(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ビス-ホウ素縮合複素環を含有する蛍光色素及び配列決定における使用
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240405BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240405BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240405BHJP
C07H 19/10 20060101ALI20240405BHJP
C07H 19/14 20060101ALI20240405BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C07F5/02 D
C12Q1/6869 Z
C12N15/11 Z
C07H19/10 CSP
C07H19/14
C07H21/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565315
(86)(22)【出願日】2022-05-02
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2022061723
(87)【国際公開番号】W WO2022233795
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502279294
【氏名又は名称】イルミナ ケンブリッジ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】コリンガム,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ロマノフ,ニコライ ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シャオハイ
(72)【発明者】
【氏名】ピエンコシ,ユスティナ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C057
4H048
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS36
4B063QX02
4C057BB02
4C057DD03
4C057LL17
4C057LL19
4C057LL26
4C057LL42
4C057MM04
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB20
4H048VA11
4H048VA20
4H048VA22
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA40
4H048VA77
4H048VB10
(57)【要約】
本出願は、ビス-ホウ素縮合複素環を含有する置換色素及び蛍光標識としてのそれらの使用に関する。それらの化合物は、核酸配列決定用途におけるヌクレオチドの蛍光標識として使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】
その塩又はメソメリー形態であって、
R
1、R
2、R
3及びR
4の各々が、独立して、H、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
1-C
6ヒドロキシアルキル、(C
1-C
6アルコキシ)(C
1-C
6アルキル)、非置換若しくは置換アミノ、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、ニトロ、スルホニル、スルフィノ、スルホ、スルホネート、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、非置換若しくは置換C
3-C
10カルボシクリル、非置換若しくは置換C
6-C
10アリール、非置換若しくは置換5~10員ヘテロアリール、又は非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルであり、
R
a、R
b、R
c及びR
dの各々が、独立して、ハロ、シアノ、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
6-C
10アリール、C
6-C
10アリールオキシ、又は-O-C(=O)R
5であり、
代替的に、R
a及びR
bの両方が-O-C(=O)R
5である場合、2個のR
5が、それらが結合している原子と一緒に、非置換又は置換6~10員ヘテロシクリルを形成し、R
c及びR
dの両方が-O-C(=O)R
5である場合、2個のR
5が、それらが結合している原子と一緒に、非置換又は置換6~10員ヘテロシクリルを形成し、
R
5が、非置換又は置換C
1-C
6アルキルであり、
環Aが、1つ以上のR
6で任意選択的に置換された6~10員ヘテロアリールであり、
各R
6が、独立して、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
1-C
6 ヒドロキシアルキル、(C
1-C
6アルコキシ)(C
1-C
6アルキル)、-NR
7R
8、ハロ、シアノ、カルボキシル、ヒドロキシ、ニトロ、スルホニル、スルフィノ、スルホ、スルホネート、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、非置換又は置換C
3-C
10カルボシクリル、非置換若しくは置換C
6-C
10アリール、非置換若しくは置換5~10員ヘテロアリール、又は非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルであり、
R
7及びR
8の各々が、独立して、H、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキルであるか、又はR
7及びR
8が、それらが結合している窒素原子と一緒に、非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルを形成し、
ただし、R
1、R
2、R
3、R
4及び環Aの少なくとも1つがカルボキシル基を含む、化合物、その塩又はメソメリー形態。
【請求項2】
環Aが、1つ以上のR
6で任意選択的に置換された6員ヘテロアリールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(Ia)又は(Ib)の構造
【化2】
又はその塩若しくはメソメリー形態を有し、式中、mは、0、1、2、又は3である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
式(Ic)、(Id)又は(Ie)の構造
【化3】
又はその塩若しくはメソメリー形態を有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
各R
6が、独立して、ハロ、シアノ、カルボキシル、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキル、非置換フェニル、カルボキシルで置換されたフェニル、非置換5員ヘテロアリール、カルボキシルで置換された5員ヘテロアリール、又は-NR
7R
8である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
R
6が-NR
7R
8であり、R
7がHであり、R
8が、カルボキシル、スルホ及びスルホネートからなる群から選択される1つ以上の置換基で置換されたC
1-C
6アルキルであるか、又はR
7及びR
8が、それらが結合している窒素原子と一緒に、カルボキシルで任意選択的に置換された3~10員ヘテロシクリルを形成する、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
R
6が、
【化4】
であり、環構造の各々が、カルボキシルで任意選択的に置換されている、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
R
1、R
2及びR
3の各々が、Hである、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
R
1、R
2及びR
3の各々が、独立して、非置換C
1-C
6アルキルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
R
1及びR
3の各々が、メチルであり、R
2が、エチルである、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
R
1、R
2及びR
3のうちの2つが、H又は非置換C
1-C
6アルキルであり、R
1、R
2及びR
3のうちの1つが、ハロ、カルボキシル又はカルボキシルで置換されたC
1-C
6アルキルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
R
4が、H又は非置換C
1-C
6アルキルである、請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
R
4が、各々、カルボキシルで置換されたC
1-C
6アルキル又はフェニルである、請求項1~10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
R
a及びR
bの各々が、独立して、フルオロ、シアノ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、又は-O-アシル(-OC(=O)CH
3)である、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項15】
R
a及びR
bの両方が、フルオロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、又は-O-アシルである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
R
a及びR
bの両方が、-OC(=O)R
5であり、2つのR
5が、それらが結合している原子と一緒に、構造
【化5】
を有する6員ヘテロシクリルを形成する、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
R
c及びR
dの各々が、独立して、フルオロ、シアノ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、又は-O-アシル(-OC(=O)CH
3)である、請求項1~16のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項18】
R
c及びR
dの両方が、フルオロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、又は-O-アシルである、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
R
c及びR
dの両方が、-OC(=O)R
5であり、2つのR
5が、それらが結合している原子と一緒に、構造
【化6】
を有する6員ヘテロシクリルを形成する、請求項1~16のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項20】
【化7】
【化8】
【化9】
並びにそれらの塩及びメソメリー形態からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物で標識された、ヌクレオチド。
【請求項22】
前記化合物が、式(I)のカルボキシル基を介して前記ヌクレオチドに結合している、請求項21に記載の標識されたヌクレオチド。
【請求項23】
前記化合物が、リンカー部分を介して、ピリミジン塩基のC5位置又は7-デアザプリン塩基のC7位置に結合している、請求項21又は22に記載の標識されたヌクレオチド。
【請求項24】
前記ヌクレオチドのリボース糖又はデオキシリボース糖に共有結合した3’ヒドロキシブロッキング基を更に含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の標識されたヌクレオチド。
【請求項25】
請求項21~24のいずれか一項に記載の標識されたヌクレオチドが組み込まれたオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド。
【請求項26】
前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドが、固体支持体の表面上に固定化された標的ポリヌクレオチドに少なくとも部分的に相補的であり、ハイブリダイズされる、請求項25に記載のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド。
【請求項27】
前記固体支持体が、その上に固定化された複数の標的ポリヌクレオチドのアレイを含む、請求項26に記載のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド。
【請求項28】
請求項21~24のいずれか一項に記載の第1のタイプの標識されたヌクレオチドを含む、キット。
【請求項29】
第2のタイプの標識されたヌクレオチドを更に含み、前記第2のタイプの標識されたヌクレオチドが、前記第1のタイプの標識されたヌクレオチドとは異なる化合物で標識されている、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
第3のタイプのヌクレオチド及び第4のタイプのヌクレオチドを更に含み、前記第2のタイプのヌクレオチド、前記第3のタイプのヌクレオチド、及び前記第4のタイプのヌクレオチドの各々が、異なる化合物で標識されており、各標識が、他の標識と区別可能である別個の吸光度最大値を有する、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記キットが、4つのタイプのヌクレオチドを含み、第1のタイプのヌクレオチドが、請求項21~24のいずれか一項に記載の標識されたヌクレオチドであり、第2のタイプのヌクレオチドが第2の標識を担持し、第3のタイプのヌクレオチドが第3の標識を担持し、第4のタイプのヌクレオチドが、未標識(暗色)である、請求項28に記載のキット。
【請求項32】
前記キットが、4つのタイプのヌクレオチドを含み、第1のタイプのヌクレオチドが、請求項21~24のいずれか一項に記載の標識されたヌクレオチドであり、第2のタイプのヌクレオチドが第2の標識を担持し、第3のタイプのヌクレオチドが2つの標識を担持する第3のタイプのヌクレオチドの混合物を含み、第4のタイプのヌクレオチドが、未標識(暗色)である、請求項28に記載のキット。
【請求項33】
DNAポリメラーゼ及び1つ以上の緩衝組成物を更に含む、請求項28~32のいずれか一項に記載のキット。
【請求項34】
複数の標的ポリヌクレオチドの配列を決定する方法であって、
(a)固体支持体を、配列決定プライマーを含む溶液と、ハイブリダイゼーション条件下で接触させることであって、前記固体支持体が、その上に固定化された複数の異なる標的ポリヌクレオチドを含み、前記配列決定プライマーが、前記標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分に相補的である、接触させることと、
(b)前記固体支持体を、DNAポリメラーゼ及び4つの異なるタイプのヌクレオチドのうちの1つ以上を含む水溶液と、DNAポリメラーゼ媒介プライマー伸長に好適な条件下で接触させることであって、前記標識されたヌクレオチドのうちの少なくとも1つが、請求項21~24のいずれか一項に記載のヌクレオチドである、接触させることと、
(c)1つのタイプのヌクレオチドを前記配列決定プライマーに組み込んで、伸長されたコピーポリヌクレオチドを生成することと、
(d)組み込まれた前記ヌクレオチドの同一性を決定するために、前記伸長されたコピーポリヌクレオチドの1つ以上の蛍光測定を実行することと、を含む、方法。
【請求項35】
(e)前記伸長されたコピーポリヌクレオチドに組み込まれた前記ヌクレオチドから前記標識及び3’ブロッキング基を除去することを更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
(f)前記組み込まれたヌクレオチドからの前記標識及び前記3’ブロッキング基の前記除去の後に、前記固体支持体を洗浄することを更に包む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分の配列が決定されるまで工程(b)~(f)を繰り返すことを更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
工程(b)~(f)が、少なくとも50、100、150、200、250、又は300サイクル繰り返される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記伸長されたコピーポリヌクレオチドに組み込まれた前記ヌクレオチドからの前記標識及び前記3’ブロッキング基が、単一の化学反応で除去される、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記方法が、自動配列決定機器で実行され、前記自動配列決定機器が、異なる波長で動作する2つの光源を含む、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
1つの光源が、約450nm~約460nmで動作する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記4つのタイプのヌクレオチドが、dATP、dCTP、dGTP、及びdTTP若しくはdUTP、又はそれらの非天然ヌクレオチド類似体を含む、請求項34~41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ビス-ホウ素縮合複素環を含有する蛍光色素、及び核酸配列決定用途におけるヌクレオチドの蛍光標識としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光標識を有する核酸の非放射性検出は、分子生物学における重要な技術である。組換えDNA技術で用いられる多くの手順は、以前、例えば、32Pで放射性標識されたヌクレオチド又はポリヌクレオチドの使用に依存した。放射性化合物は、核酸及び他の目的の分子の高感度な検出を可能にする。しかしながら、放射性同位体の使用には、それらの費用、制限された貯蔵寿命、不十分な感度及びより重要なことに、安全性の考慮事項などの重大な制限がある。放射性標識の必要性を排除すると、安全性リスク及び環境への影響の両方、並びに例えば、試薬廃棄に関連するコストが低減する。非放射性蛍光検出に適した方法としては、非限定的な例として、自動化されたDNA配列決定、ハイブリダイゼーション方法、ポリメラーゼ鎖反応生成物のリアルタイム検出、及び免疫アッセイが挙げられる。
【0003】
多くの用途について、複数の空間的に重複する分析物の独立した検出を達成するために、複数の分光的に区別可能な蛍光標識を用いることが望ましい。かかる多重方法では、反応容器の数を低減して、実験プロトコルを簡素化し、適用特異的試薬キットの生成を容易にすることができる。例えば、多色の自動化されたDNA配列決定システムでは、多重蛍光検出は、単一の電気泳動レーンにおける複数のヌクレオチド塩基の分析を可能にし、それによって、単色の方法と比較してスループットを増加させ、レーン間電気泳動移動度の変動に関連する不確実性を低減する。
【0004】
しかしながら、多重蛍光検出は、問題となり得、適切な蛍光標識の選択を制約するいくつかの重要な要因がある。第1に、所与の用途において、実質的に分解された吸収及び発光スペクトルで色素化合物を見つけることは困難であり得る。加えて、いくつかの蛍光色素が一緒に使用される場合、色素の吸収バンドが通常広く分離されているため、同時励起によって区別可能なスペクトル領域で蛍光シグナルを生成することは複雑であり得、そのため2つの色素に対してでも同等の蛍光励起効率を達成することは、困難である。多くの励起方法は、レーザーのような高電力光源を使用し、したがって、色素は、かかる励起に耐えるのに十分な光安定性を有しなければならない。分子生物学方法にとって特に重要な最終的な考慮事項は、蛍光色素が、例えば、DNA合成溶媒及び試薬、緩衝液、ポリメラーゼ酵素、並びにリガーゼ酵素などの試薬化学物質と適合性でなければならない程度である。
【0005】
配列決定技術の進歩として、更なる蛍光色素化合物、それらの核酸コンジュゲート、及び全ての上記の制約を満たし、かつ特に固相配列決定などの高スループット分子方法に適した複数の色素セットの必要性が開発されている。
【0006】
蛍光バンドの好適な蛍光強度、形状、及び波長最大値のような蛍光特性を改善した蛍光色素分子は、核酸配列決定の速度及び精度を改善することができる。蛍光シグナルが強いことは、測定が、水性の生物学的緩衝液中かつ高温下で行われる場合には、大部分の有機色素の蛍光強度がそのような条件下で著しく低いため、特に重要である。更に、色素が付着している塩基の性質はまた、蛍光最大値、蛍光強度、及び色素の他のスペクトル特性に影響を及ぼす。核酸塩基と蛍光色素との間の、配列特異的相互作用は、蛍光色素の具体的な設計によって調整することができる。蛍光色素の構造を最適化することにより、ヌクレオチドの組み込み効率を改善し、配列決定エラーのレベルを低減させ、核酸配列決定における試薬の使用量を減少させ、その結果、核酸配列決定のコストを低減させることができる。
【0007】
いくつかの光学的及び技術的開発は、既に、画質を大幅に向上させてきたが、最終的には、不十分な光学解像度によって制限された。一般に、光学顕微鏡の光学解像度は、使用される光の波長のおよそ半分の距離で離間した物体どうしを見分けるレベルに限定される。実際的な用語では、互いに非常に遠く離れた(少なくとも200~350nm)物体どうしのみが、光学顕微鏡法によって見分けることができる。画像解像度を改善し、単位表面積当たりで見分けることができるオブジェクトの数を増加させる1つの方法は、より短い波長の励起光を使用することである。例えば、同じ光学系を用いて、波長がΔλ約100nmだけ短縮されると、解像度がより良好になり(約Δ50nm/(約15%))、歪みの少ない画像が記録され、認識可能な領域上の物体の密度が約35%増加する。
【0008】
特定の核酸配列決定法は、色素標識されたヌクレオチドを励起及び検出するためにレーザー光を用いる。これらの機器は、660nmで励起可能な適切な色素とともに、赤色レーザーなどのより長い波長の光を使用する。有用な解像度を維持しながら、より密集した核酸配列決定クラスターを検出するためには、より短波長の青色光源(450~460nm)を使用することができる。この場合、光学解像度は、長波長赤色蛍光色素の発光波長によって限定されなくてもよく、むしろ、次に長い波長光源、例えば、緑色レーザー(532nm)によって励起可能な色素の発光によって制限されるであろう。したがって、配列決定用途における蛍光検出における使用のための青色色素標識が必要とされている。
【0009】
青色色素の化学的性質及び関連するレーザー技術は改善されているが、ヌクレオチド標識のための強い蛍光を有する適切な市販の青色色素は、依然として非常に稀である。しかし、特定の青色色素、特にクマリン色素は、水性環境において長期間安定ではない。例えば、塩基性条件では、クマリン色素は、求核剤によって容易に攻撃され得、したがって、色素の外乱又は劣化をもたらした。BODIPY、BOPHY、BOPPY、BOPYPY、BOAHY及びBOPAHYなどのホウ素含有蛍光色素が、いくつかの科学文献及び特許公報に報告されている。例えば、J Am Chem Soc 2014,136(15)、5623-5626,Organic Letters 2014,16(11)、3048-3051,Organic Letters 2018,20(15)、4462-4466,Chinese Chemical Letters 2019,30:2271-2273,Organic Letters 2020,22(12)、4588-4592,Chem Communications 2020,56(43)、5791-5794,Chemistry A Eur J 2020,26(4)、863-872、国際公開第2015/77427号及び中国特許第108516985(A)号である。しかしながら、配列決定用途のための核酸標識として、適切な吸着、良好な化学安定性及びストークスシフトを有する新しいホウ素含有色素を設計することは、依然として困難である。
【発明の概要】
【0010】
改善された化学安定性及び青色光励起(例えば、青色LED又はレーザー、例えば約450nm~約460nm)下での強い蛍光を有するビス-ホウ素縮合複素環を含有する新しいクラスの色素が本明細書に記載される。これらの色素はまた、核酸標識に好適な高度に調整可能な吸収及び発光特性を有する。
【0011】
本開示の1つの態様は、式(I)の化合物、又はその塩若しくはメソメリー形態に関し、
【0012】
【化1】
R
1、R
2、R
3及びR
4の各々が、独立して、H、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
1-C
6ヒドロキシアルキル、(C
1-C
6アルコキシ)(C
1-C
6アルキル)、非置換若しくは置換アミノ、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、ニトロ、スルホニル、スルフィノ、スルホ、スルホネート、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、非置換若しくは置換C
3-C
10カルボシクリル、非置換若しくは置換C
6-C
10アリール、非置換若しくは置換5~10員ヘテロアリール、又は非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルであり、
各R
a、R
b、R
c及びR
dが独立して、ハロ、シアノ、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
6-C
10アリール、C
6-C
10アリールオキシ、又は-O-C(=O)R
5であり、
代替的に、R
a及びR
bの両方が-O-C(=O)R
5である場合、2個のR
5は、それらが結合している原子と一緒に、非置換又は置換6~10員ヘテロシクリルを形成し、R
c及びR
dの両方が-O-C(=O)R
5である場合、2つのR
5は、それらが結合している原子と一緒に、非置換又は置換6~10員ヘテロシクリルを形成し、
R
5が、非置換又は置換C
1-C
6アルキルであり、
環Aが、1つ又は2つ以上のR
6で任意に置換された6~10員ヘテロアリールであり;
各R
6が、独立して、非置換又は置換C
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
1-C
6ヒドロキシアルキル、(C
1-C
6アルコキシ)(C
1-C
6アルキル)、-NR
7R
8、ハロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ニトロ、スルホニル、スルフィノ、スルホ、スルホネート、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、非置換又は置換C
3-C
10カルボシクリル、非置換又は置換C
6-C
10アリール、非置換又は置換5~10員ヘテロアリール、又は非置換又は置換3~10員ヘテロシクリルであり、
各R
7及びR
8が、独立して、H、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキルでるか、又はR
7及びR
8が、それらが結合している窒素原子と一緒に、非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルを形成し、
ただし、R
1、R
2、R
3、R
4及び環Aのうちの少なくとも1つはカルボキシル基を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物はまた、式(Ia)若しくは(Ib)の構造
【0014】
【化2】
又はその塩若しくはメソメリー形態を有し得、式中、mは、0、1、2、又は3である。更なる実施形態において、化合物は、式(Ic)、(Id)若しくは(Ie)の構造
【0015】
【化3】
又はその塩若しくはメソメリー形態を有し得る。
【0016】
いくつかの態様では、本開示の化合物は、例えば、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、炭水化物、リガンド、粒子、細胞、半固体表面(例えば、ゲル)、又は固体表面などの基材部分で標識されるか、又はコンジュゲートされる。標識化又はコンジュゲーションは、カルボキシル基を介して実施され得、それは、当該技術分野で既知の方法を使用して、それに結合した部分(ヌクレオチドなど)又はリンカー上のアミノ又はヒドロキシ基と反応し、アミド又はエステルを形成し得る。
【0017】
本開示の他の態様は、例えば、基材部分への共有結合を可能にするためのリンカー基を含む色素化合物に関する。連結は色素の任意の位置で行うことができる。いくつかの実施形態では、連結は、式(I)のR1、R2、R3、R4、及び環Aのうちの1つを介して実施され得る。
【0018】
本開示の更なる態様は、以下の式によって定義される標識されたヌクレオシド又はヌクレオチド化合物を提供し、
N-L-色素
式中、Nは、ヌクレオシド又はヌクレオチドであり、
Lは、任意選択的なリンカー部分であり、
色素は、本開示による式(I)の蛍光化合物の部分であり、式(I)(例えば、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、又は(Ie))の化合物の官能基(例えば、カルボキシル基)は、リンカー部分又はヌクレオシド/ヌクレオチドのアミノ又はヒドロキシル基と反応して共有結合を形成する。
【0019】
本開示のいくつかの追加の態様は、式(I)(例えば、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、又は(Ie))の化合物で標識されたオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドに関する。
【0020】
本開示のいくつかの追加の態様は、様々な免疫学的アッセイ、オリゴヌクレオチド又は核酸標識、又は合成によるDNA配列決定において使用され得る色素化合物(遊離又は標識形態)を含むキットに関する。更に別の態様では、本開示は、自動機器プラットフォーム上の合成による配列決定のサイクルに特に適した色素「セット」を含むキットを提供する。いくつかの態様では、少なくとも1つのヌクレオチドが本明細書に記載の標識されたヌクレオチドである、1つ以上のヌクレオチドを含有するキットである。
【0021】
本開示の更なる態様は、複数の標的ポリヌクレオチドの配列を決定する方法であって、
(a)固体支持体を、配列決定プライマーを含む溶液と、ハイブリダイゼーション条件下で接触させることであって、固体支持体が、その上に固定化された複数の異なる標的ポリヌクレオチドを含み、配列決定プライマーが、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部に相補的である、接触させることと、
(b)固体支持体を、DNAポリメラーゼ及び4つの異なるタイプのヌクレオチドのうちの1つ以上を含む水溶液と、DNAポリメラーゼ媒介プライマー伸長に好適な条件下で接触させることであって、ヌクレオチドのうちの少なくとも1つのタイプが、本明細書に記載される標識されたヌクレオチドである、接触させることと、
(c)1つのタイプのヌクレオチドを配列決定プライマーに組み込んで、伸長されたコピーポリヌクレオチドを生成することと、
(d)組み込まれたヌクレオチドの同一性を決定するために、伸長されたコピーポリヌクレオチドの1つ以上の蛍光測定を実行することと、を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】青色光(450nm)によって励起されたときの参照色素Aで標識されたffA-spA-I-4及びffCの発光スペクトルを示す。
【
図2】同じ条件下で参照色素Aで完全にC標識されたものと比較した、色素I-1及びI-3についての時間の関数として残存する蛍光シグナルのパーセントを示す。
【
図3】ffA-spA-I-4を含有する組み込みミックスのパーセントフェージングを、MiSeq(商標)上の2つの参照組み込みミックスと比較して示す。
【
図4A】1×及び5×線量で青色光を使用した場合の、サイクル26でのffA-spA-I-3を含有する組み込みミックスについて得られた散布図である。
【
図4B】1×及び5×線量で青色光を使用した場合の、サイクル26でのffA-spA-I-3を含有する組み込みミックスについて得られた散布図である。
【
図4C】1×及び5×線量で青色光を使用した場合の、サイクル26でのffA-spA-I-4を含有する組み込みミックスについて得られた散布図である。
【
図4D】1×及び5×線量で青色光を使用した場合の、サイクル26でのffA-spA-I-4を含有する組み込みミックスについて得られた散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の実施形態は、増強された蛍光強度、調整可能なストークスシフト及び改善された化学安定性を有するビス-ホウ素縮合複素環を含有する色素に関する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される色素のストークスシフトは、約15nm~50nm(例えば、約20nm)の範囲である。本明細書に記載されるビス-ホウ素含有色素は、2チャネル検出(緑色光励起及び青色光励起)を伴うIlluminaの配列決定プラットフォーム、例えば、MiSeq(商標)において使用され得る。
【0024】
定義
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成目的のみのためであり、記載される主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0025】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、1つの参考文献に明示的かつ明確に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。本教示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の様々な実施形態に対して様々な修正及び変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本明細書に記載の様々な実施形態は、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内の他の修正及び変形を包含することが意図される。
【0026】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当該技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。用語「含む(including)」、並びに他の形態、例えば、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含まれる(included)」の使用は、限定的ではない。更に、用語「有するhaving)」、並びに他の形態、例えば、「有する(have)」、「有する(has)」、及び「有した(had)」の使用は、限定的ではない。本明細書で使用される場合、移行句中か又は請求項の本文中のいずれであっても、「含む(comprise)」及び「含む(comprising)」という用語は、オープンエンドの意味を有するものとして解釈されるべきである。すなわち、上記の用語は、語句「少なくとも有する」又は「少なくとも含む」と同義であると解釈されるべきである。例えば、プロセスの文脈において使用される場合、用語「含む(comprising)」は、プロセスが少なくとも列挙された工程を含むが、追加の工程を含み得ることを意味する。化合物、組成物、又はデバイスの文脈で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、化合物、組成物、又はデバイスが少なくとも列挙された特徴又は構成要素を含むが、追加の特徴又は構成要素も含み得ることを意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、一般的な有機略語は、以下のように定義される。
℃ 摂氏温度
dATP デオキシアデノシン三リン酸
dCTP デオキシシチジン三リン酸
dGTP デオキシグアノシン三リン酸
dTTP デオキシチミジン三リン酸
ddNTP ジデオキシヌクレオチド三リン酸
ffA 完全官能化Aヌクレオチド
ffC 完全官能化Cヌクレオチド
ffG 完全官能化Gヌクレオチド
ffN 完全官能化ヌクレオチド
ffT 完全官能化Tヌクレオチド
h 時間
RT 室温
SBS 合成による配列決定
USM Universal scan mix
【0028】
本明細書で使用される場合、「アレイ」という用語は、異なるプローブ分子を相対的な位置に従って互いに区別することができるように、1つ以上の基材に結合されている異なるプローブ分子の集団を指す。アレイは、基材上の異なるアドレス可能な位置に各々配置されるプローブ分子を含むことができる。代替的に、又は追加的に、アレイは、各々が異なるプローブ分子を担持する別個の基材を含むことができ、異なるプローブ分子は、基材が結合される表面上の基材の位置に従って、又は液体中の基材の位置に従って特定することができる。別個の基材が表面上に位置する例示的なアレイには、例えば、米国特許第6,355,431(B1)号、米国特許出願公開第2002/0102578号、及びPCT公開第00/63437号に記載されているように、ウェル中のビーズを含むものが挙げられるが、これらに限定されない。液体アレイ中のビーズを区別するために本発明に使用することができる例示的な形式は、例えば、蛍光活性化細胞選別装置(FACS)などのマイクロ流体デバイスを使用し、例えば、米国特許第6,524,793号に記載されている。本発明に使用することができるアレイの更なる例には、米国特許第5,429,807号、同第5,436,327号、同第5,561,071号、同第5,583,211号、同第5,658,734号、同第5,837,858号、同第5,874,219号、同第5,919,523号、同第6,136,269号、同第6,287,768号、同第6,287,776号、同第6,288,220号、同第6,297,006号、同第6,291,193号、同第6,346,413号、同第6,416,949号、同第6,482,591号、同第6,514,751号、及び同第6,610,482号、並びに国際公開第93/17126号、同第95/11995号、同第95/35505号、欧州特許第742287号、並びに同第799897号に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される場合、「共有結合した(「covalently attached」又は「covalently bonded」)」という用語は、原子間の電子対の共有によって特徴付けられる化学結合の形成を指す。例えば、共有結合したポリマーコーティングとは、他の手段、例えば、接着又は静電相互作用による表面への付着と比較して、基材の官能化表面と化学結合を形成するポリマーコーティングを指す。表面に共有結合したポリマーは、共有結合に加えて、手段によって結合され得ることが理解されるであろう。
【0030】
本明細書で使用するとき、用語「ハロゲン」又は「ハロ」は、元素周期表の7族の、例えばフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれか1つを意味し、フッ素及び塩素が好ましい。
【0031】
本明細書で使用するとき、「a」及び「b」が整数である「Ca-Cb」は、アルキル、アルケニル、若しくはアルキニル基の炭素原子の数、又はシクロアルキル若しくはアリール基の環原子の数を指す。すなわち、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルの環、及びアリールの環は、「a」~「b」、両端の炭素原子を含有し得る。例えば、「C1-C4アルキル」基は、1~4個の炭素を有する全てのアルキル基、すなわち、CH3-、CH3CH2-、CH3CH2CH2-、(CH3)2CH-、CH3CH2CH2CH2-、CH3CH2CH(CH3)-、及び(CH3)3C-を指し、C3-C4シクロアルキル基は、3~4個の炭素原子を有する全てのシクロアルキル基、すなわち、シクロプロピル及びシクロブチルを指す。同様に、「4~6員ヘテロシクリル」基は、4~6個の全環原子を有する全てのヘテロシクリル基、例えば、アゼチジン、オキセタン、オキサゾリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリンなどを指す。「a」及び「b」がアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、又はアリール基に関して指定されていない場合、これらの定義に記載される最も広い範囲が想定されるべきである。本明細書で使用するとき、用語「C1-C6」は、C1、C2、C3、C4、C5、及びC6、並びに2つの数字のうちのいずれかによって定義される範囲を含む。例えば、C1-C6アルキルは、C1、C2、C3、C4、C5、及びC6アルキル、C2-C6アルキル、C1-C3アルキルなどを含む。同様に、C2-C6アルケニルは、C2、C3、C4、C5、及びC6アルケニル、C2-C5アルケニル、C3-C4アルケニルなどが含まれ、C2-C6アルキニルは、C2、C3、C4、C5、及びC6アルキニル、C2-C5アルキニル、C3-C4アルキニルなどを含む。C3-C8シクロアルキルは各々、3、4、5、6、7、及び8個の炭素原子を含有する炭化水素環、又はC3-C7シクロアルキル又はC5-C6シクロアルキルなどの2つの数字のうちのいずれかによって定義される範囲を含む。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「アルキル」は、完全に飽和している(すなわち、二重結合又は三重結合を含有しない)直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖を指す。アルキル基は、1~20個の炭素原子を有してもよい(本明細書に示されるときはいつでも、「1~20」などの数値範囲は、所与の範囲内の各整数を指す。例えば、「1~20個の炭素原子」は、アルキル基が、1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子など、最大で20個の炭素原子からなり得るが、本定義はまた、「アルキル」という用語(数値範囲が指定されていない)の発生もカバーすることを意味する。アルキル基はまた、1~9個の炭素原子を有する中規模のアルキルであってもよい。アルキル基はまた、1~6個の炭素原子を有する低級アルキルであってもよい。一例にすぎないが、「C1-6アルキル」又は「C1-C6アルキル」は、アルキル鎖中に1~6個の炭素原子が存在することを示し、すなわち、アルキル鎖は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、及びt-ブチルからなる群から選択される。典型的なアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、三級ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本明細書で使用するとき、「アルコキシ」は、「C1-9アルコキシ」又は「C1-C9アルコキシ」などの、Rが上に定義されるアルキルである、式-ORを指し、これには、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、1-メチルエトキシ(イソプロポキシ)、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、及びtert-ブトキシなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用するとき、「-OAc」又は「-O-アシル」は、構造-O-C(=O)CH3を有するアセチルオキシを指す。
【0035】
本明細書で使用されるとき、「アルケニル」は、1つ以上の二重結合を含有する直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖を指す。アルケニル基は、2~20個の炭素原子を有し得るが、本定義はまた、数値範囲が指定されていない「アルケニル」という用語の発生もカバーする。アルケニル基はまた、2~9個の炭素原子を有する中規模のアルケニルであってもよい。アルケニル基はまた、2~6個の炭素原子を有する低級アルケニルであってもよい。一例にすぎないが、「C2-C6アルケニル」又は「C2-6アルケニル」とは、アルケニル鎖中に2~6個の炭素原子が存在することを示し、すなわち、アルケニル鎖は、エテニル、プロペン-1-イル、プロペン-2-イル、プロペン-3-イル、ブテン-1-イル、ブテン-2-イル、ブテン-3-イル、ブテン-4-イル、1-メチル-プロペン-1-イル、2-メチル-プロペン-1-イル、1-エチル-エテン-1-イル、2-メチル-プロペン-3-イル、ブタ-1,3-ジエニル、ブタ-1,2-ジエニル、及びブタ-1,2-ジエン-4-イルからなる群から選択される。典型的なアルケニル基としては、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、及びヘキセニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「アルキニル」は、1つ以上の三重結合を含有する直鎖又は分枝鎖炭化水素鎖を指す。アルキニル基は、2~20個の炭素原子を有し得るが、本定義はまた、数値範囲が指定されていない「アルキニル」という用語の発生もカバーする。アルキニル基はまた、2~9個の炭素原子を有する中規模のアルキニルであってもよい。アルキニル基はまた、2~6個の炭素原子を有する低級アルキニルであってもよい。一例にすぎないが、「C2-6アルキニル」又は「C2-C6アルキニル」は、アルキニル鎖中に2~6個の炭素原子が存在することを示し、すなわち、そのアルキニル鎖は、エチニル、プロピン-1-イル、プロピン-2-イル、ブチン-1-イル、ブチン-3-イル、ブチン-4-イル、及び2-ブチニルからなる群から選択される。典型的なアルキニル基としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
用語「芳香族」は、共役π電子系を有し、炭素環芳香族(例えば、フェニル)及び複素環式芳香族基(例えば、ピリジン)の両方を含む環又は環系を指す。この用語は、単環式又は縮合多環式(すなわち、隣接する原子対を共有する環)基を含むが、ただし、環系全体が芳香族である。
【0038】
本明細書で使用されるとき、「アリール」は、環骨格中に炭素のみを含有する芳香環又は環系(すなわち、2個の隣接する炭素原子を共有する2つ以上の縮合環)を指す。アリールが環系である場合、系内の全ての環は芳香環である。アリール基は6~18個の炭素原子を有し得るが、本定義はまた、数値範囲が指定されていない「アリール」という用語の発生もカバーする。いくつかの実施形態では、アリール基は、6~10個の炭素原子を有する。アリール基は、「C6-C10アリール」、「C6若しくはC10アリール」、又は類似の表記で指定されてもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、アズレニル、及びアントラセニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
「アラルキル」又は「アリールアルキル」は、「C7-14アラルキル」などの、アルキレン基を介して置換基として結合されたアリール基であり、ベンジル、2-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、及びナフチルアルキルを含むがこれらに限定されない。いくつかの場合において、アルキレン基は、より低級アルキレン基(すなわち、C1-6アルキレン基)である。
【0040】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」は、環骨格中に窒素、酸素、及び硫黄を含むがこれらに限定されない、1個以上のヘテロ原子、すなわち炭素以外の元素を含有する芳香環又は環系(すなわち、2個の隣接する原子を共有する2つ以上の縮合環)を指す。ヘテロアリールが環系である場合、系内の全ての環は芳香環である。ヘテロアリール基は、5~18個の環員(すなわち、炭素原子及びヘテロ原子を含む、環骨格を構成する原子の数)を有し得るが、本定義はまた、数値範囲が指定されていない「ヘテロアリール」という用語の発生もカバーする。いくつかの実施形態では、ヘテロアリール基は、5~10個の環員又は5~7個の環員を有する。ヘテロアリール基は、「5~7員ヘテロアリール」、「5~10員ヘテロアリール」、又は類似の表記で指定され得る。ヘテロアリール環の例としては、フリル、チエニル、フタラジニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、インドリル、イソインドリル、及びベンゾチエニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
「ヘテロアラルキル」又は「ヘテロアリールアルキル」は、アルキレン基を介して置換基として結合されたヘテロアリール基である。例としては、2-チエニルメチル、3-チエニルメチル、フリルメチル、チエニルエチル、ピロリルアルキル、ピリジルアルキル、イソオキサゾリリルアルキル、及びイミダゾリルアルキルが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの場合において、アルキレン基は、より低級アルキレン基(すなわち、C1-6アルキレン基)である。
【0042】
本明細書で使用されるとき、「カルボシクリル」は、環系骨格中に炭素原子のみを含有する非芳香族環又は環系を意味する。カルボシクリルが環系である場合、2つ以上の環が、縮合、架橋、又はスピロ結合方式で一体に結合され得る。カルボシクリルは、環系中の少なくとも1つの環が芳香族ではないことを条件として、任意の飽和度を有してもよい。したがって、カルボシクリルとしては、シクロアルキル、シクロアルケニル、及びシクロアルキニルが挙げられる。カルボシクリル基は、3~20個の炭素原子を有し得るが、本定義はまた、数値範囲が指定されていない用語「カルボシクリル」の発生もカバーする。カルボシクリル基はまた、3~10個の炭素原子を有する中規模のカルボシクリルであってもよい。カルボシクリル基はまた、3~6個の炭素原子を有するカルボシクリルであってもよい。カルボシクリル基は、「C3-6カルボシクリル」、「C3-C6カルボシクリル」又は同様の表記で指定されてもよい。カルボシクリル環の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、2,3-ジヒドロ-インデン、ビシクル[2.2.2]オクタニル、アダマンチル、及びスピロ[4.4]ノナニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル」は、完全飽和カルボシクリル環又は環系を意味する。例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0044】
本明細書で使用されるとき、「ヘテロシクリル」は、環骨格中に少なくとも1個のヘテロ原子を含有する非芳香族環又は環系を意味する。ヘテロシクリルどうしは、縮合、架橋、又はスピロ結合式に、一体に結合されてもよい。ヘテロシクリルは、環系中の少なくとも1つの環が芳香族ではないことを条件として、任意の飽和度を有してもよい。ヘテロ原子は、環系中の非芳香環又は芳香環のいずれかに存在してもよい。ヘテロシクリル基は、3~20個の環員(すなわち、炭素原子及びヘテロ原子を含む、環骨格を構成する原子の数)を有し得るが、本定義はまた、数値範囲が指定されていない用語「ヘテロシクリル」の発生もカバーする。ヘテロシクリル基はまた、3~10個の環員を有する中規模のヘテロシクリルであってもよい。ヘテロシクリル基はまた、3~6個の環員を有するヘテロシクリルであってもよい。ヘテロシクリル基は、「3~6員ヘテロシクリル」又は類似の表記で指定されてもよい。好ましい6員単環式ヘテロシクリルでは、ヘテロ原子は、O、N又はSのうちの1つから3つまで選択される。好ましい5員の単環式ヘテロシクリルでは、ヘテロ原子は、O、N、又はSから選択される1個又は2個のヘテロ原子から選択される。ヘテロシクリル環の例としては、アゼピニル、アクリジニル、カルバゾリル、シノリニル、ジオキソラニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、モルホリニル、オキシラニル、オキセパニル、チアパニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ジオキサピペラジニル、ピロリジニル、ピロリドニル、ピロリジオニル、4-ピペリドニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、1,3-ジオキシニル、1,3-ジオキサニル、1,4-ジオキシニル、1,4-ジオキサニル、1,3-オキサチニル、1,4-オキサチニル、1,4-オキサチアニル、2H-1,2-オキサジニル、トリオキサニル、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジニル、1,3-ジオキソリル、1,3-ジオキソラニル、1,3-ジチオリル、1,3-ジチオラニル、イソオキサゾリニル、イソオキサゾリジニル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、オキサゾリジノニル、チアゾリニル、チアゾリジニル、1,3-オキサチオラニル、インドリニル、イソインドリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロ-1,4-チアジニル、チアモルフォリニル、ジヒドロベンゾフラニル、ベンズイミダゾリジニル、及びテトラヒドロキノリンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0045】
本明細書で使用するとき、「アルコキシアルキル」又は「(アルコキシ)アルキル」は、C2-C8アルコキシアルキル、又は(C1-C6アルコキシ)C1-C6アルキル、例えば-(CH2)1-3-OCH3などのアルキレン基を介して結合されたアルコキシ基を指す。
【0046】
「O-カルボキシ」基は、「-OC(=O)R」基を指し、式中、Rは、水素、並びに本明細書で定義するような、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルから選択される。
【0047】
「C-カルボキシ」基は、「-C(=O)OR」基を指し、式中、Rは、水素と、本明細書で定義するような、C1-6アルキルと、C2-6アルケニルと、C2-6アルキニルと、C3-7カルボシクリルと、C6-10アリールと、5~10員ヘテロアリールと、3~10員ヘテロシクリルとからなる群から選択される。非限定的な例としては、カルボキシル(すなわち、-C(=O)OH)が挙げられる。
【0048】
「スルホニル」基は、「-SO2R」基を指し、式中、Rは、水素、並びに本明細書で定義するような、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルから選択される。
【0049】
「スルフィノ」基は、「-S(=O)OH」基を指す。
【0050】
「スルホ」基は、「-S(=O)2OH」又は「-SO3H」基を指す。
【0051】
「スルホネート」基は、「-SO3
-」基を指す。
【0052】
「サルフェート」基は、「-SO4
-」基を指す。
【0053】
「S-スルホンアミド」基は、「-SO2NRARB」基を指し、RA及びRBは、水素、本明細書で定義するようなC1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルからそれぞれ独立して選択される。
【0054】
「N-スルホンアミド」基は、「-N(RA)SO2RB」基を指し、式中、RA及びRRbは、水素、本明細書に定義されるような、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3~7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルから各々独立して選択される。
【0055】
「C-アミド」基は、「-C(=O)NRARB」基を指し、式中、RA及びRBは、水素、本明細書に定義されるような、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルから各々独立して選択される。
【0056】
「N-アミド」基は、「-N(RA)C(=O)RB基」を指し、式中、RA及びRBは、水素、本明細書に定義されるような、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルからそれぞれ独立して選択される。
【0057】
「アミノ」基は「-NRARB」を指し、式中、RA及びRBは、水素、本明細書に定義されるような、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-7カルボシクリル、C6-10アリール、5~10員ヘテロアリール、及び3~10員ヘテロシクリルから各々独立して選択される。非限定的な例としては、遊離アミノ(すなわち、-NH2)が挙げられる。
【0058】
「アミノアルキル」基は、アルキレン基を介して連結されたアミノ基を指す。
【0059】
「アルコキシアルキル」基は、アルキレン基を介して結合したアルコキシ基を指し、例としては、「C2-C8アルコキシアルキル」などが挙げられる。
【0060】
基が「任意選択的に置換された」として記載される場合、それは非置換又は置換されていてもよい。同様に、基が「置換」として記載される場合、置換基は、示された置換基のうちの1つ以上から選択され得る。本明細書で使用される場合、置換基は、1個以上の水素原子が別の原子又は基に対して交換されている非置換親基から誘導される。別途記載のない限り、基が「置換されている」とみなされる場合、それは、基が、C1-C6アルキル、C1-C6アルケニル、C1-C6アルキニル、C3-C7カルボシクリル(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、C3-C7-カルボシクリル-C1-C6-アルキル(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、3~10員ヘテロシクリル(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、3~10員ヘテロシクリル-C1-C6-アルキル(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、アリール(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、アリール(C1-C6)アルキル(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、5~10員ヘテロアリール(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、5~10員ヘテロアリール(C1-C6)アルキル(任意選択的に、ハロ、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、C1-C6ハロアルキル、及びC1-C6ハロアルコキシで置換されている)、ハロ、-CN、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルコキシ(C1-C6)アルキル(すなわち、エーテル)、アリールオキシ、スルフヒドリル(メルカプト)、ハロ(C1-C6)アルキル(例えば、-CF3)、ハロ(C1-C6)アルコキシ(例えば、-OCF3)、C1-C6アルキルチオ、アリールチオ、アミノ、アミノ(C1-C6)アルキル、ニトロ、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、アシル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート、スルフィニル、スルホニル、-SO3H、スルホネート、スルフェート、スルフィノ、-OSO2C1~C4アルキル、及びオキソ(=O)から独立して選択される1つ以上の置換基で置換されることを意味する。ある基が「任意選択的に置換されている」と記載されている場合には、その基が置換される場合には、上記置換基で置換され得る。いくつかの実施形態では、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル又はヘテロシクリル基が置換される場合、各々は、ハロ、-CN、-SO3
-、-OSO3
-、-SO3H、-SRA、-ORA、-NRBRC、オキソ、-CONRBRC、-SO2NRBRC、-COOH、及び-COORBからなる群から選択される1つ以上の置換基で独立して置換され、式中、RA、RB、及びRCは、各々独立して、H、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、又は置換アリールから置換される。
【0061】
当業者には理解されるように、本明細書に記載の化合物は、イオン化形態、例えば、-CO2
--SO3
-又は-O-SO3
-で存在してもよい。化合物が、正又は負に帯電した置換基、例えば、-SO3
-を含有する場合、化合物が全体として中性であるように、負又は正に帯電した対イオンを含有してもよい。他の態様では、化合物は塩形態で存在してもよく、対イオンは、共役酸又は塩基によって提供される。
【0062】
ある特定のラジカル命名法は、文脈に応じてモノラジカル又はジラジカルのいずれかを含むことができることを理解されたい。例えば、置換基が分子の残りの部分への2つの結合点を必要とする場合、置換基はジラジカルであることが理解される。例えば、2つの結合点を必要とするアルキルとして特定される置換基としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-などのジ-ラジカルが挙げられる。他のラジカル命名法は、ラジカルが「アルキレン」又は「アルケニレン」などのジラジカルであることを明確に示す。
【0063】
2つの「隣接する」R基が、それらが結合している原子と一緒に環を形成すると言われる場合、原子の集合単位、介在する結合、及び2つのR基が列挙された環であることを意味する。例えば、以下のサブ構造が存在する場合、
【0064】
【化4】
R
1及びR
2は、水素及びアルキルからなる群から選択されるものとして定義されるか、又はR
1及びR
2は、それらが結合している原子と一緒にアリール若しくはカルボシクリルを形成するが、R
1及びR
2は、水素若しくはアルキルから選択することができるか、代替的に、サブ構造が、以下の構造を有することを意味し、
【0065】
【化5】
式中、Aは、アリール環又は示された二重結合を含有するカルボシクリルである。
【0066】
置換基がジラジカルとして示される場合(すなわち、分子の残りの部分への2つの結合点を有する)は、特に指示がない限り、置換基が任意の方向性構成で結合することができることを理解されたい。したがって、例えば、-AE-又は
【0067】
【化6】
として示される置換基は、Aが、分子の最も左の結合点で結合されるように、方向付けられている置換基、並びにAが、分子の最も右の結合点で結合される場合を示す。更に、基又は置換基が、
【0068】
【化7】
として示される場合、Lは、任意選択的に存在するリンカー部分と定義され、Lが存在しない(又は存在しない)場合、そのような基又は置換基は、
【0069】
【0070】
本明細書に記載の化合物は、いくつかのメソメリー形態として表すことができる。単一の構造が描かれている場合、関連するメソメリー形態のうちのいずれかが意図される。本明細書に記載のビス-ホウ素含有色素は、単一の構造によって表されるが、関連するメソメリー形態のうちのいずれかとして同様に示され得る。例示的なメソメリー構造は、下記式(Ia)で示される。
【0071】
【0072】
本明細書に記載される化合物の単一のメソメリー形態が示されている各事例においては、代替のメソメリー形態も同様に企図される。加えて、化合物の窒素原子上の正電荷(窒素原子に接続された4つの結合が存在する場合)及びホウ素原子上の負電荷(ホウ素原子に接続された4つの結合が存在する場合)は、単純化のために特定の化合物構造において示されない場合がある。
【0073】
本明細書で使用されるとき、「ヌクレオチド」は、窒素含有複素環式塩基、糖、及び1つ以上のリン酸基を含む。それらは、核酸配列のモノマー単位である。RNA中では、糖は、リボースであり、DNA中では、デオキシリボース、すなわち、リボース中に存在するヒドロキシ基を欠く糖である。窒素含有複素環式塩基は、プリン、デアザプリン、又はピリミジン塩基であることができる。プリン塩基には、アデニン(A)及びグアニン(G)、並びに7-デアザアデニン若しくは7-デアザグアニンなどの、それらの修飾された誘導体又は類似体が含まれる。ピリミジン塩基としては、シトシン(C)、チミン(T)、及びウラシル(U)、並びにそれらの修飾された誘導体又は類似体が挙げられる。デオキシリボースのC-1原子は、ピリミジンのN-1又はプリンのN-9に結合される。
【0074】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオシド」は、ヌクレオチドと構造的に類似しているが、リン酸部分を欠いている。ヌクレオシド類似体の例は、標識が塩基に連結され、糖分子に付着したリン酸基が存在しないものである。用語「ヌクレオシド」は、当業者によって理解されるその通常の意味で、本明細書で使用される。例としては、リボース部分を含むリボヌクレオシド、及びデオキシリボース部分を含むデオキシリボヌクレオシドが挙げられるが、これらに限定されない。修飾されたペントース部分は、酸素原子が炭素で置き換えられている、かつ/又は炭素が硫黄又は酸素原子で置き換えられている、ペントース部分である。「ヌクレオシド」は、置換塩基及び/又は糖部分を有し得るモノマーである。更に、ヌクレオシドは、より大きなDNA及び/又はRNAポリマー及びオリゴマーに組み込まれ得る。
【0075】
用語「プリン塩基」は、当業者によって理解されるその通常の意味で、本明細書で使用され、その互変異性体を含む。同様に、用語「ピリミジン塩基」は、当業者によって理解されるその通常の意味で、本明細書で使用され、その互変異性体を含む。任意選択的に置換されたプリン塩基の非限定的なリストとしては、プリン、アデニン、グアニン、デアザプリン、7-デアザアデニン、7-デアザグアニン、ヒポキサンチン、キサンチン、アロキサンチン、7-アルキルグアニン(例えば、7-メチルグアニン)、テオブロミン、カフェイン、尿酸、及びイソグアニンが挙げられる。ピリミジン塩基の例としては、シトシン、チミン、ウラシル、5,6-ジヒドロウラシル、及び5-アルキルシトシン(例えば、5-メチルシトシン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本明細書で使用される場合、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドが、本明細書に記載のヌクレオシド又はヌクレオチドを「含む」として記載される場合、それは、本明細書に記載のヌクレオシド又はヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドと共有結合を形成することを意味する。同様に、ヌクレオシド又はヌクレオチドが、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドに「組み込まれた」など、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの一部として記載される場合、それは、本明細書に記載のヌクレオシド又はヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドと共有結合を形成することを意味する。いくつかのそのような実施形態では、共有結合は、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの3’ヒドロキシ基と、本明細書に記載のヌクレオチドの5’リン酸基との間で、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの3’炭素原子とヌクレオチドの5’炭素原子との間のホスホジエステル結合として形成される。
【0077】
本明細書で使用される場合、「開裂可能なリンカー」という用語は、リンカー全体を除去する必要があることを意味するものではない。開裂部位は、リンカーの一部が、開裂後に検出可能な標識及び/又はヌクレオシド若しくはヌクレオチド部分に結合したままであることを確実にするリンカー上の位置に配置することができる。
【0078】
本明細書で使用される場合、「誘導体」又は「類似体」は、修飾された塩基部分及び/又は修飾された糖部分を有する合成ヌクレオチド又はヌクレオシド誘導体を意味する。そのような誘導体及び類似体は、例えば、Scheit,Nucleotide Analogs(John Wiley&Son,1980)及びUhlman et al.,Chemical Reviews 90:543-584,1990に考察されている。ヌクレオチド類似体はまた、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキル-ホスホネート、ホスホラニリデート(phosphoranilidate)、及びホスホラミデート連結を含む修飾されたホスホジエステル連結を含むことができる。本明細書で使用される「誘導体」、「類似体」、及び「修飾された」は、互換的に使用され得、本明細書で定義される用語「ヌクレオチド」及び「ヌクレオシド」に包含される。
【0079】
本明細書で使用される場合、用語「リン酸塩」は、当業者によって理解される通常の意味で使用され、そのプロトン化形態(例えば、
【0080】
【化10】
)を含む。本明細書で使用される場合、用語「一リン酸」、「二リン酸」、及び「三リン酸」は、当業者によって理解される通常の意味で使用され、プロトン化形態を含む。
【0081】
本明細書で使用される場合、用語「フェージング」は、3’ターミネーター及びフルオロフォアの不完全な除去、及び/又は所与の配列決定サイクルにおけるポリメラーゼによるクラスター内のDNA鎖の一部の組み込みの完了不良によって引き起こされる、SBSにおける現象を指す。プリフェージングは、効果的な3’ターミネーターなしでヌクレオチドを組み込むことによって引き起こされ、組み込みイベントは、終了不良により1サイクル前に進む。フェージング及びプリフェージングは、特定のサイクルで測定されたシグナル強度が、現在のサイクルからのシグナル、並びに前及び次のサイクルからのノイズからなるようにさせる。サイクル数が増加するにつれて、フェージング及びプリフェージングによって影響を受けた1つのクラスター当たりの配列の割合は増加し、正しい塩基の識別を妨げる。プリフェージングは、合成による配列決定(SBS)中の微量の保護又はブロックされていない3’-OHヌクレオチドの存在によって引き起こされ得る。保護されていない3’-OHヌクレオチドは、製造プロセス中、又は場合によっては、保存及び試薬処理プロセス中に生成され得る。したがって、プレフェージングの発生率を減少させるヌクレオチド類似体の発見は驚くべきことであり、SBS用途において既存のヌクレオチド類似体に対して大きな利点を提供する。例えば、提供されるヌクレオチド類似体は、より速いSBSサイクル時間、低いフェージング及びプレフェージング値、並びにより長い配列決定リード長をもたらし得る。
【0082】
式(I)のビス-ホウ素縮合複素環を含有する色素
本開示のいくつかの態様は、式(I)のビス-ホウ素含有色素、並びにその塩及びメソメリー形態に関し、
【0083】
【化11】
又はその塩若しくはメソメリー形態
式中、R
1、R
2、R
3及びR
4の各々が、独立して、H、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
1-C
6ヒドロキシアルキル、(C
1-C
6アルコキシ)(C
1-C
6アルキル)、非置換若しくは置換アミノ、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、ニトロ、スルホニル、スルフィノ、スルホ、スルホネート、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、非置換若しくは置換C
3-C
10カルボシクリル、非置換若しくは置換C
6-C
10アリール、非置換若しくは置換5~10員ヘテロアリール、又は非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルであり、
各R
a、R
b、R
c及びR
dが独立して、ハロ、シアノ、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
6-C
10アリール、C
6-C
10アリールオキシ、又は-O-C(=O)R
5であり、
代替的に、R
a及びR
bの両方が-O-C(=O)R
5である場合、2個のR
5が、それらが結合している原子と一緒に、非置換又は置換6~10員ヘテロシクリルを形成し、R
c及びR
dの両方が-O-C(=O)R
5である場合、2個のR
5が、それらが結合している原子と一緒に、非置換又は置換6~10員ヘテロシクリルを形成し、
R
5が、非置換又は置換C
1-C
6アルキルであり、
環Aが、1つ以上のR
6で任意選択的に置換された6員、7員、8員、9員又は10員ヘテロアリールであり、
各R
6が、独立して、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、CC
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6ハロアルコキシ、C
1-C
6ヒドロキシアルキル、(C
1-C
6アルコキシ)(C
1-C
6アルキル)、-NR
7R
8、ハロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ニトロ、スルホニル、スルフィノ、スルホ、スルホネート、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、非置換若しくは置換C
3-C
10カルボシクリル、非置換若しくは置換C
6-C
10アリール、非置換若しくは置換5~10員ヘテロアリール、又は非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルであり、
各R
7及びR
8が、独立して、H、非置換若しくは置換C
1-C
6アルキルであるか、又はR
7及びR
8が、それらが結合している窒素原子と一緒に、非置換若しくは置換3~10員ヘテロシクリルを形成し、
ただし、R
a、R
b、R
c及びR
dの各々がフルオロである場合、R
1、R
2、R
3、R
4及び環Aのうちの少なくとも1つがカルボキシル基を含む。いくつかの更なる実施形態において、R
1、R
2、R
3、R
4、及び環Aのうちの少なくとも1つが、カルボキシル基を含む。いくつかの更なる実施形態において、R
1、R
2、R
3、R
4、及び環Aのうちの1つが、カルボキシル基を含む。
【0084】
式(I)の化合物のいくつかの実施形態において、環Aが、1つ以上のR6で任意選択的に置換された6員ヘテロアリールである。いくつかの実施形態において、6員ヘテロアリールは、1個又は2個の窒素原子を含む。更なる実施形態において、6員ヘテロアリールは、ピリジル、ピリミジル又はピラジニルである。更なる実施形態において、式(I)の化合物は、式(Ia)若しくは(Ib)
【0085】
【化12】
又はその塩若しくはメソメリー形態によっても表され、式中、mは、0、1、2、又は3である。
【0086】
更なる実施形態において、式(Ia)の化合物は、式(Ic)によっても表され、式(Ib)の化合物は、式(Id)若しくは(Ie)
【0087】
【化13】
又はその塩若しくはメソメリー形態によっても表される。
【0088】
式(I)及び(Ia)~(Ie)の化合物のいくつかの実施形態において、各R6は、独立して、ハロ、シアノ、カルボキシル、非置換若しくは置換C1-C6アルキル、非置換フェニル、カルボキシルで置換されたフェニル、非置換5員ヘテロアリール、カルボキシルで置換された5員ヘテロアリール、又は-NR7R8である。いくつかの実施形態において、R6は、ハロ(例えば、フルオロ、クロロ又はブロモ)である。いくつかの実施形態において、R6は、非置換フラン又はカルボキシルで置換されたフランである。いくつかの更なる実施形態において、R6は、置換C1-C6アルキル(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル又はイソヘキシル)であって、独立して、ハロ、-CN、-SO3
-、-SO3H、-NH2、-NH(C1-C6アルキル)、-N(C1-C6アルキル)2、-C(=O)OH、及び-C(=O)O(C1-C6アルキル)からなる群より選択される1つ以上の置換基で置換されている。いくつかの更なる実施形態において、R6は-NR7R8であり、R7はHであり、R8は、カルボキシル、スルホ及びスルホネートからなる群から選択される1つ以上の置換基で置換されたC1-C6アルキルであるか、又はR7及びR8は、それらが結合している窒素原子と一緒に、カルボキシで置換された3~10員ヘテロシクリル(例えば、窒素原子、又は1個の窒素、及び酸素若しくは硫黄などの第2のヘテロ原子を含む4、5、6、若しくは7員ヘテロシクリル)を形成する。いくつかの更なる実施形態において、R6は、
【0089】
【化14】
であり、式中、環構造の各々は、カルボキシルで任意選択的に置換されている。
【0090】
式(I)及び(Ia)~(Ie)の化合物のいくつかの実施形態において、R1、R2及びR3の各々は、Hである。いくつかの他の実施形態において、R1、R2及びR3の各々が、独立して、非置換C1-C6アルキル(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル又はイソヘキシル)である。一実施形態において、R1及びR3の各々は、メチルであり、R2は、エチルである。いくつかの他の実施形態において、R1、R2及びR3のうちの2つは、H又は非置換C1-C6アルキルであり、R1、R2及びR3のうちの1つは、ハロ、フェニル、5員若しくは6員ヘテロアリール、カルボキシル又はカルボキシルで置換されたC1-C6アルキルである。更なる実施形態において、R1及びR3の各々はメチルであり、R2はブロモ、クロロ、フルオロ、フェニル、カルボキシル、又は-CH2-COOHである。
【0091】
式(I)及び(Ia)~(Ie)の化合物のいくつかの実施形態において、R4は、H又は非置換C1-C6アルキルである。いくつかの他の実施形態において、R4は、各々、カルボキシルで置換されたC1-C6アルキル又はフェニルである。
【0092】
式(I)及び(Ia)~(Ie)の化合物のいくつかの実施形態において、Ra及びRbの各々は、独立して、フルオロ、シアノ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、フェニル、フェノキシ、又は-O-アシルである。
(-OC(=O)CH3又は-OAc)である。更なる実施形態では、Ra及びRbの両方は、フルオロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、又は-O-アシルである。他の実施形態において、Ra及びRbの両方が-OC(=O)R5であり、2つのR5は、それらが結合している原子と一緒に、構造
【0093】
【化15】
を有する6員ヘテロシクリルを形成し、当該構造のメチレン部分は、フルオロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、フェニル又はフェノキシから選択される1つ又は2つの置換基で任意選択的に置換されていてもよい。いくつかの実施形態において、R
c及びR
dの各々は、独立して、フルオロ、シアノ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、フェニル、フェノキシ、又は-O-アシルである。更なる実施形態において、R
c及びR
dの両方は、フルオロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、又は-O-アシルである。他の実施形態において、R
c及びR
dの両方が-OC(=O)R
5であり、2つのR
5は、それらが結合している原子と一緒に、構造
【0094】
【化16】
を有する6員ヘテロシクリルを形成し、当該構造のメチレン部分は、フルオロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、フェニル又はフェノキシから選択される1つ又は2つの置換基で任意選択的に置換されていてもよい。
【0095】
式(I)及び(Ia)~(Ie)の化合物の任意の実施形態において、C3-C10カルボシクリル(例えば、C3-C10シクロアルキル)、C6-C10アリール、5~10員ヘテロアリール、又は3~10員ヘテロシクリルが置換されている場合、それは1つ以上のR6で置換されていてもよい。基が置換C1-C6アルキルとして定義される場合、それは、C1、C2、C3、C4、C5又はC6アルキル(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル又はイソヘキシル)であって、カルボキシル、カルボキシレート、スルホ、スルホネート、-C(O)O(C1-C6アルキル)又は-C(O)NReRfで置換されたものであってもよく、各Re及びRfは、独立して、H又はカルボキシル、カルボキシレート、スルホ若しくはスルホネートで置換されたC1-C6アルキルである。
【0096】
式(I)の化合物の更なる実施形態としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
【0097】
【0098】
【0099】
【化19】
並びにそれらの塩及びメソメリー形態。非限定的な例の対応するC
1-C
6アルキルカルボン酸エステル(化合物のカルボン酸基から形成されたメチルエステル、エチルエステルイソプロピルエステル、及びt-ブチルエステルなど)。
【0100】
本明細書に記載されるビス-ホウ素縮合複素環式化合物の任意の実施形態において、化合物は、それに共有結合した光保護部分、例えば、シクロオクタテトラエン部分を導入するように更に修飾されてもよい。
【0101】
標識されたヌクレオチド
本開示の一態様によれば、本明細書に記載の色素化合物は、基材部分、特に基材部分への付着を可能にするリンカー基を含む、基材部分への付着に好適である。基材部分は、本開示の色素をコンジュゲートさせることができる実質上任意の分子又は物質であり得、非限定的な例として、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、炭水化物、リガンド、粒子、固体表面、有機及び無機ポリマー、染色体、核、生細胞、並びにこれらの組み合わせ又は集合体が挙げられる。色素は、疎水性誘引、イオン誘引、及び共有結合を含む様々な手段によって、任意選択的なリンカーによってコンジュゲートさせることができる。いくつかの態様では、色素は、共有結合によって基材にコンジュゲートされる。より具体的には、共有結合は、リンカー基によるものである。場合によっては、このような標識されたヌクレオチドは、「修飾ヌクレオチド」とも称される。
【0102】
本開示のいくつかの態様は、本明細書に記載の式(I)((Ia)~(Ie)を含む)の色素、若しくはそれらのメソメリー形態の塩又は本明細書に記載の光保護部分COTを含有するそれらの誘導体で標識されたヌクレオチドに関する。標識されたヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、カルボキシ基(-CO2H)又はアルキル-カルボキシ基を介して本明細書に開示される色素化合物に結合して、アミド又はアルキル-アミド結合を形成し得る。いくつかの更なる実施形態において、カルボキシル基は、カルボキシル基の活性化形態、例えば、アミド又はエステルの形態であり得、これは、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドのアミノ基又はヒドロキシル基に結合するために使用され得る。本明細書で使用される場合、「活性化エステル」という用語は、例えば、アミノ基を含有する化合物で、穏やかな条件で反応することができるカルボキシル基誘導体を指す。活性化エステルの非限定的な例としては、p-ニトロフェニル、ペンタフルオロフェニル、及びスクシンイミドエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
例えば、式(I)の色素化合物((Ia)~(Ie)を含む)の色素化合物は、R1、R2、R3、R4、及び式(I)の環Aのうちの1つを介してヌクレオチドに結合され得る。いくつかのそのような実施形態において、式(I)のR1、R2、R3、R4、及び環Aのうちの1つはカルボキシル基を含み、結合は、式(I)の化合物のカルボキシル官能基とヌクレオチド又はヌクレオチドリンカーのアミノ官能基との間にアミド部分を形成する。
【0104】
いくつかの実施形態において、色素化合物は、ヌクレオチド塩基を介してヌクレオチドに共有結合してもよい。いくつかのかかる実施形態において、標識されたヌクレオチドは、ピリミジン塩基のC5位置に結合された標識、又は7デアザプリン塩基のC7位置に、任意選択的にリンカー部分を通して結合された標識を有し得る。例えば、核酸塩基は、7-デアザアデニンであり得、色素は、C7位置で、任意選択的にリンカーを介して7-デアザアデニンに結合している。核酸塩基は、7-デアザグアニンであり得、色素は、C7位置で、任意選択的にリンカーを介して7-デアザグアニンに結合している。核酸塩基は、シトシンであり得、色素は、C5位置で、任意選択的にリンカーを介してシトシンに結合している。別の例として、核酸塩基は、チミン又はウラシルであり得、色素は、任意選択的にリンカーを通して、C5位置でチミン又はウラシルに結合されている。
【0105】
3’ブロッキング基
標識されたヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドはまた、ヌクレオチドのリボース糖又はデオキシリボース糖に共有結合したブロッキング基を有してもよい。ブロッキング基は、リボース糖又はデオキシリボース糖上の任意の位置に付着されてもよい。特定の実施形態において、ブロッキング基は、ヌクレオチドのリボース糖又はデオキシリボース糖の3’位置にある。様々な3’ブロッキング基は、国際公開第2004/018497号及び同第2014/139596号に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。例えば、ブロッキング基は、アジドメチル(-CH2N3)若しくは置換アジドメチル(例えば、-CH(CHF2)N3又はCH(CH2F)N3)、又はリボース若しくはデオキシリボース糖の3’酸素原子に接続しているアリルであり得る。いくつかの実施形態では、3’ブロッキング基は、アジドメチルであり、リボース又はデオキシリボースの3’炭素を用いて3’-OCH2N3を形成する。
【0106】
いくつかの他の実施形態では、3’ブロッキング基及び3’酸素原子は、リボース又はデオキシリボースの3’炭素に共有結合した構造
【0107】
【化20】
のアセタール基を形成し、
式中、各R
1a及びR
1bは、独立して、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、C
1-C
6アルコキシ、C
1-C
6ハロアルコキシ、シアノ、ハロゲン、任意選択的に置換されたフェニル、又は任意選択的に置換されたアラルキルであり、
各R
2a及びR
2bは、独立して、H、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6ハロアルキル、シアノ、又はハロゲンであり、
代替的に、R
1a及びR
2aは、それらが結合している原子と一緒に、任意選択的に置換された5~8員ヘテロシクリル基を形成し、
R
Fは、H、任意選択的に置換されたC
2-C
6アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
7シクロアルケニル、任意選択的に置換されたC
2-C
6アルキニル、又は任意選択的に置換された(C
1-C
6アルキレン)Si(R
3a)
3であり、
各R
3aは、独立して、H、C
1-C
6アルキル、又は任意選択的に置換されたC
6-C
10アリールである。
【0108】
追加の3’ヒドロキシブロッキング基は、米国特許出願公開第2020/0216891(A1)号に開示され、これは、その全体が参照により組み込まれる。アセタールブロッキング基
【0109】
【化21】
の非限定的な例であり、各々、リボース又はデオキシリボースの3’炭素に共有結合している。
【0110】
3’ブロッキング基の脱保護
いくつかの実施形態において、アジドメチル3’ヒドロキシ保護基は、水溶性ホスフィン試薬を使用することによって除去又は脱保護され得る。非限定的な例としては、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THMP)、トリス(ヒドロキシエチル)ホスフィン(THEP)、又はトリス(ヒドロキシルプロピル)ホスフィン(THP又はTHPP)が挙げられる。本明細書に記載の3’ブロッキング基は、様々な化学条件下で除去又は切断され得る。ビニル又はアルケニル部分を含むアセタールブロッキング基
【0111】
【化22】
では、非限定的な切断条件には、ホスフィン配位子、例えばトリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THMP)、又はトリス(ヒドロキシルプロピル)ホスフィン(THP又はTHPP)の存在下での、Pd(OAc)
2又はアリルPd(II)クロリド二量体などのPd(II)錯体が含まれる。アルキニル基(例えば、エチニル)を含有するこれらのブロッキング基の場合、それらはまた、ホスフィン配位子(例えば、THP又はTHMP)の存在下でのPd(II)錯体(例えば、Na
2PdCl
4、K
2PdCl
4、Pd(OAc)
2又はアリルPd(II)クロリド二量体)によって除去され得る。
【0112】
パラジウム切断試薬
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の3’ブロッキング基は、パラジウム触媒によって切断され得る。いくつかのそのような実施形態では、Pd触媒は、水溶性である。いくつかのそのような実施形態では、は、Pd(0)錯体である(例えば、トリス(3,3’,3’’-ホスフィニジントリス(ベンゼンスルホナト)パラジウム(0))九ナトリウム(nonasodium)塩九水和物)である。場合によっては、Pd(0)は、アルケン、アルコール、アミン、ホスフィン、又は金属水素化物などの試薬によるPd(II)錯体の還元からその場で生成され得る。好適なパラジウム源としては、Na2PdCl4、K2PdCl4、Pd(CH3CN)2Cl2、(PdCl(C3H5))2、[Pd(C3H5)(THP)]Cl、[Pd(C3H5)(THP)2]Cl、Pd(OAc)2、Pd(Ph3)4、Pd(dba)2、Pd(Acac)2、PdCl2(COD)、及びPd(TFA)2が挙げられる。そのような一実施形態では、Pd(0)錯体は、Na2PdCl4からその場で生成される。別の実施形態では、パラジウム源は、アリルパラジウム(II)クロリド二量体[(PdCl(C3H5))2]である。いくつかの実施形態では、Pd(0)錯体は、Pd(II)錯体をホスフィンと混合することによって水溶液中で生成される。好適なホスフィンとしては、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン(THP)、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THMP)、1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタン(PTA)、ビス(p-スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二水和物カリウム塩、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、及びトリフェニルホスフィン-3,3’,3’’-トリスルホン酸三ナトリウム塩などの水溶性ホスフィンが挙げられる。
【0113】
いくつかの実施形態では、Pd(0)は、Pd(II)錯体[(PdCl(C3H5))2]をTHPとその場で混合することによって調製される。Pd(II)錯体とTHPとのモル比は、約1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、又は1:10であり得る。いくつかの更なる実施形態では、アスコルビン酸又はその塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム)などの1つ以上の還元剤を添加してもよい。いくつかの実施形態では、切断混合物は、一級アミン、二級アミン、三級アミン、炭酸塩、リン酸塩、若しくはホウ酸塩、又はそれらの組み合わせなどの追加の緩衝試薬を含有し得る。いくつかの更なる実施形態では、緩衝剤試薬は、エタノールアミン(EA)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、グリシン、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、2-ジメチルエタノールアミン(DMEA)、2-ジエチルエタノールアミン(DEEA)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)、若しくはN,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン(TEEDA)、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、緩衝剤試薬は、DEEAである。別の実施形態では、緩衝剤試薬は、炭酸塩、リン酸塩、若しくはホウ酸塩、又はそれらの組み合わせなどの1つ以上の無機塩を含有する。一実施形態では、無機塩は、ナトリウム塩である。
【0114】
リンカー
本明細書に開示される色素化合物は、基材又は別の分子へ化合物が共有結合するための置換位置の1つに、反応性リンカー基を含んでもよい。反応性連結基は、結合(例えば、共有結合又は非共有結合)、特に共有結合を形成することができる部分である。特定の実施形態では、リンカーは、開裂可能なリンカーであり得る。用語「開裂可能なリンカー」の使用は、リンカー全体を除去する必要があることを意味するものではない。開裂部位は、リンカーの一部が、開裂後に色素及び/又は基材部分に付着したままであることを確実にするリンカー上の位置に配置され得る。開裂可能なリンカーは、非限定的な例として、求電子的に開裂可能なリンカー、求核的に開裂可能なリンカー、光開裂可能リンカー、還元条件下で開裂可能なリンカー(例えば、ジスルフィド又はアジド含有リンカー)、酸化的条件で開裂可能なリンカー、安全装置リンカーの使用によって開裂可能なリンカー、除去機構によって開裂可能であるリンカーであり得る。色素化合物を基材部分に付着させるために開裂可能なリンカーを使用することにより、必要に応じて、検出後に標識を除去することができ、下流の工程においていかなる干渉シグナルも回避することができる。
【0115】
有用なリンカー基は、PCT国際公開第2004/018493号(参照により本明細書に組み込まれる)に見ることができ、その例としては、水溶性ホスフィン、又は遷移金属から形成された水溶性遷移金属触媒及び少なくとも部分的に水溶性の配位子を使用して開裂され得るリンカーが挙げられる。水溶液中で、後者は、少なくとも部分的に水溶性の遷移金属錯体を形成する。このような開裂可能なリンカーは、ヌクレオチドの塩基を、本明細書に記載される色素などの標識に接続するために使用することができる。
【0116】
特定のリンカーとしては、下の式の部分を含むものなど、PCT国際公開第2004/018493号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるものが挙げられ、
【0117】
【化23】
式中、Xは、O、S、NH、及びNQを含む基から選択され、Qは、C1~10の置換又は非置換アルキル基であり、Yは、O、S、NH、及びN(アリル)を含む基から選択され、Tは、水素又はC
1-C
10置換又は非置換アルキル基であり、
*は、その部分がヌクレオチド又はヌクレオシドの残りの部分に接続される場所を示す。いくつかの態様では、リンカーは、ヌクレオチドの塩基を、例えば、本明細書に記載される色素化合物などの標識に接続する。
【0118】
リンカーの追加の例としては、以下の式の部分を含むものなど、米国特許出願公開第2016/0040225号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるものが挙げられる
【0119】
【化24】
(式中、
*は、その部分がヌクレオチド又はヌクレオシドの残りの部分に接続される場所を示す)。ここに示されるリンカー部分は、ヌクレオチド/ヌクレオチドと標識との間の全体又は部分的リンカー構造を含んでもよい。ここに示されるリンカー部分は、ヌクレオチド/ヌクレオチドと標識との間の全体又は部分的リンカー構造を含んでもよい。
【0120】
リンカーの追加の例には、以下の式:
【0121】
【化25】
の部分が含まれ、式中、Bは、核酸塩基であり、Zは、-N
3(アジド)、-O-C
1-C
6アルキル、-O-C
2-C
6アルケニル、又は-O-C
2-C
6アルキニルであり、Flは、追加のリンカー構造を含有し得る色素部分を含む。当業者は、本明細書に記載の色素化合物が、色素化合物の官能基(例えば、カルボキシル)をリンカーの官能基(例えば、アミノ)と反応させることによってリンカーに共有結合していることを理解する。一実施形態では、切断可能なリンカーは、
【0122】
【化26】
(「AOL」リンカー部分)を含み、式中、Zは、-O-アリルである。
【0123】
特定の実施形態では、蛍光色素(フルオロフォア)とグアニン塩基との間のリンカーの長さは、例えば、ポリエチレングリコールスペーサ基を導入することによって変更することができ、それにより、当該技術分野において既知の他の結合を介してグアニン塩基に結合した同じフルオロフォアと比較して、蛍光強度を増加させることができる。例示的なリンカー及びそれらの特性は、PCT国際公開第2007/020457号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。リンカーのこのような設計、特にそれらの長さが増加したことは、DNAなどのポリヌクレオチドに組み込まれたとき、グアノシンヌクレオチドのグアニン塩基に結合したフルオロフォアの輝度の改善を可能にすることができる。したがって、色素が、グアニン含有ヌクレオチドに結合した蛍光色素標識の検出を必要とする任意の解析方法における使用のためである場合、リンカーが、国際公開第2007/020457号に記載される、式-((CH2)2O)n-(式中、nは、2~50の整数である)のスペーサ基を含む場合、有利である。
【0124】
ヌクレオシド及びヌクレオチドは、糖又は核塩基上の部位で標識されてもよい。当該技術分野において既知のように、「ヌクレオチド」は、窒素塩基、糖、及び1つ以上のリン酸基からなる。RNA中では、糖はリボースであるが、DNA中では、糖はデオキシリボース、すなわち、リボース中に存在するヒドロキシ基を欠く糖である。窒素塩基は、プリン又はピリミジンの誘導体である。プリンはアデニン(A)及びグアニン(G)であり、ピリミジンはシトシン(C)及びチミン(T)であるか、又はRNAの文脈では、ウラシル(U)である。デオキシリボースのC-1原子は、ピリミジンのN-1又はプリンのN-9に結合される。ヌクレオチドもまたヌクレオシドのリン酸エステルであり、糖のC-3又はC-5に結合したヒドロキシ基にエステル化が生じる。ヌクレオシドは、通常、一リン酸、二リン酸、又は三リン酸である。
【0125】
「ヌクレオシド」は、ヌクレオチドと構造的に類似しているが、リン酸部分を欠いている。ヌクレオチド類似体の例は、標識が塩基に連結され、糖分子に結合したリン酸基が存在しないものである。
【0126】
塩基は通常、プリン又はピリミジンと呼ばれるが、当業者は、ヌクレオチド又はヌクレオシドの能力を変化させてワトソン・クリック塩基対合を起こすことのない誘導体及び類似体が利用可能であることを理解するであろう。「誘導体」又は「類似体」は、コア構造が親化合物と同じであるか、又は密接に類似しているが、例えば、異なる又は追加の側基(誘導体ヌクレオチド又はヌクレオシドが他の分子と連結されるのを可能にする)などの化学的又は物理的変更が加えられた化合物又は分子を意味する。例えば、塩基は、デアザプリンであり得る。特定の実施形態では、誘導体は、ワトソン・クリック対合を受けることができるべきである。「誘導体」及び「類似体」はまた、例えば、修飾塩基部分及び/又は修飾糖部分を有する合成ヌクレオチド又はヌクレオシド誘導体を含む。そのような誘導体及び類似体は、例えば、Scheit,Nucleotide analogs(John Wiley&Son,1980)及びUhlman,Chemical Reviews90:543-584,1990に考察されている。ヌクレオチド類似体はまた、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキル-ホスホネート、ホスホラニリデート、ホスホラミデート連結などを含む修飾されたホスホジエステル連結を含み得る。
【0127】
色素は、例えばリンカーを介してヌクレオチド塩基上の任意の位置に取り付けられてもよい。特定の実施形態において、ワトソン・クリック塩基対合が、得られた類似体に対して依然として実行され得る。特定の核塩基標識部位としては、ピリミジン塩基のC5位置、又は7-デアザプリン塩基のC7位置が挙げられる。上記のように、リンカー基を使用して、ヌクレオシド又はヌクレオチドに色素を共有結合させることができる。
【0128】
特定の実施形態では、標識されたヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、酵素的に組み込み可能であり、酵素的に伸長可能であり得る。したがって、リンカー部分は、ヌクレオチドを化合物に接続するのに十分な長さであり得、その結果、化合物は、核酸複製酵素によるヌクレオチドの全体的な結合及び認知と有意なほどには干渉しない。したがって、リンカーはスペーサ単位も含み得る。スペーサは、例えば、切断部位又は標識からヌクレオチド塩基を遠ざける。
【0129】
本明細書に記載の色素で標識されたヌクレオシド又はヌクレオチドは、以下の式を有し得、
【0130】
【0131】
式中、色素は、本明細書に記載の縮合ビス-ホウ素複素環(標識)を含有する色素であり、(色素の官能基とリンカー「L」の官能基との間の共有結合後)、Bは、例えばウラシル、チミン、シトシン、アデニン、7-デアザアデニン、グアニン、7-デアザグアニンなどの核酸塩基であり、Lは、存在し得るか又は存在し得ない、任意選択的なリンカー基であり、R’は、Hであることができ、-OR’は、一リン酸、二リン酸、三リン酸、チオリン酸、リン酸エステル類似体、反応性リン含有基に結合した-O-、又はブロッキング基によって保護された-O-であり、R’’は、H又はOHであり、R’’’は、H、本明細書に記載の3’ヒドロキシブロッキング基であるか、又は-OR’’’は、ホスホラミダイトを形成する。式中、-OR’’’は、ホスホラミダイトであり、R’は、自動合成条件下でその後のモノマーカップリングを可能にする酸切断可能なヒドロキシ保護基である。いくつかの更なる実施形態では、Bは、
【0132】
【化28】
又はそれらの任意選択的に置換された誘導体及びそれらの類似体を含む。いくつかの更なる実施形態では、標識された核酸塩基は、構造
【0133】
【0134】
特定の実施形態において、ブロッキング基は、色素化合物とは別個かつ独立しており、すなわち、色素化合物には結合していない。代替的に、色素は、3’-OHブロッキング基の全て又は一部を含んでもよい。したがって、R’’’は、色素化合物を含んでも含まなくてもよい3’ヒドロキシブロッキング基であり得る。
【0135】
更に別の代替的な実施形態において、ペントース糖の3’炭素上にブロッキング基は存在せず、例えば、塩基に結合した色素(又は色素及びリンカー構造物)が、更なるヌクレオチドの組み込みに対するブロックとして作用するのに十分なサイズ又は構造であり得る。したがって、色素が糖の3’位置に付着されているかどうかに関わらず、ブロックは立体的妨害物に起因し得るか、又は、サイズ、電荷、及び構造の組み合わせに起因し得る。
【0136】
更に別の代替的な実施形態において、ブロッキング基はペントース糖の2’又は4’炭素上に存在し、更なるヌクレオチドの組み込みに対してブロックとして作用するのに十分なサイズ又は構造であることができる。
【0137】
ブロッキング基の使用により、例えば、標識されたヌクレオチドが組み込まれるときに伸長を停止することなどによって、重合を制御することができる。ブロッキング効果が可逆的である場合、例えば、化学的条件を変更することによって、又は化学ブロックを除去することによって可逆的である場合(ただし例はこれらの場合に限られない)、特定の点で伸長を一旦停止してから、継続を可能とすることができる。
【0138】
特定の実施形態では、リンカー(色素とヌクレオチドとの間のリンカー)及びブロッキング基は、両方とも存在し、別個の部分である。特定の実施形態において、リンカー及びブロッキング基は、同じ又は実質的に同様の条件下で両方とも開裂可能である。したがって、脱保護及び脱ブロッキングプロセスは、色素化合物及びブロッキング基の両方を除去するために単一の処理のみが必要となるため、より効率的であり得る。しかしながら、いくつかの実施形態において、リンカー及びブロッキング基は、別個の条件下で個別に開裂可能である代わりに、同様の条件下で開裂可能である必要はない。
【0139】
本開示はまた、色素化合物を組み込むポリヌクレオチドも包含する。このようなポリヌクレオチドは、ホスホジエステル連結で結合されたデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドからそれぞれなるDNA又はRNAであってもよい。ポリヌクレオチドは、自然由来のヌクレオチド、本明細書に記載される標識化されたヌクレオチド以外の非自然由来(又は修飾)ヌクレオチド、又はこれらの任意の組み合わせを、本明細書に記載されるような少なくとも1つの修飾ヌクレオチド(例えば、色素化合物で標識化されたもの)と組み合わせて含むことができる。本開示によるポリヌクレオチドは、非自然由来の骨格結合及び/又は非ヌクレオチド化学修飾も含み得る。少なくとも1つの標識されたヌクレオチドを含むリボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチドの混合物からなるキメラ構造も想到される。
【0140】
本明細書に記載される非限定的な例示的な標識されたヌクレオチドとしては、以下のものが挙げられ、
【0141】
【化30】
が含まれ、式中、Lは、リンカーを表し、Rは、上記のリボース若しくはデオキシリボース部分、又は5’位置が一リン酸、二リン酸、若しくは三リン酸で置換されたリボース若しくはデオキシリボース部分を表す。
【0142】
いくつかの実施形態では、非限定的な蛍光色素コンジュゲートが以下に示され、
【0143】
【0144】
【化32】
式中、PGは、本明細書に記載の3’OHブロッキング基を表し、pは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の整数であり、kは、0、1、2、3、4、又は5である。一実施形態では、-O-PGは、AOMである。別の実施形態では、-O-PGは、-O-アジドメチルである。一実施形態において、kは、5である。いくつかの更なる実施形態において、pは、1、2、又は3であり、kは、5である。
【0145】
【化33】
は、リンカー部分のアミノ基と色素のカルボキシル基との間の反応の結果としての、開裂可能なリンカーを有する色素の接続点を指す。本明細書に記載の標識されたヌクレオチドの任意の実施形態では、ヌクレオチドは、ヌクレオチド三リン酸である。
【0146】
本開示の追加の態様は、本明細書に記載の標識されたヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドに関する。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズされる、及び/又はこれに相補的である。いくつかの実施形態では、標的ポリヌクレオチドは、固体支持体上に固定化される。いくつかの更なる実施形態では、固体支持体は、複数の固定化標的ポリヌクレオチドのアレイを含む。更なる実施形態では、固体支持体は、パターン化されたフローセルを備える。
【0147】
本開示の追加の態様は、本明細書に記載される1つ以上のビス-ホウ素色素を含むタンパク質タグ又は抗体に関する。特に、タンパク質タグ又は抗体は、増加した蛍光強度のために同じ色素の複数のコピーを含んでもよい。タンパク質タグ又は抗体は、特定のタイプの非標識3’ブロックヌクレオチドに表面的に結合する親和性試薬として使用することができる。
【0148】
キット
本明細書では、本開示のビス-ホウ素色素で標識された(すなわち、第1の標識)第1のタイプのヌクレオチドを含むキットが提供される。いくつかの実施形態において、キットはまた、第1の標識されたヌクレオチド中のビス-ホウ素色素とは異なる第2の化合物で標識された(すなわち、第2の標識)第2のタイプの標識されたヌクレオチドを含む。いくつかの更なる実施形態において、キットは、第3のタイプのヌクレオチドを含み得、第3のタイプのヌクレオチドは、第1及び第2の標識とは異なる第3の化合物で標識されている(すなわち、第3の標識)。いくつかの更なる実施形態では、キットは、第4のタイプのヌクレオチドを更に含み得る。いくつかのそのような実施形態では、第4のタイプのヌクレオチドは、未標識(暗色)である。他の実施形態では、第4のヌクレオチドは、第1、第2、及び第3のヌクレオチドとは異なる化合物で標識され、各標識は、他の標識と区別可能である明確な吸光度最大値を有する。いくつかの実施形態では、ヌクレオチドは、異なる波長を有する2つの光源の使用を伴う配列決定用途において使用され得る。いくつかの実施形態では、第1の光源は、約500nm~約550nm、約510~約540nm、又は約520~約530nm(例えば、520nm)の波長を有する。第2の光源は、約400nm~約480nm、約420nm~約470nm、又は450nm~約460nm(例えば、450nm)の波長を有する。更なる実施形態では、第1の標識、第2の標識、及び第3の標識の各々は、2つの別個の収集フィルタ又はチャネルに収集され得る発光スペクトルを有する。
【0149】
いくつかの実施形態では、キットは、4つのタイプの標識されたヌクレオチド(A、C、G及びT又はU)を含み得、第1のタイプのヌクレオチドは、本明細書に開示される化合物で標識される。このようなキットでは、4つのタイプのヌクレオチドの各々は、他の3つのヌクレオチド上の標識と同じであるか又は異なる化合物で標識され得る。代替的に、4つのタイプのヌクレオチドのうちの第1のタイプは、本明細書に記載される標識されたヌクレオチド(すなわち、本明細書に記載されるビス-ホウ素色素で標識されている)であり、第2のタイプのヌクレオチドは、第2の標識を担持し、第3のタイプのヌクレオチドは、第3の標識を担持し、第4のタイプのヌクレオチドは、未標識である(暗色である)。別の例として、4つのタイプのヌクレオチドのうちの第1のタイプは、本明細書に記載される標識されたヌクレオチドであり、第2のタイプのヌクレオチドは、第2の標識を担持し、第3のタイプのヌクレオチドは、2つの標識を担持する第3のタイプのヌクレオチドの混合物を含み(例えば、第1の標識を担持する第3のタイプのヌクレオチド及び第2の標識を担持する第3のタイプのヌクレオチド)、第4のタイプのヌクレオチドは、未標識(暗色)である。この特定の例において、第3のタイプのヌクレオチドの2つの標識の一方又は両方は、第1又は第2の標識とは構造的に異なるが、光源の同じ波長下で励起され得るが、より強い発光シグナル強度を有する標識であり得る(例えば、第3の標識を担持する第3のタイプのヌクレオチド及び第4の標識を担持する第3のタイプのヌクレオチドであって、第3の標識は第1の標識と同じ波長下で励起され得、第4の標識は第2の標識と同じ波長下で励起され得る)。これらの例では、標識化合物のうちの1つ以上は、その化合物が他の化合物と区別可能であるように、別個の吸光度最大値及び/又は発光最大値を有し得る。例えば、各化合物は、化合物の各々が他の3つの化合物(又は4番目のヌクレオチドが未標識の場合は2つの化合物)と分光的に区別可能であるように、異なる吸光度最大値及び/又は発光最大値を有し得る。最大値以外の吸光度スペクトル及び/又は発光スペクトルの部分は異なる場合があり、これらの差異は、化合物を区別するために利用され得ることが理解されるであろう。キットは、2つ以上の化合物が別個の吸光度最大値を有するようなものであり得る。本明細書に記載されるビス-ホウ素色素は、典型的には、500nm未満の領域の光を吸収する。例えば、これらのビス-ホウ素色素は、約410nm~約480nm、約420nm~約470nm、約440nm~約460nmの吸収波長を有し得る。
【0150】
本明細書に記載されるビス-ホウ素化合物、ヌクレオチド、又はキットは、生物学系(例えば、プロセス又はそのコンポーネントを含む)を検出、測定、又は同定するために使用されてもよい。化合物、ヌクレオチド又はキットを用いることができる例示的な技術としては、配列決定、発現解析、ハイブリダイゼーション解析、遺伝子解析、RNA解析、細胞アッセイ(例えば、細胞結合又は細胞機能解析)、又はタンパク質アッセイ(例えば、タンパク質結合アッセイ又はタンパク質活性アッセイ)が挙げられる。その使用は、自動配列決定機器などの特定の技術を実行するための自動化機器であり得る。配列決定機器は、異なる波長で作動する2つの光源を含み得る。
【0151】
特定の実施形態では、本明細書に記載の標識されたヌクレオチドは、未標識若しくは天然ヌクレオチド、又はそれらの任意の組み合わせと組み合わせて供給され得る。ヌクレオチドの組み合わせは、別個の個々のコンポーネント(例えば、容器又はチューブ当たり1つのヌクレオチド型)として、又はヌクレオチド混合物(例えば、同じ容器又はチューブ内で混合された2つ以上のヌクレオチド)として提供され得る。
【0152】
キットが、複数の、特に2つ、又は3つ、又はより具体的には4つのヌクレオチドを含む場合、異なるヌクレオチドは、異なる色素化合物で標識され得るか、又は色素化合物を含まない、暗色であり得る。異なるヌクレオチドが異なる色素化合物で標識されている場合、色素化合物が分光的に区別可能な蛍光色素であるというのが本キットの特徴である。本明細書で使用するとき、用語「分光的に区別可能な蛍光色素」とは、2つ以上の色素が1つの試料に存在する場合、蛍光検出装置(例えば、市販の毛管ベースのDNA配列決定プラットフォーム)によって区別され得る波長で、蛍光エネルギーを発する蛍光色素を指す。蛍光色素化合物で標識された2つのヌクレオチドがキット形態で供給される場合、分光的に区別可能な蛍光色素は、例えば、同じ光源など、同じ波長で励起され得ることが、いくつかの実施形態の特徴である。蛍光色素化合物で標識された4つのヌクレオチドがキット形態で供給される場合、分光的に区別可能な蛍光色素のうちの2つが1つの波長で励起され得、他の2つの分光的に区別可能な色素は両方とも別の1つの波長で励起され得るというのがいくつかの実施形態の特徴である。色素における特定の励起波長は、450~460nm、490~500nm、又は520nm以上(例えば、532nm)である。
【0153】
代替的な実施形態では、本開示のキットは、同じ塩基が2つの異なる化合物で標識されるヌクレオチドを含有してもよい。第1のヌクレオチドは、本開示の化合物で標識されてもよく、例えば、500nm未満で吸収される「青色」色素で標識されてもよい。第2のヌクレオチドは、分光的に区別可能な化合物、例えば、600nm未満であるが、500nm超で吸収される「緑色」色素で標識されてもよい。第3のヌクレオチドは、本開示の化合物と、それとは分光的に区別可能な化合物との混合物として標識されてもよく、第4のヌクレオチドは「暗色」で、標識を含有しなくてもよい。したがって、簡便に言えば、ヌクレオチド1~4は、「青色」、「緑色」、「青色/緑色」、及び暗色と標識され得る。機器を更に単純化するために、4つのヌクレオチドは、単一の光源で励起される2つの色素で標識することができ、したがって、ヌクレオチド1~4の標識は、「青色1」、「青色2」、「青色1/青色2」、及び暗色であり得る。
【0154】
異なる色素化合物で標識された異なるヌクレオチドを有する構成に関して、キットが本明細書に例示されるが、キットは、同じ色素化合物を有する2、3、4つ以上の異なるヌクレオチドを含み得ることが理解されるであろう。
【0155】
標識されたヌクレオチドに加えて、キットは、少なくとも1つの追加の成分を一緒に含み得る。更なる成分は、本明細書に記載される方法又は以下の実施例のセクションで特定される成分のうちの1つ以上であってもよい。本開示のキットに組み合わせることができる成分のいくつかの非限定的な例を以下に記載する。いくつかの実施形態では、キットは、DNAポリメラーゼ(9°Nポリメラーゼの変異体DNAポリメラーゼ、例えば、国際公開第2005/024010号に開示されているもの)及び1つ以上の緩衝組成物を更に含む。1つの緩衝組成物は、アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムなどの酸化防止剤を含み得、検出中に色素化合物を光損傷から保護するために使用され得る。追加の緩衝組成物は、3’ブロッキング基及び/又は開裂可能なリンカーを切断するために使用され得る試薬を含み得る。例えば、遷移金属及びパラジウム錯体などの少なくとも部分的に水溶性のリガンドから形成された水溶性ホスフィン又は水溶性遷移金属触媒。キットの様々な構成要素は、使用前に希釈される濃縮形態で提供され得る。そのような実施形態では、好適な希釈緩衝液も含まれ得る。ここでも、本明細書に記載される方法で特定された成分のうちの1つ以上を、本開示のキットに含めることができる。本明細書に記載されるヌクレオチド又は標識されたヌクレオチドの任意の実施形態では、ヌクレオチドは、3’ブロッキング基を含有する。
【0156】
代替的に、キットは、1つ以上の異なるタイプの非標識3’ブロックヌクレオチド及び1つ以上の親和性試薬(例えば、タンパク質タグ及び抗体)を含んでもよく、少なくとも1つの親和性試薬は、本明細書に記載されるビスホウ素色素の複数のコピーで標識される。
【0157】
配列決定の方法
本開示による色素化合物を含むヌクレオチドは、そのようなヌクレオチドに結合した蛍光標識の検出を含む任意の解析方法で使用することができるが、ヌクレオチド又はヌクレオシドをそれ自体で解析するか、又はヌクレオチド又はヌクレオシドがより大きい分子構造若しくはコンジュゲートに組み込まれるか若しくはそれに関連づけられている状態で解析するかは問題ではない。この文脈において、用語「ポリヌクレオチドに組み込まれる」は、5’リン酸が、それ自体がより長いポリヌクレオチド鎖の一部を形成し得る、第2のヌクレオチドの3’ヒドロキシ基にホスホジエステル連結で結合されることを意味し得る。本明細書に記載されるヌクレオチドの3’末端は、更なるヌクレオチドの5’リン酸に、ホスホジエステル連結で結合されてもよく、又はされなくてもよい。したがって、非限定的な一実施形態では、本開示は、ポリヌクレオチドに組み込まれた標識されたヌクレオチドを検出する方法であって、(a)本開示の少なくとも1つの標識されたヌクレオチドをポリヌクレオチドに組み込むことと、(b)当該ヌクレオチドに結合させた色素化合物からの蛍光シグナルを検出することによって、ポリヌクレオチドに組み込まれたヌクレオチドの同一性を決定することと、を含む方法を提供する。
【0158】
本方法は、(a)本開示による1つ以上の標識されたヌクレオチドがポリヌクレオチドに組み込まれる合成工程と、(b)ポリヌクレオチドに組み込まれた1つ以上の標識されたヌクレオチドが、それらの蛍光を検出又は定量的に測定することによって検出される検出工程と、を含み得る。
【0159】
本出願のいくつかの実施形態は、標的ポリヌクレオチド(例えば、一本鎖標的ポリヌクレオチド)の配列を決定する方法であって、(a)プライマーポリヌクレオチドを1つ以上の標識されたヌクレオチド(例えば、ヌクレオシド三リン酸A、G、C、及びT)と接触させることであって、当該標識されたヌクレオチドのうちの少なくとも1つが、本明細書に記載の標識されたヌクレオチドであり、プライマーポリヌクレオチドが、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分に相補的である、接触させることと、(b)標識されたヌクレオチドをプライマーポリヌクレオチドに組み込むことと、(c)1つ以上の蛍光測定を実行して、組み込まれたヌクレオチドの同一性を決定することと、を含む。いくつかのそのような実施形態では、プライマーポリヌクレオチド/標的ポリヌクレオチド複合体は、標的ポリヌクレオチドを標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分に相補的なプライマーポリヌクレオチドと接触させることによって形成される。いくつかの実施形態では、本方法は、(d)プライマーポリヌクレオチドに組み込まれたヌクレオチドから標識部分及び3’ヒドロキシブロッキング基を除去することを更に含む。いくつかの更なる実施形態では、方法はまた、(e)除去された標識部分及び3’ブロッキング基をプライマーポリヌクレオチド鎖から洗浄することを含み得る。いくつかの実施形態では、標的ポリヌクレオチド鎖の少なくとも一部分の配列が決定されるまで、工程(a)~(d)又は工程(a)~(e)を繰り返す。場合によっては、工程(a)~(d)又は工程(a)~(e)は、少なくとも少なくとも30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、又は300サイクル繰り返される。いくつかの実施形態では、プライマーポリヌクレオチド鎖に組み込まれたヌクレオチドからの標識部分及び3’ブロッキング基は、単一の化学反応で除去される。いくつかの更なる実施形態では、方法は、自動配列決定機器で実行され、自動配列決定機器は、異なる波長で動作する2つの光源を含む。いくつかの実施形態では、配列決定は、本明細書に記載の配列決定工程の繰り返しのサイクルの完了後に行われる。
【0160】
本開示のいくつかの実施形態は、標的ポリヌクレオチド(例えば、一本鎖標的ポリヌクレオチド)の配列を決定するための方法に関し、(a)プライマーポリヌクレオチドを、4つの異なるタイプのヌクレオチドコンジュゲートのうちの1つ以上を含む組み込み混合物と接触させることであって、第1のタイプのヌクレオチドコンジュゲートが、第1の標識を含み、第2のタイプのヌクレオチドコンジュゲートが、第2の標識を含み、第3のタイプのヌクレオチドコンジュゲートが、第3の標識を含み、第1の標識、第2の標識、及び第3の標識の各々が、互いに分光的に異なり、プライマーヌクレオチドが、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分に相補的である、接触させることと、(b)混合物からプライマーポリヌクレオチドに1つのヌクレオチドコンジュゲートを組み込んで、伸長されたプライマーポリヌクレオチドを生成することと、(c)第1の励起光源を使用して第1の撮像イベントを実行し、伸長されたポリヌクレオチドから第1の発光シグナルを検出することと、(d)第2の励起光源を使用して第2の撮像イベントを実行し、伸長されたポリヌクレオチドから第2の発光シグナルを検出することと、を含み、第1の励起光源及び第2の励起光源は、異なる波長を有し、第1の発光シグナル及び第2の発光シグナルは、単一発光検出チャネルに検出又は収集される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のビス-ホウ素色素は、本方法に記載の第1、第2、又は第3の標識のうちのいずれか1つとして使用され得る。いくつかの実施形態において、方法は、第1の撮像イベントの後及び第2の撮像イベントの前に、混合物中にいずれのヌクレオチドコンジュゲートの化学修飾も含まない。いくつかの更なる実施形態では、組み込み混合物は、第4のタイプのヌクレオチドを更に含み、第4のタイプのヌクレオチドは、未標識であるか、又は第1若しくは第2の撮像イベントのいずれからもシグナルを発しない蛍光部分で標識されている。この配列決定方法では、各組み込まれたヌクレオチドコンジュゲートの同一性は、第1の撮像イベント及び第2の撮像イベントの検出パターンに基づいて決定される。例えば、第1のタイプのヌクレオチドコンジュゲートの組み込みは、第1の撮像イベントにおけるシグナル状態及び第2の撮像イベントにおける暗状態によって決定される。第2のタイプのヌクレオチドコンジュゲートの組み込みは、第1の撮像イベントにおける暗状態及び第2の撮像イベントにおけるシグナル状態によって決定される。第3のタイプのヌクレオチドコンジュゲートの組み込みは、第1の撮像イベント及び第2の撮像イベントの両方におけるシグナル状態によって決定される。第4のタイプのヌクレオチドコンジュゲートの組み込みは、第1の撮像イベント及び第2の撮像イベントの両方における暗状態によって決定される。更なる実施形態では、工程(a)~(d)は、繰り返しのサイクル(例えば、少なくとも30、50、100、150、200、250、300、400、又は500回)で実行され、本方法は、各連続的に組み込まれたヌクレオチドコンジュゲートの同一性に基づいて、一本鎖標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分の配列を連続的に決定することを更に含む。いくつかの実施形態において、第1の励起光源は、第2の励起光源よりも短い波長を有する。いくつかのかかる実施形態において、第1の励起光源は、約400nm~約480nm、約420nm~約470nm、又は約450nm~約460nmの波長(すなわち、「青色光」)を有する。一実施形態において、第1の励起光源は、約450nmの波長を有する。第2の励起光源は、約500nm~約550nm、約510nm~約540nm、又は約520nm~約535nm(すなわち、「緑色光」)の波長を有する。一実施形態において、第2の励起光源は、約520nmの波長を有する。他の実施形態において、第1の励起光源は、第2の励起光源よりも長い波長を有する。いくつかのそのような実施形態では、第1の励起光源は、約500nm~約550nm、約510nm~約540nm、又は約520nm~約535nm(すなわち、「緑色光」)の波長を有する。一実施形態において、第2の励起光源は、約520nmの波長を有する。第2の励起光源は、約400nm~約480nm、約420nm~約470nm、又は約450nm~約460nmの波長(すなわち、「青色光」)を有する。一実施形態において、第2の励起光源は、約450nmの波長を有する。
【0161】
本開示のいくつかの実施形態は、複数の標的ポリヌクレオチド(例えば、複数の異なる標的ポリヌクレオチド)の配列を決定する方法であって、(a)固体支持体を、配列決定プライマーを含む溶液と、ハイブリダイゼーション条件下で接触させることであって、固体支持体は、その上に固定化された複数の異なる標的ポリヌクレオチドを含み、配列決定プライマーは、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分に相補的である、接触させることと、(b)固体支持体を、DNAポリメラーゼ及び4つの異なるタイプのヌクレオチドのうちの1つ以上を含む水溶液と、DNAポリメラーゼ媒介プライマー伸長に好適な条件下で接触させることであって、ヌクレオチドのうちの少なくとも1つのタイプが、本明細書に記載される標識されたヌクレオチドである、接触させることと、(c)1つのタイプのヌクレオチドを配列決定プライマーに組み込んで、伸長されたコピーポリヌクレオチドを生成することと、(d)組み込まれたヌクレオチドの同一性を決定するために、伸長されたコピーポリヌクレオチドの1つ以上の蛍光測定を実行することと、を含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、本方法は、(e)伸長されたコピーポリヌクレオチドに組み込まれたヌクレオチドから3’ブロッキング基を除去することを更に含む。いくつかのこのような実施形態では、工程(e)はまた、組み込まれたヌクレオチドの標識を除去する。いくつかの実施形態では、本方法は、(f)組み込まれたヌクレオチドから標識及び3’ブロッキング基を当該除去することの後に、固体支持体を洗浄することを更に含む。更なる実施形態では、本方法は、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分の配列が決定されるまで、工程(b)~(f)を繰り返すことを含む。いくつかのそのような実施形態では、工程(b)~(f)は、少なくとも50、100、150、200、250、又は300サイクル繰り返される。更なる実施形態では、伸長されたコピーポリヌクレオチドに組み込まれたヌクレオチドからの標識及び3’ブロッキング基は、単一の化学反応で除去される。いくつかの実施形態では、工程(d)は、2つの撮像及び蛍光測定を含む。更なる実施形態では、本方法は、自動配列決定機器で実行され、自動配列決定機器は、異なる波長で動作する2つの光源を含む。いくつかのかかる実施形態では、1つの光源は、約400nm~約480nm、約420nm~約470nm、又は約450nm~約460nmの波長(すなわち、「青色光」)で動作する。更なる実施形態では、他の光源は、約500nm~約550nm、約510nm~約540nm、又は約520nm~約535nm(すなわち、「緑色光」)の波長で動作する。いくつかの実施形態では、4つの異なるタイプのヌクレオチドは、dATP、dCTP、dGTP、及びdTTP若しくはdUTP、又はそれらの非天然ヌクレオチド類似体である。特定の実施形態では、DNAポリメラーゼ及び4つの異なるタイプのヌクレオチドのうちの1つ以上を含む水溶液は、第1の標識(本明細書に記載のビスホウ素色素で標識された)を担持する第1のタイプのヌクレオチド、第2の標識を担持する第2のタイプのヌクレオチド、2つの標識の混合物を担持する第3のタイプのヌクレオチド、及び未標識(暗色)である第4のタイプのヌクレオチドを有する組み込み混合物を含むか、又は組み込み混合物である。例えば、第3のタイプのヌクレオチドは、第1の標識を担持する第3のタイプのヌクレオチドと、第2の標識を担持する第3のタイプのヌクレオチドとの混合物であってもよい。そのような実施形態において、第1のタイプのヌクレオチドの組み込みは、第1の撮像イベントにおけるシグナル状態及び第2の撮像イベントにおける暗状態によって決定され得る。第2のタイプのヌクレオチドの組み込みは、第1の撮像イベント/蛍光測定におけるシグナル状態及び第2の撮像イベント/蛍光測定における暗状態によって決定され得る。第3のタイプのヌクレオチドの組み込みは、第1及び第2の撮像イベントの双方/蛍光測定におけるシグナル状態によって決定される。第4のタイプのヌクレオチドコンジュゲートの組み込みは、第1及び第2の撮像イベントの双方/蛍光測定における暗状態によって決定される。別の実施形態において、組み込み混合物は、第1の標識(本明細書に記載されるビス-ホウ素色素で標識された)を担持する第1のタイプのヌクレオチド、第2の標識を担持する第2のタイプのヌクレオチド、第3の標識を有する第3のタイプのヌクレオチド、及び第4のタイプの未標識ヌクレオチドを含む。この場合、第1の標識、第2の標識、及び第3の標識の各々が、互いに分光的に異なり、第1の標識は第1の光源によって励起可能であり、第2の標識は第2の光源によって励起可能であり、第3の標識は第1及び第2の光源の両方によって励起可能である。結果として、4つのタイプのヌクレオチドの組み込みもまた、本明細書に記載される同じシグナルパターンに基づいて区別され得る。
【0162】
本明細書に記載される配列決定法のいくつかの実施形態では、少なくとも1つのヌクレオチドは、ポリメラーゼ酵素の作用によって合成工程において、ポリヌクレオチド(本明細書に記載の一本鎖プライマーポリヌクレオチドなど)に組み込まれる。しかしながら、ヌクレオチドをポリヌクレオチドに結合する他の方法、例えば、標識されたオリゴヌクレオチドの未標識オリゴヌクレオチドへの化学的オリゴヌクレオチド合成又はリゲーションを使用することができる。したがって、ヌクレオチド及びポリヌクレオチドに関して用語「組み込む」が使用されるときには、化学的方法及び酵素法によるポリヌクレオチド合成を包含することができる。
【0163】
特定の実施形態において、合成工程が実行され、かつ任意選択的に、鋳型又は標的ポリヌクレオチド鎖を本開示の蛍光標識されたヌクレオチドを含む反応混合物とインキュベートすることを含み得る。ポリメラーゼはまた、鋳型又は標的ポリヌクレオチド鎖にアニーリングされたポリヌクレオチド鎖上の遊離3’ドロキシ基と標識されたヌクレオチド上の5’リン酸基との間のホスホジエステル連結の形成を可能にする条件下で提供されることもできる。したがって、合成工程は、ヌクレオチドの鋳型/標的鎖への相補的塩基対合によって指向されるポリヌクレオチド鎖の形成を含み得る。
【0164】
本方法の全ての実施形態では、検出工程は、標識されたヌクレオチドが組み込まれるポリヌクレオチド鎖が鋳型/標的鎖にアニーリングされている間、又は2つの鎖が分離される変性工程の後に実施されてもよい。合成工程と検出工程との間に、例えば化学的又は酵素的反応工程又は精製工程といった更なる工程が含まれてもよい。具体的には、標識されたヌクレオチドを組み込むポリヌクレオチド鎖は、単離されても精製されてもよく、その後、更に処理されるか、又はその後の解析に使用されてもよい。例として、合成工程において本明細書に記載される標識されたヌクレオチドを組み込んでいる標的ポリヌクレオチドは、その後、標識化プローブ又はプライマーとして使用され得る。他の実施形態において、本明細書に記載される合成工程の生成物は、更なる反応工程に供され得、所望であれば、これらの後続工程の生成物は精製又は単離され得る。
【0165】
合成工程に好適な条件は、標準的な分子生物学的技術に精通しているものにはよく知られている。一実施形態では、合成工程は、本明細書に記載される標識されたヌクレオチドを含むヌクレオチド前駆体を使用する標準的なプライマー伸長反応と類似し、好適なポリメラーゼ酵素の存在下で鋳型/標的鎖に相補的な伸長されたポリヌクレオチド鎖(プライマーポリヌクレオチド鎖)を形成してもよい。他の実施形態では、合成工程は、それ自体が、プライマー及び鋳型のポリヌクレオチド鎖をコピーすることに由来するアニーリングされた相補鎖からなる、標識された二本鎖増幅産物を生成する、増幅反応の一部をなしてもよい。他の提示的な合成工程としては、ニックトランスレーション、鎖置換重合、ランダムプライミングDNA標識化などが挙げられる。合成工程に特に有用なポリメラーゼ酵素は、本明細書に記載される標識されたヌクレオチドの組み込みを触媒することができるものである。様々な天然由来の又は変異体/改変されたポリメラーゼを使用することができる。例として、熱安定性ポリメラーゼは、熱サイクリング条件を使用して実施される合成反応に使用することができるが、熱安定性ポリメラーゼは、等温プライマー伸長反応には望ましくない場合がある。本開示による標識されたヌクレオチドを組み込むことができる好適な熱安定性ポリメラーゼには、国際公開第2005/024010号又は同第06120433号に記載されるものが含まれ、その各々は参照により本明細書に組み込まれる。37℃などの低温で実施される合成反応では、ポリメラーゼ酵素は、必ずしも熱安定性ポリメラーゼである必要はなく、したがって、ポリメラーゼの選択は、反応温度、pH、鎖置換活性などのいくつかの要因に依存する。例示的なポリメラーゼには、Pol812、Pol1901、Pol1558、又はPol963が含まれるが、これらに限定されない。Pol812、Pol1901、Pol1558、又はPol963 DNAポリメラーゼのアミノ酸配列は、例えば、米国特許公開第2020/0131484A1号及び同第2020/0181587A1号に記載されており、それらの両方が参照により本明細書に組み込まれる。
【0166】
特定の非限定的な実施形態において、本開示は、核酸配列決定、再配列決定、全ゲノム配列決定、単一ヌクレオチド多型性スコアリングの方法に加えて、ポリヌクレオチドに組み込まれたときに本明細書に記載される色素で標識化された修飾ヌクレオチド又はヌクレオシドの検出を伴う任意の他の用途の方法を含む。
【0167】
本開示の特定の実施形態は、ポリヌクレオチドの合成による配列決定反応における本開示による色素部分を含む標識されたヌクレオチドの使用を提供する。合成による配列決定は、一般に、配列決定される鋳型/標的核酸に相補的な伸長されたポリヌクレオチド鎖を形成するために、ポリメラーゼ又はリガーゼを使用して、成長しつつあるポリヌクレオチド鎖に対し、5’~3’方向に1つ以上のヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを逐次的に付加することを含む。付加されたヌクレオチドのうちの1つ以上に存在する塩基が何であるかは、検出又は「撮像」工程で決定され得る。添加された塩基が何であるかは、各ヌクレオチド組み込み工程後に決定され得る。次いで、鋳型の配列は、従来式のワトソン・クリック塩基対合ルールを使用して推測され得る。単一の塩基が何であるかを決定するために本明細書に記載される色素で標識化されたヌクレオチドを使用することは、例えば、単一ヌクレオチド多型性のスコアリングにおいて有用であり得るが、そのような単一塩基伸長反応は、本開示の範囲内である。
【0168】
本開示の一実施形態では、鋳型ポリヌクレオチドの配列は、組み込まれたヌクレオチドに結合した蛍光標識の検出を通して配列決定される鋳型/標的ポリヌクレオチドに相補的な新生鎖への、1つ以上のヌクレオチドの組み込みを検出することによって決定される。鋳型ポリヌクレオチドの配列決定は、好適なプライマー(又は、ヘアピンの一部としてプライマーを含有するヘアピン構造体として調製されたプライマー)でプライミングすることができ、新生鎖は、ポリマー触媒反応において、プライマーの3’末端にヌクレオチドを付加することにより、段階的に伸長される。
【0169】
特定の実施形態では、異なるヌクレオチド三リン酸(A、T、G、及びC)の各々は、固有のフルオロフォアで標識されてもよく、また、制御不可能な重合を防止するために、3’位置にブロッキング基を含む。代替的に、4つのヌクレオチドのうちの1つは、未標識(暗色)であってもよい。ポリメラーゼ酵素は、鋳型/標的ポリヌクレオチドに相補的な新生鎖にヌクレオチドを組み込むが、ブロッキング基は、ヌクレオチドの更なる組み込みを防止する。任意の組み込まれていないヌクレオチドを洗い落とすことができ、各組み込まれたヌクレオチドからの蛍光シグナルは、光源励起及び好適な発光フィルタを使用する電荷結合デバイスなどの好適な手段によって、光学的に「読み取る」ことができる。次いで、3’-ブロッキング基及び蛍光色素化合物を除去(脱保護)して(同時に又は逐次的に)、更なるヌクレオチドの組み込みに新生鎖をかけることができる。典型的には、組み込まれたヌクレオチドが何であるかは、各組み込み工程後に決定されるが、これは厳密に必須というわけではない。同様に、米国特許第5,302,509号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)は、固体支持体上に固定化されたポリヌクレオチドを配列決定する方法を開示している。
【0170】
上記に例示したようなその方法は、蛍光標識された3’ブロックされたヌクレオチドA、G、C、及びTを、DNAポリメラーゼの存在下で、固定化されたポリヌクレオチドに相補的な成長鎖に組み込む。ポリメラーゼは、標的ポリヌクレオチドに相補的な塩基を組み込むが、3’-ブロッキング基によって、更なる付加が防止される。次いで、組み込まれたヌクレオチドの標識を判定し、その後、更なる重合を可能にするために、化学的開裂によってブロッキング基が除去され得る。合成による配列決定反応において配列決定される核酸鋳型は、配列決定が所望される任意のポリヌクレオチドであってもよい。配列決定反応用の核酸鋳型は、典型的には、配列決定反応における更なるヌクレオチドの添加のためのプライマー又は開始点として機能する遊離3’ヒドロキシ基を有する二本鎖領域を含む。配列決定される鋳型の領域は、相補鎖上のこの遊離3’ヒドロキシ基をオーバーハングする。配列決定される鋳型のオーバーハング領域は、一本鎖であり得るが、二本鎖であることも可能であるが、ただし、配列決定される鋳型鎖に相補的な鎖上に「切れ目が存在」して、配列決定反応を開始するための遊離3’OH基を提供する。かかる実施形態において、配列決定は、鎖置換によって進行し得る。特定の実施形態では、遊離3’ヒドロキシ基を有するプライマーが、配列決定される鋳型の一本鎖領域にハイブリダイズする別個の成分(例えば、短いオリゴヌクレオチド)として添加されてもよい。代替的に、配列決定されるプライマー及び鋳型鎖はそれぞれ、例えばヘアピンループ構造などの分子内二重鎖を形成することができる部分的に自己相補的な核酸鎖の一部を形成してもよい。ヘアピンポリヌクレオチド及びこれらを固体支持体に結合させることができる方法は、PCT公開第0157248号及び同第2005/047301号に開示され、その各々は参照により本明細書に組み込まれる。ヌクレオチドは、成長するプライマーに連続的に添加され、5’~3’方向にポリヌクレオチド鎖を合成することができる。添加された塩基の性質は、特に各ヌクレオチド添加後に判定されてよいが、必ずしもそうでなくてもよい。その判定によって、核酸鋳型についての配列情報が提供される。したがって、ヌクレオチドは、ヌクレオチドの5’リン酸基とのホスホジエステル連結の形成を介して、核酸鎖の遊離3’ヒドロキシ基にヌクレオチドを結合することにより、核酸鎖(又はポリヌクレオチド)に組み込まれる。
【0171】
配列決定される核酸鋳型は、DNA若しくはRNA、又は更にはデオキシヌクレオチド及びリボヌクレオチドからなるハイブリッド分子であってもよい。核酸鋳型は、配列決定反応における鋳型のコピーを防止しない限り、天然由来のヌクレオチド及び/又は非天然由来のヌクレオチドと、天然由来又は非天然由来の骨格連結を含んでよい。
【0172】
ある特定の実施形態では、配列決定される核酸鋳型は、当該技術分野において既知の任意の好適な連結方法、例えば、共有結合を介して、固体支持体に結合され得る。ある特定の実施形態では、鋳型ポリヌクレオチドは、固体支持体(例えば、シリカベースの支持体)に直接結合されてもよい。しかしながら、本開示の他の実施形態では、固体支持体の表面は、鋳型ポリヌクレオチドの直接的共有結合、又は鋳型ポリヌクレオチドのヒドロゲル又は多電解質層(それ自体は固体支持体に共有結合以外の方法で付着される)を通しての不動化のいずれかを可能にするように、何らかの方法で修飾されてもよい。
【0173】
ポリヌクレオチドが支持体(例えばシリカ系支持体)に直接結合しているアレイは、例えば、国際公開第00/06770号に開示されているもの(参照により本明細書に組み込まれる)であり、ポリヌクレオチドは、ガラス上のペンダントエポキシド基と、ポリヌクレオチド上の内部アミノ基との間の反応によって、ガラス支持体上に固定化される。加えて、ポリヌクレオチドは、例えば、国際公開第2005/047301号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、イオウ系求核試薬と固体支持体との反応によって固体支持体に結合することができる。固体支持型鋳型ポリヌクレオチドのまた更なる例として、鋳型ポリヌクレオチドが、シリカ系又は他の固体支持体上に支持されたヒドロゲルに結合しているものが挙げられ、例えば、国際公開第00/31148号、同第01/01143号、同第02/12566、同第03/014392号、米国特許第6,465,178号及び国際公開第00/53812号に記載されており、その各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0174】
鋳型ポリヌクレオチドが固定化され得る具体的な表面としては、ポリアクリルアミドヒドロゲルが挙げられる。ポリアクリルアミドヒドロゲルは、上記の参考文献及び国際公開第2005/065814号に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。使用され得る特定のヒドロゲルには、国際公開第2005/065814号及び米国特許出願公開第2014/0079923号に記載されるものが含まれる。一実施形態では、ヒドロゲルは、PAZAM(ポリ(N-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミド-co-アクリルアミド))である。
【0175】
DNA鋳型分子は、例えば、米国特許第6,172,218号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、ビーズ又は微小粒子に付着させることができる。ビーズ又は微小粒子への付着は、配列決定用途に有用であり得る。各ビーズが異なるDNA配列を含むビーズライブラリを調製することができる。それらの作成のための例示的なライブラリ及び方法は、Nature,437,376-380(2005)、Science,309,5741,1728-1732(2005)に記載されており、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるヌクレオチドを使用したかかるビーズのアレイの配列決定は、本開示の範囲内である。
【0176】
配列決定される鋳型は、固体支持体上に「アレイ」の一部を形成してもよく、この場合、アレイは任意の便利な形態をとることができる。したがって、本開示の方法は、単一分子アレイ、クラスター化アレイ、及びビーズアレイを含む全てのタイプの高密度アレイに適用可能である。本開示の色素化合物で標識化されたヌクレオチドは、基本的に任意のタイプのアレイ上で鋳型を配列決定するために使用されてもよく、そのようなアレイには、固体支持体上の核酸分子の固定化によって形成されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0177】
しかしながら、本開示の色素化合物で標識化されたヌクレオチドは、クラスター化アレイの配列決定の文脈において特に有利である。クラスター化アレイでは、アレイ上の別個の領域(多くの場合、部位又は特徴部と呼ばれる)は、複数のポリヌクレオチド鋳型分子を含む。一般に、複数のポリヌクレオチド分子は、光学的手段によって個別に分解可能ではなく、代わりに、アンサンブル(集合体)として検出される。アレイがどのように形成されるかに応じて、アレイ上の各部位は、1つの個々のポリヌクレオチド分子の複数のコピー(例えば、部位は、特定の一本鎖若しくは二本鎖核酸種に対して均質である)、又は更には少数の異なるポリヌクレオチド分子の複数のコピー(例えば、2つの異なる核酸種の複数のコピー)を含んでもよい。核酸分子のクラスター化アレイは、当該技術分野において一般的に知られている技術を使用して生成され得る。例として、各々が本明細書に組み込まれる国際公開第98/44151号及び同第00/18957号は、核酸の増幅方法を記載しており、鋳型及び増幅産物の両方は、固定化された核酸分子のクラスター又は「コロニー」からなるアレイを形成するために、固体支持体上に固定化されたままである。これらの方法に従って調製されたクラスター化アレイ上に存在する核酸分子は、本開示の色素化合物で標識されたヌクレオチドを使用する配列決定に好適な鋳型である。
【0178】
本出願の色素化合物で標識されたヌクレオチドは、単一分子アレイ上の鋳型の配列決定にも有用である。本明細書で使用するとき、用語「単一分子アレイ」又は「SMA」は、固体支持体の上に分布(又は配列)されたポリヌクレオチド分子の集団を指し、いかなる個々のポリヌクレオチドの、集団の全ての他のポリヌクレオチドからの離間距離は、個々のポリヌクレオチド分子を個々に見分けることが可能であるようになっている。したがって、固体支持体の表面上に固定化された標的核酸分子は、いくつかの実施形態において、光学的手段によって見分けることができる。これは、1つのポリヌクレオチドをそれぞれ表す1つ以上の別個のシグナルが、使用される特定の撮像装置が、見分けることができるエリア内で発生することを意味する。
【0179】
アレイ上の隣接するポリヌクレオチド分子間の間隔が、少なくとも100nm、より具体的には少なくとも250nm、更により具体的には少なくとも300nm、更により具体的には少なくとも350nmである、単一分子検出が達成され得る。したがって、各分子は個別に分解可能(見分けることが可能)であり、単一分子蛍光点として検出可能であり、この単一分子蛍光点からの蛍光はまた、単一工程でのフォトブリーチを呈する。
【0180】
用語「個々に分解された」及び「個々の解像度」は、本明細書では、可視化されたときに、アレイ上の1つの分子をその隣接する分子と区別することが可能であることを指定するために使用される。アレイ上の個々の分子間の分離は、個々の分子を分解するために使用される特定の技術によって、部分的に決定される。単一分子アレイの一般的な特徴は、各々が、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第00/06770号及び同第01/57248号を参照することによって理解されるであろう。本開示の標識されたヌクレオチドの1つの使用は、合成による配列決定反応であるが、各ヌクレオチドの有用性は、かかる方法に限定されない。実際に、本明細書に記載の標識されたヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに組み込まれたヌクレオチドに結合した蛍光標識の検出を必要とする任意の配列決定法において有利に使用され得る。
【0181】
具体的には、本開示の色素化合物で標識されたヌクレオチドは、自動蛍光配列決定プロトコル、特に、サンガー及び共同研究者の、チェーンターミネーション配列決定法に基づく、蛍光色素ターミネーターサイクル配列決定に使用することができる。このような方法は、一般に、酵素及びサイクル配列決定を使用して、プライマー伸長配列決定反応において蛍光標識されたジデオキシヌクレオチドを組み込む。いわゆるサンガー配列決定法、及び関連するプロトコル(サンガー型)は、標識されたジデオキシヌクレオチドでランダム化された鎖終端を利用する。
【0182】
したがって、本開示はまた、3’位置及び2’位置の両方においてヒドロキシ基を含まないジデオキシヌクレオチドである色素化合物で標識されたヌクレオチドも包含し、このような修飾デオキシヌクレオチドは、サンガー型配列決定法などでの使用に好適である。
【0183】
3’ブロッキング基を組み込む本開示の色素化合物で標識されたヌクレオチドはまた、サンガー法及び関連するプロトコルで有用であり得るということが認識されるであろう。それは、ジデオキシヌクレオチドを使用することによって達成される同じ効果が、3’ヒドロキシブロッキング基を有するヌクレオチドを使用することによって得られ得る(両者とも後続のヌクレオチドの組み込みを防止する)ためである。3’ブロッキング基を有する本開示によるヌクレオチドをサンガー型の配列決定方法で使用する場合、ヌクレオチドに結合した色素化合物又は検出可能な標識は開裂可能なリンカーを介して接続される必要がないということが理解されるであろう。というのは、本開示の標識されたヌクレオチドが組み込まれる各事例においては、ヌクレオチドが、続いて組み込まれる必要はなく、したがって、標識をヌクレオチドから除去する必要がないためである。
【0184】
代替的に、本明細書に記載の配列決定方法はまた、本明細書に記載の蛍光色素を含有する未標識ヌクレオチド及び親和性試薬を使用して実行され得る。例えば、工程(a)の組み込み混合物中の4つの異なるタイプのヌクレオチド(例えば、dATP、dCTP、dGTP、及びdTTP又はdUTP)のうちの1つ、2つ、3つ、又は各々は、未標識であり得る。4つのタイプのヌクレオチド(例えば、dNTP)の各々は、単一塩基のみがプライマーポリヌクレオチドの3’末端にポリメラーゼによって添加され得ることを確実にするために、3’ヒドロキシブロッキング基を有する。工程(b)における未標識ヌクレオチドの組み込み後、残りの組み込まれていないヌクレオチドを洗い流す。次いで、組み込まれたdNTPに特異的に認識及び結合して、組み込まれたdNTPを含む標識された伸長産物を提供する親和性試薬が導入される。合成による配列決定における未標識ヌクレオチド及び親和性試薬の使用は、国際公開第2018/129214号及び同第2020/097607号に開示されている。未標識ヌクレオチドを使用する本開示の修正された配列決定方法は、以下の工程:
(a’)プライマーポリヌクレオチド/標的ポリヌクレオチド複合体を1つ以上の未標識ヌクレオチド(例えば、dATP、dCTP、dGTP、及びdTTP又はdUTP)と接触させることであって、プライマーポリヌクレオチドが、標的ポリヌクレオチドの少なくとも一部分に相補的である、接触させることと、
(b’)ヌクレオチドをプライマーポリヌクレオチドに組み込んで、伸長されたプライマーポリヌクレオチドを生成することと、
(c’)伸長されたプライマーポリヌクレオチドを一連の親和性試薬と接触させることであって、1つの親和性試薬が、組み込まれた未標識ヌクレオチドに特異的に結合して標識された伸長されたプライマーポリヌクレオチド/標的ポリヌクレオチド複合体を提供する、接触させることと、
(d’)標識された伸長されたプライマーポリヌクレオチド/標的ポリヌクレオチド複合体の1つ以上の蛍光測定を実行して、組み込まれたヌクレオチドの同一性を決定することと、を含み得る。
【0185】
本明細書に記載の修正された配列決定方法のいくつかの実施形態では、組み込み混合物中の未標識ヌクレオチドの各々は、3’ブロッキング基を含有する。更なる実施形態では、組み込まれたヌクレオチドの3’ヒドロキシブロッキング基は、次の組み込みサイクルの前に除去される。なお更なる実施形態では、本方法は、組み込まれたヌクレオチドから親和性試薬を除去することを更に含む。なお更なる実施形態では、3’ヒドロキシブロッキング基及び親和性試薬は同じ反応で除去される。いくつかの実施形態では、一連の親和性試薬は、第1のタイプのヌクレオチドに特異的に結合する第1の親和性試薬、第2のタイプのヌクレオチドに特異的に結合する第2の親和性試薬、及び第3のタイプのヌクレオチドに特異的に結合する第3の親和性試薬を含み得る。いくつかの更なる実施形態では、第1、第2、及び第3の親和性試薬の各々は、スペクトル的に区別可能な1つ以上の検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、親和性試薬は、タンパク質タグ、抗体(抗体の結合断片、一本鎖抗体、二重特異性抗体などを含むが、これらに限定されない)、アプタマー、ノッチン、アフィマー、又は好適な特異性及び親和性で組み込まれたヌクレオチドに結合する任意の他の既知の薬剤を含み得る。一実施形態では、少なくとも1つの親和性試薬は、抗体又はタンパク質タグである。別の実施形態では、第1のタイプ、第2のタイプ、及び第3のタイプの親和性試薬のうちの少なくとも1つは、1つ以上の検出可能な標識(例えば、同じ検出可能な標識の複数のコピー)を含む抗体又はタンパク質タグであり、検出可能な標識は、本明細書に記載のビス-ホウ素色素部分であるか、又はそれを含む。
【実施例】
【0186】
追加的実施形態が、以下の実施例において更に詳細に開示されるが、これらの実施例は、特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。
【0187】
実施例1.縮合ビス-ホウ素複素環を含有する色素の合成
【0188】
【0189】
EtOH(20mL)中の3,5-ジメチルピロール-2-カルボキシアルデヒド(369mg、3.00mmol)及び6-ヒドラジノニコチン酸(459mg、3.00mmol)をAcOH(100μL)で処理し、5時間加熱還流した。得られた沈殿物を真空下で濾過し、EtOHで洗浄して、対応するヒドラゾン生成物(化合物a)を黄色固体(595mg、77%)として得た。1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ10.91(s,1H)、10.73(s,1H)、8.59(d,J=2.2Hz,1H)、8.07-7.90(m,2H)、7.28(d,J=8.9Hz,1H)、5.66(d,J=2.5Hz,1H)、2.19(s,3H)、2.06(s,3H)。
【0190】
式(I)のビス-ホウ素含有縮合ピリド-及びピラジノ-複素環の誘導体を、本明細書に記載の一般手順に従って調製した。
【0191】
一般手順A
【0192】
【0193】
トルエン中の関連する置換{2-[(1H-ピロール-2-イル)メチレン]ヒドラジニル}ピリジン又は-ピラジン(1.0当量)を、TEA(18.0当量)で処理した。反応混合物を10分間還流した後、BF3・OEt2(20.0当量)を滴下した。反応混合物を5時間還流下で撹拌した。反応溶媒を真空下で除去した。粗製物をDCMに溶解し、有機層をH2Oで洗浄し、次いで無水Na2SO4で乾燥させた。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。
【0194】
【0195】
トルエン(10mL)中のヒドラゾン化合物a(129mg、0.5mmol)をEt3N(1.25mL)で処理し、室温で10分間撹拌した。次に、BF3OEt(1.5mL)を滴下添加し、反応混合物を還流下で18時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、濃縮し真空下、次いで分取逆相HPLCにより精製して、化合物I-1(70μmol、14%)を得た。質量分析:[M-]=353
【0196】
【0197】
化合物bを、一般手順Aに基づいて(Z)-2-クロロ-6-(2-((4-エチル-3,5-ジメチル-1 H-ピロール-2-イル)メチレン)ヒドラジンイル)ピラジンaから調製した。粗化合物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、化合物aを鮮黄色固体として得た(収率:61%)。MS[M+H]+=374。
【0198】
【0199】
一般手順Aに基づいて化合物cから化合物I-8を調製した。粗化合物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、I-8を鮮黄色固体として得た(収率:67%)。MS[M+H]+=356、[M-H]-=354。
【0200】
【0201】
一般手順Aに基づいて、化合物dから化合物eを調製した。構造及び組成をNMR及びLCMSによって確認した。
【0202】
【0203】
化合物I-7を、一般手順Aに従って、5-((2-(6-クロロピリジン-2-イル)ヒドラジンイリデン)メチル)-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(化合物f)(1.0当量)から、鮮黄色固体として調製した。粗製物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、最終生成物を鮮黄色固体として得た(収率:59%)。MS[M-H]-=387。
【0204】
式(I)のビス-ホウ素含有縮合ピリド-及びピラジノ-複素環のいくつかの新しい官能性誘導体は、置換の修飾、例えばアジン環の2位の塩素原子の置換によって、例えば一般手順Bに従って調製することもできる。
【0205】
一般手順B
【0206】
【0207】
DMSO中の適切なクロロ置換化合物(1当量)、第一級、第二級アミン又はアミノ酸(1.1当量)及びTEA(2当量)の混合物を95℃で5時間撹拌した。次いで、反応混合物をMeCN及び0.1M TEABで希釈し、逆相分取HPLCによって精製した。
【0208】
【0209】
化合物I-3を、一般的手順Bに従って化合物eをスルホアラニンと反応させることによって調製した。反応混合物を95℃で5時間加熱して、最終生成物を鮮黄色固体として得た(収率:79%)。MS[M-H]-=504。
【0210】
【0211】
一般手順Bに従って化合物bをスルホアラニンと反応させることによって、化合物I-6を調製した。反応混合物を95℃で16時間加熱して、最終生成物を鮮黄色固体として得た(収率:5%)。MS[M-H]-=505。
【0212】
【0213】
一般手順Bに従って、化合物eをアゼチジン-3-カルボン酸と反応させることによって、化合物I-9を調製した。反応混合物を95℃で5時間加熱して、最終生成物を鮮黄色固体として得た(収率:99%)。MS[M-H]-=436。
【0214】
【0215】
化合物I-13を、一般手順Bに従って、化合物I-7を2-オキサ-6-アザスピロ[3.3]ヘプタンと反応させることによって調製した。生成物は鮮黄色固体として単離された(収率:69%)。MS[M-H]-=450。
【0216】
一般手順C
【0217】
【0218】
DCM中の適切なビス-ジフルオロホウ素含有縮合複素環(1当量)の溶液に、BCl3(4.5当量)を滴下添加した。反応混合物を30分間撹拌し、次いでTEA(12.0当量)を添加し、続いて脂肪族、芳香族モノ又は二炭酸、例えば酢酸(8.0当量)又はマロン酸(4.0当量)又はそれらの誘導体を添加した。反応混合物を16時間撹拌した。粗製物をセライトで濾過し、セライトを更にDCMで洗浄した。溶媒を真空下で除去し、得られた残留物を0.1M TEABを含むMeCNに溶解し、逆相分取HPLCにより精製した。
【0219】
【0220】
化合物I-4を、一般手順Cに基づいて、酢酸を使用して、I-3から調製した。反応混合物を室温で16時間撹拌して、I-3(収率:5%)を得た。MS[M-H]-=664。
【0221】
【0222】
化合物I-10を、一般手順Cに基づいてI-9から調製した。反応混合物を室温で16時間撹拌して、I-10(収率:3%)を得た。MS[M-H]-=596。
【0223】
一般手順D
【0224】
【0225】
THF中の適当なビス-ジフルオロホウ素含有縮合複素環(1当量)の溶液に、Grignard試薬RMgBr(20.0当量)を-78℃で滴下添加した。反応混合物を16時間撹拌した。溶媒を真空下で除去した。残留物をDCMに溶解し、有機層をH2O/NH4Clで洗浄し、次いで無水Na2SO4で乾燥し、逆相分取HPLCにより精製した。
【0226】
【0227】
一般的手順Dに基づいて、I-9をPhMgBrと反応させることによって、化合物I-14を調製した(収率:12%)。MS[M-H]-=668。
【0228】
【0229】
一般的手順Dに基づいて、I-3をPhMgBrと反応させることによって、化合物I-15を調製した(収率:3%)。MS[M-H]-=736。
【0230】
本明細書に開示されるいくつかの例示的な色素の蛍光スペクトルを以下の表1にまとめる。
【0231】
【0232】
実施例2.ビス-ホウ素縮合複素環を含有する色素で標識されたffNの合成
本明細書に記載されるビス-ホウ素含有縮合複素環化合物は、アミノ部分を含有する適切な官能化ヌクレオチド誘導体とのカップリング反応によるヌクレオチド標識に使用することができる。
【0233】
一般手順E
記載されたビス-ホウ素含有縮合複素環化合物は、アミノ部分を含有するそれらの適切な官能化ヌクレオチドとのカップリング反応によるヌクレオチド標識に使用することができる。式(I)の染料を無水N,N’-ジメチルアセトアミド(DMA)に溶解した。N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を添加し、続いてTNTUを添加した。反応物を窒素下、室温で30分間撹拌した。活性化されたビス-ホウ素色素溶液を、炭酸水素トリエチルアンモニウム(TEAB)溶液中の3’ブロック化2’-デオキシヌクレオシド三リン酸塩-リンカーに添加し、反応物を室温で18時間撹拌した。粗生成物を、最初にDEAE-Sephadex A25上のイオン交換クロマトグラフィーにより精製した。官能化ヌクレオチドを含有する画分をプールし、溶媒を減圧下で蒸発させて乾固させた。粗物質を、YMC-Pack-Pro C18カラムを使用した分取スケールRP-HPLCによって更に精製した。最終化合物は、LC-MS、分析RP-HPLC及びUV-可視分光法によって特徴付けられた。
【0234】
【0235】
ffC-sPA-I-1を、ffNカップリングの一般的手順に基づいてI-1から調製した(収率:14%)。MS[M-]=1257。
【0236】
【0237】
ffC-sPA-I-3を、ffNカップリングの一般的手順に基づいてI-3から調製した(収率:6%)。MS[M-]=1408。
【0238】
【0239】
ffA-sPA-I-4を、ffNカップリングの一般手順に基づいてI-4から調製した(収率:24%)MS[M-2H]2-=795。
【0240】
【0241】
ffA-sPA-I-6を、ffNカップリングの一般手順に基づいてI-6から調製した(収率:8%)。MS[M-2H]2-=717。
【0242】
【0243】
ffA-sPA-I-9を、ffNカップリングの一般的手順に基づいてI-9から調製した(収率:17%)。MS[M-2H]2-=681。
【0244】
【0245】
ffA-sPA-I-13を、ffNカップリングの一般的手順に基づいてI-13から調製した。反応混合物を40℃で48時間加熱し、A-SpA及びDIPEAの最終当量は、遅いカップリング反応のために、各々、(2.0当量)及び(20.0当量)である。MS[M-H]-=1378、[M+H]+=1380。
【0246】
本明細書に開示される例示的なffNの蛍光スペクトルを以下の表2にまとめる。
【0247】
【0248】
実施例3.ffNスペクトル特性比較
本実施例では、ビス-ホウ素色素I-4(A-sPA-I-4)とコンジュゲートした完全官能化Aヌクレオチド(ffA)のスペクトル特性を特徴付けた。
図1は、Universal Scan Mix(USM、1 M Tris pH 7.5、0.05%TWEEN(登録商標)、20mMアスコルビン酸ナトリウム、10mM没食子酸エチル)中のA-spA-I-4及び参照色素A(C-sPA-参照色素A)で標識された市販の完全官能化Cヌクレオチド(ffC)の発光スペクトルを示す。スペクトルは、石英又はプラスチックキュベットを使用して、AgilentCary100UV-Vis分光光度計及びCaryEclipse蛍光分光光度計で獲得した。A-sPA-I-4は、参照色素Aと比較してより短いストークスシフトを有することが観察された。
【0249】
【0250】
実施例4.ビス-ホウ素色素の安定性
化合物I-1及びI-3の安定性を評価し、50mMエタノールアミンを含有する組み込み緩衝液中、37℃、暗所で2日間化合物をインキュベートすることによって、参照色素Aで標識された市販のffCと比較した。溶液の蛍光強度は、石英キュベットを使用して、AgilentCary100UV-Vis分光光度計及びCaryEclipse蛍光分光光度計で測定した。加えて、溶液のアリコートを採取し、分析HPLCによって分析した。
図2は、I-1及びI-3の蛍光強度が、C-sPA-参照色素Aと比較して、経時的に非常にゆっくりと減少したことを示し、ビス-ホウ素色素I-1及びI-3が、同じ条件下で参照色素Aと比較してより安定であったことを示す。
【0251】
実施例5.Illumina MiSeq(商標)プラットフォーム上での配列決定実験
ビス-ホウ素色素I-4で標識されたffAは、青色励起光(約450nm)での第1の画像及び緑色励起光(約520nm)での第2の画像を撮影するために設定されたIllumina MiSeq(商標)機器で試験された。実験に使用した組み込みミックスは、以下の5つのffNを含む:50mMエタノールアミン緩衝液、pH9.6、50mM NaCl、1mM EDTA、0.2%CHAPS、4mM MgSO
4及びDNAポリメラーゼ中の、A-sPA-I-4、公知のポリメチン緑色色素NR550S0で標識されたffA(A-sPA-NR550S0)、青色クマリン色素で標識されたffC(C-sPA-参照色素B)、緑色色素NR550S0で標識されたffT(T-sPA-NR550S0)、及び未標識ffG(暗G)。
図3は、市販の参照1 ffNセット及び参照2 ffNセットと比較した、ffA-spA-I-4を含有するffNセットの配列決定マトリックスパーセントフェージングを示す。参照1 ffNセットは、以下のffN、ダークG、T-LN3-AF550POPOS0、C-sPA-参照色素A、C-LN3-SO7181、A-BL-参照色素A、A-BL-NR550S0を含む。参照2 ffNセットは、以下のffN:Dark G、T-LN3-AF550POPOS0、C-sPA-参照色素B、C-LN3-SO7181、A-sPA-BL-参照色素B、A-sPA-BL-NR550S0を含む。C-sPA-参照色素Bの構造は以下の通りである:
【0252】
【0253】
ビス-ホウ素色素標識ffAを含むffNセットのパーセントフェージングは、26サイクル後に0.1%未満であったことが観察された。しかし、光線量を増加させると、フェージング値も増加した。
【0254】
図4A及び4Bは、サイクル26でのffA-spA-I-3を含有する組み込みミックスについて得られた散布図である。
図4C及び4Dは、サイクル26でのffA-spA-I-4を含有する組み込みミックスについて得られた散布図である。光線量の5倍(5×)がI-3で標識されたffAの雲の光白化を引き起こすことが観察された(
図4B、右上象限を参照)。しかしながら、フルオロ基が-OAcで置換された場合、I-4で標識されたffAの光安定性は、
図4D、右上象限に示されるように大きく改善された。
【国際調査報告】