患者集団と比較して決定される。一例では、治療は、対象のARDSを重度から中等度に改善する。一例では、治療は、呼吸機能を改善する。一例では、治療は、対象が機械的換気を終えることを可能にする。
【0063】
一例では、本開示の方法は、対象における疾患進行又は疾患合併症を阻害する。対象における疾患進行又は疾患合併症の「阻害」は、対象における疾患進行及び/又は疾患合併症を予防又は軽減することを意味する。したがって、一例では、本開示の方法は、ARDS重症度の進行を阻害する。
【0064】
本明細書で使用される場合、「予防する」又は「予防すること」という用語は、間葉系幹細胞又は前駆体細胞及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子の集団を投与することを含み、それにより、ARDSの少なくとも1つの症状の発症を停止又は阻害する。
【0065】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒト対象を指す。例えば、対象は成人であってもよい。「対象」、「患者」、又は「個人」などの用語は、文脈上、本開示で互換的に使用することができる用語である。
【0066】
「血栓症」という用語は、血栓又は凝血塊の形成を指すために本明細書において使用される。一例では、血栓症は、動脈内に凝血塊が発生する「動脈血栓症」である。そのような凝血塊は、心臓又は脳などの主要な器官への血流を妨げる可能性があるため、対象にとって特に危険である。一例では、血栓症は、静脈内に凝血塊が発生する「静脈血栓症」である。
【0067】
「肺塞栓症」という用語は、血流を通って体内の他の場所から移動した物質による肺の動脈の閉塞を指すために本明細書において使用される。
【0068】
本明細書で使用される場合、「遺伝的に修飾されていない」という用語は、核酸によるトランスフェクションによって修飾されていない細胞を指す。疑義を避けるために、本開示の文脈において、Ang1をコードする核酸でトランスフェクトされた間葉系前駆体又は幹細胞は、遺伝的に修飾されるとみなされる。
【0069】
「総用量」という用語は、本開示の文脈において、本開示に従って治療される対象によって受容される細胞の総数を指すために使用される。一例では、総用量は、1回の細胞の投与からなる。別の例では、総用量は、2回の細胞の投与からなる。別の例では、総用量は、3回の細胞の投与からなる。別の例では、総用量は、4回以上の細胞の投与からなる。例えば、総用量は、2~5回の細胞の投与からなり得る。各例では、総用量は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)である。例えば、体重の1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)の総用量は、少なくとも3回の用量にわたって投与することができる。この例では、対象は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)200万個の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)の2回の事前投与を受けていてもよい。
【0070】
「臨床的に証明された」という用語(独立して使用されるか、又は「有効な」という用語を修飾するために使用される)は、有効性が、U.S.Food and Drug Administration、EMEA、又は対応する国の規制当局の承認基準を満たした臨床試験によって証明されたことを意味するものとする。例えば、臨床研究は、組成物の効果を臨床的に証明するために使用される、適切なサイズの、無作為化、二重盲検研究であり得る。一例では、臨床的に証明された有効量は、特定のエンドポイントを満たすために臨床試験によって示される量である。一例では、エンドポイントは、死に対する保護である。
【0071】
したがって、「臨床的に証明された有効性」及び「臨床的に証明された有効な」という用語は、本開示の文脈において、本明細書に開示される用量、投与レジメン、治療、又は方法を指すために使用され得る。有効性は、本明細書に開示される組成物を投与することに応答して疾患の経過の変化に基づいて測定することができる。例えば、本開示の組成物は、ARDSの重症度を反映する少なくとも1つの指標において、改善、好ましくは持続的な改善を誘導するのに十分な量及び時間で、対象に投与される。治療の量及び時間が十分であるかどうかを判定するために、ARDSの重症度を反映する様々な指標が評価され得る。そのような指標としては、例えば、疾患重症度又は症状の臨床的に認識される指標が挙げられる。一例では、改善の程度は、徴候、症状、又は他の試験結果に基づいてこの決定を行うことができる医師によって決定される。一例では、臨床的に証明された有効量は、患者生存を改善する。別の例では、臨床的に証明された有効量は、対象の死亡リスクを低減する。別の例では、臨床的に証明された有効量は、対象の循環CRPレベルを低減する。別の例では、臨床的に証明された有効量は、対象の呼吸機能を改善する。
【0072】
本明細書を通して、「含む(comprise)」という用語、又は「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数もしくはステップ、又は要素、整数もしくはステップの群を含むことを意味すると理解されるが、任意の他の要素、整数もしくはステップ、又は要素、整数もしくはステップの群を除外しない。
【0073】
本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈によりそうではないと指示されない限り、単数及び複数の指示参照を含む。
【0074】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
本開示の方法は、本明細書に開示される組成物を投与することによる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に関する。一例では、方法は、MLPSCを含む組成物を投与することを含む。したがって、一例では、組成物は、MSCを含むことができる。
【0075】
「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」という用語は、肺の広範囲の炎症、酸素化の不良、及び不従順な又は「硬い」肺を特徴とする呼吸不全の一種である。この障害は、一般に、毛細血管内皮損傷及びびまん性肺胞損傷に関連している。
【0076】
一例では、本開示の方法は、軽度のARDSを有する対象を予防又は治療する。別の例では、本開示の方法は、中等度のARDSを有する対象を予防又は治療する。別の例では、本開示の方法は、重度のARDSを有する対象を予防又は治療する。別の例では、本開示の方法は、中等度又は重度のARDSを有する対象を予防又は治療する。一例では、本開示の方法は、換気を必要とするARDSを有する対象を治療する。例えば、対象は、機械的人工呼吸器を付けることができる。
【0077】
一例では、ARDSの重症度は、PaO2/FiO2比に応じて診断される。例えば、ARDSの重症度は、以下のように診断することができる:(軽度:26.6kPa<PaO2/FiO2≦39.9kPa、中等度:13.3kPa<PaO2/FiO2≦26.6kPa、重度:PaO2/FiO2≦13.3kPa)。一例では、ARDSの重症度は、以下の表に要約されるように、ベルリン基準に従って診断されることができる:
【表1】
【0078】
別の例では、ARDSの重症度は、以下のように診断することができる:軽度(PaO2/FiO2 200~300mmHg)、中等度(PaO2/FiO2 100~200mmHg)、重度(PaO2/FiO2 100mmHg未満)。
【0079】
一例では、本開示の方法に従って治療される対象は、65歳以上である。
【0080】
別の例では、本開示の方法に従って治療される対象は、コルチコステロイドを服用している。一例では、コルチコステロイドは、長時間作用型又は中間作用型(半減期<36時間)コルチコステロイドである。一例では、コルチコステロイドは、長時間作用型(36~72時間の半減期)である。一例では、コルチコステロイドは、デキサメタゾンである。コルチコステロイドの他の例としては、プレドニゾン及びメチルプレドニゾロンが挙げられる。例えば、対象は、デキサメタゾンを服用していてもよい。一例では、対象は、65歳以上であり、デキサメタゾンなどのコルチコステロイドを服用している。
【0081】
一例では、本開示の方法は、MLPSCを含む組成物などの、本明細書に開示される細胞組成物を投与することを含む。別の例では、本開示の方法は、本明細書に開示される細胞組成物及びコルチコステロイドを投与することを含む。この例では、コルチコステロイドは、細胞組成物と同時に又は連続して投与することができる。一例では、対象は、本明細書に開示される細胞組成物を投与する前に、コルチコステロイドを事前に服用している。この例では、コルチコステロイドは、細胞組成物とともに投与され続けることができる。
【0082】
本開示に従って治療される対象は、ARDSを示す症状を有し得る。例示的な症状には、疲労、呼吸困難、息切れ、運動不能又は運動能力の低下、血液又は粘液を伴う又は伴わない咳、息を吸う又は吐く際の疼痛、喘鳴、胸の圧迫感、原因不明の体重減少、筋骨格系の疼痛、呼吸促迫(頻呼吸)、及び青白い皮膚の色(チアノーゼ)が含まれ得る。
【0083】
別の例では、対象は、肺炎を有する。
【0084】
別の例では、対象は、ウイルス感染に続発するARDSを有する。一例では、対象のARDSは、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はコロナウイルスによる感染に続発する。一例では、対象のARDSは、コロナウイルスによる感染に続発する。例えば、対象のARDSは、SARS-CoV、MERS-CoV、又はCOVID-19による感染に続発し得る。一例では、対象のARDSは、SARS-CoV-2による感染に続発する。
【0085】
一例では、対象は、心筋炎、心膜炎、又は弁膜炎のうちの1つ以上を有する。一例では、対象は、ウイルス誘発性の心筋炎、心膜炎、又は弁膜炎を有する。例えば、対象は、ウイルス性心筋炎を有し得る。
【0086】
一例では、ARDSは、ウイルス感染によって引き起こされる。例えば、ARDSは、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はコロナウイルスによって引き起こされ得る。一例では、ARDSは、コロナウイルスによって引き起こされ得る。例えば、コロナウイルスは、コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、又はCOVID-19であり得る。一例では、ARDSは、エプスタイン・バーウイルス(EBV)又は単純ヘルペスウイルス(HSV)によって引き起こされる。
【0087】
別の例では、ARDSは、血栓症によって引き起こされる。別の例では、ARDSは、塞栓症によって引き起こされる。一例では、ARDSは、肺塞栓症によって引き起こされる。
【0088】
別の例では、ARDSは、血球貪食リンパ組織球症(HLH)に続発する。HLHは、リンパ球及びマクロファージ過炎症を特徴とする生命を脅かす疾患である。HLHは、EBV、CMV、HHVなどのウイルス感染症によって引き起こされ得る。したがって、一例では、HLHは、二次的又は後天的HLHである。例えば、HLHは、ウイルス感染に続発し、対象におけるARDSの発症につながり得る。
【0089】
一例では、治療は、死亡から保護するか、又は改善された生存を付与する。一例では、治療後60日間に死亡に対する保護が決定される。別の例では、死亡に対する保護は、治療後50~70日間に決定される。例えば、治療された対象の死亡リスクは、治療後に低減され得る。一例では、治療された対象の死亡リスクは、30~60%低減される。一例では、治療された対象の死亡リスクは、40~50%低減される。一例では、治療された対象の死亡リスクは、少なくとも30%低減される。一例では、治療された対象の死亡リスクは、少なくとも40%低減される。
【0090】
一例では、治療は、対象の酸素化を改善する。一例では、改善された酸素化は、ベルリン基準の変化に対応する。一例では、治療は、酸素化を、より軽度のグレードのARDSに対応するレベルまで改善する。一例では、治療は、酸素化レベルを重度から中等度に改善する。
【0091】
一例では、本開示の方法による治療は、対象の血栓症のリスクを低減する。一例では、対象のリスクは、治療を受けない対象と比較して低減する。一例では、治療は、動脈血栓症である血栓症のリスクを低減する。したがって、一例では、治療は、ARDSを有する患者の心臓発作又は脳卒中のリスクを低減する。
【0092】
別の例では、本開示は、治療のためにARDSを有する対象を選択することを包含する。一例では、対象は、中等度又は重度のARDSを有する。一例では、本方法は、65歳以上のARDSを有する対象を選択することを含む。一例では、本方法は、65歳以上の対象を選択することと、コルチコステロイドを服用することと、を含む。一例では、選択された対象は、本明細書に開示される方法に従って治療される。
【0093】
炎症性バイオマーカー
本開示の方法は、炎症性バイオマーカーのレベルの増加を有する、ARDSを有する患者を選択し、治療することに関する。炎症性バイオマーカーは、増加した疾患重症度に関連する炎症経路の上方制御に関連している。
【0094】
一例では、炎症性バイオマーカーは、肺への好中球及びマクロファージ流入の増加を示し、例えば、CCR2結合ケモカインである。C-Cケモカイン受容体2型(CCR2)は、Gタンパク質共役型受容体であり、そのリガンドは、CCL2(C-Cモチーフケモカインリガンド2)、CCL3(C-Cモチーフケモカインリガンド3)、及びCCL7(C-Cモチーフケモカインリガンド7)を含むケモカインの単球化学誘引タンパク質(MCP)ファミリーを含む。CCR2結合ケモカインのレベルの増加は、CXCR3好中球及び好中球前駆体の肺へのより大きな誘引をもたらすと考えられる。したがって、一例では、対象は、CCL2のレベルの増加を有する。別の例では、対象は、CCL3のレベルの増加を有する。別の例では、対象は、CCL7のレベルの増加を有する。
【0095】
別の例では、肺への好中球及びマクロファージ流入の増加を示す炎症性バイオマーカーは、CXCR3(C-X-Cモチーフケモカイン受容体3)結合ケモカインである。CXCR3結合ケモカインの例は、C-X-Cモチーフケモカインリガンド10(CXCL10)及びC-X-Cモチーフケモカインリガンド9(CXCL9)を含む。別の例では、対象は、CXCL10のレベルの増加を有する。別の例では、対象は、CXCL9のレベルの増加を有する。
【0096】
別の例では、炎症性バイオマーカーは、マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大を示し、例えば、インターロイキン-6(IL-6)及びインターロイキン-8(IL-8)である。一例では、対象は、IL-6のレベルの増加を有する。一例では、対象は、IL-8のレベルの増加を有する。
【0097】
別の例では、炎症性バイオマーカーは、T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示し、例えば、C-Cモチーフケモカインリガンド(CCL19)及びインターロイキン-2(IL-2)である。一例では、対象は、CCL19のレベルの増加を有する。一例では、対象は、IL-2のレベルの増加を有する。
【0098】
炎症性バイオマーカーのレベルは、本開示の組成物による治療後にも低下させることができる。一例では、炎症性バイオマーカーの低下は、肺への好中球及びマクロファージ流入の減少を示し、例えば、CCL2、CCL3及びCCL7などのCCR2結合ケモカインである。一例では、対象は、CCL2のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、CCL3のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、CCL7のレベルの低下を有する。別の例では、炎症性バイオマーカーは、CXCL10及びCXCL9などのCXCR3結合ケモカインである。一例では、対象は、CXCL10のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、CXCL9のレベルの低下を有する。
【0099】
別の例では、炎症性バイオマーカーの低下は、インフラマソームの減少を示す。インフラマソームは、刺激誘導細胞質多量体タンパク質複合体である。別の例では、炎症性バイオマーカーの低下は、マクロファージ活性化及び肺への好中球ホーミングの減少を示す。低下した場合、インフラマソームの減少及びマクロファージ活性化/肺への好中球ホーミングの減少を示す炎症性バイオマーカーの例は、IL-6、IL-8、腫瘍壊死因子(TNF)、及びインターロイキン-18(IL-18)である。一例では、対象は、IL-6のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、IL-8のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、TNFのレベルの低下を有する。別の例では、対象は、IL-18のレベルの低下を有する。
【0100】
別の例では、炎症性バイオマーカーの低下は、T細胞流入及び活性化の減少を示す。低下した場合、T細胞流入及び活性化の減少を示す炎症性バイオマーカーの例は、C-Cモチーフケモカインリガンド19(CCL19)、インターロイキン-4(IL-4)インターロイキン-13(IL-13)、及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)である。一例では、対象は、CCL19のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、IL-4のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、IL-13のレベルの低下を有する。別の例では、対象は、GM-CSFのレベルの低下を有する。
【0101】
別の例では、炎症性バイオマーカーの低下は、マクロファージ及び好中球炎症の循環バイオマーカーの減少を示し、例えば、CRP、フェリチン、又はD-ダイマーである。一例では、減少した循環バイオマーカーは、「C反応性タンパク質」又は「CRP」である。CRPは、そのレベルが急性炎症再発の条件下で上昇し、炎症が沈静化すると急速に正常化する炎症性メディエーターである。循環CRPレベルは、対象の炎症の尺度を提供するために、血漿試料中で測定されることができる。
【0102】
一例では、治療は、対象のCRPレベルを低減する。一例では、治療は、ベースラインと比較して、CRPを少なくとも100mg/dl低減する。別の例では、治療は、ベースラインと比較して、CRPを少なくとも150mg/dl低減する。一例では、治療は、対象のCRPレベルを約0.1倍低減する。別の例では、治療は、対象のCRPレベルを約0.2倍低減する。別の例では、治療は、対象のCRPレベルを約0.3倍低減する。別の例では、治療は、対象のCRPレベルを約0.4倍低減する。別の例では、治療は、対象のCRPレベルを約0.5倍低減する。別の例では、治療は、対象のCRPレベルを0.6倍低減する。これらの例では、治療は、対象のベースラインCRPレベルと比較して、対象のCRPレベルを、倍率変化低減する。
【0103】
例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後、持続的なCRPレベルを有する。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後7日間持続的なCRPレベルを有する。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後14日間持続的なCRPレベルを有する。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後21日間持続的なCRPレベルを有する。一例では、対象は、第1の用量のMLPSCを投与された後30日間持続的なCRPレベルを有する。
【0104】
別の例では、減少した循環バイオマーカーは、フェリチンである。フェリチンは、鉄を含有する血液タンパク質である。フェリチンレベルは、対象の鉄レベルの尺度を提供するために、血液試料中で測定されることができる。一例では、治療は、対象のフェリチンレベルを低減する。一例では、治療は、対象のフェリチンレベルを約0.1倍低減する。別の例では、治療は、対象のフェリチンレベルを約0.2倍低減する。別の例では、治療は、対象のフェリチンレベルを約0.3倍低減する。別の例では、治療は、対象のフェリチンレベルを約0.4倍低減する。別の例では、治療は、対象のフェリチンレベルを約0.5倍低減する。これらの例では、治療は、対象のベースラインフェリチンレベルと比較して、対象のフェリチンレベルを、倍率変化低減する。
【0105】
本明細書に開示される炎症性バイオマーカーのレベルを決定するための方法は、当技術分野で知られている。一例では、特定のマーカーのレベルは、患者又は対象から得られた試料(例えば、血液試料、血漿試料、又は血清試料)中で決定される。例えば、本開示による炎症性バイオマーカーのレベルは、血漿試料中で決定される。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、血清試料中で決定される。
【0106】
一例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、対象から得られた試料中のタンパク質発現のレベルを測定することによって決定される。例えば、炎症性バイオマーカーレベルは、酵素結合免疫吸着剤(ELISA)アッセイなどの抗体ベースのイムノアッセイ、多重イムノアッセイ、例えば、Luminexアッセイ(例えば、Cook et al.Methods.158:27-32.2019を参照)、又は蛍光ビーズベースのイムノアッセイを使用して、試料中で測定されることができる。これらの例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、pg/mLで発現される。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、適切な対照と比較して、倍率変化として表される。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、対象から得られた試料中の遺伝子発現のレベルを測定することによって決定される。例えば、炎症性バイオマーカーレベルは、定性ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースのアッセイのような分子ベースのアッセイ、又は多重PCRアッセイ、例えば、Luminexアッセイ(例えば、Cook et al.Methods.158:27-32.2019を参照)を使用して、試料中で測定されることができる。一例では、炎症性バイオマーカーの遺伝子発現のレベルは、適切な対照と比較して、倍率変化として表される。例えば、倍率変化は、log2(倍率-変化)として計算される。
【0107】
例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳であるARDSを有する患者と比較して、倍率変化として表される。
【0108】
一例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳であるARDSを有する患者と比較して、1倍超増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ベースラインレベルと比較して、1倍超増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ARDSを有さない患者と比較して、1倍超増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳であるARDSを有する患者と比較して、少なくとも2倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ベースラインレベルと比較して、少なくとも2倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ARDSを有しない患者と比較して、少なくとも2倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、<65歳であるARDSを有する患者と比較して、少なくとも5倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ベースラインレベルと比較して、少なくとも5倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ARDSを有しない患者と比較して、少なくとも5倍増加する。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルは、ARDSを有さない患者と比較して、5倍超増加する。
【0109】
一例では、複数の炎症性バイオマーカーのレベルは、単一の試料中で測定される。別の例では、複数の炎症性バイオマーカーのレベルは、別個の試料中で測定される。一例では、バイオマーカーのレベルは、MLPSCでの治療の前に測定される。別の例では、バイオマーカーのレベルは、MLPSCでの治療の後に測定される。別の例では、バイオマーカーのレベルは、ベースラインで測定され、経時的にモニタリングされて、対象がより高度な、又はより長期の投薬を必要とするかを決定する。
【0110】
炎症性バイオマーカーのレベルを試料間で比較して、炎症性バイオマーカーのレベルが低減したかどうかを判定することができる。これらの例では、試料を評価して、炎症が減少したかどうか、及び炎症の減少が持続的であるかどうかを判定することができる。一例では、炎症の持続的な減少は、細胞療法の投与後の少なくとも2つの試料におけるベースラインからの観察される炎症の減少に基づいて決定される。
【0111】
ARDSを有する患者集団を治療する方法
一例では、本開示の方法は、ARDSを有する患者集団を治療することに関する。別の例では、本開示の方法は、本明細書に開示される方法による治療のためにARDSを有する患者を選択することに関する。
【0112】
一例では、本方法は、肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又はT細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す炎症性バイオマーカーの増加を有する対象を選択することと、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することと、を含む。
【0113】
別の例では、本方法は、65歳以上であるARDSを有する対象を選択することと、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することと、を含む。
【0114】
別の例では、本方法は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、65歳以上であり、及び/又は肺への好中球及びマクロファージ流入の増加、マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大、及び/又はT細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示す炎症性バイオマーカーの増加を有する。
【0115】
別の例では、本方法は、
-(i)CXCR3結合ケモカイン、好ましくはCXCL10及び/又はCXCL9、(ii)CCR2結合ケモカイン、好ましくはCCL2、CCL3、及び/又はCCL7、(iii)IL-6、(v)IL-8、(vi)CCL19、(vii)IL-2、及び/又は(viii)CRPを含むリストから選択される1つ以上の炎症性バイオマーカーの対象のレベルを決定すること、又は決定していることと、
-65歳以上である、及び/又は第1の用量の間葉系前駆体もしくは幹細胞(MLPSC)を投与された後7日間に1つ以上の炎症性バイオマーカーのレベルの増加及び/又は持続的なCRPレベルを有する対象を選択することと、
-体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することと、を含む。
【0116】
別の例では、対象は、細胞療法を投与され、モニタリングされて、治療に応答して炎症性バイオマーカーが減少するかどうかを判定する。炎症性バイオマーカーが減少しない場合、対象は次いで、更なる用量の細胞を投与される。一例では、ARDSを有する対象は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を投与され、モニタリングされて、炎症性バイオマーカーが減少するかどうかを判定する。一例では、対象は、MLPSCを投与する前に炎症性バイオマーカーの対象のレベルを決定し、次いで、MLPSCを投与した後に炎症性バイオマーカーの対象のレベルを決定することによってモニタリングされる。一例では、炎症性バイオマーカーは、CXCL10、CXCL9、CCL2、CCL3、CCL7、IL-6、IL-8、CCL19、IL-2、フェリチン、及び/又はCRPからなる群から選択される。一例では、バイオマーカーは、CRPである。別の例では、バイオマーカーは、フェリチンである。一例では、バイオマーカーのレベルは、ベースラインレベルと比較して、治療後7日目に低減しない。別の例では、バイオマーカーのレベルは、ベースラインレベルと比較して、治療後14日目に低減しない。一例では、更なる用量のMLPSCは、1つ以上のバイオマーカーのレベルがベースラインから低下しない場合、対象に投与される。一例では、更なる用量は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)200万個のMLPSCを含む。一例では、更なる用量が、初回治療後7日目に投与される。別の例では、更なる用量は、初回治療後14日目に投与される。別の例では、更なる用量は、初回治療後21日目に投与される。別の例では、2回以上の更なる用量が投与される。例えば、対象は、初回治療後7日目、14日目、及び21日目に更なる用量を受け得る。別の例では、炎症性バイオマーカーのレベルがベースラインと比較して低下するまで、更なる用量が投与される。別の例では、対象は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)300万個の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)の2回用量を受けることができる。例えば、用量は、7日目及び14日目に投与され得る。
【0117】
したがって、一例では、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療を必要とするヒト対象においてそれを行う方法に関し、方法は、
-体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を対象に投与することと、
-MLPSCを投与する前に、バイオマーカー(複数可)のベースラインレベルと比較して、CXCL10、CXCL9、CCL2、CCL3、CCL7、IL-6、IL-8、CCL19、IL-2、フェリチン、及び/又はCRPからなる群から選択される1つ以上のバイオマーカーの対象のレベルを決定するか、又は決定していることと、
1つ以上のバイオマーカーのレベルがベースラインから低下しない場合、対象に更なる用量のMLPSCを投与することであって、更なる用量に続いて、対象は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を投与されている、投与することと、を含む。
【0118】
一例では、治療は、対象における呼吸機能を改善する。一例では、改善された呼吸機能は、ベルリン基準によって定義されるARDSの解消及び/又は改善として定義される。一例では、改善された血液酸素化は、改善された呼吸機能を示す。一例では、治療は、14日目に呼吸機能を改善する。別の例では、治療は、21日目に呼吸機能を改善する。
【0119】
間葉系前駆体細胞
本明細書で使用される場合「間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)」という用語は、多能性を維持しながら自己再生する能力を有し、間葉起源、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱など、又は非中胚葉起源、例えば、肝細胞、神経細胞、及び上皮細胞などのいくつかの細胞型に分化する能力を有する未分化多能性細胞を指す。疑義を避けるために、「間葉系前駆体細胞」は、骨、軟骨、筋肉及び脂肪細胞、ならびに繊維性結合組織などの間葉細胞に分化することができる細胞を指す。
【0120】
「間葉系前駆体又は幹細胞」という用語は、親細胞及びその未分化の子孫の両方を含む。この用語はまた、間葉前駆体細胞、多能性間質細胞、間葉幹細胞(MSC)、血管周囲間葉前駆体細胞、及びそれらの未分化子孫を含む。
【0121】
間葉系前駆体又は幹細胞は、自己、同種、異種、同系、又は同質であり得る。自己細胞は、それらが再移植される同じ個体から単離される。同種細胞は、同種のドナーから単離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。同系又は同質細胞は、例えば、双子、クローン、又は高度に近交系の研究動物モデルなどの遺伝的に同一の生物から単離される。
【0122】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、同種である。一例では、同種間葉系前駆体又は幹細胞を培養増殖して、凍結保存する。
【0123】
間葉系前駆体又は幹細胞は、主に骨髄に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、骨梁及び歯髄を含む多様な宿主組織に存在することも示されている。それらはまた、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜にも見出され、中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉などの生殖系列に分化することができる。したがって、間葉系前駆体又は幹細胞は、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織、筋肉組織、及び繊維性結合組織を含むが、これらに限定されない多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が入る特定の分化系列決定及び分化経路は、機械的影響、及び/又は、成長因子、サイトカインなどの内因性生物活性因子、及び/又は、宿主組織によって確立された局所的微小環境条件から受ける様々な影響に依存する。
【0124】
「濃縮された」、「濃縮」という用語、又はそれらの変形は、本明細書において、細胞集団を説明するために使用され、この細胞集団において、1種の特定の細胞型の割合又は多数の特定の細胞型の割合は、細胞の未処理の集団(例えば、それらの天然環境における細胞)と比較した場合、増加する。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞が濃縮された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%の間葉系前駆体又は幹細胞を含む。この点で、「間葉系前駆体又は幹細胞について濃縮された細胞の集団」という用語は、「X%の間葉系前駆体又は幹細胞を含む細胞の集団」という用語に明示的な支持を与えるために使用され、ここで、X%は、本明細書に記載されるパーセンテージである。間葉系前駆体又は幹細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニーを形成することができ、例えばCFU-F(線維芽細胞)又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)がこの活性を有することができる。
【0125】
本開示の一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、間葉幹細胞(MSC)である。MSCは、均質な組成物であってもよいし、MSCにおいて濃縮された混合細胞集団であってもよい。均質なMSC組成物は、接着性骨髄細胞又は骨膜細胞を培養することによって得られ得、MSCは、独自のモノクローナル抗体で識別される特定の細胞表面マーカーによって識別され得る。MSCにおいて濃縮された細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。MSCの代替的な供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、MSCは同種である。一例では、MSCは凍結保存される。一例では、MSCは、培養増殖されており、凍結保存されている。
【0126】
別の例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+MSCである。
【0127】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD166を含むマーカーを発現し、かつCD45及びCD31などの造血細胞表面抗原の発現を欠くMSCの集団から培養増殖される。例えば、間葉系前駆体又は幹細胞は、CD73+、CD90+、CD105+、CD166+、CD45-、及びCD31-であるMSCの集団から培養増殖され得る。一例では、MSCの集団は、低レベルの主要組織適合性複合体(MHC)クラスIによって更に特徴付けられる。別の例では、MSCは、主要組織適合性複合体クラスII分子について陰性であり、共刺激分子CD40、CD80、及びCD86について陰性である。一例では、培養増殖は、5継代を含む。
【0128】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、CD105+、CD156+、及びCD45-である。別の例では、間葉系前駆体又は幹細胞はまた、TNFR1を発現し、活性化リンパ球上のIL-2Rα発現を抑制する。
【0129】
単離又は濃縮された間葉系前駆体又は幹細胞は、培養によってインビトロで増殖させることができる。単離又は濃縮された間葉系前駆体又は幹細胞は、凍結保存され、解凍され、その後、培養によってインビトロで増殖させることができる。
【0130】
一例では、単離又は濃縮された間葉系前駆体又は幹細胞を、培養培地(無血清又は血清補充)、例えば、5%ウシ胎児血清(FBS)及びグルタミンを補充したアルファ最小必須培地(αMEM)中に50,000個の生存細胞/cm2で播種し、37℃、20%O2で一晩培養容器に付着させる。その後、必要に応じて培養培地を交換及び/又は変更し、細胞を更に68~72時間、37℃、5%O2で培養する。
【0131】
当業者には理解されるように、培養された間葉系前駆体又は幹細胞は、インビボでの細胞と表現型が異なる。例えば、一実施形態において、それらは、以下のマーカー、CD44、NG2、DC146、及びCD140bのうちの1種以上を発現する。培養された間葉系前駆体又は幹細胞は、インビボでの細胞とは生物学的にも異なり、インビボにおける大部分の非循環(静止)細胞と比較して、高い増殖率を有する。
【0132】
一例では、細胞の集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。この関連において、「選択可能な形態」という用語は、細胞が、STRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解される。マーカーはSTRO-1であり得るが、必ずしもそうである必要はない。例えば、本明細書に記載及び/又は例示されるように、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、間葉前駆体細胞)は、STRO-1も発現する(そしてSTRO-1ブライトであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であることを示すことは、細胞がSTRO-1発現によってのみ選択されることを意味しない。一例では、細胞は、少なくともSTRO-3発現、例えば、STRO-3+(TNAP+)に基づいて、選択される。
【0133】
細胞又はその集団の選択への言及は、必ずしも特定の組織源からの選択を必要としない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択され得るか、単離され得るか、又はそれから濃縮され得る。そうは言っても、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば、間葉前駆体細胞)又は血管組織もしくは周皮細胞(例えば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織、あるいは本明細書に記載された組織のうちのいずれか1種以上からなる任意の組織からの選択に対する支持を示す。
【0134】
一例では、本開示で使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から個別に又は集合的に選択される1種以上のマーカーを発現する。
【0135】
「個別に」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカーの群を個別に包含し、個々のマーカー又はマーカーの群が本明細書に個別に列挙されない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのようなマーカー又はマーカーの群を互いに個別かつ分割可能に定義し得ることを意味する。
【0136】
「集合的に」は、本開示が列挙されたマーカー又はマーカーの群の任意の数又は組み合わせを包含し、そのようなマーカー又はマーカーの群の数又は組み合わせが本明細書に具体的に列挙されていない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのような組み合わせ又はサブ組み合わせを、マーカー又はマーカーの群の任意の他の組み合わせから別々にかつ分割可能に定義し得ることを意味する。
【0137】
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)、及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPは、BAPである。一例では、本明細書で使用される場合、TNAPは、ブダペスト条約の規定の下で、2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株(寄託受託番号PTA-7282)によって産生されるSTRO-3抗体に結合することができる分子を指す。
【0138】
更に、一例では、STRO-1+細胞は、クローン原性CFU-Fを生じることができる。
【0139】
一例では、STRO-1+細胞のかなりの割合は、少なくとも2つの異なる生殖系列への分化が可能である。STRO-1+細胞が傾注し得る系統の非限定的な例としては、骨前駆体細胞(bone precursor cell)、胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆体(hepatocyte progenitor)、乏突起膠細胞及び星状細胞に進行するグリア細胞前駆体(glial cell precursor)を生成することができる神経制限細胞、神経細胞に進行する神経細胞前駆体(neuronal precursor)、心筋及び心筋細胞の前駆体(precursor)、グルコース応答性インスリン分泌膵ベータ細胞株などが挙げられる。他の系統としては、歯芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、ならびに以下の前駆体細胞(precursor cell):網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、角化細胞などの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑及び骨格筋細胞、精巣前駆体(testicular progenitor)、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、グリア、神経細胞、星状細胞及び乏突起膠細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、単一のドナー又は複数のドナーから得られ、ドナー試料又は間葉系前駆体もしくは幹細胞は、続いてプールされ、次いで培養増殖される。
【0141】
本開示に包含される間葉系前駆体又は幹細胞も、対象に投与する前に凍結保存され得る。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞を、対象に投与する前に、培養増殖し、凍結保存する。
【0142】
一例では、本開示は、間葉系前駆体又は幹細胞、ならびにその子孫、それに由来する可溶性因子、及び/又はそれから単離された細胞外小胞を包含する。別の例では、本開示は、間葉系前駆体又は幹細胞、ならびにそこから単離された細胞外小胞を包含する。例えば、細胞外小胞の細胞培養培地への分泌に適した期間と条件下で、本開示の間葉前駆体系又は幹細胞を培養増殖することが可能である。その後、分泌された細胞外小胞を、療法に使用するために、培養培地から得ることができる。
【0143】
本明細書で使用される場合、「細胞外小胞」という用語は、細胞から自然に放出され、サイズが約30nm~10ミクロン程度の範囲の脂質粒子を指すが、通常、それらはサイズが200nm未満である。それらは、放出細胞(例えば、間葉幹細胞、STRO-1+細胞)からの、タンパク質、核酸、脂質、代謝産物、又はオルガネラを含有し得る。
【0144】
本明細書で使用される「エクソソーム」という用語は、一般的に約30nmから約150nmの大きさで、哺乳類細胞の細胞膜に輸送されて放出されるエンドソーム小胞区画に由来する細胞外小胞の一種を指す。それらは、核酸(例えば、RNA、マイクロRNA)、タンパク質、脂質、及び代謝産物を含み、1つの細胞から分泌され、他の細胞に取り込まれ、荷物を運搬することにより、細胞間コミュニケーションで機能することができる。
【0145】
細胞の培養増殖
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞を培養増殖させる。「培養増殖された」間葉系前駆体又は幹細胞培地は、細胞培養培地中で培養され、継代培養された(すなわち、再培養された)という点で、新たに単離された細胞と区別される。一例では、培養増殖された間葉系前駆体又は幹細胞は、約4~10の継代にわたって培養増殖する。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞を、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10の継代にわたって培養増殖する。例えば、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも5の継代にわたって培養増殖できる。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~10の継代にわたって培養増殖できる。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~8の継代にわたって培養増殖できる。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~7の継代にわたって培養増殖できる。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、10代を超える継代にわたって培養増殖できる。別の例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、7代を超える継代にわたって培養増殖できる。これらの例では、幹細胞は、凍結保存される前に培養増殖してもよく、中間凍結保存MLPSC集団を提供する。一例では、本開示の組成物は、中間凍結保存MLPSC集団から調製される。例えば、中間凍結保存MLPSC集団は、後に更に考察するように、投与前に更に培養増殖され得る。したがって、一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、培養増殖され、凍結保存される。これらの例の一実施形態において、間葉系前駆体又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得ることができ、ドナー試料又は間葉系前駆体もしくは幹細胞は、その後プールされ、次いで培養増殖される。一例では、培養増殖プロセスは、
-i.継代増殖によって生存細胞の数を増加させ、少なくとも約10億個の生存細胞の調製物を提供することであって、継代増殖は、単離された間葉系前駆体又は幹細胞の一次培養物を確立することと、次いで、前の培養物から単離された間葉系前駆体又は幹細胞の第1の非一次(P1)培養物を連続的に確立することと、を含む、提供すること、
-ii.単離された間葉系前駆体又は幹細胞のP1培養物を、継代増殖によって間葉系前駆体又は幹細胞の第2の非一次(P2)培養物に増殖させること、
-iii.間葉系前駆体又は幹細胞のP2培養物から得られたプロセス内中間体である間葉系前駆体又は幹細胞調製物を調製し、凍結保存すること、及び
-iv.凍結保存されたプロセス内中間体である間葉系前駆体又は幹細胞調製物を解凍し、プロセス内中間体である間葉系前駆体又は幹細胞調製物の継代増殖によって増殖させることを含む。
【0146】
一例では、増殖された間葉系前駆体又は幹細胞調製物は、以下を含む抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する:
-i.約0.75%未満のCD45+細胞、
-ii.少なくとも約95%のCD105+細胞、
-iii.少なくとも約95%のCD166+細胞。
【0147】
一例では、増殖された間葉系前駆体又は幹細胞調製物は、対照と比較して、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2Rα発現を少なくとも約30%阻害することができる。
【0148】
一例では、培養増殖した間葉系前駆体又は幹細胞は、約4~10の継代にわたって培養増殖され、ここで、間葉系前駆体又は幹細胞は、更に培養増殖される前に、少なくとも2又は3の継代後に凍結保存される。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5の継代にわたって培養増殖され、凍結保存され、次いで、投与又は更に凍結保存される前に、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5の継代にわたって更に培養増殖される。
【0149】
一例では、本開示の組成物中の間葉系前駆体又は幹細胞の大部分は、ほぼ同じ世代数である(すなわち、それらは、互いの約1回又は約2回又は約3回又は約4回の細胞倍加以内である)。一例では、本組成物における細胞倍加の平均数は、約20~約25回の倍加である。一例では、本組成物における細胞倍加の平均数は、一次培養物から生じる約9~約13(例えば、約11又は約11.2)倍加、加えて、1継代当たり約1回、約2回、約3回、又は約4回の倍加(例えば、1継代当たり約2.5回の倍加)である。本組成物における例示的な平均細胞倍加は、それぞれ、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、及び約10の継代によって産生される場合、約13.5回、約16回、約18.5回、約21回、約23.5回、約26回、約28.5回、約31回、約33.5回、及び約36回のいずれかである。
【0150】
間葉系前駆体又は幹細胞単離及びエクスビボ増殖のプロセスは、当該技術分野で既知の任意の機器及び細胞取り扱い方法を使用して実施できる。本開示の様々な培養増殖の実施形態は、細胞の操作を必要とするステップ、例えば、播種、栄養補給、接着培養物の解離、又は洗浄のステップを使用する。細胞を操作する任意のステップは、細胞を損傷する可能性がある。間葉系前駆体又は幹細胞は、一般的に、調製中、ある程度の損傷に耐えることができるが、細胞への損傷を最小限に抑えながら、所与のステップ(複数可)を適切に実施する手順及び/又は機器を取り扱うことによって、細胞を操作することが好ましい。
【0151】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS6,251,295に記載されているように、細胞供給源バッグ、洗浄液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する紡績膜フィルター、濾液バッグ、混合ゾーン、洗浄された細胞のための最終生成物バッグ、ならびに適切なチューブを含む装置で洗浄される。
【0152】
一例では、本開示による間葉系前駆体又は幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であり、CD45陰性であることに関して、95%均一である。一例では、この均一性は、エクスビボ増殖、すなわち、複数の集団倍加によって、持続する。一例では、組成物は、少なくとも1つの治療用量の間葉系前駆体又は幹細胞を含み、間葉系前駆体又は幹細胞は、約1.25%未満のCD45+細胞、少なくとも約95%のCD105+細胞、及び少なくとも約95%のCD166+細胞を含む。一例では、この均一性は低温保存及び解凍後も持続し、細胞はまた、概して約70%以上の生存率も有する。
【0153】
一例では、本開示の組成物は、実質的なレベルのTNF-R1、例えば、100万個の間葉系前駆体又は幹細胞当たり13pg超のTNF-R1を発現する間葉系前駆体又は幹細胞を含む。一例では、この表現型は、エクスビボ増殖及び低温保存を通じて安定である。一例では、100万個の間葉系前駆体又は幹細胞当たり約13~約179pg(例えば、約13pg~約44pg)の範囲におけるTNF-R1のレベルの発現は、エクスビボ増殖及び凍結保存を通じても持続する所望の治療電位と関連付けられる。
【0154】
一例では、培養増殖された間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも110pg/mlの量で腫瘍壊死因子受容体1(TNF-R1)を発現する。例えば、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも150pg/ml、又は少なくとも200pg/ml、又は少なくとも250pg/ml、又は少なくとも300pg/ml、又は少なくとも320pg/ml、又は少なくとも330pg/ml、又は少なくとも340pg/ml、又は少なくとも350pg/mlの量でTNF-R1を発現することができる。
【0155】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも13pg/106個の細胞の量でTNF-R1を発現する。例えば、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも15pg/106個の細胞、又は少なくとも20pg/106個の細胞、又は少なくとも25pg/106個の細胞、又は少なくとも30pg/106個の細胞、又は少なくとも35pg/106個の細胞、又は少なくとも40pg/106個の細胞、又は少なくとも45pg/106個の細胞、又は少なくとも50pg/106個の細胞の量でTNF-R1を発現する。
【0156】
別の例では、本明細書に開示される間葉系前駆体又は幹細胞は、T細胞上のIL-2Rα発現を阻害する。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも約30%、代替的には少なくとも約35%、代替的には少なくとも約40%、代替的には少なくとも約45%、代替的には少なくとも約50%、代替的には少なくとも約55%、代替的には少なくとも約60%、IL-2Rα発現を阻害することができる。
【0157】
一例では、本開示の組成物は、例えば、少なくとも約1億個の細胞又は約1億2500万個の細胞を含むことができる、少なくとも1つの治療用量の間葉系前駆体又は幹細胞を含む。
【0158】
細胞の改変
一例では、本開示の間葉系前駆体又は幹細胞は、投与時に細胞の溶解が阻害されるような方法で変更され得る。抗原の変化は、免疫学的非反応性又は耐性を誘導することができ、それによって、正常な免疫反応における外来細胞の拒絶を最終的に引き起こす、免疫反応のエフェクター相(例えば、細胞傷害性T細胞生成、抗体産生など)の誘導を防止する。この目的を達成するために変更され得る抗原としては、例えば、MHCクラスI抗原、MHCクラスII抗原、LFA-3及びICAM-1が挙げられる。
【0159】
間葉系前駆体又は幹細胞もまた、横紋骨格筋細胞の分化及び/又は維持にとって重要なタンパク質を発現するように遺伝子改変され得る。例示的なタンパク質としては、成長因子(TGF-β、インスリン様成長因子1(IGF-1)、FGF)、筋原性因子(例えば、myoD、ミオゲニン、筋原性因子5(Myf5)、筋原性調節因子(MRF))、転写因子(例えば、GATA-4)、サイトカイン(例えば、カーディオトロピン-1)、ニューレグリンファミリーのメンバー(例えば、ニューレグリン1、2及び3)、ならびにホメオボックス遺伝子(例えば、Csx、ティンマン及びNKxファミリー)が挙げられる。
【0160】
本開示の間葉系前駆体又は幹細胞はまた、抗ウイルス剤又は血栓溶解剤を担持又は発現するように改変されることもできる。一例では、薬剤は、抗ウイルス薬である。一例では、薬剤は、抗インフルエンザ剤である。一例では、薬剤は、抗SARS-CoV(例えば、SARS-Cov2)である。例示的な薬剤は、レムデシビルである。一例では、薬剤は、血栓溶解薬である。血栓溶解剤の例として、Eminase(アニストレプラーゼ)、Retavase(レテプラーゼ)、Streptase(ストレプトキナーゼ、カビキナーゼ)が挙げられる。一例では、血栓溶解剤はヘパリンである。
【0161】
本開示の間葉前駆体又は幹細胞は、薬剤が細胞に吸収されることを可能にするのに十分な時間及び条件下で細胞を薬剤とともに培養することにより、抗ウイルス剤又は血栓溶解剤を担持するように改変され得る。一例では、抗ウイルス剤又は血栓溶解剤は、本明細書に開示される間葉系前駆体又は幹細胞の培養培地に添加される。例えば、本明細書に開示される間葉系前駆体又は幹細胞は、抗ウイルス剤又は血栓溶解剤を含む培養培地で培養増殖させることができる。
【0162】
別の例では、抗ウイルス剤又は血栓溶解剤は、ペプチドである。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、抗ウイルス又は血栓溶解ペプチド、又はそれをコードする核酸を発現するように遺伝子改変される。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、インビトロでウイルスベクターとの接触を介して改変される。例えば、ウイルスを細胞培養培地に添加することができる。遺伝子改変の非ウイルス法を用いてもよい。例としては、インテグラーゼ又はトランスポザーゼ技術、リポソーム又はタンパク質形質導入ドメイン媒介送達、及びエレクトロポレーションなどの物理的方法の使用によるプラスミド移動及び標的遺伝子組み込みの適用が挙げられる。
【0163】
遺伝子改変の効率は、稀に100%であり、通常、改変に成功した細胞の集団を濃縮することが望ましい。一例では、改変細胞は、新しい遺伝子型の機能的特徴を利用することによって濃縮することができる。改変細胞を富化する1つの例示的な方法は、選択可能な又はスクリーニング可能なマーカー遺伝子を使用する陽性選択である。「マーカー遺伝子」とは、マーカー遺伝子を発現する細胞に明確な表現型を付与する遺伝子を指し、したがって、そのような形質転換された細胞を、マーカーを有しない細胞と区別することができる。選択可能なマーカー遺伝子は、選択的薬剤(例えば、抗生物質)に対する耐性に基づいて「選択」することができる形質を付与する。スクリーニング可能なマーカー遺伝子(又はレポーター遺伝子)は、観察又は試験を通して、すなわち、「スクリーニング」(例えば、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、GFP、又は非形質転換細胞に存在しない他の酵素活性)によって識別することができる形質を付与する。一例では、遺伝子改変された間葉系前駆体又は幹細胞は、ネオマイシンなどの薬物に対する耐性、又はlacZの発現に基づく比色選択に基づいて選択される。
【0164】
本開示の組成物
本開示の一例では、間葉系前駆体もしくは幹細胞及び/又はそれらの子孫及び/又はそれらに由来する可溶性因子は、組成物の形態で投与される。一例では、そのような組成物は、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤を含む。したがって、一例では、本開示の組成物は、培養増殖された間葉系前駆体又は幹細胞を含むことができる。
【0165】
「担体」及び「賦形剤」という用語は、活性化合物の保存、投与、及び/又は生物学的活性を促進するために、当技術分野で従来から使用される物質の組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Mac Publishing Company(1980)を参照)。担体は、活性化合物の任意の望ましくない副作用も低減し得る。好適な担体は、例えば、安定しており、例えば、担体内の他の成分と反応することができない。一例では、担体は、治療に使用される用量及び濃度では、レシピエントに有意な局所的又は全身的有害作用を生じさせない。
【0166】
本開示に好適な担体としては、従来使用されているものが挙げられ、例えば、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、ラクトース、リンゲル溶液、緩衝溶液、ヒアルロナン及びグリコールが、特に(等張の場合)溶液のための例示的な液体担体である。好適な医薬担体及び賦形剤としては、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0167】
別の例では、担体は、例えば、細胞が成長又は懸濁される培地組成物である。例えば、そのような培地組成物は、それが投与された対象においていかなる副作用も誘発しない。
【0168】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能、及び/又は代謝症候群及び/又は肥満を軽減、予防、もしくは遅延させる細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0169】
一例では、担体又は賦形剤は、細胞及び/又は可溶性因子を好適なpHに維持するための緩衝活性を提供し、それによって生物学的活性を発揮し、例えば、担体又は賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、細胞及び因子の相互作用が最小限であり、細胞及び因子の迅速な放出を可能にするので、魅力的な担体又は賦形剤を示し、このような場合、本開示の組成物は、血流に、又は組織もしくは組織を取り囲むもしくは組織に隣接する領域に、例えば注射により直接適用するための液体として製造され得る。
【0170】
間葉系前駆体もしくは幹細胞及び/又はそれらの子孫及び/又はそれらに由来する可溶性因子はまた、レシピエント適合性であり、かつ、レシピエントに有害ではない生成物に分解する足場内に組み込まれ得るか、又は埋め込まれ得る。これらの足場は、レシピエント対象に移植される細胞に支持及び保護を提供する。天然及び/又は合成の生分解性足場は、そのような足場の例である。
【0171】
様々な異なる足場が、本開示の実施において成功裏に使用され得る。例示的な足場は、限定されないが、生物学的に分解可能な足場を含む。天然の生分解性足場は、コラーゲン、フィブロネクチン、及びラミニンの足場を含む。細胞移植の足場に好適な合成材料は、広範な細胞成長及び細胞機能を支持することができるはずである。そのような足場はまた、再吸収可能であってもよい。好適な足場としては、ポリグリコール酸足場(例えば、Vacanti,et al.J.Ped.Surg.23:3-9 1988、Cima,et al.Biotechnol.Bioeng.38:145 1991、Vacanti,et al.Plast.Reconstr.Surg.88:753-9 1991に記載されるような)、又はポリ酸無水物、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの合成ポリマーが挙げられる。
【0172】
別の例では、間葉系前駆体もしくは幹細胞及び/又はそれらの子孫及び/又はそれらに由来する可溶性因子は、ゲル足場(例えば、Upjohn CompanyのGelfoam)において投与され得る。
【0173】
本明細書に開示される組成物は、単独で、又は他の細胞との混合物として投与され得る。異なる種類の細胞は、投与直前又は投与の少し前に本開示の組成物と混合されてもよいか、あるいは投与前にある期間共培養されてもよい。
【0174】
一例では、組成物又は総用量は、有効量又は治療的もしくは予防的有効量の間葉系前駆体もしくは幹細胞、及び/又はその子孫、及び/又はそれに由来する可溶性因子を含む。例えば、総用量は、体重1キログラム当たり(細胞/kg)400万個超の間葉系前駆体又は幹細胞(MLPSC)を含む。別の例では、総用量は、600万個の細胞/kg超を含む。一例では、総用量は、500万個の細胞/kg超を含む。別の例では、対象は、600万個の細胞/kg超を投与される。別の例では、対象は、800万個の細胞/kg超を投与される。
【0175】
一例では、対象は、400万個のMLPSC/kg超が少なくとも2~3回の用量にわたって投与される。別の例では、対象は、少なくとも3回の用量を受ける。別の例では、対象は、第1の用量が投与されてから5~9日以内に、400万個のMLPSC/kg超を受ける。別の例では、対象は、第1の用量が投与されてから7日以内に、400万個のMLPSC/kg超を受ける。これらの例では、用量は、1用量当たり1×108~2.5×108個の細胞を含む。例えば、用量は、1.6×108個の細胞を含む。別の例では、用量は、200万個の細胞/kgを含む。
【0176】
一例では、組成物は、5.00×106個の生存細胞/mL超を含む。別の例では、組成物は、5.50×106個の生存細胞/mL超を含む。別の例では、組成物は、6.00×106個の生存細胞/mL超を含む。別の例では、組成物は、6.50×106個の生存細胞/mL超を含む。別の実施例において、組成物は、6.68×106個の生存細胞/mL超を含む。
【0177】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を構成する。
【0178】
本開示の組成物は、凍結保存してもよい。間葉系前駆体又は幹細胞の凍結保存は、当技術分野で既知の低速冷却方法又は「高速」凍結プロトコルを使用して、行われることができる。好ましくは、凍結保存方法は、未凍結細胞と比較して、凍結保存細胞の同様の表現型、細胞表面マーカー、及び成長率を維持する。
【0179】
凍結保存された組成物は、凍結保存溶液を含み得る。凍結保存溶液のpHは、通常、6.5~8、好ましくは7.4である。
【0180】
凍結保存溶液は、例えば、PlasmaLyte A(商標)などの滅菌された非発熱性等張溶液を含み得る。100mLのPlasmaLyte A(商標)は、526mgの塩化ナトリウムUSP(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7)、368mgの酢酸ナトリウム三水和物USP(C2H3NaO2・3H2O)、37mgの塩化カリウムUSP(KCl)、及び30mgの塩化マグネシウムUSP(MgCl2・6H2O)を含有する。抗菌剤は、含まれない。pHは、水酸化ナトリウムで調整する。pHは7.4(6.5~8.0)である。
【0181】
凍結保存溶液は、Profreeze(商標)を含み得る。凍結保存溶液は、追加的又は代替的に、培養培地、例えば、αMEMを含み得る。
【0182】
凍結を容易にするために、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護剤を、通常、凍結保存溶液に加える。理想的には、凍結保護剤は、細胞及び患者にとって非毒性であり、非抗原性であり、化学的に不活性であり、解凍後の高い生存率を提供し、洗浄せずに移植できるようにするべきである。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤、DMSOは、いくらかの細胞毒性を示す。ヒドロキシルエチルデンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞毒性を低減するために、DMSOの代替物として、又はDMSOと組み合わせて使用され得る。
【0183】
凍結保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分、及び他のタンパク質増量剤のうちの1種以上を含み得る。一例では、凍結保存溶液は、約5%のヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%のDMSOを含む。凍結保存溶液は、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、及びトレハロースのうちの1つ以上を更に含み得る。
【0184】
一実施形態では、細胞を42.5%Profreeze(商標)/50%αMEM/7.5%DMSO中に懸濁し、制御速度冷凍庫中で冷却する。
【0185】
凍結保存された組成物は、解凍されて対象に直接投与されてもよいか、又は例えばHAを含む別の溶液に添加されてもよい。代替的に、凍結保存された組成物を解凍し、投与前に間葉系前駆体又は幹細胞を代替キャリアに再懸濁し得る。
【0186】
一例では、本開示の細胞組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びヒト血清アルブミン(HSA)を含むことができる。例えば、本開示の組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み得、HSA溶液は、5%のHSA及び15%の緩衝液を含む。
【0187】
一例では、本明細書に記載の組成物は、単回用量として投与され得る。
【0188】
いくつかの例では、本明細書に記載の組成物は、複数回用量にわたって投与され得る。例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回の用量。他の例では、本明細書に記載の組成物は、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回の用量にわたって投与され得る。
【0189】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、対象に投与する前に培養増殖され得る。細胞培養の様々な方法が、当該技術分野で既知である。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、約4~10の継代にわたって培養増殖される。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10の継代にわたって培養増殖される。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、少なくとも5の継代にわたって培養増殖される。これらの例では、幹細胞は、凍結保存される前に培養増殖され得る。
【0190】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、投与前に無血清培地中で培養増殖される。
【0191】
いくつかの例では、細胞は、細胞が対象の循環に出ることは許容しないが、細胞によって分泌される因子が循環に入ることを許容するチャンバ内に含まれる。このようにして、可溶性因子は、細胞が対象の循環内に因子を分泌することを許容することによって対象に投与され得る。そのようなチャンバは、可溶性因子の局所レベルを増加させるために、対象の部位に同様に植え込むことができる。
【0192】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、全身的に投与され得る。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、対象の気道に投与され得る。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、対象の肺(複数可)に投与され得る。別の例では、本開示の組成物は、静脈内に投与される。別の例では、組成物は、静脈内投与され、対象の気道に投与される。
【0193】
一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、週2回投与される。一例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、毎月1回投与され得る。一例では、2回用量の間葉系前駆体又は幹細胞が、2週間にわたって週1回投与される。別の例では、2回用量の間葉系前駆体又は幹細胞が、2週間毎に週1回投与される。別の例では、4回用量の間葉系前駆体又は幹細胞が、後続の用量が毎月投与される前に、2週間にわたって投与される。一例では、2回用量の間葉系前駆体又は幹細胞は、後続の用量が毎月1回投与される前に、2週間毎に週1回投与され得る。一例では、4回用量が毎月投与される。
【0194】
一例では、本開示の組成物は、「臨床的に証明された有効な」量のMLPSCを含む。一例では、本開示の組成物は、「臨床的に証明された有効な」量のMSCを含む。
【0195】
本開示の広範な一般的範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対して多数の変形及び/又は修正が行われ得ることが、当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0196】
以下の具体的な実施例は、単に例示として解釈すべきであり、いかなる方法においても本開示の残りの部分を限定するものではないと解釈すべきである。当業者は、更なる詳細を伴わずに、本明細書の説明に基づいて本発明を最大限に利用できると考えられる。
【実施例】
【0197】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための、エクスビボで培養増殖された成人同種骨髄由来間葉幹細胞(MSC)
組成物
組成物は、健常な成人ドナーの骨髄から単離された、培養増殖された間葉幹細胞(ceMSC)からなる。最終組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びヒト血清アルブミン(HSA)中に製剤化されたceMSCを含む。
【0198】
目的
以下を決定すること:
-安全性
-生存及び呼吸機能の改善
-バイオマーカーレベルの変化。
【0199】
対象
中等度のCOVID-19関連ARDSを有することを特徴とする患者は、間葉幹細胞(静脈内、3~5日以内に200万(2×10
6)個の細胞/kg×2回用量の固定投薬レジメン)又は対照療法を受けた。125人の患者は、<65歳であった(すなわち、<65歳の治療企図(ITT)集団、表1)。<65歳のITT集団の58人が細胞療法を受け、67人が対照療法を受けた。一部の<65歳のITT患者は、循環CRP<4によって特徴付けられるように、軽度のARDS及び/又は低レベルの炎症を有すると同定された。これらの患者は、パープロトコル(PP)患者集団から除外された。したがって、PP集団は、(125人から)89人に減少し、38人が細胞療法を受け、51人が対照療法を受けた。更に、PP集団は、全て中等度から重度のARDSを有していたため、一貫して最も重度の疾患を有する研究集団を表す。97人の患者は、>65歳であった(すなわち、>65歳の治療企図(ITT)集団、表1)。>65歳のITT集団のうち54人が細胞療法を受け、43人が対照療法を受けた。一部の>65歳のITT患者は、分析から除外され、総患者数を94人に減少させた(修正された治療企図集団(mITT)と称される)。
【表2】
【0200】
分析
治療された患者の分析は、細胞療法は、65歳を超える患者(
図1及び2;B)と比較して、65歳未満の患者(
図1及び2;A)における60日目の死亡に対する有意な保護を提供することを驚くべきことに明らかにした。有意には、65歳未満の患者における60日目の死亡に対する保護は、治療企図(ITT)患者(対照と比較して38.3%の死亡の減少、p=0.0484、
図1)及びパープロトコル(PP)患者(対照と比較して43.3%の死亡の減少、p=0.0285、
図2)の両方において明らかであった。
図1及び2にも示されるように、ITT患者と比較して、PP患者においてより大きな死亡の減少が観察された。PP患者は、ITT患者よりも一貫して重篤な疾患を有していたため、これは予期しない転帰である。
【0201】
治療された患者の更なる分析は、7日目から30日目までの<65歳の患者における呼吸機能の持続的な改善を明らかにした(
図3、無作為化後7日目、14日目、21日目、及び30日目のベルリン基準によって定義される、ARDSの解消及び/又は改善としての改善尺度)。>65歳の治療された患者においても、改善された呼吸機能が観察された(
図3)。しかしながら、<65歳の患者とは対照的に、14日目以降の>65歳の治療された対象では、呼吸機能の改善が持続しなかった(
図3)。これらの所見は、>65歳の患者におけるより高度な又はより長期の投薬(すなわち、400万個の細胞/kg超)の必要性を支持する。
【0202】
バイオマーカー分析
炎症性バイオマーカーのレベルを、ベースライン時、及び細胞療法(3~5日以内に200万(2×10
6)個の細胞/kg×2回用量の固定投薬レジメン)での治療後、107人の治療された患者及び106人の対照(治療された<65 n=55、対照<65 n=65、治療された>65 n=52、対照>65 n=41)で測定した。細胞療法は、<65歳の患者において、3日目、7日目、及び14日目のCRPレベル(
図4A)ならびに7日目及び14日目のフェリチンレベル(
図4B)を有意に低減させた。しかしながら、>65歳の患者では同様の結果は観察されず、これらの患者におけるより高度な又はより長期の投薬のための上記の参照される要件を更に支持した(
図4A及び4B)。細胞療法は、全ての治療された患者におけるD-ダイマーレベルの有意な増加を防止した(
図4C)。
【0203】
<65歳の治療された対象と>65歳の治療された対象との間の炎症性バイオマーカーレベルを比較することは、より高度な又はより長期の投薬(すなわち、400万個の細胞/kg超)での治療のための患者を選択するための測定可能な基準を特定するための独自の機会を提供した。驚くべきことに、
図5及び6に示すように、年齢>65歳は、患者がコルチコステロイドを使用していたかどうかにかかわらず、ベースラインでの炎症活性の増加と関連しているようである。実際、ベースラインでコルチコステロイドを使用している全ての患者の分析では、>65歳の患者では、<65歳の患者と比較して、>5倍の高い炎症活性(サイトカイン/ケモカイン)が示された。
【0204】
図5は、65歳超の患者が、<65歳の患者よりも高いベースラインレベルの炎症性サイトカイン/ケモカイン、特に:
【0205】
(i)CCR2結合ケモカイン(CXCL10/IP10及びCXCL9を含む)及びCXCR3結合ケモカイン(CCL2、CCL3、及びCCL7/MCP3を含む)。ケモカインのこのグループは、肺への好中球及びマクロファージ流入の増加を示す。
(ii)マクロファージ炎症の増加及び肺への好中球遊走の増大を示すIL-6及びIL-8。
(ii)T細胞活性化/増殖及びアポトーシス死を示すCCL19及びIL-2。
を有したことを示す。
【0206】
>65の患者で増加した他の炎症性バイオマーカーとしては、TGF-アルファ、TNF、CXCL8、G-CSF/CSF-3、及びIL17Cが挙げられた(
図5及び6)。
【0207】
<65歳の患者と>65歳の患者との間の炎症経路の比較は、>65歳の患者及び/又はバイオマーカーが、定義されたベースラインでの炎症活性の増加を有する患者における、より高度な又はより長期の投薬に対する上記の参照される要件に対する更なる支持を明らかにした。<65歳の患者は、ベースラインレベルが低いにもかかわらず、>65歳の患者と同じ炎症経路を発現した。<65歳の患者において、細胞療法は、特に、<65歳の患者におけるCOVID-19 ARDS重症度に関連する炎症マーカー、特に:
-肺への好中球及びマクロファージ流入の減少をもたらす可能性が高い、CCR2及びCXCR3に結合するケモカイン、
-IL-18駆動のインフラマソームの減少、及びマクロファージ活性化/肺への好中球ホーミングの減少を示す、IL-6/IL-8/TNF/IL-18、
-T細胞流入及び活性化の減少を示す、減少したCCL19、及びIL-4/IL-13/GM-CSFを低減させた。
【0208】
同じ経路が年齢に関係なく患者に関与しているため、これらの経路が>65歳の患者でより高レベルで過剰発現されたままであることを示すデータは、より高度な投薬レジメンで使用された場合、細胞療法が高齢の患者(又はより高いベースラインレベルの炎症を有する患者)にも効果的であることを示唆している。
【0209】
要約すれば:
-<65歳の治療された患者では、炎症経路が下方制御され(
図5及び6)、これは、予後の改善(
図1及び2)及び呼吸機能の持続的な改善(
図3)に対応した;
-7日目に>65歳の治療された患者において、改善された呼吸機能が観察されたが、持続しなかった(
図3);後続のバイオマーカー分析は、これらの患者がより高いベースラインレベルの炎症を有することを明らかにした(
図5及び6);
-バイオマーカー分析により、年齢にかかわらず(<65歳対>65歳)、同様の炎症経路がARDS患者に関与していることが明らかになった。したがって、>65歳の患者で観察されるより高いベースラインレベルの炎症と、これらの患者で7日目に観察される肺機能の初期改善とを合わせると、改善された転帰(例えば、<65歳の患者と同等の転帰)は、幹細胞のより高度な又はより長期の投薬で達成されることができることを示す。
【0210】
特に、データは、2×106個の細胞/kg×2回用量(すなわち、400万個の細胞/kg)を投与する事を含む投薬レジメンが、ベースラインで炎症性バイオマーカーのベースラインレベルの増加を有する患者及び/又は>65歳の患者において治療上有効であることを示唆する。
【0211】
(安全性)
注入関連の有害事象は認められなかった。
【0212】
当業者であれば、広範に説明される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変形及び/又は修正が特定の実施形態に示されるように本発明に加えられてもよいことを理解する。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0213】
上で考察された全ての刊行物は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0214】
本出願は、2021年4月23日に出願されたAU2021901214、2021年7月15日に出願されたAU2021902180、2022年2月9日に出願されたAU2022900260、及び2022年2月18日に出願されたAU2022900372からの優先権を主張し、それらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0215】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品などの任意の議論は、単に本発明の文脈を示す目的のためである。これらの事項の一部又は全部が、本出願の各請求項の優先日以前に存在した、本発明に関連する分野における先行技術基盤の一部を形成していること、又は一般的な一般知識であったことを認めるものと解釈してはならない。
【国際調査報告】