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特表2024-516205分析対象物質の生理学的状態をNMR分析するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】分析対象物質の生理学的状態をNMR分析するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20240405BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20240405BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240405BHJP
   G01N 24/12 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01N24/08 510Q
C12M1/42
C12M1/00 A
G01N24/12 510L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565504
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022060911
(87)【国際公開番号】W WO2022229107
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】21382358.6
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518309079
【氏名又は名称】フンダシオ インスティテュート デ バイオエンジニエリア デ カタルーニャ
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT DE BIOENGINYERIA DE CATALUNYA
【住所又は居所原語表記】C/Baldiri Reixac,10-12,08028 Barcelona(ES)
(71)【出願人】
【識別番号】509135441
【氏名又は名称】インスティテューシオ カタラーナ デ レサーカ イ エストゥーディス アバンキャッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルコ リウス,アイリーン
(72)【発明者】
【氏名】イエステ ロザーノ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ヘレロ ゴメス,アルバ
(72)【発明者】
【氏名】アサグラ ロドリゲス,マルク
(72)【発明者】
【氏名】オルテガ マチューカ,マリア アレハンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ラモン アスコン,ハビエル
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA17
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC10
4B029FA01
4B029FA15
4B029GA01
4B029GB06
4B029GB09
(57)【要約】
本開示は、分析対象物質の生理学的状態を分析するシステム及び方法に関する。特に、本開示は、超偏極(HP)及び磁気共鳴(MR)技術を使用し、分析対象物質の生理学的状態を分析するシステム、こうしたシステムの構成要素及び方法に関連する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超偏極(HP)核磁気共鳴を使用して少なくとも1種の分析対象物質の生理学的状態を決定するためのシステムであって、前記システムが、
基剤を超偏極させるために構成された超偏極(HP)作製装置、
分析対象物質を含有するための試料マトリックス、
前記分析対象物質を含有する前記試料マトリックスを収容するように構造化された少なくとも1つの測定チャンバを備え、前記超偏極基剤を含む前記試料マトリックス中に収容された前記少なくとも1種の分析対象物質を注入するように構造化されているマイクロ流体デバイス、
前記超偏極基剤を含む少なくとも前記分析対象物質を収容するための標的領域を画定するハウジングと、少なくとも1つの磁石ユニットと、前記標的領域中の1つ以上の磁場勾配を使用中に適用するための少なくとも1つの磁気勾配ユニットと、前記標的領域に向けて1つ以上の高周波(RF)パルスセットを印加するための少なくとも1つのRFパルス生成ユニットと、信号を取得するためのRF受信ユニットを少なくとも備える、NMR装置、並びに
前記取得された信号を分析することで前記分析対象物質の前記生理学的状態を決定するためのコンピュータ処理ユニット、を備える、システム。
【請求項2】
前記超偏極(HP)作製装置が、例えば動的核偏極
(DNP)装置又はパラ水素誘導偏極(PHIP)装置といった超偏極装置である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの測定チャンバが、前記測定チャンバにマトリックス灌流媒体を供給するためのマトリックス灌流供給ライン、前記測定チャンバに前記超偏極基剤を供給するための超偏極基剤供給ライン及びチャンバ出口ラインと流体連通しており、好ましくは前記超偏極基剤供給ラインが、前記測定チャンバの底壁に対して前記マトリックス灌流供給ラインの位置上部の位置に配置されている、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記チャンバ出口ラインが、前記超偏極基剤供給ラインの位置よりも低い位置及び
前記測定チャンバの前記底壁に対して前記マトリックス灌流供給ラインの位置よりも高い位置に位置づけられ、
好ましくは前記マトリックス灌流供給ラインが、
前記測定チャンバの前記底壁に位置づけられている、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記マイクロ流体デバイスが、
前記NMR装置に
収容されるときに、前記超偏極基剤を含む少なくとも前記分析対象物質を体温に維持するための温度制御ユニットを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記コンピュータ処理ユニットが、1つ以上の機械学習アルゴリズムを使用し、少なくとも前記取得された信号を分析するように構造化されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記機械学習アルゴリズムが、
コンピュータ実装人工ニューラルネットワークであり、前記コンピュータ処理ユニットが、
超偏極分析対象物質剤に含有されている分析対象物質の既知の生理学的状態についての
経時的な信号の訓練シーケンスを特徴とする、経時的な信号
のシーケンスを用いて、前記コンピュータ実装人工ニューラルネットワークを訓練することと、
超偏極分析対象物質剤に含有されている分析対象物質の未知の生理学的状態についての経時的な信号の少なくとも1つの試験シーケンスを特徴とする、入力信号のシーケンスを、前記コンピュータ実装人工ニューラルネットワークに適用することと、
適用された経時的な信号の各試験シーケンスを分析し、経時的な信号の各試験シーケンスについて、超偏極分析対象物質剤に含有されている分析対象物質の予測される生理学的状態を生成することと、を行うように構成された訓練ユニットを更に含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
請求項1~7のうちのいずれか一項に記載のシステムを使用して、
超偏極基剤を含有する分析対象物質の生理学的状態を決定するための方法であって、
前記方法が、
a)試料マトリックスに少なくとも1種の分析対象物質を加えるステップと、
b)超偏極基剤を含む前記少なくとも1種の分析対象物質を注入するステップと、
c)前記NMR装置の少なくとも1つの磁石ユニット及び少なくとも1つの磁気勾配ユニットを使用し、
前記超偏極基剤を含む前記分析対象物質に1つ以上の磁場勾配を印加するステップと、
d)前記NMR装置の少なくとも1つの高周波(RF)パルス生成ユニットを使用し、
前記標的領域に向けて1つ以上のRFパルスセットを印加するステップと、
e)前記NMR装置のRF受信ユニットから、適用されている前記1つ以上のRFパルスセットに応答して、
経時的なNMR信号のシーケンスを受信するステップと、
f)時間周波数変換により、
NMR信号の前記シーケンスの1つ又は複数の時間周波数表現を生成するステップと、
g)前記分析対象物質の生理学的状態を決定するための1つ以上の機械学習アルゴリズムを使用して、
前記時間周波数表現を分析するステップと、を含む、方法。
【請求項9】
前記ステップf)の時間周波数変換が、
フーリエ変換に代表されるが、これに限定されない群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の機械学習アルゴリズムが、
人工ニューラルネットワーク、決定木、回帰モデル、k近傍法モデル、部分的最小二乗回帰、サポートベクターマシン又はアルゴリズムを定義するために組み込まれたモデルのアンサンブルに代表されるが、これらに限定されない群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記機械学習アルゴリズムが、
コンピュータ実装人工ニューラルネットワークであり、
分析ステップg)が、
i)超偏極基剤を含む分析対象物質の既知の生理学的状態についての、経時的なNMR信号の訓練シーケンスを特徴とする経時的なNMR信号のシーケンスを用いて、
前記コンピュータ実装人工ニューラルネットワークを訓練するステップ、
ii)超偏極基剤を含む分析対象物質の未知の生理学的状態についての、
経時的なNMR信号の少なくとも1つの試験シーケンスを特徴とする
NMR入力信号のシーケンスを前記コンピュータ実装人工ニューラルネットワークに適用するステップ、
iii)適用された経時的なNMR信号の各試験シーケンスを分析し、経時的なNMR信号の各試験シーケンスについて、超偏極基剤を含む分析対象物質の予測される生理学的状態を生成するステップ、の後に発生する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記受容ステップb)が、
iv)超偏極(HP)作製装置で前記基剤を超偏極させるステップの後に発生する、
請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップb)の後ではあるが、
ステップc)の前に、前記方法が、
b1)前記超偏極基剤を含む前記分析対象物質を体温に維持するステップ
を更に含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記試料マトリックスが、開気孔を含む3次元構築物として形成され、前記構築物が、カルボキシメチルセルロースナトリウムを少なくとも含むゲルである、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記ゲルが、
0.5~5重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム、特に1重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウムを少なくとも含み、かつ/又は前記ゲルが凍結保存に好適である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記試料マトリックスが、開気孔を含む3次元構築物として形成され、前記構築物が、カルボキシメチルセルロースナトリウムを少なくとも含むゲルである、請求項8~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月26日に出願された欧州特許出願第21382358.6号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、分析対象物質の生理学的状態を分析するシステム及び方法に関する。特に、本開示は、超偏極(hyperpolarization、HP)及び磁気共鳴(magnetic resonance、MR)技術を使用し、分析対象物質の生理学的状態を分析するシステム、こうしたシステムの構成要素及び方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
動的核偏極(dynamic nuclear polarization、DNP)などの超偏極強化磁気共鳴(MR)技術は、MR走査の感度を10,000倍超強化することが示されており、これにより様々な種類の試料及び分析対象物質でインサイチュ代謝分析を行うことが可能となる。
【0004】
標的又は分析対象物質の例としては、ヒト又は動物の器官及び組織の健常な細胞及び疾患細胞、ヒト又は動物細胞(又は細胞断片)、オルガノイド、ヒト又は動物及びすべての動物由来の体液、並びに植物由来の細胞及び流体が挙げられる。ヒトなどではあるがこれに限定されない動物、ラット、ウサギ、ブタ及びマウスなどの動物を指していることも理解されたい。
【0005】
従来の細胞培養方法は、実験動物又はヒト対象を使用することなく、細胞-細胞相互作用及び組織生理学を研究するための方法を提供してきたことから、長年価値があるものであった。従来の細胞培養が提示する主要な障害のうちの1つは、細胞の形態及び空間での形状である。細胞を培養物内で生存させるためには、細胞を底に付着させるように処理されている培養容器(フラスコ及びプレート)に播種されるが、これは特定の細胞型についてはその形態及び機能を変化させる。
【0006】
本開示の目的は、HP及びMR技術を使用し、特に薬物毒性研究及び/又は臨床診断に好適である、3次元分析対象物質構成にて生理学的状態に関する代謝データのリアルタイム取得及び分析が可能である非侵襲的プラットフォームを開発することである。新規プラットフォームの非侵襲的性質は、従来のいくつかの方法では不可能な機能的ヒト特異薬物試験システムの開発を進める研究の可能性を提供する。
【0007】
本特許出願では、生理学的状態については、健康状態若しくは不健康(若しくは疾患)状態、及び標的/分析対象物質の健康から不健康(若しくは疾患)への遷移状態又は健康状態若しくは不健康(若しくは疾患)状態、及びすべてのヒト若しくは動物、又は標的若しくは分析対象物質を取得したヒト若しくは動物の健康から不健康(若しくは疾患)へのいずれかの遷移状態を意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の主要な例では、超偏極(HP)核磁気共鳴(NMR)を使用して少なくとも1種の分析対象物質の生理学的状態を決定するためのシステムが使用され、システムは、少なくとも以下の構成要素:
-基剤を超偏極させるために構成された超偏極(HP)作製装置であって、
分析対象物質を含有する試料マトリックスを収容するように構造化された少なくとも1つの測定チャンバを備え、超偏極基剤を含む、試料マトリックス中に収容された少なくとも1種の分析対象物質を注入するように構造化されているマイクロ流体デバイスである、超偏極(HP)作製装置、
-超偏極基剤を含む少なくとも1種の分析対象物質を収容するための標的領域を画定するハウジングと、少なくとも1つの磁石ユニットと、標的領域中の1つ以上の磁場勾配を使用中に適用するための少なくとも1つの磁気勾配ユニットと、標的領域に向けて1つ以上の高周波(radiofrequency、RF)パルスセットを印加するための少なくとも1つのRFパルス生成ユニットと、信号を取得するためのRF受信ユニットを少なくとも備える、NMR装置、並びに
-取得された信号を分析することで分析対象物質の生理学的状態を決定するためのコンピュータ処理ユニット、から構成されている。
【0009】
本例では、非侵襲的手法でHP及びMR技術を使用して分析対象物質の生理学的状態に関する代謝データをリアルタイムで取得し、分析することが可能である、多様なプラットフォームが生成される。例えばこのプラットフォームを使用して、より高度な機能的ヒト特異薬物試験システムの開発を達成することができる。
【0010】
このプラットフォームの好ましい実施形態では、NMR装置は、超偏極基剤を含有する試料マトリックス及び測定チャンバに収容された分析対象物質を含むマイクロ流体デバイスを標的領域に収容するように構造化されている。したがって、こうした実施形態により、バッチ式及びインライン式で超偏極基剤を含む同一又は異なる分析対象物質の複数の試料を処理し、かつ操作することが可能である、より標準化され、かつ再現性のある分析技術が実現可能となる。
【0011】
システムの更なる例では、超偏極(HP)作製装置は、動的核偏極(DNP)装置又はパラ水素誘導偏極(para-hydrogen induced polarization、PHIP)装置であってもよい。システムの更なる例では、超偏極(HP)作製装置は、化学誘起動的核偏極(chemical-induced dynamic nuclear polarization、CIDNP)装置、オーバーハウザーDNP(動的核偏極)装置、可逆交換による信号増幅(Signal Amplification by Reversible Exchange、SABRE)装置又はスピン交換光ポンピング(Spin Exchange Optical Pumping、SEOP)装置を含んでもよい。
【0012】
例では、基剤を超偏極させるように構造化された超偏極(HP)作製装置は、動的核偏極(DNP)装置、パラ水素誘導偏極(PHIP)装置、化学誘起動的核偏極(CIDNP)装置、オーバーハウザーDNP(動的核偏極)装置、可逆交換による信号増幅(SABRE)装置又はスピン交換光ポンピング(SEOP)装置などの装置を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書に記載の方法の例では、超偏極ステップは、d-DNP(溶解動的核偏極)、PHIP(パラ水素誘導偏極)、CIDNP(化学誘起動的核偏極)、SABRE(可逆交換による信号増幅)及びSEOP(スピン交換光ポンピング)などの超偏極方法を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0014】
試験下の分析対象物質について生理学的に関連する細胞微小環境をエミュレートするため、少なくとも1つの測定チャンバは、測定チャンバにマトリックス灌流媒体を供給するためのマトリックス灌流供給ライン、測定チャンバに超偏極基剤を供給するための超偏極基剤供給ライン及びチャンバ出口ラインと流体連通している。マイクロ流体デバイスのこうした構成によって、分析対象物質(例えば細胞)の適切な環境が保証される。測定チャンバは、温度及びガス組成について安定した環境を維持するケージインキュベーションエンクロージャとして機能し、本開示による方法を実施するために必要な滅菌条件を提供する。
【0015】
特に、超偏極剤供給ラインは、測定チャンバの底壁に対して、マトリックス灌流供給ラインの位置上部の位置に配置され、チャンバ出口ラインは、超偏極基剤供給ラインの位置よりも低い位置及び測定チャンバの底壁に対してマトリックス灌流供給ラインの位置よりも高い位置に配置されている。好ましくは、マトリックス灌流供給ラインは測定チャンバの底壁に位置づけられている。
【0016】
したがって、測定チャンバを通るマトリックス灌流媒体(培地)の連続流れだけではなく、分析される分析対象物質のための超偏極基剤の注入も可能になる。
【0017】
好ましくは、マイクロ流体デバイスは、NMR装置に収容されているときに、超偏極基剤を含む分析対象物質を体温に維持するための温度制御ユニットを含む。こうすることで、ヒト又は動物の体を模倣する最適な測定条件が実現され、これが維持される。特定の例では、温度制御ユニットは水循環回路を含む。
【0018】
好ましい例では、バッチ式及びインライン式で超偏極基剤を含む同一又は異なる分析対象物質の複数の試料を処理し、かつ操作することが可能である、標準化され、かつ再現性のある分析技術を確立するために、マイクロ流体デバイスは、各測定チャンバが超偏極剤供給ラインと流体接続状態にある複数の測定チャンバを備える。こうすることで、分析対象物質(を含む試料マトリックス)を含有するすべての測定チャンバは、同量の超偏極基剤を受容することが可能となる。
【0019】
本開示によれば、システムは、分析対象物質の生理学的状態に関する代謝データのリアルタイム取得及び分析を目的としている。こうした大容量のデータをリアルタイムで処理し、かつノイズに対する感受性が少なく、より有効かつより正確な分析技術を提供するために、システムのコンピュータ処理ユニットは、1つ以上の機械学習アルゴリズムを使用して少なくとも取得された信号を分析するために構造化されている。
【0020】
好ましくは、機械学習アルゴリズムは、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークであり、コンピュータ処理ユニットは、超偏極基剤を含む分析対象物質の既知の生理学的状態についての経時的な信号の訓練シーケンスを特徴とする、経時的な信号のシーケンスを用いてコンピュータ実装人工ニューラルネットワークを訓練することと、超偏極基剤を含む分析対象物質の未知の生理学的状態についての経時的な信号の少なくとも1つの試験シーケンスを特徴とする、入力信号のシーケンスをコンピュータ実装人工ニューラルネットワークに適用することと、適用された経時的な信号の各試験シーケンスを分析し、経時的な信号の各試験シーケンスについて、超偏極基剤を含む分析対象物質の予測される生理学的状態を生成することと、を行うように構成された訓練ユニットを更に含む。
【0021】
任意選択で、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークの訓練中、真度を検証し、かつ訓練ステップの適応を可能にするために、該方法は予測される生理学的状態の出力を更に包含してもよい。
【0022】
訓練済みの人工ニューラルネットワークを使用することで、予測される生理学的状態を適切で正確に決定することが可能となる。人工ニューラルネットワークは、機械学習技術に基づき、好ましくは深層学習技術を使用して訓練することができる。深層学習技術の一例は、誤差逆伝播学習法であり得る。使用される入力済み訓練データは、分析対象物質(例えば、細胞)の生理学的状態を示す、医療専門家によって注釈が付けられたMR取得画像であってもよい。
【0023】
したがって、コンピュータ処理ユニットは、決定される分析対象物質の生理学的状態を出力するように構成された出力ユニットを含んでもよい。
【0024】
本発明の本開示はまた、前述の請求項のうちのいずれか1つ以上に記載のシステムを使用し、超偏極基剤を含む分析対象物質の生理学的状態を決定するための方法にも関する。該方法は、
a)少なくとも1種の分析対象物質を加えるステップと、
b)超偏極基剤を含む少なくとも1種の分析対象物質を注入するステップと、
c)NMR装置の少なくとも1つの磁石ユニット及び少なくとも1つの磁気勾配ユニットを使用し、NMR装置の標的領域に位置づけられた超偏極基剤を含む分析対象物質に1つ以上の磁場勾配を印加するステップと、
d)NMR装置の少なくとも1つの高周波(RF)パルス生成ユニットを使用し、標的領域に向けて1つ以上のRFパルスセットを印加するステップと、
e)NMR装置のRF受信ユニットから、適用されている1つ以上の磁場勾配に応答して、経時的なNMR信号のシーケンスを受信するステップと、
f)時間周波数変換により、NMR信号のシーケンスの1つ又は複数の時間周波数表現を生成するステップと、
g)分析対象物質の生理学的状態を決定するための1つ以上の機械学習アルゴリズムを使用して、時間周波数表現を分析するステップと、を含む。
【0025】
本発明の本開示によれば、ステップa)で提供されている分析対象物質の調製物は、試験下の分析対象物質について生理学的に関連する細胞微小環境をエミュレートする試料マトリックスに収容することができることに留意されたい。
【0026】
本発明による方法の好ましい例では、少なくとも1種の分析対象物質は、超偏極基剤を含む少なくとも1種の分析対象物質を注入するステップb)の前にNMR装置の標的領域に位置づけられている。したがって、注入ステップb)は、NMR装置内で行われる。
【0027】
本発明による方法の別の例では、少なくとも1種の分析対象物質は、超偏極基剤を含む少なくとも1種の分析対象物質を注入するステップb)の後にNMR装置の標的領域に位置づけられている。したがって、注入ステップb)は、NMR装置の外側で行われ、該方法の本例では、超偏極基剤を含む少なくとも1種の分析対象物質は、NMR装置の標的領域に位置づけられる。
【0028】
ステップf)の時間周波数変換は、フーリエ変換に代表されるが、これらに限定されない群から選択され、一方で1つ以上の機械学習アルゴリズムは、人工ニューラルネットワーク、決定木、回帰モデル、k近傍法モデル、部分的最小二乗回帰、サポートベクターマシン又はアルゴリズムを定義するために組み込まれたモデルのアンサンブルに代表されるが、これらに限定されない群から選択される。
【0029】
特に、機械学習アルゴリズムは、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークであり、分析ステップg)は、
i)超偏極基剤を含む分析対象物質の既知の生理学的状態についての、経時的なNMR信号の訓練シーケンスを特徴とする経時的なNMR信号のシーケンスを用いて、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークを訓練することと、
ii)超偏極基剤を含む分析対象物質の未知の生理学的状態についての、経時的なNMR信号の少なくとも1つの試験シーケンスを特徴とする経時的なNMR入力信号のシーケンスをコンピュータ実装人工ニューラルネットワークに適用することと、
iii)適用された経時的なNMR信号の各試験シーケンスを分析し、経時的なNMR信号の各試験シーケンスについて、超偏極基剤を含む分析対象物質の予測される生理学的状態を生成することと、の後に発生する。
【0030】
更なる例では、本開示に記載の方法を実施しつつ、受容ステップb)は、超偏極(HP)作製装置で基剤を超偏極させるiv)のステップの後に発生させることができる。更に機能的な実施形態では、ステップb)の後ではあるがステップc)の前に、該方法は超偏極基剤を含む分析対象物質を体温に維持するb1)のステップを更に含む。
【0031】
例えば、本開示の方法は、コンピュータプログラム又は製品内に組み込むことができる。このコンピュータプログラム又は製品は、例えばラップトップ又はコンピュータなどのコンピュータによってコンピュータプログラム又は製品プログラムが実行されると、コンピュータに本明細書に開示のコンピュータ実装方法のステップを実行させる、コンピュータコード化命令を含む。
【0032】
特定の実施形態では、中に保存されたコンピュータコード化命令を含むコンピュータ可読記憶媒体が提案される。このコンピュータコード化命令は、コンピュータにより実行されると、本願に開示されたコンピュータ実装方法のステップをコンピュータに実行させる。こうしたコンピュータ可読記憶媒体は、(ソリッドステート)ハードドライブ、USBドライブ又は(デジタル)光ディスクであり得る。
【0033】
本開示の別の部分では、インビトロ分析用に分析対象物質を収容するための試料マトリックスが提案されている。試料マトリックスは、開気孔を含む3次元構築物として形成され、構築物は、カルボキシメチルセルロースナトリウムを少なくとも含むゲルである。
【0034】
特に、ゲルは少なくとも0.5~5重量%のカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)ナトリウム、特に1重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。
【0035】
したがって、開口した3次元構築物は、1%CMCクリオゲルから形成される。この構築物は、開口した内部空間内に複数の細胞又は分析対象物質を収容するための試料マトリックスとして機能する。こうした1%構築物は、良好な安定性及び細孔径分布を有する。特に、1%CMCクリオゲルは、細胞付着にとって親和性が低く、かつNMR用途では良好な物理化学的特性を有することが見出されている。そのため、試料マトリックスの開口構築物はヒト又は動物の体を模倣する最適な条件を提供し、これによって細胞構造が生存することが可能となり、これらをスフェロイド(3次元構成)に形成してゲル材料に代わり互いに相互作用させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本開示は、以下に示す図面を参照して説明される。
図1】本開示による方法の一例を実装した本開示によるシステムの一例である。
図2a】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図2b】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図2c】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図2d】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図3a】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図3b】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図3c】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図3d】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図3e】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図4】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図5】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
図6】本開示によるシステムの複数の構成要素の詳細である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本開示の適切な理解のために、本開示の対応する要素又は部品に対応する以下の詳細な説明は、図面では同一の参照符号で示される。
【0038】
図1では、本発明によるシステムの第1の例が示されている。図1の例は、概略的なものであって縮尺通りではなく、システムの主要な構成要素はそれらの相互関係機能で示されている。各構成要素はより詳細に、かつ他の図面との関係においてはより変形された状態で説明される。
【0039】
超偏極(HP)核磁気共鳴を使用して少なくとも1種の分析対象物質の生理学的状態を決定するための本発明によるシステムは、参照符号1000で示されている。
【0040】
要約すると、該システムは、少なくとも以下の構成要素:
分析対象物質1を含有する試料マトリックス10を収容するように構造化された少なくとも1つの測定チャンバ110aを備えるマイクロ流体デバイス100、
基剤を超偏極するように構造化された超偏極(HP)作製装置200、
超偏極基剤6を含む少なくとも分析対象物質1を収容するための標的領域310を画定するハウジングを少なくとも備えたNMR装置300、
取得された信号を分析することで、分析対象物質1の生理学的状態を決定するためのコンピュータ処理ユニット400、から構成されている。
【0041】
この説明の次の段落では、システム1000のいくつかの構成要素をより詳細に説明する。
【0042】
図2aは、長年使用されてきた従来の細胞培養方法についての有利な代替法を示す。また、この代替法については、細胞-細胞相互作用及び組織生理学を研究するための有効な方法は、実験動物又はヒト対象を使用することなく実現することが可能である。従来の細胞培養が提示する主要な障害のうちの1つは、細胞の形態及び空間での形状である。細胞(又は本説明の分析対象物質)を培養物内で生存させるためには、細胞を底に付着させるように処理されている培養容器(フラスコ及びプレート)に播種されるが、これは特定の細胞型についてはその形態及び機能を変化させる。
【0043】
図2aの参照符号10は、インビトロ分析用の3次元構成にて1つ以上の分析対象物質又は細胞(本明細書全体を通して参照符号1で示されている)を収容するための試料マトリックスを示す。本発明によれば、試料マトリックス10は、この特定の代替法では3次元構築物として形成されている。試料マトリックス10の3次元構築物は、個々の分析対象物質又は細胞1のクラスタが収容されている空間10zを包含している。
【0044】
図2aに示されているように、試料マトリックス10の3次元構築物は、間に開気孔11zを有する状態で、相互接続ゲルストランド11a~11bのメッシュパターン又は十字型の格子パターンを構成するゲルから形成されている。開気孔11zは、不規則な形状及び径分布のものである。
【0045】
試料マトリックス10の開口した3次元構築物のゲルは、少なくともカルボキシメチルセルロースナトリウムを含み、好ましくは少なくとも0.5~5重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム、特に1重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。
【0046】
以下の方法のステップは、1%のカルボキシメチルセルロースゲルを適切に合成するために必要とされる各ステップを詳細に説明する。製造するための基本的な出発成分としては、1%のカルボキシメチルセルロースゲルが使用される:
・カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム[419273,Sigma]
・アジピン酸ジヒドラジド(Adipic acid dihydrazide、AAD)[MW=174.2g/mol]
・モルホリノ-エタン-スルホン酸(Morpholino-ethane-sulfonic acid、MES)[MW=195.2g/mol]及び
・N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N´-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)[E7750-10g,Sigma]
最初のステップでは、0.5M MESバッファ(pH5.5)を調製する。100mLの場合、ステップは、
1.容器に80mLの蒸留HOを調製する。
2.80mLの蒸留HO溶液に、9.76gのMES遊離酸を加える。
3.NaOHを使用して溶液のpHを5.5に調整する。100mLの場合、蒸留HO溶液には366mgのNaOH(固体)又は9.15mLの1M NaOHを加えることが必要とされ得る。
4.溶液の体積が100mLに達するまで、更なる蒸留HO溶液を加える。
詳細には:
【表1】

5.その後、ステップ4で得られた溶液を4℃で貯蔵する。
次に、ポリマープレミックスを調製する(1.1mL):
6.1重量%のCMCを準備し、そのうち50mgを、撹拌を使用して(例えば、900rpmのマグネチックスターラを用いて)5mLの蒸留HOに溶解させる。
7.100μLのAAD(50mg/mL)を1mLの1%CMC溶液に加え、ピペッティングでこれを混合する。
8.このプレミックスを4℃で予冷する。
9.4mgのEDCを4μLの蒸留HOに溶解させ、これによってEDC(1mg/μL)を調製する。
10.EDCをプレミックスに加え、ピペッティングで溶液の均質性を確実なものとする。
詳細には:
【表2】

11.次に、移動ゲルをより迅速に型に移し、インキュベートする。
型の体積が大きい場合には、ゲルを加える前に、型を-20℃の冷凍庫で予冷する。こうして、
12.-20℃でインキュベートする。ゲルを含有する型は、24時間にわたって冷凍庫に入れられなければならない。その後、クリオゲルは型から注意して取り外されなければならない。
【0047】
したがって、開口した3次元構築物は、1%CMCクリオゲルから形成される。この構築物は、開口した内部空間10z内に複数の細胞又は分析対象物質1を収容するための試料マトリックス10として機能する。特に、1%CMCクリオゲルは、細胞付着にとって親和性が低いことが見出されている。そのため、試料マトリックス10の開口構築物はヒト又は動物の体を模倣する最適な条件を提供し、これによって細胞構造が生存することが可能となり、これらをスフェロイドに形成してゲル材料に代わり互いに相互作用させることが可能となる。
【0048】
上記の調製技術で得られた試料マトリックス10の一例の直径は5mmであり、高さは2mmである。より好ましくは、試料マトリックス10の寸法は、意図された用途に応じて、直径が3~10mmの範囲、高さが1~6mmの範囲であり得る。
【0049】
試料マトリックス10は、細胞生存率を増加させ、例えば肝細胞代謝を研究する上で必要とされる代謝条件を最適化する。一例では、図2bに示されるように、非がん性のマウス肝細胞から構成されたAML12細胞株を使用し、実験室条件下で細胞老化を研究した。クリオゲルの試料マトリックス10で細胞1を播種した13時間後に、スフェロイドの形成が既に観察され得ることが観察された。試料マトリックス10の開口した3次元構築物は、開気孔11zが細胞間にある状態で、相互接続クリオゲルストランド11a~11bにより細胞1が内部空間10zの内側に保持され、それら自体で凝集することを確認している。
【0050】
加えて、上で開示されるようなCMC材料から作製された試料マトリックス10は、NMR信号取得中に干渉せず、これによって超偏極基剤の正確な灌流が可能になることに留意されたい。
【0051】
図2bでは、100万個の細胞をクリオゲルに播種し、縦方向のイメージングのために顕微鏡内部に直ちに入れた。スフェロイド形成は、細胞播種後開始3時間から最大10時間後まで観察された。
【0052】
細胞の凍結保存は、伝統的には細胞懸濁液中で行われてきた。この公知の技術を用いると、細胞がストレスフリー状態になるまで、及び培養されているフラスコの底を覆う前に、2Dシステムで培養される。通常、細胞を、例えば-80℃の凍結培地(例えば、凍結保存剤として血清及びDMSOを含有)に注ぐ。約12~24時間後、保存のために予冷した細胞を窒素タンクに移動させる。解凍されると、細胞は2D条件に戻して培養される。ただし、このプロセスは、細胞を実験装備で使用され得る前に3~4日間を要する。
【0053】
超偏極基剤6による放散及びNMR装置300による測定前に、分析対象物質1を含有する複数の3D試料マトリックス10の保存可能性を分析するため、分析対象物質を含有する3D試料マトリックス10は、サブゼロ温度に冷凍され、数日間にわたってその温度を維持するように構造化されている。驚くべきことに、分析対象物質1を含有する3D試料マトリックス10は、分析対象物質1に悪影響を及ぼすことなく、又は損傷を与えることなく、解凍サイクル後であったとしても良好な条件で分析対象物質1を維持することができる。生存率及び代謝アッセイによって、分析対象物質は、システム使用のために細胞培養室又はインキュベータを必要とすることなく解凍プロセス後も機能性を維持することが確認される。
【0054】
解凍サイクル後であっても良好であり、かつ分析対象物質に悪影響を及ぼすことがない、又は損傷を与えることがない条件で分析対象物質1を維持するための本開示による試料マトリックス10の機能性の一例として、図2cは、アラマーブルー試験から取得された代謝結果を示す。これは、最大11日間の期間にわたって構築物内部で細胞を凍結保存した後にクリオゲル構築物内部で生存した状態のままであり、凍結保存プロセスを受けていない細胞と同様の生存率を有することを示す。この結果は、アラマーブルー試験の蛍光及び吸光度の両方の読み取り値で示される。この2つの出力は、同一の代謝試験に由来している。
【0055】
更には、図2dは、クリオゲルの内側の2つの共焦点顕微鏡画像A及びB(100μmのスケールバー)における凍結保存を受ける前後の構造一体性を示す。図2dA(左)は、凍結保存プロセス前に撮像された試料マトリックス10のクリオゲルを示すが、図2dB(右)は、凍結保存プロセス後に撮像された試料マトリックス10のクリオゲルを示す。観察され得るように、クリオゲル繊維11a~11bに対する損傷は凍結保存中には発生せず、そのため試料マトリックス10の開口した3D構築物の構造一体性が保たれる。
【0056】
図2c及び図2dの結果は、細胞/分析対象物質1が図2aに示されているようなクリオゲル構築物に播種されることができ、かつ24時間後に液体窒素中で凍結保存されることができるという証拠を示す。試験は、凍結保存を受けなかったクリオゲルの結果と比較すると、解凍後最大11日まで高い生存率を示す。更には、クリオゲル構築物は、細胞/分析対象物質1の播種後に凍結保存プロセスを維持することができ、超偏極基剤6のその後の注入及びNMRデータ取得にとって必要であるそれらの構造一体性を維持する。
【0057】
図3a及び図3bは、本発明によるシステムの更なる構成要素をより詳細に示す。
【0058】
参照符号100は、マイクロ流体デバイスであるシステムの構成要素を示す。一例では、マイクロ流体デバイス100は、参照符号101、102及び104で示されている構造のスタックからなる。参照符号101は、ガラススライド101-1上に積層された複数の(例えば、3層の)ポリジメチルシロキサン(PDMS)層101-2、101-3及び101-4から構成された基板構造を説明する。ガラススライドの典型的及び好適な寸法は、75×50mmである。これは、NMR装置の寸法を含むように変更され得る。
【0059】
図3bは、より詳細にはマイクロ流体デバイス100を詳述し、特に基板構造101上に取り付けられた単一のマイクロ流体素子110を詳述する。好ましくは、好ましくはマイクロ流体デバイス100は、このような複数のマイクロ流体素子110を含む。これらのそれぞれは、分析対象物質1を含む試料マトリックス10を個別に収容するためのこうしたウェル又は測定チャンバ110aを備える。
【0060】
図3aに示されるように、基板構造101は、いくつかの象限又はアレイ101v-101w-101x-101y(ここでは4つのアレイ)を含む。各アレイ101v-101w-101x-101yは、同一の構成であるいくつかの(ここでは4つの)マイクロ流体素子110から構成される。この例では、示されているように、基板構造101の構成は、4×4(16)マイクロ流体素子110から構成されている。一例では、各マイクロ流体素子110は、直径Dが6mm、高さHが10mmの寸法を有するウェル/測定チャンバ110aを含む。図3dを参照されたい。
【0061】
各マイクロ流体素子110は、チャンネル111a及び111bを含有する。これは、ウェル又は測定チャンバ110aと流体連通する。チャンネル111aは、測定チャンバ110aにマトリックス灌流媒体5を供給するためのマトリックス灌流供給ラインを示す。チャンネル111bは、マイクロ流体素子出口ラインを示す。チャンネル111a及び111bは、基板構造(ガラススライド)101上に第2のPDMS層101-2(例えば、厚さ5mm)に設けることができる。
【0062】
更には、マイクロ流体素子110はチャンネル111cを含むが、これはチャンバ出口ラインとして機能する。チャンネル111cは、第3のPDMS層101-3(例えば、厚さ1mm)に設けることができる。
【0063】
チャンネル112は、測定チャンバ110aに超偏極基剤6(例えば、超偏極ピルビン酸)を供給するための超偏極基剤供給ラインを示す。チャンネル112は、第4のPDMS層101-4(例えば、厚さ4mm)に設けることができる。
【0064】
有利な例では、PDMS層101-1、101-2及び101-3は、4インチサイズのシリコンウェーハ上にフォトリソグラフィで作製されたSU-8微細構造を使用するレプリカ成形により製造される。200℃のホットプレートを使用し、シリコン基板を30分間脱水し、その後、22.5mL/分及び30WでOプラズマ(PDC-002,Harrick Plasma,Ithaca,NY,USA)処理を20分間使用し、洗浄/活性化させた。フォトレジスト材料(SU-8 2100,KAYAKU Advanced Materials,Inc.,Westborough,MA,USA)をスピンコートし、厚さ200μmのSU-8層を形成した。また、PDMSプレポリマーを10:1(ベース:硬化剤、w/w)の比率で調製し、真空デシケータ中で脱気した。次いでプレポリマーを、SU-8型を含有するペトリ皿上にキャストし、65℃で4時間戻し、その後室温で一晩静置した。Oプラズマを使用し、ガラススライドを含む3つのPDMS層を活性化して共に接合し、厚さ11mmのデバイスを得た。
【0065】
図3dに詳細に示されているように、マイクロ流体デバイス100の各マイクロ流体素子110については、超偏極剤供給ライン112は、ウェル/測定チャンバ110aの底壁110zに対してマトリックス灌流供給ライン111aの位置上部の位置に位置づけられている。同様に、チャンバ出口ライン111cは、超偏極剤供給ライン112の位置よりも低い位置及び測定チャンバ110aの底壁110zに対してマトリックス灌流供給ライン111aの位置よりも高い位置に位置づけられている。特に、マトリックス灌流供給ライン111aは、測定チャンバ110aの底壁110zに位置づけられている。したがって、使用中、底側から上側に向かって、分析対象物質1を含む開口した多孔質の試料マトリックス10をチャンバ出口ライン111cに向けてフラッシュする。
【0066】
したがって、測定チャンバ110aを通るマトリックス灌流媒体5(培地)の連続流れだけではなく、分析される分析対象物質のための超偏極基剤6の注入も可能になる。特に、いくつかのチャンネル111a-111c-112の特定の高さの構成によって、チャンバ出口ライン111cは、ウェル111aの底110zからの一定の液体高さhを維持しつつ、それぞれのウェル/測定チャンバ110aからマトリックス灌流媒体5を引き出す。したがって、使用中、これはウェル110aあたり、約140μLの総媒体体積を占める。
【0067】
マイクロ流体デバイス100の例では、4つのマイクロ流体素子110の4つのグループ(それぞれがウェル/測定チャンバ110aを有する)によって、最大で4つの生物学的試料を分析することが可能である。マイクロ流体素子110は、4つのウェル110aの4つの個別のセット101v-101w-101x-101yにグループ化されるため、4つのウェル/測定チャンバ110aの各セットは、中央マトリックス灌流供給ライン111a´及び中央マトリックス灌流出口ライン111b´を介して培地5を共有する。
【0068】
図3bでは、マイクロ流体抵抗115は、各マイクロ流体素子110のマイクロ流体チャンネル111a-111b-111c-112に概略的に示されている。図3bは各マイクロ流体チャンネル111a-111b-111c-112に位置づけられているこうしたマイクロ流体抵抗115を示しているが、マトリックス灌流供給ライン111a及びマイクロ流体素子出口ライン111bのうちの少なくとも1つにマイクロ流体抵抗115を有することで十分である。サーペンタインとして構造化されたマイクロ流体抵抗115をより詳細に示している図3eもまた参照されたい。
【0069】
ウェル/測定チャンバ110aの入口111a及び出口111bでのマイクロ流体抵抗115によって、分析対象物質1を含む3D試料マトリックス10を含有する各ウェル/測定チャンバ110aを通る流量を同じにすることが可能である。更に、セット101v-101w-101x-101yのウェル/測定チャンバ110aすべてを、マトリックス灌流媒体5を引き出す嵌め込み型吸引リザーバ114に連結する。別の例では、マイクロ流体抵抗115は、マイクロ流体素子110の各セット101v-101w-101x-101yの一部である各中央マトリックス灌流供給ライン111a´及び中央マトリックス灌流出口ライン111b´に配置され得る。
【0070】
超偏極剤供給ライン112は、ウェル/測定チャンバ110aの底壁110zに対してマトリックス灌流供給ライン111a及びチャンバ出口ライン111cの両方の位置上部の位置に位置づけられているため、チャンネル112は、同一セット101v-101w-101x-101yの一部であるウェル/測定チャンバ110aすべてに超偏極基剤6を分配することができる。したがって、セット101v-101w-101x-101y間の分離が維持され、セット101v-101w-101x-101yそれぞれに超偏極基剤6を注入することが可能となり、より異なる多様な分析が可能となる。
【0071】
分析対象物質1に適切な環境は、インキュベーションエンクロージャ102中のマイクロ流体デバイス100を収容することで作成される。インキュベーションエンクロージャ102は、作業員がマイクロ流体デバイス110を操作してNMR装置300に入れる間、安定した温度及びガス(O及びCO)並びに滅菌条件を維持する。
【0072】
したがって、マイクロ流体デバイス100は、そのインキュベーションエンクロージャ102の中に温度制御ユニット103を含む。温度制御ユニット103は、各マイクロ流体素子110を維持するように機能し、したがって、アセンブリは、体温の超偏極基剤6を含む分析対象物質1を含有する3D試料マトリックスで構成されている。こうした後者の要件は、いくつかのマイクロ流体素子110を備えるマイクロ流体デバイス100がNMR装置300内に収容されているときには必要である。こうすることで、ヒト又は動物の体を模倣する最適な測定条件が実現され、これが維持される。特定の例では、温度制御ユニットは、水入口103a及び水出口103bを備えた水循環回路103を含む。
【0073】
インキュベーションエンクロージャ102内部の温度は、水浴から水ジャケットとして機能するエンクロージャ基部102aへと温水を圧送することで制御されている。それ以外の場合では、エンクロージャ蓋102bは、入口104a及び出口104bを有し、安定したガスインキュベーションを実現する。
【0074】
本発明によるシステム及び方法の適切な使用については、開口した多孔質空間10z内に分析対象物質1を備え、図2a~図2bに関連して記載される試料マトリックス10は、マイクロ流体デバイス100の各マイクロ流体素子110のウェル/測定チャンバ110a内部にそれぞれ配置されている。その後、流体システムは、いくつかのマイクロ流体チャンネル111a-111b-111c-112から構成され、各ウェル/測定チャンバ110aを通り培地5の連続流れを可能とし、これによって中に含有された分析対象物質1を含む各試料マトリックス10を灌流する。
【0075】
流体システムは、真空ポンプ及びチューブポンプに連結されたリザーバ114を含む(図5では両方とも参照符号150で示されている)。この装備は、4つのセット101v-101w-101x-101yすべてについて複製されている。チューブポンプ150は、マトリックス灌流媒体5(培地)をリザーバ114からマイクロ流体素子110(デバイス100)の各ウェル/測定チャンバ110aへと往復で流動させ、それによって試料マトリックス10及び分析対象物質1を灌流する。真空ポンプ150は、リザーバ114に負圧を印加し、マイクロ流体素子出口ライン111bを介してマイクロ流体素子110からマトリックス灌流媒体5(培地)を吸引する。
【0076】
超偏極NMR測定を実施するため、チューブポンプを遮断し、超偏極(HP)作製装置200から得られるような特定量の超偏極(HP)基剤6(例えば、超偏極C13標識ピルビン酸)は、特定の中央超偏極剤供給ライン112´へと注入される。中央超偏極剤供給ライン112´は、特定量の超偏極(HP)基剤6をより少量の試料に分ける。超偏極(HP)基剤6のより少量の試料の数は、セット101v-101w-101x-101yのマイクロ流体素子110の数と等しい。
【0077】
この例では、特定の中央超偏極剤供給ライン112´は、16個のマイクロ流体素子110の各ウェル/測定チャンバ110aと流体連通している。この構成によって、分析対象物質/細胞1を含む試料マトリックス10を含有するウェル110aすべてが同一の超偏極試料体積6を受容することが可能となる。例えば、800μLの試料体積により、ウェル110a/マイクロ流体素子110あたり50μLの超偏極(HP)基剤6がもたらされる。
【0078】
多孔質及び試料マトリックス製造方法論を理由として、試料マトリックス10の開口した3次元構築物は高い透過性を呈するが、これによって分析対象物質1を含有する3D試料マトリックス10を通した超偏極(HP)基剤6の急速な分配が可能となる。超偏極(HP)基剤6の急速な分配は、超偏極(HP)基剤6の減衰速度が急速であることから重要である。
【0079】
システムのある特定の例によれば、超偏極(HP)作製装置200は、動的核偏極(DNP)装置又はパラ水素誘導偏極(PHIP)装置であってもよい。
【0080】
図4に示されているように、溶解DNPは、2つの磁石ユニットを使用して典型的には行われる:1つの磁石ユニット210は、超偏極(HP)作製装置200内に実装されて固体状態で基剤6を(好ましくは、3.4~7.0T磁場強度Bにて)偏極させるが、一方で他の磁石ユニットは専用のNMR装置300の磁石ユニットである。適切なデータ取得のために、NMR装置300の現在の水平ボア医療用磁石ユニットは、最大7Tのより高い磁場が現在利用可能であるものの、典型的には1.5~3Tの範囲である。高分解能垂直ボアNMR装置は、最大28.2Tのより高い磁場に達する。
【0081】
溶解DNPプロセスは、基剤6を超偏極させることで開始する。基剤の一例としては、例えばC13標識ピルビン酸である。遊離偏極磁場印加ラジカル(不対電子を含有する物質)に加え、ガラス化剤は基剤6に配合されてもよい。基剤が単独でガラスを形成しない場合には、グリセロール又はDMSOなどのガラス化剤を使用して基剤6をガラス化することが可能である。これは、分析対象物質1中のラジカルの均一な分布及び良好なマイクロ波透過を確実にする。
【0082】
この調製ステップの後、基剤6を、超偏極(HP)作製装置200のDNP磁石ユニット210に挿入し、マイクロ波を照射して電子核偏極移動を駆動させた。固体状態の偏極ビルドアップは、ラジカル及び基剤の性質及び濃度、電子及び核の緩和率並びに凍結混合物の組成を含む多くの要因に応じて変化する。核偏極が最大に達するためには、数時間を要する場合がある。13Cを偏極させると、13Cに適したMW周波数で凍結試料を直接照射することで通常のDNP増強が実行される。6.7TのDNP磁石を1.2Kで使用することで、溶解前20分で13Cの偏極を70%達成することができる。
【0083】
偏極ビルドアップが終了すると、180℃及び10バールの圧力で熱水を使用して超偏極基剤6を解凍して低温保持装置に入れ、最終的に液体形態の超偏極基剤を得た。
【0084】
超偏極(HP)作製装置200で超偏極させた後、続いて超偏極基剤6を、分析する分析対象物質1を含む少なくとも1種の3D試料マトリックス10を含有するマイクロ流体デバイス100に注入する。続いて、測定チャンバ110aに収容された少なくとも1種の3D試料マトリックス10(注入されるある量の超偏極基剤6を含む分析対象物質1を含有する)を含むマイクロ流体デバイス100をNMR装置300に入れ、その後13C信号を取得する(動物又は試験管への注入時のいずれか)。
【0085】
代替的な実施形態では、測定チャンバ110aに収容された少なくとも1種の3D試料マトリックス10を備え、分析対象物質1を含有するマイクロ流体デバイス100をNMR装置300に入れ、その後ある量の超偏極基剤6をマイクロ流体デバイス100に注入し、それによって分析される分析対象物質1を注入する。
【0086】
図5に示されるように、このプラットフォームの好ましい実施形態では、NMR装置300は、関連する測定チャンバ110aに収容された超偏極基剤6を注入された分析対象物質1をそれぞれ含有する1種以上の試料マトリックス10を含むマイクロ流体デバイス100を、標的領域310に収容するように構造化されている。システム1000は、超偏極基剤6を含む分析対象物質1(実際には、大容量の特定の種類の細胞又は分析対象物質1)の1つの試料のみの生理学的状態を決定するように構造化される。
【0087】
実際には、図3a及び図3bに関連する、記載のマイクロ流体デバイス100は複数の(例えば、4×4)マイクロ流体素子110を有し、それぞれ、関連する測定チャンバ110aで分析されるある量の超偏極基剤6を注入された細胞又は分析対象物質1を含む3D試料マトリックスを収容するように構造化されている。したがって、こうした実施形態により、同時に、並びにバッチ式及びインライン式で同量の超偏極基剤6を使用し、同一又は異なる分析対象物質1の複数の試料を処理し、かつ操作することが可能である、より標準化されて再現性のある分析技術が実現可能となる。
【0088】
NMR装置300はまた、使用中、標的領域310で1つ以上の磁場勾配Bを印加するための少なくとも1つの磁石ユニット310及び少なくとも1つの磁気勾配ユニット(図示せず)を収容する。NMR装置300は、そのハウジングに、標的領域310に向けて1つ以上のRFパルスのセットを印加するための少なくとも1つの高周波(RF)パルス生成ユニット(図示せず)及び細胞又は分析対象物質1を含む1つ又は複数の量の超偏極基剤6を更に含む。
【0089】
マイクロ流体デバイス100のいくつかのマイクロ流体素子110の測定チャンバ110aの3D試料マトリックス10に収容されたすべての試料(超偏極基剤6を注入された1つ又は複数量の細胞又は分析対象物質1)からの分光情報333を同時に得るためには、RFパルスシーケンスは、少なくとも1種の高周波(RF)パルス生成ユニットにより生成されて適用される。これらのRFパルスシーケンスは、データ取得の比較的短い時間窓で可能な限り多くの空間的に局在しているスペクトル情報333を提供する。超偏極基剤6の偏極はある程度急速に経時的に減衰するため、このような短期間の時間では可能な限り多くのスペクトル情報を得ることが望ましい。
【0090】
エコープラナーイメージング(EPI)などの伝統的なパルスシーケンスは、単一のデータ取得ショットにてNMR画像を再構成するために必要な情報を取得するが、スペクトル情報を取得することはできない。エコープラナー分光イメージング(EPSI)により、異なる化学シフトでの原子核処理を区別することが可能となるが、各データ取得ショットは部分的情報のみを取得することから、複数のデータ処理ショットが必要となる。化学シフトイメージング(CSI)は、2D空間情報及び3次元、すなわち各ボクセルについてのスペクトル情報を提供し、複数のデータ取得ショットが必要とされる。
【0091】
近年、シングルショットNMR及び空間時間エンコーディング(spatiotemporal encoding、SPEN)などのイメージング技術によって、単一のスペクトルデータ取得での化学シフト識別が可能となる。2つのバージョンのこれらのパルスシーケンスは、超偏極13C実験に有用であると考えられる。1つの選択肢としては、関心対象の形状を有する領域を励起することで局在分光法を実施することが挙げられる。こうして選択された領域から、NMR信号が取得され、分析される試料の励起領域に原子核の化学シフトすべてを含有するスペクトルを得る。
【0092】
このようにして標的領域で生成されたNMR信号の時間シーケンスセットは、NMR装置400のRF受信ユニットのRFコイルを使用して獲得される。RFコイルは、分析対象物質1の原子核処理により誘導される標的領域310内の磁場における変化を電磁電流信号333に変換し、コンピュータ処理ユニット400にこれを伝達する。コンピュータ処理ユニット400は、取得された信号を分析し、分析に基づいて分析対象物質1の生理学的状態を決定する。
【0093】
NMR測定後にデータ取得が行われると、灌流システムが再び開始し、超偏極(HP)基剤6の残りをマトリックス灌流媒体5で希釈する。
【0094】
図6に概説されるように、コンピュータ処理ユニット400は、1つ以上の機械学習アルゴリズムを使用してNMR装置300から取得された少なくとも取得された信号333を分析するように構造化されている。したがって、コンピュータ処理ユニット400は、時間依存電磁電流信号に変換されたNMR信号をNMR装置300から取得するように構造化されているデータ受信ユニット401を実装する。少なくとも1つのデータ受信ユニット401は、NMR信号の時間シーケンスセットのデータ流を受信するための好適な信号配線を利用し、指定されたZigBee(商標)、Bluetooth(商標)など、データを交換するためのネットワークプロトコル又は無線ネットワーク用のWiーFiベースプロトコルに従って操作する無線データ通信インターフェースにより、NMR装置300に接続され得る。
【0095】
本発明によるコンピュータ実装方法のステップでは、コンピュータ処理ユニット400は、強度対時間のようにNMR信号の時間シーケンスセット(時間領域信号-自由誘導減衰、time-domain signal-free induction decay、FID)を増幅して記憶する。この目的について、コンピュータ処理ユニット400は、NMR信号の時間シーケンスセットの1つ又は複数の時間周波数表現を生成するための少なくとも1つの時間周波数変換アルゴリズムを実装する、少なくとも1つのデータ変換ユニット401を利用する。単純な分光実験では、NMR信号はゼロフィリング、フーリエ変換及びベースライン補正される。スペクトルの各ピークの曲線下領域を計算し、補正係数をフリップ角又は他の取得特性に適用する。より複雑なパルスシーケンスは、信号のデコンボリューション(例えば、SPEN)を必要とする場合である。
【0096】
NMR信号の時間シーケンスセットの時間周波数変換444は、短時間フーリエ変換、ウェーブレット変換、フィルタバンク又は離散コサイン変換に代表されるが、これらに限定されない群から選択され得る。
【0097】
コンピュータ処理ユニット400は、分析対象物質1の生理学的状態を決定するために1つ以上の機械学習アルゴリズムを使用し、NMR信号の時間シーケンスセットの時間周波数表現を分析するように構造化されている。例示目的については、1つ以上の機械学習アルゴリズムは、図6の参照符号402で示されている。一例では、コンピュータ処理ユニット400は、中に記憶されたコンピュータコード化命令を含むコンピュータ可読記憶ユニット(図示せず)を組み込んだアルゴリズム処理ユニット402を実装してもよく、コンピュータコード化命令は、実行されると機械学習アルゴリズムを実施する。
【0098】
コンピュータ処理ユニット400の記憶ユニットは、ハードディスクユニット又はソリッドステートストレージユニット、又は本開示によるコンピュータ実装方法を実施するコンピュータコードを実装するラップトップ又はコンピュータに搭載されたUSBストレージユニットなどのリムーバブルストレージユニットであり得る。
【0099】
本開示によれば、本開示のコンピュータ処理ユニット400は、ラップトップ又はコンピュータ(の一部)であり得るが、これは本開示によるコンピュータ実装方法を実施するコンピュータコードを実装することができる。例えば、本開示の方法は、コンピュータプログラム又は製品内に組み込むことができる。このコンピュータプログラム又は製品は、例えばラップトップ又はコンピュータなどのコンピュータによってコンピュータプログラム又は製品プログラムが実行されると、コンピュータに本明細書に開示のコンピュータ実装方法のステップを実行させる、コンピュータコード化命令を含む。
【0100】
特定の実施形態では、中に保存されたコンピュータコード化命令を含むコンピュータ可読記憶媒体が提案される。このコンピュータコード化命令は、コンピュータにより実行されると、本願に開示されたコンピュータ実装方法のステップをコンピュータに実行させる。こうしたコンピュータ可読記憶媒体は、(ソリッドステート)ハードドライブ、又はUSBドライブ、又は(デジタル)光ディスクであり得る。
【0101】
代替的な例では、1つ以上の機械学習アルゴリズム402をデータ変換ユニット401内部に組み込むことができる。したがって、本開示によるコンピュータ実装方法のいくつかの別個のステップを実施する単独の計算ユニットを形成する。
【0102】
分析対象物質1の生理学的状態を決定すると、結果は、例えばコンピュータ若しくはラップトップディスプレイ、又は別個のディスプレイユニット403といったデータ出力ユニット403により出力又は表示され得る。
【0103】
1つ以上の機械学習アルゴリズム402を使用して分析対象物質1の試料の生理学的状態を識別するためには、標準的な技術と比較すると試料の感度が高いといった利点を有することから、取得されたMRI画像は、好ましくはマイクロ流体デバイス100の測定チャンバ110aに位置づけられた開口した3D試料マトリックス10に収容された、又はバイアルに収容された超偏極基剤6を注入された分析対象物質1の試料から生成されることが不可欠である。本発明は、分析対象物質1の生理学的状態の存在又は発生についての指標として機能する取得されたMRI画像における重要パターンを識別することが必要である。
【0104】
したがって、一例では、機械学習アルゴリズム402は、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークを含んでもよい。そうした特定の例では、コンピュータ処理ユニット400は、超偏極基剤を注入された分析対象物質の既知の生理学的状態についての、経時的な信号の訓練シーケンスを特徴とする経時的な信号のシーケンスを用いて、コンピュータ実装人工ニューラルネットワーク402を訓練することと、超偏極基剤(これは、訓練データに関連する)を注入された分析対象物質の未知の生理学的状態についての、経時的な信号の少なくとも1つの試験シーケンスを特徴とする入力信号のシーケンスをコンピュータ実装人工ニューラルネットワークに適用することと、適用された経時的な信号の各試験シーケンスを分析し、経時的な信号の各試験シーケンスについて、超偏極基剤を注入された分析対象物質の予測される生理学的状態を生成することと、を行うように構成された訓練ユニット(図示せず)を更に含む。
【0105】
コンピュータ実装人工ニューラルネットワーク402の訓練を支援するため、NMR/MRI画像はまず、専門家により注釈付け又は標識される。NMR/MRI画像におけるこれらの注釈又は標識は、疑問視されている細胞/器官/分析対象物質1に対する外部刺激応答(薬物など)に対応する重要パターンを示す。これらの標識された重要パターンは、特定の超偏極基剤6を含む、論点の分析対象物質1の既知の生理学的状態についての信号の訓練シーケンスを特徴づける。
【0106】
一例では、これらの注釈又は標識は、信号強度に対応する画像の色であり得る。この信号強度は、結果としてある特定の疾患段階を示し、それによって特定の超偏極基剤6を含む注入に関連する、論点の分析対象物質1の既知の生理学的状態を示す。
【0107】
このように標識された十分な量の重要パターンからなる統計学的に有意なデータコホートを収集した後、コンピュータ実装人工ニューラルネットワーク402は、こうした信号シーケンスの訓練セットで経時的に訓練され、その後超偏極基剤を注入された分析対象物質の未知の生理学的状態を有する信号シーケンスの検証又は試験セットで試験される。人工ニューラルネットワーク402のモデルが許容可能な真度を達成すると、NMR/MRI画像の新しい新規セットでNMR/MRI画像の信号強度などの重要パターンを自動的に示し、かつこれらを進行中のデータ処理に組み込まれ得るデータフォーマットに変換し、これによって更なるパラメータを追加し、最終出力の品質を改善することができるようになると考えられる。
【0108】
更なる例では、本明細書に記載のシステム及び方法は、PETイメージングなどであるがこれに限定されない他のイメージング技術の使用を含んでもよい。例では、使用される入力された訓練画像は、陽電子放出断層撮影(positron emission tomography、PET)イメージング及び他の分子イメージング技術などであるがこれに限定されない他のイメージング技術で得られた画像を含んでもよい。こうした例では、システム及び方法は、機械学習アルゴリズム402の訓練で使用される画像を取得するために使用されるイメージング技術で分析対象物質1の試料画像を取得することを含む。
【0109】
したがって、人工ニューラルネットワーク402は、NMR/MRI画像において代謝変化がこうした訓練済みの疾患段階(例えば、信号強度)と相関する場合には、疾患段階(分析される分析対象物質の生理学的状態)を検出することができる。
【0110】
マイクロ流体デバイス100と超偏極(HP)作製装置200及びNMR装置300を組み合わせたシステム1000の重要な利点の1つは、インビトロ条件下での外部刺激に対する動物又はヒト由来のいずれかによる実際の器官の応答をエミュレートする能力である。エミュレーションが正確であるほど、結果の値は高くなる。正確なエミュレーション及び試験条件の特徴的な性質の作成に関与する入力がとてつもなく複雑であることで、高度な技術を要求し、1つ以上のコンピュータ実装人工ニューラルネットワーク402を利用するコンピュータ処理ユニット400の実装が必要となる。
【0111】
実装といった点では、人工ニューラルネットワーク402は、すべてのプロセスパラメータを含む、プロセス流れに使用される原料に由来するあらゆるデータで訓練される。得られたハードウェア及び分析出力444は、動物及びヒトの両方についてのインビトロ条件で同一の外部刺激に対する実際の応答と比較される。統計学的に有意なデータのコホートでの比較結果に基づき、人工ニューラルネットワーク402は、どのパラメータが実際の細胞/器官/分析対象物質1のより緊密なエミュレーションに寄与するのかを決定することができる。
【0112】
最終的には、コンピュータ実装人工ニューラルネットワーク402は、インビトロ試験について疑問視されている細胞/器官/分析対象物質1の実際の条件をエミュレートするのに必要とされるパラメータを予測することができる。これに加えて、重要なパラメータのより良好に理解することによって、構築が複雑である様々な他の器官の有効なモデルを構築するのに役立つ。
【0113】
したがって、インビトロ及びインビボ条件について、分析対象物質1を含む1つ以上の試料マトリックス10を収容するマイクロ流体デバイス100、超偏極(HP)作製装置200及びNMR装置300からなる本開示によるシステムを使用して細胞/器官/分析対象物質から得られたデータを比較することで、人工ニューラルネットワーク402を実装することは、現在の技術を使用して確立することがほぼ不可能である橋渡しギャップを克服するのに役立つ。
【0114】
マイクロ流体デバイス100の複数のマイクロ流体素子110の測定チャンバ110aによって、同一の外部刺激、すなわち、標的領域310における同一の超偏極剤6及び同一の磁場勾配並びにRFパルスを印加されたセットに対する細胞/器官/分析対象物質1の複数の応答を試験することが可能となる。目的は、調査中の主な細胞/器官/分析対象物質1に加えて、他の細胞/器官/分析対象物質に関する外部刺激の影響を理解することである。根底にある生物学的プロセスの複雑さを考慮すると、人工知能のような高度な方法は、様々な細胞/器官/分析対象物質における応答の相関を理解し、最終的に相関、それによる応答を予測する上で高度に有益である。
【0115】
実装といった点では、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークモデル402は、外部刺激に対する一次及び二次器官の応答で訓練される。データの統計学的に有意なコホートで訓練した後、コンピュータ実装人工ニューラルネットワークモデル402は、一次器官に試験されている同じ外部刺激(特に、使用される超偏極剤6)に対する二次器官の応答を予測する。これらの結果は、研究者がこれらの効果を引き起こしている根底にある生物学的機構を理解し、目標を絞り込むのに役立つ。
【0116】
システム1000により、非侵襲的手法でHP及びMR技術を使用して分析対象物質の生理学的状態に関する代謝データをリアルタイムで取得し、分析することが可能である、多様なプラットフォームが生成される。このプラットフォームにより、より高度な機能的ヒト特異薬物試験システムの開発を達成することができる。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図4
図5
図6
【国際調査報告】